説明

保水性舗装体

【課題】温度低減が必要な温度帯域で確実に温度低減ができ、かつ、温度低減効果の持続時間を長く維持できる保水性舗装体を提供する。
【解決手段】透水可能な空隙20を有する開粒度舗装体16と、開粒度舗装体16の空隙20に充填される保水材18とを有する保水性舗装体10であって、保水材18は、吸水可能なシルト系保水材と、設定温度以下で吸水し、設定温度以上で水分を放出する感温型ポリマーとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水性舗装体に関し、特に、温度低減が必要とされる温度帯域で舗装体の蓄熱量を低減できる保水性舗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の1つにヒートアイランド現象がある。
【0003】
この現象の主な原因は、ビルや道路による太陽光の蓄熱、都市部に林立するビルの空調設備から排出される暖気、自動車のエンジンなどから排出される廃熱、樹木の減少によって起こる土中の保水能力低下等が上げられる。
【0004】
特に、都市部の市街化に伴い、舗装により覆われる地表面が増加したこともヒートアイランド現象の一因である。
【0005】
そこで、ヒートアイランド現象の対策の一つとして、保水性舗装の開発が進められている。
【0006】
この保水性舗装としては、例えば、シルト質、粘土質またはこれらの混合物を含む土質材料を粒状に加工した保水材としての充填材を、連続空隙を備えた舗装体の表層に充填することで、降雨または散水により充填材に水分を蓄え、気温の上昇に伴って充填材内の水分が蒸発し、その気化熱により舗装体の温度上昇を抑えるようにしている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−109699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような保水性舗装にあっては、舗装体の温度低減が必要な温度帯域、例えば40〜60℃において効率的な水分の蒸発ができず、また、温度制御ができないために温度低減効果の持続時間も短いものとなっている。
【0008】
本発明の目的は、温度低減が必要な温度帯域で確実に温度低減ができ、かつ、温度低減効果の持続時間を長く維持できる保水性舗装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の保水性舗装体は、透水可能な空隙を有する舗装体と、前記舗装体の空隙に充填される保水材とを有する保水性舗装体であって、前記保水材は、吸水可能なシルト系保水材と、設定温度以下で吸水し、設定温度以上で水分を放出する感温型ポリマーとを有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、降水または散水によって舗装体に水分が供給されると、舗装体の空隙内にある保水材のシルト系保水材及び感温型ポリマーに吸水されて保水状態となり、温度低減が必要な温度になると、シルト系保水材の水分が蒸発して乾燥状態になっていても、感温型ポリマーはそれまで保水状態を維持し、設定温度になると水分をシルト系保水材側に放出し、そこから水分が蒸発して、その気化熱により舗装体の温度を低下させることとなる。
【0011】
したがって、温度低減が必要な温度帯域で確実に温度低減ができ、かつ、温度低減効果の持続時間を長く維持できることとなり、ヒートアイランド現象抑制対策として好適なものとなる。
【0012】
本発明においては、前記舗装体の空隙は、平均の大きさが略0.5〜3mmとされ、前記感温型ポリマーは、粒径が1,000μm〜50μmとされ、かつ、保水材全体の0.25〜1.00重量%の配合比率とされている。
【0013】
このような構成とすることにより、平均略0.5〜3mmの大きさの空隙に対して充填可能で、十分な保水能力を有するものとすることができる。
【0014】
本発明においては、前記シルト系保水材として浄水場発生土を用いることができる。
【0015】
このような構成とすることにより、シルト系保水材として浄水場発生土を用いることで、産業廃棄物の有効利用を図ることができる。
【0016】
この場合、前記浄水場発生土は、24時間以上100℃〜115℃で、炉乾燥機により乾燥させた後、粉砕機により500μm以下の粉状に加工して混合されるようにすることができる。
【0017】
このような構成とすることにより、浄水場発生土を500μm以下の粉状に加工することで、舗装体の空隙への充填を容易に行うことが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記保水材には、セメントが混入されるようにすることができる。
【0019】
このような構成とすることにより、保水材の耐久性を向上させることができ、例えば道路通行による保水材の飛散を防止することができる。
【0020】
この場合、前記セメントとして、超速硬セメントを用いることができる。
【0021】
このような構成とすることにより、保水材の強度を短時間で高めることができ、施工終了後供用開始時間までの制約が厳しい場合に容易に対応できることとなる。
【0022】
本発明においては、充填される保水材の配合割合を、水53.0〜56.5重量%、セメント18.0〜27.5重量%、シルト系保水材17.0〜28.0重量%、感温型ポリマー0.25〜1.00重量%とすることができる。
【0023】
このような構成とすることにより、舗装体の空隙に対する保水材の充填が容易で、充填する他の保水材の材料を節約して、充填後の保水材の耐久性も向上させることができ、しかも、温度低減が必要な温度帯域で確実に温度低減ができ、かつ、温度低減効果の持続時間を長く維持できることとなる。
【0024】
本発明においては、前記感温型ポリマーは、18時間以上水に浸して膨潤させた後混合されるようにすることができる。
【0025】
このような構成とすることにより、感温型ポリマーを十分に膨潤させておくことで他の保水材の材料を節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1〜図6は、本発明の一実施の形態に係る保水性舗装体を示す図である。
【0028】
図1は、本実施の形態に係る保水性舗装体の断面図で、この保水性舗装体10は、路盤12の表面に形成されたもので、下層側の遮水層14と、上層側の開粒度舗装体16と、開粒度舗装体16に充填される保水材18とから構成されている。
【0029】
遮水層14は、路盤12の表面にアスファルト混合物を敷設して形成される。
【0030】
また、この遮水層14は、例えば、密粒度舗装体にて形成してもよい。
【0031】
開粒度舗装体16は、透水可能な空隙20を有するもので、遮水層14の表面に開粒度アスファルト混合物を敷設して形成される。
【0032】
空隙20の種類としては、例えば、図1に示すように、開粒度舗装体16表裏面に貫通して開口した有効空隙20a、開粒度舗装体16の表面にのみ開口した半有効空隙20b及び開粒度舗装体16の表面に全く開口していない無効空隙20cがあり、これらの内、有効空隙20a及び半有効空隙20bが保水材の充填空隙とされる。
【0033】
開粒度アスファルト混合物の粗骨材として粒径範囲が13mm〜5mmの6号砕石を用いた場合の粒子間空隙径は、有効空隙20a及び半有効空隙20bにおいて平均略0.5mm〜3mmと考えられる。
【0034】
保水材18は、開粒度舗装体16の有効空隙20a及び半有効空隙20bに充填されて、水をより多く吸収し、保水した水を毛管現象により舗装体上面まで吸い上げ、気温の上昇にともなって気化熱を発生することで舗装体の温度を下げる効果を有するもので、セメントと、シルト系保水材と、感温型ポリマーとから構成されている。
【0035】
セメントは、保水材18に配合することで、保水材18の耐久性を向上させることができ、例えば道路通行による保水材18の飛散を防止することができる。
【0036】
また、セメントは、施工終了後、供用開始時間までの時間的制約が厳しい場合には3時間で硬化する超速硬セメントを用いたり、制約が緩い場合には1日で硬化する普通の遅延型のポルトランドセメントを用いる等の配合の多様性を持たせることができる。
【0037】
シルト系保水材は、降水時等に水を吸収し、保水した水を毛管現象により舗装体上面まで吸い上げる働きをするもので、砂質シルト、粘土質シルト、シルト質粘土等を用いることができる。
【0038】
また、本実施の形態においては、シルト系保水材として浄水場で発生する土、すなわち浄水場発生土を採用することにより、産業廃棄物の有効利用を図るようにしている。
【0039】
この浄水場発生土は、通常、浄水場からの搬出段階では、含水比80%程度に脱水されたチップ状態の材料となっており、これを24時間以上100℃〜115℃で、炉乾燥機により乾燥させた後、粉砕機により500μm以下、好ましくは300μm以下の粉状に加工して用いるようにすることで、開粒度舗装体16の空隙20内への充填を容易にしている。
【0040】
感温型ポリマーは、設定温度以下の低温で吸水、保持し、特定の設定温度以上で吸水、保持していた水を外部に放出するもので、その一例として、N−イソプロピルアクリルアミド等のN−アルキルアクリルアミドを主成分モノマーとして重合架橋させた樹脂等をあげることができる。
【0041】
このタイプの感温型ポリマーは、N−アルキルアクリルアミドと共重合するモノマーを適当に選択することにより、感温点を任意に設定することが可能となる。
【0042】
この異なる感温点の複数の感温型ポリマーの種類とそれらの温度毎の吸水倍率との関係を図2に示す。
【0043】
ここでは、感温点が20℃、25℃、30℃、35℃の4種類の感温型ポリマーの例を示しており、そのいずれもが感温点に対応する温度を超えると、吸水倍率が各段に減少していることがわかる。
【0044】
また、感温型ポリマーの粒径は、1000μm〜50μmのものが用いられる。
【0045】
さらに、感温型ポリマーを他の保水材と混練するに際しては、予め感温型ポリマーを18時間以上水に浸しておいてから混練する前日ポリマー膨潤タイプと、予め感温型ポリマーを含めて混合状態にしておくプレミックスタイプとがあり、これらを必要に応じて使い分けるようにするとよい。
【0046】
特に、前日ポリマー膨潤タイプの場合、感温型ポリマーを十分に膨潤させておくことで他の保水材の材料を節約することができることとなる。
【0047】
このように、保水材18としてシルト系保水材に感温型ポリマーを配合することで、降水または散水によって舗装体に水分が供給されると、舗装体の空隙内にある保水材のシルト系保水材及び感温型ポリマーに吸水されて保水状態となり、温度低減が必要な温度になると、シルト系保水材の水分が蒸発して乾燥状態になっていても、感温型ポリマーはそれまで保水状態を維持し、設定温度になると水分をシルト系保水材側に放出し、そこから毛管現象により水分が蒸発して、その気化熱により舗装体の温度を低下させることとなる。
【0048】
したがって、温度低減が必要な温度帯域で確実に温度低減ができ、かつ、温度低減効果の持続時間を長く維持できることとなり、ヒートアイランド現象抑制対策として好適なものとなる。
【0049】
このような、保水性舗装体10の施工にあたっては、砕石等を敷設し、これを転圧して路盤12を形成する路盤工を行った後、この路盤12上にアスファルト混合物を敷設して遮水層14を形成し、さらにこの遮水層14上に開粒度アスファルト混合物を敷設して開粒度舗装体16を形成する。
【0050】
次いで、保水材18をミキサーにて混練し、この混練した保水材18を開粒度舗装体16上に広げ、ゴムレーキ等を用いて敷き均し、振動プレート等にて転圧して開粒度舗装体16の空隙内に保水材を注入、充填すればよい。
【0051】
次に、このような保水材18について、図3に示すような試験装置22を用いて水吸い上げ試験を行った。
【0052】
この試験装置22は、水槽24内に水供給パイプ26より水を供給し、オーバーフローさせる状態にすると共に、水槽24内に載置台28を設置し、その上にスポンジマット30を敷き、このスポンジマット30上に保水材供試体32を載置するようにしている。
【0053】
保水材供試体32は、φ100mm×200mmの円柱状に固化させた状態とし、予め乾燥状態にして、水位0.5cmで静置し、24時間吸水させ、その吸水量を確認した。
【0054】
保水材の絶対乾燥重量に対する最大含水量(吸水量)は70〜100%である。
【0055】
さらに、吸水後、40℃、24時間乾燥は、最大含水量(吸水量)の60〜75%程度の保水量を放出せず、維持した。
【0056】
この効果は、図4に示す保水材18の配合により実現できることが確認できた。
【0057】
この保水材18の配合割合は、水53.0〜56.5重量%、セメント18.0〜27.5重量%、シルト系保水材17.0〜28.0重量%、感温型ポリマー0.25〜1.00重量%となっている。
【0058】
この配合により、Pロート流動性が9〜13秒となり充填性が確保でき、また、圧縮強度が0.5N/mm2以上、曲げ強度が0.3N/mm2以上となり、保水材の耐久性を向上させることが可能である。
【0059】
また、遮水層14上に開粒度舗装体16を形成し、この開粒度舗装体16の空隙に保水材18を充填し、図5に示すように、日最高気温30℃を超える日に朝8時より、20mm/hの模擬雨を想定し、散水を行い、10時から15時まで遮水層との路面温度低減効果を確認したところ、最大19.9℃の路面温度低減効果が得られた。
【0060】
その後、降雨量0mmにおける暴露試験では、図6に示すように、その後4日間の持続的効果が確認できた。
【0061】
本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の形態に変形することができる。
【0062】
例えば、本発明の保水性舗装体は、道路のみに限らず、浄水場や工場などの保水性舗装にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施の形態に係る保水性舗装体の断面図である。
【図2】異なる感温点の複数の感温型ポリマーの種類とそれらの温度毎の吸水倍率との関係を示す図である。
【図3】保水材の試験装置を示す断面図である。
【図4】保水材の配合割合を示す図である。
【図5】路面温度低減効果を示す図である。
【図6】暴露試験の持続的効果を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 保水性舗装体
12 路盤
14 遮水層
16 開粒度舗装体
18 保水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水可能な空隙を有する舗装体と、
前記舗装体の空隙に充填される保水材とを有する保水性舗装体であって、
前記保水材は、
吸水可能なシルト系保水材と、
設定温度以下で吸水し、設定温度以上で水分を放出する感温型ポリマーとを有することを特徴とする保水性舗装体。
【請求項2】
請求項1において、
前記舗装体の空隙は、平均の大きさが略0.5mm〜3mmとされ、
前記感温型ポリマーは、粒径が1,000μm〜50μmとされ、かつ、保水材全体の0.25〜1.00重量%の配合比率とされていることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記シルト系保水材として浄水場発生土を用いることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項4】
請求項3において、
前記浄水場発生土は、24時間以上100℃〜115℃で、炉乾燥機により乾燥させた後、粉砕機により500μm以下の粉状に加工して混合されることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記保水材には、セメントが混入されることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項6】
請求項5において、
前記セメントとして、超速硬セメントを用いることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
充填される保水材の配合割合が、水53.0〜56.5重量%、セメント18.0〜27.5重量%、シルト系保水材17.0〜28.0重量%、感温型ポリマー0.25〜1.00重量%とされていることを特徴とする保水性舗装体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて、
前記感温型ポリマーは、18時間以上水に浸して膨潤させた後混合されることを特徴とする保水性舗装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−91734(P2009−91734A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260856(P2007−260856)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(306009891)戸田道路株式会社 (1)
【Fターム(参考)】