説明

保温材下腐食検査方法

【課題】保温材が取り付けられている配管において、簡便、且つ安価に腐食の検査を行うことができる保温材下腐食検査方法を実現する。
【解決手段】保温材が取り付けられている配管の保温材下腐食を検査する方法であって、光ファイバドップラセンサを上記配管に取り付けて当該配管の腐食を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管の保温材下腐食検査方法に関するものである。具体的には、保温材が取り付けられている配管において、簡便、且つ安価に腐食の検査を行うことができる保温材下腐食検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素鋼、低合金鋼製の配管における保温材下腐食は、漏洩トラブルの主な原因となることから、長年稼動している化学プラントにおいては管理を必要とする深刻な劣化現象の一つである。
【0003】
一般に、1つのプラントにおける配管の総延長距離は数10kmと莫大であり、且つ配管は保温材に覆われているため、目視により保温材下腐食(Corrosion Under Insulation:以下、CUIともいう)検査を行うためには、保温材を除去する必要がある。しかしながら、保温材解体(取り外し)のための足場を組むには、莫大な工数(期間)と費用とを要する。また、保温材を全面解体して目視検査を行ったとしても、配管の腐食が発見されるのは1000系統の内、2〜3系統程度であり、非常に効率の悪いことが問題となっている。そのため、保温材の取り外し作業を必要とせず、且つ防爆要求の多いプラント設備に対応した配管のCUI検査技術の開発が強く求められている。
【0004】
これまでに、配管のCUI検査に適用すべく、様々な非破壊検査技術が開発されている。例えば、放射線透過法や、ガイドウェーブを用いた超音波探傷法が開発されて実施されている。
【0005】
上記放射線透過法は、放射線源と当該放射線源に対向するように設置したセンサとを用い、保温材および配管を透過した放射線の透過強度を測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナを用いて配管の軸方向に走査することにより、配管の腐食減肉マップを得ることができる。上記放射線透過法によれば、配管の保温材を撤去することなく、視覚的に腐食状況を把握することができる(非特許文献1)。
【0006】
上記超音波探傷法は、配管にガイドウェーブ(超音波)を長距離伝播させ、断面積が変化している部位から反射されたエコーを測定することにより、配管の損傷の有無を評価する試験方法である。上記超音波探傷法によれば、配管にガイドウェーブを伝播させるので、長距離の検査を実施することができるという特徴があり、配管の状態を高速で検査することが可能である(非特許文献2)。
【非特許文献1】河部俊英,「ガイド波を用いた配管減肉検査技術」,配管技術,日本工業出版株式会社,平成20年(2008年)6月号,p.19−24
【非特許文献2】永島良昭,遠藤正男,三木将裕,真庭一彦,「RTを用いた原油配管自動検査」,検査技術,日本工業出版株式会社,平成18年(2006年)1月号,p.18−24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の検査方法では、適用できる条件が限られているという問題を有している。
【0008】
具体的には、放射線透過法は、配管全体の腐食減肉マップを得るためには、スキャナを取り付けて配管の軸方向に走査する必要がある。そのため、配管の直管部にしか適用することができない。また、放射線源およびセンサを備えたスキャナ等のシステムを設置するスペースが必要であることから、化学プラントのように配管間隔が狭く且つ複雑な形状をした配管では適用できる部位が限定されるという問題を有している。
【0009】
一方、超音波探傷法は、配管にガイドウェーブを長距離伝播させるため、数mの長距離探傷が可能であるものの、腐食による配管の減肉部のみならず配管の溶接部やフランジ部といった断面積が変化している位置においてもエコーが出現する。このため、配管の損傷の有無を正確に評価するためには、配管の形状を予め把握しておく必要がある。また、溶接部やフランジ部からのエコー強度は強いため、エコーのリンギングにより検査不能域が発生するという問題を有している。また、検査を行うために配管の保温材を撤去する必要があるという問題も有している。
【0010】
さらに、これら従来の検査方法では、配管における腐食の有無を検査することはできるものの、配管の状態をリアルタイムで監視し、腐食の進展度を評価することができないという課題が生じる。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、保温材に覆われた配管において、簡便、且つ安価に腐食の検査を効率よく行うことができる保温材下腐食検査方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑み、保温材が取り付けられている配管において、簡便、且つ安価に腐食の検査を効率よく行うことができる保温材下腐食検査方法について鋭意検討した。その結果、配管の腐食(以下、「サビこぶ」とも言う)の剥離または亀裂から弾性波であるアコースティック・エミッション(以下、AEともいう)が発生することに着目し、当該AEを、光ファイバドップラセンサを用いて検知することにより、腐食の存在を検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、保温材が取り付けられている配管の保温材下腐食を検査する方法であって、光ファイバドップラセンサを上記配管に取り付けて当該配管の腐食を検査することを特徴としている。
【0014】
当該光ファイバドップラセンサを適応することができる温度範囲は、−200℃から250℃までと広い。そのため、様々な検出条件下においても保温材下腐食を検査することができる。さらに、上記光ファイバドップラセンサは、防爆性で電気火花が発生しないので、石油化学プラントのような防爆地域を有するプラント内においても常設することが可能であり、配管の腐食から発生したAEをリアルタイムで検出することができるため、より簡便に保温材下腐食検査を行うことができる。また、AEの発生数の累積を計測することもできる。
【0015】
本発明に係る保温材下腐食検査方法においては、光ファイバドップラセンサを配管のフランジ部に取り付けることが好ましい。当該フランジ部に取り付けられている保温材は解体が容易であるため、保温材解体のために莫大な工数と費用とを必要としない。それゆえ、簡便、且つ安価に保温材下腐食検査を行うことができる。また、光ファイバドップラセンサを配管に常設させた場合には、当該センサの保守・点検を容易に行うことができる。
【0016】
さらに、本発明に係る保温材下腐食検査方法においては、光ファイバドップラセンサを配管に複数個取り付けることが好ましい。上記光ファイバドップラセンサの受信帯域は1Hz〜1MHzと広帯域で検出範囲が広い。また、腐食から発生するAEは、可聴音から500kHzの比較的低周波数の弾性波であり、広い範囲に伝播する。そのため、配管にセンサを複数個取り付ければ、配管全体の腐食を検出することができる。また、例えば放射線透過法のように配管全体を走査する必要が無いため、効率よく保温材下腐食検査を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る保温材下腐食検査方法においては、光ファイバドップラセンサで10kHz〜150kHzの周波数のAEを検出することが好ましい。低周波数ほど遠くに伝播しやすいため、センサの検出効率を向上させる観点からは、より低周波数を検出することが好ましい。その結果、上記光ファイバドップラセンサの検出可能な範囲がより広くなるため、より効率よく保温材下腐食検査を行うことができる。
【0018】
また、本発明に係る保温材下腐食検査方法においては、AEの発生数の累計を計測することによって、腐食の進展度を評価することが好ましい。これにより、リアルタイムで腐食の進展度を評価することができるので、補修を行う必要のある配管に優先順位をつけることができ、腐食の進展度に応じた補修対策を講じることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る保温材下腐食検査方法は、以上のように、光ファイバドップラセンサを配管に取り付けて当該配管の腐食を検査するので、簡便、且つ安価に効率よく保温材下腐食検査を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態について説明すれば以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
尚、本明細書中において範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0022】
一実施形態において、本発明に係る保温材下腐食検査方法は、光ファイバドップラ(Fiber Optical Doppler、以下「FOD」ともいう)センサを配管に取り付けてAEを検出し、当該配管の腐食を検査する方法である。
【0023】
FODセンサの配管への取り付け部位に関しては、当該FODセンサが配管表面に接することができる部位である限り、特に限定されるものではない。しかしながら、FODセンサの受信感度を上昇させる観点からは、配管の配管部に取り付けることが望ましい。上記「配管部」とは、配管における「バルブ、フランジ、分岐部等の形状不連続部を除く部分」のことをいう。但し、フランジ部を覆う保温材は、フランジ部以外の配管を覆う保温材と比べて、その解体(取り外し)が容易である。従って、FODセンサの設置、または保守・点検の際の保温材解体に係る手間と費用とを削減することを考慮すれば、フランジ部にFODセンサを取り付けてもよい。
【0024】
FODセンサを配管に取り付ける方法は、上記FODセンサを配管表面に接触させることができる方法である限り、特に限定されるものではなく、配管部にはU字ボルトを用い、フランジ部にはクランプを用いてFODセンサを取り付けることができる。また、市販の接触媒質を用いてFODセンサを取り付けてもよい。尚、上記「市販の接触媒質」としては、例えば、超音波探傷用として市販されているソニーコート(商品名:日合アセチレン株式会社製)や接着材アロンアルファ(商品名:コニシ株式会社社製)等を挙げることができる。また、FODセンサは、化学プラント建設時において保温材を取り付ける前に配管に取り付けてもよく、既存の化学プラントの配管に取り付けてもよい。つまり、FODセンサの取り付け時期は、保温材下腐食検査方法を行う前であれば何時でもよい。
【0025】
長距離に及ぶ配管の保温材下腐食検査を効率よく実施する観点から、上記FODセンサは、配管に複数個取り付けられることが好ましい。配管に取り付けられる上記FODセンサの数は、当該FODセンサがAEを好適に受信することができる限り、特に制限はなく、検査対象となる配管の長さ等によって適宜決定すればよい。
【0026】
本発明に係る保温材下腐食検査方法では、AEの発生数の累計を計測することによって、腐食の進展度を評価することができる。FODセンサは耐久性が非常に高いので、保温材解体の手間とコストとを削減する観点から、FODセンサを常設しておくことが好ましい。
【0027】
ここで、本発明に係る保温材下腐食検査方法で用いられるFODセンサおよびAE検出方法について、以下に詳細を説明する。
【0028】
〔1.FODセンサ〕
FODセンサは、光ファイバのドップラー効果を利用したセンサであり、光ファイバに入射した光の周波数の変調を読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することができるようになっている。
【0029】
ここで、上記「光ファイバのドップラー効果」について、図1を参照しながら説明する。図1は、光ファイバのドップラー効果を説明するためのブロック図である。例えば、光ファイバ1に光源2から音速C、周波数fの光波が入射されたときに、光ファイバ1が伸長速度vで長さLだけ伸びたとする。このとき、ドップラー効果により、入射光の周波数がfからfに変調したとすると、変調後の周波数fはドップラー効果の公式を用いて、式(1)のように表すことができる。
【0030】
【数1】

【0031】
(式(1)中、fは入射光の周波数、fは変調後の周波数、Cは音速、vは光ファイバの伸長速度を表す。)
式(1)において、変調後の周波数fは入射光の周波数fからf変調したとすると、光ファイバの周波数変調fは、式(2)のように表すことができる。
【0032】
【数2】

【0033】
(式(2)中、fは入射光の周波数、fは光ファイバの周波数変調、Cは音速、vは光ファイバの伸長速度を表す。)
そして、式(3)に示す波の公式を用いれば、光ファイバの周波数変調fは、式(4)のように表すことができる。
【0034】
【数3】

【0035】
(式(3)中、fは周波数、Cは音速、λは波長を表す。)
【0036】
【数4】

【0037】
(式(4)中、fは入射光の周波数、fは変調後の周波数、Cは音速、tは時間、Lは光ファイバの長さを表し、dL/dtは光ファイバの長さの時間変化を表す。)
式(4)は、光ファイバの伸縮速度を光波の周波数変調として検出することができることを示している。すなわち、光ファイバの周波数変調fを読み取ることによって、光ファイバに加わったひずみ(弾性波や応力変化等)を検知することが可能となる。
【0038】
また、上記FODセンサは、光ファイバをコイル状に巻いて積層することにより、上記式(4)におけるLの値を大きくしてセンサの感度を高め、且つ全方位からの受信を可能にしている。
【0039】
〔2.AE検出方法〕
本発明に係る保温材下腐食検査方法において、AEの検出には、FODセンサを備える振動計測装置を用いる。そこで、当該FODセンサを備える振動計測装置について、図2のブロック図を参照しながら説明する。上記振動計測装置は、FODセンサ3の他に、FODセンサ3に接続される光ファイバ4、光ファイバ4に入力光を入力する光源5、および光ファイバ4からの出力光と光源5からの入力光との間の周波数変調を検出する検出器6を主に備えている。
【0040】
光源5は、例えば、半導体や気体等を用いたレーザーであり、レーザー光(コヒーレント光)を入力光として光ファイバ4に入力できるようになっている。光源5からの入力光の波長は特に限定されず、可視光域でも赤外域でもよいが、入手が容易であるとの点からは波長が1550nmの半導体レーザーが好ましい。
【0041】
検出器6は、光ファイバ4からの出力光と、光源5からの入力光との間での周波数変調を検出可能なものであり、且つアコースティック・エミッションの検出が可能な低ノイズ型が好ましい。
【0042】
上記振動計測装置は、さらに、AOM(Acoustic Optical Modulator)7、入力光の一部をAOM7に送るためのハーフミラー8、およびAOM7によって変調させられた入力光を検出器6に送るためのハーフミラー9を備えている。上記AOM7は、従来公知の構成を備えており、入力光の周波数fを変調させて周波数(f+f)とすることができるようになっている(fは周波数変化量であり、正負の値を含む)。
【0043】
光源5から光ファイバ4を介してFODセンサ3に入射された周波数fの光波は、FODセンサ3が配管の腐食による剥離や亀裂等に起因して発生したAEを受信すると、周波数(f−f)に変調する。変調した光波は、光ファイバ4を介して検出器6に入射される。検出器6では、光ヘテロダイン干渉法によって変調成分(光ファイバの周波数変調)fが検出される。検出された変調成分fは、FV変換器(図示しない)によって電圧Vに変換され、振動計測装置から出力される。
【0044】
振動計測装置から出力された電圧Vの原波形データは、周波数解析を用いて、図3に示すような、横軸が周波数、縦軸がスペクトルパワーとなる抽出データに変換される。尚、上記「周波数解析」は、高速フーリエ変換(fast Fourier transformation :FFT)を用いて行う。
【実施例】
【0045】
保温材下腐食(Corrosion Under Insulation:以下、CUIともいう)検出方法の検討を行う際に、サビこぶ発生の程度によって腐食段階を、初期、中期、後期に分けて検討を行った。尚、サビは水酸化鉄(FeOOH)、酸化鉄(Fe、Feなど)が金属表面に薄く付着した状態で、水分、酸素などがさらに供給されることでこぶ状に盛り上がった状態をサビこぶという。
【0046】
腐食段階の初期とは、サビこぶは発生していないが、配管表面にサビが付着していることが目視で確認できる段階として定義した。
【0047】
腐食段階の中期とは、サビこぶが発生し、且つ腐食がより広範囲に進行した段階であり、さらに、配管の深部に腐食が進行し始めた段階として定義した。尚、上記「広範囲に進行した」とは、「サビが配管表面を完全に覆った部分の面積が10cm以上となった状態」をいう。また、配管の深部に腐食が進行し始めたことは、サビこぶの発生によって確認することができる。
【0048】
腐食段階の後期とは、配管のより深部まで腐食が進行し、サビこぶに亀裂が入った段階として定義した。尚、上記「サビこぶに亀裂が入った段階」とは、サビこぶ表面に目視で確認できる長さ1mm以上の線状の割れ目が生じた状態を言う。
【0049】
以下、CUI検出方法の検討結果を実施例に示す。
【0050】
〔実施例1:腐食段階の初期でのAE検出の検討〕
(1.モックアップ配管の製作)
FODセンサによるCUI検査方法を検討するために、まず、図4に示すようなモックアップ配管を作製した。
【0051】
全長5mの炭素鋼製配管10に保温材13を取り付け、配管10の内部に、加熱装置12によって加熱されたシリコーン油を循環させた。また、CUIを効率よく発生させるために、腐食を人工的に促進させた。具体的には、いわゆる濡れ乾きがちょうど生じる程度に滴下量を微調整した滴下装置11から、純水を配管10上に連続的に滴下し、且つ食塩を配管10表面に散布して腐食を発生させた。さらに配管10内を循環するシリコーン油を60〜70℃に加熱することによって、腐食を人工的に促進させた。
【0052】
(2.AE検出の検討)
腐食を人工的に促進させてから約1ヶ月後、腐食段階の初期においてAE検出の検討を行った。FODセンサとして、ゲージ長65mの光ファイバAEを積層のコイル状に積み上げて形成した、市販の積層型のFODセンサ((株)レーザック社製、LA−ED−S65−07−ML)を用いた。図4に示すように、FODセンサ14は、腐食を人工的に発生させた部分(純水の滴下位置)から300mm離れた配管部に、U字ボルトを用いて固定した。
【0053】
AE測定を開始してから3時間後にシリコーン油を加熱して油温を上昇させ、3時間後に油温が70℃に達した後、16時間、油温を70℃に維持し、その後、シリコーン油の加熱を中止し、常温になるまで油温を降下させた。尚、上記「油温」とは、シリコーン油を加熱する加熱装置12の表示温度によって規定した。また、AE発生数の測定中は、シリコーン油の加熱の有無に関わらず、配管10内にシリコーン油を循環させ続けた。
【0054】
AEの検出結果のグラフを図5に示す。図5において、棒グラフは1時間当たりのAE発生数を示し、折れ線グラフはAEの累計発生数を示す。図5のグラフから、腐食の初期段階でAEを充分に計測可能であることがわかる。また、配管内を循環するシリコーン油の温度上昇につれてAE発生数は急激に増加し、或る程度、時間が経つとAE発生数は収束していき、油温を下げると再びAE発生数は増加することがわかった。この結果、配管表面の濡れ乾きや温度変化が加わると、単位時間当たりのAE発生数が増加することが明らかになった。
【0055】
さらに、発生したAEの周波数は、100kHz超のもの、50kHz〜100kHzのもの、10kHz〜50kHzのものという3つのパターンに分類することができ、従って、FODセンサが広帯域の周波数のAEを受信可能であることが示された。
【0056】
〔実施例2:AEの検出可能距離の検討〕
(1.モックアップ配管の製作)
実施例1と同様に作製したモックアップ配管を用い、実施例1と同様の方法を用いて配管に腐食を人工的に発生・促進させた。
【0057】
(2.AE検出の検討)
腐食を人工的に促進させてから約3ヶ月後、腐食段階の中期のモックアップ配管において、FODセンサを腐食部位(純水の滴下位置)から2000mm、3000mm、および3900mm離れた配管部に、U字ボルトを用いて固定した以外は、実施例1と同様の方法でAE検出の検討を行った。そして、AEを検出することができたFODセンサと、腐食部位との距離について検討を行った。
【0058】
3900mm離れた位置に取り付けたFODセンサのAEの検出結果を図6に示す。図6において、棒グラフは30分間当たりのAE発生数を示す。
【0059】
図6のグラフから、実施例1の腐食の初期段階において得られた結果と同様に、腐食の中期段階においても、発生したAEの周波数は、100kHz超のもの、50kHz〜100kHzのもの、10kHz〜50kHzのものという3つのパターンに分類することができた。さらに、これら3つのパターンのうち、50kHz〜100kHzの周波数が最も多く捕捉されていることが明らかになった。また、FODセンサと腐食部位との距離が2000mmおよび3000mmである場合はもちろんのこと、最大距離である3900mmの場合であっても、充分な感度でAEの検出が可能であることが確認された。
【0060】
〔実施例3:配管とフランジ部とにおけるAE検出結果の比較〕
(1.モックアップ配管の製作)
実施例1と同様に作製したモックアップ配管を用い、実施例1と同様の方法を用いて配管に腐食を人工的に発生・促進させた。
【0061】
(2.AE検出の検討)
腐食を人工的に促進させてから約5ヶ月後、腐食段階の後期のモックアップ配管において、腐食部位(純水の滴下位置)から3900mm離れた位置の配管部および腐食部位から3950mm離れた位置のフランジ部にFODセンサを取り付けた以外は、実施例1と同様の方法でAEを検出し、それぞれの場合のAE検出結果について比較を行った。尚、FODセンサを配管部に設置する場合はU字ボルトを用いて固定し、フランジ部に設置する場合は、図7に示すように、FODセンサ14をフランジ部16における腐食部位に近い側に、クランプ17を用いて固定した。
【0062】
FODセンサを配管部およびフランジ部に取り付けた場合のそれぞれの場所におけるAEの検出結果を比較したグラフを図8に示す。図8において、棒グラフは30分間当たりのAE発生数を示し、折れ線グラフはAEの累計発生数を示す。図8のグラフから、FODセンサを配管部に取り付けた場合と比較して感度は劣るものの、FODセンサをフランジ部に取り付けた場合においても、AEを良好に検出できることが確認された。
【0063】
〔実施例4:腐食の進展度とAE発生数の検討〕
(1.モックアップ配管の製作)
実施例1と同様に作製したモックアップ配管を用い、実施例1と同様の方法を用いて配管に腐食を人工的に発生・促進させた。
【0064】
(2.AE検出の検討)
腐食を人工的に促進させてから約3ヶ月後の、腐食段階の中期のモックアップ配管と、腐食を人工的に促進させてから約5ヶ月後の、腐食段階の後期のモックアップ配管とを用い、それぞれの配管の腐食部位(純水の滴下位置)から3900mm離れた位置の配管部にU字ボルトを用いてFODセンサを取り付けた以外は、実施例1と同様の方法でAEを検出した。尚、腐食段階の後期のモックアップ配管については、AE測定を開始してから360分経過後までのAE発生数を調査したが、腐食段階の中期のモックアップ配管については、AE測定を開始してから240分経過後までしかAE発生数を調査しなかった。
【0065】
腐食段階の中期の配管におけるAE発生数と腐食段階の後期の配管におけるAE発生数とを比較したグラフを図9に示す。図9において、棒グラフは30分間当たりのAE発生数を示し、折れ線グラフはAEの累積発生数を示す。また、矢印は、AE測定を開始してから240分経過後の、腐食段階の後期の配管におけるAE総発生数と腐食段階の中期の配管におけるAE総発生数との差を表す。
【0066】
図9のグラフから、腐食段階の後期の配管におけるAE発生数は、腐食段階の中期の配管におけるAE発生数と比較して、明らかに増加していることがわかる。特に、AE測定を開始してから240分経過後の、腐食段階の後期の配管におけるAE総発生数は、腐食段階の中期の配管におけるAE総発生数と比較して約10倍多い。このことから、腐食の進展度によって、言い換えればサビこぶの体積の増加に伴って、AE発生数が極端に増加することが明らかになった。以上の結果から、AE発生数の累計を計測することによって、腐食の進展度を或る程度の相関性を持って評価することができることがわかる。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る保温材下腐食検査方法によれば、簡便、且つ安価に効率よく保温材下腐食を検出することができる。また、FODセンサをフランジ部に取り付けてAEを検出することができるので、センサの取り付け、および保守・点検の際の保温材解体に係るコストを大幅に削減することができる。さらに、AE発生数の累計を計測することによって、腐食の進展度を評価することができる。FODセンサは防爆性と耐久性とを有するため大規模な配管設備を有する化学プラントの他に、石油化学プラントのような防爆地域を有するプラント内においても常時設置することが可能である。従って、配管の保温材下腐食検査を必要とする様々な産業において好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】光ファイバのドップラー効果を示すブロック図である。
【図2】振動計測装置を示すブロック図である。
【図3】検出したAEの周波数とスペクトルパワーとの関係を示す波形図である。
【図4】本発明の実施例で用いたモックアップ配管を概略的に示す断面図である。
【図5】実施例1において得られた、腐食の初期段階におけるAEの発生数およびAEの累計発生数を示すグラフである。
【図6】実施例2において得られた、3900mm離れた位置のFODセンサが検出したAEの発生数を示すグラフである。
【図7】FODセンサのフランジ部への取り付け方を概略的に示す正面図である。
【図8】実施例3において得られた、FODセンサを配管部およびフランジ部に取り付けた場合のそれぞれの場所におけるAEの発生数およびAEの累計発生数を示すグラフである。
【図9】実施例4において得られた、腐食段階の後期の配管と腐食段階の後期の配管とにおけるAE発生数およびAEの累計発生数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 光ファイバ
2 光源
3 光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)
4 光ファイバ
5 光源
6 検出器
7 AOM
8 ハーフミラー
9 ハーフミラー
10 配管
11 滴下装置
12 加熱装置
13 保温材
14 光ファイバドップラセンサ(FODセンサ)
16 フランジ部
17 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温材が取り付けられている配管の保温材下腐食を検査する方法であって、
光ファイバドップラセンサを上記配管に取り付けて当該配管の腐食を検査することを特徴とする保温材下腐食検査方法。
【請求項2】
光ファイバドップラセンサを配管のフランジ部に取り付けることを特徴とする請求項1に記載の保温材下腐食検査方法。
【請求項3】
光ファイバドップラセンサを配管に複数個取り付けることを特徴とする請求項1または2に記載の保温材下腐食検査方法。
【請求項4】
光ファイバドップラセンサで10kHz〜150kHzの周波数のアコースティック・エミッションを検出することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の保温材下腐食検査方法。
【請求項5】
アコースティック・エミッションの発生数の累計を計測することによって、腐食の進展度を評価することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の保温材下腐食検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−107362(P2010−107362A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279795(P2008−279795)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】