説明

保管安定性が向上したトルテロジンを含有する経皮投与組成物

本発明は、保管安定性が向上したトルテロジンを含有した経皮投与組成物に関するものであって、トルテロジンのための安定化剤として抗酸化剤を添加することにより、経皮投与剤として長期保管が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保管安定性が向上したトルテロジン(tolterodine)を含有する経皮投与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新しく作られた医学用語である「過活動膀胱」は頻尿、尿意逼迫又は切迫性尿失禁の症状を持つ健康状態を言う。「頻尿」は1日に8回以上排尿する症状を言い、排尿後にもなお尿意を伴う。「尿意逼迫」は尿意をこれ以上我慢できず、そのため緊急の排尿が要される症状を言う。「切迫性尿失禁」は突然の我慢できない尿意により小便が漏れる症状を言う。世界の約5千万人以上が「過活動膀胱」に苦しんでおり、40歳以上の成人約22%が過活動膀胱の症状を持っている。全ての年齢の男女にて発症するが、女性が高い頻度で発症する。過活動膀胱の平滑筋である排尿筋の頻繁な収縮のために起きる。即ち、膀胱筋が正常より頻繁に、若しくは必要でないときに収縮するため、突然な尿意を感じてしまう。大部分の主原因はまだ明らかにされていないが、一部の患者の場合、脳から膀胱への神経伝達の欠陥、手術又は子供の出産による神経損傷により出現する。男性の場合、前立腺肥大と共に過活動膀胱を発症することが一般的である。
【0003】
過活動膀胱は、睡眠不足、作業効率の低下、性生活の回避、抑鬱及び疾患に対する情報不足及び羞恥心による対人恐怖症を伴う疾患であるため、生活の質を大きく低下させる。過活動膀胱を含む疾患と生活の質との間の相互関係を調査した結果(SF−36質問票)によると、過活動膀胱が糖尿病及び高血圧などの慢性疾患と比較して、生活の質をより低下させることが分かった。
従って、過活動膀胱患者の生活の質を回復させるための新規の医薬用組成物の開発が急務である。
【0004】
特許文献1は、(置換された)3,3−ジフェニルプロピルアミンが過活動膀胱の治療に効果的であることを開示している。特に、前記特許は、トルテロジンという一般名を有し、N,N−ジイソプロピル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピルアミンとして公知である2−[(1R)−3−(ジイソプロピルアミノ)−1−フェニルプロピル]−4−メチルフェノールが過活動膀胱の治療に有用であることを教示している。
特許文献2は、過活動膀胱の治療にトルテロジンの経皮投与が効果的であると開示した。特に、この特許は、トルテロジンの容量が小さく、半減期が短いため、経皮投与薬品として有効であり、過活動膀胱の治療には一定の血中濃度が効果的であると開示している。
トルテロジンは、現在、デトロール(Detrol)という商品名をもって経口投与剤形として市販されており、酒石酸塩を含む。しかし、経皮投与に適するトルテロジンは遊離塩基(free base)が最も効果的であるが、安定性が低下する問題があって経皮投与剤形の開発に難点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,382,600号
【特許文献2】米国特許第6,517,864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の発明者は、トルテロジンの薬学的安定性を確保すると共に、服用が簡単で、消費者の生活の質を向上できる、新しい薬品伝達形態の製剤を開発しようと研究した結果、安定化剤として特定の抗酸化剤を含む安定性に優れた経皮投与組成物を開発して本発明を完成した。
従って、本発明は、安定性に優れたトルテロジンを含有した経皮投与組成物を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、
トルテロジンを含有した経皮投与組成物であって、
安定化剤として抗酸化剤を含有して長期保管が可能となるトルテロジンを含有した経皮投与組成物をその特徴とする。
このような本発明をさらに詳しく説明する。
トルテロジンの不安定性の要因を把握するために、酸、塩基、酸化、熱の苛酷条件下で分解試験を実施した結果、酸化苛酷条件でトルテロジンの類縁物質(分解産物)が多量発生することを確認した。
【0008】
そのため、酸化苛酷条件下の安定性を確保するために抗酸化剤を使用するが、トルテロジンの薬品安定性は勿論、経皮剤として剤形化を可能にする加工性を充足させる抗酸化剤を使用する。前記抗酸化剤としては有機酸、これらの誘導体、アミノ酸、これらの誘導体、及びチオール金属塩(metal thiolate)のうち選択される1種以上が好ましい。
本発明の抗酸化剤としての有機酸としては、例えば、ギ酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、パルミチン酸、酒石酸、アスコルビン酸、尿酸、スルホン酸、スルフィン酸、アスパラギン酸、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、及びグルタミン酸などの有機酸が選択される。
【0009】
本発明の抗酸化剤としてのアミノ酸としては、例えば、グルタミン、アスパラギン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、又はシスチンが選択される。有機酸の誘導体としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム、又はアスコルビン酸誘導体としてアスコルビン酸−2−リン酸、アスコルビン酸−2−グルコシド、アスコルビン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−2−リン酸−6−パルミテート、アスコルビン酸−2−リン酸−6−ヘキシルデカン酸、アスコルビン酸−2−リン酸−6−ステアリン酸、又はこれらの塩が選択される。アミノ酸の誘導体は、例えば、システイン塩酸塩が選択される。
また、本発明の抗酸化剤としてのチオール金属塩としては、例えば、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0010】
本発明で抗酸化剤は、トルテロジン100質量部に対して1〜40質量部を使用し、好ましくは2〜30質量部、より好ましくは5〜25質量部、最も好ましくは7〜20質量部を使用する。
トルテロジンは、遊離塩基や酸付加塩など、何れを使用しても構わないが、薬品自体の経皮吸収率を考慮して遊離塩基が好ましい。
本発明による経皮投与組成物は、通常の方法を使用して、パッチ、液剤、軟こう剤、ゲルなどに剤形化することが可能であり、最も好ましくはパッチである。本発明でパッチの基剤としては、通常の経皮吸収を助ける様々な賦形剤と皮膚粘着を助ける粘着剤などが挙げられる。
【0011】
パッチを製造する時、薬品を溶解する溶媒としては、エチルアセテート、エタノール、プロピレングリコールなどが挙げられ、通常、トルテロジン100質量部に対して50〜500質量部を使用する。
本発明による経皮投与組成物としてパッチを製造する場合、使用できる粘着性高分子は、医療用の減圧性粘着剤(PSA、Pressure sensitive adhesive)として水系又は有機溶媒系物質が挙げられ、好ましくはアクリレート重合体、ビニルアセテート−アクリレート共重合体などのアクリル系粘着剤、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、又はこれらの共重合体の合成又は天然ゴム、シリコン系粘着剤などを単独又は2種以上を混合して使用することがよい。前記粘着性高分子は、トルテロジン100質量部に対して100〜2000質量部を含有することが好ましい。前記粘着性高分子が100質量部未満であれば、他の添加物との混合により、均一な相を形成できなくなって塗布が困難であり、それと共に含量の不均一性、粘着力の減少などの問題がある。2000質量部を超えると、主薬品の含有量が減少するため、薬品含量が減少し、添加剤の含量も減少するため、各成分がその役割を十分に発揮できなくなって薬品の吸収が著しく低下する。
【0012】
本発明による組成物を人体に対して投与する容量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態、及び疾患程度によって異なる。トルテロジンの経口投与容量は、頻尿、尿意逼迫、又は切迫性尿失禁などの過活動膀胱(Overactive Bladder)の治療に対して1回2mgを1日2回使用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による組成物は、安定化剤として抗酸化剤を含むことにより、経皮投与用組成物として長期保管が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明は、次の例及び実験例に基づいて詳しく説明するが、以下の例及び実験例は、本発明の説明のためのものであり、本発明の範囲がこれに限定されることはない。
【0015】
参照例1:トルテロジンの酸/塩基/酸化条件における苛酷分解試験
トルテロジン遊離塩基20mgを100mL容量のフラスコに入れて、3つを用意した。
0.1M HCl5mlを前記フラスコに入れてメタノールで定容した後、10分間超音波抽出した。
0.1M NaOH5ml、0.3%H22溶液5mlをそれぞれフラスコに入れてメタノルで定容した後、10分間超音波抽出した。
前記各フラスコを室温で24時間放置し、試験液にして次の分析方法によりHPLCでトルテロジンの類縁物質を定量した。
【0016】
[分析方法]
−試験液:約0.5mg/ml濃度のトルテロジン
−移動相:リン酸二水素アンモニウム(ammonium dihydrogen phosphate)とメタノールの45:55混合溶液、pH7.0
−HPLC条件:Detector 220nm、column ODS3 C−18
【0017】
【表1】

【0018】
参照例2:トルテロジンの熱条件における苛酷分解試験
4つのガラス瓶にトルテロジン遊離塩基を25〜30mgになるように称量して入れて栓をした。120℃に予熱したオーブンに前記ガラス瓶のうち3つのガラス瓶を入れて10分、20分、及び30分過ぎた後、オーブンからガラス瓶を1つずつ取り出して室温で十分に冷ました。
4つのガラス瓶にメタノール100mlを加え、これを10分間超音波で振盪抽出した後、参照例1と同じ方法でHPLCで類縁物質の分析を実施した。
【0019】
【表2】

【0020】
試験例1:抗酸化剤のスクリーニング
100ml容量のフラスコにトルテロジン遊離塩基500mgとエタノール50mlを入れて混合した後、0.3%過酸化水素溶液を入れて標線に合わせた。
ガラス瓶に抗酸化剤をそれぞれ10mgずつ2セット称量した。1セットはトルテロジンと抗酸化剤が入る溶液であり、残り1セットは抗酸化剤だけ入る溶液である。これは、抗酸化剤が過酸化水素溶液により分解された時に発生するピークを除くためである。
前記トルテロジン溶液2ml及び0.3%過酸化水素水溶液とエタノール1:1の溶液2mlをそれぞれ前記抗酸化剤が入っている2セットのガラス瓶に入れて100rpm、25℃で2.5日間振盪した。
HPLCで分析し、HPLC分析条件は前記参照例1の分析方法と同じである。
【0021】
【表3】

【0022】
試験例2:抗酸化剤を含有するゲルの調製及び安定性評価
前記試験例1により分解物質の発生が顕著に抑制され、2%以下に測定されたアスコルビン酸、L−アスコルビン酸−6−パルミテート、チオ硫酸ナトリウム、L−酒石酸、L−グルタミン酸、クエン酸、DL−リンゴ酸、又はL−システインHClを添加して経皮投与用ゲルを製造した。
ヒドロキシプロピルセルロース、エタノール、精製水をバイアルに称量し、撹拌して透明な溶液を製造した。トルテロジン、抗酸化剤を称量して前記溶液に添加し、撹拌してゲルを製造した。前記全過程は窒素チャンバーの中で実施した。
【0023】
【表4】

【0024】
製造したゲルを加速条件[40℃、75%RH]下で3週間保管した後、参照例1と同様にメタノールで定容し、超音波抽出して類縁物質を定量した。
【0025】
【表5】

【0026】
試験例3:抗酸化剤を含有するパッチの調製及び安定性の評価
トルテロジンとエタノールを混ぜて抗酸化剤を称量してバイアルに入れた。アクリル系粘着剤を添加して約10分間混合した。4時間以上室温で放置して薬品粘着液内に気泡が除去されるようにし、アプリケータ(applicator)を用いて400μmの厚さになるように、ポリエステルフィルムに0.5m/分の速度で塗布した後、熱風乾燥器の中で50℃の温度で50分間乾燥し、バッキング層(backing layer;B/L)を貼り合わせ、30cm2面積のカッターでパッチを切り出してアルミニウム包装材で包み、加速条件[40℃、75%RH]下で保管した。
【0027】
【表6】

【0028】
保管中のパッチを初期、1週、2週、及び3週過ぎた後、HPLCで類縁物質を定量した。各パッチは細かく切ってEAで定容して超音波抽出し、再びメタノールで定容して参照例1と同様に分析した。
【0029】
【表7】

【0030】
前記表7の結果から分かるように、L−アスコルビン酸6−パルミテートが添加された実施例のパッチと、添加されていない比較例1のパッチを加速条件下で3週間保管した場合、実施例が比較例よりも分解物質の発生量が約50%ほど減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルテロジンを含有する経皮投与組成物であって、
安定化剤として、有機酸、アミノ酸、これらの誘導体、及びチオール金属塩のうち選択される1種以上を含有することを特徴とするトルテロジンを含有する経皮投与組成物。
【請求項2】
前記有機酸が、ギ酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸、パルミチン酸、酒石酸、アスコルビン酸、尿酸、スルホン酸、スルフィン酸、アスパラギン酸、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、及びグルタミン酸のから選択されることを特徴とする請求項1に記載のトルテロジンを含有する経皮投与組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸が、グルタミン、アスパラギン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、及びシスチンから選択されることを特徴とする請求項1に記載のトルテロジンを含有する経皮投与組成物。
【請求項4】
前記チオール金属塩が、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、及びチオ硫酸マグネシウムのうち選択されることを特徴とする請求項1に記載のトルテロジンを含有する経皮投与組成物。
【請求項5】
前記安定化剤が、トルテロジン100質量部に対して1〜40質量部で含有されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のトルテロジンを含有する経皮投与組成物。
【請求項6】
ゲル又はパッチに剤形化されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のトルテロジンを含有する経皮投与組成物。

【公表番号】特表2012−532096(P2012−532096A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517370(P2012−517370)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003365
【国際公開番号】WO2011/002161
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(511155110)エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SK CHEMICALS CO.,LTD.
【Fターム(参考)】