説明

保管庫および酸素濃度調整方法および食品保存空間の保管方法

【課題】水素イオン導電性の高分子固体電解質膜を用いた酸素濃度調整手段により、食品保存空間の酸素濃度を低減する場合、水電解により生じる水素イオンを酸素と反応させて脱酸素を行う。しかし、食品の量により、除くべき酸素量も変化するため、水電解で生じた水素イオンが過剰となれば水素が発生するという課題があった。
【解決手段】脱酸素補助容器8内を、高分子電解質膜と陰極、陽極、給電極とからなる酸素濃度調整手段5を用いて脱酸素する。次に、脱酸素気体導入手段6を用い、食品保存空間10に、脱酸素した脱酸素補助容器8内の気体を導入することで、食品保存空間10の酸素濃度を低減する。食品の量に依らず一定量の脱酸素を行うため、水素イオンは過剰にならず水素は発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等を保管する雰囲気の酸素濃度調整を可能とする冷蔵庫等の保管庫および酸素濃度調整方法および食品保存空間の保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大型冷蔵庫が一般的に普及し、スーパーマーケットで一週間分をまとめ買いをする光景が良く見かけられる。食品を長期保存する方法としては、凍結保存が一般的である。しかし、凍結保存することにより、食品の組織が破壊され、食肉などでは、解凍時のドリップの流出により味覚の低下が生じることも否めない。
【0003】
また、凍結保存は調理をする際に解凍の手間が生じ、働く女性にとって解凍に時間を費やすことは極力避けたい事項である。また、長期保存のための手段として酸素濃度を低減させる方法も考案されており、食品の油脂の酸化や変色を防止することが可能である。
【0004】
そのための有力な脱酸素技術として、高分子固体電解質膜による電気化学的な酸素濃度調整手段が知られており、これを用いた冷蔵庫が提案されているが(特許文献1)実用化には至っていない。
【0005】
この方法では、以下に示す素子を用いる。素子の構造は、プロトン伝導性の高分子固体電解質の両側に白金などの触媒層が設けられ、そのさらに両側に給電極を設けたものである。給電極に電圧を印加することで、陽極側で、水が分解され酸素と水素イオンが発生し、このうち発生した水素イオンは高分子固体電界質中を陰極側に移動する。陰極は脱酸素すべき空間に面しており、前記空間内の酸素が、陽極から移動した水素イオンと反応して水を生成する。見かけ上、陰極側の酸素が減少し、陽極側の酸素増加するため、酸素ポンプとして作用し、陰極側の酸素濃度を低減することが可能である。
【特許文献1】特開2005−48977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の高分子固体電解質を用いた酸素濃度調整手段により、食品等を保管する陰極側の空間に酸素量に対して過剰の水素イオンが供給される場合があり、その際、水素が放出され、爆発等の可能性が生じることが課題となっている。
【0007】
以下で水素放出のメカニズムと、プロトンの過剰供給を回避することが困難な理由を説明する。
【0008】
まず、水素放出のメカニズムに関しては以下の通りである。
【0009】
脱酸素が進み酸素濃度が0になった場合でも、酸素濃度調整手段に電圧が印加されている限り、陽極から陰極へは水素イオンの供給は継続する。この水素イオンは、本来酸素と反応するはずであるが、その酸素がないため、陰極で還元され水素となり、陰極側の空間に放出される。
【0010】
次に、酸素に対する過剰の水素イオンの供給を回避することが困難な理由を説明する。
【0011】
脱酸素量は、陽極から陰極に供給される水素イオン量に比例し、このプロトン供給量は、酸素濃度調整手段に流れる電荷(電流の積分値)に比例する。従って、あらかじめ除く
べき酸素量がわかっていれば、必要な電荷(電流の積分値)に達した時点で、酸素濃度調整手段への電圧印加を解除すれば過剰の脱酸素を回避することができる。
【0012】
ところが、食品等を保管する空間の体積が一定であっても、中に入れる食品の体積を一定にすることが不可能であるため、除くべき酸素量が一定に定まらない。この結果、標準の脱酸素量に相当する電流の積分値になるまで、脱酸素を実施すると、食品の体積が多い場合に、酸素量に対して供給する水素イオンが過剰となり、水素が発生する。
【0013】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、食品等を保存する空間への水素放出を回避し、低い酸素濃度での食品保存を安全に実現する冷蔵庫等の保管庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために、本発明の保管庫は、陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを有する構成を有している。そして、食品保存空間の酸素濃度調整方法は、第1ステップとして、前記外部気体置換手段を用いて、前記脱酸素補助容器内の気体を前記容器外の脱酸素されていない気体と置換を行い、第2ステップとして、前記酸素濃度調整手段に電圧を印加して、脱酸素補助容器内の酸素濃度を調整し、第3ステップとして、前記脱酸素補助容器内の気体を、脱酸素気体導入手段を通じて前記食品保存空間に導入することで構成される。
【0015】
食品等の量が変化した場合でも、脱酸素される脱酸素補助容器の体積が一定であるため、脱酸素時の水素イオンの過剰供給は起こらず、水素の放出が回避される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸素濃度を調整する保管庫は、水素イオンの過剰供給は起こらず、水素の放出が回避される。また、食品が保存される空間を安全に効率よく脱酸素することが可能である。この結果、安全に食品をより長期間高品位な状態で保存することが低コストで可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
第1の発明は、陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段を有する保管庫であって、前記酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを有することで構成される。
【0018】
上記保管庫に、以下で述べる第3の発明の酸素濃度調整方法を適用する。このことにより、従来のように食品の体積により変化する食品保存空間内の酸素を直接脱酸素するのではなく、体積が一定の上記脱酸素補助容器に対し、その中を脱酸素することになる。この結果、酸素に対して過剰の水素イオン供給は起こらず、水素イオンは全て酸素と反応して水となる。こうして、水素の放出は回避され、安全な、酸素濃度調整と食品の高品位な状態での保管が可能となる効果が得られる。
【0019】
第2の発明は、特に、第1の発明において、食品保存空間が、酸素濃度調整用トレーの上部をガスバリア性膜で密閉することによって形成される構成を有する。
【0020】
食品保存空間が、酸素濃度調整用トレーの上部をガスバリア性膜で密閉して形成されることで、食品が一定の形の容器に入れられる場合に比べて、食品保存空間内の気体の体積
が小さくなる。このため、除くべき酸素量も減少し、大量の食品が脱酸素条件で保管可能となる。また、除くべき酸素量が減少するため、酸素濃度調整手段のサイズの低減も可能となり、食品の高品位な状態での保管が低コストで可能となる効果が得られる。
【0021】
第3の発明は、陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを有する保管庫を用いた食品保存空間の酸素濃度調整方法であって、
第1ステップとして、前記外部気体置換手段を用いて、前記脱酸素補助容器内の気体を前記容器外の脱酸素されていない気体と置換を行い、第2ステップとして、前記酸素濃度調整手段に電圧印加して、脱酸素補助容器内の酸素濃度を調整し、第3ステップとして、前記脱酸素補助容器内の気体を、脱酸素気体導入手段を通じて前記食品保存空間に導入する構成を有する。
【0022】
第1の発明に関して既に述べたように、従来のように食品の体積により変化する食品保存空間内の酸素を直接除くのではなく、体積が一定の上記脱酸素補助容器に対し、その中を脱酸素するために、酸素に対して過剰の水素イオン供給は起こらず、水素の放出は回避される。この結果、安全に、酸素濃度調整と食品の高品位な状態での保管が可能となる効果が得られる。
【0023】
第4の発明は、特に、第3の発明において、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップを順に複数回繰り返して実施する構成を有する。
【0024】
何回も、脱酸素した気体の導入を繰り返すことで、1回のみ実施する場合に比較して、同じ脱酸素量でも、より低い酸素濃度を実現可能である。この結果、酸素濃度調整が容易となり、食品をより容易に高品位な状態で保管することが可能となる効果が得られる。
【0025】
第5の発明は、特に、第1あるいは第2の発明において、脱酸素補助容器に、同時に複数の食品保存空間が接続される構成を有する。
【0026】
同時に複数の食品保存空間が脱酸素補助容器に接続されることで、食品保存空間から出し入れする時期が異なる食品、あるいは、臭い移り等のために同じ食品保存空間に保存できない食品の保存が可能になる効果が得られる。
【0027】
第6の発明は、特に、第1、2、5のいずれかの発明において、食品保存空間が脱酸素補助容器接続部開閉手段を有する構成を有する。
【0028】
食品保存空間が脱酸素補助容器接続部開閉手段を有していることにより、食品保存空間を脱酸素補助容器から脱着しても食品保存空間の密閉性が保たれる。このため、調整した酸素濃度を保持したまま、食品保存空間を脱酸素補助容器から脱着することが可能となる。さらに、新しい食品保存空間を脱酸素補助容器に接続して酸素濃度調整を繰り返すことで、一つの脱酸素補助容器を用いて、多数の食品保存空間の酸素濃度調整が可能となる効果が得られる。
【0029】
第7の発明は、特に、第3あるいは第4のいずれかの発明において、脱酸素補助容器に、複数の食品保存空間が接続されて酸素濃度が調整される構成を有する。
【0030】
第5の発明で説明したように、脱酸素補助容器に、複数の食品保存空間を接続して酸素濃度を調整することにより、同じ食品保存空間に保存できない食品の保存が可能になる効果が得られる。
【0031】
第8の発明は、陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを有し、さらに前記食品保存空間が前記脱酸素補助容器接続部開閉手段を有する保管庫を用い、第1ステップとして、前記外部気体置換手段を用いて、前記脱酸素補助容器内の気体を前記容器外の脱酸素されていない気体と置換し、第2ステップとして、前記酸素濃度調整手段に電圧を印加することで、脱酸素補助容器の酸素濃度を調整し、第3ステップとして、前記脱酸素補助容器内の気体を、脱酸素気体導入手段を通じて前記食品保存空間に導入して食品保存空間の酸素濃度を調整した後、前記食品保存空間の脱酸素補助容器接続部開閉手段により脱酸素補助容器接続部を閉じ、引き続き脱酸素補助容器から食品保存空間を脱着して保管することで構成される。
【0032】
食品保存空間の酸素濃度を調整した後、前記食品保存空間の脱酸素補助容器接続部開閉手段により脱酸素補助容器接続部を閉じ、引き続き脱酸素補助容器から食品保存空間を脱着して保管することで、調整した酸素濃度を保持したまま保管することが可能となる。また、前記の食品保存空間の脱着・保管により、別の食品保存空間を脱酸素補助容器に接続することが可能となり、この食品保存空間の酸素濃度調整も可能となる。これを繰り返すことにより、多くの食品保存空間の酸素濃度調整が可能となる効果も得られる。
【0033】
第9の発明は、特に、第8の発明において、第1ステップ、第2ステップ、第3ステップを順に複数回繰り返して実施する構成を有する。
【0034】
第4の発明で説明したように、何回も、脱酸素した気体の導入を繰り返すことで、より精度の高い低酸素濃度の調整が実現可能となる。この結果、酸素濃度調整が容易となり、食品をより容易に高品位な状態で保管することが可能となる効果が得られる。
【0035】
第10の発明は、特に、第8あるいは第9の発明において、脱酸素補助容器に、同時に複数の食品保存空間が接続される構成を有する。
【0036】
第5の発明で説明したように、同時に複数の食品保存空間が脱酸素補助容器に接続されることで、同じ食品保存空間に保存できない食品の保存が可能になる効果が得られる。
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0038】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における保管庫として冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な食品保存空間を示した断面図である。
【0039】
図1は、保管庫である冷蔵庫が有する複数の保存室の一つを抽出して示したものであり、全面の保存室扉1と、上下面の断熱仕切壁2、仕切板4で形成される空間に、内部が食品保存空間10となった食品保存容器9が、脱酸素補助容器8と接続されて配置されている。また、脱酸素補助容器8は、外部気体置換手段7と酸素濃度調整手段5と脱酸素気体導入手段5とを有している。
【0040】
尚、仕切板4と本体断熱壁3の間の空間あるいはこれに繋がった空間には、冷却器、ファン等が設置され、保存室に冷気を供給しているが、ここでは簡単のために冷却器、ファン等は省略して記載している。
【0041】
また図2は、本実施の形態の食品保存空間の脱酸素の手順を示したものである。
【0042】
以下では、図1、図2を用いて、酸素濃度調整の具体的な方法と各部の機能に関して概要を説明する。
【0043】
食品保存空間9の脱酸素は図2の3つのステップで進められる。
【0044】
第1のステップは、「脱酸素補助容器内の気体の外部気体による置換」である。このステップは、脱酸素補助容器8が有する外部気体置換手段7によって行われる。具体的には、この外部気体置換手段7は、一種の開閉装置であり、まずこれを開く操作を行う。このことにより、脱酸素補助容器8内部の気体が外部へ放出され、外部の気体が脱酸素補助容器8内部に導入される。
【0045】
このステップの目的は、ステップ2に先立って、上記置換により脱酸素補助容器8内の気体の酸素濃度を大気中と同じ約21%に保つことである。酸素濃度が21%の一定値に保たれれば、脱酸素補助容器8の体積は一定であるために、脱酸素補助容器8内の全酸素量が一定となる。この結果、以下で説明するように、ステップ2で、水素イオンと酸素とが過不足なく反応し、水素の生成は進行しなくなる。
【0046】
第2ステップは、「脱酸素補助容器内の脱酸素」である。このステップでは、脱酸素補助容器8が有する酸素濃度調整手段5に電圧を引加することによって、脱酸素補助容器8内の脱酸素を実施する。ここで重要であるのは、脱酸素補助容器8内の全酸素量に相当する電荷(酸素濃度調整手段5に電圧引加した際に流れる電荷)を、電圧印加により流すよう制御することである。このことにより、上記電荷と当量の水素イオンが発生し、これが酸素と反応し除かれる。つまり、脱酸素補助容器8内の酸素量に相当する水素イオンを発生させ、これを前記酸素と反応させるために、これらが過不足なく反応して水を生成する。このため、余剰の水素イオンは発生せず、水素生成は進行しない。
【0047】
尚、この操作は、開閉機構の一種である外部気体置換手段7と、同じく開閉機構の一種である脱酸素気体導入手段6の両方を閉じた状態にして、脱酸素補助容器を孤立させた状態で行う。また、脱酸素気体導入手段6に関しては、第3ステップで作用を述べる。
【0048】
第3ステップは、「脱酸素補助容器内の気体の食品保存空間への導入」である。このステップでは、開閉機構の一種である脱酸素気体導入手段6を開ける。このことにより、脱酸素補助容器8内の脱酸素された気体が、脱酸素されていない食品保存空間10に導入され均一となる。このように、脱酸素された気体が導入されることにより、食品保存空間10の酸素濃度が低下する。
【0049】
以上のように、本実施の形態では、体積と酸素濃度の決まった脱酸素補助容器8内を脱酸素するために、常に除くべき酸素量は一定となり、その酸素量に相当する電荷を、酸素濃度調整手段5への電圧印加時に流すよう制御することにより、過不足なく酸素と水素イオンが反応し、水素の放出を回避することが可能となる。この結果、安全な酸素濃度調整と食品の高品位な状態での保管が可能となる効果が得られる。
【0050】
尚、気体の拡散を促進して、外部気体による脱酸素補助容器8内の気体の置換(ステップ1)、食品保存空間10への脱酸素補助容器8内の脱酸素された気体の導入、均一化(ステップ3)を加速するために、ファンを設置することが好ましい。設置する場所としては、脱酸素補助容器8内が好ましい。
【0051】
尚、ステップ2では、脱酸素補助容器8内が、脱酸素により減圧になるため、脱酸素補
助容器は、その圧力差に耐える強度を有している必要があり、分厚い樹脂容器あるいは金属容器等が用いられる。
【0052】
あるいは、上記のように減圧になるのは、脱酸素補助容器8、外部気体置換手段7、脱酸素気体導入手段6が高い密閉性を有しているときであるが、反対に、脱酸素補助容器8、外部気体置換手段7、脱酸素気体導入手段6の密閉性を落としたり、脱酸素補助容器8にピンホールを設けたりすることで、脱酸素補助容器8内は減圧にならず、厚みの薄い通常の強度の樹脂ケースを用いることが可能となる。
【0053】
次に、図3を用いて、酸素濃度調整手段に関して詳細を説明する。
【0054】
図3は、本実施の形態における酸素濃度調整手段5の断面図である。図3に示したように、酸素濃度調整手段5は、中央部に高分子固体電解質膜12があり、その左側に陰極13、右側に陽極14があり、各極の外側に給電極15が設けられ、さらに、これらが枠11で固定されている。また、この酸素濃度調整手段5は、脱酸素補助容器8内を脱酸素するために、陰極13が脱酸素補助手容器8の内側に、陽極14が脱酸素補助容器8の外側になるように配置される。
【0055】
引き続き、図3を用いて酸素濃度調整手段5の作用を説明する。酸素濃度調整手段5への電圧印加は、二つの給電極15への電圧印加によって行われる。この電圧印加により、陽極14側では、空気中の水蒸気が電気分解されて酸素が発生し、同時に発生する水素イオンが、印加された電圧により、高分子固体電解質膜12中を陽極14から陰極13へ移動する。水は、陽極14側の空間から水蒸気として供給されるため、陽極14側空間の湿度は低下する。
【0056】
一方、陰極13側空間にある酸素は、陰極13側に移動した水素イオンと反応して水となる。こうして、陰極13側の脱酸素が進行する。このとき、生成した水の多くは電解質膜中に取り込まれるが、一部の水は、陰極13側空間へ放出され、対応する空間の湿度を上昇させる。また、電解質中に取り込まれた水は、陽極11側に移動して酸素と水素イオンとに分解される。
【0057】
従って、全体としては陰極13側空間の酸素濃度が低下し、陽極14側の酸素濃度が上昇するため、酸素が陰極13側から陽極14側へポンピングされたこととなる。同時に、水蒸気は、陽極14側から、陰極13側へポンピングされることになる。
【0058】
本実施の形態で用いられる高分子固体電解質膜12としては、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸膜(膜厚:数十μm〜数百μm)が好適に用いられる。また、陽極14及び陰極13には、白金等の触媒を担持したカーボン粉末とフッ素樹脂粉末の混合物を加圧成形して適度な撥水性を持たせた多孔質電極が用いられる。また、給電体12には、カーボンクロスやカーボンペーパー等が用いられる。但し、陽極14は、電圧印加により酸化されやすいカーボン粉末を白金等の担持体として用いず、直接高分子固体電解12上に白金層を形成して陽極14とすることが好ましい。また、陽極側の吸電極15として、上記カーボンペーパーやカーボンクロスの代わりに、表面に白金メッキしたメッシュ状のチタン等が好適に用いられる。
【0059】
本実施の形態で用いられる外部気体置換手段7、脱酸素気体導入手段6は、既に述べた開閉機構であり、電磁弁、空気圧を利用した弁、開閉器等が用いられる。
【0060】
以上のように本実施の形態の構成により、食品保存空間の酸素濃度低減が、水素発生を伴わず安全に行うことが可能となり、安全に食品を高品位に長期間保存することが可能と
なる。
【0061】
尚、本実施の形態で記載した各部の構成、材料は、以下の実施の形態でも、特に構成の違いについて述べない場合には、好適に適用できる。
【0062】
(実施の形態2)
次に第2の実施の形態について説明する。
【0063】
本実施の形態では実施の形態1と同じ構成については同じ作用効果を奏するものであり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0064】
本実施の形態の構成上の特徴は、酸素濃度調整を行う場合に、食品を保存する空間への脱酸素された気体の導入回数を複数回とすることである。
【0065】
以下、図1を参照しながら、図4を用いて、本実施の形態の酸素濃度調整法を説明する。
【0066】
本実施の形態の酸素濃度調整法では、第1〜第3のステップは図2と同じであり、さらに第1〜第3ステップを必要に応じて複数回繰返し実施する。
【0067】
このステップの繰り返し回数と、その際の酸素濃度の変化を示したものが図5である。具体的には、脱酸素補助容器8の体積が食品保存空間10の体積と等しい場合と、脱酸素補助容器8の体積が食品保存空間10の体積の3倍である場合に関して、第1〜3ステップの繰り返し回数に対して、食品保存空間10の酸素濃度の変化をプロットしている。
【0068】
また、第2ステップでの脱酸素補助容器8内の調整酸素濃度を4%とした。この調整酸素濃度は、ここでは4%としたが、0〜21%の間で任意に設定することが可能である。
【0069】
食品保存空間10と脱酸素補助容器8の体積とが等しい場合、ステップの繰返し回数に従い、0〜3回で急激に酸素濃度が減少し、3回以降酸素濃度が飽和し、脱酸素補助容器8の調整酸素濃度4%に収束してくることがわかる。
【0070】
一方、脱酸素補助容器8の体積が食品保存空間10の体積の3倍である場合は、第1〜3ステップの繰り返し回数が0〜2回で、第2ステップでの脱酸素補助容器8内の調整酸素濃度4%付近に収束してくる。しかし、もともとの脱酸素補助容器8の体積が上記(食品保存空間10と脱酸素補助容器8の体積とが等しい場合)の3倍であるため、第1〜3ステップの繰り返し回数が同じであれば、脱酸素する量は上記(食品保存空間10と脱酸素補助容器8の体積とが等しい場合)の3倍になり、脱酸素にも3倍の時間が必要である。
【0071】
例えば、脱酸素量は、食品保存空間10と脱酸素補助容器8の体積とが等しく、第1〜3ステップの繰り返し回数が3の場合と、脱酸素補助容器8の体積が食品保存空間10の体積の3倍で、第1〜3ステップの繰り返し回数が1の場合で等しくなる。図5でこの二つの場合を比較すると、酸素濃度は、脱酸素補助容器の体積が小さく、第1〜3ステップの繰返しの回数が多いほうが低く、食品保存空間をより効率的に脱酸素していることがわかる。
【0072】
以上のように本実施の形態の構成により、より効率的に、短時間で低い酸素濃度を実現でき、より効率的に、食品を高品位に長期間保存することが可能となる。これは、脱酸素補助容器の体積が小さい方が、ステップ1での外部気体との置換(酸素濃度上昇)による
ロスが小さいためである。
【0073】
また、脱酸素補助容器が小さくなるために、冷蔵庫等の保管庫内の空間を無駄なく利用できる効果も得られる。
【0074】
尚、本実施の形態で記載した構成は、以下の実施の形態でも、特に構成の違いについて述べない場合には、好適に適用できる。
【0075】
(実施の形態3)
次に第3の実施の形態について説明する。
【0076】
本実施の形態では実施の形態1および2と同じ構成については同じ作用効果を奏するものであり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0077】
本実施の形態の構成上の特徴は、食品保存空間の形成のされ方にあり、その他の構成は実施の形態1と同じである。用いられる酸素濃度調整手段も実施の形態1と同じものが用いられる。また、酸素濃度調整方法の手順に関しても、実施の形態1、2で説明したものと同様の方法が用いられる。
【0078】
以下では、本実施の形態における食品保存空間の具体的な構成を図6、図7を用いて説明する。
【0079】
図6は、図1と同様保管庫である冷蔵庫が有する複数の保存室の一つを抽出して、その断面図を示したものである。図7(a)は、本発明の実施の形態3における酸素濃度調整用トレーを示した断面図であり、(b)同酸素濃度調整用トレーのA−A線位置の断面図である。図7Aは本発明の実施の形態3における実施の形態1の図1と異なる点は、図1では食品保存空間10が食品保存容器9により形成されていたのに対し、本実施の形態では、酸素濃度調整用トレー16上に食品を配置し、これをガスバリア性膜18で覆って形成される空間が食品保存空間10となる点である。
【0080】
また、酸素濃度調整は、実施の形態1あるいは2と同じように、第1〜3ステップを1回あるいは複数回繰り返し行うことにより実施される。
【0081】
このように、酸素濃度調整用トレー16とガスバリア性膜18とから食品保存空間10を形成することにより、食品保存空間10が大幅に小さくなる。これは、食品にガスバリア性膜18を接触させて覆うことにより、食品以外で占められている空間が極端に減少するためである。この結果、脱酸素すべき気体の体積が減少し、短時間で効率良く食品保存空間の脱酸素が可能となり、多くの食品を高品位に保存することが可能となる。また、脱酸素すべき気体の体積が減少するために、酸素濃度調整手段5のサイズを小さくすることも可能となる。こうすることで、低コストで食品を高品位に保存することが可能となる効果が得られる。
【0082】
ここで本実施の形態で用いられるガスバリア性膜は、酸素透過性の低い柔軟性を有する透明な膜であり、酸素の透過率として、20000mL/m2・day・atm程度以下が必要である。例えば、ポリエチレン等の炭化水素系の有機高分子の膜や、有機高分子の膜にシリカ等の無機物を蒸着した膜が用いられる。また、さらに酸素透過率は、1000mL/m2・day・atm以下であることが好ましい。このような条件を満たすものとして、特に酸素透過率が55mL/m2・day・atmと低いポリ塩化ビニリデンの膜が好適に用いられる。
【0083】
また、プラスチックや金属製の食品保存容器を用いる場合、容器の透明性が十分でないために、保存されている食品の内容を確認するためには容器を開ける必要があり、開けると同時に内部の酸素濃度が上昇してしまうことが課題であった。ところが、ガスバリア性膜は、透明性が高いために、膜を除いて食品保存空間の密閉を解除することなく、外部から中身を確認することが可能であり、使い勝手が大幅に改善される効果がある。
【0084】
さらに、以下で引き続き、図6を用いて、脱酸素補助容器と酸素濃度調整用トレーとの関係を説明する。
【0085】
図6に示したように、酸素濃度調整用トレー16は、脱酸素補助容器接続部17により、脱酸素補助容器8に気体の漏れがないよう接続されている。
【0086】
また、脱酸素補助容器8と酸素濃度調整用トレー16は、着脱可能で、はめ込み式になっており必要に応じて、接続部の漏れをなくすためにシール材、パッキン等を用いることができる。
【0087】
また、着脱可能であるため、酸素濃度調整用トレー16を脱酸素補助容器から外して、冷蔵庫の外部に出した後に、酸素濃度調整用トレー16上に、食品を乗せ、その後に、ガスバリア性膜で食品上を覆った後に、脱酸素補助容器8に接続して、使用することができる。このように、外部に出して食品が乗せられるために、使い勝手が格段に向上する効果が得られる。
【0088】
次に、図7を用いて、酸素濃度調整用トレーに関してさらに詳しく説明する。
【0089】
図7は、本実施の形態における酸素濃度調整用トレー断面図である。具体的には、図7(a)は、脱酸素補助容器8との接続方向の断面図であり、図7(b)は、図7(a)のA?A線位置の断面図である。
【0090】
酸素濃度調整用トレー16の脱酸素補助容器接続部17は、脱酸素補助容器8との接続側に、図7(b)に示したように、大きな開口を有している。その開口を通じて、脱酸素補助容器8から脱酸素気体導入手段6を介することにより、脱酸素した気体を食品保存空間10に効率良く供給することが可能となる。
【0091】
また、本実施の形態では、酸素濃度調整用トレー16の下部あるいは側部に、通気溝を設けることが好ましい。このことにより、多くの食品が酸素濃度調整用トレー16に載せられた場合でも、通気溝を通して均一な酸素濃度を短時間で実現でき、食品を均一に高品位な状態で保存することが可能となる効果が得られる。また、広い範囲での気体拡散を促進するために、通気溝は脱酸素補助容器接続部17近傍から脱酸素補助容器8とは反対側の端まで伸びていることが好ましい。
【0092】
また、本実施の形態のように、酸素濃度調整用トレーの上部をガスバリア性膜を用いて覆って食品保存空間を形成する場合、ガスバリア性膜と酸素濃度調整用トレーとの密着性を上げ食品保存空間内外の気体の出入りを抑制するために、ガスバリア性膜を食品保存空間に押し付けるための治具が好適に用いられる。例えば、ガスバリア性膜を外から締め付けるベルト状の固定治具等が用いられる。
【0093】
(実施の形態4)
次に第4の実施の形態について説明する。
【0094】
本実施の形態では実施の形態1〜3と同じ構成については同じ作用効果を奏するもので
あり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0095】
本実施の形態の構成上の特徴は、一つの脱酸素補助容器に複数の食品保存空間が接続されている点である。
【0096】
ここで図8を用いて、具体的に本実施の形態の保管庫に関して説明する。保管庫の構成は実施の形態3の図6と類似しているが、既に述べたように、2つの食品保存空間10が脱酸素補助容器8に接続されている点が異なる。その他の構成は実施の形態3と同じであり、用いられる酸素濃度調整手段も同じものが用いられる。また、酸素濃度調整方法の手順に関しても、実施の形態1、2、3で説明したものと同様の方法が用いられる。
【0097】
このように、一つの脱酸素補助容器に複数の食品保存空間を接続する構成をとることにより、食品保存空間に保存する食品の自由度が増加する。例えば、2日で取り出したい食品と、3日で取り出したい食品とがある場合、一つの食品保存空間に保存すれば、2日目に取り出した後に酸素濃度を再度調整する必要があるが、本実施の形態の構成をとれば、別々の食品保存空間に保存するために、その必要がなくなる。また、臭い移り等のために同じ食品保存空間に保存したくない場合にも、別々の食品保存空間に保存することで臭い移りを抑制する効果が得られる。
【0098】
尚、ここでは、食品保存空間は、実施の形態3の図6に対応して上部がガスバリア性膜で覆われた場合を説明したが、実施の形態1の図1に対応する密閉された食品保存容器で形成される食品保存空間を用いることももちろん可能である。
【0099】
(実施の形態5)
次に第5の実施の形態について説明する。
【0100】
本実施の形態では実施の形態1〜4と同じ構成については同じ作用効果を奏するものであり同じ符号を付して説明を省略した。従って、異なる部分についてのみ説明する。
【0101】
本実施の形態の保管庫の構成上の特徴は、食品保存空間が脱酸素補助容器接続部開閉手段を有している点である。また、保管法としての特徴は、酸素濃度を調整した食品保存空間を脱酸素補助容器から脱着して保管する点である。
【0102】
以下では、この保管庫の構成、保管法に関して、図9及び図10を用いて説明する。
【0103】
図9は、本実施の形態の食品保存空間の断面図である。この食品保存空間は、実施の形態3の図6に示した食品保存空間と類似しているが、脱酸素補助容器接続部開閉手段19を有している点が異なる。脱酸素補助容器接続部開閉手段19は、脱酸素補助容器接続部17を外部と遮断し、外部との気体の出入りを停止する作用を有する。具体的には、電磁弁、空気圧を利用した弁、開閉器等の他、手ではめ込んだりねじ込んだりして固定される栓も用いられる。
【0104】
図10は、本実施の形態における保管庫としての冷蔵庫内の酸素濃度が調整可能な食品保存空間とそれを用いた保管方法とを示した断面図である。
【0105】
図10では、図8同様に脱酸素補助容器8に二つの食品保存空間10が接続可能な構造となっているが、その食品保存空間10は、図9で説明した脱酸素補助容器接続部開閉手段19を有しているのが特徴である。図10では、冷蔵庫の下段上部にある食品保存空間10が、脱酸素補助容器8から脱着されて、保管庫下段上部から、保管庫上段へ移動されて保管する様子を示している。
【0106】
この保管方法に関して以下で説明を行う。まず、保管に先立って、ステップ1、ステップ2に従って、食品保存空間10の酸素濃度を調整するが、この方法は実施の形態4と同じである。ただし、食品保存空間10は、脱酸素補助容器接続部開閉手段19を有していることから、脱酸素補助容器8から酸素濃度を調整された気体を導入するために、脱酸素補助容器接続部開閉手段19を開けることが必要である。脱酸素補助容器接続部開閉手段19を開ける時期は、食品保存空間10を脱酸素補助容器8に接続する前か、ステップ3を開始する前である。
【0107】
ステップ3まで終了した後は、実施の形態1〜4では、そのまま脱酸素補助容器8に接続されたまま保管されたが、本実施の形態では、図10に示したように、食品保存空間10を脱酸素補助容器8から脱着し、冷蔵庫内の他の場所で保管する。ここで重要なのは、上記の食品保存空間10を脱酸素補助容器8から脱着する前に、脱酸素補助容器接続部開閉手段19を閉じて、外部との気体の出入りを遮断することである。
【0108】
このように、脱酸素補助容器接続部開閉手段を有する食品保存空間を用いて酸素濃度を調整すると、酸素濃度を保持したまま食品保存空間を脱酸素補助容器から脱着して保管することが可能となり、さらに、別の食品保存空間の酸素濃度調整と、脱酸素補助容器からの脱着を繰返すことで、多くの食品保存空間の酸素濃度調整を実現する効果が得られる。
【0109】
尚、ここでは、食品保存空間は、実施の形態3の図6に対応して上部がガスバリア性膜で覆われた場合を説明したが、実施の形態1の図1に対応する密閉された食品保存容器で形成される食品保存空間を用いることももちろん可能である。
【0110】
以下では、具体的な実施例に基づき、本発明を説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0111】
(実施例1)
本実施例では、実施の形態1の図1の食品保存容器9を用いて食品保存空間10の酸素濃度低減を行った。
【0112】
酸素濃度調整手段5の高分子固体電解質膜12としては厚み約200μmのパーフルオロカーボンスルフォン酸膜を用い、陰極13には、表面に白金を担持したカーボン粉末とフッ素樹脂粉末の混合物を加圧成形して適度な撥水性を持たせた多孔質電極を用いた。また、陽極14には、白金黒層を高分子固体電荷質12上に直接形成したものを用いた。給電体15としては陰極用には、カーボン繊維でできたクロスを、陽極用には、表面に白金メッキしたメッシュ状のチタンを用いた。
【0113】
この酸素濃度調整手段5は、温度25℃、湿度60%の雰囲気で、1時間に約170mlの酸素を陰極13側で除き、同時に陽極14側で同量の酸素を発生させる能力を有していた。この能力は、酸素濃度調整手段5の両側を二つのガスバリア性を有する袋に接続し、給電極15に2.8Vの電圧を印加した際に、二つの袋中の酸素濃度を測定することにより確認した。なお、酸素濃度は、ガスクロマトグラムにより酸素量を定量することにより行った。
【0114】
図1に示した食品保存容器9は、内容積が1Lのものを用い、脱酸素補助容器8としては、内容積が3Lのものを用いた。脱酸素補助容器8は、脱酸素時の減圧に耐えるよう厚みを持った構造とした。
【0115】
また、脱酸素気体導入手段6、外部気体置換手段7としては、ともに電磁弁を用いた。初期状態では、両方を閉じた状態とした。
【0116】
まず、ステップ1として上記の構成にて、食品保存空間に体積200mlの牛ミンチ肉を入れ、5℃の雰囲気に保管した状態で、外部気体置換手段7を開け、外部の空気で脱酸素補助容器8内を置換した。次にステップ2として、外部気体置換手段7を閉じ、酸素濃度調整手段5の陰極13と陽極14に2.8Vの電圧を印加した。この時間は、以下のように電荷量より決定した。つまり、予め脱酸素補助容器8内を上記の電圧条件で脱酸素し、酸素濃度が2%となる電流値の総和(電荷量)を求め、本番では、その電荷量に達する時間で、電圧印加を停止した。以下の牛ミンチ肉量を変えた検討でも同じ電荷量に達した時点で、電圧印加を解除した。
【0117】
次に、第3ステップとして、脱酸素気体導入手段6を開け、脱酸素された脱酸素補助容器8内の気体を、食品保存空間10に導入、均一化した後に、酸素濃度、水素濃度をガスクロマトグラムにより測定した。
【0118】
また、上記と同様にして、牛ミンチ肉100ml、300mlを保存した場合に関しても同様の操作を実施した。
【0119】
(比較例1)
比較のために、脱酸素補助容器を有さない場合に関して、実施例と同じ体積の食品保存容器に直接、酸素濃度調整手段を配置して、直接食品保存容器内の食品保存空間の脱酸素を実施した。脱酸素時の電荷量は、牛ミンチ肉量に依らず、200mlの牛ミンチ肉を食品保存容器内に保存した際に、酸素濃度が2%に達した際の電荷量を標準として、その標準電荷量に達した時点で、酸素濃度調整手段への電圧印加を解除した。また、食品保存容器には、直径1mmのピンホールを開け、内部が減圧にならないようにした、またガスクロマトグラム測定時のサンプリングもこのピンホールより行った。
【0120】
実施例では、牛ミンチ肉100ml、200ml、300mlに対応する(酸素濃度、水素濃度)は順番に、(6.4%、0%)、(6%、0%)、(5.6%、0%)であった。これに対し、比較例では、(4.5%、0%)、(2.1%、0%)、(0.2%、4.1%)であった。
【0121】
このように、実施例では、牛ミンチ肉の量に依らず、酸素濃度は一定であり、水素の発生はなかった。これに対し、比較例では、酸素濃度はやや低いものの、牛ミンチ肉の量による酸素濃度の変動が大きく、牛ミンチ肉量が増えると、水素の発生が観測された。
【0122】
これは、以下の理由によると考えられる。
【0123】
実施例では、牛ミンチ肉量が変化して、食品保存空間の体積が変わっても、脱酸素するのは、常に脱酸素補助空間の一定量の酸素となるため、酸素濃度調整手段に電圧印加した際に、水素イオンが過剰とならず、結果として水素が発生しない。これに対し、比較例では、食品保存空間を直接脱酸素するため、牛ミンチ肉量が変化すると、脱酸素すべき量が変わり、水素イオン量が過剰となる場合が生じ、その場合には水素が発生する。
【0124】
このように本発明の構成を用いることにより、水素の発生を回避し、安全に食品保存空間の酸素濃度を上昇させることができることがわかった。
【0125】
(実施例2)
本実施例では、実施の形態3の図6の酸素濃度調整用トレー16とガスバリア性膜18
を用いて、図6の食品保存空間の酸素濃度を低下させた。ガスバリア性膜18としては、膜厚み11μmのポリ塩化ビニリデンフィルムを用いた。脱酸素補助容器8と酸素調整手段5は実施例1と同じものを用いた。
【0126】
まず、図6に示した酸素濃度調整用トレー16を取り出し、その上に牛ミンチ肉を置き、さらにガスバリア性膜18でこれを覆い、これを脱酸素補助容器8に接続した。図6では省略されているが、ゴムでできた帯状の締め付け治具を用いて、ガスバリア性膜18を酸素濃度調整用トレー16に密着させ、気体の漏れを抑制した。
【0127】
これ以降は、実施例1と同様に、操作に従い食品保存空間10の酸素濃度調整を行い、酸素濃度と水素濃度の測定を行なった。
【0128】
牛ミンチ肉100ml、200ml、300mlに対応する(酸素濃度、水素濃度)は順番に、(2.3%、0%)、(2.6%、0%)、(3.0%、0%)であった。
【0129】
このように、実施例2では、実施例1に比較して酸素濃度が低下した。また、実施例1同様水素の発生は回避された。
【0130】
このように、水素の発生が回避されたのは、実施例1同様、脱酸素するのが常に脱酸素補助容器の一定量の酸素であるため、予め前記酸素量に相当する水素イオンが供給され、過剰の水素イオンが生じなかったためと考えられる。また、酸素濃度が低い値となるのは、以下の理由によると考えられる。ガスバリア性膜で牛ミンチ肉を接触させて覆うことにより、脱酸素するべき体積(食品保存空間の体積)が大幅に減少する。このため、脱酸素した気体を脱酸素補助容器内から導入した際に、食品保存空間の影響が小さくなり、ほぼ脱酸素補助容器内の酸素濃度と等しくなり、精度よく低酸素濃度の調整が可能となった。
【0131】
(実施例3)
本実施例では、実施の形態4の図9に示した脱酸素補助容器接続部開閉手段19を有する酸素濃度調整用トレー16を用い、二つの食品保存空間10を脱酸素補助容器8に接続して、前記の二つの食品保存空間10の酸素濃度を同時に調整し、その後、食品保存空間10を脱酸素補助容器8から脱着して保管した。ガスバリア性膜18と酸素調整手段5は、実施例2と同じものを用いた。また図10では省略されているが、ゴムでできた帯状の締め付け治具を用いて、ガスバリア性膜18を酸素濃度調整用トレー16に密着させ、気体の漏れを抑制した。
【0132】
また、脱酸素補助容器の体積は実施例1同様3Lのものを用いた。脱酸素補助容器開閉手段19としては、ねじ込み式の栓状の開閉手段を用いた。
【0133】
まず、図9に示した酸素濃度調整用トレー16を二つ用意し、その上に牛ミンチ肉とマグロ刺身を各150ml置き、さらにガスバリア性膜18でこれを覆い、これらを脱酸素補助容器8に各々接続した。この際、各々脱酸素補助容器接続部開閉手段19が開いた状態で、脱酸素補助容器8に接続した。これ以降は、実施例1と同様の操作に従い二つの食品保存空間10の酸素濃度調整を行い、酸素濃度と水素濃度の測定を行なった。
【0134】
さらに、新しい酸素濃度調整用トレー16を二つ用意し、上記と同様にして牛ミンチとマグロ刺身を設置した二つの食品保存空間内の酸素濃度を調整し、脱酸素補助容器8から脱着して保管した。これに関しても、同様に酸素濃度と水素濃度の測定を行なった。
【0135】
最初に作製した二つの食品保存空間10に対応する初期の酸素濃度、水素濃度は、順番に、(2.9%、0%)、(3.1%、0%)であった。また、3日後の酸素濃度、水素
濃度は、順番に、(5.9%、0%)、(6.0%、0%)であった。
【0136】
また、後で作製した二つの食品保存空間10に対応する初期の酸素濃度、水素濃度は、順番に、(2.8%、0%)、(3.0%、0%)であった。また、3日後の酸素濃度、水素濃度は、順番に、(6.0%、0%)、(6.1%、0%)であった。
【0137】
このように、水素の発生を回避しつつ、多くの食品保存空間の酸素濃度を調整することが可能となった。水素の発生が回避されたのは、実施例1、2の場合と同様に、脱酸素するのが常に脱酸素補助容器の一定量の酸素であるため、予め前記酸素量に相当する水素イオンが供給され、過剰の水素イオンが生じなかったためと考えられる。また、多くの食品保存空間の酸素濃度が調整可能となったのは、二つの食品保存空間が脱酸素補助容器に接続可能であることから、二つの食品保存空間に別々食品を保存し、低い酸素濃度に調整することが可能になったためであり、さらに、食品保存空間が、脱酸素補助容器接続部開閉手段を有しているために、脱酸素補助容器から脱着しても調整した酸素濃度が維持されるようになったためである。
【0138】
このように本発明の構成を用いることにより、水素の発生を回避し、より効率よく食品保存空間の酸素濃度を低減できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上のように、本発明の酸素濃度を調整する保管庫は、野菜、食肉等の高品位な長期保存が安全な状態で可能となるため、業務用、家庭用に関わらず食品保存を行う冷蔵庫等の保管庫に、また酸素濃度に敏感な薬品、医療用材料、化学物質の保存を行う冷蔵庫等の保管庫に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の実施の形態1、2における冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な食品保存空間を示した断面図
【図2】本発明の実施の形態1、3における酸素濃度調整の手順を示した図
【図3】本発明の実施の形態1、2、3における酸素濃度調整手段の断面図
【図4】本発明の実施の形態2、3における酸素濃度調整の手順を示した図
【図5】本発明の実施の形態2における食品保存空間の酸素濃度の変化を示した図
【図6】本発明の実施の形態3における冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な食品保存空間を示した断面図
【図7】(a)本発明の実施の形態3における酸素濃度調整用トレーを示した断面図、(b)同酸素濃度調整用トレーのA−A線位置の断面図
【図8】本発明の実施の形態4における冷蔵庫内の酸素濃度調整可能な食品保存空間を示した断面図
【図9】本発明の実施の形態5における食品保存空間を示した断面図
【図10】本発明の実施の形態5における食品保存空間の保管方法を示した冷蔵庫の断面図
【符号の説明】
【0141】
1 保存室扉
2 断熱仕切壁
3 本体断熱壁
4 仕切板
5 酸素濃度調整手段
6 脱酸素気体導入手段
7 外部気体置換手段
8 脱酸素補助容器
9 食品保存容器
10 食品保存空間
11 枠
12 高分子固体電解質膜
13 陰極
14 陽極
15 給電極
16 酸素濃度調整用トレー
17 脱酸素補助容器接続部
18 ガスバリア性膜
19 脱酸素補助容器接続部開閉手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段を有する保管庫であって、前記酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と脱着可能な食品保存空間とを有することを特徴とする食品保存空間の酸素濃度調整が可能な保管庫。
【請求項2】
食品保存空間が、酸素濃度調整用トレーの上部をガスバリア性膜で密閉することによって形成される請求項1に記載の食品保存空間の酸素濃度調整が可能な保管庫。
【請求項3】
陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを有する保管庫を用いた食品保存空間の酸素濃度調整方法であって、第1ステップとして、前記外部気体置換手段を用いて、前記脱酸素補助容器内の気体を前記容器外の脱酸素されていない気体と置換し、第2ステップとして、前記酸素濃度調整手段に電圧を印加することで、脱酸素補助容器の酸素濃度を調整し、第3ステップとして、前記脱酸素補助容器内の気体を、脱酸素気体導入手段を通じて前記食品保存空間に導入することを特徴とする食品保存空間の酸素濃度調整方法。
【請求項4】
第1ステップ、第2ステップ、第3ステップを順に複数回繰り返して実施する請求項3に記載の食品保存空間の酸素濃度調整方法。
【請求項5】
脱酸素補助容器に、同時に複数の食品保存空間が接続される請求項1あるいは2に記載の食品保存空間の酸素濃度調整が可能な保管庫。
【請求項6】
食品保存空間が脱酸素補助容器接続部開閉手段を有する請求項1または2または5のいずれか一項に記載の食品保存空間の酸素濃度調整が可能な保管庫。
【請求項7】
脱酸素補助容器に、複数の食品保存空間が接続されて実施される請求項3または4のいずれか一項に記載の食品保存空間の酸素濃度調整方法。
【請求項8】
陽極及び陰極に挟持された水素イオン伝導性を有する固体高分子電解質膜を含んでなる酸素濃度調整手段と外部気体置換手段と脱酸素気体導入手段とを備えた脱酸素補助容器と、前記脱酸素補助容器と着脱可能な食品保存空間とを、有し、さらに前記食品保存空間が前記脱酸素補助容器接続部開閉手段を有する保管庫を用い、第1ステップとして、前記外部気体置換手段を用いて、前記脱酸素補助容器内の気体を前記容器外の脱酸素されていない気体と置換し、第2ステップとして、前記酸素濃度調整手段に電圧を印加することで、脱酸素補助容器の酸素濃度を調整し、第3ステップとして、前記脱酸素補助容器内の気体を、脱酸素気体導入手段を通じて前記食品保存空間に導入して食品保存空間の酸素濃度を調整した後、前記食品保存空間の脱酸素補助容器接続部開閉手段により脱酸素補助容器接続部を閉じ、引き続き脱酸素補助容器から食品保存空間を脱着して保管する酸素濃度が調整された食品保存空間の保管方法。
【請求項9】
第1ステップ、第2ステップ、第3ステップを順に複数回繰り返して酸素濃度の調整を実施する請求項8に記載の食品保存空間の保管方法。
【請求項10】
脱酸素補助容器に、同時に複数の食品保存空間が接続される請求項8あるいは9に記載の食品保存空間の保管方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−210171(P2010−210171A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57731(P2009−57731)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】