説明

保護シート付き触媒層−電解質膜積層体、及びこの集合体

【課題】輸送の際に触媒層が欠落や損傷することのない保護シート付き触媒層−電解質膜積層体を提供することを課題とする。
【解決手段】電解質膜2、及び電解質膜2の両面に形成される触媒層3を有する触媒層−電解質膜積層体10と、触媒層3を覆った状態で触媒層3に接着する保護シート4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体、及びこの集合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等の用途として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池は、例えば特許文献1に記載されたように、電解質膜1の両面に触媒層2が形成された触媒層−電解質膜積層体8をその主な構成としており、この触媒層−電解質膜積層体8の状態でユーザに供給されることがある。ユーザは、この触媒層−電解質膜積層体の各触媒層上に導電性多孔質基材を積層させたり、ガスケットなどを設置したりすることで固体高分子形燃料電池を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−90944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような触媒層−電解質膜積層体を輸送する際は、従来、触媒層−電解質膜積層体を単独で、もしくは触媒層−電解質膜積層体を複数枚重ねて、密閉容器内に収容した状態で輸送していた。しかしながら、このような状態で触媒層−電解質膜積層体を輸送すると、輸送中に触媒層同士が擦れ合うことや、触媒層と密閉容器とが擦れ合うことなどによって触媒層が欠落もしくは損傷してしまう可能性があるといった問題があった。そこで、本発明は、輸送の際に触媒層が欠落や損傷することのない保護シート付き触媒層−電解質膜積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜、及び前記電解質膜の両面に形成される触媒層を有する触媒層−電解質膜積層体と、前記触媒層を覆った状態で前記触媒層に接着する保護シートと、を備えている。
【0007】
この保護シート付き触媒層−電解質膜積層体によれば、保護シートによって触媒層が覆われているため、触媒層の損傷や欠落を防止することができ、さらには、保護シートが触媒層と接着しているため、保護シート自体が触媒層と擦れることによって触媒層を損傷させたり欠落させたりすることも防止することができる。なお、この保護シートは、触媒層に対して動かない程度に接着されていればその接着の態様は特に限定されるものではなく、例えば、触媒層全体に接着していてもよいし、ドット状で接着していてもよいし、他にも触媒層の4隅のみに接着していてもよい。
【0008】
上記保護シート付き触媒層−電解質膜積層体は種々の構成をとることができるが、例えば、上記保護シートの少なくとも一部が触媒層を超えて延びているような構成とすることができる。この構成によれば、保護シートを触媒層−電解質膜積層体から剥離する際に、この触媒層を超えて延びている部分をきっかけとして保護シートを剥がすことができ、保護シートのはく離を容易なものとすることができる。また、上記保護シートの一部だけでなく全外周縁部が触媒層を超えて延びているような構成とすることによって、上述した効果の他に、触媒層をより確実に保護することができるという効果を得ることができる。
【0009】
また、上記触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜の外周縁部が露出するよう、電解質膜が触媒層よりも外形寸法が大きい構成とし、保護シートは、電解質膜の外周縁部を覆った状態で電解質膜に接着している構成とすることができる。この構成によれば、より確実に保護シートが触媒層上で動くことを防止できるとともに、電解質膜の外周縁部の膨潤収縮を抑制することができる。
【0010】
また、保護シートは、外周縁部が触媒層−電解質積層体よりも外方に延びており、外周縁部同士で接着している構成とすることで、より確実に保護シートを触媒層−電解質膜積層体に接着させることができ、保護シートの動きを確実に抑えることができる。また、保護シートを剥がすときに、この保護シートの外周縁部から剥がすことになるため、触媒層−電解質膜積層体を傷つけずに保護シートを触媒層−電解質膜積層体から剥離することができる。
【0011】
また、JIS K 6854−3の試験方法(T形はく離)による保護シートと触媒層とのはく離接着強さは、0.01〜1.0N/cmとすることができる。このように、はく離接着強さを0.01N/cm以上とすることで触媒層上での保護シートの動きを抑えて確実に触媒層の欠落や損傷を防止することができる。また、はく離接着強さを1.0N/cm以下とすることで、保護シートを触媒層からはく離した際に、触媒層が保護シートと一緒に剥がれてしまうことを防止することができる。
【0012】
また、上記保護シートは、少なくとも一方が両面に接着性を有するような構成とすることもできる。この構成によれば、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体を複数重ねて保管や輸送する際に、各保護シート付き触媒層−電解質膜積層体を安定して積層することができる。
【0013】
また、本発明に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体集合体は、電解質膜及び前記電解質膜の両面に形成された触媒層を有し、厚さ方向に積層された複数の触媒層−電解質膜積層体と、前記各触媒層−電解質膜積層体の間に介在し、前記各触媒層を覆った状態で前記触媒層に接着される保護シートと、を備えている。
【0014】
この構成によれば、上述したように保護シートによって触媒層が覆われているため、触媒層の損傷や欠落を防止することができ、さらには、保護シートが触媒層と接着しているため、保護シート自体が触媒層と擦れることによって触媒層を損傷させたり欠落させたりすることも防止することができる。また、各触媒層−電解質膜積層体は保護シートを介して接着されているため、その積層状態を安定したものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、輸送などによっても触媒層が欠落することのない保護シート付き触媒層−電解質膜積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の概略を示す正面断面図である。
【図2】図2は本実施形態に係る触媒層−電解質膜積層体の概略を示す平面図である。
【図3】図3は本実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の製造方法の概略を示す説明図である。
【図4】図4は本実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体集合体の概略を示す正面断面図である。
【図5】図5は別の実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の概略を示す正面断面図である。
【図6】図6は別の実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の概略を示す正面断面図である。
【図7】図7は別の実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の概略を示す正面断面図である。
【図8】図8は別の実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の概略を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(保護シート付き触媒層−電解質膜積層体)
図1に示すように、本実施形態に係る保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1は、電解質膜2及び触媒層3からなる触媒層−電解質膜積層体10と、この触媒層−電解質膜積層体10の両面に接着された保護シート4と、を備えている。
【0019】
(触媒層−電解質膜積層体)
図2に示すように、平面視矩形状の電解質膜2の両面に、電解質膜2よりも一回り小さい平面視矩形状の触媒層3がそれぞれ配置されている。この電解質膜2の両面に触媒層3が配置されたものを触媒層−電解質膜積層体10という。なお、特に限定されるものではないが、通常、電解質膜2の厚さは約10〜200μmであり、触媒層3の厚さは約5〜100μmである。また、電解質膜2の外周縁から触媒層3の外周縁までの距離tは、0.5〜50mm程度とすることが好ましい。この距離tは、本実施形態においては、4辺全て同じとしているが、特にこれに限定されるものではない。
【0020】
電解質膜2は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、上記の水素イオン伝導性高分子電解質膜以外には、アニオン導電性固高分子電解質膜や液状物質含浸膜も挙げられる。アニオン伝導性電解質膜としては炭化水素系樹脂又はフッ素系樹脂等が挙げられ、具体例としては炭化水素系樹脂としては、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)A201,211,221や、トクヤマ(株)製のネオセプタ(登録商標)AM−1,AHA等が挙げられ、フッ素系樹脂としては、東ソー(株)製のトスフレックス(登録商標)IE−SF34等が挙げられる。また液状物質含浸膜としては、例えばポリベンゾイミダゾール(PBI)が挙げられる。
【0021】
触媒層3は、公知の白金含有の触媒層(カソード触媒及びアノード触媒)とすることができる。具体的には、触媒粒子を担持させた炭素粒子と、水素イオン伝導性高分子電解質とを含有する。水素イオン伝導性高分子電解質としては、上述した電解質膜2に使用されるものと同じ材料を使用することができる。
【0022】
触媒粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。なお、通常は、カソード触媒層に含まれる触媒粒子は白金であり、アノード触媒層に含まれる触媒粒子は前記金属と白金との合金である。
【0023】
炭素粒子は、導電性を有しているものであれば限定的ではなく、公知又は市販のものを広く使用できる。例えば、カーボンブラックや、黒鉛、活性炭等を1種又は2種以上で用いることができる。カーボンブラックの例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等を挙げることができる。炭素粒子の算術平均粒子径は通常5nm〜200nm程度、好ましくは20〜80nm程度である。この炭素粒子の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置LA−920:(株)堀場製作所製等により測定できる。
【0024】
(保護シート)
保護シート4は、触媒層−電解質膜積層体10とほぼ同じ大きさを有しており、触媒層−電解質膜積層体10の全体を両面から覆うようにして、触媒層−電解質膜積層体10に接着している。本実施形態においては、保護シート4は、触媒層3の上面全体に接着するとともに、触媒層3から外方に突き出した部分である電解質膜2の外周縁部21の上面全体にも接着している。この保護シート4と触媒層−電解質膜積層体10とのはく離接着強さ、特に、保護シート4と触媒層3とのはく離接着強さは、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を輸送させる際などに保護シート4が触媒層−電解質膜積層体10上で動かない程度の強さにすることが好ましい。またさらには、保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10から剥離したときに触媒層3が保護シート4と一緒に剥がれない程度であることが好ましく、すなわち、保護シート4と触媒層3とのはく離接着強さが、触媒層3と電解質膜2とのはく離接着強さよりも弱いことが好ましい。このようなはく離接着強さとしては、触媒層3の材質にも依存するが、0.01〜1.0N/cm程度とすることが好ましい。このはく離接着強さは、JIS K 6854−3により規定されたT形はく離接着強さ試験方法により測定するはく離接着強さである。また、特に限定されるものではないが、この保護シート4の厚さは、約10〜200μmとすることが好ましい。
【0025】
保護シート4は、基材と、その基材上に形成された粘着層との2層構造となっており、粘着層が触媒層−電解質膜積層体10側を向いている。なお、基材としては、ポリエステルや、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルテンペン、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、アルミ箔などを好ましく使用することができる。なお、ポリエステルは、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等を挙げることができる。また、粘着層としては、エポキシ樹脂や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム等が上げられ、特にアクリル樹脂が好ましい。
【0026】
(製造方法)
次に、上述した保護シート付き触媒層−電解質膜積層体集合体1の製造方法について説明する。
【0027】
図3に示すように、上述した材料からなる電解質膜2を準備し、この電解質膜2の両面に、スプレー法によって触媒インキを塗布することで触媒層3を形成する。
【0028】
より詳細には、まず、80〜100℃程度に熱した熱板Hの上に電解質膜2を載置し(図3(a))、続いて、この電解質膜2上に、所望の形状の開口部を有する枠状のマスクプレートPを載置する(図3(b))。なお、このマスクプレートの開口部の形状は、形成したい触媒層の形状と同一とする。
【0029】
次に、スプレー法によってマスクプレートPの開口部から露出した電解質膜2上に触媒インキを所望の厚さ(例えば触媒担持量が0.4〜0.6mg/cm2)になるまで塗布することにより触媒層3が電解質膜2上に形成される(図3(c))。そして、電解質膜2のもう一方の面にも同様の方法で触媒層3を形成し、触媒層−電解質膜積層体10が完成する(図3(d))。
【0030】
なお、触媒インキは、上述した触媒粒子を担持させた炭素粒子および水素イオン伝導性高分子電解質を適当な溶剤に混合、分散して作成する。ここで使用される溶剤としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。
【0031】
この触媒層−電解質膜積層体10の両面に対して、保護シート4の粘着層が触媒層−電解質膜積層体10側を向くように配置する。そして、この保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10に対して0.1〜5.0MPa程度で加圧し、各保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10に接着させることで、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1が完成する。
【0032】
以上のようにして形成した保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1は、単独、または複数に積層した状態で密閉容器内に収容されて輸送されるが、上記実施形態による保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1によれば保護シート4が触媒層上3を覆っているため、触媒層3同士が擦れ合う、又は触媒層3が密閉容器と擦れ合うことを防止でき、その結果、触媒層の損傷や欠落を防止することができる。またさらには、保護シート4が触媒層3に接着しているため、保護シート4自体が触媒層3と擦れて触媒層3が損傷又は欠落することを防止することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0034】
例えば、触媒層−電解質膜積層体10を複数枚積層した状態で輸送や保管する場合は、図4に示すように、単に上述した保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を積層するのではなく、各触媒層−電解質膜積層体10の間に介在する保護シート4を一枚にするとともに、この保護シート4が両面において各触媒層3と接着している構成とすることができる。これにより、各触媒層−電解質膜積層体10の積層状態を安定したものとすることができる。なお、この保護シート4を介して複数積層した触媒層−電解質膜積層体のことを保護シート付き触媒層−電解質膜積層体集合体100と称する。
【0035】
また、上記実施形態においては、保護シート4は、触媒層3の上面全体及び電解質膜2の外周縁部21の上面全体に接着しているが、特にこのような接着に限定されるものではなく、例えば、触媒層3の上面のみに接着しており、電解質膜2には接着していなくてもよい。また、その他にも、保護シート4が触媒層3の上面全体に接着するのではなく、触媒層3の4隅だけや、外周縁部だけ、もしくは、ドット状に接着していてもよい。
【0036】
また、図5に示すように、保護シート4が電解質膜2よりも一回り大きく形成されていてもよい。この場合は、電解質膜2よりも外方に飛び出した保護シート4の外周縁部41同士を接着させることが好ましい。
【0037】
また、図6に示すように、保護シート4は、触媒層3とほぼ同じ大きさをしており、触媒層3全体のみを覆うような態様とすることもできる。
【0038】
また、図7に示すように、電解質膜2と触媒層3とがほぼ同じ大きさで、電解質膜2の両面全体に触媒層3が形成されていてもよい。この場合も、保護シート4は、図7に示すように、触媒層3全体のみをおおうような態様とすることもできるし、他にも触媒層3よりも一回り大きく形成されており、触媒層3を超えて延びる外周縁部同士を接着させることもできる。
【0039】
また、図8に示すように、保護シート4の外周縁部の一部に非接着部42を形成することもでき、この非接着部42をきっかけとして保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10から容易に剥離することができる。
【0040】
また、図1に示すような上述した保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を複数枚重ねて保管、又は輸送する場合は、その積層状態を安定したものとすべく、隣接する保護シート4同士が接着するように構成することもできる。
【0041】
また、上記実施形態では、電解質膜2や、触媒層3,保護シート4は平面視矩形状であるが、特に形状は限定されるものではなく、平面視円形状やその他の形状とすることもできる。
【実施例】
【0042】
サンプル1〜5の5種類の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を以下のようにして作製した。なお、サンプル1〜5の違いは保護シート4のみであり、触媒層−電解質膜積層体10はサンプル1〜5ともに同じ方法で作製した。
【0043】
まず、次のようにして触媒層−電解質膜積層体10を作製した。75mm角の電解質膜2(デュポン社製ナフィオン212)の両面に、電解質膜2よりも一回り小さい50mm角の触媒層4(田中貴金属社製触媒(TEC10E50E)とデュポン社製ナフィオンバインダー(DE520)に所定量の水、イソプロパノールでインキ化した触媒層インキから作製したもの)を、電解質膜2と中心を合わせてスプレー法によって形成し、触媒層−電解質膜積層体10を作製した。
【0044】
次に、作製した触媒層−電解質膜積層体10の両面に保護シート4を接着させた。なお、サンプル1の保護シート4として日立化成工業株式会社製 ヒタレックス P-5310を使用し、サンプル2の保護シート4としてパナック株式会社製 パナプロテクトHTAを使用し、サンプル3の保護シート4としては住友3M株式会社製 851Aを使用し、サンプル4の保護シート4としてはパナック株式会社製 パナライフ YSを使用し、サンプル5の保護シート4としては東レ株式会社製 ルミラーS10を使用した。なお、全て、保護シート4は膜厚50μmである。これらサンプル1〜5ともに、粘着層が触媒層−電解質膜積層体10側を向くように、また、触媒層−電解質膜積層体10全体を覆うように、75mm角の保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10の両面に配置し、保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10に対して1.0MPaで加圧することで、5種類の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を作製した。
【0045】
(試験1)
以上のように作製したサンプル1〜5の5種類の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1における、保護シート4の触媒層保護機能を評価した。詳細には、サンプル1〜5の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を、それぞれナイロンポリ袋(アズワン 品番A-22)内に密閉した。そして、これらをそれぞれ高さ60cmから10回(1角3稜6面)落下させ、更に振盪器にて振動範囲:5〜100Hz(対数掃引)/振動加速度:±0.75G/振動方向:X軸,Y軸,Z軸の3方向(各10分)振動させた結果を表1に示す。なお、表1の「○」は、試験後に目視確認した結果、触媒層が欠落していないことを表し、「×」は触媒層が欠落していることを表している。また、表1中のはく離接着強さは、JIS K 6854−3の試験方法による保護シート4と触媒層3とのはく離接着強さを示している。
【0046】
(試験2)
サンプル1〜5の5種類の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1における、保護シート4を触媒層−電解質膜積層体10から剥離したときの触媒層3の状態を評価した。詳細には、サンプル1〜5の5種類の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体1を15mm幅になるように切断し、保護シート4を電解質膜2に接着している部分から触媒層3に接着している部分にかけて、50mm/minの条件で触媒層−電解質膜積層体10から剥離し、その結果を表1に示した。なお、この剥離条件は、JIS K 6854−3の試験方法によるものと同じである。また、表1の「○」は、試験後に目視確認した結果、触媒層3にキズが無く、また、保護シート4側に移っていないことを表し、「×」は保護シート4側に触媒層3が移っていることを表している。
【0047】
【表1】

【符号の説明】
【0048】
1 保護シート付き触媒層−電解質膜積層体
2 電解質膜
21 外周縁部
3 触媒層
4 保護シート
10 触媒層−電解質膜積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、及び前記電解質膜の両面に形成される触媒層を有する触媒層−電解質膜積層体と、
前記触媒層を覆った状態で前記触媒層に接着する保護シートと、
を備えた、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項2】
前記保護シートは、少なくとも一部が前記触媒層を超えて延びている、請求項1に記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項3】
前記保護シートは、外周縁部が前記触媒層を超えて延びている、請求項2に記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項4】
前記触媒層−電解質膜積層体は、前記電解質膜の外周縁部が露出するよう、前記電解質膜が前記触媒層よりも外形寸法が大きく、
前記保護シートは、前記電解質膜の外周縁部を覆った状態で前記電解質膜に接着している、請求項1に記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項5】
前記保護シートは、外周縁部が前記触媒層−電解質積層体よりも外方に延びており、前記外周縁部同士で接着している、請求項1〜4のいずれかに記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項6】
JIS K 6854−3の試験方法による前記保護シートと前記触媒層とのはく離接着強さは、0.01〜1.0N/cmである、請求項1〜5のいずれかに記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項7】
前記保護シートは、少なくとも一方が両面に接着性を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の保護シート付き触媒層−電解質膜積層体。
【請求項8】
電解質膜及び前記電解質膜の両面に形成された触媒層を有し、厚さ方向に積層された複数の触媒層−電解質膜積層体と、
前記各触媒層−電解質膜積層体の間に介在し、前記各触媒層を覆った状態で前記触媒層に接着される保護シートと、
を備えた、保護シート付き触媒層−電解質膜積層体集合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−69467(P2012−69467A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215200(P2010−215200)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】