説明

保護層付き基板の製造方法および基板加工方法

【課題】チャック用フィルムを形成する際に生じる空隙を低減して減圧下での該フィルムの剥がれを低減するとともに安定的な静電チャック行う際に十分な平坦性を該フィルムの表面に形成する保護層付き基板の製造方法及び基板加工方法を提供する。
【解決手段】複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板11に保護層16を形成する保護層付き基板の製造方法であって、保護層は樹脂層14とチャック用フィルム15とから構成され(1)各構造体間、各構造体表面、および、複数の構造体を有する基板面に、樹脂層を形成する工程と(2)樹脂層上にチャック用フィルムを形成し、保護層を形成する工程とを少なくとも含むことを特徴とする保護層付き基板の製造方法。および保護層付き基板を用いた基板加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板に保護層を形成する保護層付き基板の製造方法、およびその保護層付き基板を用いた基板加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに配列された複数のインク吐出口から微細な液滴状のインクを吐出して画像記録を行う。
一般に、インクジェット基板には、切り出し方位が<100>のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板とも言う)に、表と裏を貫通するインク供給口が形成されたものを用いる。また、インクは、このインク供給口よりインクジェット基板上に形成されたインク流路を通り、圧力発生素子が形成されたインクチャンバーへ流入する。そして、圧力発生素子より吐出圧力を発生させることで、インクチャンバーに形成されたインク吐出口よりインクが飛翔することで印刷される。なお、便宜上、これらインク流路、インクチャンバーおよびインク吐出口のパターンを形成する部材を総じてインクジェット構造体と呼称する。なお、インクジェット構造体は、1つの部材から構成されていても良く、複数の部材から構成されていても良い。
【0003】
インク供給口を形成するタイミングとしては、大きく分けて2つ存在する。一つは、インク供給口を形成した後にインクジェット構造体を形成する方法で、もう一つは、インクジェット構造体を形成した後に、インク供給口を形成する方法である。後者の方法においては、基板の表面に形成されたインクジェット構造体が邪魔するために、基板の裏面よりインク供給口を加工および形成することが求められる。
【0004】
インク供給口を形成する方法としては、ウェットエッチングやレーザー加工など、数々の方法が提案されている。その方法の一つとして、ドライエッチングを用いて形成する方法がある。ドライエッチングを用いた供給口形成では、インクジェット構造体が形成された基板の表面を静電チャックにより固定することが求められる。
【0005】
しかしながら、一般的にインクジェット構造体の表面は平面ではなく、凸部、凹部または凹凸を有しており、これらのインクジェット構造体を複数、それぞれ間隔をあけて基板上に配置することもある。このため、インクジェット構造体自体に大きな段差があったり、インクジェット構造体の間に空隙があったりするために、安定的な静電チャックが難しいことがある。なお、インクジェット構造体の厚みは一般的に5〜100μm程度であることが知られている。
【0006】
また、インクジェット構造体が導電性を有さない材料(例えば樹脂材料)で形成されている場合は、誘電率が低いことから、静電チャック自体が困難な場合がある。これに対し、静電チャックの電極電圧を高くすることでチャッキング可能ではあるが、その結果、高電圧を要することから静電チャック電源が大型化するとともに周囲の部分と放電を起こしやすくなる場合がある。
【0007】
このような状況の中、特許文献1によれば、静電チャックを容易に達成させるための構成が開示されている。特許文献1では、低電圧で静電チャックすることが難しいガラス基板に対して、導電層(詳しくは、導電性フィルム)を形成することにより、容易に静電チャックが可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−368071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、インクジェット構造体が形成されたインクジェット基板に特許文献1の技術を適応した場合、以下のような場合がある。即ち、導電層に相当するチャック用フィルムと、インクジェット構造体が有している段差との間に空隙が存在することがある。
【0010】
また、これらのインクジェット構造体を複数、それぞれ間隔をあけて基板表面に配した場合には、チャック用フィルムを形成した際に、インク構造体が有している段差とチャック用フィルムとの間の他に、各インクジェット構造体の間に空隙が存在することがある。
【0011】
図3に示すように、複数の構造体2がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板1を用いた場合は、各構造体の表面が段差を有さずに平面であってもチャック用フィルム5を形成した際に、各構造体間に空隙3が生じてしまうことがある。このような空隙が存在する状態でドライエッチング等の真空プロセスを行おうとすると、減圧下で空隙が成長をはじめ、導電層(導電性フィルム)の剥がれに至ってしまうことがある。
【0012】
特に、インクジェット構造体の表面は撥水処理されていることが多いため、撥水面へのフィルムの粘着力がより低下する傾向があり、フィルムの剥がれが発生しやすくなる。
【0013】
ここまで、インクジェット基板に関る課題点を挙げてきたが、上述したインクジェット構造体などの構造体を表面に複数それぞれ間隔をあけて配する基板においては、空隙の存在が共通の課題となる。
【0014】
本発明の目的は、以下の通りである。即ち、チャック用フィルムを形成する際に生じる空隙を低減して、減圧下での該フィルムの剥がれを低減するとともに、安定的な静電チャック行う際に十分な平坦性を該フィルムの表面に形成する保護層付き基板の製造方法及び基板加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明においては、従来の課題を解決するために以下の製造方法により保護層付き基板を作製する。
即ち、複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板に、保護層を形成する保護層付き基板の製造方法であって、前記保護層は、樹脂層とチャック用フィルムとから構成され、
(1)各構造体間、各構造体表面、および前記複数の構造体を有する基板面に、前記樹脂層を形成する工程と、
(2)前記樹脂層上に前記チャック用フィルムを形成し、前記保護層を形成する工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする保護層付き基板の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、前記保護層付き基板に、少なくとも1回以上、真空チャンバー内で所定の処理を施す工程を含むことを特徴とする基板加工方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、チャック用フィルムを形成する際に生じる空隙を低減して、減圧下での該フィルムの剥がれを低減するとともに、安定的な静電チャック行う際に十分な平坦性を該フィルムの表面に形成する保護層付き基板の製造方法及び基板加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法および基板加工方法の各工程を説明するための代表的な断面図である。
【図2】本発明の製造方法および基板加工方法の実施例を説明するための断面図である。
【図3】従来技術を用いて形成したチャック用フィルムを有する基板を用いた真空チャンバー内での処理を説明するための代表的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に用いる基板表面に配される複数の構造体の形状や材質は、必要に応じて選択することができる。各構造体表面は凹凸を有していても良く平面であっても良く、その複数の構造体の形状がそれぞれ異なっていても良い。また、構造体は導電性を有していても有していなくても良い。
【0020】
本発明によれば、複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配され、その構造体表面に段差や各構造体間に空隙を有する基板であっても、樹脂層がその段差部や各構造体間の空隙を埋め込む。このために、チャック用フィルムを形成したときに発生してしまう空隙を低減することが可能となる。その結果、減圧下に基板がさらされるドライエッチング等の真空プロセスにおいても、空隙が少ないために、空隙の膨張によるチャック用フィルムの剥がれを低減することが可能となりうる。
【0021】
また、本発明では、樹脂層をその樹脂層の軟化点以上に加熱しながら、その樹脂層上にチャック用フィルムを形成することが好ましく、これにより安定的に静電チャックをする際に十分な平坦性をチャック用フィルムの表面に容易に形成可能となりうる。
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、後述する実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明をこの技術分野における通常の知識を有する者に十分に説明するために提供されるものである。
【0023】
なお、本発明は、複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板に、保護層を形成する保護層付き基板の製造方法、およびその保護層付き基板を用いた基板加工方法であり、保護層とは、後述する樹脂層と、チャック用フィルムとから構成される。
【0024】
図1(a)〜(c)は本発明の保護層付き基板の製造過程における基板の断面図を示し、図1(d)は本発明の基板加工方法における基板の断面図を示す。
【0025】
図1(a)は、複数の構造体2が表面に形成された基板1を表している。複数の構造体表面は平面であり、各構造体は間隔をあけて配置されており、各構造体間には空隙3が存在する。
【0026】
この基板1は、例えばインクジェット基板であっても良い。その場合、構造体2は、インクが飛び出すインク吐出口、インクが飛び出すエネルギーを発生させる吐出圧力発生素子が形成されているインクチャンバー、および、インクチャンバーへインクを導くためのインク流路のうちの少なくとも1つのパターンを形成することができる。即ち、本発明の製造方法および基板加工方法は、インクジェット構造体とインクジェット基板とから構成されるインクジェットヘッドに適用することができる。
【0027】
なおインクジェット構造体とは、インク流路、インクチャンバーおよびインク吐出口のパターンを形成する部材の総称であり、インクジェット構造体は、1つの部材から形成されていても良く、複数の部材から形成されていても良い。
【0028】
次に、図1(b)のように、各構造体間、各構造体表面、および複数の構造体を有する基板面8に、樹脂層4を形成する(工程(1))。
【0029】
その形成方法としては、基板上に樹脂層を形成する公知の方法を用いることができるが、液状樹脂をスピンコート法により各構造体間、各構造体表面、および複数の構造体を有する基板面8に塗布し、ベーク(焼き付け)することが好ましい。これによって、液状樹脂が空隙3に入りこみ、構造体間の空隙を緩和することになる。なお、液状樹脂は、後述する樹脂層の材料とその材料を溶解する溶質よりなり、溶質としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが適用可能である。
【0030】
液状樹脂の粘度は、25℃にて0.2Pa・s以上0.8Pa・s以下(200cP以上800cP以下)であることが好ましい。液状樹脂の粘度が、0.8Pa・s以下であると、各構造体間の埋め込み性が低下することを容易に防ぎ、各構造体の間にボイドを形成することを容易に防ぐことができる。また、粘度が0.2Pa・s以上であると、構造体間の底に液状樹脂の大半が流れ込むことを容易に防ぐことができ、空隙3全体を樹脂層4でコーティングすることが難しくなることを容易に防ぐことができる。
【0031】
なお、上記粘度は、25℃条件下にてE型粘度計を用いて測定した値である。
【0032】
樹脂層4の材料としては、後の工程にて加熱により軟化させる操作を行うことが好ましいため、熱可塑性樹脂であることが好ましく、環化ゴムを主原料とする樹脂が好適に用いられる。その他、アクリル樹脂やポリイミド樹脂等も適用可能である。また、周辺の材料により耐熱温度は変わってくるが、樹脂層の軟化点は30℃以上100℃以下が好ましく、この範囲から選択することで取り扱いが容易となる。これらの樹脂を上述した溶質に溶解させ液状樹脂とすることができる。
【0033】
次に、図1(c)に示すように、チャック用フィルム5を前記樹脂層4の上に形成する(工程(2))。これにより本発明の保護層付き基板9を得ることができる。その際、その樹脂層4をその樹脂層の軟化点以上に加熱しながら、樹脂層上にチャック用フィルムを形成することが好ましい。軟化点以上に樹脂層4を加熱することによる効果としては二点ある。一点目は、樹脂層4の軟化点以上にした状態で、樹脂層4と、チャック用フィルム5とを貼り合わせることで、チャック用フィルム5と樹脂層4との密着性をより向上させることができる点である。もう一点は、軟化点以上の状態で、樹脂層4と、チャック用フィルム5と貼り合わせることで、樹脂層表面の平坦化をアシストすることができる点である。
【0034】
加熱温度としては、使用する樹脂層にもよるが、例えば、樹脂層として、軟化点が40℃に調整された環化ゴム系樹脂を用いた場合は、80℃程度で貼り付けることで、樹脂層4とチャック用フィルム5との密着性、及び、平坦性を容易に良好とすることができる。なお、上述したように、保護層6は、樹脂層4と、チャック用フィルム5とから構成される。
【0035】
なお、樹脂層4上にチャック用フィルム5を形成する際には、減圧下でチャック用フィルム5をラミネートすることにより樹脂層4とチャック用フィルム5とを貼り合わせてもよい。このようにする事で、樹脂層4とチャック用フィルムと5を貼り合わせたときに形成されてしまうマイクロボイドを容易に最小限に抑えることが可能となり、より一層、ドライエッチング等の真空プロセスでのチャック用フィルム5の剥がれを軽減できる。
【0036】
なお、チャック用フィルム5は、導電性を有する導電性フィルムであってもよい。チャック用フィルムに導電性を持たせることで、後の工程にて静電チャックを行う際に、フィルム自体が低電圧で分極して静電チャックが容易となりうる。導電性フィルムの材料としては、導電性ポリマーやITO(Indium Tin Oxide)を所望の基材に形成されたものを用いることが好ましい。即ち、導電性フィルムは導電性高分子フィルムおよびITOフィルムのいずれかであることが好ましい。導電性フィルムに用いる基材としては、例えば、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)、およびポリイミド樹脂を用いることができる。
【0037】
ついで、以上より得られた保護層付き基板9に、少なくとも1回以上、真空チャンバー内で所定の処理を施す。真空チャンバー内での所定の処理(真空プロセス)としては、例えばドライエッチングおよび真空成膜を挙げることができ、これらの真空プロセスを行っても、本発明では、チャック用フィルムの剥がれの発生を軽減可能で、静電チャックが可能となりうる。なお、図1(d)では、真空チャンバー内での所定の処理として真空成膜を行い、基板の保護層を有する面と対向する面に膜7を形成している。
【0038】
以下に、樹脂層を加熱した状態でチャック用フィルムと貼り合せることによる、インクジェット構造体が形成された基板の表面に保護層を形成した場合の基板表面の平坦性に対する影響を調べた実験例を示す。具体的には、軟化点の異なる3種類の樹脂層材料をそれぞれ用いて樹脂層を形成し、その樹脂層を加熱しないで樹脂層上にチャック用フィルムを貼り合わせた場合と、その樹脂層を80℃に加熱をして樹脂層上にチャック用フィルムを貼り合わせた場合とを比較した。
【0039】
尚、実験に用いたインクジェット構造体により形成される段差(インクジェット構造体の厚み)は50μmであった。また、平坦性の評価は、非接触三次元測定装置(三鷹光器(株)製 商品名:NH−3N)を用いて表面高さを多点測定することによって行い、それら測定点の最大値と最小値の差により評価した。なお、評価基準は以下の通りである。
◎:平坦性の改善が大幅にみられた(最大値と最小値の差が10μm未満)。
○:平坦性に改善がみられた(最大値と最小値の差が10μm以上、40μm未満)。
△:平坦性に改善がほとんどみられなかった(最大値と最小値の差が40μm以上)。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、軟化点が貼り付け温度(樹脂層を加熱した温度)である80℃より高いポリエステル系樹脂材料では加熱の有無により平坦性に差は発生しなかった。一方、軟化点が貼り付け温度より低い環化ゴム系樹脂やワックス系樹脂では樹脂層を80℃以上に加熱をしながらチャック用フィルムと貼り合わせることで、平坦性の改善がみられた。特に軟化点が約40℃の環化ゴム系樹脂では、平坦性に大きな改善がみられた。これらの平坦性の改善は、樹脂層をその樹脂層の軟化点以上に加熱をすることで、樹脂層が流動性を持ち、チャック用フィルムを貼り合わせる際に、平坦化する効果がより向上するためである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明の保護層付き基板の製造方法および基板加工方法を用いて、複数のインクジェット構造体20がそれぞれ間隔をあけて表面に配されたインクジェット基板10を製造する方法を、図2に示す工程図に則して更に詳しく説明する。
【0043】
基板厚さ300μmでインゴットの引き出し方位が<100>の単結晶シリコンウェハを基板11として用意した。
【0044】
次に、図2(a)に示すように、基板片面に熱酸化により酸化シリコン膜(膜厚:約1μm(約10000Å))を形成し、圧力発生素子21とそれを駆動する為の駆動回路を汎用の半導体工程を用いて形成した。更に、圧力発生素子21と駆動回路をインクから絶縁および保護する為に、窒化シリコン膜をPECVD(plasma−enhanced chemical vapor deposition)により成膜した。
【0045】
その際、膜厚は約0.3μm(約3000Å)で形成した。なお、図の寸法上、これらの膜は非常に薄いために、圧力発生素子21のみを記載する。また、これらの膜を形成した基板の面側を表面側とし、その面と対向する面側を裏面側とする。
【0046】
次に、基板表面側に図2(b)に示すように、以下の処理を行った。まず、後述の処理により溶出可能なインク流路およびインクチャンバーの型22となる、ポリメチルイソプロペニルケトンを主材としたポジレジスト(東京応化工業(株)製 商品名:ODUR)をスピンコートした。
【0047】
ついで、Deep−UV光により露光し現像を行って、所望のパターンにパターニングした。この流路・チャンバーの型22は、後述のエッチングの際のエッチングストップ層も兼ねる。更に、この型22の上にオリフィスプレート23となるカチオン重合型エポキシ樹脂をスピンコートし、露光、現像工程によりインク吐出口24を形成した。これによって、複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて配された基板が形成された。
【0048】
次に、オリフィスプレート23が形成された基板に、軟化点が約40℃の環化ゴムを主成分とする液状樹脂(東京応化工業(株)製 商品名:OBC)を塗布した。より具体的には、液状樹脂は各構造体間、各構造体表面、および複数の構造体を有する基板面18に塗布した。なお、液状樹脂は、25℃における粘度が0.5Pa・s(500cP)になるように、キシレンを用いて粘度を調整して使用し、塗布方法はスピンコート法を用いた。
【0049】
その後、120℃でベークし、液状樹脂中の溶媒を気化させることで、樹脂層14を形成した。(工程(1)、図2(c))。なお、粘度計として、E型粘度計(東機産業(株)製 商品名:TV−22形粘度計 コーンプレートタイプ)を用いて、25℃条件下にて粘度の測定を行った。
【0050】
次に、樹脂層を加熱しながら、チャック用フィルム15を樹脂層14の上に形成した(工程(2))。チャック用フィルム15には、導電性ポリマーが表面に配された導電性フィルム(アキレス(株)製 商品名:STチャッキングフィルム)を用いた。導電性フィルムの基材には厚さ40μmに成形されたPEN樹脂を用いた。樹脂層の加熱温度は70℃とし、形成装置は真空ラミネーター((株)タカトリ製 商品名:TEAM−100)を用いた。これにより、樹脂層14およびチャック用フィルム15から構成される保護層16を有する保護層付き基板19が形成された(図2(d))。
【0051】
次に、基板裏面にポジレジスト25(東京応化工業(株)製 OFPR:商品名)を塗布およびパターニングをしてマスクを形成した。次いで、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて、基板裏面より基板表面に形成された酸化シリコン膜に到達するまでドライエッチングを行いインク供給口26を形成した。
【0052】
その後、インク供給口26の開口よりRIE(ReactivIonEtching)により酸化シリコン膜および窒化シリコン膜を除去した。なお、これらの真空工程、即ち真空チャンバー内での処理工程であるドライエッチングを経由してもチャック用フィルム15の剥がれなく、安定的な静電チャックが可能であった(図2(e))。なおドライエッチングは、図3に示すように静電チャック装置30、電極電源ユニット32、チャックプレート33および電極34を備えた装置を用いて、真空チャンバー31内で行った。
【0053】
続いて、ポジレジスト25を剥離した後、80℃に加熱しながらチャック用フィルム15を剥がし、キシレンを用いて樹脂層14を溶解させることで、保護層16を剥離した。(図2(f))
その後、インク流路型22をオリフィスプレート上からUV光を照射して感光させ、乳酸メチルに浸漬し溶出させた。最後に十分に水洗、乾燥することで、図2(g)に示すように、インクジェット構造体20およびインクジェット基板10で構成されるインクジェットヘッドを得た。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法および基板加工方法は、所定色相を有するインクの微小な液滴を、記録用紙上の所望の位置に吐出させることにより、画像を記録するインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドに適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、11 基板
2 構造体
3 空隙
4、14 樹脂層
5、15 チャック用フィルム
6、16 保護層
7 膜
8、18 複数の構造体を有する基板面
9、19 保護層付き基板
10 インクジェット基板
20 インクジェット構造体
21 圧力発生素子
22 インク流路およびインクチャンバーの型
23 オリフィスプレート
24 インク吐出口
25 ポジレジスト
26 インク供給口
30 静電チャック装置
31 真空チャンバー
32 電極電源ユニット
33 チャックプレート
34 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体がそれぞれ間隔をあけて表面に配された基板に、保護層を形成する保護層付き基板の製造方法であって、
前記保護層は、樹脂層とチャック用フィルムとから構成され、
(1)各構造体間、各構造体表面、および前記複数の構造体を有する基板面に、前記樹脂層を形成する工程と、
(2)前記樹脂層上に前記チャック用フィルムを形成し、前記保護層を形成する工程と
を少なくとも含むことを特徴とする保護層付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記構造体が、インクが通るインク流路、インクが飛び出すエネルギーを発生させる吐出圧力発生素子が形成されているインクチャンバーおよび、インクが飛び出すインク吐出口のうちの少なくとも1つのパターンを形成することを特徴とする請求項1記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、スピンコート法によって液状樹脂を各構造体間、各構造体表面、および前記複数の構造体を有する基板面に塗布しベークを行うことで、前記樹脂層を形成することを特徴とする請求項1または2記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記液状樹脂の粘度が、25℃にて0.2Pa・s以上0.8Pa・s以下であることを特徴とする請求項3に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層として、熱可塑性樹脂を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記樹脂層をその樹脂層の軟化点以上に加熱しながら、その樹脂層上に前記チャック用フィルムを形成することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂層の軟化点が、30℃以上100℃以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層が、環化ゴムを主原料とすることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)において、減圧下で前記チャック用フィルムをラミネートすることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項10】
前記チャック用フィルムが、導電性フィルムであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項11】
前記導電性フィルムが、導電性高分子フィルムおよびITOフィルムのいずれかであることを特徴とする請求項10記載の保護層付き基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項の製造方法により製造された保護層付き基板に、少なくとも1回以上、真空チャンバー内で所定の処理を施す工程を含むことを特徴とする基板加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−96512(P2012−96512A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248547(P2010−248547)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】