説明

保護層付き電磁波遮蔽材

【課題】電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を防ぎ、かつ生産性が良い保護層付き電磁波遮蔽材を提供する。
【解決手段】電磁波遮蔽材は、透明基材フィルム上に金属層を含む電磁波遮蔽層が形成され、さらにその上に硬化性組成物を硬化してなる保護層が直接形成されて構成されている。硬化性組成物としては紫外線硬化性樹脂が用いられ、該紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射して硬化させることにより保護層が電磁波遮蔽層上に直接形成される。この保護層は、保護機能を向上させると共に、表面硬度を高めるために、ハードコート層であることが好ましい。また、保護層は、電磁波遮蔽材に反射防止機能を付与するために、最外層に反射防止層を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層付き電磁波遮蔽材に関し、さらに詳しくはプラズマディスプレイパネル(PDP)に適用され、電磁波遮蔽層の金属劣化を防止するために、その表面に硬化性組成物を塗布して硬化させた保護層付き電磁波遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)は、テレビやモニター用途として著しい進歩を遂げ、広く普及している。しかし、プラズマディスプレイパネルは、その構造原理上、強い電磁波を装置外に放出することが知られている。よって、PDPを使用する際には、PDPから環境中に放出される電磁波を低減することが必要であり、そのためPDPの表示画面上に電磁波シールド性を有する電磁波遮蔽材を取り付けることが検討されている。そのうちの一つに、スパッタリング法や、イオンプレーティング法などの薄膜形成技術を用いて形成される金属層や、金属層と金属酸化物からなる酸化物層とを多層に積層した透明導電薄膜(電磁波遮蔽層)がある。
【0003】
ここで、透明導電薄膜の金属層は酸化、侵食されやすいため、透明導電薄膜の表面に酸化バリア層としてプラスチックフィルム層がバインダー層を介して形成されることが知られている(特許文献1を参照)。しかしながら、特許文献1に記載されたプラスチックフィルム層を使用する場合、透明導電薄膜とプラスチックフィルム層をバインダー層により貼合せる工程が必要であり、生産性が悪い。従って、透明導電薄膜の金属層は酸化、侵食を防ぎ、かつ生産性が良く、表面硬度に優れた電磁波遮蔽材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−58973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的とするところは、電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を防ぎ、かつ生産性が良い保護層付き電磁波遮蔽材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1の発明の保護層付き電磁波遮蔽材は、透明基材フィルム上に金属層を含む電磁波遮蔽層が形成され、さらにその上に硬化性組成物を硬化してなる保護層が直接形成されていることを特徴とする。
【0007】
第2の発明の保護層付き電磁波遮蔽材は、第1の発明において、前記保護層が、ハードコート層である。
第3の発明の保護層付き電磁波遮蔽材は、第1又は第2の発明において、前記保護層が、最外層に反射防止層を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、次のような効果を発揮することができる。
本発明の保護層付き電磁波遮蔽材は、透明基材フィルム上に金属層を含む電磁波遮蔽層が形成され、さらにその上に直接硬化性組成物が硬化された保護層が形成されているため、電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を防ぎ、かつ生産性が良い保護層付き電磁波遮蔽材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の保護層付き電磁波遮蔽材は、透明基材フィルム上に金属層を含む電磁波遮蔽層が形成され、さらにその上に直接硬化性組成物を硬化してなる保護層が設けられて構成されている。電磁波遮蔽層は、通常透明基材フィルムの一方の面に形成される。次に、この保護層付き電磁波遮蔽材の構成要素について順に説明する。
<透明基材フィルム>
保護層付き電磁波遮蔽材に用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されないが、光の反射を抑えるため、屈折率(n)が1.55〜1.70の範囲内のものが好ましい。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、n=1.65)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC、n=1.59)、ポリアリレート(PAR、n=1.60)及びポリエーテルスルフォン(PES、n=1.65)等が好ましい。これらのうち、ポリエステルフィルム特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性の点で好ましい。
【0010】
また、透明基材フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは50〜200μmである。透明基材フィルムの厚みが25μmより薄い場合や400μmより厚い場合には、保護層付き電磁波遮蔽材の製造時及び使用時における取り扱い性が低下して好ましくない。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤として例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤等が挙げられる。
<電磁波遮蔽層>
電磁波遮蔽層は単層又は複数層で構成され、シート抵抗が10Ω/□以下の導電性を有しておればよい。この電磁波遮蔽層としては、シート抵抗が10Ω/□以下のものであれば、一般にプラズマディスプレイ装置用の電磁波遮蔽シートに用いられているものが使用できる。例えば、電磁波遮蔽層は、特開2009−25486号公報に記載された方法などで作製することができる。すなわち、電磁波遮蔽層はスパッタリング法、イオンプレーティング法等の方法によって形成される金属層、該金属層と金属酸化物を用いて前記方法で形成される酸化物層とが多層に積層された積層体により形成される。金属としては金、銀、銅等が用いられ、金属酸化物としては酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム等が用いられる。スパッタリング法、イオンプレーティング法等の条件、金属層、酸化物層の厚みなどは常法に従って設定される。
<保護層>
保護層は、電磁波遮蔽層における金属層の酸化及び侵食を防ぐものである。保護層は、硬化性組成物を硬化してなる硬化物により形成される。保護層の膜厚は、50nm〜30μmが好ましい。この膜厚が50nmより薄い場合には電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を十分に抑えることができなくなり、30μmより厚い場合には硬化性組成物の膜応力が大きく、保護層と金属層や金属酸化物層との密着性が悪くなるため好ましくない。
【0011】
また、保護層の層構成の設計により、ハードコート機能や反射防止機能を付与することができる。例えば、保護層を、電磁波遮蔽層の保護機能とハードコート機能を備えたハードコート層で構成し、電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を有効に抑制すると共に、表面硬度を向上させることができる。また、保護層を、電磁波遮蔽層の保護機能と反射防止機能を備えた反射防止層で構成し、電磁波遮蔽層中の金属層の酸化及び侵食を防止すると共に、反射防止効果を発揮させることができる。さらに、保護層を、電磁波遮蔽層の保護機能とハードコート機能を備えたハードコート層上に反射防止機能を備えた反射防止層(最外層)を積層して構成し、ハードコート層の機能と反射防止層の機能とを相乗的に発揮させることができる。前記反射防止機能は、低屈折率層を公知の方法で塗布、硬化することで発現する。
(硬化性組成物)
上記硬化性組成物は、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を含む組成物であり、この硬化性組成物を公知の方法で透明基材フィルム上に塗布し、紫外線の照射又は加熱によって硬化することにより硬化物すなわち保護層が得られる。このように硬化性組成物は透明基材フィルム上に直接塗布されて硬化されることにより保護層が透明基材フィルムに密着されることから、従来のようにプラスチックフィルム層をバインダー層により貼合せる必要がなく、生産性を高めることができる。この硬化性組成物には上記樹脂以外に本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含んでいても差し支えない。その他の成分は特に制限されるものではなく、例えばシリカ微粒子、無機又は有機顔料、重合体、重合開始剤、光重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤、レベリング剤などの添加剤が挙げられる。
(塗工方法)
透明基材フィルム上に硬化性組成物を塗布、硬化させて保護層を形成する方法は特に制限されないが、硬化性組成物(塗布液)をロールコート法、スピンコート法、コイルバー法、ディップコート法、ダイコート法等の塗布方法により透明基材フィルムの表面に塗布した後、紫外線を照射する方法等が挙げられる。硬化性組成物の塗布方法としては、ロールコート法等の硬化性組成物を連続的に塗布できる方法が生産性の点より好ましい。また、ウェットコーティング法によって硬化性組成物の成膜後に乾燥させる限りは、任意の量の溶媒を添加することができる。
【実施例】
【0012】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
各実施例の保護層付き電磁波遮蔽材は、透明基材フィルムの一方の面上に電磁波遮蔽層を形成し、さらにその上に直接硬化性組成物の硬化物による保護層が形成されている。
(A)光学的特性
(a−1)視感度反射率
測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗り潰したものを分光光度計〔日本分光(株)製、商品名:U−best560〕により、光の波長380〜780nmの5°、−5°正反射スペクトルを測定した。得られる光の波長380〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で規定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率とした。
(B)物理的特性
(b−1)鉛筆硬度
JIS K5400に準拠して鉛筆で引っかき試験を行った。
(C)耐薬品性
75mm角のガラスに硬化性組成物の硬化物面が表面になるように内貼りしたサンプルを用いる。サンプル表面に薬液として人工指脂液(尿素1.0g、乳酸4.6g、ピロリン酸ナトリウム8.0g、食塩7.0g、エタノール20mlを蒸留水1Lに希釈)、又はpH=1の塩酸水溶液を十分染み込ませたサンプルサイズよりも大きな濾紙をそれぞれ置いて30分間放置した。放置後、試験薬品を必要に応じて水や溶剤で拭き取り、乾燥させた後に外観変化を確認した。変色がある場合を×、変色が無い場合を○として評価した。
<電磁波遮蔽層>
以下の手順で、電磁波遮蔽層を作製した。
【0013】
初めに、透明基材フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)を準備した。次に、透明基材フィルムの表面に対し、イオンビームソースによる乾式洗浄を行った。具体的には、Ar(アルゴン)ガスに約30体積%の酸素を混合して、100Wの電力を投入し、イオン化されたArイオン及び酸素イオンを生成した。イオンビームソースによりイオン化されたArイオン及び酸素イオンを透明基材フィルムの表面に照射した。続いて、乾式洗浄処理された透明基材フィルムの表面に、酸化亜鉛及び酸化チタン〔混合比、酸化亜鉛:酸化チタン=90.0:10.0(質量比)〕ターゲットを用いてアルゴンガスに3体積%の酸素ガスを混合して導入し、0.73Paの圧力で、周波数50kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅2μsecのパルススパッタリングを行い、透明基材フィルム上に、厚さ37nmの酸化物層を形成した。
【0014】
次いで、金を1.0質量%ドープした銀合金ターゲットを用いてアルゴンガスを導入し、0.73Paの圧力で、周波数50kHz、電力密度3.8W/cm、反転パルス幅10μsecのパルススパッタリングを行い、酸化物層上に、厚さ13nmの金属層を形成した。引き続き、酸化亜鉛及び酸化アルミニウム〔混合比、酸化亜鉛:酸化アルミニウム=95:5(質量比)〕ターゲットを用いてアルゴンガスを導入し、0.73Paの圧力で、周波数50kHz、電力密度2.5W/cm、反転パルス幅2μsecのパルススパッタリングを行い、金属層上に、厚さ1nmの酸化物層を形成した。次に、酸化物層と同じ方法で、酸化物層上に、厚さ37nmの酸化物層を形成し、積層体を得た。以下、同様の工程を4回繰り返し、5層の積層体で構成される電磁波遮蔽層Aを得た。
【0015】
この電磁波遮蔽層Aのシート抵抗を非接触式シート抵抗測定器(NAGY社製SRM−12)を用いて測定したところ0.7Ω/□であった。
<硬化性組成物の塗布液>
以下の手順で、硬化性組成物の塗布液を調製した。
(1)硬化性組成物塗布液Aの調製
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート70質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕2質量部と、シリカ微粒子(平均粒子径:10〜20nm)30質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合し、ハードコート層(HC)を形成するための硬化性組成物塗布液Aを得た。
(2)硬化性組成物塗布液Bの調製
3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート100質量部と、光重合開始剤〔三新化学工業(株)製、サンエイドSI−45L〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合し、ハードコート層を形成するための硬化性組成物塗布液Bを得た。
(3)硬化性組成物塗布液Cの調製
3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート40質量部と、ジルコニア粒子(一次粒子径:3〜10nm)60質量部と、光カチオン重合開始剤〔三新化学工業(株)製、サンエイドSI−45L〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合し、ハードコート層を形成するための硬化性組成物塗布液Cを得た。
(4)硬化性組成物塗布液Dの調製
粒子径50nmの中空シリカ微粒子60質量部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合し、反射防止層(AR)を形成するための硬化性組成物塗布液Dを得た。
(実施例1)
透明基材フィルム上に形成された電磁波遮蔽層Aの表面に前記硬化性組成物塗布液Aを、乾燥膜厚が1μmになるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、保護層付き電磁波遮蔽材Aを作製した。得られた保護層付き電磁波遮蔽材Aについての評価結果を表1に示した。
(実施例2)
実施例1において、硬化性組成物塗布液Aに代えて硬化性組成物塗布液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして保護層付き電磁波遮蔽材Bを作製した。得られた保護層付き電磁波遮蔽材Bについての評価結果を表1に示した。
(実施例3)
実施例2において、保護層の乾燥膜厚1μmに代えて20μmにしたこと以外は実施例2と同様にして保護層付き電磁波遮蔽材Cを作製した。得られた保護層付き電磁波遮蔽材Cについての評価結果を表1に示した。
(実施例4)
透明基材フィルム上に形成された電磁波遮蔽層Aの表面に前記硬化性組成物塗布液Cを、乾燥膜厚が1μmになるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させ硬化物を得た。その硬化物の表面に、前記硬化性組成物塗布液Dを乾燥膜厚が100nmになるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させ硬化物を形成することにより保護層付き電磁波遮蔽材Dを作製した。得られた保護層付き電磁波遮蔽材Dについての評価結果を表1に示した。
(実施例5)
実施例1において、硬化性組成物塗布液Aに代えて硬化性組成物塗布液Dを用い、保護層の乾燥膜厚1μmに代えて100nmにしたこと以外は実施例1と同様にして保護層付き電磁波遮蔽材Eを作製した。得られた保護層付き電磁波遮蔽材Eについての評価結果を表1に示した。
(比較例1)
透明基材フィルム上に電磁波遮蔽層Aのみを形成して保護層のない電磁波遮蔽材を作製した。その電磁波遮蔽材の評価結果を表1に示した。
【0016】
【表1】

表1に示す結果より、実施例1〜5の電磁波遮蔽層は、比較例1の保護層のない電磁波遮蔽層と比べて、薬品による腐食がないことが分かった。また、実施例1〜4では、ハードコート層を有するため、鉛筆硬度2H以上の硬度を達成することができた。さらに、実施例4及び5では、最外層に低屈折率層を有するため、視感度反射率を低減させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルム上に金属層を含む電磁波遮蔽層が形成され、さらにその上に硬化性組成物を硬化してなる保護層が直接形成されていることを特徴とする保護層付き電磁波遮蔽材。
【請求項2】
前記保護層が、ハードコート層である請求項1に記載の保護層付き電磁波遮蔽材。
【請求項3】
前記保護層が、最外層に反射防止層を有する請求項1又は請求項2に記載の保護層付き電磁波遮蔽材。

【公開番号】特開2011−114065(P2011−114065A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267498(P2009−267498)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】