説明

保護膜形成方法及び試料断面観察方法

【課題】FIBによって液体浸透性材料、熱、イオン衝撃に弱い材料の表面近傍の正確な断面情報を得る時に保護膜形成時に構造変化を発生しない保護膜形成方法を提供する。
【解決手段】FIB装置による断面加工に用いる加工対象物表面に被覆する保護膜を、保護膜原料となるガス状物質を凝結固化させることにより形成する保護膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FIB加工での試料の表面保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム、コート紙をはじめとする微細な表面構造を持つ材料の断面構造分析は、機能性材料の増加とともにその需要が増えつつある。微細な断面構造に関する情報を得るために用いられている主な方法としては、凍結割断法、クライオミクロトーム法等による断面作成後の光学顕微鏡観察、SEM観察等が行われている。
【0003】
しかしながら、光学顕微鏡では断面のマクロ的な観察に限られる。また、凍結割断法、クライオミクロトーム法では切り出し位置を指定することができないため、指定した位置の構造を観察及び解析するためには、断面作製作業の繰り返しに非常に多くの労力を要していた。
【0004】
そこで、最近では、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)装置に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置による加工機能を付加したFIB−SEM装置が開発されている。FIB装置は、イオン源からのイオンビームを細く集束して加工試料に照射し、エッチング等により加工を行う装置である。このFIBによるエッチング技術は、かなりポピュラーなものになりつつあり、特に半導体等の構造解析、不良解析、透過電子顕微鏡試料作製等に広く利用されている。FIB−SEM装置はFIB装置により試料をエッチング加工する工程と、SEM装置により試料の断面を観察する工程を一台の装置で行えるようになっており、切り出し位置を指定して、その指定した位置の構造を観察及び解析することが可能である。
【0005】
上述したFIB−SEM装置を用いる場合、加工用イオンビームのビーム横断面内の強度分布があるために表面近傍は加工指定部位の外側もわずかにエッチングされて、表面近傍の正確な断面情報は失われる。これを防ぐためにあらかじめFIB装置外で樹脂などの塗布、スパッタコート、蒸着などで試料表面に保護膜を形成することが行われている。また、特許文献1には、FIB装置内で反応性ガスを試料表面に吹き付けながらイオンビームを照射することで加工位置周辺に保護膜を形成する方法が示されている。これによって加工用イオンビームのビーム横断面内の強度分布に起因する表面近傍の意図しない部分のエッチングは保護膜範囲内に留まり、試料自身の表面近傍の断面情報が得られる。
【0006】
しかしながら、例えばインクジェット用コート紙のような液体浸透性材料は保護膜としての樹脂の塗布で構造が変化することがあり塗布による保護膜形成は適用できない。また生体材料や有機顔料インク層などのような熱、イオン衝撃に弱い材料の場合、スパッタコート、蒸着による保護膜形成工程で試料表面がダメージを受けるので使用できない。
【0007】
一方、特許文献2には、FIB加工中、SEM観察中に試料温度を調整して昇温による構造変化やビームダメージを防ぎ試料の断面構造を正確に解析することを可能にしたものが提案されている。しかしながらイオンビーム衝撃に弱い材料の場合、保護膜形成初期に試料表面に直接照射されるイオンビームにより試料最表面はダメージを受けるため、試料最表面の正確な断面構造を得ることは難しい。
【特許文献1】特開2000−146781号公報
【特許文献2】特許第3715956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題を解決し、液体浸透性材料、熱、イオン衝撃に弱い材料の表面近傍の正確な断面情報を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る保護膜形成方法は、FIB装置による断面加工に用いる加工対象物表面に被覆する保護膜を、保護膜原料となるガス状物質を凝結固化させることにより形成する。
【0010】
また、前記ガス状物質の凝結固化が、加工対象物の表面温度を前記ガス状物質の蒸気圧が加工対象物近傍の圧力以下となる温度に保ち、前記ガス状物質を加工対象物表面に吹きかけることによりを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、FIB加工用の保護膜形成において、例えばインクジェット用コート紙上の顔料インクのような液体浸透性試料、あるいは熱、イオン衝撃に弱い試料表面の評価する断面部分の最表面に直接イオンビームが照射されることがない。これにより、最表面の断面構造が変化することなくFIB加工用の保護膜を形成することができるため、その後FIB加工することによって正確な表面近傍の断面構造情報を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る保護膜形成方法は、FIB装置による断面加工に用いる加工対象物表面に被覆する保護膜を、保護膜原料となるガス状物質を凝結固化させることにより形成する。加工対象物表面で保護膜原料となるガス状物質をその場で凝結固化させることにより、加工対象物表面を何ら損傷させることなく保護膜形成を行うことができる。
【0013】
前記ガス状物質の凝結固化は、加工対象物の表面温度を前記ガス状物質の蒸気圧が加工対象物近傍の圧力以下となる温度に保ち、前記ガス状物質を加工対象物表面に吹きかけることにより行うことができる。加工対象物が試料室内に配置されている場合は、試料室内の圧力よりもガス状物質の蒸気圧が低くなる温度に加工対象物の温度を設定する。
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(装置の実施形態)
図1は、本発明に用いる断面評価装置の実施形態である、断面観察用走査型電子顕微鏡の概略構成図である。この電子顕微鏡は、加工対象物である試料1が固定されるとともに、固定された試料1の温度を設定された温度に保つ保温部2を備える。この保温部2は、試料室3内に収容可能である。
【0016】
試料室3には、保温部2に固定された試料1に対してイオンビームを照射するイオンビーム発生部4及び電子ビームを照射する電子ビーム発生部5が設けられている。さらに電子ビーム又はイオンビームの照射により試料1から放出される2次電子を検出する電子検出器6が設けられている。試料室3内は、不図示のポンプによって排気され、所定の低圧力を保てるようになっており、これによりイオンビーム、電子ビームの照射が可能となっている。本発明においては、試料室内の圧力を1E−2Pa以下にすることが好ましい。
【0017】
イオンビーム発生部4は、試料1にイオンビームを照射して断面を切り出すために用いられる他、SIM(Scanning Ion Microscope)観察のために用いることも可能である。SIM観察の場合には、試料1にイオンビームを照射したときに発生する2次電子が電子検出器6にて検出され、電子検出器6からの検出信号に基づいて映像化が行われる。
【0018】
電子ビーム発生部5は、SEM観察のために用いられる。SEM観察の場合には、試料1に電子ビームを照射したときに発生する2次電子が電子検出器6にて検出され、電子検出器6からの検出信号に基づいて映像化が行われる。
【0019】
また、イオンビームと電子ビームの照射位置は、試料1上で一致するようにそれぞれ制御可能である。
【0020】
尚、電子ビーム発生部やイオンビーム発生部等の構成は、特開平11−260307号公報あるいは特開平1−181529号公報等に記載されているような構成であってもよい。
【0021】
(保護膜形成手段の構成)
本実施形態における保護膜形成手段は、試料に温度調整が可能な保温部2と保護膜原料となるガス状物質を試料表面に供給する機構を備える。保温部2は、例えば温度コントローラ付きの試料ステージを用いることができる。
【0022】
保温部2が取り付けられている不図示の試料ステージは、固定された試料1を機械的に上下左右に移動、回転、或いは傾斜させることができ、これにより試料1を所望のガス吹き付け位置や断面評価位置に移動させることができる。
【0023】
保温部2の保温機構は、加工対象物の表面温度を前記ガス状物質の蒸気圧が加工対象物近傍の圧力以下となる温度に温度調節が可能な冷却機構であれば、特に限定されない。例えば、ペルチェ素子やヘリウム冷凍機のような冷却機構でもよい。又は、保温部の試料が固定される部分と対向する側に冷媒を流す冷媒管を設け、液体窒素、水などの冷媒を保温部と熱的に接触させる方式でもよい。
【0024】
試料1付近には保護膜原料となるガス状物質を供給するガス導入管7が設けられている。ガス導入管先端には試料表面にガス状物質を吹き付けるノズル状の細管からなるガス吹き出し口が設けられている。ガス吹き出し口の空間内の位置は制御可能になっており、ノズル状の細管末端から試料表面の所定位置にガスを噴出させることで、試料表面の一部に選択的に付着させることができる。ガス導入管7の内径、及びガス吹き出し口の口径は、保護膜の表面均一性が保たれる範囲で適宜選択可能である。
【0025】
また、ガス導入管7の中心軸が電子ビームとイオンビームが交差する位置(クロスビームポイント)と正確に交差していることが好ましい。この場合はガス導入管7をその鉛直線上で平行移動させることによって、試料1とガス吹き出し口の距離を制御可能で、かつ電子ビーム、イオンビーム照射のON/OFFのみで保護膜形成状態を観察可能である。しかしながら試料室内のスペースの制約や、ガス吹き出し口位置調整の結果、ガス導入管7の中心軸とクロスビームポイントが交差しない場合もある。この場合はあらかじめガス吹きつけ位置と観察位置の試料ステージ位置のずれを測定しておいて、ガス吹き付け前に位置を補正すればよい。
【0026】
本発明における保護膜原料となるガス状物質は、FIB加工時の試料室3の圧力・温度で気化し、試料温度で固化する物質であれば何でも使用できる。前記ガス状物質として、一般的なFIB−SEM装置に備え付けられているイオンビームアシストデポジション用ガス又はイオンビームアシストエッチング用ガスを流用するのが、簡単でかつ効果的であるため好ましい。また、前記ガス導入管7についても、イオンビームアシストデポジション用又はイオンビームアシストエッチング用のガス導入管を用いてもよい。
【0027】
イオンビームアシストデポジション用ガスとしてよく知られた例は、ヘキサカルボニルタングステン(W(CO)6)ガス、メチルシクロペンタジエニルトリメチルプラチナ((CH354)Pt(CH33)、アズレン(C108)、フェナントレン(C1410)がある。これらは常温で固体であり、加熱することによってガス化するため、本発明における保護膜原料として好ましい。
【0028】
イオンビームアシストエッチング用ガスとしては、水蒸気(H2O)、ヨウ素(I2)等が挙げられる。H2Oは、無機固体結晶に結晶水として取り込まれたH2Oを加熱して、H2Oガスとすることで使用することができる。また、ヨウ素は常温で固体であり、加熱により昇華させ、I2ガスとすることで使用することができる。
【0029】
前記ガス状物質の供給源であるガス供給源8は温度が制御可能になっている。ガス供給源8の温度制御、ガス供給源8とガス導入管7の間に設けられたバルブ9の開閉を調節することでガス状物質の供給量を制御することができる。
【0030】
また、ガス状物質の供給量、ガス吹き出し口と試料間の距離を調整することにより、保護膜形成速度を調整することが可能である。
【0031】
前記ガス状物質はガス吹き出し口から放出された後、周囲の同種のガス分子や残留ガス分子と衝突して直進性が失われる。ガス状物質が試料面に到達する方向がランダムになるために、一方向からガスを吹き付けているにもかかわらず、保護膜表面は平滑になる。保護膜表面の平滑性は、ガス吹き出し口口径、ガス状物質の供給量、ガス吹き出し口と試料間の距離によって制御可能である。
【0032】
また、本実施形態においては、前記ノズル状の細管末端と試料1との間に、ガス状物質、イオンビーム及び電子ビームが通過可能な空隙を有するガストラップ10を設けている。ガストラップ10は、熱伝導率の良い金属などによって構成され、試料温度以下で保持される。ガストラップ10はガストラップ保温部11によって所定の温度に制御される。
【0033】
前記ガストラップ10は、余剰なガス状物質を吸着固化して、試料1上の保護膜形成目的位置以外へのガス付着を防止する効果がある。ガストラップ10は、試料1の載置された試料ステージ、イオンビーム発生部4、電子ビーム発生部5及び電子検出器6が配置された状態において、検出、及び加工の際のビーム系に懸からず、かつガス状物質の捕集効率を高めるために試料1の直近に配置される。さらに、低い圧力に保たれた試料室3内に1ヶ所以上配置することも可能である。
【0034】
ガストラップ保温部11の保温機構は、試料温度以下に保持可能な冷却機構であれば特に限定されない。例えば、ペルチェ素子やヘリウム冷凍機のような冷却機構でもよい。又は、保温部のガストラップが接続される側に冷媒を流す冷媒管を設け、液体窒素、水などの冷媒を保温部と熱的に接触させる方式でもよい。
【0035】
(本発明の実施形態)
以下に、本発明に係る保護膜形成方法について述べる。図2は、図1に示す断面観察用走査型電子顕微鏡を用いた試料の断面評価の一手順を示すフローチャート図である。以下、図2を参照して保護膜形成の手順を説明するとともに、その手順に沿った試料断面観察方法も具体的に説明する。
【0036】
まず、ガストラップ10の温度を設定する(ステップS10)。設定温度の上限を保護膜原料の蒸気圧が試料近傍の圧力以下となる温度にすることでガス捕集効率を向上し、保護膜厚制御を容易にすることができる。設定温度の下限は特に設けない。
【0037】
ガス供給源8の温度を適切な値に設定する(ステップS11)。イオンビームアシストデポジション用ガスを流用する場合は、通常イオンビームアシストデポジションに使用する温度よりも低温に設定する。
【0038】
次に試料1を不図示の試料ステージの所定の位置(保温部2)に固定し(ステップS12)、試料室3内を所定の圧力になるまで排気後、試料1の温度を保護膜原料の蒸気圧が試料近傍の圧力以下となる温度を上限とする所望の温度に設定する(ステップS13)。前記設定温度は、ガストラップ10の設定温度と同等若しくは高くすることで形成する保護膜厚の制御が容易になる。
【0039】
試料1の表面のSEM観察を行い、図3に示す断面観察位置12を仮決定する(ステップS14)。
【0040】
次いで、断面観察位置12の直近かつ載置台傾斜軸13と平行方向で、かつイオンビームが断面観察位置を照射しないマークA作成位置14に試料ステージを移動する(ステップS15)。電子ビームとイオンビームの位置合わせに使用できる位置合わせ目標物15を選択し、所望の拡大倍率で位置合わせ目標物15が電子ビーム走査範囲の中心になるように試料ステージを移動する。
【0041】
次いで断面観察位置12がイオンビームで照射されない倍率でSIM観察する。電子ビームによる観察で選択した位置合わせ目標物15が走査範囲の中心になるように、イオンビーム走査位置の中心を調整する。以上の操作で電子ビームによる観察位置とイオンビームによる観察位置が一致する(ステップS16)。
【0042】
次いで保護膜形成後の断面加工位置設定の目標になる加工位置決め目標パターン(マークA16)を形成する。加工位置決め目標パターンは、断面加工位置を中心としたSIM観察視野内であって、断面評価位置の直近かつ断面加工位置を含まない位置に作成する。FIB加工条件を設定しマークA作成位置14にイオンビームを照射してSIM観察する(ステップS17)。SIM観察視野中心から載置台傾斜軸13と直交する方向に等距離離れた2箇所の位置に、試料面方向、深さ方向共に少なくとも後に形成予定の保護膜の膜厚よりも大きなパターンをイオンビーム加工して形成する(ステップS18)。図3では加工形状を方形としているが形状は特に指定しない。凹部の被覆性が高い保護膜原料の場合は加工深さは適宜深くし、保護膜形成後のSIM観察で、加工した2個の凹部を識別可能な形状に形成する。
【0043】
次いで断面加工位置とマークA16が一視野に入る倍率でSEM観察を行い両者の位置関係を確認した後(ステップS19)、断面加工位置を挟んでマークA作成位置14と対向するマークB作成位置17に試料1を移動する(ステップS20)。マークB作成位置17にイオンビームを照射してSIM観察する(ステップS21)。次いでマークA16と同様、視野中心から載置台傾斜軸と直交する方向に等距離離れた2箇所の位置にマークB18を加工する(ステップS22)。
【0044】
マークA16、マークB18の加工終了後、これらが同一視野に入る倍率でSEM観察を行い断面観察位置12を視野中心に移動し(ステップS23)、保護膜形成後に加工位置を特定するための指標となる領域19をSEM像として記録する(ステップS24)。
【0045】
次に、試料1をガス吹き付け位置へ移動する。図4にガス吹き出し口20がガス吹き出し方向鉛直線21上に位置調整可能で、ガス吹き出し方向鉛直線21上にクロスビームポイントがある場合を示した。この実施形態の場合、試料1表面とガス吹き出し口20との距離22は、ガス吹き出し口20位置を制御して行う(ステップS26)。またこの場合、SEM観察、SIM観察時の倍率を十分に下げることで試料1を移動させることなくガス吹き付けの効果を画像で確認できる。
【0046】
図5にガス吹き出し方向鉛直線21上にクロスビームポイントがない例を示した。この場合は、ガス吹き付け位置のずれ量23をあらかじめ予備実験で測定しておき、ずれを補正する方向にX、Y、Z軸を移動する(ステップS25)。
【0047】
形成する保護膜厚は、試料室圧力、ガス供給源8の温度、ガストラップ10の温度、試料1の温度、ガスバルブ9を開く時間、及び試料1表面とガス吹き出し口との距離で制御する。これらの条件のうち形成される保護膜厚に大きく影響するのはガス供給源8の温度とガスバルブ9を開く時間と試料室圧力である。このうち試料室圧力は装置の状態に依存するため制御は難しいため、主としてガス供給源温度とガスバルブを開く時間で制御するのが好ましい。
【0048】
所定の量の保護膜形成が終了したらSEM観察を行う。保護膜形成前に観察したSEM画像を参照して、断面評価位置を挟んで両側の位置であって、断面評価位置の線上に対して対象の位置に2組作成した対を成す加工位置決め目標パターン(マークA16、マークB17)の中点から断面評価位置を決定する。次いで、SIM観察でその場所を確認し(ステップS29)、通常のFIB加工を行う(ステップS30)。
【0049】
以上の手順において、ステップS13で保温部2の温度設定した後、FIB加工完了までの手順の間、保温部2は常にガス状物質の蒸気圧が試料近傍の圧力以下となる温度に保つ。
【実施例】
【0050】
以下、上述の実施形態の保護膜形成方法及び試料断面観察方法を用いて、実際に試料の保護、観察を行った例を説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0051】
本実施例では、図1に示す構成を有する液体金属ガリウムをイオン源とするイオンガンを装備する断面観察用走査型電子顕微鏡(製品名:「DB235M」、FEI社製)を用いた。保温部2として、温度コントローラ付き試料ステージに低温温度可変機構のついたユニットが組み込まれたものを用いた。試料は、インクジェット用光沢紙(商品名:「プロフォトペーパー」、キヤノン製)上にカーボングラファイトを色材とする顔料インクで直径30μm程度のドットを形成したものである。インクドットと用紙の境界を含む、幅10μm、深さ2μmの範囲の断面評価を目的とした保護膜形成を、以下の手順で行った。
【0052】
まず、ガストラップ保温部11を−170℃に設定し、ガストラップ10が設定温度に保たれたことを確認した。
【0053】
ガス状物質としてはメチルシクロペンタジエニルトリメチルプラチナを使用し、ガス供給源8の温度を25℃に設定した。この値の適正値はガスバルブ9の開口度、ポンプの排気能力と装置履歴による試料室3の真空度などの状況で適正値は異なるため、直前に予備実験で適正値を確認した。
【0054】
試料を低温温度可変機構のついたユニット上にカーボンペーストで固定し、このユニットを試料ステージにセットした。この試料がセットされた試料ステージを試料室3に導入した後、試料室3内を5×10-4Paになるまで排気した。
【0055】
次に、保温部2を−130℃に設定し、試料温度が設定温度に保たれたことを確認した。試料温度を常に確認しながら試料の断面観察位置を含んだ領域について表面SEM観察を行い、インクドットと用紙の境界が画面中心になるように試料ステージを移動し、画面中心を含む画面上の水平線上10μm幅の領域を断面加工位置として仮決定した。
【0056】
次に、試料を載置台傾斜軸13と平行方向に、断面観察位置12の直近でかつ断面観察時の視野と重複しない位置まで移動した。この状態でSEM観察し、画面の中央付近で電子ビームとイオンビームの位置合わせに使用できる目標物15を選択した。次に所望の拡大倍率で目標物15が電子ビーム走査範囲中心になるようにステージを移動した。
【0057】
次いでイオンビーム電流量10pAでSIM観察倍率をSEM観察倍率に合わせてSIM観察を行い、電子ビームによる観察で選択した目標物15が走査範囲の中心になるように、イオンビーム走査位置の中心を調整した。イオンビーム電流を変化させた場合、イオンビーム照射位置がずれないようにあらかじめ装置は調整しておく。
【0058】
次いでイオンビーム電流量7nAで図3のマークA作成位置14の領域をSIM観察した。次に視野中心から載置台傾斜軸と直交する方向に等距離離れた2箇所の位置で、マークA16として1辺5μmの正方形領域を深さ5μmまでガリウムイオンビームで加工した。マークAの中心は載置台傾斜軸を中心として15μm離した。
【0059】
次いで断面加工位置とマークA16が一視野に入る倍率でSEM観察を行い両者の位置関係を確認した後、断面加工位置を挟んでマークA作成位置14と対向するマークB作成位置17に試料を移動した。マークB作成位置17にイオンビームを照射してSIM観察し、次いでマークA16と同様の条件でマークB18を加工した。
【0060】
次にSEM観察を行い、断面観察位置12が視野中心になるようにステージを移動し、マークA及びBと断面観察位置が同時に入る視野でSEM像として記録した。
【0061】
次に試料表面とガス吹き付け口との距離を調整した。本実施例では図5のように試料を移動して、上記距離を80μm、850μm、1200μmで実施した。水平方向はそれぞれあらかじめ測定しておいた適切な位置とした。
【0062】
その後、バルブ9を開閉して保護膜を形成した。バルブ9が開いている時間は1秒とした。保護膜形成後、試料位置をクロスビームポイントに戻してSEM観察し、保護膜が形成されていることと保護膜表面形状を確認した。同時に加工位置決め目標パターンであるマークA及びマークBの合計4個の位置が独立した凹部として認識できることも確認できた。
【0063】
試料表面とガス吹き付け口の距離が80μmの場合は、表面に一方向を向いた高さ0.5〜1μmの微細な凹凸が形成されていた。この凹凸は断面加工時に加工面の荒れの発生点になるので、形成された膜は保護膜として適していない。一方、試料表面とガス吹き付け口の距離が850μm、1200μmの場合は、保護膜表面は平滑であった。
【0064】
次に、上記距離が850μm、1200μmで保護膜を作成したものについて断面加工を行って保護膜としての機能を確認した。マークAの2箇所の凹部の中点とマークBの2箇所の凹部の中点の位置を、保護膜形成前に記録したSEM画像と比較して断面加工位置を決定した。
【0065】
SIM像を観察して断面加工領域を設定して、粗加工時のイオンビーム電流7nA、仕上げ加工時のイオンビーム電流300pAで断面加工を行った後、断面をSEM観察した。このとき、試料表面に保護膜作成による変質層が見られないことを確認した。断面加工位置での膜厚は1.5〜2μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明を実施する断面評価装置の実施形態である、断面観察用走査型電子顕微鏡の概略構成図である。
【図2】図1に示す実施形態での試料表面保護方法の一手順を示すフローチャート図である。
【図3】図1に示す実施形態での加工位置決めパターン作成の一手順を示す概略図である。
【図4】図1に示す実施形態のうち、ガス吹き出し口がガス吹き出し方向鉛直線上に位置調整可能で、ガス吹き出し方向鉛直線上にクロスビームポントがある場合の位置関係を示す概略図である。
【図5】図1に示す実施形態のうち、ガス吹き出し方向鉛直線上にクロスビームポイントがない場合の位置関係を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1 試料
2 保温部
3 試料室
4 イオンビーム発生部
4a イオンビーム
5 電子ビーム発生部
5a 電子ビーム
6 電子検出器
7 ガス導入管
8 ガス供給源
9 バルブ
10 ガストラップ
11 ガストラップ保温部
12 断面観察位置
13 載置台傾斜軸
14 マークA作成位置
15 位置合わせ目標物
16 マークA
17 マークB作成位置
18 マークB
19 SEM像記録領域
20 ガス吹き出し口
21 ガス吹き出し口方向鉛直線
22 試料表面とガス吹き出し口との距離
23 ガス吹き付け位置のずれ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FIB装置による断面加工に用いる加工対象物表面に被覆する保護膜を、保護膜原料となるガス状物質を凝結固化させることにより形成する保護膜形成方法。
【請求項2】
前記ガス状物質の凝結固化が、加工対象物の表面温度を前記ガス状物質の蒸気圧が加工対象物近傍の圧力以下となる温度に保ち、前記ガス状物質を加工対象物表面に吹きかけることにより行うことを特徴とする請求項1記載の保護膜形成方法。
【請求項3】
前記加工対象物を、温度調整が可能な冷却機構を備えた保温部に固定して、保護膜形成を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の保護膜形成方法。
【請求項4】
前記ガス状物質が、イオンビームアシストデポジション用ガス又はイオンビームアシストエッチング用ガスであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の保護膜形成方法。
【請求項5】
前記ガス状物質を、ガス導入管先端に設けられたノズル状の細管末端から噴出させて、加工対象物表面の一部に選択的に付着させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の保護膜形成方法。
【請求項6】
前記ノズル状の細管末端と加工対象物の距離を調整することにより、保護膜表面の平滑性、保護膜形成速度を調整することを特徴とする請求項5記載の保護膜形成方法。
【請求項7】
前記ガス状物質を供給するガス供給源において、ガス状物質の温度を調整することにより保護膜形成速度を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の保護膜形成方法。
【請求項8】
前記ノズル状の細管末端と前記加工対象物との間に、ガス状物質、イオンビーム及び電子ビームが通過可能な空隙を有するガストラップを設け、該ガストラップの温度を前記加工対象物の温度以下とすることを特徴とする請求項5又は6記載の保護膜形成方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の保護膜形成方法により保護膜形成を行う試料断面観察方法であって、
断面加工位置を中心としたSIM観察視野内で、断面評価位置の直近かつ断面加工位置を含まない位置に、イオンビーム加工により断面加工位置設定の目標となる加工位置決め目標パターンを作成することを特徴とする試料断面観察方法。
【請求項10】
前記加工位置決め目標パターンの試料面方向及び深さ方向の大きさが、前記保護膜厚よりも大きいことを特徴とする請求項9記載の試料断面観察方法。
【請求項11】
前記加工位置決め目標パターンを、断面評価位置を挟んで両側の位置であって、断面評価位置の線上に対して対象の位置に2組作成し、対を成す加工位置決め目標パターンの中点から断面評価位置を決定することを特徴とする請求項9又は10記載の試料断面観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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