説明

信号処理装置、電子機器、及び信号処理方法

【課題】遅延時間を短縮可能とする。
【解決手段】実施形態の信号処理装置は、映像処理手段と、検出手段と、振幅用遅延手段と、振幅制御手段と、映像処理用遅延手段と、を備える。映像処理手段は、入力された信号から分離された映像信号に対して、映像処理を施す。検出手段は、入力された信号から分離された音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する。振幅用遅延手段は、検出手段による検出がなされる前に分岐した音声信号に対して、検出手段が振幅の検出に要する第1の所定時間を遅延させる。振幅制御手段は、検出手段が検出した振幅に従って設定したゲインを用いて、振幅用遅延手段から入力される音声信号の振幅を制御する。映像処理用遅延手段は、検出手段と振幅用遅延手段とに分岐する前の音声信号に対して、映像処理手段が映像処理に要する時間から第1の所定時間を減算した第2の所定時間を遅延させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、信号処理装置、電子機器、及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、受信したデジタル放送波信号を受信し、映像と音声を出力するデジタルテレビジョン表示装置が提供されている。当該デジタルテレビジョン表示装置では、受信したデジタル放送波信号から映像信号と音声信号とを分離した後、信号毎にそれぞれ異なる処理を行っていた。このため、デジタルテレビジョン表示装置では、表示部に映像信号を表示する際に、スピーカに出力する音声信号を同期させる必要があった。
【0003】
ところで、近年、音声信号についても自動調整する技術が開示されている。この自動調整する技術は、音声または音楽試聴時の急激な音量変化を緩和できる。これにより、聴覚上滑らかな音量変化を得られる。このような自動調整のための処理にはある程度の時間を要する。このため、映像信号側にも、当該処理に要する時間の差を調整する必要がある。そこで従来技術では、映像信号側に遅延回路を設けることで、音声信号と映像信号との出力するタイミングを同期させることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−212153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のデジタルテレビジョン表示装置では、映像処理側と音声処理側とのそれぞれについて遅延回路が必要なため、映像及び音声が出力されるまでの遅延時間が長くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遅延時間を短縮可能な信号処理装置、電子機器、及び信号処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の信号処理装置は、映像処理手段と、検出手段と、振幅用遅延手段と、振幅制御手段と、映像処理用遅延手段と、を備える。映像処理手段は、入力された信号から分離された映像信号に対して、映像処理を施す。検出手段は、入力された信号から分離された音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する。振幅用遅延手段は、検出手段による検出がなされる前に分岐した音声信号に対して、検出手段が振幅の検出に要する第1の所定時間を遅延させる。振幅制御手段は、検出手段が検出した振幅に従って設定したゲインを用いて、振幅用遅延手段から入力される音声信号の振幅を制御する。映像処理用遅延手段は、検出手段と振幅用遅延手段とに分岐する前の音声信号に対して、映像処理手段が映像処理に要する時間から第1の所定時間を減算した第2の所定時間を遅延させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置の主要な信号処理系を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施形態にかかる信号後処理部の構成を示したブロック図である。
【図3】図3は、実施形態にかかる振幅制御部による入出力振幅の制御の変化の第1の例を示した図である。
【図4】図4は、実施形態にかかる振幅制御部による入出力振幅の制御の変化の第2の例を示した図である。
【図5】図5は、実施形態にかかる信号後処理部に入力される音声信号の振幅の第1の例を示した図である。
【図6】図6は、音声信号に対して振幅の増幅処理を行った場合の例を示した図である。
【図7】図7は、実施形態にかかる信号後処理部に入力される音声信号の振幅の第2の例を示した図である。
【図8】図8は、音声信号に対して振幅の抑制処理を適用した場合の例を示した図である。
【図9】図9は、従来から提案されている、音声信号に対して振幅処理を行う構成を示したブロック図である。
【図10】図10は、実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置における、音声信号処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1のハードウェア構成について説明する。図1は、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1の主要な信号処理系を示すブロック図である。
【0010】
BS/CSデジタル放送受信用のアンテナ143で受信した衛星デジタルテレビジョン放送信号は、入力端子144を介して衛星デジタル放送用のチューナ145に供給される。
【0011】
チューナ145は、制御部156からの制御信号により所望のチャネルの放送信号を選局し、この選局された放送信号をPSK(Phase Shift Keying)復調器146に出力する。
【0012】
PSK復調器146は、制御部156からの制御信号により、チューナ145で選局された放送信号を復調し、所望の番組を含んだトランスポートストリーム(TS)を得て、TS復号器147aに出力する。
【0013】
TS復号器147aは、制御部156からの制御信号によりトランスポートストリーム(TS)多重化された信号のTS復号処理を行い、所望の番組のデジタルの映像信号及び音声信号をデパケットすることにより得たPES(Packetized Elementary Stream)を信号処理部100内のSTDバッファ(図示せず)へ出力する。
【0014】
地上波放送受信用のアンテナ148で受信した地上デジタルテレビジョン放送信号は、入力端子149を介して地上デジタル放送用のチューナ150に供給される。
【0015】
チューナ150は、制御部156からの制御信号により所望のチャネルの放送信号を選局し、この選局された放送信号をOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)復調器151に出力する。
【0016】
OFDM復調器151は、制御部156からの制御信号により、チューナ150で選局された放送信号を復調し、所望の番組を含んだトランスポートストリームを得て、TS復号器147bに出力する。
【0017】
TS復号器147bは、制御部156からの制御信号によりトランスポートストリーム(TS)多重化された信号のTS復号処理を行い、所望の番組のデジタルの映像信号及び音声信号をデパケットすることにより得たPES(Packetized Elementary Stream)を信号処理部100内のSTDバッファへ出力する。また、TS復号器147bは、デジタル放送により送られているセクション情報を信号処理部100内のセクション処理部へ出力する。
【0018】
ここで、信号処理部100は、テレビ視聴時には、TS復号器147aおよびTS復号器147bからそれぞれ供給されたデジタルの映像信号及び音声信号に対して、選択的に所定のデジタル信号処理を施し、グラフィック処理部152及び信号後処理部155に出力している。一方、番組録画時には、TS復号器147aおよびTS復号器147bからそれぞれ供給されたデジタルの映像信号及び音声信号に対して、選択的に所定のデジタル信号処理を施した信号を、制御部156を介してHDD170に記録している。また、信号処理部100は、録画番組再生時には、制御部156を介してHDD170から読み出された録画番組のデータに、所定のデジタル信号処理を施し、グラフィック処理部152及び音声処理部153に出力している。
【0019】
制御部156には、信号処理部100から、番組を取得するための各種データ(B−CASデスクランブル用の鍵情報等)や電子番組ガイド(EPG)情報,番組属性情報(番組ジャンル等),字幕情報等(サービス情報、SIやPSI)が入力されている。制御部156は、これら入力された情報からEPG,字幕を表示するため画像生成処理を行い、この生成した画像情報をグラフィック処理部152へ出力する。
【0020】
制御部156は、番組録画および番組予約録画を制御する機能を有し、番組予約受付時には、表示部120に電子番組ガイド(EPG)情報を表示し、操作部116またはリモートコントローラ117を介したユーザ入力により予約内容を所定の記憶手段に設定する。そして、設定された時刻に予約番組を録画するようチューナ145、150、PSK復調器146、OFDM復調器151、TS復号器147a、147bおよび信号処理部100を制御する。
【0021】
グラフィック処理部152は、(1)信号処理部100内のAVデコーダ(図示せず)から供給されるデジタルの映像信号と、(2)OSD(On Screen Display)信号生成部154で生成されるOSD信号と、(3)データ放送による画像データと、(4)制御部156により生成されたEPG,字幕信号とを合成して映像信号処理部159へ出力する機能を有する。
【0022】
また、字幕放送による字幕を表示するとき、グラフィック処理部152は、制御部156からの制御による字幕情報に基づき、映像信号上に字幕情報を重畳する処理を行う。
【0023】
グラフィック処理部152から出力されたデジタルの映像信号は、信号後処理部155内の映像信号処理部159に供給される。なお、本実施形態においては、グラフィック処理部152で、映像信号の遅延は生じないものとする。
【0024】
信号後処理部155は、映像信号処理部159を有すると共に、音声信号の調整及び音声信号及び映像信号の出力するタイミングを調整する。
【0025】
映像信号処理部159は、入力されたデジタルの映像信号を、表示部120で表示可能なフォーマットのアナログ映像信号に変換した後、表示部120に出力して映像表示させる。
【0026】
また、音声処理部153は、入力されたデジタルの音声信号を、スピーカ110で再生可能なフォーマットのアナログ音声信号に変換した後、スピーカ110に出力して音声再生させる。
【0027】
ここで、このデジタルテレビジョン表示装置1は、上記した各種の受信動作を含むその全ての動作を制御部156によって統括的に制御されている。この制御部156は、CPU(Central Processing Unit)等を内蔵しており、操作部116からの操作情報を受け、または、リモートコントローラ117から送出された操作情報を、受光部118を介して受信し、その操作内容が反映されるように各部をそれぞれ制御している。
【0028】
この場合、制御部156は、主として、そのCPUが実行する制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)157と、当該CPUに作業エリアを提供するRAM(Random Access Memory)158と、を利用している。
【0029】
また、制御部156は、LAN I/F164を介してLAN端子131に接続されている。これにより、制御部156は、LAN端子131を介して接続された公衆ネットワーク4を介して外部装置との情報伝送することができる。
【0030】
さらに、制御部156は、HDMI I/F162を介してHDMI端子129に接続されている。これにより、制御部156は、HDMI129に接続されたHDDレコーダ2と、HDMI I/F129を介して情報伝送することができる。
【0031】
また、制御部156は、USB I/F166を介してUSB端子133に接続されている。これにより、制御部156は、USB端子133に接続された各種機器と、USB I/F166を介して情報伝送することができる。
【0032】
図2は、本実施形態にかかる信号後処理部155の構成を示したブロック図である。図2に示すように信号後処理部155は、映像信号処理部159と、同期用遅延部202と、振幅制御用遅延部203と、振幅制御部204と、振幅検出部205と、スイッチ206と、を備える。本実施形態では、信号後処理部155が、上述した構成を備えることで、音声信号の調整を行うと共に、遅延部の削減を行うことができる。これにより、遅延時間を削減することも可能となる。
【0033】
TS復号器147a、147bは、映像/音声分離処理部250を備える。そして、映像/音声分離処理部250は、入力された信号に対して復号処理が行われる際に、映像信号と、音声信号と、に分離する。そして、映像/音声分離処理部250は、分離した映像信号を、信号処理部100及びグラフィック処理部152を介して、信号後処理部155の映像信号処理部159に入力する。一方、映像/音声分離処理部250は、分離した音声信号を、信号処理部100を介して、信号後処理部155の同期用遅延部202に入力する。
【0034】
本実施形態では、映像後処理部155に映像信号及び音声信号が入力される段階では、同期がずれていないものとする。
【0035】
振幅検出部205は、音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する。また、振幅検出部205は、入力される音声信号の振幅の尖頭値(ピーク値)、または平均値(rms値)を測定し、測定した音声信号の振幅を、振幅制御部204に伝達する。測定される音声信号の振幅は、積分時間によって異なるが、音声信号の場合、一般には数ミリ秒以下の時間を積分時間に設定する。
【0036】
振幅制御用遅延部203は、同期用遅延部202から出力された音声信号であって、振幅検出部205による検出がなされる前に分岐した音声信号に対して、振幅検出部205が振幅の検出に要する第1の遅延時間を遅延させる。これにより、振幅制御の対象となる音声信号が振幅制御部204に到達する時間が遅くなる一方、相対的に振幅検出部205に先に音声信号が到達する。よって、振幅制御部204は、これから入力される音声信号の振幅に基づいて、振幅制御することが可能となる。なお、第1の遅延時間は、振幅検出部205の積分時間等に基づいて定められる。なお、振幅制御用遅延部203は、遅延させるための構成であればよく、例えば音声信号を一時的に格納する記憶手段を用いることが考えられる。
【0037】
本実施形態では、振幅検出部205が、振幅制御部204により音声信号が入力されるより先に、当該音声信号の振幅を検出できるため、入力された音声信号を解析して未来の信号状態を予測する必要をなくすことができる。さらに、未来予測による検出処理よりも、精度の向上を図ることができる。
【0038】
振幅制御部204は、振幅検出部205により検出された振幅と対応付けられたゲインを用いて、振幅制御用遅延部203から入力される音声信号の振幅を制御する。
【0039】
図3は、本実施形態にかかる振幅制御部204による入出力振幅の制御の変化の第1の例を示した図である。図3に示す例では、入力される音声信号の振幅が横軸であり、出力される音声信号の振幅が縦軸とする。図3に示すように、振幅制御部204は、入力された音声信号の振幅が、第1の振幅閾値未満の場合に、予め定められた増幅率で、入力された音声信号の振幅を増幅する。そして、第1の振幅閾値以上の場合、入力された音声信号の振幅の増幅は行わない。なお、増幅率は、入力信号の振幅が小さいほど、大きな値が設定される。すなわち、振幅が小さい音声信号が入力された場合に振幅を増幅し、振幅が大きい音声信号が入力された場合に振幅を増幅しないことで、音声信号の振幅差を緩和できる。
【0040】
このような自動振幅調整器はブースターと呼ばれ、一般に音楽制作用途として使用されている。本実施形態にかかる振幅制御部204は、このような図示しないブースターを備えている。
【0041】
図4は、本実施形態にかかる振幅制御部204による入出力振幅の制御の変化の第2の例を示した図である。図4に示す例では、入力される音声信号の振幅が横軸であり、出力される音声信号の振幅が縦軸とする。図4に示すように、振幅制御部204は、入力された音声信号の振幅が、第2の振幅閾値以上の場合に、予め定められた抑制率で、入力された音声信号の振幅を抑制する。そして、第2の振幅閾値未満の場合、入力された音声信号の振幅の抑制は行わない。なお、抑制率は、入力信号の振幅が大きいほど、大きな値が設定される。すなわち、振幅が小さい音声信号が入力された場合に振幅の抑制を行わず、振幅が大きい音声信号が入力された場合に振幅を抑制することで、音声信号の振幅差を緩和できる。
【0042】
このような自動振幅調整器はコンプレッサーと呼ばれ、一般に音楽制作用途として使用されている。本実施形態にかかる振幅制御部204は、このような図示しないコンプレッサーを備えている。
【0043】
ところで、図3の際に説明した、振幅制御部204に含まれているブースターは入力信号の振幅差を緩和できるが、本実施形態のように振幅制御用遅延部203等を備えずに、入力される音声信号自体を、振幅の検出対象となる音声信号として使用した場合には問題が生じる場合がある。
【0044】
図5は、本実施形態にかかる信号後処理部155に入力される音声信号の振幅の第1の例を示した図である。図5に示すように、音声信号が、振幅の低い継続的に振幅の低い状態が継続した後、振幅が高い状態に変化した例とする。図5に示す例では、単一周波数のトーンバースト波(5サイクル)が入力されるものとする。
【0045】
図6は、図5に示す音声信号に対して振幅の増幅処理を行った場合の例を示した図である。図6は、振幅の増幅処理を適用した場合の入出力振幅特性を時間領域波形で示す例とする。そして、図6の(1)が、音声信号が流れる信号経路に振幅制御用遅延部203を挿入した例であり、図6の(2)が、音声信号が流れる信号経路に振幅制御用遅延部203を挿入しない、従来から用いられている例とする。そして、これらの特性差を上下のトレース線で表している。なお、振幅制御用遅延部203の有無以外の諸条件は同一とする。
【0046】
図6の(2)に示す例では、振幅が小さい音声信号が入力されると、従来の振幅制御部には高い増幅率が設定されることになる。図6の(2)に示す例では、従来の振幅検出部が、音声信号の振幅を検出してから、信号振幅制御部の増幅率を変更するまで時間差がある。
【0047】
このため、突然振幅が大きい音声信号が入力されると、振幅増幅処理の応答性が間に合わず、振幅が大きい音声信号も一定時間増幅されてしまう。そして、入力された音声信号の振幅が増幅された状態から、音声信号の振幅が増幅されない状態へと移行するまでの間、音声信号の振幅に対する増幅が継続されてしまい、出力信号の先頭部分は意図せず増幅される。このように、振幅制御用遅延部203を有さない構成で楽音を出力する場合、本来増幅すべきでない音声信号が短時間増幅されることで、突然の音量増大時に爆発音のようなノイズが短時間発生し、安定な音量感を損なうこともある。
【0048】
これに対し、本実施形態のように、振幅制御用遅延部203を備えた場合、増幅の対象となる音声信号が振幅制御部204に入力されるまで第1の遅延時間だけ遅延が生じる。この遅延の間に、振幅制御部204は、振幅検出部205により検出された振幅に従って、増幅率の調整を行うことができる。
【0049】
これにより、図6の(1)に示す例では、音声信号が出力されるまでに遅延が生じるが、出力される音声信号の先頭部分の増幅率が抑えられていることがわかる。すなわち、突発的な音量増大時にもノイズが発生せず、安定な音量感を損なわないことが確認できる。
【0050】
同様に、図4の際に説明した、振幅制御部204に含まれているコンプレッサーは入力信号の振幅差を緩和できるが、本実施形態のように振幅制御用遅延部203等を備えずに、入力される音声信号自体を、振幅の検出対象となる音声信号として使用した場合には問題が生じる場合がある。
【0051】
図7は、本実施形態にかかる信号後処理部155に入力される音声信号の振幅の第2の例を示した図である。図7に示すように、音声信号が、振幅の低い継続的に振幅の低い状態が継続した後、抑制が必要な程の振幅が高い状態に変化した例とする。図7に示す例では、単一周波数のトーンバースト波(5サイクル)が入力されるものとする。
【0052】
図8は、図7に示す音声信号に対して振幅の抑制処理を適用した場合の例を示した図である。図8は、振幅の抑制処理を適用した場合の入出力振幅特性を時間領域波形で示す例とする。そして、図8の(1)が、音声信号が流れる信号経路に振幅制御用遅延部203を挿入した例であり、図8の(2)が、音声信号が流れる信号経路に振幅制御用遅延部203を挿入しない、従来から用いられている例とする。そして、これらの特性差を上下のトレース線で表している。なお、振幅制御用遅延部203の有無以外の諸条件は同一とする。
【0053】
図8の(2)に示す例では、従来の振幅検出部が、音声信号の振幅を検出してから、信号振幅制御部の抑制率を変更するまで時間差がある。このため、信号が入力されてない状態から、急激に入力される音声信号の振幅が増大した場合、振幅の抑制処理の応答性が間に合わず、入力された音声信号の振幅を抑制しない状態から、音声信号の振幅を抑制する状態へと移行するまでの間、振幅の大きな音声信号に対して、なんら振幅の抑制がなされない状態となり、出力される音声信号の先頭部分は意図せず振幅が大きいままの状態となる。このため、振幅制御用遅延部203を備えない従来の構成で楽音を出力する場合、突然の音声信号の振幅の増大時に音量抑制が間に合わず、安定な音量感を損なうこともある。
【0054】
これに対し、本実施形態のように振幅制御用遅延部203を備えた場合、抑制の対象となる音声信号が振幅制御部204に入力されるまで第1の遅延時間だけ遅延が生じる。この遅延の間に、振幅制御部204は、振幅検出部205により検出された振幅に従って、抑制率の調整を行うことができる。
【0055】
これにより、図8の(1)に示す例では、音声信号が出力されるまでに遅延が生じるが、当該音声信号の先頭部分の抑制されていることが確認できる。すなわち、振幅の増幅処理と同様に、突発的な音量増大時にもノイズが発生せず、安定な音量感を損なわないことが確認できる。
【0056】
つまり、本実施形態にかかる信号後処理部155では、振幅制御用遅延部203を備えていることで、突発的な音量増大時にもノイズが発生せず、安定な音量感を損なわないことを可能とする。
【0057】
ところで、近年、振幅制御用遅延部203、音声信号の振幅を検出する回路、及び音声信号の振幅の制御回路を一つのコントローラ(例えばAGC(Auto Gain Controller))に内蔵し、当該コントローラ(例えばAGC)をテレビジョン放送表示装置に内蔵する技術が提案されている。図9は、従来から提案されている、音声信号に対して振幅処理を行う構成を示したブロック図である。図9に示すように、従来から提案されている技術を適用したデジタルテレビジョン表示装置300は、映像/音声分離処理部301と、映像信号処理部302と、振幅同期用遅延回路303と、同期用遅延回路304と、AGC(Auto Gain Controller)305と、音声信号処理部306と、を備えている。
【0058】
映像/音声分離処理部301は、入力された信号に対して復号処理を行い、所望の番組のデジタルの映像信号及び音声信号に分離する。その際、映像/音声分離処理部301は、本実施形態にかかるTS復号器147a及びTS復号器147bと同様の処理を行うものとする。また、音声信号処理部306も、本実施形態にかかる音声処理部153と同様の処理を行うこととする。
【0059】
映像信号処理部302は、入力されたデジタルの映像信号を、表示部120で表示可能なフォーマットのアナログ映像信号に変換する。当該変換処理には、ある程度の時間を要する。このため、音声信号に対して、何ら処理も行わないと、音声信号と映像信号との出力されるタイミングがずれることになる。そこで、同期用遅延回路304が、音声信号に対して、映像信号処理部302による処理時間だけ遅延させていた。
【0060】
AGC(Auto Gain Controller)305は、入力される音声信号のレベルに応じて、出力する音声信号のレベルを調整するための回路とする。AGC305は、入力される音声信号から検出された振幅に従って、AGC305内部の(図示しない)遅延回路が遅延させた後の音声信号の振幅を調整している。このため、映像信号に対して、何ら処理も行わないと、音声信号と映像信号との出力されるタイミングがずれることになる。そこで、振幅同期用遅延回路303が、映像信号に対して、AGC305による処理時間だけ遅延させていた。
【0061】
このように、従来から提案されているデジタルテレビジョン表示装置300では、AGC305及び振幅同期用遅延回路303、並びに映像信号処理部302及び同期用遅延回路304の、対応関係を明確にして構成した。これにより、例えば、AGC305が、音声信号に対して振幅の制御を行わない場合、デジタルテレビジョン表示装置300では、映像信号を振幅同期用遅延回路303の経由することなく出力することで、同期のタイミングを調整できる。
【0062】
よって、デジタルテレビジョン表示装置300では、音声信号用の信号経路にAGC305を追加した場合、AGC305内に遅延回路が含まれているため、図6及び図8と共に説明したように、振幅制御をする際、通常の後追い型の振幅制御と比べて、優れた応答性を有する。しかしながら、AGC305による振幅制御機能を使用しない場合、当該機能全体をバイパスすると、追加した振幅同期用遅延回路303が不要になる。
【0063】
これに対し、第1の実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1の信号後処理部155では、上述した構成を備えることで、映像信号の信号経路側に遅延回路を備える必要がなくなった。さらに、図2に戻り、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1の信号後処理部155は、以下に示す構成を備えている。
【0064】
映像信号処理部159は、入力されたデジタルの映像信号を、表示部120で表示可能なフォーマットのアナログ映像信号に変換する等の映像処理を施す。
【0065】
同期用遅延部202は、振幅検出部205と振幅制御用遅延部203とに分岐する前の音声信号に対して、映像信号処理部159が映像処理に要する時間から、振幅制御用遅延部203が遅延させる第1の遅延時間を減算した、第2の遅延時間を遅延させる。このように、同期用遅延部202が遅延させる第2の遅延時間と、振幅制御用遅延部203が遅延させる第1の遅延時間と、を合計した時間が、映像信号処理部159が映像処理に要する時間となるため、映像信号と音声信号とを同期させることができる。なお、音声処理部153及び振幅制御部204で生じる遅延はごく短時間(例えば数マイクロ秒)のため、無視できるものとする。また、同期用遅延部202は、遅延させるための構成であればよく、例えば音声信号を一時的に格納する記憶手段を用いることが考えられる。
【0066】
スイッチ206は、音声信号用の信号経路上で、振幅制御部204より出力側に配置されている。そして、スイッチ206は、振幅制御部204により振幅が制御された音声信号と、振幅制御用遅延部203により遅延させられた後且つ振幅制御部204により振幅の制御がなされる前に分岐した信号経路を辿った音声信号と、のいずれか一つを出力する信号として切り替える。
【0067】
ところで、例えば図9で示したような従来技術では、音声信号の振幅制御の機能全体(AGC305)をバイパスした場合、映像信号に対しても振幅同期用遅延回路303を介さないようにバイパスする必要があった。これに対し、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、音声信号の振幅制御の機能全体をバイパスするのではなく、振幅制御部204のみをバイパスするスイッチ206を設けることとした。その上で、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、音声信号側の遅延部を2つに分け、一方を振幅の検出を行うための振幅制御用遅延部203とし、他方を同期用遅延部202として振幅制御用遅延部203より入力側に配置した。これら2つの遅延部による合計の遅延量が、映像信号と同期するための調整時間となっている。そして、これら遅延部の間に設けられた信号経路からの音声信号で振幅を検出する一方、これら2つの遅延部の後の信号経路上で、スイッチ206が、振幅制御部204のみをバイパスしている。このため、音声信号の振幅制御の機能をオン/オフした場合であっても、音声信号側では遅延量は変化しない。このため、映像信号側では、当該振幅制御の機能のオン/オフに同期して、遅延量を調整する必要がなくなった。これにより、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、映像信号及び音声信号を同期させるために、映像信号の信号経路上に同期用の遅延回路を必要としない構成を実現した。
【0068】
次に、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1における、音声信号処理について説明する。図10は、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1における上述した処理の手順を示すフローチャートである。
【0069】
まず、信号後処理部155の同期用遅延部202は、第2の遅延時間を遅延させる(ステップS1001)。その後、音声信号用の信号経路が、音声信号を2つに分岐させる(ステップS1002)。
【0070】
そして、振幅検出部205が、分岐したうち一方の音声信号から振幅を検出し、振幅制御部204に対して検出した振幅を出力する(ステップS1003)。これにより、振幅制御部204は、入力された振幅に適した増幅率及び抑制率を設定する。
【0071】
次に、振幅制御用遅延部203が、分岐したうち他方の音声信号に対して、振幅を検出してから振幅に適した設定を行うために要する時間に相当する、第1の遅延時間だけ遅延させる(ステップS1004)。
【0072】
この第1の遅延時間及び第2の遅延時間の合計が、映像信号処理部159が映像信号に対して行う映像処理に要する時間に相当し、映像信号及び音声信号の同期が可能となる。
【0073】
その後、スイッチ206において、振幅制御を行うか否かに基づく切り替えが予め行われている(ステップS1005)。つまり、信号後処理部155が振幅制御を行わない場合(ステップS1005:No)、振幅制御部204を介さずに、音声信号が音声処理部153に出力される。
【0074】
一方、信号後処理部155が振幅制御を行う場合(ステップS1005:Yes)、スイッチ206による切替で、音声信号が振幅制御部204に入力される。そして、振幅制御部204が、音声信号に対して、振幅検出部205により検出された振幅に基づいて、振幅制御を行う(ステップS1006)。
【0075】
その後、音声処理部153が、入力された音声信号に対して、音声処理を行う(ステップS1007)。
【0076】
本実施形態では、上述した構成を、デジタルテレビジョン表示装置1に適用した例について説明した。しかしながら、適用先をデジタルテレビジョン表示装置1に限定するものではなく、例えばテレビジョン録画装置など、様々な装置に適用できる。
【0077】
本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、振幅に極端な差のある音声信号に対して自動振幅制御を行う場合に、突発的に大きな振幅が入力された場合の振幅制御の応答性を向上する。これにより、デジタルテレビジョン表示装置1では、音声信号の振幅の突発的な増大に対しても、安定な音量感を提供できる。また、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1は、音声信号の振幅の増幅処理及び抑制処理のいずれに対しても適用可能である。
【0078】
さらに、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、映像信号用の信号経路上に遅延回路を備える必要がないため、遅延回路を削減することが可能となった。これにより、構成が容易になり、コスト削減が可能となった。
【0079】
さらに、従来は、映像信号の処理に要する時間と、音声信号の振幅の検出に要する時間と、加算した時間だけ遅延が生じていた。これに対して、本実施形態にかかるデジタルテレビジョン表示装置1では、映像処理に要する時間のみ遅延が生じることになったため、従来と比べて遅延時間の短縮を可能とし、スポーツなどの生放送時等の遅延の抑止が可能となった。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1…デジタルテレビジョン表示装置、153…音声処理部、155…信号後処理部、159…映像信号処理部、202…同期用遅延部、203…振幅制御用遅延部、204…振幅制御部、205…振幅検出部、206…スイッチ、250…映像/音声分離処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号から分離された映像信号に対して、映像処理を施す映像処理手段と、
入力された信号から分離された音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出がなされる前に分岐した前記音声信号に対して、前記検出手段が前記振幅の検出に要する第1の所定時間を遅延させる振幅用遅延手段と、
前記検出手段が検出した前記振幅に従って設定したゲインを用いて、前記振幅用遅延手段から入力される前記音声信号の振幅を制御する振幅制御手段と、
前記検出手段と前記振幅用遅延手段とに分岐する前の前記音声信号に対して、前記映像処理手段が前記映像処理に要する時間から前記第1の所定時間を減算した第2の所定時間を遅延させる映像処理用遅延手段と、
を備える信号処理装置。
【請求項2】
前記振幅制御手段により振幅が制御された前記音声信号と、信号用遅延手段で遅延させられた後且つ前記振幅制御手段により前記振幅の制御がなされる前に分岐した信号線から入力された前記音声信号と、のいずれか一つを出力する信号として切り替える切替手段を、
さらに備える請求項1にかかる信号処理装置。
【請求項3】
前記振幅制御手段は、前記検出手段が検出した前記振幅が、予め定められた閾値以上であるか否かに基づいて、入力された音声信号の振幅に対する増幅処理又は抑制処理を行うこと、
を特徴とする請求項1又は2にかかる信号処理装置。
【請求項4】
入力された信号から分離された映像信号に対して、映像処理を施す映像処理手段と、
入力された信号から分離された音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出がなされる前に分岐した前記音声信号に対して、前記検出手段が前記振幅の検出に要する第1の所定時間を遅延させる振幅用遅延手段と、
前記検出手段が検出した前記振幅に従って設定したゲインを用いて、前記振幅用遅延手段から入力される前記音声信号の振幅を制御する振幅制御手段と、
前記検出手段と前記振幅用遅延手段とに分岐する前の前記音声信号に対して、前記映像処理手段が前記映像処理に要する時間から前記第1の所定時間を減算した第2の所定時間を遅延させる映像処理用遅延手段と、
前記映像処理手段により映像処理が施された前記映像信号を表示する表示手段と、
前記振幅制御手段により振幅が制御された前記音声信号を出力するスピーカと、
を備える電子機器。
【請求項5】
信号処理装置で実行される信号処理方法であって、
前記信号処理装置は、前記音声信号の信号経路上に配置され、当該音声信号に対して、振幅の検出に要する第1の所定時間を、遅延させる振幅用遅延手段と、
前記音声信号の信号経路上且つ前記振幅用遅延手段より入力側に配置され、映像信号の映像処理に要する時間から前記第1の所定時間を減算した第2の所定時間を遅延させる映像処理用遅延手段と、を備え、
映像処理手段が、入力された信号から分離された映像信号に対して、映像処理を施す映像処理ステップと、
検出手段は、前記映像処理用遅延手段で遅延された後に分離された音声信号に対して、当該音声信号の振幅を検出する検出ステップと、
振幅手段が、前記検出手段が検出した前記振幅に従って設定したゲインを用いて、前記映像処理用遅延手段及び前記振幅用遅延手段で遅延された前記音声信号の振幅を制御する振幅制御ステップと、
を含むことを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−51656(P2013−51656A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189920(P2011−189920)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】