説明

信号発生装置

【課題】所望の位相雑音が付加された信号を簡易な構成で生成できるようにする。
【解決手段】2相キャリア信号生成手段21により90゜位相が異なる2相のキャリア信号Sc、Sc′を生成し、その一方Scと雑音信号発生器23から出力される雑音信号θnとを乗算器24に入力し、その乗算器24の出力信号Aの大きさを可変減衰器25で調整しBPF26で帯域制限して、他方のキャリア信号Sc′とともに合成器27に与えて加算合成または減算合成する。この構成で、雑音信号θnの振幅がキャリア信号Scの振幅に対して十分小さければ、振幅雑音が極めて少なく、雑音信号θnに対応した位相雑音が含まれた信号Snを合成器27から出力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の位相雑音が付加された信号を簡易な構成で生成出力するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にアナログ信号に対する信号処理を行う各種装置の特性を評価する試験の一つとして、入力信号に含まれる雑音の影響をどの程度受けるかという試験がある。
【0003】
その一つであるSN比の試験では、例えば、振幅雑音成分が極めて小さいキャリア信号に雑音信号を加算して得られる信号を試験信号として対象装置に与え、キャリア信号に対する雑音信号の振幅を可変して試験信号のSN比を変化させ、対象装置の動作を調べる。
【0004】
また、対象装置が入力信号の位相の影響を大きく受けるような場合には、上記のような振幅性雑音ではなく、位相雑音が定量的に付加された試験用の信号を生成する必要がある。
【0005】
この位相雑音が付加された信号は、直交変調技術を用いて生成することができる。
即ち、図4に示すように、雑音信号の直交するベースバンド成分In、Qnを乗算器11、12にそれぞれ与えるとともに、所定周波数のキャリア信号Scをその一方の乗算器11に与え、他方の乗算器12には、キャリア信号Scを移相器13で90°移相した信号Sc′を与え、両乗算器11、12の出力を合成器14によって合成する。
【0006】
この合成器14の出力信号Snは、キャリア信号Scのキャリア周波数をf、2πf=ωとすると、次のように表される。
【0007】
Sn=In・cos(ωt)+Qn・sin(ωt)
【0008】
ここで雑音信号を周波数fの単信号とし、そのベースバンド成分をIn=sin(ωt)、Qn=cos(ωt)とすると、
Sn=sin(ωt)・cos(ωt)+cos(ωt)・sin(ωt)
=sin(ωt+ωt)
が得られる。
【0009】
上記式の最終形sin(ωt+ωt)は、周波数fの正弦波の位相がωtの信号で変調されたものを表している。
【0010】
なお、上記のように直交変調技術により、位相変調できることは、例えば特許文献1に記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開平6−152675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、実際の信号に含まれる位相雑音成分は単信号でなく、キャリア周波数の近傍で帯域を持っており、これを実現するためには、その帯域を持った雑音信号について、位相が互いに直交するベースバンド成分I、Qを生成する必要があり、例えば、数GHz以上のキャリア周波数の雑音信号を生成するためには、構成が複雑化してしまう。
【0013】
本発明は、この問題を解決して、簡易な構成で位相雑音成分を含む信号を生成することができ、また、その位相雑音成分が任意のレベルで含まれる信号を生成することができる信号発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の信号発生装置は、
キャリア信号(Sc)に所定の雑音信号(θn)が重畳された信号を発生する信号発生装置であって、
所定周波数で互いに位相が90°異なる2相のキャリア信号(Sc、Sc′)を生成する2相キャリア信号生成手段(21)と、
所定の雑音信号(θn)を発生する雑音信号発生手段(23)と、
前記2相のキャリア信号の一方(Sc)と前記雑音信号とを乗算する乗算器(24)と、
前記乗算器の出力信号(A)と前記2相のキャリア信号の他方(Sc′)とを加算合成または減算合成して、前記所定周波数で前記雑音信号に対応した位相雑音成分を含む信号(Sn)を生成する合成器(27)とを備えている。
【0015】
また、本発明の請求項2の信号発生装置は、請求項1記載の信号発生装置において、
前記合成器に入力される2信号の少なくとも一方の信号のレベルを可変するレベル可変手段(25)を設け、前記合成器から出力される信号(Sn)のCN比を可変できるようにしたことを特徴としている。
【0016】
また、本発明の請求項3の信号発生装置は、請求項1または請求項2記載の信号発生器において、
前記2相キャリア信号生成手段は、
キャリア信号を生成するキャリア信号発生器(21a)と、
前記キャリア信号発生器が生成したキャリア信号を90°移相する移相器(21b)とから構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
上記のように本発明の信号発生装置は、90゜位相が異なる2相のキャリア信号を生成し、その一方と所定の雑音信号とを乗算し、その乗算出力と他方のキャリア信号とを加算合成または減算合成するという簡単な構成で、雑音信号に対応した位相雑音成分を含む信号を生成できる。
【0018】
なお、上記構成で位相雑音成分を含む信号を生成できるためには、雑音信号の振幅がキャリア信号の振幅に対して十分小さいという条件が必須となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した信号発生装置20の構成を示す図である。
【0020】
この信号発生装置20は、位相差90゜の2相のキャリア信号Sc、Sc′を発生する2相キャリア信号生成手段21と、任意の雑音信号θnを発生する雑音信号発生器23と、一方のキャリア信号Scと雑音信号θnとを乗算する乗算器24と、乗算器24の出力信号Aに任意の減衰を与える可変減衰器25と、可変減衰器25の出力信号A′から中心周波数fで雑音信号θnと等しい帯域幅の信号成分を抽出するBPF(バンドパスフィルタ)26と、BPF26の出力信号A″と、他方のキャリア信号Sc′とを加算合成または減算合成して信号Snを出力する合成器27とを備えている。
【0021】
(第1の実施形態)
2相キャリア信号生成手段21の構成は任意であるが、この実施形態では、キャリア信号発生器21aと移相器21bとにより構成されている。
【0022】
キャリア信号発生器21aは水晶発振器またはメーザ発振器等からなり、図2の(a)のように、CN比が極めて大きい(即ち、信号純度が極めて高い)、所定周波数f、一定振幅の正弦波のキャリア信号Scを出力する。
【0023】
移相器21bは、キャリア信号発生器21aから出力されたキャリア信号Scを受け、キャリア信号Scに対して位相が90゜異なるキャリア信号Sc′を出力する。
【0024】
なお、ここでは、2相キャリア信号生成部21を、キャリア信号発生器21aと、移相量90゜の移相器21bとで構成した例を示しているが、入力信号に対して±45゜移相して出力する2相型の移相器を用いてもよく、また、入力信号を分周器で例えば4分周して90゜の位相差をもつキャリア信号Sc、Sc′を出力する構成であってもよい。
【0025】
また、雑音信号発生器23は、例えば図2の(b)のように高域程減衰するスペクトラム特性を持つ低周波の雑音信号θnを出力する。この雑音信号θnは、例えばスペクトラム特性が平坦な白色雑音信号をLPF(ローパスフィルタ)に入力することで容易に得ることができる。
【0026】
キャリア信号Scと雑音信号θnは乗算器24で乗算されるが、乗算器24が理想状態であれば、その乗算結果Aは、乗算される2信号の和の周波数成分と差の周波数成分となり、それらの成分が図2の(c)のように、キャリア周波数fの両側に対称に現れる。
【0027】
そして、乗算器24の出力信号Aが可変減衰器25に入力され、可変減衰器25で所望の減衰を受けた信号A′がBPF26に入力される。
【0028】
ここで、BPF26は、例えば図2の(c)に示しているように、キャリア周波数fを中心として雑音信号θnの帯域幅とほぼ等しい通過帯域特性を有しており、乗算器24が理想的でないことによって生じるスプリアス成分を除去する。
【0029】
BPF26の出力信号A″は合成器27に入力され、図2の(d)のようにキャリア信号Sc′と加算合成され、その合成結果が任意のレベルの位相雑音成分を含む信号Snとして出力される。
【0030】
なお、BPF26は、乗算器24と可変減衰器25の間に挿入してもよく、またスプリアスが問題にならない場合には省略することができる。
【0031】
また、上記構成では、可変減衰器25を乗算器24とBPF26の間に設けていたが、可変減衰器25を移相器22と合成器27の間に設けることで、乗算器24の出力信号Aを減衰する代わりに、移相器22から出力されるキャリア信号Sc′を減衰して、CN比を設定する構成であってもよい。
【0032】
上記構成で、任意のレベルの位相雑音成分を含む信号Snが得られる原理は、以下の数式に基づくものである。
【0033】
キャリア周波数f、2πf=ωで、位相雑音成分θnを含む正弦波の信号Snは、次式(1)で表すことができる。
【0034】
Sn=sin(ωt+θn)……(1)
【0035】
上記式(1)を展開すると、
Sn=sin(ωt)・cosθn+cos(ωt)・sinθn
となる。
【0036】
ここで、位相雑音θnの振幅が1に対して十分小さいと仮定すれば、
cosθn=1,sinθn=θn
と近似できる。
【0037】
よって、
Sn=sin(ωt)+θn・cos(ωt)……(2)
の近似式が成立する。
【0038】
上記信号発生装置20の構成は、上記式(2)にしたがって、2相のキャリア信号Sc=cos(ωt)、Sc′=sin(ωt)の一方(この例ではSc)に雑音信号θnを乗算し、その乗算結果と、他方のキャリア信号Sc′とを加算合成したものである。
【0039】
よって、この加算合成で得られる信号Snは、前記した近似条件の基で、所定周波数fのキャリア成分に雑音信号θnに対応した位相雑音が含まれた信号となる。
【0040】
別の見方をすれば、図3に示すように、Oを中心として角速度ω=2πfで一定方向(反時計回り)に回転するキャリア信号Sc′=sin(ωt)のベクトルと、それと直交する方向の微小なベクトルθn・cos(ωt)とを合成して、振幅をほとんど変えることなく位相雑音が含まれる信号Snを生成していることになる。
【0041】
なお、信号Snに含まれる位相雑音θnの大きさは、可変減衰器25の減衰量によって例えば図2の(d)の状態から(e)の状態等に任意に設定することができ、これにより、出力信号SnのCN比を任意に設定することができる。
【0042】
また、信号Snに含まれる位相雑音θnの周波数特性は、雑音信号発生器23側で任意に設定することができる。
【0043】
(第2の実施形態)
上記例では、合成器27で2信号を加算合成する場合について説明したが、減算合成した場合、出力信号Snは、次式、
Sn=sin(ωt)−θn・cos(ωt)……(3)
となる。
【0044】
ここで、−θnは、雑音信号θnの符号を反転したもの、即ち、位相の変化方向が逆になるだけで、位相変動の確率分布や周波数特性はθnの場合と実質的に変わらない。よって、減算合成であっても雑音信号θnに対応した位相雑音成分を含ませることができる。
【0045】
また、上記構成では、2相のキャリア信号のうち、位相が90°進んでいる方、つまりSc=cos(ωt)を乗算器24に与え、位相が90°遅れている方、つまりSc′=sin(ωt)を合成器27に与えていたが、これを逆にしてもよい。
【0046】
その場合、合成器27(減算合成とする)から出力される信号Snは、
Sn=cos(ωt)−θn・sin(ωt)……(4)
となる。
【0047】
ここで、前記近似の関係を用いて、上記式(4)を次式(5)のように変換できる。
Sn=cosθn・cos(ωt)−sinθn・sin(ωt)
=cos(ωt+θn) ……(5)
【0048】
上記式(5)は、式(1)の場合と実質的に同一でキャリア周波数fの正弦波を雑音信号θnで位相変調されたものを表しているから、式(4)で示される構成、即ち、キャリア信号Sc、Sc′を入れ替えた構成であっても、前記同様に位相雑音成分を含んだ信号を生成することができる。
【0049】
このように、実施形態の信号発生装置20は、90°位相が異なる2相のキャリア信号Sc、Sc′の一方と雑音信号θnを乗算した結果と、他方のキャリア信号Sc′とを加算または減算合成するという極めて簡単な構成で、位相雑音成分が付加された信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態の構成図
【図2】実施形態の動作説明図
【図3】実施形態の動作説明図
【図4】直交変調技術により位相雑音を与えるための回路図
【符号の説明】
【0051】
20……信号発生装置、21……2相キャリア信号生成手段、21a……キャリア信号発生器、21b……移相器、23……雑音信号発生器、24……乗算器、25……可変減衰器、26……BPF、27……合成器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア信号(Sc)に所定の雑音信号(θn)が重畳された信号を発生する信号発生装置であって、
所定周波数で互いに位相が90°異なる2相のキャリア信号(Sc、Sc′)を生成する2相キャリア信号生成手段(21)と、
所定の雑音信号(θn)を発生する雑音信号発生手段(23)と、
前記2相のキャリア信号の一方(Sc)と前記雑音信号とを乗算する乗算器(24)と、
前記乗算器の出力信号(A)と前記2相のキャリア信号の他方(Sc′)とを加算合成または減算合成して、前記所定周波数で前記雑音信号に対応した位相雑音成分を含む信号(Sn)を生成する合成器(27)とを備えた信号発生装置。
【請求項2】
前記合成器に入力される2信号の少なくとも一方の信号のレベルを可変するレベル可変手段(25)を設け、前記合成器から出力される信号(Sn)のCN比を可変できるようにしたことを特徴とする請求項1記載の信号発生装置。
【請求項3】
前記2相キャリア信号生成手段は、
キャリア信号を生成するキャリア信号発生器(21a)と、
前記キャリア信号発生器が生成したキャリア信号を90°移相する移相器(21b)とから構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の信号発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−199338(P2008−199338A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32992(P2007−32992)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】