説明

信号送信機、信号受信機及び多重差動伝送システム

【課題】3ビットのビット情報信号の差動伝送を3本線の信号線で実現することができ、しかも3ビット全ての状態を伝送可能であり、送信機側の差動ドライバの電圧値が適切でない場合に起こり得る誤検出を防ぐとともに差動ドライバによる消費電力を低減する。
【解決手段】多重差動伝送システムにおいて、信号送信機10は、それぞれ出力信号S11a〜S13aと反転出力信号S11b〜S13bとを送信する差動ドライバ11〜13を備え、出力信号S11a及びS13bを合成して信号線31に送信し、出力信号S12a及びS11bを合成して信号線32に送信し、出力信号S13a及びS12bを合成して信号線33に送信し、差動レシーバ21〜23の検出可能な最小電圧値がXであるとき、出力信号S11a,S12aの信号電圧Vd1と出力信号S13aの信号電圧Vd3とを、Vd1≧2X及びVd1+2X≦Vd3≦3Vd1−2Xを満たすように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号送信機、信号受信機及び多重差動伝送システムに関し、特に、3ビットのビット情報信号を3本の信号線からなる信号伝送路を介して差動伝送する多重差動伝送システムと、当該多重差動伝送システムに用いる信号送信機及び信号受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビやプラズマテレビに代表されるフラットパネルディスプレイにおいて、VGA(Video Graphics Array)からXGA(eXtended Graphics Array)へと高画質となるに従い、画像情報を転送する信号速度は高速化が進んでいる。そこで、高速デジタル・データ伝送の方法として、低振幅の差動伝送方法が用いられるようになった。
【0003】
この伝送方法は、1本の平衡ケーブルか、プリント基板上に形成された2本の信号線パターンを通じて、互いに逆相の信号を送る伝送方法である。特徴としては、低ノイズ、外来ノイズに対する強耐性、低電圧振幅、高速データ伝送などがあり、高速伝送の手法として、特にディスプレイの分野において導入が進んでいる。
【0004】
【特許文献1】特許第3507687号公報。
【特許文献2】特開平4−230147号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
差動伝送方法は、通常のシングルエンド伝送方法に比べ、上述したような高速伝送における多くのメリットを有する。しかし、1つのデータビット伝送に信号線を2本必要とするため、多ビット伝送を実現するには、信号線の数が多くなる、プリント基板上の信号線領域が大きくなる、などの問題を有していた。このため、今後更なる高速伝送を実現していく上での大きな課題となっていた。
【0006】
この課題に関して、例えば、特許文献1で示されている差動データ伝送方法では、3本線を用いて、1つの線を相補データ線として用いることで、2つのデータビット伝送を3本線(従来の差動伝送方法では4本必要)で実現し、データ信号線の削減を達成しているが、3本線を流れる信号の平衡がとれておらず、通常の差動伝送に比べて輻射ノイズが大きくなるなどの問題点があった。
【0007】
また、特許文献2では3本の信号線を用いて3ビットのビット情報信号の差動伝送を行っているが、3つ全ての差動ドライバの出力信号が異ならなければならないといった制限や、3つ全てのビットが0及び1の状態を伝送することができず、3ビット(8状態)から3つ全てのビットが0及び1の状態を除いた6状態しか伝送できないため、実使用にあたっては大きな問題点があった。
【0008】
さらに、送信機側の差動ドライバの信号電圧の値が適切でない場合、受信機側の差動レシーバに印加される電圧が差動レシーバの検出可能なしきい値電圧以下となり、誤検出が起こる可能性があった。
【0009】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、ノイズの発生を抑え、かつ更なるデータ信号線の削減を実現すべく、3ビットのビット情報信号の差動伝送を3本線の信号線で実現することができ、しかも3ビット全ての状態を伝送可能であり、送信機側の差動ドライバの電圧値が適切でない場合に起こり得る誤検出を防ぐとともに差動ドライバによる消費電力を低減する多重差動伝送システムと、当該多重差動伝送システムに用いる信号送信機及び信号受信機とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る信号送信機は、信号送信機と、信号受信機と、上記信号送信機と信号受信機との間を接続する第1、第2及び第3の信号線からなる信号伝送路とを備えた多重差動伝送システムのための信号送信機において、第1のビット情報信号に応答して、第1出力信号と、上記第1出力信号の位相反転信号である反転第1出力信号とを送信する第1の差動ドライバと、第2のビット情報信号に応答して、第2出力信号と、上記第2出力信号の位相反転信号である反転第2出力信号とを送信する第2の差動ドライバと、第3のビット情報信号に応答して、第1出力信号及び第2出力信号とは異なる信号電圧を有する第3出力信号と、上記第3出力信号の位相反転信号である反転第3出力信号とを送信する第3の差動ドライバとを備え、上記第1出力信号と上記反転第3出力信号とを合成して第1の信号線に送信し、上記第2出力信号と上記反転第1出力信号とを合成して第2の信号線に送信し、上記第3出力信号と上記反転第2出力信号とを合成して第3の信号線に送信し、前記信号受信機の差動レシーバの検出可能な最小電圧値がXであるとき、前記第1出力信号及び第2出力信号の信号電圧Vd1と、前記第3出力信号の信号電圧Vd3とを、
[数1]
Vd1≧2X
及び
[数2]
Vd1+2X≦Vd3≦3Vd1−2X
を満たすように設定したことを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る信号受信機は、上記信号送信機と、信号受信機と、上記信号送信機と信号受信機との間を接続する第1、第2及び第3の信号線からなる信号伝送路とを備えた多重差動伝送システムのための信号受信機において、上記第1の信号線と上記第2の信号線との間に接続された第1の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第1のビット情報信号として出力する第1の差動レシーバと、上記第2の信号線と上記第3の信号線との間に接続された第2の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第2のビット情報信号として出力する第2の差動レシーバと、上記第3の信号線と上記第1の信号線との間に接続された第3の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第3のビット情報信号として出力する第3の差動レシーバと、前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値以上であるか否かを判定する判定部とを備え、前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値以上であるとき、前記第1、第2及び第3差動レシーバにより第1、第2及び第3ビット情報をそれぞれ検出し、前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値未満であるとき、第3差動レシーバの検出結果のみにより、前記各ビット情報全てが0又は全てが1と判定し、前記第1、第2及び第3差動レシーバの検出可能な最小電圧値がXであることを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る多重差動伝送システムは、上記信号送信機と、上記信号受信機とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る信号送信機、信号受信機及び多重差動伝送システムによれば、ノイズの発生を抑え、かつ更なるデータ信号線の削減を実現すべく、3ビットのビット情報信号の差動伝送を3本線の信号線で実現することができ、しかも3ビット全ての状態を伝送可能であり、送信機側の差動ドライバの電圧値が適切でない場合に起こり得る誤検出を防ぐとともに差動ドライバによる消費電力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0015】
実施形態.
図1は本発明の一実施形態に係る多重差動伝送システムの構成を示すブロック図である。図1において、本実施形態に係る多重差動伝送システムは、信号送信機10と信号受信機20とが信号伝送路30を介して接続されて構成される。
【0016】
信号送信機10は、
(a)ハイレベル又はローレベルを有するビット情報信号B1に応答して、第1出力信号S11aとその位相反転信号である反転第1出力信号S11bを出力する差動ドライバ11と、
(b)ハイレベル又はローレベルを有するビット情報信号B2に応答して、第2出力信号S12aとその位相反転信号である反転第2出力信号S12bを出力する差動ドライバ12と、
(c)ハイレベル又はローレベルを有するビット情報信号B3に応答して、第3出力信号S13aとその位相反転信号である反転第3出力信号S13bを出力する差動ドライバ13とを備える。差動ドライバ11と差動ドライバ12の出力信号の2値電圧レベルは±200[mV]で等しいが、差動ドライバ13の出力信号の2値電圧レベルは±400[mV]であって、その絶対値は差動ドライバ11,12に比較して高く設定されており、差動ドライバ11,12,13はクロックCLKの立ち上がりタイミングで各出力信号を送信するように動作する。
【0017】
信号伝送路30は信号線31,32,33により構成される。ここで、差動ドライバ11からの第1出力信号S11aと、差動ドライバ13からの反転第3出力信号S13bとが合成された後、信号線31に送出される。また、差動ドライバ12からの第2出力信号S12aと、差動ドライバ11からの反転第1出力信号S11bとが合成された後、信号線32に送出される。さらに、差動ドライバ13からの第3出力信号S13aと、差動ドライバ12からの反転第2出力信号S12bとが合成された後、信号線33に送出される。
【0018】
信号受信機20は、それぞれビット情報判定器(終端電圧V1,V2,V3が負であるか否かを判断するコンパレータで構成される。)である3個の差動レシーバ21,22,23と、クロック再生回路24と、それぞれ抵抗値R1,R2,R3を有する3個の終端抵抗41,42,43と、しきい値電圧源44を有する比較器25と、比較器25からの出力信号により連動して切り替え制御される切替スイッチ26,27と、絶対値演算器28とを備えて構成される。信号線31と信号線32の間に終端抵抗41が接続され、当該終端抵抗41に流れる電流の方向又は終端抵抗41に発生する終端電圧V1の極性は差動レシーバ21により検出される。また、信号線32と信号線33の間に終端抵抗42が接続され、当該終端抵抗42に流れる電流の方向又は終端抵抗42に発生する終端電圧V2の極性は差動レシーバ22により検出される。さらに、信号線33と信号線31の間に終端抵抗43が接続され、当該終端抵抗43に流れる電流の方向又は終端抵抗43に発生する終端電圧V3の極性は差動レシーバ23により検出される。
【0019】
クロック再生回路24は、立ち上がり検出回路及びPLL回路を含んで構成され、3本の信号線31,32,33に伝送される伝送信号の立ち上がりエッジを検出することにより所定の周期を有するクロックCLKを再生して各差動レシーバ21,22,23に出力する。各差動レシーバ21,22,23は、入力されるクロックCLKの立ち上がりで後述するようにビット情報の判定を実行して、それぞれビット情報信号B1,B2,B3を出力する。
【0020】
絶対値演算器28は終端抵抗43の終端電圧V3を検出した後、その絶対値|V3|を演算して、それを示す電圧信号を比較器25の非反転入力端子(+)に出力する。比較器25は終端電圧V3の絶対値|V3|をしきい値電圧源44からのしきい値電圧Vthと比較して、|V3|>|Vth|のときハイレベルの制御信号を切替スイッチ26,27に出力することにより、切替スイッチ26,27を接点a側に切り替える一方、|V3|≦|Vth|のときローレベルの制御信号を切替スイッチ26,27に出力することにより、切替スイッチ26,27を接点b側に切り替える。各差動レシーバ21,22,23は、入力されるクロックCLKの立ち上がりで後述するようにビット情報の判定を実行して、それぞれビット情報信号B1,B2,B3を出力する。ここで、切替スイッチ26,27が接点a側に切り替えられているとき(図5のステップS11でYESのときでステップS21−S23の処理が実行される。)差動レシーバ21からのビット情報信号B1は切替スイッチ26の接点a側を介して出力され、差動レシーバ22からのビット情報信号B2は切替スイッチ27の接点a側を介して出力され、差動レシーバ23からのビット情報信号B3はそのまま出力される。一方、切替スイッチ26,27が接点b側に切り替えられているとき(図5のステップS11でNOのときでステップS12−S14の処理が実行される。)差動レシーバ23からのビット情報信号B3の判定結果(000又は111)を有するビット情報信号がビット情報信号B1,B2,B3として出力される。
【0021】
差動ドライバ11及び12の各出力信号の絶対値をそれぞれVd1及びVd2とし、差動ドライバ13の出力信号の2値信号電圧の絶対値をVd3とすると、本実施形態に係る設定条件(Vd3>Vd1=Vd2(例えば、Vd1=Vd2=200[mV];Vd3=400[mV]のとき)においては、ビット情報信号000、111とその他全部のビット情報信号を区別する方法であって、以下の条件のもとで実行できる。
(1)|Vd1|=|Vd2|
(2)|Vd3|≠|Vd1|:Vd3=Vd1のとき、ビット情報信号000,111を送ると各信号線間電位差が0になり判定不可となるため。
(3)|Vd3|≠|3Vd1|:Vd3=3Vd1のとき、ビット情報信号010,l011,100,101を送ると各信号線間電位差に0が発生し判定不可となるため。
(4)|Vd3|>|Vd1|/2:しきい値|Vth|が0以下になり判定不可となるため。
(5)|Vd1−Vd3|<|Vth|:しきい値条件である。これにより、比較器25及び絶対値演算器28でのみ判断可能となる。
【0022】
当該第1の設定例において、しきい値Vthは200[mV]<Vth<400[mV]となるように設定され、例えば、Vth=300[mV]である。
【0023】
本実施形態において、差動レシーバ21,22,23が検出可能な最小電圧値X=100[mV]であり、差動ドライバ21と差動ドライバ22の信号電圧レベルはVd1=Vd2=200[mV](=2X)で等しく、差動ドライバ23の信号電圧レベルはVd3=400[mV](=2Vd1)である。なお、電圧Vd1,Vd2,Vd3は、検出可能な最小電圧値Xに対して、次式(1)及び(2)を満たすように設定される。なお、当該明細書において、数式がイメージ入力された墨付き括弧の数番号と、数式が文字入力された大括弧の数式番号とを混在して用いており、また、当該明細書での一連の数式番号として「式(1)」の形式を用いて数式番号を式の最後部に付与して(付与していない数式も存在する)用いることとする。
【0024】
[数3]
Vd1≧2X (1)
【0025】
[数4]
Vd1+2X≦Vd3≦3Vd1−2X (2)
【0026】
図2は図1の各差動ドライバ11,12,13の出力信号S11a,S11b,S12a,S12b,S13a,S13bの信号波形を示す信号波形図である。また、図3は図1の信号伝送路30の信号線31,32,33を介して伝送する伝送信号の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3の信号波形と割り当てられるビット情報の関係を示す波形図である。各差動レシーバ21,22,23は、入力されるビット情報信号に応じて、図2に示される出力信号を出力し、このとき、入力される3ビットのビット情報信号に応じて、信号伝送路30の信号線31,32,33を介して伝送する伝送信号の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3は図3に示すようになる。
【0027】
ここで、各信号線31,32,33の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3について説明する。各信号線31,32,33には2つの差動ドライバ(11,12;12,13;13,11)からの信号電圧Vi1,Vi2が重畳される。各差動ドライバ11,12,13の内部抵抗をrとし、信号受信機20の終端抵抗41,42,43のインピーダンスをZとする(差動レシーバ21,22,23の入力インピーダンスは無限大(理想値)とする。)と、各信号線31,32,33に発生する信号電圧Vsは、次式で表される。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、r≪Zとおくことができるので、近似的に次式で表される。
【0030】
【数2】

【0031】
図4は図1の多重差動伝送システムにおいて伝送されるビット情報と、各信号線31,32,33を伝送する伝送信号の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3と、信号受信機30の各終端抵抗41,42,43の終端電圧V1,V2,V3とその極性との関係を示す図である。
【0032】
以上説明したように、1つの差動ドライバ13のみの信号電圧レベルを他の差動ドライバ11,12の信号電圧レベルと異なる値とし、全ビット補償回路を形成する回路素子25−28を具備することで、全ビットが0及び全ビットが1の場合も含めた全8状態のビット情報信号を復号することが可能である。また、信号伝送路30の各信号線31,32,33に印加される信号電圧は、いずれのビット情報信号を伝送する場合においてもトータルで0となり、各信号線31,32,33から輻射されるノイズが互いに打ち消しあうため、通常の差動伝送方法と同様にノイズの少ない伝送が可能である。
【0033】
図5は図1の多重差動伝送システムにおいて信号受信機20の各差動レシーバ21,22,23及び比較器25によって実行されるビット情報判定処理の第1の実施例を示すフローチャートである。
【0034】
図5において、まず、ステップS11において比較器25により終端抵抗43の終端電圧V3の絶対値|V3|がしきい値Vthを超えるか否かを判断する。なお、本実施形態では、|V1−V3|<|Vth|は上述のしきい値条件(|Vd1−Vd3|<|Vth|)で予め設定されている。ステップS11でNOのときはステップS12に進み一方、YESのときはステップS21に進み、各差動レシーバ21,22,23によって各終端抵抗41,42,43の終端電圧Vi(i=1,2,3)の極性が負であるか否かが判断され、YESのときはステップS22に進みビット情報信号Biに0を設定する一方、NOのときはステップS23に進みビット情報信号Biに1を設定する。そして、当該ビット情報判定処理を終了する。ステップS12において終端抵抗43の終端電圧V3が負であるか否かが判断され、YESのときはステップS13に進み全ビット情報信号B1,B2,B3に0を設定する一方、NOのときはステップS14に進み全ビット情報信号B1,B2,B3に1を設定する。そして、当該ビット情報判定処理を終了する。
【0035】
図6は図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗41の両端電圧V1との関係を示す図である。図7は図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗42の両端電圧V2との関係を示す図である。図8は図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗43の両端電圧V3との関係を示す図である。図6〜図8において、差動ドライバ11,12の信号電圧Vd1,Vd2を200[mV]として固定し、差動ドライバ13の信号電圧Vd3を200[mV]から1200[mV]まで変化させたとき、各終端抵抗41,42,43の両端電圧V1,V2,V3は、各図6〜8に示すように、ビット情報信号B1,B2,B3の値に応じて変化する。
【0036】
差動レシーバ21,22,23において電流方向を検出するためには、差動レシーバ21,22,23の非反転入力端子(+)と反転入力端子(−)間に印加される電位差が、検出可能な最小電圧値X以上である必要がある。
【0037】
図9は図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と差動レシーバ21,22,23の最小電圧の絶対値との関係を示す図である。差動レシーバ21,22,23の最小電圧は、図6〜図8に示した各終端抵抗41,42,43の両端電圧V1,V2,V3のうち最小である値と一致する。図9において、差動レシーバ21,22,23が検出可能な最小電圧値Xが100[mV]である場合を点線で示す。この場合、差動ドライバ13の信号電圧Vd3が400[mV]であるときと、800[mV]以上の範囲であるときとにおいて多重差動伝送が可能である。ここで、差動ドライバ13の信号電圧Vd3は出来るだけ小さいほうがシステム全体の消費電力を低減できるので、上記多重差動伝送が可能である値のうち最小の信号電圧は400[mV]であり、最も好ましい。
【0038】
また、図9において、別の例として、検出可能な最小電圧値Xが50[mV]の場合を1点鎖線で示す。この場合に電圧Vd1及びVd2を200[mV]とすると、上述した式に従い、電圧Vd3は、300〜500[mV]の範囲及び700[mV]以上の範囲で多重差動伝送を構築可能であり、消費電力を低減させるためには300〜500[mV]の範囲がより好ましく、300[mV]が最も好ましい。
【0039】
次に、上記式(1)及び(2)に示した検出可能な最小電圧値Xと信号電圧Vd1及びVd3との関係の算出方法について説明する。例えば、図6の関係図に基づいて考えた場合、信号電圧Vd3は、[B1,B2,B3]=000である直線と検出可能な最小電圧値Xを示す直線との交点C1から、[B1,B2,B3]=101である直線と検出可能な最小電圧値Xを示す直線との交点C2までの範囲となる。[B1,B2,B3]=000であるとき、終端抵抗41の両端電圧は電圧Vs1と電圧Vs2との差電圧である(−Vd1+Vd3)/2−(−Vd1+Vd1)/2、即ち(Vd3−Vd1)/2となり、[B1,B2,B3]=101であるとき、終端抵抗41の両端電圧は(Vd1−Vd3)/2−(−Vd1−Vd1)/2、即ち(3Vd1−Vd3)/2となる。交点C1はX=(Vd3−Vd1)/2で表され、即ち電圧Vd3は(Vd1+2X)となる。交点C2はX=(3Vd1−Vd3)/2で表され、即ち電圧Vd3は(3Vd1−2X)となる。従って、電圧Vd3は、(Vd1+2X)から(3Vd1−2X)までの範囲となり、上記式(2)が導出される。電圧Vd1は、上記式(2)からVd1+2X≦3Vd1−2Xの関係式から導出される。
【0040】
以上説明したように、本発明に係る多重差動伝送システムによれば、信号受信機20の差動レシーバ21〜23の検出可能な最小電圧値がXであるとき、差動ドライバ11及び12の各出力信号の信号電圧Vd1と、差動ドライバ13の出力信号の信号電圧Vd3とを、Vd1≧2X及びVd1+2X≦Vd3≦3Vd1−2Xを満たすように設定したので、ノイズの発生を抑え、かつ更なるデータ信号線の削減を実現すべく、3ビットのビット情報信号の差動伝送を3本線の信号線で実現することができ、しかも3ビット全ての状態を伝送可能であり、出力ドライバの電圧値が適切でない場合に起こり得る誤検出を防ぐとともに送信側の出力ドライバによる消費電力を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る信号送信機、信号受信機及び多重差動伝送システムによれば、ノイズの発生を抑え、かつ更なるデータ信号線の削減を実現すべく、3ビットのビット情報信号の差動伝送を3本線の信号線で実現することができ、しかも3ビット全ての状態を伝送可能であり、出力ドライバの電圧値が適切でない場合に起こり得る誤検出を防ぐとともに送信側の出力ドライバによる消費電力を低減することができる。
【0042】
本発明の多重差動伝送システムは、従来以上の高画質を実現するためのディスプレイ用の多ビット伝送や、小型化が必要な機器における高速伝送方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る多重差動伝送システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1の各差動ドライバ11,12,13の出力信号S11a,S11b,S12a,S12b,S13a,S13bの信号波形を示す信号波形図である。
【図3】図1の信号伝送路30の信号線31,32,33を介して伝送する伝送信号の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3の信号波形と割り当てられるビット情報の関係を示す波形図である。
【図4】図1の多重差動伝送システムにおいて伝送されるビット情報と、各信号線31,32,33を伝送する伝送信号の信号電圧Vs1,Vs2,Vs3と、信号受信機30の各終端抵抗41,42,43の終端電圧V1,V2,V3とその極性との関係を示す図である。
【図5】図1の多重差動伝送システムにおいて信号受信機20の各差動レシーバ21,22,23及び比較器25によって実行されるビット情報判定処理の第1の実施例を示すフローチャートである。
【図6】図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗41の両端電圧V1との関係を示す図である。
【図7】図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗42の両端電圧V2との関係を示す図である。
【図8】図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と終端抵抗43の両端電圧V3との関係を示す図である。
【図9】図1の多重差動伝送システムにおける差動ドライバ13の信号電圧Vd3と差動レシーバ21,22,23の最小電圧の絶対値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10…信号送信機、
11,12,13…差動ドライバ、
20…信号受信機、
21,22,23…差動レシーバ、
24…クロック再生回路、
25…比較器、
26,27…切替スイッチ、
28…絶対値演算器、
30…信号伝送路、
31,32,33…信号線、
41,42,43…終端抵抗、
44…しきい値電圧源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号送信機と、信号受信機と、上記信号送信機と信号受信機との間を接続する第1、第2及び第3の信号線からなる信号伝送路とを備えた多重差動伝送システムのための信号送信機において、
第1のビット情報信号に応答して、第1出力信号と、上記第1出力信号の位相反転信号である反転第1出力信号とを送信する第1の差動ドライバと、
第2のビット情報信号に応答して、第2出力信号と、上記第2出力信号の位相反転信号である反転第2出力信号とを送信する第2の差動ドライバと、
第3のビット情報信号に応答して、第1出力信号及び第2出力信号とは異なる信号電圧を有する第3出力信号と、上記第3出力信号の位相反転信号である反転第3出力信号とを送信する第3の差動ドライバとを備え、
上記第1出力信号と上記反転第3出力信号とを合成して第1の信号線に送信し、上記第2出力信号と上記反転第1出力信号とを合成して第2の信号線に送信し、上記第3出力信号と上記反転第2出力信号とを合成して第3の信号線に送信し、
前記信号受信機の差動レシーバの検出可能な最小電圧値がXであるとき、前記第1出力信号及び第2出力信号の信号電圧Vd1と、前記第3出力信号の信号電圧Vd3とを、
[数1]
Vd1≧2X
及び
[数2]
Vd1+2X≦Vd3≦3Vd1−2X
を満たすように設定したことを特徴とする信号送信機。
【請求項2】
請求項1記載の信号送信機と、信号受信機と、上記信号送信機と信号受信機との間を接続する第1、第2及び第3の信号線からなる信号伝送路とを備えた多重差動伝送システムのための信号受信機において、
上記第1の信号線と上記第2の信号線との間に接続された第1の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第1のビット情報信号として出力する第1の差動レシーバと、
上記第2の信号線と上記第3の信号線との間に接続された第2の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第2のビット情報信号として出力する第2の差動レシーバと、
上記第3の信号線と上記第1の信号線との間に接続された第3の終端抵抗に発生する終端電圧の極性を検出して、当該検出結果を第3のビット情報信号として出力する第3の差動レシーバと、
前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値以上であるか否かを判定する判定部とを備え、
前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値以上であるとき、前記第1、第2及び第3差動レシーバにより第1、第2及び第3ビット情報をそれぞれ検出し、前記第3終端抵抗の両端電圧がしきい値未満であるとき、第3差動レシーバの検出結果のみにより、前記各ビット情報全てが0又は全てが1と判定し、
前記第1、第2及び第3差動レシーバの検出可能な最小電圧値がXであることを特徴とする信号受信機。
【請求項3】
請求項1記載の信号送信機と、
請求項2記載の信号受信機とを備えたことを特徴とする多重差動伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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