説明

修飾されたPYY(3‐36)ペプチドおよび摂食行動における効果

本発明は式(I)の化合物;その変異体または誘導体、あるいはその塩または溶媒和物に関する。本発明はまた、食欲、栄養補給、食物摂取量、エネルギー消費量およびカロリー摂取量の抑制を目的とした、特に肥満症の治療への、前記化合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に肥満症の分野に係る食欲、栄養補給、食物摂取量、エネルギー消費量およびカロリー摂取量を制御するための物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
全米健康栄養調査(NHANES III、1988〜1994)によれば、全米の男性および女性の3分の1から2分の1が太り気味である。米国では、20歳以上の男性の60%および女性の51%が、太り気味であるか肥満である。更に、米国では子供の多くが太り気味か肥満である。
【0003】
肥満症の原因は複雑で多岐に亘る。様々な検証結果は、肥満症が単純な自己制御(セルフコントロール)の問題ではなく、食欲の制御とエネルギー代謝に関わる複雑な障害であることを示唆している。また、肥満症は罹病人口または死亡人口の増加に関係する様々な症状に関連を有する。肥満症の病因は明確に立証されていないが、遺伝的、代謝的、生化学的、文化的および心理社会的要因が寄与するものと考えられる。一般的に肥満症とは、過剰な体脂肪が個人の健康に害を及ぼす状態とされている。
【0004】
罹病率と死亡率の増加に肥満症が関わっているという強力な証拠が存在する。心血管疾患の危険性および2型糖尿病の危険性といった疾患の危険性は、ボディマス指数(BMI)の増加と無関係に増加する。実際、これらの危険性を値で表すと、BMI値がそれぞれ24.9を超える場合に、女性の心疾患の危険性を5%増加させ男性の心疾患の危険性を7%増加させる(Kenchaiah等、N.Engl.J.Med. 347:305, 2002; Massie, N.Engl.J.Med. 347:358, 2002参照)。また、肥満の人が体重を落とすことで、疾患に関わる重要な危険因子が減少するという実質証拠も存在する。太り気味の成人または肥満症の成人のいずれでも、最初の体重の例えば10%というわずかな体重減少が、高血圧、高脂血症および高血糖症のような危険因子を減少させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
節食や運動が体重の増加を抑制する単純な方法であるが、太り気味の人や肥満症の人では、たいてい、こういった要素を十分にコントロールして効率的に体重を減少させることができない。そこで薬物療法が有効である;数種類の減量薬物が米国食品医薬品局から認可を受けており、総合的減量プログラムの一端として利用可能である。しかし、これらの薬物の多くは深刻な副作用を示す。侵襲性の方法が失敗した場合、および患者が罹病または死亡に関わるような危険性の高い肥満症である場合、臨床的に深刻な肥満症である患者を慎重に選択した上で減量手術を任意に選択できる。しかし、こういった治療は危険性が高く、限られた患者にのみ実施することができる。減量を望むのは肥満症の患者だけではない。推奨範囲の体重の人、例えば推奨範囲の上限側の人は、体重を減らして理想体重に近づけたいと考えているであろう。従って、太り気味の人や肥満症の人が効率的に減量できる薬物が必要とされている。
【0006】
WO03/026591には、ペプチドYY(以下PYYと記載する)、またはその作用薬を被験者に末梢投与すると、食物摂取量、カロリー摂取量および食欲が低下し、エネルギー代謝が変化することが記載されている。PYYまたはその作用薬は、N末端の欠失したPYY分子であるPYY3~36が好ましいと記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(I):
【0008】
【化2】

【0009】
の化合物、その変異体または誘導体;あるいはその塩または溶媒和物を提供する。
【0010】
本発明はまた、式(I)の化合物の使用、式(I)の化合物の使用方法、式(I)の化合物を含む組成物、および式(I)の化合物の製法を提供する。
シークエンスリスト
明細書に列挙するアミノ酸配列は、アミノ酸の一般的な略字を使用して記載している。
用語
開示する様々な実施例を検討し易いように、以下に特殊用語を説明する。
【0011】
動物:生きている多細胞脊椎動物であり、分類としては例えば哺乳動物および鳥類を含む。哺乳類という用語には、人および人以外の哺乳動物の両方が含まれる。同様に、“被験者”という用語には、人間の被験者および獣医学的な被験動物の両方が含まれる。
【0012】
食欲:食物に対する自然な欲求または欲望。1つの実施例では、食物に対する欲求を評価する調査により食欲を測定する。食欲が増進すると、通常、摂食行動が増える。
【0013】
食欲抑制剤:食物に対する欲求を抑える化合物。市販の食欲抑制剤には、アンフェプラモン(ジエチルプロピオン)、フェンテルミン、マジンドールおよびフェニルプロパノールアミン、フェンフルラミン、デキシフェンフルラミン、およびフルオキセチンが含まれるが、これらに限定しない。
【0014】
ボディマス指数(BMI):ボディマスを測定するための数式であり、ケトレー指数と称されることもある。BMIは体重(kg)を身長2(m2)で割って計算される。男性も女性も“標準”とされる現行の基準値は、BMI 20〜24.9kg/m2である。1つの実施例では、25kg/m2を超えるBMI値であれば肥満患者と見なすことができる。肥満度Iは、BMI 25〜29.9kg/m2に相当する。肥満度IIは、BMI 30〜40kg/m2に相当し;肥満度IIIは、BMI 40kg/m2より上に相当する(Jequier, Am.J Clin.Nutr. 45:1035~47, 1987)。理想体重は、身長、体格、骨構造および性別に基づき、種および個体よって異なると考えられる。
【0015】
保存的置換:ポリペプチド内でアミノ酸残基を別の生物学的に同等の残基に置換すること。“保存的変異”という用語には、置換アミノ酸、すなわち元のアミノ酸の代わりに別の原子または基で置換された1つまたは複数の原子を有するアミノ酸の使用も含まれるが、置換ポリペプチドを増加させる抗体が非置換ポリペプチドとも免疫反応を示すことが条件である。
【0016】
糖尿病:インシュリンの内因的な欠損症および/またはインシュリン感受性の異常のいずれかの理由で、細胞が内在グルコースを膜通過させることができない状態。糖尿病は、インシュリンの分泌が不十分かまたは標的組織がインシュリン耐性であるために、炭水化物、たんぱく質および脂肪の代謝が異常となる慢性疾患である。糖尿病には2つの主要な形態:インシュリン依存型糖尿病(IDDM、I型)およびインシュリン非依存型糖尿病(NIDDM、II型)が存在し、病因、病理、遺伝的性質、発症年齢および治療法が異なっている。
【0017】
糖尿病の2つの主要な形態は両方とも、グルコースのホメオスタシスを制御するのに必要な量および適当な時点でインシュリンを輸送することができないという特徴を有する。I型糖尿病つまりインシュリン依存型糖尿病(IDDM)は、β細胞が破壊されて内在インシュリンのレベルが不足することに起因する。II型糖尿病つまりインシュリン非依存型糖尿病は、インシュリンに対する体の感受性の異常およびインシュリン産生能の相対的な欠如の両方が原因である。
【0018】
食物摂取量:個体が摂取する食物量のこと。食物摂取量は体積または重量で測定できる。例えば、食物摂取量は、個体が摂取する食物の総量で表わすことができる。あるいは、食物摂取量は、個体が摂取するたんぱく質、脂肪、炭水化物、コレステロール、ビタミン、ミネラルまたは別の食物成分の量で表すことができる。“たんぱく質摂取量”とは個体が摂取するたんぱく質の量を意味する。同様に、“脂肪摂取量”“炭水化物摂取量”“コレステロール摂取量”“ビタミン摂取量”および“ミネラル摂取量”とは、個体が摂取する脂肪、炭水化物、コレステロール、ビタミンおよびミネラルの量を意味する。
【0019】
過分極:細胞の膜電位の低下のこと。抑制性神経伝達物質は過分極を介する神経インパルスの伝達を阻害する。この過分極は抑制性シナプス後電位(IPSP)と称される。細胞の閾値電圧は変化しないが、過分極細胞が閾値に達するにはより強力な興奮性の刺激が必要である。
【0020】
通常の1日分の食事量:特定種の個体が摂取する平均食物摂取量のこと。通常の1日分の食事量は、カロリー摂取量、たんぱく質摂取量、炭水化物摂取量、および/または脂肪摂取量として表示することができる。人間の通常の1日分の食事量として、一般的に、以下のものが含まれる:約2000カロリー、約2400カロリー、約2800から有意にそれ以上のカロリー。更に、人間の通常の1日分の食事量には、一般的に、約12g〜約45gのたんぱく質、約120g〜約610gの炭水化物、約11g〜約90gの脂肪が含まれる。低カロリー食は、人間の通常カロリー摂取量の約85%を下回り、有利には約70%を下回る。
【0021】
動物では、カロリーおよび栄養素の要求量が、その動物の種類および大きさに応じて変化する。例えば、猫の場合、1ポンドあたりの総カロリー摂取量およびたんぱく質、炭水化物および脂肪の%範囲は、猫の年齢や生殖能に伴い変化する。猫の一般的な基準は、40cal/lb/日(18.2cal/kg/日)である。約30%〜約40%をたんぱく質から、約7%〜約10%を炭水化物から、約50%〜約62.5%を脂肪から摂取すべきである。当業者は任意の種の個体の通常の1日分の食事量を容易に特定できる。
【0022】
肥満症:過剰な体脂肪が人の健康に害を及ぼす状態のこと(BarlowおよびDietz, Pediatrics 102: E29, 1998; National Institutes of Health, National Heart, Lung, and Blood Institute(NHLBI), Obes. Res. 6 (suppl. 2): 51S~209S, 1998参照)。エネルギー摂取量とエネルギー消費量のバランスが崩れて体脂肪が過剰となる。例えば、肥満症の評価にボディマス指数(BMI)を利用してもよい。よく利用される規定範囲の1つとして、BMIが25.0kg/m2〜29.9kg/m2であれば太り気味、BMIが30kg/m2であれば肥満症である。
【0023】
別の規定として、肥満症の評価に胴回り寸法を利用する。この規定では、男性の胴回りが102cmを超えると肥満と見なされ、女性の胴回りが89cmを超えると肥満と見なされる。確たる証拠により、肥満が罹病率と死亡率の両方に影響を及ぼすことが分かっている。例えば、肥満症の個体は、心疾患、インシュリン非依存型糖尿病(II型)、高血圧、脳卒中、癌(例えば子宮内膜癌、肺癌、前立腺癌および大腸癌)、異脂肪血症(dyslipidemia)、胆嚢疾患、睡眠時無呼吸症、生殖能の低下症、変形性関節症、その他の疾患の危険性が高い状態にある(Lyznicki等, Am.Fam. Phys. 63: 2185, 2001参照)。
【0024】
太り気味(オーバーウェイト):理想体重を上回る体重を示す個体のこと。太り気味の個体は肥満の可能性があるが、必ずしも肥満症ではない。例えば、太り気味の個体とは、減量を望む任意の個体を指す。1つの規定では、太り気味の個体とは、BMIが25.0kg/m2〜29.9kg/m2の個体である。
【0025】
ポリエチレングリコール化(Pegylated)およびポリエチレングリコール付加(pegylation):ポリ(アルキレングリコール)、有利には活性化ポリ(アルキレングリコール)を反応させて共有結合を得る方法。例えばリシンのようなアミノ酸を促進剤として使用することができる。“ポリエチレングリコール付加”は、多くの場合、ポリ(エチレングリコール)またはその誘導体、例えばメトキシポリ(エチレングリコール)を使用して実施されるが、本明細書において、この用語は、メトキシポリ(エチレングリコール)の使用に限定されず、任意の有用なポリ(アルキレングリコール)、例えばポリ(プロピレングリコール)の使用も含んでいる。
【0026】
ペプチドYY(PYY):本明細書で使用される用語PYYとは、ペプチドYYポリペプチドを意味し、これは小腸下部(回腸)および大腸に沿って存在する細胞により血液に分泌されるホルモンである。
【0027】
末梢投与:中枢神経系以外からの投与のこと。末梢投与には脳への直接投与は含まれない。末梢投与には、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、吸入投与、経口投与、直腸内投与、経皮吸収投与または鼻腔内投与が含まれるが、これらに限定しない。
【0028】
ポリペプチド:単量体がアミド結合を介して結合するアミノ酸残基である重合体のこと。アミノ酸がα―アミノ酸であれば、L−光学異性体またはD−光学異性体のいずれかを使用してよく、好ましいのはL−異性体である。本明細書で使用される用語“ポリペプチド”または“たんぱく質”は、任意のアミノ酸配列を包括し、糖たんぱく質のような修飾配列も含んでいる。用語“ポリペプチド”は、特に、天然たんぱく質および組み換えまたは合成により産生されたたんぱく質を包む。用語“ポリペプチド断片”は、ポリペプチドの一部を意味し、例えばレセプタに結合するのに有効な少なくとも1つの配列を有する断片である。用語“ポリペプチドの機能性断片”とは、ポリペプチドの活性を保持する全てのポリペプチド断片を意味する。生物学的に機能性のペプチドには融合たんぱく質が含まれてよく、これは目的のペプチドを所望の活性を低下させない別のペプチドと融合させたものである。
【0029】
治療有効量:疾患の進行を食い止めるかまたは疾患を退縮させるのに十分な量、疾患の徴候または症状を緩和できる量、または所望の結果が得られる量のこと。幾つかの実施例では、本発明の化合物の治療有効量は、体重の増加を抑制するかまたは一時的に停止させるのに十分な量、食欲を低下させるのに十分な量、カロリー摂取量または食物摂取量を減少させるかエネルギー消費量を増加させるのに十分な量のことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
上述のように、本発明は式(I):
【0031】
【化3】

【0032】
の化合物とその変異体または誘導体;あるいはその塩または溶媒和物を提供する。
【0033】
式(I)で表される本発明の化合物は、PYY3~36に関連し、PYY誘導体分子の3位にD−allo−イソロイシンを有する。従って、この化合物をD−allo−Ile3PYY3~36と称することもできる。未変性ヒトPYYでは、イソロイシンが3位に存在する。D−allo−Ile3PYY3~36をラットに特定量投与すると、通常のヒトPYY3~36(前記の3位にイソロイシンを有するPYY3~36)を同量で投与する場合と比べて、食物摂取量が大幅に低下することが判明した。30μg/kgのD−allo−Ile3PYY3~36をラットまたはマウスに投与すると、未変性PYY3~36 100μg/kgと同等の食物摂取量の低下が認められることも分かった。
【0034】
D−allo−Ile3PYY3~36が食物摂取量の低下に、より持続的な効果を有することも判明した。これまでに実施されたマウスやラットの実験では、D−allo−Ile3PYY3~36が、0〜4時間の期間全体に亘って、未変性PYY3~36よりも大幅に食物摂取量を低下させることが分かった。“離脱(escape)”として知られる状態を避けるには、食欲抑制時間を延長することが特に重要であると思われる。短時間型の食欲抑制剤は、1食分の時間だけ食欲を低下させることができ、通常、その食事において被験者はあまり食物を摂取しない。しかし、食欲抑制剤が代謝されたり別の方法で被験者の循環系から除かれた場合は、次の食事時間までに被験者は“いつもの”食欲を回復する。前回の食事時間に僅かな食事しか食べていない被験者は、実際、2回目の食事時間までに食欲が増進しているはずである。被験者が食欲を満たすと、2回の食事を合わせた食物摂取量が、食欲抑制剤を投与しない場合の食物摂取量と比べてもそれほど低下していない可能性もある。すなわち、被験者は食欲抑制剤の効果から“離脱”すると考えられる。食欲抑制剤を追加投与するかまたは作用時間の長い食欲抑制剤を利用することで、“離脱”を低減することができる。被験者がより長時間食欲を抑制されれば、個々の食事における食物の総合的許容摂取量に事実上の限界があるので、1回目の食事で摂取できなかった食料がもたらし得る2回目の食事への欲求の程度が低下する。
【0035】
好ましくは、PYY4~36はヒトPYY4~36である。
【0036】
ヒトの全長PYYポリペプチドをSEQ ID NO:1に示す;ヒトPYY4~36をSEQ ID NO:2に示す。下付き数字は種の全長PYY分子の問題となる位置を意味し、N末端が始まりである。従って、PYY4~36はN末端のアミノ酸1〜3が欠損したペプチドPYY分子である。本明細書に記載される別の断片やPYY変異体でも同様に付番される。
【0037】
本発明の分子のPYY4~36は、ヒト以外の種に由来するPYYであってもよく、あるいはそのようなPYYに関連を有していてもよい。例えばラットやブタのPYYも含む様々な種のPYY配列を表1(SEQ ID NO:3〜10)に示す。本発明の分子のPYY4~36はこれらの配列のいずれでもよい。
【0038】
【表1】

【0039】
PYY3~36と同様に、本発明の化合物は一般的にY2レセプタに選択性である。従って、本発明の化合物は、Y1、Y3、Y4、Y5およびY6のような別のレセプタよりもY2に高い親和性を持って結合する。これらのレセプタは、結合親和性、薬理作用および配列(知られていれば)を基に識別される。これらのレセプタの全てではないにしろほとんどがGたんぱく質結合レセプタである。Y1レセプタは一般的にシナプス後部のレセプタであり、末梢で神経ペプチドYの様々な既知作用を媒介する。本来このレセプタは、神経ペプチドYのC末端断片、例えば13〜36断片に対する親和性が乏しいとされてきたが、神経ペプチドYの全長およびペプチドYYと同等の親和性で相互作用する(PCT明細書WO93/09227参照)。
【0040】
薬理学的に、神経ペプチドYのC末端断片に対して親和性を示すかどうかで、Y2レセプタをY1と区別する。Y2レセプタは神経ペプチドY(13〜36)の親和性により大きく差別化されるが、神経ペプチドYの3〜36断片およびペプチドYYはより強い親和性と選択性を示す(Dumont等, Society for Neuroscience Abstracts 19: 726, 1993参照)。Y1およびY2レセプタの両方を介するシグナル伝達は、アデニル酸シクラーゼの阻害につながる。Y2レセプタへの結合は、N型カルシウムチャネルを選択的に阻害することにより、シナプスの細胞内カルシウムレベルを低下させることも知られている。更にY2レセプタは、Y1レセプタと同様に、第2メッセンジャーへ特異的に結合する(米国特許第6,355,478号参照)。Y2レセプタは、海馬、黒質−外側部、視床、視床下部および脳幹のような脳の様々な領域に存在する。ヒト、マウス、サルおよびラットのY2レセプタはクローン化されている(米国特許第6,420,352号および米国特許第6,355,478号参照)。
【0041】
変異体:
PYY4~36は未変性PYY4~36の変異体であってよく、例えば未変性ヒトPYY4~36の変異体である。本発明において、変異体には、変異していないヒトPYY4~36分子に相当する活性を少なくともある程度保持し、欠失、挿入、逆位、反復および置換(例えば、保存的置換および非保存的置換;以下の表2参照)を伴うPYY4~36分子が含まれる。複数のアミノ酸(例えば2つ、3つまたは4つ)が欠失または挿入されてよく、別のアミノ酸で置換されてもよい。従って、式(I)の化合物であるPYY4~36は未変性PYY4~36配列の少なくとも29個のアミノ酸を含有するのが好ましい。本発明の分子では、未変性PYY4~36のC末端の6個のアミノ酸が全て存在するのが好ましい。
【0042】
一般的に保存的置換は、脂肪族アミノ酸であるAla、Val、LeuおよびIle間の相互置き換え;ヒドロキシ基を有するSerおよびThrの交換、酸性基を有するAspおよびGluの交換、アミド基を有するAsnおよびGlnの交換、塩基性基を有するLysおよびArgの交換、芳香族基を有するPheおよびTyrの交換、小さなアミノ酸であるAla、Ser、Thr、MetおよびGlyの交換である。表現型的にサイレントなアミノ酸置換、すなわち発現する表現型は変化しない置換をいかに形成するかの指針はBowie等(Science 247: 1306~1310, 1990)が記載している。
【0043】
【表2】

【0044】
PYY4~36変異体には、更に、ある種のPYY4~36の1つまたは複数のアミノ酸(例えば2つ、3つまたは4つ)を別の種に由来するPYYの同じ位置に存在するアミノ酸と置換することで得られる変異体が含まれる。様々な種のPYY配列は先の表1に記載されている。特に、ヒトPYY4~36の変異体には、ヒトPYY4~36の1つまたは複数のアミノ酸(例えば、2つ、3つまたは4つ)を別の種に由来するPYYの同じ位置に存在するアミノ酸と置換することで得られる変異体が含まれる。
【0045】
誘導体:
本発明の化合物は、アミド化、グリコシル化、カルバミル化、アシル化、例えばアセチル化、硫酸化、リン酸化、環化、リピド化、ポリエチレングリコール付加といったよく知られた方法で修飾された式(I)の構造を含む。式(I)の構造は分子内の無作為な位置でまたは分子内の予め決められた位置で修飾されていてもよく、1つ、2つ、3つまたはそれ以上の化学成分が結合していてよい。
【0046】
本発明の化合物は融合たんぱく質であってよく、この際、式(I)の構造は、従来公知の組み換え法により、別のたんぱく質またはポリペプチド(融合相手)と融合される。また、このような融合たんぱく質は、公知の合成法を用いて合成されてよい。このような融合たんぱく質は、式(I)の構造を含む。任意の好適なペプチドまたはたんぱく質を融合相手として使用することができる(例えば、血清アルブミン、炭酸脱水素酵素、グルタチオン−S−トランスフェラーゼまたはチオレドキシン等)。好ましい融合相手は、in vivoにおいて生物学的反作用を示さないと考えられる。このような融合たんぱく質は、融合相手のカルボキシ末端を式(I)構造のアミノ末端へ結合させることで形成でき、その逆も同様である。また、式(I)の構造を融合相手と結合させるのに、切断可能なリンカーを利用してもよい。得られる切断可能な融合たんぱく質は、in vivoで切断されて、本発明の化合物の活性形を放出する。このような切断可能なリンカーの例として、リンカーD−D−D−D−Y、G−P−R、A−G−GおよびH−P−F−H−Lが含まれるが、これらに限定されず、前記切断可能リンカーは、それぞれ、エンテロキナーゼ、トロンビン、ユビキチン切断酵素およびレニンで切断できる。米国特許第6,410,707号参照。
【0047】
本発明の化合物は、式(I)の構造を有する生理学的機能性誘導体であってよい。本明細書で使用される用語“生理学的機能性誘導体”とは、式(I)の非修飾化合物と同一の生理学的機能を有する式(I)の化合物の化学的誘導体である。例えば、生理学的機能性誘導体は、体内で、式(I)の化合物へ転換可能である。本発明によれば、生理学的機能性誘導体には、エステル、アミドおよびカルバメートが含まれ;エステルおよびアミドが好ましい。
【0048】
製薬学的に認容性である本発明の化合物のエステルおよびアミドには、適当な部位、例えば酸基で結合する、C1~6アルキル−、C5~10アリール−、C5~10アル−C1~6アルキル−、またはアミノ酸−エステルまたはアミノ酸−アミドが含まれる。
【0049】
アシル側鎖は、その親油性により該成分がアルブミンと結合し、被験者からのクリアランス速度を大きく低下させるので、半減期および有効期間が延長するという利点を有すると考えられる。アシル側鎖は低分子アシル、例えばC1~9アシル、特にC1~6アシルでよいが、C4〜C40アシルが好ましく、特にC8~25アシル、更に特にC16アシルまたはC18アシルが好ましい。アシル側鎖としてパルミトイルが特に好ましく、ラウロイルも同様である。アシル側鎖はペプチド主鎖の任意の位置に付加されてよい。アシル置換基は、アシル置換基のカルボキシル基がアミノ酸残基のアミノ基と結合してアミド結合を形成するようにして、アミノ酸残基へ結合することができる。また、アシル置換基は、アシル置換基のアミノ基がアミノ酸残基のカルボキシル基とアミド結合を形成するようにして、アミノ酸残基へ結合することができる。更に好ましい実施例では、本発明は、スペーサーを介してアシル置換基が親ペプチドへ結合したPYY誘導体に関する。例えば、アシル置換基はスペーサーを介してPYY成分へ結合してよく、この際、スペーサーのカルボキシル基がPYY成分のアミノ基とアミド結合を形成する。ペプチド主鎖のリシン残基が存在する位置にアシル側鎖が(任意にスペーサーを介して)結合するのが特に好ましい。というのも、末端がε−アミノ基である4つの炭素原子側鎖を有するリシンは、アシル側鎖を特に容易に付加できるからである。アシル側鎖を付加するのに適する部位を形成するためだけに、リシン残基を配列に導入しなければならないこともある。また、アシル側鎖をペプチド合成の前にリシン残基へ付加してもよく、こうすれば適当な合成工程でアシル側鎖が組み込まれて直接アシル化が起きる。目的とする特定のリシンだけがアシル化されるような選択的条件を付ける必要がなくなるで、ペプチド配列が複数のリシン残基を含む場合に、この方法は都合がよい。ペプチド誘導体は、好ましくは3つの、より好ましくは2つの、最も好ましくは1つのアシル側鎖置換基を有する。アシル基(およびその他の親油性置換基)、これをペプチドに結合させる手段および特殊合成法(スペーサーの使用有りまたは無しで)の例が、米国特許第6,268,343号および米国特許第6,458,924号に記載されている。
【0050】
製薬学的に認容性の式(I)の化合物のアミドおよびカルボネートには、適当な位置、例えばアミノ基に結合する、C1~6アルキル−、C5~10アリール−、C5~10アル−C1~6アルキル−、あるいはアミノ酸−エステルまたはアミノ酸−アミド、またはアミノ酸−カルバメートが含まれる。
【0051】
脂肪酸誘導体を伴うメルカプト(sulfhydryl)含有化合物のリピド化(lipidization)法は米国特許第5,936,092号;米国特許第6,093,692号;および米国特許第6,225,445号に記載されている。ジスルフィド結合を介して脂肪酸へ結合する本発明の化合物を含む、本発明の化合物の脂肪酸誘導体を使用して、本発明の化合物を神経細胞および組織へ輸送することができる。リピド化により本発明の化合物の吸収は、対応するリピド化されていない化合物の吸収速度と比べて大幅に増加し、化合物の血中および組織滞留時間が延長される。更に、リピド化された誘導体中のジスルフィド結合は細胞内で比較的不安定であるため、脂肪酸成分から分子が細胞内に遊離し易い。好適なリピド−含有成分は、炭素原子を4〜26個有する、好ましくは炭素原子を5〜19個有する疎水性置換基である。好ましいリピド基には、パルミチル(C1531)、オレイル(C1529)、ステアリル(C1735)、コール酸塩;およびデオキシコール酸が含まれるが、これらに限定しない。
【0052】
環化法には、ジスルフィド結合を形成することによる環化と環化レジン(cyclization resin)を利用した頭−尾型環化が含まれる。環化されたペプチドは、安定性が向上し、酵素切断に対してより強力な耐性を有し、それにより配座が制約されると考えられる。環化は、非環化ペプチドがN末端にシステイン基を有する場合に特に有利である。好適な環化ペプチドは1つまたは複数の付加的な残基を含み、特にジスルフィド結合を形成するために組み込まれる付加的なシステインまたはレジンを用いる環化のために組み込まれる側鎖を含む。
【0053】
本発明の化合物は式(I)のポリエチレングリコール付加体であってよい。ポリエチレングリコール化された本発明の化合物は、ポリペプチドの溶解性や安定性を向上させ、循環時間を延長し、免疫抗原性を低下させる(米国特許第4,179,337号参照)。
【0054】
本発明の化合物の誘導体形成に関する化学成分は、水溶性ポリマー、例えばポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコールおよびその類似物から選択されてもよい。本発明の化合物の誘導体形成に関するポリマー成分は、任意の分子量を有し、分枝または非分枝のポリマーであってよい。取り扱いや製造を容易にするために、本発明の化合物の誘導体形成ではポリエチレングリコールの好ましい分子量は約1kDa〜約100kDaであり、“約”という用語については、ポリエチレングリコールの調製に際し、幾つか分子が記載の分子量よりも大きいかまたは小さいであろうことを意味している。所望される治療内容、例えば所望される持続放出時間、任意の生物学的活性に関する効果、扱い易さ、抗原性の度合いまたは抗原性の欠如、治療性のたんぱく質または類似体に対するポリエチレングリコールのその他の公知の効果に応じて、別の分子量を有するポリマーを使用してもよい。例えば、ポリエチレングリコールの平均分子量、約200、500、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、5,500、6,000、6,500、7,000、7,500、8,000、8,500、9,000、9,500、10,000、10,500、11,000、11,500、12,000、12,500、13,000、13,500、14,000、14,500、15,000、15,500、16,000、16,500、17,000、17,500、18,000、18,500、19,000、19,500、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000、50,000、55,000、60,000、65,000、70,000、75,000、80,000、85,000、90,000、95,000または100,000kDaとすることができる。
【0055】
薬剤への使用に適する本発明の化合物の塩および溶媒和物は、対イオンまたは対応する溶媒が製薬学的に認容性のものである。しかし、製薬学的に認容性でない対イオンまたは対応する溶媒を有する塩および溶媒和物も、例えば、式(I)の化合物およびその製薬学的に認容性の塩または溶媒和物を製造する際の中間体として使用する場合、本発明の範疇と言える。
【0056】
本発明に適する塩は、有機または無機の酸または塩基を用いて形成されるものである。製薬学的に認容性の酸付加塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、クエン酸、酒石酸、酢酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、コハク酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、オキサル酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびイセチオン酸を用いて形成されるものが含まれる。シュウ酸のような他の酸は、それ自体は製薬学的に認容性でないが、本発明の化合物およびその製薬学的に認容性の塩を製造する際の中間体として有用であると考えられる。塩基を用いる製薬学的に認容性の塩には、アンモニウム塩、例えばカリウム塩およびナトリウム塩などのアルカリ金属塩、例えばカルシウム塩およびマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、および、例えばジシクロヘキシルアミンおよびN−メチル−D−グルコミンなどの有機塩基、を用いる塩が含まれる。
【0057】
有機化学の分野を専門とする当業者であれば、多くの有機化合物が溶媒と複合体を形成し、複合体が溶媒中で反応するかまたは溶媒から析出したり晶析したりすることを認識しているであろう。このような複合体は“溶媒和物”として知られる、例えば、水との複合体は“水和物”である。本発明は、本発明の化合物の溶媒和物を提供する。
【0058】
症状:
本発明は式(I)の化合物を含む医薬品を提供する。本発明は更に薬剤として使用するための式(I)の化合物を提供する。
【0059】
本発明はまた、肥満症または糖尿病の治療に使用するための式(I)の化合物を提供する。本発明は更に、被験者の食欲を低下させるのに使用する、被験者の食物摂取量を低下させるのに使用する、または被験者のカロリー摂取量を低下させるのに使用する式(I)の化合物を提供する。
【0060】
本発明は更に、肥満症または糖尿病の治療薬を製造するための式(I)の化合物の使用に関する。本発明はまた、被験者の食欲を低下させる薬剤、被験者の食物摂取量を低下させる薬剤、または被験者のカロリー摂取量を低下させる薬剤を製造するための式(I)の化合物の使用に関する。
【0061】
本発明は更に、治療を要する被験者に式(I)の化合物を有効量で投与して、被験者の肥満症または糖尿病を治療する方法を提供する。本発明はまた、式(I)の化合物を有効量で被験者に投与することから成る、被験者の食欲を低下させる方法、被験者の食物摂取量を低下させる方法、被験者のカロリー摂取量を低下させる方法を提供する。
【0062】
化合物を投与される被験者は、太り気味、例えば肥満症であってよい。それとは別に、あるいは更に、被験者は、インシュリン耐性のまたはグルコース不耐性の糖尿病、あるいはその両方の糖尿病であってよい。被験者は糖尿病であってよく、例えば被験者はII型糖尿病であってよい。被験者は太り気味、例えば肥満症であってよく、糖尿病、例えばII型糖尿病であってよい。
【0063】
加えて、またはそれとは別に、被験者は肥満症または太り気味の症状が危険因子となる疾患に罹患しているか、罹患の危険性を有していてよい。このような疾患には、心血管疾患、例えば、高血圧、アテローム性動脈硬化症、うっ血性心不全、および異脂肪血症;脳卒中;胆嚢疾患;変形性関節症;睡眠時無呼吸症;生殖機能障害、例えば、多のう胞性卵巣症候群;癌、例えば肺癌、前立腺癌、大腸癌、子宮内膜癌、腎癌および食道癌;静脈瘤;黒色表皮腫;湿疹;運動不耐症;インシュリン耐性;高血圧;高コレステロール血症;胆石症;変形性関節炎;整形外科的障害;インシュリン耐性、例えばII型糖尿病およびX症候群;および血栓塞栓症が含まれるが、これらに限定しない(Kopelman, Nature 404: 635~43; Rissanen等, British Med. J. 301, 835, 1990参照)。
【0064】
肥満症に関連する別の疾患には、うつ病、不安症、パニック発作、偏頭痛、PMS、慢性的疼痛、線維筋痛症(fibromyalgia)、不眠症、衝動性、強迫観念的異常、筋クロヌース症(myoclonus)が含まれる。更に、肥満症は、一般的な無感覚症の併発を増加させる危険因子であることが知られている(Kopelman, Nature 404: 635~43, 2000参照)。一般的に、肥満症は寿命を縮め、前記のような疾患に同時に罹患する重大な危険性をもたらす。
【0065】
肥満症に関連する別の疾患または障害は、先天的欠損症、神経管の欠損の発症率を高める母体の肥満症、手根管症候群(CTS);慢性静脈不全(CVI);昼間眠気;深部静脈血栓症(DVT);末期腎疾患(ESRD);痛風;心疾患;免疫応答障害;呼吸機能障害;不妊症;肝臓病;背下部痛;産婦人科系の合併症;膵炎;および腹部ヘルニア;黒色表皮腫(acanthosis nigrican);内分泌系異常;慢性の低酸素症および高炭酸ガス症;皮膚への影響;象皮症;胃食道逆流;踵骨棘(heel spur);下肢の浮腫;ブラジャーのひもによる痛み、皮膚損傷、頚部痛、乳房下部のひだ状に重なり合った皮膚からの慢性的な臭気および前記皮膚への感染症、等の数多くの問題を生じさせる乳房肥大症(mammegaly);前側の腹壁塊(anterior abdominal wall mass)、例えば、頻発性の皮下脂肪組織炎を伴う腹部皮下脂肪組織炎、切迫歩行、頻繁な感染症への罹患、臭気、着衣困難、背下部痛;筋骨格系疾患;偽性脳腫瘍(または良性頭蓋内圧亢進症)、および滑脱裂孔ヘルニアである。
【0066】
本発明は更に、被験者のエネルギー消費を高める方法を提供する。方法は例えば、本発明の化合物を治療有効量で被験者へ末梢投与して、エネルギー消費量を変化させる工程を含む。エネルギーはあらゆる生理学的プロセスで燃焼する。このようなプロセスの効率を変化させたり、プロセス発動の回数および性質を変化させたりすることにより、体がエネルギー消費速度を直接的に変えることができる。例えば、消化時、食物は腸を通過移動し、食物を消化することで体はエネルギーを消費し、細胞内では、細胞代謝効率を変化させてより多くのまたはより少ない熱量を産生することができる。
【0067】
1つの態様では、本発明の方法は弓状回路(arcuate circuitry)の操作を含み、この操作が食物摂取量を連係して変化させ、相応してエネルギー消費量を変化させる。エネルギー消費量とは、細胞代謝、たんぱく質合成、代謝速度、およびカロリー利用の結果である。従って、本発明の態様では、式(I)の化合物の投与がエネルギー消費を高め、カロリー利用効率を低下させる。
【0068】
本発明はまた、被験者の脂質プロフィールを改善する方法を提供する。本発明はまた、栄養素の消化吸収率を低下させることで軽減できる症状または障害の緩和法を提供する。
【0069】
食欲は、当業者が知っている任意の方法で測定できる。例えば、食欲の低下は心理学的評価により判断できる。例えば、本発明の化合物の投与は、知覚される空腹感、満腹感、および/または飽満感に変化を与える。空腹感は、当業者が知っている任意の方法で測定できる。例えば、空腹感は心理学的なアッセイ、例えば調査表を用いて空腹感や感覚認知を評価することにより判断できる。調査表は例えば視覚的アナログ評価(Visual Analog Score(VAS))調査表であってよいが、これに限定しない。1つの特別な例として、食物や飲料に対する要求、見込まれる食物摂取量、悪心、においや味の認知に関する質問に回答することで空腹感を評価するが、これらに限定しない。
【0070】
本発明の化合物を、体重のコントロールや治療、例えば肥満症の抑制または予防、特に以下の1つまたは複数の目的で使用することができる:体重増加の抑制および軽減;減量の誘起および促進;ボディマス指数により判断される太り気味の状態の軽減。本発明の化合物を食欲、満腹状態および空腹状態の一方または両方をコントロールするため、特に以下の1つまたは複数の事象を実践するために使用することができる:食欲の低下、抑制および阻害;満腹状態および満腹感の誘起、増加、増強および促進;空腹状態および空腹感の軽減、阻害および抑制。望ましい体重、望ましいボディマス指数、望ましい外見および良好な健康状態の1つまたは複数を維持するために本発明の化合物を使用することができる。
【0071】
被験者は、減量を望む被験者であってよく、例えば外見を変えたいと願う女性や男性の被験者であってよい。被験者は、例えば高い集中力を求められる長期的業務に従事する人間、例えば現役の軍人、航空管制官、または長距離トラック運転手等など、空腹感が低下することを望んでいる人を含む。
【0072】
本発明を、栄養素の消化吸収率が比較的高いために発症、併発、または悪化する症状または障害を治療、予防、改善または緩和させるために使用することができる。本明細書ので使用される“カロリー(または栄養素)消化吸収率が低下することで緩和できる症状または障害”とは、栄養素の消化吸収率が比較的高いために発症、併発、または悪化するか、または例えば食物摂取量を低下させることで栄養素の消化吸収率を低下させることにより緩和できる、被験者の任意の症状または障害を意味する。インシュリン耐性、グルコース不耐性、または糖尿病の任意の形態、例えばI型、2型または妊娠糖尿病の被験者も本発明の方法の恩恵を受け得る。
【0073】
カロリー摂取量が増加することで生じる症状または障害には、インシュリン耐性、グルコース不耐性、肥満症、II型糖尿病を含む糖尿病、摂食障害、インシュリン耐性症候群、およびアルツハイマー病があるが、これらに限定しない。
【0074】
本発明によれば、式(I)の化合物は人間の治療に用いるのが好ましい。しかし、本発明の化合物は人間の患者の治療に使用するのが一般的とはいえ、同様または同一の症状を示す他の脊椎動物、例えば他の霊長類;家畜、例えばブタ、ウシおよびトリ;競争用動物、例えばウマ;ペット用動物、例えばイヌおよびネコの治療に使用してもよい。
【0075】
組成物:
活性成分のみを単独投与することもできるが、製剤または医薬品中に活性成分を含むのが好ましい。従って、本発明は、式(I)の化合物あるいは前記のようなその変異体または誘導体、あるいはその塩または溶媒和物、ならびに製薬学的に認容性の添加物を含む製剤を提供する。本発明の医薬品は以下に記載される剤形で投与されてよい。
【0076】
本発明の製剤には、経口投与、非経口投与(皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、および関節内投与を含む)、吸入投与(計量分のエアロゾルを加圧噴霧する様々な手法、ネブライザまたは注入器を用いて発生させる微粒子ダストまたは微粒子ミストを含む)、直腸内投与および局所投与(皮膚投与、経皮吸収、経粘膜投与、バッカル投与、舌下投与、および眼内投与)に適する製剤が含まれるが、最適とされる投与経路は、例えば投与される患者の症状および障害に応じて変化するであろう。
【0077】
製剤は、単位用量分が含まれる形態であるのが便利であり、薬学の分野でよく知られている任意の方法で製造できる。いずれの方法も、活性成分を1つまたは複数の補助成分を含むキャリアと組み合わせる工程を含む。一般的に、活性成分を液体キャリアまたは微細な固体キャリアあるいはその両方と均等にまたは完全に組み合わせ、次に必要であれば生成物を所望の剤形にする。
【0078】
経口投与に適する本発明の製剤は、活性成分をそれぞれ予め決められた量だけ含むカプセル剤、カシェ剤または錠剤のような個別単位のものでよく;粉剤または顆粒剤でよく;水溶液中のまたは非水溶液中の溶剤または懸濁剤でよく;または水中油型の液体乳剤または油中水型の液体乳剤でよい。活性成分はボーラス、舐剤またはペーストであってもよい。製薬学的に認容性のある各種キャリアおよびその配合については、標準的な製剤に関する文献、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences(E. W. Martin著)に記載されている。Wang, Y.J.およびHanson, M.A., Journal of Parenteral Science and Technology, Technical Report No. 10, Supp. 42: 2S, 1988参照のこと。
【0079】
錠剤は任意に1つまたは複数の補助成分と共に、圧縮または成形により製造されてよい。圧縮錠剤は、結合剤、滑沢剤、不活性賦形剤、潤滑剤、界面活性剤または分散剤と任意選択で混合し、粉末または顆粒のような流動性の活性成分を適当な機械で圧縮して製造することができる。成形錠剤は、不活性の液体賦形剤を用いて湿潤させた粉末化合物の混合物を適当な機械で成形して製造することができる。錠剤は任意に被覆されたり割線を入れたりしてよく、含有される活性成分がゆっくりとまたは調節されて放出するように配合されてよい。本発明の化合物は、例えば、速放性または持続性に適する剤形で投与されてよい。本発明の化合物を含む好適な医薬品を利用することで速放性または持続性が獲得でき、特に持続性は、皮下へのインプラントまたは浸透流ポンプを利用することで獲得できる。本発明の化合物はリポソーム法で投与されてもよい。
【0080】
経口投与される医薬品の例として、懸濁剤を含み、例えば、嵩増しのための微結晶性セルロース、懸濁剤としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてのメチルセルロース、当該分野で公知の甘味料または矯味矯臭剤があり;経口投与される医薬品の例として、速放性錠剤を含み、例えば、微結晶性セルロース、リン酸二カルシウム、でんぷん、ステアリン酸マグネシウムおよび/またはラクトースおよび/または当該分野で公知のその他の添加剤、結合剤、増量剤、錠剤分解物質、賦形剤および滑沢剤がある。式(I)の化合物は舌下投与および/またはバッカル投与により口腔を介して輸送されてもよい。成形錠剤、圧縮錠剤または凍結乾燥錠剤は使用し得る剤形の一例である。医薬品の例として、本発明の化合物を、例えばマンニトール、ラクトース、スクロースおよび/またはシクロデキストリンなどの即時溶解性賦形剤と配合したものが挙げられる。そのような製剤には、高分子量の添加剤、例えばセルロース(アビセル)またはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。このような製剤はまた、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(SCMC)、無水マレイン酸コポリマー(例えばGantrez)などの粘膜への接着を助ける添加剤、および、例えばポリアクリル酸コポリマー(例えばCarbopol934)などの放出を調整する薬剤を含んでいてよい。製造および使用が容易になるように、滑沢剤、すべり剤(glidant)、矯味矯臭剤、着色剤および安定剤を添加してよい。
【0081】
非経口投与のための製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、製剤を対象患者の血液と等張にするための溶質が含まれる水性および非水性の滅菌注射溶液;懸濁剤および増粘剤(thickening agent)が含まれる水性および非水性滅菌懸濁液;が含まれる。製剤は単回量または多回量の製剤が入る容器、例えば密封されたアンプルおよびバイアル中に入っていてよく、滅菌液体キャリア、例えば生理食塩水または注射用水を使用直前に添加するだけの状態でフリーズドライ(凍結乾燥)して保存してよい。即時型の注射溶液および注射懸濁液は、前記したような滅菌粉末、顆粒および錠剤から製造されてよい。非経口投与される医薬品の例として、例えば、好適な非毒性の非経口投与可能な賦形剤または溶剤、例えばマンニトール、1,3−ブタンジオール、水、リンゲル液、等張食塩水、または別の好適な分散剤または湿潤剤および懸濁剤(例えば合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリド)、オレイン酸を含む脂肪酸、またはCremaphorを含む注射溶液または注射懸濁液が挙げられる。水性キャリアは、例えば、pHが3.0〜8.0の、好ましくはpHが3.5〜7.4の、例えば3.5〜6.0、例えば3.5〜約5.0の等張緩衝液であってよい。有用な緩衝剤には、クエン酸ナトリウム−クエン酸緩衝剤、リン酸ナトリウム−リン酸緩衝剤、および酢酸ナトリウム/酢酸緩衝剤が含まれる。医薬品は、酸化剤やPYYおよびPYY作用薬にとって有害なことが知られているその他の化合物を含まないのが好ましい。含有してよい添加剤は、例えば、別のたんぱく質、例えばヒト血清アルブミンまたは血漿配合物である。医薬品は、必要であれば、少量の非毒性補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤およびその類似物、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートも含有してよい。
【0082】
鼻用エアロゾルまたは吸入投与のための医薬品の例として、例えばベンジルアルコールまたは当該分野で公知の好適な別の保存剤、バイオアベイラビリティを上げるための吸収促進剤、および/または別の可溶化剤または分散剤を含む生理食塩水中の溶液が挙げられる。鼻用エアロゾルまたは吸入投与のための医薬品として適するように、本発明の化合物は、好適な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または別の好適なガスを利用して、加圧包装品またはネブライザからエアロゾルが噴霧される形態で輸送される。加圧エアロゾルの場合、計量分を輸送できるバルブを装備することにより、用量単位を決定できる。吸入器または注入器で使用する場合、化合物とラクトースまたはでんぷんのような好適な粉末基剤とから成る粉末混合物を含有させるために、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジを配合してよい。1つの実施例では、限定する趣旨ではないが、本発明の化合物は、アクチュエーターとしても知られるエアロゾルアダプターを介して、計量分を輸送するバルブから、エアロゾルとして投与される。また、安定剤も含まれ、且つ/または肺深部への輸送を可能にする多孔性粒子を含んでもよい(米国特許第6,447,743号参照)。
【0083】
直腸内投与のための製剤は、ココアバター、合成グリセリドエステルまたはポリエチレングリコールのような有用なキャリアを含む停留型の浣腸または座剤であってよい。このようなキャリアは一般的に常温で固体であるが、直腸内で液化および/または溶解して薬剤を放出する。
【0084】
口への局所投与、例えばバッカル投与または舌下投与のための製剤には、スクロースおよびアラビアゴム(acacia)またはトラガカントゴムのような矯味矯臭基剤に活性成分を含有させたトローチ剤(lozenge)、ゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアラビアゴムのような基剤に活性成分を含有させた香錠(pastille)が含まれる。局所投与用組成物の例として、Plastibase(ポリエチレンでゲル化した鉱油)のような局所用キャリアが挙げられる。
【0085】
好ましい単回量製剤は、活性成分を前記有効量で含有するかまたは活性成分の適切なフラクションを含有する製剤である。
【0086】
前記活性成分に加えて、本発明の製剤が、当該分野で周知の他の薬剤を問題となる製剤の種類に応じて含有してよいことを理解すべきであり、例えば、経口投与に適する製剤には矯味矯臭剤が含まれる。
【0087】
本発明の化合物は、持続放出性のシステムとして投与されるのにも適している。本発明の好適な持続放出性システムの例には、例えばフィルムのような製品の形をした半透性ポリマーマトリクスなどの好適なポリマー材料、またはマイクロカプセル;例えば使用可能な油中のエマルジョンとしての好適な疎水性材料;またはイオン交換樹脂;および本発明の化合物に対して僅かに溶解する誘導体、例えば、僅かに溶解する塩が含まれる。持続放出性システムは、経口投与;直腸内投与;非経口投与;槽内投与(intracistemally);膣内投与;腹腔内投与;例えば粉末、軟膏、ジェル、ドロップまたは経皮吸収貼付剤として局所投与;バッカル投与;または経口または経鼻スプレーとして投与されてよい。
【0088】
本発明の化合物の放出を制御できるように、投与可能な薬剤が適切に配合されてよい。例えば、医薬品は、生分解性ポリマー、ポリサッカライド、軟化性ポリマー(jellifying polymer)および/または生物接着性ポリマー、両親媒性ポリマー、式(I)の化合物粒子の界面特性を変化させることのできる薬剤、の1つまたは複数を含む粒子形であってよい。これらの医薬品は一定の生体適合性を有するので、活性成分の放出制御が可能になる。米国特許第5,700,486号参照。
【0089】
本発明の化合物は、ポンプにより(Langer, supra; Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14: 201, 1987; Buchwald等, Surgery 88: 507, 1980; Saudek等, N. Engl. J. Med. 321: 574, 1989参照)、または、例えばミニポンプを利用する連続的な皮下注入により、輸送されてよい。静脈内投与用バッグ溶液も使用してよい。総体重の減少または除脂肪体重に対する脂肪の割合の低下を測定して得られる結果、または肥満症の制御または予防あるいは肥満症に関連する症状の予防を測定するために医者が適切と考える別の判定基準により得られる結果が、適切な用量を選択する際の重要な因子となる。別の放出制御システムがLangerにより雑誌で議論されている(Science, 249: 1527~1533, 1990)。開示した実施様態とは別の実施態様として、本発明の化合物を埋め込みポンプを用いて輸送してよく、例えば米国特許第6,436,091号;米国特許第5,939,380号;米国特許第5,993,414号に記載されている。
【0090】
埋め込み可能な薬剤注入装置を使用して、患者に薬剤または任意の治療薬を定量且つ長期間に投与または注入できる。本質的にこのような装置は、能動的装置にも受動的装置にも分類できる。本発明の化合物はデポー剤(持続性薬剤)であってよい。このように長期にわたって作用するデポー剤は、例えば皮下または筋肉内に埋め込むことで投与可能であり;筋肉内注射することでも投与可能である。従って、例えば、本発明の化合物は、利用可能な油分中の乳化剤として好適なポリマー材料または疎水性材料と共に;イオン交換樹脂と共に;または例えば僅かに可溶性の塩として僅かに可溶性の誘導体として、配合できる。
【0091】
本発明の化合物の治療有効量を、単回適用量として、ボーラス量として、または長期投与の間欠適用量として投与してよい。従って、間欠適用量の場合、本発明の化合物をボーラス投与し、本発明の化合物を被験者に投与しない期間を置いた後、2回目のボーラス投与を実施する。実施例では、本発明の化合物を間欠適用量で、1日、1週間または1ヶ月投与するが、この例に限定しない。
【0092】
1つの実施例では、治療有効量の本発明の化合物を、治療有効量の別の薬剤、例えば追加の食欲抑制剤、食物摂取量を低下させる薬剤、血漿中のグルコース量を低下させるまたは血漿中の脂質量を変化させる薬剤と一緒に投与する。追加の食欲抑制剤の実施例として、アンフェプラモン(ジエチルプロピオン)、フェンテルミン、マジンドールおよびフェニルプロパノールアミン(fenfluramine)、フェンフルラミン、デキスフェンフルラミン(dexfenfluramine)およびフルオキセチンが挙げられるがこれらに限定しない。本発明の化合物を、追加の食欲抑制剤と同時に投与してよく、あるいは連続投与してもよい。従って、1つの実施例では、本発明の化合物を単回量の食欲抑制剤と配合しても一緒に投与してもよい。
【0093】
本発明の化合物は、食欲抑制効果、食物摂取量低下効果、またはカロリー摂取量低下効果のような効果が必要とされる度に随時、または効果が求められる少し前に、例えば効果が求められる約10分前、約15分前、約30分前、約60分前、約90分前または約120分前に投与されてよい。
【0094】
用量:
本発明の化合物の治療有効量は、利用する分子、治療を受ける患者、疾患の重症度および種類、ならびに投与法および投与経路によって変化するであろう。例えば、本発明の化合物の治療有効量は、約0.01μg/体重1kg〜約1g/体重1kg、例えば約1μg/体重1kg〜約5mg/体重1kg、または約5μg/体重1kg〜約1mg/体重1kgである。本発明の化合物を被験者に0.5〜135ピコモル(pmol)/体重1kg、または約72pmol/体重1kgで投与してもよい。1つの実施例では、本発明の化合物を約1nmol以上の用量、2nmol以上の用量、または5nmol以上の用量で投与するが、これらに限定しない。他の実施例では、本発明の化合物の投与量は、一般的に100nmolを超えず、例えば90nmol以下の用量、80nmol以下の用量、70nmol以下の用量、60nmol以下の用量、50nmol以下の用量、40nmol以下の用量、30nmol以下の用量、20nmol以下の用量、10nmolの用量である。例えば、投与量の範囲は規定される最低許容量と規定される最高許容量とを任意に組み合わせたものであってよい。従って、本発明の化合物の投与量範囲は、1〜100nmol、1〜90nmol、1〜80nmolの範囲であるが、これらに限定しない。
【0095】
1実施例では、本発明の化合物を約5〜50nmolで投与し、例えば約2〜約20nmol、例えば約10nmolを皮下注射として投与するが、これらに限定しない。当業者は、使用する特定化合物の効力、被験者の年齢、体重、性別および生理学的症状を基に、厳密な投与量を容易に決定できる。
【0096】
本発明の化合物の好適な投与量には、結果として、カロリー摂取量、食物摂取量または食欲が低下する、あるいはカロリー摂取量、食物摂取量または食欲と等しいエネルギー消費量を更に増やす、あるいは通常のPYY3〜36の食後レベルで誘起されるエネルギー消費量を更に増やすような量も含まれる。投与量の例は、PYY血漿レベルが約40pM〜60pM、約40pM〜約45pM、または約43pMである時の効果を生み出す量であるが、これらに限定しない。
【0097】
以下の実施例で本発明を詳細に説明するが、これに限定しない。
【0098】
実施例
材料および方法:
マウス実験では、全て、雄のC57BL/6マウス(20〜30g)を用いた。ラット実験では雄のWistarラットを用いた。マウスまたはラットを別個のIVCケージに収容した。動物を体重によって無作為化し、夜間16時間絶食させ、その後、午前9時に腹腔内注射した。注射後、1、2、4、6および24時間の食物摂取量を測定した。全てのペプチド溶液は実験する朝に改めて準備し、100μlを注射した。全ての統計量は、スチューデントの両側t検定により計算したものである。
【0099】
ペプチド合成:
allo_ILeu3PYY(3〜36)およびD_allo_ILeu3PYY(3〜36)のペプチド合成は、三環系アミド結合樹脂上で実施された。この配列はヒトPYY配列であった。Fmoc法によりアミノ酸を結合させた。各アミノ酸をC末端からN末端の方向へ順に付加した。TBTU試薬を用いてペプチドを結合させた。スカベンジャーの存在下にトリフルオロ酢酸を用いて、樹脂からペプチドを遊離させた。未変性PYY(3〜36)を上述のようにして得る(WO03/026591);三環系アミド樹脂とFmocを用いる方法で新規に合成することも可能である。
【0100】
ペプチドは逆相HPLCで精製された。全ての精製ペプチドにしっかりと質管理を行い、2種類の緩衝液を用いるHPLCでペプチドは95%を上回る純度を示した。酸加水分解の後にアミノ酸分析を行い、アミノ酸組成を確認した。MALDI−MSは予定の分子イオンを示した。
【0101】
結果:
実施例1:3種類の異なるPYY類似体をマウスへ投与
マウスに、PYY(3〜36)100μg/kg、allo_ILeu3PYY(3〜36)100μg/kg、D_allo_ILeu3PYY(3〜36)100μg/kgまたは生理食塩水(n=10/群)を注射し、24時間の間、間隔をおいて食物摂取量を測定した。結果を図1に示す。図において、生理食塩水に対する有意性を、両側t検定により、*=p<0.05、**=P<0.01、***=P<0.001で示す。生理食塩水を与えた場合と比べると明らかに食物摂取量は低下するのはもちろん、PYY(3〜36)の類似体であるD_allo_ILeu3PYY(3〜36)を注射された動物は、PYY(3〜36)を注射された群と比べて累積食物摂取量が大幅に減少してもいる(0〜1時間(p=0.0138)、0〜2時間(p=0.0063)、0〜4時間(p=0.0003)および0〜6時間(p=0.0024))。D_allo_ILeu3PYY(3〜36)を注射された動物のほとんどが、PYY(3〜36)100μg/kgの群と比べて、24時間に亘り顕著な食物摂取量の低下を示した(p=0.0554)。これに対し、allo_ILeu3PYY(3〜36)およびD_ILeu3PYY(3〜36)はPYY(3〜36)とほぼ同等の効果を示した。
【0102】
実施例2:マウスを用いたD_allo_ILeu3PYY(3〜36)の用量応答実験
D_allo_ILeu3PYY(3〜36)類似体で明らかに向上した応答が見られたので、マウスへの末梢投与後、どの程度の量のD_allo_ILeu3PYY(3〜36)がPYY(3〜36)よりも効果的に食物摂取量を低下させるのかを調べるため、用量応答実験を行った。一晩の絶食の後、PYY(3〜36)またはD_allo_ILeu3PYY(3〜36)を30μg/kgまたは100μg/kgで注射し、24時間の間、間隔をおいて食物摂取量を測定した。0〜4時間の結果を図2Aに示す。0〜24時間の結果を図2Bに示す。図において、生理食塩水に対する有意性を、両側t検定により、*=p<0.05、**=P<0.01、***=P<0.001で示す。結果から、D_allo_ILeu3PYY(3〜36)を30μg/kgで投与すると、PYY(3〜36)を100μg/kgで投与した場合と少なくとも同程度の食物摂取量の低下が認められ、このことは、D_allo_ILeu3PYY(3〜36)が3倍の優れた効果を有することを示唆している。
【0103】
実施例3:ラットを用いたD_allo_ILeu3PYY(3〜36)の用量応答実験
ラットへの末梢投与後、どの程度の量のD_allo_ILeu3PYY(3〜36)がPYY(3〜36)よりも効果的に食物摂取量を低下させるのかを調べるため、用量応答実験を行った。C57BL/6マウスの代わりにWistarラットを用いる以外、実験は実施例2と同様であった。一晩の絶食の後、PYY(3〜36)またはD_allo_ILeu3PYY(3〜36)を30μg/kgまたは100μg/kgで注射し、24時間の間、間隔をおいて食物摂取量を測定した。0〜4時間の結果を図3Aに示す。0〜24時間の結果を図3Bに示す。図において、生理食塩水に対する有意性を、両側t検定により、*=p<0.05、**=P<0.01、***=P<0.001で示す。結果から、D_allo_ILeu3PYY(3〜36)を30μg/kgで投与すると、PYY(3〜36)を100μg/kgで投与した場合と少なくとも同程度の食物摂取量の低下が認められ、このことは、D_allo_ILeu3PYY(3〜36)が3倍の優れた効果を有することを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の化合物を投与したマウスの食欲抑制効果を、未変性PYY(3〜36)、生理食塩水、allo−IlePYY(3〜36)またはD−IlePYY(3〜36)で比較した実験結果を示す図。
【図2A】本発明の化合物を30μg/kgおよび100μg/kgで投与したマウスの食欲抑制効果を、同じ2種類の量の未変性PYY(3〜36)および生理食塩水と比較した実験の投与後0〜4時間の結果を示す図。
【図2B】本発明の化合物を30μg/kgおよび100μg/kgで投与したマウスの食欲抑制効果を、同じ2種類の量の未変性PYY(3〜36)および生理食塩水と比較した実験の投与後0〜24時間の結果を示す図。
【図3A】本発明の化合物を30μg/kgおよび100μg/kgで投与したラットの食欲抑制効果を、同じ2種類の量の未変性PYY(3〜36)および生理食塩水と比較した実験の投与後0〜4時間の結果を示す図。
【図3B】本発明の化合物を30μg/kgおよび100μg/kgで投与したラットの食欲抑制効果を、同じ2種類の量の未変性PYY(3〜36)および生理食塩水と比較した実験の投与後0〜4時間の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

の化合物、その変異体または誘導体;あるいはその塩または溶媒和物。
【請求項2】
PYY4~36がヒトPYY4~36であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
PYY4~36が、欠失、挿入、逆位、反復および置換から選択される1つ、2つ、3つまたは4つの変異を有する、未変性PYY4~36の変異体であることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
PYY4~36が未変性PYY4~36配列の少なくとも30アミノ酸を含むことを特徴とする請求項1〜3までのいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
アミド化、グリコシル化、カルバミル化、アシル化、硫酸化、リン酸化、環化、リピド化、ポリエチレングリコール付加から選択される1つまたは複数の方法で修飾された誘導体であることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
誘導体が融合たんぱく質であることを特徴とする請求項1〜5までのいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
組み換え法により製造されることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
合成法により製造されることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
薬剤として使用することを特徴とする請求項1〜8までのいずれかに記載の化合物。
【請求項10】
請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物を含有する医薬品。
【請求項11】
肥満症または糖尿病の治療に使用することを特徴とする請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物。
【請求項12】
被験者の食欲を低下させるために使用する、被験者の食物摂取量を低下させるために、あるいは被験者のカロリー摂取量を低下させるために、使用することを特徴とする請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物。
【請求項13】
請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物を被験者に投与する過程を含むことを特徴とする、治療を要する被験者の肥満症または糖尿病を治療する方法。
【請求項14】
請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物を被験者に投与する過程を含むことを特徴とする、被験者の食欲を低下させるための、被験者の食物摂取量を低下させるための、あるいは被験者のカロリー摂取量を低下させるための方法。
【請求項15】
被験者が太り気味であることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
被験者が肥満体であることを特徴とする請求項13または14の方法。
【請求項17】
被験者が糖尿病患者であることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
【請求項18】
化合物を末梢投与することを特徴とする請求項13〜17までのいずれかに記載の方法。
【請求項19】
化合物を、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、経皮吸収投与または舌下投与することを特徴とする請求項13〜17までのいずれかに記載の方法。
【請求項20】
肥満症または糖尿病の治療用薬剤を製造するための請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物の使用。
【請求項21】
被験者の食欲を低下させる薬剤、被験者の食物摂取量を低下させる薬剤、または被験者のカロリー摂取量を低下させる薬剤を製造するための請求項1〜9までのいずれかに記載の化合物の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2008−532989(P2008−532989A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−500260(P2008−500260)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000822
【国際公開番号】WO2006/095166
【国際公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(599008621)インペリアル イノベーションズ リミテッド (25)
【Fターム(参考)】