説明

修飾ヒトIGF−1R抗体

本発明は、ヒト抗体、例えば生殖系列残基により置換されている1個または複数個の選択された突然変異残基を有する癌治療用のヒトIGF−I受容体(IGF−IR)に対する抗体に関する。置換される残基は、フレームワーク領域中の体細胞突然変異であることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
インスリン様成長因子(IGF−I)は、高濃度で血漿中を循環し、大部分の組織中で検出される7.5 kDaポリペプチドである。IGF−Iは、細胞分化および細胞成長を刺激し、持続的増殖のために大部分の哺乳動物の細胞型が必要としている。これらの細胞型には、なかでもヒトの二倍体繊維芽細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、Tリンパ球、神経細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、および骨髄幹細胞が挙げられる。
【0002】
IGF−I刺激細胞成長または分化に至らしめる形質導入経路の第一ステップは、IGF−IまたはIGF−II(または生理レベルを超えた濃度のインスリン)をIGF−I受容体と結合させることである。IGF−I受容体は2種類のサブユニット、すなわちアルファサブユニット(もっぱら細胞外にあり、リガンド結合で機能する130〜135 kDaタンパク質)およびベータサブユニット(貫膜および細胞質ドメインを有する95 kDa貫膜タンパク質)からなる。IGF−IRは、チロシンキナーゼ成長因子受容体の科に属し(Ullrich等の論文、Cell 61: 203-212, 1990)、インスリン受容体と構造的に類似している(Ullrich等の論文、EMBO J. 5: 2503-2512, 1986)。IGF−IRは、最初に一本鎖受容体前駆体ポリペプチドとして合成し、それを糖鎖形成、タンパク質加水分解による開裂、および共有結合により加工処理して2個アルファサブユニットと2個のベータサブユニットを含む成熟460 kD異側性四量体を構築する。ベータサブユニットは、リガンドにより活性化されるチロシンキナーゼ活性を持つ。この活性は、ベータサブユニットの自己リン酸化およびIGF−IR基質のリン酸化を伴うリガンド作用を仲介するシグナル経路に関係している。
【0003】
in vitroおよびin vivoでの腫瘍細胞の維持におけるIGF−Iおよび/またはIGF−IRの役割についてはかなりの証拠がある。IGF−IRレベルは、肺(Kaiser等の論文J. Cancer Res. Clin Oncol. 119: 665-668, 1993、Moody等の論文Life Sciences 52: 1161-1173, 1993、Macauley等の論文Cancer Res. 50: 2511-2517, 1990)、乳房(Pollak等の論文Cancer Lett. 38: 223-230, 1987、Foekens等の論文Cancer Res. 49: 7002-7009, 1989、Cullen等の論文Cancer Res. 49: 7002-7009, 1990、Arteaga等の論文J. Clin. Invest. 84: 1418-1423, 1989)、前立腺および結腸(Remaole-Bennet等の論文J. Clin. Endocrinol. Metab. 75: 609-616, 1992、Guo等の論文Gastroenterol. 102: 1101-1108, 1992)の腫瘍中で上昇する。前立腺上皮中のIGF−Iの統制のない発現は、トランスジェニックマウス中で腫瘍形成を引き起こす(DiGiovanni等の論文Pro. Natl. Acad. Sci. USA 97: 3455-60, 2000)。これに加えて、IGF−Iは IGF−IRを過剰発現させる繊維肉腫の成長を刺激した(Butler等の論文Cancer Res. 58: 3021-27, 1998)が、IGF−Iはヒト神経膠腫の自己分泌刺激物質であるように思われる(Sandberg-Nordqvist等の論文Cancer Res. 53: 2475-2478, 1993)。さらに「高い常態」レベルのIGF−Iを有する個体は、「低い常態」範囲にあるIGF−Iを有する個体と比べて普通の癌のリスクが高い(Rosen等の論文Trends Endocrinol. Metab. 10: 136-41, 1999)。IGF−I/IGF−I受容体の相互作用が様々なヒトの腫瘍の増殖において演じる役割の概要については、Macaulay, Brの論文J. Cancer, 65: 311-320, 1992を参照されたい。
【0004】
カロリーの制限が、哺乳動物を含めた様々な動物種における寿命を延ばすための最も効果的かつ再現性のある介入である。それはまた、実験発癌モデルにおいて最も有力で広範囲に効く癌予防養生法である。その有益な効果の多くの基礎をなす重要な生物学的仕組みは、インスリン様成長因子1経路である(Hursting等の論文Annu. Rev. Med. 54: 131-52, 2003)。
【0005】
欧州特許第0629240B1号は、抗体配列を組換えDNA技術により生殖系列配列に変換することに言及しており、これは患者に投与したとき抗原性を低下させようとするものである。国際公開第WO02/066058A1号は、EGF受容体(HER1)に向けられる抗体に言及しており、これは普通ならそれらの傾向を少なくするように修飾されて免疫応答を引き出すものである。
【0006】
IGF−Iおよび/またはIGF−IRが過剰発現した場合にIGF−Iおよび/またはIGF−IRが癌などの疾患および他の増殖性疾患において持つ役割、またIGF−IおよびIGF−IRの両方あるいはIGF−IまたはIGF−IRのどちらかが発現不足の場合に少な過ぎるIGF−IおよびIGF−IRが疾患において持つ役割から考えて、IGF−IRを阻害または刺激するために用いることができるIGF−IRに対する抗体を作り出すことが望ましい。このような抗体は、例えば2002年7月11日公開の国際公開第WO02/05359号に記載されている。この刊行物の本文は、これにより記載されているすべての配列を含めて参照により組み込まれる。IGF1R抗体はまた、2003年12月4日公開の国際公開第WO03/100008号、2003年12月24日公開の国際公開第WO03/106621号、および2003年7月24日公開の国際公開第WO03/59951号に記載されている。
【発明の開示】
【0007】
本発明の概要
本発明は、体細胞で突然変異した少なくとも1つのアミノ酸配列を生殖系列アミノ酸配列に変換する修飾ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を提供する。好ましくは置き換えられる残基はその抗体の可変領域中に含有され、またより好ましくは置き換えられる残基は可変領域のフレームワーク領域中に含有される。
【0008】
好ましくは本発明のヒト抗体または抗原結合部分は、ヒトインスリン様成長因子I受容体(IGF−IR)と特異的に結合する。
一実施形態ではこの抗体の軽鎖の可変領域の配列は、生殖系列A30遺伝子がコードするアミノ酸配列に戻った3つのフレームワーク突然変異を含む。好ましい実施形態ではこの軽鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 5のアミノ酸配列のアミノ酸23番から130番を含む。さらに一層好ましい実施形態ではこのヒト抗体の軽鎖は、SEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から236番を含む。
【0009】
本発明の別の実施形態ではその抗体の重鎖の可変領域の配列は、生殖系列DP−35遺伝子がコードするアミノ酸配列に戻った2つのフレームワーク突然変異を含む。好ましい実施形態でこの重鎖の可変領域は、SEQ ID NO: 3のアミノ酸20番から144番を含む。さらに一層好ましい実施形態ではこのヒト抗体の重鎖がSEQ ID NO: 3のアミノ酸20番から470番を含み、かつ軽鎖がSEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から236番を含む。
【0010】
別の実施形態では本発明の抗体の重鎖は末端リシンを欠く。具体的には本発明は、その重鎖がSEQ ID NO: 3の20番から469番アミノ酸を含み、かつ軽鎖がSEQ ID NO: 5の23番から236番アミノ酸を含む抗体に関する。
【0011】
本発明はまた、抗新生物薬、化学療法薬、または抗腫瘍薬と、薬学的に許容できる担体とを組み合わせた本発明の修飾ヒト抗体を含む癌治療用の医薬組成物に関する。
本発明はまた、上記癌の治療に有効な量の抗体をヒトに投与するステップを含む、ヒト抗体でヒトの癌を治療する方法に関する。一実施形態では本発明は、本発明の抗体と共に抗新生物薬、抗腫瘍薬、抗血管形成薬、または化学療法薬を投与するステップを含む治療法に関する。
【0012】
本発明はまた、この抗体の有効量を患者に投与することにより治療を必要とする患者を抗体で治療する方法に関する。一実施形態では本発明は、本発明の抗体と共に抗新生物薬、抗腫瘍薬、抗血管形成薬、または化学療法薬を投与するステップを含む治療法に関する。
【0013】
本発明はまた、本発明の抗体の重鎖またはその抗原結合部分あるいは軽鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む分離ポリヌクレオチドに関する。本発明の一実施形態において本発明はまた、抗IGF−IR抗体の重鎖および/または軽鎖あるいはそれらの抗原結合部分をコードする核酸分子の有効量により治療を必要とする被験体を治療する方法を提供する。
【0014】
本発明は、分離核酸分子を含むベクターおよびそのベクターを含む宿主細胞を提供する。本発明はさらに、2.12.1fxの成熟重および軽鎖と同じアミノ酸配列を有する抗体を産生する宿主細胞を含む。
本発明はまた、この核酸分子がコードする抗体を組み換えにより産生し、培養する方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、抗IGF−IR抗体を用いてIGF−IR発現組織の存在または位置を診断する診断方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の詳細な説明
本明細書中で引用されるすべての特許、特許出願、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体がこれにより組み込まれる。
【0017】
本明細書中で別に定義されない限り、本発明と結び付いて使用される科学的および技術的用語は、当業界の通常の技術者により一般に理解されている意味を有するものとする。さらに脈絡により必要とされない限り、単数形の用語には複数が含まれるものとし、また複数形の用語には単数が含まれるものとする。一般に、本明細書中に記述される細胞および組織の培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学、ならびにハイブリッド形成と結び付けて用いられる用語法、およびそれらの技術は当業界でよく知られ、また一般に用いられているものである。一般には本発明の方法および技術は、別段の指示がない限り当業界でよく知られている、また本発明全体を通して引用されまた考察される様々な一般的およびより特定の参考文献中に記載されている従来の方法に従って行われる。例えばSambrook等著のMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)、Ausubel等著のCurrent Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)、ならびにHarlowおよびLane著のAntibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1990)を参照されたい(これらは参照により本明細書に組み込まれる)。酵素による反応および精製技術は、当業界で普通に行われる、または本明細書中に記述される製造者の仕様書に従って行う。本明細書中に記述される分析化学、合成有機化学、ならびに薬物および製薬化学の実験手順および技術と結び付いて用いられる用語法は、当業界でよく知られている、また普通に用いられるものである。標準的な技術が、化学合成、化学分析、医薬製剤、調合、および送達、ならびに患者の治療に用いられる。
【0018】
別段の指示がない限り下記の用語は、次の意味を有するものと解するものとする。
用語「ポリペプチド」は、自然のままのまたは人為的なタンパク質、タンパク質断片、およびタンパク質配列のポリペプチド類似体を包含する。ポリペプチドは、単量体でも重合体でもよい。
【0019】
非ペプチド類似体は、鋳型ペプチドと類似の特性を有する薬物として医薬工業で一般に用いられる。これらの型の非ペプチド化合物は、「ペプチド擬似体」または「ペプチドミメティックス」と呼ばれる(Fauchereの論文J. Adv. Drug Res. 15: 29 (1986)、VeberおよびFreidingerの著TINS p.392 (1985)、ならびにEvans等の論文J. Med. Chem. 30: 1229 (1987)、これらは参照により本明細書中に組み込まれる)。このような化合物は、しばしばコンピュータ処理分子模型の助けを借りて開発される。治療に役立つペプチドと構造的に類似のペプチド擬似体を用いて同等の治療または予防効果を生むことができる。一般にペプチドミメティックスは、ヒト抗体などのパラダイムポリペプチド(すなわち望ましい生化学特性または薬理学的活性を有するポリペプチド)と構造的に類似であるが、任意選択で当業界でよく知られている方法により--CH2NH--、--CH2S--、-- CH2‐CH2--、-- CH=CH--(シスおよびトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--、および-- CH2SO--からなる群から選択される結合によって置き換えられる1個または複数個のペプチド結合を有する。コンセンサス配列の1個または複数個のアミノ酸を、同じ型のDアミノ酸(例えばLリシンの代わりにDリシン)で系統的に置換することもまた、より安定なペプチドを生成するために用いることができる。さらに、コンセンサス配列またはほぼ同一のコンセンサス配列変異体を含む束縛ペプチドを当業界で周知の方法(RizoおよびGieraschの論文Ann. Rev. Biochem. 61: 387 (1992)、これは参照により本明細書中に組み込まれる)により、例えば、ペプチドを環化する分子内ジスルフィド架橋を形成する能力のある内部システイン残基を加えることにより生成することができる。
【0020】
「免疫グロブリン」は四量体分子である。天然に存在する免疫グロブリンでは各四量体は2対の同一のポリペプチド鎖から構成され、各ペアは1つの「軽」鎖(約25 kDa)と1つの「重」鎖(約50〜70 kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識部位の役割を担う約100個から110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う不変領域を画定する。ヒト軽鎖はκおよびλ軽鎖として分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして抗体のアイソタイプを画定する。軽および重鎖内ではその可変領域および不変領域は、アミノ酸約12個以上の「J」領域によって接合され、重鎖はまたアミノ酸約10個以上の「D」領域を含む。全般的にはFundamental Immunology 第7章(Paul, W.編、2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))(すべての目的のためにその全体が参照により組み込まれる)を参照されたい。各軽/重鎖のペアの可変領域は、無傷の免疫グロブリンが2つの抗体結合部位を有するように結合部位を形成する。
【0021】
免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域またはCDRと呼ばれる3つの超可変領域によって接合された比較的保存されているフレームワーク領域(FR)の同一の一般構造を示す。各ペアの2つの鎖由来のこのCDRは、フレームワーク領域によって位置合わせされ、特定のエピトープとの結合が可能になる。N末端からC末端まで軽鎖および重鎖の両方がFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR、CDR3、およびFR4ドメインを含む。各ドメインに対するアミノ酸の割当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987および1991)またはChothiaおよびLeskの論文J. Mol. Biol. 196: 901-917 (1987)、Chothia等の論文Nature 342: 878-883 (1989)の定義に従っている。
【0022】
「抗体」は、無傷の免疫グロブリンを指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、あるいは無傷の抗体の酵素的または化学的切断により生成することができる。抗原結合部分には、とりわけFab、Fab′、F(ab′)2、Fv、dAb、ならびにそのポリペプチドと結合する特異的抗原を付与するのに十分な免疫グロブリンの少なくとも一部を含有する相補性決定領域(CDR)の断片、一本鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、およびポリペプチドが挙げられる。
【0023】
Fab断片はVL、VH、CL、およびCH Iドメインからなる一価の断片であり、F(ab′)2断片はヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合している2個のFab断片を含む二価の断片であり、Fd断片はVHおよびCH1ドメインからなり、Fv断片は抗体のシングルアームのVLおよびVHドメインからなり、またdAb断片(Ward等の論文Nature 341: 544-546, 1989)はVHドメインからなる。
【0024】
一本鎖抗体(scFv)は、VLとVH領域が一対になり、それらを一本タンパク質鎖にする手段を与える合成リンカーを介して一価の分子を形成する抗体である(Bird等の論文Science 242: 423-426, 1988、およびHuston等の論文Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883, 1988))。ダイアボディは、同一鎖上でVHとVLドメインの間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することによって、それらドメインに強制的に別の鎖の相補性ドメインとペアを作らせ、また2つの抗原結合部位を創り出すこと以外は、その2つのドメインを一本ポリペプチド鎖上で発現させる二価の二重特異性抗体である(例えばHolliger, P等の論文Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448, 1993およびPoljak, R. J.等の論文Structure 2: 1121-1123, 1994を参照されたい)。1個または複数個のCDRを共有結合または非共有結合のどちらかにより分子中に組み込んでそれをイムノアドヘシンにすることができる。イムノアドヘシンは、CDRをより大きなポリペプチド鎖の一部として取り込むこともでき、CDRを別のポリペプチド鎖と共有結合により結合することもでき、またはCDRを非共有結合により取り込むこともできる。これらCDRは、イムノアドヘシンを興味のある特定の抗原と特異的に結合させることを可能にする。
【0025】
抗体は1個または複数個の結合部位を有する。2つ以上の結合部位が存在する場合、それら結合部位は互いに同一であってもよく、また異なっていてもよい。例えば天然に存在する免疫グロブリンは2つの同一の結合部位を有し、一本鎖抗体またはFab断片は1つの結合部位を有する。一方「二重特異性」すなわち「二官能性」抗体は2つの異なる結合部位を有する。
【0026】
「分(単)離抗体」は、(1)その自然の状態ではそれを伴う、他の自然に会合した抗体を含めて自然に会合した成分とは会合しないか、(2)同じ種由来の他のタンパク質を含まないか、(3)別の種由来の細胞によって発現するか、または(4)自然界では生じない抗体である。分離抗体の例には、分離抗体であるIGF−IRを用いてアフィニティー精製した抗IGF−IR抗体、in vitroでハイブリドーマまたは他の細胞系により合成した抗IGF−IR抗体、またはトランスジェニックマウス由来のヒト抗IGF−IR抗体が挙げられる。
【0027】
用語「ヒト抗体」には、ヒト免疫グロブリン配列由来の1個または複数個の可変および不変領域を有する抗体がある。好ましい実施形態ではすべての可変および不変ドメインがヒト免疫グロブリン配列に由来する(完全ヒト抗体)。これらの抗体は下記に述べる様々な方法で調製することができる。
【0028】
「中和抗体」または「阻害性抗体」は、過剰な抗IGF−IR抗体がIGF−IRと結合するIGF−Iの量を少なくとも約20%減少させた場合にIGF−IRのIGF−Iとの結合を阻害する抗体である。好ましい実施形態ではこの抗体は、IGF−IRと結合するIGF−Iの量を少なくとも約40%、より好ましくは60%、さらに一層好ましくは80%、またはさらに一層好ましくは85%減少させる。この結合の減少は、当業界の通常の技術者に知られている任意の手段、例えばin vitro競合結合アッセイで測定するによって測定することができる。
【0029】
「活性化抗体」は、IGF−IRを発現させる細胞、組織、または生物に加えた場合にIGF−IRを少なくとも約20%活性化させる抗体である。好ましい実施形態ではこの抗体は、IGF−IRの活性を少なくとも40%、より好ましくは60%、さらに一層好ましくは80%、またはさらに一層好ましくは85%活性化させる。より好ましい実施形態ではこの活性化抗体は、IGF−IまたはIGF−IIの存在下で加えられる。別の好ましい実施形態では活性化抗体の活性度は、IGF−IRのチロシンの自己リン酸化の量を求めることによって測定される。
【0030】
抗体の断片または類似体は、本明細書の教示に従って当業界の通常の技術者によって容易に調製することができる。断片または類似体の好ましいアミノ末端およびカルボキシ末端は、機能ドメインの境界近傍に生ずる。構造および機能ドメインは、そのヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列データを、公開または著作権を有する配列データベースと比較することによって同定することができる。好ましくはコンピュータ化された比較方法を用いて、既知の構造および/または機能をもつ他のタンパク質中で生ずる配列モチーフまたは予想されるタンパク質立体配座ドメインにより同定する。既知の三次元構造に折り畳まれたタンパク質配列を同定する方法が知られている。Bowie等の論文Sciences 253: 164 (1991)。
【0031】
本明細書中で用いる用語「表面プラスモン共鳴」は、例えばBIAcoreシステム(Phamacia Biosensor AB, Uppsala, Sweden and Piscataway, N.J.)を用いてバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化を検出することによってリアルタイムの生体特異的相互作用の分析を可能にする光学的現象を指す。更なる記載についてはJonsson, U.(1993)等の論文Ann. Biol. Clin. 51: 19-26、Jonsson, U.(1991)等の論文Biotechniques 11: 620-627、Johnsson, B.(1995)等の論文J. Mol. Recognit. 8: 125-131、Johnnson, B.(1991)等の論文Anal. Biochem. 198: 268-277を参照されたい。
【0032】
用語「Koff」は、抗体/抗原複合体由来の抗体の解離のオフ速度定数を指す。
用語「Kd」は、或る特定の抗体−抗原相互作用の解離定数を指す。
【0033】
本明細書中で用いられる20種類の通常のアミノ酸およびそれらの略称は従来の慣習に従う。E. S. GolubおよびD. R. Gren編のImmunology−A Synthesis (2nd Edition, Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991)(参照により本明細書中に組み込む)を参照されたい。20種類の通常のアミノ酸の立体異性体(例えばDアミノ酸)、α,α二置換アミノ酸などの人為的アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、および他の不正規のアミノ酸もまた、本発明のポリペプチド用の好適な成分であることができる。不正規のアミノ酸の例には、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、ε−N, N, N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、s−N−メチルアルギニン、ならびに他の類似のアミノ酸およびイミノ酸(例えば4−ヒドロキシプロリン)が挙げられる。本明細書中で用いられるポリペプチド表記法では、標準的な用法および慣行に従って左方向がそのアミノ末端の方向であり、また右方向がそのカルボキシ末端の方向である。
【0034】
本明細書中で言及される「ポリヌクレオチド」は、長さが少なくとも塩基10個のヌクレオチドの高分子形態、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのいずれか、あるいはどちらかの型のヌクレオチドの修飾形態を意味する。この用語には、DNAの一本および二本鎖形態が含まれる。
【0035】
本明細書中で用いられる用語「分離ポリヌクレオチド」は、ゲノム、cDNA、または合成起源の、あるいはそれらの幾つかの組合せのポリヌクレオチドを意味するものとし、その起源のせいでこの「分離ポリヌクレオチド」は、(1)その「分離ポリヌクレオチド」が自然界で見出されるポリヌクレオチドの全体または一部と会合しないか、(2)自然界では結合しないポリヌクレオチドと作動的に結合するか、または(3)より大きな配列の一部としては自然界で生じない。
【0036】
本明細書中で言及される用語「天然に存在する」には、デオキシヌクレオチドおよびリボヌクレオチドが含まれる。本明細書中で言及される用語「修飾ヌクレオチド」には、修飾または置換糖基などを有するヌクレオチドが含まれる。本明細書中で言及される用語「オリゴヌクレオチド結合」には、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニラデート、ホスホロアミデートなどのオリゴヌクレオチド結合が含まれる。例えば、LaPlanche等の論文Nucl. Acids Res. 14: 9081 (1986)、Stec等の論文J. Am. Chem. Soc. 106: 6077 (1984)、Stein等の論文Nucl. Acids Res.16: 3209 (1988)、Zon等の論文Anti-Cancer Drug Design 6: 539 (1991)、Zon等の執筆のOligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, pp.87-108 (F. Eckstein編、Oxford University Press, Oxford England (1991)、Stec他の米国特許第5,151,510号、UhlmannおよびPeymanの論文Chemical Reviews 90: 543 (1990)を参照されたい(これによりこれらの開示内容は参照により組み込まれる)。オリゴヌクレオチドは必要に応じて検出用の標識を含むことができる。
【0037】
「作動的に結合した(作用可能な状態で連結された)」配列には、興味のある遺伝子に隣接する発現制御配列と、in transまたは少し離れたところで作用してその興味のある遺伝子を制御する発現制御配列との両方が含まれる。本明細書中で用いられる用語「発現制御配列」は、それらをライゲート(結紮)するコード配列の発現およびプロセッシングを行うのに必要なポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター、およびエンハンサー配列や、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的RNAプロセッシングシグナルや、細胞質mRNAを安定化する配列や、翻訳効率を高める配列(すなわちコザックのコンセンサス配列)や、タンパク質の安定性を高める配列や、また所望の場合はタンパク質の分泌を高める配列が挙げられる。このような制御配列の性質は宿主生物によって異なり、原核生物ではこのような制御配列は一般にプロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列を含み、また真核生物ではこのような制御配列は一般にプロモーターおよび転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、その存在が発現およびプロセッシングに不可欠な最小限のすべての成分を含むことを意図しており、またそれが存在すると有利な追加成分、例えばリーダー配列および融合パートナー配列を含むこともできる。
【0038】
本明細書中で用いられる用語「ベクター」は、それが結合していたものとは別の核酸を輸送する能力のある核酸分子を指すことを意図している。ベクターの一つの種類は「プラスミド」であり、その中に追加のDNAセグメントを結紮することができる環状二本鎖DNAの輪状構造を指す。ベクターの別の種類は、追加のDNAセグメントをウィルスゲノム中に結紮することができるウィルスベクターである。幾つかのベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自己複製の能力がある(例えば、細菌性複製起点を有する細菌性ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。宿主細胞中への導入時にその宿主細胞のゲノム中に他のベクター(例えば非エピソーム哺乳動物ベクター)を組み込むことができ、それによってその宿主ゲノムと一緒に複製される。さらに或る種のベクターは、それらが作動的に結合する遺伝子の発現を指示する能力がある。このようなベクターを本明細書中では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に組換えDNA技術に有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。プラスミドがベクターの最も普通に用いられる形態であるので本明細書中では「プラスミド」と「ベクター」は区別なく用いることができる。しかしながら本発明は、同等の機能を果たすウィルスベクター(例えば複製欠陥のあるレトロウィルス、アデノウィルス、およびアデノ随伴ウィルス)などのこのような他の形態の発現ベクターも含むことを意図する。
【0039】
本明細書中で用いられる用語「組換え宿主細胞」は、その中に組換え発現ベクターが導入されている細胞を指すことを意図している。このような用語は、その特定の被験体の細胞だけでなくそのような細胞の子孫も指すことを意図していることを理解されたい。突然変異または環境の影響のいずれかのせいで後続の世代には或る種の修飾が起こる可能性があるので、このような子孫は親細胞と実際には同一ではない可能性があるが、本明細書中で用いられる用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。
【0040】
核酸配列に関する言及は、別段の指示がない限りその補体を包含する。したがって特定の配列を有する核酸分子に関する言及は、その相補的配列を有するその相補鎖を包含するものと理解されたい。
【0041】
本明細書中で用いられる用語「標識」または「標識した」とは、その抗体中への別の分子の組込みを指す。一実施形態では標識は検出可能なマーカー、例えば放射能標識アミノ酸の組込みや、標識したアビジン(例えば、光学的方法または比色法により検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を含有するストレプトアビジン)によって検出することができるビオチニル部分のポリペプチドへの付着である。別の実施形態ではこの標識またはマーカーは治療に役立つ、例えば薬物接合体または毒素であってもよい。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識する様々な方法が当業界で知られており、使用することができる。ポリペプチド用の標識の例には、これらには限定されないが放射線同位体または放射性核種(例えば、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I)、蛍光標識(例えばFITC、ローダミン、ランタニド、蛍リン光体)、酵素標識(ワサビダイコンペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次リポーターにより認識される予め決められたポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパーペア配列、二次抗体に対する結合部位、金属結合ドメイン、エピトープ標識)、ガドリニウムキレート化合物などの磁性物質、百日咳毒素などの毒素類、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、ミトマイシン、エトポシド、テノポシド、ビンクリスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミスラマイシン、アクチノマイシンD、1−デヒドロテスオステロン、グルココルチコイド、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、ならびにそれらの類似体または同族体が挙げられる。幾つかの実施形態では標識は、起こり得る立体障害を少なくするために様々な長さのスペーサーアームにより付着される。
【0042】
用語「薬品」は、本明細書中では化合物、化合物の混合物、生体高分子、または生体物質から製造される抽出物を表すのに用いられる。本明細書中で用いられる用語「医薬品または薬物」は、患者に適切に投与した場合に所望の治療効果を引き起こすことができる化合物または組成物を指す。本明細書中の他の化学用語は、参照により本明細書中に組み込まれるParker, S.編、The McGraw-Hill Dictionary of Chemical Terms (McGraw-Hill, San Francisco (1985))に例示される当業界の通常の使用法に従って用いられる。
【0043】
用語「抗新生物薬」は、本明細書中ではヒトにおける新生物、特に癌腫、肉腫、リンパ腫、または白血病などの悪性(癌性)の病巣の成長または進行を阻害する機能特性を有する薬品を指すために用いられる。転移の阻害がしばしば抗新生物薬の特性である。
【0044】
抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、またはIgD分子であることができる。好ましい実施形態ではこの抗体はIgGであり、また亜型IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4である。より好ましい実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は亜綱IgG2である。
【0045】
抗IGF−IR抗体の綱および亜綱は、当業界で知られている任意の方法により決定することができる。一般には抗体の綱および亜綱は、抗体の或る特定の綱および亜綱に特効のある抗体を用いて決定することができる。その綱および亜綱は、ELISA、ウェスタンブロット、および他の技術により決定することができる。別法ではこの綱および亜綱は、その抗体の重/軽鎖の不変ドメインの全体または一部の配列を求め、その抗体のアミノ酸配列を様々な綱および亜綱の免疫グロブリンの既知のアミノ酸配列と比較し、この抗体の綱および亜綱を決定することによって決めることができる。
【0046】
本発明はまた、ヒトκ遺伝子がコードする可変配列を含む抗IGF−IR抗体を提供する。好ましい実施形態ではこの可変配列は、VκA27、A30、またはO12遺伝子の科のいずれかによってコードされる。好ましい実施形態ではこの可変配列は、ヒトVκA30遺伝子によってコードされる。より好ましい実施形態ではこの軽鎖は、生殖系列配列がコードするアミノ酸配列に戻った3つのフレームワーク突然変異を含む。
【0047】
SEQ ID NO: 1は、2.12.1fxの重鎖のDNA配列を提供する。SEQ ID NO: 2は、2.12.1fxの軽鎖のDNA配列を提供する。SEQ ID NO: 3は、2.12.1fxの重鎖のアミノ酸配列を提供する。SEQ ID NO: 4は、生殖系列DP−35のアミノ酸配列を提供する。SEQ ID NO: 5は、2.12.1fxの軽鎖のアミノ酸配列を提供し、またSEQ ID NO: 6は、生殖系列A30/Jκ1のアミノ酸配列を提供する。図示した配列は、シグナル配列を含む抗体に対する未熟前駆体のものである。
【0048】
一実施形態では抗IGF−IR抗体は、ヒトVH DP−35、DP−47、DP−70、DP−71、またはVIV−4/4.35遺伝子の科がコードする可変領域配列を含む。好ましい実施形態ではこの可変領域配列はヒトVH DP−35遺伝子から得られる。より好ましい実施形態ではこの重鎖は、生殖系列配列がコードするアミノ酸配列に戻った2つのフレームワーク突然変異を含む。
本発明の抗IGF−IR抗体をコードする核酸分子を提供する。
【0049】
一実施形態ではこの軽鎖の可変領域配列をコードする核酸分子は、A30、A27、またはO12 Vκ遺伝子から得られる。好ましい実施形態ではこの軽鎖はA30 Vκ遺伝子から得られる。別の好ましい実施形態ではこの軽鎖をコードする核酸分子は、Jκ1、Jκ2、またはJκ4由来の接合領域を含む。
【0050】
本発明はまた、2.12.1fxの軽鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
本発明はまた、DP−35、DP−47、DP−71、またはVIV−4/4.35 VH遺伝子、好ましくはDP−35 VH遺伝子から得られる重鎖(VH)の可変領域をコードする核酸分子を提供する。別の好ましい実施形態ではこのVHをコードする核酸分子は、JH6またはJH5、より好ましくはJH6由来の接合領域を含む。本発明はまた、2.12.1fxの重鎖の可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0051】
ヒト抗体の完全な重および軽鎖のどちらかまたは両方あるいはそれらの可変領域をコードする核酸分子は、ヒト抗体を産生する任意の供給源から得ることができる。抗体をコードするmRNAを分離する方法は、当業界でよく知られている。例えばSambrook等の著書を参照されたい。このmRNAは、抗体遺伝子のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはcDNAクローニングに使用するcDNAを生産するために用いることができる。本発明の一実施形態ではこの核酸分子は、上記抗IGF−IR抗体を発現させるハイブリドーマ、好ましくはXENOMOUSETMや、非ヒトのマウストランスジェニック動物や、非ヒト非マウストランスジェニック動物などのヒト免疫グロブリン遺伝子を発現させるトランスジェニック動物をその融合パートナーの一方として有するハイブリドーマから得ることができる。IGF−1R抗体は、IGF−1Rに特異的なもの以外の本発明のヒト抗体に一般に応用することができる。
【0052】
抗IGF−IR抗体の完全な重鎖をコードする核酸分子は、重鎖の可変ドメインまたはその抗原結合ドメインをコードする核酸分子を、重鎖の不変ドメインと融合させることによって構築することができる。同様に、抗IGF−IR抗体の軽鎖をコードする核酸分子は、軽鎖の可変ドメインまたはその抗原結合ドメインをコードする核酸分子を、軽鎖の不変ドメインと融合させることによって構築することができる。VHおよびVL鎖をコードする核酸分子は、そのVHセグメントがベクター内の重鎖不変領域(CH)のセグメントまたは複数セグメントと作動的に結合し、かつそのVLセグメントがベクター内の軽鎖不変領域(CL)のセグメントと作動的に結合するように、それぞれ重および軽鎖不変領域をすでにコードしている発現ベクター中にそれらを挿入することによって完全長の抗体遺伝子に変換することができる。別法ではそのVHまたはVL鎖をコードする核酸分子は、標準的な分子生物学的技術を用いてVH鎖をコードするその核酸分子を、CH鎖をコードする核酸分子と結合する、例えば結紮することによって完全長の抗体遺伝子に変換することができる。同じことがVLおよびCL鎖をコードする核酸分子を用いて達成することができる。ヒト重および軽鎖の不変領域遺伝子の配列は当業界で既知である。例えばKabat等著のSequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., NIH Publ. No. 91-3242, 1991を参照されたい。次いで完全長の重および/または軽鎖をコードする核酸分子を、それらが導入されている細胞から発現させ、その抗IGF−IR抗体を分離することができる。
【0053】
別の実施形態では抗IGF−IR抗体の重鎖またはその抗原結合ドメイン、あるいは抗IGF−IR抗体の軽鎖またはその抗原結合ドメインのどちらかをコードする核酸分子は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現させ、IGF−IR抗原で免疫した非ヒト非マウス動物から分離することができる。他の実施形態では核酸分子は、抗IGF−IR抗体を産生する非トランスジェニック動物からまたはヒトの患者から得られる抗IGF−IR抗体産生細胞から分離することができる。抗IGF−IR抗体産生細胞からmRNAを分離する方法については、PCRおよびライブラリー構築技術を用いてコローン化および/または増幅し、標準的な実験計画案を用いて選別して抗IGF−IR重および軽鎖をコードする核酸分子を得る標準的な技術によって分離することができる。
【0054】
下記のようにこの核酸分子を用いて組換えにより大量の抗IGF−IR抗体を発現させることができる。また、さらに下記のようにこの核酸分子を用いて一本鎖抗体、イムノアドヘシン、ダイアボディ、突然変異抗体、および抗体誘導体を生産することもできる。
【0055】
別の実施形態では本発明の核酸分子は、特異的抗体配列用のプローブまたはPCRプライマーとして使用することができる。例えば、核酸分子プローブは診断法に用いることができ、あるいは核酸分子PCRプライマーはDNAの領域の増幅、とりわけ抗IGF−IR抗体の可変ドメインの産生に使用される核酸配列の分離に用いることができるDNAの領域の増幅に用いることができる。好ましい実施形態ではこの核酸分子はオリゴヌクレオチドである。より好ましい実施形態ではこのオリゴヌクレオチドは、この考察対象の抗体の重および軽鎖の高度可変領域由来のものである。
【0056】
本発明は、本発明の核酸分子の重鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸分子を含むベクターを提供する。本発明はまた、本発明の核酸分子の軽鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸分子を含むベクターを提供する。本発明はまた、融合タンパク質、修飾抗体、抗体断片、およびそれらのプローブを含むベクターを提供する。
【0057】
本発明の抗体または抗体の部分を発現させるには、上記で得られる一部分または完全長の軽および重鎖をコードするDNAを、その遺伝子が転写および翻訳制御配列と作動的に結合するように発現ベクター中に挿入する。発現ベクターには、プラスミド、レトロウィルス、コスミド、YAC、EBV由来のエピソームなどが挙げられる。この抗体遺伝子はベクター中に結紮され、その結果ベクター内の転写および翻訳制御配列がその抗体遺伝子の転写および翻訳の調節の意図する機能を果たす。この発現ベクターおよび発現制御配列は、使用される発現宿主細胞と適合性があるように選択される。この抗体軽鎖遺伝子および抗体重鎖遺伝子は、別々のベクター中に挿入することができる。好ましい実施形態では両方の遺伝子が同一の発現ベクター中に挿入される。この抗体遺伝子は標準的な方法(例えば、その抗体遺伝子断片上の相補的制限部位およびベクターの結紮、または制限部位が存在しない場合はブラントエンドの結紮)により発現ベクター中に挿入される。
【0058】
好都合なベクターは、任意のVHまたはVL配列が容易に挿入され発現することができるように操作された適切な制限部位を有する機能的に完全なヒトCHまたはCL免疫グロブリン配列をコードするものである。このようなベクター中ではスプライシングは、挿入されたJ領域中のスプライス供与部位とヒトC領域に先立つスプライス受容部位の間で、またヒトCHエキソン内で生ずるスプライス領域で普通に起こる。ポリアデニル化および転写終結は、そのコード領域の下流の生来の染色体部位で起こる。この組換え発現ベクターはまた、宿主細胞由来の抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードすることもできる。抗体鎖遺伝子は、このシグナルペプチドが抗体鎖遺伝子のアミノ末端とin-frameで結合するようにベクター中にクローン化することができる。このシグナルペプチドは、免疫グロブリンシグナルペプチドでも異種シグナルペプチド(すなわち非免疫グロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)でもよい。
【0059】
抗体鎖遺伝子に加えて本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞中の抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を運ぶ。調節配列の選択を含めて発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択、望ましいタンパク質の発現レベルなどの要因に左右される場合があることを当業技術者は理解するはずである。哺乳動物宿主細胞発現用の好ましい調節配列には、レトロウィルスLTRや、サイトメガロウィルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーなど)や、サルウィルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーなど)や、アデノウィルス(例えばアデノウィルスの主要な後期プロモーター(AdMLP))や、ポリオーマや、自然のままの免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターなどの強力な哺乳動物プロモーターから得られるプロモーターおよび/またはエンハンサーなどの、哺乳動物細胞中で高レベルのタンパク質発現を指示するウィルス要素が挙げられる。ウィルス調節要素およびそれらの配列の更なる記載については、Stinskiの米国特許第5,168,062号、Bell他の米国特許第4,510,245号、およびSchaffner他の米国特許第4,968,615号を参照されたい。
【0060】
これらの抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞中のベクターの複製(例えば複製起点)を調節する配列および選択マーカー遺伝子などの追加の配列を運ぶことができる。選択マーカー遺伝子は、そのベクターが導入される宿主細胞の選択を容易にする(例えば米国特許第4,399,216号、第4,634,665号、および第5,179,017号参照)。例えば、典型的にはこの選択マーカー遺伝子は、G418、ヒグロマイシン、またはメトトレキセートなどの薬物に対する耐性をそのベクターが導入されている宿主細胞に付与する。好ましい選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅に関してdhfr‐宿主細胞で使用される)およびneo遺伝子(G418選択用)が挙げられる。
【0061】
本発明の抗IGF−IR抗体の重鎖もしくはその抗原結合部分および/または軽鎖もしくはその抗原結合部分をコードする核酸分子と、それらの核酸分子を含むベクターは、適切な宿主細胞の形質転換に用いることができる。形質転換は、ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための任意の周知の方法によって行うことができる。哺乳動物細胞中に異種ポリヌクレオチドを導入する方法は当業界でよく知られており、デキストランが仲介するトランスフェクション、リン酸カルシウム沈降、ポリブレンが仲介するトランスフェクション、プロトプラスト融合法、電気穿孔法、リボソーム中へのポリヌクレオチドのカプセル化、パーティクルガンを用いた注入法、および核中へのDNAの直接微注入法が挙げられる。これに加えて核酸分子はウィルスベクターにより哺乳動物細胞中に導入することができる。細胞を形質転換する方法は当業界でよく知られている。例えば、米国特許第4,399,216号、第4,912,040号、第4,740,461号、および第4,959,455号を参照されたい(これらの特許はこれにより本明細書中に参照により組み込まれる)。
【0062】
発現用の宿主として利用できる哺乳動物細胞株は当業界でよく知られており、American Type Culture Collection(ATCC)から入手できる多くの固定化細胞株がある。これらには、とりわけチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2細胞、Hela細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌の細胞(例えばHep G2)、A549細胞、3T3細胞、および複数種類の他の細胞株が挙げられる。哺乳動物宿主細胞には、ヒト、マウス、ラット、イヌ、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、およびハムスターの細胞含まれる。特定の選択される細胞株は、どの細胞株が高い発現レベルを有するかを判定することによって選択される。使用することができる他の細胞株は、Sf9細胞などの昆虫細胞、両生動物細胞、細菌細胞、植物細胞、および真菌細胞である。この重鎖またはその抗原結合部分、軽鎖および/またはその抗原結合部分をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞中に導入する場合、その抗体は、宿主細胞中での抗体の発現を可能にするのに十分な期間、またはより好ましくは宿主細胞がその中で成長する培地中への抗体の分泌を可能にするのに十分な期間、その宿主細胞を培養することによって産生することができる。抗体は標準的なタンパク質精製法を用いて培地から回収することができる。
【0063】
さらに産生細胞株からの本発明の抗体(またはその産生細胞株からの他の部分)の発現は、多くの周知の技術を用いて高めることができる。例えばグルタミンシンテターゼ遺伝子発現系(GS系)は、或る種の条件下で発現を高める一般的な手法である。このGS系は、欧州特許第0 216 846号、第0 256 055号、および第0 323 997号、欧州特許出願第89303964.4号と関連してその全体または一部で考察されている。異なる細胞株によって発現した抗体、またはトランスジェニック動物中で発現した抗体は、グリコシル化が多分互いに異なるであろう。しかしながら本明細書中で提供される核酸分子がコードするすべての抗体、または本明細書中で提供されるアミノ酸配列を含むすべての抗体は、それら抗体のグリコシル化に関係なく本発明の一部である。
【0064】
本発明はまた、本発明の抗体を産生するために用いることができる本発明の1種類または複数種類の核酸分子を含むトランスジェニック非ヒト動物を提供する。これら抗体は、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、または他の動物の組織、あるいは乳、血液、または尿などの体液中で産生し、またそれらから回収することができる。例えば米国特許第5,827,690号、第5,756,687号、第5,750,172号、および第5,741,957号を参照されたい。上述のように免疫グロブリン遺伝子座を含む非ヒトトランスジェニック動物は、IGF−IRまたはその部分で免疫することによって産生することができる。
【0065】
別の実施形態では非ヒトトランスジェニック動物は、標準的なトランスジェニック技術によりその動物中に本発明の1種類または複数種類の核酸分子を導入することによって産生することができる。後掲のHoganの著書を参照されたい。トランスジェニック動物を作るために用いられるトランスジェニック細胞は、胚幹細胞または体細胞であることができる。トランスジェニック非ヒト生物は、キメラ異型接合体、非キメラ異型接合体、および非キメラ同型接合体であることができる。例えば、Hogan等著のManipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual 2 ed., Cold Spring Harbor Press (1999)、Jackson等著のMose Genetics and Transgenics: A Practical Approach, Oxford University Press (2000)、およびPinkert著のTransgenic Animal Technology; A Laboratory Handbook, Academic Press (1999)を参照されたい。別の実施形態ではこのトランスジェニック非ヒト生物は、考察対象の重鎖および/または軽鎖をコードする標的破壊部および置換部を有する。好ましい実施形態ではこのトランスジェニック動物は、IGF−IR、好ましくはヒトIGF−IRと特異的に結合する重鎖および軽鎖をコードする核酸分子を含み、発現させる。別の実施形態ではこのトランスジェニック動物は、一本鎖抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体などの修飾抗体をコードする核酸分子を含む。この抗IGF−IR抗体は、任意のトランスジェニック動物中で作ることができる。好ましい実施形態ではこの非ヒト動物は、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマである。この非ヒトトランスジェニック動物は、血液、乳、尿、唾液、涙、粘液、および他の体液中で上記のコードされたポリペプチドを発現させる。
【0066】
本明細書中で開示した抗IGF−IR抗体に加えて組換えヒト抗体は、ヒトリンパ細胞から得られるmRNAから調製されたヒトVLおよびVH cDNAを用いて調製される組換え組合せ抗体ライブラリー、好ましくはscFvファージディスプレーライブラリーのスクリーニングにより分離することができる。このようなライブラリーを調製し選別する方法体系は当業界で知られている。ファージディスプレーライブラリーを生み出す市販のキットがある(例えば、Pharmacia Recombinant Phage Antibody System(カタログ番号27−9400−01)およびStratagene SurfZapTMファージディスプレーキット(カタログ番号240612))。また、抗体ディスプレーライブラリーを作製し選別するために用いることができる他の方法および試薬もある(例えば、Ladner他の米国特許第5,223,409号、Kang他の国際公開第WO92/18619号、Dower他の国際公開第WO91/17271号、Winter他の国際公開第WO92/20791号、Markland他の国際公開第WO92/15679号、Breitling他の国際公開第WO93/01288号、McCafferty他の国際公開第WO92/01047号、Garrard他の国際公開第WO92/09690号、Fuchs等(1991)の論文Bio/Technology 9: 1370-1372、Hay(1992)等の論文Hum. Antibod. Hybridomas 3: 81-85、Huse等(1989)の論文Science 246: 1275-1281、McCafferty等の論文Nature (1990) 348: 552-554、Griffiths等(1993)の論文EMBO J. 12: 725-734、Hawkins等(1992)の論文J. Mol. Bio. 226: 889-896、Clackson等(1991)の論文Nature 352: 624-628、Gram等(1992)の論文Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 3576-3580、Garrad等(1991)の論文Bio/Technology 9: 1373-1377、Hoogenboom等(1991)の論文Nuc. Acad.Res. 19: 4133-4137、およびBarbas等(1991)の論文Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7978-7982参照)。
【0067】
好ましい実施形態では所望の特性を有するヒト抗IGF−IR抗体を分離するために、まず本明細書中で述べたヒト抗IGF−IR抗体を使用して、IGF−IRと似た結合活性を有するヒト重鎖および軽鎖配列を、Hoogenboom他の国際公開第WO93/06213号に記載のエピトープインプリンティング法を用いて選択する。この方法に用いられる抗体ライブラリーは、好ましくはMcCafferty他の国際公開第WO92/01047号、McCafferty等の論文Nature (1990) 348: 552-554、およびGriffiths等(1993)の論文EMBO J. 12: 725-734に記載のように調製され選別されるscFvライブラリーである。このscFv抗体ライブラリーは、好ましくは抗原としてヒトIGF−IRを用いて選別される。
【0068】
いったん始原ヒトVLおよびVHセグメントが選択されたら、その最初に選択したVLおよびVHセグメントの様々なペアをIGF−IR結合用に選別する「組み合わせ」実験を行って好ましいVL/VHペアの組合せを選択する。その上、抗体の質をさらに改良するために、自然の免疫応答の間に抗体の親和性突然変異の役割を担うin vivo体細胞突然変異過程に相似の過程でこの好ましいVL/VHペアのVLおよびVHセグメントをランダムに、好ましくはVHおよび/またはVLのCDR3領域内で突然変異させることができる。このin vivo親和性突然変異は、それぞれVH CDR3またはVL CDR3に相補的なPCRプライマーを用いてVHおよびVL領域を増幅することによって達成することができる。これらのプライマーは幾つかの位置で4種類のヌクレオチド塩基のランダム混合物により「スパイク」されており、その結果この得られたPCR生成物はそれらのランダム突然変異がそのVHおよび/またはVL CDR3領域に導入されているVHおよびVLセグメントをコードする。これらのランダムに突然変異したVHおよびVLセグメントは、IGF−IRとの結合用に再選別することができる。
【0069】
組換え免疫グロブリンディスプレーライブラリーからの本発明の抗IGF−IR抗体のスクリーニングおよび分離後に、選択した抗体をコードする核酸をディスプレーパッケージから(例えばファージゲノムから)回収し、標準的な組換えDNA技術により他の発現ベクター中にさらにクローン化することができる。望むならばこの核酸をさらに操作して、下記に述べるように本発明の他の抗体形態を創りだすこともできる。組換えライブラリーのスクリーニングにより分離した組換えヒト抗体を発現させるには、この抗体をコードするDNAを組換え発現ベクター中に上記のようにクローン化し、哺乳動物中に導入する。
【0070】
上記で得られた抗IGF−IR抗体の綱は、別の綱とスイッチすることができる。本発明の一態様ではVLまたはVHをコードする核酸分子は、CLまたはCHをコードするどのような核酸配列も含まないように当業界でよく知られている方法を用いて分離される。次いでこのVLまたはVHをコードする核酸分子は、別の綱の免疫グロブリン分子由来のCLまたはCHをコードする核酸配列と作動的に結合する。これは、CLまたはCH鎖を含むベクターまたは核酸分子を用いて上記のように達成することができる。例えば元はIgMであった抗IGF−IR抗体をIgGにクラススイッチすることができる。さらにこのクラススイッチを用いて或るIgGの亜綱を別のものに、例えばIgG1からIgG2へ変換することができる。所望のアイソタイプを含む本発明の抗体を産生するための好ましい方法は、抗IGF−IR抗体の重鎖をコードする核酸と抗IGF−IR抗体の軽鎖をコードする核酸を分離するステップ、この重鎖の可変領域を得るステップ、この重鎖の可変領域を所望のアイソタイプの重鎖の不変ドメインと結紮させるステップ、細胞中の軽鎖および結紮した重鎖を発現させるステップ、および所望のアイソタイプを有する抗IGF−IR抗体を回収するステップを含む。
【0071】
当業界の通常の技術者には周知の技術および方法を使用することにより上記の核酸分子を用いて抗体誘導体を生成することができる。本発明によれば選択された位置にある1個または複数個の突然変異アミノ酸残基を、次いで対応する生殖系列の残基で置き換える。
別の実施形態では、別のポリペプチドと結合している抗IGF−IR抗体の全体または一部を含む融合抗体またはイムノアドへシンを作ることができる。好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体の可変領域のみがポリペプチドと結合している。別の好ましい実施形態では、抗IGF−IR抗体のVHドメインは第一ポリペプチドと結合し、一方、抗IGF−IR抗体のVLドメインは、VHおよびVLドメインが相互に作用して抗体結合部位を形成することができるようなやり方で第一ポリペプチドと関連する第二ポリペプチドと結合する。別の好ましい実施形態ではVHドメインは、VHおよびVLドメインが相互に作用できるようにリンカーによってVLドメインから隔離される。次いでこのVHリンカー−VL抗体を興味のあるポリペプチドと結合させる。この融合抗体は、ポリペプチドをIGF−IR発現細胞または組織に向けるのに役立つ。このポリペプチドは、毒素、成長因子、または他の調節タンパク質などの治療薬であってもよく、あるいはワサビダイコンペルオキシダーゼなどの容易に可視化することができる酵素などの診断薬であってもよい。これに加えて2種類(またはそれ以上)の一本鎖抗体が互いに結合している融合抗体を創り出すこともできる。これは、一本のポリペプチド鎖上で二価または多価抗体を創り出したい場合、あるいは二重特異性抗体創り出したい場合に役立つ。
【0072】
一本鎖抗体(scFv)を創り出すにはそのVHおよびVLをコードするDNA断片は、VHおよびVL配列がそのフレキシブルリンカーによって結び付けられたVLおよびVH領域と隣接した一本鎖タンパク質として発現することができるように、フレキシブルリンカーをコードする、例えばアミノ酸配列(Gly4−Ser)3をコードする別の断片と作動的に結合する(例えば、Bird等(1988)の論文Science 242: 423-426、Huston等(1988)の論文Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883、McCafferty等の論文Nature (1990) 348: 552-554参照)。この一本鎖抗体は、ただ1種類のVHおよびVLを用いる場合は一価、2種類のVHおよびVLを用いる場合は二価、または3種類以上のVHおよびVLを用いる場合は多価であることができる。
【0073】
別の実施形態では、抗IGF−IRをコードする核酸分子を用いて他の修飾抗体を調製することができる。例えば、「κボディ」(Ill等の論文Protein Eng 10: 949-57 (1997))、「ミニボディ」(Martin等の論文EMBO J 13: 5305-9 (1994))、「ダイアボディ」(Hollinger等の論文PNAS USA 90: 6444-6448 (1993))、または「ジャヌシン」(Traunecker等の論文EMBO J 10: 3655-3659 (1991)およびTraunecker等の著「Janusin: new molecular design for bispecific reagents」Int. J. Cancer Suppl. 7: 51-52 (1992))は、その詳述の教示に従って標準的な分子生物学的手法を用いて調製することができる。
【0074】
本発明の抗体または抗体部分は誘導体化するか、または別の分子(例えば別のペプチドまたはタンパク質)に結合させることができる。一般にその抗体またはその部分は、IGF−IR結合がその誘導体化または標識化によって悪影響を受けないように誘導体化される。したがって本発明の抗体または抗体部分は、本明細書中で述べるヒト抗IGF−IR抗体の無傷および修飾形態の両方を含むことを意図している。例えば本発明の抗体または抗体部分は、別の抗体(例えば二重特異性抗体またはダイアボディ)、検出薬、細胞毒、医薬品、および/あるいは抗体または抗体部分と別の分子の会合を仲介することができるタンパク質またはペプチド(ストレプトアビジンのコア領域またはポリフスチジン標識等)などの1種類または複数種類の他の分子部分と機能的に結合する(化学的結合、遺伝的融合、非共有結合、または他の方法によって)ことができる。
【0075】
誘導体化抗体の一つの型は、2種類以上の抗体(同一種類の、または例えば二重特異抗体を創り出すように異なる種類の)を架橋することによって生成することができる。好適なリンカーには、適切なスペーサー(例えばm−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)によって引き離された2つの全く異なる反応基を有するヘテロ二官能性か、またはホモ二官能性(例えばスベリン酸ジスクシニミジル)のものが挙げられる。このようなリンカーはPierce Chemical Company, Rockford, IIIから入手できる。
【0076】
誘導体化抗体の別の型は標識した抗体である。本発明の抗体または抗体部分を誘導体化することができる有用な検出薬には、フルオレセイン、蛍光性イソチオシアン酸エステル色素、ローダミン、5−ジメチルアミン−1−ナフタレンスルホニルクロリド、フィコエリチリン、ランタニド蛍リン光体などを含めた蛍光化合物が挙げられる。抗体はまた、ワサビダイコンペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼなどの検出に役立つ酵素で標識することができる。抗体を検出可能な酵素で標識する場合、識別することが可能な反応生成物を生成するためにその酵素が使用する追加の試薬を加えることによってそれは検出される。例えば作用物質のワサビダイコンペルオキシダーゼが存在する場合、過酸化水素およびジアミノベンジジンを添加することにより検出可能な着色反応生成物を生じる。抗体はまたビオチンで標識し、アビジンまたはストレプトアビジンの結合を通して間接的測定により検出することができる。抗体は、ガドリニウムなどの磁性物質で標識することができる。抗体はまた、二次リポーターによって認識される予め決められたポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパーペア配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープ標識)で標識することもできる。幾つかの実施形態では起こりうる立体障害を減らすために標識を様々な長さのスペーサーアームによって付着させる。
【0077】
抗IGF−IR抗体はまた、放射能標識したアミノ酸で標識することもできる。この放射能標識は、診断および治療目的の両方に用いることができる。例えばこの放射能標識は、X線または他の診断技術によりIGF−IR発現性腫瘍を検出するために用いることができる。さらにこの放射能標識は、癌細胞または腫瘍に対する毒素として治療に使用することができる。ポリペプチド用の標識の例には、これらには限定されないが下記の放射性同位体または放射性核種---3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131Iが挙げられる。
【0078】
抗IGF−IR抗体はまた、ポリエチレングリコール(PEG)、メチルまたはエチル基、あるいは炭水化物基などの化学基で誘導体化することもできる。これらの基は、抗体の生物学的特性を改良するのに、例えば血清半減期を増すまたは組織結合を強めるのに役立つ可能性がある。
【0079】
本発明はまた、治療に有効な量の本発明の化合物と薬学的に許容できる担体とを含む哺乳動物における過剰増殖性疾患の治療用医薬組成物に関する。一実施形態では上記医薬組成物は、脳、肺、扁平上皮細胞、膀胱、胃、膵臓、乳房、頭部、首部、腎性、腎臓、卵巣、前立腺、結腸直腸、食道、婦人科系、または甲状腺の癌などの癌の治療用である。本発明の方法に従って本発明の化合物で治療することができる患者には、例えば多発性骨髄腫、体液の腫瘍、肝臓癌、胸腺異常、T細胞が媒介する自己免疫疾患、内分泌学的(endocronological)障害、虚血、神経変性障害、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部および頸部の癌、皮膚または眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、婦人科系腫瘍(例えば、子宮肉腫、卵管の癌腫、子宮内膜の肉腫、子宮頸の肉腫、膣の肉腫、または陰門の肉腫)、ホジキン病、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌(甲状腺、上皮小体、または副腎の癌)、軟組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、小児期の充実性腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱の癌、腎臓または尿管の癌(例えば、腎細胞癌腫、腎盂の癌腫)、中枢神経系の新生物(例えば、原発性CNSリンパ腫、脊椎腫瘍、脳幹神経膠腫、または下垂体腺腫)に罹っていると診断された患者が含まれる。
【0080】
別の実施形態では上記の医薬組成物は、これらには限定されないが血管形成術後の再狭窄および乾癬などの非癌性過剰増殖性疾患に関する。別の実施形態では本発明は、IGF−IRの活性化を必要とする哺乳動物の治療用の、治療に有効な量の本発明の抗体と薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物に関する。活性化抗体を含むこれら医薬組成物は、十分なIGF−IまたはIGF−IIを欠く動物を治療するために使用することができ、あるいは骨粗鬆症、虚弱、あるいはその哺乳動物の活性成長ホルモンの分泌が少な過ぎるまたは成長ホルモンに応答することができない障害を治療するために使用することができる。
【0081】
本発明の抗IGF−IR抗体は、被験体に投与するのに適した医薬組成物中に混ぜることができる。一般にはこの医薬組成物は、本発明の抗体および薬学的に許容できる担体を含む。本明細書中で用いられる「薬学的に許容できる担体」には、生理学的に適合性のある任意のまたあらゆる溶媒、分散媒、剤皮、抗菌および抗真菌剤、等張剤、および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容できる担体の例には、水、生理的食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せが挙げられる。多くの場合、その組成物中に等張剤、例えば糖か、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコールか、または塩化ナトリウムを含むことが好ましいはずである。この抗体または抗体部分の貯蔵寿命または効力を高める湿潤剤などの薬学的に許容できる物質、あるいは湿潤または乳化剤や、保存剤や、緩衝剤などの少量の補助物質もまた含むことができる。
【0082】
本発明の組成物は様々な形態であることができる。これらには、例えば水剤(例えば、注射液および点滴液)や、分散または懸濁剤や、錠剤や、丸剤や、散剤や、リポソームや、坐剤などの液体、半固体、および固体剤形が挙げられる。その好ましい形態は、意図する投与方式および治療用途によって決まる。典型的な好ましい組成物は、他の抗体によるヒトの受動免疫に用いられるものと類似の組成物などの注射液または点滴液の形態である。投与の好ましい方式は、非経口投与(例えば静脈内、皮下、腹膜内、筋内)である。好ましい実施形態ではこの抗体は、静脈内の点滴または注射により投与される。別の好ましい実施形態ではこの抗体は、筋内または皮下注射により投与される。
【0083】
治療用組成物は、一般に製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定でなければならない。この組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソーム、または高薬物濃度に適した他の注文による構成物として調合することができる。滅菌注射液は、必要に応じて上記で列挙した1種類または複数種類の成分と共に必要な量の抗IGF−IR抗体を適切な溶媒中に取り込み、続いて濾過殺菌することによって調製することができる。一般に分散液はこの活性化合物を、塩基性分散媒と上記で列挙した中の必要な他の成分とを含有する無菌ビヒクル中に取り込むことによって調製される。滅菌注射液調製用の滅菌散剤の場合、好ましい調製法は、活性成分プラス任意の追加の所望の成分の粉末を、その前もって殺菌濾過した溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥である。水剤の適切な流動性は、例えばレシチンなどの剤皮を使用することにより、分散の場合は必要な粒径を保つことにより、また界面活性剤を使用することにより維持することができる。注射可能な組成物の長期間の吸収は、吸収を遅らせる薬品、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンをこの組成物中に含めることによって引き起こすことができる。
【0084】
本発明の抗体は、当業界で知られている様々な方法により投与することができるが、多くの治療用途の場合、投与の好ましい経路/方式は、腹膜内、皮下、筋内、静脈内、または点滴である。熟練技術者ならば分かるはずだがこの投与の経路/方式は、その所望の結果に応じて変わるはずである。一実施形態では本発明の抗体は単一回投与量として投与することもでき、また複数回投与量として投与してもよい。
【0085】
或る実施形態ではこの活性化合物は、インプラント、経皮貼剤、およびマイクロカプセル送達システムを含めた徐放性調合物など、速放出に対してその化合物を保護することになる担体と共に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。このような調剤の調製のための多くの方法が特許権を与えられるか、または当業技術者に一般に知られている。例えば、J. R. Robinson編Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
【0086】
補足的な活性化合物もまたこの組成物中に混ぜることができる。幾つかの実施形態では本発明の抗IGF−IR抗体は、化学療法薬、抗新生物薬、または抗腫瘍薬などの1種類または複数種類の追加の治療薬を共調合および/または同時投与される。例えば抗IGF−IR抗体を1種類または複数種類の追加の治療薬を共調合および/または同時投与することができる。それらの薬品には、これらには限定されないが、他の標的を結合する抗体(例えば、1種類または複数種類の成長因子またはサイトカイン、それらの細胞表面受容体、あるいはIGF−Iを結合する抗体)、IGF−I結合タンパク質、抗新生物薬、化学療法薬、抗腫瘍薬、IGF−IRまたはIGF−Iに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、IGF−IR活性を遮断するペプチド類似体、可溶性IGF−IR、および/あるいは当業界で知られているIGF−Iの産生または活性を阻害する1種類または複数種類の化学薬品、例えばオクトレオチドが挙げられる。活性抗体を含む医薬組成物の場合、その抗IGF−IR抗体は細胞成長を増すまたはアポプトシスを防ぐ因子と一緒に調合することができる。このような因子には、IGF−Iなどの成長因子、および/またはIGF−IRを活性化するIGF−I類似体がある。このような複合療法は、その同時投与薬だけでなく抗IGF−IR抗体の投与量もより少なくする必要があり、こうして様々な単一療法と関連する起こりうる毒性または問題を避けることができる。一実施形態は、抗体および1種類または複数種類の追加の治療薬である。
【0087】
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体または抗体部分の「治療に有効な量」または「予防に有効な量」を含むことができる。「治療に有効な量」とは、所望の治療結果を達成するのに有効な、必要な用量かつ必要な期間にわたっての量を指す。この抗体または抗体部分の治療に有効な量は、その個体の病いの状態、年齢、性別、および体重、ならびにその個体中で所望の応答を引き出すその抗体または抗体部分の能力などの要因に応じて変わる可能性がある。治療に有効な量はまた、治療上有益な効果の方がその抗体または抗体部分のいずれかの毒性または有害な影響よりも大きい量である。「予防に有効な量」とは、所望の予防結果を達成するのに有効な、必要な用量かつ必要な期間にわたっての量を指す。一般に、予防投与量は病いに先立ってまたは病いの早期段階において被験体に用いられるので、予防に有効な量は治療に有効な量よりも少ないはずである。
【0088】
投与量計画は、最適な望ましい応答(例えば、治療または予防の応答)を実現するように調整することができる。例えば、単一の巨丸剤を投与することもでき、幾つかに分割した用量を或る期間にわたって投与することもでき、あるいは治療の状態の緊急性により必要性が示されるのに応じて用量をそれに比例して減らしまたは増やすこともできる。この抗体を含む、またはこの抗体と1種類または複数種類の追加の治療薬とを含む複合治療薬を含む医薬組成物は、単一回または複数回投与量用に調合することができる。投与し易さおよび用量の均一性のためには非経口組成物を投与量単位の形態に調合するのが特に有利である。本明細書中で用いられる投与量単位の形態とは、治療される哺乳動物被験体にとって単位用量として適した物理的に分離された単位を指し、各単位は必要な医薬用担体とあいまって所望の治療効果を生むように計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の投与量単位の形態の仕様は、(a)その活性化合物の特有の特性およびその達成すべき特定の治療または予防効果、ならびに(b)それら個体の治療感受性に対してこのような活性化合物を配合する場合の当業界に固有の制限により必然的に決まり、またこれに直接左右される。特に有用な調合剤は、20 mMクエン酸ナトリウム(pH 5.5)、140 mM NaCl、および0.2 mg/mLのポリソルベート80の緩衝液に溶かした抗IGF−IR抗体5 mg/mLである。
【0089】
これには限定されないが本発明の抗体または抗体部分の治療または予防に有効な量の範囲の例は、0.1〜100 mg/kg、より好ましくは0.5〜50 mg/kg、より好ましくは1〜20 mg/kg、またより一層好ましくは1〜10 mg/kgである。用量の値は軽減すべき状態のタイプおよび重症度とともに変わる可能性があることに留意されたい。さらに、どの特定の被験体に対しても具体的な投与量計画は、個々の必要性およびその化合物の投与を管理または監督する人の職業的判断により或る期間にわたって調整されるべきであること、また本明細書中で述べる用量範囲は例に過ぎず、特許請求された組成物の範囲または実施を限定するものではないことを理解されたい。一実施形態ではこの治療または予防に有効な量の抗体またはその抗原結合部分は、1種類または複数種類の追加の治療薬と一緒に投与される。
別の態様においては本発明は、本発明の抗IGF−IR抗体を1ヶ月当たり300 mg未満の用量で癌の治療のために投与することに関する。
【0090】
本発明の別の態様は、これらの抗IGF−IR抗体と、これら抗体を含む医薬組成物とを含むキットを提供する。キットは、その抗体または医薬組成物に加えて診断または治療薬を含むことができる。キットはまた、診断または治療法に用いる使用説明書を含むことができる。好ましい実施形態ではこのキットは、この抗体またはその医薬組成物と、下記の方法で用いることができる診断薬とを含む。別の好ましい実施形態ではこのキットは、この抗体またはその医薬組成物と、下記の方法で用いることができる追加の抗新生物薬、抗腫瘍薬、または化学療法薬などの1種類または複数種類の治療薬とを含む。
【0091】
本発明はまた、或る量の化学療法薬と組み合わせて或る量の本発明の化合物を含む、哺乳動物中の異常細胞成長を阻害するための医薬組成物に関する。この化合物、塩、溶媒和化合物、またはプロドラッグの量とこの化学療法薬の量は、合わせて異常細胞成長を阻害するのに有効である。多くの化学療法薬が当業界で現在知られている。一実施形態では化学療法薬は、有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗薬、挿入抗生物質、成長因子阻害薬、細胞周期阻害薬、酵素、トポイソメラーゼ阻害薬、抗生存薬、生体応答調整物質、抗ホルモン薬(例えば抗アンドロゲン物質)、および抗血管形成薬からなる群から選択される。
【0092】
MMP−2(マトリックスメタロプロテアーゼ2)阻害剤、MMP−9(マトリックスメタロプロテアーゼ9)阻害剤、およびCOX−II(シクロオキシゲナーゼII)阻害剤などの抗血管形成薬は、本発明の化合物と共に用いることができる。有用なCOX−II阻害剤の例には、CELEBREXTM(アレコキシブ)、バルデコキシブ、およびロフェコキシブが挙げられる。有用なマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤の例は、国際公開第WO96/33172号(1996年10月24日公開)、国際公開第WO96/27583号(1996年3月7日公開)、欧州特許出願第97304971.1号(1997年7月8日出願)、欧州特許出願第99308617.2号(1999年10月29日出願)、国際公開第WO98/07697号(1998年2月26日公開)、国際公開第WO98/03516号(1998年1月29日出願)、国際公開第WO98/34918号(1998年8月13日公開)、国際公開第WO98/34915号(1998年8 月13日公開)、国際公開第WO98/33768号(1998年8月6日公開)、国際公開第WO98/30566号(1998年7月16日)、欧州特許公開第606,046号(1994年7月13日公開)、欧州特許公開第931,788号(1999年7月28日公開)、国際公開第WO90/05719号(1990年5月31日公開)、国際公開第WO99/52910号(1999年10月21日公開)、国際公開第WO99/52889号(1999年10月21日公開)、国際公開第WO99/29667号(1999年6月17日公開)、国際出願第PCT/IB98/01113号(1998年7月21日出願)、欧州特許出願第99302232.1号(1999年3月25日出願)、英国特許出願第9912961.1号(1999年6月3日出願)、米国仮特許出願第60/148,464号(1999年8月12日出願)、米国特許第5,863,949号(1999年1月26日発行)、米国特許第5,861,510号(1999年1月19日発行)、欧州特許公開第780,386号(1997年6月25日公開)に記載されており、これらはすべてそれらの全体が参照により本明細書中に組み込まれる。好ましいMMP阻害薬は関節痛を示さないものである。より好ましくは、その他のマトリックスメタロプロテアーゼ(すなわち、MMP−1、MMP−3、MMP−4、MMP−5、MMP−6、MMP−7、MMP−8、MMP−10、MMP−11、MMP−12、およびMMP−13)と比べてMMP−2および/またはMMP−9を選択的に阻害するものである。本発明に役立つMMP阻害剤の幾つかの具体的な例は、AG−3340、RO 32−3555、RS 13−0830、および次に列挙する化合物、3−[[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニル]−(1−ヒドロキシカルバモイル−シクロペンチル)−アミノ]−プロピオン酸、3−オキソ− 3−[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−8−オキサ−ビシクロ[3.2.1]オクタン−3−カルボン酸ヒドキシアミド、(2R, 3R)1−[4−(2−クロロ−4−フルオロ−ベンジロキシ)−ベンゼンスルホニル]−3−ヒドロキシ−3−メチル−ピペリジン−2−カルボン酸ヒドロキシアミド、4−[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロキシピラン−4−カルボン酸ヒドロキシアミド、3−[[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニル]−(1−ヒドロキシカルバモイル−シクロブチル)−アミノ]−プロピオン酸、4−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−ピラン−4−カルボン酸ヒドロキシアミド、(R)3−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−ピラン−3−カルボン酸ヒドロキシアミド、(2R, 3R)1−[4−(4−フルオロ−2−メチル−ベンジロキシ)−ベンゼンスルホニル]−3−ヒドロキシ−3−メチル−ピペリジン−2−カルボン酸ヒドロキシアミド、3−[[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニル−(1−ヒドロキシカルバモイル−1−メチル−エチル)−アミノ]−プロピオン酸、3−[[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニル]−(4−ヒドロキシカルバモイル−テトラヒドロ−ピラン−4−イル)−アミノ]−プロピオン酸、3−エキソ−3−[4−(4−クロロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−8−オキサ−ビシクロ[3.2.1]オクタン−3−カルボン酸ヒドロキシアミド、3−エンド−3−[4−(4フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−8−オキサ−ビシクロ[3.2.1]オクタン−3−カルボン酸ヒドロキシアミド、および(R)3−[4−(4−フルオロ−フェノキシ)−ベンゼンスルホニルアミノ]−テトラヒドロ−フラン−3−カルボン酸ヒドロキシアミド、および上記化合物の薬学的に許容できる塩および溶媒和化合物である。
【0093】
本発明の化合物はまた信号伝達阻害薬、例えばEGF−R抗体、EGF抗体、およびEGF−R阻害薬である分子などのEGF−R(上皮成長因子受容体)の応答を阻害することができる薬品や、VEGF(血管内皮成長因子)受容体、およびVEGFを阻害することができる分子などのVEGF阻害薬や、erbB2受容体と結合する有機分子または抗体などのerbB2受容体阻害薬、例えばHERCEPINTM(Genentech, Inc.)などと一緒に用いることもできる。EGF−R阻害薬は、例えば国際公開第WO95/19970号(1995年7月27日公開)、国際公開第WO98/14451号(1998年4月9日公開)、国際公開第WO98/02434号(1998年1月22日公開)、および米国特許第5,747,498号(1998年5月5日発行)に記載されており、またこのような物質は本明細書中で述べるように本発明において用いることができる。EGFRを阻害する薬品には、モノクローナル抗体C225および抗EGFR 22Mab(ImClone Systems Incorporated)、ABX−EGF(Abgenix/Cell Genesys)、EMD−7200(Merck KgaA)、EMD−5590(Merck KgaA)、MDX−447/H−477(Medarex Inc.およびMerck KgaA )、化合物ZD−1834や、ZD−1838や、ZD−1839(AstraZeneca)、PKI−166(Novartis)、PKI−166/CGP−75166(Novartis)、PTK787(Novartis)、CP 701(Cephalon)、Leflunomide(Pharmacia/Sugen)、CI−1033(Warner Lambert Parke Davis)、CI−1033/PD 183,805(Warner Lambert Parke Davis)、CL−387,785(Wyeth−Ayerst)、BBR−1611(Boehringer Mannheim GmbH/Roche)、Naamidine A(Bristol Myers Squibb)、RC−3940−II(Pharmacia)、BIBX−1382 (Boehringer Ingelheim)、OLX−103(Merck & Co.)、VRCTC−310(Ventech Research)、EGF融解毒素(Seragen Inc.)、DAB−389(Seragan/Lilgand)、ZM−252808(Imperial Cancer Research Fund)、RG−50864(INSERM)、LFM−A12(Parker Hughes Cancer Center)、WHI−P97(Parker Hughes Cancer Center)、GW−282974(Glaxo)、KT−8391(Kyowa Hakko)、およびEGF−R Vaccine(York Medical/Cento de Immunologia Molecular(CIM))が挙げられるがこれらには限定されない。これらおよび他のEGF−Rを阻害する薬品を本発明において用いることができる。
【0094】
VEGF阻害薬、例えばSU−5416やSU−6668(Sugen Inc.)、SH−268(Schering)、およびNX−1838(NeXstar)もまた本発明の化合物と併用することができる。VEGF阻害薬は、例えば国際公開第WO99/24440号(1999年5月20日公開)、国際出願第PCT/IB99/00797号(1999年5月3日出願)、国際公開第WO95/21613号(1995年8月17日公開)、国際公開第WO99/61422号(1999年12月2日公開)、米国特許第5,834,504号(1998年11月10日発行)、国際公開第WO98/50356号(1998年11月12日公開)、米国特許第5,883,113号(1999年3月16日発行)、米国特許第5,886,020号(1999年3月23日発行)、米国特許第5,792,783号(1998年8月11日発行)、国際公開第WO99/10349号(1999年3月4日公開)、国際公開第WO97/32856号(1997年9月12日公開)、国際公開第WO97/22596号(1997年6月26日公開)、国際公開第WO98/54093号(1998年12月3日公開)、国際公開第WO98/02438号(1998年1月22日公開)、国際公開第WO99/16755号(1999年4月8日公開)、国際公開第WO98/02437号(1998年1月22日公開)に記載されており、これらはすべてそれらの全体が参照により本明細書中に組み込まれる。本発明に役立つ幾つかの具体的なVEGF阻害薬の他の例は、IM862(Cytran Inc.)およびAngiozyme(Ribozyme and Chiron製の合成リボザイム)である。これらおよび他のVEGF阻害薬を本明細書中に述べるように本発明において用いることができる。
【0095】
さらに、例えば国際公開第WO98/02434号(1998年1月22日公開)、国際公開第WO99/35146号(1999年7月15日公開)、国際公開第WO99/35132号(1999年7月15日公開)、国際公開第WO98/02437号(1998年1月22日公開)、国際公開第WO97/13760号(1997年4月17日公開)、国際公開第WO95/19970号(1995年7月27日)、米国特許第5,587,458号(1996年12月24日発行)、および米国特許第5,877,305号(1999年3月2日発行)中に示されているerbB2受容体阻害薬、GW−28294(Glaxo Wellcome Plc)や、モノクローナル抗体AR−209(Aronex Pharmaceuticals Inc.)および2B−1(Chiron)などを本発明の化合物と併用することができる。これら特許はすべてそれらの全体が参照により本明細書中に組み込まれる。本発明に役立つerbB2受容体阻害薬はまた、米国仮特許出願第60/117,341号(1999年1月27日出願)、米国仮特許出願第60/117,346号(1999年1月27日出願)中に記載されており、両方ともそれらの全体が参照により本明細書中に組み込まれる。前述の国際出願、米国特許、および米国仮特許出願中に記載のerbB2受容体阻害化合物および物質、ならびにerbB2受容体を阻害することができる他の化合物および物質を、本発明に従って本発明の化合物と一緒に用いることができる。
【0096】
本発明の抗体はまた、抗体の配列3.1.1、4.1.1、4.8.1、4.10.2、4.13.1、4.14.3、6.1.1、11.2.1、11.6.1、11.7.1、12.3.1.1、または12.9.1.1を有する抗体を含めて、米国特許第6,682,736号に記載のものなどのCTLA−4抗体と一緒に用いることができる。この抗体はまた、抗体の配列3.1.1、3.1.1H−A78T、3.1.1H−A78T−V88A−V97A、7.1.2、10.8.3、15.1.1、21.4.1、21.2.1、22.1.1、22.1.1H−C109A、23.5.1、23.25.1、23.28.1、23.28.1H−D16E、23.29.1、または24.2を有するものを含めて、国際公開第WO03040170号(2003年5月15日公開)に記載のものなどのCD40抗体と一緒に用いることができる。
【0097】
これらの抗体はまた、抗インテグリン抗体などの抗インテグリン薬と併用することができる。
この抗体と併用することができる薬品の幾つかの具体的な例には、
アルキル化剤、すなわちナイトトジェンマスタードN−オキシド、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ブスルファンミトブロニロール、カルボコン、チオテパ、ラニムスチン、ニムスチン、およびテモゾロミドと、
代謝拮抗物質、すなわちメトトレキセート、6−メルカプトプリン、リボシド、メルカプトプリン、5−FU、テガフル、ドキシフリジン、カモフル、シタラビン、オクフォスフェート、エノシタビン、S−1、ゲムシタビン、フルダラビン、およびカペシタビンと、
抗生物質、すなわちアクチノマイシンD、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ネオカルジノスタチン、ブレオマイシン、ぺプロマイシン、マイトマイシンC、アクラルビシン、ピラルビシン、エピルビシン、ジノスタチン、スチマラマー、およびイダルビシンと、
植物からとった抗腫瘍薬、すなわちビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシャイン、エトポシド、ソブゾキサン、ドセタキセル、パクチタキセル、およびビノレルビンと、
白金配位化合物、すなわちシスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、およびオキサリプラチンと、
カンプトテシン誘導体、すなわちイリノテカン、トポテカン、およびカンプトテシンと、
チロシンキナーゼ阻害薬、すなわちゲフィチニブと、
抗CD20薬、すなわちリツキシマブ、トシツモマブ、およびイブリツモマブチウキセタンと、
インターフェロン、すなわちインターフェロンα、インターフェロンα−2a、インターフェロンα−2b、インターフェロンβ、インターフェロンγ−1a、およびインターフェロンγ−n1と、
生体応答調整物質、すなわちクレスチン、レンチナン、シゾフィラン、ピシバニル、およびウベニメクスと、
他の抗腫瘍薬、すなわちミトキサントロン、I−アスパラギナーゼ、プロカルバジン、ダカルバジン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、およびトレチノイン、
が挙げられる。
【0098】
これに加えて本発明の抗体は、抗癌薬のエキゼメスタン、エドテカリン(J−107088)、およびSU11248と併用することができる。
この抗IGF−IR抗体は、in vitroまたはin vivoで生体試料中のIGF−IRを検出するために使用することができる。この抗IGF−IR抗体は、これらには限定されないがELISA、RIA、FACS、組織の免疫組織化学、ウェスタンブロット、またはイムノプレシピテーションを含めた通常の免疫学的検定に用いることができる。本発明の抗IGF−IR抗体は、ヒトからIGF−IRを検出するために使用することができる。別の実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は、カニクイザルおよびアカゲザルなどの旧世界の霊長動物、チンパンジー、および類人猿からIGF−IRを検出するために使用することができる。本発明は、生体試料を本発明の抗IGF−IR抗体と接触させ、抗IGF−IRと結合した結合抗体を検出して生体試料中のIGF−IRを検出することを含む生体試料中のIGF−IRの検出方法を提供する。一実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は、検出可能な標識で直接標識される。別の実施形態ではこの抗IGF−IR抗体(第一の抗体)は標識せず、第二の抗体またはこの抗IGF−IR抗体と結合することができる他の分子を標識する。当業技術者によく知られているように、第一の抗体の特定の種または綱を特異的に結合させることができる第二の抗体が選択される。例えばこの抗IGF−IR抗体がヒトIgGである場合、その第二の抗体は抗ヒトIgGであることができる。抗体と結合することができる他の分子には、これらには限定されないがプロテインAおよびプロテインGが挙げられ、両方とも、例えばPierce Chemical Co.から市販されている。
【0099】
この抗体または第二の抗体用の好適な標識はさきに開示しており、様々な酵素、接合団、蛍光物質、発光物質、磁性剤、および放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例には、ワサビダイコンペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンステラーゼが挙げられ、好適な接合団複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンや、アビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、またはフィコエリトリンが挙げられ、好適な発光物質の例にはルミノールが挙げられ、好適な磁性剤の例にはガドリニウムが挙げられ、また好適な放射性物質の例には、125I、131I、35S、または 3Hが挙げられる。
【0100】
代替の実施形態ではIGF−IRは、検出可能な物質で標識したIGF−IR基準と標識していない抗IGF−IR抗体とを用いて競合免疫学的検定により生体試料中で検定することができる。この検定法ではその生体試料、標識したIGF−IR基準、および抗IGF−IR抗体を結合させ、標識していない抗体と結合する標識したIGF−IR基準の量を求める。生体試料中のIGF−IRの量は、抗IGF−IR抗体と結合する標識したIGF−IR基準の量に反比例する。
【0101】
多くの目的に上記で開示した免疫学的検定を用いることができる。一実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は、細胞培養において細胞中のIGF−IRを検出するために用いることができる。好ましい実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は、IGF−IRのチロシンリン酸化、チロシン自己リン酸化のレベル、および/または細胞を様々な化合物で処理した後の細胞表面のIGF−IRの量を求めるために用いることができる。この方法を用いて、IGF−IRを活性化または阻害するために使用することができる化合物を試験することができる。この方法では細胞の一試料を試験化合物で或る時間処理し、一方別の試料は未処理のまま残す。チロシン自己リン酸化を測定しようとする場合は、その細胞を溶解し、上述の免疫学的検定法を用いて、または以前に述べたようにELISAを用いてIGF−IRのチロシンリン酸化を測定する。IGF−IRの総レベルを測定しようとする場合は、その細胞を溶解し、上述の免疫学的検定法の一つを用いてその総レベルを測定する。
【0102】
IGF−IRのチロシンリン酸化を求めるための、または総IGF−IRレベルを測定するための好ましい免疫学的検定法は、ELISAまたはウェスタンブロットである。IGF−IRの細胞表面レベルのみを測定したい場合は、その細胞を溶解せず、上述の免疫学的検定法の一つを用いてそのIGF−IRの細胞表面レベルを測定する。IGF−IRの細胞表面レベルを求めるための好ましい免疫学的検定法は、その細胞表面のタンパク質をビオチンまたは125Iなどの検出可能な標識で標識するステップ、そのIGF−IRを抗IGF−IR抗体で免疫沈降させるステップ、次いでこの標識したIGF−IRを検出するステップを含む。IGF−IRの局在化、例えば細胞表面レベルを求めるための別の好ましい免疫学的検定法は、免疫組織化学の使用によるものである。ELISA、RIA、ウェスタンブロット、免疫組織化学、内在性膜タンパク質の細胞表面標識、およびイムノプレシピテーションなどの方法は、当業界でよく知られている。例えば、前掲のHarlowおよびLaneの著書を参照されたい。これに加えてこれら免疫学的検定法は、IGF−IRの活性化または阻害用の多数の化合物を試験するため、高処理量スクリーニング用に規模を大きくすることができる。
【0103】
本発明の抗IGF−IR抗体はまた、組織中または組織から得た細胞中のIGF−IRのレベルを求めるために用いることもできる。好ましい実施形態ではこの組織は、疾患にかかった組織である。より好ましい実施形態ではこの組織は、腫瘍またはその生検材料である。その方法の好ましい実施形態では、組織またはその生検材料は患者から摘出される。次いでこの組織または生検材料を免疫学的検定に用いて、例えばIGF−IRレベル、IGF−IRの細胞表面レベル、IGF−IRのチロシンリン酸化のレベル、またはIGF−IRの局在化を上記で考察した方法により求める。この方法を用いて、腫瘍が高レベルでIGF−IRを発現させるかどうかを判定することができる。
【0104】
上述の診断方法を用いて、腫瘍が高レベルのIGF−IRを発現させるかどうか判定することができ、これはその腫瘍が抗IGF−IR抗体による治療に十分に応答するはずであることを暗示する可能性がある。この診断方法はまた、腫瘍が高レベルのIGF−IRを発現させる場合、その腫瘍が潜在的に癌性かどうか、またはその腫瘍が低レベルのIGF−IRを発現させる場合、その腫瘍が良性かどうかを判定するためにも用いることができる。さらにこの診断方法はまた、抗IGF−IR抗体による治療(下記参照)が、腫瘍により低レベルのIGF−IRを発現させているかどうか、および/またはより低レベルのチロシン自己リン酸化を発現させているかいるかどうかを判定するために用いることができ、またその結果この治療が成功かどうかを判定するために用いることができる。一般に、抗IGF−IR抗体がチロシンリン酸化を減少させるかどうか判定する方法は、考察対象の細胞または組織中のチロシンリン酸化のレベルを測定するステップ、抗IGF−IR抗体またはその抗原結合部分を有するその細胞または組織をインキュベートするステップ、次いでその細胞または組織中のチロシンリン酸化のレベルを再測定するステップを含む。IGF−IRの、または別のタンパク質のチロシンリン酸化を測定することもできる。これは矮小発育症、骨粗鬆症、または糖尿病に罹っている個体の場合であるかも知れないが、この診断方法はまた組織または細胞が十分高いレベルのIGF−IR、または十分高いレベルの活性化IGF−IRを発現させていないかどうかを判定するために用いることもできる。IGF−IRまたは活性IGF−IRのレベルが低く過ぎるという診断結果は、活性化抗IGF−IR抗体、IGF−I、あるいはIGF−IRレベルまたは活性度を増すための他の治療薬による治療に用いることができる。
【0105】
本発明の抗体が末梢リンパ球上のIGF−1Rをダウンレギュレートする能力に基づき、「バイオマーカー計画」を使用して本発明の抗体で治療した患者からとった腫瘍および/または正常細胞を循環させたときのIGF−1Rの発現を監視することができる。国際公開第WO02/05359号(2002年7月11日公開)に記載の抗体など、他の抗体もまた用いることができる。それらの細胞には、これらには限定されないがCD19+細胞を含めることができ、また単核細胞、顆粒細胞、およびリンパ球などのすべての白血球も含めることができる。
【0106】
本発明の抗体はまた、IGF−IRを発現させる組織および器官を局在化するためにin vivoで使用することもできる。好ましい実施形態ではこの抗IGF−IR抗体を用いてIGF−IR発現腫瘍を局在化することができる。この方法は、抗IGF−IR抗体またはその医薬組成物をそのような診断検査の必要な患者に投与するステップと、この患者をIGF−IR発現組織の場所を判定する影像解析にかけるステップとを含む。影像解析は医療業界でよく知られており、これらには限定されないがX線解析、核磁気共鳴映像法(MRI)、またはコンピューター断層撮影法(CE)が挙げられる。この方法の別の実施形態ではその患者を影像解析にかけるのではなく、考察対象の組織がIGF−IRを発現させるかどうかを判定するために生検材料を患者から得る。好ましい実施形態ではその抗IGF−IR抗体を、患者中で影像化することができる検出可能な薬品で標識することができる。例えばその抗体を、X線解析に用いることができるバリウムなどの造影剤、あるいはMRIまたはCEに用いることができるガドリニウムキレート化合物などの磁気造影剤で標識することができる。他の標識剤には、これらには限定されないが99Tcなどの放射性同位体が挙げられる。別の実施形態ではこの抗IGF−IR抗体は標識されておらず、検出可能でかつその抗IGF−IR抗体と結合することができる第二の抗体または他の分子を投与することによって影像化される。
【0107】
別の実施形態では本発明は本発明の抗IGF−IR抗体を、それを必要とする患者に投与することによってIGF−IR活性を阻害するための方法を提供する。本発明の抗体は治療に用いることができる。別の好ましい実施形態ではそのIGF−IRはヒトであり、その患者はヒトの患者である。別法ではこの患者は、その抗IGF−IR抗体が交差反応するIGF−IRを発現させる哺乳動物であることができる。この抗体を、獣医学的目的のために、または人の疾患の動物モデルとして、その抗体が交差反応するIGF−IRを発現させる非ヒト哺乳動物(すなわち霊長動物、あるいはカニクイザルまたはアカゲザル)に投与することができる。このような動物モデルは、本発明の抗体の治療上の有効性を評価するのに役立つ。
【0108】
好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体を、IGF−IR発現腫瘍を有する患者に投与することができる。腫瘍は充実性腫瘍であってもよく、またはリンパ腫などの非充実性腫瘍であってもよい。より好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体を、癌性のIGF−IR発現腫瘍を有する患者に投与することができる。さらに一層好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体を、肺、乳房、前立腺、または結腸の腫瘍を有する患者に投与することができる。きわめて好ましい実施形態ではこの方法は、腫瘍が重量または体積を増加しないようにし、あるいは重量または体積が減少するようにする。別の実施形態ではその方法は、腫瘍上のIGF−IRを内在化させる。好ましい実施形態ではこの抗体は、2.12.1fxであるか、あるいはその重鎖、軽鎖、または抗原結合領域を含む。
【0109】
別の好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体を、不適切に高いレベルのIGF−Iを発現させる患者、例えばIGF−IR活性が有害な疾患に投与することができる。本明細書中で用いられる用語「IGF−IR活性が有害な疾患」とは、その疾患に罹っている被験体中の高レベルのIGF−IRの存在がその疾患の病態生理の原因であるか、またはその疾患の悪化の一因となる要因であるかのどちらかであるか、またはそれが疑われることが明らかにされている疾患または他の障害を含むことを意図している。したがって高レベルのIGF−IR活性が有害な疾患とは、IGF−IR活性の阻害がその疾患の症状および/または進行を軽減することが予想される疾患である。このような疾患は、例えば細胞表面上のIGF−IRのレベルの増加、あるいはその疾患に罹っている被験体の冒された細胞または組織中のIGF−IRの高いチロシン自己リン酸化におけるIGF−IRのレベルの増加によって証明することができる。IGF−IRレベルの増加は、例えば前述の抗IGF−IR抗体を用いて検出することができる。
【0110】
一態様において抗IGF−IR抗体は、高レベルのIGF−Iおよび/またはIGF−IRが非癌性の状態または疾患と関連している非癌性の状態を治療するために用いることができる。一実施形態ではその方法は、抗IGF−IR抗体を、IGF−Iおよび/またはIGF−IRのレベルまたは活性によって引き起こされるあるいは悪化する非癌性の病的状態を有する患者に投与するステップを含む。好ましい実施形態ではこの非癌性の病的状態は、先端巨大症、巨人症、乾癬、アテローム性動脈硬化症、血管の平滑筋再狭窄、または糖尿病の合併症として見られるものなどの、特に眼の不適切な微細脈管増殖である。より好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体は、非癌性の病的状態の進行を遅らせる。好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体は、非癌性の病的状態を少なくとも一部止め、または逆向きにする。
【0111】
IGF−Iの高レベルの発現が様々な普通の癌につながる恐れがあることは当業界で知られている。より好ましい実施形態では抗IGF−IR抗体は、前立腺癌、神経膠腫、または繊維肉腫に罹った患者に投与される。さらに一層好ましい実施形態ではその方法は、癌が異常に増殖するのを止めるようにするか、あるいは重量または体積が増加しないようにもしくは重量または体積が減少するようにする。
【0112】
一実施形態では上記方法は、脳、扁平上皮細胞、膀胱、胃、膵臓、乳房、頭部、首部、食道、前立腺、結腸直腸、肺、腎性、腎臓、卵巣、婦人科系、または甲状腺の癌などの癌の治療に関する。本発明の方法に従って本発明の化合物により治療することができる患者には、例えば多発性骨髄腫、体液の腫瘍、肝臓癌、胸腺異常、T細胞が媒介する自己免疫疾患、内分泌学的(endocronological)障害、虚血、神経変性障害、肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部および頸部の癌、皮膚または眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、婦人科系腫瘍(例えば、子宮肉腫、卵管の癌腫、子宮内膜の肉腫、子宮頸の肉腫、膣の肉腫、または陰門の肉腫)、ホジキン病、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌(甲状腺、上皮小体、または副腎の癌)、軟組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、小児期の充実性腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管の癌(例えば、腎細胞癌腫、腎盂の癌腫)、または中枢神経系の新生物(例えば、原発性CNSリンパ腫、脊椎腫瘍、脳幹神経膠腫、または下垂体腺腫)などの癌の治療に関する。
【0113】
この抗体は1回のみの投与も可能だが、より好ましくは複数回投与される。この抗体は、毎日3回から6ヶ月ごとに1回まで投与することができる。投与は、毎日3回、毎日2回、毎日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、毎週1回、2週間ごとに1回、1ヶ月ごとに1回、2ヶ月ごとに1回、3ヶ月ごとに1回、または6ヶ月ごとに1回などのスケジュールに基づくことができる。この抗体は、経口、粘膜、頬内、鼻腔内、吸入、静脈内、皮下、筋内、腸管外、腫瘍内、または局所的経路を通って投与することができる。この抗体は、腫瘍の部位から離れた部位に投与することができる。この抗体は、ミニポンプを介して連続的に投与することができる。この抗体はまた、その状況が治療され、軽減され、または平癒するまで1回のみ、少なくとも2回、または少なくとものその期間のあいだ投与することができる。一般にはこの抗体は、その抗体が腫瘍または癌の成長を停止させるかあるいはその重量または体積を減少させるという条件で、その腫瘍が存在する限り投与されることになる。この抗体は、前述のように一般には医薬組成物の一部として投与されることになる。抗体の用量は、一般には0.1〜100 mg/kg、より好ましくは0.5〜50 mg/kg、より好ましくは1〜20 mg/kg、さらに一層好ましくは1〜10 mg/kgの範囲にあるはずである。この抗体の血清濃度は、当業界で知られている任意の方法で測定することができる。この抗体はまた、癌または腫瘍が起こらないように予防的に投与することもできる。「高い常態」レベルのIGF−Iを有する患者は普通の癌にかかるリスクがより高いことが明らかになっているので、これらの患者にはこれは特に役立つ可能性がある。前掲のRosen等の論文を参照されたい。
【0114】
別の態様ではこの抗IGF−IR抗体は、癌または腫瘍などの異常増殖性疾患に罹った患者に抗新生物用薬物または分子などの他の治療薬と同時投与することができる。一態様では本発明は、治療に有効な量の本発明の化合物を、これらには限定されないが有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗薬、挿入抗生物質、成長因子阻害薬、細胞周期阻害薬、酵素、トポイソメラーゼ阻害薬、生体応答調整物質、抗ホルモン薬、キナーゼ阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、遺伝子治療薬、および抗アンドロゲン物質からなる群から選択される抗腫瘍薬と組み合わせて哺乳動物に投与することを含む上記哺乳動物の異常増殖性疾患の治療方法に関する。より好ましい実施形態では抗体は、アドリアマイシンまたはタキソールなどの抗新生物薬と共に投与することができる。別の好ましい実施形態ではこの抗体または複合療法は、放射線療法、化学療法、光力学療法、外科手術、または他の免疫療法と一緒に施すことができる。さらに別の好ましい実施形態ではこの抗体は、別の抗体と共に投与されることになる。例えばこの抗IGF−IR抗体は、腫瘍または癌細胞の増殖を阻害することが分かっている抗体または他の薬品、例えばerbB2受容体、EGF−R、CD20、またはVEGFを阻害する抗体または薬品と共に投与することができる。
【0115】
この抗体と追加の治療薬の同時投与(複合療法)は、この抗IGF−IR抗体および追加の治療薬を含む医薬組成物の投与と、一方がこの抗IGF−IR抗体を含み、他方がこの追加の治療薬を含む2種類以上の別々の医薬組成物の投与とを包含する。さらに、同時投与または複合療法は、一般にはこの抗体および追加の治療薬を互いに同じ時間に投与することを意味するが、それはまたその抗体および追加の治療薬を別の時間に投与する事例も包含する。例えばこの抗体を3日ごとに1回投与することができ、一方その追加の治療薬は毎日1回投与してもよい。別法ではこの抗体は、この追加の治療薬による疾患の治療の前に、または例えば患者がその追加の治療薬による療法に失敗した後にこれに続けて投与することもできる。同様にこの抗IGF−IR抗体の投与は、放射線療法、光力学療法、または外科手術の前に、またはこれに続けて行うこともできる。
【0116】
この抗体および1種類または複数種類の追加の治療薬(複合療法)は、その状況が治療され、軽減され、または平癒するまで単1回、2回、または少なくとものその期間のあいだ投与することができる。好ましくはこの複合療法では複数回投与される。この複合療法では、毎日3回から6ヶ月ごとに1回まで投与することができる。この投与は、毎日3回、毎日2回、毎日1回、2日ごとに1回、3日ごとに1回、毎週1回、2週間ごとに1回、1ヶ月ごとに1回、2ヶ月ごとに1回、3ヶ月ごとに1回、または6ヶ月ごとに1回などのスケジュールに基づくことができ、あるいはミニポンプを介して連続的に投与することもできる。この複合療法では、経口、粘膜、頬内、鼻腔内、吸入、静脈内、皮下、筋内、腸管外、腫瘍内、または局所的経路を通って投与することができる。この複合療法では、腫瘍の部位から離れた部位に投与することができる。一般にこの複合療法では、その抗体が腫瘍または癌の成長を停止させるかあるいはその重量または体積を減少させるという条件で、その腫瘍が存在する限り投与されることになる。
【0117】
さらに別の実施形態では抗IGF−IR抗体は、放射能標識、免疫毒素、または毒素で標識され、あるいは毒性ペプチドを含む融合タンパク質である。この抗IGF−IR抗体または抗IGF−IR抗体融合タンパク質は、その放射能標識、免疫毒素、毒素、または毒性ペプチドをIGF−IR発現腫瘍または癌細胞へ向ける。好ましい実施形態ではその抗IGF−IR抗体が腫瘍または癌細胞の表面でそのIGF−Iと結合した後にこの放射能標識、免疫毒素、毒素、または毒性ペプチドを内在化する。
【0118】
別の態様ではこの抗IGF−IR抗体は、それが必要な患者中の特定細胞のアポプトシスを引き起こすために治療に使用することができる。多くの場合、アポプトシスの標的にされる細胞は癌性または腫瘍の細胞である。したがって好ましい実施形態において本発明は、治療に有効な量の抗IGF−IR抗体をそれが必要な患者に投与することによってアポプトシスを引き起こす方法を提供する。好ましい実施形態ではこの抗体は2.12.1fxであるか、あるいはその重鎖、軽鎖、または抗原結合領域を含む。
【0119】
別の態様では本発明は、それが必要な患者に活性化抗IGF−IR抗体を投与する方法を提供する。一実施形態では、IGF−IR活性を増すためにそれを必要とする患者に有効な量のこの活性化抗体または医薬組成物を投与する。より好ましい実施形態ではこの活性化抗体は、正常なIGF−IR活性の状態に戻すことができる。別の好ましい実施形態ではこの活性化抗体を低身長、神経障害、筋量の低下、または骨粗鬆症に罹った患者に投与することができる。別の好ましい実施形態ではこの活性化抗体は、細胞成長を増加させる、アポプトシスを防止する、またはIGF−IR活性を増加させる1種類または複数種類の因子と共に投与することができる。このような因子には、IGF−I、および/またはIGF−IRを活性化させるIGF−Iの類似体などの成長因子が挙げられる。好ましい実施形態ではこの抗体は2.12.1fxであるか、あるいはその重鎖、軽鎖、または抗原結合領域を含む。
【0120】
本発明の核酸分子は、遺伝子治療を介してそれを必要とする患者に投与することができる。この療法は、in vivoまたはex vivoのいずれかであってもよい。好ましい実施形態では重鎖と軽鎖の両方をコードする核酸分子を患者に投与する。より好ましい実施形態ではB細胞は抗体を産生するように特殊化されるので、核酸分子をこの細胞の染色体中に安定的に組み込むように投与する。好ましい実施形態では前駆体B細胞をex vivoで移入または感染させ、それが必要な患者中に再移植する。別の実施形態では興味の対象の細胞型に感染することが知られているウィルスを用いて前駆体B細胞または他の細胞をin vivoで感染させる。遺伝子治療に用いられる一般的なベクターには、レトロウィルス、アデノウィルス、およびアデノ随伴ウィルスなどのリポソームや、プラスミドや、ウィルスベクターが挙げられる。in vivoまたはex vivoのいずれかで感染させた後、治療後の患者から試料を採取することによって、また当業界で知られ、かつ本明細書中で考察した任意の免疫学的検定法を用いることによって抗体発現のレベルを監視することができる。
【0121】
好ましい実施形態ではこの遺伝子治療の方法は、ヒト抗体またはその部分の重鎖またはその抗原結合部分をコードする分離核酸の有効量を投与するステップと、その核酸分子を発現させるステップとを含む。別の実施形態ではこの遺伝子治療の方法は、ヒト抗体またはその部分の軽鎖またはその抗原結合部分をコードする分離核酸の有効量を投与するステップと、その核酸分子を発現させるステップとを含む。より好ましい方法ではこの遺伝子治療の方法は、ヒト抗体またはその部分の重鎖またはその抗原結合部分をコードする分離核酸の有効量、およびヒト抗体またはその部分の軽鎖またはその抗原結合部分をコードする分離核酸の有効量を投与するステップと、その核酸分子を発現させるステップとを含む。この遺伝子治療の方法はまた、タキソール、タモキシフェン、5−FU、アドリアマイシン、またはCP−358,774などの別の抗癌剤を投与するステップを含むこともできる。
【0122】
本願の配列番号は、
SEQ ID NO 1: 成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの重鎖をコードするDNA配列
SEQ ID NO 2: 成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの軽鎖をコードするDNA配列
SEQ ID NO 3: 抗体2.12.1fxの重鎖のアミノ酸配列
SEQ ID NO 4: 生殖系列DP−35のアミノ酸配列
SEQ ID NO 5: 抗体2.12.1fxの軽鎖のアミノ酸配列
SEQ ID NO 6: 生殖系列A30/Jk1のアミノ酸配列
本発明をより良く理解することができるように下記の実施例を示す。これらの実施例は単に例示の目的に過ぎず、いかなるやり方でも本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0123】
実施例I:抗IGF−IR抗体を産生するハイブリドーマの生成
本発明の抗体を次のように調製、選択、検定した。すなわち、
8から10週の老いたXENOMICETMを、腹膜内に免疫するか、あるいはヒトIGF−IRの細胞外ドメイン(10 μg/用量/マウス)、または3T3−IGF−IR もしくは300.19−IGF−IR細胞(これらはその形質膜上にヒトIGF−IRを発現させる2種類の移入細胞株である)(10×106細胞/用量/マウス)で後部フットパッド中に免疫した。この用量を3から8週間にわたって5から7回繰り返した。融合の4日前にこれらマウスは、PBSに溶かしたヒトIGF−IRの細胞外ドメインの最後の注射を受けた。免疫したマウスから採った脾臓およびリンパ節リンパ球を非分泌性骨髄腫P3−X63−Ag8.653細胞株と融合させ、以前に述べたHAT選択にかけた(GalfreおよびMilsteinの論文Methods Enzymol. 73: 3〜46, 1981)。IGF−IR に特効のあるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ2.12.1を更なる検討用に選択し、2000年12月12日に下記の寄託番号でAmerican Type Culture Collection (ATCC), 10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110−2209に寄託した。
【0124】
ハイブリドーマ 寄託番号
2.12.1 PTA−2792
【0125】
このハイブリドーマおよびIGF−1Rに特効のある抗体を産生する他のハイブリドーマは、国際公開第WO02/05359号(2002年7月11日公開)に記載されている。記載されているすべての配列を含めてこの公開公報の本文は、これにより参照により組み込まれる。
【0126】
抗体2.12.1の重鎖中の2つのフレームワーク突然変異および軽鎖中の3つのフレームワーク突然変異を、抗体2.12.1fxを産生するように修正して生殖系列に戻した。
【0127】
2.12.1fxを突然変異体にするすべての変化は、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit (StratageneTM)を用いて突然変異のための標的部位を有するプラスミドを調製することによって行い、その調製はこのプラスミドを変性し、所望の突然変異を含有するオリゴヌクレオチドプライマーをアニールすることによって行った。Pfu Turbo DNAポリメラーゼの非鎖置換作用を用いて伸長し、この変異原性プライマーを取り込んで切込み環状鎖を得た。そのメチル化した変異していない親DNA の鋳型をDpnIで消化し、続いてこの環状の切込みdsDNAをXL1Blueスーパーコンピテント細胞に形質転換した。形質転換の後、このXL1Blueスーパーコンピテント細胞が、その突然変異プラスミド中の切込みを修復した。突然変異を含有するプラスミドを選択し、その配列を検証した。
【0128】
図1は、成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの重鎖をコードするDNA配列(SEQ ID NO: 1)を示す。図2は、成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの軽鎖をコードするDNA配列(SEQ ID NO: 2)を示す。図3は、抗体2.12.1fxの重鎖のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 3)と生殖系列配列DP−35(3〜11)/D3−3/JH6のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 4)の位置合わせを示す。抗体2.12.1fxの配列は、生殖系列配列のものの上方に示されている。シグナル配列はイタリック体であり、またCDRは下線が引かれている。不変ドメイン領域は、アミノ酸残基ASTKから始まり、生殖系列中で148番から始まるアミノ酸残基に対応し、配列の終りまで延在する。フレームワーク(FR)突然変異は、アミノ酸残基21番および116番である。図4は、抗体2.12.1fxの軽鎖のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 5)と生殖系列配列A30/JK1のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)の位置合わせを示す。抗体2.12.1fxの配列は、生殖系列配列のものの上方に示されている。シグナル配列はイタリック体であり、またCDRは下線が引かれている。不変ドメイン領域は、アミノ酸残基TVAAから始まり、生殖系列中で131番から始まるアミノ酸残基に対応し、配列の終りまで延在する。フレームワーク(FR)突然変異は、アミノ酸残基43番、125番、および129番にある。
【0129】
実施例II:抗体介在性IGF−I/IGF−IR結合の遮断
細胞を用いた検定でIGF−IがIGF−IRと結合するのを阻害する本発明の抗体の能力を定量するためにELISA実験を行った。IGF−IRを移入したNIH−3T3細胞(5×104 /mL)を、96ウェルU底プレートを用いてLグルタミン(0.29 mg/mL)と、熱で不活性化した10%FBSと、ジェネティシン、ペニシリン、およびストレプトマイシンのそれぞれ500 μgとを補足したDMEM高グルコース培地100 μL中で平板培養した。細胞を付着させるためにこのプレートを37℃、5%CO2中で夜通しインキュベートした。この培地をプレートからデカントし、1ウェル当たり100 μLの新鮮な培地で置き換えた。試験する場合、この抗体を検定培地(Lグルタミンと、熱で不活性化した10%FBSと、200 μg/mLのBSAと、ジェネティシン、ペニシリン、およびストレプトマイシンのそれぞれ500 μg/mLとを補足したDMEM高グルコース培地)中で所望の最終濃度まで希釈した。すべての試料は3組で行った。これらのプレートを37℃で10分間インキュベートした。[125I]−IGF−Iを検定培地中で1 μCi/mLの濃度まで希釈し、プレートの1ウェル当たり50 μL を加えた。バックグラウンド放射能用の対照として低温IGF−I を100 ng/mLの最終濃度まで加えた。これらプレートを37℃で10分間インキュベートし、この培地をペーパタオル上に静かに吸い取り、検定培地で2度洗浄することによってデカントした。50 μLの0.1N NaOH、0.1%SDSを加えることによって細胞を溶解し、そのプレートを室温で5分間振とうした。試料をシンチレーションプレートに移し、OptiPhase Supermix 150 μLを加え、Wallace Micro-Beta計数管を用いてシグナルを読み取った。
表1および図5は、本発明の抗体を用いて行ったこの実験の結果を示す。この実験は本発明の抗体が、IGF−IRを過剰発現させる細胞と[125I]−IGF−I の結合を特異的に阻害することを実証した。
【0130】
【表1】

【0131】
実施例III:IGF−Iが誘発するIGF−IRリン酸化の抗体介在性阻害
本発明の抗体がIGF−I介在性のIGF−IR活性化を遮断できるかどうかを判定するためにELISA実験を行った。IGF−I介在性のIGF−IRの活性化は、受容体が関連するチロシンのリン酸化の低下により検出した。
ELISAプレートの調製:
遮断緩衝液(トリス緩衝塩類溶液[TBS]に溶かした3%ウシ血清アルブミン[BSA])を、ReactiBind Protein Gを塗布した96ウェルのプレートの各ウェルに加えることによってELISA捕捉プレートを調製した(Pierce)。これらプレートを室温で30分間振とうすることによってインキュベートした。ウサギの汎特異的SC−713抗IGF−IR抗体(Santa Cruz)を遮断緩衝液中で5 μg/mLの濃度まで希釈した。希釈した抗体100 μLを各ウェルに加えた。これらプレートを室温で60〜90分間振とうしながらインキュベートした。これらプレートを洗浄緩衝液(TBS+0.1%トゥイーン20)で5回洗浄し、残りの緩衝液をペーパータオル上に吸い取った。これらのプレートは、ライゼートの添加までは乾燥しないようにした。
【0132】
IGF−IR発現細胞からライゼートの調製:
IGF−IRを移入したNIH−3T3細胞(5×104 /mL)を、96ウェルU底プレートを用いて成長培地(Lグルタミン(0.29 mg/mL)と、熱で不活性化した10%FBSと、ジェネティシン、ペニシリン、およびストレプトマイシンのそれぞれ500 μg/mLとを補足したDMEM高グルコース培地)100 μL中に置いた。細胞を付着させるためにこのプレートを37℃、5%CO2中で夜通しインキュベートした。この培地をプレートからデカントし、1ウェル当たり100 μLの新鮮な培地で置き換えた。試験する場合、これらの潜在的抗IGF−IR抗体を成長培地中で所望の最終濃度の5倍まで希釈し、それを1ウェル当たり25 μL加えた。すべての試料は3組で行った。これらプレートを37℃で1時間インキュベートした。この細胞を600 ng/mLのIGF−1(成長培地中で調製した)の25 μL/ウェルで刺激し、室温で10分間インキュベートした。プレートを逆さにし、ペーパタオル上に静かに吸い取ることによってこの培地をデカントした。溶解緩衝液(50 mM HEPES(pH 7.4)、10 mM EDTA、150 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、1.6 mM NaVO4、1%トリトンX−100、1%グリセロール、および使用直前に50 mL当たり1個のEDTAを含まないプロテアーゼ阻害薬の錠剤[Roche Molecular Sciences]を補足した)50 μLを加えることによって付着細胞を溶解した。この細胞を室温で5分間振とうした。各ウェルに希釈緩衝液(50 mM HEPES(pH 7.4)、1.6 mM NaVO4)200 μLを加え、ピペットで移すことによって混合した。ライゼート100 μLを各ウェルから、上記で調製したELISA捕捉プレートの各ウェルへ移し、室温で2時間静かに振とうしながらインキュベートした。
【0133】
抗ホスホチロシン(pTYR)抗体によるELISA:
プレートを逆さにし、そのプレートを洗浄培養液で5回洗浄し、ペーパタオル上に過剰の液体を吸い取ることによって細胞ライゼートを取り出した。1ウェル当たり100 μLのpTYR特異抗体(HRP−PY54)を加え、遮断緩衝液中で0.2 μg/mLの濃度まで希釈した。この細胞を、プレートを振とうすることによって室温で 30分間インキュベートした。次いでこのプレートを洗浄緩衝液で5回洗浄し、ペーパタオル上に吸い取った。
HRP−PY54抗体の結合は、1ウェル当たり100 μLのTMBペルオキシダーゼ基質溶液(Kirkegaard & Perry)を加え、発色としての振とうを行いながらインキュベートする(約2〜10分)ことによって検出した。発色反応を1ウェル当たり100 μLのTMB停止液(Kirkegaard & Perry)を加えることによって停止した。プレートをこの溶液と混ぜるために室温で10分間振とうし、OD450nmを測定することにより定量した。
【0134】
表IIおよび図6Aは、本発明の抗体に関するこの実験の結果を示す。この実験の結果は、受容体が関連するチロシンリン酸化の低下により示されるIGF−IRのIGF−I介在性の活性化を遮断する本発明の抗体の能力を実証する。さらにこれらの結果は、本発明の抗体の相対的効能を定量するために用いることができる。
【0135】
【表2】

【0136】
実施例IV:本発明の抗体の種交差反応
本発明の抗体の種交差反応を求めるためにイムノプレシピテーション、IGF−Iが誘発する受容体リン酸化の抗体介在性遮断、およびFACS分析を含めた幾つかの実験を行った。
イムノプレシピテーション実験を行うために細胞を、Lグルタミン(0.29 mg/mL)と、熱で不活性化した10%FBSと、ジェネティシン、ペニシリン、およびストレプトマイシンのそれぞれ500 μg/mLとを補足したDMEM高グルコース培地中でT25フラスコを用いて50%集密するまで平板培養した。本発明の抗体100 μLをハンクス緩衝塩類溶液(HBSS、Gibco BRL)中に1 μg/mL の濃度で加えた。このプレートをインキュベーター中で37℃において30分間インキュベートし、次いで細胞を100 ng/mLのIGF−I により室温で10分間刺激した。この細胞をRIPA緩衝液(前掲のHarlowおよびLaneの著書)中で溶解し、このIGF−IRを汎特異的SC−713抗IGF−IR抗体(Santa Cruz)2 μgプラスプロテインAアガロースビーズで4℃において1時間、免疫沈降させた。このビーズをペレット化し、PBS/T(PBS+0.1%トゥイーン20)で3回洗浄し、次いで5%βMEを含有するLaemmli緩衝液40 μL中で煮沸した。
【0137】
次いで上記で調製した試料をウェスタンブロット法により分析した。1X MES緩衝液(NovexTM)による4〜10%勾配NovexTMゲルのラン上で1レーン当たり各試料12 μLを載せた。ゲルは150Vで1時間または200Vで約30分間流した。このゲルを、100mAで夜通し、または 250mAで1〜1.5時間のいずれかで10%メタノールを含むNovexTM運搬緩衝液中で膜に移した。この膜を完全乾燥するに任せ、Superblock(Pieece Chemical Co.)を含有するTBS(トリス緩衝塩類液、pH 8.0)により室温で遮断した。IGF−IRブロッティング抗体SC713(Santa Cruz)またはホスホチロシン抗体を加えて、それぞれ免疫沈降IGF−IRまたはホスホIGF−1Rを検出した。
【0138】
この実験は、様々な動物から採った細胞上で本発明の抗体を用いて行った。この抗体はヒトとは結合することができるが、イヌおよびマウスのIGF−IRとはできない。これらの実験は、この抗体が高度に特異的であることを示す。
【0139】
本発明の抗体の種間親和性の決定:
FACS分析を行って他の動物、具体的には上記旧世界のサルから採ったIGF−IRに対する本発明の抗体の親和性を求めた。ヒトおよびサル(カニクイザル)細胞の分割量(5×105)を氷上で1時間インキュベートして本発明のビオチニル化した抗IGF−IR抗体の濃度を増した。この試料をスプレプトアビジン複合RPE(フィコエリトリン)と一緒に氷上で30分間インキュベートした。結合は、フローサイトメトリーにより測定し、CellQuestソフトウェアを用いて蛍光強度(FI2−H)対細胞数(計数)の柱状グラフにより解析した。平均蛍光強度対抗体濃度のグラフから結合(Kd)を各抗体について計算した。大部分の実験において結合は、培養ヒトMCF−7細胞およびカニクイザル組織培養細胞中で測定した。抗体の消耗は、或る範囲の細胞濃度にわたって結合を測定することにより制御した。
上述のFACS分析を行って本発明の抗体がヒトおよびカニクイザル細胞と結合する能力を試験した。試験されたすべての細胞株に対して0.1 μg/mLの最大の2分の1の結合(Kd)が観察された。
【0140】
実施例V:IGF−I受容体ダウンレギュレーション
本発明の抗体が細胞上でIGF−1Rのダウンレギュレーションを引き起こすことができるかどうかを調べるためにMCF7細胞を、T75フラスコ中でLグルタミン(0.29 mg/mL)、熱で不活性化した10%FBS、ペニシリン、およびスプレプトマイシンを補足したDMEM/F12培地中で50%集密するまで平板培養した。その細胞に本発明の抗体を1 μg/mLの最終濃度で加えた。これらのプレートをインキュベーター中で37℃において指定された時間インキュベートし、次いで50 mM HEPES(pH 7.4)、10 mM EDTA、150 mM NaCl、1.5 mM MgCl2、1.6 mM NaVO4、1%トリトンX−100、1%グリセロール中で溶解した。汎特異的SC−713抗IGF−IR抗体(Santa Cruz)を用いたウェスタンブロット分析により細胞抽出物内の総全IGF−IRのレベルを求めた。図6Bを参照されたい。本発明の抗体によるMCF7細胞の処理は、1〜2時間でIGF−1Rの60〜70%のダウンレギュレーションを引き起こした。
【0141】
実施例VI:in vivoで本発明の抗体がIGF−IRに及ぼす効果
さきの実施例中で述べたIGF−IRに及ぼす本発明の抗体の効果がin vivoで起こるかどうかを判定するために実験を行った。公表されている方法(V. A. Pollack等の論文「CP−358,774によるヒト癌腫中の表皮成長因子受容体が関連するチロシンリン酸化の阻害: 無胸腺マウスにおけるin situでの受容体阻害の動態および抗腫瘍効果(Inhibition of epidermal growth factor receptor-associated tyrosine phosphorylation in human carcinomas with CP-358,774: Dynamics of receptor inhibition in situ and antitumor effects in athymic mice)」J. Pharmacol. Exp. Ther. 291: 739-748 (1999))に従って無胸腺マウス中に腫瘍を誘発させた。手短に言えばIGF−IR移入NIH−3T3細胞(5×106)を3〜4週の老いた無胸腺(nu/nu)マウスにMatrigel製剤0.2 mLを用いて皮下注射した。次いで確立(すなわち約400 mm3)腫瘍が生じた後、このマウスに本発明の抗体を腹膜内注射した。
【0142】
24時間後に腫瘍を摘出し、均一化し、IGF−IRのレベルを求めた。IGF−IRレベルを判定するためにSC−713抗体を遮断緩衝液中で最終濃度まで希釈し、Reacti-Bind Goat抗ウサギ(GAR)を塗布したプレートの各ウェルにその100 μLを加えた(Pierce)。このプレートを振とうしながら室温で1時間インキュベートし、次いで洗浄緩衝液で5回洗浄した。この腫瘍試料を秤量した。腫瘍抽出物12.5 μLを最終体積100 μLまで溶解緩衝液で希釈した。96ウェルプレートの各ウェルに試料100 μLを加えた。これらプレートを振とうしながら室温で1〜2時間インキュベートし、次いで洗浄緩衝液で5回洗浄した。遮断緩衝液に溶かしたHRP−PY54またはビオチニル化した抗IGF−IR 抗体100 μLを各ウェルに加え、振とうしながら室温で30分間インキュベートした。これらプレートを洗浄緩衝液で5回洗浄し、発色させた。これらプレートは、1ウェル当たりTMBマイクロウェル基質100 μLを加えることによりHRP−PY54でプローブすることによって発色させ、0.9 M H2SO4を100 μL 加えることにより発色を停止させた。10秒間振とうし、OD450nmを測定することによってシグナルを定量した。このシグナルを全タンパク質に対して正規化した。抗IGF−IR 抗体でプローブしたプレートは、遮断緩衝液中で希釈したストレプトアビジン100 μLを各ウェルに加え、振とうしながら室温で30分間インキュベートし、次いでHRP−PY54について前述と同様に続けることによって発色させた。
【0143】
本発明の抗体の腹膜内注射は、IGF−IRタンパク質の減少によって測定されるIGF−IR活性の阻害を引き起こすことが観察された(図7)。さらにこの阻害は、注射される抗体の用量に敏感であった(図7)。これらのデータは、本発明の抗体がin vitroで観察されるものと同様にin vivoでもそのIGF−IRを標的することができることを実証している。
【0144】
実施例VII:3T3/IGF−IR細胞腫瘍の成長阻害(TGI)
本発明の抗体が腫瘍成長を阻害するように作用するかどうかを判定するために抗体を試験した。腫瘍は前述(実施例VI)と同様に誘発され、それが確立されると触感できる腫瘍が生じた(すなわち6〜9日以内に250 mm3)。このマウスを腹膜内注射による抗体0.20 mLの単一回投与量で処理した。腫瘍の大きさをVernierカリパスにより3日ごとに2ヶ所の直径で測定し、体積をGeran等の論文「動物の腫瘍および他の生体器官系に対して化学物質および天然産物をスクリーニングする実験計画(Protocols for screening chemical agents and natural products against animal tumors and other biological systems)」Cancer Chemother. Rep. 3: 1-104によって確立された方法を使用して式、(長さ×〔幅〕2)/2を用いて計算した。
本発明の抗体による分析の後で、この抗体のみによる単一処理が、IGF−IR移入NIH−3T3細胞の誘発する腫瘍の成長を阻害することが観察された(図8A)。さらに静脈内に与えた単一回投与量のアドリアマイシン7.5 mg/kgとの併用の検討で、単一回投与量の抗体の投与が、周知の腫瘍成長の阻害薬であるアドリアマイシンの効力を高めることが観察された。本発明の抗体とアドリアマイシンの併用は、抗体またはアドリアマイシンのみによる処理に対して7日の成長の遅延を示した(図8B)。
【0145】
実施例VIII:IGF−IRダウンレギュレーションと抗体レベルの関係
実施例VIで述べたと同様にヌードマウス中で腫瘍を誘発させた。次いでこのマウスを実施例VIで述べたと同様にこの抗体125 μgで腹膜内注射により処理した。腫瘍を摘出し、ELISAによりIGF−IR レベルを測定した。図9は、或る期間にわたっての血清抗体レベルおよびIGF−IR 受容体レベルを示す。この実験は、IGF−IRがこの抗体によってダウンレギュレートされること、およびIGF−IR 阻害の程度が用量による抗体の血清濃度に比例することを実証する。
【0146】
実施例IX:直腸結腸細胞の腫瘍の成長の阻害
Colo 205細胞(ATCC CCL 222)を使用したことを除いて実施例VIで述べたと同様にヌードマウス中で腫瘍を誘発させた。確立した約250 mm3の皮下腫瘍を有するマウスを、様々な量の抗体(i.p.)または100 mg/kgの5−フルオロデオキシウリジン(5−FU、i.v.)により、単一薬品としてまたは併用のいずれかで実施例VIIで述べたと同様に処理した。図10Aおよび図10Bは、様々な処理について或る期間にわたっての腫瘍の大きさを示す。この実験は、単一薬品として与えられた場合に、その一度与えられた抗IGF−IR抗体による処理がヒトの直腸結腸癌細胞の成長を阻害し、また周知の腫瘍阻害薬である5−FUの有効性を高めることを実証する。
【0147】
実施例X:in vivoでの抗IGF−IR抗体の薬物動態
抗IGF−IR抗体の薬物動態を評価するためにカニクイザルに酢酸緩衝液に溶かした抗体5 mg/kgを静脈内注射した。サルから様々な時点で血清を回収し、10週までの期間のあいだサル中の抗IGF−IR抗体濃度を求めた。機能血清抗体レベルを定量するためにヒトIGF−IRの細胞外ドメイン(IGF−I−sR、R&D Systems、カタログ番号391GR)を96ウェルプレートと結合させた。各試料が基準曲線の線形範囲内に入るようサルの血清(1 : 100から1: 15,000の間で希釈した)を検定プレートに加え、どの抗IGF−IR抗体もIGF−I−sRと結合する条件下でインキュベートした。プレートを洗浄した後、標識した抗ヒトIgG抗体をこのプレートに加え、その抗ヒトIgG抗体が抗IGF−IR抗体と結合する条件下でインキュベートした。次いでプレートを洗浄、発色させ、対照基準曲線および線形回帰の当てはめを用いて抗IGF−IR抗体の量を定量化した。図11は、或る時間にわたっての血清中の抗体の濃度を示す。この実験は、この抗IGF−IR抗体の半減時間(t1/2)が6.1日であり、また0.054L/kgの体積配分(Vdss)を有することを実証する。
【0148】
本明細書中で引用したすべての刊行物および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願があたかも具体的かつ個々に参照により示して組み込まれているかのように本明細書中に参照により組み込まれる。理解を明快にするために前述の発明を例示および実施例により幾つかを詳細に記述してきたが、添付の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなくこれらに対して若干の変更および修正を行うことができることは、通常の当業技術者には本発明に照らして容易に明らかになるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの重鎖をコードするDNA配列(SEQ ID NO: 1)を示す図である。
【図2】成熟抗体を発現させるために用いられるシグナル配列をコードする配列を含む、抗体2.12.1fxの軽鎖をコードするDNA配列(SEQ ID NO: 2)を示す図である。
【図3】抗体2.12.1fxの重鎖のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 3)と生殖系列配列DP−35(3〜11)/D3−3/JH6のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 4)の位置あわせを示す図である。抗体2.12.1fxの配列は、生殖系列配列のものの上方に示されている。シグナル配列はイタリック体であり、またCDRは下線が引かれている。不変ドメイン領域は、アミノ酸残基ASTKから始まり、生殖系列中の148番から始まるアミノ酸残基に対応し、配列の終りまで延在する。フレームワーク(FR)突然変異は、アミノ酸残基21番および116番にある。
【図4】抗体2.12.1fxの軽鎖のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 5)と生殖系列配列A30/JK1のアミノ酸配列(SEQ ID NO: 6)の位置あわせを示す図である。抗体2.12.1fxの配列は、生殖系列配列のものの上方に示されている。シグナル配列はイタリック体であり、またCDRは下線が引かれている。不変ドメイン領域は、アミノ酸残基TVAAから始まり、生殖系列中の131番から始まるアミノ酸残基に対応し、配列の終りまで延在する。フレームワーク(FR)突然変異は、アミノ酸残基43番、125番、および129番にある。
【図5】抗IGF−IR抗体2.12.1fxが、3T3−IGF−IR細胞と結合するIGFIを阻害することを示す図である。
【図6A】受容体が関連するチロシンのリン酸化の低下により示される、IGF−Iが介在するIGF−IRの活性化を遮断する抗体2.12.1fxの能力(図6A)、および細胞上のIGF−1Rのダウンレギュレーションを誘導する抗体2.12.1fxの能力(図6B)を示す図である。
【図6B】受容体が関連するチロシンのリン酸化の低下により示される、IGF−Iが介在するIGF−IRの活性化を遮断する抗体2.12.1fxの能力(図6A)、および細胞上のIGF−1Rのダウンレギュレーションを誘導する抗体2.12.1fxの能力(図6B)を示す図である。
【図7】抗IGF−IR抗体2.12.1fxが3T3−IGF−IR腫瘍中のIGF−IRレベルを低下させることを示す図である。
【図8A】抗IGF−IR抗体がin vivoにおいて単独(図8A)で、またはアドリアマイシンとの併用(図8B)で3T3−IGF−IR腫瘍の成長を阻害することを示す図である。
【図8B】抗IGF−IR抗体がin vivoにおいて単独(図8A)で、またはアドリアマイシンとの併用(図8B)で3T3−IGF−IR腫瘍の成長を阻害することを示す図である。
【図9】3T3−IGF−IR腫瘍中の或る期間にわたっての抗IGF−IR抗体2.12.1fx血清レベルとIGF−IRダウンレギュレーションの関係を示す図である。
【図10A】抗IGF−IR抗体がin vivoにおいて単独(図10A)で、または5−フルオロデオキシウリジン(5−FU)との併用(図10B)でColo 205腫瘍の成長を阻害することを示す図である。
【図10B】抗IGF−IR抗体がin vivoにおいて単独(図10A)で、または5−フルオロデオキシウリジン(5−FU)との併用(図10B)でColo 205腫瘍の成長を阻害することを示す図である。
【図11】カニクイザルでの抗IGF−IR抗体の単一回の静脈注射の薬物動態学的評価を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対応する生殖系アミノ酸残基により置換されている選択された位置に少なくとも1個の突然変異アミノ酸残基を含むヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
前記置換された残基が、前記抗体の可変領域のフレームワーク領域中に含有された体細胞突然変異である、請求項1に記載のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
前記ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分が、ヒトインスリン様成長因子I受容体(IGF−IR)と特異的に結合する、請求項2に記載のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
軽鎖の前記可変領域が、アミノ酸配列SEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から130番を含む、請求項3に記載のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
前記軽鎖がSEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から236番を含む、請求項4に記載のヒト抗体。
【請求項6】
前記重鎖の可変領域が、SEQ ID NO: 3のアミノ酸20番から144番を含む、請求項4に記載のヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
前記重鎖がSEQ ID NO: 3のアミノ酸20番から470番を含み、かつ前記軽鎖がSEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から236番を含む、請求項6に記載のヒト抗体。
【請求項8】
前記抗体の前記重鎖がSEQ ID NO: 3のアミノ酸20番から470番からなり、かつ前記軽鎖がSEQ ID NO: 5のアミノ酸23番から236番からなる、請求項6に記載のヒト抗体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の前記抗体またはその抗原結合部分と、薬学的に許容できる担体とを含む癌治療用の医薬組成物。
【請求項10】
抗新生物薬、化学治療薬、または抗腫瘍薬をさらに含む、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記癌の治療に有効な前記抗体の量をヒトに投与するステップを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の前記ヒト抗体またはその抗原結合部分でヒトにおける癌を治療する方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の抗体の重鎖またはその抗原結合部分あるいは軽鎖またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む分離ポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12の前記分離核酸分子を含むベクター。
【請求項14】
請求項13の前記ベクターを含む宿主細胞。
【請求項15】
請求項14の前記宿主細胞を培養するステップと、前記抗体を回収するステップとを含むモノクローナル抗体またはその抗原結合部分を生産する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−527705(P2007−527705A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523070(P2006−523070)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002555
【国際公開番号】WO2005/016967
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】