説明

修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸、固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸

【課題】担体への固定化が容易な修飾されたフリーアシッド型のヘテロポリ酸を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるフリーアシッド型ヘテロポリ酸。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸触媒として使用できる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸、およびこれを用いた固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸塩は酸素原子が4個配位したP、Si、As、Ge、Sなどのヘテロ原子を中心にW、Mo等の骨格構成原子が酸素原子を介して配位した構造を有するものである。このような構造を有するヘテロポリ酸塩は骨格構成原子の一部を欠損させ、異種金属で置換することが可能であることが知られている。このような欠損型のヘテロポリ酸塩と、より酸化数の低い異種金属で置換されたヘテロポリ酸塩は表面の負電荷密度が通常のヘテロポリ酸塩と比較して増大しているために反応用触媒として使用されている。
【0003】
欠損及び置換ヘテロポリ酸塩の例は数多いが、その多くは酸化触媒として使用されている。例を挙げるとRu置換体によるアルコールの酸化反応が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、工業用途として重要で多くの実用化がなされているのは、ヘテロポリアニオンの相手カチオンをH+に交換したフリーアシッド型のヘテロポリ酸を用いた酸触媒としての使用である。例えば、テトラヒドロフランの開環重合があげられる(特許文献2)。
【0005】
工業用途として有用である酸触媒としてのヘテロポリ酸の例の多くは無置換のフリーアシッド型を用いたものが多い。例えば、H3[PW1240]、H3[PMo1240]、H4[SiW1240]、H4[SiMo1240]等があげられる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−261493号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−215320号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらへテロポリ酸を用いた酸触媒は溶媒に溶解してしまい、回収、再利用が困難であるという問題があった。
【0008】
また、フリーアシッド型のヘテロポリ酸はプロトン輸送能に優れるため、塗膜中に含有させて帯電防止剤としての用途が期待されるが、塗膜からブリードアウトしやすく帯電防止性能を維持できないという問題があった。
【0009】
そこで、ヘテロポリ酸をポリマーやシリカなどの担体と混合して物理的に固定化する方法、およびヘテロポリ酸を4級アンモニウム塩型シランカップリング剤に静電荷作用により固定化させる方法が考えられる。
【0010】
しかしながら、物理的に混合させる方法では、十分にブリードアウトを防止することができないという問題があり、静電荷作用により固定化する方法では、より強い電荷を有する化合物により置換されることによってブリードアウトを防止できなくなるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、担体への固定化が容易な修飾されたフリーアシッド型のヘテロポリ酸、および当該ヘテロポリ酸を用いた固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなるものである。
【0013】
また、本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、一般式(1)で示されるものである。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【0014】
また、本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化してなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に金属アルコキシドの加水分解物を導入してなることから、担体との縮合反応により担体に容易に固定化することが可能である。そして、担体に固定化することによって、回収、再利用を容易にできる酸触媒として用いることができるとともに、塗膜からのブリードアウトが起こりにくい帯電防止剤、セパレータからのブリードアウトが起こりにくい燃料電池のセパレータに含有させるプロトン輸送剤として好適に用いることができる。
【0016】
本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、回収、再利用を容易にできる酸触媒として用いることができるとともに、塗膜からのブリードアウトが起こりにくい帯電防止剤、セパレータからのブリードアウトが起こりにくい燃料電池のセパレータに含有させるプロトン輸送剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
まず、本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の実施の形態について説明する。本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなるものである。
【0019】
このような修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の欠損部分に金属アルコキシドの加水分解物が導入されていることから、当該加水分解物が導入された部分と、これと縮合反応可能な担体とで縮合反応を生じさせることにより、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化することができる。
【0020】
このような修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸としては、例えば、一般式(1)で示されるものがあげられる。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【0021】
一般式(1)中のXは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンを示す。このようなヘテロポリアニオンとしては、P21761、PW1139、γ−PW1036、SiW1139、γ−SiW1036、GeW1139などがあげられる。
【0022】
一般式(1)中の(YOH)abの部分は、金属アルコキシドの加水分解物を示している。この部分に残存する水酸基が担体との間で縮合反応を起こし、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化することができる。(YOH)abの部分は具体的には、(SiOH)2O、(TiOH)、(AlOH)、(ZrOH)などがあげられる。これらの中でも、(SiOH)2Oは水酸基を二つ有することから、担体との間で縮合反応を起こす際に架橋構造をとることができ、耐擦傷性や耐溶剤性をより向上させることができる点で好ましい。
【0023】
また、一般式(1)で示すように、一般式(1)のヘテロポリアニオンの相手カチオンはH+となっている。このように相手カチオンをH+としたフリーアシッド型のヘテロポリ酸とすることにより、酸触媒としての触媒活性を良好にすることができる。また、フリーアシッド型のヘテロポリ酸は、帯電防止性能に優れた帯電防止剤として用いることができ、さらに、燃料電池のセパレータに含有させることにより、燃料電池のプロトン輸送能を良好にすることができる。
【0024】
本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入することにより得ることができる。
【0025】
具体的には、まず水とアルコール中に金属アルコキシドが溶解した溶液に、別途合成したK10[P21761]などのヘテロポリ酸塩の欠損種を化学量論だけ加えて攪拌する。次いで、塩酸で溶液のpHを3以下程度に調整する。この作業により、反応系中で金属アルコキシドが加水分解され、当該加水分解物が、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部分に導入される。次いで、得られた溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させることにより、相手カチオンがすべてH+に置換され、本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を得ることができる。このようにして得られた本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、当該物質の生成を反応系中で確認後溶液状態のまま用いてもよいし、溶媒を除去後固体として用いてもよい。
【0026】
骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩は、既知文献を参照することにより得ることができる。例えば、R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990.(アメリカ)。
【0027】
このような本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなることから、縮合反応により担体に容易に固定化することが可能である。そして、担体に固定化することにより、回収、再利用が容易な酸触媒、塗膜からのブリードアウトが起こりにくい帯電防止剤、セパレータからのブリードアウトが起こりにくい燃料電池のセパレータに含有させるプロトン輸送剤として用いることができる。
【0028】
次に、本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の実施の形態について説明する。本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、上述した本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化してなることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化するには、当該ヘテロポリ酸の加水分解物が導入された部分と担体との間で縮合反応を生じさせればよい。なお、担体への固定化は最終的になされていればよい。したがって、塗膜やセパレータに含ませる時点では担体に固定化されていなくても、その後塗膜やセパレータに含まれる担体との反応が進み固定化されればよい。
【0030】
図1は、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランの加水分解物を導入してなる本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が、担体であるシリカに固定化された状態のイメージを簡易的に示す図である。図1中において、Aはヘテロポリアニオン、Bは担体、Siはケイ素原子、Oは酸素原子、Wはタングステン原子を示す。図1に示すように、Si−O−Si結合により、フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体に固定化されていると考えられる。
【0031】
上記縮合反応は、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸とこれと縮合反応可能な担体とを混合すれば常温でも反応が進行するが、室温〜70℃程度に加熱することで反応速度を速めることができる。反応時間は、加熱下で2〜24時間程度である。
【0032】
担体としては、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の金属アルコキシドの加水分解物が導入された部分と縮合反応が可能なものが用いられる。このような担体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸アルミニウム、ガラスなどの無機物、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニジメトキシシランなどの多官能アルコキシシランおよびその加水分解物、その他の多官能金属アルコキシドおよびその加水分解物、水酸基及び/又はアルコキシ基を有するシリコーン樹脂などがあげられる。担体の種類は用途に応じて使い分けることができるが、安定性、汎用性の観点からシリカが好ましい。また、固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を燃料電池のセパレータとして用いる場合には、柔軟性および耐溶剤性に優れるという観点から、2官能又は3官能アルコキシシラン、水酸基及び/又はアルコキシ基を有するシリコーン樹脂を担体とすることが好ましい。
【0033】
なお、多官能アルコキシシランおよびその加水分解物、その他の多官能金属アルコキシドおよびその加水分解物を担体として用いる場合には、担体に修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が固定化された状態はゾルの状態である。したがって、(多官能アルコキシシランその他の金属アルコキシドの加水分解が完了していない場合は加水分解を完了させた後)加熱によりゾル溶液を乾燥、脱水縮合して用いることが好ましい。
【0034】
担体の形状は用途に応じて使い分けることができる。酸触媒として用いる場合には、取り扱い性に優れる微粒子状であることが好ましい。この場合、微粒子の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲とすることにより、固定化の際の縮合反応を進みやすくできるとともに、取り扱い性を向上させることができる。
【0035】
このような本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、回収、再利用が容易な酸触媒として用いることができる。触媒反応としては、各種化合物のエステル化反応、アルキル化反応、アシル化反応の他、アルケンの水和反応、アルケンの酸化反応などがあげられる。さらに、本発明の固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸は、塗膜からのブリードアウトが起こりにくい帯電防止剤、セパレータからのブリードアウトが起こりにくい燃料電池のセパレータに含有させるプロトン輸送剤として用いることができる。また、担体の種類にもよるが、殆どの成分が無機物であるため、耐薬品性や耐熱性に極めて優れており、上述した用途に用いる際に薬品や熱により劣化することもない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0037】
[実施例1]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
テトラエトキシシラン0.42g(2mmol)をH2O/EtOH=50/50mLの混合溶媒に溶解させた。5分間攪拌後、文献(R.Contant,Inorg.Synth.,27,104,1990)に従い合成した一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.8に調整して30分間攪拌した。このとき反応溶液は白色懸濁から淡黄色懸濁液に変化した。次いで、不溶物をろ過により取り除いた溶液をH+でチャージされたイオン交換樹脂(アンバーライト120NBA:ローム・アンド・ハース社)に通薬した。使用したイオン交換樹脂の量は100mL、通薬速度はSV4とした。次いで、通薬後の溶液をナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用して溶媒を取り除き、黄色粉体の化合物aを得た。次いで、析出した粉体を回収して一晩真空乾燥した。得られた化合物aの収量は3.18gであった。
【0038】
(2)構造解析
得られた化合物aについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
3381m,2113w,1612m,1083s,953s,903s,684s cm-1
31P NMR>
(19.9℃、D2O):δ−10.0,−13.2ppm
【0039】
以上の分析結果から、化合物aは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるテトラエトキシシランの加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸、H6[P21761(SiOH)2O]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例1の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物a)を得た。
【0040】
2.シリカ薄膜の形成
テトラエトキシシラン5.0部、水2.5部、エタノール5.1部、実施例1の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物a)1.5部からなる混合液を、25℃で24時間攪拌してテトラエトキシシランを加水分解し、母液Aを得た。この段階で担体となるテトラエトキシシランの加水分解物と、実施例1の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸との間で縮合反応が生じ、実施例1の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体に固定化された状態となっている。
【0041】
次いで、5.0部の母液Aに対し、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロヘキサノンをそれぞれ4.0部、5.0部、1.0部添加して希釈し、希釈液A’を得た。次いで、厚み100μmのポリエステルフィルム上に、希釈液A’をバーコーター法で塗布し、100℃で3分間加熱して、加水分解物を脱水縮合してシリカ薄膜を形成し、実施例1の透明導電性シートを得た。
【0042】
実施例1で得られた透明導電性シートを用い、JIS K6911:1995に基づき、透明導電性シートの表面抵抗を測定し表面抵抗率を算出した。測定は、透明導電性シートを水に浸漬していないもの、水に1時間浸漬後のもの、15時間浸漬後のもの、60時間浸漬後のものについて行った。測定結果は、順に、3.9×108Ω/□、4.9×108Ω/□、5.3×108Ω/□、6.6×108Ω/□であった。
【0043】
[実施例2]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Al(OEt)3 0.162g(1mmol)を純水40mLに分散させ、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整した。得られた無色透明溶液に、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えて1時間攪拌した。ひだ折ろ紙を用いて未反応のポリ酸塩を除去後、過剰量のMe2NH2Cl 5.5g(67.5mmol)を加えて白色粉体を得た。
【0044】
得られた粉体をエタノール、ジエチルエーテルで洗浄後充分吸引乾燥させた。この粉体3.0gを純水5mLに分散させ、実施例1と同様のイオン交換樹脂5gを加えてカチオン交換した。ろ過によりイオン交換樹脂を取り除き得られたろ液に再び実施例1と同様のイオン交換樹脂を5g添加した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、得られた淡黄色溶液を凍結乾燥させて、化合物bを得た。化合物bの収量は2.3gであった。
【0045】
(2)構造解析
得られた化合物bについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1095m,966m,899m,735m cm-1
31P NMR>
(19.2℃、D2O):δ−10.5,−13.1ppm
【0046】
以上の分析結果から、化合物bは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるAl(OEt)3の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H8[P21761(AlOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例2の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物b)を得た。
【0047】
[実施例3]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Si(OEt)4 0.14g(0.6mmol)を純水/エタノール=12/6mLの混合溶媒に溶解させた。5分間攪拌後、実施例1と同様の文献に従い合成した一欠損Keggin型タングストポリ酸塩K7[PW1139]・12H2Oを1.0g(0.3mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し30分間攪拌した。次に、実施例1と同様のイオン交換樹脂20gを加えてゆっくりと攪拌した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、ナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用してエタノールを取り除き、残った水を凍結乾燥により除去し黄色粉体の化合物cを得た。化合物cの収量は0.64gであった。
【0048】
(2)構造解析
得られた化合物cについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1077m,970m,883m,707s cm-1
31P NMR>
(18.9℃、D2O):δ−13.7ppm
【0049】
以上の分析結果から、化合物cは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK7[PW1139]・12H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるSi(OEt)4 の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H3[PW1139(SiOH)2O]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例3の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物c)を得た。
【0050】
[実施例4]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
Al(OEt)20.05g(0.3mmol)を純水/エタノール=12/6mLの混合溶媒に分散させた。5分間攪拌後、実施例3と同様の一欠損Keggin型タングストポリ酸塩K7[PW1139]・12H2Oを1.0g(0.3mmol)加えてしばらく攪拌した。次いで、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し30分間攪拌した。次に、実施例1と同様のイオン交換樹脂20gを加えてゆっくりと攪拌した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、ナスフラスコに移しロータリーエバポレーターを使用してエタノールを取り除き、残った水を凍結乾燥により除去し黄色粉体の化合物dを得た。化合物dの収量は0.65gであった。
【0051】
(2)構造解析
得られた化合物dについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1079m,1034w,978m,887m,720s cm-1
31P NMR>
(18.6℃、D2O):δ−13.7ppm
【0052】
以上の分析結果から、化合物dは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK7[PW1139]・12H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるAl(OEt)2 の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H5[PW1139(AlOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例4の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物d)を得た。
【0053】
[実施例5]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを2.3g(0.5mmol)を純水20mLに分散し、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.8に調整した(無色透明溶液)。別途Zr(OBu)40.19g(0.5mmol)をn−プロパノールに溶解したものを前記無色透明溶液に加えて1時間攪拌した。生成した白色粉体をひだ折ろ紙を用いて除去した溶液にMe2NH2Cl 6.52g(80mmol)を加え白色粉体を得た。
【0054】
生成した白色粉体をメンブランフィルターで回収後エタノール、ジエチルエーテルで洗浄した。この粉体0.5gを純水5mLに分散させ、実施例1と同様のイオン交換樹脂5gを加えてカチオン交換した。ろ過によりイオン交換樹脂を取り除き得られたろ液に再び実施例1と同様のイオン交換樹脂を5g添加した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、得られた淡黄色溶液を凍結乾燥させて、化合物eを得た。化合物eの収量は0.3gであった。
【0055】
(2)構造解析
得られた化合物eについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1082m,1015w,945m,907m,743m cm-1
31P NMR>
(19.2℃、D2O):δ−9.97,−13.7ppm
【0056】
以上の分析結果から、化合物eは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるZr(OBu)4の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H7[P21761(ZrOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例5の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物e)を得た。
【0057】
[実施例6]
1.修飾物製造工程
(1)ヘテロポリ酸塩の欠損部位への加水分解物の導入、イオン交換
実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを2.3g(0.5mmol)を純水20mLに分散し、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.8に調整した(無色透明溶液)。別途Ti(O−i−Pr)40.14g(0.5mmol)をn−プロパノールに溶解したものを前記無色透明溶液に加えて1時間攪拌した。生成した白色粉体をひだ折ろ紙を用いて除去しMe2NH2Cl 3.26g(40mmol)を加え白色粉体を得た。
【0058】
生成した白色粉体をメンブランフィルターで回収後エタノール、ジエチルエーテルで洗浄した。この粉体1.5gを純水5mLに分散させ、実施例1と同様のイオン交換樹脂5gを加えてカチオン交換した。ろ過によりイオン交換樹脂を取り除き得られたろ液に再び実施例1と同様のイオン交換樹脂を5g添加した。次いで、イオン交換樹脂をろ別した後、得られた淡黄色溶液を凍結乾燥させて、化合物fを得た。化合物fの収量は0.6gであった。
【0059】
(2)構造解析
得られた化合物fについてFT−IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
<FT−IR(ATR法)>
1085m,1016w,949m,912m,751m cm-1
31P NMR>
(19.2℃、D2O):δ−10.6,−13.7 ppm
【0060】
以上の分析結果から、化合物fは、骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩であるK10[P21761]・19H2Oの欠損部位に、金属アルコキシドであるTi(O−i−Pr)4の加水分解物が導入されてなる修飾フリーアシッド型へテロポリ酸H7[P21761(TiOH)]の水和物であること、およびこの修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の構造を保つ単一種として得られていることが確認された。こうして実施例6の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸(化合物f)を得た。
【0061】
<実施例2〜4、比較例1、2のシリカ薄膜の形成>
化合物aの代わりに化合物b、c、d(実施例2〜4)、およびH3[PW1240](比較例1)、1M塩酸(比較例2)を用いて、表1の処方とした以外は実施例1と同様にして、母液B〜D、G、Hを作製した。なお、実施例1の母液Aの処方も合わせて表1に示す。また、表1中のH+/テトラエトキシシラン(mol)の値については、すべて8.8×10-2である。
【0062】
次いで、母液Aの代わりに母液B〜D、G、Hを用いて、表2の処方とした以外は実施例1と同様にして、希釈液B’〜D’、G’、H’を作製しシリカ薄膜を形成して、実施例2〜4、および比較例1、2の透明導電性シートを作製した。なお、実施例1の希釈液A’の処方も合わせて表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
[実施例7]
1.修飾物製造工程、およびシリカ薄膜の形成
Si(OEt)4 0.42g(2mmol)を純水/エタノール=50/50mLに分散させ、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えた。1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整し、1時間攪拌した。この溶液に実施例1と同様のイオン交換樹脂50gを加え、ゆっくりと攪拌した。イオン交換樹脂をろ別した後、Si(OEt)4 14.2gを加えて25℃で一晩ゾルゲル反応を進行させ、塗布液Iが得られた。
【0066】
塗布液Iを希釈液A’の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして、シリカ薄膜を形成して、実施例7の透明導電性シートを作製した。
【0067】
[実施例8]
1.修飾物製造工程、およびシリカ薄膜の形成
Al(OEt)3 0.162g(1mmol)を純水40mLに分散させて、1M塩酸を用いて溶液のpHを1.5に調整した。得られた無色透明溶液に、実施例1と同様の一欠損Dawson型タングストポリ酸塩K10[P21761]・19H2Oを5.0g(1mmol)加えて1時間攪拌した。この溶液に実施例1と同様のイオン交換樹脂50gを加え、ゆっくりと攪拌した。イオン交換樹脂をろ別した後、Si(OEt)4 18.5gを加えて25℃で一晩ゾルゲル反応を進行させ、塗布液Jが得られた。
【0068】
塗布液Jを希釈液A’の代わりに用いた以外は実施例1と同様にして、シリカ薄膜を形成して、実施例8の透明導電性シートを作製した。
【0069】
<表面抵抗率の算出>
実施例2〜4、7、8、および比較例1、2で得られた透明導電性シートを用い、実施例1と同様にして表面抵抗を測定し表面抵抗率を算出した。測定は、透明導電性シートの作製直後(水に浸漬していないもの)について行なった。また、比較例1の透明導電性シートについては、水に15時間浸漬後の測定も行なった。結果を表3に示す。また実施例1の結果についても合わせて表3に示す。なお、表3中の単位は、Ω/□である。
【0070】
【表3】

【0071】
<ゾルゲル反応によって得られた粉体を使用した溶出試験>
実施例1〜4、7、8、および比較例1、2で得られた加水分解溶液(母液A〜D、G、H、および塗布液I、J)の溶媒を、70℃、3時間加熱した後、160℃、5時間加熱して粉体(加水分解物)を取り出した。得られた粉体(加水分解物)が純水に溶出しないか確認する為、得られた粉体を20mLの純水に3日間浸して、上澄み溶液のpHをpH試験紙を用いて調べた。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
表3より、実施例1〜4、7、8のものは、水に浸漬前の状態で帯電防止性を有しており、実施例1のものは水に15時間浸漬後、帯電防止性が殆ど低下しないものであった。また、表4より、実施例1〜4、7、8のものは、水に浸漬後、上澄み溶液のPHが中性付近を示している。これらの結果は、実施例のものは、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体に固定化されていることから、水に浸漬しても修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸がシリカ担体から殆どブリードアウトしていないことを示している。特に、実施例1のものは、修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸の加水分解物が導入された部分として(SiOH)2Oを用いていることから、テトラエトキシシランの加水分解物との間で縮合反応を起こす際に架橋構造をとることができ、シリカ薄膜の耐擦傷性や耐溶剤性に極めて優れるものであった。
【0074】
一方、比較例1のものは、表3より、水に浸漬前の状態で帯電防止性を有しているが、水に15時間浸漬後は帯電防止性が著しく低下したものとなった。また表4より、水に浸漬後、PHが酸性を示している。この結果は、比較例1のものは無置換のフリーアシッド型ヘテロポリ酸を用いているため、担体に固定化されていないことから、水に浸漬すると無置換のフリーアシッド型ヘテロポリ酸がシリカ担体からブリードアウトしてしまうことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸が担体に固定化された状態を示す図
【符号の説明】
【0076】
A・・・ヘテロポリアニオン
B・・・担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリ酸塩の欠損部位に、金属アルコキシドの加水分解物を導入してなる修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸。
【請求項2】
一般式(1)で示される請求項1記載の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸。
m[X(YOH)ab]・nH2O ・・・(1)
[式中、Xは骨格構成原子の一部を欠損させたヘテロポリアニオンであり、YはSi、Ti、Al、Zrから選ばれる何れか1種の原子であり、mは1以上の整数であって一般式(1)中の[X(YOH)ab]から決定される負電荷の絶対値であり、nは1以上の整数である。また、aは1又は2であり、bはaが1のとき0、aが2のとき1である。]
【請求項3】
請求項1又は2記載の修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸を担体に固定化してなることを特徴とする固定化修飾フリーアシッド型ヘテロポリ酸。

【図1】
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【公開番号】特開2007−230857(P2007−230857A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21927(P2007−21927)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】