説明

個人健康管理システム

【課題】時系列的に蓄積された日常の個人健康情報からシステムの利用者の健康管理に有用な個人健康管理情報をタイミングよく自動生成し、その最新の情報をシステムの利用者に提示する個人健康管理システムを提供すること。特にシステム利用者の生活習慣の改善や加齢による状態変化を考慮し、常に最新の個人健康管理情報をダイナミックに提示する。
【解決手段】システム利用者の身体を計測して得られる1つ以上の健康データ項目と、該健康管理を行う人の生活情報を表す1つ以上の生活データ項目からなる時系列的に蓄積された個人健康情報を解析し、該健康データ項目と生活データ項目間の相関ルールを自動生成するシステムにおいて、相関ルール解析に用いる生活データ項目からなる入力変数を一定期間毎に自動定義し更新する。これにより、システム利用者の最新の状態に適合した相関ルールを自動生成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システム利用者の時系列的に蓄積された日常の個人健康情報をもとに健康管理に有用な情報を利用者に提示する個人健康管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の健康管理の殆どは、定期健康診断や人間ドックで得られる健康情報に基づいて行われている。しかしこれらの健康情報は、定期健康診断や人間ドックを実施した時点のみを切り取ったデータである。したがって、これらのデータのみから、日常の健康管理を行うための健康管理情報を抽出するのには限界がある。そこで日常の生活環境における健康情報を蓄積し、病気の一次予防や健康増進に役立てることを目的としたシステムが考案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、利用者に装着された測定装置によって測定される日常の健康情報を、健康管理情報センタで管理し、要求された健康情報を利用者に提供して利用者の健康管理を支援する健康情報管理方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−245177号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明には健康情報を管理するためのシステムの構成や機能について述べられているが、時系列的に蓄積された個人健康情報からシステムの利用者が健康管理を行う上で有用となる最新の個人健康管理情報を抽出しそれをシステムの利用者にタイミングよく提示する方法については述べられていない。
【0006】
従って本発明の課題は、時系列的に蓄積された日常の個人健康情報からシステムの利用者の健康管理に有用な個人健康管理情報をタイミングよく自動生成し、その最新の情報をシステムの利用者に提示する個人健康管理システムを提供することである。特に個人健康管理情報を自動生成する場合には、システムの利用者の加齢や生活習慣の改善による状態変化を考慮し、常に最新の情報をダイナミックに提示する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するためになされた本発明に係る個人健康管理システムは、システム利用者の身体を計測して得られる1つ以上の健康データ項目と、該健康管理を行う人の生活情報を表す1つ以上の生活データ項目からなる時系列的に蓄積された個人健康情報を解析し、該健康データ項目と生活データ項目間の相関ルールを自動生成するシステムであって、該相関ルールを一定期間毎に自動更新することを特徴とする。このために、相関ルール解析に用いる生活データ項目からなる入力変数はある一定期間毎に更新される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、時系列的に蓄積されたシステム利用者の日常における健康データと生活データから個人の健康管理に有用な満足度の高い個人健康管理情報を常にシステム利用者の最新の状態を反映させて自動生成することができる。システム利用者の状態は加齢や生活習慣の改善などにより変化するので、その状態変化を反映させることにより常に最新のルールに基づき具体的な目標を持って病気の一次予防や健康増進のための生活習慣の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の個人健康管理システムにおける健康管理サーバ上での相関ルール自動生成の流れを示す図である。システム利用者は図2に示す構成のシステムを用い、携帯電話から日常の健康データと生活データを入力・送信する。これらのデータは時系列的に健康管理サーバのデータベースに蓄積される。システムは蓄積された健康データと生活データの数を定期的に監視しており、データ数がある閾値Ns以上になると自動的に健康データと生活データを健康管理サーバに取り込み、相関ルール解析に用いる入力変数を定義する。その後、定義された入力変数を用いある一定期間(ルールの自動生成有効期間T)は、随時それまでに蓄積されたデータについて相関ルール解析を行いルールを自動生成する。ある一定期間Tを過ぎるとシステムはルールの自動生成を止め、新たにNs個のデータが蓄積されるのを待ちそのデータを用いて入力変数を再定義する。そして再定義された入力変数を用い、再びある一定の期間Tの間、随時相関ルール解析を行いルールを自動生成する。システムはこの過程を繰り返す。ここで閾値Nsとルールの自動生成有効期間Tは可変設定できるようにしておく。
【0010】
図3は相関ルール解析に用いる入力変数を自動的に定義するためのアルゴリズムを説明する図である。pnは関心ある健康データ項目のn日におけるデータで、eiは任意の生活データ項目のi日におけるデータである。それぞれn日、i日の何日か前のデータをpm、ejとし、次の量を定義する。
Δpnm=pn-pm (1)
etij=ei+ei-1+・・・+ej (2)
ここで、Δpnmはある任意の期間における健康データの変化であり、etijはある任意の期間における生活データの加算(単純加算)値である。n日とi日は一般的に同日ではなく、図3に示したように遅延期間sを定義する。また任意の期間n-mとi-jは必ずしも同一期間である必要はない。次に、任意の期間n-mとi-jおよび遅延期間sをパラメータとし、時系列データを基にn、iを変化させて、Δpnmとetijの相関をみる(図3の散布図参照)。このとき相関係数は、任意の期間n-mとi-jおよび遅延期間sの値によって変化するので、相関係数が最大となるn-m、i-j、sの組み合わせ(n-m)max、(i-j)max、smaxを求める。そして最大相関係数がある閾値Ks以上になる場合にその生活データ項目を、相関ルール解析を行うための入力変数として採用する。さらに相関ルール解析を行うときの実際の入力フィールドは最大相関係数を示すときの(i-j)max、smaxの値を基に定義する。例えば(i-j)max=2、smax=1の時には入力フィールドをei+ei-1+ei-2(i=n-1)とする。ここで最大相関係数の閾値Ksも可変設定できるようにしておく。
【0011】
このようにして入力フィールドを定義し、関心ある健康データ項目を出力変数として相関ルール解析を行う。生成されるルールは、生活データ項目からなる入力変数を含む前提部と健康データ項目からなる出力変数を含む結論部からなる。システムの利用者はこれら生成されるルールに基づき生活習慣の改善を行うと同時に加齢を重ねることになる。従って、システム利用者の状態は徐々に変化していずれルールの精度が落ちてくる。そこで、ある一定の期間経過後は最新のデータに基づき入力変数を再定義し、それ以降のデータは再定義した入力変数を用いて相関ルール解析を行い新しいルールを生成する必要がある。この過程を繰り返すことによりシステム利用者は生涯個人健康管理を行うことができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、関心のある健康データ項目として血圧(単位:mmHg)を、生活データ項目として、運動よる消費カロリー(単位:kcal)、食事による摂取カロリー(単位:kcal)、アルコール摂取量(定性値)、ストレス(定性値)、睡眠時間(単位:時間)および睡眠の深さ(定性値)を例として詳細に説明する。これらの項目のデータは図2に示すシステムにより健康管理を行うシステム利用者の携帯電話を通して毎日入力され、インターネット経由で健康管理サーバのデータベースに蓄積される。アルコール摂取量は利用者の主観で5段階(1~5:1が最も多く5が最も少ない)で入力されており、ストレスは利用者の主観で3段階(1.多い、2.普通、3.少ない)で入力されている。さらに、睡眠の深さも利用者の主観で3段階(1.ぐっすり、2.やや浅い、3.よく眠れなかった)で入力されている。
【0013】
本実施例では、システム利用者が利用を開始し、最小血圧、運動による消費カロリー、食事による摂取カロリー、アルコール摂取量、ストレス、睡眠時間および睡眠の深さの時系列データ数がまず60件になった時に自動的にデータベースからデータを健康管理サーバに取り込み入力変数を定義するために相関係数を計算するようにシステムを設定した。即ちNs=60とした。さらに、n-m=1〜10、i-j=0〜9、s=1〜3の間で前記パラメータを変化させ、それぞれの生活データ項目について最小血圧のデータとの間で相関係数を計算するようにプログラムした。ここでは、最大相関係数が0.3以上となる生活データ項目を入力変数として採用した。即ちKs=0.3とした。最小血圧と最大の相関を示す(i-j)max、smaxの値をもとに定義した入力フィールドを以下に示す。
【0014】
(1)運動による消費カロリー:
血圧測定日の前日から6日前までのデータの単純加算値が最小血圧値と最大の相関を示した。これを入力フィールドとし消費カロリー6と表示する。
【0015】
(2)食事による摂取カロリー:
血圧測定日の2日前のデータが最小血圧値と最大の相関を示した。これを入力フィールドとし摂取カロリー1と表示する。
【0016】
(3)アルコール摂取量:
血圧測定日の2日前のデータが最小血圧値と最大の相関を示した。これを入力フィールドとしアルコール摂取量1と表示する。この例ではアルコール摂取量は5段階の程度(1:非常に多い、2:多い、3:やや多い、4:適度、5:少ない)となっている。
【0017】
(4)ストレス:
血圧測定日の前日のデータが最小血圧値と最大の相関を示した。これを入力フィールドとしストレス1と表示する。この例ではストレスは3段階の程度(1:多い、2:普通、3:少ない)となっている。
【0018】
(5)睡眠時間:
血圧測定日の前日から7日前までのデータの重みつき加算値が最小血圧値と最大の相関を示した。これを入力フィールドとし実効睡眠時間7と表示する。ここでの重みは睡眠の深さによるものである。この例では睡眠の深さは3段階の程度(1.ぐっすり、2.やや浅い、3.よく眠れなかった)となっているので、この程度によって一日の睡眠時間に重みをつけた。具体的には、一日の睡眠時間を眠りの深さの程度を示す数字の平方根で割った。例えば、睡眠時間は6時間であるが眠りがやや浅かった場合には6/√2時間とした。
【0019】
以上の5つの入力フィールドは60件のデータに基づく相関係数の解析から自動的に定義された。次に数値データである最小血圧を出力変数とするために、最小血圧値の大きさによって「高い」「中間」「低い」の3つのカテゴリーに分けた。カテゴリー分けは、3つのカテゴリーのデータ頻度がほぼ等しくなるようにした。
【0020】
以上の準備処理を行った後に最初の60件のデータを対象に相関ルール解析を実行した。
その後、時系列的に蓄積されたデータ数が120件、180件、240件、300件、と60件づつ増える度に、最初の60件のデータに基づき定義した入力変数を用いて相関ルール解析を実行した。データ数が約240件(利用開始後約8ヶ月)の時に実行した相関ルール解析により生成された有効なルールは、
(1)前日のストレスが多く、かつ前日から6日間の運動による消費カロリーが1819 kcal より少ないと最小血圧は高くなる、
(2)前日から6日間の運動による消費カロリーが1319
kcal より少なく、かつ前日から7日間の実効睡眠時間が40時間より少ないと最小血圧は高くなる、
の2つであった。これら自動生成されるルールは、約1年間はそれほど大きく変わらずまた精度が高いものが得られたが、1年を超えるとルールに変化がみられかつ精度も落ちてきた。これは生活習慣の改善や加齢による影響でシステム利用者の状態が変化したためと考えられる。そこで、1年後に再度最新の60件のデータを用い、入力変数を再定義した。そして、その後のデータについては再定義した入力変数を用いて相関ルール解析を行ったところ再び精度の高いルールが得られるようになり、システム利用者はその時点での状態に適合したルールを基に自己の健康管理を行うことができるようになった。
【0021】
以上説明したように本実施の形態の個人健康管理システムでは、相関ルール解析に用いる入力変数を定期的に最新のデータを用いて再定義することにより、常に満足度の高い有効な健康管理上のルールを自動生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の個人健康管理システムにおける、健康管理サーバ上でのルール自動生成の流れを示す図である。
【図2】本発明の個人健康管理システムにおける、システム構成の例を示す図である。
【図3】本発明の個人健康管理システムにおける、相関ルール解析に用いる入力変数を自動定義するためのアルゴリズムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健康管理を行う人の身体を計測して得られる1つ以上の健康データ項目と、該健康管理を行う人の生活情報を表す1つ以上の生活データ項目からなる時系列的に蓄積された個人健康情報を解析することにより該健康データ項目と生活データ項目間の相関ルールを自動生成し、該相関ルールを該健康管理を行う人に提示するシステムであって、該相関ルールをある一定の期間毎に自動更新することを特徴とする個人健康管理システム。
【請求項2】
前記健康データ項目と生活データ項目間の相関ルールは、1つ以上の生活データ項目を入力変数とし、健康データ項目を出力変数として相関ルール解析を行い、前提部と結論部をもつ相関ルールを自動生成することを特徴とする請求項1に記載の個人健康管理システム。
【請求項3】
前記入力変数は、ある一定の期間内に時系列的に蓄積された前記個人健康情報を基に定義され、該入力変数を定義した期間以降に時系列的に蓄積された個人健康管理情報の相関ルール解析にこれを用いることを特徴とする請求項1および請求項2に記載の個人健康管理システム。
【請求項4】
前記入力変数は、ある一定の期間を経過した後は新たなある一定の期間内に時系列的に蓄積された前記個人健康情報を基に再定義され、該入力変数を再定義した期間以降に時系列的に蓄積された個人健康情報の相関ルール解析にこれを用いることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の個人健康管理システム。
【請求項5】
前記時系列的に蓄積された個人健康情報の入力手段が前記健康管理を行う人の携帯電話などの携帯端末であり、該個人健康情報はインターネット経由で該個人健康情報を解析する健康管理サーバに送信され、自動生成された前記健康データ項目と生活データ項目間の相関ルールは前記健康管理を行う人の携帯電話などの携帯端末に自動配信もしくは前記健康管理を行う人の要求に応じて配信されることを特徴とする請求項1から請求項4に記載の個人健康管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−259791(P2006−259791A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72183(P2005−72183)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(501410115)学校法人高崎健康福祉大学 (13)
【Fターム(参考)】