説明

個人認証用通帳類

【課題】外部からの不正アクセスが困難となり、個人情報の改竄や偽造などを未然に防止することができる個人認証用通帳類を提供する。
【解決手段】複数頁の冊子状に形成され、かつ、所定の頁に、当該個人認証用通帳類の所有者に関係する個人情報が記憶されるICチップとこのICチップに接続されたアンテナコイルとを有し、外部装置との間で無線による送受信を行なう無線ICモジュールが埋設された個人認証用通帳類において、当該個人認証用通帳類を見開いた状態で、前記無線ICモジュールが埋設された頁と面対称となる頁に、アンテナコイルとこのアンテナコイルに接続された前記ICチップ相当の負荷とを有して構成された疑似共振回路部を埋設したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、学生証、従業員証、預金通帳等の個人の身分を認証するために用いられる冊子型で顔画像付きの個人認証用通帳類に係り、特に外部装置との間で無線による送受信を行なう無線ICモジュールを備えた個人認証用通帳類に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の個人認証用通帳類に対する不正なアクセス防止方法として、
(1)通帳類の表表紙に無線ICモジュールを配置するとともに、少なくともアンテナコイルの構成面積よりも大きい面積の導電体からなる導電シートを裏表紙に配置することで、通帳類を閉じたときに外部との通信を防止する(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
(2)アンテナコイルが表表紙と裏表紙とに対称に跨るように配置し、通帳類を閉じたときにアンテナコイルのループ形状が崩れる形状となることで、通帳類を閉じたときに外部との通信を防止する(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
(3)通帳類の少なくとも1頁に電磁波を遮断もしくは通しにくいシールド部材を用いるこで、通帳類を閉じたときに外部とのアクセスを防止する(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
が知られている。
【特許文献1】特開平10−203051号公報
【特許文献2】特開平11−348471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)、(3)の導電シートまたは電磁波を遮断もしくは通しにくいシールド部材を用いて電波を遮断する方式での問題点は、開いた状態で通帳類を読取装置のアンテナ部分にかざした場合、この導電シートまたはシールド部材が読取装置のアンテナ部分に近傍もしくは密着状態となる。
【0007】
読取装置のアンテナから放射される交流磁界を導電シートまたはシールド部材が受けた場合、導電シートまたはシールド部材は磁力線による「うず電流」が発生する。このとき、導電シートまたはシールド部材で消費される電流は、無論、読取装置から放射される交流磁界によって供給されるため、読取装置は通常の電流よりも多く流すことになる。
【0008】
また、導電シートまたはシールド部材が読取装置のアンテナ部分の近傍に接近することによる読取装置側のアンテナ共振周波数がずれる可能性もある。これにより、読取装置のアンテナは共振周波数ずれによる通信安定性の低下、通信不能、あるいは読取装置側の過電流によるアンテナ回路破壊につながる可能性がある。
【0009】
また、上記(2)の方法での問題点は、読取装置とのアクセス時はもとより、普段の使用においても通帳類を開いたり閉じたりしていくうちに、通帳類の中心部(背の部分)の劣化等により、アンテナコイルが切断されてしまう危険性があり、アンテナコイルが切断した場合には通信不能となる。
【0010】
そこで、本発明は、外部からの不正アクセスが困難となり、個人情報の改竄や偽造などを未然に防止することができる個人認証用通帳類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の個人認証用通帳類は、複数頁の冊子状に形成され、かつ、所定の頁に、当該個人認証用通帳類の所有者に関係する個人情報が記憶されるICチップとこのICチップに接続されたアンテナコイルとを有し、外部装置との間で無線による送受信を行なう無線ICモジュールが埋設された個人認証用通帳類において、当該個人認証用通帳類を見開いた状態で、前記無線ICモジュールが埋設された頁と面対称となる頁に、アンテナコイルとこのアンテナコイルに接続された前記ICチップ相当の負荷とを有して構成され、前記無線ICモジュールと同じ共振周波数に同調されている疑似共振回路部を埋設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の個人認証用通帳類によれば、通帳類の1つの頁に無線ICモジュールを埋設し、これと面対称となる他の頁に無線ICモジュールと同じ共振周波数に同調されている擬似共振回路部を埋設することにより、通帳類を開いた状態では、無線ICモジュールは外部からの電力を充分に受けることが可能であり、通信可能である。しかし、通帳類を閉じた状態では、無線ICモジュールと擬似共振回路部が互いに重なり合うため、互いのアンテナコイルは電磁結合が強くなり、そのため無線ICモジュールは擬似共振回路部の影響を受け、共振周波数がずれる作用が発生する。このため、外部との通信が困難となり、外部からの不正アクセスが困難となり、個人情報の改竄や偽造などを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
図1、図2は、第1の実施の形態に係る個人認証用通帳類の構成を模式的に示すものである。この個人認証用通帳類11は、たとえば、学生証、従業員証、預金通帳等の個人の身分を認証するために用いられるもので、2つの表紙12,13と、これら表紙12,13間に綴じられた複数の頁(シート)14から構成されている。そして、たとえば、一方の表紙(表表紙)12の内側は印刷面12aとなっていて、この印刷面12aには、当該個人認証用通帳類11の所有者の顔画像(顔写真)15、ID番号、氏名、生年月日、性別、住所、発行年月日、有効期限、署名などの券面情報16がそれぞれ印刷される。顔画像15は、たとえば、表面に受像層を塗布して写真を印刷したものであり、必要に応じてカラー印刷を実施することもできる。なお、券面情報16の内容は個人認証用通帳類の種類によって異なる。
【0014】
また、一方の表紙(表表紙)12は多層構造になっており、その中間の層には無線ICモジュール17が埋設されている。無線ICモジュール17は、外部装置としての読取装置(無線式リーダライタ)との間で無線による送受信を行なうもので、当該個人認証用通帳類11の所有者の顔画像や個人情報が格納されるICチップ18と、このICチップ18に接続されたアンテナコイル19とから構成されている。
【0015】
ICチップ18は実装基板20に実装されているとともに、ICチップ18の入力端子に並列に同調用コンデンサ(図示しない)が接続されている。この同調用コンデンサとアンテナコイル19とで共振回路を構成している。アンテナコイル19は、たとえば、絶縁処理が施された銅線を巻いて構成したり、あるいは、樹脂シートに直接導電性ペーストを塗布したりして構成してもよい。
【0016】
なお、無線ICモジュール17は、一方の表紙(表表紙)12に限らず、たとえば、他方の表紙(裏表紙)13、あるいは、表紙12,13間の頁(シート)14に埋設してもよい。
【0017】
また、他方の表紙(裏表紙)13には、図2に示すように、擬似共振回路部21が埋設されている。擬似共振回路部21は、アンテナコイル22、および、このアンテナコイル22に接続された同調コンデンサとICチップ18相当の負荷抵抗(いずれも図示しない)で構成される回路基板23により構成されている。
【0018】
擬似共振回路部21は、当該個人認証用通帳類11を閉じた状態において、無線ICモジュール17と互いに重なり合う位置で、かつ、アンテナコイル22の巻き方向(a)が無線ICモジュール17のアンテナコイル19の巻き方向(b)と逆方向となるように配設される。
また、擬似共振回路部21のアンテナコイル22は、無線ICモジュール17のアンテナコイル19と同等の面積かつ巻数に形成されている。したがって、アンテナコイル22は、無線ICモジュール17のアンテナコイル19と同じものを使用してもよい。
【0019】
このように、当該個人認証用通帳類11を閉じたときに無線ICモジュール17のアンテナコイル19の巻き方向と、擬似共振回路部21のアンテナコイル22の巻き方向が互いに逆方向とすることにより、それぞれのアンテナコイル19,22が発生する磁力線の方向を相殺させ、読取装置との通信を困難としている。
【0020】
なお、擬似共振回路部21は、他方の表紙(裏表紙)13に限らず、たとえば、一方の表紙(表表紙)12、あるいは、表紙12,13間の頁(シート)14に埋設してもよい。ただし、無線ICモジュール17が埋設された頁と面対称となる頁であることが条件である。
【0021】
以下、このような構成において作用について説明する。
いま、一方の表紙(表表紙)12に埋設された無線ICモジュール17が所定の共振周波数f1に同調しているものとする。また、他方の表紙(裏表紙)13に埋設され、かつ、当該個人認証用通帳類11を閉じた状態では無線ICモジュール17と互いに重なり合う位置で、アンテナコイル22の巻き方向は無線ICモジュール17のアンテナコイル19の巻き方向と逆関係となるように配設された擬似共振回路部21も、無線ICモジュール17と同じ共振周波数f1に同調されているものとする。
【0022】
当該個人認証用通帳類11を開いた状態では、無線ICモジュール17は読取装置からの電力を充分に受けることが可能であり、通信可能である。しかし、当該個人認証用通帳類11を閉じた状態では、無線ICモジュール17と擬似共振回路部21とが互いに重なり合う。このため、互いのアンテナコイル19,22は電磁結合が強くなるため、無線ICモジュール17は擬似共振回路部21の影響を受け、共振周波数がずれる作用が発生する。
【0023】
図3(a)に、無線ICモジュール17および擬似共振回路部21の等価回路を示し、この図に基づき詳細に説明する。無線ICモジュール17は、アンテナコイルL1(アンテナコイル19)と同調コンデンサC1にて
【数1】

により共振周波数f1となる。同様に、擬似共振回路部21もアンテナコイルL2(アンテナコイル22)と同調コンデンサC2により共振周波数f1に共振するものとする。互いのアンテナコイル19,22の共振周波数がf1と同じであるため、両者の結合度は非常に強くなる。ここで、無線ICモジュール17の負荷R1はICチップ18であり、擬似共振回路部21の負荷R2はICチップ18相当の抵抗負荷とする。互いのアンテナコイル19,22の結合度が強くなると、図3(b)に示すように、共振周波数f1を中心に左右に共振点がずれる、いわゆる複同調作用が働く。
【0024】
当該個人認証用通帳類11を開いた状態では、互いのアンテナコイル19,22の結合度が弱いため、無線ICモジュール17は擬似共振回路部21の影響を受けない。このときのアンテナ利得をG1とする。次に、当該個人認証用通帳類11を閉じた状態では、互いのアンテナコイル19,22の結合度は非常に強くなるため、無線ICモジュール17は擬似共振回路部21の影響を受けてしまう。このときのアンテナ利得をG2とする。このG1からG2に利得が下がることから、外部の読取装置からの電力を充分に受けることが困難となるため、通信ができなくなる。したがって、不正に外部からのアクセスも困難となるため、個人情報の改竄や偽造を防止するために非常に有効である。
【0025】
また、不用意に強磁界の環境下に当該個人認証用通帳類11がさらされた場合でも、当該個人認証用通帳類11を閉じてさえいれば無線ICモジュール17に過度の電流が誘起されないため、無線ICモジュール17のICチップ18の破壊を防止することができる。
【0026】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図4は、第2の実施の形態に係る個人認証用通帳類の構成を模式的に示すものである。第2の実施の形態の第1の実施の形態と異なる点は、図4に示すように、擬似共振回路部21のアンテナコイル22の面積を、無線ICモジュール17のアンテナコイル19の面積よりも大きくするとともに、擬似共振回路部21のアンテナコイル22の巻数も無線ICモジュール17のアンテナコイル19の巻数よりも多くし、さらに、無線ICモジュール17のアンテナコイル19を当該個人認証用通帳類11を閉じたときに擬似共振回路部21のアンテナコイル22の内側に入るように形成した点にある。
【0027】
このように、擬似共振回路部21のアンテナコイル22の面積を無線ICモジュール17のアンテナコイル19の面積よりも大きくし、かつ、擬似共振回路部21のアンテナコイル22の巻数を無線ICモジュール17のアンテナコイル19の巻数よりも多くするように構成することにより、当該個人認証用通帳類11を閉じた状態において、外部の読取装置からの電力の大部分は擬似共振回路部21が消費することになる。このため、無線ICモジュール17に発生する逆起電力よりも遥かに大きな逆起電力が擬似共振回路部21に発生する。無線ICモジュール17に発生する逆起電力は擬似共振回路部21と比較すると、非常に小さいものであるため、外部の読取装置との通信が困難となる。したがって、不正に外部からのアクセスが困難となるため、個人情報の改竄や偽造を防止するためにきわめて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る個人認証用通帳類の構成を概略的に示す模式図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る個人認証用通帳類の構成を概略的に示す模式図。
【図3】作用を説明するためのもので、(a)図は無線ICモジュールおよび擬似共振回路部の等価回路、(b)図は複同調作用を説明する図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る個人認証用通帳類の構成を概略的に示す模式図。
【符号の説明】
【0029】
11…個人認証用通帳類、12…表紙(表表紙)、13…表紙(裏表紙)、14…頁(シート)、12a…印刷面、15…顔画像(顔写真)、16…券面情報、17…無線ICモジュール、18…ICチップ、19…アンテナコイル、20…実装基板、21…擬似共振回路部、22…アンテナコイル、23…回路基板、L1,L2…アンテナコイル、C1,C2…同調コンデンサ、R1,R2…負荷。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数頁の冊子状に形成され、かつ、所定の頁に、当該個人認証用通帳類の所有者に関係する個人情報が記憶されるICチップとこのICチップに接続されたアンテナコイルとを有し、外部装置との間で無線による送受信を行なう無線ICモジュールが埋設された個人認証用通帳類において、
当該個人認証用通帳類を見開いた状態で、前記無線ICモジュールが埋設された頁と面対称となる頁に、アンテナコイルとこのアンテナコイルに接続された前記ICチップ相当の負荷とを有して構成され、前記無線ICモジュールと同じ共振周波数に同調されている疑似共振回路部を埋設したことを特徴とする個人認証用通帳類。
【請求項2】
前記無線ICモジュールのアンテナコイルと前記疑似共振回路部のアンテナコイルは、当該個人認証用通帳類を閉じた場合に互いに重なり合うように配設されていることを特徴とする請求項1記載の個人認証用通帳類。
【請求項3】
前記疑似共振回路部のアンテナコイルは前記無線ICモジュールのアンテナコイルと同面積でかつ同巻数であることを特徴とする請求項1記載の個人認証用通帳類。
【請求項4】
前記無線ICモジュールのアンテナコイルと前記疑似共振回路部のアンテナコイルは、当該個人認証用通帳類を閉じた状態において巻き方向が互いに逆向きとなるように巻かれていることを特徴とする請求項1記載の個人認証用通帳類。
【請求項5】
前記疑似共振回路部のアンテナコイルの面積および巻数は、それぞれ前記無線ICモジュールのアンテナコイルの面積および巻数よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の個人認証用通帳類。
【請求項6】
前記無線ICモジュールのアンテナコイルは、当該個人認証用通帳類を閉じた状態において前記疑似共振回路部のアンテナコイルの内側に位置するように配設されていることを特徴とする請求項5記載の個人認証用通帳類。
【請求項7】
前記頁は表表紙およびまたは裏表紙を含むことを特徴とする請求項1記載の個人認証用通帳類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−95885(P2006−95885A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285146(P2004−285146)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】