説明

個数濃度標準気体の生成装置、及び、個数濃度標準気体の製造方法

【課題】本発明は、特定の粒径のみのナノ粒子が既知の個数濃度で存在する気体、いわゆる個数濃度標準気体を生成する個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子Pが既知の個数濃度で含有される液体Wを噴霧手段1により噴霧して、前記標準ナノ粒子Pを一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴Dを発生させた後、発生した液滴Dのうちから特定の粒径の液滴dのみを選別手段2により選別し、該選別された特定の粒径の液滴dの個数を計数手段3により計数した上で該液滴dを乾燥手段4により乾燥させることにより、浮遊状態の前記標準ナノ粒子Pが所定の個数濃度で存在する気体Gを製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の個数濃度計測を正確に行うべく、粒子計測装置のキャリブレーション(検定)を行うのに必要となる個数濃度標準気体の生成装置、及び、個数濃度標準気体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼル車などの排気ガス中に含まれる粒子状物質が健康に害を及ぼすことが大きな社会問題として認識されている。このため、今日に至るまで様々な取り組みがなされており、クリーンなエンジンやディーゼル車に取り付けられるフィルターの開発や種々の法的規制などが行われてきた結果、すすなどと呼ばれる視認可能な程度の比較的粒径の大きい粒子状物質(具体的には、数百nm程度)を除去することにおいて一定の効果を挙げてきた。
【0003】
これらの粒子状物質に関する研究においては、粒子の計測手法として、レーザー光散乱等を利用した光学的な手法のほか、粒子の電気移動度に基づくSMPS(Scanning Mobility Particle Sizer)、DMS(Differential Mobility Spectrometer)若しくはDMA(Differential Mobility Analyzer)等の手法や、粒子の慣性衝突を利用したELPI(Electrical Low Pressure Impactor)等の手法が用いられてきた。これらの各種手法は、上述のような比較的粒径の大きい粒子状物質の計測を正確に行うことができるものとして確立されている。
【0004】
ところで、最近の研究においては、上記のような比較的粒径の大きい粒子状物質も然ることながら、より小さくて視認できない程度(例えば、100nm以下)の粒径の粒子も人体に多大な悪影響を及ぼすことが判明してきている。ここで、図3は、排気ガス中に含まれる粒子状物質に対して特定の粒径の粒子が占める割合を粒径ごとの分布で表わしたものであるが、質量をベースにした場合(いわゆる質量濃度、図3中の破線)には、大きな割合を占めるのは粒径が数百nm程度の比較的大きい粒子である一方、個数をベースにした場合(いわゆる個数濃度、図3中の実線)には、粒径が100nm以下の粒子が占める割合が大きいことが分かる(非特許文献1 第6頁、Figure3参照)。
【0005】
このため、最近では、粒子状物質の計測においては、質量濃度とともに個数濃度が重要な計測事項となって来ている。ここで、上記SMPSや、DMS若しくはDMA、ELPI等の計測手法は、質量濃度だけでなく個数濃度を計測することが可能なものもあるため、従来から個数濃度の計測においてもそのまま用いられている。ただし、上記レーザー光散乱等を利用した光学的な手法は、散乱光強度が粒径の6乗に比例するものであり、粒径が小さくなるにつれて散乱光強度も急激に小さくなるため、検知できる粒径の限界が100nm程度であり、粒径が100nm以下の粒子の計測には特に適さない。
【0006】
しかしながら、上記SMPSや、DMS若しくはDMA、ELPI等の計測手法であっても、粒径が100nm以下の超微小粒子は、その小ささ故に、上述したような現在利用可能な計測手法では正確な計測が困難であるということが問題となっている。また、このことは、粒径が100nm以下の粒子を発生させないクリーンエンジンの開発を促進したり、そのような粒子の排出を規制したりすることの障害となっている。
【0007】
具体的に説明すると、非特許文献2にあるように、欧州の自動車技術標準国際フォーラムにおける粒子計測プログラム(PMP ; Particle Measurement Programme)による種々の粒子計測手法若しくは装置の比較実験において、例えば粒径が約60nmのナノ粒子を計測したところ、図4に示すように、粒子計測手法若しくは装置間で個数濃度が桁違いのばらつきをみせることが判明した。図4の縦軸は個数濃度であり、横軸に沿って各計測装置の結果が並べられている。この詳細については、上記非特許文献2の第126〜127頁、Figure92,93にも開示されている。
【0008】
そして、現状では、いずれの粒子計測手法若しくは装置であれば正確な計測を行うことが可能であるのかさえも判断することが出来ないという状況である。
【0009】
【非特許文献1】David B. Kittelson, Ph.D., Winthrop F. Watts, Jr., Ph.D.他、“REVIEW OF DIESEL PARTICULATE MATTER SAMPLING METHODS Supplemental Report # 2 AEROSOL DYMAMICS, LABORATORY AND ON-ROAD STUDIES”、[online]、1998年7月31日、University of Minnesota、Department of Mechanical Engineering、Center for Diesel Research、Minneapolis, MN、インターネット< URL : http://www.me.umn.edu/centers/cdr/reports/EPAreport2.pdf>
【非特許文献2】Martin Mohr、Urs Lehmann、“Comparison Study of Particle Measurement Systems for Future Type Approval Application”、[online]、2003年5月、EMPA、Research-report No.202779、インターネット<URL : http://www.empa.ch/plugin/template/empa/*/20988/---/l=2、PMP-EMPA-Report 202779.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる状況を解決するためには、粒径の小さい粒子を計測するのにいずれの計測手法若しくは計測装置が適しているのかを評価する必要があり、このためには、第一義的に、特定の粒径のみのナノ粒子が既知の個数濃度で存在する気体(いわゆる、個数濃度標準気体)が必要となる。ここで、特定の粒径のみのナノ粒子が既知の個数濃度で液体中に存在する状態のものを製造する手法は既に確立されており、一般に「標準粒子」と呼ばれるものとして販売され入手可能である。
【0011】
しかしながら、上記のような個数濃度標準気体といったものを製造する手法は未だ開発されておらず、このために、粒子計測装置のキャリブレーション(検定)を行うことが不可能となっている。
【0012】
そこで、本発明は、特定の粒径のみのナノ粒子が既知の個数濃度で存在する気体、いわゆる個数濃度標準気体を生成する個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る個数濃度標準気体の生成装置は、100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子が既知の個数濃度で含有される液体を噴霧して、前記標準ナノ粒子を一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴を発生させる噴霧手段と、発生した液滴のうちから特定の粒径の液滴のみを選別する選別手段と、該選別手段によって選別された液滴を乾燥させる乾燥手段と、該乾燥手段に導入される液滴の個数を計数する計数手段とを備え、浮遊状態の前記標準ナノ粒子が所定の個数濃度で存在する気体を生成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る個数濃度標準気体の製造方法は、100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子が既知の個数濃度で含有される液体を噴霧して、前記標準ナノ粒子を一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴を発生させた後、発生した液滴のうちから特定の粒径の液滴のみを選別し、該選別された特定の粒径の液滴の個数を計数した上で該液滴を乾燥させることにより、浮遊状態の前記標準ナノ粒子が所定の個数濃度で存在する気体を製造することを特徴とする。
【0015】
上記構成からなる個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法によれば、ナノ粒子が液滴の中に存在する状態として、既に確立された粒子の計測手法を用いることができる大きさの粒径とすることにより、信頼に足るレベルでの計測を行うことが困難なナノ粒子の数量を正確に把握することが可能となる。
【0016】
即ち、上記においては、噴霧された液滴のうち比較的大きい特定の粒径(例えば、100nmより大きい粒径)の液滴のみが選別され、かかる液滴の個数が既に確立された計測手法を用いて正確に計測される。従って、かかる選別された液滴を集めれば、該液滴の粒径及び個数から集められた液滴の合計体積に相当する量が分かり、標準ナノ粒子の個数濃度が既知であることから、集められた標準ナノ粒子の個数が分かる。そして、液滴の液体を乾燥させれば、該液滴に含まれていた標準ナノ粒子が気体中に浮遊する状態となる。このとき、標準ナノ粒子を一つのみ含有する液滴からは、一つの標準ナノ粒子が気相中に放出され、標準ナノ粒子を含有しない液滴は、蒸発して消滅する。
【0017】
ところで、液滴中に標準ナノ粒子を複数個含有しないようにしているのは、複数の標準ナノ粒子が当初は独立して液滴中に存在していても、乾燥の際に該複数の標準ナノ粒子が固着してしまい、元の標準ナノ粒子とは粒径の異なる単一の粒子となってしまうからである。なお、前記標準ナノ粒子を一つのみ含有する若しくは含有しない状態の液滴を得るには、標準ナノ粒子が所定の個数濃度で含有される市販の液体などを水等で十分に(例えば、1千倍〜1万倍)希釈すればよいことが経験的に判明している。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、特定の粒径のみのナノ粒子が既知の個数濃度で存在する気体、いわゆる個数濃度標準気体を得ることができる。そして、かかる個数濃度標準気体を用いれば、粒子計測装置のキャリブレーションを行うことができるので、延いては、超微小粒子を発生させないクリーンエンジンの開発や、超微小粒子の排出規制を有効に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態に係る個数濃度標準気体の生成装置は、図1に示すように、100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子Pが既知の個数濃度で含有される液体(以下、標準液体)Wを噴霧して、前記標準ナノ粒子Pを一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴D,D…を発生させる噴霧手段1と、発生した液滴D,D…のうちから特定の粒径の液滴dのみを選別する選別手段2と、該選別手段2によって選別された液滴d,d…を乾燥させる乾燥手段4と、該乾燥手段4に導入される液滴d,d…の個数を計数する計数手段3とを備え、浮遊状態の前記標準ナノ粒子P,P…が所定の個数濃度で存在する気体Gを生成させる個数濃度標準気体の生成装置である。
【0021】
かかる全体構成を有する個数濃度標準気体の生成装置には、低温領域Lと高温領域Hとからなる二つの温度領域に区別され、前記噴霧手段1、選別手段2、計数手段3までが低温領域Lとされるとともに、前記乾燥手段4が高温領域Hとされる。前記低温領域Lは、標準ナノ粒子P,P…の溶媒である液体の蒸発が抑制される飽和状態を作り出すべく低温(例えば、常温)に設定され、前記高温領域Hは、液体の蒸発を促進すべく高温に設定される。
【0022】
本個数濃度標準気体の生成装置を用いるに際しては、まず、特定の粒径のみ(即ち、粒径分布が単分散)の標準ナノ粒子P,P…が既知の個数濃度で含有される標準液体Wを用意する。標準ナノ粒子P,P…の粒径としては、最終的に得られる個数濃度標準気体G中に浮遊状態で存在することとなる標準ナノ粒子P,P…の粒径と同一の値のものを選択すればよい。具体的には、例えば水等の溶媒15ml中に粒径20nmのポリスチレンラテックス粒子が3千個/mlの個数濃度で含有されたコロイド状の液体(以下、原液)を入手し、この原液を千倍〜1万倍の水で希釈することにより、個数濃度が例えば0.3〜3個/ml程度の標準液体Wを用意する。なお、標準ナノ粒子Pとしては、ポリスチレンラテックス粒子以外にも、直径1nmのC60フラーレン分子や、1〜数nmの世代ごとに一定のサイズを有するデンドリマー分子や、5nmのダイアモンド粒子などが考えられる。
【0023】
次に、標準液体Wを噴霧する噴霧手段1について説明する。噴霧手段1は、例えばネブライザーやエレクトロスプレーと呼ばれる装置であり、粒径が約20〜1000nm程度の範囲で分布する多分散の液滴D,D…が噴霧され、エアロゾルが作り出される。また、噴霧手段1は、噴霧される液滴D,D…を後段に配置される選別手段2まで好適に運ぶことができるように、液滴D,D…を包むシースガス(若しくはキャリアガス)S1を供給可能なものが用いられる。シースガスS1としては、例えば窒素等の反応性の低い気体が用いられ、また、シースガスS1は、液滴Dの蒸発を抑制するために低温(例えば、常温)とされる。
【0024】
前記選別手段2は、いわゆるDMA装置であり、前記噴霧手段1によって噴霧された多分散の液滴D,D…の分級を行い、特定の粒径の液滴d,d…のみを選別する。具体的には、選別手段2で選別する液滴Dの粒径は、後述する計数手段3の性能に対応させて、300nmに設定される。
【0025】
選別手段2としてのDMA装置について詳しく説明すると、DMA装置は帯電粒子の電気移動度の粒径依存性を利用した静電分級器であり、図2に示すように二重円筒(内筒21及び外筒22)を備える。内筒21には、分級の対象となる液滴D,D…をキャリアガスCとともに内筒21と外筒22との間の空間に導入する導入孔23が形成され、外筒22には、分級された液滴d,d…を通過させるスリット24が形成される。また、内筒21と外筒22との間の空間にはシースガスS2が層流の状態で流されるとともに、内筒21には電圧が印加される。
【0026】
かかる構成のDMA装置によれば、液滴D,D…がシースガスS2から受ける抵抗力と、帯電した液滴D,D…に作用するクーロン力とのつりあいにより、特定の粒径を有する液滴d,d…のみが前記導入孔23から下流側のスリット24に到達することとなる。そして、該スリット24に到達した(即ち、選別された)液滴d,d…は、外部に排出されるようになっている。また、前記内筒21に印加される電圧及びシースガスS2の流量は、調節可能に構成される。なお、前記液滴D,D…は、放射線等によって、分級が行われる前に帯電させられる。
【0027】
ところで、シースガスS2の流量が液滴を含むキャリアガスCの流量に対して少ないと、分子拡散により、本来スリット24に到達するはずのない粒径の液滴Dが到達し得ることとなる。このため、前記シースガスS2の流量は、キャリアガスCの流量の5倍以上に設定されることが好ましい。
【0028】
図1に戻り、前記選別手段2によって選別されて排出されてくる液滴d,d…は、次に、後段の計数手段3によってその個数が計数される。即ち、計数手段3は、前記選別手段2と乾燥手段4との間に配置される。該計数手段3は、例えば、レーザー光散乱等を利用したパーティクルカウンターと呼ばれる計数装置であり、該計数装置を順次通過する液滴dに対してレーザー光Op1を照射し、該液滴dによって散乱される散乱光Op2をセンサ31によって順次検出することにより、個数計測を行う。また、このパーティクルカウンターは、100nm程度の粒子であれば正確な計数が可能である。
【0029】
前記計数手段3の後段には、乾燥手段4が配置される。該乾燥手段4は、液滴dを乾燥させる加熱炉であり、液滴dに熱を作用させることで液滴dを構成する液体を蒸発させ、液滴dの中に含有されていた標準ナノ粒子Pを放出させる。
【0030】
具体的には、加熱炉は筒状の本体を有し、該本体の基端部中央部から前記液滴d,d…が噴出されるとともに、基端部の周囲からシースガスS3が供給される。前記本体の長手方向中間部には、液滴を加熱するヒーター41が前記本体を包むように設けられ、前記本体の先端部から乾燥の施された気体Gが吐出される。ここで、前記シースガスS3としては、例えば窒素等の反応性の低い気体が用いられ、また、上述のように高温状態を維持すべく、シースガスS3は50℃程度の高温とされる。
【0031】
さらに、前記本体は、前記液滴d及び/又は該液滴dから放出される標準ナノ粒子Pが内壁に付着するのを防止して気体中に浮遊する状態を実現すべく電圧が印加され、前記本体の内壁は反発電極として機能する。具体的には、前記液滴d及び/又は該液滴dから放出される標準ナノ粒子Pは、液滴dが前記選別手段2で選別される際に帯電した状態となっており、前記本体には該帯電した液滴dと同じ極性の電圧が印加されるため、前記液滴d及び/又は該液滴dから放出される標準ナノ粒子Pは前記内壁に対して反発する。
【0032】
ところで、個数濃度標準気体の生成装置は、液滴が浮遊状態のまま搬送され、個数濃度標準気体Gが生成されるため、搬送中に凝集したり物体に付着してしまうおそれがある。このため、上記各構成要素(特に、選別手段2、計数手段3、乾燥手段4)は互いに近接して配置され、構成要素間を搬送される液滴の損失が少なく抑えられるように配慮される。
【0033】
次に、上記構成からなる個数濃度標準気体の生成装置によって、浮遊状態の標準ナノ粒子Pが所定の個数濃度で存在する個数濃度標準気体Gが生成される原理及び方法について説明する。なお、便宜上、原液として、水15ml中に粒径20nmの標準ナノ粒子Pが3×103個/mlの個数濃度で含有された原液を用いる場合を例に説明する。
【0034】
まず、上記原液を水によって希釈し、標準ナノ粒子Pの個数濃度が3個/mlの標準液体Wを作る。次に、この標準液体Wを前記噴霧手段1によって噴霧して、粒径が約20〜1000nm程度の液滴D,D…を発生させる。ここで、前記標準液体Wは、十分に希釈されているため、液滴D,D…の中に前記標準ナノ粒子Pが一つのみ含有される若しくは一つも含有されない状態が確実に実現される。また、前記液滴Dは、体積の大部分若しくは全てが液体によって占められており、気体中に浮遊する液滴の形状は、理想的な球状となっている。このようにして噴霧された液滴D,D…は、次に、選別手段2としてのDMA装置に導入されて分級が行われ、粒径300nmの液滴d,d…のみが選別される。
【0035】
そして、選別された液滴d,d…は、乾燥手段4としての加熱炉に導入される。その際、液滴d,d…は、計数手段3としてのパーティクルカウンターによってその個数が計測され、計測された液滴d,d…の全量が加熱炉に導入される。ここで、液滴dは理想的な球形状となっているため、粒径から液滴一つの体積が正確に算出される。従って、かかる粒径が一定の液滴d,d…を全て加熱炉に導入すれば、該液滴dの粒径及び個数から、導入された液滴dの合計体積に相当する量が分かり、一方で標準液体W中に含有される標準ナノ粒子Pの個数濃度が既知であることから、導入された標準ナノ粒子Pの個数が分かる。そして、液滴dの液体を乾燥させれば、該液滴dに含まれていた標準ナノ粒子Pが気体中に浮遊する状態となる。このとき、標準ナノ粒子Pを一つのみ含有する液滴dからは、一つの標準ナノ粒子Pが気体中に放出され、標準ナノ粒子Pを含有しない液滴dは、蒸発して消滅する。
【0036】
このような原理に基づき、標準液体Wの噴霧、液滴dの選別、計測、乾燥が順次連続的に行われ、個数濃度標準気体の生成装置からは、個数濃度標準気体Gが連続的に吐出されることとなる。具体的には、標準液体Wの噴霧量を調節することにより、個数濃度が1×104個/cm3の標準ナノ粒子Pを含有する個数濃度標準気体Gが生成される。なお、目的とする個数濃度の個数濃度標準気体Gを得るには、原液の希釈率や標準液体Wの噴霧量、乾燥手段4のシースガスS3の供給量等を調整すればよく、目的とする粒径の標準ナノ粒子Pを含む個数濃度標準気体Gを得るには、目的とする粒径の標準ナノ粒子Pを含む原液を用いればよい。
【0037】
ところで、かかる個数濃度標準気体Gが実際に標準ナノ粒子Pを目的とする個数濃度分含有しているかを確認する方法としては、該個数濃度標準気体Gをフィルター等で濾し、該フィルターに捕集された標準ナノ粒子Pを顕微鏡等を用いて計数する等の方法が考えられる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係る個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法によれば、特定の粒径のみの標準ナノ粒子Pが既知の個数濃度で存在する気体、いわゆる個数濃度標準気体Gを得ることができる。そして、かかる個数濃度標準気体Gを用いれば、粒子計測装置のキャリブレーションを行うことができるので、延いては、超微小粒子を発生させないクリーンエンジンの開発や、超微小粒子の排出規制を有効に行うことが可能となる。
【0039】
なお、本実施形態に係る個数濃度標準気体の生成装置は、個数濃度標準気体Gを製造するための専用の装置であってもよく、粒子計測装置に一体的に組み込まれ、その粒子計測装置のキャリブレーションを定期的に行うことができるものであってもよい。
【0040】
なお、本発明に係る個数濃度標準気体の生成装置及び個数濃度標準気体の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、選別手段によって選別される液滴の粒径を300nmとして説明したが、かかる数値に限定されるものではなく、計数手段によって計数可能な粒径であればよい。即ち、正確な計数を行うことができるものとして確立された手法を利用することができる程度の粒径であればよく、選別される液滴の粒径は、例えば100nm程度に設定されるものであってもよい。このように、本発明において任意に設定されるべき数値は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、必要に応じて変更可能である。
【0042】
また、上記実施形態においては、標準ナノ粒子は、粒径分布が理論上単分散である20nmの粒径のみのものとして説明したが、実際にはある程度の幅が許容され、例えば粒径20nmであれば±1nm程度の誤差を有し、粒径50nmであれば±2nm程度の誤差を有するものであってよい。また、選別手段によって選別される液滴の粒径は300nmであるとして説明したが、実際にはある程度の幅が許容されることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る個数濃度標準気体の生成装置を表す概略図を示す。
【図2】同実施形態に係る個数濃度標準気体の生成装置を構成する選別手段を説明する図を示す。
【図3】排気ガス中に含まれる粒子状物質に対して特定の粒径の粒子が占める割合を粒径ごとの分布で表わしたグラフを示す。
【図4】粒子計測装置若しくは粒子計測手法によって個数濃度にばらつきがあることを表す図を示す。
【符号の説明】
【0044】
1…噴霧手段、2…選別手段、3…計数手段、4…乾燥手段、21…内筒、22…外筒、23…導入孔、24…スリット、31…センサ、41…ヒーター、C…キャリアガス、D…液滴、d…液滴、G…個数濃度標準気体、H…高温領域、L…低温領域、Op1…レーザー光、Op2…散乱光、P…標準ナノ粒子、S1…シースガス、S2…シースガス、S3…シースガス、W…標準液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子が既知の個数濃度で含有される液体を噴霧して、前記標準ナノ粒子を一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴を発生させる噴霧手段と、
発生した液滴のうちから特定の粒径の液滴のみを選別する選別手段と、
該選別手段によって選別された液滴を乾燥させる乾燥手段と、
該乾燥手段に導入される液滴の個数を計数する計数手段とを備え、
浮遊状態の前記標準ナノ粒子が所定の個数濃度で存在する気体を生成することを特徴とする個数濃度標準気体の生成装置。
【請求項2】
100nm以下の特定の粒径のみの標準ナノ粒子が既知の個数濃度で含有される液体を噴霧して、前記標準ナノ粒子を一つのみ含有する若しくは含有しない状態で気体中に浮遊する液滴を発生させた後、
発生した液滴のうちから特定の粒径の液滴のみを選別し、
該選別された特定の粒径の液滴の個数を計数した上で該液滴を乾燥させることにより、
浮遊状態の前記標準ナノ粒子が所定の個数濃度で存在する気体を製造することを特徴とする個数濃度標準気体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−20408(P2008−20408A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194417(P2006−194417)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】