説明

倒立形低NOXボイラ

【課題】低NOボイラにおいて、NO排出量を削減すると共に、炉を停止することなく灰を排出することを可能とし、含有窒素分および含有灰分が多い劣質燃料を用いても無停止連続稼働しうる低NOボイラを提供する。
【解決手段】筒型の燃焼室1の上端部に高温還元燃焼ゾーン2、中段部に2段燃焼ゾーン3を形成し、2段燃焼ゾーン3の下部を燃焼室壁が鉛直線に対して35°程度のテーパ状に狭搾して、テーパ底部に灰排出口8を設けるとともに、2段燃焼ゾーン3の下側面にガス導通路12に通じるガス流出口11を備え、ガス導通路12は、蒸気過熱器管13、エコノマイザ14を通った後、後処理工程に接続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化石燃料等を燃焼させてエネルギーを得る火力ボイラに関し、特に脱硝装置を用いずにもNO排出量を低減することができる低NOボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料等の燃焼に伴って排出されるNOは、通常NOとNOの両者を合わせた総称として用いられ、環境保全のためその排出を厳しく削減することが求められている。また、石油燃料枯渇の鈍化や燃料コストの節約の観点から、窒素分や残留炭素分が多い劣質燃料や灰分を多量に発生する劣質燃料、例えばアスファルト、オイルコークス、炭化下水汚泥などをボイラ燃料として用いることがある。このような劣質燃料を用いる場合、低NO燃焼や低煤塵燃焼など燃焼排ガスの環境負荷低減と、燃焼灰によるダストトラブルを抑制するなどボイラの安定連続運転とが求められる。特に、窒素含有率と残留炭素分が高い劣質燃料では、従来以上に厳格なNO排出量低減と煤塵量低減が求められる。
【0003】
ボイラにおけるNO排出量の低減策として、NOの発生量が燃焼領域におけるO分圧や燃焼温度に強く依存することに着目した2段燃焼や燃焼ガス再循環等の技術が供されている。2段燃焼は、バーナゾーンに供給される燃焼用空気を理論燃焼空気比以下の還元状態に保って高温で燃焼させることによりNOの生成量を抑制し、さらに未燃焼分を別途供給する過剰空気によって酸化雰囲気中で比較的低温で完全燃焼させるようにしてNO排出量を低下させるものである。また、燃焼ガス再循環は、燃焼用空気に燃焼ガスの一部を再循環によって混入させ、O分圧を下げた高温空気を導入し、緩慢燃焼によって火炎温度を下げることによりNO排出量を低下させるものである。
【0004】
2段燃焼の技術を用いた従来発明として、本願発明者が先に考案し、特許文献1に記載された低NOボイラの構造がある。この低NOボイラは、図10に示すとおり、内周壁に耐火物を貼設し、側壁にバーナを取り付けた高温還元燃焼ゾーンを燃焼室の底部に形成し、その上方に燃焼ガス流路の絞り部を介して内周壁を水冷壁構造とし側壁に2段燃焼用空気ノズルを取り付けた2段燃焼ゾーンを形成した構成になっている。
高温還元燃焼ゾーンにおいて燃料過濃の状態で平均約1500℃の高温を維持して燃焼を行わせ、絞り部を通って2段燃焼ゾーンに上昇してきた燃焼ガスに2段燃焼用空気ノズルから新たに燃焼用空気を供給して比較的低温の酸化雰囲気で燃焼を完結させるものである。
【0005】
燃焼におけるNOを含むN系生成物の総量は、図3に実験結果を示すように、空気比<1となる還元雰囲気下では高温であるほど少なく、空気比>1となる酸化雰囲気では低温であるほど少ない。特許文献1に記載の発明は、この現象を利用したもので、多量の窒素を含む燃料の低低NO化に顕著な効果を呈する。特許文献1に記載された低NOボイラにおいては、高温還元燃焼ゾーンでは還元雰囲気下で比較的高温で燃料を燃焼させ、2段燃焼ゾーンに流入した部分燃焼ガスに比較的低温の空気を供給して、低温酸化雰囲気で残存燃料を燃焼させて燃焼を完結させることで、各ゾーンでのNO排出量を低減している。
【0006】
このような低NOボイラの構成は、たとえばC重油、アスファルト焚きで実機に適用され効果的に稼働している。しかしながら、たとえばオイルコークス、炭化下水汚泥などの劣質燃料をボイラ燃料として使用した場合、NO低下効果は十分発揮するものの、バナジウムなどのメタル成分等で生成された灰分を多く含むために発生する燃焼灰が炉底に蓄積する問題が新たな懸案になっている。
【0007】
上記従来発明の低NOボイラでは、例えば数ヶ月〜半年の連続運転を行うと、燃料から発生する灰が炉内に蓄積するため、定期的に炉を停止して灰の除去作業を行う必要がある。灰が蓄積する炉底の高温還元燃焼ゾーンは、一酸化炭素や硫化水素などの有毒成分を含む高温部分燃焼ガスが充満しているため、高温で溶融している炉底灰を安定して排出することは難しい。
【0008】
たとえば、炉の底部に灰の排出口を設けることも考えられるが、底部にあたる高温還元燃焼ゾーンは高温の有害ガス雰囲気になるため、万一のガス漏洩の危険性を考慮すると排出口の開設は困難である。また、炉底に灰排出口を設けると、開口部からの漏れ込み空気により高温還元燃焼雰囲気が阻害され、超低NO・低煤塵燃焼性能が低下するおそれがある。
なお、燃焼中は炉底雰囲気が高温になっているため灰が溶融するが、炉の冷却後は灰が固化するため、灰を排出するには、炉の冷却後に削岩機等で粉砕除去する必要があり、炉を停止・起動する必要があることと相まって保守作業に非常なコストがかかっている。
【特許文献1】特許2667607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、低NOボイラにおいて、NO排出量を削減すると共に、炉を停止することなく灰を排出することを可能とし、含有窒素分および含有灰分が多い劣質燃料を用いても無停止連続稼働しうる低NOボイラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の倒立形低NOボイラは、窒素分および灰分を含む液体、気体もしくは微粉体の炭素燃料を燃焼して熱エネルギーを得るボイラであって、縦型で一体型の燃焼室を有し、燃焼室の上端部に耐火材で囲繞されバーナを備えた高温還元燃焼ゾーンを形成し、燃焼室の高温還元燃焼ゾーンより下部に2段燃焼用空気ノズルを備えた2段燃焼ゾーンを形成し、2段燃焼ゾーンより下部に燃焼ガス流出口を形成し、燃焼室の炉底に灰排出装置を配設した構成であって、高温還元燃焼ゾーンに炭素燃料を投入してバーナにより高温還元雰囲気で燃焼させ、下方に位置する2段燃焼ゾーンに流下する燃焼ガスに2段燃焼空気用ノズルから燃焼ガスより低温の2段燃焼用空気を供給して低温酸化雰囲気で燃焼を完結させ、さらに下方に位置する燃焼ガス流出口から燃焼ガスを流出させると共に、炉底に蓄積する燃焼灰を固形で灰排出機構により炉の運転中に排出し得るようにしたものである。
【0011】
高温還元燃焼ゾーンと2段燃焼ゾーンは、燃焼室水平断面積を20〜50%減少させる絞り部で区切ることができる。燃焼室の炉底を鉛直線に対して45°以下、望ましくは35°程度のテーパ状に形成し、テーパの下端に灰排出機構を配設すると、簡素な構造で効率的に灰を炉外に排出する形態とすることができる。
高温還元燃焼ゾーンに設置するバーナは、複数のバーナが対向する2側面に水平に並列しかつ火炎軸が交差しないように配置してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の倒立形低NOボイラは、燃料を高温還元燃焼ゾーンにおいて高温還元雰囲気で燃焼し、残燃料を含む燃焼ガスをさらに2段燃焼ゾーンにおいて低温酸化雰囲気で完全に燃焼させるため、効果的にNO発生を抑制している。特に、燃焼ガスが天側から地側に流下する構造になっているため、浮力が上方に働いてガス流れに逆行するので、燃焼ガス密度が増加する。このため、従来の低NOボイラよりさらに燃焼が促進され、炉上部に配された還元燃焼室における温度がさらに上昇し、温度分布の均一化が達成され、低NO・低煤塵燃焼性能が向上する。
【0013】
本発明によれば、超高温の高温還元燃焼部を上部に配し、低温になった燃焼ガスが下部から流出する構成とすることで、炉底部に燃焼灰が堆積するようになり、また炉底部に灰排出機構を安全に設置することができるようになった。燃焼灰は高温還元燃焼部では溶融して液化するが、燃焼ガスと一緒に2段燃焼ゾーンに流下してくると凝固点以下に冷却されて固化し、炉底部に沈降して固形のまま堆積する。
【0014】
また、灰排出装置の周辺は低温酸化雰囲気になっているため、灰排出機構を設置して炉底部を大気に開放しても燃焼の維持に影響を与えない。したがって、炉の稼働中に安全に灰を排出することができるため、従来の低NOボイラでは成し得なかった長期間連続運転が可能となり、保守コストが削減される。また、灰分を多く含む劣質燃料を使用することができるため、燃料コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。図1は本実施形態の倒立形低NOボイラの概略機能図であり、図2は概略斜視透視図である。
【0016】
本発明の倒立形低NOボイラは、縦型の燃焼室1の上端部に高温還元燃焼ゾーン2、中段部に2段燃焼ゾーン3が形成されており、高温還元燃焼ゾーン2と2段燃焼ゾーン3は絞り部4で区切られている。高温還元燃焼ゾーン2には、側壁にバーナ5が設けられており、側壁と上壁は1650℃以上の炉内温度に対応する程度の耐火材6で覆われている。
【0017】
絞り部4は、燃焼室1の内面全周囲に鍔状の突起が突出し、燃焼室1に対してガス通過断面積が20〜50%程度絞られている。また、絞り部4の高温還元燃焼ゾーン2に面する側は高温還元燃焼ゾーン2と同様に耐火材で覆われている。バーナ5は、燃焼室1の高温還元燃焼ゾーン2における対向する2側面に水平方向に並列して備わり、火炎軸が正対しないよう軸平行かつ間隔を開けて配されている。
【0018】
絞り部4の下方には2段燃焼用空気ノズル7が開口し、2段燃焼ゾーン3となっている。2段燃焼ゾーン3の下部は燃焼室壁が鉛直線に対して35°程度のテーパ状に狭搾しており、テーパ底部に灰排出口8が設けられている。テーパの角度は、堆積する物質と壁との間の臨界接触角により最適値が異なるが、崩れやすい物体を扱うときは45°程度でも使用できる。2段燃焼ゾーン3は、側壁に図中境界として示された冷却管が配された水冷壁構造となっていて、水冷されている。冷却管は燃焼室1の底部で非加熱降水管10に接続され、燃焼室1より高い位置に設けられた汽水胴9により非加熱降水管10を介して高温還元燃焼ゾーン1に十分高圧な冷却水を確実に供給できるように構成されている。
【0019】
2段燃焼ゾーン3の下側面にガス流出口11が設けられ、ガス導通路12に通じている。ガス導通路12は、蒸気過熱器管13、エコノマイザ14を通った後、後処理工程に燃焼ガスを搬送する。蒸気過熱器管13、エコノマイザ14部の底部に灰排出口15が備わっている。
【0020】
本実施形態の倒立形低NOボイラは、液状、ガス状、微粉状の炭素燃料を燃焼させ、燃焼ガスから熱エネルギを回収する火力ボイラである。本実施形態の倒立形低NOボイラは、燃焼室1の上端部に燃料を供給して還元雰囲気で燃焼させ、燃焼を上端部から下方に向かって進行させ酸化雰囲気中で燃焼を完結させ、燃焼ガスを下部から取り出すことに特徴がある。
【0021】
まず、高温還元ゾーン2におけるバーナ5に燃料と空気を導入して燃焼を開始する。高温還元燃焼ゾーン2では、空気の導入を抑制し、空気比を1以下の、たとえば0.6〜0.8程度の還元雰囲気に維持して、燃料に応じて選択される約1500℃程度の高温度で燃料を燃焼させる。高温還元燃焼ゾーン2では、水平に軸をずらせて配されたバーナ5からの火炎により、燃焼ガスが水平方向に渦を巻いて対流する。さらに、高温還元燃焼ゾーン2が高温のため燃焼ガスの密度が低いことと相俟って、燃焼ガスは高温還元燃焼ゾーン2に長時間留まり、耐火材6に保温されて安定的に燃焼が行き渡る。
【0022】
高温還元燃焼ゾーン2での燃焼を経て十分に熱せられた燃焼ガスは、新たに投入される燃料により燃焼ガスが増加するため高温還元燃焼ゾーン2から押し出されて絞り部4を通って2段燃焼ゾーン3に流下する。2段燃焼ゾーン3では、2段燃焼用空気ノズル7から比較的低温の2段燃焼用空気が十分に供給され、燃焼ガスの未燃分が酸化雰囲気で完全に燃焼される。
【0023】
燃焼ガスは、燃焼が完結したのち、燃焼室内を降下してガス流出口11からガス導通路12に流出する。ガス導通路12では、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14においてボイラ給水と熱交換を行い、後処理工程に流出する。
【0024】
燃料中に含まれるメタル分や未燃炭素により発生する燃焼灰は、オイルコークスの場合、融点がほぼ1200〜1400℃程度であるので、1500〜1600℃になる高温還元燃焼ゾーン2で液化し炉壁に付着して壁を伝って流下したり、液滴として燃焼ガス中を落下したり燃焼ガスに流されて降下したりする。高温還元燃焼ゾーン2の壁を伝って流下する燃焼灰の溶融物も、絞り部4の縁から滴下したり2段燃焼ゾーン3の壁を伝って流下したりする。2段燃焼ゾーン3の下部は1100℃程度になっているので、燃焼灰の溶融物は、2段燃焼ゾーン3を通過する間に冷却されて融点以下になって固化する。
【0025】
燃焼ガスと一緒に2段燃焼ゾーン3を流下する燃焼灰の溶融物は、粉体となって燃焼室1の炉底に向かって落下する。また、燃焼室1壁に付着した燃焼灰溶融物も、2段燃焼ゾーン3の低温により固化し壁から剥離して壁面を滑落し、同様に燃焼室1底に落下する。燃焼室1の下部は急勾配のテーパ状になっているため、炉底に向かって落下する固体の燃焼灰は燃焼室1の底部に集まり、燃焼室1底に堆積した燃焼灰は燃焼室用の灰排出口8から炉外に排出される。灰排出口8は、常時開口する形態としても良いし、例えば蓋状の底板を備えて開閉可能とし、必要時に底板を開いて灰を排出、回収するようにしても良い。なお、燃焼灰を炉底の灰排出口8から固形で排出できるよう、ガス流出口11における燃焼ガスの温度を、使用燃料と灰性状に適した温度まで低下させることが好ましい。
また、水封式のチェンコンベアを使って、連続的に排出することも可能である。
【0026】
燃焼ガス中に同伴された残留灰分は、蒸気過熱器管13およびエコノマイザ14のあるガス導通路12で燃焼ガスが低速になるとガスから分離して落下し、ガス導通路12に設けられたガス導通路用の灰排出口15で回収される。
【0027】
本実施形態の倒立形低NOボイラでは、高温還元燃焼ゾーン2において高温還元雰囲気で炭素燃料が初期燃焼され、さらに2段燃焼ゾーン3において低温酸化雰囲気で2段燃焼される。
図3に示すとおり、炭素燃料の燃焼におけるNOの発生量は、燃焼温度と空気比に強く依存している。空気比1未満すなわち還元雰囲気下では高温になるほどNO発生量が少なく、空気比1以上の酸化雰囲気下では低温になるほどNO発生量が少ない。
この特性を利用し、本実施形態のボイラでは、炭素燃料を高温還元燃焼と低温酸化燃焼の2段階に燃焼させることで、効果的にNO発生量を削減している。
【0028】
一般に炉内では、炉内の高温燃焼により燃料に含まれる窒素を急速にシアン化窒素、アンモニア、酸化窒素などの窒素系中間生成物に変換させ、中間生成物の一部が酸化されて酸化窒素となる。
しかし、本実施形態の燃焼室では、高温還元燃焼ゾーン2の高温還元雰囲気下で中間生成物と反応して窒素に還元されることでNOの生成を抑制し、2段燃焼ゾーン3においてガス温度が下がった段階で2段燃焼用の空気を投入して未燃分を完全に燃焼させることで、サーマルNOの生成を抑制するから、NOの発生を効果的に抑制することができる。
【0029】
図4〜9は本実施形態の倒立形低NOボイラと従来の低NOボイラについてシミュレーションにより2段燃焼ボイラの圧力分布および温度分布を求めて得た分布図である。図4,5はそれぞれ従来型ボイラと本実施形態の倒立形低NOボイラの縦断面における圧力分布図、図6,7は高温還元燃焼ゾーンの横断面における温度分布図、図8,9は縦断面における温度分布図である。
【0030】
図4および図5によりボイラ内部の圧力分布状況を比較して明らかなように、図5に示す本実施形態の倒立形低NOボイラでは、高温還元燃焼ゾーン2が上部にあり、より低温の2段燃焼ゾーン3が下方に位置するため、高温還元燃焼ゾーン2中の燃焼ガスの流下が妨げられて、高温還元燃焼ゾーン2の圧力が高くなっている。また、燃焼室1全体のガス圧も高くなっている。特に高温還元燃焼ゾーン2を中心として燃焼室1内のガス密度がより高く、また、燃焼ガスの流れ方向に逆行する方向に浮力が働くため、路壁近傍における燃焼ガスのすり抜けなどが少なくなるので、高温還元燃焼ゾーン2、2段燃焼ゾーン3共に十分に均等な燃焼を行き渡らせることができる。
【0031】
また、図6および図7により高温還元燃焼ゾーン2における断面温度分布を比較すると、高温還元燃焼ゾーン2において、図7に示す本実施形態の倒立形低NOボイラの方がより高温の燃焼ガスが広く行き渡っている。このことから、本実施形態のボイラの方が従来型ボイラと比較して、高温還元燃焼ゾーン2での燃焼がより均等かつ安定していることが明らかである。
【0032】
図8および図9により燃焼室縦断面の温度分布を比較すると、従来型ボイラより、図9に示す本実施形態の倒立形低NOボイラの方が、高温還元燃焼ゾーン2における高温領域が広く、炉底近くのガス流出口11付近における温度が低くなっている。また、炉内の全域に亘って温度均一化傾向が観察される。高温還元燃焼ゾーン2での還元雰囲気での高温燃焼、および、2段燃焼ゾーン3での酸化雰囲気での低温燃焼によるNO発生量削減効果が大きいことが推定される。
さらに、炉内の燃焼ガスの速度ベクトルを求めると、従来型低NOボイラと同様、本実施形態の倒立形低NOボイラにおいても、還元燃焼室絞り部の高さからバーナ方向に燃焼ガスが逆流する動きが観察されるが、絞り部より下流から戻る流れは観察されなかった。
【0033】
なお、本実施形態の倒立形低NOボイラでは、高温還元燃焼ゾーン2の温度が従来型のボイラより高くなる。したがって、冷却性能を向上させるため、汽水胴9を燃焼室1の上端より高い位置に設置して非加熱降水管10を燃焼室1高より長くし、非加熱降水管10内の冷却水圧を大きくして冷却水の循環を促進している。
【0034】
一方、従来の低NOボイラでは、灰が堆積するべき炉底が高温還元燃焼ゾーンに位置していたため、炉底に灰排出口を設けると、灰排出口から流入する空気が高温還元燃焼ゾーンの還元雰囲気を破ることや、高温還元燃焼ゾーンに充満する燃焼ガスは不完全燃焼の状態であるため、危険な一酸化炭素や硫化物を含んでおり、万一の際に人体に対する危険があること、また、高温還元燃焼ゾーンに溜まる溶融状態の炉底灰を安定して排出させることは技術的に難しいため、炉底に灰排出口を設けることができなかった。そのため、数ヶ月から半年に一度、ボイラを停止して灰の回収を行う必要があった。特に灰分を多く含む劣質燃料を用いた場合は、さらに頻繁に炉の清掃を行う必要があり非常に不経済であるため、結局、劣質燃料を用いることができなかった。
【0035】
しかし、本実施形態の倒立形低NOボイラでは、従来の低NOボイラを倒立させ、高温還元燃焼ゾーン2を上部に、より低温の2段燃焼ゾーン3を下方に配したため、灰が降下し堆積する底部に灰排出口8を設けることが可能になった。
【0036】
本実施形態のボイラでは、灰排出口8付近を流通する燃焼ガスは、2段燃焼ゾーン3を経て完全に燃焼しているため、不完全燃焼により生じる一酸化炭素や硫化物等の有害物質が少なく有毒性が低い。また、灰排出口8が燃焼ゾーンに位置していないため、開口部から大気が流入しても冷却による燃焼の阻害や、空気比が崩れることによる脱硝効果の低下の恐れが少ない。
【0037】
ボイラに灰排出口8を設けたことにより、炉を停止させずに灰の回収ができるようになったため、炉の連続運転が可能になり、灰分を多く含む劣質燃料を使用できるようになった。したがって、本実施形態のボイラを用いれば、運転コストを著しく節約することができる。また、灰排出口8で大部分の灰を回収できるため、後処理工程に備える集塵機等にかかる負荷が小さくなる。
【0038】
したがって、例えばC重油、アスファルト、オイルコークス、炭化下水汚泥などの、窒素分、灰分を多く含み従来はボイラ燃料として使用し難かった劣質燃料を用いて運転することができるため、燃料費を節約することができ、非常に経済的である。また、従来は燃料として十分に活用されなかった劣質化石燃料や、非化石燃料である炭化下水汚泥などを積極的に利用できるため、化石燃料の枯渇を鈍化させる意味でも本実施形態の倒立形低NOボイラが非常な効果を持つ。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、炭素燃料を燃焼させて熱エネルギーを回収するボイラにおいて利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の1実施形態における倒立形低NOボイラの概略機能図である。
【図2】本発明の1実施形態における倒立形低NOボイラの概略斜視透視図である。
【図3】燃焼領域における空気比や燃焼温度に対するNOの発生量を示すグラフである。
【図4】従来型の2段燃焼ボイラの圧力分布を表す分布図である。
【図5】本実施形態の倒立形低NOボイラの圧力分布を表す分布図である。
【図6】従来型の2段燃焼ボイラにかかる高温還元燃焼ゾーンの横断面における温度分布を表す分布図である。
【図7】本実施形態の倒立形低NOボイラにかかる高温還元燃焼ゾーンの横断面における温度分布を表す分布図である。
【図8】従来型の2段燃焼ボイラの縦断面における温度分布を表す分布図である。
【図9】本実施形態の倒立形低NOボイラの縦断面における温度分布を表す分布図である。
【図10】従来型のボイラを示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 燃焼室
2 高温還元燃焼ゾーン
3 2段燃焼ゾーン
4 絞り部
5 バーナ
6 耐火材
7 2段燃焼用空気ノズル
8 灰排出口
9 汽水胴
10 非加熱降水管
11 ガス流出口
12 ガス導通路
13 蒸気過熱器管
14 エコノマイザ
15 灰排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部に耐火材で囲繞されバーナを備えた高温還元燃焼ゾーンが形成され、
該高温還元燃焼ゾーンより下部に2段燃焼用空気ノズルを備え水冷壁で囲繞した低温酸化燃焼ゾーンが形成され、
該低温酸化燃焼ゾーンより下部に燃焼ガス流出口が形成され、
底部に灰排出機構が配設され、該灰排出機構には前記低温酸化燃焼ゾーンの冷却を行うため汽水胴と非加熱降水管が接続された、
縦型の燃焼室を備え、
前記バーナが劣質燃料を処理して該燃料を前記高温還元燃焼ゾーンにおいて高温還元雰囲気で燃焼させ、
前記2段燃焼用空気ノズルが該燃焼ガスより低温の2段燃焼用空気を供給して前記低温酸化燃焼ゾーンにおいて前記高温還元燃焼ゾーンから流下する部分燃焼ガスを低温酸化雰囲気で燃焼させ、
前記燃焼ガス流出口から前記燃焼ガスを流出させると共に、
該燃焼室の炉底に堆積する灰を前記灰排出機構で炉の運転中に排出するようにした、
倒立形低NOボイラ。
【請求項2】
前記高温還元燃焼ゾーンと前記低温酸化燃焼ゾーンが、燃焼室水平断面積を20〜50%減少させる絞り部で区切られている、請求項1に記載の倒立形低NOボイラ。
【請求項3】
前記燃焼室の炉底がテーパ状になっており、テーパの下端に前記灰排出機構が配設されている、請求項1または2に記載の倒立形低NOボイラ。
【請求項4】
前記テーパの角度が鉛直線に対して45°以下である、請求項3に記載の倒立形低NOボイラ。
【請求項5】
前記灰排出機構が、炉底面に蓋部を有し該蓋部を開閉して該蓋部上面に堆積した灰を排出する、請求項1から4のいずれか1項に記載の倒立形低NOボイラ。
【請求項6】
前記高温還元燃焼ゾーンに複数の前記バーナが対向する2側面に水平に並列しかつ火炎軸が交差しないように配されて燃焼ガスが渦流を形成する、請求項1から5のいずれか1項に記載の倒立形低NOボイラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−139176(P2010−139176A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316721(P2008−316721)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】