説明

偏光ビームスプリッター及びその製造方法、並びにそれを用いた液晶プロジェクター

【課題】液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムを用いた偏光ビームスプリッター及びその製造方法、並びにそれを用いた液晶プロジェクターを提供する。
【解決手段】偏光ビームスプリッター101は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜(PBS膜)30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60とから構成されている。位相差フィルム60は、ガラス基板61と、ガラス基板61に形成された第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの入射光束をP偏光とS偏光とに分離する偏光ビームスプリッター(PBS)、及びその製造方法に関し、さらにそれを用いた液晶プロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクターは、光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系とを備え、光源からの光を光学系に導いて映像光として投射レンズから投射するようになされる(後述図14参照)。
【0003】
従来、液晶プロジェクター等の機器に用いられる偏光ビームスプリッターWは、図17に示すように、断面が平行四辺形の複数本の第1のプリズム部材1と第2のプリズム部材2とを交互に接合して、平板状のスプリッター本体を構成する。第1のプリズム部材1と第2のプリズム部材2の接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されて、偏光分離膜(PBS膜)3とコールドミラー4が形成されている。
【0004】
スプリッター本体において、第1のプリズム部材1の光入射面に遮光板5が配置され、かつ第1のプリズム部材1の光入射面と対向する面(光出射面)にポリカーボネート(PC)等の樹脂製の位相差フィルム6が配置されている。
【0005】
図17中に矢印で示すように、第2のプリズム部材2に入射した光は、偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜3にてP偏光を透過し、S偏光を反射することによりS偏光とP偏光に分離される。透過光は位相差フィルム6を透過して前方へ出射され、一方反射光はさらに鏡面処理により形成されたコールドミラー4にて反射されて前方へ出射される。
【0006】
液晶プロジェクターにおいて、光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系と電子部品とから発熱が生じる。特に、偏光ビームスプリッターWにおいて、光の透過によって平板状のスプリッター本体には熱が発生するため、ケーシングの内部に冷却ファンを設置して、ケーシング内部の空気を流動させることによって、光学系等を冷却することが行われている。
【0007】
しかし、偏光ビームスプリッターWの位相差フィルム6は、一般に樹脂フィルム、例えば、ポリカーボネート(PC)等から形成されており、耐熱性が低い(120℃〜135℃)ため、冷却ファンを高速で回転させて、大きな冷却風量で偏光ビームスプリッターWを冷却する必要があり、これによって、冷却ファンから発生する騒音が大きくなる問題点があった。
【0008】
これを解決するために、平板状のスプリッター本体に熱伝導板を設置し、高温部の熱を低温部へ導いて、平板状のスプリッター本体の温度分布を均一化させることができる偏光ビームスプリッターが提案された(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−21131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示された偏光ビームスプリッターは、高温部の熱を低温部へ導いて、平板状のスプリッター本体の温度分布を均一化させることができるが、高温により位相差フィルムが変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することで、投射する画質の劣化等の問題点を解決することができなかった。
【0011】
また、近年、高輝度、高画質、大画面の液晶プロジェクターが要求され、そのため、偏光ビームスプリッター等の光学部品からの発熱の増加を招き、位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することで、投射する画質の劣化等の問題点がより深刻になった。
【0012】
そこで、本発明は、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムを用いることによって、位相差フィルムの耐熱性を向上させ、高温による位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することがなく投射する画質の劣化等を防止することができる偏光ビームスプリッター及びその製造方法、並びにそれを用いた液晶プロジェクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る偏光ビームスプリッターは、光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする。
【0014】
例えば、前記位相差フィルムは、第1の液晶性高分子材料層と、第2の液晶性高分子材料層とを備え、前記第1の液晶性高分子材料層および第2の液晶性高分子材料層が形成される面が配向処理された。
【0015】
また例えば、前記位相差フィルムは、第1の配向膜と、前記第1の配向膜に積層される第1の液晶性高分子材料層と、前記第1の液晶性高分子材料層に積層される第2の配向膜と、前記第2の配向膜に積層される第2の液晶性高分子材料層と備える。また、前記第1の液晶性高分子材料層および前記第2の液晶性高分子材料層のリタデーションは180nm〜300nmとされる。
【0016】
また、本発明に係る偏光ビームスプリッターは、光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜の前記第1のプリズム部材側、または前記鏡面処理により形成されたコールドミラーの前記第2のプリズム部材側に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする。
【0017】
例えば、前記位相差フィルムは、第1の液晶性高分子材料層と、第2の液晶性高分子材料層とを備え、前記第1の液晶性高分子材料層および第2の液晶性高分子材料層が形成される面が配向処理された。
【0018】
また例えば、前記位相差フィルムは、第1の配向膜と、前記第1の配向膜に積層される第1の液晶性高分子材料層と、前記第1の液晶性高分子材料層に積層される第2の配向膜と、前記第2の配向膜に積層される第2の液晶性高分子材料層と備える。また、前記第1の液晶性高分子材料層と前記第2の液晶性高分子材料層のリタデーションは、一方が150nm〜250nmであり、他方が250nm〜350nmであることを特徴とする。
【0019】
また例えば、前記位相差フィルムを覆うように設置され、前記位相差フィルムと空気との接触を遮断する酸素遮断層をさらに備える。
【0020】
上記課題を解決するため、本発明に係る偏光ビームスプリッターの製造方法は、光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記スプリッター本体に配置された液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備えた偏光ビームスプリッターの製造方法であって、前記位相差フィルムを形成する位相差フィルム形成段階と、得られた前記位相差フィルムを前記偏光ビームスプリッター本体に配置する位相差フィルム配置段階とを有し、前記位相差フィルム形成段階は、前記液晶性を有する高分子材料が塗布される面に対して配向処理を施す配向処理工程と、配向処理された表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し液晶性高分子材料層を形成する液晶性高分子材料層形成工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
例えば、上記の偏光ビームスプリッターの製造方法において、前記位相差フィルム形成段階は、前記液晶性を有する高分子材料が塗布される基板の表面に対して配向処理を施す第1の配向処理工程と、配向処理された基板の表面に第1の液晶性高分子材料層を形成する第1の液晶性高分子材料層形成工程と、形成された第1の液晶性高分子材料層の表面に対して配向処理を施す第2の配向処理工程と、配向処理された第1の液晶性高分子材料層の表面に第2の液晶性高分子材料層を形成する第2の液晶性高分子材料層形成工程を備えることを特徴とする。
【0022】
また例えば、上記の偏光ビームスプリッターの製造方法において、前記位相差フィルム形成段階は、前記液晶性を有する高分子材料が塗布される基板に第1の配向膜を形成する第1の配向膜形成工程と、形成された第1の配向膜に対して配向処理を施す第1の配向処理工程と、配向処理された第1の配向膜の表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し第1の液晶性高分子材料層を形成する第1の液晶性高分子材料層形成工程と、前記第1の液晶性高分子材料層に第2の配向膜を形成する第2の配向膜形成工程と、形成された第2の配向膜に対して配向処理を施す第2の配向処理工程と、配向処理された第2の配向膜の表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し第2の液晶性高分子材料層を形成する第2の液晶高分子材料層形成工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
また例えば、上記の偏光ビームスプリッターの製造方法において、前記位相差フィルム形成段階は、前記位相差フィルムと空気との接触を遮断する酸素遮断層を形成する酸素遮断層形成工程をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決するため、本発明に係る液晶プロジェクターは、光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系とを備え、前記光源からの光を前記光学系に導いて映像光として前記投射レンズから投射する液晶プロジェクターであって、前記偏光ビームスプリッターは、光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする。
【0025】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る液晶プロジェクターは、光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系とを備え、前記光源からの光を前記光学系に導いて映像光として前記投射レンズから投射する液晶プロジェクターであって、前記偏光ビームスプリッターは、光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜の前記第1のプリズム部材側、または前記鏡面処理により形成されたコールドミラーの前記第2のプリズム部材側に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る偏光ビームスプリッターによれば、液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムを用いることによって、位相差フィルムの耐熱性を向上させ、高温による位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することがなく、投射する画質の劣化等を防止することができる。
【0027】
また、液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムを用いることで、位相差フィルムを、入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜の第1のプリズム部材側、または鏡面処理により形成されたコールドミラーの第2のプリズム部材側に配置することができ、耐熱性を向上させると共に、より薄い偏光ビームスプリッターを得ることができる。
【0028】
本発明に係る偏光ビームスプリッターの製造方法によれば、液晶性を有する高分子材料を用いて液晶高分子材料層を形成し、液晶高分子材料層を備えた位相差フィルムを簡単に製作することができ、この位相差フィルムをスプリッター本体に配置することで、従来より高い耐熱性を持つ偏光ビームスプリッターが得られる。
【0029】
本発明に係る液晶プロジェクターによれば、液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムを備えた偏光ビームスプリッターを用いることによって、位相差フィルムの耐熱性を向上させ、高温による位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することがなく、投射する画質の劣化等を防止することができる。そのため、液晶プロジェクターの光源(ランプ)輝度を上げることが可能となり、より明るい、より大画面の液晶プロジェクターを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施の形態としての偏光ビームスプリッター101の構成を示す図である。
【図2】本発明の位相差フィルム60の構成を示す図である。
【図3】第1の液晶性高分子材料層と第2の液晶性高分子材料層の配向角度に関する角度の定義を示す図である。
【図4】偏光ビームスプリッター101の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】従来の偏光ビームスプリッターに用いられる位相差フィルムの耐熱試験結果を示す図である。
【図6】本発明の位相差フィルム60の耐熱試験結果を示す図である。
【図7】第2の実施の形態としての偏光ビームスプリッター102の構成を示す図である。
【図8】偏光ビームスプリッター102の形成方法を示す図である。
【図9】第2の実施の形態の他の構成例を示す図である。
【図10】第3の実施の形態としての偏光ビームスプリッター103の構成を示す図である。
【図11】偏光ビームスプリッター103の製造方法を示すフローチャートである。
【図12】第3の実施の形態の他の構成例を示す図である。
【図13】第4の実施の形態としての偏光ビームスプリッター104の構成を示す図である。
【図14】第4の実施の形態の他の構成例を示す図である。
【図15】本発明の偏光ビームスプリッター101を用いた液晶プロジェクター100の光学系の構成を示す図である。
【図16】配向膜なしの位相差フィルムの構成例を示す図である。
【図17】従来の偏光ビームスプリッターWの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の偏光ビームスプリッター及びその製造方法、並びにそれを用いた液晶プロジェクターについて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、第1の実施の形態としての偏光ビームスプリッター101の構成を示す図である。この図1において、偏光ビームスプリッター101の断面図を示している。図1中の拡大部は、位相差フィルム60の断面の一部を示している。図2は、本発明の位相差フィルム60の構成を示す図である。
【0033】
図1に示すように、偏光ビームスプリッター101は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜(PBS膜)30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60とから構成されている。
【0034】
なお、偏光ビームスプリッター101の構成は、遮光板50を用いることに限定されるものではない。他の遮光手段を用いても良い。
【0035】
第1のプリズム部材10、第2のプリズム部材20は、断面が平行四辺形に形成されている。液晶プロジェクター用の偏光ビームスプリッターの場合は、熱の影響を避けるため光弾性定数の低いガラスを用いたものである。
【0036】
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材10と光源からの光が導入される第2のプリズム部材20とを交互に接合して、かつ接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体Nが構成される。
【0037】
偏光分離膜30は、第1のプリズム部材10と第2のプリズム部材20との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理を施して形成されたものである。この偏光分離膜30は、入射した光をP偏光を透過し、S偏光を反射することによりS偏光とP偏光を分離する。
【0038】
コールドミラー40は、第1のプリズム部材10と第2のプリズム部材20との接合面に鏡面処理を施して形成されたものである。このコールドミラー40は、偏光分離膜にて分離されたS偏光を反射し前方へ出射させる。
【0039】
遮光板50は、第1のプリズム部材10の光入射面に配置され、入射光を遮断するものである。
【0040】
位相差フィルム60は、第1のプリズム部材10の光入射面と対向する面(即ち、光出射面)に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる。この位相差フィルム60は、ポジティブAプレートとして機能する。本明細書において、ポジティブAプレートとは、面内の主屈折率をnx(遅相軸方向)、ny(進相軸方向)とし、厚み方向の屈折率をnzとしたとき、屈折率異方性(屈折率分布)がnx>ny=nzを満足する正の一軸性光学素子をいう。即ち、位相差フィルム60において、液晶はディスコティック液晶ではなく、配向状態としてはハイブリッド配向でもなく、屈折率異方性がnx>ny=nzとなる液晶(通常のネマティック)のホモジニアス配向ということになる。
【0041】
液晶性を有する高分子材料は、液晶性ポリマー(liquid crystalline polymer)略称LCPともいう。一般に溶融状態で液晶性(分子が規則正しく並んだ結晶と、無秩序に並んだ液体の中間に当たる状態)を示す高分子材料であり、成形時の流動性が良く、固まるにつれて分子が剛直につながるため、強度に優れた精密成形品の素材に適しており、またプラスチックとしては耐熱性がかなり高い。
【0042】
この実施例において、位相差フィルム60は、2層の液晶性を有する高分子材料を有するものである。例えば、図2に示すように、位相差フィルム60は、ガラス基板61と、ガラス基板61に形成された第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。なお、ここで、ガラス基板を用いたが、樹脂製フィルム等を用いてもよい。
【0043】
ここで、第1の配向膜62と第2の配向膜64は、液晶性を有する高分子材料を配向させる膜であり、この例では、プレチルト1°程度のポリアミック酸タイプの配向膜材料を用いた。また、第1の配向膜62と第2の配向膜64の厚さ(膜厚)は、300Å〜1000Åの範囲であることが好ましい。この例では、第1の配向膜62と第2の配向膜64の厚さを700Åとした。
【0044】
第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65は、液晶性を有する高分子材料から形成されたものであり、この例では、UV硬化型液晶性を有する高分子材料を用いた。その耐熱性は、200℃である。
【0045】
また、位相差フィルム60で所望の位相差値になるために、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の厚さ(膜厚)を調整する必要がある。例えば、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65のリタデーション(位相差値)が180nm〜300nmとされる。即ち、設計としては240±60nmとする(入射光波長λ=550nmの場合)。
【0046】
また、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の配向角度(ラビング処理の場合は、ラビング角度)については、表1に示している。表1に示すように、配向方向は、A〜Dの4つの様式がある。第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の配向角度は、図3に示すように定義される。図3は偏光ビームスプリッター101の光出射面から見た図である。
【0047】
【表1】

【0048】
以下、図4を参照しながら、本発明の偏光ビームスプリッター101の製造方法を説明する。図4は、偏光ビームスプリッター101の製造方法を示すフローチャートである。
【0049】
偏光ビームスプリッター101の製造過程は、断面が平行四辺形の第1のプリズム部材10と第2のプリズム部材20とを交互に接合してスプリッター本体組立段階と、位相差フィルム60を形成する位相差フィルム形成段階と、得られた位相差フィルム60を偏光ビームスプリッター本体Nに配置する位相差フィルム配置段階とを有する。
【0050】
スプリッター本体組立段階では、第1のプリズム部材10と第2のプリズム部材20との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施される。
【0051】
また、位相差フィルム形成段階では、図4に示すように、まず、ステップS1〜S2で、ガラス基板処理を行う。ステップS1では、ガラス基板を洗浄する。ここで、アルカリ性洗剤を用いて、ガラス基板を浸漬し、さらに超音波洗浄を行い、そして、純水にガラス基板を浸漬し、超音波洗浄を行う。また、ステップS2では、洗浄後のガラス基板を乾燥処理する。
【0052】
次に、ステップS3〜S4で、ガラス基板に配向膜を形成する配向膜形成処理を行う。ステップS3では、洗浄、乾燥処理後のガラス基板の片面にポリアミック酸タイプの配向膜材料を塗布し、この配向膜の厚さを700Åとする。ステップS4では、塗布した配向膜を熱処理し硬化させる。ここで、例えば、まず80℃で5分間を加熱し仮硬化させ、そして200℃で1時間を加熱し、ポリアミック酸のポリイミド化を行うことにより配向膜を硬化させる。
【0053】
次に、ステップS5〜S7で、形成された配向膜に対して配向処理を施す。ステップS5では、配向処理としてラビング処理を行う。ここで、ラビング処理において所定の配向方向を形成する。ラビング角度を表1に示す。これにより、位相差フィルム60で所望の配向角度を得ることができる。なお、配向処理方法としてラビング処理に限らず、光照射、イオンビーム照射などの方法を用いてもよい。ステップS6では、ラビング処理後の配向膜表面を洗浄し、ラビング処理時に発生し付着した異物を除去する。ここで、例えば、純水に3分間浸漬する。ステップS7では、80℃で1時間の熱処理を行い、洗浄後の水分を乾燥させる。
【0054】
次に、ステップS8〜S10で、配向処理された配向膜の表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し液晶性高分子材料層を形成する液晶性高分子材料層形成処理を行う。ステップS8では、重合性液晶混合物塗布を行い、即ちスピンコート方法を用いて、UV硬化型液晶性を有する高分子材料を塗布する。ここで、位相差フィルム60で所望の位相差値になるために、第1の液晶性高分子材料層の厚さ(膜厚)を調整する。例えば、第1の液晶性高分子材料層のリタデーション(位相差値)を180nm〜300nmとする(入射光波長λ=550nmの場合)。なお、液晶性を有する高分子材料の塗布方法はスピンコート方法に限らず、バーコーテイング法、ブレードコーテイング法、印刷法などを用いてもよい。
【0055】
また、ステップS9では、熱処理(仮乾燥)を行い、例えば、60℃で10分を加熱し、塗布後の液晶性を有する高分子材料を配向安定化させ、溶剤を除去する。ステップS10では、塗布後の液晶性高分子材料層に対して、UV照射を行う。ここで、液晶性を有する高分子材料をUV照射により光重合させて硬化させる。UV照射はN雰囲気で行うことが望ましい。
【0056】
UV照射を行った後、図4中の破線矢印に示すように、ステップS3に戻り、上記工程により形成された第1層の液晶性高分子材料層に第2の配向膜を形成する第2の配向膜形成処理を行う。第2の配向膜形成処理は、上述したステップS3〜S4と同様に行う。次に、形成された第2の配向膜に対して第2の配向処理を。第2の配向処理は、上述したステップS5〜S7と同様に行う。ただし、ラビング処理において第1の配向膜の配向角度と異なる配向方向を形成する。ラビング角度は表1に示す。そして、配向処理された第2の配向膜の表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し第2の液晶性高分子材料層を形成する第2の液晶性高分子材料層形成処理を行う。第2の液晶性高分子材料層形成処理は、上述したステップS8〜S10と同様に行う。また、位相差フィルム60で所望の配向角度になるために、第2の液晶性高分子材料層の厚さ(膜厚)を調整する。例えば、第2の液晶性高分子材料層のリタデーション(位相差値)は180nm〜300nmとする(入射光波長λ=550nmの場合)。
【0057】
次に、ステップS11で、形成された位相差フィルム60を焼成処理する。ここで、例えば、180℃で1時間の熱処理を行い、液晶性高分子材料層をさらに硬化させると共に、密着性を向上させる。
【0058】
最後に、形成された位相差フィルム60を所定の形状にカットして、第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に(即ち、偏光ビームスプリッター本体Nの偏光分離膜30の上方に位置するよう)貼り付けて配置する。
【0059】
図5は、従来の偏光ビームスプリッターに用いられる位相差フィルムの耐熱試験結果を示す図である。また、図6は、本発明の位相差フィルムの耐熱試験結果を示す図である。ここで、評価サンプルとして、1.位相差フィルムをガラス板に貼り付けたものと、従来の偏光ビームスプリッターに用いられる位相差フィルムとして、2層のポリカーボネートフィルムをガラス板に貼り付けたものとを用いた。
【0060】
また、熱処理条件は、加熱装置としてオーブンを用い、1)熱処理なし、2)150℃、240時間、3)180℃、240時間、4)200℃、140時間である。
【0061】
測定は、上記熱処理条件で処理した評価サンプルの各波長の透過率(%)を測定した。測定結果を図5、図6に示す。図5は、従来の位相差フィルムとしての2層のポリカーボネートフィルムの場合(比較例)の測定結果である。図6は、本発明の位相差フィルムの場合(実施例)の測定結果である。図5に示すように、従来の位相差フィルムは、熱処理なし→150℃×240h→180℃×240h→200℃×140hと熱処理条件が強くなるに従い、透過率の低下、特に短波長側の透過率の低下が著しい。これに対して、図6の実施例では短波長側のわずかな低下で収まっている。このことから、本発明の位相差フィルムの耐熱性が大きく向上したことは明らかである。
【0062】
このように本実施の形態においては、偏光ビームスプリッター101は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60とから構成されている。位相差フィルム60は、ガラス基板61と、ガラス基板61に形成された第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成されて、ポジティブAプレートとして機能する。
【0063】
これにより、位相差フィルムの耐熱性を向上させ、高温による位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することがなく、投射する画質の劣化等を防止することができる。
【0064】
次に、本発明の偏光ビームスプリッターの他の構成例を説明する。
第1の実施の形態では基板(ガラス、フィルム)上に形成した位相差フィルム60を基板ごと所定のサイズにカットし貼り付けたが、その場合カットした端面(側面)が酸素に触れる。熱がかかると端面付近で劣化が発生する問題がある。これを解決するために、下記の第2の実施の形態を提案する。
【実施例2】
【0065】
図7は、第2の実施の形態としての偏光ビームスプリッター102の構成を示す図である。この図7において、偏光ビームスプリッター102の断面図を示している。
【0066】
図7に示すように、偏光ビームスプリッター102は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Aと、酸素遮断層70とから構成されている。この例の場合、位相差フィルム60Aの上部には、接着剤80を介して酸素遮断層70が配置される。
【0067】
位相差フィルム60Aは、2層の液晶性を有する高分子材料を有するものである。例えば、ガラス基板61に形成された第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。この位相差フィルム60Aは、ポジティブAプレートとして機能する。
【0068】
なお、ここで、酸素遮断層70は、ガラス基板、または樹脂製フィルム等を用いた。また、接着剤80は透明性接着剤である。
【0069】
図8は、偏光ビームスプリッター102の形成方法を示している。偏光ビームスプリッター102を形成する際に、まず、図8(a)に示すように、酸素遮断層70としてのガラス基板61(または樹脂製フィルム)に所定寸法の位相差フィルム60Aを形成する。位相差フィルム60Aの形成方法は、上述した位相差フィルム60の形成方法と同様である。次に、図8(b)に示すように、位相差フィルム60Aが形成されたガラス基板を偏光ビームスプリッター本体Nに接着剤80により貼り付ける。接着剤80により貼り付ける際に、位相差フィルム60Aの上面とガラス基板61との間にも接着剤80を塗布する。
【0070】
図9は、第2の実施の形態の他の構成例を示す図である。図9に示すように、偏光ビームスプリッター102Aは、上述した第1の実施の形態の偏光ビームスプリッター101において、位相差フィルム60が配置された側に酸素遮断層70Aが塗布されたものである。
【0071】
なお、偏光ビームスプリッター102Aにおいて、位相差フィルム60は位相差フィルムが形成された後、ガラス基板61を剥がしたものを用いてもよい。
【0072】
このように本実施の形態においては、偏光ビームスプリッター102,102Aは、酸素遮断層70,70Aが設けられたため、位相差フィルム60,60Aが酸素と接する部分が全くなく、熱に対する焼け、焦げなどの不具合の発生を抑えることが可能となる。また、接着剤80を充填したことにより酸素遮断層(ガラス、フィルムなど)70,70Aと偏光ビームスプリッター本体Nとの密着性が向上し、剥がれ防止となり作業性が向上する。
【実施例3】
【0073】
図10は、第3の実施の形態としての偏光ビームスプリッター103の構成を示す断面図である。図10中のX部拡大図は、位相差フィルム60Bの断面の一部を示している。
【0074】
図10に示すように、偏光ビームスプリッター103は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Bとから構成されている。本実施例の場合、位相差フィルム60Bは、偏光分離膜30の第1のプリズム部材側(偏光分離膜30の上方の面)に配置される。この位相差フィルム60Bは、ポジティブAプレートとして機能する。
【0075】
位相差フィルム60Bは、上記第1の実施の形態の位相差フィルム60と同様の形成方法で形成され、またはガラス基板を用いずに直接に偏光分離膜30の上方の面に形成される。
【0076】
位相差フィルム60Bが上記第1の実施の形態の位相差フィルム60と同様の形成方法で形成される場合、位相差フィルム60Bは、例えば、第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。ガラス基板を用いて製作する場合、偏光ビームスプリッター本体Nに配置する際に、ガラス基板を剥がして、位相差フィルム60Bを偏光分離膜30の第1のプリズム部材側(偏光分離膜30の上方の面)に貼り付けて配置するようになされる。
【0077】
位相差フィルム60Bが直接、偏光分離膜の第1のプリズム部材側に形成される場合、図11に示すように、第1のプリズム部材に偏光分離膜を形成する処理を行った後、ステップS21〜S22で、第1または第2のプリズム部材用ガラスを洗浄するガラス基板処理を行う。次に、ステップS23〜S24で、第1または第2のプリズム部材用ガラスに配向膜を形成する配向膜形成処理を行う。次に、ステップS25〜S27で、形成された配向膜に対して配向処理を行う。次に、ステップS28〜S30で、配向処理された配向膜の表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し液晶性高分子材料層を形成する液晶性高分子材料層形成処理を行う。次に、ステップS31で、形成された位相差フィルムを焼成処理する。ステップS21〜S31での具体な製作方法は、上述した第1の実施の形態と同様であり、ここで、詳細な説明を省略する(2層目の場合も同様)。
【0078】
位相差フィルム60Bを形成した後、第1のプリズム部材用ガラスと第2のプリズム部材用ガラスとを組み立てる。そして、所定の形状に切断し偏光ビームスプリッター103が得られる。
【0079】
ここで、位相差フィルム60Bで所望の位相差値になるために、例えば、入射光波長λ=550nmの場合、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65のリタデーション(位相差値)に関しては、一方が150nm〜250nmであり(即ち、設計としては200±50nmとする)、他方が250nm〜350nmである(即ち、設計としては300±50nmとする)。
【0080】
また、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の配向方向(ラビング処理の場合は、ラビング角度)および位相差値については、表2に示している。表2に示すように、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の位相差、遅相軸角度条件は、A〜Dの4つの様式がある。また、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の配向角度は、図3に示すように定義される。
【0081】
【表2】

【0082】
図12は、第3の実施の形態の他の構成例を示す図である。図12に示すように、偏光ビームスプリッター103Aは、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Bと、酸素遮断層70とから構成されている。
【0083】
この例の場合、位相差フィルム60Bは、偏光分離膜30の第1のプリズム部材側(偏光分離膜30の上方の面)に配置される。また、酸素遮断層70は、偏光ビームスプリッター本体Nの上面(光出射面)および下面(光入射面)に形成される。これにより、位相差フィルム60Bの端面が空気に露出することがなく、熱に対する焼け、焦げなどの不具合の発生を抑えることが可能となる。
【0084】
このように本実施の形態においては、偏光ビームスプリッター103は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Bとから構成されている。位相差フィルム60Bは、第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成されて、ポジティブAプレートとして機能する。
【0085】
これにより、位相差フィルム60Bが偏光ビームスプリッター本体Nの内部に配置されるため、上述した第1の実施の形態での効果を得られると共に、以下の利点もある。
【0086】
1.耐久性の向上
重合性液晶混合物は有機材料である。有機材料の場合、湿度による膜の膨潤により膜厚変化(位相差の変化)などによる特性の悪化を起こす。また空気に接している場合、熱により焦げたり燃えたりする可能性があるが、ガラスに挟みこむことによりこれらの問題を回避することが可能である。
【0087】
2.製造上の利点
位相差フィルム60Bが直接に偏光分離膜の第1のプリズム部材側に形成される場合、第1の実施の形態の位相差フィルム60と比較して、偏光ビームスプリッター本体Nの作成工程の中に位相差フィルム形成プロセスが追加されることによって、位相差フィルム60Bのカット、貼り付け工程が必要なくなる。
【0088】
3.外形上の利点
偏光ビームスプリッター本体N内に形成することにより、薄型化が可能である。また、本体内部にあるため取り扱い中の外圧による傷や剥がれをなくすことができる。
【0089】
また、偏光ビームスプリッター103Aのように、酸素遮断層70を設けることにより、位相差フィルム60Bの端面が空気に露出することがなく、熱に対する焼け、焦げなどの不具合の発生を抑えることができる。
【実施例4】
【0090】
図13は、第4の実施の形態としての偏光ビームスプリッター104の構成を示す図である。図13中のY部拡大図は、位相差フィルム60Cの断面の一部を示している。
【0091】
図13に示すように、偏光ビームスプリッター104は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材駆動部20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Cとから構成されている。この例の場合、位相差フィルム60Cは、コールドミラー40の第2のプリズム部材側(コールドミラー40の上方の面)に配置される。この位相差フィルム60Cは、ポジティブAプレートとして機能する。
【0092】
位相差フィルム60Cは、上記第1の実施の形態の位相差フィルム60と同様の形成方法で形成され、またはガラス基板を用いずに直接にコールドミラー40の上方の面に形成される。
【0093】
位相差フィルム60Cが上記第1の実施の形態の位相差フィルム60と同様の形成方法で形成される場合、位相差フィルム60Cは、例えば、第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。ガラス基板を用いて製作する場合、偏光ビームスプリッター本体Nに配置する際に、ガラス基板を剥がして、位相差フィルム60Cをコールドミラー40の第1のプリズム部材側(コールドミラー40の上方の面)に貼り付けて配置するようになされる。
【0094】
位相差フィルム60Cが直接にコールドミラー40の上方の面に形成する場合、上述した第3の実施の形態の直接形成方法と類似しているので(図11参照)、ここで、詳細な説明を省略する。
【0095】
また、第1の液晶性高分子材料層63と第2の液晶性高分子材料層65の配向方向(ラビング処理の場合は、ラビング角度)および位相差については、所定の位相差、遅相軸角度条件を設計することが可能である。
【0096】
図14は、第4の実施の形態の他の構成例を示す図である。図14に示すように、偏光ビームスプリッター104Aは、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Cと、酸素遮断層70とから構成されている。
【0097】
このように本実施の形態においては、偏光ビームスプリッター104は、第1のプリズム部材10と、第2のプリズム部材20と、偏光分離膜30と、コールドミラー40と、遮光板50と、位相差フィルム60Cとから構成されている。位相差フィルム60Cは、第1の配向膜62と、第1の配向膜62に積層される第1の液晶性高分子材料層63と、第1の液晶性高分子材料層63に積層される第2の配向膜64と、第2の配向膜64に積層される第2の液晶性高分子材料層65とから構成され、位相差フィルム60Cは、コールドミラーの第2のプリズム部材側に配置されて、ポジティブAプレートとして機能する。これにより、上述した第3の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0098】
以下、本発明に係る偏光ビームスプリッターを用いた液晶プロジェクターを説明する。図15は、本発明の偏光ビームスプリッター101を用いた液晶プロジェクター100の光学系の構成を示す図である。
【0099】
図15に示すように、液晶プロジェクター100は、光源ランプ111と、この光源ランプ1から出射された光束の進行方向に平行にするインテグテーター(レンズアレイ)112、113、入射光束を偏光成分の異なる2光束に分離する偏光ビームスプリッター(PBS)101、重畳レンズ114、R反射ダイクロイックミラー115、反射ミラー116、R用フィールドレンズ117、R用液晶パネル118、クロスダイクロイックプリズム119、G反射ダイクロイックミラー120、G用フィールドレンズ121、G用液晶パネル122、リレー光学系(リレーレンズ123,125,127、反射ミラー124,126)、B用液晶パネル128、投射レンズ129を備える。
【0100】
上記の液晶プロジェクター100は、偏光ビームスプリッター(PBS)101以外に従来と同様な構成を有するため、液晶プロジェクター100の動作について、ここで詳細な説明を省略する。
【0101】
このように本実施の形態においては、液晶プロジェクター100は、偏光ビームスプリッター101を用いることで、位相差フィルムの耐熱性を向上させ、高温による位相差フィルムの変色(黄変)、焦げ付き、位相差値のずれ等が発生することがなく、投射する画質の劣化等を防止することができる。そのため、液晶プロジェクターの光源(ランプ)輝度を上げることが可能となり、より明るい、より大画面の液晶プロジェクターを提供することが可能となる。
【0102】
なお、上述の実施の形態において、偏光ビームスプリッター101,102,102A,103,103A,104,104Aの位相差フィルム60,60A,60B,60Cの構成は、2層の液晶性高分子材料層を有するものについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、位相差フィルム60,60A,60B,60Cは、1層または3層以上の液晶性高分子材料層を有するものにしてもよい。
【0103】
また、上述した第1の実施の形態において、位相差フィルム60は、形成時に用いたガラス基板61を有するものについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、位相差フィルムが形成された後、ガラス基板61を剥がしてもよい。
【0104】
また、上述実施の形態において、位相差フィルム60,60A,60B,60Cは、配向処理を施すために、配向膜を形成し配向処理を行う例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、図16に示すように、配向膜なしの構成にしてもよい。
【0105】
図16は、配向膜なしの位相差フィルムの構成例を示す図である。図16に示すように、位相差フィルム60Dは、ガラス基板61と、第1の液晶性高分子材料層63と、第2の液晶性高分子材料層65とから構成される。
【0106】
この場合は、ガラス基板61の上面に対して配向処理を行い、配向処理された表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し、第1の液晶性高分子材料層63を形成する。そして、第1の液晶性高分子材料層63の表面に対して配向処理を行い、配向処理された表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し、第2の液晶性高分子材料層65を形成する。これにより、位相差フィルム60Dが得られる。この位相差フィルム60Dの第2の液晶性高分子材料層65側を所定の形状にカットして、第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に(即ち、偏光ビームスプリッター本体Nの偏光分離膜30の上方に位置するよう)貼り付けて配置する。
【0107】
なお、ガラス基板61を用いずに、第1のプリズム部材10または第2のプリズム部材20に対して配向処理を行い、配向処理された表面に液晶性を有する高分子材料を塗布し、第1の液晶性高分子材料層63を形成するようにしてもよい。
【0108】
また、上述実施の形態においては、液晶プロジェクター100に偏光ビームスプリッター101を用いた例について説明したが、これに限定されるものではない。液晶プロジェクター100に偏光ビームスプリッター102,102A,103,103A,104,104Aを用いてもよい。なお、位相差フィルム60Dを有する偏光ビームスプリッターを用いてもよい。
【0109】
また、上述実施の形態においては、偏光ビームスプリッター101,102,102A,103,103A,104,104Aの応用例としての液晶プロジェクターについて説明したが、これに限定されるものではない。他の光学機器に利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
この発明は、液晶プロジェクター等の光学機器に用いられた偏光ビームスプリッター(PBS)の耐熱性、及び光学性能を向上させることを目的に利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1,10 第1のプリズム部材
2,20 第2のプリズム部材
3,30 偏光分離膜(PBS膜)
4,40 コールドミラー
5,50 遮光板
6,60,60A,60B,60C,60D 位相差フィルム
61 ガラス基板
62 第1の配向膜
63 第1の液晶性高分子材料層
64 第2の配向膜
65 第2の液晶性高分子材料層
70,70A 酸素遮断層
80 接着剤
90 酸素遮断層
100 液晶プロジェクター
101,102,102A,103,103A,104,104A 偏光ビームスプリッター
N 偏光ビームスプリッター本体
W 従来の偏光ビームスプリッター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、
前記第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする偏光ビームスプリッター。
【請求項2】
前記位相差フィルムは、第1の液晶性高分子材料層と、第2の液晶性高分子材料層とを備え、前記第1の液晶性高分子材料層および第2の液晶性高分子材料層が形成される面が配向処理されたことを特徴とする請求項1記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項3】
前記位相差フィルムは、第1の配向膜と、前記第1の配向膜に積層される第1の液晶性高分子材料層と、前記第1の液晶性高分子材料層に積層される第2の配向膜と、前記第2の配向膜に積層される第2の液晶性高分子材料層とを備えることを特徴とする請求項2記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項4】
前記第1の液晶性高分子材料層および前記第2の液晶性高分子材料層のリタデーションは180nm〜300nmとされることを特徴とする請求項3記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項5】
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、
前記偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜の前記第1のプリズム部材側、または前記鏡面処理により形成されたコールドミラーの前記第2のプリズム部材側に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする偏光ビームスプリッター。
【請求項6】
前記位相差フィルムは、第1の液晶性高分子材料層と、第2の液晶性高分子材料層とを備え、前記第1の液晶性高分子材料層および第2の液晶性高分子材料層が形成される面が配向処理されたことを特徴とする請求項5記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項7】
前記位相差フィルムは、第1の配向膜と、前記第1の配向膜に積層される第1の液晶性高分子材料層と、前記第1の液晶性高分子材料層に積層される第2の配向膜と、前記第2の配向膜に積層される第2の液晶性高分子材料層とを備えることを特徴とする請求項6記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項8】
前記第1の液晶性高分子材料層と前記第2の液晶性高分子材料層のリタデーションは、一方が150nm〜250nmであり、他方が250nm〜350nmであることを特徴とする請求項7記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項9】
前記位相差フィルムを覆うように設置され、前記位相差フィルムと空気との接触を遮断する酸素遮断層をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の偏光ビームスプリッター。
【請求項10】
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、前記スプリッター本体に配置された液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備えた偏光ビームスプリッターの製造方法であって、
前記位相差フィルムを形成する位相差フィルム形成段階と、得られた前記位相差フィルムを前記偏光ビームスプリッター本体に配置する位相差フィルム配置段階とを有し、
前記位相差フィルム形成段階は、
前記液晶性を有する高分子材料が塗布される面に対して配向処理を施す配向処理工程と、
配向処理された表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し液晶性高分子材料層を形成する液晶性高分子材料層形成工程とを備えることを特徴とする偏光ビームスプリッターの製造方法。
【請求項11】
前記位相差フィルム形成段階は、
前記液晶性を有する高分子材料が塗布される基板の表面に対して配向処理を施す第1の配向処理工程と、
配向処理された基板の表面に第1の液晶性高分子材料層を形成する第1の液晶性高分子材料層形成工程と、
形成された第1の液晶性高分子材料層の表面に対して配向処理を施す第2の配向処理工程と、
配向処理された第1の液晶性高分子材料層の表面に第2の液晶性高分子材料層を形成する第2の液晶性高分子材料層形成工程とを備えることを特徴とする請求項10記載の偏光ビームスプリッターの製造方法。
【請求項12】
前記位相差フィルム形成段階は、
前記液晶性を有する高分子材料が塗布される基板に第1の配向膜を形成する第1の配向膜形成工程と、
形成された第1の配向膜に対して配向処理を施す第1の配向処理工程と、
配向処理された第1の配向膜の表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し第1の液晶性高分子材料層を形成する第1の液晶性高分子材料層形成工程と、
前記第1の液晶性高分子材料層に第2の配向膜を形成する第2の配向膜形成工程と、
形成された第2の配向膜に対して配向処理を施す第2の配向処理工程と、
配向処理された第2の配向膜の表面に前記液晶性を有する高分子材料を塗布し第2の液晶性高分子材料層を形成する第2の液晶高分子材料層形成工程とを備えることを特徴とする請求項10記載の偏光ビームスプリッターの製造方法。
【請求項13】
前記位相差フィルム形成段階は、前記位相差フィルムと空気との接触を遮断する酸素遮断層を形成する酸素遮断層形成工程をさらに備えることを特徴とする請求項10乃至12のいずれかに記載の偏光ビームスプリッターの製造方法。
【請求項14】
光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系とを備え、前記光源からの光を前記光学系に導いて映像光として前記投射レンズから投射する液晶プロジェクターであって、
前記偏光ビームスプリッターは、
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、
前記第1のプリズム部材の光入射面と対向する面に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする液晶プロジェクター。
【請求項15】
光源と、偏光ビームスプリッター、液晶パネルおよび投射レンズを含む複数の光学部品から構成される光学系とを備え、前記光源からの光を前記光学系に導いて映像光として前記投射レンズから投射する液晶プロジェクターであって、
前記偏光ビームスプリッターは、
光源からの光が導入されない第1のプリズム部材と光源からの光が導入される第2のプリズム部材とを交互に接合して構成され、かつ前記第1のプリズム部材と前記第2のプリズム部材との接合面に入射光をS偏光とP偏光に分離する偏光分離機能処理と鏡面処理とが交互に施されたスプリッター本体と、
前記偏光分離機能処理により形成された偏光分離膜の前記第1のプリズム部材側、または前記鏡面処理により形成されたコールドミラーの前記第2のプリズム部材側に配置され、少なくとも一層の液晶性を有する高分子材料からなる位相差フィルムとを備え、前記位相差フィルムはポジティブAプレートとして機能することを特徴とする液晶プロジェクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−217245(P2009−217245A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6156(P2009−6156)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(503376596)株式会社びにっと (13)
【Fターム(参考)】