説明

偏光子およびその製造方法

【課題】耐湿性および偏光度に優れた偏光子を提供すること。
【解決手段】本発明の偏光子の製造方法は、(メタ)アクリロニトリル系フィルムを延伸する工程と、30℃以上のヨウ素液で該(メタ)アクリロニトリル系フィルムを染色する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、(メタ)アクリロニトリル系樹脂で形成された偏光子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光子が配置されている。偏光子としては、代表的には、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムが用いられている。また、PVA系フィルムは耐湿性に劣ることから、アクリロニトリル系フィルムを用いた偏光子も提案されている(特許文献1参照)。しかし、アクリロニトリル系フィルムを用いた偏光子は、光学特性(例えば、偏光度)に劣るという問題がある。
【特許文献1】特開昭61−43703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、耐湿性および光学特性(特に、偏光度)に優れた偏光子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の偏光子は、(メタ)アクリロニトリル系樹脂で形成され、ヨウ素を含有する。
【0005】
本発明の別の局面によれば、偏光子の製造方法が提供される。この偏光子の製造方法は、(メタ)アクリロニトリル系フィルムを延伸する工程と、30℃以上のヨウ素液で該(メタ)アクリロニトリル系フィルムを染色する工程とを有する。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記延伸工程の後に上記染色工程を行う。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記ヨウ素液が、水に0.1〜10重量%のヨウ素と1〜30重量%のヨウ化カリウムとを配合して調製される。
【0008】
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に配置された保護フィルムとを備える。
【0009】
本発明の別の局面によれば、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は、上記偏光板を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、偏光子の形成材として(メタ)アクリロニトリル系樹脂を用い、かつ、ヨウ素を含有させることにより、優れた耐湿性と優れた光学特性(特に、偏光度)とを兼ね備えた偏光子が得られ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0012】
A.偏光子
本発明の偏光子は、(メタ)アクリロニトリル系樹脂で形成される。(メタ)アクリロニトリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、(メタ)アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体、および、これらの誘導体が挙げられる。(メタ)アクリロニトリルと共重合し得る他のモノマーとしては、任意の適切なモノマーを採用し得る。例えば、酢酸ビニル;スチレン;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル;ビニルカプロラクタム;ビニルピロリドン;ブタジエン;エチレン等が挙げられる。(メタ)アクリロニトリルの重合度としては、任意の適切な値に設定し得る。具体的には100〜20000、好ましくは500〜15000、さらに好ましくは1000〜10000である。
【0013】
本発明の偏光子は、ヨウ素を含有する。ヨウ素は、ヨウ素錯体、フリーのヨウ素イオンやポリヨウ素イオンとして偏光子中に存在し得る。ヨウ素の含有量は、任意の適切な値に設定し得る。ヨウ素の含有量は、後述するヨウ素液の組成、濃度、温度や浸漬時間等を適宜調整することにより、調整され得る。なお、ヨウ素の含有量は、例えば、蛍光X線分析法により求めることができる。
【0014】
上記偏光子の厚みは、任意の適切な値に設定し得る。代表的には10〜70μm、好ましくは15〜60μm、さらに好ましくは20〜55μmである。
【0015】
上記偏光子の製造方法は、(メタ)アクリロニトリル系フィルムを延伸する工程(延伸工程)と、ヨウ素液で該(メタ)アクリロニトリル系フィルムを染色する工程(染色工程)とを有する。(メタ)アクリロニトリル系フィルムは、上記(メタ)アクリロニトリル系樹脂で形成される。(メタ)アクリロニトリル系フィルムの成形方法としては、任意の適切な成形方法を採用し得る。例えば、押出成形法、キャスト法等が挙げられる。
【0016】
上記延伸工程では、(メタ)アクリロニトリル系フィルムを一軸延伸する。当該延伸は、乾式延伸、湿式延伸のいずれで行ってもよい。好ましくは、乾式延伸である。延伸方法は、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、ロール延伸方法(ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法)、テンター延伸方法等が挙げられる。また、上記延伸工程は、多段的に行い得る。
【0017】
上記延伸工程における延伸温度は、任意の適切な値に設定し得る。延伸温度は、好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃、特に好ましくは90〜135℃である。延伸倍率は、任意の適切な値に設定し得る。延伸倍率は、好ましくは3〜8倍、さらに好ましくは4〜7倍、特に好ましくは4.5〜6倍である。延伸前の(メタ)アクリロニトリル系フィルムの厚みは、代表的には30〜170μmであり、好ましくは40〜160μm、さらに好ましくは50〜150μmである。
【0018】
上記染色工程では、(メタ)アクリロニトリル系フィルムをヨウ素液で染色する。ヨウ素液を用いることにより、染色性にきわめて優れ得、光学特性(例えば、偏光度)に優れた偏光子が得られ得る。染色方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。代表的には、(メタ)アクリロニトリル系フィルムをヨウ素液に浸漬する方法が挙げられる。ヨウ素液は、好ましくは、ヨウ素およびヨウ化カリウムを水に溶解させて調製する。ヨウ素液の調製におけるヨウ素の配合量は、任意の適切な値に設定し得る。好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.2〜8重量%、特に好ましくは0.5〜6重量%である。ヨウ素液の調製におけるヨウ化カリウムの配合量は、任意の適切な値に設定し得る。好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは3〜25重量%、特に好ましくは5〜20重量%である。浸漬時のヨウ素液の温度は、好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35〜80℃、特に好ましくは40〜70℃である。30℃以上とすることにより、短時間で染色し得る。具体的には、浸漬時間は30〜500秒程度である。
【0019】
図1は、本発明の1つの好ましい実施形態における偏光子の製造方法を示す概略図である。(メタ)アクリロニトリル系フィルム10を、繰り出し部100から繰り出し、速比の異なるロール111および112でフィルム長手方向に張力を付与し延伸する。次に、(メタ)アクリロニトリル系フィルム10をヨウ素液浴120中に浸漬して染色する。その後、水浴130中に浸漬して水洗し、巻き取り部140にて巻き取られる。水洗後は、フィルムに付着した水を布等で除去する。本実施形態では、延伸工程の後に染色工程を行っているが、染色工程の後に延伸工程を行ってもよいし、染色工程を行いながら延伸工程を行ってもよい。好ましくは、図示例のように、延伸工程の後に染色工程を行う。このような順序を採用することで、より偏光度に優れた偏光子が得られ得る。
【0020】
B.偏光板
本発明の偏光板は、上記偏光子と、上記偏光子の少なくとも片側に配置された保護フィルムとを備える。保護フィルムとしては、偏光子の保護層として使用できる、任意の適切なフィルムを採用し得る。保護フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。
【0021】
上記保護フィルムの厚みとしては、任意の適切な値に設定し得る。保護フィルムの厚みは、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは1mm以下、特に好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜150μmである。保護フィルムと上記偏光子とは、任意の適切な接着剤層または粘着剤層を介して積層される。
【0022】
C.画像表示装置
本発明の画像表示装置は、上記偏光板を備える。画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置、液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は、液晶セルと、当該液晶セルの少なくとも片側に配置された上記偏光板とを備える。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各実施例および比較例で得られた偏光子の偏光度は、以下の方法で測定した。
(偏光度の測定方法)
偏光度は、偏光子の平行透過率(H)および直交透過率(H90)を分光光度計(日本分光(株)製、製品名:V−7100)を用いて23℃で測定し、式:偏光度(%)={(H−H90)/(H+H90)}1/2×100より求めた。ここで、平行透過率(H)は、同じ偏光子2枚を互いの吸収軸が平行となるように重ね合わせた積層体の透過率である。直交透過率(H90)は、同じ偏光子2枚を互いの吸収軸が直交するように重ね合わせた積層体の透過率である。
【0024】
[実施例1]
ポリアクリロニトリル系樹脂(三井化学株式会社製、商品名:バレックス)を小型熱プレス機で溶融させ、押出成形によりフィルム(厚みは120μm)を形成した。
次に、得られたフィルムを、幅80mm×長さ120mmの短冊状に切断して、二軸延伸装置にて一軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。ここで、延伸温度は93℃、引張速度は3mm/秒、延伸倍率は5倍であった。
次に、ヨウ素3重量%、ヨウ化カリウム20重量%のヨウ素液(水溶液)を調製した。40℃に加温したヨウ素液に延伸フィルムを30秒間浸漬した後、水洗し、延伸フィルムに付着した水を拭き取って偏光子(厚みは53μm)を得た。
得られた偏光子の偏光度(波長400〜700nmにおける最大値)は、99.8%であった。
【0025】
[実施例2]
押出成形により得られたフィルムをヨウ素液に浸漬および水洗した後に、延伸を行ったこと以外は実施例1と同様にして偏光子を作製した。
得られた偏光子の偏光度(波長400〜700nmにおける最大値)は、99.4%であった。
【0026】
(比較例1)
二色性色素ジアミングリーン0.5gを水1lに溶解させ、媒染剤として硝酸銀1.0gを添加した後、酢酸によりpHを3.8に調節して、二色性色素ジアミングリーン溶液を調製した。
得られた二色性色素ジアミングリーン溶液に、実施例1と同じポリアクリロニトリル系樹脂を添加し、沸騰状態を1時間持続させて、該樹脂を染色した。
染色した樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)からキャスト成膜して、二色性色素ジアミングリーンで染色されたポリアクリロニトリル系フィルムを得た。
得られたポリアクリロニトリル系フィルムを実施例1と同様に延伸し、偏光子を作製した。
得られた偏光子の偏光度(波長400〜700nmにおける最大値)は、96%であった。
【0027】
(比較例2)
ポリビニルアルコールフィルム((株)クラレ製、ケン化度99.5%、重合度2400)を、以下の条件の浴イ〜ホに順に浸漬させて、偏光子を作製した。
イ)30℃の水浴で膨潤させた。
ロ)30℃のヨウ素水溶液で染色した。
ハ)30℃のホウ酸水溶液で架橋した。
ニ)60℃の水浴で初期原反長さの6倍に延伸した。
ホ)30℃のヨウ化カリウム水溶液で色調調整した。
得られた偏光子の偏光度(波長400〜700nmにおける最大値)は、99.9%であった。
【0028】
上述のとおり、実施例1,2および比較例2の偏光子は、偏光度に優れていた。一方、比較例1の偏光子は、実施例1,2および比較例2に比べて偏光度が著しく劣っていた。これらの結果から、(メタ)アクリロニトリル系樹脂およびヨウ素液を用いることで、きわめて短時間かつ簡便に偏光度に優れた偏光子を得ることができるといえる。
【0029】
実施例1,2および比較例2で得られた偏光子を40℃、90%RHの雰囲気下に10時間晒した後に偏光度を測定して、耐湿性を評価した。耐湿試験前後における偏光度を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1,2の偏光子は耐湿試験後においても優れた偏光度を保持していた。一方、比較例2の偏光子は耐湿試験後、著しく偏光度が低下した。したがって、実施例1,2の偏光子は耐湿性にきわめて優れているといえる。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の偏光子および偏光板は、液晶表示装置や自発光型表示装置などの画像表示装置に好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の1つの好ましい実施形態における偏光子の製造方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0033】
10 (メタ)アクリロニトリル系フィルム
100 繰り出し部
111,112 ロール
120 ヨウ素液浴
130 水浴
140 巻き取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロニトリル系樹脂で形成され、ヨウ素を含有する、偏光子。
【請求項2】
(メタ)アクリロニトリル系フィルムを延伸する工程と、
30℃以上のヨウ素液で該(メタ)アクリロニトリル系フィルムを染色する工程とを有する、偏光子の製造方法。
【請求項3】
前記延伸工程の後に前記染色工程を行う、請求項2に記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
前記ヨウ素液が、水に0.1〜10重量%のヨウ素と1〜30重量%のヨウ化カリウムとを配合して調製される、請求項2または3に記載の偏光子の製造方法。
【請求項5】
請求項2から4のいずれかに記載の製造方法により得られた、偏光子。
【請求項6】
請求項1または5に記載の偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に配置された保護フィルムとを備える、偏光板。
【請求項7】
請求項6に記載の偏光板を備える、画像表示装置。

【図1】
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