説明

偏光子外面保護フィルム、偏光板及び液晶表示素子

【課題】高い透明性を有し、ポリビニルアルコールからなる偏光子に対する易接着処理が施された、液晶表示素子の外面側に配設される新規な偏光子外面保護フィルムの提供を目的とする。
【解決手段】液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、透明な合成樹脂製の基材層と、この基材層の内面側に積層されるプライマー層と、このプライマー層の内面側に積層されるセルロースエステル層とを備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルムである。プライマー層は水系ラテックスから形成されるものであってよく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体等から得られた重合体を含んでいてよい。基材層を構成する合成樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂などであってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子外面保護フィルム、及び偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板、並びに偏光板を備えた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)が、薄型、軽量であり、消費電力が小さいことからCRTの代わりに広範に使用されている。液晶表示素子の使用分野は、従来の電卓や時計などの小型品から、自動車用計器、PCモニタ、テレビといった大型品に至るまで拡大されつつある。
【0003】
図5に示されるように、液晶表示装置に配置される一般的な液晶表示素子21は、液晶層27が両面の透明媒体層26(例えばガラス)で挟持された液晶セル25と、偏光能を有する偏光子24の両面に偏光板用保護フィルム23が貼り合わせられた偏光板22とを備え、液晶セル25が、接着剤層28を介して偏光板22によって上下から挟持された構造を有している。このように、偏光子24は、強度の向上と取扱いの容易化の観点から偏光子保護フィルム23によって保護されている。
【0004】
偏光子の素材として、一般的に、親水性樹脂であるポリビニルアルコール(PVA)が用いられており、PVAフィルムを一軸延伸してから、ヨウ素又は二色性染料で染色するか、あるいは染色してから延伸し、次いでホウ素化合物で架橋することによって偏光子が形成される。また、偏光子保護フィルムとしては、光学的に透明であり複屈折性が小さいこと、表面が平滑であること、PVAからなる偏光子との接着性が優れていることなどの特性が要求されることから、一般的にトリアセチルセルロース(TAC)が用いられている。トリアセチルセルロースは、アルカリによってケン化処理(エステル基が親水性基である水酸基に変換)された後、親水性樹脂であるポリビニルアルコールで構成された偏光子に接着される。上記のようなトリアセチルセルロースの諸々の要求特性を向上させる技術として、例えば、トリアセチルセルロース層への所定の樹脂層の形成(特開平9−113728号公報、特開平9−281333号公報)が提案されている。ところが、トリアセチルセルロースは高価であるため、同等の性質を有する安価な代替材料の開発が求められている。
【0005】
液晶表示素子の内面側(液晶セルから近い側)に配置される偏光子保護フィルムとしては、特に、小さい複屈折性を有すること(無配向性であること)が強く要求されるため、現状トリアセチルセルロースの適当な代替材料は見当たらない。一方、液晶表示素子の外面側(液晶セルから離れた側、すなわち図5における最上層及び最下層の23の位置)に配置される偏光子保護フィルムの要求特性としては、複屈折性の有無よりも、透明性がさらに重要な位置付けとなるため、トリアセチルセルロース以外の代替材料の開発が期待されている。
【0006】
トリアセチルセルロースに代替しうる高い透明性を有する汎用の樹脂材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等が考えられる。しかしながら、これらの樹脂は、親水性基を有していないことから、偏光子を構成する親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの接着性が劣るという不都合があるため、そのままでトリアセチルセルロースの代替材料として用いることができない。従って、高い透明性を有することに加えて、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着が容易化された、液晶表示素子の外面側に配置されるための新規な偏光子外面保護フィルムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−113728号公報
【特許文献2】特開平9−281333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、高い透明性を有し、ポリビニルアルコールからなる偏光子に対する易接着処理が施された、液晶表示素子の外面側に配設される新規な偏光子外面保護フィルム、及びこのような偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板、並びに液晶表示素子の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、
透明な合成樹脂製の基材層と、
この基材層の内面側に積層されるプライマー層と、
このプライマー層の内面側に積層されるセルロースエステル層と
を備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルムである。
【0010】
当該偏光子外面保護フィルムによれば、基材層の構成材料として透明な合成樹脂を用いることによって、液晶表示素子の外面側に位置する偏光子を保護するフィルムとして要求される高い透明性が得られる。また、当該偏光子外面保護フィルムは、基材層の内面側に積層されたプライマー層と共に、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、プライマー層の内面側にセルロースエステル層を積層することによって、親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子との接着性が飛躍的に改善される。すなわち、このような易接着処理により形成されたセルロースエステル層をアルカリでケン化することによって親水性基である水酸基が生じ、これによって親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの接着性が効果的に向上する。なお、本明細書における「内面」とは一対の偏光板間に液晶セルを挟持してなる液晶表示素子において、中心の液晶セル側を意味し、「外面」とはその反対側を意味する。
【0011】
偏光子外面保護フィルムのプライマー層は、水系ラテックスから形成されることが好ましい。このような水系ラテックスから形成されたプライマー層は、透明な合成樹脂製の基材層、セルロースエステル層の両方との化学的親和性を有するものであるため、これらの層間が安定して接合され、セルロースエステル層の剥離が効果的に防止され、ひいては基材層の偏光子に対する易接着処理を確実に行うことができる。
【0012】
当該偏光子外面保護フィルムのプライマー層が水系ラテックスから形成される場合において、この水系ラテックスとして、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸エステル類、フマル酸エステル類、ビニルケトン類、ヘテロ環含有ビニルモノマー類及び不飽和ニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種の不飽和単量体から得られた重合体を含むものを用いることができる。これらの重合体を含む水系ラテックスから形成されたプライマー層を用いることにより、プライマー層を介して基材層とセルロースエステル層との接合がより強固となり、セルロースエステル層の剥離が確実に防止される。
【0013】
当該偏光子外面保護フィルムにおいて基材層を構成する合成樹脂は、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。これらの合成樹脂を用いることによって、高い透明性を有すると共に、偏光子を保護するために適当な強度を有する偏光子外面保護フィルムが得られる。
【0014】
セルロースエステル層を構成するセルロースエステルは、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。これらのセルロースエステルは、それぞれアルカリでケン化することによって親水性基である水酸基を生じ、それによって、親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子と強固に接着可能となる。
【0015】
当該偏光子外面保護フィルムにおいて、プライマー層及びセルロースエステル層の合計厚みは0.02μm以上4μm以下であってよい。プライマー層及びセルロースエステル層の合計厚みを0.02μm以上とすることによって、ポリビニルアルコールからなる偏光子の接着性の容易化が促進される。一方、プライマー層及びセルロースエステル層の合計厚みを4μm以下以下とすることによって、十分に薄い偏光子外面保護フィルムを得ることができ、偏光板の厚みの増大を抑制することができる。
【0016】
当該偏光子外面保護フィルムは、基材層の外面側に積層される反射防止層(例えば、アンチグレア層、反射防止層、低屈折率層と称されるものが含まれる)又はハードコート層を備えていてもよい。更に反射防止層を備えた偏光子外面保護フィルムが、液晶表示素子の表示面側に配設される場合には、偏光子の保護と共に反射防止機能を発揮することができる。また、偏光子外面保護フィルムが更にハードコート層を備えることによって、偏光子の保護機能を強化することが可能となる。
【0017】
ポリビニルアルコールからなる偏光子の外面側に当該偏光子外面保護フィルムを積層して、この偏光子の内面側に偏光子内面保護フィルムを積層することによって、偏光板を構成することができる。このような偏光板においては、偏光子の外面側に、ポリビニルアルコールに対する易接着処理が施された基材層を備えた偏光子外面保護フィルムを用いることによって、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、接着の耐久性が高められ、しいては偏光板の強度、取扱い性が向上する。また、偏光子の内面側に、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルムを用いた場合には、小さい複屈折性を有することから、液晶分子の性能に影響を及ぼすことなく保護機能を発揮することができる。
【0018】
液晶セルの少なくとも一方の面側に当該偏光板を積層することによって、液晶表示素子を構成することができる。このような液晶表示素子においては、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、接着耐久性が高く、偏光板の強度、取扱い性が優れているため、液晶表示素子が有する諸特性が長期間に渡って安定的に発揮され、信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の偏光子外面保護フィルムは、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、内面側がプライマー層を介してセルロースエステルにより表面処理されている透明な合成樹脂製の基材層を備えているため、高い透明性が得られると共に、親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子との接着性が飛躍的に改善される。また偏光板が当該偏光子外面保護フィルムを備えることによって、このような偏光板の強度、取扱い性が向上する。さらに、液晶表示素子が当該偏光板を備えることによって、所望の特性が長期間に渡って安定的に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による偏光子外面保護フィルムの模式的断面図である。
【図2】図1の本発明による偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板の模式的断面図である。
【図3】図2の本発明による偏光板を製造するための装置を示す模式図である。
【図4】図2の本発明による偏光板を備えた液晶表示素子の模式的断面図である。
【図5】従来技術による一般的な液晶表示素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0022】
図1の偏光子外面保護フィルム1は、透明な合成樹脂製の基材層2、プライマー層3及びセルロースエステル層4を有する。偏光子外面保護フィルム1は、衝撃に対する耐性及び取扱い性を向上させるための偏光子の保護膜として用いられるものであって、液晶表示素子の外面側(図示されたA方向の側)に配置される。
【0023】
透明樹脂製の基材層2を構成する樹脂は、液晶表示素子の偏光子外面保護フィルムとして要求される高い透明性を有する限り特に限定されるものではないが、典型的には、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される。これらの合成樹脂は、優れた光学的透明性及び耐衝撃強度を有するため、トリアセチルセルロースに替わって液晶表示素子の外層側に配置することができる。基材層2は、透明性及び所望の強度を損なわない限りは他の任意成分を含んでよいが、上記のような合成樹脂を好ましくは90質量%以上含み、さらに好ましくは98質量%以上含む。ここでの任意成分の例として、紫外線吸収剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、位相差低減剤、艶消し剤、抗菌剤、防かび等が挙げられる。
【0024】
基材層2に用いられるアクリル系樹脂は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する骨格を有する樹脂である。アクリル樹脂の例としては、特に限定されないが、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体)などが挙げられる。これらのアクリル系樹脂の中でも、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが好ましく、メタクリル酸メチル系樹脂がより好ましい。
【0025】
基材層2に用いられるポリカーボネート系樹脂は、ポリ−4,4’−イソプロピリデン−ジフェニルカーボネートと称される化合物から構成される樹脂である。このポリカーボネート系樹脂は、界面重縮合法ではビスフェノールAと塩化カルボニルから製造され、エステル交換法ではビスフェノールAとジフェニルカーボネートから製造される。
【0026】
基材層2に用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンに由来する骨格を有する樹脂である。ポリプロピレン系樹脂の例としては、特に限定されないが、プロピレンの単独重合体、または、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4−12のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0027】
基材層2に用いられるシクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンに由来する骨格を有する樹脂である。シクロオレフィン系樹脂の例としては、特に限定されないが、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のようなポリマー変性を行なった後に水素添加した樹脂、ノルボルネン系モノマーを付加重合させた樹脂、ノルボルネン系モノマー及びエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーを付加重合させた樹脂などを挙げることができる。
【0028】
ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を得るために用いられるノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−ノルボルネンなどが挙げられる。この開環重合に用いられる重合触媒としては、メタセシス重合触媒と呼ばれるタングステン、モリブデン、クロム系触媒が好ましく利用される。
【0029】
基材層2に用いられるポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールの反応により得られるポリマーである。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、他のコモノマーを含むものであってもよいが、ポリエチレンテレフタレートの繰返し単位が80モル%以上であるものが好ましく用いられる。ポリエチレンテレフタレートは、例えば、ジメチルテレフタレート及びエチレングリコールを反応器に仕込み、内温を徐々に上げながらエステル交換反応を行った後、反応生成物を重合反応器に移して、高温真空下にて重合反応を行うことによって生成することができる。
【0030】
基材層2の厚みは、好ましくは10μm以上200μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。基材層2の厚みを10μm以上とすることによって、適度な強度、剛性が得られ、安定かつ容易にフィルム製造を行うことが可能となり、またプライマー層3及びセルロースエステル層4を形成するときの取扱性も良好となる。一方、基材層2の厚みを200μm以下とすることによって、製造時のライン速度、生産性、コントロール性が高められる。
【0031】
基材層2としては、通常、算術平均表面粗さ(Ra)が0.02以上0.06以下のものを用いることができる。また基材層2には、必要に応じてマット処理を行うことができる。このようなマット処理を施した基材層の算術平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは0.07以上2以下、さらに好ましくは0.1以上1以下とすることができる。基材層の表面粗さをこのような範囲に制御することによって、フィルム原反製造後の処理における傷付きが防止され、取扱い性が向上する。さらに、基材層が液晶表示素子の最上面(表示面側)に位置する場合には、高い反射防止性能が得られると共に、最下層に位置する場合には、他層とのスティッキングが効果的に防止される。また、一般的に、製造されたフィルム原反の巻取りを行う際には、フィルムの幅方向の両端をエンボス加工(ナーリング処理)してブロッキングを防止する必要がある。フィルムにナーリング処理を行った場合、フィルムの両端の処理箇所は使用できなくなるため、その部分は裁断・廃棄しなければならない。また、フィルムの巻取り作業においては、傷付きを防止するために保護膜によってマスキングを行う場合もある。しかし、基材層の算術平均表面粗さを上記のような所定の範囲とすることによって、ナーリング処理を行わずにブロッキングを防止することができるので、製造工程が簡略化され、フィルム幅方向の両端部分も使用可能になると共に、フィルムの故障を生じることなく、長尺にわたる巻取りを行うことができる。また、基材層が適度な表面粗さを有することによって、巻取り時の傷付きが効果的に抑制され、上記のようなマスキングも不要となる。
【0032】
また、基材層2のレターデーション値(Re)は、好ましくは−15nm以上15nm以下、さらに好ましくは−5nm以上5nm以下である。基材層がこのように小さいレターデーションを有することによって、この基材層を備えた偏光子外面保護フィルムによる透過光線の偏光方向の変換作用を抑制し、偏光子の透過軸方向への偏光の最適化及び制御性に対して、偏光子外面保護フィルムが及ぼす影響を抑制することができる。ここで、「レターデーション値(Re)」とは、基材層の平面上の結晶軸方向のうち直交する進相軸方向及び遅相軸方向をx方向及びy方向、基材層の厚さをd、x方向及びy方向の屈折率をnx及びny(nx≠ny)とし、Re=(ny−nx)dで計算される値である。
【0033】
基材層2の製造方法は、特に限定されないが、例えば、合成樹脂のフレーク原料及び可塑剤等の添加剤を従来公知の混合方法にて混合し、予め熱可塑性樹脂組成物としてから、光学フィルムを製造することができる。この熱可塑性樹脂組成物は、例えば、オムニミキサー等の混合機でプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練することによって得られる。この場合、押出混練に用いる混練機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機等の押出機や加圧ニーダー等の従来公知の混練機を用いることができる。
【0034】
基材層2のフィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など公知の方法が挙げられる。これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。この際、予め押出し混練した熱可塑性樹脂組成物を用いてもよいし、合成樹脂と、可塑剤等の他の添加剤を、別々に溶媒に溶解して均一な混合液とした後、溶液キャスト法(溶液流延法)や溶融押出法のフィルム成形工程に供してもよい。
【0035】
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼン、及びこれらの混合溶媒などの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0036】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられる。熔融押出の際のフィルムの成形温度は、好ましくは150℃以上350℃以下、より好ましくは200℃以上300℃以下である。Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や2軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出したフィルムを巻取り、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取ロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることによって、一軸延伸工程とすることも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸する工程を加えることによって、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの工程を加えることも可能である。
【0037】
基材層2は、未延伸フィルムであってもよいし、延伸フィルムであってもよい。延伸する場合は、一軸延伸フィルムでもよいし、2軸延伸フィルムでもよい。2軸延伸フィルムとする場合は、同時2軸延伸したものでもよいし、逐次2軸延伸したものでもよい。2軸延伸した場合は、機械強度が向上しフィルム性能が向上する。
【0038】
延伸工程を行う場合の延伸温度としては、フィルム原料の熱可塑樹脂組成物のガラス転移温度近辺で行うことが好ましく、具体的には(ガラス転移温度−30)℃〜(ガラス転移温度+100)℃で行うことが好ましく、より好ましくは(ガラス転移温度−20)℃〜(ガラス転移温度+80)℃である。延伸温度が(ガラス転移温度−30)℃よりも低いと、十分な延伸倍率が得られないために好ましくない。延伸温度が(ガラス転移温度+100)℃よりも高いと、樹脂の流動(フロー)が起こり安定な延伸が行えなくなるために好ましくない。
【0039】
面積比で定義される延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上25倍以下の範囲、より好ましくは1.3倍以上10倍以下の範囲とすることができる。延伸倍率が1.1倍よりも小さいと、延伸に伴う靭性の向上につながらないために好ましくない。延伸倍率が25倍よりも大きいと、延伸倍率を上げるだけの効果が認められない。
【0040】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20000%/分の範囲、より好ましくは100〜10000%/分の範囲である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなるために好ましくない。20000%/分よりも早いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがあるために好ましくない。さらに、基材層2の光学等方性や力学特性を安定化させるため、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うこともできる。
【0041】
可塑剤としては、特に限定されないが、基材層2にヘイズを発生させたり、又は基材層2からブリードアウトあるいは揮発しないように、合成樹脂と水素結合等によって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。このような可塑剤の例としては、特に限定されないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコール系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などが挙げられる。
【0042】
プライマー層3は、基材層2及びセルロースエステル層4の両者との化学的親和性を有する化学種を含むものである限りは特に限定されないが、水系ラテックスから形成されるものであることが好ましい。水系ラテックスは、単一の不飽和モノマーの重合体、又は2種以上の不飽和モノマーの共重合体からなる親油性を呈する成分で構成される。水系ラテックスとしては、一般的な乳化重合法で合成されるものを使用してもよいし、市販のラテックスを使用してもよい。水系ラテックスの主溶媒としては水が用いられるが、水と混和可能な有機溶媒を少量用いてもよい。水系ラテックスには、適宜、帯電防止剤、界面活性剤、増粘剤、安定剤、架橋剤、硬化触媒等の任意成分を添加してもよい。水系ラテックスの固形分は、典型的には20%以上50%以下である。水系ラテックスを構成する重合体粒子の粒径は、分散安定性の観点から、0.005μm以上0.5μmであることが好ましい。
【0043】
上記不飽和モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、置換基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、アミル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、tert−オクチル基、ドデシル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、4−クロロブチル基、シアノエチル基、2−アセトキシエチル基、ジメチルアミノエチル基、ベンジル基、メトキシベンジル基、2−クロロシクロヘキシル基、シクロヘキシル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基、フェニル基、5−ヒドロキシペンチル基、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基、グリシジル基、アセトアセトキシエチル基、3−メトキシブチル基、2−エトキシエチル基、2−iso−プロポキシ基、2−ブトキシエチル基、2−(2−メトキシエトキシ)エチル基、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル基、ω−メトキシオリゴオキシエチレン基、ω−ヒドロキシオリゴオキシエチレン基、1−ブロモ−2−メトキシエチル基、又は1,1−ジクロロ−2−エトキシエチル基を有するアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体;
【0044】
アクリルアミド、メタクリルアミド、置換基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、ヒドロキシメチル基、メトキシエチル基、ジメチルアミノプロピル基、フェニル基、アセトアセトキシプロピル基又はシアノエチル基を有するN−モノ置換誘導体であるアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体、N,N−ジメチル基又はN,N−ジエチル基を有するアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体;
【0045】
ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルカプレート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルなどのビニルエステル類;ジシクロペンタジエン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエンなどのオレフィン類;スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなどのスチレン類;クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシルなどのクロトン酸エステル類;イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸モノブチルエステル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチルなどのイタコン酸エステル類;フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチルなどのフマル酸エステル類;メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトンなどのビニルケトン類;N−ビニルピリジンおよび2−および4−ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルトリアゾール、N−ビニル−2−ピロリドンなどのヘテロ環含有ビニルモノマー類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類が挙げられる。
【0046】
水系ラテックスは、公知のディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)等を用いて、基材層2に塗布することができる。次いで、塗布された水系ラテックスを乾燥することによってプライマー層3を形成することができる。プライマー層3の厚みは、好ましくは0.01μm以上1μm以下であり、さらに好ましくは0.05μm以上0.1μm以下である。
【0047】
セルロースエステル層4を構成するセルロースエステルは、アルカリでケン化されて水酸基を生じるものである限りは特に限定されないが、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択されることが好ましい。これらのセルロースエステルは、アルカリでケン化することによって親水性基である水酸基を生じ、それによって、親水性樹脂であるポリビニルアルコールからなる偏光子との親和性が高まり、確実に接着することができる。
【0048】
プライマー層3及びセルロースエステル層4の合計厚みは、好ましくは0.02μm以上4μm以下であり、さらに好ましくは0.05μm以上2μm以下である。プライマー層3及びセルロースエステル層4の合計厚みを0.02μm以上とすることによって、このセルロースエステルがケン化されることによって生じた水酸基と、偏光子を構成するポリビニルアルコールとの接着が確実となる。また、プライマー層3及びセルロースエステル層4の合計厚みを4μm以下とすることによって、偏光子外面保護フィルム1の厚みを十分薄く保つことができ、偏光子外面保護フィルム1を含めた偏光板全体の厚みの増大を抑制することができる。
【0049】
セルロースエステル層4を形成するためのセルロースエステルの塗布液の溶媒は、セルロースエステルを十分溶解する有機溶媒であれは特に限定されないが、例えば、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、トリクロロエチレン、メチレンクロライド、エチレンクロライド、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロホルムなどが用いられる。また、セルロースエステル層4を形成するためのセルロースエステルの塗布液には、所望により紫外線吸収剤、滑り剤、マット剤、帯電防止剤、架橋剤、活性剤などを添加してもよい。特に架橋剤は偏光子を構成するポリビニルアルコールとの接着を促進する上で好ましい。このような架橋剤の例としては、例えば多価のエポキシ化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、明バン、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0050】
セルロースエステル層4を形成するためのセルロースエステルの塗布液は、グラビアコーター、ディップコーター、リバースロールコーター、押出しコーターなど公知の手法を用いて、プライマー層3に対して塗布することができる。このような塗布液を塗布した後に乾燥する方法としては、特に限定されず公知の手段を用いることができるが、乾燥後の残留溶媒量を5質量%以下とするのが好ましい。残留溶媒量が多いと、偏光子外面保護フィルムを偏光子に対して積層した後の乾燥過程で接着界面に気泡を生じる場合があり好ましくない。
【0051】
偏光子外面保護フィルム1において、プライマー層3を介してセルロースエステルにより表面処理されていない側の基材層2の表面は、任意に、各種の機能層、例えば、アンチグレア層、反射防止層、防眩層、低屈折率層等の反射防止層、帯電防止層、ハードコート層(硬化樹脂層)、光学補償層などによって被覆されていてよい。例えば、偏光子外面保護フィルムが更に防眩層(反射防止層)を備えることによって、偏光子に対する保護機能に加えて、防眩機能を発揮することができる。また、偏光子外面保護フィルムが更にハードコート層を備えることによって、偏光子に対する保護機能が強化される。
【0052】
このような防眩層としては、例えば、エンボス加工法により膜表面に凹凸構造を形成する技術や、バインダマトリックス形成材料中に粒子を混入させた塗液を膜表面に塗布し、バインダマトリックス中に粒子を分散させることにより凹凸構造を形成する技術を用いることができる。また、ハードコート層としては、例えば活性線硬化樹脂から形成されたものを用いることができる。このような活性線硬化樹脂の例としては、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0053】
上述のように、本発明による偏光子外面保護フィルムによれば、ポリビニルアルコールからなる偏光子との接着を容易化するように、内面側がプライマー層を介してセルロースエステルにより表面処理されている基材層を備え、このセルロースエステルが後述するアルカリによるケン化処理を経て水酸基を生じることによって、偏光子を構成する親水性樹脂であるポリビニルアルコールとの親和性及び接着性が効果的に向上する。
【0054】
図2の偏光板5は、ポリビニルアルコールからなる偏光子7の外面側(図示されたA方向の側)に、図1の偏光子外面保護フィルム1を備え、偏光子7の内面側に、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム6を備えた構造を有している。偏光子7と偏光子外面保護フィルム1との間、及び、偏光子7と偏光子内面保護フィルム6との間は、接着剤(図示せず)によって接合されている。
【0055】
偏光子7は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを二色性物質(例えば、ヨウ素や二色性染料)で染色し一軸延伸したものが用いられる。このポリビニルアルコール樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコールの重合度は、好ましくは100以上5000以下、より好ましくは1400以上4000以下である。ポリビニルアルコール樹脂フィルムは、公知の方法(例として、樹脂を水又は有機溶媒に溶解した溶液を流延成膜する流延法、キャスト法など)で成形することができる。偏光子7の厚みは、偏光板5が用いられるLCDの目的や用途に応じて異なるが、典型的には5μm以上100μm以下である。偏光子7は、偏光機能及び光学的透明性を阻害しない限りは、ポリビニルアルコール樹脂及び二色性物質以外の任意成分を含んでいてもよい。
【0056】
偏光子7の代表的な製造方法としては、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを、膨潤、染色、架橋、延伸、水洗及び乾燥工程からなる一連の製造工程が採用される。乾燥工程を除く各処理工程においては、それぞれの工程に用いられる溶液の浴中にポリビニルアルコール樹脂フィルムを浸漬することによって処理を行う。膨潤、染色、架橋、延伸、水洗及び乾燥の各処理の順序、回数及び実施の有無は、目的、使用材料および条件等に応じて適宜設定することができる。例えば、延伸処理は、染色処理の前に行ってもよく、膨潤処理等と同時に行ってもよい。また、架橋処理を延伸処理の前後に行うことは好ましい。
【0057】
偏光子7の一連の製造工程における膨潤工程は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを水で満たした処理浴中に浸漬することにより行うことができる。この処理浴には、グリセリンやヨウ化カリウム等が適宜添加され得る。典型的には、膨潤工程の処理浴の温度は20〜60℃程度であり、処理浴への浸漬時間は0.1〜10分程度である。染色工程は、ポリビニルアルコール樹脂フィルムを、ヨウ素等の二色性物質を含む処理浴中に浸漬することにより行うことができる。この処理浴の溶液に用いられる溶媒としては、一般的に水が用いられる。二色性物質は、溶媒100質量部に対して0.1〜1.0質量部の割合で用いられる。典型的には、染色工程の処理浴の温度は20〜70℃程度であり、浸漬時間は1〜20分程度である。
【0058】
架橋工程は、染色処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、架橋剤を含む処理浴中に浸漬することにより行うことができる。架橋剤の例としては、ホウ酸等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。この処理浴の溶液に用いられる溶媒としては、一般的に水が用いられる。典型的には、架橋工程の処理浴の温度は20〜70℃程度、浸漬時間は1秒〜15分程度である。延伸工程は、いずれの段階で行ってもよい。ポリビニルアルコール樹脂フィルムの延伸倍率は5倍以上にすることが好ましい。延伸方法としては、例えば湿式延伸法を採用することができる。この場合の処理浴の溶液としては、水又は有機溶媒中に、各種金属塩、ヨウ素、ホウ素又は亜鉛の化合物を添加した溶液が好ましい。
【0059】
水洗工程は、各種処理を施されたポリビニルアルコール樹脂フィルムを、水洗浴中に浸漬することにより行うことができる。この水洗工程により、ポリビニルアルコール樹脂フィルムの不必要な残存物を洗い流すことができる。水洗浴は、純水であってもよく、ヨウ化物(ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなど)の水溶液であってもよい。水洗浴の温度は好ましくは10〜60℃である。典型的には、浸漬時間は1秒〜1分である。水洗を行う回数は、1回だけでも複数回でもよい。乾燥工程としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥を採用することができる。典型的には、乾燥温度は20〜80℃であり、乾燥時間は1〜10分である。上記の各工程を行うことによって、偏光子7を製造することができる。
【0060】
従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム6は、セルロースエステルのフレーク原料及び可塑剤を、メチレンクロライドに溶解して粘稠液とし、これに可塑剤を溶解してドープとし、溶融押出機から、継続的に回転するステンレス等の金属ベルト上に流延して、乾燥させ、生乾き状態でベルトから剥離した後、乾燥させて巻き取り、製造される。セルロースエステルとしては、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択されるものが好ましく、トリアセチルセルロースが特に好ましい。
【0061】
偏光子外面保護フィルム1は、偏光子7との接着を行う前に、セルロースエステル層4をアルカリによってケン化することが必要である。このケン化によって、セルロースエステルのエステル基が親水性基である水酸基に変換され、これによって、偏光子外面保護フィルム1と、親水性樹脂であるポリビニルアルコールで形成された偏光子7との化学的な親和性が高められ、相互の接着性が格段に向上する。
【0062】
ケン化処理のために用いられるアルカリ水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウムの水溶液などを用いることができる。これらの金属水酸化物の濃度は、一般的に5質量%以上40質量%以下とされる。また、ケン化処理の温度は、10℃以上80℃以下であることが好ましい。金属水酸化物の濃度が5質量%以下の場合やケン化処理の温度が10℃以下の場合は、ケン化処理に要する時間が長くなるため好ましくない。ケン化処理は、上記のようなアルカリ水溶液浴に適当な時間にわたって偏光子外面保護フィルム1を浸積させることによって行われる。
【0063】
ケン化処理に供された偏光子外面保護フィルム1と、ポリビニルアルコールからなる偏光子7とは、図3に模式的に示される装置8によって貼合される。図3に示された複数の膜を貼合するための装置8は、偏光子7を供給するためのニップ9、偏光子外面保護フィルム1を供給するためのニップ10、接着剤を供給するための手段11、及び、偏光子7と偏光子外面保護フィルム1とを接着剤を介して押圧・接合するためのニップ12を備えている。
【0064】
装置8によって偏光子外面保護フィルム1のセルロースエステル層4と偏光子7とを貼り合わせるために使用される接着剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレートなどビニル系ラテックス等が挙げられる。通常、これらの接着剤は水溶液として用いられる。接着剤の樹脂溶液中の固形分濃度としては、塗工性や放置安定性等を考慮すれば、好ましくは0.1〜15質量%である。また、接着剤の樹脂溶液の粘度としては、例えば1〜50mPa・sの範囲が好ましい。
【0065】
装置8において、ニップ9から供給されるフィルム状の偏光子7とニップ10から供給されるケン化処理済みの偏光子外面保護フィルム1とがニップ12へ向かう方向に送出され、これらのフィルム間に挟み込まれるように適量の接着剤が供給され、次いでニップ12で押圧することによって、偏光子7と偏光子外面保護フィルム1のセルロースエステル層4が貼合されて、偏光子7の片面に偏光子外面保護フィルム1が積層された構造体が得られる。次いで、偏光子外面保護フィルム1が積層されていない方の偏光子7の面にも、同様の手段を用いて、偏光子内面保護フィルム6を積層することによって、偏光板5が得られる。偏光板5の厚みは、典型的には10μm以上100μm以下である。
【0066】
上述のように、本発明による偏光子外面保護フィルムを有する偏光板によれば、ポリビニルアルコールからなる偏光子の外面側に配置された合成樹脂製の基材層に易接着処理が施されていることから、ポリビニルアルコールからなる偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性及び剥離耐久性が高められ、それによって偏光板の強度や取扱い性が改善される。また、偏光子の内面側に、小さい複屈折性を有する(すなわち無配向性である)セルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルムを用いることによって、液晶分子の性能に影響を及ぼさずに、偏光子の保護機能を付与することができる。
【0067】
図4の液晶表示素子13は、液晶層16が透明媒体層15(例えばガラス)で挟持された液晶セル14の両面に対して、接着剤層17を介し、本発明による図2の偏光板5(基材層2、プライマー層3、セルロースエステル層4、偏光子内面保護フィルム6及び偏光子7からなる)を貼り合わせることによって構成されている。本発明による偏光子外面保護フィルム(基材層2、プライマー層3及びセルロースエステル層4)は専ら偏光子7の外面側に配置され、従来から用いられているセルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム6が偏光子7の内面側に配置される(図示されたA方向の側が外面側)。液晶セル14の液晶層16及び透明媒体層15並びに接着剤層17を構成する材料は、特に限定されず公知のものを用いることができる。なお、液晶表示素子において、液晶セルの一方の面側に図2の偏光板5(本発明による偏光板)を用い、液晶セルの他方の面側に従来技術による他の偏光板を用いてもよい。
【0068】
本発明による偏光子外面保護フィルムが配置された偏光板を備えた液晶表示素子は、偏光子外面保護フィルムが易接着化処理されているため、偏光子と偏光子外面保護フィルムとの接着性、剥離に対する耐久性が高く、かつ偏光板の強度、取扱い性が優れている。従って、液晶表示素子が有する諸特性が長期間に渡って継続的かつ安定して発揮されることになり、機器全体への信頼性が高くなる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0070】
[透明な合成樹脂製の基材層の形成]
数珠状シリカを添加したエチレングリコールスラリーを調製し、このエチレングリコールスラリーを190℃で2時間熱処理し、続いて、これをテレフタル酸ジメチルとエステル交換反応させた後、重縮合させてエチレンテレフタレートペレットを作製した。次に、このペレットから得られた樹脂を180℃で3時間滅圧乾燥させた後、押出機に供給して310℃で加熱溶融した。続いて、押出機から溶融した樹脂をシート状に押出して、表面温度30℃のキャスティングドラム上で冷却固化することによって、未延伸フィルムを作製した。次に、ロール延伸により、上記の未延伸フィルムを100℃で長手方向に4倍に延伸し、さらにテンターを用いて110℃で幅方向に4倍に延伸した。続いて、この二軸延伸フィルムを235℃(結晶化温度)で5秒間熱処理して結晶化させることにより、厚み40μmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを作製した。このポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを試料Aとする。
【0071】
[プライマー層及びセルロースエステル層の形成]
水系ラテックスとして、固形分30質量%のブチルアクリレート/t−ブチルアクリレート/スチレン/2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体の水分散ラテックス(質量比30/20/25/25)を用い、グラビアコーターにて、試料Aのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの面上に塗布し、乾燥させて厚み0.5μmのプライマー層を形成した。次いで、ディップコーターを用いて、このプライマー層にトリアセチルセルロースのメチルエチルケトン溶液(20質量%)を塗布し、メチルエチルケトンを乾燥させることによって、トリアセチルセルロース層を形成し、プライマー層及びトリアセチルセルロース層の合計厚みが2.0μmである偏光子保護フィルムを得た。さらに、トリアセチルセルロース層に対して、水酸化ナトリウム水溶液(濃度20質量%)を用いて、40℃にてケン化処理を行った。このケン化済み偏光子保護フィルムを試料Bとする。
【0072】
[偏光子の形成]
膜厚200μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)して、膜厚40μmのフィルムを得た。このフィルムを、ヨウ素0.15g及びヨウ化カリウム10gを含む水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム12g及びホウ酸7.5gを含む68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し、偏光子を得た。
【0073】
[実施例]
試料Bのケン化済み偏光子保護フィルム及び上記偏光子を18cm×5cmのサイズに裁断し、固形分濃度が2質量%のポリビニルアルコール水溶液である接着剤を介して、これらを重ね合わせ、ハンドローラーを用いて過剰の接着剤や気泡を取り除きながら貼り合わせた。これを2kg/cmに加圧したラミネーターに挿入し、さらに80℃で乾燥させることによって積層物1を得た。この貼合においては、試料Bのトリアセチルセルロース層と上記偏光子が接着されるようにした。
【0074】
[比較例]
試料Aのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム及び上記偏光子を、上記実施例と同様の手段により貼り合わせて積層体2を得た。
【0075】
上で得られた積層体1及び2に対して、以下の方法により初期接着性及び耐久性に関する特性評価を行った。
【0076】
(1)初期接着性
積層体の二つの層を手で剥離し、材料破壊の発生の程度により、下記の三段階に評価した。
良好:材料破壊が起こる。
やや不良:一部材料破壊が起こるが、試料と偏光子の間の剥がれ面積が大きい。
不良:試料と偏光子の間が完全に剥がれる。
【0077】
(2)耐久性
積層体を、75℃で90%RHの条件下に500時間放置し、外観変化を観察し、端部からの剥離の幅を測定した。評価基準は以下のとおりした。
良好:0.5mm以内
やや不良:0.5mm以上1.5mm以下
不良:1.5mm以上
【0078】
実施例の積層体1に対して初期接着性試験を行ったところ材料破壊が起こり、初期接着性は良好であることが分かった。また、実施例の積層体1に対して耐久性試験を行ったところ、剥離は0.3mmであり、厳しい条件下での剥離耐久性も優れていた。一方、比較例の積層体2に対して初期接着性試験を行ったところ、大きな力をかけることなく、試料Bが偏光子から剥離し、初期接着性が不良であることが分かった。また、比較例の積層体2に対して耐久性試験を行ったところ、剥離は2.0mmであり、剥離耐久性が劣っていた。このように、本発明による偏光子外面用の保護フィルムは、一方の表面がセルロースエステルにより表面処理されている基材層を備えていることによって、そのような表面処理がなされていない基材層からなるフィルムと比較して、ポリビニルアルコールに対する接着力及び剥離耐久性が格段に改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明による偏光子外面保護フィルムを備えた偏光板を用いた液晶表示素子は、偏光子外面保護フィルムと偏光子の間の接着が確実に行われているため、液晶表示素子及びこれを備えた電子機器全体の信頼性が高まる。そのため、このような液晶表示素子は、電卓や時計などの小型品から、自動車用計器、PCモニタ、テレビといった大型品に至るまで様々な分野で用いることが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 本発明による偏光子外面保護フィルム
2 透明な合成樹脂製の基材層
3 プライマー層
4 セルロースエステル層
5 偏光板
6 セルロースエステルからなる偏光子内面保護フィルム
7 偏光子
8 偏光板を製造するための装置
9 ニップ
10 ニップ
11 接着剤供給手段
12 ニップ
13 液晶表示素子
14 液晶セル
15 透明媒体層
16 液晶層
17 接着剤層
21 液晶表示素子
22 偏光板
23 偏光子保護フィルム
24 偏光子
25 液晶セル
26 透明媒体層
27 液晶層
28 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶表示素子の外面側に配設される偏光子外面保護フィルムであって、
透明な合成樹脂製の基材層と、
この基材層の内面側に積層されるプライマー層と、
このプライマー層の内面側に積層されるセルロースエステル層と
を備えることを特徴とする偏光子外面保護フィルム。
【請求項2】
上記プライマー層が、水系ラテックスから形成される請求項1に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項3】
上記水系ラテックスが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、オレフィン類、スチレン類、クロトン酸エステル類、イタコン酸エステル類、フマル酸エステル類、ビニルケトン類、ヘテロ環含有ビニルモノマー類及び不飽和ニトリル類からなる群から選択される少なくとも1種の不飽和単量体から得られた重合体を含む請求項2に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項4】
上記基材層を構成する合成樹脂が、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂及びポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項5】
上記セルロースエステル層を構成するセルロースエステルが、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項6】
上記プライマー層及びセルロースエステル層の合計厚みが、0.02μm以上4μm以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項7】
上記基材層の外面側に積層される反射防止層又はハードコート層を備える請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルム。
【請求項8】
ポリビニルアルコールからなる偏光子と、
この偏光子の外面に積層される請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の偏光子外面保護フィルムと、
偏光子の内面に積層される偏光子内面保護フィルムと
を備える偏光板。
【請求項9】
液晶セルと、
この液晶セルの少なくとも一方の面側に積層される請求項8に記載の偏光板と
を備える液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−181499(P2010−181499A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23109(P2009−23109)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(595138591)株式会社ジロオコーポレートプラン (16)
【Fターム(参考)】