説明

偏光板保護フィルム、及びその製造方法

【課題】本発明は、経時によるバックライト利用効率の劣化を防ぐことを目的とする。
【解決手段】セルロースエステルを主成分とするフィルムであって、少なくとも片側の表面近傍に空孔を有し、該空孔サイズが1nm以上100nm以下であり、空孔密度が1〜50vol%であり、空孔間平均距離が0.1〜100nmであり、空孔間距離バラつきが20nm以下であることを特徴とする偏光板保護フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の光透過性を高めることができ、かつ湿熱環境時の偏光板耐久劣化ムラを抑えられる偏光板保護フィルムとその製造方法に関する。また、当該偏光板保護フィルムが具備された偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、CRTに比べて薄くて軽量であり、低電圧で駆動できて消費電力が小さいという利点がある。そのため、液晶表示装置は、テレビ、パーソナルコンピューターなど、種々の電子機器に使用されている。
【0003】
近年、この液晶表示装置において、更に省電力化の要求が高まっている。この解決として、背面側偏光板のバックライト側偏光板保護フィルムのバックライト側表面に空孔層を設けて、低屈折率化による低反射層を設けることで透過率を上昇させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、バックライト光の利用効率を上げるために、バックライトユニットの最表面側には特定の偏光の透過率を上げる働きの偏光分離シート(例えばDBEF−D2(3M社製))が多く使われている。
【0005】
特許文献1に記載の偏光板保護フィルムでは、空孔の分散性は十分調整されておらず、背面側偏光板のバックライト側偏光板保護フィルムとして用いた際に、面内で偏光子保護適性にムラが生じ、経時により劣化が顕著になる問題があった。
【0006】
また、空孔の分散性が低いため、空孔の凝集が生じ、疑似的にマクロな空孔が形成されるため、バックライトユニットに偏光分離シートを用いた際に偏光解消が生じ、透過率の上昇が下がってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4475555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、偏光板の光透過性を高めることができ、かつ湿熱環境時の偏光板耐久劣化ムラを抑えられる偏光板保護フィルムないし、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.セルロースエステルを主成分とするフィルムであって、少なくとも片側の表面近傍に空孔を有し、該空孔サイズが1nm以上100nm以下であり、空孔密度が1〜50vol%であり、空孔間平均距離が0.1〜100nmであり、空孔間距離バラつきが20nm以下であることを特徴とする偏光板保護フィルム。
2.全光線透過率が92.7%より大きく、下記式で示される偏光解消度が0.5%以下であることを特徴とする前記1に記載の偏光板保護フィルム。
(クロスニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)/(パラレルニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)×100 (%)
3.前記1又は2に記載の偏光板保護フィルムの製造方法であって、セルロースエステルを溶媒に溶解したドープを支持体上に流延した後、SP値が水よりも該セルロースエステルに近い溶媒、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒で、流延から120秒以内に接触処理することを特徴とする偏光板保護フィルムの製造方法。
4.前記SP値が水よりも該セルロースエステルに近い、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒が、エタノールまたはイソプロピルアルコールを含有することを特徴とする前記3に記載の偏光板保護フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記手段により、空孔を凝集することなく均一に分散した状態で形成することができるため、偏光板の光透過性を高めることができ、かつ湿熱環境時の偏光板耐久劣化ムラを抑えられる偏光板保護フィルムないし、その製造方法を提供することができる。
【0011】
本発明の偏光板保護フィルムは、セルロースエステルを溶媒に溶解したドープを支持体上に流延後に、該溶媒が面内で流延ドープ中に残留している状態で、SP値が水よりも該セルロースエステルに近い溶媒、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒で接触処理することにより作製される。
【0012】
SP値とはが水よりも該セルロースエステルに近い溶媒、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒を、本発明では貧溶媒という。
【0013】
前記貧溶媒に接触させる方法としては、貧溶媒浴に浸漬もしくは上記貧溶媒を塗布や噴霧等の手法を用いて行うことができる。一例として、貧溶媒浴に浸漬させる手段で効果を説明する。
【0014】
流延した支持体から剥離する前のセルロースエステルフィルム中には溶媒が残留しており、この状態で、貧溶媒へ浸漬させると、浸漬貧溶媒がセルロースエステルフィルムへ支持体と反対側の面から浸透していく。
【0015】
支持体側方向へ浸透が進行するにつれ、貧溶媒濃度が増すため、樹脂の溶解性が低下し、樹脂の濃度が疎密である相分離状態が形成され、最終的に支持体側界面の樹脂濃度が疎である部分が微細な空孔となる。
【0016】
この時、ドープに使用した溶媒の残留量によって浸漬貧溶媒の浸透量が決定され、均一な空孔を形成することができる。
【0017】
本発明に係る上記手段により偏光板の光透過性を高めることができ、かつ湿熱環境時の偏光板耐久劣化ムラを抑えられる偏光板保護フィルムを提供することができる。また、当該偏光板保護フィルムが具備された偏光板、液晶表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の偏光板保護フィルムを製造する際の風圧パターンの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明の偏光板保護フィルムは、材料中に波長よりも短い径を持つ微細な気泡(屈折率=1)を含有させ、その体積比率分に応じて見かけ上の屈折率を低下させ、光透過性を高めている。
【0021】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
<本発明の偏光板保護フィルム>
本発明の偏光板保護フィルムは、セルロースエステルを主成分とするフィルムであって、少なくとも片側の表面近傍に空孔サイズが1nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0022】
主成分とするとは、フィルムを構成する樹脂の最も質量%の多いことをいい、50質量%以上であることが好ましい。
【0023】
波長よりも短い径を持つ微細な空孔を含有させることにより、その体積比率分に応じて見かけ上の屈折率を低下させ、表面反射率を下げることができ、フィルムの透過率を上昇させることができる。
【0024】
また、空孔密度が1〜50vol%以下であることを特徴とする。空孔密度が1%未満だと、見掛け上の屈折率低下が小さく、十分な透過率上昇が期待できない。また、空孔密度が50%より大きいと、空孔同士が接触し、空孔サイズが増加してしまい、光散乱を生じ、透過率が低下してしまう。
【0025】
空孔間平均距離が0.1〜100nmであることを特徴とする。空孔間平均距離が1nm未満だと前述と同様に空孔同士が疑似的に接触している形となり、光散乱が生じてしまう。また、空孔間距離が100nmより大きいと、見かけ上の屈折率の低下を生じさせることができず、透過率の上昇が見込めない。
【0026】
空孔間距離のバラつきが20nm以下であることを特徴とする。空孔間距離のバラつきが20nmより大きいと、面内での透湿度が変化することから、偏光子に貼りつけて偏光板にした際に湿熱環境変動での変化が面内で異なり、結果として偏光板耐久性が劣化してしまう。好ましく5nm以下であることが偏光板に貼りつけた際の偏光板耐久性の観点から好ましい。なお、表面近傍とは、フィルム表面から100nm以内を指す。
【0027】
ここで、偏光板保護フィルムの空孔サイズについては、当該フィルム面の任意の方向を0°として、面内において0°方向から180°方向まで10°おきに、フィルム面に対して垂直に膜厚方向に切断し、その各断面を走査型電子顕微鏡(S−4300、(株)日立製作所製)で撮影し、無作為に20個の空孔を選択し、それらの平均直径を偏光板保護フィルムの空孔サイズとした。一つの空孔の直径は、フィルム断面図を見た際に面方向をx方向、厚さ方向をy方向としたとして、x方向とy方向の最長直径の平均値として求めた。
【0028】
空孔密度は、上記の走査型電子顕微鏡写真を用いて、まず流延時に支持体側であった面の平均線を引き、次いでそれと平行な線を空孔が存在しなくなる境界に引き、任意のフィルム面10μm間と二つの直線(支持体側であった平均線と、それと平行な線)の間の領域に存在する空孔の体積を求め、当該領域中の空孔体積を空孔密度として求めた。
【0029】
空孔の体積は、空孔の数と上記で示した空孔サイズから一個当たりの空孔体積を略球形状として算出した。空孔サイズと同様に、0°方向から180°方向まで10°おきに切断した面の空孔密度をそれぞれ求め、それらの平均値を偏光板保護フィルムの空孔密度とした。
【0030】
空孔間平均距離は、上記の走査型電子顕微鏡写真を用いて、無作為に20個の空孔を選択し任意の隣り合った2つの空孔を略球として見て、中心を直線状で結んだ際、互いに向き合った外縁同士の距離を求め、空孔間距離とし、それらの平均値として算出した。空孔の平均直径と同様に、0°方向から180°方向まで10°おきに切断した面の空孔間平均距離をそれぞれ求め、それらの平均値を偏光板保護フィルムの空孔間平均距離とした。
【0031】
空孔間距離のバラつきは、上記の空孔間平均距離の測定の際に求めた空孔間距離の最大値と最小値の差を算出し、空孔間距離のバラつきとした。
【0032】
本発明の偏光板保護フィルムは、全光線透過率は、93%以上であること、また、偏光解消度が0.5%以下、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下であることが表示パネルの白輝度、特に正面方向の輝度の観点から好ましい。
【0033】
なお、本発明においては、偏光板保護フィルムの全光線透過率は、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V670を用いて、500〜600nmの波長の平均透過率とした。
【0034】
また、偏光板保護フィルムの偏光解消度は、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V670を用いて、偏光板狭持時の全光線透過率を用いて、下記式により算出した。
【0035】
(クロスニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)/パラレルニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)×100 (%)
本発明の評価は特に断りのなり限り、23℃55%RHの雰囲気下でおこなっている。
(セルロースエステル)
本発明に記載の偏光板保護フィルムに用いることができるセルロースエステル樹脂は、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0036】
混合脂肪酸エステルの置換度として、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有している場合、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂であることが好ましい。
【0037】
式(I) 1.5≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.5
さらに、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、さらに好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0038】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
【0039】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0040】
本発明において、セルロースエステル樹脂は、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。
【0041】
フィルムの厚さは、用途に応じて、適宜、適当な厚さを選定することが好ましい。厚さの上限は、特に限定される物ではないが、溶液製膜法でフィルム化する場合は、塗布性、発泡、溶媒乾燥などの観点から、上限は150μm程度である。
【0042】
〈糖エステル化合物〉
本発明においては、セルロースエステル樹脂として、ピラノース構造又はフラノース構造の少なくとも一種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を含むことも好ましい。
【0043】
エステル化の割合としては、ピラノース構造又はフラノース構造内に存在するOH基の70%以上であることが好ましい。
【0044】
本発明に係るエステル化合物の例としては、例えば、以下のようなものを挙げることができる。
【0045】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、あるいはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノースあるいはケストース挙げられる。
【0046】
この他、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0047】
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
【0048】
例としては、スクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
【0049】
本発明ピラノース構造又はフラノース構造中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。市販品としてモノペットSB(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0050】
本発明に係るセルロースエステルフィルムは、表示品位を安定化する為に、本発明に係る糖エステル化合物を、セルロースエステルフィルムの0.5〜30質量%含むことが好ましく、特には、5〜30質量%含むことが好ましい。
【0051】
(その他添加剤)
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム基材には、目的に応じて種々の化合物等を添加剤として含有させることができる。例えば、位相差(リターデーション)上昇剤、可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、光学異方性制御剤、マット剤、帯電防止剤、剥離剤、等を含有させることができる。
【0052】
(マット剤)
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム基材には、作製されたフィルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり、搬送性が悪化することを防止するために、マット剤として、微粒子を添加することも好ましい。
【0053】
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0054】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径80〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の偏光板保護フィルム(光学フィルム)の場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0055】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0056】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0057】
樹脂の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0058】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが偏光板保護フィルム(光学フィルム)のヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明に係る偏光板保護フィルム(光学フィルム)においては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
<セルロースエステルを溶解するための溶媒>
(溶媒)
本発明の偏光板保護フィルムの製造では、セルロースエステルを溶媒に溶解しドープ(支持体上に流延するための溶液)を作製する。ここで使用される溶媒は、セルロースエステルに対し40℃での溶解度が15質量%以上である溶媒(以下、良溶媒という)と貧溶媒の混合物であることが好ましいが全体として良溶媒である。
【0059】
良溶媒としては、使用されるセルロースエステルの種類に応じて適宜選択することになるが、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン等のC3−5ジアルキルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(ギ酸エチル等のギ酸C1−4アルキルエステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸C1−4アルキルエステル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル等)、エーテル類(1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン,テトラヒドロピラン,ジエチルエーテル,ジイソプロピルエーテル,ジメトキシエタン等の環状または鎖状C4−6エーテル)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のC1−4アルキル−セロソルブ)、セロソルブアセテート類(メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のC1−4アルキル−セロソルブアセテート)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭化水素類(塩化メチレン、塩化エチレン等)、アミド類(ホルムアミド,アセトアミド等のアシルアミド類、N−メチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のモノまたはジC1−4アシルアミド類)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等のジC1−3アルキルスルホキシド)、ニトリル類(アセトニトリル、クロロアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等C1−6アルキルニトリル,ベンゾニトリル等)、有機酸類(ギ酸、酢酸、プロピオン酸等)、有機酸無水物(無水マレイン酸、無水酢酸等)、及びこれらの混合物から選択できる。
【0060】
より具体的には、ハロゲン化炭化水素、メチルエチルケトン等のC3−5ジアルキルケトン類(特にアセトン、メチルエチルケトン)、酢酸エチル等の酢酸C1−4アルキルエステル類(特に酢酸メチル、酢酸エチル)、ジオキサン、ジメトキシエタン等の環状または鎖状C4−6エーテル類、メチルセロソルブ等のC1−4アルキル−セロソルブ類(特にメチルセロソルブ、エチルセロソルブ)、メチルセロソルブアセテート等のC1−4アルキル−セロソルブアセテート類(特にメチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)及びこれらの混合溶媒等が含まれる。特に好ましい良溶媒には少なくともハロゲン化炭化水素類(中でも塩化メチレン)を含む溶媒が含まれる。
【0061】
(貧溶媒)
本発明の偏光板保護フィルムの製造方法に用いられる貧溶媒とは、SP値が水よりも該セルロースエステルに近い溶媒、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒であり、使用されるセルロースエステルに対する溶解性がないか、または40℃での溶解度が15質量%未満の溶媒であることが好ましい。
【0062】
貧溶媒としては、使用されるセルロースエステルの種類に応じて適宜選択することになるが、例えば、エステル類(ギ酸アミル、ギ酸イソアミル等のギ酸C5−8アルキルエステル、酢酸ブチル,酢酸アミル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル,酢酸3−メトキシブチル,酢酸3−エトキシブチル,プロピオン酸ブチル,プロピオン酸3−メトキシブチル等のC1−4アルコキシ基を有していてもよいC2−4脂肪族カルボン酸C3−10アルキルエステル(例えば、C1−4アルコキシ基を有していてもよい酢酸C4−10アルキルエステル)、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル等の安息香酸C1−4アルキルエステル類)、アルコール類(エタノール、イソプロピルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、シクロオクタノール等のC1−4アルキル基が置換していてもよいC4−8シクロアルカノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキシルアルコール等のC5−8アルコール類、2−ブトキシエタノール,3−ブトキシプロパノール等のC2−6アルコキシ−C1−4アルコール類、フルフリルアルコール等の複素環式アルコール等)、ケトン類(メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン等のC3−10ジアルキルケトン(特にC6−10ジアルキルケトン)、アセトニルアセトン、アセトフェノン等)、エーテル類(メチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ジブチルエーテル、ベンジルエチルエーテル等のC7−10エーテル)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン,オクタン,ノナン,デカン等のC5−20脂肪族炭化水素類)及びこれらの混合物が例示できる。
【0063】
本発明においては、穏和な条件で相分離を引き起こすことにより、偏光板保護フィルム中に低密度領域を形成し、内部散乱による透過率を抑制して高い透過率と低いヘイズ、環境変動安定性を達成したと考えている。
【0064】
そのため、貧溶媒の選択としてはセルロースエステルに対して比較的親和性の高い溶媒を選択することが重要である。
【0065】
セルロースエステルと貧溶媒の親和性の高さは、例えばSP値に代表される溶解度パラメータの差や樹脂フィルムに対する良貧溶媒の接触角の低さ等を指標にして選択することができる。貧溶媒をセルロースエステルに対する親和性の高いものを使用することにより、セルロースエステルの分子の凝集が抑えられこのために低密度領域が形成できると推定している。
【0066】
本発明において水よりも親和性の高い貧溶媒とは、具体的には、セルロースエステルフィルムと貧溶媒とのSP値や貧溶媒の接触角による評価において、水よりもSP値差が小さい、もしくは接触角が低いことを意味する。
【0067】
本発明でいうSP値は、溶解度パラメータの意であり、有機溶剤に対する非電解質の溶け易さを評価する際によく用いられるHildebrandの溶解度パラメータにより得られる値である。この溶解度パラメータについてはJ.H.Hildebrand,J.M.Prausnitz.R.L.Scott著“Regular and Related Solutions”,Van Nostrand−Reinhold,Princeton(1970年)、「高分子データハンドブック基礎編」高分子学会を参照できる。各種溶剤の溶解度パラメータの値はA.F.M.Barton,“Handbook of Solrbility Parameters and Other Cohesion Parameters”,CRC Press,Boca Raton/Florida(1983年)、「高分子データハンドブック基礎編」高分子学会に記載されている。
【0068】
物質の溶解度パラメータは、
SP=(δE/V)1/2
で定義されており、δEはモル当たりの凝集エネルギーであり、Vはモル体積である。
【0069】
溶解度パラメータは、溶解度から求める方法、あるいは蒸発潜熱法、蒸気圧法、膨潤法、表面張力法、熱膨潤係数法、屈折率法等幾つかの方法で求めることができる。
【0070】
例えば、水は23.4、ジアセチルセルロースは11.4、エタノールは12.7、イソプロパノールは11.5である。
【0071】
穏和な条件で相分離を引き起こす貧溶媒として特に好ましくは、エタノール及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
【0072】
接触角は市販の接触角計、例えば協和界面科学社製接触角計CA−Wを用いて測定できる。
【0073】
良貧溶媒の実験的な選択は、使用するセルロースエステルが40℃において15質量%溶解するか否かを簡易実験することによりすることができる。40℃の85質量%の溶媒にセルロースエステル15質量%を添加し、24時間攪拌溶解した溶液を目視で観察することにより良貧溶媒を容易に選択することができる。
<偏光板保護フィルムの製造方法>
(相分離法)
本発明の偏光板保護フィルムを得る一つの好ましい様態として相分離法が挙げられる。相分離法としては、熱誘起相分離法と貧溶媒有機相分離法があり、貧溶媒相分離法には、ドライプロセスとウェットプロセスがあるが、相分離の条件を制御しやすい観点から、貧溶媒相分離法のウェットプロセスが好ましい。
【0074】
以下に具体的な本発明の偏光板保護フィルム製造方法の好ましい様態を例として挙げる。
【0075】
セルロースエステルと該セルロースエステルに対する良溶媒と貧溶媒との混合溶媒からなるドープ溶液を調製する。ドープを支持体上に流延製膜し、流延から5分以内に、ドープに含まれる溶媒が完全に乾燥する前に支持体ごと貧溶媒からなる貧溶媒浴中へ浸漬し相分離を行う。貧溶媒浴から取り出したフィルムを支持体から剥離し、乾燥することにより偏光板保護フィルムを得る。
【0076】
(ドープ)
本発明におけるドープとは、少なくとも一種類以上のセルロースエステルを溶媒に溶解した溶液を意味する。ドープ中には、前記したその他添加剤、マット剤等を適宜加えることができる。穏やかな条件での相分離を引き起こすため、ドープ中の良溶媒と貧溶媒の比率を適宜選択することが好ましい。
【0077】
また、ドープを支持体上に流延し平滑な面を持つフィルムを得るために、粘度調整(固形分及び溶媒の比率)を適宜調整することができる。
【0078】
良溶媒及び貧溶媒の種類、セルロースエステルの種類、その他添加剤等により条件は変化させてよい。
【0079】
一つの好ましい様態として、貧溶媒としてエタノール、良溶媒としてメチレンクロライドを選択し、貧溶媒及び良溶媒の比率は1:99〜40:60の間に調整するのが好ましいが全体として良溶媒である。
【0080】
本発明において、穏やかな条件での相分離を引き起こす観点から、貧溶媒及び良溶媒の比率は8:92〜30:70の範囲であることが好ましい。ドープ中の貧溶媒の比率が高過ぎると、急激な相分離を引き起こしやすく、また貧溶媒比率が低過ぎると相分離自体が起こらない傾向がある。これは、初期の貧溶媒比率が高いほど、後の貧溶媒浴への浸漬処理において貧溶媒比率の急激な増加が見られるからだと考えている。
【0081】
ドープ中のセルロースエステルの濃度は17〜35質量%が好ましく、特に20〜30質量%が好ましい。濃度が高過ぎると得られるフィルムの表面の平滑性が悪くなる傾向があり、薄過ぎると偏光板保護フィルムの膜厚が十分に得られない事や製造上溶媒乾燥に時間がかかる等の課題が出る場合がある。また、溶媒に対するセルロースエステルの比率は、高い方が穏やかな方が相分離を引き起こす傾向であり、低い方が急激な相分離を引き起こしやすい傾向である。これは、貧溶媒に浸漬した場合に溶媒の浸入速度が落ちる影響によると考えている。
【0082】
本発明の偏光板保護フィルムを流延する場合の温度は、流延製膜に適した粘度を調整する観点から20〜40℃の範囲に調整することが好ましい。流延製膜した偏光板保護フィルムの前駆体ウェブは、貧溶媒浴に含侵されるまでの溶媒含有量、良溶媒、貧溶媒比率を調整する観点から温度制御されることが長尺の偏光板保護フィルムを安定的に得る上で好ましい。
【0083】
流延製膜は、平滑な金属支持体上に行う方法や溶媒や熱により侵されない高分子フィルム支持体上に流延する等の手法を取ることができる。
【0084】
(支持体上幅手方向の乾燥風圧パターン)
支持体上に流延後、貧溶媒浴浸漬までは支持体上で乾燥される。支持体の温度20〜30℃が好ましい。30℃より高いと、溶媒蒸発が急速に進行し、フィルム内で発泡が生じ、フィルムの均一性が劣ってしまう。20℃より低いと、乾燥に時間がかかり、生産速度が下がってしまう。支持体の幅手方向の温度は均一であることが好ましく、±1℃内に制御されることが好ましい。風圧は、溶媒蒸発の均一性等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。幅方向の風圧分布は、残留溶媒量を面内で一定にするために、100Pa以内が好ましく、50Pa以内がより好ましい。100Paを超えると、貧溶媒浴に浸漬した際に、貧溶媒の浸入が面内で異なり、空孔の形成が面内で不均一となる場合がある。
【0085】
(貧溶媒浴)
本発明の偏光板保護フィルムのアッベ屈折率測定での表裏面差や表裏面での透過率の差の観点から、高分子支持体上に流延を行い支持体ごと貧溶媒浴中へ浸漬する、もしくは貧溶媒浴中に入るエンドレスベルト状の金属支持体上に流延する手法が好ましい。
【0086】
これは、偏光板保護フィルム両面からの貧溶媒の浸入よりも片側から貧溶媒が選択的に侵入することにより厚み方向に非対称に分布を持つ低屈折領域を持つためだと考えている。
【0087】
本発明の偏光板保護フィルムを得る上において、穏和な条件で相分離を引き起こす観点から、強力な相分離剤としての水を空気中からウェブ中への浸入を制御する意味で湿度制御することが好ましい。本発明においては、取りこまれる水が少ない方が、穏和な相分離を引き起こす傾向にある。具体的には0〜50%RHが好ましく、0〜30%RHがより好ましく、更には、0〜20%RHがより好ましい。
【0088】
本発明の偏光板保護フィルムの製造方法として、貧溶媒で接触処理するとは、例えば上記の貧溶媒浴に浸漬もしくは上記貧溶媒浴中に使用される溶媒を塗布や噴霧等の手法を用いて相分離を起こす工程を含むことを意味する。
【0089】
貧溶媒浴は、本発明の偏光板保護フィルムの相分離を引き起こすために少なくとも一種類の貧溶媒からなり、貧溶媒と良溶媒の混合物を使用することができるが全体として貧溶媒である。
【0090】
貧溶媒浴に用いられる貧溶媒としては、セルロースエステル種によって適宜選択する。貧溶媒とセルロースエステルの親和性の目安としてSP値による比較や使用する貧溶媒の接触角を用いる。セルロースエステル中に低密度相を形成するには、比較的穏和な条件での相分離を引き起こすことが本発明においては非常に重要である。
【0091】
具体的には、上記した貧溶媒から適宜選択できる。貧溶媒浴に使用される貧溶媒は、穏和な条件で相分離を引き起こすために、初期ドープに含まれる貧溶媒よりもセルロースエステルに親和性の高い溶媒を用いることがこのましく、例えばドープ中に含有される貧溶媒がエタノールの場合、貧溶媒浴に使用される貧溶媒としてイソプロピルアルコールを使用する等が好ましい。
【0092】
貧溶媒浴の温度は、安定的に長尺の相分離フィルムを得るために温度を制御することが好ましい。貧溶媒浴の温度は低い方がより穏和な条件での相分離が引き起こされる傾向にある。これは貧溶媒浴に使用される貧溶媒のフィルム中への浸入速度がその理由であると考えている。
【0093】
具体的には、35℃以下が好ましく、35℃より高いと貧溶媒の浸入が激しくなり、空孔サイズの増大、空孔の過剰形成が生じ、光散乱が生じてしまう。
【0094】
貧溶媒浴中への浸漬時間は、フィルム厚み方向での良溶媒、貧溶媒量の調節及びそれぞれの比率を厚み方向で調整する目的で好ましく行われる。上記のドープの構成や貧溶媒浴までの乾燥等の影響を考慮し適宜設定することができる。浸漬時間は短い方が貧溶媒の浸漬量が少ないために穏やかな条件となり、長い方が貧溶媒の浸入量が多いために急激な相分離となる傾向がある。
【0095】
流延から貧溶媒浴への浸漬までの時間としては、5秒〜120秒が好ましい。5秒より短いと、貧溶媒浴中の貧溶媒が流延ドープに浸入する度合が激しく、空孔が過剰に形成され、空孔の接触が生じ、光散乱が過剰になる場合がある。また、120秒より長いと樹脂が既に固化してしまい、空孔の形成が妨げられる場合があり、透過率の上昇が小さくなることがある。
【0096】
流延から貧溶媒浴への浸漬までの乾燥は、安定的に長尺の相分離を引き起こすために制御することが好ましい。乾燥の手段としては、例えば乾燥空気を流延ドープへ吹き当てる方法がある。風圧は、溶媒蒸発の均一性等を考慮し、50〜5000Paであることが好ましい。幅方向の風圧分布は、残留溶媒量を面内で一定にするために、100Pa以内が好ましく、50Pa以内がより好ましい。100Paを超えると、貧溶媒浴に浸漬した際に、貧溶媒の浸入が面内で異なり、空孔の形成が面内で不均一となる場合がある。
【0097】
流延から貧溶媒浴への浸漬までの雰囲気湿度は、低い方がセルロースエステル中への強力な貧溶媒である水の導入を少なくする観点から好ましい。具体的には0〜50%RHが好ましく、0〜30%RHがより好ましく、更には、0〜20%RHがより好ましい。
【0098】
(乾燥工程)
本発明の偏光板保護フィルムを得るのに、貧溶媒浴から取り出したフィルムを乾燥させる工程である。乾燥工程の温度は、ウェブ中の溶媒が十分に揮発する条件を適宜設定することができる。乾燥工程により、フィルム厚み方向での溶媒濃度の勾配をつけることにより、でき上がったフィルムの厚み方向での見かけの屈折率を調整することができる。乾燥工程の温度は、セルロースエステルのTg以下とすることが好ましい。Tg以下の温度で乾燥を行うことにより、貧溶媒浴で生じた低屈折領域を維持することができると考えている。
【0099】
偏光板保護フィルムの平面性の観点から、乾燥工程中に二軸テンター等を用いてフィルムを把持、もしくは延伸を行い乾燥することも好ましい。
<偏光板>
本発明に係る上記偏光板保護フィルムを用いる場合、偏光板は一般的な方法で作製することができる。本発明に係る偏光板保護フィルムの裏面側に粘着層を設け、沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、貼り合わせることが好ましい。
【0100】
もう一方の面には本発明に係る偏光板保護フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。例えば、市販のセルロースエステルフィルム(例えば、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UCR−5、KC8UE、KC4UE、KC4FR−3、KC4FR−4、KC4HR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、以上コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
【0101】
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0102】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0103】
上記粘着層に用いられる粘着剤としては、粘着層の少なくとも一部分において25℃での貯蔵弾性率が1.0×10〜1.0×10Paの範囲である粘着剤が用いられていることが好ましく、粘着剤を塗布し、貼り合わせた後に種々の化学反応により高分子量体又は架橋構造を形成する硬化型粘着剤が好適に用いられる。
【0104】
具体例としては、例えば、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、水性高分子−イソシアネート系粘着剤、熱硬化型アクリル粘着剤等の硬化型粘着剤、湿気硬化ウレタン粘着剤、ポリエーテルメタクリレート型、エステル系メタクリレート型、酸化型ポリエーテルメタクリレート等の嫌気性粘着剤、シアノアクリレート系の瞬間粘着剤、アクリレートとペルオキシド系の二液型瞬間粘着剤等が挙げられる。
【0105】
上記粘着剤としては一液型であっても良いし、使用前に二液以上を混合して使用する型であっても良い。
【0106】
また、上記粘着剤は有機溶剤を媒体とする溶剤系であってもよいし、水を主成分とする媒体であるエマルジョン型、コロイド分散液型、水溶液型などの水系であってもよいし、無溶剤型であってもよい。上記粘着剤液の濃度は、粘着後の膜厚、塗布方法、塗布条件等により適宜決定されれば良く、通常は0.1〜50質量%である。
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板保護フィルムが液晶パネルに対して外側に配置されていることを特徴とする。
【0107】
液晶表示装置は、典型的には2枚の偏光板により液晶パネルを挟んだ配置をとる。本発明の偏光板保護フィルムを備えた偏光板を用い、偏光板と液晶パネルを接着する際、偏光板保護フィルムの全光線透過率の高い面を空気界面側(液晶パネルに対して外側)となるように配置し、液晶表示装置を作ることによって、空気界面での反射を抑制し高透過率な液晶表示装置を達成できる。
【0108】
本発明の偏光板を視認側、バックライト側の両方に配置することも高透過率化の点で好ましい。液晶表示装置の環境変動時における輝度ムラの発生の抑制の観点から、より温度変化の大きいバックライト側に配置することが好ましい。また、視認側に配置することにより、表示画面の映りこみを抑制する効果もあるため、表示面側に本発明の偏光板を設置することも好ましい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<偏光板保護フィルムの作製>
<微粒子分散液の作製>
微粒子(アエロジルR972V(日本アエロジル株式会社製)) 11質量部
(1次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散し、微粒子分散液を得た。
【0110】
〈微粒子添加液〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースアセテート(アセチル基置換度2.10、Mn=140000)を添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。濾過後のセルロースアセテート溶液を充分に攪拌しながら、ここに上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。さらに、2次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0111】
(微粒子添加液の組成)
メチレンクロライド 99質量部
セルロースアセテート(上記) 4質量部
微粒子分散液 11質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、更に可塑剤及び紫外線吸収剤を添加、溶解させた。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
【0112】
主ドープ液100質量部と微粒子添加液5質量部となるように加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分に混合し、次いでベルト流延装置を用い、幅2mのステンレスベルト支持体に幅1.9mになるように均一にドープを流延した。支持体の温度は23℃とした。
【0113】
次いで、表1に記載の支持体上幅手方向の乾燥風圧パターンにより流延後〜貧溶媒浴浸漬までの時間常温の乾燥空気を当て、溶媒を蒸発させた後、表1に記載の温度のイソプロピルアルコール貧溶媒浴にステンレスベルトごと2分間浸漬させ、イソプロピルアルコール貧溶媒浴から取り出した後、支持体から剥離した。
【0114】
次いで、テンターでウェブ両端部を担持し、幅手を保持したまま120℃で乾燥させた。その後、幅保持を開放し、110℃に設定された第3乾燥ゾーンで40分間搬送させて乾燥を行い、膜厚80μm、幅1.8m、かつ端部に幅1cmのナーリングを有する偏光板保護フィルムNo.101〜112を1000mずつ作製した。なお、幅手方向の乾燥風圧パターンを図1に示す。
【0115】
Wはベルト幅(mm)を表す。0点は、支持体であるベルトの端(フィルムの端近傍)を意味する。縦軸は風圧(AP)を示す。パターンAはベルトに吹き付ける風圧の分布を200〜300Pa内に制御して乾燥を行った。パターンBは250〜300Pa内に制御して乾燥を行った。パターンCは200〜300Paに制御せず、風圧ムラが大きな状態で乾燥を行った。
【0116】
また、貧溶媒浴浸漬を無くし、ステンレスベルト支持体上で、残留溶媒量が110%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスベルト支持体から剥離した以外は偏光板保護フィルムNo.101と同様にして、偏光板保護フィルムNo.113を作製した。
【0117】
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 390質量部
エタノール 80質量部
セルロースアセテート(総置換度2.40、アセチル基置換度2.40、
Mn=80000) 100質量部
スクロースベンゾエート(平均置換度5.5) 10.0質量部
【0118】
【表1】

【0119】
これらのフィルムについて以下の評価を行った。結果を表2、3に示す。
【0120】
〈偏光板保護フィルムの全光線透過率の測定〉
偏光板保護フィルムの全光線透過率は、日本分光(株)製の紫外可視近赤外分光光度計V670を用いて、500〜600nmの波長の平均透過率とした。
【0121】
各偏光板保護フィルムの全光線透過率を下記基準に従って評価した。
【0122】
◎:全光線透過率が93.2%以上
○:全光線透過率が93.2%より小さく、93.0%以上
△:全光線透過率が93.0%より小さく、92.7%以上
×:全光線透過率が92.7%より小さい
〈偏光板保護フィルムの偏光解消度の測定〉
偏光板保護フィルムの偏光解消度は、日本分光(株)製紫外可視近赤外分光光度計V670を用いて測定した偏光板狭持時の全光線透過率を用いて、下記式により算出した。
【0123】
(クロスニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)/パラレルニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)×100 (%)
各偏光板保護フィルムの偏光解消度を下記基準に従って評価した。
【0124】
◎:偏光解消度が0.1%以下
○:偏光解消度が0.1%より大きく、0.5%以下
×:偏光解消度が0.5%より大きい
〈偏光板保護フィルムの空孔サイズ、空孔密度、空孔間平均距離、空孔間距離のバラつきの測定〉
空孔サイズ:フィルム面の任意の方向を0°として、面内において0°方向から180°方向まで10°おきに、フィルム面に対して垂直に膜厚方向に切断し、その各断面を走査型電子顕微鏡(S−4300、(株)日立製作所製)で撮影し、無作為に20個の空孔を選択し、それらの平均直径を偏光板保護フィルムの平均直径と空孔サイズした。一つの空孔の直径は、フィルム断面図を見た際に面方向をx方向、厚さ方向をy方向としたとして、x方向とy方向の最長直径の平均値として求めた。
【0125】
各偏光板保護フィルムの空孔サイズを下記基準に従って評価した。
◎:空孔サイズが50nm以下
○:空孔サイズが50nmより大きく、100nm以下
×:空孔サイズが100nmより大きい
空孔密度は、上記の走査型電子顕微鏡写真を用いて、まず流延時に支持体側であった面の平均線を引き、次いでそれと平行な線を空孔が存在しなくなる境界に引き、任意のフィルム面10μm間と二つの直線(支持体側であった平均線と、それと平行な線)の間の領域に存在する空孔の体積を求め、当該領域中の空孔体積を空孔密度として求めた。
【0126】
空孔の体積は、空孔の数と上記で示した空孔サイズから一個当たりの空孔体積を略球形状として算出した。空孔サイズと同様に、0°方向から180°方向まで10°おきに切断した面の空孔密度をそれぞれ求め、それらの平均値を偏光板保護フィルムの空孔密度とした。
【0127】
各偏光板保護フィルムの空孔密度を下記基準に従って評価した。
◎:空孔密度が10vol%以上〜50vol%未満
○:空孔密度が3vol%以上〜10vol%未満
△:空孔密度が1vol%以上、3vol%未満
×:空孔密度が1vol%未満、50vol%より大きい
空孔間平均距離は、上記の走査型電子顕微鏡写真を用いて、無作為に20個の空孔を選択し任意の隣り合った2つの空孔を略球として見て、中心を直線状で結んだ際、互いに向き合った外縁同士の距離を求め、空孔間距離とし、それらの平均値として算出した。空孔の平均直径と同様に、0°方向から180°方向まで10°おきに切断した面の空孔間平均距離をそれぞれ求め、それらの平均値を偏光板保護フィルムの空孔間平均距離とした。
【0128】
各偏光板保護フィルムの空孔間平均距離を下記基準に従って評価した。
○:空孔間平均距離が0.1nm以上、100nm以下
×:空孔間平均距離が0.1nm未満、100nmより大きい
空孔間距離のバラつきは、上記の空孔間平均距離の測定の際に求めた空孔間距離の最大値と最小値の差を算出し、空孔間距離のバラつきとした。
【0129】
各偏光板保護フィルムの空孔間距離のバラつきを下記基準に従って評価した。
◎:空孔間距離のバラつきが5nm以下
○:空孔間距離のバラつきが5nmより大きく、20nm以下
×:空孔間距離のバラつきが20nmより大きい
(偏光板の作製)
作製した偏光板保護フィルムNo.101〜113と、コニカミノルタオプト製KC6UA−SWを50℃2NのKOH水溶液を用いて60秒間ケン化処理を行い、水洗、乾燥させ、以下のように偏光板加工を行った。
【0130】
厚さ、75μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させこれをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g、水100gからなる45℃の水溶液に浸漬し一軸延伸(温度55℃、延伸倍率5倍)した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0131】
次いで、前記偏光子の両側に前記ケン化済み保護膜(KC6UA−SWと偏光板保護フィルムNo.101)を、水糊を用いて、両保護膜で偏光子をサンドイッチする形にして圧力20〜30N/cm、搬送スピードは約10m/分で貼合し、70℃で約2分間、次いで60℃で約2分の乾燥処理を行い、偏光板No.101を作製した。なお、偏光板保護フィルムNo.101は、流延製膜時に支持体側の面と反対側の面が偏光子と接するように貼りつけた。偏光板保護フィルムNo.101の代わりに偏光板保護フィルムNo.102〜113を用いた以外は偏光板No.101と同様にして、偏光板No.102〜113を作製した。
【0132】
(偏光板の評価)
〈偏光板耐久性の測定〉
上記方法で作製した偏光板No.101〜113をそれぞれ1000mm四方に切りだし、23℃55%RHの雰囲気下で24時間調湿した後、60℃90%RHの雰囲気下に1000時間置き、100mm四方にカットして偏光板ピースを100枚作製し、平行透過率と直交透過率を測定し、下記式に従って偏光度を算出した。
偏光度P=(((H0−H90)/(H0+H90))^0.5)×100 (%)
H0 :平行透過率
H90:直交透過率
平行透過率と直交透過率は王子計測機器(株)製位相差測定装置KOBRA−WRを用いて、波長550nmで測定した。
【0133】
この偏光度を用いて、各偏光板の偏光板耐久性を下記基準に従って評価した。
【0134】
◎:偏光板ピースの偏光度の最大値と最小値の差が5%以内
○:偏光度バラつきが5%より大きく、10%以内
×:偏光度バラつきが10%より大きい
(液晶表示装置の作製)
作製した偏光板No.101〜113を、SONY社製BRAVIA KDL−46HX800を用いて、以下のように液晶表示装置を作製した。
【0135】
SONY社製BRAVIA KDL−46HX800の液晶パネルの背面側偏光板を剥離した。次いで、予め当該液晶パネルのサイズに裁断した偏光板No.101〜113を視認側偏光板とクロスニコル状態になり、かつ、液晶セルとは反対側に偏光板保護フィルムNo.101〜113がくるように液晶パネルの背面側に貼りつけた。バックライトユニットの最表面に、偏光軸が背面側偏光板No.101〜113の透過軸と一致するようにDBEF−D2(3M社製)をセットし、液晶表示装置No.101〜113を作製した。
【0136】
(液晶表示装置の評価)
〈正面輝度〉
バックライトを点灯させた状態で白表示を画面で表示させ、コニカミノルタセンシング製CS2000を用いて1mの距離から正面輝度を測定した。
【0137】
正面輝度を製品の輝度を基準に、下記基準に従って判断した。
【0138】
◎:製品比で0.2%以上
○:製品比で0%より大きく〜0.2%未満
×:製品比で0%以下
【0139】
【表2】

【0140】
【表3】

【0141】
表2、3に示した結果から明らかなように、本発明の偏光板保護フィルムは光線透過率について優れており、また、該フィルムが具備された偏光板の湿熱環境時の偏光板耐久性について優れており、該偏光板を、該偏光板保護フィルムをバックライト側に向けて背面側偏光板として液晶表示装置に使用した際に正面輝度を高める効果があることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルを主成分とするフィルムであって、少なくとも片側の表面近傍に空孔を有し、該空孔サイズが1nm以上100nm以下であり、空孔密度が1〜50vol%であり、空孔間平均距離が0.1〜100nmであり、空孔間距離バラつきが20nm以下であることを特徴とする偏光板保護フィルム。
【請求項2】
全光線透過率が92.7%より大きく、下記式で示される偏光解消度が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の偏光板保護フィルム。
(クロスニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)/(パラレルニコルの2枚の偏光板にフィルムを挟んだ際の透過率)×100 (%)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の偏光板保護フィルムの製造方法であって、セルロースエステルを溶媒に溶解したドープを支持体上に流延した後、SP値が水よりも該セルロースエステルに近い溶媒、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒で、流延から120秒以内に接触処理することを特徴とする偏光板保護フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記SP値が水よりも該セルロースエステルに近い、または該セルロースエステルに対し水よりも接触角が低い溶媒が、エタノールまたはイソプロピルアルコールを含有することを特徴とする請求項3に記載の偏光板保護フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−37162(P2013−37162A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172708(P2011−172708)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】