説明

偏光板用粘着剤組成物

【課題】液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置の色むら・白抜け現象の発生を防止できる粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、カルボキシル基含有単量体bと、アセトアセチル基含有単量体cと、ジアルキル置換アクリルアミド単量体dとの共重合体Aと硬化剤Bとからなり、硬化後のゲル分率80〜99%であり、かつ粘着剤層を形成した場合の20℃におけるその貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上であり、ガラス転移点温度(Tg)が−50℃以上であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の液晶セルなどの光学部品に偏光板を貼着するために用いる粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置を構成する液晶セルは、所定の方向に配向した液晶成分を2枚のガラス基板で挟み、これらのガラス基板の外側に光学用粘着剤組成物から形成された粘着剤層を介して偏光板または偏光板と位相差板との積層体などの光学機能性フィルムを貼着してなるものである。近年、車両搭載用、屋外計器用およびパソコンなどのディスプレイまたはテレビなどの表示装置の軽量化および薄型化により、液晶表示装置が広く使用されるようになり、その需要はますます増加傾向にある。それに伴い液晶表示装置の使用環境も、屋内外を問わず非常に過酷になってきている。
【0003】
液晶表示装置に使用される偏光板は、ポリビニルアルコール系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルムで挟んだ3層構造を有しているが、それらの材料の特性から寸法安定性に乏しい。また、偏光板などの光学機能性フィルムは延伸によって成形されているため、経時による伸縮が起こり易い。このため、液晶表示装置においては、光学機能性フィルムの伸縮により生じる内部応力を、粘着剤層が吸収・緩和することができないと、光学機能性フィルムに作用する残留応力の分布が不均一となり、特にその周縁部に応力が集中する。その結果、液晶表示装置の周縁部が中央より明るくなったり、または暗くなったりし、液晶表示装置に色むら・白抜け現象が発生する原因になる。
【0004】
また、液晶表示装置に色むら・白抜け現象が発生する他の要因として、応力によって光学機能性フィルムや粘着剤層に発生する光学的な歪(複屈折の発生など)が考えられる。
【0005】
上記の問題点を解決するために多くの手段が検討されてきた。例えば、特許文献1では、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするポリマーと架橋剤とからなる粘着剤組成物であって、硬化後のゲル分率が30〜60%のものが開示されている。しかしながら、この技術では、偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板である場合には、十分に色むらおよび白抜けを抑えることができない。
【0006】
特許文献2では、特定の分子量を有する(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするポリマーと架橋剤とからなる粘着剤組成物であって、硬化後のゲル分率が45〜95%(実施例では55〜72%)のものが開示されている。しかしながら、この技術では、偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板である場合には、十分に色むらおよび白抜けを抑えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−34781公報
【特許文献2】特開2005−325340公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、液晶表示装置を構成する偏光板に使用する粘着剤組成物であって、偏光板の伸縮に起因する液晶表示装置のサイズ依存性のない色むら・白抜け現象の発生を防止できる粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の本発明によって上記目的が達成されることを見いだした。
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、カルボキシル基含有単量体bと、アセトアセチル基含有単量体cと、ジアルキル置換アクリルアミド単量体dとの共重合体Aと硬化剤Bとからなり、硬化後のゲル分率80〜99%であり、かつ粘着剤層を形成した場合の20℃におけるその貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上であり、ガラス転移点温度(Tg)が−50℃以上であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物を提供する。
【0010】
上記本発明においては、前記共重合体Aにおける単量体の使用割合が、単量体a〜dの合計を100質量%としたときに、単量体bが0.5〜8質量%、単量体cが0.5〜5質量%、単量体dが1〜10質量%、および残りが単量体aであること;前記硬化剤Bが、金属キレート化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物およびアジリジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であり、その使用量が共重合体A100質量部当たりそれぞれ0.01〜5質量部であること;前記硬化剤Bとして、共重合体A100質量部当たり0.01〜1質量部の金属キレート化合物と、共重合体A100質量部当たり0.1〜5質量部のビスフェノールF型化合物(化合物X)またはビフェニル型化合物(化合物Y)とを併用すること;前記化合物Xまたは化合物Yの重量平均分子量が、2000未満であり、エポキシ当量が、200以下であること;および前記偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本発明の粘着剤組成物を液晶表示装置の液晶セルを構成するガラス基板と偏光板、特に図1に示す如き層構成のディスコティック液晶がコートされている偏光板、および図2に示す如き延伸フィルム、例えば、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板との間の粘着剤層の形成に用いることにより、液晶表示装置において、図3に示すような特有の額縁型或いは対角型の色むら・白抜け現象の発生を装置のサイズに依存することなく効果的に防止することができる。図3aは黒表示画面の周辺部が図のように白くなる現象を示し、図3bは黒表示画面の対角部が図のように白くなる現象を示している。なお、図2では便宜上ヨウ素ドープPVAの両面が延伸フィルムに接しているが、この図2に限定されず、延伸フィルムの一方が未延伸フィルムであってもよい。
本発明の粘着剤組成物は、上記偏光板の伸縮によって発生する応力を緩和するだけでなく、同時にその応力によって上記偏光板に発生した光学的な歪をバランスよく補正すると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ディスコティック液晶がコートされた偏光板を含む液晶パネルを説明する図。
【図2】延伸フィルムを用いた偏光板を含む液晶パネルを説明する図。
【図3】液晶パネルにおける白抜け現象を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また、「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0014】
本発明で使用する共重合体Aは、(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、カルボキシル基含有単量体bと、アセトアセチル基含有単量体cと、ジアルキル置換アクリルアミド単量体dとの共重合体である。該共重合体Aを構成する単量体の割合は、単量体a〜dの合計を100質量%としたときに、単量体bが0.5〜8質量%、単量体cが0.5〜5質量%、単量体dが1〜10質量%、および残りが単量体aであることが好ましい。
【0015】
前記単量体bの使用割合が0.5質量%未満であると、共重合体Aの架橋剤による架橋度合いが少なく、ゲル分率が80%以上にならなくなり、十分に色むらおよび白抜けを抑えることができない。一方、前記単量体bの使用割合が8質量%を超えると架橋剤添加後のゲル化を促進して、ゲル分率を80〜99%の範囲に制御することが難しく、さらに耐久性において剥がれ易くなるため好ましくない。前記単量体cの使用割合が0.5質量%未満であると、十分に色むらおよび白抜けを抑えることができない。一方、前記単量体cの使用割合が5質量%を超えると重合後の共重合体Aの粘度安定性に劣るため好ましくない。前記単量体dの使用割合が1質量%未満であると、弾性率が下がるため、色むらおよび白抜けを十分抑えることができなく、耐久性も劣り、一方、前記単量体dの使用割合が10質量%を超えると重合後の共重合体Aの粘度安定性に劣るため好ましくない。
【0016】
前記単量体aとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族環を有するモノマーが挙げられる。これらは単独でも或いは組み合わせてもよい。前記単量体bとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチルアクリレートなどが挙げられ、これらのモノマーbはいずれも粘着剤の分野において公知であり、公知のモノマーbはいずれも本発明で使用することができる。さらにモノマーbとしてはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマーも使用することができる。
【0017】
前記単量体cとしては、例えば、アセトアセチル基含有単量体としては、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、2−シアノアセトアセトキシエチルメタクリレート、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)メタクリルアミド、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ビニルなどが挙げられる。このうち特にアセトアセトキシエチルアクリレートおよびアセトアセトキシエチルメタクリレートが好ましい。
前記単量体dとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミドなどが挙げられる。その他、必要に応じてヒドロキシエチルアクリレートなどの水酸基含有モノマーも本発明で使用することができる。
【0018】
上記単量体a〜dを共重合して得られる共重合体Aの重量平均分子量(GPC測定、標準ポリスチレン換算)が100万〜200万であり、好ましい重量平均分子量は130万〜180万である。重量平均分子量が100万未満であると、粘着剤組成物とし、かつ粘着剤層を形成した場合、その粘着剤層の耐久性が不十分となる。一方、重量平均分子量が、200万を超えると色むら・白抜け現象の発生の抑制が不十分であるので好ましくない。
【0019】
本発明で使用する共重合体Aは、上記分子量を有するとともに、ガラス転移点温度(Tg)(計算値)が、−50℃以上であり、−50℃〜0℃であることが好ましい。共重合体AのTgが−50℃よりも低いと、該共重合体Aに低分子量化合物(可塑剤)を添加したときに共重合体Aが軟化しすぎて、該共重合体Aを用いて粘着剤組成物とし、かつ粘着剤層を形成した場合、その粘着剤層の耐久性が不十分となる。
【0020】
一方、共重合体AのTgが0℃を超えると、共重合体Aの分子量を100万以上にしたときに、該共重合体Aに低分子量化合物を添加しても、共重合体Aに粘着性が発現せず、好ましい粘着剤としての性能が得られない。なお、本発明におけるTgとは、共重合体Aの合成に使用したモノマーからの計算値である。
【0021】
上記条件を満たす共重合体Aは、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などにより製造することができるが、上記共重合体Aが溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記共重合体Aが溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。この溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0022】
また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、共重合体Aの分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0023】
本発明で使用する硬化剤Bとしては、例えば、1分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、エポキシ系化合物またはブチル化メラミン化合物などを使用することができる。粘着剤組成物の耐久性をより優れたものとできる点において、金属キレート化合物とビスフェノールF型化合物(化合物X)との併用、または金属キレート化合物と2官能以上のグリシジル基を有するビフェニル型化合物(化合物Y)との併用が好ましい。
【0024】
上記金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロムおよびジルコニウムなどの多価金属がアセチルアセトンやアセト酢酸エチルに配位した化合物が挙げられ、好ましくはアルミキレート化合物およびチタンキレート化合物が挙げられる。その使用量は共重合体A100質量部当たり0.01〜1質量部が好ましい。
【0025】
前記化合物Xとしては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン化合物のジグリシジルエーテルおよびこれらの縮重合物が挙げられ、前記ビフェニル型化合物(化合物Y)としては、2官能以上のグリシジル基を有するビフェニル型化合物が挙げられる。上記化合物Xおよび化合物Yとしては、重量平均分子量2,000未満、エポキシ当量200以下の化合物が好ましく、重量平均分子量が2,000以上となると、粘着剤組成物との相溶性が悪くなり、架橋密度も下がり耐久性が劣るので好ましくない。また、エポキシ当量が200を超える場合も粘着剤組成物との相溶性が悪くなり架橋密度も下がるため好ましくない。上記化合物X、Yの使用量は共重合体A100質量部当たり0.1〜5質量部が好ましい。使用量が0.1質量部未満であると、架橋密度が下がり、色むらも悪くなり、一方、使用量が5質量部を超えると架橋過剰になるため耐久性に劣る。
【0026】
上記化合物Xの具体例としては、例えば、商品名JER807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エポキシ当量170、Mw350)、商品名JER806(ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エポキシ当量165、Mw350)などが挙げられる。また、前記化合物Yとしては、例えば、商品名JERYX4000(ビフェニル型エポキシ樹脂:エポキシ当量186、Mw354)などが挙げられる。
【0027】
上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物及びこれらイソシアネート化合物をトリメチロールプロパンなどと付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、さらにポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどを付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートなどが挙げられる。その使用量は共重合体A100質量部当たり0.01〜5質量部が好ましい。
【0028】
上記硬化剤Bの含有量は、前記共重合体A100質量部あたり0.01〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量部である。上記含有量が、0.01質量部未満の場合は、粘着剤組成物の凝集力が低くなり、上記範囲内と比べて耐久性が劣る。一方、その使用量が5質量部を超える場合は、得られる粘着剤組成物が凝集力過多となり、貼着する偏光板の剥れの原因になる。
【0029】
本発明の粘着剤組成物は、さらに低分子量化合物を含み得る。好ましい低分子量化合物は、芳香族基を2個含有する化合物であり、例えば、安息香酸エステル系としてのジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ベンジルベンゾエート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジベンゾエートなどが挙げられる。なお、「芳香族基」の個数の数え方は、ナフタレン環などの縮合環は1個と数える。上記低分子量化合物の含有量は、上記共重合体A100質量部あたり3〜50質量部であり、好ましい含有量は、共重合体A100質量部あたり20〜50質量部である。
【0030】
本発明の粘着剤組成物は、さらに帯電防止剤を含有し得る。帯電防止剤としては、例えば、界面活性剤、アルカリ金属塩、イオン性液体などが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。帯電防止剤の使用量は、上記共重合体A100質量部あたり0.2〜10質量部であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0031】
本発明の粘着剤組成物は、さらにシランカップリング剤を含有し得る。これらのシランカップリング剤はいずれも粘着剤の分野において公知であり、公知のシランカップリング剤はいずれも本発明で使用することができる。シランカップリング剤の含有量は、共重合体A100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0032】
本発明の粘着剤組成物は、さらに粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。また、本発明の粘着剤組成物の製造方法自体は公知の方法でよく特に限定されないが、有機溶剤を含んだ溶液形態であることが好ましく、この場合、粘着剤層の形成が容易となる。
【0033】
本発明の粘着剤組成物の硬化後のゲル分率は80〜99%である。このような非常に高いゲル分率は、弾性率を高くすることが可能であるが、従来の粘着剤ではゲル分率80〜99%の範囲に設定すると、架橋が過剰になる傾向があるため耐久性において剥がれが生じていた。しかし、本発明では鋭意検討した結果、前記単量体aと、前記単量体bと、前記単量体cと、前記単量体dとの共重合体Aと硬化剤として金属キレート化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、アジリジン系化合物を最適な範囲で選択すること、または金属キレート化合物と前記化合物Xまたは化合物Yとを併用することで、ゲル分率が80〜99%の範囲内でも耐久性が良好であり、さらに弾性率を高くすることで偏光板の収縮を抑えて色むらおよび白抜け防止性の優れた粘着剤を提供することを可能にした。上記ゲル分率が80%未満であると、弾性率も低くなり、偏光板の収縮を抑えることができずに必然的に色むらおよび白抜けの劣る粘着剤になる。
【0034】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤層を形成した場合におけるその貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上である。このような非常に高い貯蔵弾性率は、前記単量体aと、前記単量体bと、前記単量体cと、前記単量体dとの共重合体Aと硬化剤Bとして金属キレート化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、アジリジン系化合物を最適な範囲で選択こと、または金属キレート化合物と前記化合物Xまたは化合物Yとを併用することで、ゲル分率が80〜99%の範囲に設定することによって達成された。上記貯蔵弾性率が1.0×105Pa未満であると、偏光板の収縮を抑えきれずに、装置のサイズに依存することなく、色むらおよび白抜けが劣るため好ましくない。
【0035】
本発明の粘着剤組成物は、偏光板用の粘着剤として適しており、本発明の粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成した偏光板は、高温或いは高温高湿下においてもガラス基板などから剥れることなく、粘着剤層に発泡が生じることのない特性(耐久性)と、長期間時間が経過しても容易に剥離でき、また、剥離後において基板などに残留物が生じない特性(リワーク性)とを併せ持つ。
【0036】
すなわち、上記偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板である場合には、コートされていない偏光板(一般的には、無処理トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、通常接触角は60〜70°)に比べて、85〜95°と接触角が高く、粘着剤との密着性が劣るため、粘着剤層とパネルガラス表面との間の発泡または偏光板の浮き、剥がれが発生しやすく、かつ白抜けが発生しやすいなどの課題があるが、本発明の粘着剤組成物の使用により上記課題が解決された。
【0037】
ディスコティック液晶がコートされている偏光板とは、TACフィルム上に、下記に示すような側鎖の末端に架橋基を有しているトリフェニレン系のディスコティック化合物が架橋し、配向状態に保たれたディスコティック層が有する視野角拡大フィルムと偏光フィルムとが一体化してなる偏光板であり、例えば、ポリビニルアルコール系偏光子(PVA)の両面に、それぞれTACフィルムを貼り合わせてなる偏光フィルムの片面に、例えば、ディスコティック液晶からなる視野角拡大機能層を塗布により設けたもの、あるいは視野角拡大フィルムを接着剤で貼り合わせたものなどを挙げることができる。特に、ディスコティック液晶がコートされた偏光板は、モニター(通常7〜26インチ)用に使用され、上記で説明したように視野角を拡大するために使用されている。
【0038】

【0039】
また、上記偏光板が、延伸フィルム、例えば、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とした偏光板である場合には、一般的な偏光板(無処理TACフィルムを使用したもの)に比べて、フィルムが延伸されているために収縮率が大きく、特に、対角型に色むら・白抜け現象が発生し、それを抑制するのに不十分であるなどの課題がある。上記偏光板は、テレビ(通常15〜60インチ)用に使用され、色相、コントラストを向上させ、位相差をなくすためのものであり、このような課題が本発明の粘着剤組成物の使用により解決された。
【0040】
本発明の粘着剤組成物は、通常使用されている塗布装置、例えば、ロール塗布装置などを用いて、上記偏光板の片面或いは両面に塗工し、塗工層を乾燥することにより粘着剤層を形成するのに使用する。また、必要に応じて、粘着剤層を加熱架橋または紫外線などの光による硬化をすることもできる。また、本発明の粘着剤組成物を、まず、シリコーン樹脂などの剥離剤を表面にコートしたポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの保護フィルムに粘着剤組成物を塗布して乾燥し粘着剤層を形成した後に、該粘着剤層に上記偏光板を貼り合わせる方法でも使用できる。
【0041】
本発明の粘着剤組成物の塗布量は、乾燥後の粘着剤層の厚さが、10〜50μmとなる程度であることが好ましい。上記粘着剤層の厚さを上記範囲内とすることにより、より耐久性とリワーク性のバランスがとれた偏光板となる。以上の本発明の粘着剤組成物を用いた偏光板は、通常使用されている手段にて、液晶表示装置のガラス基板上に貼着することができる。
【実施例】
【0042】
次ぎに実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」とあるのは質量基準である。
<共重合体溶液の調製>
[共重合体溶液1〜25]
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、ブチルアクリレート100部、アクリル酸1部、N,N−ジメチルアクリルアミド5部、アセトアセトエトキシメタクリレート1部、アゾビスイソブチロニトリル0.1部および酢酸エチル100部を加えた。これを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、68℃で8時間反応させ、重量平均分子量150万のアクリル共重合体の溶液を得た。さらに酢酸エチルで希釈して固形分20%の共重合体溶液1を得た。同様にして表1に記載のモノマー組成で共重合体溶液2〜25を得た。これらの共重合体溶液には、シリコンおよび低分子量化合物を含む例も含まれている。
【0043】

【0044】
BA:アクリル酸ブチル
AA:アクリル酸
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
DMMA:N,N−ジメチルメタクリルアミド
AAEM:メタクリル酸アセトアセトキシエチル
AAEA:アクリル酸アセトアセトキシエチル
MA:アクリル酸メチル
EA:アクリル酸エチル
PHEA:アクリル酸フェノキシエチル
MAAc:メタクリル酸
BZA:ベンジルアクリレート
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
低分子量化合物A:ベンジルベンゾエート
低分子量化合物B:ジプロピレングリコールジベンゾエート
低分子量化合物C:ジエチレングリコールジベンゾエート
低分子量化合物D:ブチルベンジルフタレート
*:さらにシリコンX−22−2475の0.1部を含む
【0045】
上記において、重量平均分子量(Mw)の値は、GPC(GEL Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。詳しくは、共重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0046】
<粘着剤組成物、偏光板の作製および評価>
[実施例1〜14、比較例1〜11]
共重合体1の固形分100部に対して、コロネートL0.1部、アルミキレートA0.1部、KBM−803の0.1部を混合した溶液をシリコーン樹脂コートされたPETフィルム上に塗布後、90℃で乾燥することによって溶媒を除去し、厚さ25μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を形成した面に、厚さ180μmの偏光板(EWV)を貼り合わせた後、23℃、50%RHの雰囲気で7日間養生することにより、実施例1の偏光板を作製した。該実施例1と同様にして表2に記載の成分を混合して実施例2〜14および比較例1〜11の偏光板を得た。なお、各例の内ではAS剤を含む例もある。
【0047】

【0048】

【0049】
コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製ポリイソシアネート
テトラッドC:三菱瓦斯化学(株)製ポリグリシジル化合物
アルミキレートA:川研ファインケミカル(株)製アルミニウムトリスアセチルアセトネート
アルミキレートD:アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)
チタンキレート:松本ファインケミカル(株)製 チタンアセチルアセトネート
TAZM:相互薬工(株)製 トリメチロールプロパン−トリス−(β−アジリジニルプロピオナート
KBM−803:信越化学工業(株)製γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン
KBM−802:信越化学工業(株)製γ−メルカプトプロピルメチルトリメトキシシラン
KBM−403:信越化学工業(株)製3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
X−41−1810:信越化学工業(株)製メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー
X−41−1805:信越化学工業(株)製メルカプト系アルコキシオリゴマー
AS剤:トリフルオロメタンスルフォン酸リチウム(帯電防止剤)
JER807:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量170、Mw350)
JER806:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量165、Mw350)
JERYX4000:ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量186、Mw354)
EWV:ディスコティック液晶がコートされている偏光板
延伸TAC:延伸トリアセチルセルロースフィルムを使用した偏光板
延伸CAP:延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを使用した偏光板
延伸COP:延伸ポリシクロオレフィン系フィルムを使用した偏光板
【0050】
この偏光板を後述する試験方法にて耐久性、ゲル分率(%)、貯蔵弾性率(Pa)および白抜けの評価を行った。実施例の評価結果は全ての項目で良好であった。評価結果を表3に示す。
【0051】

【0052】
<試験方法および評価基準>
[耐久性試験]
実施例および比較例における偏光板を、それぞれ200mm×300mmに断裁し、PETフィルムを剥離した後、ガラス基板上に貼り付け、オートクレーブ処理を行い、評価用サンプルを作製した。得られた評価用サンプルについて、それぞれ下記項目の試験を行った。
【0053】
(1)80℃
上記評価用サンプルを、80℃(DRY)の雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥れについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
(2)60℃・90%RH
上記評価用サンプルを、60℃・90%RHの雰囲気下に500時間放置した後、発泡および剥れについて目視により確認した。評価基準は下記の通りである。
【0054】
・評価基準
(1)発泡
○:偏光板に発泡が確認されない。
△:偏光板に発泡が僅かに確認された。
×:偏光板に発泡が確認された。
(2)剥れ
○:偏光板に剥れが確認されない。
△:偏光板に剥れが僅かに確認された。
×:偏光板に剥れが確認された。
【0055】
[ゲル分率]
架橋後の粘着剤皮膜を0.2g正確に秤量(W1)して酢酸エチル50mlに1日間浸漬した後、200メッシュの金網を秤量後(W2)ろ過をして可溶分を抽出した。その後乾燥させて不溶部分の重量(W3)を求めた。これら測定値から以下の式を使いゲル分率(重量%)を算出した。
ゲル分率(重量%)=((W3−W2)/W1)×100
【0056】
[貯蔵弾性率]
架橋後の粘着剤皮膜25μmを固体剪断治具に挟み、(株)ユービーエム製Rheogel-E4000を用いて20℃の時の貯蔵弾性率(G´)を周波数1Hzで測定した。
【0057】
[白抜け試験]
実施例および比較例における偏光板を用いた80℃耐久試験後の同試料を2枚クロスニコルにして貼り合わせた後、8inch角および26inch角の試料を作成し、それぞれ液晶モニターのバックライト上に置き、白抜けの状態を目視で観察した。
なお、従来は、小さいサイズの表示画面では、白抜け・色むらの発生が少なくても、表示画面が大きくなると白抜け・色むらの発生が多くなり、一方、大きいサイズの表示画面では、白抜け・色むらの発生が少なくても、表示画面が小さくなると白抜け・色むらの発生が多くなるという課題があり、上記試験を行った。その結果、本発明の粘着剤組成物を用いたものは、表示画面のサイズに依存することなく、白抜け・色むらの発生を有効に防止することができた。
【0058】
・評価基準
○:偏光板に白抜けが観察されなかった。
△:偏光板に白抜けが僅かに観察された。
×:偏光板に白抜けが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、本発明の粘着剤組成物を液晶表示装置の液晶セルを構成するガラス基板と偏光板、特にディスコティック液晶がコートされている偏光板、および延伸フィルム、例えば、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板との間の粘着剤層の形成に用いることにより、液晶表示装置において特有の額縁型或いは対角型の色むら・白抜け現象の発生を効果的に防止することができる。本発明の粘着剤組成物は、上記偏光板の伸縮によって発生する応力を緩和するだけでなく、同時にその応力によって上記偏光板に発生した光学的な歪を、装置のサイズに依存することなくバランスよく補正すると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステル単量体aと、カルボキシル基含有単量体bと、アセトアセチル基含有単量体cと、ジアルキル置換アクリルアミド単量体dとの共重合体Aと硬化剤Bとからなり、硬化後のゲル分率80〜99%であり、かつ粘着剤層を形成した場合の20℃におけるその貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上であり、ガラス転移点温度(Tg)が−50℃以上であることを特徴とする偏光板用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記共重合体Aにおける単量体の使用割合が、単量体a〜dの合計を100質量%としたときに、単量体bが0.5〜8質量%、単量体cが0.5〜5質量%、単量体dが1〜10質量%、および残りが単量体aである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記硬化剤Bが、金属キレート化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物およびアジリジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であり、その使用量が共重合体A100質量部当たりそれぞれ0.01〜5質量部である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記硬化剤Bとして、共重合体A100質量部当たり0.01〜1質量部の金属キレート化合物と、共重合体A100質量部当たり0.1〜5質量部のビスフェノールF型化合物(化合物X)またはビフェニル型化合物(化合物Y)とを併用する請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物Xまたは化合物Yの重量平均分子量が、2000未満であり、エポキシ当量が、200以下である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記偏光板が、ディスコティック液晶がコートされている偏光板、延伸トリアセチルセルロース系フィルム、延伸ポリシクロオレフィン系フィルムまたは延伸セルロースアセテートプロピオネートフィルムを基材とする偏光板である請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299047(P2009−299047A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115735(P2009−115735)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】