説明

偏極電子銃、偏極電子線の発生方法、電子銃の評価方法、及び逆光電子分光方法

【課題】偏極電子ビームを簡便に発生させることができる偏極電子銃、偏極電子線の発生方法、電子銃の評価方法、及び逆光電子分光方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様にかかる偏極電子銃は、レーザ光源11と、レーザ光源からの光を分岐する光分岐手段12と、光分岐手段12で分岐された一方のレーザ光に入射位置に応じた位相差を与える偏光変換素子36と、偏光変換素子36を介して入射した一方のレーザ光を集光するレンズ18と、レンズ18によって集光された一方のレーザ光が他方のレーザ光と同期して入射する半導体のフォトカソード21と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏極電子銃、偏極電子線の発生方法、電子銃の評価方法、及び逆光電子分光方法に関し、特に詳しくはフォトカソードを用いた偏極電子銃、偏極電子線の方法、電子銃の評価方法、及び逆光電子分光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトカソード電子銃は、レーザ光をフォトカソードに照射した時に発生する電子を加速するものである(特許文献1)。この文献では、2本のレーザ光をフォトカソードに入射している。さらに、一方のレーザ光をラジアル偏光にしてレンズで集光することで、金属フォトカソードの仕事関数を実効的に下げている。
【0003】
また、近年、偏極電子銃が注目されている。偏極電子銃では、GaAs半導体がフォトカソードとして利用されている。半導体結晶内部の価電子帯において、バンドギャップに相当するエネルギーの円偏光による電子励起により、二つの電子スピン状態のうち、一方が優位に伝導帯に励起される。GaAs半導体では、バンドギャップに相当するエネルギーの円偏光により、価電子帯から伝導帯へ偏極度50%のスピン偏極電子が励起される。
【0004】
50%を越える偏極度を得るためには、半導体内の価電子帯における2つのスピン状態(重い正孔準位と軽い正孔準位)にある電子をエネルギー的に分離し、一方のスピン状態にある電子を伝導帯へ円偏光により選択的に励起する。
【0005】
スピン偏極電子を取り出す半導体の伝導帯と真空準位の間には、電子親和力のポテンシャル差がある。伝導帯内にあるスピン偏極電子を真空中へ取り出すには、このポテンシャルを乗り越えるか、伝導帯付近まで真空準位を押下る必要がある。
【0006】
上述のポテンシャルを乗り越えることができる伝導帯電子を得るためには、価電子帯からの電子励起の際に、仕事関数(電子親和力と半導体バンドギャップとの和)を越える励起エネルギーを必要とする。仕事関数を越えるエネルギーを電子励起に用いたとき、価電子帯内部の二つのスピン状態の電子を共に励起してしまいスピン偏極度が損なわれる。
【0007】
従来、真空準位を半導体の伝導帯まで押下るためには、半導体表面にセシウムを蒸着している。そして、半導体表面原子とセシウム原子から形成される電気双極子状態を利用して、電子親和力を負の状態(負の電子親和力表面:NEA面)にする手法が用いられている(非特許文献1、特許文献2)
【0008】
NEA面を形成するためには、半導体結晶表面に酸化物、炭化物などの不純物のない、清浄表面が要求される。また、形成したNEA表面も非常に脆く、NEA状態を形成、維持するには、残留ガスを抑制した環境の超高真空が不可欠となっている。従って、NEA面を用いる手法では、実用性が低下してしまうという問題点がある。
【0009】
【特許文献1】特開2008−288099号公報
【特許文献2】特開2007−258119号公報
【非特許文献1】T.Nishitani et al. "Highly polarized electrons from GaAs−GaAsP and InGaAs−AlGaAs strained Superlattice Photocathodes "JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 97,094907−1(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
スピン偏極電子ビームは、GaAs型半導体のバンドギャップエネルギーに相当する円偏光照射による選択励起で得られたスピンの偏った伝導帯電子が、真空準位が伝導帯準位より低い「負の電子親和性(NEA)表面」を介して真空中に引出されることで生成される。しかし、この重要な役割を果たすNEA表面は、真空環境に非常に影響を受け易く、また高電界環境下において電極間で発生する電界放出暗電流によっても容易に劣化し失われる問題がある。
このように、従来の電子銃では、偏極電子ビームを発生させることが困難であるという問題点がある。
【0011】
本発明は、このような事情を背景としてなされたものであって、本発明の目的は、偏極電子ビームを容易に発生させることができる偏極電子銃及び偏極電子線の発生方法、並びに適切に評価することができる電子銃の評価方法及び逆光電子分光方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様にかかる偏極電子銃は、レーザ光源と、前記レーザ光源からのレーザ光を分岐する光分岐手段と、前記光分岐手段で分岐された一方のレーザ光に入射位置に応じた位相差を与える偏光変換素子と、前記偏光変換素子を介して入射した前記一方のレーザ光と、円偏光となった他方のレーザ光とを集光するレンズと、前記レンズによって集光された前記一方のレーザ光と円偏光となった前記他方のレーザ光とが同期して入射する半導体フォトカソードと、を備えるものである。これにより、NEA面が不要となるため、偏極電子ビームを容易に発生させることができる
【0013】
本発明の第2の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記偏光変換素子、又はレンズに入射するレーザ光の少なくとも一方のスポットを円環状にする円環ビーム生成部をさらに備え、前記円環ビーム生成部が、反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置された第1の円錐ミラーと、前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記円錐面の外周を囲むように設けられた反射面を有する第1の対向ミラーと、前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射する第2の対向ミラーと、前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射する第2の円錐ミラーであって、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置された第2の円錐ミラーと、を備えたものである。これにより、レーザ光を集光させることなく、円環ビームを生成することができる。よって、レーザ光を効率よく利用することができる。
【0014】
本発明の第3の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔が可変であることを特徴とするものである。これにより、円環ビームの径を容易に変えることができる。
【0015】
本発明の第4の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記偏光変換素子によって偏光状態がラジアル偏光に変換されたレーザ光が前記円環ビーム生成部に入射することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の第5の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記円環ビーム生成部と、前記偏光変換素子との間に、前記レーザ光を空間的にフィルタリングする空間フィルタ部が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第6の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記半導体フォトカソードにIII−V族半導体が用いられていることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第7の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記半導体フォトカソードがGaAsを含んでいることを特徴とするものである。これにより、効率よく偏極電子線を発生させることができる。
【0019】
本発明の第8の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記半導体フォトカソードが、歪み構造、超格子構造、量子細線構造、又は量子ドット構造を持つことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第9の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とするものである。
【0021】
本発明の第10の態様にかかる偏極電子銃は、上記の偏極電子銃であって、前記偏光変換素子に、TN液晶が用いられていることを特徴とするとするものである。
【0022】
本発明の第11の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、レーザ光源からの光を分岐するステップと、分岐された一方のレーザ光に入射位置に応じた位相差を与えるステップと、前記位相差が与えられた前記一方のレーザ光と、円偏光となっている他方のレーザ光とを集光するステップと、集光された前記一方のレーザ光と前記他方のレーザ光とが同期させて半導体フォトカソードに入射させるステップと、を備えるものである。これにより、NEA面が不要となるため、偏極電子ビームを容易に発生させることができる。
【0023】
本発明の第12の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記レーザ光のスポットを、第1の円錐ミラー、第2の円錐ミラー、第1の対向ミラー、第2の対向ミラーを用いて、円環状にするステップをさらに備え、前記第1の円錐ミラーでは、反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置され、前記第1の対向ミラーは、前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記円錐面の外周を囲むように設けられた反射面を有しており、前記第2の対向ミラーは、前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射し、第2の円錐ミラーでは、前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射し、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置されていることを特徴とするものである。これにより、レーザ光を集光させることなく、円環ビームを生成することができる。よって、レーザ光を効率よく利用することができる。
【0024】
本発明の第13の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔を変えることで、円環の径を調整することを特徴とするものである。これにより、円環ビームの径を容易に変えることができる。
【0025】
本発明の第14の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記入射位置に応じた位相差が与えられることで、レーザ光がラジアル偏光に変換され、前記ラジアル偏光に変換されたレーザ光が前記円環ビームに変換されることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の第15の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記ラジアル偏光となった前記レーザ光が、前記円環ビームになる前に、空間的にフィルタリングされていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の第16の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記半導体フォトカソードにIII−V族半導体が用いられていることを特徴とするものである。
【0028】
本発明の第17の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記半導体フォトカソードがGaAsを含んでいることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の第18の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記半導体フォトカソードが、歪み構造、超格子構造、量子細線構造、又は量子ドット構造を持つことを特徴とするものである。
【0030】
本発明の第19の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とするものである。
【0031】
本発明の第19の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの電子ビーム出射面から入射することを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第21の態様にかかる偏極電子線の発生方法は、上記の偏極電子線の発生方法であって、前記位相差が与えられるステップでは、TN液晶を用いた偏光変換素子が利用されていることを特徴とするものである。
【0033】
本発明の第22の態様にかかる電子銃の評価方法は、(A)レーザ光源からのレーザ光を、入射位置に応じた位相差を与える偏光変換素子に入射させるステップと、(B)前記位相差が与えられたレーザ光を集光して、フォトカソードに入射するステップと、(C)前記フォトカソードからの電子ビームを測定するステップと、(D)前記偏光変換素子に入射するレーザ光の偏光軸を変えて、(A)、(B)、及び(C)のステップを行って、電子ビームを測定するステップとを備えるものである。これにより、電子銃を適切に評価することができる。
【0034】
本発明の第23の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記偏光変換素子が直線偏光をラジアル偏光、又はアジマス偏光にする素子であり、前記直線偏光の偏光軸の向きを変えることで、前記ラジアル偏光と前記アジマス偏光とを切換えることを特徴とするものである。これにより、電子ビーム電流を比較することで、簡便に評価することができる。
【0035】
本発明の第24の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記位相差が与えられたレーザ光に、円偏光のレーザ光を同期させて照射していることを特徴とするものである。これにより、偏極電子線を適切に評価することができる。
【0036】
本発明の第25の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とするものである。
【0037】
本発明の第25の態様にかかる電子銃の評価方法は、前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とするものである。
【0038】
本発明の第27の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記(C)のステップでは、前記電子ビームの偏極度を測定していることを特徴とするものである。
【0039】
本発明の第28の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記電子ビームの偏極度の測定にメラー散乱が利用されていることを特徴とするもである。
【0040】
本発明の第29の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記(B)のステップの前に、第1の円錐ミラー、第2の円錐ミラー、第1の対向ミラー、第2の対向ミラーを用いて、前記レーザ光のスポットを円環状にするステップをさらに備え、前記第1の円錐ミラーでは、反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置され、前記第1の対向ミラーは、前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記円錐面の外周を囲むように設けられた反射面を有しており、前記第2の対向ミラーは、前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射し、第2の円錐ミラーでは、前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射し、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置されていることを特徴とするものである。これにより、レーザ光を集光させることなく、円環ビームを生成することができる。よって、レーザ光を効率よく利用することができる。
【0041】
本発明の第30の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔を変えることで、円環の径を調整することを特徴とするものである。これにより、円環ビームの径を容易に変えることができる。
【0042】
本発明の第31の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記偏光変換素子によって、前記レーザ光がラジアル偏光に変換され、前記ラジアル偏光に変換されたレーザ光が円環状に変換されることを特徴とするものである。
【0043】
本発明の第32の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記ラジアル偏光となった前記レーザ光が、前記円環状のビームになる前に、空間的にフィルタリングされていることを特徴とするものである。
【0044】
本発明の第33の態様にかかる電子銃の評価方法は、上記の電子銃の評価方法であって、前記偏光変換素子に、TN液晶が用いられていることを特徴とするものである。これにより、様々な波長に対応することができる。
【0045】
本発明の第34の態様にかかる逆光電子分光方法は、上記の偏極電子銃で発生した偏極電子ビームを、試料に照射し、試料から放出される光の分布を入射電子のエネルギー、運動量の関数として測定するものである。これにより、試料の非占有電子状態の情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、偏極電子ビームを容易に発生させることができる偏極電子銃、及び偏極電子線の発生方法、並びに、適切に評価することができる電子銃の評価方法、及び逆光電子分光方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。説明の明確化のため、以下の記載は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、当業者であれば、以下の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能であろう。尚、各図において同一の符号を付されたものは同様の要素を示しており、適宜、説明が省略される。
【0048】
発明の実施の形態1.
本発明の実施の形態にかかる電子銃について図1を用いて説明する。図1は、実施の形態1にかかる電子銃100の構成を模式的に示す図である。本実施の形態にかかる電子銃100は、レーザ光84がカソードに入射することによって、電子を発生するフォトカソード電子銃である。そして、電子銃100で発生した電子は、マイクロ波源24からのマイクロ波によって加速される。なお、本実施の形態にかかる電子銃100は、反射型のフォトカソード21を有している。すなわち、電子ビーム出射側からレーザ光を照射している。さらに、フォトカソード21には、半導体材料が用いられている。電子銃100は、偏極した電子を出射する偏極電子銃である。すなわち、電子銃100からは、スピンの向きが揃った電子線が発生する。
【0049】
電子銃100は、レーザ光源11、光分岐手段12、空間フィルタ部13、円環ビーム生成部14、λ/4板15、ミラー17、レンズ18、ミラー37、ビーム合成手段38、偏光制御用電源39、ミラー41、波長変換素子42、空間フィルタ部43、λ/2板44、円環ビーム生成部45、偏光変換素子36、ミラー37、ビーム合成手段38、フォトカソード21、共振器23、及びマイクロ波源24等を有している。
【0050】
レーザ光源11は、直線偏光のレーザ光81を出射する。レーザ光源11としては、例えば、再生増幅器付きのTi:Sapphireレーザを用いることができる。従って、レーザ光源11は、波長790nmのパルスレーザ光を出射する。レーザ光源11は、フェムト秒のパルスレーザ光を出射する。レーザ光源11からの光ビームは、平行光束となって、光分岐手段12に入射する。光分岐手段12は、例えば、ハーフミラーなどのビームスプリッタであり、レーザ光を2つに分岐する。ここでは、説明のため、光分岐手段12で分けられた一方の光ビームをレーザ光82とし、他方の光ビームをレーザ光83とする。レーザ光82は、後述するように、偏光変換素子36によってラジアル偏光になる。
【0051】
レーザ光82は、波長変換素子42に入射する。波長変換素子42は、例えば、非線形光学結晶であり、レーザ光82の波長を変換する。これにより、レーザ光82の波長が長くなる。波長変換素子として、差周波発生(DFG)などの非線形光学素子を用いることが好ましい。差周波発生を用いることで、長波長のレーザ光82を照射することができる。差周波発生によって、例えば、波長3μm〜30μmのレーザ光を発生させる。このように長波長のレーザ光を用いることで、偏極度が損なわれるのを防ぐことができる。
【0052】
例えば、Z偏光を作るレーザ光源がSHG(第二高調波発生)の場合、基本波よりも光子エネルギーが大きいので価電子帯に深く入り込み伝導帯に励起される電子ビームの偏極度が悪化する可能性がある。したがって、例え多光子吸収が起こっても問題ないように長波長側にDFG(差周波発生)を用いて中赤外(波長3〜30μm)を発生させてZ偏光をカソード表面で生成する方が、2つのレーザ光源の機能を分離できる。チタンサファイヤレーザの基本波の790nmは偏極電子の選択的な伝導帯への励起に用いる。中赤外フェムト秒レーザはラジアル偏光化してカソードに集光することで伝導帯の電子を取り出すために実効的な仕事関数を押し下げることのみに用いる。仕事関数は物質の表面を含めた固有の値なので、変化することはない。だが、レーザ誘導電場などの外場によって、実効的に仕事関数を下げることができる。
【0053】
なお、差周波発生(DFG)とは、ω1-ω2=ω3(または1/λ1−1/λ2=/λ3:波長)のように、2つの高エネルギー(高周波数)フォトンが低エネルギーフォトン1つに結合するものである。例えば、λ1=532nm、λ2=810nmとすると、λ3=1550nmとなるため、長波長側の発生に用いられる。非線形結晶は例えば、KTP結晶などは代表的非線形光学結晶の一つでよく使用されており、0.5μm〜4.5μmの可視域から赤外域までの波長変換が可能である(なお、PPKTPは0.4μm〜4.5μm)。しかしながら、上記の非線形光学結晶では、中赤外に届かないため、中赤外用・非線形光学結晶として、AgGaS結晶などを用いることが好ましい。あるいは、コヒレント社製の非線形光学結晶を用いてもよい。
【0054】
波長変換されたレーザ光82は、空間フィルタ部43に入射する。空間フィルタ部43は、フィルタ等を有しており、レーザ光82のスポット形状を整形する。ここでは、空間フィルタ部43が、レーザ光82のスポット形状が円形になるように、整形する。空間フィルタ部43の構成については、後述する。空間フィルタ部43で整形されたレーザ光82はλ/2板44に入射する。λ/2板44は、後述するように、直線偏光のレーザ光の偏光方向を回転させる。すなわち、偏光軸の向きを変えることができる。
【0055】
λ/2板44を通過したレーザ光82は、円環ビーム生成部45に入射する。円環ビーム生成部45は、円形のスポットを有するレーザ光82から円環ビームを生成する。すなわち、レーザ光83は、円環ビーム生成部45によって、輪状のビームに変換される。円環ビーム生成部45から出射したレーザ光82の断面は、中空のリング状になっている。なお、円環ビーム生成部45の構成に付いては、後述する。
【0056】
円環ビーム生成部45から出射したレーザ光82は、偏光変換素子36に入射する。偏光変換素子36は、レーザ光82に入射位置に応じた位相差を与える。すなわち、偏光変換素子36は、入射位置に応じて異なる位相だけ光を遅延する。偏光変換素子36から出射したレーザ光82は、偏光変換素子36における入射位置に応じて、異なる偏光方向になっている。例えば、液晶を利用して、偏光変換素子36を形成することも可能である。
例えば、ARCoptix社製シータセルを用いることができる。これにより、波長350〜1700nmのレーザ光に対応することができる。
【0057】
このシータセルでは、TN(Twisted Nematic)液晶が用いられている。このシータセルを用いた偏光変換素子36の構成については後述する。また、偏光変換素子36として、ナノフォトン社製のZpolを用いることも可能である。
【0058】
この偏光変換素子36は、直線偏光を偏光軸が放射状になるラジアル偏光に変換する。正確には、偏光変換素子36に直線偏光のレーザ光82を入射させることで、ラジアル偏光に近い偏光状態となる。すなわち、直線偏光をラジアル偏光に近似する擬似ラジアル偏光にすることができる。この偏光変換素子36を、レンズ18と組み合わせることで、Z方向(光軸方向)に大きな電場成分を持つZ偏光を生成することができる。Z偏光に変換されたレーザ光82は、光の進行方向に振動する。この偏光変換素子36、及びZ偏光については、後述する。
【0059】
偏光変換素子36を通過したレーザ光82は、ミラー37に入射する。ミラー37は、レーザ光82の光軸に対して45°傾斜している。従って、ミラー37は、レーザ光82を、ビーム合成手段38の方向に反射する。ミラー37からのレーザ光82は、ビーム合成手段38に入射する。ビーム合成手段38は、例えば、ハーフミラーやダイクロイックミラーであり、レーザ光82を後述するレーザ光83と合成する。そして、レーザ光82は、レーザ光83と重ね合わさった状態で伝播していく。
【0060】
次に、光分岐手段12で分岐されたレーザ光83について説明する。光分岐手段12を透過したレーザ光83は、空間フィルタ部13に入射する。空間フィルタ部13は、空間フィルタ部43と同様の構成を有しており、レーザ光83を最低次モードのガウシアンにする。
【0061】
空間フィルタ部13からレーザ光83は、円環ビーム生成部14に入射する。円環ビーム生成部14は、円環ビーム生成部45と同様の構成を有しており、レーザ光83のスポットを円環状にする。すなわち、レーザ光83は、円環ビーム生成部45によって、輪状のビームに変換される。円環ビーム生成部45から出射したレーザ光82の断面は、中空のリング状になっている。さらに、円環ビーム生成部45からの円環ビームと円環ビーム生成部14からの円環ビームは、同じ径となっている。すなわち、円環ビーム生成部45からの円環ビームの外径は、円環ビーム生成部14からの円環ビームの外径と一致しており、円環ビーム生成部45からの円環ビームの内径は、円環ビーム生成部14からの円環ビームの内径と一致している。
【0062】
円環ビーム生成部14からのレーザ光83は、λ/4板15に入射する。λ/4板15は、直線偏光のレーザ光83を、円偏光に変換する。λ/4板15を通過したレーザ光83は、ビーム合成手段38に入射する。そして、レーザ光83は、ビーム合成手段38を通過して、レーザ光82と合成される。このとき、レーザ光83は、同径のレーザ光82と同軸上で合成される。また、レーザ光83は、レーザ光82と同期している。従って、レーザ光83は、レーザ光82が空間的に重ね合わされる。以下、ビーム合成手段38で重ね合ったレーザ光をレーザ光84とする。
【0063】
ビーム合成手段38で合成されたレーザ光84は、ミラー17に入射する。ミラー17で反射された円環状のレーザ光84は、レンズ18に入射する。レンズ18は、レーザ光84は、レンズ18によって屈折され、フォトカソード21に入射する。すなわち、レンズ18は、レーザ光84を集光して、フォトカソード21に照射する。
【0064】
ミラー17、及びレンズ18は、中心部分がくり抜かれた中空形状になっている。また、円環ビーム生成部45及び円環ビーム生成部14によって、レーザ光84が輪状になっている。このため、中空のミラー17、及びレンズ18を用いた場合でも、レーザ光のほとんどがフォトカソード21に入射する。換言すると、ミラー17、及びレンズ18は、輪状のレーザ光84に対応する中空部分を有している。よって、輪状のレーザ光84は、ミラー17、及びレンズ18の中空部分には、入射しない。これにより、レーザ光84のほとんどがフォトカソード21に入射する。従って、レーザ光84の利用効率の低下を防ぐことができる。
【0065】
レンズ18を通過したレーザ光84は、共振器23の開口部に入射する。レーザ光84を共振器23の空胴部分を通過して、フォトカソード21に入射する。レーザ光84は、レンズ18によって、フォトカソード21の表面に集光されている。すなわち、レンズ18の焦点位置にフォトカソード21の表面が配置されている。従って、レーザ光84の集光点は、フォトカソード21の表面となる。フォトカソード21にレーザ光84が入射すると、光電効果によって、電子が発生する。なお、レーザ光84の光軸は、フォトカソード21の表面と垂直になっている。すなわち、ミラー17はフォトカソード21に対して45°傾斜している。よって、レーザ光84は、フォトカソード21に直入射する。フォトカソード21は、例えばGaAsなどの半導体材料によって形成されている。すなわち、フォトカソード21は、半導体フォトカソードである。
【0066】
共振器23には、マイクロ波源24で発生したマイクロ波が入射されている。共振器23は、空胴共振器であり、入力されたマイクロ波に応じた定在波を発生する。すなわち、RF共振器である共振器23には、フォトカソード21で発生した電子を加速するための電場が発生している。フォトカソード21で発生した電子は、共振器23内の電場で加速される。すなわち、所定の速度の電子ビーム60となって共振器23から出射する。ここでは、共振器23で発生する定在波に応じて、レーザ光パルスのタイミングを調整する。すなわち、マイクロ波源24からのマイクロ波とレーザ光のパルスを同期させる。これにより、共振器23内に加速電場が生じているタイミングで、フォトカソード21から電子が発生する。従って、電子ビーム60が効率よく加速される。そして、加速された電子ビーム60は、ミラー17、及びレンズ18の中空部分を通過する。これにより、電子ビーム60に対して外乱が生じるのを防ぐことができる。すなわち、電子ビーム60がミラー17やレンズ18などの構造物を通過しなくなる。ミラー17、及びレンズ18が電子ビーム60と干渉しない。このため、電子ビーム60の品質の劣化を防ぐことができる。
【0067】
このようにして得られた電子ビーム60は、所定の経路を通過して、X線自由電子レーザ(XFEL)、逆コンプトン散乱によるフェムト秒X線パルス光源、エネルギー回収型ライナック(ERL)、リニアコライダー、フェムト秒時間分解電子線回折、逆光電子分光法などに利用される。また、ナノ秒以下の高速時間分解の電子顕微鏡、電子線回折、パルス電子描画装置などに利用される。なお、電子ビーム60の経路中に存在するミラ−17、及びレンズ18は、真空中に配置される。すなわち、ミラー17、及びレンズ18は真空チャンバー内に配設される。従って、ビーム合成手段38からのレーザ光84は、真空チャンバーに設けられたウィンドウを介して、ミラー17に入射する。このように、ビーム合成手段38までの光学系を大気中に配設している。これにより、光学系の調整等を容易に行うことができる。よって、利便性を向上することができる。
【0068】
ここで、偏光変換素子36、及びレンズ18を用いることによって、レーザ光84の焦点位置では、Z方向の電場が発生している。フォトカソード21の表面にZ方向の電場をかけることで、ショットキー効果又はトンネル効果が発生する。ショットキー効果又はトンネル効果で仕事関数を押し下げることができる。すなわち、真空準位を押下ることができ、NEA面が不要となる。よって、実用性を向上することができる。
【0069】
また、フォトカソード材料として半導体材料は、金属材料に比べて量子効率が高いため、大きな電流の電子ビーム60を生成することができる。さらに、半導体のバンドギャップに応じた波長のレーザ光を用いれば、エミッタンスを低減することができる。すなわち、フォトカソード21の表面から放出される電子のエネルギーを低くすることができる。これにより、熱エミッタンスを低減することができる。よって、高品質の電子ビーム60を発生させることができる。
【0070】
50%を越える高いスピン偏極度を得るため、価電子帯で二つの電子スピン状態が分離した超格子構造、歪み構造、歪み超格子構造を持った半導体をフォトカソード材料に用いる。例えば、歪みGaAs、AlGaAs−GaAs超格子半導体、InGaAs−AlGaAs歪み超格子構造半導体、GaAs−GaAsP歪み超格子構造半導体、GaAs−InAlGaAs歪み超格子構造半導体を用いることができる。このように、GaAsを含む半導体材料を用いることで、効率よく偏極電子線を発生させることができる。もちろん、GaAsを含む材料以外の半導体材料を用いてもよい。例えば、III−V族の半導体を用いることができる。もちろん、フォトカソード21には、NEA面が形成されていない。
【0071】
本実施の形態では、偏光変換素子36を用いてZ偏光を発生させている。レーザ光82によるZ方向の電場を利用して、仕事関数によるポテンシャル障壁を薄くすることで、トンネル効果により電子を発生させている。すなわち、Z偏光をフォトカソード21の表面に入射している。よって、簡便な構成で、高品質の電子ビーム60を発生させることができる。また、レーザー光82によるZ方向の電場を利用することで、従来のセシウム原子から構成されるNEA表面が不要になる。従来のNEA表面が不要となることで、利便性を向上させることができ、実用的な偏極電子銃を作成することができる。
【0072】
図2乃至図4を用いて、フォトカソード21の表面近傍でのポテンシャル構造について説明する。図2乃至図4は、フォトカソード半導体材料の表面付近でのポテンシャル構造を示す図である。図2は、真性半導体のポテンシャル構造を示し、図3は、p型半導体のポテンシャル構造を示し、図4は、n型半導体のポテンシャル構造を示している。図2乃至図4において、Aは伝導帯、Bは価電子帯、Cはフェルミ準位、Dはバンドギャップ、Eは仕事関数、Fは電子親和力、Gは表面バンドベンディングである。
【0073】
p型又はn型にドーピングしたとき、余剰キャリアによって、表面にバンドベンディングGが生じる。このバンドベンディングGは、フェルミ準位CがバンドギャップD内に価電子帯上端(p型)、又は伝導帯下端(n型)から数十meV付近に形成する。このため、バンドベンディング量は、バンドギャップDのおおよそ半分程度となる。すなわち、ドーピングを施した半導体では、真性半導体に比べて、仕事関数と電子親和力がバンドベンディング量相当、p型では小さく、n型では大きくなる。例えば、GaAs半導体の場合、バンドギャップ1.43eV、電子親和力が4.07eVであり、p型にドーピングすると、電子親和力は3.4eV程度になる。
【0074】
このように、フォトカソード材料に用いる半導体表面のポテンシャル構造は、真性、p型、n型半導体で異なる。さらにフォトカソード21に用いる半導体材料と構造でも、表面ポテンシャル構造に関わる電子親和力とバンドギャップも異なる。例えば、GaAsを含むIII−V族半導体の場合、(III族元素がAl、Ga、In、V族元素がN、P、As、Sbの組み合わせからなる半導体)、電子親和力が3〜4eV、バンドギャップは1〜3eVの範囲を持つ。p型、n型のドーピングと半導体種の選択で、実効的な電子親和力2.5〜4.8eVを持つIII−V族半導体が可能となる。GaAs系半導体材料の選択により、2.5eV程度まで、電子親和力を下げることができる。
【0075】
次に、図5を用いて、GaAs半導体によるスピン偏極電子の伝導帯への励起について説明する。図5は、偏光を用いたp型半導体フォトカソードからの電子生成の概念図である。図5において、Aは伝導帯、Bは価電子帯、Dはバンドギャップ、Hは縮退、Iは縮退分離を示している。
【0076】
GaAs半導体は、価電子帯Bで異なる電子スピン状態が縮退している。GaAs半導体へ、バンドギャップDのエネルギーを持つ円偏光のレーザ光83を照射すると、3:1の割合((3−1)/(3+1)=偏極度50%)でスピン状態の違う電子が伝導帯Aに励起される(図5中の左側参照)。50%以上の高いスピン偏極度を持つ伝導帯電子を得るためには、価電子帯内の電子スピン状態の縮退分離Iが必要になる。この縮退は、超格子構造(量子細線や量子ドットなども含む)による量子閉じ込め効果や歪み効果による摂動効果で分離させることができる。
【0077】
このように、高スピン偏極度のためには、半導体の価電子帯の異なるスピンの縮退状態を分離する必要がある。このため、量子閉じ込め効果や摂動効果を利用した超格子(他、量子細線、量子ドット等)、歪み構造を持つ半導体を用いる。すなわち、フォトカソード21の半導体材料を超格子構造、歪み構造、量子ドット構造、又は量子細線構造にする。従来技術では、超格子や歪み構造を持つ半導体フォトカソードは、原子層厚レベルのセシウム原子とガリウム原子から形成されるNEA表面を要する。このため、装置内を超高真空にするだけでなく、半導体表面がNEA表面を形成する前に、加熱や水素洗浄などの化学的表面洗浄化により、半導体そのものに与えるダメージが実用上の問題となっている。
【0078】
この半導体に、円偏光のレーザ光を照射し、価電子帯から一方のスピン電子を伝導帯に励起した状態を作る。この半導体へZ偏光を照射することで生じる強電界により、伝導帯内のスピン電子が表面をトンネルし、真空中に取り出される。
【0079】
Z偏光を用いて、フォトカソード半導体内からスピン電子を取り出す方法について図6を用いて、詳細に説明する。図6は、Z偏光を用いたp型半導体フォトカソードからの電子生成の概念図である。図6において、Jは電場のないとき、KはZ偏光レーザによる電場、LはZ偏光照射のときの真空準位を示している。Mは電子励起用レーザ光(円偏光レーザ光)、NはZ偏光レーザによる強電場領域、Oは励起、Pは伝導帯電子、Qはトンネル効果、Rは表面バンドベンディング、Sはイメージポテンシャルを示している。
今の場合、p型に高ドープした表面をもつ半導体カソード、または価電子帯から伝導帯へ電子がハードポンプされた状態の半導体カソードを想定しているために、余剰キャリア
の存在によって、金属的に振るまうイメージポテンシャルSが半導体カソードであっても存在する。
【0080】
Z偏光により、半導体表面から真空方向に強い電場がかかり、真空準位が押し下げられる(L参照)。このとき、電子励起用レーザ光Mで価電子帯から励起された伝導帯電子Pが、表面のポテンシャルの壁をトンネルし(Q参照)、真空中で脱出できるようになる。また、p型半導体では、表面のバンドベンディングRにより、電子親和力が真性半導体に比べて小さくなっているため、Z偏光照射のとき、より効率的なトンネル効果Qが得られる。
【0081】
このように、Z偏光を用いた強電界によるフォトカソード半導体内のスピン偏極した伝導帯電子取り出し方法により、実用的なスピン偏極電子源を実現することができる。
【0082】
また、Erドープ・フェムト秒ファイバーレーザの2倍波をレーザ光源11としても用いてもよい。これにより、フェムト秒のパルスレーザ光を発生させることができる。この場合、一歩のレーザ光83は、そのままの波長でピコ秒にストレッチして偏極電子源フォトカソードの価電子帯から伝導帯への偏極スピン電子の選択的な励起に用いる。もう一方のレーザ光82は、中赤外のレーザを作る為に、まず光学パラメトリック増幅器(OPA)で近赤外域のシグナル光(1.2〜1.5μm)とアイドラー光(1.6〜2.1μm)発振させる、それらを同軸でAgGaS結晶に集光して、差周波で8μmの波長のレーザ光82を得る。また、このシグナル光とNd:YAGレーザを同軸でAgGaS結晶に集光すれば10μmの波長域も出すことができる。
【0083】
ここで、重要なのは30μmではモノサイクルが100fsとなるため、フーリエ限界パルスが100fsになるようにAgGaS結晶に入れるシグナル光をファーストライト(FASTLITE)社製DAZZLER(登録商標)などの位相制御フィルタで、分散制御することである。このとき、フォトカソード21までの光学系の分散も補償するように、分散制御する。さらに、ハーフサイクルになるようにして、中赤外レーザを発生させることで、このハーフサイクルのレーザ誘起Z偏極電界(Z偏光)をカソード上で発生させることができる。よって、レーザ誘起Z偏極電界の向きが時間により完全に反転しないようにできる。このため、レーザ誘起Z偏極電界(Z偏光)放出型の電子銃には理想的な状態がカソード表面近傍で実現できる。
【0084】
また、波長を10μm帯に選ぶと、グレーティングチューナブルCOの光学系を用いることができる。グレーティングチューナブルCOレーザーの帯域は、9.2um〜10.8umにある。この帯域では、レンズ等の光学部品が豊富にラインナップされており、開発コストを抑えることができる。
【0085】
次に、直線偏光をZ偏光に変換するための偏光変換素子36について、図7〜図9を用いて説明する。図7(a)は、偏光変換素子36の構成を模式的に示す平面図である。図7(b)は、偏光変換素子36を通過したレーザ光82の偏光状態を説明するための図である。図7(c)は、偏光変換素子36を通過したレーザ光82の別の偏光状態を説明するための図である。図8は、偏光変換素子36、及びレンズ18によって変化する偏光状態を説明するための斜視図である。図9は、偏光変換素子36、及びレンズ18によって変化する偏光状態を説明するための側面図である。なお、図8、及び図9では、説明の簡略化のため、偏光変換素子36、及びレンズ18のみを示し、その他の構成部品(例えば、ミラー17、ビーム合成手段38等)については省略している。また、図7〜図9では、レーザ光82の進行方向をZ方向とし、Z方向に垂直な平面をXY平面としている。X方向、及びY方向は互いに直交する方向である。
【0086】
まず、図7を用いて偏光変換素子36の構成について説明する。ここでは、説明の簡略化のため、偏光変換素子36がナノフォトン社製Zpolであるとして説明する。偏光変換素子36は、例えば、ガラス等からなる透明基板の上に波長板を設けることによって形成される。偏光変換素子36は、放射状に分割された4つの領域を有している。図7(a)に示すように、この4つの領域を分割領域36a〜分割領域36dとする。すなわち、偏光変換素子36は、4つの分割領域36a〜36dを備えている。ここでは、上側に分割領域36aが配置され、下側に分割領域36bが配置され、左側に分割領域36cが配置され、右側に分割領域36dが配置されている。分割領域36a〜36dは、中心点に対して対称に分割されている。従って、4つの分割領域36a〜36dは、放射状に配置されている。このように、放射状に分割された4つの領域が分割領域36a〜36dとなる。それぞれの分割領域の大きさは等しくなっている。分割領域36a〜36dは周方向の全体にわたって設けられている。従って、分割領域36a〜36dのそれぞれは、中心点に対応する内角が90°の扇形となる。
【0087】
分割領域36a〜36dにはそれぞれ異なる方向の光学軸を有する1/2波長板が設けられている。すなわち、分割領域36a〜36d毎に、光の振動方向が異なっている。図7(a)には、分割領域36a〜36dにおける光学軸が矢印で示されている。ここで、それぞれの分割領域の光学軸は、隣の分割領域の光学軸から45°ずれている。すなわち、Y軸の方向を基準とすると、図7に示すように、分割領域36aにおける波長板の光学軸の角度は0°となり、分割領域36bの光学軸は90°となり、分割領域36cの光学軸は−45°となり、分割領域36dの光学軸は45°となっている。
【0088】
従って、中心点に対して互いに対向する分割領域に設けられている1対の波長板は、光学軸が直交する。例えば、分割領域36aの光学軸は0°であり、分割領域36aに対向する分割領域36bの光学軸は90°となっている。また、分割領域36cの光学軸と、分割領域36dの光学軸は、互いに直交している。換言すると、互いに対向する分割領域に設けられている一対の波長板において、光学軸の角度の差が90°となっている。このように、分割領域36a〜36dの中心点を挟んで対角に配置された一対の分割領域には、光学軸が90°異なる波長板が設けられる。
【0089】
1/2波長板は、入射光に1/2波長の位相差を与えて出射する。従って、直線偏光の方位が1/2波長板における光学軸に対して成す角度をθとすると、1/2波長板を通過した光は、元の直線偏光から2θだけ回転した直線偏光の光となる。例えば、1/2波長板の光学軸と、直線偏光の偏光軸とが45°ずれている場合、1/2波長板は、偏光軸が90°ずれた直線偏光を出射する。
【0090】
図7(b)では、偏光軸がY方向に沿った方向である直線偏光が入射した場合を示している。すなわち、Y方向と平行な方向の偏光面を有するレーザ光82が入射すると、図7(b)に示す偏光状態となる。従って、入射偏光方位が0°の直線偏光が入射した時に出射される出射光の偏光方位について説明する。すなわち、分割領域36aの光学軸と、入射光の偏光軸が一致している場合について説明する。図7(b)には、各分割領域から出射される出射光の偏光軸が矢印でそれぞれ示されている。分割領域36a〜分割領域36dから出射される直線偏光の偏光軸は放射状になっている。
【0091】
具体的には、中心点に対して対向する一対の分割領域から出射される直線偏光の偏光軸が平行になっている。そして、対向する一対の分割領域では振動方向が反対になっている。また、隣接する分割領域から出射される光の偏光軸は90°ずれている。例えば、分割領域36a及び分割領域36bから出射する光の偏光軸は、0°である。また、分割領域36c及び分割領域36dから出射される光の偏光軸は、90°である。従って、入射位置に応じて偏光軸の角度が変化して、出射偏光変位が放射状となる。このように、偏光変換素子36は、入射位置に応じて入射光の偏光状態を変化させ、所望の偏光状態になるよう制御する。
【0092】
上記の偏光変換素子36に直線偏光を入射させることで、ラジアル偏光に近い偏光状態となるよう制御することができる。具体的には、レーザ光82の光軸と、偏光変換素子36の中心点を一致させる。そして、分割領域36aの光学軸と直線偏光の偏光軸を一致させる。このようにすることで、直線偏光をラジアル偏光に近似する擬似ラジアル偏光にすることができる。また、上記の偏光変換素子36に対して偏光軸がX方向の直線偏光を入射することによって、偏光軸が円形に近い形状となる。従って、アジマス偏光に近い偏光状態とすることができる。すなわち、アジマス偏光に近似する擬似アジマス偏光にすることができる。このときのXY平面における偏光軸の分布は図7(c)に示すようになる。なお、上記の説明では、4分割の偏光変換素子36について説明したが、分割数はこれに限られるものではない。例えば、2分割や8分割の偏光変換素子36を用いることもできる。
【0093】
偏光変換素子36の分割数を増加させることによって、よりラジアル偏光又はアジマス偏光に近い偏光状態とすることができる。すなわち、分割領域の数を増やすこと偏光軸がよりなめらかに変化する。換言すると、分割数を無限大にすると、理想的なラジアル偏光状態又は理想的なアジマス偏光状態を生成することができる。さらに、電場ベクトルのZ成分を高くするためには、分割数を8以上とすることが好ましく、16以上とすることがより好ましい。
【0094】
具体的には、例えば、分割数が16の場合、波長板の光学軸を隣の分割領域から11.25°ずらす。これにより、対向する分割領域で、光学軸が直交する。そして、この偏光変換素子36に一定角度の偏光軸を入射させると、直線偏光が擬似ラジアル偏光又は擬似アジマス偏光となって出射される。
【0095】
また、図1で示したλ/2板44を回転することで、偏光変換素子36に入射する直線偏光の偏光軸が変化する。すなわち、光軸を回転中心としてλ/2板44を回転することで、λ/2板44の遅相軸の向きが変わる。λ/2板44を回転することで、直線偏光の偏光軸を調整することができる。これにより、ラジアル偏光とアジマス偏光の割合を調整することができる。すなわち、偏光軸の向きをY方向に近づけるほど、ラジアル偏光の割合が高くなり、偏光軸の向きをX方向に近づけるほどアジマス偏光の割合が高くなる。
【0096】
また、上記の説明では、偏光変換素子36がZpolであるとして、説明したが、上述の通り偏光変換素子36を液晶素子によって形成することも可能である。この場合、2枚の透明板に所定の液晶を挟持する。そして、透明板に透明電極を形成する。例えば、4等分や8等分の扇形の透明電極を放射状に配置する。各透明電極に電圧を印加することで、液晶が駆動する。ここで、電極毎に異なる電圧を供給することで、遅らせる位相を異ならせることができる。すなわち、入射した電極に応じて、レーザ光82が異なる位相だけ遅延する。印加する電圧を調整することで、Zpolを用いた場合と同様の効果を得ることができる。さらに、広い波長範囲に対して利用可能となる。なお、液晶素子を用いた場合、位相を調整する補償板をさらに設けてもよい。もちろん、2以上の素子を用いて、直線偏光をラジアル偏光に変換してもよい。
【0097】
次に、図8、及び図9を用いて、Z偏光を生成する方法について説明する。図8、及び図9の矢印はその位置における電気ベクトルの振動方向を模式的に示したものである。上述のように偏光変換素子36を透過する前のレーザ光は直線偏光であるので全て同じ方向(Y方向)に電気ベクトルが振動している。そして、偏光変換素子36を通過することによって、その位置に応じて電気ベクトルの振動方向が変化する。図9に示すように、上の分割領域36aを透過した光の電気ベクトルは上方向に振動している。一方、下の分割領域36bを透過した光の電気ベクトルは下方向に振動している。なお、図9において、中心を透過する光の振動方向は説明のため上方向として図示している。
【0098】
図8、及び図9に示すように、偏光変換素子36によって擬似ラジアル偏光を生成する。すなわち、図7(b)に示したように、対向する分割領域では、振動方向が180°反対向きになっている。すなわち、偏光変換素子36を通過することによって、偏光軸が放射状になっている。このような偏光状態のレーザ光82をレンズ18で集光する。
【0099】
偏光変換素子36を光路上に配置すると、上側の分割領域36aを透過した光と下側の分割領域36bを透過した光とで位相にずれが生じる。すなわち、上下に対向した配置された分割領域36aと分割領域36bとで光の位相が180°ずれる。レーザ光82から直線偏光が出力されているとすると、電気ベクトルの直交する成分の位相は一致している。直線偏光が偏光変換素子36を通過した場合、分割領域36aと分割領域36bとでは、電気ベクトルの位相が180°ずれることになる。すなわち上の分割領域36aと下の分割領域36bとで電気ベクトルの振動方向が反対方向になる。上の分割領域36aと下の分割領域36bとでは、偏光方向が反対方向となる。すなわち、上の分割領域36aを透過した光と下の分割領域36bを透過した光とは同じ直線上の直線偏光であるが、その振動の向きが反対となる。
【0100】
次に偏光変換素子36を透過した光がレンズ18により試料上に集光された状態について、図9を用いて詳細に説明する。ここでは光の電気ベクトルの振動方向を光の進行方向に対して垂直な方向の成分(Y方向)と平行な方向の成分(Z成分)に分けて考える。なお、図8において、光の進行方向に対して垂直な方向(Y方向)を上下方向とし、光の進行方向に対して平行な方向(Z方向)を左右方向として説明する。
【0101】
上の分割領域36aを透過した光はレンズ18により下方向に傾くよう屈折される。従って、光の電気ベクトルの振動方向は図9に示すように右斜め上となる。中心を透過した光はレンズ18により屈折されないので、振動方向はそのまま上方向のままである。下の分割領域36bを透過した光はレンズ18により上方向に傾くよう屈折される。従って、光の電気ベクトルの振動方向は右斜め下となる。このように位置に応じて異なる振動方向を持つ光が試料上に集光される。
【0102】
レンズ18を透過した後において、電気ベクトルの振動方向は上の分割領域36aでは右斜め上で、下の分割領域36bでは右斜め下であるため、上下方向の成分がそれぞれ反対である。これにより、フォトカソード21上に集光された状態において、電気ベクトルの振動方向における上下方向の成分は、打ち消し合う。従って、光の進行方向と垂直方向の電気ベクトルの成分はほぼ0となる。すなわち、試料上において、光の電気ベクトルは進行方向と垂直な方向に振動しなくなる。
【0103】
一方、電気ベクトルの振動方向は上の分割領域36aでは右斜め上で、下の分割領域36bでは右斜め下であるため、左右方向の成分が同じ右方向である。これにより、電気ベクトルの左右方向の成分については、上の分割領域36aと下の分割領域36bとで強め合う。従って、光の進行方向と平行方向の電気ベクトルの成分は右方向に強調される。すなわち、光の電気ベクトルは進行方向と平行な方向に振動していることになる。このように偏光変換素子36によって位相がずれたレーザ光をレンズ18で集光することによって、電気ベクトルが進行方向と平行な方向に振動した状態で、レーザ光82をフォトカソード21に照射することができる。なお、Z方向の電場の成分は、レンズ18の焦点距離やNA(開口数)の2乗に応じて増大する。すなわち、焦点距離が短く、NAが大きいレンズ18を用いることによって、Z方向の成分を増加させることができる。
【0104】
このように、Z偏光のレーザ光82がフォトカソード21に入射する。よって、フォトカソード表面には、Z方向に強い電場が発生する。これにより、フォトカソード21の実効的な仕事関数を低下させることができる。すなわち、真空準位を強い電場で押下げることで、仕事関数によるポテンシャル障壁を薄くし、トンネル効果により電子を真空中に引出すことができる。よって、NEA面を形成しなくても、偏極度の高い偏極電子ビームを発生させることが可能になる。
【0105】
次に、空間フィルタ部43の構成について、図10を用いて説明する。図10は、空間フィルタ部43の構成を示す図である。なお、空間フィルタ部13は、空間フィルタ部43と同じ構成を有しているため、空間フィルタ部13については、説明を省略する。すなわち、以下に示す説明は、空間フィルタ部13についても共通である。
【0106】
空間フィルタ部43は、均一でないスポットを有する光ビームL1を整形する。そして、理想的な円形スポットの光ビームL2とする。そのため、空間フィルタ部43は、放物面鏡61とピンホール62と放物面鏡63とを有している。放物面鏡61、及び放物面鏡63は、反射面が放物面となっている凹面鏡である。そして、放物面鏡61、63はレーザ光82の光軸に対して傾いて配置されている。
【0107】
光ビームL1は、放物面鏡61に入射する。光ビームL1は、放物面鏡61によって、ピンホール62の方向に反射される。さらに、放物面鏡61は、光ビームL1を集光する。そして、放物面鏡61の集光点に、ピンホール62が配置されている。もちろん、ピンホール62の開口部は、光軸上に配置されている。ピンホール62の開口部に入射した光ビームL1のみ、ピンホール62を通過して、放物面鏡63に入射する。すなわち、ピンホール62の開口部の外側に入射した光は、遮光される。
【0108】
ピンホール62を通過した光は、放物面鏡63によって、λ/2板44(図1参照)の方向に反射される。さらに、放物面鏡63は、光ビームL2を平行光束にする。ピンホール62の開口部は、例えば、直径が50〜100μm程度の円形になっている。そして、光ビームL1のスポットよりもピンホールの径が小さくなっている。従って、レーザ光82を整形することができる。すなわち、光ビームL2のスポット形状は,理想的な円形になっている。このように、フィルタを用いることで、Z偏光の生成に不要な成分などを除去することができる。ラジアル偏光の最低次のモードの比率を上げることができる。
【0109】
次に、円環ビーム生成部45について、図11(a)を用いて説明する。図11(a)は、円環ビーム生成部45の構成を示す図である。なお、円環ビーム生成部14は、円環ビーム生成部45と同じ構成を有しているため、円環ビーム生成部14については、説明を省略する。なお、図11(a)では、左右方向が、光軸方向(Z方向)になっている。
【0110】
図11(a)に示すように、円環ビーム生成部45は、円形の光ビームL2を円環ビームL3にする。そのため、円環ビーム生成部45は、第1の円錐ミラー51、第1の対向ミラー52、第2の対向ミラー53、第2の円錐ミラー54を有している。第1の円錐ミラー51及び第2の円錐ミラー54は、直円錐形状を有している。さらに、第1の円錐ミラー51には、第1の透明板55に支持されている。また、第2の円錐ミラー54は第2の透明板56に支持されている。すなわち、第1の円錐ミラー51には、第1の透明板55が取り付けられ、第2の円錐ミラー54には、第2の透明板56が取り付けられている。第1の対向ミラー52と第2の対向ミラー53の間の光路中に、第1の透明板55、及び第2の透明板56が配置されている。第1の対向ミラー52と第2の対向ミラー53の間に挟まれるように、第1の円錐ミラー51と第2の円錐ミラー54が配置されている。
【0111】
λ/2板44からの光ビームL2は、第1の対向ミラー52の開口部を通って、第1の円錐ミラー51に入射する。なお、光ビームL2のスポットは、空間フィルタ部43によって円形になっている。第1の円錐ミラー51は、反射面が円錐面になっているアキシコンミラーである。第1の円錐ミラー51は、直円錐形状を有している。そして、円錐の頂点が光軸上に配置されている。すなわち、円錐面がL2の方向を向いて配置されている。また、第1の円錐ミラー51に入射する前の光ビームL1と円錐の軸は平行になっている。従って、第1の円錐ミラー51に入射した光ビームL2は、360°方向に反射される。すなわち、円錐面全周で反射された光ビームL2は、円錐の軸から離れていく方向に進んでいく。さらに、光ビームL2は平行光束であるため、円錐の軸と垂直な全方向に光が反射される。従って、第1の円錐ミラー51で反射された光ビームL2は光軸から遠ざかっていく
【0112】
そして、第1の円錐ミラー51で反射された光ビームL2は、第1の対向ミラー52に入射する。第1の対向ミラー52の反射面は、第1の円錐ミラー51の反射面と対向配置されている。第1の対向ミラー52の反射面は、第1の円錐ミラー51の反射面の全周に対向している。また、第1の対向ミラー52の反射面は、第1の円錐ミラー51の反射面と平行になっている。すなわち、第1の対向ミラー52の反射面は、円錐面となっている。このように、第1の対向ミラー52は、円錐面を反射面とする回転体であり、第1の円錐ミラー51を内包するような形状になっている。
【0113】
円錐面の仮想的な頂点は、光軸上に配置されている。従って、円形の光ビームL2のスポット中心が、円錐面の頂点と一致する。第1の円錐ミラー51は第1の対向ミラー52の方向に光ビームL2を反射する。第1の対向ミラー52には、第1の円錐ミラー51に入射する前の光ビームL2が通過する開口部(貫通穴)が設けられている。すなわち、円錐面の頂点近傍には、反射面が設けられておらず、円錐面の円錐軸に沿った貫通穴が設けられている。開口部は、光ビームL2が第1の円錐ミラー51に入射できるよう、第1の円錐ミラー51に入射する前の光ビームL2の径よりも大きくなっている。そして、第1の対向ミラー52の反射面が第1の円錐ミラー51の反射面の全周を覆うように、向かい合って配置されている。また、第1の円錐ミラー51に入射する前の光ビームL1と、第1の対向ミラー52の円錐軸は平行になっている。
【0114】
そして、第1の対向ミラー52において、円錐面の頂点と底面の間で光ビームが反射される。第1の対向ミラー52が光ビームを反射することで円環状の光ビームが形成される。また、第1の対向ミラー52によって反射された円環ビームは、第1の円錐ミラー51に入射する前の光ビームL1と同じ方向に伝播する。すなわち、第1の円錐ミラー51と第1の対向ミラー52の2つの反射鏡で、光ビームの進行方向を変えずに、円形のスポットを円環状にすることができる。ここで、円環ビームの内径は、第1の円錐ミラー51の外径よりも大きくなっている。従って、円環ビームは、第1の円錐ミラー51の外側を通過する。
【0115】
なお、第1の円錐ミラー51は、第1の透明板55によって支持されている。第1の透明板55は、透明で平らな薄板である。例えば、石英やガラスによって、第1の透明板55を形成することができる。第1の透明板55は、第1の円錐ミラー51の底面に取り付けられている。第1の透明板55は、第1の円錐ミラー51の底面よりも大きくなっている。すなわち、第1の透明板55は、第1の円錐ミラー51からはみ出している。また、第1の透明板55は、円環ビームよりも大きくなっている。従って、円環ビームは第1の透明板55を通過して、第2の対向ミラー53に入射する。
【0116】
また、第1の透明板55を通過した円環ビームは、第2の透明板56を介して、第2の対向ミラー53に入射する。第2の対向ミラー53の基本的な形状は、第1の対向ミラー52と同じになっている。すなわち、第2の対向ミラー53は、その反射面が円錐面となっている回転体である。そして、第2の対向ミラー53の反射面は、第1の対向ミラー52の反射面を向いている。従って、第1の対向ミラー52で反射された光ビームは、第1の透明板55、及び第2の透明板56を通過した後、第2の対向ミラー53で反射される。
【0117】
そして、第2の対向ミラー53において、円錐面の頂点と底面の間で光ビームが反射される。第2の対向ミラー53は、光軸の方向に向けて光を反射する。すなわち、第2の対向ミラー53で反射された光ビームは、光軸と垂直な角度で伝播して、光軸に近づいていく。さらに、第2の対向ミラー53は360°の回転体であるため、光ビームは反射された光は、全方位から光軸に向かって進行していく。そして、第2の対向ミラー53で反射された光ビームは、第2の円錐ミラー54に入射する。
【0118】
第2の円錐ミラー54の基本的構成は、第1の円錐ミラー51と同じである。すなわち、第2の円錐ミラー54の反射面は、円錐面となっている。なお、第2の円錐ミラー54の底面は、第1の円錐ミラー51の底面と対向配置されている。すなわち、第2の円錐ミラー54の反射面と、第1の円錐ミラー51の反射面とは、反対方向を向いて配置されている。第2の円錐ミラー54の反射面は、第2の対向ミラー53の反射面と平行になっている。第2の円錐ミラー54の反射面は、第2の対向ミラー53の反射面と対向配置されている。
【0119】
従って、第2の対向ミラー53で反射された光ビームは、第2の円錐ミラー54で反射されて、偏光変換素子36の方向に向かって進む。このとき、360°の全方位から光ビームが、第2の円錐ミラー54の反射面に近づいていく。そして、第2の円錐ミラー54において、円錐面の頂点と底面の間で光ビームが反射される。これにより、第2の円錐ミラー54で反射された光ビームは円環ビームになる。
【0120】
このように、反射面が円錐面となっている4つのアキシコンミラーを用いることで、円形ビームを円環ビームに変換することができる。また、レーザ光を集光させることなく、円環ビームを得ることができる。例えば、フェムト秒パルスレーザの場合、レーザ光の集光点では、空気がプラズマ化してしまうおそれがある。このように、4つのアキシコンミラーを用いることで、集光することなく、円環ビームを得ることができる。よって、空気のプラズマ化を防ぐことができ、レーザ光を効率よく利用することができる。また、4つのミラーを用いることで、第1の円錐ミラー51よりも小さい径の円環ビームを生成することができる。もちろん、レーザ光の強度が低い場合は、アキシコンレンズやリングスリット(輪帯)を用いて円環ビームを生成してもよい。また、円環ビーム生成部14、及び円環ビーム生成部45の一方に対してのみ、アキシコンミラーを用いてもよい。
また、レンズ等の透過方式の光学系を用いると分散によりパルス幅が伸びてしまうため、4つのアキシコンミラーを用いることが好ましい。石英で2次分散は40fs/mm程度(波長800nm付近)である。したがって、アキシコンレンズを用いた場合、DAZZLERなどのAO変調器で予めネガティブ・チャープをかけておき、石英を透過してついた分散を補償して、光学系を通ったあとでフーリエ限界パルスを作るということをしなければならなくなる。しかし、そのようなことは面倒であるために、アキシコンミラーを用いた反射型で作ることで容易に円環ビームを生成することができる。今回のアキシコンミラーペアは厚さ数mmの窓を透るのでAO変調器やコンプレッサーのグレーティング間隔を変えるなどで若干の負分散にしておくための分散補償が必要であるが、大した量ではないので今の場合は問題にならない。
【0121】
さらに、第2の円錐ミラー54と第1の円錐ミラー51との距離が可変になっている。例えば、第1の円錐ミラー51に対して、第2の円錐ミラー54を遠ざけたり、近づけたりできるようになっている。これにより、円環の径を変化することができる。すなわち、第2の円錐ミラー54を第1の円錐ミラー51に近づけると、第2の対向ミラー53と第2の円錐ミラー54の間の光路長が長くなる。これにより、光ビームが第2の円錐ミラー54の円錐面の頂点近傍に入射する。よって、円環ビームの径を小さくすることができる。反対に、第2の円錐ミラー54を第1の円錐ミラー51に遠ざけると、第2の対向ミラー53と第2の円錐ミラー54の間の光路長が短くなる。これにより、光ビームが第2の円錐ミラー54の円錐面の底面近傍に入射する。よって、円環ビームの径を大きくすることができる。第2の円錐ミラー54を支持する第2の透明板56を光軸に沿ってスライド移動させることで、円環ビームの径を調整することができる。もちろん、第1の円錐ミラー51をスライド移動させてもよい。これにより、所望の径の円環ビームを容易に得ることができる。また、第1の対向ミラー52と第2の対向ミラー53との間隔を変えることで、円環ビームの径を調整してもよい。すなわち、第1の円錐ミラー51、第1の対向ミラー52、第2の対向ミラー53、第2の円錐ミラー54のうちの1つを光軸方向に沿って変位させれば、ビーム径を調整することができる。
【0122】
また、第1の円錐ミラー51、第2の円錐ミラー54を支持する第1の透明板55、第2の透明板56を、第1の対向ミラー52と、第2の対向ミラー53の間に配置している。これにより、簡便な構成で、円環ビームを得ることができる。第1の透明板55、56
を薄い透明板で構成することで、波長分散によるパルス光への影響を低減することができる。例えば、アキシコンレンズを用いる場合に比べて、波長分散によるパルス幅の変化を低減することができる。なお、上記の説明では、4枚のミラーを用いたが、これ以外の数のミラーを用いてもよい。すなわち、金属反射面での反射を偶数回にするよう、ミラーの数を偶数個にする。これにより、レーザ光のモードが変化するのを防ぐことができる。
【0123】
図11(b)に示すような構成で円環ビームを生成してもよい。図11(b)に示す構成では、図11(a)に比べて、第2の透明板56、第2の対向ミラー53、第2の円錐ミラー54が無い構成となっている。すなわち、図11(b)に示す円環ビーム生成部45は、図11(a)に示す構成から、第2の透明板56、第2の対向ミラー53と第2の円錐ミラー54とを取り除いた構成になっている。第1の対向ミラー52と、第1の透明板55の距離を変えることで、円環の径が変化する。図11(b)の場合、内径が第1の円錐ミラー51よりも大きい円環ビームを生成する。リング幅の細いビームを生成することができ、NAを実質的に大きくすることができる。また、図11(a)に比べて部品点数が少なくなる。
【0124】
なお、上記の説明では、ラジアル偏光にした後、円環ビームに変換したが、円環ビームにした後、ラジアル偏光にしてもよい。なお、ラジアル偏光にした後、フォトカソード21に到達するまでの間、同じ金属ミラーでペリスコープを組むようにする。この場合、S偏光とP偏光を入れ替えて反射するので、ラジアル偏光状態を保持することができる。
実際の金属ミラーの反射ではS偏光とP偏光の位相差が180度ではない。このため、ラジアル偏光はエルミートガウシアンモードのTEM01とTEM10を偏光方向を電場の振動面を水平と垂直、すなわち反射面を決めた時は、S偏光とP偏光にそれぞれしたあとに重ねたものである。金属ミラーの反射でS偏光とP偏光の位相シフトの差が180度になっていない場合、重ね合わせがラジアル偏光にならなくなる。TEM01とTEM10はそれぞれ伝搬モードなのでそれぞれ伝搬するので、S偏光とP偏光の位相のずれをもう一度同じ金属ミラーで反射する。こうすることで、S偏光とP偏光を入れ替わり、位相差の関係が元に戻る。よって、重ね合わせがラジアル偏光となる。ペリスコープは潜望鏡と同じで、光軸の高さを変えるのにも使われるのでエレベータとしても用いられる。45度傾いたミラーが上下一対になったものである。これをSとP偏光を入れ替える光学系として使う場合は、上から見た時に入射方向と出射方向が90度異なっていることが必要となる。同じ金属のミラー対になっていることも位相シフト量を戻すことからも明らかである。
【0125】
さらに、上記の電子銃100を用いることで、電子銃の評価を行うことができる。以下に、電子銃の評価装置、及び評価方法について図12を用いて説明する。図12では、図1に示した電子銃100に対して、電子ビームの測定を行う測定器65が取り付けられている。なお、電子銃の基本的構成に付いては、図1で示したものと共通であるため、重複部分は、説明を省略する。下記に示すように、電子銃から発生する電子ビームを評価することで、高輝度と高スピン偏極度に適したフォトカソード材料を発見することができる。さらに、そのフォトカソード21に対して、レーザ光の波長等を最適化することができる。
【0126】
測定器65は、入射した電子ビーム60を計測する。例えば、測定器65は、ファラデーカップを有しており、電子ビーム60の電流を測定する。まず、評価したいフォトカソード材料を共振器23内にセットする。そして、レーザ光を照射して、電子を発生させる。発生した電流を測定器65で測定する。
【0127】
そして、波長変換素子42でレーザ光の波長を変えていき、電子ビームのレスポンスを調べていく。例えば、レーザ光の波長を変えることで、ラジアル偏光において、電気ベクトルの振動方向が反転する周期が変化する。例えば、例えば、NOPA(非平行光パラメトリック増幅器、又は非同軸光パラメトリック増幅器:Noncollinear Optical Parametrix Amplifier)やOPA(パラメトリック増幅器:Optical Parametrix Amplifier)を用いて、波長を走査していく。
【0128】
また、液晶素子によってラジアル偏光に変換している。液晶素子を用いた偏光変換素子36では、広い周波数帯での使用が可能である。すなわち、NOPAによって波長を変化させた場合でも、波長に応じて偏光変換素子36を変える必要がなくなる。よって、簡便に測定することができる。
【0129】
フォトニッククリスタル結晶等でスーパーコンティニュウム(超ブロードバンドの白色レーザ光)を作る。それをシード光としてBBO等の非線形結晶を用いてのNOPA方式でブロードな波長帯域を増幅してあげることができる。それから、シード光とポンプ光の角度調整で中心波長範囲の選択やスペクトル幅の選択等もできるシステムとすることで、カソード近傍に与えるレーザ誘起電場の振動速度を可変にすることができる。
【0130】
もし、レーザの振動に対して電子の応答速度が十分遅い場合は平均化されるので、カソードに対するレーザ誘起電場の効果はなく実効的な仕事関数の差がないことになる。この原理によりレーザ波長をスキャンすることで、アジマス偏光とラジアル偏光を集光した時の電子ビーム電流量の有意な差の有無を計測することで、電子の応答速度を計測することができる。このように、電子がレーザ電場(Z方向に偏極した電界)の振動に対する応答を知らべるのが目的でレーザ波長をスキャンする。
【0131】
各波長において、ラジアル偏光とアジマス偏光とで、それぞれ電流測定を行う。例えば、λ/2板44によって、直線偏光の偏光軸をY方向にする。これにより、偏光変換素子36でレーザ光がラジアル偏光になる。そして、ラジアル偏光状態のレーザ光を集光してフォトカソード表面にZ方向の電場を発生させる。レーザ光がフォトカソード21に照射された際に発生する電子ビームの電流を測定する。次に、λ/2板44を回転させて、直線偏光の偏光軸をX方向にする。これにより、偏光変換素子36でレーザ光がアジマス偏光になる。そして、アジマス偏光状態のレーザ光を集光してフォトカソード表面に照射する。レーザ光がフォトカソード21に照射された際に発生する電子ビームの電流を測定する。
【0132】
フォトカソード21表面にZ方向の電場を与えた場合と、そうでない場合とで、それぞれ電流を測定する。そして、ラジアル偏光の電流値がアジマス偏光での電流値に比べて十分大きくなっている場合、その波長でのレスポンスがあると判定する。すなわち、ラジアル偏光の電流値とアジマス偏光の電流値との差が、閾値よりも大きくなっている場合、Z偏光によって、真空準位を押し下げることができ、実効的な仕事関数が低くなっている。よって、その波長で電子を効率よく発生させることができる。
【0133】
電子がレーザ電場(Z方向に偏極した電界)の振動に対する応答を知らべるのが目的でレーザ波長をスキャンする。Z方向の電場によって、電流が発生するカットオフ周波数を調べる。すなわち、ラジアル偏光とアジマス偏光で電流値に差がある波長と、差がない波長との境界を調べる。このようにすることで、電子ビームの発生に適したレーザ波長を選択することができる。そして、使用するフォトカソード材料に対するカットオフ波長を調べていく。このようにすることで、仕事関数を押下ることができるレーザ波長を確認することができる。さらに、測定器65によって、電子ビームのスピン偏極度を測定することで、所望の偏極度を有するのに適したレーザ波長を発見することができる。よって、所望の偏極度を有する電子ビームを容易に得ることができる。偏極度を測定する場合、円偏光とともに、アジマス偏光、又はラジアル偏光を照射する。
【0134】
また、液晶素子を用いたラジアル偏光の生成について、図13を用いて説明する。図13は、液晶素子を用いた偏光変換素子36の構成を模式的に示す斜視図である。図13に示すように偏光変換素子36は、液晶素子71と、位相補償板72を有している。位相補償板72は、液晶素子71の前段に配置される。従って、位相補償板72を通過したレーザ光が、液晶素子71に入射する。そして、直線偏光のレーザ光が位相補償板72、及び液晶素子71を通過することで、ラジアル偏光に変換される。
【0135】
なお、液晶素子71を用いて、ラジアル偏光を生成する場合、例えば、ARCoptix社製シータセルを液晶素子71として用いることができる。これにより、波長350〜1700nmのレーザ光に対応することができる。よって、様々な波長に対応することができる。このシータセルでは、TN(Twisted Nematic)液晶が用いられている。さらに、シータセルに加えて位相補償板72を用いる。例えば、λ/2板44の後に、同じTN液晶で出来た広帯域の位相補償板72を配置する。位相補償板72の後にシータセル等の液晶素子71を配置する。
【0136】
次に位相補償板72の構成について、図14、及び図15を用いて説明する。図14は、位相補償板72の構成を示す正面図であり、図15は断面図である。位相補償板72は、正面視において、矩形状になっており、上半分の領域(上領域)と、下半分の領域(下半分)とから構成される。すなわち、位相補償板72は、上領域とした領域に分割される。
【0137】
図15に示すように、位相補償板72は、第1基板73と第2基板74とを有している。第1基板73と第2基板74は例えば、透明なガラス板である。さらに、第1基板73と第2基板74との間には、液晶層75が配設されている。すなわち、第1基板73と第2基板74との間に、液晶層75が挟持されている。
【0138】
下領域において、第1基板73の液晶層75側には、第1電極76が形成され、第2基板74の液晶層75側には第2電極77が形成されている。さらに、第1電極76には、外部から電圧を供給するための端子配線78が接続され、第2電極77には、外部から電圧を供給するための端子配線79が接続されている。従って、第1電極76と第2電極77との間に電圧を印加すると、電極間の液晶層75が配向する。液晶層75に印加する電圧は、液晶層のチャージアップを避けるため極性を反転させることが好ましい。例えば、約1kHzのサイン波や、50Hz程度の矩形波を用いることができる。なお、最大電圧は8.8V程度にすることができる。一方、上領域には、電極が形成されていない。
【0139】
液晶層75には、シータセルと同様に、TN液晶を用いることができる。そして、上領域では、液晶の配向が180°ねじれている。従って、上領域では、液晶層75を通過することで、レーザ光の偏光方向が180°回転する。一方、電極間に電圧を印加すると、下領域では、液晶の配向がねじれなくなる。よって、下領域では、液晶層75を通過してもレーザ光の偏光方向がそのままとなっている。従って、図14の右側に示すように、下領域と上領域の間で、偏光方向が反転する。ここでは、上領域を通過したレーザ光の振動方向が上向きから下向きになる。もちろん、上領域と下領域の境界上にレーザ光の光軸を配置する。
【0140】
このように、広帯域の位相補償板72は、上半分の位相をπずらして、下半分をそのまま通過させる。すなわち、位相補償板72を通過したレーザ光82のうち、上半分と下半分とで位相がπずれている。このように、液晶素子71に入射するレーザ光の位相を上下で反転させておく。液晶素子71と位相補償板72の向きをレーザ光の偏光方向に対して、調整する。この位相補償板72を通過したレーザ光82が液晶素子71に入射する。液晶素子71はレーザ光をラジアル偏光に変換する。なお、λ/2板44を回転することで、偏光軸の向きを調整することができる。従って、レーザ光の偏光軸を90°回転させると、ラジアル偏光からアジマス偏光に切り換わる。あるいは、ラジアル偏光を得るために、位相補償板72と液晶素子71との間に、さらにTN液晶セルを配置してもよい。このようにすることで、広い波長帯のレーザ光をラジアル偏光にすることができる。また、λ/2板44を回転させることで、ラジアル偏光とアジマス偏光を切替えることができる。位相補償板72は、ARCoptix社製のBroadband Pi Compensatorを用いることができる。
【0141】
次に、偏極度を測定するための測定器について、図16を用いて説明する。図16(b)は、メラー散乱(電子−電子散乱)、図16(b)は、モット散乱(電子−原子核散乱)を用いた測定器65の構成を示す図である。
【0142】
メラー散乱を用いた測定器65では、電子ビーム60がターゲット65aに入射する。ターゲット65aはヘルムホルツコイル65bの間に配置されている。ヘルムホルツコイル65bは、磁性体(パーマロイなど)のターゲット65aに対して外部磁場をかける。外部磁場をかけた磁性体ターゲットにスピン偏極電子が入射した際の磁性体の磁化率測定によりスピン偏極度が得られる。
【0143】
モット散乱を用いた測定器65では、ターゲット65cに金などを用いる。電子ビーム60はスピンに依存した散乱角を持っている。よって、それぞれに散乱された電子数の測定によりスピン偏極度が得られる。すなわち、電子検出器65dを所定の散乱方向において、散乱された電子数を測定する。これにより、スピン偏極度を測定することができる。
【0144】
上記の2種類の測定器65は、検出する電子のエネルギーによって使い分けられる。すなわち、入射ビームエネルギーに応じて、使用する測定器65を選択する。例えば、入射ビームエネルギーが30〜600keVの場合、モット散乱が用いられ、300keV以上の場合、メラー散乱が用いられる。電子銃、特にRF電子銃を使った実験の場合は、エネルギーが数MeVになるのでメラー散乱により電子の偏極度を計測する。このように、磁性体のターゲット65aを用いたメラー散乱を利用してスピン偏極度の測定を行う。
【0145】
カソード材料のバンド構造が偏極に適しているという条件を満たしていれば、波長を可変で価電子帯から伝導帯に電子を励起して、電子をとり出す伝導帯のエネルギー深さをZ偏極したレーザ光源の波長や強度を変えながら、メラー散乱で電子の偏極度の高いところを探せば、電子銃に最適なカソード材料と励起用およびZ偏光用のレーザの条件が決定できる。例えば、GaAs以外の最適なフォトカソード材料を発見することができる。
【0146】
なお、上記の評価方法では、半導体材料以外のフォトカソード21に対して、最適なレーザ波長を調べることができる。この場合、円偏光のレーザ光83を用いずに、電子ビーム60を発生させてもよい。すなわち、偏光変換素子36を介して入射したレーザ光82のみを用いて電子を発生させる。偏極電子ビーム用の電子銃ではない場合、レーザ光83を円偏光にしなくてもよい。
【0147】
さらに、半導体材料の分析、評価を行うことができる。この場合、例えば、図17に示すように、評価する半導体材料の試料66に電子ビーム60を照射する。ここで、試料66は、フォトカソード21と同じ半導体材料になっているとする。そして、試料66で発生した光を測定器65で測定する。測定器65は、分光器を有しており、試料66で発生した光を分光測定する。ここでは、逆光電子分光法を用いて、分析、評価を行う。すなわち、電子ビーム60を試料66に照射して、試料66で発生する光を分光測定する。試料66で発生する光には、試料66に関する情報が含まれる。このように、逆光電子分光法における電子源として、電子銃100を用いる。これにより、偏極電子ビームを測定対象となる試料66に照射することができる。
【0148】
逆光電子分光法では、単色化された電子の物質への入射の際、放出される光の分布を入射電子のエネルギー、スピン偏極度の関数として測定する。逆光電子分光法では、入射電子の単色性のほか、光の放出断面積が小さいため、高い電流値が電子源に要求される。
【0149】
Z偏光を用いることで、高い電流値の単色化されたスピン偏極電子ビームを得ることができる。これにより、逆光電子分光法による半導体材料中における電子スピンの情報を含む非占有電子状態を観測することができる。伝導帯に電子が励起された状態に対して、Z偏光による可変光電場に応じた電界強度と物質の仕事関数を関数とした放出電子の電流値、スピンを測定できる。このように、電子銃100を逆光電子分光方法に利用することで、非占有状態の測定を行うことができる。但し、電子の励起状態にある非占有電子状態を見るには、電子励起と同時に生成される正孔によるクーロン相互作用の効果の情報が含まれることが必要となる。
【0150】
なお、Z偏光のレーザ光82と、円偏光のレーザ光83の照射には、表面(前面)からの照射方法と背面から照射方法の2通りがある(図18参照)。図18(a)〜図18(d)に示すように、フォトカソード21は、半導体基板21aと電子生成層21bから構成されており、電子生成層21b側が表面(前面)側となっている。
【0151】
図18(a)、及び図18(c)に示すように、表面からの入射方法では、フォトカソード21の電子生成層21b側からレーザ光82、83を入射させる。一方、図18(b)、及び図18(d)に示すように、背面(裏面)からの入射方法では、フォトカソード21の半導体基板21a側からレーザ光82、83を入射させる。これらのいずれの入射方法を採用してもよい。例えば、図18(a)に示すように、Z偏光のレーザ光82を表面から入射させた場合、図18(c)に示すように、円偏光のレーザ光83を表面から入射させてもよく、図18(d)に示すように、レーザ光83を背面から入射させてもよい。あるいは、図18(b)に示すように、Z偏光のレーザ光82を背面から入射させた場合でも、図18(c)に示すように、円偏光のレーザ光83を表面から入射させてもよく、図18(d)に示すように、レーザ光83を背面から入射させてもよい。
【0152】
このように、Z偏光のレーザ光82及び円偏光のレーザ光83の少なくとも一方をフォトカソード21の背面から入射させてもよい。中赤外のZ偏光を、III−V族半導体に照射する場合、半導体内でのZ偏光の光吸収はほとんどない。すなわち、半導体基板21a内で光がほとんど吸収されないため、表面、背面のいずれからでも照射することができる。また、円偏光のレーザ光83は、電子を取り出す電子生成層21bで吸収されるが、半導体基板21aに電子生成層21bとは異なるバンドギャップの半導体を用いることで、背面照射が可能となる。例えば、レーザ光82、83の両方を背面から入射させる構成は、観測試料を電子銃付近に設置する電子線回折装置に好適である。
【0153】
レーザ光82、及びレーザ光83の一方を表面、他方を背面から入射させる場合でも、レーザ光82とレーザ光83を同期して入射させる。すなわち、反対方向から伝搬するレーザ光82のパルスとレーザ光83のパルスを同時にフォトカソードに入射させる。換言すると、フォトカソード21において、レーザ光82のパルスとレーザ光のパルス83が重なり合うことになる。これにより、スピン偏極した電子を発生させることができる。
【0154】
図1、7、8では、フォトカソード21に対して垂直にレーザ光83を入射させたが、レーザ光を傾けて入射させてもよい。すなわち、円偏光となったレーザ光83の光軸をフォトカソード21の表面に対する垂直方向から傾けてもよい。例えば、数度の入射角度でレーザ光83をフォトカソード21に入射させてもよい。この場合、真空外に配置されたミラーを用いて、レーザ光83をフォトカソード21に入射させることができる。よって、レーザ光83を円環ビームとしなくてもよい。さらに、斜めに入射させる場合は、ビーム合成手段38をダイクロイックミラーとしなくてもよい。
【0155】
このように、偏極電子を選択的に価電子帯から伝導帯へ励起する円偏光のレーザ光は、必ずしも円環ビーム入射方式でカソードに照射する必要はない。例えば、世の中で主流の単純な垂直入射(真空中にミラーを置くことで反射して入射)としてもよい。また、数度の入斜角で真空外のミラーからレーザを打ち込むことも可能である。円環ビーム入射用の穴あき金属製ミラー二種類を波長により切り替えられるように3段階に位置をズラして固定できるにして、入斜角が数度の斜め入射をすることで穴あきのミラー17と穴あきのレンズ18の穴をすり抜けてカソード面に照射することができる。
【0156】
また、偏極電子源用のGaAsのフォトカソード21に関しては透過型カソードとしての動作の確認がされているので、カソード背面からの入射することも可能である。円環ビーム入射をしないのであれば、ビーム合成手段38としてダイクロイックミラーを用いなくてもよい。
【0157】
なお、図1、7、8に示した偏光変換素子36を空間フィルタ部43の前段に配置していてもよい。こうすることで、偏光変換素子36直後の空間フィルタ部43で高次モードを取り除くことができる。例えば、ラジアル偏光の変換素子ではどうしても素子のつなぎ合わせ部分があるので、完全な最低次モードにならない。そのため、ラジアル偏光素子で変換されたレーザ光は高次のモードをどうしても含んでしまう。よって、直後の空間フィルター部43で高次モードを取り除く作業をする。もちろん、λ/2板44は、偏光変換素子36の前段に配置する。
【0158】
この場合、レーザ光を空間的にフィルタリングする空間フィルタ部43の後に円環ビーム生成部45を配置する。すなわち、波長変換素子42とミラー37の間において、空間フィルタ部43、偏光変換素子36、空間フィルタ部43、円環ビーム生成部45の順番で配置する。円環ビームの外周縁は綺麗なナイフエッジの円環になるが、内周縁側には高次のモードが伝搬と共に内側に出てくる。これを十分な遠方で穴あきのミラー17で反射して高次モードを落とすことで綺麗な円環ラジアル偏光をカソード面に照射して、Z偏極した電界をカソード面に立てることができる。すなわち、空間フィルタ部43を通過したレーザ光82を、円環ビーム生成部45によって円環ビームにする。このときに円環のリング内側に出てくる高次モードは、ミラー17で十分にコリメート(平行化)してから反射することで、取り除かれる。すなわち、不要なモードを落として入射することができる。
【0159】
なお、上記の電子銃は、RFを必要とするRF電子銃だけに適用できるものではない。例えば、上記の構成をDC電子銃に適用することも可能である。この場合、マイクロ波源24が不要となる。Z偏極したレーザ甲82の電界はレーザの振動数で振動しているので大体、1014Hzで振動している。それに対してマイクロ波(RF)はギガヘルツのオーダーなので、今着目しているレーザ光が誘起するカソード表面に対する電界放出の効果を議論するときには、RFによる電界は十分にDC的であると考えて良い筈である。したがって、電子銃の外場による電界の分だけ本来の真空ポテンシャルに比べて低いエネルギーのところに位置している筈である。
【0160】
III−V族半導体の場合、バンドギャップが1eV以上あるため、電子の偏極度を損なわないよう、Z偏光の波長を10〜30μmとし、誘起Z偏極電界の向きがカソード表面から真空側に正であるときに、1GV/m程度の電界がかかるため、ケルディッシュパラメータは、トンネル効果が優位になる1より十分小さくなり、伝導帯電子は、真空準位のポテンシャルの壁をトンネルし真空中へ取り出すことができる。また、伝導帯の底へ励起されたスピン偏極電子が表面の真空準位のポテンシャルの壁をトンネルする際のトンネル確率をより高くし、スピン偏極度の減少をより抑えるには、電子親和力のより小さい半導体材料が望ましい。
ただし、ケルディッシュパラメータは波長の2乗に比例するので、もし、波長が可視域だと100倍以上大きくなる。そのときは、ショットキー効果の議論が必要になる。価電子帯からの偏極電子の選択励起を壊さないようにZ偏極電界生成用のレーザ波長を選択すると中赤外領域の波長にすることが好ましい。よって、トンネル効果が支配的な領域で偏極電子源はいかなる半導体材料でも動作させられる。
【0161】
電子銃による電界は電界放出に寄与するというよりかは、電子がカソードから出てきた後でZ方向に振動するレーザ誘起電界により引き戻されない領域にきた電子を真空中に引き出す役割をしている。したがって、今回の偏極電子源の方式はRF電子銃に限定されるものではなく、基本的にDC電子銃にも使えるものである。レーザによる真空のポテンシャルの曲がりは電子銃の印加電圧による加速電場で斜めに真空側に下がっていく線に漸近するように接続されるはずである。そうでないと電子は電子銃による電場で加速されて引き出されないからである。
【0162】
また、上記の電子銃では、大電流の電子ビームを発生させることができる。従って、本実施形態にかかる電子銃は、低エネルギー顕微鏡(LEEM):Low Energy Electron Microscope)、及びスピン偏極電子ビームを用いたLEEM(SPLEEM:Spin−Polarized LEEM)に好適である。
【0163】
LEEMでは、電子回折による明暗像コントラストを稼ぐため電流値を要し、低エネルギーのビームを利用するため電子ビームが大電流と小さいエネルギー広がりの性能が不可欠になる。さらに、実観測を行うために、時分解性能も問われている。すなわち、高繰返し高密度のパルス性能が同時に必要となるため、上記の電子銃は、LEEM用の電子ビーム源に好適である。更に、高スピン偏極の電子ビームを発生させることができる。スピン偏極性能化により、鉄、コバルトなどの磁性体のみならず、それらにまつわるナノ構造物質の詳細な表面磁区構造観測が可能になる。
【0164】
もちろん、LEEMに限らず、電子顕微鏡への実用上、その電子源の電流、放出電子のエネルギー幅とビームのパルス性能は、基本性能である。その上で必要条件を満たす候補が、フォトカソード電子源である。銃器の電子銃は、フォトカソード(特にNEA表面を用いる)が実用上隘路となっている本質的問題を解決する。
カソード材料、特に偏極電子銃のカソードの価電子帯構造のエネルギー的に敏感な範囲を100meV以下のオーダで知り得る方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の実施の形態にかかる電子銃の構成を模式的に示す図である。
【図2】フォトカソード半導体材料の表面付近でのポテンシャル構造を示す図である。
【図3】フォトカソード半導体材料の表面付近でのポテンシャル構造を示す図である。
【図4】フォトカソード半導体材料の表面付近でのポテンシャル構造を示す図である。
【図5】GaAs半導体によるスピン偏極電子の伝導帯への励起を説明するための図である。
【図6】Z偏光を用いたp型半導体フォトカソードからの電子生成の概念図である。
【図7】電子銃に用いられる偏光変換素子の構成を示す図である。
【図8】偏光変換素子を通過したレーザ光の偏光状態を示す斜視図である。
【図9】偏光変換素子を通過したレーザ光の偏光状態を示す側面図である。
【図10】電子銃に用いられる空間フィルタ部の構成を示す図である。
【図11】電子銃に用いられる円環ビーム生成部の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態にかかる電子銃を利用した評価装置の構成を模式的に示す図である。
【図13】偏光変換素子の全体構成を模式的に示す斜視図である。
【図14】偏光変換素子に設けられた位相補償板の構成を示す正面図である。
【図15】偏光変換素子に設けられた位相補償板の構成を示す断面図である
【図16】電子スピン偏極度を測定するための測定器を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態にかかる電子銃を利用した評価装置の構成を模式的に示す図である。
【図18】フォトカソードへのレーザ光の照射方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0166】
11 レーザ光源
12 光分岐手段
13 空間フィルタ部
14 円環ビーム生成部
15 λ/4板
17 ミラー
18 レンズ
21 フォトカソード
21a 半導体基板
21b 電子生成層
23 共振器
24 マイクロ波源
35 λ/2板
36 偏光変換素子
37 ミラー
38 ビーム合成手段
39 偏光制御用電源
41 ミラー
42 波長変換素子
43 空間フィルタ部
44 λ/2板
45 円環ビーム生成部
51 第1の円錐ミラー
52 第1の対向ミラー
53 第2の対向ミラー
54 第2の円錐ミラー
55 第1の透明板
56 第2の透明板
60 電子ビーム
61 放物面鏡
62 ピンホール
63 放物面鏡
65 測定器
66 試料
65a ターゲット
65b ヘルムホルツコイル
65c ターゲット
65d 電子検出器
71 液晶素子
72 位相補償板
73 第1基板
74 第2基板
75 液晶層
76 第1電極
77 第2電極
78 端子配線
79 端子配線
81 レーザ光
82 レーザ光
83 レーザ光
84 レーザ光
100 電子銃
A 伝導帯
B 価電子帯
C フェルミ準位
D バンドギャップ
E 仕事関数
F 電子親和力
G 表面バンドベンディング
H 縮退
I 縮退分離
J 電場の無い時の真空準位
K Z偏光レーザによる電場
L Z偏光照射の時の真空準位
M 電子励起用レーザ
N Z偏光による強電場領域
O 励起
P 伝導帯電子
Q トンネル効果
R 表面バンドベンディング
S イメージポテンシャル
L1 光ビーム
L2 光ビーム
L3 光ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からのレーザ光を分岐する光分岐手段と、
前記光分岐手段で分岐された一方のレーザ光に入射位置に応じた位相差を与える偏光変換素子と、
前記偏光変換素子を介して入射した前記一方のレーザ光とを集光するレンズと、
前記レンズによって集光された前記一方のレーザ光を、円偏光となった前記他方のレーザ光と同期して入射する半導体フォトカソードと、を備える偏極電子銃。
【請求項2】
前記偏光変換素子、又はレンズに入射するレーザ光の少なくとも一方のスポットを円環状にする円環ビーム生成部をさらに備え、
前記円環ビーム生成部が、
反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置された第1の円錐ミラーと、
前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記第1の円錐ミラーの反射面の外周を囲むように設けられた反射面を有する第1の対向ミラーと、
前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射する第2の対向ミラーと、
前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射する第2の円錐ミラーであって、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置された第2の円錐ミラーと、を備えた請求項1に記載の偏極電子銃。
【請求項3】
前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔が可変であることを特徴とする請求項2に記載の偏極電子銃。
【請求項4】
前記偏光変換素子によって偏光状態がラジアル偏光に変換されたレーザ光が前記円環ビーム生成部に入射することを特徴とする請求項2、又は3に記載の偏極電子銃。
【請求項5】
前記円環ビーム生成部と、前記偏光変換素子との間に、前記レーザ光を空間的にフィルタリングする空間フィルタ部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の偏極電子銃。
【請求項6】
前記半導体フォトカソードにIII−V族半導体が用いられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の偏極電子銃。
【請求項7】
前記半導体フォトカソードがGaAsを含んでいることを特徴とする請求項6に記載の偏極電子銃。
【請求項8】
前記半導体フォトカソードが、歪み構造、超格子構造、量子細線構造、又は量子ドット構造を持つことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の偏極電子銃。
【請求項9】
前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偏極電子銃。
【請求項10】
前記偏光変換素子に、TN液晶が用いられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の偏極電子銃。
【請求項11】
レーザ光源からの光を分岐するステップと、
分岐された一方のレーザ光に入射位置に応じた位相差を与えるステップと、
前記位相差が与えられた前記一方のレーザ光と、円偏光となっている他方のレーザ光とを集光するステップと、
集光された前記一方のレーザ光を、前記他方のレーザ光と同期させて、半導体フォトカソードに入射させるステップと、を備える偏極電子線の発生方法。
【請求項12】
前記レーザ光のスポットを、第1の円錐ミラー、第2の円錐ミラー、第1の対向ミラー、第2の対向ミラーを用いて、円環状にするステップをさらに備え、
前記第1の円錐ミラーでは、反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置され、
前記第1の対向ミラーは、前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記円錐面の外周を囲むように設けられた反射面を有しており、
前記第2の対向ミラーは、前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射し、
第2の円錐ミラーでは、前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射し、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置されていることを特徴とする請求項11に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項13】
前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔を変えることで、円環の径を調整することを特徴とする請求項12に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項14】
前記入射位置に応じた位相差が与えられることで、レーザ光がラジアル偏光に変換され、
前記ラジアル偏光に変換されたレーザ光が前記円環ビームに変換されることを特徴とする請求項12、又は13に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項15】
前記ラジアル偏光となった前記レーザ光が、前記円環ビームになる前に、空間的にフィルタリングされていることを特徴とする請求項14に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項16】
前記半導体フォトカソードにIII−V族半導体が用いられていることを特徴とする請求項11乃至15のいずれか1項に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項17】
前記半導体フォトカソードがGaAsを含んでいることを特徴とする請求項16に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項18】
前記半導体フォトカソードが、歪み構造、超格子構造、量子細線構造、又は量子ドット構造を持つことを特徴とする請求項11乃至17のいずれか1項に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項19】
前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とする請求項11乃至18のいずれか1項に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項20】
前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの電子ビーム出射面から入射することを特徴とする請求項11乃至19のいずれか1項に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項21】
前記位相差が与えられるステップでは、TN液晶を用いた偏光変換素子が利用されていることを特徴とする請求項11乃至20のいずれか1項に記載の偏極電子線の発生方法。
【請求項22】
(A)レーザ光源からのレーザ光を、入射位置に応じた位相差を与える偏光変換素子に入射させるステップと、
(B)前記位相差が与えられたレーザ光を集光して、フォトカソードに入射するステップと、
(C)前記フォトカソードからの電子ビームを測定するステップと、
(D)前記偏光変換素子に入射するレーザ光の偏光軸を変えて、(A)、(B)、及び(C)のステップを行って、電子ビームを測定するステップとを備える電子銃の評価方法。
【請求項23】
前記偏光変換素子が直線偏光をラジアル偏光、又はアジマス偏光にする素子であり、
前記直線偏光の偏光軸の向きを変えることで、前記ラジアル偏光と前記アジマス偏光とを切換えることを特徴とする請求項22に記載の電子銃の評価方法。
【請求項24】
前記位相差が与えられたレーザ光に、円偏光のレーザ光を同期させて照射していることを特徴とする請求項22、又は23に記載の電子銃の評価方法。
【請求項25】
前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とする請求項22乃至24のいずれか1項に記載の電子銃の評価方法。
【請求項26】
前記一方のレーザ光、及び前記他方のレーザ光の少なくとも一方が、前記フォトカソードの背面から入射することを特徴とする請求項22乃至25のいずれか1項に記載の電子銃の評価方法。
【請求項27】
前記(C)のステップでは、前記電子ビームの偏極度を測定していることを特徴とする請求項22乃至26のいずれか1項に記載の電子銃の評価方法。
【請求項28】
前記電子ビームの偏極度の測定にメラー散乱が利用されていることを特徴とする請求項27に記載の電子銃の評価方法。
【請求項29】
前記(B)のステップの前に、第1の円錐ミラー、第2の円錐ミラー、第1の対向ミラー、第2の対向ミラーを用いて、前記レーザ光のスポットを円環状にするステップをさらに備え、
前記第1の円錐ミラーでは、反射面の形状が円錐面となっており、円錐の頂点が光軸上に配置され、
前記第1の対向ミラーは、前記第1の円錐ミラーの反射面に対して対向配置され、前記円錐面の外周を囲むように設けられた反射面を有しており、
前記第2の対向ミラーは、前記第1の対向ミラーで反射した光を円錐面状の反射面で反射し、
第2の円錐ミラーでは、前記第2の対向ミラーで反射した光を円錐面で反射し、円錐の頂点が光軸上に配置され、円錐の底面が前記第1の円錐ミラーの底面と対向配置されていることを特徴とする請求項22乃至28のいずれか1項に記載の電子銃の評価方法。
【請求項30】
前記第1の円錐ミラーと前記第2の円錐ミラーの間隔、又は前記第1の対向ミラーと前記第2の対向ミラーとの間隔を変えることで、円環の径を調整することを特徴とする請求項29に記載の電子銃の評価方法。
【請求項31】
前記偏光変換素子によって、前記レーザ光がラジアル偏光に変換され、
前記ラジアル偏光に変換されたレーザ光が円環状に変換されることを特徴とする請求項29、又は30に記載の電子銃の評価方法。
【請求項32】
前記ラジアル偏光となった前記レーザ光が、前記円環状のビームになる前に、空間的にフィルタリングされていることを特徴とする請求項32に記載の電子銃の評価方法。
【請求項33】
前記偏光変換素子に、TN液晶が用いられていることを特徴とする請求項22乃至32のいずれか1項に記載の電子銃の評価方法
【請求項34】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の偏極電子銃で発生した偏極電子ビームを、電子ビーム源とした逆光電子分光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−218868(P2010−218868A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63992(P2009−63992)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(599112582)財団法人高輝度光科学研究センター (35)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】