説明

偏波多重光受信器、偏波多重光受信回路、及び偏波多重光伝送システム

【課題】偏波多重光伝送システムにおいて、偏波多重光伝送システムにおいて、伝送品質を総合的に改善する。
【解決手段】偏波コントローラ21は、入力偏波多重光信号の偏波状態を制御する。偏波ビームスプリッタ22は、偏波状態が制御された偏波多重光信号を第1の偏波信号および第2の偏波信号に分離する。RFパワー検出器25A、25Bは、第1の偏波信号および第2の偏波信号の光パワーを検出する。制御回路26は、RFパワー検出器25A、25Bから出力される第1および第2の光パワー信号に基づいて、偏波コントローラ21を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ伝送路を介して偏波多重光信号を伝送する偏波多重光伝送システム、並びに、偏波多重光伝送システムにおいて使用される偏波多重光受信回路および偏波多重光受信器に係わる。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及に伴って、光通信システムの大容量化が進められている。たとえば、幹線系では、1波長当たり、40Gbit/sを越える信号を伝送可能な光送信器および光受信器の研究が行われている。そして、波長多重伝送のスペクトラム利用効率を向上させるために、偏波多重伝送方式の研究および開発が盛んになってきている。
【0003】
偏波多重光伝送システムでは、1組のデータ信号がX偏波およびY偏波を利用して伝送される。X偏波およびY偏波は、互いに直交する1組の偏波成分である。そして、光受信器では、X偏波およびY偏波を互いに分離することにより、1組のデータ信号が抽出される。したがって、偏波多重伝送方式によれば、1波長当たりの容量を2倍にすることが可能になる。
【0004】
偏波多重光受信器は、一般に、入力光信号の偏波状態を制御する偏波制御機能、および偏波状態が制御された光信号を互いに直交する偏波成分(X偏波チャネルおよびY偏波チャネル)に分離する分離機能を備える。そして、偏波制御機能を適切に調整することにより、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルが分離される。なお、偏波多重光受信器において互いに直交する偏波チャネルを抽出する方法は、例えば、非特許文献1〜3に記載されている。また、下記の特許文献1〜3にも関連する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−136761号公報
【特許文献2】特開平5−327576号公報
【特許文献3】特開2002−344426号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Hinz et al., “Interference detection enabling 2x20Gbit/s RZ polarisation division multiplex transmission”, Electronics Letters, Vol.37, No.8, pp.510-511, April 2001
【非特許文献2】八木他、「自動偏波制御システムを適用した160Gbit/s、偏波多重RZ−DQPSKシステムの214kmフィールド実験」、2008年電子情報通信学会、BS−7−9
【非特許文献3】Ito et al., “Comparison of 100Gbit/s transmission performances between RZ-DQPSK and polarization multiplexed NRZ/RZ-DPSK with automatic polarization de-multiplexer”, OFC/NFOEC 2008, JThA46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術によれば、受信器において、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルが必ずしも適切に分離されていなかった。特に、偏波依存損失などによりX偏波チャネルとY偏波チャネルとの間の直交性が劣化する環境においては、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルにより伝送される1組のデータ信号の双方の品質を保証することはできなかった。例え
ば、従来の偏波多重光伝送システムでは、一方のデータ信号の受信品質が高いにもかかわらず、他方のデータ信号の受信品質が低くなることがあった。
【0008】
本発明の1つの課題は、偏波多重光伝送システムにおいて、伝送品質を総合的に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の偏波多重光受信器は、偏波多重光信号の偏波状態を制御する偏波制御器と、前記偏波制御器により偏波状態が制御された偏波多重光信号を第1の偏波信号および第2の偏波信号に分離する偏波スプリッタと、前記第1の偏波信号の光パワーを検出する第1の検出器と、前記第2の偏波信号の光パワーを検出する第2の検出器と、前記第1の検出器から出力される第1の光パワー信号および前記第2の検出器から出力される第2の光パワー信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する制御部、を有する。
【0010】
上記構成の偏波多重光受信器においては、第1および第2の偏波信号の双方に基づいて入力偏波多重光信号の偏波状態が制御される。したがって、第1および第2の偏波の直交性が劣化した場合であっても、双方の偏波チャネルの品質を総合的に改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、偏波多重光伝送システムにおいて、伝送品質が総合的に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の偏波多重光受信器が使用される光伝送システムの構成を示す図である。
【図2】実施形態の偏波多重光伝送システムの構成を示す図である。
【図3】制御回路の実施例である。
【図4】偏波状態の制御について説明する図である。
【図5】偏波依存損失による影響を説明する図である。
【図6】偏波制御の一例を説明する図である。
【図7】偏波依存損失がある場合の偏波制御について説明する図である。
【図8】実施形態の偏波多重光受信器における偏波制御を説明する図である。
【図9】制御回路の他の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、実施形態の偏波多重光受信器が使用される光伝送システムの構成を示す図である。図1に示す光伝送システムは、波長分割多重(WDM)および偏波多重を利用して、光信号を伝送する。
【0014】
伝送路1は、光ファイバ伝送路であり、波長多重信号を伝送する。波長多重信号は、複数の波長を利用して複数の信号を伝送する。伝送路1上には、必要に応じて、光中継増幅器2が設けられる。光中継増幅器2は、特に限定されるものではないが、例えば、EDFおよび/またはラマン増幅器である。また、光中継増幅器2は、波長多重信号を一括して増幅することができる。
【0015】
光分岐挿入器(OADM:Optical Add-Drop Multiplexer)3は、伝送路1に光信号を挿入する機能、および伝送路1から光信号を分岐する機能を備えている。図1に示す構成では、光分岐挿入器3は、波長λiの光信号を伝送路1に挿入し、波長λiの光信号を伝送路1から分岐する。なお、光分岐挿入器3は、複数の波長を挿入/分岐することもできる

【0016】
偏波多重光送信器4は、データを送信するための偏波多重光信号を生成する。この実施例では、波長λiの偏波多重光信号が生成される。偏波多重光信号は、互いに直交する1組の偏波(X偏波およびY偏波)チャネルを利用して、1組のデータを送信する。偏波多重光送信器4により生成される偏波多重光信号は、光分岐挿入器3Aにより伝送路1に挿入される。偏波多重光受信器5には、光分岐挿入器3Bにより伝送路1から分岐された波長λiの偏波多重光信号が入力される。そして、偏波多重光受信器5は、偏波多重光信号をX偏波信号およびY偏波信号に分離し、各偏波信号からそれぞれデータを再生する。
【0017】
偏波多重光送信器4により生成される偏波多重光信号は、波長マルチプレクサ6により他の波長の光信号と多重化されてもよい。また、波長分岐挿入器3Bにより複数の波長が分岐される場合には、波長デマルチプレクサ7により波長λiが分離される。さらに、伝送路1を介して伝送される波長多重信号は、非偏波多重光信号を含むようにしてもよい。さらに、光分岐挿入器3の代わりに、例えば、波長クロスコネクトが設けられるようにしてもよい。
【0018】
このように、図1に示す例では、偏波多重光送信器4により生成される偏波多重光信号は、伝送路1を介して伝送され、偏波多重光受信器5により受信される。ただし、この構成は、1つの実施例であり、偏波多重光受信器5が使用される環境はこの構成に限定されるものではない。すなわち、例えば、偏波多重光信号は、波長多重を利用して伝送されなくてもよい。
【0019】
図2は、実施形態の偏波多重光伝送システムの構成を示す図である。なお、図2に示す偏波多重光伝送システム10は、偏波多重光送信器4および偏波多重光受信器5を備え、伝送路1を介して偏波多重光信号が伝送される。
【0020】
偏波多重光送信器4は、光送信器11A、11B、偏波ビーム合成器(PBC:Polarization Beam Combiner)12を備える。光送信器11A、11Bには、それぞれデータA、データBが入力される。データA、Bは、たとえば、互いに独立した情報である。或いは、データA、Bは、送信データを分離することにより得られるものであってもよい。光送信器11Aは、データAを伝送するための光信号Aを生成し、光送信器11Bは、データBを伝送するための光信号Bを生成する。ここで、光信号A、Bの波長は、互いに同じ(ここでは、λ1)である。また、光送信器11A、11Bによる変調方式は、特に限定されるものではないが、例えば、DQPSKである。さらに、光信号A、Bは、それぞれ所定の偏波状態(例えば、直線偏光)で出力される。
【0021】
光信号A、Bは、偏波面保持ファイバ(PMF:Polarization Maintaining Fiber)により偏波ビーム合成器12に導かれる。偏波ビーム合成器12は、光信号A、Bを合成することにより偏波多重光信号を生成する。この場合、例えば、光信号A、Bは、それぞれX偏波およびY偏波を利用して伝送される。すなわち、データAはX偏波チャネルを利用して伝送され、データBはY偏波チャネルを利用して伝送される。なお、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルは、互いに直交している。また、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルの送信パワーは、互いに同じであるものとする。
【0022】
偏波多重光送信器4により生成される偏波多重光信号は、伝送路1を介して伝送され、偏波多重光受信器5により受信される。偏波多重光受信器5は、偏波コントローラ21、偏波ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)22、光受信器23A、23B、受光器(PD:Photo Detector)24A、24B、RFパワー検出器25A、25B、制御回路26を備える。
【0023】
偏波コントローラ21は、制御回路26からの制御信号に応じて、入力偏波多重光信号の偏波状態を制御する。偏波コントローラ21は、特に限定されるものではないが、例えば、λ/2波長板およびλ/4波長板を供える。この場合、制御回路26からの制御信号に応じてλ/2波長板およびλ/4波長板が調整され、入力偏波多重光信号の偏波が所望の状態に制御される。
【0024】
偏波ビームスプリッタ22は、偏波コントローラ21により偏波状態が制御された偏波多重光信号を、互いに直交する2つの偏波に分離する。以下の説明では、偏波ビームスプリッタ22により得られる2つの偏波を、X偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号と呼ぶことにする。
【0025】
X偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号は、それぞれ光受信器23A、23Bに導かれる。光受信器23Aは、X偏波チャネル信号を復調することにより、データAを再生する。同様に、光受信器23Bは、Y偏波チャネル信号を復調することにより、データBを再生する。
【0026】
偏波ビームスプリッタ22から出力されるX偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号は、それぞれタップされて受光器24A、24Bに導かれる。X偏波チャネル信号をタップするための分岐比、およびY偏波チャネル信号をタップするための分岐比は、基本的に、互いに同じである。受光器24A、24Bは、例えばフォトダイオードであり、それぞれX偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号を電気信号に変換する。RFパワー検出器25A、25Bは、それぞれ受光器24A、24Bの出力信号のパワーを検出する。ここで、信号のパワーは、例えば、その信号を自乗することにより検出される。したがって、RFパワー検出器25A、25Bにより、X偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号のパワーが検出される。そして、RFパワー検出器25Aは、X偏波チャネル信号の光パワーを表すX偏波パワー信号を出力し、RFパワー検出器25Bは、Y偏波チャネル信号の光パワーを表すY偏波パワー信号を出力する。X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号は、制御回路26に入力される。
【0027】
制御回路26は、X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号の双方を利用して、偏波コントローラ21を制御するための制御信号を生成する。すなわち、X偏波チャネルのパワーおよびY偏波チャネルのパワーの双方を利用するフィードバック制御が行われる。
【0028】
図3は、制御回路26の実施例である。制御回路26には、図2を参照しながら説明したように、RFパワー検出器25A、25Bにより生成されるX偏波パワー信号およびY偏波パワー信号が入力される。なお、X偏波パワー信号は、入力偏波多重光信号から分離されたX偏波チャネルの光パワーを表す。また、Y偏波パワー信号は、入力偏波多重光信号から分離されたY偏波チャネルの光パワーを表す。
【0029】
制御回路26は、加算回路31および駆動パラメータ決定部32を備えている。加算回路31は、X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号を足し合わせ、その加算結果を表すモニタ信号を生成する。生成されたモニタ信号は、駆動パラメータ決定部32に入力される。駆動パラメータ決定部32は、このモニタ信号に基づいて、偏波コントローラ21を制御するための駆動パラメータを決定する。そして、駆動パラメータ決定部32は、決定した駆動パラメータを表す制御信号を用いて偏波コントローラ21を制御する。なお、駆動パラメータは、例えば、λ/2波長板およびλ/4波長板を調整するために使用される。ここで、λ/2波長板およびλ/4波長板が電圧により調整される場合には、制御信号は、駆動パラメータに対応する駆動電圧である。
【0030】
制御回路26は、特に限定されるものではないが、例えば、デジタル信号プロセッサである。この場合、RFパワー検出器25A、25Bの出力信号(すなわち、X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号)は、それぞれA/D変換器によりデジタルデータに変換される。そして、加算回路31は、1組のデジタルデータを足し合わせる加算演算を実行し、デジタルモニタ信号を生成する。また、駆動パラメータ決定部32は、デジタルモニタ信号を利用して所定の演算を実行し、駆動パラメータを決定する。なお、制御回路26は、アナログ回路で実現するようにしてもよい。
【0031】
図4は、偏波状態の制御について説明する図である。ここでは、偏波多重光送信器4と偏波多重光受信器5との間の伝送路1において偏波依存損失(PDL:Polarization Dependent Loss)がないものとする。なお、偏波多重光信号は、偏波多重光送信器4から送信されるときは、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルは互いに直交している。したがって、偏波依存損失がない場合には、偏波多重光受信器5に入力される偏波多重光信号のX偏波チャネルおよびY偏波チャネルも互いに直交している。
【0032】
図4において、横軸は、偏波コントローラ21の制御電圧である。ここで、この実施例では、入力偏波多重光信号の偏波の状態は、偏波コントローラ21の制御電圧により制御される。したがって、横軸は、実質的には、入力偏波多重光信号の偏波の状態(または、偏光方向)を表す。また、縦軸は、RFパワー検出器25A、25Bの出力電圧、および再生データのビット誤り率を表す。なお、RFパワー検出器25A、25Bの出力電圧は、X偏波チャネル信号およびY偏波チャネル信号のパワーに相当する。
【0033】
以下、X偏波チャネルについて説明する。偏波コントローラ21の制御電圧に応じて偏波多重光信号の偏波状態が変化すると、X偏波チャネルの光パワーを表すRFパワー検出器(図2では、25A)の出力電圧も変化する。また、偏波多重光信号の偏波状態に応じて、ビット誤り率も変化する。このとき、図4に示す例では、ビット誤り率が最小化されるときに、RFパワー検出器の出力電圧は最大になっている。したがって、RFパワー検出器の出力電圧が最大化されるように偏波コントローラ21の制御電圧を調整すれば、ビット誤り率が小さくなる。なお、上述のフィードバック制御は、Y偏波チャネルに対して行うこともできる。
【0034】
ところが一般に、伝送路1は、偏波依存損失を有している。この場合、偏波多重光受信器5で検出されるX偏波チャネルおよびY偏波チャネルは、互いに直交していない。
図5は、偏波依存損失による影響を説明する図である。ここでは、伝送路1の偏波依存損失が3dB/45度であるものとする。なお、偏波多重光送信器4から送信されるX偏波チャネルおよびY偏波チャネルの電界は、互いに直交している。また、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルの送信パワーは、互いに同じであるものとする。
【0035】
偏波多重光受信器5に入力される偏波多重光信号は、偏波依存損失(3dB、45度)の影響を受けている。ここで、X偏波チャネルの電界Exを、偏波依存損失の低損失軸および高損失軸の成分に分解して考える。この例では、低損失軸は、X軸に対して45度の方向であり、高損失軸は、低損失軸に直交するものとする。また、低損失軸における損失はゼロであり、高損失軸における損失は3dBである。
【0036】
この場合、高損失軸方向の電界成分が小さくなるが、低損失軸方向の電界成分は変わらない。このため、偏波多重光受信器5に入力されるX偏波チャネルの電界Ex1は、図5に示すように、電界Exと異なる方向を向いている。同様に、偏波多重光受信器5に入力されるY偏波チャネルの電界Ey1は、電界Eyと異なる方向を向いている。この結果、1組の電界Ex1、Ey1は、互いに直交していない。
【0037】
偏波依存損失がある場合の偏波制御について説明する。ここで、入力偏波多重光信号の偏波状態は、例えば、X偏波チャネルまたはY偏波チャネルの一方の特性を最適化するように制御される。以下の説明では、偏波ビームスプリッタ22が、X偏波チャネルを抽出するためのX偏波抽出軸、およびY偏波チャネルを抽出するためのY偏波抽出軸を備えているものとする。また、X偏波チャネルの特性を最適化するものとする。
【0038】
この場合、図6(a)に示すように、電界Ey1がX偏波抽出軸に直交するように、入力偏波多重光信号の偏波状態が制御される。そうすると、偏波ビームスプリッタ22により抽出されるX偏波チャネルは、電界Ey1成分を含まない。すなわち、偏波ビームスプリッタ22において、X偏波チャネルとして、電界Ex1をX偏波抽出軸に投影することにより得られる成分(図6では、電界Ex2)が抽出される。したがって、X偏波チャネルは、Y偏波チャネルからのクロストークの影響を受けることはなく、再生データのビット誤り率は低くなる。
【0039】
しかし、上述のようにして入力偏波多重光信号の偏波状態が制御されると、電界Ex1とY偏波抽出軸とは互いに直交していない。このため、偏波ビームスプリッタ22において抽出されるY偏波チャネルは、図6(b)に示すように、電界Ex3を含んでいる。なお、電界Ex3は、電界Ex1をY偏波抽出軸に投影することにより得られる成分に相当する。この場合、Y偏波チャネルは、X偏波チャネルからのクロストークの影響を受けることになり、再生データのビット誤り率は劣化してしまう。
【0040】
このように、X偏波チャネルまたはY偏波チャネルの一方の特性を最適化するように偏波状態を制御する方法では、偏波依存損失が存在する場合、他方の偏波チャネル品質が大きく劣化してしまう。
【0041】
図7は、偏波依存損失がある場合の偏波制御について説明する図である。偏波依存損失がある場合、図6に示す方法によれば、X偏波チャネルを最適化するように偏波状態を制御するために、RFパワー検出器25Aの出力電圧(図7では、電圧Vx)を最大にするフィードバック制御が行われる。すなわち、電圧Vxを最大化するように、偏波コントローラ21の制御電圧が生成される。そうすると、X偏波チャネルのビット誤り率(図7では、ERx)が小さくなる。ところが、このようなフィードバック系により入力偏波多重光信号の偏波が制御されると、Y偏波チャネルのビット誤り率(図7では、ERy)は大きく劣化してしまう。したがって、偏波多重光信号(X偏波チャネルおよびY偏波チャネル)により伝送されるデータの品質は、全体として劣化してしまう。
【0042】
これに対して、図3に示す制御回路26を備える偏波多重光受信器5では、X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号を足し合わせることにより得られるモニタ信号に基づいて、入力偏波多重光信号の偏波状態が制御される。実施例では、制御回路26により、RFパワー検出器25Aの出力電圧VxとRFパワー検出器25Bの出力電圧Vyとの和(図7では、電圧V_total)を最大にするフィードバック制御が行われる。そうすると、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルのビット誤り率が互いにほぼ同レベルになる。すなわち、実施形態の方法によれば、図6に示す方法と比較して、X偏波チャネルのビット誤り率は僅かに劣化するが、Y偏波チャネルのビット誤り率は大幅に改善する。この結果、偏波多重光信号(X偏波チャネルおよびY偏波チャネル)により伝送されるデータの品質は、全体として改善される。
【0043】
なお、図7に示す例では、X偏波チャネルの光パワーが大きいときにRFパワー検出器25Aの出力電圧Vxが大きくなる(或いは、Y偏波チャネルの光パワーが大きいときにRFパワー検出器25Bの出力電圧Vyが大きくなる)ものとしている。ただし、RFパワー検出器25A、25Bの構成は、特に限定されるものではなく、例えば、反転増幅器
を内蔵していてもよい。そして、反転増幅器の段数によっては、X偏波チャネルの光パワーが大きいときにRFパワー検出器25Aの出力電圧Vxが小さくなる(或いは、Y偏波チャネルの光パワーが大きいときにRFパワー検出器25Bの出力電圧Vyが小さくなる)。この場合、制御回路26は、電圧V_totalを最小にするように、入力偏波多重光信号の偏波を制御する。
【0044】
このように、実施形態の偏波多重光受信器5においては、X偏波チャネルの光パワーを表す信号とY偏波チャネルの光パワーを表す信号の和が最大または最小となるように、入力偏波多重光信号の偏波状態が制御される。換言すれば、X偏波チャネルの光パワーを表す信号とY偏波チャネルの光パワーを表す信号の和が極値(極大または極小)に近づくように、入力偏波多重光信号の偏波状態が制御される。
【0045】
また、制御回路26が偏波コントローラ21を制御する方法は、特に限定されるものではないが、公知の技術を利用することができる。例えば、ディザリング法が使用される。すなわち、下記の手順が所定の周期で繰り返し実行されるようにしてもよい。なお、ここでは、入力偏波多重光信号の偏波が「θ」であるものとする。
(1)入力偏波多重光信号の偏波を「+Δθ」だけ回転させて、加算回路31から出力されるモニタ信号M1を検出する
(2)入力偏波多重光信号の偏波を「−Δθ」だけ回転させて、加算回路31から出力されるモニタ信号M2を検出する
(3a)M1よりもM2が大きければ、入力偏波多重光信号の偏波を「θ−Δθ」に調整する
(3b)M1よりもM2が小さければ、入力偏波多重光信号の偏波を「θ+Δθ」に調整する
(3c)M1とM2との差分が所定値よりも小さければ(或いは、ほぼゼロであれば)、入力偏波多重光信号の偏波を「θ」のまま保持する
図8は、実施形態の偏波多重光受信器における偏波制御を説明する図である。以下の説明では、図5に示す例と同様に、伝送路1の偏波依存損失が3dB/45度であるものとする。すなわち、入力偏波多重光信号のX偏波チャネルの電界はEx1であり、Y偏波チャネルの電界はEy1である。
【0046】
この場合、加算回路31から出力されるモニタ信号を極値(図7では、最大値)に近づけるフィードバック制御を行うと、偏波ビームスプリッタ22のX偏波抽出軸と電界Ex1との間の角度θx、およびY偏波抽出軸と電界Ey1との間の角度θyは、互いにほぼ同じになる。すなわち、入力偏波多重光信号の偏波状態は、角度θxおよび角度θyが互いにほぼ同じになるように制御される。
【0047】
偏波ビームスプリッタ22により抽出されるX偏波チャネルは、図8(a)に示すように、電界Ex1のX偏波抽出軸への投影成分である電界Ex2、および電界Ey1のX偏波抽出軸への投影成分である電界Ey3を含んでいる。同様に、偏波ビームスプリッタ22により抽出されるY偏波チャネルは、図8(b)に示すように、電界Ey1のY偏波抽出軸への投影成分である電界Ey2、及び電界Ex1のY偏波抽出軸への投影成分である電界Ex3を含んでいる。ここで、上述したように、角度θxおよび角度θyが互いにほぼ同じである。したがって、抽出されるX偏波チャネルのクロストーク成分(すなわち、Ey3)、および抽出されるY偏波チャネルのクロストーク成分(すなわち、Ex3)は、互いにほぼ同じになる。この結果、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルのビット誤り率は、互いにほぼ同じになる。
【0048】
また、抽出されるX偏波チャネルにおいて、クロストーク成分Ey3は、X偏波チャネルの主成分である電界Ex2と比較して十分に小さい。同様に、抽出されるY偏波チャネルに
おいて、クロストーク成分Ex3は、Y偏波チャネルの主成分である電界Ey2と比較して十分に小さい。したがって、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルの双方において、クロストークの影響は抑制され、ビット誤り率が小さくなる。この結果、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルのビット誤り率は、いずれも低く抑えられ、全体としてのビット誤り率が最小化される。
【0049】
図9は、制御回路26の他の実施例を示す図である。この制御回路26は、乗算回路33および駆動パラメータ決定部34を備える。なお、この構成においても、制御回路26には、RFパワー検出器25A、25Bにより生成されるX偏波パワー信号およびY偏波パワー信号が入力される。
【0050】
乗算回路33は、X偏波パワー信号およびY偏波パワー信号を掛け合わせ、その乗算結果を表すモニタ信号を生成する。生成されたモニタ信号は、駆動パラメータ決定部34に入力される。駆動パラメータ決定部34は、このモニタ信号に基づいて、偏波コントローラ21を制御するための駆動パラメータを決定する。そして、駆動パラメータ決定部34は、決定した駆動パラメータを表す制御信号を用いて偏波コントローラ21を制御する。
【0051】
図9に示す制御回路26によるフィードバック制御は、基本的に、図7〜図8を参照した方法と同じである。すなわち、乗算回路33から出力されるモニタ信号(Vx・Vy)が極値に近づくように、入力偏波多重光信号の偏波が制御される。ここで、図7において、加算回路31により得られるV_totalおよび乗算回路33により得られるV_totalは、互いに同じ特性ではない。しかし、いずれの場合であっても、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルのビット誤り率がほぼ同じになる制御点において、V_totalが極値を持つ。したがって、図9に示す構成であっても、モニタ信号に相当するV_totalが極値に近づくように入力多重偏波光信号の偏波を制御すれば、X偏波チャネルおよびY偏波チャネルの全体としてのビット誤り率が低くなる。
【符号の説明】
【0052】
1 伝送路
4 偏波多重光送信器
5 偏波多重光受信器
10 偏波多重光伝送システム
21 偏波コントローラ
22 偏波ビームスプリッタ
24A、24B 受光器
25A、25B RFパワー検出器
26 制御回路
31 加算回路
32、34 駆動パラメータ決定部
33 乗算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波多重光信号の偏波状態を制御する偏波制御器と、
前記偏波制御器により偏波状態が制御された偏波多重光信号を第1の偏波信号および第2の偏波信号に分離する偏波スプリッタと、
前記第1の偏波信号の光パワーを検出する第1の検出器と、
前記第2の偏波信号の光パワーを検出する第2の検出器と、
前記第1の検出器から出力される第1の光パワー信号および前記第2の検出器から出力される第2の光パワー信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する制御部、
を有する偏波多重光受信器。
【請求項2】
請求項1に記載の偏波多重光受信器であって、
前記制御部は、前記第1の光パワー信号および前記第2の光パワー信号の和を表すモニタ信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する
ことを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項3】
請求項2に記載の偏波多重光受信器であって、
前記制御部は、前記モニタ信号が極値に近づくように前記偏波制御器を制御する
ことを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項4】
請求項1に記載の偏波多重光受信器であって、
前記制御部は、前記第1の光パワー信号および前記第2の光パワー信号の積を表すモニタ信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する
ことを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項5】
請求項4に記載の偏波多重光受信器であって、
前記制御部は、前記モニタ信号が極値に近づくように前記偏波制御器を制御する
ことを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項6】
請求項1に記載の偏波多重光受信器であって、
前記制御部は、前記第1および第2の光パワー信号をそれぞれ第1および第2のデジタル値に変換する変換器を備え、前記第1および第2のデジタル値を利用したデジタル演算に基づいて、前記偏波制御器を制御する
ことを特徴とする偏波多重光受信器。
【請求項7】
偏波多重光信号の偏波状態を制御する偏波制御器、および前記偏波制御器により偏波状態が制御された偏波多重光信号を第1の偏波信号および第2の偏波信号に分離して第1および第2の光受信器に導く偏波スプリッタを備える偏波多重光受信器において使用される偏波多重光受信回路であって、
前記第1の偏波信号の光パワーを表す第1の光パワー信号および前記第2の偏波信号の光パワーを表す第2の光パワー信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する制御部を有することを特徴とする偏波多重光受信回路。
【請求項8】
偏波多重光信号を生成して送信する偏波多重光送信器と、前記偏波多重光信号を受信する偏波多重光受信器を有する偏波多重光伝送システムであって、
前記偏波多重光受信器は、
偏波多重光信号の偏波状態を制御する偏波制御器と、
前記偏波制御器により偏波状態が制御された偏波多重光信号を第1の偏波信号および第2の偏波信号に分離する偏波スプリッタと、
前記第1の偏波信号の光パワーを検出する第1の検出器と、
前記第2の偏波信号の光パワーを検出する第2の検出器と、
前記第1の検出器から出力される第1の光パワー信号および前記第2の検出器から出力される第2の光パワー信号に基づいて、前記偏波制御器を制御する制御部、を有する
ことを特徴とする偏波多重光伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−178091(P2010−178091A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18843(P2009−18843)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人情報通信研究機構、「λユーティリティ技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】