説明

健康機能を付与した乳或いは乳調製品

【課題】嗜好性及び栄養バランスに優れた乳或いは乳調製品に、オルニチン健康機能を付与し、しかも、乳のオリジナル風味・呈味を保持した乳或いは乳調製品を提供すること。
【解決手段】乳或いは乳調製品の製造に際して、乳原料に、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩と、該オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍のサイクロデキストリンを配合することにより、オルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品を製造する。本発明は、嗜好性及び栄養バランスに優れた乳或いは乳調製品に、オルニチン健康機能を有効に付与するとともに、乳のオリジナル風味・呈味を保持した、嗜好性、栄養バランス、及び健康機能に優れた乳或いは乳調製品からなる飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嗜好性及び栄養バランスに優れた乳或いは乳調製品に、オルニチン健康機能を付与し、しかも、乳オリジナル風味・呈味を保持した乳或いは乳調製品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳、牛乳のような乳や、乳飲料、クリーム、バター、チーズ、アイスクリームのような乳調製品は、タンパクやミネラル等の豊富でバランスのとれた栄養と独特の風味・呈味により、古来より人々に愛された嗜好性の高い伝統的な健康食品であり、世界各地で、各種の乳や乳調製品が生産され、飲食用に供されている。乳や、乳調製品は、乳本来の風味・呈味が尊重され、基本的には、該風味・呈味を生かした各種の伝統的な乳調製品が提供されている。近年には、該乳や乳調製品において、基本的には乳本来の風味・呈味を保持しつつ、栄養強化や風味の付与を行うような改善の試みも開示されている。例えば、特開平10−52222号公報には、心臓や血管系の障害を防止するために、トリグリセリドの脂肪酸、飽和脂肪酸、多価飽和脂肪酸の配合を調整した乳脂と植物脂の脂質混合物を含有させた栄養的にバランスのとれた乳製品が開示されている。
【0003】
また、特開平10−262611号公報には、可溶性の塩及び不溶性の塩がグルクロン酸源で安定化され、可溶性の塩と不溶性の塩のバランスのとれたカルシウム塩の配合物で強化した乳製品ベースの製品が、特開2001−204383号公報には、マグネシウム源と、乳酸、酢酸、リンゴ酸のような有機酸と、グルコン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸ナトリウム等と、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等を反応して調製した乳製品配合用マグネシウム強化剤で強化した、マグネシウム強化乳製品が開示されている。更に、特開平11−155480号公報には、ペパーミント、ラベンダー等のハーブ系のフレーバーのような油性香気成分を封入したマイクロカプセルを添加したミルク風味と油性香気成分の風味とをバランスよく調和したデザート乳製品が、特開2000−32920号公報には、アイスクリームにアボカドを混入させ、栄養価と舌触りの滑らかさを改善したアイスクリームが開示されている。
【0004】
また、特公昭42―6148号公報には、ブドウ酒酢、リンゴ酢、米酢、マヨネーズ、ソース、醤油、味噌等の醸造食品・調味料、チーズ、ヨーグルト、牛乳等の乳製品、小麦粉、パン粉等の穀類、チュウインガム、キャラメル、チョコレート等の菓子類、ハム、ソーセージ、かまぼこ等の肉類加工品等の各種の食品や調味料等の製造工程中にオルニチンアスパラギン酸塩を添加して、濃厚味を増強するとともに、疲労回復、肝臓強化の資質を付与することが開示されている。しかしながら、具体的に開示されているものは、例えば、牛乳やチーズ、アイスクリーム等の乳製品においては、いずれも製品10kgに対して30〜52gの範囲で、オルニチンアスパラギン酸塩が添加されており(オルニチンとして、0.14〜0.25%)、乳製品の一般的な一食あたりの内容量を考慮するとこの範囲では効果的な、オルニチンアスパラギン酸塩の健康機能を付与することはできない濃度となっている。もし、この範囲を超えて、オルニチンアスパラギン酸塩を添加した場合には、食品にオルニチンアスパラギン酸塩の異風味・呈味が付与されて、食品自体の品質を損なうこととなる。
【0005】
上記のとおり、基本的には乳本来の風味・呈味を尊重する乳や乳調製品においても、栄養強化や風味の付与或いは呈味の改善等の試みが行われているが、今までに、豊富でバランスのとれた栄養と独特の風味・呈味による高い嗜好性を有する乳や乳調製品において、かかる飲食品に健康機能を効果的に付与したものは提供されていない。
【0006】
一方で、近年の健康志向の高まりから、飲食品についても健康飲食品の開発が進められ、そのための健康機能を有する各種の成分が開示されている。そのような健康機能を有する成分としてオルニチンが知られている。オルニチンの健康機能としては、以前より各種のものが知られている。例えば、抗疲労効果(WO2004/078171)、血中アルコール濃度低減効果(WO2007/023931)、睡眠改善の効果(特開2006−342148号公報)、血流改善効果(WO2007/049628)、筋肉量増加効果(WO2007/077995)等様々な生理機能が知られており、該成分を各種飲食品に添加して、或いは、通常は、錠剤化することにより健康食品等として利用に供されてきた。
【0007】
オルニチンはそのままではアルカリ性を呈し使いづらいことから、飲食品原料として、オルニチン塩酸塩として販売されている。しかしながらオルニチン塩酸塩では、水溶液となった際に塩化物イオン濃度が高くなるという問題があり、一定濃度を超えた場合タンクや配管などの製造設備や缶容器に対して腐食などの悪影響を与えたり、乳製品に添加すると塩味を感じてしまうという問題もあって、オルニチンアスパラギン酸塩としての利用が行われている。オルニチンアスパラギン酸塩を使用すると、塩化物イオンを含まないため、オルニチン塩酸塩のような問題はないが、オルニチンアスパラギン酸塩固有の異味があるため、オルニチンアスパラギン酸塩含有乳製品を製造すると嗜好性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、オルニチン等のアミノ酸やペプチドの異風味を低減する方法も開示されている。例えば、特公平3−47829号公報には、イソロイシンや、ロイシン、リジン、オルニチン等のアミノ酸と、糖類とを褐変反応のない条件下で含有させ、かつ、カカオ或いはコーヒー風味を付与させて苦味に対する抵抗感を低減させた食品組成物が、特開2009−118743号公報には、キサンタンガム、グアーガムのような増粘剤と、ポリ−γ−グルタミン酸とを含有させたアミノ酸の苦みの抑制方法が開示されている。
【0009】
他方で、飲食品や医薬品等において、成分の苦味、渋味や収斂味を抑制する物質として、サイクロデキストリンを用いることが知られている。例えば、チアミン誘導体の苦味抑制(特開2002−80369号公報)、リボフラビンの苦味抑制が(特開2001−348333号公報)、ポリフェノール由来の匂い、苦味、渋味抑制が(特開2008−136367号公報)、ステビア由来甘み物質の苦味抑制が(特開2006−238826号公報)、ガルシニアエキス原料由来臭抑制が(特開2006―2号公報)、酒類の異味・異臭抑制(特開昭58−146271号公報)が開示されている。
【0010】
また、特開2003−183166号公報には、イソフラボン誘導体の苦味、渋味や収斂味を、特開2006−67895号公報には、ポリフェノール含有対象物の苦渋味を、特開2006−75064号公報には、ペプチド含有飲料のペプチド臭を、特開2006−115772号公報には、カテキン含有組成物の苦味を、特開2007−97465号公報には、ペプチド含有飲食品の苦味、渋味を、特開2008−118933号公報には、ポリフェノール含有組成物の苦味、渋味や収斂味をサイクロデキストリンを用いてそれぞれ低減することが開示されている。しかし、異味・異臭が強い場合においては、サイクロデキストリン単独での効果は必ずしも十分なものではなく、甘味を強くしたり、糖アルコールなど共存物質を添加させる必要がある。
【0011】
また、サイクロデキストリンの他の用途として、錠剤等の固形剤の賦形剤や結合材としての用途が開示されている。例えば、特開2007−55900号公報には、オルニチン、イソロイシン、ロイシン等と、それ以外のリウマチ治療薬を有効成分とする医薬組成物の製剤の賦形剤として、β−サイクロデキストリンを、特開2009−161534号公報には、オルニチン又はその塩を有効成分として含有する抗鬱・抗ストレス剤の固形製剤における賦形剤として、サイクロデキストリンを、WO2006/080498には、オルニチン塩酸塩を含有する錠剤の結合材として、β−サイクロデキストリンを用いることが開示されている。これらは、いずれもサイクロデキストリンの、錠剤等の固形剤の製造における補助剤としての利用を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭42―6148号公報。
【特許文献2】特開昭58−146271号公報。
【特許文献3】特公平3−47829号公報。
【特許文献4】特開平10−52222号公報。
【特許文献5】特開平10−262611号公報。
【特許文献6】特開平11−155480号公報。
【特許文献7】特開2000−32920号公報。
【特許文献8】特開2001−204383号公報。
【特許文献9】特開2001−348333号公報。
【特許文献10】特開2002−80369号公報。
【特許文献11】特開2003−183166号公報。
【特許文献12】特開2006―2号公報。
【特許文献13】特開2006−67895号公報。
【特許文献14】特開2006−75064号公報。
【特許文献15】特開2006−115772号公報。
【特許文献16】特開2006−238826号公報。
【特許文献17】特開2006−342148号公報。
【特許文献18】特開2007−97465号公報。
【特許文献19】特開2007−55900号公報。
【特許文献20】特開2008−118933号公報。
【特許文献21】特開2008−136367号公報。
【特許文献22】特開2009−118743号公報。
【特許文献23】特開2009−161534号公報。
【特許文献24】WO2004/078171。
【特許文献25】WO2006/080498。
【特許文献26】WO2007/023931。
【特許文献27】WO2007/049628。
【特許文献28】WO2007/077995。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
各種健康機能を有するオルニチンは、乳や、乳飲料、発酵乳、チーズ等の乳調製品に有効量で添加すると風味・呈味が低下し、製品の品質を損ねるという問題がある。そこで、本発明の課題は、該嗜好性及び栄養バランスに優れた乳或いは乳調製品に、オルニチン健康機能を付与し、しかも、乳のオリジナル風味・呈味を保持した乳或いは乳調製品を提供すること、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、栄養バランスに優れ、高い嗜好性を有する乳や乳調製品に、該飲食品のオリジナルの風味・呈味を保持しつつ、有効な健康機能を付与すべく鋭意検討する中で、該飲食品に所定量のオルニチンと、オルニチンに対して、所定量のサイクロデキストリンを配合することにより、乳や乳調製品の高い嗜好性と栄養バランスを保持しながら、しかも、有効な健康機能を付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、乳或いは乳調製品の製造に際して、乳原料に、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩と、該オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍のサイクロデキストリンを配合することにより、オルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品を製造する方法からなる。
【0015】
オルニチンは、種々の健康機能を有し、錠剤化された健康食品のような形態で摂取されているが、これを飲食品に添加して、その有効量の配合により健康機能を発揮しようとすると、飲食品の本来の風味や味覚に影響を及ぼして、飲食品自体の品質を損ねるという問題がある。オルニチンは、その使用上の便宜のために、オルニチンアスパラギン酸塩のような塩の形で用いられるが、かかる塩自体は異味があるため、その有効量を飲食品に添加すると、飲食品自体の本来の味覚に影響を及ぼし、嗜好性を低下するという問題がある。特に、オリジナルの微妙な風味・呈味が嗜好される乳や乳調製品においては、この味覚の変動が重要な問題となる。そこで、本発明においては、上記のとおり、乳や乳調製品に対して、所定量のオルニチンと、オルニチンに対して、所定量のサイクロデキストリンを配合することにより、乳や乳調製品の高い嗜好性と栄養バランスを保持しながら、しかも、有効な健康機能を付与することに成功した。
【0016】
本発明において、オルニチンの健康機能を発揮するために、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩が配合されるが、該オルニチン又はその塩の配合量は、乳或いは乳調製品の1食あたりのオルニチンとして、250mg〜2000mgの量になるように配合されることが好ましい。オルニチンは、使用上の便宜から、塩の形で配合することが好ましいが、かかる塩としては、オルニチンアスパラギン酸塩が特に好ましい。
【0017】
本発明において、配合するサイクロデキストリンとしては、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン、及びそれらの混合物が挙げられるが、それらのうちγ−サイクロデキストリンか、又は、γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物が特に好ましい。該γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物を用いる場合には、該混合物中のγ−サイクロデキストリンの含量が20重量%以上であり、かつ、β−サイクロデキストリンの量が40重量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明における乳調製品としては、乳等省令で乳製品に該当するものが対象となるが、特に、対象となるものとして、乳飲料、発酵乳、又はチーズ等を挙げることができる。本発明における乳或いは乳調製品の製造方法において、乳原料に配合するオルニチン又はその塩と、サイクロデキストリンとは、オルニチン又はその塩と、サイクロデキストリンとをあらかじめ水の存在下で溶解し反応させた後に、乳原料に添加、混合することが好ましい。本発明の乳或いは乳調製品の製造方法により、オルニチン健康機能を有効に付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品を製造することができる。
【0019】
すなわち具体的には本発明は、[1]乳或いは乳調製品の製造に際して、乳原料に、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩と、該オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍のサイクロデキストリンを配合したことを特徴とするオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[2]乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上の乳原料に対するオルニチン又はその塩の配合量が、乳或いは乳調製品の1食あたりのオルニチンとして、250mg〜2000mgの量になるように配合されていることを特徴とする上記[1]記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[3]オルニチン塩が、オルニチンアスパラギン酸塩であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[4]サイクロデキストリンが、γ−サイクロデキストリンか、又は、γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法からなる。
【0020】
また、本発明は、[5]γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物において、該混合物中のγ−サイクロデキストリンの含量が20重量%以上であり、かつ、β−サイクロデキストリンの量が40重量%以下であることを特徴とする上記[4]記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[6]乳調製品が、乳飲料、発酵乳、又はチーズであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[7]乳或いは乳調製品の製造に際して、オルニチン又はその塩と、サイクロデキストリンとをあらかじめ水の存在下で溶解し反応させた後に、乳原料に添加、混合することを特徴とする上記[1]〜[6]記載のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法や、[8]上記[1]〜[7]のいずれか記載の乳調製品の製造方法によって製造されたオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品からなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、嗜好性及び栄養バランスに優れた乳又は乳調整品に、オルニチン健康機能を付与し、しかも、乳のオリジナル風味・呈味を保持した嗜好性、栄養及び健康機能に優れた乳及び乳調製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、乳或いは乳調製品の製造に際して、乳原料に、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩と、該オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍のサイクロデキストリンを配合することにより、オルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品を製造することからなる。
【0023】
本発明で対象とする乳とは乳等省令で乳に該当するものをいう。また、本発明で対象とする乳調整品には、乳等省令で乳製品に該当するクリーム、バター、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、醗酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料だけではなく、乳等省令で乳に該当するもの、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、更には乳主原も含まれる。本発明対象となる乳製品のより好ましい形態としては、乳飲料、発酵乳、チーズが挙げられる。乳脂肪含量については、特に限定はなく商品設計に合わせて、適宜変更することができる。
【0024】
本発明で用いるオルニチンは、通常オルニチン塩として用いることができる。該オルニチン塩としては、オルニチンと有機酸若しくは無機酸の塩であれば特に限定されないが、本発明を実施するにあたってより好ましい塩は塩酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、α−ケトグルタル酸塩、アスパラギン酸塩であり、更に、好ましい塩はオルニチンアスパラギン酸塩である。
【0025】
乳や乳調製品において、例えば、オルニチンアスパラギン酸塩を乳調製品に添加しても、風味や呈味が問題とならない量は、乳や乳飲料、発酵乳の場合は0.2%未満、チーズの場合は、0.25%未満程度であり、これより、より高い濃度でオルニチンアスパラギン酸塩を乳調製品等に添加するには、何らかのマスキング方法を検討する必要がある。そして、本発明において、乳や乳調製品にオルニチンによる健康機能を有効に付与するには、乳原料に、乳或いは乳調製品あたりオルニチン又はその塩を、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上配合することが必要になる。オルニチンやその塩の乳や乳製品への添加量は、上記添加範囲で特に限定されないが、健康機能の効果的な発揮のためには、好ましくは1食あたりオルニチンとして250mg〜2000mgの範囲に調整されることが好ましい。更に、好ましくは250mg〜1000mgの範囲に調整されることが好ましい。
【0026】
本発明において、サイクロデキストリンは、オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍の量で配合される。例えば、乳調製品1食あたりオルニチンとして250mg〜1000mgを添加した場合には、マスキングに必要なサイクロデキストリンの乳調製品への添加濃度は、35mg〜1400mgである。該範囲を超えてもコストが高くなる割にマスキング効果はあまり向上せず、また、該範囲よりも低いと十分なマスキング効果が得られない。
【0027】
上記サイクロデキストリンの配合量により、オルニチンやその塩を有効量、乳や乳製品へ配合した場合でも、効果的なマスキング効果を得ることができ、有効にオルニチン健康機能を付与した乳や乳製品を得ることができる。本発明者らは、オルニチンアスパラギン酸塩などのオルニチン塩の異風味をマスキングする方法として、スクラロースやアセスルファムカリウム等の甘味料、完熟感のある甘めのソフトフルーツ系の香料製剤等(バナナ、マンゴー、パイン等)、一般的にマスキングフレーバーといわれている香料製剤(酸味マスキング系、シュガーフレーバー系、柑橘系マスキングフレーバー等)、クラスターデキストリン等を検討してきたが、マスキング効果が不十分であったり、マスキング物質の風味が強すぎる等の問題により満足した結果は得られなかった。これに対して、サイクロデキストリンを上記特定量で配合した場合には、サイクロデキストリンの高いマスキング効果を得ることができ、しかも、乳や乳製品のオリジナルな風味・呈味に影響を及ぼすことなく、乳や乳製品に有効にオルニチン健康機能を付与することができることを見出した。
【0028】
本発明において使用するサイクロデキストリンは、α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、γ−サイクロデキストリン、或いは、それらを2種類または3種類含む混合物を使用することができる。好ましくは、γ−サイクロデキストリン単独か、γ−サイクロデキストリンを含むサイクロデキストリン混合物を使用すると良い。γ−サイクロデキストリンは、本発明の目的において好ましいサイクロデキストリンであるが、γ―サイクロデキストリン単体使用だと精製度合いが高くなり、原料コストが上がってしまうという問題がある。また、β−サイクロデキストリン単体使用においても精製度合いが高くなり、コストアップにつながるが、更に、β−サイクロデキストリンは、水への溶解度(1.8g/100ml)が低いという問題があり、添加量が多くなると乳製品中で保存中に沈殿が発生するというリスクがある。以上のことから、γ−サイクロデキストリンやβ−サイクロデキストリンを単独で使用するよりも、サイクロデキストリン混合物を使用することがより好ましい。
【0029】
サイクロデキストリン混合物を使用する場合には、γ−サイクロデキストリンの比率が高く、溶解度の低いβ−サイクロデキストリンが少ない混合製剤がより好ましい。サイクロデキストリン混合物中(サイクロデキストリンの量を100%とする)のγ−サイクロデキストリンの含量は好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上、更に、好ましくは35重量%以上である。サイクロデキストリン混合物中(サイクロデキストリンの量を100%とする)のβ−サイクロデキストリンの含量は好ましくは40重量%以下、更に、好ましくは30重量%以下である。
【0030】
オルニチンまたはオルニチン塩を乳調製品に添加した際に発生する共通している異風味は、とうもろこし等の穀物を蒸した時に出る香り、アミノ酸特有の後味にくる旨味がある。後味にでる旨味については、オルニチン特有の風味が強く出るという問題がある。更に、オルニチン塩になると、塩の種類により別の異風味が付与されてしまう。例えば、オルニチン塩酸塩は、塩味が強く感じられ、オルニチンクエン酸塩は酸味が強くなり、オルニチンアスパラギン酸塩は、アスパラギン酸由来の香味(ポリアミン)の風味が強く出てしまうという問題がある。本発明によれば、これらの異臭味を効果的に抑制することができる。なお、オルニチンまたはオルニチン塩を乳調製品に添加した場合は、イソロイシン、ロイシン、アルギニン等のアミノ酸のような苦味の問題は無い。
【0031】
本発明の乳或いは乳調製品の製造方法において、オルニチン塩とサイクロデキストリンの乳製品への添加タイミングは特に限定されないが、オルニチン塩とサイクロデキストリンをあらかじめ水の存在下で溶解し反応させた後に、乳製品に添加することにより、オルニチン塩がサイクロデキストリンに包接されやすくなり、マスキング効果が高くなるので好ましい。
なお、ヨーグルトやアイスクリーム等の乳製品の製造の際に、風味ソースを別途添加する場合には、風味ソースの中にもオルニチンやその塩、サイクロデキストリンを添加しておいても良い。
【0032】
オルニチン塩とサイクロデキストリンの水への溶解方法は特に限定されないが、サイクロデキストリン水溶液を調製後にオルニチン塩を添加し、オルニチン塩を溶解すると良い。そのようにすることにより、上記のようにオルニチン塩がサイクロデキストリンに効率的に包接され、マスキングされやすくなる。オルニチン塩が飛散しやすかったり、サイクロデキストリン水溶液に分散しにくい場合はグラニュー糖などの糖類をあらかじめオルニチン塩に混合しておいても良い。前記のように、サイクロデキストリンの配合量は、オルニチン1部に対して、サイクロデキストリンを0.14部〜1.4部添加することが好ましい。0.14部未満だとマスキング効果が弱く、1.4部以上だと製造コストが高くなるという問題があり、調製品によってはサイクロデキストリン混合製剤由来の甘味(水飴)が生じるなどの問題が発生する場合がある。
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
[1.牛乳を使用したオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果]
(1)試験方法:
牛乳100gあたりオルニチンアスパラギン酸塩0.858g(オルニチンとして0.42g)を加え、溶解したものを試験液とした。サイクロデキストリン無添加の試験液をコントロールとし、それぞれα−サイクロデキストリン(メーカー:日本食品化工;品名:セルデックスA-100)、β−サイクロデキストリン(メーカー:日本食品化工;品名:セルデックスB-100)γ−サイクロデキストリン(メーカー:塩水港精糖;品名:デキシーパールγ-100)と混合物であるCD−20(メーカー:日本食品化工;品名:セルデックスSL−20配合;サイクロデキストリン約20%(無水換算);水飴:約80%、α、β、γの配合割合は、α:β:γ=7:5:8)をサイクロデキストリン含量として0.02%または0.6%添加し、良く撹拌して溶解した後にマスキング効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル8人で5段階評価にて行った。8人の結果の平均値と標準誤差の結果を表1に示すが、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0035】
<点数の指標>
5点:オルニチンの味が感じられない。4点:かなり軽減されている。3点:軽減されている。2点:多少効果が出ている。1点:効果が認められない。
【0036】
(2)結果:
結果を表1(牛乳でのオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果)に示す。表1に示されるように、サイクロデキストリンを添加することにより、オルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果が得られる。その効果はα−サイクロデキストリンよりもβ、γ−サイクロデキストリンの方が効果は高いことが示された。α、β、γ−サイクロデキストリンの混合物であるCD−20はβ−サイクロデキストリンやγ−サイクロデキストリンと比較して、マスキング効果は同等もしくは若干効果は弱いものの、経済性が高く産業上利用しやすいため、以降の検討はCD−20を使用して試験を実施した。
【0037】
【表1】

【実施例2】
【0038】
[2.発酵乳でのオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果]
(1)試験方法:
オルニチンアスパラギン酸塩、サイクロデキストリンとして、α、β、γ−サイクロデキストリン混合物である、CD−20(メーカー:日本食品化工:セルデックスSL−20:サイクロデキストリン約20%(無水換算);水飴:約80%)及び市販のヨーグルト3種を使用して試験を実施した。純粋なオルニチンとして4.2重量%および純粋なサイクロデキストリンとして0〜6重量%(0、0.06、0.2、0.4、0.6、6%)含む混合水溶液6種類を作製した。なお、混合水溶液を作製するにあたっては、サイクロデキストリン水溶液を調製後に、オルニチンアスパラギン酸塩を添加しよく撹拌し溶解させた。市販のヨーグルト「市販ヨーグルト生乳100%ヨーグルト」、「市販ヨーグルト・ブルガリア」、「市販ヨーグルト・ビヒダス」に、各混合水溶液が10重量%になるように撹拌混合した後、マスキング効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル8人で5段階評価にて行った。8人の結果の平均値を表2に示すが、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0039】
<点数の指標>
5点:オルニチンの味が感じられない。4点:かなり軽減されている。3点:軽減されている。2点:多少効果が出ている。1点:効果が認められない。
【0040】
(2)結果:
結果を表2(発酵乳でのオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果)に示す。表2に示されるように、発酵乳にCD−20を添加することによりオルニチンアスパラギン酸塩による異風味のマスキング効果が示された。
【0041】
【表2】

【実施例3】
【0042】
[3.チーズでのオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果]
(1)試験方法:
オルニチンアスパラギン酸塩、サイクロデキストリンとして、α、β、γ−サイクロデキストリン混合物である、CD−20(メーカー:日本食品化工:セルデックスSL−20:サイクロデキストリン:約20%(無水換算);水飴:約80%)及び市販のスライスチーズ3種を使用して試験を実施した。純粋なオルニチンとして4.2重量%および純粋なサイクロデキストリンとして0〜6重量%(0、0.06、0.2、0.4、0.6、6%)含む混合水溶液6種類を作製した。なお、混合水溶液を作製するにあたっては、サイクロデキストリン水溶液を調製後に、オルニチンアスパラギン酸塩を添加しよく撹拌し溶解させた。
【0043】
市販されている「A社スライスチーズとろける」、「B社とろけるスライス」、「C社とろけるスライス」をそれぞれ90℃以上で加熱溶解させた後、上記の各混合水溶液を10重量%になるように混合溶解し、冷却した。以上のようにオルニチンアスパラギン酸塩とサイクロデキストリンを含むチーズを調製しマスキングの効果を確認した。マスキング効果の評価は、訓練された官能評価パネル8人で5段階評価にて行った。8人の結果の平均値を表3に示すが、点数が大きい程マスキング効果が高いことを意味する。
【0044】
<点数の指標>
5点:オルニチンの味が感じられない。4点:かなり軽減されている。3点:軽減されている。2点:多少効果が出ている。1点:効果が認められない。
【0045】
(2)結果:
結果を表3(チーズでのオルニチンアスパラギン酸塩のマスキング効果)に示す。表3に示されるように、発酵乳にCD−20を添加することによりオルニチンアスパラギン酸塩による異風味のマスキング効果が示された。
【0046】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、嗜好性及び栄養バランスに優れた乳又は乳調整品に、オルニチン健康機能を付与し、しかも、乳のオリジナル風味・呈味を保持した嗜好性、栄養及び健康機能に優れた乳及び乳調製品を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳或いは乳調製品の製造に際して、乳原料に、乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上のオルニチン又はその塩と、該オルニチン又はその塩に対して重量比で0.14〜1.4倍のサイクロデキストリンを配合したことを特徴とするオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項2】
乳或いは乳調製品あたり、オルニチンとして少なくとも0.25重量%以上の乳原料に対するオルニチン又はその塩の配合量が、乳或いは乳調製品の1食あたりのオルニチンとして、250mg〜2000mgの量になるように配合されていることを特徴とする請求項1記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項3】
オルニチン塩が、オルニチンアスパラギン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項4】
サイクロデキストリンが、γ−サイクロデキストリンか、又は、γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項5】
γ−サイクロデキストリンと、α−サイクロデキストリン及び/又はβ−サイクロデキストリンとの混合物において、該混合物中のγ−サイクロデキストリンの含量が20重量%以上であり、かつ、β−サイクロデキストリンの量が40重量%以下であることを特徴とする請求項4記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項6】
乳調製品が、乳飲料、発酵乳、又はチーズであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項7】
乳或いは乳調製品の製造に際して、オルニチン又はその塩と、サイクロデキストリンとをあらかじめ水の存在下で溶解し反応させた後に、乳原料に添加、混合することを特徴とする請求項1〜6記載のいずれか記載のオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の乳調製品の製造方法によって製造されたオルニチン健康機能を付与した乳オリジナル風味・呈味の乳或いは乳調製品。

【公開番号】特開2011−115100(P2011−115100A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276390(P2009−276390)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【出願人】(594197388)小岩井乳業株式会社 (13)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【Fターム(参考)】