説明

偽造防止媒体およびその製造方法

【課題】本発明は、基材の両面にパターンが形成されたものを光で透かして見たときに両面のパターンが合成されて出現する画像を確認することで真偽の判定ができる、偽造が困難な偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、錯視図形を二分割した第1要素および第2要素のうち、上記第1要素が基材の一方の面に設けられ、上記第2要素が上記基材の他方の面に設けられ、さらに上記基材の一方の面に上記第2要素に重なるように上記第2要素と同形状の補助要素が設けられており、上記補助要素は、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときには上記錯視図形による錯視が発現し、上記偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられていることを特徴とする偽造防止媒体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、有価証券、証明書等の偽造防止技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各国紙幣等の一部には光に透かして見ると、表の模様と裏の模様が重なって、完成された模様となって見えるものがある。これは一つの図柄を2分割して、一方を基材の表面に、他方を基材の裏面に印刷したもので、単純なパターンが多い。したがって、通常の複写機を用いても容易に再現でき、偽造防止効果が低かった。
【0003】
なお、印刷方式または印刷加工方式による偽造防止技術については、例えば特許文献1〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−272219号公報
【特許文献2】特開2001−39004号公報
【特許文献3】特開2007−253600号公報
【特許文献4】特開2008−12722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記問題点に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、元の図柄として錯視図形を用い、光に透かしたときに錯視図形が出現するとともに錯視が発現するように、基材の両面にそれぞれパターンを形成することで、偽造防止効果を高めることができることを見出した。
しかしながら、基材の一方の面を手前にして光に透かして見ると基材の他方の面に形成されたパターンは濃度が低下するため、元の図柄が出現しないあるいは出現し難い場合があることがわかった。そして、錯視の発現には濃淡が大きく影響するため、錯視図形の種類によっては、錯視が発現しないあるいは発現し難いことがわかった。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、基材の両面にパターンを形成したものを光で透かして見たときに両面のパターンが合成されて出現する画像を確認することで真偽の判定ができる、偽造が困難な偽造防止媒体およびその製造方法であって、錯視を生じさせやすくすることができる偽造防止媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、錯視図形を二分割した第1要素および第2要素のうち、上記第1要素が基材の一方の面に設けられ、上記第2要素が上記基材の他方の面に設けられた偽造防止媒体であって、さらに上記基材の一方の面に上記第2要素に重なるように上記第2要素と同形状の補助要素が設けられており、上記補助要素は、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときには上記錯視図形による錯視が発現し、上記偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられていることを特徴とする偽造防止媒体を提供する。
【0007】
本発明においては、基材の一方の面に第1要素が設けられ、基材の他方の面に第2要素が設けられ、さらに基材の一方の面に第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素が設けられているので、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素の濃度の低下分を、補助要素によって補うことができる。さらに本発明においては、補助要素は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられているので、光に透かして見たときにはじめて錯視が起こるため、偽造防止に有効である。通常の複写機では、第1要素、第2要素および補助要素の高精度な位置合わせが困難である上に、第1要素、第2要素および補助要素を所定の濃度で複写することも困難である。したがって本発明においては、高い偽造防止効果を達成することができる。
【0008】
上記発明においては、上記補助要素は、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときの上記補助要素および上記第2要素が重なる領域の濃度が、上記錯視図形を二分割した上記第2要素の濃度と略同一になるような濃度で設けられていることが好ましい。基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第2要素の濃度が低下するために、錯視が発現しないあるいは発現し難い錯視図形の場合には、補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、錯視を発現しやすくすることができるからである。
【0009】
また本発明においては、上記錯視図形を二分割した上記第1要素および上記第2要素が略同一の濃度であることが好ましい。錯視図形を二分割した第1要素および第2要素が略同一の濃度である場合には、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第2要素の濃度が低下するために、錯視が発現しないあるいは発現し難くなるので、本発明の構成とすることが有用である。
【0010】
さらに本発明は、錯視図形を第1要素および第2要素に二分割する画像処理工程と、上記基材の他方の面に、上記第2要素を形成する第2要素形成工程と、上記基材の一方の面に、上記第1要素を形成し、さらに上記第2要素に重なるように上記第2要素と同形状の補助要素を形成する第1要素・補助要素形成工程とを有し、上記第1要素・補助要素形成工程では、上記補助要素を、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときには上記錯視図形による錯視が発現し、上記偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成することを特徴とする偽造防止媒体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明においては、基材の一方の面に第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素を形成し、さらに補助要素を、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成することによって、上述したように優れた偽造防止効果を得ることができる。したがって、既存の材料および装置を用いて偽造防止媒体を作製することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、基材の一方の面に第1要素が設けられ、基材の他方の面に第2要素が設けられ、さらに基材の一方の面に第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素が設けられているので、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素の濃度の低下分を補助要素によって補うことができ、その結果、偽造防止媒体を光に透かして観察すると錯視図形が出現し錯視が生じるので、偽造防止効果を向上させることが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の偽造防止媒体に用いられる錯視図形の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す錯視図形を二分割した模式図である。
【図3】本発明の偽造防止媒体の一例を示す概略平面図および断面図である。
【図4】本発明の偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態の他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の偽造防止媒体の他の例を示す概略平面図である。
【図7】本発明の偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態の他の例を示す模式図である。
【図8】本発明の偽造防止媒体の他の例を示す概略平面図である。
【図9】本発明の偽造防止媒体の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の偽造防止媒体およびその製造方法について詳細に説明する。
【0015】
A.偽造防止媒体
本発明の偽造防止媒体は、錯視図形を二分割した第1要素および第2要素のうち、上記第1要素が基材の一方の面に設けられ、上記第2要素が上記基材の他方の面に設けられた偽造防止媒体であって、さらに上記基材の一方の面に上記第2要素に重なるように上記第2要素と同形状の補助要素が設けられており、上記補助要素は、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときには上記錯視図形による錯視が発現し、上記偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の偽造防止媒体について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の偽造防止媒体に用いられる錯視図形の一例を示す模式図であり、図2(a)、(b)は図1に示す錯視図形を第1要素および第2要素に二分割した模式図である。図3(a)〜(d)は本発明の偽造防止媒体の一例を示す概略平面図および断面図であり、図1に示す錯視図形を用いた場合の例である。図3(a)は偽造防止媒体を基材の一方の面から見た平面図、図3(b)は偽造防止媒体を基材の他方の面から見た平面図、図3(c)は図3(a)、(b)のA−A線断面図、図3(d)は図3(a)、(b)のB−B線断面図である。
図1に示す錯視図形30は、白色と黒色の正方形が交互に横に並べられ、上下の正方形が半個分水平にずれて並べられており、上下の正方形の境界に黒色の水平な線が引かれたものである。この錯視図形30では、黒色の線が、左もしくは右に傾いて見える。これは、実際にはどれも水平で互いに平行な線が左もしくは右に傾いて見えるものであり、傾き錯視(Munsterberg, 1897)と呼ばれている。
【0017】
図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1においては、図1に示す錯視図形30を二分割した第1要素3(正方形3aおよび直線3b)および第2要素4(正方形)のうち、第1要素3(正方形3aおよび直線3b)が基材2の一方の面に設けられ、第2要素4(正方形)が基材2の他方の面に設けられており、さらに基材2の一方の面に第2要素4に重なるように第2要素4と同形状の補助要素5(正方形)が設けられている。第1要素3、第2要素4および補助要素5は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに、第1要素3、第2要素4および補助要素5により分割する前の錯視図形が形成されるとともに、第2要素4および補助要素5が重なるように、位置合わせされて設けられている。また、第1要素3および第2要素4は、錯視図形に基づく色および濃度(例えば黒色)で印刷されている。一方、補助要素5は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で印刷されており、具体的には第2要素4の濃度よりも低い濃度(例えば灰色)で印刷されている。
【0018】
図4は、図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態を示す模式図である。図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かして観察すると、図4に例示するように、第1要素3と第2要素4と補助要素5とにより錯視図形10が形成される。基材2の両面に何も印刷されていない領域は、光が透過するので、基材2の色、濃度、印刷不透明度等に応じた状態(例えば白色)で視認される。第1要素3は、所定の色および濃度(例えば黒色)で印刷されており、基材2の一方の面を手前にしているので、濃度が維持された状態(例えば黒色)で視認される。第2要素4は所定の色および濃度(例えば黒色)で印刷され、補助要素5は所定の色および濃度(例えば灰色)で印刷されており、第2要素4と補助要素5とは、重なるように印刷されているので、偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かしたときの第2要素4の濃度に補助要素5の濃度が加算された状態(例えば黒色)で視認される。すなわち、偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かして観察すると、第2要素4は基材2の一方の面を手前にしているので濃度が低下するが、基材2の一方の面に、第2要素4に重なるように第2要素4と同形状の補助要素5が印刷されているので、補助要素5によって、基材2の一方の面を手前にして偽造防止媒体1を光に透かしたときの第2要素4の濃度の低下分が補われる。したがって、この場合には、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素4および補助要素5が重なる領域の濃度は、基材2の他方の面に印刷された第2要素4の濃度と略同一になる。さらに、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素4および補助要素5が重なる領域の濃度は、基材2の一方の面に印刷された第1要素3の濃度と略同一になる。よって、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察すると、図4に例示するように、第1要素3と第2要素4と補助要素5とにより錯視図形10が形成され、第1要素3の直線3bが左もしくは右に傾いて見える、傾き錯視が発現する。
【0019】
なお、本発明において、「錯視」とは、濃淡により生じる錯視をいい、濃淡によって実際の図形とは異なる図形に見えることをいう。
【0020】
本発明において、補助要素は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられている。例えば図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面から反射光によって見た場合、補助要素5は上述したように錯視が発現しないような濃度で設けられており、また第2要素4は濃度が低下するので、所定の濃淡が出ないために錯視は起こらない。また、図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1を基材2の他方の面から反射光によって見た場合には、第1要素3は濃度が低下するので、錯視図形自体が認識され難くなり、所定の濃淡が出ないために錯視は起こらない。これに対し、偽造防止媒体を基材の一方の面から透過光によって見ると、所定の濃淡が出るため錯視が起こる。例えば図3(a)〜(d)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面から透過光によって見た場合、図4に例示するように、第1要素3と第2要素4と補助要素5とにより錯視図形10が出現し、基材2の両面に何も設けられていない領域と、第1要素3が設けられている領域と、第2要素4および補助要素5が重なる領域とが、所定の濃淡の関係となるため、濃淡によって錯視が起こる。
【0021】
このように本発明においては、基材の一方の面に第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素が設けられており、さらに補助要素は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられているので、光に透かして見たときにはじめて錯視が起こる。一方、通常の複写機では、各要素の高精度な位置合わせが困難である上に、所望の濃度で補助要素を複写することも困難であるため、光に透かしたときにはじめて錯視が発現するように各要素を再現することは非常に難しい。したがって本発明においては、優れた偽造防止効果を得ることが可能であり、偽造防止技術として有効である。
【0022】
以下、本発明の偽造防止媒体における各構成について説明する。
【0023】
1.錯視図形
本発明に用いられる錯視図形は、第1要素および第2要素に二分割されるものであり、錯視を発現するものである。本発明においては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かして観察した状態にて、基材の一方の面に設けられた第1要素および補助要素と、基材の他方の面に設けられた第2要素とにより錯視図形が形成される。
【0024】
本発明に用いられる錯視図形は、濃淡により錯視を発現するものであり、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かして観察した状態にて、第1要素と第2要素と補助要素とにより形成され得るものであれば特に限定されるものではない。濃淡により錯視を発現する錯視図形であればいずれも用いることができる。
【0025】
上述したように、例えば図4に示すような錯視図形10が挙げられる。この場合、上述したように、図3(a)に示す基材2の一方の面に設けられた第1要素3および補助要素5と、図3(b)に示す基材2の他方の面に設けられた第2要素4とにより、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに図4に示す錯視図形10を形成することができる。錯視図形10では、上述したように、第1要素3の直線3b(黒色)が、左もしくは右に傾いて見える。これは、実際にはどれも水平で互いに平行な線が左もしくは右に傾いて見えるものであり、傾き錯視(Munsterberg(1897))と呼ばれている。
【0026】
図4において、第1要素3の直線3bは、正方形3aの濃度(例えば黒色)と同じ濃度(例えば黒色)であってもよく、正方形3aの濃度(例えば黒色)よりも低い濃度(例えば灰色)であってもよい。この場合にも、同様に、第1要素3の直線3b(灰色)が左もしくは右に傾いて見える。これは、実際にはどれも水平で互いに平行な線が左もしくは右に傾いて見えるものであり、傾き錯視(Fraser(1908)、Gregory and Heard(1979))と呼ばれている。
【0027】
また例えば図5に示すような錯視図形10が挙げられる。図5に示す錯視図形10は、黒色の正方形(第2要素4)と、交差部分に白い円形の開口部を有する灰色の格子(第1要素3)とを有している。この錯視図形10では、灰色の格子の交差部分にある白色の円の中に、黒っぽいものが現れたり、消えたりする。これは、実際にはないはずの黒い点がちらついて見えるものであり、きらめき格子錯視(Schrauf, Lingelbach and Wist(1997))と呼ばれている。
図5は、図6(a)、(b)に示す偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態を示す模式図である。図6(a)、(b)は本発明の偽造防止媒体の他の例を示す概略平面図であり、図6(a)は偽造防止媒体を基材の一方の面から見た平面図、図6(b)は偽造防止媒体を基材の他方の面から見た平面図である。この場合、図6(a)に示す基材2の一方の面に設けられた第1要素3および補助要素5と、図6(b)に示す基材2の他方の面に設けられた第2要素4とにより、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに図5に示す錯視図形10を形成することができる。図5において、基材2の両面に何も印刷されていない領域(円形)は、光が透過するので、基材2の色、濃度、印刷不透明度等に応じた状態(例えば白色)で視認される。第1要素3(格子)は、所定の色および濃度(例えば灰色)で印刷されており、基材2の一方の面を手前にしているので、濃度が維持された状態(例えば灰色)で視認される。第2要素4(正方形)は所定の色および濃度(例えば黒色)で印刷され、補助要素5(正方形)は所定の色および濃度(例えば灰色)で印刷されており、第2要素4と補助要素5とは、重なるように配置されているので、偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かしたときの第2要素4の濃度に補助要素5の濃度が加算された状態(例えば黒色)で視認される。そのため、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに、第1要素と第2要素と補助要素とにより錯視図形が形成され、きらめき格子錯視が発現する。
【0028】
図6(a)、(b)において、上述したように補助要素5の濃度(例えば灰色)は第2要素4の濃度(例えば黒色)よりも低くてもよく、補助要素5の濃度(例えば濃い灰色)は第2要素4の濃度(例えば薄い灰色)よりも高くてもよい。いずれの場合においても、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに、第1要素と第2要素と補助要素とにより錯視図形が形成され、きらめき格子錯視が発現する。
【0029】
さらに例えば図7に示すような錯視図形10が挙げられる。図7に示す錯視図形10において、上3列の楕円は紙面の左から右に向けて濃度が薄くなり、下3列の楕円は紙面の左から右に向けて濃度が濃くなっている。この錯視図形10では、上3列は左に、下3列は右にゆっくりと動いて見える。これは、コントラストの低い領域からコントラストの高い領域の方向に動いて見える錯視であり、中心ドリフト錯視(北岡明佳(2003))と呼ばれている。
図7は、図8(a)、(b)に示す偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態を示す模式図である。図8(a)、(b)は本発明の偽造防止媒体の他の例を示す概略平面図であり、図8(a)は偽造防止媒体を基材の一方の面から見た平面図、図8(b)は偽造防止媒体を基材の他方の面から見た平面図である。この場合、図8(a)に示す基材2の一方の面に設けられた第1要素3および補助要素5と、図8(b)に示す基材2の他方の面に設けられた第2要素4とにより、図7に示す錯視図形10を形成することができる。図8(a)において、第1要素3は濃度が連続的に変化する階調を有し、上3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が薄くなり、下3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が濃くなっている。また、補助要素5も濃度が連続的に変化する階調を有し、上3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が薄くなり、下3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が濃くなっている。図8(b)においても、補助要素5と同様に、第2要素4は濃度が連続的に変化する階調を有し、上3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が薄くなり、下3列の半円は紙面の左から右に向けて濃度が濃くなっている。この場合、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに第2要素は濃度が低下するので、図7に示す錯視図形10において、第1要素3と第2要素4および補助要素5が重なる領域との境界部分で濃度が連続的に変化するように、第1要素3、補助要素5および第2要素4の階調が調整される。これにより、錯視図形10も濃度が連続的に変化する階調を有するものとなる。したがって、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときに、第1要素と第2要素と補助要素とにより錯視図形が形成され、中心ドリフト錯視が発現する。
【0030】
錯視図形としては、中でも、略同一の濃度の第1要素および第2要素から構成されていることが好ましい。基材の一方の面に第1要素のみが設けられ、基材の他方の面に第2要素のみが設けられている場合には、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第2要素は濃度が低下した状態で視認されるため、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第1要素および第2要素が異なる濃度となり、錯視が発現し難くなる。これに対し、本発明においては補助要素によって基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素の濃度の低下分を補うことができるので、上記のような錯視図形の場合に本発明は好適である。
なお、第1要素および第2要素の濃度が略同一であるとは、第1要素の濃度を100%としたときに、第2要素の濃度が±5%以内であることをいう。
【0031】
2.補助要素
本発明における補助要素は、第2要素と同形状であり、基材の一方の面に第2要素に重なるように設けられ、さらに基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられているものである。
【0032】
補助要素の形状としては、第2要素と同形状であれば特に限定されるものではなく、第2要素の形状に応じて適宜選択される。
【0033】
また、補助要素の形成位置としては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに補助要素および第2要素が重なるように、基材の一方の面に設けられていれば特に限定されるものではなく、第2要素の形成位置に応じて適宜選択される。
【0034】
補助要素の濃度としては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度であれば特に限定されるものではない。
なお、「補助要素の濃度」とは、補助要素の反射濃度をいう。
例えば、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かさないときには、第1要素の濃度>(第2要素の濃度+補助要素の濃度)となり、錯視が発現しないが、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かしたときには、第1要素の濃度≒(第2要素の濃度+補助要素の濃度)、あるいは、第1要素の濃度<(第2要素の濃度+補助要素の濃度)となり、錯視が発現する場合が挙げられる。
【0035】
補助要素の濃度は、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度と略同一であってもよく異なっていてもよい。異なる場合、補助要素の濃度は、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度よりも低くてもよく高くてもよい。
【0036】
具体的には、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現するように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度と略同一となるような濃度であることが好ましい。基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第2要素の濃度が低下するために、錯視が発現しないあるいは発現し難い錯視図形の場合には、補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、錯視を発現しやすくすることができるからである。
【0037】
なお、「基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度と略同一となる」とは、錯視図形を二分割した第2要素の濃度を100%としたときに、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が±10%以内であることをいう。
【0038】
そのため、例えば、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度と略同一である場合には、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度と略同一となるような濃度であることが好ましい。基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第2要素の濃度が低下するために、錯視が発現しないあるいは発現し難い錯視図形の場合には、補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、錯視を発現しやすくすることができるからである。
この場合、補助要素の濃度は、通常、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度よりも低くなる。
【0039】
なお、「基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度と略同一となる」とは、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度を100%としたときに、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が±10%以内であることをいう。
ここで、「基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度」とは、第2要素の反射濃度をいう。
【0040】
また、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現するように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、錯視図形を二分割した第1要素の濃度と略同一となるような濃度であることが好ましい。通常、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度は、錯視図形を二分割した第1要素の濃度と略同一とされることから、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度と略同一となるような濃度であることが好ましい。錯視図形を二分割した第1要素および第2要素が略同一の濃度である場合には、補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、錯視を発現しやすくすることができるからである。
この場合、補助要素の濃度は、通常、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度よりも低くなる。
【0041】
なお、「基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度と略同一となる」とは、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度を100%としたときに、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度が±10%以内であることをいう。
ここで、「基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度」とは、第1要素の反射濃度をいう。
【0042】
また、補助要素の濃度は、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を反射光によって見たときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度が、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を透過光によって見たときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度よりも薄くなるような濃度であることが好ましい。補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、偽造防止媒体を光に透かさないときに、錯視を発現し難くすることができるからである。
【0043】
さらに、補助要素の濃度は、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を反射光によって見たときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度よりも薄くなるような濃度であることが好ましい。すなわち、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を反射光によって見たときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度が、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度よりも薄くなるような濃度であることが好ましい。補助要素の濃度が上記のような濃度であることにより、偽造防止媒体を光に透かさないときに、錯視を発現し難くすることができるからである。
【0044】
補助要素の反射濃度、第1要素の反射濃度、第2要素の反射濃度は、通常、反射濃度計で計測する。このとき、例えば基材の濃度をゼロとして相対濃度を算出することができる。
また、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの補助要素と第2要素とが重なる領域の濃度も、通常、反射濃度計で計測する。このとき、例えば基材を光に透かしたときの基材の濃度をゼロとして相対濃度を算出することができる。
【0045】
補助要素の色としては、錯視図形の色に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0046】
3.第1要素
本発明における第1要素は、錯視図形を二分割した一方の要素であり、基材の一方の面に設けられるものである。
【0047】
第1要素の形状としては、錯視図形に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
また、第1要素の形成位置としては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第1要素と第2要素と補助要素とにより錯視図形が形成されるように、基材の一方の面に設けられていれば特に限定されるものではなく、錯視図形に応じて適宜選択される。
基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度としては、通常、錯視図形を二分割した第1要素と略同一の濃度とされる。
なお、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度と錯視図形を二分割した第1要素の濃度とが略同一であるとは、錯視図形を二分割した第1要素の濃度を100%としたときに、基材の一方の面に設けられた第1要素の濃度が±5%以内であることをいう。
第1要素の色としては、錯視図形の色に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0048】
4.第2要素
本発明における第2要素は、錯視図形を二分割した他方の要素であり、基材の他方の面に設けられるものである。
【0049】
第2要素の形状としては、錯視図形に応じて適宜選択される。
また、第2要素の形成位置としては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときに第1要素と第2要素と補助要素とにより錯視図形が形成されるように、基材の他方の面に設けられていれば特に限定されるものではなく、錯視図形に応じて適宜選択される。
基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度としては、錯視図形を二分割した第2要素の濃度と略同一であってもよく異なっていてもよい。また、異なる場合には、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度よりも低くてもよく高くてもよい。
なお、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度と錯視図形を二分割した第2要素の濃度とが略同一であるとは、錯視図形を二分割した第2要素の濃度を100%としたときに、基材の他方の面に設けられた第2要素の濃度が±5%以内であることをいう。
第2要素の色としては、錯視図形の色に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。
【0050】
5.基材
本発明における基材は、一方の面に第1要素および補助要素が設けられ、他方の面に第2要素が設けられるものである。
【0051】
本発明においては、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かして観察することから、基材は光を透過する必要がある。一方、基材の光透過率が高いと、偽造防止媒体を光に透かさなくとも錯視図形が視認されて錯視が生じてしまうおそれがある。したがって、基材の印刷不透明度は、25%〜95%の範囲内であることが好ましい。
ここで、印刷不透明度とは、基材に印刷した画像がその反対面から透き通って見えない程度のことをいう。印刷不透明度は、基材の白紙不透明度(単に不透明度ともいう。)の他にインキの浸透性の影響を受ける。基材の不透明度が高くとも、インキの浸透性が良ければインキが浸透した分だけ、印刷不透明度は低下する。
また、白紙不透明度とは、一枚の基材を透き通して、下の基材の画像が見えない程度のことをいう。
なお、基材の印刷不透明度は、不透明度測定器、ハンター白色度計等により測定することができる。
【0052】
また、基材は裏抜けしにくいものであることが好ましい。第1要素、第2要素および補助要素が裏抜けすると、偽造防止媒体を光に透かさなくとも錯視図形が視認されて錯視が生じてしまうおそれがあるからである。
ここで、裏抜けとは、インキが反対面に抜けることをいう。裏抜けは、基材の光学的特性ではなく、インキの浸透性に起因する。
なお、基材が裏抜けしにくいものであることは、例えば、基材の他方の面を手前にして反射光で見たときの第1要素の濃度を測定することで、評価することができる。
【0053】
基材としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、紙、樹脂基材などを用いることができる。また、基材は、透明な樹脂基材上に、上述の特性を満たす下地層が形成されたものであってもよい。下地層の材料としては、上述の特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、中でも、透明な樹脂基材と密着性を有する材料であることが好ましく、例えば、酸化チタンを含有する白色コート剤、顔料インキ、染料インキ、第1要素、第2要素および補助要素の印刷に用いられるインキを吸収し得るコーティング材料、多孔質層形成用コーティング材料等が挙げられる。
【0054】
上述したように、錯視の発現には濃淡が重要であり、通常は基材の両面に何も設けられていない領域も存在することから、錯視図形に応じて、基材の色や濃度等を選択することが好ましい。
【0055】
6.保護層
本発明においては、図9に例示するように、基材2の一方の面に第1要素(図示なし)および補助要素5を覆うように、第1要素(図示なし)および補助要素5を保護する保護層7が形成されていてもよい。また、図9に例示するように基材2の他方の面に第2要素4を覆うように、第2要素4を保護する保護層8が形成されていてもよい。
保護層の材料としては、透明性を有し、第1要素、第2要素および補助要素を保護することができるものであれば特に限定されるものではなく、一般的な樹脂材料を用いることができる。
【0056】
7.用途
本発明の偽造防止媒体は、例えば、紙幣、商品券、株券、小切手、手形等の各種の有価証券、パスポート、カード等の各種の証明書、機密文書等に用いることができる。
【0057】
B.偽造防止媒体の製造方法
本発明の偽造防止媒体の製造方法は、錯視図形を第1要素および第2要素に二分割する画像処理工程と、上記基材の他方の面に、上記第2要素を形成する第2要素形成工程と、上記基材の一方の面に、上記第1要素を形成し、さらに上記第2要素に重なるように上記第2要素と同形状の補助要素を形成する第1要素・補助要素形成工程とを有し、上記第1要素・補助要素形成工程では、上記補助要素を、上記基材の一方の面を手前にして上記偽造防止媒体を光に透かしたときには上記錯視図形による錯視が発現し、上記偽造防止媒体を光に透かさないときには上記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成することを特徴とするものである。
【0058】
本発明の偽造防止媒体の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図1に例示する錯視図形30は、白色と黒色の正方形が交互に横に並べられ、上下の正方形が半個分水平にずれて並べられており、上下の正方形の境界に黒色の水平な線が引かれたものである。まず、図1に示す錯視図形30を、図2(a)、(b)に示すように、第1要素3(黒色の正方形3aおよび直線3b)(図2(a))と、第2要素4(黒色の正方形)(図2(b))とに二分割する。この際、錯視図形を二分割する2つの要素のいずれを基材の一方の面および他方の面に印刷するかを考慮して、錯視図形を二分割する。ここでは、第1要素が基材の一方の面に印刷され、第2要素が基材の他方の面に印刷される。
【0059】
基材の一方の面には、第1要素が印刷され、さらに第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素が印刷される。そこで、次に、基材の一方の面に印刷される第1要素および補助要素の濃度と、基材の他方の面に印刷される第2要素の濃度とを決定する。基材の一方の面に印刷される第1要素の濃度は、通常、錯視図形を二分割した第1要素と略同一の濃度とされる。一方、基材の他方の面に印刷される第2要素の濃度は、錯視図形を二分割した第2要素と略同一であってもよく異なっていてもよい。また、基材の一方の面に印刷される補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度とされる。具体的に、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現するように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度と、錯視図形を二分割した第2要素の濃度とが略同一となるように、調整される。また、補助要素の濃度は、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないように、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を反射光によって見たときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度が、錯視図形を二分割した第2要素の濃度よりも薄くなるように、調整される。
【0060】
次いで、図2(b)に示す第2要素4を、図3(b)に示すように基材2の他方の面に予め決定した濃度(例えば黒色)で印刷する(第2要素形成工程)。続いて、図2(a)に示す第1要素3を、図3(a)に示すように基材2の一方の面に予め決定した濃度(例えば黒色)で印刷し、さらに図2(b)に示す第2要素4と同形状の補助要素5を、図3(a)、(c)に示すように基材2の一方の面に第2要素4に重なるように予め算出した濃度(例えば灰色)で印刷する(第1要素・補助要素形成工程)。この際、第1要素3と第2要素4と補助要素5とは互いに位置が合うように印刷される。
【0061】
図4は、図3(a)、(b)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かして観察した状態を示す模式図である。図4においては、上述したように、基材2の一方の面に第2要素4に重なるように第2要素4と同形状の補助要素5を印刷するので、補助要素5によって、基材2の一方の面を手前にして偽造防止媒体1を光に透かしたときの第2要素4の濃度の低下分が補われる。すなわち、第2要素4は所定の色および濃度(例えば黒色)で印刷され、補助要素5は所定の色および濃度(例えば灰色)で印刷されており、第2要素4と補助要素5とは、重なるように印刷されているので、偽造防止媒体1を基材2の一方の面を手前にして光に透かしたときの第2要素4の濃度に補助要素5の濃度が加算された状態(例えば黒色)で視認される。第1要素3は、所定の色および濃度(例えば黒色)で印刷されており、基材2の一方の面を手前にしているので、濃度が維持された状態(例えば黒色)で視認される。基材2の両面に何も印刷されていない領域は、光が透過するので、基材2の色、濃度、印刷不透明度等に応じた状態(例えば白色)で視認される。したがって、偽造防止媒体を基材の一方の面を手前にして光に透かして観察すると、図4に例示するように、第1要素3と第2要素4と補助要素5とにより錯視図形10が形成され、第1要素3の直線3bが左もしくは右に傾いて見える、傾き錯視が発現する。
【0062】
一方、図3(a)、(b)に示す偽造防止媒体1を基材2の一方の面から反射光によって見た場合、上述したように補助要素5は錯視が発現しないような濃度で印刷されており、また第2要素4は濃度が低下するので、所定の濃淡が出ないために錯視は起こらない。また、図3(a)、(b)に示す偽造防止媒体1を基材2の他方の面から反射光によって見た場合には、第1要素3は濃度が低下するので、錯視図形自体が認識され難くなり、所定の濃淡が出ないために錯視は起こらない。
【0063】
このように本発明においては、基材の一方の面に第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素を形成し、その際、補助要素を、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成するので、光に透かして見たときにはじめて錯視が起こる。一方、通常の複写機では、各要素の高精度な位置合わせが困難である上に、所望の濃度で補助要素を複写することも困難であるため、光に透かしたときにはじめて錯視が発現するように各要素を再現することは非常に難しい。したがって本発明においては、優れた偽造防止効果を得ることが可能であり、偽造防止技術として有効である。
【0064】
さらに本発明においては、第1要素、第2要素および補助要素を形成するに際して、位置合わせの印刷技術については高い精度が必要とされるが、既存の材料や装置を利用して偽造防止媒体を作製することが可能である。
【0065】
なお、錯視図形、第1要素、第2要素および補助要素については、上記「A.偽造防止媒体」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
以下、本発明の偽造防止媒体の製造方法における各工程について説明する。
【0066】
1.画像処理工程
本発明における画像処理工程は、錯視図形を第1要素および第2要素に二分割する工程である。
錯視図形を第1要素および第2要素に二分割するに際しては、錯視図形を二分割する2つの要素のいずれを基材の一方の面および他方の面に形成するかを考慮して、錯視図形を二分割する。
錯視図形の分割は、例えばコンピューターシステム上の画像処理ソフトウェアを用いて行うことができる。
【0067】
2.第1要素・補助要素形成工程
本発明における第1要素・補助要素形成工程は、基材の一方の面に、第1要素を形成し、さらに第2要素に重なるように第2要素と同形状の補助要素を形成する工程であり、補助要素を、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成する工程である。
【0068】
第1要素および補助要素の形成方法としては、第1要素、補助要素および第2要素を位置合わせして形成できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、活版印刷、凹版印刷、スクリーン印刷、粉体電子写真方式のデジタル印刷、液体電子写真方式のデジタル印刷、インクジェット方式のデジタル印刷等の印刷法や、転写法が挙げられる。
【0069】
第1要素を形成するに際しては、通常、第1要素の濃度を、錯視図形を二分割する第1要素の濃度と略同一になるように調整する。
【0070】
また、補助要素の濃度は、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときには錯視図形による錯視が発現し、偽造防止媒体を光に透かさないときには錯視図形による錯視が発現しないような濃度に調整される。補助要素の濃度は、実際に測定して求めてもよく、検量線を用いて求めてもよく、シミュレーションにより求めてもよい。
検量線を用いる場合には、例えば次のように補助要素の濃度を求めることができる。すなわち、まず、基材の他方の面に、実際に基材の他方の面に形成する第2要素の濃度にて複数のベタの測定用パターンIを形成する。次に、基材の一方の面に、測定用パターンIと重なるように異なる濃度(少なくとも3種)にて複数のベタの測定用パターンAを形成し、さらに測定用パターンIと重ならないように同様に異なる濃度(少なくとも3種)にて複数のベタの測定用パターンBを形成する。次いで、基材の一方の面から反射による各測定用パターンBの相対濃度Bを計測し、さらに基材の一方の面から透過による各測定用パターンIおよび各測定用パターンAが重なる領域の相対濃度Aを計測する。続いて、上記の相対濃度Aと相対濃度Bとにより検量線を作成する。この検量線を基に、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度と、補助要素の濃度とを予測することができる。同じ基材、同じインキを使用する場合には、作成した検量線を用いて、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの第2要素および補助要素が重なる領域の濃度と、補助要素の濃度とを予測することが可能である。
【0071】
なお、補助要素の濃度については、上記「A.偽造防止媒体」の項に詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
また、第1要素および補助要素のその他の点については、上記「A.偽造防止媒体」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0072】
3.第2要素形成工程
本発明における第2要素形成工程は、基材の他方の面に、第2要素を、基材の一方の面を手前にして偽造防止媒体を光に透かしたときの濃度の低下分を計算して形成する工程である。
【0073】
第2要素を形成するに際して、第2要素の濃度は、上述したように、錯視図形を二分割する第2要素の濃度と略同一であってもよく異なっていてもよい。
【0074】
なお、第2要素の形成方法については、上記の第1要素および補助要素の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
また、第2要素のその他の点については、上記「A.偽造防止媒体」の項に記載したので、ここでの説明は省略する。
【0075】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1](紙媒体 傾き錯視)
(画像処理)
CADシステム上にて、1辺が20mmの黒色の正方形を横方向に20mmの間隔をおいて5個並べた画像を形成し、1段目の正方形画像群とした。この1段目の正方形画像群の下方に、1段目の正方形画像群と同様の画像を、1段目の正方形画像群と接するように配置し、かつ左右の位置が1段目の正方形画像群に対して左に10mmずれるように配置し、2段目の正方形画像群とした。また、2段目の正方形画像群の下方に、1段目の正方形画像群と同様の画像を、2段目の正方形画像群と接するように配置し、かつ左右の位置が2段目の正方形画像群に対して右に10mmずれるように配置し、3段目の正方形画像群とした。さらに、3段目の正方形画像群の下方に、1段目の正方形画像群と同様の画像を、3段目の正方形画像群と接するように配置し、かつ左右の位置が3段目の正方形画像群に対して左に10mmずれるように配置し、4段目の正方形画像群とした。そして、4段目の正方形画像群の下方に、1段目の正方形画像群と同様の画像を、4段目の正方形画像群と接するように配置し、かつ左右の位置が4段目の正方形画像群に対して右に10mmずれるように配置し、5段目の正方形画像群とした。このようにして、横方向に正方形が5個並ぶ正方形画像群が縦方向に5段並んだ画像を作成した。
次に、各正方形の接する部分をつなぐように、横方向に4本の直線を配置し、傾き錯視画像(錯視図形30)を作成した(図1)。
【0077】
この傾き錯視画像を、縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線(第1要素3(正方形3aおよび直線3b))と、縦方向2,4段目の正方形画像群(第2要素4)との、2つの画像に分割した(図2(a)、(b))。
【0078】
(印刷)
厚さ64g/m2の上質紙に、オフセット印刷機にてブラックインクを用いて、傾き錯視画像を得るための2つの画像を印刷した。
上質紙の一方の面に、図2(a)に示す縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線(第1要素3)と、図2(b)に示す縦方向2,4段目の正方形画像群(第2要素4)と同形状の補助要素とを印刷した。このとき、縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線を相対濃度D=1.50にて印刷し、縦方向2,4段目の正方形画像群を相対濃度D=0.2にて印刷した(図3(a))。この際、補助要素の濃度は、上述の手法にて求めた。
上質紙の他方の面には、図9(b)に示す縦方向2,4段目の正方形画像群(第2要素4)を相対濃度D=1.50にて印刷した(図3(b))。この際、両面の画像の印刷位置は、光に上質紙を透かしたときに両面の画像が重なり、画像を2つに分割する前の画像が見える位置とした。
【0079】
(透過検証)
作製した印刷物を、40Wの蛍光灯から2.0m離れた場所にて、一方の面から透かして見たところ、傾き錯視が発現した。透かして見た状態における印刷物の相対濃度は、すべての正方形画像群および線がD=1.50相当であった(図4)。なお、ここでいう相対濃度は、基材の両面ともに印刷されていない部分の濃度をD=0とした場合の濃度をいう。
【0080】
(反射検証)
作製した印刷物を、一方の面および他方の面から反射光のみで見たところ、一方の面では1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線が相対濃度D=1.50、2,4段目の正方形画像群が相対濃度D=0.4にて見え、他方の面では1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線が相対濃度D=0.05、2,4段目の正方形画像群が相対濃度D=1.50にて見え、傾き錯視は発現しなかった。なお、ここでいう相対濃度は、基材の両面ともに印刷されていない部分の濃度をD=0とした場合の濃度をいう。
印刷物は、光に透かして見ることによって、傾き錯視を発現することを確認した。
【0081】
[比較例1](紙媒体 傾き錯視)
(画像処理)
実施例1と同様にして、傾き錯視画像(錯視図形30)を作成した(図1)。
この傾き錯視画像を、縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線(第1要素3(正方形3aおよび直線3b))と、縦方向2,4段目の正方形画像群(第2要素4)との、2つの画像に分割した(図2(a)、(b))。
【0082】
(印刷)
厚さ64g/m2の上質紙の両面に、オフセット印刷機にてブラックインクを用いて、傾き錯視画像を分割した2つの画像をそれぞれ印刷した。上質紙の一方の面には、図2(a)に示す縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線(第1要素3)を相対濃度D=1.50にて印刷し、上質紙の他方の面には、図2(b)に示す縦方向2,4段目の正方形画像群(第2要素4)を相対濃度D=1.50にて印刷した。この際、両面の画像の印刷位置は、光に上質紙を透かしたときに両面の画像が重なり、画像を2つに分割する前の画像が見える位置とした。
【0083】
(透過検証)
作製した印刷物を、40Wの蛍光灯から2.0m離れた場所にて、一方の面から光に透かして見たところ、傾き錯視は発現しなかった。光に透かして見た状態における印刷物の相対濃度は、縦方向1,3,5段目の正方形画像群および4本の直線部分が相対濃度D=1.50、縦方向2,4段目の正方形画像群が相対濃度D=0.3相当であり、傾き錯視は発現しなかった。なお、ここでいう相対濃度は、基材の両面ともに印刷されていない部分の濃度をD=0とした場合の濃度をいう。
【符号の説明】
【0084】
1 … 偽造防止媒体
2 … 基材
3 … 第1要素
4 … 第2要素
5 … 補助要素
7,8 … 保護層
10,30 … 錯視図形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錯視図形を二分割した第1要素および第2要素のうち、前記第1要素が基材の一方の面に設けられ、前記第2要素が前記基材の他方の面に設けられた偽造防止媒体であって、
さらに前記基材の一方の面に前記第2要素に重なるように前記第2要素と同形状の補助要素が設けられており、
前記補助要素は、前記基材の一方の面を手前にして前記偽造防止媒体を光に透かしたときには前記錯視図形による錯視が発現し、前記偽造防止媒体を光に透かさないときには前記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で設けられていることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記補助要素は、前記基材の一方の面を手前にして前記偽造防止媒体を光に透かしたときの前記補助要素および前記第2要素が重なる領域の濃度が、前記錯視図形を二分割した前記第2要素の濃度と略同一になるような濃度で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記錯視図形を二分割した前記第1要素および前記第2要素が略同一の濃度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
錯視図形を第1要素および第2要素に二分割する画像処理工程と、
前記基材の他方の面に、前記第2要素を形成する第2要素形成工程と、
前記基材の一方の面に、前記第1要素を形成し、さらに前記第2要素に重なるように前記第2要素と同形状の補助要素を形成する第1要素・補助要素形成工程と
を有し、
前記第1要素・補助要素形成工程では、前記補助要素を、前記基材の一方の面を手前にして前記偽造防止媒体を光に透かしたときには前記錯視図形による錯視が発現し、前記偽造防止媒体を光に透かさないときには前記錯視図形による錯視が発現しないような濃度で形成することを特徴とする偽造防止媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−16899(P2012−16899A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155955(P2010−155955)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】