説明

偽造防止媒体及び偽造防止シール

【課題】一見して真正品とコピーとを区別できる偽造防止手段と、外見上認識することのできない偽造防止手段の双方を備え、しかも、その製造が容易で製造コストが安価な偽造防止媒体を提供すること。
【解決手段】二種またはそれ以上の種類のプラスチック系薄膜を交互に積層してなる虹彩性多層フィルム11の上に、配向されたコレステリック液晶から成る色彩可変層12を配置する。虹彩性多層フィルム11と色彩可変層12のいずれもが、見る角度によって色彩が変化するため、この有無によって、一見して真正品とコピーとを区別できる。また、適切な円偏光フィルターを重ねることにより、色彩可変層12の色彩が消失して見える。このため、外見上認識することができないにも拘らず、真正品とコピーとを区別できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、視角の変化に応じて色彩の変化を生じると共に、視角が同じであっても、別途用意した偏光フィルターを介することによって異なる色彩を認識することのできる偽造防止媒体を提供するものである。また、この偽造防止媒体に粘着層を付与して偽造防止シールとすることができる。
【0002】
そして、これら偽造防止媒体や偽造防止シールを紙幣、クレジットカード、IDカード、パスポート、商品券等の債券、高額商品あるいはそのパッケージ等に貼着することにより、その真正を保障することが可能となる。
【背景技術】
【0003】
従来、前記物品の真正を証明する手段として、複製や贋造が困難な偽造防止媒体をこれら物品やその包装に貼着する方法が知られている。代表的な偽造防止媒体は、光の回折現象を利用した回折格子、あるいは、ホログラムであり、中でもレリーフ型回折格子パターンを設けた偽造防止媒体は、前記紙幣やクレジットカードをはじめ、多くの商品等に幅広く利用されている。
【0004】
このレリーフ型回折格子パターンは、可視光の波長程度の凹凸を設けた樹脂層の凹凸面に光反射膜を積層して構成されるもので、凹凸が小さいため光学的方法でそのパターンを形成することができない。このため、その偽造・贋造が困難なのである。他方、その量産に当たっては、前記回折格子パターンを有する金型を樹脂層に押圧して凹凸を形成した後光反射膜を設ければよく、その量産コストは比較的安価である。また、見る角度によって色彩が変化(カラーシフト)するという特性を有し、この特性のため、例えば、(1)カラーコピー機でコピーすることができず、複製が困難である。(2)一見して真正品とコピーとが区別できる。(3)意匠的にも美麗であり、物品の装飾効果を有する。など、優れた性質を有している。
【0005】
しかしながら、偽造・贋造技術も年々向上しつつあり、これら回折格子やホログラムについても、その偽造品あるいは贋造品が散見されるようになりつつある。このため、これら回折格子やホログラムに替わる偽造防止媒体が求められている。
【0006】
一方、この回折格子やホログラムと同様に、見る角度の違いによりカラーシフトするものとして、多層薄膜積層媒体が知られている(例えば、特許文献1参照。)この多層薄膜積層媒体は、可視光の波長程度の膜厚の透明薄膜を多層に積層したもので、これら各薄膜の境界面が光反射面となり、これら各光反射面で多重反射を繰り返すと共に、各光反射面からの反射光同士が互いに干渉して、特有の色彩の反射光を生み出すものである。その反射光の色彩は、それぞれの薄膜の屈折率と膜厚、薄膜の数と積層の順序、入射光の方向(反射光の方向)などに依存し、このため、見る角度によって異なる色彩が見える。そして、このようにカラーシフト効果を有するから、前記回折格子等と同様に、カラーコピー機でコピーすることができず、一見して真正品とコピーとが区別でき、物品の装飾効果を有するという性質を有している。なお、前記透明薄膜の素材としてはセラミックスや金属が利用されており、その積層方法には真空蒸着法やスパッタリング法などの方法が用いられている。また、これを偽造防止媒体として利用する際には、基材フィルム上に前記多層薄膜と接着層を形成して偽造防止シールとし、この偽造防止シールを前記物品に貼着して使用している。また、前記基材フィルム上に剥離層を設け、この剥離層上に、順次、前記多層薄膜及び接着層を形成して偽造防止用転写箔とし、前記物品に転写して使用することもある。
【0007】
なお、この多層薄膜のカラーシフトの効果を利用し、薄膜にさらに一定角度のエンボスをつけることにより、さまざまな色彩が見えるようにした偽造防止媒体も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、前記多層薄膜はその素材としてセラミックスや金属を使用しており、これらセラミックスや金属を、可視光の波長程度の膜厚に精度良く積層する必要があり、しかも、多層構造にするために繰り返して積層する必要があるため、その安定的な量産は困難で高額のコストを必要とする。特に、広い面積にわたって、高精度の膜厚にて何層にも積層するためには、一層の手間とコストを必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−146650号公報
【特許文献2】特開平11−224050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、カラーシフト効果を有し、従って一見して真正品とコピーとを区別できる偽造防止媒体でありながら、その製造が容易で製造コストが安価な偽造防止媒体を提供する。また、本発明の偽造防止媒体は、このカラーシフト効果に加えて外見上認識することのできない偽造防止手段を備え、別途用意したフィルターを重ねることによってその色彩が変化するものである。このため、前記カラーシフト効果について偽造・贋造が行われたとしても、やはり、真正品とコピーとを区別することができる。
【0011】
すなわち、本発明は、一見して真正品とコピーとを区別できる偽造防止手段と、外見上認識することのできない偽造防止手段の双方を備え、しかも、その製造が容易で製造コストが安価な偽造防止媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、二種またはそれ以上の種類のプラスチック系薄膜を交互に積層してなる虹彩性多層フィルムと、この虹彩性多層フィルムの少なくとも一部に積層された色彩可変層を有することを特徴とする偽造防止媒体である。
【0013】
虹彩性多層フィルムと色彩可変層とは、いずれも、見る角度によって異なる色彩が見えるものである。このため、この偽造防止媒体が貼着された物品は真正品であると推測できる。しかも、虹彩性多層フィルムは、セラミックスや金属を積層したものではなく、プラスチック系薄膜を積層したものであるから、その製造コストも安く、容易に製造できる。なお、虹彩性多層フィルムは、マイクログラビア印刷法やダイコーティング法により、基材フィルム上に、各種プラスチックを塗布することによって製造することができる。各薄膜の厚みは0.1〜1μm程度でよい。
【0014】
また、色彩可変層は、円偏光フィルターを重ねることにより、その色彩が消失するものである。このため、円偏光フィルターを重ねたときには虹彩性多層フィルムの色彩だけを見ることができる。そして、偽造防止媒体を一見しても、かかる偽造防止手段の存在を認識することはできないから、前記カラーシフト効果について偽造・贋造が行われたとしても、やはり、真正品とコピーとを区別することができる。なお、このような色彩可変層としては、コレステリック液晶が好適に使用できる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、この点を明らかにしたもので、色彩可変層が配向したコレステリック液晶を主成分として構成されることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体である。
【0016】
次に、請求項3に記載の発明は、前記カラーシフト効果を高めたものである。すなわち、請求項3に記載の発明は、虹彩性フィルムの少なくとも一部に光吸収層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止媒体である。この発明によれば、観察者側から入射した可視光は、虹彩性フィルムの薄膜と薄膜との各境界面で多重反射を繰り返し、これら多重反射光同士が互いに干渉し、特定の色彩の反射光となって、観察者側に出射する。他方、残余の可視光は虹彩性フィルムを透過して、光吸収層に吸収されるから、この光が観察者に認知されることはない。また、観察者の反対側から入射した光も光吸収層に吸収される。このため、観察者側には、ノイズ光が出射されることなく、前記色光だけが出射され、その色光が鮮明に認知できる。
【0017】
なお、光吸収層を虹彩性フィルムの一部に設けた場合には、この光吸収層が存在しない部位では前記ノイズ光(虹彩性フィルムを透過してその反対面で反射した光や観察者の反対側から入射した光)が出射するから、光吸収層の存在部位と不存在部位との間で色光の輝度に相違が生じ、このため、パターン状の色光を認知することができる。そして、このため、贋造が一層困難となるだけでなく、その装飾効果を高めることもできる。
【0018】
次に、請求項4に記載の発明は、虹彩性フィルムの少なくとも一部に光反射層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0019】
なお、前記光吸収層がない場合には、光反射層は虹彩性フィルムの一部にパターン状に設けることが望ましい。この場合には、虹彩性フィルムを透過した光は光反射層によって反射され、ノイズ光として観察者側に出射されから、この部位においては鮮明度が低下する。そして、このため、光反射層の存在部位と不存在部位との間で色光の輝度に相違が生じ、このため、パターン状の色光を認知することができる。そして、このため、贋造が一層困難となり、また、その装飾効果を高めることができる。
【0020】
また、前記光吸収層がある場合には光反射層を全面に設けることができるが、虹彩性フィルム側から見て、前記光吸収層の少なくとも一部と、光反射層の少なくとも一部が、いずれも見えるように配置することが望ましい。この場合には、光吸収層の見える部位で前記色光が鮮明に認知でき、他方、光反射層の見える部位で鮮明度が低下する。このため、その装飾効果を一層高めることができる。
【0021】
次に、請求項5に記載の発明は、観察面側に保護層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0022】
また、請求項6に記載の発明は、本発明に係る偽造防止媒体をシール状に加工したもので、すなわち、請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止媒体の一方の面に粘着層を有することを特徴とする偽造防止シールである。
【発明の効果】
【0023】
一見して真正品とコピーとを区別できる偽造防止手段と、外見上認識することのできない偽造防止手段の双方を備え、しかも、容易かつ安価に製造できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の偽造防止シールの一実施形態に係る概略平面図
【図2】図1に示す偽造防止シールのX−X’線における概略断面図
【図3】図1に示す偽造防止シールを別途用意した偏光フィルターを介して目視したときの概略平面図で、(a)は左円偏光フィルターを介して目視したとき、(b)は右円偏光フィルターを介して目視したときを示す概略平面図
【図4】本発明の偽造防止シールの第2の実施形態に係る概略断面図
【図5】本発明の偽造防止シールの第3の実施形態に係る概略断面図
【図6】本発明の偽造防止シールの第4の実施形態に係る概略断面図
【図7】本発明の偽造防止シールの第5の実施形態に係る概略断面図
【図8】本発明の偽造防止シールの第6の実施形態に係る概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の偽造防止シールの一実施形態を示す概略平面図である。図2は図1に示す偽造防止シールのX−X’線における概略断面図であり、図3(a)、3(b)は図1で示したシールを、それぞれ、左円偏光フィルター及び右円偏光フィルターを介して視認した時の概略図である。
【0027】
図1、図2及び図3に示す偽造防止シール1は、偽造防止媒体に粘着層15を積層したものである。偽造防止媒体は、虹彩性多層フィルム11を基材とし、その一部に色彩可変層12及び保護層13が設けられ、色彩可変層とは逆の面に光吸収層14を積層したものである。前記粘着層15は光吸収層14の上に設けられている。
【0028】
虹彩性多層フィルム11は、屈折率の異なる2種類以上のプラスチック系薄膜を交互に積層したものである。このプラスチック系薄膜は、プラスチック材料を主体とし、これらに必要に応じて各種助剤などを添加してなるプラスチック系材料からなるものである。プラスチック系材料の主体となるプラスチック材料としては、高屈折率のプラスチック材料としてのポリエチレンナフタレート(PEN;1.63=屈折率n:以下同じ)、ポリカーボネート(PC;1.59)、ポリスチレン(PSt(1.59)、ポリエチレンテレフタレート(PET;1.58)等があり、また低屈折率のプラスチック材料としてのナイロン(Ny;1.53)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA;1.49)、ポリメチルペンテン(1.46)、フッ素系PMMA(1.4)等がある。虹彩性多層フィルム16は、これらのプラスチック材料の中から高屈折率材料のものから少なくとも一種、低屈折率材料のものから少なくとも一種を選択し、それぞれを所定の厚さの薄膜として交互に積層させることにより得ることができる。得られたフィルムは、特定の波長の可視光に対する吸収あるいは反射特性を示し、視角の変化に応じてカラーシフトを生じる。
【0029】
次いで、色彩可変層について説明する。
【0030】
色彩可変層12は螺旋状の分子構造を有するコレステリック液晶を主成分として構成されるものである。なお、このコレステリック液晶は配向されている必要がある。
【0031】
螺旋状の分子構造を有するコレステリック液晶は、その螺旋軸に沿って光の屈折率が周期的に変動するため、そのねじれ構造のピッチに応じた波長の光を選択的に反射する。従って、ねじれ構造のピッチを制御することで所望の反射色を作り出すことが可能である。そして、これらコレステリック液晶を配向させることにより、その各分子が層を成して均一に配列され、反射光同士が強め合って全体として前記色光を反射する。なお、配向したコレステリック液晶分子は螺旋構造を有することから、その反射光は右円偏光又は左円偏光である。このため、色彩可変層の上に適切な円偏光フィルター20を重ねることにより、その反射光を遮断することができる。また、コレステリック液晶は、配向膜上に層形成することで配向させることができる。配向膜としてはポリビニルアルコールやポリイミドの塗布膜をラビング処理したものが使用できる。ラビングは、例えば、コットンやベルベットを使用して可能である。また、せんだん力を加えながら塗布することにより、そのせんだん力の方向に配向させることもできる。あるいは、コレステリック液晶の層を形成した後、せんだん力を加えて配向させることもできる。また、形成したコレステリック液晶の層に偏光したレーザー光を照射したり、電解または磁界を加えて配向することもできる。
【0032】
そして、この色彩可変層12が虹彩性多層フィルム11上に重ねて設けられているため、虹彩性多層フィルム11に基づく色彩と色彩可変層12に基づく色彩とが混合した色彩が観察できることになる。そして、虹彩性多層フィルム11に基づく色彩と色彩可変層12に基づく色彩のいずれも、見る角度を変えることによって見える色彩が変化するカラーシフト効果を有するから、その混合色も見る角度を変えることによって変化する。
【0033】
なお、前述したように、色彩可変層12に基づく色彩は円偏光に基づくものであるから、この色彩可変層の上に適切な円偏光フィルターを重ねることにより、その円偏光が遮断され、虹彩性多層フィルム11に基づく色彩だけが見えることになる。
【0034】
次に、前記色彩可変層12は、虹彩性多層フィルム11の全面に設けることもできるが、その一部にパターン状に設けることもできる。この場合には、色彩可変層12の存在する部位が前記混合色を示し、その他の部位(色彩可変層の不存在部位)が虹彩性多層フィルム11の色彩を示すため、色彩可変層12のパターンを認識することができる。他方、適切な円偏光フィルター20を重ねることにより、色彩可変層12のパターンは消失して見える。
【0035】
次に、この色彩可変層12は、ネマチック構造やスメクチック構造を有する液晶物質、キラル物質、光重合性多官能化合物及び重合開始剤を混合した液晶溶液を塗布し、その塗布膜に紫外線を照射することで形成することができる。このとき、キラル物質が液晶物質同士を結合して前記螺旋構造を形成する。また、光重合性多官能化合物は互いに重合硬化してコレステリック液晶を固定する。なお、前記液晶物質とキラル物質の代わりに分子中に不整炭素原子を持つ光学異性体液晶物質を使用して、この光学異性体液晶物質、光重合性多官能化合物及び重合開始剤を混合して虹彩性多層フィルム上に塗布し、紫外線を照射することで色彩可変層12を形成することも可能である。
【0036】
なお、前記液晶溶液を、直接、虹彩性多層フィルム11上に塗布して色彩可変層12を形成することもできるし、別の支持体上に色彩可変層12を形成した後、接着剤を使用して虹彩性多層フィルム11に接着したり、転写することで虹彩性多層フィルム11上に色彩可変層12を形成してもよい。
【0037】
次に、前記光重合性多官能化合物としては、重合性官能基、重縮合性官能基または重付加に有効な官能基を分子中に2個ないしそれ以上有する単量体又はオリゴマーが使用できる。また、この光重合性多官能化合物に加えて、単官能の単量体又はオリゴマーを併用することも可能である。
【0038】
ラジカル系光重合性多官能単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が例示できる。また、ラジカル系光重合性多官能オリゴマーとしては、例えば、ポリウレタンポリアクリレート、エポキシ樹脂系ポリアクリレート、アクリルポリオールポリアクリレート等が例示できる。また、ラジカル系光重合性単官能単量体としては、アルキル(C〜C18)(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アルキレン(C〜C)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C〜C10)アルキル(C〜C)(メタ)アクリレート、ポリアルキレン(C〜C)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C〜C10)ポリアルキレン(C〜C)グリコール(メタ)アクリレート等で挙げられる。また、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル系化合物が使用できる。また、3次元架橋性液晶ポリオルガノシロキサンを使用することもできる。
【0039】
次に、重合開始剤としては、ラジカル系光重合開始剤やカチオン系光重合開始剤が使用できる。また、これら光重合開始剤に加えて、増感剤や過酸化物を併用することもできる。
【0040】
ラジカル系光重合開始剤としては、α−ヒドロキシアセトフェノン系、α−アミノアセトフェノン系等のアセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、α−ジカルボニル系、α−アシルオキシムエステル系等公知のものが使用され、具体的にはα−アミノアセトフェノン、アセトフェノンジエチルケタール、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパノン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノンとN−メチルジエタノールアミンとの併用等が挙げられる。カチオン系光重合開始剤としては従来公知のものを特に制限なく使用することができ、さらに好ましくは、公知の増感剤や過酸化物と適宜併用することができる。例えば、アリルヨードニウム塩−α−ヒドロキシアセトフェノン系、トリアリルスルホニウム塩系、メタロセン化合物−パーオキサイド併用系、メタロセン化合物−チオキサントン併用系、メタロセン化合物−アントラセン併用系等である。
【0041】
そして、これら液晶物質、キラル物質、光重合性多官能化合物及び重合開始剤を混合した液晶溶液を塗布するにあたって利用する塗工装置としては、コンマコーター、マイクログラビアコーターオフセット等が使用できる。また、厚みは0.5〜20μmでよい。好ましくは2〜10μmである。
【0042】
また、その塗布膜に紫外線を照射して重合させる際に、酸素による重合阻害を防ぐため、窒素などの不活性ガスの存在下で酸素ガス濃度を下げて紫外線を照射することもできる。あるいは酸素バリアー性の被膜で被覆して紫外線を照射することも可能である。酸素バリアー性の被膜としては、ポリビニルアルコールが例示できる。
【0043】
次に、光吸収層14は、ノイズ光を防いで、上記虹彩性多層フィルム11及び色彩可変層12の光学特性をより強調させるために設けるものである。虹彩性多層フィルム11はその膜厚により特定の波長を透過し、それ以外の波長を反射させる性質を持っており、また色彩可変層12を構成するコレステリック液晶層はその旋回方向及びコレステリック液晶の旋回ピッチと同じ波長の円偏向光を反射させ、その他の光を透過させる性質を持つ。虹彩性多層フィルム11及び色彩可変層12を透過した光をこの光吸収層14にて吸収することにより、より鮮明に反射波のみが見えることになる。この光吸収層14の色相は、虹彩性多層フィルム11及び色彩可変層12によって透過される光の波長を吸収できるものであれば特に限定はなく、一般的には濃色が用いられる。濃色の中では黒色が一般的に使用される。光吸収層14は塗布又は印刷によって設けることができる。
【0044】
この光吸収層14は、上記虹彩性多層フィルム11の全面に設けることができる。全面に設けた場合には、その全面に渡ってノイズ光が防止されるため、虹彩性多層フィルム11に基づく色彩と、色彩可変層12に基づく色彩とが、いずれも鮮明に表示される。
【0045】
また、この光吸収層14を、上記虹彩性多層フィルム11の一部にパターン状に設ける
こともできる(図4参照)。この場合には、この光吸収層14の存在する部位が、存在しない部位より鮮明に表示され、両者の間でそのパターンを認知することができる。光吸収層14は印刷法によってパターン状に設けることができる。
【0046】
次に、この光吸収層に代えて、あるいは光吸収層と共に、上記虹彩性多層フィルム11に光反射層16を設けることもできる。
【0047】
光吸収層が存在しない場合、光反射層16は虹彩性多層フィルム11の一部にパターン状に設けることが望ましい(図5参照)。この場合には、光反射層16が存在する部位は全反射部位となり、鏡面効果を与える。このため、ノイズ光が増大して、虹彩性多層フィルム11に基づく色彩の鮮明度と、色彩可変層12に基づく色彩の鮮明度とが、いずれも低下する。そして、この光反射層16が存在する部位と存在しない不存在部位との間で鮮明度が異なり、そのパターンを認知することができる。
【0048】
また、光吸収層14と光反射層16との両者を設ける場合には、この両者を重ねて設けることもできるが、虹彩性多層フィルム11側から見て、前記光吸収層14の少なくとも一部と、光反射層16の少なくとも一部が、いずれも見えるように配置することが望ましい。例えば、パターン状光吸収層14を形成した後、このパターンからはみ出すように光反射層16を設けることができる(図6参照)。また、パターン状光反射層16を形成した後、このパターンからはみ出すように光吸収層14を設けることもできる(図7参照)。また、光吸収層14と光反射層16とを位置合わせして、これらのいずれもが虹彩性多層フィルム11側から見えるように設けることもできる(図8参照)。この場合には、光吸収層14の見える部位で前記色光が鮮明に認知でき、他方、光反射層16の見える部位で鮮明度が低下する。このため、その装飾効果を一層高めることができる。
【0049】
光反射層16の材料としては、反射効果の高いAl、Sn、Cr、Ni、Cu、Au等の金属材料やTiOの如き屈折率の高い金属酸化物が挙げられる。また、その製膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法が利用できる。なお、光反射層16をパターン状に設ける方法としては、例えば、マスクを介して前記金属材料等の薄膜を製膜する方法が利用できる。また、全面に前記金属材料等の薄膜を製膜した後、この薄膜の一部をエッチングして除去することによりパターニングしてもよい。また、現像液溶解性の被膜をパターン状に形成し、この被膜を被覆して全面に前記金属材料等の薄膜を製膜した後、現像液を適用して前記皮膜と共にこの被膜に重ねられた薄膜を除去してパターングすることも可能である。このような現像液溶解性の被膜としては、例えばポリビニルアルコールの被膜やカルボキシエチルセルロースの被膜が例示でき、いずれの場合も水又はアルカリ水溶液で溶解することができる。
【0050】
次に、粘着層15は、偽造防止媒体を商品等に貼着する際に利用される層である。この粘着層15としては、これと接する光吸収層14や光反射層16を変質させたり、冒したりするものでなければ、一般的な粘着剤を使用することができる。
【0051】
具体的には、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコン系、ポリイソブチル系の粘着剤を単独、もしくはアルキルメタクリレート、ビニルエステル、アクリルニトリル、スチレン、ビニルモノマー等の凝集成分、不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有モノマー、アクリルニトリル等に代表される改質成分や重合開始剤、可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤等の添加剤を必要に応じて添加したものを用いることができる。この粘着層15の形成には公知のグラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法やバーコート法、グラビア法、ロールコート法などの塗布方法等を用いることができる。
【0052】
また、両面粘着シートから転写することによって粘着層を形成することもできる。この、両面粘着シートは、粘着層の両面にフィルムセパレーターを貼り合わせて構成されるもので、まず一方のフィルムセパレーターを剥離して粘着層を露出させ、この露出した粘着層を貼り合わせた後、他方のフィルムセパレーターを剥離して転写する。貼り合わせには公知のロールラミネート等の方法を用いることができる。
【0053】
次に、保護層13は、必要に応じて設けられるもので、虹彩性多層フィルム11と色彩可変層12の露出表面を、物理的影響及び化学的影響から守る役割を有すると共に、色彩可変層12を被覆することでその存在をより認知し難くする役割を有する。
【0054】
保護層13の材料としては、光硬化型樹脂が望ましく使用できる。すなわち、モノマー又はオリゴマーに光開始剤を配合して塗布し、硬化させて得たものである。モノマー又はオリゴマーとしては、公知のアクリル、エポキシ、ポリエステル、ウレタン、アクリルシリコンが使用できる。望ましく(メタ)アクリロイル基を分子内に持つ化合物であり、さらには(メタ)アクリロイ基を1〜20個有するものが望ましい。例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等である。光開始剤としては、紫外線等を照射した際にラジカルを発生するものであればよく、例えば、イソシアネート、エポキシ等が例示できる。
【0055】
保護層13の形成方法としては、上述の粘着層の形成と同じ方法を用いることができる。光硬化の際には、高圧水銀ランプ等の紫外線照射装置を使用でき、さらには紫外線照射時に窒素等の不活性ガスを紫外線照射区域に充填し酸素阻害を軽減することでより強固な塗膜を形成することもできる。
【0056】
次に、本発明に係る偽造防止媒体の使用方法について説明する。前述のように、本発明に係る偽造防止媒体は、その片面に粘着層15を設けてシールとし、このシールを商品等に貼着して使用するものである。商品等としては、例えば、紙幣、クレジットカード、IDカード、パスポート、商品券等の債券、高額商品等が例示できる。また、前記商品のパッケージに貼着して使用することもできる。
【0057】
そして、この状態では、虹彩性多層フィルム11と色彩可変層12とが重ねられた部位においては、その混合色が見える。また、色彩可変層12が重ねられていない部位においては虹彩性多層フィルム11の色彩が見える。このため、色彩可変層12の存在部位がパターン状に見える。なお、いずれの部位においても、見る角度を変えると、この角度に応じて色彩が変化する。なお、その背景に光吸収層14が配置されている部位においてはその色彩が鮮やかに見え、背景に光反射層16が配置されている部位ではその鮮明度が低下して見える。
【0058】
次に、この偽造防止媒体に適切な円偏光フィルターを重ねて見ると、前記色彩可変層12に基づく色彩は消失し、虹彩性多層フィルム11の色彩だけが見える。このため、円偏光フィルターを重ねる前と比較するとその色彩が変化し、また、色彩可変層12のパターンが消失して見える。なお、光吸収層14が配置されている部位及び光反射層16が配置されている部位については、そのパターンが認知できる。
【0059】
円偏光フィルターは、直線偏光フィルターに1/4波長版を積層して得ることができる。すなわち、直線偏光フィルターの偏光方向に対して、1/4波長版の複屈折主軸を右に45°傾けた状態で張り合わせることで右円偏光フィルターが、左45°傾けた状態で貼り合せることで左円偏光フィルターが作成できる。
【0060】
直線偏光フィルターとしては、一軸方向に配向したフィルムを二色性色素で染色したものが利用できる。一軸配向フィルムとしてはポリビニルアルコールやポリ塩化ビニルが使用できる。二色性色素としては、ヨウ素及びその錯体、あるいは、ブルー、レッド、グリーンまたそれらの混合色の二色性色素を使用すればよい。また、1/4波長版としては、ポリカーボネート製1/4波長版や環状オレフィン樹脂製1/4波長版が知られている。
【0061】
なお、円偏光フィルターとして、コレステリック液晶を使用した円偏光フィルターを使用できる。すなわち、配向膜の上に、コレステリック液晶を含む溶液を塗布し、硬化させることで円偏光フィルターを製造することができる。配向膜としては、ポリビニルアルコールやポリイミド等の配向膜が使用できる。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
厚さ19μmの虹彩性フィルムに、ポリビニルアルコール(PVA−117 クラレ(株)製)の10重量%溶液を、バーコーターを用いて、乾燥膜厚2μmとなるよう塗布し、乾燥してその被膜を形成した。このPVA面をラビング布(FINE PUFF YA−20−R 吉川化工(株)製)を用いラビング処理を行ない、前記ポリビニルアルコール被膜を配向膜とした。
【0063】
次に、この配向膜層上に、平台校正機を用いて、次の組成から成るインキを星形にグラビア印刷し、80℃で1分の乾燥した後、高圧水銀灯にて500mjの照射を行い硬化させて、色彩可変層12を形成した。なお、色彩可変層12の厚みは5μmとした。(図1参照)
ネマチック液晶(パリオカラー LC242 BASF(株)製) 30重量部
カイラル剤(パリオカラー LC756 BASF(株)製) 1.5重量部
重合開始剤(イルガキュア184 チバガイギー(株)製) 1.5重量部
溶剤(メチルエチルケトン) 67重量部
次に、前記色彩可変層12を被覆して、全面に保護層13を形成した。保護層13は、次の組成のインキを使用し、このインキをグラビア印刷し、100℃で1分乾燥後、高圧水銀灯を用い500mJの紫外線照射を行い硬化させることで形成した。保護層13の厚みは5μmとした。
【0064】
アクリルモノマー(商品名:NKエステル ATMMT 新中村化学工業社製) 40重量部
反応開始剤(商品名:イルガキュア184 チバガイギー社製) 5重量部
希釈溶剤(商品名:VC202C溶剤 東洋インキ製造社製) 55重量部
次に、保護層13を設置したのとは反対の面に、光吸収層14として以下の墨インキを乾燥膜厚2μmとなるようスクリーン印刷機を用いてパターン状に印刷した。乾燥は100℃で1分間行なった。
【0065】
なお、光吸収層14は、前記色彩可変層12の存在する部位より広いパターンに形成した(図2参照)。
【0066】
墨インキ(商品名:SS66 911墨 東洋インキ製造社製) 90重量部
希釈溶剤(商品名:S965溶剤 東洋インキ製造社製) 10重量部
続いて、光吸収層14を被覆して、その全面に粘着層15を形成した。すなわち、次の組成の塗料を、バーコート法を用いて塗布し、80℃で1分乾燥した。粘着層15の厚みは10μmとした。
【0067】
アクリル系樹脂 (商品名:BPS5160 東洋インキ製造社製) 60重量部
希釈溶剤(商品名:VC202C溶剤 東洋インキ製造社製) 40重量部
そして、その後、粘着層側に離型紙を貼り合わせた。
【0068】
得られた偽造防止シールを商品券にその粘着層の部分で貼り付けた後、それを原稿としてカラーコピーを行ったところ、コピー原稿として用いた商品券においては、正面から見ると虹彩性フィルム単独部は赤色に見え、目視角度を変えると偽造防止媒体は緑色に見える。また、色彩可変層が設置された部分は正面から見るとマゼンタ色に、目視角度を変えると緑に見える。しかし複写物ではその偽造防止シール貼着対応部分においてこれらの色変化が認められなかった。
【0069】
さらに、別途用意した円偏光フィルターを偽造防止シールに重ねて確認したところ、左円偏光部では色彩可変層の部分は変化無く、右円偏光フィルターを重ねて見た場合赤となり、虹彩性フィルムと同じ色相が確認された。
【符号の説明】
【0070】
1 偽造防止媒
11 虹彩性多層フィルム
12 色彩可変層
13 保護層
14 光吸収層
15 粘着層
16 光反射層
20 偏向フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種またはそれ以上の種類のプラスチック系薄膜を交互に積層してなる虹彩性多層フィルムと、この虹彩性多層フィルムの少なくとも一部に積層された色彩可変層を有することを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
色彩可変層が配向したコレステリック液晶を主成分として構成されることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
虹彩性フィルムの少なくとも一部に光吸収層を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
虹彩性フィルムの少なくとも一部に光反射層を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
観察面側に保護層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止媒体の一方の面に粘着層を有することを特徴とする偽造防止シール。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22314(P2011−22314A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166609(P2009−166609)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】