説明

傷防止エナメル調理器具、および当該器具の製造方法

【課題】ガラスタイプの横棚にひっかき傷を生じない傷防止エナメル調理器具を提供する。
【解決手段】食物を受けることができる内面21と、熱源の側に配置されることが意図された外面22とを有する基部2を備え、上記外面22は、球状充填材71,711,72,721を備えるエナメル膜3,4,61,62によって覆われ、上記球状充填材71,711,72,721の一部711,721は、突出していることが外側から見えるように、上記エナメル膜3,4,61,62から突出している調理器具1であって、上記球状充填材711,721は、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、上記エナメル膜3,4,61,62から突出している上記球状充填材711,721は、上記膜3,4,61,62の表面上に均一に分布している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般的に、ビトロセラミック(vitroceramic)またはIHプレート(induction hob plate)上での使用に適したエナメル調理器具、および当該調理器具の製造方法に関するものである。
【0002】
一般的に、上記調理器具は窪んだボール(hollow bowl)を備えており、ここにおいて基部は、食物を受けることが意図された内面と、熱源の側に配置されることが意図された外面とを有している。上記外面は、一般的には1層以上のエナメル層によって覆われ得、当該エナメル層によって、器具の基部の外見を良くするのみならず、特に熱または酸化から基部を守ることを可能にする(例えば、鋳鉄調理器具の場合)。
【0003】
本出願人が所有するフランス特許FR2576038号が既に知られており、当該フランス特許FR2576038号は、ガラスビーズを含んだ2つのエナメル層からなる被覆膜を記載しており、上記ガラスビーズの少なくとも幾つかは、当該ビーズを含んでいるエナメル層の厚さよりも長い直径を有しているとともに、上記エナメル層の表面から突出している。しかしながら、第2層のガラスビーズは、第1層のガラスビーズに対して交互に(staggered fashion)配置されているとともに、第1層のガラスビーズの間に包埋される傾向があり、それ故に、第2外層から突起しない。その結果、上記被覆膜の摩耗に対する抵抗性が低下する。その上、エナメル膜は絶縁特性を有するので、調理器具の基部を介した熱伝達に影響を与える。
【0004】
それ故に、これらビーズの沈降問題(subsidence problems)を改善するとともに、上記被覆膜の摩耗に対する抵抗性を増加させるために、ヨーロッパ特許EP0323349号において本出願人は、自身の外面上にエナメル膜を有するビーズを備えた調理器具を提案した。当該エナメル膜は、調理器具の基部の外面を覆う第1エナメル層を含み、当該第1エナメル層に続いて、各々がガラスビーズを含む2つの積層されたエナメル層が形成されている。また、上記エナメル膜は、不連続な外層である第2エナメル層を含み、当該第2エナメル層は、隆起した浮き彫り装飾(raised relief decor)を形成している。これらの層内に存在するガラスビーズの幾つかは、当該ビーズを含んでいるエナメル層の厚さよりも長い直径を有するとともに、上記層の表面から突出している。加えて、不連続な外層のビーズの幾つかは、下に存在する層のビーズの上に載っている。
【0005】
しかしながら、このような膜は、装飾エナメル層から突出したガラスビーズと、例えばビトロセラミックタイプの横棚(vitroceramic type hob)との間で生じるようなガラス対ガラス型の接触が、横棚(hob)内に引っかき傷を生じ易いという問題点を含んでいる。
【0006】
しかしながら、本出願人は今回、ガラスよりも低い硬度を有するとともに、器具の製造方法における焼成工程の間にビーズが溶けないように十分に高い融点を有する材料によって形成された球状充填材(rounded fillers)(または、ビーズ)によって上記ガラスビーズを置き換えれば、これらの傷問題を解決し得ることを見出した。
【0007】
特に、球状充填剤を含むエナメル膜は、上記充填剤が900℃よりも高い融点を有するとともに6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、エナメル膜の表面からの上記充填材の突起が上記膜の表面上に均一に分布している場合に傷防止効果を改善できることを、本出願人は見出した。
【0008】
本発明においてモース硬度とは、無機物によって引っ掻かれた基材(substrate)の能力が意図され、下記表によって規定される。
【0009】
【表1】

本発明において球状充填物とは、角(angle)が無い充填物を意図し、特に卵状または球状の形状を意図する。
【0010】
本出願人はまた、セリグラフィック加工(serigraphic application)を行い、次いで球状充填材(或いはビーズ)を含む少なくとも1つの搖変流動性エナメルペースト(thixotropic rheofluidifying enamel paste)を乾燥および焼成することによって、このような膜を形成できることを見出した。
【0011】
本発明においてエナメルペーストとは、無水エナメルフリットの粉末状のペースト(anhydrous enamel frit powder-based paste)を意図する。
【0012】
本発明において搖変流動性ペーストとは、粘りのある状態またはゲル状態にて安定して存在するとともに、基材上でセルグラフィック加工を施している間、または機械的に攪拌している時に液体状になるペーストを意図する。なお、上記エナメルペーストの粘性の低下は、当該粘性を減少させるために必要な時間に対して、付与する圧力を増加および/または維持することによって観察され得る。
【0013】
900℃よりも高い融点を有するとともに6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成された球状充填材がガラスビーズよりも密度が高い(denser)ことを考慮すれば、搖変流動性ペーストを使用すれば、エナメル膜の表面上における球状充填材の均一な分布を得ることを可能にする。実際、上記ビーズは、高い密度を有するにもかかわらず、ペースト中において安定して浮遊した状態に保たれ、上記ペースト中における充填材の沈殿は、有意に遅くなるかまたはほぼ停止する。これによって、如何なる時にも、堆積物中に一定の割合のビーズを含む被覆層を適用することが可能となる。その上、エナメルペーストの拡散を容易にするために(例えば、セリグラフィックスクリーン(serigraphic screen)の網目構造を介したエナメルペーストの流動を容易にするために)、当該ペーストの転写または基板上への当該ペーストの塗布などの工程の間、当該エナメルペーストの粘性は、最小である必要がある。
【0014】
それ故に、本発明は、食物を受けることができる内面と熱源の側に配置されることが意図された外面とを有する基部を備え、上記外面は、突出していることが見えるように突出している球状充填材を含むエナメル膜によって覆われている調理器具に関するものである。
【0015】
本発明によれば、上記球状充填材は、900℃よりも高い融点を有するとともに6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成されており、これらの突起物は、上記膜の表面上に均一に分布している。
【0016】
上記エナメル膜の表面から突出している充填材の表面密度は、150〜300個/mmであることが好ましい。
【0017】
可視できる充填材の表面密度が300個/mmを超える場合には、熱および機械的な衝撃に対する抵抗性の低下が観察されるとともに、光沢が失われることが観察される。
【0018】
可視できる充填材の表面密度が150個/mmよりも低い場合には、物体の重量分布が十分には均一ではなく、またビトロセラミック(vitroceramic)またはIH(induction hob)に引っ掻き傷が付き易いことが観察される。
【0019】
上記球状充填材は、モース硬度が5.5以下の材料によって形成されていることが好ましい。
【0020】
本発明の調理器具に使用することができる球状充填材またはビーズの例には、金属ビーズおよび合金が含まれ、特に銅、青銅、および熱耐性の鋼ビーズが含まれる。
【0021】
好ましくは、ステンレス鋼ビーズが用いられる。実際には、このようなビーズは、エナメル焼成温度(enamel firing temperature)において、ほとんど、または全く酸化されないという利点をもたらす。
【0022】
上記可視できる球状金属充填材は、器具(ビーズを介した)と横棚(hob)と低硬度の金属ビーズとの間で接触表面積が減少した結果、エナメル膜の耐摩耗性を増加させることが可能であるとともに、その摩擦係数を減少させることが可能である。このような膜は、掃除が簡単であって、かつビトロセラミックまたはIHなどの敏感な表面を引っ掻く危険性が全く無い。
【0023】
有利なことに、上記エナメル膜は、搖変流動性エナメルペーストから得られるセリグラフ層(serigraphic layer)である少なくとも1つの外層を備え、上記外層は、球状充填材を含んでいる。
【0024】
本発明においてセリグラフィック外層とは、セリグラフィー(serigraphy)の手法によって15〜30μmの搖変流動性エナメルペーストを塗布することによって得られる、エナメル層のことである。
【0025】
本発明の第1の実施形態によれば、エナメル膜は、器具の基部から連続して下記第1エナメル層〜第3エナメル層を含んでいる。つまり、
−粘着層(adherence layer)と呼ばれ、上記基部の外面を覆っている第1エナメル層、
−被覆層(covering layer)と呼ばれ、上記粘着層を覆っている第2エナメル層、および
−上記球状充填材を含むとともに、上記被覆層を完全に覆っているセリグラフ外層を形成している第3エナメル層。
【0026】
本発明の特に有利な第2の実施形態によれば、前記エナメル膜は、本発明の球状充填材を含むとともに、上記第3エナメル層を部分的に覆う装飾(decoration)を形成している第4エナメル層をも備えており、その結果、第4エナメル層内の一部の充填材が、第3エナメル層の充填材上に載っている。
【0027】
本発明の球状充填材は、エナメル層内への固定にとっては有利ではない平らな表面にもかかわらず、セリグラフ層のエナメル中に確実に固着される金属ビーズであることが好ましい。しかしながら、セリグラフィーは、スクレイパー(scraper)の手段によって、網目構造の篩を介してエナメルペースト(無水エナメルフリットの粉末ベースのペースト)を塗布する工程からなる技術であるため、当該技術は、セリグラフスクリーンワイヤー(serigraphic screen wire)の直径によって保証された均一な厚さを有する層を堆積するとともに、上記エナメル層内にビーズを良く分配する。
【0028】
その上、特に本発明の第2の実施形態においては、まず第1に、上記第4エナメル層(第2セリグラフ層)内におけるビーズの沈降が制御されており、当該制御は、下に存在する第3エナメル層(第1セリグラフ層)内にビーズが存在し、当該ビーズ上に上記第4エナメル層のビーズのうちの少なくとも一部が配置され得ることによってなされる。第2には、上記第3エナメル層内に存在するビーズによって、耐摩耗性を増加させることができるとともに、非連続エナメル装飾層によって覆われていない当該層の部分の洗浄を容易にすることができる。
【0029】
好ましくは、本発明の調理器具は、上述したようなエナメル基部(enamelled base)を含む、鋳鉄(cast iron)またはエナメル質のスチールボール(enamellable steel bowl)を含む。
【0030】
本発明に基づいて、上記ボールを作製するために使えるエナメル質のスチールの例には、特に低炭素鋼(low-carbon steels)と脱炭素鋼(decarburised steels)が含まれる。好ましくは、ボールは鋳鉄によって形成される。
【0031】
エナメルの配合は、機材の種類に適応されるべきである。
【0032】
好ましくは、ビーズの最大直径は、少なくともエナメル外層の厚さの2倍である。このようにして、全てのビーズは、少なくとも当該ビーズの直径に等しい深さにまで、セリグラフエナメル層内に挿入される。そして、これによって、上記エナメル層内における上記ビーズの優れた固定性を保障する。
【0033】
好ましくは、上記ビーズの直径が5〜40ミクロンであり、当該ビーズの平均径が15〜20ミクロンであり、エナメル外層の厚さが15〜30ミクロンである。
【0034】
好ましくは、上記エナメル外層は、5〜30重量%のビーズを含む。
【0035】
5%よりもビーズが少ない場合には、エナメルの特性への影響がごくわずかになり、一方、30%よりも多い場合には、ビーズとエナメルとの間の粘着性が損なわれる。
【0036】
好ましくは、上記エナメル外層は、タルク、グラファイト、モリブデンジスルフィド、バナジウムジスルフィド、窒化ホウ素、およびこれらの混合物などの、潤滑性を有する層状に構造化された固体粒子(solid lamellar structured particles)をも含む。
【0037】
これらの層状に構造化された粒子は、エナメル膜の摩擦係数を有意に減少させるとともに、器具に対する横棚の研磨効果をかなり減少させる潤滑粒子の役割を果たしている。加えて、これらの層状に構造化された粒子は、エナメル層を簡単に洗浄できるようにしている。上記層状に構造化された粒子は、層の表面と摩擦する時にビーズの作用を完全なものにするために、またはビーズに取って代わるために、第4エナメル層内に含まれることが好ましい。
【0038】
本発明はまた、焼成後に(after firing)、本願発明の調理器具を形成する非焼成の中間部材(non-fired intermediate part)に関するものであって、上記非焼成のエナメル膜は、搖変流動性エナメルペーストによって形成されている外層を備えることを特徴とするとともに、球状充填材が、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、当該充填材が、前記エナメル膜から突出しているとともに、エナメルペーストの外層内に均一に分布していることを特徴としている。
【0039】
搖変流動性ペーストの層は、5〜30重量%の球状充填材を含んでいることが好ましい。
【0040】
最後に、本願発明はまた、本願発明の調理器具を製造するための方法に関するものであって、当該方法は、以下の工程を含んでいる。つまり、
−水性の第1エナメル懸濁液を噴霧した後で800℃よりも高い温度にて乾燥および焼成することによって、上記基部の上記外面上に、粘着層と呼ばれる第1エナメル層を設ける工程、
−水性の第1エナメル懸濁液を噴霧した後で乾燥させることによって、焼成した上記粘着層上に、被覆層と呼ばれる第2エナメル層を設ける工程であって、上記被覆層は、乾燥の後に素焼き(bisque)を形成する工程、
−上記被覆層上に、球状充填材を含むエナメルペーストの層をセリグラフ加工(serigraphic application)した後に乾燥させる工程であって、上記第1無水ペースト層は、焼成後に第1エナメル層または第1セリグラフエナメル層を形成するように意図されている工程、および
−好ましくは770〜820℃の温度にて焼成する工程。
【0041】
本発明によれば、使用される球状充填材は、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、上記エナメルペーストは、流動性(rheofluidifying)および搖変性(thixotropic)である。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、当該方法はまた、上記セルグラフ加工と上記最終焼成工程との間に、乾燥された連続的なエナメルペースト層上に、球状充填材を含む不連続な搖変流動性エナメルペーストをセリグラフ加工した後に乾燥させる工程を含む。
【0043】
上記エナメルペーストの層(複数の層)は、一度乾燥されて(特に、赤外線によって、または放射管を用いて)、素焼きを形成する。上記素焼きの硬度を上昇させるとともに、当該素焼きの空隙率を減少させるために、素焼きに対してより強い凝集性とより少ない多孔性とを与えるための凝集剤(cohesive agents)が、素焼き内に取り込まれる。
【0044】
本発明のエナメル層内に使用され得る凝集剤の例としては、特に、有機結合剤(organic binders)、ゴム、およびカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。これらの凝集剤は、素焼きの焼成過程の間に無くなる。
【0045】
最後に、好ましくは、抗粘着層(PTFEまたはエナメルによって形成される)(anti-adhesive layer)が、ボールの基部の内面上に設けられ得る。
【0046】
本発明の他の利点と特性とは以下の説明から理解されるが、当該説明は添付の図面に関連するものであって、これに限定されない。
【0047】
−図1は、第1の別の実施形態による、本発明の調理器具の断面概略図である。
【0048】
−図2は、第2の別の実施形態による、本発明の調理器具基材の断面概略図である。
【0049】
添付された図1では、鋳鉄調理器具1が示されており、そして当該鋳鉄調理器具1は、基部2として示される、窪んだ形状のボール含んでいる。そして、上記基部2では、外面22が第1エナメル層3(または、粘着層)によって覆われ、次いで、当該第1エナメル層3が第2エナメル層4(または、被覆層)によって覆われている。次いで、上記被覆層4は、金属の球状充填材(71、711)を含む連続的なセリグラフエナメル層61によって覆われている。なお、上記球状充填材711の一部は、上記層61の表面から突出(protrude)している。
【0050】
添付された図2に示された別の実施形態では、装飾(decoration)を形成する不連続なセリグラフエナメル層62が、セリグラフ層61を部分的に覆っている。当該エナメル層62はまた、金属の球状充填材72、721を含み、当該球状充填材721の一部が、上記層の表面から突出している。下に存在しているセリグラフ層61の充填材711の一部は、上記装飾的な層62によって覆われていない層61の一部の表面から突出している。
【0051】
図1および2はまた、基部2の内面21が、抗粘着層5によって覆われていることも示している。好ましくは、上記粘着層3と、適用可能であれば被覆層4とが、器具1(図示せず)のボールの外面全体を覆い、一方、セリグラフエナメル層61、62が、器具1の基部2の領域のみに設けられる。
【0052】
上記粘着層3と被覆層4とは、水性のエナメルフリット懸濁液(aqueous enamel frit suspension)の噴霧によって形成される。一方、金属ビーズ71、711、72、721を含む2つのセリグラフエナメル層61、62は、搖変流動性エナメルペーストを塗布した後に乾燥させることによって得られ、当該ペーストは、可能な限り770〜820℃の温度にて焼結される。
【0053】
エナメルペーストをセリグラフ加工してセリグラフエナメル層61、62を形成する間、エナメルペーストは、ビーズ71、711、72、721をそれぞれのエナメル層61、62中に堆積させるスクレイパーの手段によって、網目構造の篩を通過する。このようにして、第3エナメル層61(または、第1セリグラフ層)のビーズ71、711は、被覆層4である下に存在するエナメル層の表面上に配置され、一方、第4エナメル層62(または、第2セリグラフ層)のビーズ72、721は、第3エナメル層のビーズ71、711上に配置される。
【0054】
上記エナメル層3、4、61、および適用可能であれば層62は、770℃〜820℃の温度にて、同時に焼成される。
【0055】
セリグラフエナメル層61、62の各々は、5〜30重量%の球状充填材71、711、72、721を含んでいる。
【0056】
本発明の第2の別の実施形態に関してより具体的には、上記第4のエナメル層62を形成している間、ビーズ72、721は、第3エナメル層61内に沈降できない。というのも、層61内に含まれたビーズ71、711が、ビーズ72、721の沈降を抑制するからである。第2セリグラフ層62のビーズ72、721は、上記層62によって形成された浮き彫り状の装飾の美的外観を保持しながら、磨耗(wear)に対して耐性を備えることを可能にする。
【0057】
上記ビーズ71、711は、上述した特性以外に、不連続な層2によって覆われていないエナメル層61の部分を摩耗から守るとともに、当該部分の洗浄を容易にする。
【0058】
上記セリグラフエナメル層61、62は、金属ビーズ71、711、72、721の間に、タルク、グラファイト、モリブデンジスルフィド、バナジウムジスルフィド、窒化ホウ素など、およびこれらの混合物などの、潤滑性を有する層状に構造化された固体粒子をも含み得る。これらの潤滑性の粒子は、セリグラフエナメル層61、62の形成を容易にするとともに、その簡単に洗浄できるという性質を増加させる。
【0059】
本発明の第2の別の実施形態によるエナメル調理器具は、以下の工程を含む。つまり、
−調理器具のボールの外面上に第1エナメル懸濁液を噴霧してエナメル粘着層3を形成した後、800℃以上の温度にて乾燥および焼成する工程、
−焼成された上記粘着層3上にエナメルフリット懸濁液を噴霧してエナメル被覆膜4を形成する工程、
−上記被覆膜4を乾燥させた後に、セリグラフィーの手法によって、金属ビーズ71、711を含む搖変流動性エナメルペーストの層61を、被覆膜4上に形成する工程、および、
−上記ペースト層61を乾燥させた後に、同じくセリグラフィーの手法によって、焼成後に装飾を形成することが意図された金属ビーズ72、721を含む搖変流動性エナメルペーストの不連続な層62を、ペースト層61上に形成する工程。
【0060】
無水エナメルフリットペースト層61、62の各々の組成は、以下のように特定される。つまり、
a)ペーストの全重量に対して、エナメルフリットパウダー(enamel frit powder)が30〜50重量%であり、上記エナメルフリットは、以下を含む。つまり、
SiO:35−65%
:10−25%
NaO:5−20%
TiO:5−20%
O :<10%
ZnO :<5%
NO :<5%
:<2%
ZrO:<2%
LiO:<1%
MgO :<1%
b)ペーストの全重量に対して、ミネラル色素が5〜30重量%である、および
c)上記充填材の濃度によれば、ペーストの全重量に対して、直径が5〜40ミクロンである金属ビーズが5〜30重量%であり、当該金属ビーズの平均径が15〜20ミクロンである、
d)ペーストの全重量に対して、樹脂誘導体(例えば、松根油)またはテルペン誘導体(例えば、Dax(40105、France)に所在するDRTによって、Terpineolというブランドにて市販されているようなテルペンアルコールの混合物)に基づいた薬剤(formulation)が20〜50重量%であり、以下を含む、
−20〜50重量%が、樹脂またはテルペン誘導体、
−30〜50重量%が、脱芳香化されたケロシン(dearomatised kerosene)、
−5〜20重量%が、エチルセルロース、および
−1〜10重量%が、ワックス。
【0061】
上記ワックスは、基本的にセリグラフペーストに搖変性を与える。
【0062】
機械的応力が全くない場合、ワックスは凝固して当該ワックスを含んでいるエナメルペーストの粘性を高め、その結果、金属の球状充填材を当該ペースト中に懸濁した状態に保つことを可能にする。次いで、機械的応力(特に、剪断による)が働いている場合、特に、当該機械的応力がセリグラフ加工工程の間にスクレイパーによって加えられている場合、ワックスはもはや凝固せず、金属ビーズを含むエナメルペーストは液状化し、調理器具の表面上をエナメルペーストが広がることを容易にする。
【0063】
エナメルペースト層のセリグラフ加工の後、これらの層内に含まれているワックスは、急速に再び凝固し、ペーストの厚さ全体に渡って球状充填材を懸濁した状態に保つことを可能にする。
【0064】
焼成後、基部の外面が、膜表面上におけるビーズの表面濃度が150〜300個/mmであるエナメル膜を含んでいる調理器具が得られる。
【0065】
先行技術
FR2882240A
FR2625494A
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1の別の実施形態による、本発明の調理器具の断面概略図である。
【図2】第2の別の実施形態による、本発明の調理器具基材の断面概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物を受けることができる内面(21)と、熱源の側に配置されることが意図された外面(22)とを有する基部(2)を備え、
前記外面(22)は、球状充填材(71,711,72,721)を備えるエナメル膜(3,4,61,62)によって覆われ、
前記球状充填材(71,711,72,721)の一部(711,721)は、突出していることが外側から見えるように、前記エナメル膜(3,4,61,62)から突出している調理器具(1)であって、
前記球状充填材(711,721)は、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、
前記エナメル膜(3,4,61,62)から突出している前記球状充填材(711,721)は、前記膜(3,4,61,62)の表面上に均一に分布していることを特徴とする調理器具(1)。
【請求項2】
前記エナメル膜(3,4,61,62)から突出している前記球状充填材(711,721)の表面分布密度は、150〜300個/mmであることを特徴とする請求項1に記載の調理器具(1)。
【請求項3】
前記球状充填材(71,711,72,721)の構成材料のモース硬度は、5.5以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の調理器具(1)。
【請求項4】
前記球状充填材(71,711,72,721)は、金属によって形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の調理器具(1)。
【請求項5】
前記エナメル膜(3,4,61,62)は、搖変流動性エナメルペーストから得られるセリグラフ層である、少なくとも1つの外層(61,62)を備え、
前記外層(61,62)は、前記球状充填材(71,711,72,721)を含んでいることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の調理器具(1)。
【請求項6】
前記エナメル膜(3,4,61,62)は、前記基部(2)から連続して、
−前記基部(2)の前記外面(22)を覆っている第1エナメル層(3)、
−前記第1エナメル層(3)を覆っている第2エナメル層(4)、
−前記球状充填材(71,711)を含むとともに、前記第2エナメル層(4)を完全に覆っている連続的なセリグラフ外層を形成している第3エナメル層(61)、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の調理器具(1)。
【請求項7】
前記第3エナメル層(61)は、第4エナメル層(62)によって部分的に覆われ、
前記第4エナメル層(62)は、球状充填材(72,721)を含むとともに、装飾を形成する不連続な外層を形成していることを特徴とする請求項6に記載の調理器具(1)。
【請求項8】
前記基部を含む、鋳鉄、またはエナメル質のスチールボールを含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の調理器具(1)。
【請求項9】
前記球状充填材(71,711,72,721)は球形であり、
前記球形の最大直径は、最大で前記外層(61,62)の厚さの2倍であることを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の調理器具(1)。
【請求項10】
前記球状充填材(71,711,72,721)の直径が、5〜40μmであり、
前記外層(61,62)の厚さが、15〜30μmであることを特徴とする請求項9に記載の調理器具(1)。
【請求項11】
前記エナメル層(61,62)が、5〜30重量%の金属充填材(71,711,72,721)を含むことを特徴とする請求項5〜10の何れか1項に記載の調理器具(1)。
【請求項12】
焼成後に、請求項1〜11の何れか1項に記載の調理器具(1)を形成する非焼成の中間部材であって、
前記エナメル膜(3,4,61,62)は、前記球状充填材(71,711,72,721)を含む搖変流動性エナメルペーストによって形成されている少なくとも1つの外層(61,62)を備え、
前記球状充填材(71,711,72,721)は、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、
前記充填材(711,721)は、前記エナメル膜(3,4,61,62)から突出しているとともに、前記外層(61,62)内に均一に分布していることを特徴とする中間部材。
【請求項13】
前記搖変流動性ペーストによって形成されている層(62)が、5〜30重量%の球状充填材を含むこと特徴とする請求項12に記載の中間部材。
【請求項14】
以下の一連の工程を含む、請求項1〜11の何れか1項に記載の調理器具(1)の製造方法であって、
−水性の第1エナメル懸濁液を噴霧した後で800℃よりも高い温度にて乾燥および焼成することによって、前記基部(2)の前記外面(22)上に第1エナメル層(3)を設ける工程、
−水性の第1エナメル懸濁液を噴霧した後で乾燥させることによって、焼成した前記第1エナメル層(3)上に第2エナメル層(4)を設ける工程、
−前記第2エナメル層(4)上に、球状充填材(71,711)を含むエナメルペーストの連続的な層(61)をセリグラフ加工した後に乾燥させる工程、および
−前記器具(1)を最終的に焼成する工程、
前記球状充填材(71,711)は、900℃よりも高い融点を有し、かつ、6よりも低いモース硬度を有する材料によって形成され、
前記エナメルペースト層(61)は、流動性および搖変性であることを特徴とする製造方法。
【請求項15】
前記エナメルペースト層(61)は、5〜30重量%の球形充填材(71,711)を含むことを特徴とする請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記エナメルペースト層(61)は、1〜10重量%のワックス、および20〜50重量%の樹脂若しくはテルペン誘導体を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記連続的なエナメルペースト層(61)を加工および乾燥させる工程と焼成する工程との間に、前記乾燥された連続的なエナメルペースト層(61)上に、球状充填材(72,721)を含む不連続なエナメルペースト層(62)をセリグラフ加工した後に乾燥させる工程を含み、
前記不連続なエナメルペースト層(62)は、流動性および搖変性であることを特徴とする請求項14〜16の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記第2エナメル層(4)を形成するための前記水性の第1エナメル懸濁液が、凝集剤を含むことを特徴とする請求項14〜17の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記凝集剤が、有機結合剤、ゴム、またはカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項18に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−11833(P2009−11833A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−170548(P2008−170548)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(591125670)セブ ソシエテ アノニム (20)
【Fターム(参考)】