説明

傾斜機能材料及びその製造方法

【課題】傾斜機能材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】所定の形状の成形空間を有する型内で金属及び/又はセラミックスの被焼結材料を直接通電により加圧焼結して傾斜機能材料を製造する方法であって、型内の成形空間に被焼結材料を配置して、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料を任意の焼結温度分布により焼結することからなる傾斜機能材料の製造方法、TiSiCとTiCの2相組織の焼結体からなる傾斜機能材料であって、炭化チタンが、段階的又は傾斜的である組成を有し、炭化チタンの組成が異なる材料が全体の緻密性を確保しながら一体成形されている、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料、及びその製造方法。
【効果】被焼結材料の全体の緻密性を確保しながら焼結温度の異なる材料を一体成形した傾斜機能材料を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融点の高い金属及び/又はセラミックス系の耐熱材料からなる傾斜機能材料、例えば、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン(TiSiC−TiC)系傾斜機能材料、及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、金属及び/又はセラミックスの被焼結材料を直接通電により加圧焼結してそれらの傾斜機能材料を製造する方法において、焼結温度の異なる原料粉末群を一つの型内に充填し、それぞれの原料粉末の焼結に適するように、焼結温度を任意に変化させながら焼結する傾斜機能材料の製造方法、該方法によって製造される傾斜機能材料、例えば、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、焼結特性が相違する被焼結材料に対応して焼結温度を任意に制御することにより、例えば、先端が極めて硬く、他端が機械加工可能な特性を有するような傾斜機能を有する傾斜機能材料を製造することを可能とする新しい傾斜機能材料の製造方法を提供するものである。また、本発明は、例えば、電気熱伝導性、熱耐衝撃性、耐酸化性、切削性等の多くの優れた機能を有するチタンシリコンカーバイド系材料に、更に、傾斜機能を付加した新しいセラミックス材料を創製することを可能とするものであり、例えば、機械加工、電気通信、建設や医療衛生分野で有用な傾斜機能材料を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物等の耐熱性材料を高温で焼結した焼結体は、その優れた耐熱性、機械的強度、電気特性等を利用して、広い分野に亘って種々の製品に応用されている。例えば、機械加工に用いられる切削工具、生活用品としての耐熱調理器具、電気通信の分野ではIC基板、コンデンサ、燃料電池、土木建設の分野では建築用パネル、レンガ、医療衛生分野では人工骨、人工歯根等に焼結体が使用され、焼結体の組成及び形状構造は、それらの用途に応じて多岐に亘っている。
【0004】
一般に、焼結による材料の成形手法は、融点の高い金属間化合物やセラミック材料の成形体を製造する手段として有効である。焼結手法には、間接的な加熱方法を用いるものと、直接的な加熱方法を用いるものとがある。前者には、被焼結体を比較的均等な温度に制御できるという利点がある反面、昇温には時間がかかるという問題があり、後者は、昇温速度は速いものの、被焼結体の形状によっては焼結時の温度分布を均等に保てないという弱点を抱えている。これらの方法は、両者とも一長一短の特徴を有しているが、特に、後者の方法においては、先行技術として、例えば、温度制御の向上を目的として、加熱部分を限定し、これを順次移動させて全体を均一な温度で焼結するという方法が開発されている。
【0005】
例えば、筒状の成形空間を有する型内で粉末を直接通電加圧焼結する方法において、通電部分と被焼結部位とを相対的に移動させながら連続的に焼結することにより、長尺の棒状又は断面が一様でない焼結体であっても、焼結体の品質が均一であり、焼結性に優れた焼結方法及び焼結装置が提案されている(特許文献1参照)。また、通電部分と被焼結部位とを相対的に移動させながら筒状の成形空間を有する型内で粉末を直接通電加圧焼結する方法において、通電用電極の上下位置を不変にすると共に該通電用電極に対して型と被焼結部位を順次移動させ、連続的に焼結する焼結方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、他の先行技術として、通電加圧焼結装置における電流制御装置及び電流制御方法として、例えば、通電加圧焼結装置において、焼結型の温度を検出し、その値に応じて焼結型に通電する通電電流を制御し、昇温時には通電する電流値を一定の所定電流値とし、昇温後には検出温度に基いたPDI制御で電流を制御して、昇温中の電流のハンチング及びオーバーシュートを防ぎ、焼結体の内部の結晶構造を均一にすること等ができる装置及び方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
また、焼結方法及び焼結装置として、筒状の型内の粉体材料を加圧しつつ該型の側面に電極を当接させて通電焼結する場合の焼結時点において、できるだけ型が部分的な温度差を持たないようにする焼結装置及び方法が提案されている(特許文献4参照)。また、通電加圧焼結装置の焼結型として、上下一対のダイスにおいて、焼結室を形成する面に、温度が上昇すると絶縁破壊する絶縁版が取り付けられた、導電性の良い材料を焼結しても、粉体内部の温度分布を均一にすることができる通電加圧焼結装置の焼結型が提案されている(特許文献5参照)。
【0008】
しかしながら、従来の焼結手法は、いずれの場合においても、焼結時の温度分布をより均等に保つことを追求するものであり、焼結時における被焼結材料中の温度分布を意図的に不均一に制御することについては検討されてこなかった。そのため、要求される焼結温度がその内部で変化する段階的又は傾斜的組織を持つ材料については、全体の緻密性を確保しながら焼結し、一体成形を行うことが極めて困難であった。
【0009】
一方、被焼結材料として、1967年に初めて合成されたチタンシリコンカーバイド(TiSiC)が注目されている。シリコンチタンカーバイドは、純チタンの2〜3倍の電気・熱伝導度があり、グラファイトのように切削加工が可能なセラミックスであり、耐熱衝撃性、耐酸化性、制震性、低摩擦係数、等の多くの機能、特性を持つセラミックスとして知られている。
【0010】
チタンシリコンカーバイド焼結体の製造方法としては、例えば、パルス通電加圧焼結法による低温で短時間の焼結により、結晶粒が10μm以下であり、炭化チタン(TiC)含有量が8wt%以下であるチタンシリコンカーバイド焼結体を製造する方法が提案されている(特許文献6参照)。また、金属性セラミック焼結体チタンシリコンカーバイドの製造方法として、機械的に圧力を加えることなく、通常の粉末冶金手法、すなわち、粉末を冷間圧粉成形してから、通常の加熱焼結によって反応合成を行い、かつ緻密化するプロセスが提案されている(特許文献7参照)。しかしながら、これらのチタンシリコンカーバイド焼結体の製造方法は、残留炭化チタン(TiC)の抑制、簡便な焼結操作、結晶粒の粗大化防止等を目的とするものであって、焼結体の各部位別に炭化チタンの含有量が制御された焼結体を製造することを目的とするものではない。
【0011】
【特許文献1】特開2004−256844号公報
【特許文献2】特開2004−256845号公報
【特許文献3】特開2002−105506号公報
【特許文献4】特開平10−259405号公報
【特許文献5】特開2002−363614号公報
【特許文献6】特開2003−2745号公報
【特許文献7】特開2005−89252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、段階的又は傾斜的組成を持つ材料に対し、緻密性を確保しながら一体成形を可能とする焼結方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、焼結体を製造する際に、加熱部位ごとに焼結温度を任意に設定できるようにその温度制御プログラムを変更することによって所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、段階的又は傾斜的組成を持つ材料に対し、緻密性を確保しながら一体成形を可能とする焼結方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、傾斜機能を有する材料の製造時において、その材料特性の変化に対応して焼結温度の変更が必要となる場合であっても、所望の温度分布を達成し、傾斜機能を有する焼結体の一体成形を可能とする焼結方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、被焼結材料の加熱領域ごとに焼結温度を任意に設定できるように、加熱温度プログラムを変更することによって、段階的又は傾斜的組成を持つ焼結体を一体成形することができる焼結方法を提供することを目的とするものである。
【0014】
また、本発明は、異なる焼結温度を有する部分の集合体からなる傾斜機能材料を、一体成形し、緻密化することができる傾斜機能材料の製造方法を提供するものである。更に、本発明は、炭化チタンの硬質性と、チタンシリコンカーバイドの成形性及び機械加工性を兼備した新しい傾斜機能材料としてのチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系材料を提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)所定の形状の成形空間を有する型内で金属及び/又はセラミックスの被焼結材料を直接通電により加圧焼結して傾斜機能材料を製造する方法であって、型内の成形空間に被焼結材料を配置して、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料を任意の焼結温度分布により焼結することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
(2)被焼結材料の組成に対応して所定の焼結温度となるように焼結温度を制御しながら焼結を行う、前記(1)に記載の方法。
(3)焼結温度の異なる原料粉末群を、型内に配置し、それぞれの材料に適するように部位ごとに焼結温度を変化させながら焼結を行う、前記(1)に記載の方法。
(4)段階的又は傾斜的組成となるように原料粉末群を型内に配置する、前記(2)に記載の方法。
(5)被焼結材料に対して、通電加熱装置における加熱領域の位置を移動させながら、被焼結材料の被加熱領域の各領域ごとに独立して焼結温度を設定して焼結を行う、前記(2)に記載の方法。
(6)TiSiCとTiCの2相組織の焼結体を含むチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料であって、1)炭化チタンが、段階的又は傾斜的である組成を有する、2)炭化チタンの組成が異なる材料が全体の緻密性を確保しながら一体成形されている、ことを特徴とするチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料。
(7)焼結体中の炭化チタンが、0wt%〜56wt%の範囲で段階的又は傾斜的組成を有する、前記(6)に記載の傾斜機能材料。
(8)チタン、シリコン、及び炭化チタンの混合粉末を、その配合割合が変化するように調整した粉末材料群を型内に段階的又は傾斜的組成となるように配置し、それらの被焼結材料の焼結特性に応じて、焼結温度分布を制御しながら直接通電により加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の製造方法。
(9)上記混合粉末として、Ti/Si/1.8TiC〜Ti/Si/7.0TiCの範囲の原料粉末を用いる、前記(8)に記載のチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の製造方法。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の方法は、筒状等の所定の形状の成形空間を有する型内の成形空間に配置した被焼結材料を直接通電加熱により加圧焼結して傾斜機能材料を製造する方法であって、型内の成形空間に被焼結材料を配置して、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料を任意の焼結温度分布に制御しながら焼結を行うこと、を特徴とするものである。本発明では、段階的又は傾斜的組成となるように原料粉末群を型内に配置して焼結を行うこと、を好ましい実施の態様としている。また、本発明は、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の製造方法であって、チタン、シリコン、及び炭化チタンの混合物からなる組成の異なる被焼結材料を、型内で段階的又は傾斜的組成となるように配置し、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料の焼結温度分布を制御しながら直接通電により加圧焼結すること、を特徴とするものである。
【0017】
本発明の機能傾斜材料は、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系の焼結体であって、該焼結体中の炭化チタンが、段階的又は傾斜的である組成を有すること、該焼結体が炭化チタンの組成が異なる材料が一体成形されていること、該焼結体全体が実質的に焼結され、緻密な組織となっていること、を特徴とするものである。本発明では、焼結体中の炭化チタンが、0wt%〜100wt%、例えば、0wt%〜約56wt%の範囲で段階的又は傾斜的組成を有するチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系の傾斜機能材料であること、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
本発明の傾斜機能材料は、緻密な組織を有する、機能の異なる各部位が一体成形された焼結体からなっている材料であって、例えば、段階的又は傾斜的組成となるように配置された被焼結材料を一体に焼結して作製されるものであり、異なる機能を有する部材が、それらの機能が連続して又は段階的に変化しながら一体成形されている材料を意味するものである。
【0019】
本発明の方法は、被焼結体の組成及び形状、構造には関係なく、任意の被焼結材料に適用して焼結体を製造することが可能であり、例えば、連続的に組成が変化した部材が一体化した焼結体の製造に適している。本発明の方法により製造される焼結体としては、金属、セラミックスであれば、その材質に特に制限はないが、具体的には、例えば、チタンシリコンカーバイド中に炭化チタンが傾斜した濃度で含有されている焼結体が例示される。また、本発明の方法は、特に、傾斜組成を有し、形状構造が複雑な傾斜機能材料を作製する方法に適している。
【0020】
本発明を、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン(TiSiC−TiC)系の傾斜機能材料の製造を例として具体的に説明する。この傾斜機能材料を製造するには、まず、原料として用いるチタン(Ti)粉末、シリコン(Si)粉末、及び炭化チタン(TiC)粉末を用意し、これらを秤量、混合して、所定の組成となる混合粉末を調製する。これらの混合粉末として、例えば、チタンシリコンカーバイド(TiSiC)の単一相と、チタンシリコンカーバイド中の炭化チタンの含有量が傾斜濃度となる相が形成されるように配合した複数の混合粉末を準備する(表1参照)。この混合粉末を、シリンダ内に、炭化チタンが所定の傾斜濃度となるように充填(図7参照)して、直接通電加圧焼結装置によって焼結成形する。焼結は、好適には、5Pa以下の真空雰囲気において実施し、焼結温度は1370〜1460°Cの範囲で行う。
【0021】
【表1】

【0022】
電極を動かす速度を0.01mm/sとした場合、電極幅に相当する加熱領域の内、温度が最大となる範囲は5〜10mm程であるため、その温度での保持時間は通常500〜1000秒となる。5分未満であると、焼結反応が十分でなく、また、60分を超えるとTiSiCが分解する可能性があるため好ましくない。そして、より好適な焼結時間は10〜60分の範囲である。焼結の際には、50〜70MPaの圧力を加える。
【0023】
本発明の傾斜機能材料の製造方法を実施するために使用する焼結装置の一例を図1に基づいて説明すると、焼結装置は、原料粉末1を充填する筒状の成形空間を有するシリンダ2を有し、該シリンダ2の成形空間の内径と同寸法の外形を有する上下パンチ3、4が、シリンダ2の上下端部に配置されている。この上パンチ3を介して加圧ラム5より荷重負荷を与え、原料粉末1を加圧する。下パンチ4は移動可能な昇降用テーブル6に支持されている。昇降テーブル6は、筒状の成形空間を有するシリンダ2を支持した昇降可能な構造を有し、その昇降によって電極7に対するシリンダ2の位置を調節する。シリンダ2内の原料粉末1を通電加熱する電極7は、上下方向に移動できるように設計しても良い。昇降テーブル6は、電極7に対して、その昇降により被焼結材料における加熱領域8の位置を断続又は連続して移動させることができる。
【0024】
上記焼結装置を使用して本発明の傾斜組成を有する材料を作製するには、例えば、シリンダ2内の、上パンチ3と下パンチ4からなる筒状の成形空間に、組成の異なる原料粉末1を順次装填して、傾斜組成を有する原料粉末1を形成する。昇降テーブル6を一旦固定して、シリンダ2の上端部から加圧ラム5より上パンチ3を介して原料粉末1を加圧する。昇降テーブル6の位置を制御して、通電用電極7の位置を原料粉末1の所望の焼結部分に合わせて通電を開始する。傾斜組成を有する焼結体の製造には、例えば、昇降テーブル6を昇降して被焼結体の加熱領域を電極の位置に対して移動させながら通電を行い、傾斜組成を有する被焼結体全体の焼結を行う。昇降テーブル6の移動に伴って、加熱領域8は移動して被焼結体全体を焼結し、一体成形する。このとき、加熱領域8に該当する部位の焼結特性に応じた通電条件、例えば、通電用電極8へ供給する電力、通電時間等を設定し、連続して又は断続して通電しながら焼結が行われる。このようにして段階的又は傾斜的組成を有する焼結体が一体成形される。
【0025】
本発明のチタンシリコンカーバイド−炭化チタン傾斜機能材料は、例えば、上記方法により製造された焼結体であり、焼結体中の炭化チタンの分布を傾斜させることにより、各部がその組成に応じた機能、特性を発揮することに特徴を有するものである。例えば、一端を炭化チタンリッチとし、徐々にチタンシリコンカーバイドの割合を増やして、他端をチタンシリコンカーバイド単相となるように組成を傾斜させた焼結体は、先端がきわめて硬く、胴体は靱性に富み、また、単相部分においては機械加工が可能となる材料の製造が可能となる。このように、本発明の傾斜機能材料では、例えば、一端をチタンシリコンカーバイド単相、他端を炭化チタン単相とし、その間を両者の割合が自在に変化するように設計することが可能であり、チタンシリコンカーバイドをマトリックスとし、炭化チタンを最大100wt%までの濃度で含むことが可能であり、材料中での炭化チタンの濃度差を、0〜100wt%とすることが可能である。
【0026】
次に、チタンシリコンカーバイド−炭化チタン(TiSiC−TiC)系傾斜機能材料について詳細に説明する。Ti/Si/xTiC(ただし、x=1.8〜7.0)の混合粉末を焼結した場合の焼結組織中に占めるTiCの割合を検討した(図2)。x=2以下のときの焼結体は、ほぼ単相のTiSiCの組織となる。xが2よりも大きくなるとTiC相の割合が増大し、x=7.0のとき、TiCを56wt%含有する組織のTiSiC−TiC系傾斜機能材料が得られる。
【0027】
チタンシリコンカーバイド−炭化チタン(TiSiC−TiC)系材料の緻密化に必要な焼結温度を検討した。組織中のTiCが増大するに従い、必要な焼結温度は高温側へ移動する。TiSiCとTiCでは密度が異なる。そのため、TiSiC−TiC2相材料ではTiCの割合に応じてその理論密度が変化する。TiSiCの密度は4.52×10kg/mであり、TiSiC−TiC(10wt%)の密度は4.56×10kg/mであり、それぞれ緻密化する温度は、前者で1400℃、後者で1460℃になる。単相のTiSiCの組織(TiSiC−0wt%TiC)と、2相のTiCを約10wt%含む組織(TiSiC−10wt%TiC)からなる焼結体を比較すると、緻密化した焼結体を得るには、前者では1400℃での焼結で十分であるのに対し、後者では1460℃での焼結を必要とする。
【0028】
合成された2相組織の傾斜機能材料において、硬さに及ぼすTiCの割合の影響を検討した。焼結体に含まれるTiCのモル比(式:Ti/Si/xTiC中におけるxの値)が増加するに対応して、ビッカース硬度が順次上昇する。このことは、本発明によりビッカース硬度が傾斜した機能材料が製造できることを示している。
【0029】
傾斜機能材料の焼結条件を検討するための、チタン、シリコン、及び炭化チタンの粉末を、モル比で1:1:x、ただし、x=1.8及び2.0〜7.0(0.5きざみ)の割合で混合した各粉末を型内に順次充填して焼結し、焼結体としたときの、焼成工程における、温度の変化、加圧圧力の変化、及び昇降テーブル(Stage)の位置変化を、このようにして得られた、傾斜機能材料の長手方向に対するTiCの質量割合を検討した。一端を炭化チタンリッチとし、徐々にチタンシリコンカーバイドの割合を増やして、更には、チタンシリコンカーバイド単相となるように組成を傾斜させることにより、先端がきわめて硬く、胴体は靱性に富み、また、単相部分においては機械加工も可能となる傾斜機能性材料が作製できることが示された。
【0030】
本発明の方法では、被焼結材料に対して任意の温度分布で加熱できるように、被加熱領域に対して各領域ごとに独立して焼結温度を設定することによって、段階的又は傾斜的組織を持つ部材を緻密かつ良好に一体成形することができる。本発明の方法によれば、例えば、被焼結材料を構成する材料組成が部位により相違して焼結温度が部位ごとに大きく異なる場合、また、形状、構造が異なるため各部位の焼結温度が相違する場合であっても、緻密な一体成形焼結体を作製し、提供することが可能である。
【0031】
また、本発明のチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料は、炭化チタンの硬質性と、チタンシリコンカーバイドの成形性及び機械加工性を兼備させた新材料の創製を可能とするものである。また、本発明は、傾斜機能を有する材料、及びこれを利用した製品を提供することを可能とするものであり、例えば、切削加工用部材等として幅広い用途が開発される可能性のある、新しい傾斜機能材料、及びその製品を提供することを実現するものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明は、従来の焼結法ではきわめて困難であった、焼結温度の異なる材料を焼結によって一体成形することを可能とし、傾斜的機能を有する焼結体の製造時において、その特性の変化に対応して焼結温度の変更が必要となる場合であっても、所望の温度分布により一体成形することを可能とする。
(2)本発明の傾斜機能材料の製造方法によって、例えば、炭化チタンの硬質性とチタンシリコンカーバイドの成形性及び機械加工性を兼備させた新材料を創製することができる。
(3)例えば、一端を炭化チタンリッチとし、徐々にチタンシリコンカーバイドの割合を増やして、更には、チタンシリコンカーバイド単相となるように組成を傾斜させることにより、先端がきわめて硬く、胴体は靱性に富み、また、単相部分においては機械加工も可能となる焼結体の製造が可能となり、新しい切削加工用部材として、幅広い応用が考えられる。
(4)従来から、傾斜機能材料は焼結法によって製造されてきたが、これは、全体を均等な温度で焼結できるものに限定されていた。本発明は、当該傾斜機能材料の製造方法において、その適用範囲を任意の温度分布による一体焼結へ拡大できるという格別の効果を発揮するものである。
(5)一方の材料の融点が他方の好適な焼結温度より低い材料系であっても、それらの傾斜機能材料の焼結が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(1)焼結装置
図1に、本発明の傾斜機能材料に対する焼結方法を実施するために以下の実施例で使用した焼結装置の一例を示す。図中、1は原料粉末、2はシリンダ(焼結用の型)、3は上パンチ、4は下パンチ、5は加圧ラム、6は昇降テーブル、7は電極、8は加熱領域、を示す。原料粉末は、その組成を段階的に変化させて又は傾斜させて、シリンダ内に充填される。充填された原料粉末は、所定の荷重を負荷した加圧ラムによって加圧される。原料粉末は、電極に通電して通電加熱されるが、その際に、昇降テーブルを昇降して位置制御することで、原料粉末に対する加熱領域を移動させることにより、傾斜機能材料の組成に応じて加熱焼結条件を任意に調節することができる。図1の左は、昇降テーブルを上昇させて、加熱領域を下方に移動させた状態、同左は、昇降テーブルを下降させて、加熱領域を上方に移動させた状態、を示す。
【0035】
(2)焼結体の組織中に占めるTiCの割合の検討
本実施例では、図1に示される焼結装置及び方法により、チタン、シリコン及び炭化チタンからなるTi/Si/xTiCの混合粉末を焼結した場合の焼結体の組織中に占める炭化チタン(TiC)の割合を検討した。焼結体の製造は、温度1400〜1460℃、10分間、圧力60MPa、焼結雰囲気は真空中(5Pa)の条件下で実施した。図2は、チタン、シリコン及び炭化チタンの粉末をそれぞれモル比で1:1:xの割合で混合し、xを1.8から7.0まで変化させたときの焼結体中に占める炭化チタンの質量割合を示したものである。TiSiCの化学量論的組成であるx=2以下のとき、ほぼ単相のTiSiCとなるのに対し、xが2よりも大きくなると、焼結体は、TiSiCとTiCとの2相組織となり、xの増加とともにTiC相の割合が増大していくことがわかる。すなわち、xの量を調整することによって、単相のTiSiC、又はTiSiCとTiCの2相組織が得られ、2相組織におけるそれぞれの成分の割合を自在に変化させ得ることが明らかである。xを7.0とした原料組成では、約56wt%のTiCを含む焼成体が生成した。
【実施例2】
【0036】
本実施例では、焼結体の緻密化に必要な焼結温度を検討した。図3は、TiSiC単相の場合(Ti/Si/1.8TiC)と、TiSiC−TiC系2相組織となった場合(Ti/Si/2.5TiC)との緻密化に必要な焼結温度について比較したものである。焼結温度を1370〜1460℃、圧力を3016Nとして、600秒間焼結操作を行った。TiSiC単相の場合には1400℃(1673K)で十分緻密化したのに対し、組織中にTiC相が現れると、この温度ではまだ緻密化が不完全であり、これを緻密化させるためには、1460℃(1733K)まで温度を上げる必要のあることがわかる。すなわち、TiSiC単相組織とTiSiC−TiC系2相組織とを傾斜的に分配した材料を一体成形するためには、それぞれの部位に応じて焼結温度を変化させる必要のあることが示された。
【実施例3】
【0037】
本実施例では、合成された2相組織の焼結体の硬さに及ぼすTiCの割合の影響を検討した。焼結体の製造は、温度1460℃、圧力60MPa、真空(5Pa)雰囲気、焼結時間10分間で実施した。図4は、TiSiC組織中に占めるTiC相の割合と硬さとの関係について示したものである。TiC相の割合が増大するにつれて硬さも増加していることが確認できる。すなわち、本実施例の結果は、実施例1及び実施例2の結果とあわせ、チタン、シリコン及び炭化チタンの配合割合を変化させた各原料粉末を、段階的、又は傾斜的な組成となるように焼結用型の内部に充填し、それぞれの組成に応じた焼結温度となるように、焼結温度を変化させながら焼結を行うことにより、焼結体内部で硬さの変化する、いわゆる傾斜機能材料を、緻密に製造できるようにすることが十分期待できることを示す結果である。
【実施例4】
【0038】
本実施例では、傾斜機能焼結体の焼結条件、及び焼結して得た試料の長手方向に対する炭化チタンの質量割合の変化を検討した。チタン、シリコン、及び炭化チタンの粉末をそれぞれモル比で1:1:xの割合で混合した粉末群を調製し、直径Φ=8mmのシリンダの中に、x=1.8については4.5g、以後x=2.0〜7.0については0.5きざみでそれぞれ0.5gずつ順次充填した(図7参照)。これを、図5に示したように、x=1.8の部分については1370℃、それ以降の部分については1460℃で一体焼結し、長さおよそ43mmの棒材を作製した。図6は、得られた試料に対し、長手方向に対するTiC相の質量割合の変化について調べた結果を示したものである。x=1.8に相当する部分がTiSiC単相組織となっているのに対し、x=2.5以降の部分ではTiSiC−TiC系2相組織となり、xが大きくなるにつれてTiC相の割合も増大していることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳述したように、本発明は、金属及び/又はセラミックス系の傾斜機能材料、及びその製造方法に係るものであり、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料の焼結温度分布を制御しながら焼結を行う焼結方法、及び該方法によって傾斜機能材料を製造する方法及びその製品を提供することができる。本発明では、例えば、焼結体を構成する材料組成が部位により相違することにより、又は各部位の形状、構造が異なるために各部位の焼結温度が異なる場合であっても、緻密な一体成形焼結体からなる傾斜機能材料を作製することを可能とする傾斜機能材料の製造方法、及びこの方法よって製造されるチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料を提供するものである。本発明は、例えば、優れた耐熱性、機械的強度、電気特性等を有するチタンシリコンカーバイドに、傾斜機能を付加した新しい傾斜機能材料を提供することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の被焼結材料に対して任意の温度分布を与えながら焼結を行う焼結方法の一例を示す概略図を示す。
【図2】チタン、シリコン及び炭化チタンの粉末を、それぞれモル比で1:1:xの割合で混合し、xを1.8から7.0まで変化させたときの焼結体中に占める炭化チタンの質量割合を示す。
【図3】チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系焼結体の緻密化に必要な焼結温度に及ぼす原料組織の影響について示す。
【図4】チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系焼結体の2相組織中でのTiC割合と材料の硬さとの関係について示す。
【図5】チタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の焼結における焼結条件の一例を示す。
【図6】本発明により作製したチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系2相材料における長手方向に対するTiC相の質量割合の変化について示す。
【図7】表1に示した異なる配合比の原料粉末群を型内に順次充填した状態を示す。
【符号の説明】
【0041】
(図1の符号)
1:原料粉末
2:シリンダ(焼結用の型)
3:上パンチ
4:下パンチ
5:加圧ラム
6:昇降テーブル
7:電極
8:加熱領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の形状の成形空間を有する型内で金属及び/又はセラミックスの被焼結材料を直接通電により加圧焼結して傾斜機能材料を製造する方法であって、型内の成形空間に被焼結材料を配置して、被焼結材料の焼結特性に応じて、被焼結材料を任意の焼結温度分布により焼結することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項2】
被焼結材料の組成に対応して所定の焼結温度となるように焼結温度を制御しながら焼結を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結温度の異なる原料粉末群を、型内に配置し、それぞれの材料に適するように部位ごとに焼結温度を変化させながら焼結を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
段階的又は傾斜的組成となるように原料粉末群を型内に配置する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
被焼結材料に対して、通電加熱装置における加熱領域の位置を移動させながら、被焼結材料の被加熱領域の各領域ごとに独立して焼結温度を設定して焼結を行う、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
TiSiCとTiCの2相組織の焼結体を含むチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料であって、(1)炭化チタンが、段階的又は傾斜的である組成を有する、(2)炭化チタンの組成が異なる材料が全体の緻密性を確保しながら一体成形されている、ことを特徴とするチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料。
【請求項7】
焼結体中の炭化チタンが、0wt%〜56wt%の範囲で段階的又は傾斜的組成を有する、請求項6に記載の傾斜機能材料。
【請求項8】
チタン、シリコン、及び炭化チタンの混合粉末を、その配合割合が変化するように調整した粉末材料群を型内に段階的又は傾斜的組成となるように配置し、それらの被焼結材料の焼結特性に応じて、焼結温度分布を制御しながら直接通電により加圧焼結することを特徴とするチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の製造方法。
【請求項9】
上記混合粉末として、Ti/Si/1.8TiC〜Ti/Si/7.0TiCの範囲の原料粉末を用いる、請求項8に記載のチタンシリコンカーバイド−炭化チタン系傾斜機能材料の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−69052(P2008−69052A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250216(P2006−250216)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】