説明

像加熱装置、及びこれを備えた画像形成装置

【課題】幅の狭い記録材を定着した場合、記録材の無い領域では定着ローラー等の温度が上昇してしまう。これを抑えるため搬送を待機させると、画像形成装置としての印字出力が少なくなる。あるいは、熱容量を大きくすることで温度上昇を抑えると、定着ローラーの中央部まで温度上昇が遅くなり、画像形成装置としての1枚目の印字完了時間が長くなる。
【解決手段】弾性ローラーと、ベルト状回転体の内周面と摺動する加圧部材と、加圧部材を保持すると共に前記内周面に接触してベルト状回転体の回転をガイドする保持部材とを備え、前記弾性ローラーと前記ベルト状回転体とで形成されるニップ部において記録材を搬送して加熱および加圧する定着装置において、前記保持部材には、前記加圧部材の摺動面より突出した突起部を設け、前記記録材が搬送されていない場合にベルト状回転体内周面と加圧部材の接触幅が広く、搬送されている場合に狭くなるような構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子写真方式の複写機、レーザープリンターなどの画像形成装置に搭載される画像加熱定着装置として用いて好適な像加熱装置、及びこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真プロセスや静電記録プロセス等の画像形成装置において、記録材(転写紙、印字用紙、感光紙、静電記録紙など)に形成担持させた未定着のトナー画像を定着させる定着装置は、フィルム加熱方式など各種の方式、構成の装置が知られている。
【0003】
しかし、定着装置は、定着部材に対向する加圧ローラーとの間に記録材を搬送して、未定着トナーを加熱および加圧することで定着するため、加圧ローラーの熱容量が大きいと、定着可能状態になるまでに時間がかかるといった問題がある。
【0004】
そこで、加圧装置として低熱容量なベルト状の部材を用い、定着可能状態になるまでの時間を短縮する定着装置が提案されている(特許文献1)。このような装置では、定着ローラー等の定着部材の表面を定着部材の外側から加熱する加熱手段を外部に有しているため、定着に必要な定着部材表面だけを急速に加熱して温度を上げることができる。そのため定着部材が弾性層を具備した弾性ローラー等であっても、定着装置を定着可能温度に速く立ち上げることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−236426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記特許文献1の技術を更に発展させたものである。その目的とするところは、記録材の画像を加熱する加熱回転体のより素早い温度立ち上げと非通紙部昇温の緩和が可能な像加熱装置の提供を目的とする。また、像加熱装置を定着装置として備えた画像形成装置において、封筒などの幅の狭い記録材の印字出力を多くして、且つ1枚目の印字完了時間(FPOT)を短くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明に係る像加熱装置の代表的な構成は、熱供給手段により加熱されて画像を担持した記録材をニップ部で挟持搬送して加熱する弾性を有する加熱回転体と、前記加熱回転体と前記ニップ部を形成する可撓性を有するベルト状回転体と、前記ベルト状回転体の内側に長手方向が前記ベルト状回転体の軸方向とほぼ並行になるように配置されると共に前記ニップ部において前記ベルト状回転体の内周面と摺動する加圧部材と、前記長手方向に沿って前記加圧部材を保持すると共に前記内周面に接触して前記ベルト状回転体の回転をガイドする保持部材と、を備える像加熱装置であって、前記保持部材は、前記加圧部材を中にして前記ニップにおける記録材搬送方向の上流側と下流側とにおいて前記ベルト状回転体の内周面と接触する部分に前記長手方向に沿って設けられた突起部であって、前記ベルト状回転体の外側に向けて前記加圧部材の前記ベルト状回転体の内周面との摺動面よりも突出した前記突起部を有し、前記突起部の突出量が、前記ニップ部に前記記録材が搬送されていない場合に前記ベルト状回転体の内周面と前記加圧部材との前記記録材搬送方向における接触幅が広く、前記記録材が搬送されている場合に前記接触幅が狭くなるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記録材の画像を加熱する加熱回転体のより素早い温度立ち上げと非通紙部昇温の緩和が可能な像加熱装置を提供することができる。また、像加熱装置を定着装置として備えた画像形成装置において、封筒などの幅の狭い記録材の印字出力を多くして、且つ1枚目の印字完了時間(FPOT)を短くすることができる。即ち、封筒などの幅の狭い記録材の単位時間当たりの印字枚数低下の抑制と1枚目の印字終了時間の短縮を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における定着装置の構成説明図(その1)。
【図2】実施例1における定着装置の構成説明図(その2)。
【図3】突起部による加圧部材接触幅変化の説明図。
【図4】実施例1と比較例1の定着ローラー長手温度分布と、定着ローラー端部温度の時間変化を比較する図。
【図5】実施例1の定着装置構成を加熱装置として用いた場合の説明図
【図6】実施例2の定着装置の構成説明図。
【図7】実施例1と実施例2と比較例1の定着ローラー端部温度比較図。
【図8】比較例1の定着ローラー端部温度比較図。
【図9】実施例における画像形成装置の全体構成を示す断面構成図。
【図10】比較例1と比較例2に用いる従来の定着ニップ部断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図9は本発明に係る像加熱装置を画像加熱定着装置Dとして搭載した画像形成装置Aの一例の概略構成図である。この装置Aはタンデム方式−中間転写方式の電子写真フルカラープリンターである。パソコン等のホスト装置Bから制御回路部Cに入力する画像信号に基づいて記録材Pに4色フルカラー画像を形成することができる。
【0011】
装置A内には、図面上、左側から右側に水平方向に順に第1乃至第4の画像形成部U(UY、UM、UC、UK)が直列に配置されており、並列処理により各色の現像剤像を形成する。各画像形成部Uはそれぞれ現像装置に収容させた現像剤(以下、トナーと記す)の色が本実施例1においてはイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)と異なるだけで互いに同様の構成の電子写真画像形成機構である。各画像形成部Uの構成及び動作は共通である部分が多い。
【0012】
そこで、以下の説明においては、特に区別を要しない場合は、いずれかの色用に設けられた要素であることを示すために符号に与えた添え字Y、M、C、Kは省略して総括的に説明する。
【0013】
各画像形成部Uは、それぞれ、表面に静電潜像を形成するための回転可能な像担持体としての感光体ドラム1を有する。ドラム1は矢印の反時計方向に所定の速度で回転駆動される。ドラム1の周囲には回転方向に沿って、一次帯電ローラー2、レーザースキャナユニット3、現像装置4、一次転写装置5、クリーニング装置6が配設されている。
【0014】
ローラー2はドラム1の表面を所定の極性と電位に一様に帯電する。ユニット3は、ホスト装置Bから制御回路部Cに入力した画像情報に応じて変調されたレーザービームLを出力してドラム1の帯電処理面を走査露光する。これによりドラム1の表面に画像露光に対応した静電潜像が形成される。その静電潜像が現像装置4によりトナー像として現像される。上記のような帯電、露光、現像の画像形成プロセスにより、ドラム1Y、1M、1C、1Kにはそれぞれフルカラー画像のY色、M色、C色、K色の各成分像に対応するY色トナー像、M色トナー像、C色トナー像、K色トナー像が形成される。
【0015】
画像形成部UY、UM、UC、UKの下方に配設された中間転写ベルトユニット7は、循環して移動して各画像形成部Uのドラム1からトナー像の転写を順次に受ける中間転写体としての可撓性を有する無端状の中間転写ベルト71を有する。ベルト71は駆動ローラー72、テンションローラー73の2本のローラー間に張架されている。ベルト71はローラー72により矢印の時計方向にドラム1とほぼ同じ速度で回転駆動される。
【0016】
各画像形成部Uの一次転写装置5はベルト71を挟んでドラム1の下面に対向している。ドラム1とベルト71との当接部が一次転写ニップ部である。装置5に所定のバイアスが印加されることで、ドラム1側のトナー像が一次転写ニップ部においてベルト71の表面に一次転写される。ドラム1側の残トナーはクリーニング装置6でドラム面から除去される。各画像形成部Uのドラム1に対するトナー像の形成は、各画像形成部Uのドラム1からベルト8へのトナー像の一次転写が順次に所定に重ね合わされた状態でなされるように制御される。
【0017】
かくして、画像形成部UKの一次転写ニップ部を通ったベルト71の表面には、Y色+M色+C色+K色の4色重ね合わせのフルカラーの未定着トナー像が合成形成される。ローラー72にはベルト71を挟んで二次転写ローラー74が圧接している。ローラー74とベルト71との当接部が二次転写ニップ部である。ベルト71に形成されたトナー像は引き続くベルト71の移動で二次転写ニップ部に搬送される。
【0018】
一方、所定の制御タイミングにて、記録材カセット8のピックアップローラー81が駆動されて積載収納されている記録材Pが一枚分離給送される。記録材Pは二次転写ニップ部に対して所定の制御タイミングで導入される。これにより記録材Pは二次転写ニップ部を挟持搬送されるとともに、ローラー74に印加される所定のバイアスにより、記録材Pに対してベルト71側のトナー像が順次に一括して二次転写される。
【0019】
二次転写ニップ部を通った記録材Pはベルト71から分離され、シートパス75を通って定着装置Dに導入されて加熱加圧される。これにより未定着トナー像が固着画像として記録材Pに定着される。定着装置Dを出た記録材Pは排紙部9にカラープリント(カラーコピー)として排紙される。ベルト71上の二次転写残トナーはクリーニング部材76により電荷が付与され、次回の一次転写時に主として第1の画像形成部UYのドラム1Y上に逆転写され、クリーニング装置6Yにおいて回収される。あるいは各画像形成部Uにおいてドラム1に逆転写され、クリーニング装置6に回収される。
【0020】
(2)定着装置D
図1に本実施例1の定着装置Dの構成を示す。(A)は定着装置Dの要部の斜視模式図である。(B)は(A)において点線で示した定着装置長手方向中央部の拡大横断面模式図である。(C)は(B)における定着ニップ部の拡大模式図である。(D)は加熱装置における加熱ヒーターの要部の斜視模式図である。
【0021】
以下の説明において、定着装置Dまたはこれを構成している部材の長手方向とは、回転体の軸方向(スラスト方向、母線方向)又は記録材搬送路面内において記録材搬送方向aに直交する方向又はその方向に並行な方向である。また、短手方向とは記録材搬送方向aに並行な方向である。記録材の幅サイズあるいは記録材の通紙幅とは、記録材面において記録材搬送方向aに直交する方向の記録材寸法である。
【0022】
本実施例1の定着装置Dは外部加熱方式の像加熱装置であり、画像Tを担持した記録材Pを加熱ニップ部(定着ニップ部)N2で挟持搬送して加熱する加熱回転体(定着部材)としての定着ローラー10を有する。また、ローラー10とニップ部N2を形成する加圧装置(バックアップ部材)20を有する。また、ローラー10を外部より加熱する熱供給手段としての加熱装置30を有する。
【0023】
a)定着ローラー10
ローラー10は、アルミあるいは鉄製の芯金11の外周面に対して同心一体に内側から弾性層12と、弾性層12の表面を被覆する離型性層13を積層した弾性ローラーである。
【0024】
弾性層12はシリコンゴム等で形成されたソリッドゴム層、あるいは断熱効果を持たせるためシリコンゴムを発泡させ形成されたスポンジゴム層である。あるいはシリコンゴム層内に中空のフィラーを分散させ、硬化物内に気泡部分を持たせ、断熱作用を高めた気泡ゴム層などである。
【0025】
離型性層13は、フッ素系樹脂チューブを被覆させたものでも、フッ素系樹脂をスプレー等により表面をコートしたものであってもよい。フッ素系樹脂としては、パーフルオロアルコキシ樹脂(以下、PFAと記す)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(以下、PTFEと記す)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(以下、FEPと記す)等が挙げられる。
【0026】
ローラー10は、芯金11の両端部を回転可能に軸受け支持させて装置筐体(不図示)に配設されている。そして、ローラー10は芯金21に駆動機構(不図示)から駆動力を受けることにより矢印Y1の時計方向に所定の速度で回転駆動される。
【0027】
b)加圧装置20
加圧装置20は、可撓性を有するベルト状回転体としての円筒状で耐熱性を有する加圧フィルム21を有する。また、フィルム21の内側に長手方向がフィルム21の軸方向(母線方向)とほぼ並行になるように配置されると共にニップ部N2においてフィルム21の内周面と摺動する加圧部材22を有する。また、長手方向に沿って加圧部材22を保持すると共にフィルム21の内周面に接触してフィルム21の回転をガイドする保持部材としての支持ホルダー24を有する。
【0028】
ホルダー24には長手に沿って加圧部材嵌め込み溝24aが形成されている。加圧部材22はこの溝24aに嵌めこまれて保持されている。フィルム21は上記のように加圧部材22を保持したホルダー24に対してルーズに外嵌されている。ホルダー24は、加圧部材22を保持した側を、フィルム22を介してローラー10に対面させてローラー10に対してほぼ並行に配列されている。そして、ホルダー24は、加圧部材22がフィルム21を挟んでローラー10に対してローラー10の弾性に抗して所定の押圧力で圧接するように加圧手段(不図示)で押圧付勢されている。
【0029】
これにより、フィルム21とローラー10との間に記録材搬送方向a(ローラ10の回転方向)において所定幅(長さ)の定着ニップ部N2が形成されている。フィルム21はローラー10が回転駆動されることで、ニップ部N2におけるローラー10との摩擦力による回転モーメントで内周面が加圧部材22の面に密着して摺動しながらホルダー24の外回りをローラー10の回転に従動して矢印Y2の反時計方向に回転する。このときホルダー24はフィルム21の回転をガイドする部材としても機能する。
【0030】
図1の(C)の模式図に示すように、ニップ部N2に相当する位置には、加圧部材22が配置され、フィルム21の内面と加圧部材22で接触部N2−1を形成する。ここで、フィルム21の内面と加圧部材22が接触している領域を摺動面として、この摺動面N2−1の記録材搬送方向aにおける摺動面の長さを加圧部材接触幅と定義する。
【0031】
加圧部材22は記録材搬送方向aにおいて加圧部材接触幅より広い幅W22を有し、材質はフィルム21との摺動性と耐熱性、摺動面N2−1に加えられる加圧力に耐え得る強度を兼ね備えた材質が適している。本実施例1の加圧部材22は、幅W22:10mm、長さ230mm、厚み1mmの熱伝導率0.7(W/m・K)、熱容量6.5(J/K)となる液晶ポリマーを用いた。
【0032】
フィルム21は、耐熱性を有する樹脂を基層とした樹脂製フィルム、あるいはSUS等を基層とした金属製フィルムである。耐熱性を有する樹脂としては、PFA、PTFE、FEP、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。また、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)、ポリエーテルサルフォン(以下、PESと記す)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPSと記す)等が挙げられる。そして、フィルム基層の表層にはPFA、PTFE、FEP、シリコーン樹脂等の離型性の良い耐熱樹脂を混合または単独で被覆してある。
【0033】
本実施例1のフィルム21は、ヤング率6000MPaのポリイミドを基層とした樹脂製フィルムを、内径18mm、厚み60μmで形成して、さらに30μmのPFAチューブを被覆したものである。
【0034】
ホルダー24は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PEEK、PPS等の耐熱性と摺動性を具備した樹脂により形成されている。本実施例1のホルダー24には加圧部材22と同様の液晶ポリマーを用いている。
【0035】
図1の(C)に示すように、ホルダー24には、加圧部材22を中にしてフィルム回転方向の上流側と下流側には、それぞれ、加圧部材22の長手にそって加圧部材22の表面よりもローラー10の方向に突出した突起部24b、24cがある。
【0036】
即ち、ホルダー24は、加圧部材22を中にしてニップ部N2における記録材搬送方向aの上流側と下流側とにおいてフィルム21の内周面と接触する部分に長手方向に沿って設けれた突起部24b、24cを有する。突起部24b、24cはフィルム21の外側に向けて加圧部材22のフィルム21の内周面との摺動面よりも突出している。
【0037】
この突起部24b、24cの突出量hの定義は、図1の(C)に示すように、加圧部材22の表面から最も離れた突起部先端までの距離とする。本実施例1に用いるホルダー24の突起部24b、24cは、加圧部材22の側面に接する箇所がピークで、上下流の突起部24bと24c間の距離は10mmとなる。突出量hは、突起部24b、24c共に加圧部材22の表面に対して垂直方向に0.5mmとなる。
【0038】
c)加熱装置30
ローラー10の表面に対して外部から熱を供給する熱供給手段としての加熱装置30の構成は、フィルム加熱方式、ハロゲンランプを用いた熱ローラー方式、輻射加熱方式、電磁加熱方式など適宜の加熱構成を採用できる。本実施例1においてはフィルム加熱方式の加熱装置30である。加熱装置30はローラー10を中にして加圧装置20とは反対側に配列されている。
【0039】
加熱装置30は、可撓性を有するベルト状回転体としての円筒状で耐熱性を有する加熱フィルム31を有する。また、フィルム31の内側に長手方向がフィルム31の軸方向(母線方向)とほぼ並行になるように配置されると共に加熱ニップ部N1においてフィルム31の内周面と摺動する加熱部材としての加熱ヒーター32を有する。また、長手方向に沿ってヒーター32を保持すると共にフィルム31の内周面に接触してフィルム31の回転をガイドする保持部材としての支持ホルダー34を有する。
【0040】
ホルダー34には長手に沿ってヒーター嵌め込み溝34aが形成されている。ヒーター32はこの溝34aに嵌めこまれて保持されている。フィルム31は上記のようにヒーター32を保持したホルダー34に対してルーズに外嵌されている。ホルダー34は、ヒーター32を保持した側を、フィルム32を介してローラー10に対面させてローラー10に対してほぼ並行に配列されている。そして、ホルダー34は、ヒーター32がフィルム31を挟んでローラー10に対してローラー10の弾性に抗して所定の押圧力で圧接するように加圧手段(不図示)で押圧付勢されている。
【0041】
これにより、フィルム31とローラー10との間にローラー10の回転方向において所定幅(長さ)の加熱ニップ部N1が形成されている。フィルム31はローラー10が回転駆動されることで、ニップ部N1におけるローラー10との摩擦力による回転モーメントで内面がヒーター32の面に密着して摺動しながらホルダー34の外回りをローラー10の回転に従動して矢印Y3の反時計方向に回転する。このときホルダー34はフィルム31の回転をガイドする部材としても機能する。
【0042】
フィルム31は、耐熱性を有するPFA、PTFE、FEP、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS等を基層とした樹脂製フィルム、あるいはSUS等を基層とした金属製フィルムである。表層にはPFA、PTFE、FEP、シリコーン樹脂等の離型性の良い耐熱樹脂を混合または単独で被覆してある。
【0043】
ホルダー34は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PEEK、PPS等の耐熱性と摺動性を具備した樹脂により形成されている。
【0044】
ヒーター32は、図1の(D)の模式図に示すように、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性のセラミックス基板や、ポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂基板321を有する。そして、その基板の表面に基板長手に沿ってAg/Pd(銀白金)等の通電発熱抵抗層322がスクリーン印刷等の手段により、厚み10μm程度、幅1〜5mm程度の線状もしくは細帯状に塗工して焼成されている。ヒーター32の端部には給電電極部323が設けられており、通電発熱抵抗層322と電気的に導通されている。
【0045】
給電電極部323には給電コネクタ(不図示)を介して給電回路(不図示)から電圧を印加される。これにより、抵抗層322が発熱してヒーター32の全体が迅速に昇温する。回転するローラー10の表面はニップ部N1においてヒーター32の発熱によりフィルム31を介して加熱される。
【0046】
定着ニップ部N2において記録材P上のトナー像Tを定着するのに必要とされるローラー10の表面温度を目標温度と設定する。そして、制御回路部C(図9)は、ローラー10の表面温度もしくは、ヒーター32の裏面温度もしくは、フィルム31の内面の任意の位置に配置されたサーミスター等の温度検知手段(不図示)により検知される温度情報を元にヒーター32への通電量を制御する。
【0047】
d)定着装置Dの加熱定着動作
制御回路部Cは画像形成開始信号の入力に基づいて、定着装置Dについては、所定の制御タイミングでローラー10の回転を開始させる。このローラー10の回転により、加圧装置20のフィルム21及び加熱装置30のフィルム31が従動回転する。また、制御回路部Cは加熱装置30のヒーター32に対する電力供給を開始してローラー10の表面の定着温度への立ち上げと温調を行う。
【0048】
ローラー10の表面温度が定着可能温度に立ち上って温調された状態において、画像形成部側から未定着トナー像(未定着画像)Tを担持した記録材Pが定着装置Dの定着ニップ部N2に導入される。この場合、記録材Pの未定着トナー像担持面側がローラー10に対面する。記録材Pはニップ部N2においてローラー10とフィルム21により挟持搬送される。そして、その搬送過程において記録材P上の未定着トナー像Tがローラー10の熱とニップ圧で記録材P上に固着画像として加熱定着される。
【0049】
(3)非通紙部昇温対策
本実施例1の装置において大小各種幅サイズの記録材Pの通紙は全て記録材幅中心を基準とする所謂中央基準搬送にてなされる。図1の(A)において、Oはその中央基準搬送線(仮想線)である。Wmaxは装置Dに通紙可能な最大幅の記録材(大サイズ記録材)の幅サイズ(通紙域)である。EはWmaxよりも幅が小さい記録材(小サイズ記録材)の通紙域である。Fは小サイズ記録材を通紙したときに生じるローラー10における非通紙域である。大サイズ記録材の通紙域Wmaxと、通紙した小サイズ記録材の通紙域Fの差領域((Wmax−E)/2)であり、通紙域Eの両側に生じる。
【0050】
小サイズ記録材を連続的に通紙すると、ローラ10の非通紙域Fは記録材Pの加熱に熱エネルギーが消費されないにも拘わらず、通紙域Eに対応する部分と同様に加熱装置30で加熱されるので蓄熱を生じる。そのため非通紙域Fに対応するローラー31の部分が通紙域Eに対応する部分よりも温度が上がるいわゆる非通紙部昇温現象を生じる。
【0051】
非通紙部昇温現象は、1枚目の印字完了時間を短くするため、加圧部材の熱容量を小さくした場合には特に顕著化する。この非通紙部昇温により、ローラー10などが耐熱温度に達してしまうため、加熱と記録材の搬送を中止して、ローラー10を空回転させることで、搬送領域(通紙域)と非搬送領域(非通紙域)の温度分布を慣らし、非搬送領域の温度上昇を抑える必要がある。結果的に記録材の給紙を待機する(以下、紙間と記す)ため、画像形成装置の印字出力が少なくなる弊害が生じる。
【0052】
あるいは、非通紙部昇温を抑えるために加圧部材の熱容量を大きくすることが考えられる。しかし、加圧部材の熱容量を大きくすると、ローラー10の中央部の温度上昇が遅くなり、定着可能状態になるまでに時間がかかることで、1枚目の印字完了時間(FPOT)が長くなってしまう。
【0053】
本実施例1における非通紙部昇温対策を図1と図2を用いて以下に詳述する。図2において(A)は図1の(A)と同様に定着装置Dの要部の斜視模式図である。(B)は(A)の点線で示された端から40mmの記録材非搬送領域断面(B)部の記録材が定着ニップ部N2に存在しない状態の断面模式図である。以後、定着装置長手方向の端から40mmの位置を「端部位置」として「端部断面」を用いて突出量などを説明する。(C)は(B)における定着ニップ部N2の拡大模式図である。
【0054】
本実施例1では、ローラー10の弾性層12や離型性層13、加熱装置30のフィルム31や加圧装置20のフィルム21も長手方向長さを230mmとする。さらに通紙する小サイズ記録材の幅サイズを105mmとして、記録材中央と定着装置長手方向の各部材中央が一致する配置とする。
【0055】
本実施例1では、図1の(C)のように定着ニップ部N2に記録材Pが搬送されている場合、記録材Pはニップ部N2において記録材自身の剛性によって本来の真っ直ぐな形状(点線で示す)に戻ろうとする。この記録材Pの剛性により、上下矢印の方向に力が働き、特に摺動面付近の力は図1の(C)の上方向の矢印で、ローラー10の加圧する力に反発する力となる。
【0056】
すなわち、フィルム21を介してホルダー24の突起部24b、24cにより記録材自身が支持され、ローラー10の方向(図の上方向)に反発する力が働く。このためフィルム21と加圧部材22を押し付ける力が小さくなり、フィルム21の内面と加圧部材22が密着しにくくなる。
【0057】
しかし、記録材Pが搬送されていない図2の(C)では、このホルダー24の突起部24b、24cがあっても、フィルム21はローラー10の曲率と弾性によって、加圧部材22と密着しやすくなる。
【0058】
よって、図1の(C)に示すように記録材Pが搬送される場合の加圧部材接触幅N2−1に比べて、図2の(C)に示すように記録材Pが搬送されない場合の加圧部材接触幅N2−0は広くなる。
【0059】
つまり、定着装置長手方向において小サイズ記録材の通紙時に記録材Pが搬送される領域(通紙域)Eと記録材Pが搬送されない領域(非通紙域)Fでは、ニップ部N2の加圧部材接触幅が上記のように異なる。記録材Pが搬送される領域では、フィルム21の内面から加圧部材22への熱の移動が少なくなり断熱効果が得られる。
【0060】
すなわち記録材Pの表面には必要な熱が伝わり、記録材Pの裏面から熱の逃げを抑えることができるため定着性能を向上させることができる。逆に、記録材Pが搬送されない領域Fでは、フィルム21の内面から加圧部材22への熱の移動が多く、ローラー10などの非通紙部昇温を抑えることができる。
【0061】
図3に突起部24b、24cの突出量hと記録材Pの剛度による加圧部材接触幅の関係を示す。この加圧部材接触幅は計算によって求めたものである。即ち、加圧力とホルダー24と加圧部材22の断面形状データ、ローラー10の外径と、弾性層12と離型性層13の厚みとJIS−A硬度、加圧フィルム21の厚みとヤング率、そして紙の剛度を基に構造計算した結果である。
【0062】
この時の紙剛度は、JIS P 8111に準拠しており、記録材を「1in×3.5in」(標準サンプル)に切断して、ガーレー剛度計にて測定している。一般的な記録材は、普通紙で150mgf、封筒で600mgf近辺の値である。
【0063】
図3に示すように突起部24b、24cの突出量hが0.5mmの場合、加圧部材接触幅は記録材が搬送されていない場合、約5.0mmあった。それが、定着ニップ部N2に記録材として普通紙(剛度150mgf)が搬送された場合、約4.0mmになる。また、記録材として封筒のような厚くてコシの強いもの(剛度600mgf)が搬送された場合、約3.0mmに変化する。これは記録材の剛度によって、ローラー10に対する反発力が異なるためである。
【0064】
本実験では普通紙としてキヤノン製Business Extra80g(A4)を用い、封筒としてMail−Well社製 ENVELOPE No582(幅105mm)を用いた。
【0065】
比較例に用いる加圧装置202の定着ニップ部断面拡大図を図10に示す。図10に示す比較例のようにホルダー224に突起部が無い(0mm)場合、記録材Pの剛度によって加圧部材接触幅N4−1は変化しない。
【0066】
本実施例1のように突起部24b、24cの突出量hが0.5mmの場合は、記録材Pの剛度によって加圧部材接触幅は約5mmから約3mmまで変化する。記録材Pが搬送されていない場合、すなわち搬送領域における紙間や小サイズ記録材通紙時の非搬送領域Fでは加圧部材接触幅が約5mmとなり、普通紙が搬送された場合は約4mmとなり、封筒が搬送された場合は約3mmとなる。突起部24b、24cの突出量hによって変化率は異なり、突出量hが多いほど記録材Pが無い場合と有る場合の加圧部材接触幅の差は大きくなる。
【0067】
比較例1と本実施例1の非通紙部昇温比較を図4に示す。図4の(A)には、記録材搬送前と8枚搬送後の定着装置長手方向におけるローラー10の温度分布を、(B)には定着ローラー端部温度の時間変化を示す。
【0068】
本比較実験1に用いる定着装置の定着ローラー10は、Φ12のアルミ芯金に、厚み3mmのシリコーンゴムと30μmのPFAチューブを被覆した外径18mmのものを用いる。このローラー10の硬度は、アスカーC型硬度計(高分子計器株式会社製)により、25℃の室温環境下で真上から500gfの荷重で、密着後1秒以内の数値を読み取ったもので50度となる。このローラー10は加熱装置30と加圧装置20に対して、それぞれ15kgfで加圧され、102mm/secの速度で回転する。
【0069】
加熱装置30のフィルム31は、熱伝導率0.7(W/m・K)のポリイミドを基層とした樹脂製フィルムを、内径18mm、厚み60μmで形成して、さらに30μmのPFAチューブを被覆したものを用いる。ホルダー34には加圧装置20のホルダー24と同様に液晶ポリマーを用いる。そして、ヒーター32に最大700Wを投入して、ローラー10の表面が175℃になるようにヒーター32を制御している。
【0070】
比較実験1に用いる実施例1のホルダー24の突起部24b、24cは図1および図2に示すように、摺動面に対して突出しており、突出量hをそれぞれ0.5mmに設定している。これらの条件で、ニップ部N2の記録材Pが搬送されていない状態において、フィルム21の内面は加圧部材22と約5mmの幅で接触して移動する。
【0071】
これに対して比較例1は、図10に示すようにホルダー224に突起部が無く、フィルム221の内面は加圧部材222の全幅(10mm)と接触して移動する。フィルム221を介して加圧部材222へ多くの熱が逃げるため、ローラー10の表面が175℃になるように加熱装置のヒーターに多くの電力を投入するように制御している。
【0072】
本実施例1で記録材Pが搬送されていない立ち上げ時や紙間時の加圧部材接触幅は、約5.0mmで、普通紙(A4)が搬送された場合、約4.0mmと狭くなる。そして、封筒や葉書などの幅の狭い小サイズ記録材が搬送された場合、非通紙部昇温を抑えるためにローラー10の端部位置の熱を加圧部材22に逃がしたい。本実施例1は、封筒を搬送した場合、約3.0mmと断熱効果を発揮すると共に、端部位置の加圧部材接触幅が、立ち上げ時や紙間時と同じ、約5.0mmと広いため、ローラー10の端部位置から加圧部材22へ十分に熱を逃がすことができる。
【0073】
本比較実験1で用いた記録材は、Mail−Well社製 ENVELOPE No582(幅105mm)で、1分間に17枚出力されるように紙間を設定して定着装置Dに記録材Pを搬送した。
【0074】
図4において、ローラー10の長手方向温度分布は図1の(B)、図2の(B)で示す定着ニップ部N2から90度回転した位置で測定している。このうちローラー10の端部温度は、図2の(A)で示すローラー10の端から40mmの位置、すなわち記録材Pが存在しない非搬送領域を測定している。
【0075】
図4の(A)に示すローラー長手温度は、搬送前は175℃で均一な分布をしていたものが、8枚搬送後には記録材非搬送領域の温度が上昇してしまう。この温度上昇は比較例1の方が大きく、図4の(A)の点線で示した端部位置(端から40mm)で比較すると、(B)のようになる。このローラー端部温度は搬送枚数が増えると共に徐々に上昇して、8枚搬送後には比較例1で270℃となり、ローラー201(図10)の耐熱温度270℃を超えてしまう。それに対して本実施例1では同条件でも耐熱温度270℃を超えない250℃に抑えることができる。
【0076】
なお、加圧装置20と同様な構成において、加圧部材22の代わりに加熱ヒーターを用いた場合、すなわち、図5に示すように本構成を加熱装置30として用いたヒーター32からフィルム31を介して記録材Pに直接熱を与える構成の場合は次ぎのようになる。
【0077】
記録材Pが搬送される領域(通紙域)では、ヒーター32からフィルム31の内面への熱の移動が少なくなり、記録材Pが搬送されていない領域(非通紙域)では、ヒーター32からフィルム31の内面への熱の移動が多くなる。よって、記録材Pには必要な熱が伝わらずに、逆に加圧ローラー100などに熱が伝わり非通紙部昇温が激しくなるため逆効果となる。
【0078】
[実施例2]
本実施例2においては、定着ニップ部N2の断面を図6の(A)のように、記録材搬送方向aにおいて、上流側の突起部24bの突出量hを少なく、下流側の突起部24cの突出量hを多くする。これにより、フィルム21の内面から加圧部材22への熱移動をより適正化することを特徴とする。定着装置Dの構成は実施例1の図1および図2で説明したものと同じであるため、以後、同一部材で機能が同じものについては、同じ番号を用いて説明を省略する。
【0079】
記録材Pは常温からニップ部N2に突入して、ローラー10から熱を供給されると同時に、記録材Pの裏面はフィルム21を介して加圧部材22からも熱を供給される。ローラー10から供給された熱量は、ニップ部N2を搬送されるに従い記録材Pの表面から記録材Pの内部に浸透していく。このためニップ部N2の後半(記録材搬送方向aにおいて後半)では記録材Pの裏面は加圧部材22より温度が高くなるため、記録材Pの熱が加圧部材22へ逃げてしまう。この記録材Pの裏面からの熱の逃げを防止するため、ニップ部N2の後半では記録材Pの裏面を加圧部材22に対して断熱する必要がある。
【0080】
具体的に、ニップ部N2において搬送中の記録材Pと加圧部材22の温度分布を図6の(B)に示す。この温度分布は計算によって求めたもので、各部材の熱伝導率と比熱と密度、各部材間の接触熱抵抗を基に伝熱計算したものである。記録材Pは、長さ297mm、厚み0.1mmのものを用い、他の条件は比較実験1と同様な数値を用いた。
【0081】
記録材Pの温度が上昇し始める位置を0mmとして、ニップ部N2内の記録材Pの表と裏、加圧部材22の表面の温度変化を示している。記録材Pを10枚搬送した際の加圧部材22の表面温度は約55℃である。記録材Pは雰囲気温度25℃で定着ニップ部N2に浸入し、ローラー10によって表から加熱され、記録材Pの表温度は急上昇する。この熱量は記録材Pの表から裏へ徐々に伝わっていく。ニップ部N2に対する突入直後の記録材Pの裏面は、加圧部材22の表面に対して低い温度であるが、定着ニップ部N2の後半は、加圧部材22の表面より記録材Pの裏面が高温になる。
【0082】
このため、フィルム21と加圧部材22が接している(加圧部材接触幅が広い)と記録材Pの裏面からフィルム21を介して加圧部材22に熱が逃げてしまう。よって、本実施例2の構成は、摺動面N2−1をニップ部N2の記録材搬送方向上流側に移動させることで、ニップ部N2の後半ではフィルム21と加圧部材22間の接触を無くして断熱効果を高めることができる。この効果により、加圧部材接触幅が広い搬送領域での紙間や非搬送領域で、加圧部材22に蓄熱された熱量を、記録材搬送時に記録材裏面から効率良く供給することができるため、効率の良い加熱が可能となる。
【0083】
本実施例2では、加熱装置30のヒーター31に最大700Wを投入して、ローラー10の表面が170℃になるようにヒーター31を制御している。この条件で、実施例1と定着性が同等となる。ここで1枚目の定着性とは、加熱装置30に電力投入7秒後に、ハーフトーン画像を印字した記録材Pを定着装置Dへ搬送する。
【0084】
そして、ハーフトーン画像を印字済の記録材Pについて擦り試験をおこない、ある一定条件下で擦り試験前後での光学式濃度差を測定する。即ち記録材の画像形成面上に紙を介して所定重量(200g)のおもりを載せ、前記重量をかけつつ介在させた紙で画像形成面を摺擦し、その摺擦の前後で画像の濃度低下率を求めて評価した。なお、各記録材で9点測定して、その最も良くない値を用いた。
【0085】
比較例1と実施例1と本実施例2の比較を図7に示す。ヒーター制御以外は比較実験1と同条件で比較実験2をおこなった。本実施例2では通紙領域のローラー10の表面温度が170℃で定着性を満足することができるため、1枚通紙前の段階で端部温度が低い。さらに封筒を8枚通紙した時のローラー10の端部温度も低く、230℃に抑えることができる。
【0086】
[実施例3]
本実施例3は、定着装置Dの加圧部材22に金属のアルミ板を用いることを特徴とする。定着装置Dの構成は実施例1の図1および図2で説明したものと同じであるため、以後、同一部材で機能が同じものについては、同じ番号を用いて説明を省略する。
【0087】
そして、比較例1と2は、図10に示すようにホルダー224に突起部がない場合で、加圧部材222に液晶ポリマーの板を用いた場合(比較例1)と、金属のアルミ板(熱伝導率240W/mK、熱容量6200J/K)を用いた場合(比較例2)とする。本実施例3は、ホルダー24に実施例2と同様の突起部24b、24cがある場合で、加圧部材22として前記金属のアルミ板を用いた場合である。それらの比較を表1に示す。
【0088】
本比較実験3は定着性が同等になる(定着ローラー通紙域表面が約175℃になる)ようにヒーター制御温度を変更しており、他の条件を比較実験1と同様におこなった。
【0089】
【表1】

【0090】
表1で示すように、8枚通紙後のローラー10の端部温度が、比較例1はローラーの耐熱温度270℃に達してしまう。突起部形状が無い構成でも金属のアルミ板を用いた比較例2では、加圧部材222自体の定着装置長手方向の熱伝導がよいため、非通紙部昇温を抑えローラー10の端部温度を220℃に下げることができる。
【0091】
しかしながら、加熱加圧動作がおこなわれた後、十分に時間が経過して定着装置Dを構成する部材が雰囲気温度と一致した状態(以下、コールド状態と記す)からの加熱加圧動作時に加圧部材222に多くの熱が逃げてしまう。すなわち、1枚面が搬送されるまで(以下、立ち上げ時と記す)に、ローラー201からフィルム221を通して、加圧部材222に多くの熱が逃げてしまう。そのため比較例2では記録材1枚目への熱供給量が足らないためにヒーター温度を高く保つ必要がある。
【0092】
本実施例3では、比較例2と同様に加圧部材22の定着装置長手方向の熱伝導がよくなることで、加圧部材22自体の非搬送領域の余分な熱を中央に移動させ、温度分布を緩和することができ、ローラー10の端部温度を200℃に抑えることができる。さらにコールド状態からの記録材搬送時にも、フィルム21と金属のアルミ板加圧部材22の加圧部材接触幅が比較例に比べて狭くなるため、ローラー10や記録材Pの裏面から熱が逃げるのを防ぐことができる。これによりヒーター制御温度を低くすることができる。
【0093】
さらに比較例2でコールド状態からの1枚目定着性を同等にするためには、ヒーター制御温度(定着可能温度)に到達するまでの時間、すなわち記録材Pを定着装置Dに搬送するまでの時間を十分に確保して、1枚目の印字終了時間を長くしなければならない。
【0094】
本実施例3の定着装置Dを用いた画像形成装置と、比較例2の定着装置を用いた画像形成装置を比較したものを表2に示す。ここでは、1枚目の定着性を同等にする1枚目の印字終了時間と、その時の平均電力を示している。画像形成装置の構成は実施例1の図9で説明したものと同じであるため省略する。
【0095】
【表2】

【0096】
*1枚目の定着性を満足する条件
表2で示すように比較例2では、1枚印字するのに約900Wの電力が必要となり、約16秒の時間を必要とする。これに対して本実施例3では、約800W、約12秒で1枚目の印字を終了することができる。本実施例3では加圧部材22を金属で構成することで、省電力で短時間の印字を可能とすると共に、非通紙部昇温を抑えることができる。
【0097】
比較例1と実施例1−3の比較を図8に示す。本実験では定着性を同等にする温度制御をおこない、比較実験1と同条件で封筒を8枚通紙した時の定着ローラー端部温度変化を示す。比較例1では270℃に、実施例1では250℃に、実施例2では230℃に、本実施例3では210℃に非通紙部昇温を抑えることができる。
【0098】
さらに表3にはローラー10の端部温度が270℃以下となるように紙間を制御した場合の画像形成装置の出力性能を示す。
【0099】
比較例1では、1分当りの出力枚数(以下、ppmと記す)が16ppmあったものが、8枚通紙した時点で、ローラー201の耐熱温度に達する。そのため、加熱と搬送を中止して、図10に示す定着ローラー201と加熱フィルム231、加圧フィルム221を回転させることで、定着装置長手方向の温度分布を慣らし、非通紙部昇温を抑える必要がある。このため、紙間時間が多くなり記録材の出力が少なくなる。
【0100】
本実験条件では、9枚目から12ppmに印字出力ダウンしてしまい、さらに15枚目で再び定着ローラー201の耐熱温度に達するため、定着器長手方向の温度分布をならす回転がはいる。そして最終的に4ppmまで印字出力ダウンしなければ、定着ローラー201を耐熱温度以下に保つことができない。
【0101】
【表3】

【0102】
これ対して、実施例1−3では、15枚目まで16ppmで出力することができ、最終的にも8ppmの印字出力ダウンに抑えることができる。さらに、実施例2で性能アップし、実施例3では、常に16ppmで印字出力することができる。
【0103】
比較例1では、封筒22枚印字するのに約2分、100枚印字するのに20分以上かかっていたものが、実施例1−3により封筒22枚印字完了も速く、100枚印字でも約7分で完了することができる。
【0104】
以上説明したように、本発明の像加熱装置によれば、封筒などの幅の狭い記録材の単位時間当たりの印字枚数低下の抑制と1枚目の印字終了時間の短縮を両立することができる。
【0105】
[その他の事項]
以上、本発明の様々な例と実施例が示され説明されたが、当業者であれば、本発明の趣旨と範囲は本明細書内の特定の説明と図に限定されるのではなく、本願特許請求の範囲に全て述べられた様々の修正と変更に及ぶことが理解されるであろう。
【0106】
1)加熱回転体10を外部加熱する熱供給手段は実施例のフィルム加熱方式に限られない。ハロゲンランプを用いた熱ローラー方式、輻射加熱方式、電磁加熱方式などの接触型あるいは非接触型の加熱手段を採用できる。また、加熱回転体10を内側から加熱する熱供給手段とすることもできる。
【0107】
2)本発明に係る像加熱装置は、実施例の未定着画像の定着装置Dとしての使用に限られない。記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢を増大させる光沢増大装置(画像改質装置)としても有効に使用することができる。
【0108】
3)画像形成装置において、記録材Pに未定着画像Tを形成する画像形成手段は実施例の転写方式の電子写真プロセスに限られない。感光紙を用いる直接方式の電子写真プロセスであってもよい。また、転写方式または直接方式の静電記録プロセスや磁気記録プロセスであってもよい。
【符号の説明】
【0109】
D・・像加熱装置(定着装置)、10・・加熱回転体(定着ローラー)、20・・加圧装置、21・・ベルト状回転体(加圧フィルム)、22・・加圧部材、24・・保持部材(支持ホルダー)、24b、24c・・突起部、P・・記録材、T・・画像30・・熱供給手段(加熱装置)、a・・記録材搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱供給手段により加熱されて画像を担持した記録材をニップ部で挟持搬送して加熱する弾性を有する加熱回転体と、前記加熱回転体と前記ニップ部を形成する可撓性を有するベルト状回転体と、前記ベルト状回転体の内側に長手方向が前記ベルト状回転体の軸方向とほぼ並行になるように配置されると共に前記ニップ部において前記ベルト状回転体の内周面と摺動する加圧部材と、前記長手方向に沿って前記加圧部材を保持すると共に前記内周面に接触して前記ベルト状回転体の回転をガイドする保持部材と、を備える像加熱装置であって、
前記保持部材は、前記加圧部材を中にして前記ニップにおける記録材搬送方向の上流側と下流側とにおいて前記ベルト状回転体の内周面と接触する部分に前記長手方向に沿って設けられた突起部であって、前記ベルト状回転体の外側に向けて前記加圧部材の前記ベルト状回転体の内周面との摺動面よりも突出した前記突起部を有し、前記突起部の突出量が、前記ニップ部に前記記録材が搬送されていない場合に前記ベルト状回転体の内周面と前記加圧部材との前記記録材搬送方向における接触幅が広く、前記記録材が搬送されている場合に前記接触幅が狭くなるように設定されていることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記下流側の突起部の突出量が前記上流側の突起部の突出量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記加圧部材が金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の像加熱装置。
【請求項4】
記録材に未定着画像を形成する画像形成手段と、記録材に形成された未定着画像を熱で定着させる定着手段と、を有する画像形成装置であって、前記定着手段が請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の像加熱装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−3555(P2013−3555A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138045(P2011−138045)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】