説明

像加熱装置

【課題】ベルト方式で、摺擦処理を短時間で効率良く行える構造を実現する。
【解決手段】摺擦ローラ31を、加熱ベルト20の外周面に当接させた領域が、加熱ベルト20の走行方向に関し、張架ローラである加熱ローラ22との間で加熱ベルト20を挟持する領域と、この領域から外れた領域とを有するように配置する。加熱ベルト20が摺擦ローラ31と加熱ローラ22との間で挟持される領域では、加熱ベルト20が加熱ローラ22によりバックアップされるため、当接圧を確保できる。一方、この領域から外れた領域では、摺擦ローラ31が加熱ベルト20と広い範囲で接触でき、接触幅を確保できる。この結果、摺擦ローラ31により効率良く短時間で摺擦処理を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニップ部を通過する記録材を加熱する像加熱装置に関し、特に、無端ベルトと対向部材とによりニップ部を形成する像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置などの画像形成装置においては、記録材上にトナー画像を形成し、これを像加熱装置により加熱、加圧して、トナー像を記録材に定着させている。また、定着画像が形成された記録材を像加熱装置により加熱、加圧することにより、この記録材上の定着画像の光沢度を調整する場合もある。このような像加熱装置として、内部にヒータを有する加熱ローラに加圧ローラを圧接してニップ部を形成し、このニップ部に記録材を通過させて、画像の定着或いは光沢度の調整を行う構成(ローラ方式)が従来より採用されている。
【0003】
ところで、画像の高光沢化や画像形成の高速化を図るためには、記録材がニップ部を通過する時間を長く記録材ナーを充分に溶融することが好ましい。このためには、ニップ部の記録材搬送方向の幅(ニップ幅)を長くする必要がある。加熱ローラと加圧ローラとによりニップ部を形成するローラ方式の場合、ニップ幅を長くするためには、ローラ径を大きくする必要があり、定着装置が大型化してしまう。
【0004】
そこで近年、このようなローラ方式に比して、装置の小型化、高速化対応を達成しつつ、充分なニップ幅を得ることができるベルト方式が採用されている。このベルト方式は、無端ベルトと、この無端ベルトの外周面に当接する対向部材であるローラ或いはベルトとを有し、これら無端ベルトとローラ或いはベルトとの間でニップ部を形成している。このようなベルト方式においては、ローラに対するベルトの腹当て幅の調整、もしくはベルト同士の腹当て幅の調整によりローラ方式に比して充分なニップ幅を得ている。
【0005】
一方、加熱ローラや無端ベルトの表層は高離型性のフッ素チューブ等が用いられているが、その耐久性が課題となっている。例えば同サイズの用紙を連続して通紙すると、紙のコバ部が通過位置に対応する加熱ローラや無端ベルトの表層が徐々に荒らされ、表面粗さが周囲よりも高い領域が生じる。このため、その後に大きいサイズの記録材を通過させると、定着後の記録紙画像上にグロスむらとして表れてしまう。
【0006】
この課題を解決するために定着ローラ(加熱ローラ)の表層の表面粗さを一定に保つ為に、定着ローラの表面に摺擦部材を当接させ、表面粗さを均一化する摺擦処理を行う技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−199596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような摺擦処理は、主として非画像形成時に行われるが、この摺擦処理にかかる時間が長いと、画像形成の生産性が低下してしまう。また、画像形成時に行うにしても、摺擦処理を行っている間は、定着ローラなどの摺擦処理の対象物の駆動抵抗となり、駆動源であるモータの負担になる。このため、このような摺擦処理は、短時間で効率良く行うことが望まれる。
【0009】
加熱ローラや無端ベルトの表面粗さを均一にする摺擦処理を短時間で効率良く行うためには、摺擦部材の当接圧の確保と、摺擦部材との接触幅の確保とを両立させる必要がある。即ち、接触幅が小さくても当接圧を大きくすれば、摺擦処理を短時間で行える可能性があるが、この場合、摺擦処理を短時間で行えると言う効果が、ある時点で飽和してしまう。また、当接圧を大きくし過ぎた場合には、部材の耐久性にも影響を及ぼしてしまう。なお、当接圧が小さい状態で接触幅を大きくした場合、そもそも摺擦処理の効果を得にくく、摺擦処理に時間が掛かってしまう。
【0010】
上述の特許文献1に記載された構成の場合、定着ローラに摺擦部材を当接させるため、定着ローラと摺擦部材との当接圧を確保し易いが、定着ローラと摺擦部材との接触幅は確保しにくい。このため、摺擦処理を短時間で効率良く行いにくく、ローラや摺擦部材の耐久性が確保しにくい。
【0011】
これに対して、ベルト方式の像加熱装置の無端ベルトの表面粗さを均一化すべく、摺擦部材を無端ベルトに当接させる場合、この摺擦部材の当接位置によっては、十分な当接圧を確保できなかったり、接触幅を確保できなかったりする可能性がある。
【0012】
即ち、無端ベルトを張架するローラの間部分に摺擦部材を配置した場合、当接圧を確保しにくい。例えば、この位置で当接圧を確保するために、摺擦部材を無端ベルトに強く押し付けることが考えられるが、この場合、無端ベルトの軌道が乱れてしまう可能性がある。また、無端ベルト内にバックアップ部材を配置することが考えられるが、バックアップ部材を配置するスペースを確保しにくく、このスペースを確保するためには装置が大型化してしまうため、現実的ではない。一方、摺擦部材を張架ローラ部分に配置した場合、上述の特許文献1と同様に、接触幅が確保しにくい。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑み、ベルト方式で、摺擦処理を短時間で効率良く行える構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、走行する無端ベルトと、前記無端ベルトを張架する張架ローラと、前記無端ベルトの外周面と当接してニップ部を形成する対向部材とを有し、前記ニップ部を通過する記録材を加熱する像加熱装置において、前記無端ベルトの外周面に当接して、前記無端ベルトの外周面を摺擦する摺擦部材を有し、前記摺擦部材は、前記無端ベルトの外周面に当接した領域が、前記無端ベルトの走行方向に関し、前記張架ローラとの間で前記無端ベルトを挟持する領域と、この領域から外れた領域とを有するように配置されている、ことを特徴とする像加熱装置にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無端ベルトが張架ローラとの間で挟持される領域と、されない領域とを有するように摺擦部材を配置することで、大きな当接圧と広い接触幅が得られ、効率良く短時間で摺擦処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像形成装置の概略構成図。
【図2】第1の実施形態の像加熱装置の概略構成断面図。
【図3】第1の実施形態の効果を確認するために行った実験で使用した比較例を示す、像加熱装置の概略構成断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる像加熱装置の概略構成断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、実施形態を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を適用できる実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施形にのみ限定されるものではなく本発明の思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0018】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態について、図1ないし図3を用いて説明する。まず図1を用いて、画像形成装置の全体構成について説明する。
【0019】
[画像形成装置]
図1に示す画像形成装置は、電子写真方式を採用した画像形成装置(いわゆるプリンタ)である。画像形成装置1は、大きく分けて、記録材にトナー画像を形成する画像形成部と、記録材に形成されたトナー画像を加熱・加圧して定着、或いは、記録材に定着された画像の光沢度を調整する像加熱装置を有する。
【0020】
まず、画像形成部は、次に説明する機器を備えている。像担持体としての感光ドラム2の周りに帯電手段としての帯電器3が設けられており、感光ドラム2の表面は帯電器3によって一様に帯電処理される。次いで、露光手段としての露光装置4から画像に応じた光5を照射されることにより、感光ドラム2上に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像が現像手段としての現像器6によって現像されて、トナー画像が形成される。
【0021】
一方、記録材Sは、装置下部の給送カセット9に収納されており、給送ローラ10によって給送され、搬送手段としてのレジストローラ対11によって感光ドラム2上のトナー画像と同期して搬送される。そして、画像形成手段によって記録材S上に形成されたトナー画像は、転写手段としての転写ローラ7によって記録材上に静電転写される。転写後に、感光ドラム2上に残留したトナーは、クリーニング手段としてのクリーニング装置8によって除去される。
【0022】
一方、トナー画像が転写された記録材Sは、像加熱装置Aにおいて加熱、加圧され、トナー画像が記録材上に定着される。その後、トナー画像が定着された記録材Sは、排出ローラ対12によって装置上部の排出トレイ13へと搬送排出される。なお、定着画像を有する記録材を像加熱装置Aに通すことにより、定着画像の光沢度を調整する。
【0023】
[像加熱装置]
次に、上述の像加熱装置Aについて、図2を用いて詳しく説明する。図2に示すように、像加熱装置Aは、走行する無端ベルトである加熱ベルト20と、対向部材である無端状の加圧ベルト21とを有し、加熱ベルト20の外周面(表面)に加圧ベルト21の外周面を当接させ、ニップ部Nを形成している。そして、ニップ部Nを通過する記録材を、加熱、加圧するようにしている。
【0024】
加熱ベルト20は、例えば、長手幅が360mm、内径が50mmで、厚みが75μmのポリイミドを基層とし、基層の外周には弾性層が400μmの厚みで設けられている。弾性層の材料としては、公知の弾性材料を使用することができ、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を用いることができる。本実施形態では、シリコーンゴムを用い、硬度はJIS−A20度、熱伝導率は0.8W/mKである。更に弾性層の外周には、表面離型層としてフッ素樹脂層(例えばPFAやPTFE)が30μmの厚みで設けられている。
【0025】
また、加熱ベルト20は、張架ローラとしての加熱ローラ22並びに定着ローラ23によって張架されている。加熱ローラ22は、例えば、長手幅が365mm、外径が20mmで、内径が18mmである厚さ1mmの鉄製の中空ローラであり、内部に加熱手段としてのハロゲンヒータ22aを配置している。また、加熱ローラ22は、テンションローラとしての機能も有しており、不図示のばねなどの付勢手段により付勢され、加熱ベルト20に所定の張力を付与している。
【0026】
定着ローラ23は、加熱ベルト20を駆動する駆動ローラとしての機能を有する。また、定着ローラ23は、例えば、長手幅が365mm、外径が20mmで、径が16mmである鉄合金製の芯金に、表面弾性層としてのシリコーンゴム層が設けられた高摩擦性のゴムローラである。このように弾性層を設けることで、駆動源(モータ)から駆動ギア列を介して入力された駆動力を加熱ベルトへスリップすること無しに良好に伝達することができる。更に、定着時には、後述する加圧ローラ26が加熱ベルト20、加圧ベルト21を介して定着ローラ23に向けて加圧されているので、定着ローラ23のゴム層は所定量凹んだ形状となる。その結果、加熱ベルト20からの記録材の分離性を確保するためのニップ部Nを形成することができる。
【0027】
また、加熱ベルト20内には、加熱ベルト20を加圧ベルト21に向けて加圧する第1の加圧パッドとしての定着パッド24が、定着ローラ23に対し非接触に並置されている。本実施形態では、定着ローラ23と定着パッド24との間の最近接部での微少ギャップが、例えば2mmに設定されている。この定着パッド24は、例えば、厚さ3mm、幅12mmの弾性体としての耐熱性シリコーンゴムから構成されている。
【0028】
このような定着パッド24は、摺動する加熱ベルト20の内周面との摩擦抵抗を減らすためにポリイミド製のクロスをフッ素樹脂でコーティングした低摺動性記録材としてのカバーを有している。このカバーは定着パッドの高摩擦性のシリコーンゴム表面を覆うように設けられている。従って、このカバーが加熱ベルト内面と摺動することになるので定着ローラ23の駆動トルクが抑えられ、モータの大型化を伴うことなく安定して加熱ベルト20を回転(走行)させることができる。
【0029】
また、定着ローラ23は、加圧ローラ26と後述する加圧パッド27の両方から加圧される位置に配置されている。そうすることで加圧パッド27と加圧ローラ26間にできる隙間を、定着ローラ23でバックアップすることができる。同様に定着ローラ23と定着パッド24間にできる隙間は、加圧パッド27でバックアップされるので、ローラとパッドとの間の隙間が互いに重なることがなく、ニップ部N内で記録材搬送方向(加熱ベルト20の走行方向)での大きな圧抜けが生じることがない。
【0030】
加圧ベルト21は、例えば、長手幅が340mm、内径が50mmで、厚みが75μmのポリイミドを基層とし、弾性層が300μm、表面は離型層としてフッ素樹脂であるPFAチューブを30μmの厚みで設けられている。このような加圧ベルト21は、テンションローラ25と加圧ローラ26とによって張架され、加熱ベルト20と当接によりこの加熱ベルト20に従動して走行(回転)する。
【0031】
テンションローラ25は、例えば、長手幅350m、外径が20mmで、径が16mmである鉄合金製の芯金に、熱伝導率を小さくして加圧ベルト21からの熱伝導を少なくするためにシリコーンスポンジ層を設けてある。加圧ローラ26は、例えば、長手幅350mm、外径が20mmで、内径が16mmである厚さ2mmの鉄合金製とされた低摺動性の剛性ローラである。
【0032】
また、加圧ベルト21内には、加圧ベルト21を加熱ベルト20に向けて加圧する第2の固定部材としての加圧パッド27が、加圧ローラ26に接触して配置されている。ここで、画像加熱ニップとしてのニップ部Nを形成するために、加圧ローラ26は、回転軸の両端側が加圧機構により所定の加圧力にて定着ローラ23に向けて加圧されている。そして、ニップ部Nの圧がこの加圧ローラ26により懸架されている領域において最大値となるように設定されている。
【0033】
記録材搬送方向に沿った1つのニップ部Nに圧抜け部がなく連続した加圧力分布とするために、加圧ベルト21の内周面と加圧ローラ26との間の楔状の空間に加圧パッド27の下流先端が組み込まれている。即ち、加圧パッド27は加圧ローラ26に接触するように配置されている。
【0034】
このような加圧パッド27は、例えば、厚さ3mm、幅15mmの弾性体としての耐熱性シリコーンゴムと、それを下面で保持するSUS製のステイとから構成されている。また、加圧パッド27の表面には、摺動する加圧ベルト21の内周面及び加圧ローラ26との摩擦抵抗を減らすために、低摺動性シートとしてのポリイミド製のフィルムをフッ素樹脂でコーティングした摺動シート(カバー)が設けられている。摺動シートは、例えば、長手幅は355mm、厚みは70μmである。摺動シートの下流側は、楔状の空間に入り込み易くするために先端が折り返されている。この摺動シートによって定着ローラ23の駆動トルクが抑えられるので、モータの大型化を伴うことなく安定してベルトを回転させることができる。
【0035】
このように構成される像加熱装置Aは、加熱ベルト20と加圧ベルト21とのニップ部Nの記録材搬送方向(加熱ベルト20の走行方向)の幅は、例えば、約18mmとされている。このようにニップ部の幅が広いので、画像形成の高速化を図ったとしても、画像の記録材への定着や定着画像の光沢度調整を行うことが可能になる。また、加熱に関係する部材として加熱側、加圧側共にエンドレスベルト(無端ベルト)を採用したことで、低熱容量化を図ることが可能となった。その結果、ウォームアップタイム(画像形成装置の主電源投入時から定着可能な状態となるまでに要する時間)の短縮化に貢献している。
【0036】
加熱ベルト20の外周面には、加熱ローラ22に対向する位置に温度センサ29が設置されている。この温度センサ29から加熱ベルト20の温度を示す信号がヒータ制御回路28に入力される。この信号の入力を受けたヒータ制御回路28は、ハロゲンヒータ22aへの通電を制御(オン/オフ)することにより、加熱ベルト20の温度が所定の定着温度(例えば190度)を維持するように制御する構成とされている。
【0037】
加熱ベルト20は、少なくとも画像形成実行時には、モータによって定着ローラ23が回転駆動されることで、図2の矢印X方向に回転駆動される。加熱ベルト20の周速度は、記録材にループを形成するため画像形成部側から搬送されてくる記録材Sの搬送速度に比して僅かに遅い周速とされている。一方、加圧ベルト21は、加熱ベルト20に従動して矢印Y方向に回転する。本実施形態の場合、加熱ベルト20の周速は、例えば、300mm/secとし、A4サイズのフルカラー画像を1分間に70枚定着することが可能である。
【0038】
加熱ベルト20が所定の定着温度に立ち上がって温調された状態において、加熱ベルト20と加圧ベルト21間のニップ部Nに、未定着トナー画像Tを有する記録材Sが搬送される。記録材Sは、未定着トナー画像を担持した面を、加熱ベルト20側に向けて導入される。そして、記録材Sの未定着トナー画像Tが加熱ベルト20の外周面に密着したまま挟持搬送されていくことにより、主に加熱ベルト20から熱が付与され、また加圧力を受けて記録材Sの表面に定着される。
【0039】
また、定着ローラ23がゴム層を有する弾性ローラであり、加圧ベルト21内の加圧ローラ26は鉄合金製の剛性ローラであるため、加熱ベルト20と加圧ベルト21とのニップ部Nの出口では定着ローラ23の変形が大きくなっている。その結果、トナー画像を担持した記録材Sは、自らのコシにより加熱ベルト20から曲率分離される。
【0040】
[摺擦処理]
このように記録材Sをニップ部に通紙すると、前述したように、記録材のコバ部の通過位置で加熱ベルト20の表面が荒らされ、その後に、大サイズの記録材を通視した場合に、この記録材上の画像にグロスむらが生じる。特に、厚紙を通紙した場合には、コバ部通過位置の加熱ベルト20の表面がより荒れて、グロスむらがより生じ易くなる。更に、厚紙を通紙した場合、厚紙の先端部分が当接する位置で加熱ベルト20の表面が荒れて、この部分でグロスむらが生じる場合もある。
【0041】
本実施形態では、このような加熱ベルト20の表面の荒れによるグロスむらを低減すべく、摺擦部材である摺擦ローラ31により加熱ベルト20の表面に摺擦処理を施すようにしている。摺擦ローラ31は、例えば、直径12mm、長手幅365mmのステンレス製の芯金の表面に接着層を介して砥粒を密に接着してある。このため、摺擦ローラ31は、加熱ベルト20の幅方向(図2の表裏方向)全体に当接可能である。砥粒は、用途(画像の目標光沢度)に合わせて#1000〜#4000番手に変更される。砥粒の平均粒径は、#1000番手の場合は約16μm、#4000番手の場合は約3μmである。砥粒は、アルミナ系である。アルミナ系は、工業的に最も幅広く用いられる砥粒で、加熱ベルト20の表面に比べて各段に硬度が高く、粒子が鋭角形状のため研磨性に優れている。
【0042】
本実施形態では、摺擦部材の一例として、アルミナ系の砥粒を接着したローラを用いた例を説明するが、ベルト表面性を回復させる構成であれば、その他の構成でも良い。例えば、摺擦部材は、ブラスト加工などで凹凸が形成された形状でも良いし、ラッピングフィルムやサンドペーパをまきつけたような構造であっても良い。
【0043】
また、摺擦ローラ31は、加熱ベルト20に着脱自在に支持されている。例えば、摺擦ローラ31の回転軸の支持部にモータやソレノイドなどの駆動手段を配置し、加熱ベルト20に対して着脱動作をすることが可能としている。着時には、例えば、10kgf(98.07N≒100N)などの所定の加圧力で加熱ベルト20に加圧されている。そして、摺擦ローラ31をこの所定の加圧力で加熱ベルト20に当接させた状態で、加熱ベルト20を回転駆動することによりこの加熱ベルト20の表面を摺擦して、表面粗さを均一化する摺擦処理を施す。
【0044】
このような摺擦処理を施すタイミングは任意であるが、例えば、電源投入時、スリーブ状態からの復帰時、ニップ部に所定枚数を通紙した後などの非画像形成時などが挙げられる。また、ジョブの動作中であっても、例えば厚紙を通紙する場合には、画像形成中にも動作する場合もある。何れにしても適切なタイミングで摺擦処理を施すことにより、加熱ベルト20の表面の粗さを均一化して、グロスむらを低下させられる。
【0045】
[摺擦ローラの位置]
上述のような摺擦処理は、前述したように、短時間で効率良く行うことが望まれる。このために本実施形態の場合には、摺擦ローラ31を次のように配置している。即ち、摺擦ローラ31は、加熱ベルト20の外周面に当接した領域が、加熱ベルト20の走行方向に関し、張架ローラである加熱ローラ22との間で加熱ベルト20を挟持する領域と、この領域から外れた領域とを有するように配置されている。言い換えれば、摺擦ローラ31の当接位置は、摺擦ローラ31を加熱ベルト20に加圧した時に、加熱ベルト20の内周面が加熱ローラ22でバックアップされる領域とバックアップされない領域の両方がある位置に当接するよう配置されている。
【0046】
このように摺擦ローラ31を配置するために、加熱ベルト20の張力と摺擦ローラ31による加圧力を考慮する。即ち、摺擦ローラ31により加熱ベルト20を加圧した状態で、加熱ベルト20により加圧される領域の一部が加熱ローラ22に当接し、この領域の他部が何れの部材にも当接しないようにする。また、この場合に、摺擦ローラ31と加熱ベルト20との間の平均圧力が、例えば10kgf或いは100Nなどの所定の圧力で、接触幅が2mmなどの所定の長さ以上となるようにする。
【0047】
本実施形態によれば、加熱ベルト20が加熱ローラ22との間で挟持される領域と、されない領域とを有するように摺擦ローラ31を配置することで、大きな当接圧と広い接触幅が得られ、効率良く短時間で摺擦処理を行える。即ち、加熱ベルト20が摺擦ローラ31と加熱ローラ22との間で挟持される領域では、加熱ベルト20が加熱ローラ22によりバックアップされるため、摺擦ローラ31の加熱ベルト20に対する当接圧を確保できる。一方、この領域から外れた領域では、加熱ベルト20の内周面が何れの部材にも当接していないため、摺擦ローラ31が加熱ベルト20と広い範囲で接触でき、接触幅を確保できる。このように、当接圧の確保と接触幅の確保との両立を図れるため、摺擦ローラ31により効率良く短時間で摺擦処理を行える。
【0048】
[実施例1]
上述のような本実施形態の効果を確認するために、次のような実験を行った。上述の構成と同様の像加熱装置に記録材を連続通紙し、紙コバ部でグロスむらを発生させた後、摺擦ローラを互いに異なる位置に配置して、摺擦処理を行いグロスむらが消えるまでの時間の確認を行った。実施例1では、上述の図2に示したように摺擦ローラ31を配置した。また、比較例1では、図3に示すように、摺擦ローラ31を加熱ローラ22のバックアップなしの位置aに配置した。また、比較例2では、摺擦ローラ31を加熱ローラ22にのみバックアップされる位置bに配置した。
【0049】
条件は、それぞれ坪量250g/mのA4サイズの厚紙を、縦送りで500枚通紙し、紙コバ部にグロスむらを発生させた。そして、この状態から、各位置で摺擦ローラ31を加熱ベルト20に加圧し摺擦処理を行い、グロスむらが消えるのに必要な摺擦時間を測定した。
【0050】
また、その時の摺擦ローラ31と加熱ベルト20の荷重値と、加熱ベルト20の走行方向の接触幅の測定も行った。荷重値の測定は、表面に圧力センサ素子を配置したフィルムを摺擦ローラ31と加熱ベルト20との接触部に通すことにより、この接触部の圧力分布を測定し、その総圧により求めた。また、接触幅は、上述のフィルムを接触部に通紙したときの圧力分布、即ち、圧力が立ち上がった時点と圧力がなくなった時点との間の長さから求めた。なお、接触幅は、例えば、ベタ画像を形成した紙を摺擦ローラ31と加熱ベルト20との間に配置した状態で、摺擦ローラ31による加圧を行い、その時に生じるグロスむらを測定することにより求めても良い。
【0051】
このように行った実験の結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1では摺擦処理時間が60秒でグロスむらが解消された。また、その時の接触幅が4mm、荷重値は10kgfであった。また、比較例1の場合は120秒かかった。これは、加熱ベルト内面からバックアップされる部材がなく、大きな加圧力が得られなかったためと考えられる。比較例2の場合も120秒かかった。これは、バックアップ部材があり大きな加圧力は得られるが、接触幅が広がらないためと考えられる。
【0054】
以上のことから、摺擦ローラ31を、ベルト内周面がローラでバックアップされる領域とバックアップされない領域の両方がある位置に当接するように配置することで、効率よく短時間で摺擦処理を行えることがわかった。
【0055】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について、図4を用いて説明する。本実施形態の場合、摺擦ローラ31が当接する加熱ベルト20の一部を内周面からバックアップする張架ローラは、弾性層を有する定着ローラ23である。即ち、摺擦ローラ31は、加熱ベルト20の外周面に当接した領域が、加熱ベルト20の走行方向に関し、張架ローラである定着ローラ23との間で加熱ベルト20を挟持する領域と、この領域から外れた領域とを有するように配置されている。定着ローラ23は、弾性層として、例えばシリコーンゴム層を有するゴムローラである。
【0056】
このような本実施形態の場合、定着ローラ23が弾性層を有するため、摺擦ローラ31が当接する加熱ベルト20の領域で、定着ローラ23によりバックアップされる領域は、この弾性層の変形によって、より広い接触幅を得ることが可能となる。このため、より短時間で摺擦処理を行える。その他の構造及び作用は、上述の第1の実施形態と同様である。
【0057】
[実施例2]
上述のような本実施形態の効果を確認するために、上述の実施例1と同様に、次のような実験を行った。即ち、上述の構成と同様の像加熱装置に記録材を連続通紙し、紙コバ部でグロスむらを発生させた後、摺擦ローラを上述の位置に配置して、摺擦処理を行いグロスむらが消えるまでの時間の確認を行った。即ち、実施例2では、図4に示す様に、摺擦ローラ31を弾性層を有する定着ローラ23側に配置した。そして、摺擦ローラ31を弾性層を有さない加熱ローラ22側に配置した上述の実施例1と比較した。この実験の結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から明らかなように、実施例2では弾性層のないローラでバックアップした場合に対して接触幅が広がり、その結果、摺擦処理時間が短縮された。以上のことから、ベルト内周面からバックアップするローラが弾性層を有する場合に、より短時間で摺擦処理を行えることがわかった。
【0060】
<他の実施形態>
上述の各実施形態の加熱ベルト構成においては、加熱ベルトの長手方向の移動を制御する寄り制御手段を備える。即ち、加熱ベルトは、複数のローラにより張架され、このうちの1つのローラは、傾きを変えることにより加熱ベルトの寄り制御を行うステアリングローラである。寄り制御手段は、例えば、加熱ベルト20の幅方向端部位置を検知するセンサの信号に基づいて、ステアリングローラのアライメントを変更することでベルトの搬送方向を変え、端部が別の部材と摺擦して破損するのを防止する。上述の各実施形態の場合、ステアリングローラは、加熱ローラ22と定着ローラ23との何れかである。
【0061】
このような構成であった場合には、摺擦ローラをバックアップするローラがアライメント変更を行うステアリングローラであると、長手方向でベルトとの接触圧むらが生じるため、アライメント変更を行わないローラ側に当接させるのが好ましい。即ち、摺擦ローラ31をバックアップする張架ローラは、複数のローラのうちのステアリングローラ以外のローラとする。具体的には、ステアリングローラが加熱ローラ22である場合には、第2の実施形態のように摺擦ローラ31を配置し、ステアリングローラが定着ローラ23である場合には、第1の実施形態のように摺擦ローラ31を配置する。
【0062】
また、上述の第1、第2の実施形態の像加熱装置は、記録材に仮定着されたトナー画像を再度加熱することにより画像の光沢度を向上させる光沢付与装置であっても良い。
【0063】
また、上述の第1、第2の実施形態では、加熱ベルトの加熱源としてハロゲンヒータを採用する例について説明したが、エネルギー効率の高い電磁誘導加熱方式の加熱源(励磁コイル)を採用しても構わない。この場合、加熱ベルトは励磁コイルから発生した磁束により電磁誘導発熱する導電層を備えた構成となる。また、対向部材として加圧ベルトを用いた例について説明したが、加圧ローラであっても良い。
【符号の説明】
【0064】
20・・・加熱ベルト(無端ベルト)、21・・・加圧ベルト(対向部材)、22・・・加熱ローラ(張架ローラ)、23・・・定着ローラ(張架ローラ)、31・・・摺擦ローラ(摺擦部材)、A・・・像加熱装置、N・・・ニップ部、S・・・記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する無端ベルトと、前記無端ベルトを張架する張架ローラと、前記無端ベルトの外周面と当接してニップ部を形成する対向部材とを有し、前記ニップ部を通過する記録材を加熱する像加熱装置において、
前記無端ベルトの外周面に当接して、前記無端ベルトの外周面を摺擦する摺擦部材を有し、
前記摺擦部材は、前記無端ベルトの外周面に当接した領域が、前記無端ベルトの走行方向に関し、前記張架ローラとの間で前記無端ベルトを挟持する領域と、この領域から外れた領域とを有するように配置されている、
ことを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記張架ローラは、弾性層を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記無端ベルトは、複数のローラにより張架され、このうちの1つのローラは、傾きを変えることにより前記無端ベルトの寄り制御を行うステアリングローラであり、
前記張架ローラは、前記複数のローラのうちの前記ステアリングローラ以外のローラである、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の像加熱装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−92733(P2013−92733A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236152(P2011−236152)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】