説明

光アシスト磁気ヘッド

【課題】LDと偏向ミラーをスライダ上に載置する構成において、LDの放射角にばらつきがあっても、高い結合効率を確保する技術を提供する。
【解決手段】一の面と、一の面の所定の方向の一端に設けられた端面とを備え、記録媒体の回転に応じて、記録媒体に対して浮上して相対移動するスライダと、一の面に固定され、所定の方向に光を出射する光源と、スライダに設けられ、所定方向に沿う厚み方向と、これに直交する幅方向の双方に直交する軸方向の一端に位置する光入射面で光源からの光を受け、軸方向の他端側に位置する記録媒体に向かって光を導く光導波路と、光源及び光入射面の双方に臨み、幅方向に光学パワーPx、厚み方向に光学パワーPyを有し、光学パワーPx及びPyが、0<Px<Pyを満たし、光源からの光を光入射面に向けて反射及び集光させる反射面と、を備えたことを特徴とする光アシスト磁気ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光アシスト磁気ヘッドの技術に関し、特に、光源からの光をミラーにより偏向させて光導波路に導く構成を備えた光アシスト磁気ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)に用いられる磁気記録方式は、記録密度を高くしようとすると磁気ビットの間隔が狭くなり、超常磁性効果等により極性が不安定になる。このため、高い保磁力を有する記録媒体が必要になるが、そのような記録媒体を使用すると記録時に必要な磁場も大きくなる。然るに、記録ヘッドによって発生する磁場は飽和磁束密度によって上限が決まるが、その値は材料限界に近付いており飛躍的な増大が望めないという実情がある。そこで、記録時局所的に加熱して磁気軟化を生じさせて、保磁力が小さくなった状態で記録し、その後、加熱を止めて自然冷却することにより、記録された磁気ビットの安定性を保証する記録方式が提案されている。この記録方式は熱アシスト磁気記録方式と呼ばれている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式では、記録媒体の加熱が瞬間的に行われることが望ましい。また、加熱する機構と、高速で回転する記録媒体とが接触することは許されない。そのため、加熱はレーザー光の微小スポットを記録媒体に照射して行われることが一般的であり、よって加熱に光を用いるこの方式は光アシスト磁気記録方式と呼ばれている。光アシスト磁気記録方式で超高密度記録を行う場合には、必要なスポット径は20nm程度になるが、通常の光学系では回折限界があるため、光をそこまで集光することはできない。そのため、入射光波長以下のサイズの光学的開口から発生する近接場光(「近視野光」と称する場合がある)を利用した光アシスト磁気ヘッドが使用される場合がある。光アシスト磁気記録方式の磁気ヘッドの大きさは小さいため、磁気ヘッドのスライダに設けられる光学部品も小さいサイズのものが要求され、実際には、数十μm〜数百μmのサイズものが用いられる。
【0004】
光アシスト磁気ヘッドの例が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の光アシスト磁気ヘッドでは、半導体レーザー(LD:Laser Diode)と伝送用の光導波路がキャリッジアームに搭載されている。LDから出射された光は、伝送用の光導波路に結合されてヘッドまで導かれる。ヘッドまで導かれた光は、ヘッドスライダに搭載されたカプラ素子(即ち、偏向ミラー)の円筒反射面により、90°偏向されて、ヘッドに設けられた光導波路に導かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4497556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、LD及び偏向ミラーを、スライダ上に直接載置することも可能である。このような構成では、光源からの光を、空間伝搬させて偏向ミラーで偏向させることで、ヘッドに設けられた光導波路に導くことも可能である。このような構成を採用することで、光ファイバー等のような伝送用の光導波路を用いる必要が無くなるため部品点数が少なくなり組立工数を削減することが可能となる。しかしながら、何れの構成においても偏向ミラーにより偏向され光導波路入射面に照射されたスポットと光導波路との間の相対位置ズレによる結合効率の劣化を抑える必要がある。ところで、LD及び偏向ミラーをスライダ上に直接載置する構成では、特許文献1に記載の光アシスト磁気ヘッドに比べて、LDの製造誤差に伴うLD出射端面での光の強度分布のばらつき、即ち、放射角のばらつきの影響を受け、光導波路との結合効率にばらつきが生じてしまう。一方、伝送用の光導波路を用いた場合、光導波路の伝送モードが一意に決まっているため伝送用の光導波路出射端における光の強度分布は一定であり、この結合効率のばらつきは抑制される。そのため、LD及び偏向ミラーをスライダ上に載置する構成では、このようなLDの放射角のばらつきに伴う結合効率への影響も含めて、光導波路とスポットの相対位置ズレを考慮した結合効率の確保が重要となる。
【0007】
即ち、本発明の目的は、LDと偏向ミラーをスライダ上に載置する構成において、LDの放射角にばらつきがあっても、高い結合効率を確保する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、一の面と、前記一の面の所定の方向の一端に設けられた端面とを備え、ディスク状の記録媒体の回転に応じて、前記記録媒体に対して浮上して相対移動するスライダと、前記一の面に固定され、前記所定の方向に光を出射する光源と、前記スライダに設けられ、前記所定方向に沿う厚み方向と、これに直交する幅方向の双方に直交する軸方向の一端に位置する光入射面で前記光源からの光を受け、前記軸方向の他端側に位置する前記記録媒体に向かって前記光を導く光導波路と、前記光源及び前記光入射面の双方に臨み、前記幅方向に光学パワーPx、前記厚み方向に光学パワーPyを有し、前記光学パワーPxと、前記光学パワーPyとが、以下に示す第1の条件を満たし、前記光源からの光を前記光入射面に向けて反射及び集光させる反射面と、を備えたことを特徴とする光アシスト磁気ヘッドである。
[数1]

また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光アシスト磁気ヘッドであって、前記光入射面は、前記幅方向の長さが、前記厚み方向の長さよりも長く形成されていることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッドであって、前記反射面は、前記厚み方向及び前記幅方向に前記第1の条件を満たす曲率を有する凹面であることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッドであって、前記光源からの光は、所定の波長を有し、
前記反射面は、前記第1の条件を満たすように前記所定の波長の光を偏向させる回折構造を有することを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッドであって、前記光源からの光は、所定の波長の光であって、前記反射面は、前記幅方向及び前記厚み方向の一方を第1の方向とし、他方を第2の方向としたとき、前記光学パワーPx及び前記光学パワーPyのうち前記第1の方向に対応するものを、前記第1の方向に所定の曲率を有する凹面形状により実現し、第2の方向に対応するものを、前記所定の波長の光を前記第2の方向に偏向させる回折構造により実現することを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッドであって、前記光源からの光は、所定の波長の光であって、前記反射面は、前記幅方向及び前記厚み方向のうち一方または双方の各方向について、当該方向に沿って所定の曲率を有する曲面として形成され、前記所定の波長の光を当該方向に偏向させる回折構造を備え、前記曲率による光学パワーと前記回折構造による光学パワーとの合成が、前記光学パワーPx及び前記光学パワーPyのうち当該方向に対応する光学パワーとなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によると、光アシスト磁気ヘッドにおいては、光源からの光を、反射面により反射及び集光させることで光入射面に導く。この反射面は、光導波路の幅方向に光学パワーPx、厚み方向に光学パワーPyを有し、前記光学パワーPxと、前記光学パワーPyとが、[数1]で示された第1の条件を満たしている。このような構成により、光源からの光を反射及び集光させて光入射面に導くことで、LDの放射角にばらつきがあっても、高い結合効率を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】情報記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2A】この発明に係る光アシスト磁気ヘッドの概略断面図である。
【図2B】この発明に係る光アシスト磁気ヘッドの偏向ミラー周辺の拡大断面図である。
【図3】偏向ミラーの斜視図である。
【図4A】反射面の斜視図である。
【図4B】x方向から見た反射面の概略断面図である。
【図4C】y’方向から見た反射面の概略断面図である。
【図5A】偏向ミラーの作製方法の一例について説明するための図である。
【図5B】偏向ミラーの作製方法の一例について説明するための図である。
【図6A】実施例に係る偏向ミラーの光学パワーPxに対する結合効率特性を示した表である。
【図6B】実施例に係る偏向ミラーの光学パワーPxに対する結合効率特性を示したグラフである。
【図7A】反射面の一態様を示した概略斜視図である。
【図7B】反射面の一態様を示した概略斜視図である。
【図7C】反射面の一態様を示した概略斜視図である。
【図7D】反射面の一態様を示した概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、光アシスト式磁気記録ヘッドを搭載した光アシスト式磁気記録装置(例えばハードディスク装置、以下「情報記録装置」ともいう)の概略構成を示す。情報記録装置1は、例えば記録用の複数枚の回転可能なディスク(磁気記録媒体)3と、ヘッド支持部5と、トラッキング用アクチュエータ7と、光アシスト磁気ヘッド4と、図示しない駆動装置と、を筐体2内に備えている。なお、ディスク3は1枚であってもよい。ヘッド支持部5は、支軸6を支点として矢印Aの方向(トラッキング方向)に回動可能に設けられている。トラッキング用アクチュエータ7は、ヘッド支持部5に取り付けられている。光アシスト磁気ヘッド4は、ヘッド支持部5の先端に取り付けられている。図示しない駆動装置は、ディスク3を矢印Bの方向に回転させる。情報記録装置1は、光アシスト磁気ヘッド4がディスク3の上で浮上しながら相対的に移動しうるように構成されている。
【0012】
(光アシスト磁気ヘッド4)
図2Aに、光アシスト磁気ヘッド4の概略構成例を断面図で示す。光アシスト磁気ヘッド4は、ディスク3に対する情報記録に光を利用する微小光記録ヘッドである。光アシスト磁気ヘッド4は、光源部20と、スライダ10と、偏向ミラー30とを有する。情報記録装置1は、ディスク3を矢印C方向に移動させ、光アシスト磁気ヘッド4がディスク3上で浮上しながら相対的に移動しうるように構成されている。なお、図2Aでは、ディスク3の回転方向(矢印C方向)をy方向、光アシスト磁気ヘッド4の厚み方向をz方向、y方向及びz方向の双方に直交する方向をx方向としている。
【0013】
スライダ10は、板状の形状をしており、ディスク3と対向する下面10bと、下面10bのz方向の反対側に位置する上面10aとを有する。また、スライダ10は、y方向の端部に端面10cを有する。なお、上面10aが「一の面」に相当する。また、端面10cが「一の面の所定の方向の一端に設けられた端面」に相当する。
【0014】
光源部20は半導体レーザー(以下、単に「LD」と称する)を有する。光源部20を構成しているLDから出射される光の波長は、可視光から近赤外の波長(波長帯としては、0.6μm〜2μm程度であり、具体的な波長としては、650nm、780nm、830nm、1310nm、1550nmなどが挙げられる)などがある。ここで、図2Bを参照する。図2Bは、光アシスト磁気ヘッド4の偏向ミラー30周辺の拡大断面図である。図2Bに示すように、光源部20は、光出射面20aと、底面20bとを有している。光源部20は、スライダ10の上面10aに配置されている。このとき、底面20bと上面10aとが対向する。光源部20は、光出射面20aから偏向ミラー30の反射面31に向けて光を出射する。光源部20から出射された光は、偏向ミラー30の反射面31に到達する。
【0015】
偏向ミラー30は、光源部20からの光を偏向(反射)させて光導波路14の光導波路入射面14aに導く表面反射型の集光ミラーである。図2Bに示すように、偏向ミラーは、凹面状の反射面31を有する。偏向ミラー30は、光源部20からの光を反射面31で受けて、この光を反射面31で反射させることで90°偏向させて、光導波路入射面14aに導く。このとき、光源部20からの光は、反射面31の曲率により光導波路入射面14aに集光される。偏向ミラー30の具体的な構成については後述する。なお、光導波路入射面14aが「光入射面」に相当する。
【0016】
スライダ10は、端面10cに磁気ヘッド部13を有する。磁気ヘッド部13は、y方向に所定の厚みを有して形成されており、端面13aと、端面13bとを有している。端面13aは、端面10cの上面10a側の端部近傍に、端面10cからy方向に立ち上がるように設けられている。また、端面13bは、端面13aとはz方向の反対側に形成されている。磁気ヘッド部13は、光導波路14と、図示しない磁気記録部と、図示しない磁気情報再生部とを有する。なお、磁気ヘッド部13が「ヘッド部」に相当する。
【0017】
光導波路14は、偏向ミラー30によって導かれた光を導光してディスク3に向けて射出する。光導波路14は、図示しないが、下部クラッド層、コア層、上部クラッド層を、光が伝播する方向とは直交する厚み方向(y方向)に沿って、この順番に積層させたものである。コア層は、各クラッド層(例えば、SiOで形成)よりも屈折率の高い素材(例えば、Ta)で形成されている。これにより、光導波路14に導かれた光は、コア層と、各クラッド層との間で全反射しながらディスク3に向かって伝播する。なお、光が伝播する方向(即ち、z方向)が、「軸方向」に相当する。
【0018】
具体的には、光導波路14は、半導体プロセスにより厚み方向(即ち、y方向)に積層されて形成される。換言すると、y方向が光導波路14の積層方向となる。そのため、y方向に沿った形成は、半導体プロセスの時間の制約を受けるため自由度が低い。一方で、幅方向(x方向)の形状やサイズは、使用するマスクの形状やサイズにより決まるため、厚み方向(即ち、積層方向)より設計の自由度が高い。そのため、設計の自由度の高い光導波路14の幅方向の長さは、光導波路14の厚み方向の長さよりも長く形成することが可能である。このように、光導波路14の幅方向の長さを長く形成することで、スポットの幅方向(x方向)の位置ズレに対して、高い相対結合効率を確保することが可能となる。
【0019】
図2Bに示すように、光導波路14は、磁気ヘッド部13の端面13aに光導波路入射面14aを有し、端面13aとは反対側の端面13b(ディスク3に対向する面)に光導波路出射面14bを有する。光導波路14の光導波路出射面14bには、近接場光発生素子としてのプラズモンプローブ15が設けられている。偏向ミラー30によって偏向させられた光は、光導波路入射面14aから入射し、光導波路出射面14bに向かって光導波路14内を進む。光導波路出射面14bに設けられているプラズモンプローブ15は、偏向ミラー30によって導かれた光を近接場光に変換してディスク3に向けて射出する。また、図示しない磁気記録部は、ディスク3の被記録部分に対して磁気情報の書き込みを行う。図示しない磁気情報再生部は、ディスク3に記録されている磁気情報の読み取りを行う。
【0020】
(偏向ミラー30)
次に、偏向ミラー30の具体的な構成について、図3及び図4A〜図4Cを参照しながら説明する。図3は、偏向ミラー30の斜視図である。また、図4Aは、反射面31の斜視図である。図3及び図4Aに示すように、光源部20から出射された光の光軸(y方向)と反射面31との交点において、yz平面内の反射面31に対する接線方向をy’方向とする。また、x方向とy’方向の双方に直交する方向、即ち、前述した交点における反射面31の法線方向をz’方向とする。即ち、反射面31が、光源部20からy方向に向けて出射された光をz方向に90°偏向させる場合、y’方向及びz’方向は、y方向及びz方向を、x方向を軸に略45°回転させた方向となる。
【0021】
ここで、図4B及び図4Cを参照する。図4Bは、x方向から見た反射面の概略断面図である。また、図4Cは、y’方向から見た反射面の概略断面図である。反射面31は、y’z’平面内及びxz’平面内の双方において、異なる曲率を有する凹状のトーリック面として形成される。具体的には、図4Bに示すように、反射面31は、y’z’平面内において、点Cyを基点として曲率半径Ryの曲率を有する凹面として形成されている。また、図4Cに示すように、反射面31は、xz’平面内において、点Cxを基点として曲率半径Rxの曲率を有する凹面として形成されている。換言すると、反射面31は、図4Bに示すように、y’方向に並行で、かつ、その曲面上のy’方向を接線とする点からz’方向にRxだけ離れた直線をy’’軸として、曲率半径Ryを有する曲線を、y’’軸回りに回転させて形成される曲面である。なお、曲率半径Rx及びRyは、図4Bに示すように、以下に示す条件を満たしている。なお、曲率半径Rx及びRyを以下の条件とする詳細な理由については、偏向ミラー30の結合効率特性とあわせて後述する。
[数2]

【0022】
反射面31には、金やアルミニウム等の金属反射膜が成膜されている。また、反射面31には、誘電体多層膜による反射膜を成膜してもよい。また、金属反射膜をメッキで反射膜に形成してもよい。反射面31は、表面反射面として機能する。
【0023】
このような偏向ミラー30は、ガラスモールドや樹脂の射出成型、またはインプリント法等により作製される。なお、偏向ミラー30は、個々に作製してもよいし、複数の素子を一度に作製してもよい。例えば、図5A及び図5Bは、一度に複数の偏向ミラー30を作製する場合の、作製方法の一例を説明するための図である。例えば、図5Aに示すように、複数の偏向ミラー30が2次元的に配列された部材を作製し、反射面31に反射膜を成膜したうえで、ダイシング等により切断分離するとよい。この場合には、例えば、偏向ミラー30A及び30Bは、c1で示された部分をダイシング等により切断することで、個々の素子として分離される。
【0024】
また、図5Bに示すように、2つの偏向ミラー、即ち、偏向ミラー30A及び30Bの反射面31A及び31Bを対向させた組が2次元的に配列された部材を作製し、反射面31に反射膜を成膜したうえで、ダイシング等により切断分離してもよい。この場合には、反射面31A及び31Bが連続する面として形成された部材が作製される。この部材は、ダイシング等によりc1で示された部分が切断されることで、偏向ミラー30A及び30Bに分離される。このとき、前述した連続する面は、反射面31A及び31Bに分離される。
【0025】
(光学パワー)
ここで、光学パワーについて説明する。光学パワーとは、レンズ、ミラー、または他の光学系が、光を集光または発散させる程度、即ち、光の進行方向を曲げる力を示している。ここで、光学パワーをP、光学素子の焦点距離をfとしたとき、光学パワーPは、焦点距離fの逆数(即ち、P=1/f)で示される。光学パワーPが正の値の場合には、光は光軸方向に収束される(集光される)。また、光学パワーPが負の値の場合には、光は光軸方向から発散される。
【0026】
次に、偏向ミラー30の光学パワーについて説明する。前述したとおり、光導波路14は、厚み方向(y方向)に積層されて形成される。そのため、半導体プロセスの時間の制約により、光導波路14の厚みを厚く形成することは困難である。これにより、光導波路14のy方向のモードフィールド直径は小さくなり、このモードフィールド直径にあわせて結合効率を確保するために、偏向ミラー30は、光源部20からの光をy方向に集光している。一方で、光導波路14の幅方向(x方向)の形状やサイズは、厚み方向の長さよりも長く形成されており、光導波路14のx方向のモードフィール直径は、y方向のモードフィールド直径より大きくなる。このような構成から、偏向ミラー30のx方向の光学パワーをPx、y方向の光学パワーをPyとした場合、光学パワーPx及びPyは、以下に示す条件を満たせば良いことが分かる。
[数1]

【0027】
(実施例)
次に、偏向ミラー30の光学パワーPxと結合効率特性との関係について、具体的な例をあげて実施例として説明する。
【0028】
この実施例では、光源部20からの光の波長λ=660nmとし、この光のy方向の放射角θyを半値全角でθy=18°とした。また、この光のx方向の放射角θxは、半値全角でθx=6°、9°、及び12°のそれぞれについて結合効率特性を測定するものとする。また、反射面31の、y’z’平面上における曲率半径Ryを、Ry=25μmとする。また、光出射面20aから反射面31までの距離L1が、以下の条件を満たす。
[数3]

【0029】
また、反射面31から光導波路入射面14aまでの距離L2は、L2=L1とする。また、光導波路14のx方向のモードフィールド直径MDFx=3μm、y方向のモードフィールド直径MDFy=1μmとする。
【0030】
図2Bに示すように、光源部20からの光が、45°の入射角で反射面31に入射角し、90°偏向されて光導波路入射面14aに導かれるように、偏向ミラー30が配置されている。このとき、偏向ミラー30のx方向の焦点距離fxは、以下の条件を満たす。
[数4]

また、偏向ミラー30のy方向の焦点距離fyは、以下の条件を満たす。
[数5]

このように、x方向とy方向とで、曲率半径に対する焦点距離の計算式が異なる。
【0031】
したがって、x方向の光学パワーPxは、以下の式により導かれる。
[数6]

また、y方向の光学パワーPyは、以下の式により導かれる。
[数7]

このように、x方向とy方向とで、曲率半径に対する光学パワーの計算式が異なる。なお、Ry=25μmの場合には、光学パワーPy=0.113μm−1となる。
【0032】
この条件において、偏向ミラー30の光学パワーPxを変更した場合の結合効率特性を、光導波路入射面14a上において、x方向のスポットの位置ズレdxが無い場合(即ち、dx=0μm)の場合と、dx=1μmの場合について算出した。この算出結果を、図6A及び図6Bに示す。図6Aは、偏向ミラー30の、光学パワーPxに対する結合効率特性を示した表である。また、図6Bは、偏向ミラー30の、光学パワーPxに対する結合効率特性を示したグラフである。
【0033】
ここで、Px=0の場合、即ち、反射面31が、xz’平面内において曲率を有さない円筒ミラーの場合に着目する。この場合には、x方向のスポットの位置ズレdxが無かったとしても(dx=0だとしても)、θxのばらつきにより、中心値θx=9°の結合効率に対して約±10%の差を持って、各θxにおける結合効率がばらついている。さらに、Px=0で、かつ、dx=1μmのスポットの位置ズレが生じた場合においては、dx=0の場合に比べて、各θxにおける結合効率がさらにばらつき、結合効率の値も全体的に低下している(即ち、劣化している)。
【0034】
また、図6Bに示すように、スポットの位置ズレが無い場合(dx=0μm)と、位置ズレがある場合(dx=1μm)とでは、結合効率がピークとなる光学パワーPxが異なる。具体的な一例として、放射角θx=9°に着目した場合には、スポットの位置ズレが無い場合には、Px=0.071μm−1の場合に、結合効率がピークとなる。これに対して、スポットの位置ズレがある場合には、Px=0.057μm−1の場合に、結合効率がピークとなる。
【0035】
このように、スポットの位置ズレがある場合の結合効率のピークの方が、位置ズレが無い場合の結合効率のピークよりも、光学パワーPxが低くなる。光学パワーPx及びPyが等しい場合(Px=Py)には、x方向についてもy方向と同様に光導波路入射面14a上で焦点を結ぶことになる。しかしながら、前述したように、スポットの位置ズレの有無により、結合効率がピークとなる光学パワーPxが異なる。そのため、x方向について、光導波路入射面14a上で焦点を結ぶように光学パワーPxを決定したとしても、最大の結合効率とはならないことがわかる。
【0036】
また、放射角θxと光学パワーPxとの関係に着目すると、図6Bに示すように、放射角θxが小さいほど、結合効率がピークとなる光学パワーPxは小さくなる。具体的な一例として、dx=1μmの場合には、光学パワーPx=Py、かつθx=6°における結合効率が、光学パワーPx=0、かつθx=12°における結合効率とほぼ等しくなる。したがって、光学パワーPx及びPyが、以下に示す条件を満たす場合に、光源部20からの光の放射角にばらつきがある場合において、スポットの位置ズレの有無に拘らず、光学パワーPx=0の場合や、Px=Pyの場合よりも高い結合効率を確保することが可能となる。
[数1]

【0037】
さらに、図6Bに示すように、スポットの位置ズレがある場合(dx=1μm)には、光学パワーPx=Py/2近傍において、結合効率がピークとなる。このことから、光学パワーPxをPy/2近傍の値とすることが望ましい。この場合には、[数6]及び[数7]で示した関係式に基づき、曲率半径Rx=Ryとなり、焦点距離fxが以下の条件を満たす。
[数8]

【0038】
このように、光学パワーPxをPy/2近傍とした場合には、x方向について、光出射面20aと反射面31との間の距離L1が焦点距離fxと等しくなる。そのため、この場合には、光源部20からの光は、反射面31で反射偏向後に略平行光となって光導波路入射面14aに入射する。なお、0<Px<Py/2の範囲では、反射面31で反射された光は、x方向について、光源部20からの光の放射角よりも小さな発散角を有する発散光となる。また、Px>Py/2の範囲では、反射面31で反射された光は、収束光となる。
【0039】
なお、上記では、x方向及びy方向に曲率を有したトーリック形状の反射面31について説明したが、x方向の光学パワーPxとy方向の光学パワーPyとが[数1]に示した条件を満たす構成であれば、反射面31の構成は限定されない。例えば、反射面31は、アナモルフィック面として形成されてもよいし、トーリック非球面、またはアナモルフィック非球面として形成されてもよい。例えば、より高い結合効率を確保するために、反射面31を非球面として形成して収差を改善してもよい。
【0040】
また、上記では、光学パワーPx及びPyを、反射面31の形状により実現していたが、これに代えて、反射型の回折レンズにより実現してもよい。例えば、図7Aは、反射面31の一態様である反射面311を示した概略斜視図である。図7Aに示すように、反射面311は、平面として形成されている。また、反射面311上には、反射面311で受けた光を、x方向及びy’方向に集光可能に、回折構造321が設けられている。光源部20からの光は、温度により波長λが変動する場合があり、波長λの変動に伴い、この光のモードフィールド径も変化する場合がある。一方で、回折構造321は、波長により回折角が変わる。そのため、モードフィールド径の変化を考慮して回折構造321を設けることで、モードフィールド径の変動を補償し、安定した結合効率を確保することが可能となる。なお、高い結合効率を確保するために、ブレーズ(鋸歯)形状の回折構造321を用いることが望ましい。
【0041】
また、トーリック形状の反射面31上に回折構造を設けてもよい。図7Bは、反射面31の一態様である反射面312を示した概略斜視図である。図7Bに示すように、反射面312は、トーリック面として形成されており、反射面312上には、回折構造322が設けられている。このような構成とすることで、光学パワーPx及びPyを、反射面312の形状と回折構造322とに分配できる。そのため、反射面312の曲率半径Rx及びRyを、前述した反射面31の曲率半径Rx及びRyよりも大きくし、より平面に近い形状とすることが可能となる。また、図7Aに示した回折構造321に比べて、回折構造322が受け持つ光学パワーPx及びPyを低くすることが可能となる。これにより、回折構造322のピッチを、回折構造321のピッチよりも広げることが可能となり、回折構造の転写性を向上することが可能となる。
【0042】
また、x方向及びy方向のいずれかの方向の光学パワー(即ち、光学パワーPxまたはPy)を、反射面31の形状で実現し、他方を1次元回折レンズとして構成してもよい。図7C及び図7Dは、この構成を適用した反射面31の一態様を示した斜視図である。図7Cには、反射面313が示されている。図7Cに示すように、反射面313は、y’z’平面内にのみ曲率を有する凹面として形成されている。反射面313は、この曲率により、光源部20からの光をy’方向に集光する。即ち、反射面313の形状により、y方向の光学パワーPyを実現している。また、反射面313上には、1次元回折構造323が設けられている。1次元回折構造323は、光源部20からの光をx方向に集光するように、x軸方向に並べて設けられている。即ち、1次元回折構造323により、x方向の光学パワーPxを実現している。
【0043】
また、図7Dは、反射面314が示されている。図7Dに示すように、反射面314は、xz’平面内にのみ曲率を有する凹面として形成されている。反射面314は、この曲率により、光源部20からの光をx方向に集光する。即ち、反射面314の形状により、x方向の光学パワーPxを実現している。また、反射面313上には、1次元回折構造324が設けられている。1次元回折構造324は、光源部20からの光をy’方向に集光するように、y’軸方向に並べて設けられている。即ち、1次元回折構造324により、y方向の光学パワーPyを実現している。図7C及び図7Dに示すような構成とすることで、回折構造が1次元に集光するような簡素な形状(直線状の形状)となり、偏向ミラー30の金型の製造が容易になる。
【0044】
以上のように、この発明に係る光アシスト磁気ヘッド4では、光源部20から出射された光を、偏向ミラー30の反射面31により反射及び集光させて光導波路入射面14aに導く。反射面31は、光導波路14の幅方向(x方向)に光学パワーPx、厚み方向(y方向)に光学パワーPyを有しており、光学パワーPxと、光学パワーPyとが、[数1]で示された条件を満たしている。このような構成により、光源部20からの光を反射及び集光させて光導波路入射面14aに導くことで、光源部20に用いられたLDの放射角にばらつきがあっても、高い結合効率を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 情報記録装置
2 筐体
3 ディスク
4 光アシスト磁気ヘッド
5 ヘッド支持部
6 支軸
7 トラッキング用アクチュエータ
10 スライダ
10a 上面
10b 下面
10c 端面
13 磁気ヘッド部
13a 端面
13b 端面
14 光導波路
14a 光導波路入射面
14b 光導波路出射面
14c 光導波路側面
15 プラズモンプローブ
20 光源部
20a 光出射面
30、30A、30B 偏向ミラー
31、31A、31B、311、312、313、314 反射面
321、322 回折構造
323、324 1次元回折構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の面と、前記一の面の所定の方向の一端に設けられた端面とを備え、ディスク状の記録媒体の回転に応じて、前記記録媒体に対して浮上して相対移動するスライダと、
前記一の面に固定され、前記所定の方向に光を出射する光源と、
前記スライダに設けられ、前記所定方向に沿う厚み方向と、これに直交する幅方向の双方に直交する軸方向の一端に位置する光入射面で前記光源からの光を受け、前記軸方向の他端側に位置する前記記録媒体に向かって前記光を導く光導波路と、
前記光源及び前記光入射面の双方に臨み、前記幅方向に光学パワーPx、前記厚み方向に光学パワーPyを有し、前記光学パワーPxと、前記光学パワーPyとが、以下に示す第1の条件を満たし、前記光源からの光を前記光入射面に向けて反射及び集光させる反射面と、
を備えたことを特徴とする光アシスト磁気ヘッド。
[数1]

【請求項2】
前記光入射面は、前記幅方向の長さが、前記厚み方向の長さよりも長く形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光アシスト磁気ヘッド。
【請求項3】
前記反射面は、前記厚み方向及び前記幅方向に前記第1の条件を満たす曲率を有する凹面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッド。
【請求項4】
前記光源からの光は、所定の波長を有し、
前記反射面は、前記第1の条件を満たすように前記所定の波長の光を偏向させる回折構造を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッド。
【請求項5】
前記光源からの光は、所定の波長の光であって、
前記反射面は、前記幅方向及び前記厚み方向の一方を第1の方向とし、他方を第2の方向としたとき、前記光学パワーPx及び前記光学パワーPyのうち前記第1の方向に対応するものを、前記第1の方向に所定の曲率を有する凹面形状により実現し、第2の方向に対応するものを、前記所定の波長の光を前記第2の方向に偏向させる回折構造により実現することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッド。
【請求項6】
前記光源からの光は、所定の波長の光であって、
前記反射面は、前記幅方向及び前記厚み方向のうち一方または双方の各方向について、当該方向に沿って所定の曲率を有する曲面として形成され、前記所定の波長の光を当該方向に偏向させる回折構造を備え、
前記曲率による光学パワーと前記回折構造による光学パワーとの合成が、前記光学パワーPx及び前記光学パワーPyのうち当該方向に対応する光学パワーとなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光アシスト磁気ヘッド。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【公開番号】特開2013−16238(P2013−16238A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149683(P2011−149683)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】