説明

光ケーブルの接続構造体

【課題】少ない工数で手順ミスなく接続作業を行うことができる光ケーブルの接続構造体を提供する。
【解決手段】クリップ担持部材14bにはラッチ解除部材142bが一体的に形成されており、クリップ3bがクリップホルダ44bの直近に位置するようにクリップ担持部材14bを回動させると、ラッチ解除部材142bが、ベース11のラッチ114bを押し下げてラッチの係合を解除するようになっている。ラッチ114bはケーブルホルダ44bの後退を阻止しているので、ラッチ114bが押し下げられることによって、撓んでいる心線41bが略直線状に戻ろうとする際の復元力によってケーブルホルダ44bがメカニカルスプライス2から離れる方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルスプライス内蔵型の光ケーブルの接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光ケーブルを内蔵する現場取付け型の接続構造体が、FTTH(Fiber to the Home)等の光ファイバネットワークの敷設に使用されている。これらの接続構造体は、内部にいわゆるメカニカルスプライス(被覆を除去した心線の端面同士を突き合わせた状態で融着や接着を行わずに恒久的に接続する機構)を内蔵している。例えば特許文献1には、「光ファイバをスプライス部材の光ファイバ保持溝に挿入する際に使用するメカニカルスプライス型コネクタ用光ファイバ接続治具」が開示されている。
【0003】
一般に、メカニカルスプライスを内蔵する接続構造体においては、現場で処理した2つのドロップケーブルの心線の先端が互いに突き合わせられる。このときに確実な突き合わせ状態を確保するために、メカニカルスプライス近傍で心線がいくらか撓むように、ドロップケーブルがコネクタに向かって付勢される。この撓みによる反力を利用して、2つの光ファイバの先端の突き合わせが維持される。例えば光コネクタの接続工具を開示する特許文献2には、「本発明に係る接続工具によれば、メカニカルスプライスを用いた光ファイバ接続時に望まれるファイバの撓みを定量的かつ容易に生じさせることができ、故にメカニカルスプライスでの確実な接続が可能になる。またファイバを撓んだ状態に保持することができるので、作業者は両手が塞がることがなく、作業性が向上する」と記載されている。
【0004】
さらに特許文献3には、「光ファイバ2が対向する両側から導入されるクロージャスリーブ11の内部に、前記光ファイバ2同士を接続するためのクランプ部4と、前記光ファイバ2を把持する一対のホルダ部20を具備する連結台3とが収容され、前記クランプ部4は前記ホルダ部20同士の間に配置され、前記ホルダ部20は、前記連結台3の両端側からクランプ部4に向けてスライド移動させることにより、該ホルダ部20に保持された光ファイバ2を前記クランプ部4に挿入できるようになっているクロージャ10」が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−322762号公報
【特許文献2】特開2007−121878号公報
【特許文献3】特開2005−208496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FTTH用途に使用される光ケーブル又はドロップケーブルは、電柱等に設置されたキャビネット内でメカニカルスプライス又は他のコネクタを用いて接続され、各家庭に配線される。ここで電柱等から各家庭までの中間点でドロップケーブルに部分的にでも断線や損傷等の不具合が生じた場合は、各家庭に至るケーブルを一旦全て撤去して、配線作業をやり直す作業が通常行われている。そこで配線作業を一からやり直すのではなく、断線等が生じた箇所にドロップケーブルを割り入れることができ、故にケーブルの撤去作業を行わずに復旧作業が行えることが望まれている。
【0007】
FTTH用途として接続構造体を用いる場合、その作業は屋外の不安定な場所で行われることが多い。そこで、作業に必要な部材をなるべく一纏めにし、少ない工数で手順ミスなく接続作業を行うことができる接続構造体が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、少ない工数で手順ミスなく接続作業を行うことができる光ケーブルの接続構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、2つのケーブルが各々有する光ファイバを互いに接続するように構成されたメカニカルスプライスを収容するケースと、前記ケースに設けられるとともに、前記ケーブルの少なくとも一方を、該少なくとも一方のケーブルの長手方向について、予め定めた距離以上に前記メカニカルスプライスから離れないように前記少なくとも一方のケーブルに係合するように構成された係合部と、前記少なくとも一方のケーブルと前記係合部との係合を解除するように構成された係合解除部と、前記ケーブルを前記ベース部材に固定するクリップ部材を担持するとともに、前記クリップ部材を前記ケーブルの近傍に位置決めできるように前記ケースに対して可動に構成されたクリップ担持部材と、を有し、前記係合解除部は、前記クリップ担持部材に一体的に形成されるとともに、前記クリップ部材が前記ケーブルの近傍に位置決めされたときに、前記係合解除部が前記係合部と前記少なくとも一方のケーブルとの係合を解除するように構成される、接続構造体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、クリップ部材をケーブル近傍に配置させる操作が、ケーブルを保持している係合部とケーブルとの係合を解除する操作を兼ねるので、少ない工数でかつ手順ミスなく作業を行うことが可能となる。またクリップ部材を担持するクリップ担持部材の使用により、クリップ部材の紛失を防ぐとともにクリップ部材が作業の邪魔になることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明に係る光ケーブルの接続構造体の第1の実施形態を示す斜視図である。接続構造体1は、接続すべき2つのドロップケーブルを受容するベース部材11と、ヒンジ121によってベース11に枢着されるカバー部材12とを有する。本実施形態では、ベース11及びカバー12は、各々略円筒形状を軸方向に2分割した半割り形状を有し、後述するように協働して閉鎖体又はケースを構成する。また接続構造体1は、ベースの略中央に配置されるメカニカルスプライス2を閉鎖できるように、ヒンジ131によってベース11に枢着される閉鎖部すなわちレバー部材13と、ドロップケーブル4a、4bに取付けられたケーブルホルダ44a、44b(図2参照)をベース11に固定する固定部であるクリップ部材3a、3bを担持するクリップ担持部材14a、14bとを有し、各クリップ担持部材はそれぞれヒンジ141a、141bによってベース11に枢着される。
【0012】
クリップ3aは、板状の部材を板金加工して形成された部材であり、基板31aと、基板31aのファイバ挿入方向の両端部から基板面に略垂直に延出する2対の対向配置された固定刃32aと、基板31aのファイバ挿入方向と略直角な方向の両端部から基板31aに関して固定刃と同じ側に延出するガイド33aとを備える。基板31aの各対の固定刃32aは、その間にケーブルを狭持する。ガイド33aは、クリップ担持部材14aのファイバ挿入方向と略直交する2辺を狭持してクリップ担持部材14aに組み付けられている。なおクリップ3bもクリップ3aと同様の構成を有する。
【0013】
クリップ担持部材14aは略平板上の部材であり、そのファイバ挿入方向外側の一端部近傍に、クリップ3aの固定刃32aが挿通するスリット143aを有し、対向する端部には対向する1対の固定刃32aの側端を案内するように凹所144aが設けられている。クリップ3aのガイド33aと接する担持部材14aの一方の側面には、ガイド33aと略同じ幅を有する凹所145aが設けられており、他方(ヒンジ141a側)の側面には開口146aが設けられている。クリップ3aが後述のようにケーブルに対して略垂直に押し下げられるように、固定刃32a及びガイド33aのそれぞれに対応するクリップ担持部材14aの凹所144a及び開口146aの側壁が、固定刃32a及びガイド33aそれぞれの端面を案内する。なおクリップ担持部材14bも、後述するラッチ解除部材142bを除き、クリップ担持部材14aと同様の構成を有する。
【0014】
レバー部材13は平板状の部材であり、スプライスに当接可能なスプライス当接面132と、その反対側の操作面133とを有する。本実施例に係るメカニカルスプライス2は、そのキャップ部材21を本体22に向けて押し下げることにより、V字状に折り畳まれた内蔵の心線保持部材(図示せず)が閉じられ、心線保持部材の内表面に刻まれた調心溝(図示せず)内で2本の心線を軸合わせして固定する方式のものである。
【0015】
なおベース11、カバー12、レバー13及びクリップ担持部材14a、14bは、それぞれ別個に作製されて接続されてもよいが、樹脂成形等により一体的に作製することもできる。なおクリップ3a、3bは必要な強度を有する任意の材料を用いて形成することができ、例えば金属やプラスチックから作製可能である。
【0016】
以下、図1〜図12を参照して、2つのドロップケーブルを接続構造体1を用いて接続する手順について説明する。先ず図1に示すように、メカニカルスプライス2をベース11の略中央に配置する。メカニカルスプライス2は、ベース11の内部に形成されたスプライスガイド111a、111bによって挟持され、これらに沿って正確に位置決め可能である。次に、図2に示すように、石英ガラスからなる光ファイバ又は心線41a及びUV被覆42aを先端から所定長露出させ、さらにUV被覆42aと外被43aとの境界付近にケーブルホルダ44aが固定されたドロップケーブル4aを用意する。ケーブルの処理には、公知の被覆除去工具及び心線(ガラスファイバ)切断工具を使用することができる。ケーブルホルダ44aは、図2に示すように、ケーブル4aに取り付けられたときに略直方体形状を呈する部材であり、本体部441aと、本体部441aにヒンジ(図示せず)を介して連結された蓋体442aとからなる。本体には、ドロップケーブルが挿入される凹所があり、その凹所の対向する面には鋸刃状の突起(図示せず)が複数設けられている。心線を露出させたドロップケーブルの端部がこの凹所に挿入されると、鋸刃がドロップケーブルの外被43aに食い込んで、ケーブルを把持する。また、ドロップケーブル4aの被覆端部から露出した心線がケーブル軸方向から傾かずに延出するように、本体部441aには心線用通路(図示せず)が設けられている。ドロップケーブルが本体部441aの凹所に装着された後に蓋体442aが閉じられ、ドロップケーブル4aからのケーブルホルダ44aの離脱が防止される。
【0017】
また後述するドロップケーブル4bも、ドロップケーブル4aと同じ構成を有する。なお、ここでいうドロップケーブルとは、主に電柱上等に配置された接続箱と利用者宅との間を配線するときに用いられるケーブルを意味する。ドロップケーブルはPVCやPE等の外被に、UV樹脂等の任意の樹脂で被覆された心線と、1又は複数の抗張力材(FRP又は金属等)とを内蔵したケーブルであり、軸方向に垂直な断面が概略矩形を有するものが多い。このケーブルは一般に、外被と心線とが実質的に密着して一体的に構成されている。従って、ケーブルの外被を固定すると、間接的に心線をも固定することができる。また本発明の接続構造体は、ドロップケーブル以外のケーブルであっても、心線と外被とが実質的に密着しており、心線の外被に対する相対的な移動が実質的にないケーブルについても使用できる。さらには、いわゆる光コードと呼ばれる外被と心線とが実質的に密着していないケーブルでも、ケーブルホルダをケーブルに取着することで外被が鋸刃により狭窄されて心線に対して当接し、心線が外被に対して実質的に移動しない状態に固定できるものであれば使用することができる。なお以降、「心線」なる用語は、図2に関してケーブルホルダ44a又は44bよりも先端側、すなわち心線41aのみの部分及びUV被覆42aが露出した部分の双方を含むものとして説明する。
【0018】
次に図3に示すように、第1のドロップケーブル4aを、その心線41aがケーブル長手方向にメカニカルスプライス2内に挿入されるように、ベース11内に配置する。このとき、メカニカルスプライス2の端部とケーブルホルダ44aとの間に延在する心線41aは、略直線状になっている。心線41aの先端はメカニカルスプライス内部の所望の位置(通常は長手方向の略中央)に位置している。ここでベース11は、心線41aが確実にメカニカルスプライス2内に挿入されるように心線41aを案内する心線ガイド112aと、ケーブルホルダ44aを位置決めするケーブルホルダガイド113aとを有する。ケーブルホルダガイド113aの対向する面の間隔は、ケーブルホルダ44aの幅と略等しいか、若干大きい寸法に構成されている。従ってガイド113aに沿わせてケーブルホルダ44aを動かすと、心線41aがメカニカルスプライス2内に案内されるので、作業者がメカニカルスプライスの小さな挿入穴を狙って心線を挿入する必要はない。
【0019】
またベース11には、位置決めされたケーブルホルダ44aの後退を阻止する係合部であるラッチ114a(図1参照)と、ケーブルホルダ44aの上方への移動を阻止する庇状部材115a(図1参照)とが設けられている。ラッチ114aは可撓性を有する部材であり、ファイバ挿入方向に関して外側の端部1141aにおいてベース11に取り付けられており、その反対側の端部近傍の上面にケーブルホルダ44aと係止する突起1142aを有する。庇状部材115aはベース11の軸方向に関して対称に2つ配されており、ベース11の底面から上方(ベース11とカバー12との嵌合面)に向けて延出し、その先端において対向する庇状部材の方向に突出する庇状の突起を有している。ケーブルホルダガイド113a、ラッチ114a及び庇状部材115aはベース11と一体に構成してもよいし、必要に応じて部分的又は全体的に別部品として構成してもよい。
【0020】
ケーブル4aは、そのケーブルホルダ44aがベース11の端部に位置するように、上方からベース11に向けて移動される。ケーブル4aはケーブルホルダ44aがベース11の底面に沿うようにベース11の中心に向けて挿入される。ケーブルホルダ44aがラッチ114aの突起1142aに接近していくと、ケーブルホルダ44aが突起1142aを押し下げてラッチ114aが下方に撓み、ケーブルホルダ44aがさらに中心方向に進むことが許容される。心線41aの先端は心線ガイド112aの内面のスロープに沿って、メカニカルスプライス2の挿入口へ案内され、さらに内部の調心部材(図示せず)に挿入されていく。ケーブル4aを所定の位置まで前進させると、下方に押し下げられたラッチ114aがその反発力で元の状態に戻り、突起1142aがケーブルホルダの後端に係止する。この位置において、ケーブルホルダ44aの先端部の上面は庇状部材115aの庇状突起の下にあるので、作業者が手を離してもケーブル4aはベース11から浮き上がらず、またケーブル4aがメカニカルスプライス2から離れる方向に動くことも防止される。
【0021】
次に図4に示すように、ヒンジ141aを介してベース11に枢着されているクリップ担持部材14aを回動させ、クリップ担持部材14aに担持されたクリップ3aがケーブルホルダ44aの直近に位置するようにする。そして図5に示すように、クリップ3aをケーブル4aに向けて押し込むことにより、クリップ3aがケーブルホルダ44aを把持し、ケーブル4aがベース11に対して固定される。上述のように、クリップ3aは対向配置された固定刃を2対有し、各対において対向する固定刃間にケーブルホルダ44aの側面が狭持されることにより、クリップ3aとケーブル4aとが一体化される。また、クリップ3aの基部31aとケーブルホルダ44aとの間にはクリップ担持部材14aが介在しており、担持部材はその四方の辺に設けられた凹所又は開口を通るクリップによってファイバ挿入方向に固定される。そのため、ケーブル4aはクリップ3aを介してベース11に固定されることとなる。
【0022】
メカニカルスプライスの閉鎖前に行うと、不意に心線がメカニカルスプライスから抜けたり、接続された心線に張力が加わったりすることを防止できる。しかし、ケーブル4aに関するクリップ固定は、後述するメカニカルスプライスの閉鎖の後に行ってもよい。また、ケーブル4aのケーブルホルダ44aは、ラッチ114aが所望の係止力を生じさせるのであれば、クリップ3aによる固定を行わなくともよい。後述の他方のケーブルホルダ44bの場合と異なり、ケーブルホルダ44aは所望の位置で固定できるので、クリップ部材を使わなくとも固定することが可能となる。一方、後述のケーブルホルダ44bは、2つの心線の切断長ばらつき等により、それを固定する位置がある程度ばらつく可能性がある。心線の過剰な撓みを生じさせることなくケーブルホルダを固定するには、本発明のクリップのような固定部材を使用することが望ましい。本発明のクリップはケーブルホルダの側面の平面に対して固定できるので、その平面内であれば任意の場所で固定でき、切断長のばらつきによる固定位置のばらつきにも対応できるからである。
【0023】
次に図6に示すように、ドロップケーブル4aと同様の第2のドロップケーブル4b(図2参照)を用意し、ドロップケーブルの心線41bがケーブル長手方向にメカニカルスプライス2内に心線41aとは反対側から挿入されるように、ドロップケーブル4bをベース11内に配置する。ここでベース11は、心線41bが確実にメカニカルスプライス2内に挿入されるように心線41bを案内する心線ガイド112bと、ケーブルホルダ44bを位置決めするケーブルホルダガイド113bとを有するので、作業者はケーブル4aの場合と同様、メカニカルスプライスの小さな挿入穴を狙わずとも、心線41bを容易にメカニカルスプライス内に挿入することができる。
【0024】
図7(a)及び(b)は、ドロップケーブル4bの心線41bをメカニカルスプライス内に挿入していく様子を示す軸方向断面図である。先ず図7(a)に示すように、ケーブル4aの心線41aが挿入された側とは反対側からメカニカルスプライス2内にケーブル4bの心線41bを挿入していくと、心線の端面同士がメカニカルスプライス2内で突き当たるが、この状態ではまだケーブル4bのケーブルホルダ44bとベース11の心線ガイド112bとは接触していない。
【0025】
そこで、図7(b)に示すように、ケーブルホルダ44bをさらに心線ガイド112bとが接触するまでメカニカルスプライス2側に押し込むと、心線41bが予め定めた量だけ弓状に撓んだ状態に保持される。ここで、ベース11にはケーブルホルダ44bに係合してその後退を阻止するラッチ部材114b(図1参照)が設けられているので、ケーブルホルダ44bの後端部443bがラッチ114bを乗り越えてラッチ114bと係合するまでケーブルホルダ44bをメカニカルスプライス2に向けて移動させることにより、作業者が手を離しても心線41bは撓んだ状態に維持される。
【0026】
図7(b)の状態では、ケーブル4bの心線41bの先端がメカニカルスプライス2内で、先にメカニカルスプライス2内に挿入されたケーブル4aの心線41aの先端と突き当たっており、心線41bは図示するように弓状に撓んだ状態に保持される。逆に言えば、心線41bが撓みを有することを以って、作業者は心線の先端同士が互いに当接していることを確認することができる。またベース11には、ケーブルホルダ44bの上方への移動を阻止する庇状部材115b(図1参照)が設けられているので、ケーブルホルダ44bとラッチ114bとが係合している状態(図7(b))で作業者がケーブル4bから手を離しても、ケーブル4bはベース11から上方に外れることなく保持される。
【0027】
図7(b)の状態から、次に図8に示すように、作業者はヒンジ131によってベース11に枢着されたレバー13を回動させ、メカニカルスプライス2を閉鎖する。これにより、ケーブル4a及び4bの心線はメカニカルスプライス2内で互いに突き当たった状態で固定され、両ケーブルが光学的に接続される。本実施形態では、V字状に折り曲げられた調心部材(図示せず)によって光ファイバを狭持するタイプのメカニカルスプライス2において、キャップ部材21を本体22に向けて押し込むことで一対の調心部材を閉じるものを説明しているが、本発明に使用できるメカニカルスプライスはこれに限られるわけではない。例えば、一対の調心部材が、断面形状が略C字形の板ばね部材で狭持されるメカニカルスプライスも使用可能である。このタイプのメカニカルスプライスを使用する場合、レバー13の当接面132に、メカニカルスプライスの調心部材間に差し込まれて両部材間にファイバが挿入する隙間を設ける楔状部材を配置することができる。ファイバ挿入時にはレバー部材を回動させてその楔状部材をメカニカルスプライスに差込み、両方の心線が挿入した後にレバーをスプライスから離れる方向に回動させて楔状部材を抜き取り、心線を固定する。メカニカルスプライスでの接続完了後は、楔状部材をレバーから取り外すか折り曲げることにより、レバーを図8に示す状態に配置することができる。
【0028】
次に図9に示すように、ヒンジ141bによってベース11に枢着されたクリップ担持部材14bを回動させ、クリップ担持部材14bに担持されたクリップ3bがケーブルホルダ44bの直近に位置するようにする。ここで図10に示すように、クリップ担持部材14bには係合解除部すなわちラッチ解除部材142b(図1参照)が一体的に形成されている。ラッチ解除部材142bは、ファイバ挿入方向に関してクリップ担持部材14bの外側端部に設けられており、クリップ担持部材14bからクリップ3bの挿入方向に、クリップ3bから離れる向きに略垂直に延在している、略扁平な棒状の部材である。クリップ3bがケーブルホルダ44bの直近に位置するようにクリップ担持部材14bを回動させると、ラッチ解除部材142bの先端が、ベース11のラッチ114bを押し下げてラッチの係合を解除するようになっている。ラッチ114bは上述のようにケーブルホルダ44bの後退を阻止しているので、ラッチ114bが押し下げられることによって、撓んでいる心線41bが略直線状に戻ろうとする際の復元力によってケーブルホルダ44bがメカニカルスプライス2から離れる方向に移動し、撓んでいた心線41bは略直線状態に戻る。ここで上述のようにベース11には庇状の部材115bが設けられているので、ラッチ114bの解除動作によりケーブルホルダ44bがケーブル長手方向以外の方向に外れて作業性を悪くすることはない。
【0029】
光ファイバに過剰な撓みを発生させると、その撓み部分において大きな光学的損失が生じ、さらに機械的な信頼性も低下する。従って、過剰な撓みはケーブルを機械的に固定する前に確実に解除する必要がある。本発明では、クリップ担持部材をケーブルホルダの直近に移動させる操作がラッチの解除動作を兼ねるので、撓みの解除をクリップ固定前に確実に行えるとともに、より少ない工数で作業を行うことができる。また、クリップはクリップ担持部材に取付けられているので、クリップの紛失も防止できる。さらに、ケーブルの心線をメカニカルスプライス内に挿入する際に、クリップが作業の邪魔になることもない。またさらに、心線の撓みの解除忘れを防止することもできる。このような接続構造体をFTTH用途に使用すれば、ケーブルに断線等が生じても容易にケーブルの継ぎ足しが可能となり、ケーブルを有効に使用することができる。
【0030】
ケーブルホルダ44bが心線41bの復元力によって後退し、撓んだ心線41bが実質直線状になったら、図11に示すように、クリップ担持部材14bに担持されているクリップ3bをケーブルホルダ44bに向けて押し込み、ケーブルホルダ44bをベース11に固定する。最後に、図12に示すようにカバー12がベース11と協働して略円筒状の閉鎖体を形成するように、カバー12を回動させてベース11に固定し、ドロップケーブルの接続作業が完了する。なお、カバー12の内側(ベースに向かう側)に、カバー12が回動したときにクリップ3a、3bを押し込むように構成された突状物122a、122b(図11にのみ図示)等を設けておき、クリップの押し込み操作とカバーによる閉鎖操作とを実質同時に行うようにすることもできる。
【0031】
カバー11とベース12との嵌合部には、必要に応じてパッキン等の防水手段を施すことが可能である。また、それに加え、又はそれの替わりに、閉鎖体全体に防水手段、例えばビニールテープ等の防水用テープや防水用チューブ、を施すことで防水を図ってもよい。
【0032】
上述の実施形態は、一方のドロップケーブル4bの接続に際し、その心線が撓むようにケーブルホルダを一旦ラッチで固定し、心線を固定した後にラッチを解除してケーブルホルダを後退させる構成となっているが、双方のドロップケーブルについてラッチの固定及び解除操作を行うようにすることもできる。すなわち、クリップ3aを担持するクリップ担持部材14aにもラッチ解除部材142bと同様のラッチ解除部材を設け、クリップをケーブルホルダの直上に配置する操作がラッチの解除操作を兼ねるように構成することができる。但しこの場合は、2つのドロップケーブルの心線がメカニカルスプライスの長手方向の略中央に位置するように、2つの心線を略同時にメカニカルスプライス内に挿入し、メカニカルスプライスの両側において心線が予め定めた量の撓みを形成するようことが望ましい。或いは、2つの心線の挿入後に、メカニカルスプライスの左右に生じた撓みの大きさが概ね等しくなるようにケーブル位置を調整して、心線の先端がメカニカルスプライスの略中央に位置するようにすることが望ましい。この場合も、過剰なファイバ撓みを解除する工程が実施される。
【0033】
上述の実施形態では、クリップをケーブルホルダの近傍に配置する操作がラッチの解除操作を兼ねていたが、以下に図13及び図14を用いて説明する第2の実施形態では、メカニカルスプライスを閉鎖するレバーを移動させる操作が、実質的にクリップの位置決め操作及びラッチ解除操作を兼ねるものである。
【0034】
図13及び図14に示す第2の実施形態に係る接続構造体1′は、接続すべき2つのドロップケーブル4a′、4b′を受容するベース部材11′と、ヒンジ121′によってベース11′に枢着されるカバー部材12′とを有する。また接続構造体1′は、ベースの略中央に配置されるメカニカルスプライス2′を閉鎖できるように、ヒンジ131′によってベース11′に枢着されるレバー部材13′を有する。なお第2の実施形態では、ケーブル4a′、4b′に取付けたケーブルホルダ44a′、44b′をそれぞれベース11′に固定するクリップ3a′、3b′を担持するクリップ担持部材14a′、14b′がレバー13′のケーブル軸方向両側に一体的に形成し、レバー操作がクリップの位置決め操作も兼ねるようにしている。
【0035】
クリップ担持部材14a′、14b′はそれぞれ、レバー13′がメカニカルスプライス2′を閉鎖する位置に移動したときに、ケーブル4a′、4b′の心線41a′、41b′をそれぞれ案内する心線ガイド112a′、112b′にそれぞれ当接可能な突起142a′、142b′を有する。突起142a′、142b′は、レバー13′と担持部材14a′、14b′との間に、レバーの長手方向と直交する方向に設けられている。一方心線ガイド112a′、112b′は、図14に示すように、接続部1121a′、1121b′によってベース11′に対してケーブル長手方向に概ね垂直な方向に変位可能に接続される。またケーブルホルダ44a′、44b′の後退をそれぞれ阻止するラッチ114a′、114b′は、心線ガイド112a′、112b′の接続部とは反対側の端部に接続される。つまり、本実施形態ではラッチ114a′、114b′の固定端は、ラッチのケーブル挿入方向中心側の端部に設けられ、心線ガイドとラッチとが一体的に弾性変位するように構成されている。
【0036】
次にレバー13′の作用について説明する。なお接続構造体1′を使用する場合でも、ケーブルの心線をメカニカルスプライス内に挿入し、ケーブルホルダをラッチで固定するまでの作業については、接続構造体1を使用する場合と同様でよい。次にレバー13′をベース11′に対して回動させ、メカニカルスプライス2′を閉鎖し、心線41a′、41b′を互いに突き当たった状態で固定する。この状態において、またはこの状態からレバー13′をさらにベース側に押し込むことにより、クリップ担持部材の14a′、14b′の突起142a′、142b′が心線ガイド112a′、112b′をそれぞれ押し下げ、それに伴って心線ガイド112a′、112b′にそれぞれ接続されたラッチ114a′、114b′も下方に変位する。つまり、突起142a′、142b′は間接的にラッチ114a′、114b′を下方に変位させる。これにより、ケーブルホルダ44a′、44b′とラッチ114a′、114b′との係合がそれぞれ解除され、ケーブルホルダ44a′、44b′はそれぞれ心線41a′、41b′の復元力によってメカニカルスプライス2′からケーブル軸方向に離れるように移動する。このように、心線ガイドとラッチとを一体的に構成することにより、レバー操作によってラッチの解除操作をも容易に行うことができる。なお、本実施形態の変形例として、突起を担持部材の外側端部近傍に配することもできる。この場合、突起がケーブルホルダガイドやラッチの外側先端を押し下げるように構成することができる。
【0037】
次にクリップ3a′、3b′をそれぞれケーブルホルダ44a′、44b′に向けて押し込むことにより、ケーブル4a′、4b′がベース11′に固定される。本実施形態では、レバー操作がクリップの位置決め操作及びラッチの解除操作の双方を実質的に兼ねているので、作業者の工数がより少なくて済み、手順ミスを削減できる。最後に、カバー12′を回動させてベース11′に固定し、接続構造体1′を完成させる。なおこの場合も、カバー12′の内側(ベースに向かう側)に、カバー12′が回動したときにクリップ3a′、3b′を押し込むように構成された突状物(図示せず)等を設けておき、クリップの押し込み操作とカバーによる閉鎖操作とを実質同時に行うようにすることができる。
【0038】
上述の各実施形態では、ドロップケーブルにケーブルホルダを取付けて接続する場合について述べたが、外被と心線とが一体的に構成されているケーブルであれば、ケーブルホルダは必須のものではない。例えば、図15に模式的に示すように、ラッチ114の反力を大きくすることによってケーブル4を図示しないベースの長手方向に対して傾斜した状態にして、ケーブル4を庇部分115やラッチ114の突起部分1142等で接触させることにより、必要な摩擦力を生じさせてケーブルを保持し、心線の撓みを維持することができる。或いは、ラッチの突起先端形状を鋭利に構成し、ケーブルの外被にその先端が当接してケーブルを係止するようにしてもよい。
【0039】
別の構成として、図16に模式的に示すように、ケーブルガイド113の相互に向かい合っている面の少なくとも一方に、1又は複数の鋸刃状の突起1131を設け、それによって弾性的にケーブル4を把持してもよい。この場合、ケーブルガイド113の下端、又は心線挿入方向の内側又は外側の一端を支点として、ケーブルガイド113が弾性的に変位できるように構成することができる。そして、クリップ担持部材を回動させたときに、ケーブルガイドの対向する面の間隔を広げるような係合解除部142を設けて、心線41の撓みを解除することもできる。なお、ケーブルがケーブルホルダを有さない場合は、クリップの固定刃の対向間隔は、ケーブルの外被に対して作用するように設定される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る接続構造体の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】接続構造体により接続可能なドロップケーブルの構成を示す図である。
【図3】図1の接続構造体に第1のドロップケーブルを配置した状態を示す図である。
【図4】第1のドロップケーブルの近傍にクリップを配置した状態を示す図である。
【図5】クリップを押し込んでド第1のロップケーブルを固定した状態を示す図である。
【図6】接続構造体に第2のドロップケーブルを配置した状態を示す図である。
【図7】(a)第2のドロップケーブルをラッチで固定する前の状態を示す軸方向部分断面図であり、(b)第2のドロップケーブルをラッチで固定した後の状態を示す軸方向部分断面図である。
【図8】接続構造体のメカニカルスプライスを閉鎖した状態を示す図である。
【図9】第2のドロップケーブルの近傍にクリップを配置した状態を示す図である。
【図10】クリップ担持部材のラッチ解除部材によってラッチを解除した状態を示す軸方向部分断面図である。
【図11】クリップを押し込んで第2のドロップケーブルを固定した状態を示す図である。
【図12】カバーを閉じて接続構造体が完成した状態を示す図である。
【図13】本発明に係る接続構造体の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図14】レバーを押し込むことによりラッチが解除される状態を示す軸方向断面図である。
【図15】ケーブルがケーブルホルダを有さない場合のラッチ回りの構成例を模式的に示す図である。
【図16】(a)ケーブルがケーブルホルダを有さない場合のラッチ回りの他の構成例を模式的に示す図であり、(b)(a)のケーブルホルダガイドとケーブルとの係合を係合解除部により解除した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 接続構造体
2 メカニカルスプライス
3a、3b クリップ
4a、4b ドロップケーブル
11 ベース
12 カバー
13 レバー
14a、14b クリップ担持部材
41a、41b 心線
44a、44b ケーブルホルダ
112a、112b 心線ガイド
114a、114b ラッチ
142b ラッチ解除部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのケーブルが各々有する光ファイバを互いに接続するように構成されたメカニカルスプライスを収容するケースと、
前記ケースに設けられるとともに、前記ケーブルの少なくとも一方を、該少なくとも一方のケーブルの長手方向について、予め定めた距離以上に前記メカニカルスプライスから離れないように前記少なくとも一方のケーブルに係合するように構成された係合部と、
前記少なくとも一方のケーブルと前記係合部との係合を解除するように構成された係合解除部と、
前記ケーブルを前記ケースに固定するクリップ部材を担持するとともに、前記クリップ部材を前記ケーブルの近傍に位置決めできるように前記ケースに対して可動に構成されたクリップ担持部材と、
を有し、
前記係合解除部は、前記クリップ担持部材に一体的に形成されるとともに、前記クリップ部材が前記ケーブルの近傍に位置決めされたときに、前記係合解除部が前記係合部と前記少なくとも一方のケーブルとの係合を解除するように構成される、
接続構造体。
【請求項2】
前記ケースに対して可動に取り付けられた、前記メカニカルスプライスを閉鎖するためのレバー部材をさらに有する、請求項1に記載の接続構造体。
【請求項3】
前記クリップ担持部材は前記レバー部材に一体的に形成される、請求項2に記載の接続構造体。
【請求項4】
前記ケースは、前記メカニカルスプライスを受容するベース部材と、前記ベース部材に対して可動に取り付けられるとともに前記ベース部材と協働して閉鎖体を構成するカバー部材とを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項5】
前記カバー部材は、該カバー部材が前記ベース部材と協働して閉鎖体を構成すべく前記ベース部材に向けて移動したときに前記クリップ部材を前記ケーブルに向けて押し込むように構成された突状物を有する、請求項4に記載の接続構造体。
【請求項6】
前記予め定めた距離は、前記少なくとも一方のケーブルの光ファイバが、前記メカニカルスプライスと前記係合部との間に予め定めた量の撓みを有する状態に保持されるように規定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項7】
前記係合部が、前記ケーブルに取付けられたケーブルホルダと係合する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接続構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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