説明

光ゲート素子

【課題】製造が容易で、任意の偏波方向の光入力信号に対するサンプリングが可能な光ゲート素子を提供する。
【解決手段】半導体基板上に、下部クラッド層、バルク材料からなる活性層13、および、上部クラッド層が順次積層された導波路構造と、少なくともその一部が該導波路構造の上方に形成される上部電極21と、を備え、該導波路構造は、ハイメサ導波路構造Iと、光入射端面10aおよび光出射端面10bのうちの少なくとも一方とハイメサ導波路構造Iとの間に形成され、ハイメサ導波路構造Iと光の導波方向に連続する埋込み導波路構造IIa、IIbと、を含み、上部電極21は、該導波路構造の少なくとも一部の上方に形成される主電極部21aと、ハイメサ導波路構造Iの導波方向の側方、かつ、半導体基板の上方に形成される電極パッド部21bと、主電極部21aと電極パッド部21bとを電気的に接続する接続部21cと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ゲート素子に係り、特に、相互吸収飽和特性を利用して光信号のサンプリングを行うために用いられる光ゲート素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光サンプリング装置においては、光信号のサンプリングを行う光ゲート素子として、電界吸収効果を利用した電界吸収型半導体光変調器(以下、EA光変調器と記す)が用いられている。
【0003】
電界吸収効果とは、電界の印加により半導体材料のバンド構造が変化し、それに伴って光の吸収係数が変化する効果である。具体的には、図13に示すように、EA光変調器に逆バイアス電圧が印加されていない状態では、ある波長域における吸収係数が十分小さく、一方、EA光変調器に逆バイアス電圧が印加されている状態では、吸収スペクトラムが長波長側に移動して該波長域における吸収係数が増加する。
【0004】
従って、上記の波長域にEA光変調器の動作波長が含まれるようにEA光変調器を設計することにより、EA光変調器は、逆バイアス電圧非印加時に光信号を透過させ、逆バイアス電圧印加時に光信号を遮断する光ゲート素子として機能する。このような光ゲート機能を実現できるEA光変調器としては、例えば、特許文献1に開示されたものが公知である。
【0005】
図14に示すように、特許文献1に開示された従来のEA光変調器100においては、n型InP基板61上に、n型InP下部クラッド層62、n側GRIN−SCH層63、MQW吸収層64、p側GRIN−SCH層65、p型InP上部クラッド層66が順次積層されたメサが形成されている。
【0006】
メサの両脇は、半絶縁性のFeドープInP層67、およびn型InP層68で埋め込まれている。半絶縁性のFeドープInP層67を設けるのは、電子トラップ層として働かせると同時に、寄生容量を低減するためである。さらに、容量低減のために、メサに沿ってトレンチ69が形成されている。このようにして寄生容量を低減することにより、いわゆるCR時定数制限による光変調器としての変調周波数限界(=1/πRC)を向上させることができる。これは、EA光変調器100を高周波電圧信号により駆動する際に重要となる。
【0007】
メサ上およびn型InP層68上には、p型InP再成長クラッド層70、およびp型InGaAsコンタクト層71が順次積層され、さらにp側電極72が設けてある。なお、n型InP基板61の上記積層構造の形成面とは他方の面にはn側電極73が設けてある。
【0008】
なお、EA光変調器は、上述のように、印加される逆バイアス電圧に応じて吸収係数が変化する電界吸収効果を利用して光信号を強度変調するだけでなく、ポンプ光として入力される光パルスの光強度に応じて吸収係数が変化する相互吸収飽和特性を利用して光信号を強度変調することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4550371号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されたような従来のEA光変調器においては、FeドープInP層のFeと、該FeドープInP層に隣接するp型InP上部クラッド層中のZnとが相互拡散してFeドープInP層の比抵抗が減少するため、FeドープInP層の半絶縁性層としての信頼性に問題がある。さらに、FeドープInPのような半絶縁性InP材料を用いる埋込み装置と埋込み技術には、多額の設備投資と長い開発期間を必要とするという問題もある。
【0011】
ところで、通常、光通信システムを構成する光ファイバや各種光素子の状態は、外的要因(環境温度や外力等)によって時々刻々変化し、これに起因して光通信システムから送出される光信号の偏波方向も時々刻々変化する。このため、光通信システムからの光信号を測定する装置に適用される光ゲート素子には、任意の偏波方向の光信号に対して常に一定の光ゲート機能を発揮するために偏波無依存性が求められる。MQW構造には、偏波依存性を有するという欠点がある。
【0012】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、製造が容易で、任意の偏波方向の光入力信号に対するサンプリングが可能な光ゲート素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光ゲート素子は、半導体基板上に、下部クラッド層、バルク材料からなる活性層、および、上部クラッド層が順次積層された導波路構造と、少なくともその一部が該導波路構造の上方に形成される上部電極と、前記半導体基板の下方に形成される下部電極と、を備え、相互吸収飽和特性を利用して光信号のサンプリングを行うために用いられる光ゲート素子であって、前記導波路構造は、ハイメサ導波路構造と、光入射端面および光出射端面のうちの少なくとも一方の端面と前記ハイメサ導波路構造との間に形成され、前記ハイメサ導波路構造と光の導波方向に連続する埋込み導波路構造と、を含み、前記上部電極は、前記導波路構造の少なくとも一部の上方に形成される主電極部と、前記ハイメサ導波路構造の前記導波方向の側方、かつ、前記半導体基板の上方に形成される電極パッド部と、前記主電極部と前記電極パッド部とを電気的に接続する接続部と、を含むことを特徴とする構成を有している。
【0014】
この構成により、pn接合による埋込み層と、バルク材料からなる活性層を具備することにより、製造が容易で、任意の偏波方向の光入力信号に対するサンプリングが可能な光ゲート素子を実現できる。
【0015】
また、本発明の請求項2の光ゲート素子は、前記主電極部が、前記ハイメサ導波路構造の上方のみに形成されることを特徴とする構成を有している。
この構成により、埋込み層を介したリーク電流を低減できる。
【0016】
また、本発明の請求項3の光ゲート素子は、前記ハイメサ導波路構造の前記導波方向に直交する幅方向の側面に配置され、前記主電極部の上面に平行な上面、および、前記導波方向に対して所定の角度を成して傾斜する傾斜面を有する接続部形成用部材をさらに備え、前記接続部が、少なくとも前記接続部形成用部材の前記上面および前記傾斜面上の一部に形成されることを特徴とする構成を有している。
【0017】
この構成により、垂直面よりも傾斜の緩い傾斜面上に接続部の一部が形成されることにより、該接続部と電極パッド部の導通を確保できる。
【0018】
また、本発明の請求項4の光ゲート素子は、前記接続部形成用部材が、p型InPおよびn型InPからなる埋込み層を含むことを特徴とする構成を有している。
【0019】
この構成により、多額の設備投資と長い開発期間を必要とするFeドープInPからなる埋込み層の代わりに、一般的なpn接合による埋込み層を採用することにより、光ゲート素子の製造を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、pn接合による埋込み層と、バルク材料からなる活性層を具備することにより、製造が容易で、任意の偏波方向の光入力信号に対するサンプリングが可能な光ゲート素子を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施形態に係る光ゲート素子の概略構成を示す斜視図
【図2】第1の実施形態に係る光ゲート素子の概略構成を示す上面図
【図3】第1の実施形態に係る光ゲート素子の概略構成を示す正面図、および、A−A'線断面図
【図4】第1の実施形態に係る光ゲート素子の製造方法を示す工程図
【図5】第1の実施形態に係る光ゲート素子の製造方法を示す工程図
【図6】本発明に係る光ゲート素子を適用したサンプリング波形測定装置の要部の構成を示す概略図
【図7】本発明に係る光ゲート素子を適用したサンプリング波形測定装置の測定原理を説明する説明図
【図8】第2の実施形態に係る光ゲート素子の概略構成を示す上面図
【図9】第3の実施形態に係る光ゲート素子の概略構成を示す上面図
【図10】第3の実施形態に係る光ゲート素子の要部の構成を示す斜視図
【図11】第3の実施形態に係る光ゲート素子のB−B'線断面図、および、C−C'線断面図
【図12】第3の実施形態に係る光ゲート素子の製造方法を示す工程図
【図13】従来のEA光変調器における光の吸収特性を示すグラフ
【図14】従来のEA光変調器の概略構成を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る光ゲート素子の実施形態について図面を用いて説明する。本発明に係る光ゲート素子は、相互吸収飽和特性を利用して光入力信号のサンプリングを行うものである。
【0023】
なお、本発明に係る光ゲート素子は、光入力信号としては例えば40Gbpsなどの高速信号を想定しているが、印加される電圧信号としては一定の逆バイアス電圧を想定している。従って、本発明に係る光ゲート素子は、電圧信号に対する高速応答性を必要としないため、寄生容量の低減は変調器ほど重要ではなく、FeドープInPからなる埋込み層の代わりに、一般的なpn接合による埋込み層を用いて形成することができる。
【0024】
(第1の実施形態)
本発明に係る光ゲート素子の第1の実施形態を図1〜図7を参照しながら説明する。図1は第1の実施形態に係る光ゲート素子1の概略構成を示す斜視図であり、図2は上面図、図3は正面図(a)、および図2のA−A'線断面図(b)である。なお、各図面上の各構成の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0025】
図2に示すように、光ゲート素子1は、劈開によって形成された光入射端面10aと光出射端面10bとの間に形成された導波路構造を備える。この導波路構造は、さらに、ハイメサ導波路構造Iと、光入射端面10aおよび光出射端面10bのうちの少なくとも一方の端面とハイメサ導波路構造Iとの間に形成され、ハイメサ導波路構造Iと光の導波方向に連続する埋込み導波路構造IIa、IIbと、を含む。ここで、IIaは光入射端面10a側の埋込み導波路構造を、IIbは光出射端面10b側の埋込み導波路構造を指している。なお、以降では、単に導波路構造と記述する場合は、ハイメサ導波路構造Iと埋込み導波路構造IIa、IIbの両方を指すものとする。
【0026】
図1、図3に示すように、導波路構造I、IIa、IIbは、n−InPからなる半導体基板11と、半導体基板11上に形成されたn−InPからなる下部クラッド層12と、下部クラッド層12の上方に形成されたバルクのInGaAsPからなる活性層13と、活性層13の上方に形成されたp−InPからなる上部クラッド層14と、を有する。なお、活性層13は、SCH層(光閉じ込め層)15a、15bに上下を挟まれていてもよいが、これらのSCH層15a、15bは必須の構成要件ではない。
【0027】
下部クラッド層12、活性層13、SCH層15a、15b、および上部クラッド層14は、光入射端面10aから入射した光入力信号を導波させ、導波の過程でこの光入力信号を活性層13で吸収する光導波路を構成する。
【0028】
埋込み導波路構造IIa、IIbにおいては、光導波路の光の導波方向に直交する幅方向の側面に、p−InPからなる下部埋込み層16およびn−InPからなる上部埋込み層17が形成されている。
【0029】
逆バイアス電圧非印加時には、n−InPからなる上部埋込み層17およびp−InPからなる下部埋込み層16は、逆バイアスの方向となり、電流ブロック層として機能する。一方、逆バイアス電圧印加時には、n−InPからなる下部クラッド層12およびp−InPからなる下部埋込み層16、ならびに、n−InPからなる上部埋込み層17およびp−InPからなる上部クラッド層14が、それぞれ逆バイアスの方向となり、電流ブロック層として機能する。
【0030】
導波路構造I、IIa、IIbに含まれる上部クラッド層14上には、p−InGaAsからなるコンタクト層18が形成されている。一方、図2、図3に符号19a、19bを付して示す溝部によって導波路構造I、IIa、IIbと隔てられた上部クラッド層14の上面、ならびに、溝部19a、19bの側面および底面には、例えばSiNx膜またはSiO2膜からなる絶縁層20が形成されている。
【0031】
さらに、上部クラッド層14上には、コンタクト層18または絶縁層20を介して、p型の上部電極21が取付られている。一方、半導体基板11の下面にはn型の下部電極22が取付けられている。
【0032】
溝部19a、19bは、後述するように、上部クラッド層14、上部埋込み層17、下部埋込み層16、および下部クラッド層12をウェットエッチングまたはドライエッチングすることにより形成されるものである。即ち、溝部19a、19bの下方には、半導体基板11(あるいは、下部クラッド層12および半導体基板11)が配置されているが、p−InPまたはn−InPからなる埋込み層は配置されていない。
【0033】
上部電極21は、図2および図3に示すように、導波路構造I、IIa、IIbの上部にコンタクト層18を介して形成される主電極部21aと、ハイメサ導波路構造Iの側方に設けられた溝部19bの上面に絶縁層20を介して形成される電極パッド部21bと、ハイメサ導波路構造Iの側面に絶縁層20を介して形成され、主電極部21aと電極パッド部21bとを電気的に接続する接続部21cと、からなる。なお、図2の上面図において、間隔の広い斜線を施した部分は上部電極21を示しており、間隔の狭い斜線を施した部分は活性層13を示している。
【0034】
なお、図1〜図3には、光入射端面10aおよび光出射端面10bの両端面とハイメサ導波路構造Iとの間に埋込み導波路構造IIa、IIbが形成される構成を示した。光入射端面10aおよび光出射端面10bにおける活性層13の幅Wa、Wbは、光入射端面10aおよび光出射端面10bのそれぞれを介して光結合する光ファイバや光導波路素子との結合効率が適切な値となるように設定すればよい。どちらか一方の端面を介した光結合のみで高い結合効率を得られればよい場合には、埋込み導波路構造IIa、IIbが該一方の端面とハイメサ導波路構造Iとの間のみに形成されてもよい。
【0035】
なお、半導体基板11としてn−InP材料を採用したが、p−InP基板や半絶縁性InP基板などを採用してもよい。また、活性層13を構成するバルク材料としてInGaAsPを採用したが、InGaAsやInGaAlAsを採用してもよい。
【0036】
以下、本実施形態に係る光ゲート素子1の製造方法の一例を図4、図5を用いて説明する。まず、(100)結晶面を上面とし、長尺方向が<011>方向、短尺方向が<0−11>方向である長方形に形成され、n型の不純物がドープされたn−InPからなる半導体基板11を準備する。
【0037】
図4(a)に示すように、半導体基板11の上面に、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いて、層厚が0.5μmでn型不純物の濃度が1.0×1018cm−3であるn−InPからなる下部クラッド層12を形成する。この下部クラッド層12の上面に、層厚が100nm程度のSCH層15aを形成した後、SCH層15aの上面に、層厚が0.1〜0.3μm程度でノンドープのInGaAsPからなるバルクの活性層13を形成し、これに引き続き層厚が100nm程度のSCH層15bを形成する。
【0038】
次に、プラズマCVD法を用いて、層厚が80nmのSiNx膜(またはSiO2膜)をSCH層15bの上面に積層した後、レジスト(不図示)を塗布し、フォトリソグラフィによって光導波路を形成するための形状を有したマスクパターンを露光して現像する。そして、フッ酸によるエッチングでマスクパターンをSiNx膜(またはSiO2膜)に転写して、絶縁性のエッチングマスク27を形成する。
【0039】
なお、図4(a)にはマスクパターン27として1つの素子に相当する部分のみを示しているが、同様のマスクパターンが素子の長尺方向である<011>方向に繰り返し形成されていてもよい。
【0040】
次に、図4(b)に示すように、上記により形成されたエッチングマスク27を用いて、SCH層15b、活性層13、SCH層15a、および下部クラッド層12の途中までをウェットエッチングまたはドライエッチングする。ウェットエッチングの場合は、エッチング液として塩酸系あるいは塩酸/リン酸系のエッチング液を使用することにより、<0−11>方向にほぼ垂直のエッチング面を形成することができる。
【0041】
次に、図4(c)に示すように、エッチングで除去された部分にMOVPE法を用い、エッチングマスク27を成長阻害マスクとして利用して、p−InPからなる下部埋込み層16およびn−InPからなる上部埋込み層17を順次積層する。
【0042】
具体的には、層厚が0.7μmでZnを不純物とし、不純物の濃度が1×1018cm−3である下部埋込み層16と、この下部埋込み層16の上側に、層厚が1.15μmでSiを不純物とし、不純物の濃度が2×1018cm−3である上部埋込み層17を形成する。
【0043】
次に、エッチングマスク27をフッ酸で除去して、図5(d)に示すように、層厚が数μm程度でp型不純物の濃度が5〜7×1017cm−3であるp−InPからなる上部クラッド層14を積層して、上部埋込み層17の上面を覆う。
【0044】
さらに、図5(d)に示すように、プラズマCVD法を用いて、層厚が80nmのSiNx膜(またはSiO2膜)を上部クラッド層14の上面に積層した後、レジスト(不図示)を塗布し、フォトリソグラフィによって導波路構造I、IIa、IIbを形成するための形状を有したマスクパターンを露光して現像する。そして、フッ酸によるエッチングでマスクパターンをSiNx膜(またはSiO2膜)に転写して、絶縁性のエッチングマスク28を形成する。
【0045】
次に、上記により形成されたエッチングマスク28を用いて、上部クラッド層14、上部埋込み層17、下部埋込み層16、および下部クラッド層12をウェットエッチングまたはドライエッチングする。なお、このエッチングは、下部クラッド層12の底面まで行ってもよいし、下部クラッド層12の途中まで行ってもよい。既に述べたように、ウェットエッチングの場合は、<0−11>方向に垂直な面を形成するために、エッチング液として塩酸系あるいは塩酸/リン酸系のエッチング液を使用する。そして、図5(e)に示すように、エッチングマスク28をフッ酸で除去して、上部クラッド層14の上面を露出させる。
【0046】
次に、図5(f)に示すように、導波路構造I、IIa、IIbにおける上部クラッド層14の上面に、層厚が1μm未満のp−InGaAsからなるコンタクト層18をMOVPE法によって積層する。
【0047】
さらに、コンタクト層18が形成されていない上部クラッド層14の上面と、エッチングマスク28を用いたエッチングによって形成された上部クラッド層14、上部埋込み層17、下部埋込み層16、および下部クラッド層12の各側面と、下部クラッド層12(または半導体基板11)の上面に、SiNx膜(またはSiO2膜)からなる絶縁層20を形成する。
【0048】
最後に、図1に示したように、コンタクト層18の上面と絶縁層20の上面および側面の一部にp型の上部電極21を蒸着形成し、さらに、半導体基板11の下面にn型の下部電極22を蒸着形成する。
【0049】
なお、以上の説明では1つの素子に相当する部分のみを示したが、実際には図4、図5に示した工程において、素子の長尺方向や短尺方向に複数の素子が連なった半導体ウエハを形成し、最後に劈開を行って個々の光ゲート素子に分離する。
【0050】
以上のように製造される本実施形態の光ゲート素子1の動作を、光ゲート素子1をサンプリング波形測定装置に適用した場合を例に取って説明する。ここでは、光ゲート素子1は、ポンプ光として入力される光パルスPsの光強度に応じて吸収係数が変化する相互吸収飽和特性を利用して、光入力信号の強度変調を行うとする。
【0051】
図6は、本実施形態の光ゲート素子1を適用したサンプリング波形測定装置の要部の構成を示す概略図である。光ゲート素子1の活性層13を含む光導波路に、光入射端面10a側から光通信システム(不図示)からの光入力信号(例えば、40Gbps)が入力される。光ゲート素子1には、光入力信号の波長に対して高い吸収係数を示す逆バイアス電圧Vbが、直流電源40から上部電極21および下部電極22を介して加えられている。
【0052】
この状態で、光パルス発生器(不図示)からの光パルスPsが光サーキュレータ50を介して光出射端面10b側から光導波路に入力される。光パルスPsがオンとなる期間では、活性層13内でキャリアが励起される。この励起キャリアが活性層13内に蓄積されることにより、活性層13における光吸収が飽和し、吸収係数(光損失)が小さい状態(即ち、ゲートが開いた状態)となる。
【0053】
一方、光パルスPsがオフとなる期間では、光パルスPsがオンとなる期間に励起されたキャリアが速やかに活性層13に吸収され、吸収係数(光損失)が大きい状態(即ち、ゲートが閉じている状態)となる。
【0054】
これにより、光パルスPsがオンとなるタイミングで光入力信号がサンプリングされて光出射端面10b側から出力される。サンプリングされた光入力信号は光サーキュレータ50を介して受光器(不図示)に入力される。
【0055】
図7は、サンプリング波形測定装置のサンプリング波形の測定原理を説明する説明図である。光パルスPs(図7(b))の繰返し周期は光入力信号(図7(a))の繰返し周期の整数倍よりも僅かに長く設定されており、光入力信号のパルス波形上の相対的なサンプリング位置は、その一つ前のサンプリング位置よりも僅かに後方となる。
【0056】
この相対的なサンプリング位置の差をΔtとすると、光入力信号が繰返し波形の場合、光入力信号を0、Δt、2Δt、3Δt・・・の位置でサンプリングしたものと等価な信号が光ゲート素子1から出力される。
【0057】
光ゲート素子1の出力信号(図7(c))からは、光入力信号のパルス波形を時間軸方向に拡大した包絡線が得られる。従って、低速の受光器(不図示)やAD変換回路(不図示)を用いて高速の光入力信号の波形を観測することが可能になる。
【0058】
以上説明したように、本発明に係る光ゲート素子は、製造が容易で、任意の偏波方向の光入力信号に対するサンプリングを可能とすることができる。さらに、本発明に係る光ゲート素子は、バルク材料からなる活性層を具備することにより、MQW構造を採用した場合と比較して動作波長帯域を広くすることができる。
【0059】
(第2の実施形態)
本発明に係る光ゲート素子の第2の実施形態を図8を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0060】
本実施形態の光ゲート素子2においては、主電極部21aが、ハイメサ導波路構造Iの上方のみに形成される。言い換えれば、下部埋込み層16および上部埋込み層17をそれぞれ有する埋込み導波路構造IIa、IIbの上方には、主電極部21aが形成されない。この構成により、第1の実施形態と比較して、埋込み層を介したリーク電流を低減することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
本発明に係る光ゲート素子の第3の実施形態を図9〜図12を参照しながら説明する。なお、第1または第2の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0062】
上記の実施形態においては、上部電極21の接続部21cは、ハイメサ導波路構造Iの<0−11>方向にほぼ垂直な側面に絶縁層20を介して形成されている。この側面に平坦度の乱れ(凹凸)があると、上部電極21を形成する工程において接続部21cに途切れが発生し易くなる。本実施形態の光ゲート素子3はこの点を改善するものである。
【0063】
図9は第3の実施形態に係る光ゲート素子3の概略構成を示す上面図であり、図10は要部の構成を示す斜視図、図11は図9のB−B'線断面図(a)および図9のC−C'線断面図(b)である。なお、各図面上の各構成の寸法比や角度は、実際の寸法比や角度と必ずしも一致していない。
【0064】
光ゲート素子3は、図11(a)に示すように、ハイメサ導波路構造Iの光の導波方向に直交する幅方向の側面に配置される接続部形成用部材23を備える。接続部形成用部材23は、下部クラッド層12、下部埋込み層16、上部埋込み層17、上部クラッド層14、および絶縁層20の一部からなる。
【0065】
図11(b)は接続部形成用部材23を含む領域の<0−11>方向に垂直な断面を示しており、図11(a)、(b)に示すように、接続部形成用部材23は、主電極部21aの上面に平行な上面24a、光の導波方向に対して所定の角度θを成して傾斜する傾斜面24b、24c、および、<0−11>方向にほぼ垂直な垂直面24dを有する。
【0066】
上部電極21の接続部21cは、この接続部形成用部材23の上面24a、傾斜面24b、24c、および垂直面24d上に蒸着形成され、図10、図11(b)に示すように、接続部形成用部材23の上記各面に対応する上面25a、傾斜面25b、25c、および垂直面25dを有する。傾斜面25b、25c、および垂直面25dは、電極パッド部21bに連続している。
【0067】
上記の構成の接続部形成用部材23および上部電極21を形成する際には、まず、第1の実施形態の図4(a)〜(c)に示した工程を経た後、図5(d)に示した工程において、導波路構造I、IIa、IIbを形成するためのエッチングマスクとして、図12に符号29を付して示す形状のものを上部クラッド層14上に形成すればよい。
【0068】
そして、このエッチングマスク29を用いて、p−InPからなる上部クラッド層14、n−InPからなる上部埋込み層17、p−InPからなる下部埋込み層16、およびn−InPからなる下部クラッド層12をウェットエッチングまたはドライエッチングする。
【0069】
ウェットエッチングの場合は、エッチング液として塩酸系あるいは塩酸/リン酸系のエッチング液を使用することにより、<0−11>方向に垂直な面と、<011>方向に約45度(即ち、θ=45°)の傾斜面24b、24cを出すことができる。
【0070】
その後、エッチングマスク29をフッ酸で除去して、コンタクト層18、絶縁層20を順次形成し、コンタクト層18の上面および絶縁層20の上面の一部にp型の上部電極21を蒸着形成する。
【0071】
このように、接続部形成用部材23が傾斜面24b、24cを有することにより、上部電極21の垂直面25dで途切れが発生したとしても、傾斜の緩い傾斜面25b、25c側で導通を確保できるため、上述の途切れの問題を解消することができる。
【0072】
なお、接続部形成用部材23は、上記の埋込み層に限らず、比誘電率εrの小さいポリイミドなどで形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る光ゲート素子は、サンプリング波形測定装置や、サンプリング波形測定装置に光入力信号の品質を表す値を算出する信号品質算出回路を追加した信号品質モニタに適用可能な光ゲート素子として有用である。
【符号の説明】
【0074】
1、2、3 光ゲート素子
10a 光入射端面
10b 光出射端面
11 半導体基板
12 下部クラッド層
13 活性層
14 上部クラッド層
15a、15b SCH層
16 下部埋込み層
17 上部埋込み層
18 コンタクト層
19a、19b 溝部
20 絶縁層
21 上部電極
21a 主電極部
21b 電極パッド部
21c 接続部
22 下部電極
23 接続部形成用部材
24a、25a 上面
24b、24c、25b、25c 傾斜面
24d、25d 垂直面
27、28、29 エッチングマスク
40 直流電源
50 光サーキュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(11)上に、下部クラッド層(12)、バルク材料からなる活性層(13)、および、上部クラッド層(14)が順次積層された導波路構造と、少なくともその一部が該導波路構造の上方に形成される上部電極(21)と、前記半導体基板の下方に形成される下部電極(22)と、を備え、相互吸収飽和特性を利用して光信号のサンプリングを行うために用いられる光ゲート素子であって、
前記導波路構造は、ハイメサ導波路構造と、
光入射端面(10a)および光出射端面(10b)のうちの少なくとも一方の端面と前記ハイメサ導波路構造との間に形成され、前記ハイメサ導波路構造と光の導波方向に連続する埋込み導波路構造と、を含み、
前記上部電極は、前記導波路構造の少なくとも一部の上方に形成される主電極部(21a)と、前記ハイメサ導波路構造の前記導波方向の側方、かつ、前記半導体基板の上方に形成される電極パッド部(21b)と、前記主電極部と前記電極パッド部とを電気的に接続する接続部(21c)と、を含むことを特徴とする光ゲート素子。
【請求項2】
前記主電極部が、前記ハイメサ導波路構造の上方のみに形成されることを特徴とする請求項1に記載の光ゲート素子。
【請求項3】
前記ハイメサ導波路構造の前記導波方向に直交する幅方向の側面に配置され、前記主電極部の上面に平行な上面(24a)、および、前記導波方向に対して所定の角度を成して傾斜する傾斜面(24b、24c)を有する接続部形成用部材(23)をさらに備え、
前記接続部が、少なくとも前記接続部形成用部材の前記上面および前記傾斜面上の一部に形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光ゲート素子。
【請求項4】
前記接続部形成用部材が、p型InPおよびn型InPからなる埋込み層(16、17)を含むことを特徴とする請求項3に記載の光ゲート素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−83474(P2012−83474A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228584(P2010−228584)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】