説明

光ディスク装置、及び光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路

【課題】光ディスク装置において、トラッキングアクチュエータ駆動回路出力の電気的なオフセットによるレンズシフトをキャンセルする方法が望まれる。
【解決手段】トラッキングサーボ制御回路に、トラッキングアクチュエータ駆動回路の出力電流を略0にする第1の動作モードと、その入力に所定の電位を供給する第2の動作モードを設ける。第1の動作モードで検出されるプッシュプル信号の平均電位V1を求める。第2の動作モードで供給する電位を変化させて所定量だけ双方の半径方向に対物レンズを移動させ、レンズの移動量に対するプッシュプル信号の平均電位と前記供給電位の相関関係を求める。前記電位V1と前記相関関係よりオフセット量を求め該オフセットをキャンセルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスク装置、及び光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路に係り、特にトラッキングサーボ制御の性能を向上した光ディスク装置、及び光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置の分野においては、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray Disk)と進化しながら、記録の高密度化が進んでいる。例えばデータを記録するトラックのピッチは、CDで1.6μm、DVD−R(Recordable)で0.74μm、BD−Rで0.32μmと狭くなってきている。このため光ディスクから信号を再生する際のトラッキングサーボ制御には、いっそう高い精度が要求されている。
【0003】
特許文献1においては、光ピックアップの半径方向に受光面を分割された受光素子の信号成分のエンベロープからオフセットを検出して、プッシュプル信号の信号レベルを補正する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−7200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ディスク装置では、プッシュプル信号を用いて、トラッキングサーボ制御を行っている。この、プッシュプル信号は例えば正弦波状の周期的な信号であるが、光ディスクにおける反射面の形状などの要因により、正方向と負方向の振幅が異なることがある。またレーザ光を照射し反射光を受光する光ピックアップを駆動する電気回路に非対称性があって、プッシュプル信号の振幅中心がずれることがある。これらの要因がトラッキングオフセットを発生させ、記録トラックの中心からレーザ光の光スポットがずれた状態で、トラックトレースをするようになる。そして、光スポットのずれが、例えば再生信号のエラーレートを低下させ、或いは衝撃などによりトラッキング外れを起こし易くさせるという問題がある。
【0006】
また、昨今の光ディスク装置においては、前記したように高精度なトラッキングサーボ制御性能が要求されるほか、消費電流を低減する要求が強まっている。このため、光ピックアップが有する対物レンズにおける、光ディスクの半径方向の位置を微調整するための駆動電流当たりのレンズシフト量、即ちトラッキングアクチュエータの直流感度が高くなっている。
【0007】
なお、該トラッキングアクチュエータを駆動するためのドライバ回路の駆動出力には、例えば数十mA程度の電気的なオフセットのあることが多い。つまり、現在のトラッキング位置が最適であれば駆動出力が0mAとなるように設計した場合でも、実際には最適な位置では前記した数十mAのオフセット電流がトラッキングアクチュエータに供給される。一方、トラッキングサーボ制御回路はオフセット電流が0mAであることを前提に、駆動出力が0mAとなる位置をトラッキングするように、トラッキングアクチュエータを制御する。このため、前記オフセット電流に応じた分だけレンズが内周又は外周方向にシフトした状態でトラッキングサーボ制御を行うことになるが、レンズシフトによる光学的な位置ずれによりプッシュプル信号の平均電位もオフセットしてしまうため、最適な位置からずれた位置をトラッキングトレースしてしまう問題がある。
【0008】
そして、前記したようにアクチュエータの直流感度が高くなるとともに、オフセット電流によるトラッキング中心の最適位置からのずれが、さらに大きくなるという問題が新たに発生している。
【0009】
また、駆動電流が0mAとなるように設計した場合でも発生する数十mAのオフセット電流は、定格電流で許容されるアクチュエータ駆動電流範囲を、オフセット電流分だけ狭める。このため、想定されるオフセット電流分だけアクチュエータ駆動範囲を狭く設計しておかなければならない。これにより、アクチュエータ自身の持つ定格電流で許容される可動範囲を充分に生かして駆動することができないという問題もある。
本発明の目的は、トラッキングサーボ制御の性能を向上した光ディスク装置、及び光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため本発明は、光ディスクを記録媒体とし該記録媒体に対してレーザ光を照射して情報信号を記録し再生する光ディスク装置であって、前記レーザ光を発生するレーザ光源と、該レーザ光源の発生した前記レーザ光を集光して前記光ディスクに照射する対物レンズと、前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を調整するトラッキングアクチュエータを有し、前記光ディスクの記録トラックに情報信号を記録し、或いは前記光ディスクの記録トラックに記録された情報信号を再生する光ピックアップと、前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報に基づき、前記トラッキングアクチュエータを駆動して前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を制御するトラッキングサーボ制御を行うトラッキングサーボ制御部と、前記光ディスク装置の動作を制御する全体制御部を有し、前記トラッキングサーボ制御部は、前記トラッキングアクチュエータに供給する駆動電力を略0に設定する第1の動作モードと、前記トラッキングサーボ制御部に前記全体制御部からの制御に基づき供給される所定の入力電位に応じて前記トラッキングアクチュエータに所定の駆動電力を供給する第2の動作モードと、前記トラッキングサーボ制御部に前記全体制御部から前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報が供給され該位置情報に基づき前記トラッキングアクチュエータに駆動電力を供給する第3の駆動モードを有し、該全体制御部は、前記光ディスクが前記光ディスク装置に装着された際に、前記トラッキングサーボ制御部を前記第1の動作モードに設定して、前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報を求め、次いで前記トラッキングサーボ制御部を前記第2の動作モードに設定し、前記トラッキングサーボ制御部に供給する入力電位を、前記対物レンズが前記光ディスクの双方の半径方向に所定量だけ変化させる駆動電力を前記トラッキングアクチュエータに供給するように設定して、前記入力電位と前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報の相関関係を求め、次いで前記第1の動作モードでの相対的な位置情報と前記第2の動作モードでの相関関係に基づき前記トラッキングサーボ制御部に供給する入力電位をシフトして、前記トラッキングサーボ制御部を前記第3の動作モードに設定し、前記光ディスク装置のトラッキングサーボ制御を行うことを特徴としている。
【0011】
また本発明は、光ディスクを記録媒体とし光ピックアップを用いて前記記録媒体に対して情報信号を記録し再生する光ディスク装置における、前記光ピックアップが前記情報信号の記録トラックをトレースするための光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路であって、前記光ピックアップの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報を示す信号が供給され、該信号に基づく駆動電力を生成して前記光ピックアップに供給し、前記光ピックアップの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を制御するトラッキング駆動部を有し、該トラッキング駆動部は前記光ピックアップに対して前記駆動電力を略0とする動作モードを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トラッキングサーボ制御の性能を向上した光ディスク装置、及び光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路を提供でき、光ディスク装置の基本性能の向上に寄与できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例における光ディスク装置の制御系のブロック図である。
【図2】本発明の一実施例における光ディスク装置のトラッキングサーボ制御系のブロック図である。
【図3】本発明の一実施例におけるトラッキングアクチュエータコイルの駆動方法を示す回路図である。
【図4】本発明の一実施例におけるトラッキング駆動値とレンズシフト量の関係を示す図である。
【図5】本発明の一実施例におけるレンズシフト量とプッシュプル信号振幅平均値の関係を示す図である。
【図6】本発明の一実施例におけるトラッキング駆動値とプッシュプル信号振幅平均値及びプッシュプル信号波形の関係を示す図である。
【図7】本発明の一実施例におけるオフセットキャンセル処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例につき図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例における光ディスク装置の制御系のブロック図である。光ディスク装置に光ディスク3が装着されると、ディスクモータ回転制御部9はプロセッサ部5からの指示に応じてディスクモータ91を制御し、光ディスク3を所定の速度で回転させる。なお、プロセッサ部5は光ディスク装置の少なくもサーボ制御系全体を統括するものであり、以下では全体制御部と呼ぶことがある。
【0015】
またフォーカスサーボ制御部8は、プロセッサ部5からの指示に応じて光ピックアップ2の有するフォーカスアクチュエータ(図示せず)を制御して、光ピックアップ2で検出された再生信号を参照しながら、光ピックアップ2の有する対物レンズ(図2の21)の光ディスク3に対する垂直方向の位置を微調整する。これにより光ピックアップ2の有するレーザ光源(図示せず)が発生するレーザ光は、光ディスク3の記録層に対して正しく焦点を結ぶ。
またレーザパワー制御部7は、プロセッサ部5からの指示に応じて光ピックアップ2の有するレーザ光源を制御して、装着された光ディスク3の種類に応じた最適な記録ないし再生パワーのレーザ光を発生させるようにする。
なお、フォーカスサーボ制御とレーザパワー制御の詳細については、本発明と直接には関わらないので説明を省略する。
【0016】
前記したフォーカスサーボ制御とレーザパワー制御が行われた後、トラッキングサーボ制御部1は、プロセッサ部5からの指示に応じて光ピックアップ2の有するトラッキングアクチュエータ(図2の22)を制御して、より具体的には光ピックアップ2の有するトラッキングアクチュエータコイル(図2の221)に制御電流を供給して、光ピックアップ2で検出された再生信号を参照しながら、光ピックアップ2の有する対物レンズ(図2の21)の光ディスク3に対する半径方向の位置を微調整する。より具体的にはレンズ位置検出部4は、例えば前記再生信号に含まれるプッシュプル信号を検出する。周知のようにプッシュプル信号とは、反射光の強度が記録層のランド部とグルーブ部で異なることから発生するものであって、その平均電位は光ピックアップ2と記録トラックの、光ディスク3に対する半径方向の相対的な位置を示す情報信号となる。
【0017】
このプッシュプル信号の平均電位は、前記したように光ピックアップ2を駆動するためのトラッキングアクチュエータコイル駆動部(図2の11)における、回路的な要因によるオフセットを有している。このため本実施例においては、プロセッサ部5は再生されたプッシュプル信号に基づき前記オフセット量を算出し、これをトラッキングサーボ制御部1の有するトラッキングアクチュエータコイル駆動部(図2の11)の入力に付加する電圧値に換算してオフセットキャンセル部6に供給し、前記オフセットをキャンセルするようにしている。これにより光ピックアップ2は、光ディスク3の記録トラックの中心位置を正しくトラックトレースするように半径方向の位置が微調整される。
【0018】
トラッキングアクチュエータコイル駆動部(図2の11)の入力に付加する電圧値を求める方法として、前記したようにレンズ位置検出部4で検出されたプッシュプル信号を用いる例を示した。これは一例であって、前記オフセットによる対物レンズ(図2の21)のレンズ位置のシフト量を知る方法であれば、何であっても良い。例えばレンズシフト量を光学的な手法で求めたうえで、これを電気信号に変換しても良い。一例として前記のようにプッシュプル信号を用いた場合においても、本質的にはプッシュプル信号に基づきレンズシフト量を求め、該レンズシフト量からトラッキングアクチュエータコイル駆動部(図2の11)の入力における電圧オフセットを求めることになる。このため本実施例では、レンズ位置検出部4はプッシュプル信号検出部に限定されない。
【0019】
なお、以上示した以外に光ピックアップ2は、前記したフォーカスサーボ制御部8が行うフォーカスサーボ制御で使用するための構成要素として、対物レンズ21の光ディスク3に対する垂直方向の位置を微調整するための、フォーカスアクチュエータやフォーカスアクチュエータコイルを含むことは言うまでもない。
【0020】
次に、前記した回路的な要因によるオフセットをキャンセルする方法につき、さらに詳しく説明する。
図2は、本発明の一実施例における光ディスク装置のトラッキングサーボ制御系のブロック図である。図1で示した構成要素と同様で良いものには同じ符号を付している。
【0021】
本実施例においては、トラッキングサーボ制御部1がトラッキングアクチュエータコイル駆動部11、フィードバック制御部12のほかに学習部13を有することに一つの特徴がある。動作モードに応じてスイッチ14が切替り、フィードバック制御部12または学習部13からの制御信号がトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に供給される。これに応じてトラッキングアクチュエータコイル駆動部11は、光ピックアップ2の構成要素であるトラッキングアクチュエータ22が有するアクチュエータコイル221に制御電流を供給し、トラッキングアクチュエータ22に搭載された対物レンズ21の半径方向の位置を移動させている。
【0022】
本実施例において、トラッキングサーボ制御部1は二つの動作モードを有する。一つはフィードバック制御モードであり、スイッチ14はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対し、フィードバック制御部12からの制御信号を供給する。残る一つは学習モードであり、スイッチ14はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対し、学習部13からの制御信号を供給する。これらの動作モードを図3に基づいて説明する。
【0023】
図3は、本発明の一実施例におけるトラッキングアクチュエータコイルの駆動方法を示す回路図である。アクチュエータコイル221に対する電流供給端子(図中のT+とT−)の近傍に、これらを電源ないしグランドに接続するためのスイッチ15A〜15Dが設けられている。スイッチ15A〜15Dは前記した動作モードにより、フィードバック制御部12ないし学習部13からの制御信号に応じて、次のように切替えられる。
【0024】
まず学習モードにおいては、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11はアクチュエータコイル221に対する駆動電流を0とする状態を作る。そのためには、一つ目の方法としてスイッチ15A〜15Dの全てをOFFにし、出力インピーダンスが高い状態すると良い。二つ目の方法としてスイッチ15Aと15CをOFFに15Bと15DをONにし、電流供給端子をグランド電位とすると良い。三つ目の方法としてスイッチ15Aと15CをONに15Bと15DをOFFにし、電流供給端子を電源電位とすると良い。四つ目の方法としてスイッチ15Aと15BをOFFにし、15Cと15Dに例えば相補的なスイッチングをさせても良いし、またスイッチ15Cと15DをOFFにし、15Aと15Bに例えば相補的なスイッチングをさせても良い。なお、アクチュエータコイル221に流れる電流が0とは、前記のように回路設計上で0にするのであって、不可避な漏れ電流がある場合も含まれる。従い以下では前記した状態において、流れる電流が略0と記述する場合がある。
【0025】
すなわち学習モードにおいては、アクチュエータコイル221に流れる電流が0である状況を作っている。この状態でレンズ位置検出部4は、例えば光ピックアップ2で再生されたプッシュプル信号の平均電位を検出する。後記するように、学習モードでのプッシュプル信号の平均電位は、前記したオフセット量を知るうえでの一つの情報となる。
従来のトラッキングアクチュエータコイル駆動部においては、前記した学習モードのような出力電流を略0にする動作モード、例えば出力インピーダンスが高い状態にする動作モードを有することはなかった。前記したように消費電流を低減する要求が強まるとともに、トラッキングアクチュエータの直流感度が高くなっている。これにより、回路的なオフセットを低減する必要がこれまで以上に生じたために、本実施例で新たに設けられた動作モードである。
【0026】
次に図2のスイッチ14を切替え、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対し、フィードバック制御部12からの制御信号を供給する。まだ前記したオフセット量は不明であるので、オフセットキャンセル部6は正しく動作していない。また、フィードバック制御部12は、最終的にはフィードバック制御によるトラッキングサーボ制御を行うため、このように名付けている。しかし、本実施例の特徴である前記オフセットを検出してキャンセルする動作の段階においては、フィードバックループがオープンである点に注意が必要である。
【0027】
まず、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11はトラッキングアクチュエータ22に対してPWM(Pulse Width Modulation)駆動を行う。すなわち図3において、スイッチ15Aと15DがONで15Bと15CがOFFである第1の期間と、これとはスイッチの極性が逆である第2の期間とを設け、第1の期間と第2の期間の時間比率を変えながらトラッキングアクチュエータ22を駆動する。前記第1の期間と第2の期間の時間比率を変えることにより、対物レンズ21は、記録トラックを跨ぎながら光ディスク3の半径方向に移動される。
周知のように、対物レンズ21の位置に係るレンズシフト量と、レンズ位置検出部4で検出される例えばプッシュプル信号の平均電位はほぼ比例関係にある。
【0028】
プロセッサ部5は、レンズシフト量、レンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号の平均電位と、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11に与える駆動電圧の関係を求める。設計上でトラッキングアクチュエータコイル221の電流を0にするトラッキング駆動値(電位)と、先に学習モードで求めた平均電位の差は、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の電流出力部における回路的なオフセット量に対応した電圧値である。この電圧値に基づきプロセッサ5が求めたオフセットキャンセル用の電圧値をオフセットキャンセル部6に供給する。オフセットキャンセル部6は、供給された電圧値をレンズ位置検出部4での検出信号からシフトする。この状態でプロセッサ部5が先のフィードバックループを閉じれば、回路的なオフセットによるレンズシフトをキャンセルした状態、すなわち、対物レンズ21が光ディスク3の記録トラックの中心をトレースする際に、アクチュエータコイル221に供給される電流が0となる状態でトラッキングサーボ制御をすることができる。これにより前記したようなエラーレートの劣化や衝撃によるトラッキング外れを低減できる。
【0029】
以上の事項を図4〜図6に基づいてさらに説明する。
図4は、本発明の一実施例におけるトラッキング駆動値とレンズシフト量の関係を示す図である。図4の破線は、前記したようなオフセットを持たない理想的な場合であって、トラッキング駆動値が0であればレンズシフト量は0であり、互いに比例関係にある。実線で示すように実際には、トラッキング駆動値が0であっても図中にbで示すだけのレンズシフト量があり、レンズシフト量が0であるためには、すなわち学習モードと同じレンズシフト量とするためには、トラッキング駆動値を図中にaで示すだけ変更せねばならない。この値aは、オフセットキャンセル部6でシフトする電圧値を示している。
【0030】
図5は、本発明の一実施例におけるレンズシフト量とプッシュプル信号平均電位の関係を示す図である。
周知のとおり、レンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号の振幅平均値は、対物レンズ21のレンズシフト量との間で比例した関係にある。レンズシフト量0の位置においては振幅平均値が決まった値eを示している。従って図4と図5から分かるように、レンズシフト量、プッシュプル信号平均電位とトラッキング駆動値は決まった相関関係にある。即ち、プッシュプル信号平均電位からレンズシフト量を求め、さらにオフセットキャンセル部6でトラッキング駆動値からシフトする電圧値を求めることができる。
【0031】
図6は、本発明の一実施例におけるトラッキング駆動値とプッシュプル信号平均電位及びプッシュプル信号波形の関係を示す図である。図の右半分に示したトラッキング駆動値とプッシュプル信号平均電位の関係は、図4と同様に破線が理想的な場合、実線は実際の場合である。
【0032】
図の左半分はプッシュプル信号波形の時間変化の一例であって、横軸は時間を示す。時間軸は前記したオフセットをキャンセルする手順に従って示している。
まず、トラッキングサーボ制御ループは開いた状態にある。トラッキングサーボ制御部1は前記した学習モードに設定され、アクチュエータコイル221の電流を略0にした状態で、レンズ位置検出部4はプッシュプル信号601を検出する。プロセッサ部5はその平均電位Cを求める。
【0033】
次にトラッキングサーボ制御部1は前記したフィードバック駆動モードに設定されるが、まだフィードバックループは開いた状態にある。フィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上でアクチュエータコイル221の電流を0にするトラッキング駆動値(電位)を供給する。実際には前記したオフセットがあるため、いくらかの電流がトラッキングアクチュエータコイル221に流れる。従い対物レンズ21は、先の学習モードとは異なる光ディスク3に対する半径方向位置(以下、初期の位置と呼ぶ)となる。この状態で、レンズ位置検出部4はプッシュプル信号602を検出する。プロセッサ部5はその平均電位Bを求める。
【0034】
次にフィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上で対物レンズ21が例えば前記初期の位置から100μmだけ一方向に移動するよう、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11にトラッキング駆動値A2を供給する。この状態で、レンズ位置検出部4はプッシュプル信号603を検出する。プロセッサ部5はその平均電位A1を求める。
【0035】
次にフィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上で対物レンズ21が例えば前記初期の位置から100μmだけ反対方向に移動するよう、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11にトラッキング駆動値D2を供給する。この状態で、レンズ位置検出部4はプッシュプル信号604を検出する。プロセッサ部5はその平均電位D1を求める。
【0036】
以上のようにすることで、プロセッサ部5は、対物レンズ21のレンズシフト量、レンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号の平均電位、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の入力部におけるトラッキング駆動値(電位)の3つの間の相関関係を知ることができる。
【0037】
さらにプロセッサ部5は、先に求めたプッシュプル信号平均電位であるBとCの差を求め、前記した相関関係を参照して、このプッシュプル信号平均電位の差に相当するレンズシフト量を求める。
次にプロセッサ部5は、前記した相関関係を参照して、前記したレンズシフト量に相当するトラッキングアクチュエータコイル駆動部11の入力部におけるトラッキング駆動値の電位差を求める。
【0038】
さらにプロセッサ部5は、前記電位差に対応したオフセット電位(図中のC2)をオフセットキャンセル部6に与えて、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の出力部の回路的なオフセットをキャンセルする。するとレンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号605のプロセッサ部5で求められる平均電位はCとなり、先の学習モードでの値と一致する。これによりプロセッサ部5からオフセットキャンセル部6に与えられるトラッキング駆動値が0である場合でも、アクチュエータコイル221を流れる電流も略0となり、等価的に図4の破線で示した理想的な状態とすることができる。即ち、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の電流出力部における回路的なオフセットを、キャンセルすることができる。その後、前記したフィードバックループを閉じることにより、所定のトラッキングサーボ制御を行うことができる。これにより前記したようなエラーレートの劣化や衝撃によるトラッキング外れを低減し、また制御可能な範囲が狭められることを抑制し、アクチュエータ自身が持つ定格電流によって許容される可動範囲を充分に生かしたトラッキングサーボ制御を行うことができるという効果がある。
【0039】
なお、対物レンズ21を移動する量として前記初期の位置から100μmとする例を示したが、これは一例であって実際にはいくらであっても良い。レンズシフト量、プッシュプル信号の平均電位、トラッキング駆動値の関係を求めることができれば良い。半径方向の双方に移動する必要はなく、例えば一方向に50μm、或いは100μm移動するだけでも良い。また、片側に100μm、残る片側に50μm移動しても良い。
【0040】
次に図7に基づき本実施例の動作フローを説明する。
図7は、本発明の一実施例におけるオフセットキャンセル処理のフロー図である。まずステップS701において、プロセッサ部5はフォーカスサーボ制御部8に指示して、光ピックアップ2が有するレーザ光源の発生するレーザ光が、光ディスク3に対して焦点を結ぶように対物レンズ21の光ディスク3に対する垂直方向の位置を微調整して、フォーカスサーボ制御を行う。ステップS701では、トラッキングサーボ制御はまだ行わない。
【0041】
ステップS702において、プロセッサ部5はトラッキングサーボ制御部1に指示して、これを学習モードにモード設定する。すなわち、スイッチ14が図2に示す方向とは逆の方向に接続され、学習部13とトラッキングアクチュエータコイル駆動部11は互いに接続される。これによりトラッキングアクチュエータコイル駆動部11の出力部は、先に図3を用いて説明したように、アクチュエータコイル221に流す電流を0とするように、例えば出力インピーダンスが高い状態に設定される。なお、ステップS702とS703は順序が逆であっても良い。
【0042】
ステップS703において、プロセッサ部5は前記学習モードにおいてレンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号601の平均電位を取得する。これは図6の値Cに相当する。
【0043】
ステップS704において、プロセッサ部5はトラッキングサーボ制御部1に指示して、フィードバックモードにモード設定する。すなわち、スイッチ14が図2で示すの方向に接続され、フィードバック制御部13とトラッキングアクチュエータコイル駆動部11は互いに接続される。この段階ではまだオフセットキャンセル部6の設定ができていないので、まだプロセッサ部5はフィードバックループを開いている。
【0044】
ステップS705において、フィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上でトラッキングアクチュエータコイル221の電流を0にするトラッキング駆動値(電位)を供給する。実際には前記したオフセットがあるため、いくらかの電流がトラッキングアクチュエータコイル221に流れる。この状態で、プロセッサ部5はレンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号602の平均電位を取得する。これは図6の値Bに相当する。
【0045】
ステップS706において、フィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上で対物レンズ21を例えば光ディスク3の一方の半径方向に100μmほどレンズシフトさせるトラッキング駆動値を与える。この状態で、プロセッサ部5はレンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号603の平均電位を取得する。これは図6の値A1に相当する。また、フィードバック制御部12はトラッキングアクチュエータコイル駆動部11に対して、その設計上で対物レンズ21を例えば光ディスク3の残る一方の半径方向に100μmほどレンズシフトさせるトラッキング駆動値を与える。この状態で、プロセッサ部5はレンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号604の平均電位を取得する。これは図6の値D1に相当する。以上により、対物レンズ21のレンズシフト量、レンズ位置検出部4で検出されるプッシュプル信号の平均電位、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の入力部におけるトラッキング駆動値(電位)の3つの間の相関関係を、プロセッサ部5は知ることができる。
【0046】
ステップS707において、プロセッサ部5は、ステップS703で検出された平均電位CとステップS705で検出された平均電位Bの差が、いくらのレンズシフト量に相当するかをステップS706での結果を参照して求める。
ステップS708において、プロセッサ部5は、ステップS707で求めたレンズシフト量がトラッキングアクチュエータコイル駆動部11の入力部におけるトラッキング駆動値として、いくらの電位差に相当するかをステップS706での結果を参照して求める。
【0047】
ステップS709において、プロセッサ部5はオフセットキャンセル部6に指示し、トラッキングアクチュエータコイル駆動部11の入力部のトラッキング駆動値を、ステップS708で求めた電位差に対応する分、オフセットがキャンセルされる方向にシフトさせる。以上のようにすることで、電気的な要因によるオフセットをキャンセルすることができる。
【0048】
最後にステップS710で、プロセッサ部5はフィードバックループを閉じたうえでトラッキングサーボ制御部1に指示して、所定のトラッキングサーボ制御を行わせる。これにより、前記したトラッキングアクチュエータコイル駆動部11の出力部の回路的なオフセットがキャンセルされた状態でトラッキングサーボ制御が行われ、前記したようなエラーレートの劣化や衝撃によるトラッキング外れを低減できるという効果がある。
【0049】
なお、本明細書においては、プッシュプル信号の平均電位を利用して、レンズシフト量のオフセットを取得することについて記載したが、この例に限られるものではない。例えば、本光ディスク装置は、平均電位に代えて、プッシュプル信号の最大電位と最小電位の中間値を利用する構成を備えていても良い。
ここまで示した実施形態は一例であって、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨に基づきながら異なる実施形態を考えられるが、いずれも本発明の範疇にある。
【符号の説明】
【0050】
1:トラッキングサーボ制御部、11:トラッキングアクチュエータコイル駆動部、12:フィードバック制御部、13:学習部、2:光ピックアップ、21:対物レンズ、22:トラッキングアクチュエータ、221:アクチュエータコイル、3:光ディスク、4:レンズ位置検出部、5:プロセッサ部、6:オフセットキャンセル部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクを記録媒体とし該記録媒体に対してレーザ光を照射して情報信号を記録し再生する光ディスク装置であって、
前記レーザ光を発生するレーザ光源と、該レーザ光源の発生した前記レーザ光を集光して前記光ディスクに照射する対物レンズと、前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を調整するトラッキングアクチュエータを有し、前記光ディスクの記録トラックに情報信号を記録し、或いは前記光ディスクの記録トラックに記録された情報信号を再生する光ピックアップと、
前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報に基づき、前記トラッキングアクチュエータを駆動して前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を制御するトラッキングサーボ制御を行うトラッキングサーボ制御部と、
前記光ディスク装置の動作を制御する全体制御部を有し、
前記トラッキングサーボ制御部は、
前記トラッキングアクチュエータに供給する駆動電力を略0に設定する第1の動作モードと、前記トラッキングサーボ制御部に前記全体制御部からの制御に基づき供給される所定の入力電位に応じて前記トラッキングアクチュエータに所定の駆動電力を供給する第2の動作モードと、前記トラッキングサーボ制御部に前記全体制御部から前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報が供給され該位置情報に基づき前記トラッキングアクチュエータに駆動電力を供給する第3の駆動モードを有し、
該全体制御部は、前記光ディスクが前記光ディスク装置に装着された際に、
前記トラッキングサーボ制御部を前記第1の動作モードに設定して、前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報を求め、
次いで前記トラッキングサーボ制御部を前記第2の動作モードに設定し、前記トラッキングサーボ制御部に供給する入力電位を、前記対物レンズが前記光ディスクの双方の半径方向に所定量だけ変化させる駆動電力を前記トラッキングアクチュエータに供給するように設定して、前記入力電位と前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報の相関関係を求め、
次いで前記第1の動作モードでの相対的な位置情報と前記第2の動作モードでの相関関係に基づき前記トラッキングサーボ制御部に供給する入力電位をシフトして、前記トラッキングサーボ制御部を前記第3の動作モードに設定し、前記光ディスク装置のトラッキングサーボ制御を行うことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ディスク装置において、前記トラッキングサーボ制御部が前記第3の動作モードで動作する際に、前記全体制御部から供給される前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報に基づく入力電位をシフトさせるためのオフセットキャンセル部を有することを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ディスク装置において、前記トラッキングサーボ制御部における前記対物レンズの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報は、前記光ピックアップが供給する前記光ディスクからの再生信号に基づいて得られることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
光ディスクを記録媒体とし光ピックアップを用いて前記記録媒体に対して情報信号を記録し再生する光ディスク装置における、前記光ピックアップが前記情報信号の記録トラックをトレースするための光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路であって、
前記光ピックアップの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置情報を示す信号が供給され、該信号に基づく駆動電力を生成して前記光ピックアップに供給し、前記光ピックアップの前記光ディスクに対する半径方向の相対的な位置を制御するトラッキング駆動部を有し、
該トラッキング駆動部は前記光ピックアップに対して前記駆動電力を略0とする動作モードを有することを特徴とする光ディスク装置のトラッキングサーボ制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−187106(P2011−187106A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48996(P2010−48996)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】