光ディスク装置
【課題】製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供する。
【解決手段】スルーレート制限回路5を設け、再生信号に含まれる高周波領域のノイズ成分のスルーレートを制限することで、ノイズ成分の振幅を抑制し、ノイズ成分を減衰させる。
【解決手段】スルーレート制限回路5を設け、再生信号に含まれる高周波領域のノイズ成分のスルーレートを制限することで、ノイズ成分の振幅を抑制し、ノイズ成分を減衰させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Blu−rayディスク等の光ディスクを高倍速で再生可能な光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光ディスク装置は、光ピックアップから出力される再生信号(RF信号)に含まれるスルーレートが大きな異常成分(ノイズ成分)をイコライザ技術によって除去していた(例えば、特許文献1参照。)。以下、従来の光ディスク装置におけるイコライザ技術について説明する。図13は従来の光ディスク装置における再生信号処理系の概略ブロック図である。
【0003】
従来の光ディスク装置は、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号(光ディスク1上に記録されている情報を示す信号)を生成するが、その電気信号は光ディスクの種類や光ピックアップの特性ばらつきに起因する振幅ばらつきを持っており、そのばらつきを吸収するために、従来の光ディスク装置は、AGC回路(オートゲインコントロール回路)3により再生信号の振幅を正規化する。
【0004】
イコライザ回路18は、符号間干渉が最低となるように、AGC回路3からの信号の所定の周波数帯域をブーストして該信号の波形を等化するとともに、ノイズ成分を除去してA/D変換回路12に送る。DRC(デジタルリードチャネル)回路13は、A/D変換回路12によってデジタル信号に変換された信号を復号化してインターフェース回路へ送る。
【0005】
図14に従来のイコライザ回路18のブロック図を示す。図14に示すように、従来のイコライザ回路18は7次等リップルフィルタで構成されており、2次ローパスフィルタ回路9、19、20、及び1次ローパスフィルタ回路21からなる7次のローパスフィルタ回路を備える。また、イコライザ回路18は、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11によって入力信号の所定の周波数帯域をブーストする。
【0006】
図15に従来のイコライザ回路18のゲイン特性を示す。従来のイコライザ回路18によれば、例えばBlu−rayディスクを10倍速で再生した場合、再生信号のうち一番高い周波数となる2T信号(10倍速で再生した場合の周波数は165MHz)は約3dB増幅される。図16に従来のイコライザ回路18の群遅延特性を示す。従来のイコライザ回路18によれば、群遅延は、カットオフ周波数fcを超える周波数領域まで周波数依存性がなくフラットである。
【0007】
上記従来の光ディスク装置の構成でBlu−rayディスクを10倍速で再生するためには、従来のイコライザ回路18において165MHzのカットオフ周波数を実現する必要がある。そのため、7次ローパスフィルタ回路を構成するフィルタのうちで帯域が一番高くなるフィルタには、等リップルフィルタの伝達関数より、約400MHz程度の通過帯域が要求される。
【0008】
上記特性を実現するためには、半導体のアナログデバイスの特性として、ft(電流利得遮断周波数)が40GHz以上(一般的な目安として、必要帯域の100倍程度のftを持つデバイスで設計することが望ましい)のトランジスタが必要になるが、そういったデバイスは製造工程が複雑であるためコストが高くなる。
【0009】
次に、従来のイコライザ回路18の消費電力について説明する。
図17にgm−C型1次ローパスフィルタ回路の回路図を示す。図17に示すようにgmアンプ回路(コンダクタンスアンプ回路)22と容量23で構成された1次ローパスフィルタ回路のカットオフ周波数fcは、
fc = gm/C1 ・・・ (1)
で設定される。但し、gmはgmアンプ回路22のgm値(相互コンダクタンス)であり、C1は容量23の容量値である。例えばカットオフ周波数fcを、Blu−rayディスクを10倍速で再生するのに必要な400MHzに設定する場合、容量23の容量値C1を仮に1pFとすると、式(1)より、gmアンプ回路22のgm値として400μgmnsが必要となる。
【0010】
図18にgmアンプ回路の詳細回路図を示す。このgmアンプ回路のgm値は、
gm = Icnt/(Ia×R1) ・・・ (2)
により計算される。但し、Iaはgmアンプ回路の入力部へ流れる電流値、R1はgmアンプ回路の入力抵抗値、Icntはgm値を制御する制御電流値である。IaとR1は、このgmアンプ回路が確保しなくてはならない入力Dレンジによって決定される。すなわち、
入力Dレンジ = 2×Ia×R1
により計算される。
【0011】
よって、例えば振幅が0.2Vの信号を入力する場合、IaおよびR1は、
0.2V = Ia×R1 ・・・ (3)
により計算される。R1の値を仮に5kΩとすると、Iaの値は40μAである。また、入力Dレンジとして0.4V(入力信号の振幅はその半分の0.2V)を確保し、且つgm値として400μgmnsを確保する場合には、式(2)、(3)より、Icntは80μAとなる。したがって、この場合、1次ローパスフィルタ回路に流す電流値を計算すると、図18より、
Itotal = Icnt+2Ia+α = 160μA+α
となる。但し、αはミラー電流源に必要な電流値等である。ここでは40μAとして考える。つまり、
Itotal = 200μA
と考えると、仮に電源電圧5Vで設計した場合の消費電力は1次ローパスフィルタ回路1つあたり1mW必要となる。したがって、7次ローパスフィルタ回路全体の消費電力を算出すると7mWとなる。この場合、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11による消費電力を2mWとすると、従来のイコライザ回路18の消費電力は9mWとなり、大規模ICの中の一回路としては非常に大きい消費電力となる。
【0012】
以上のように、Blu−rayディスク等の青色レーザ系光ディスクを再生する光ディスク装置では、DVDには存在しない2T信号を再生しなくてはならず、7次ローパスフィルタ回路を備えた従来のイコライザ回路で高倍速再生に対応するためには、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスが必要となり、且つ消費電力も大きくなるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−345460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑み、従来は7次のローパスフィルタ回路で行なっていたノイズ除去をスルーレート制限回路で実施することにより、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1記載の光ディスク装置は、光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、前記再生信号の振幅を正規化するオートゲインコントロール回路と、前記オートゲインコントロール回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2記載の光ディスク装置は、請求項1記載の光ディスク装置であって、前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3記載の光ディスク装置は、光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、ゲインコントロール信号に応じたゲインで前記再生信号の振幅を増幅して、前記再生信号の振幅を正規化する可変ゲインアンプ回路と、前記可変ゲインアンプ回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、前記デジタルリードチャネル回路により復号化された信号を基に、前記可変ゲインアンプ回路から出力された信号の振幅値を検出する振幅検出手段と、前記振幅検出手段により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する差分検出手段と、前記差分検出手段により検出された差分を基に前記可変ゲインアンプ回路のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成するゲインコントロール手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供できる。また、製造工程が複雑な半導体デバイスを使用しないので、設計が容易になる。さらには、gm−C型1次ローパスフィルタ回路を用いた7次ローパスフィルタ回路と比較すると、回路規模を小さくすることができる。よって、製造コストが安く、消費電力が少なく、なおかつ回路規模が小さい回路で、青色レーザ系光ディスクを高倍速で再生可能な光ディスク装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態1における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。
【0019】
図1に示すように、当該光ディスク装置は、光ディスク1にレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスク1に記録されている情報を示す再生信号(RF信号)を生成する光ピックアップ2と、光ピックアップ2からの再生信号の振幅を正規化するAGC回路(オートゲインコントロール回路)3と、AGC回路3からの信号の波形を等化するイコライザ回路4と、イコライザ回路4からの信号に含まれるスルーレートが大きな異常成分(ノイズ成分)を減衰するスルーレート制限回路5と、を備える。
【0020】
以上のように構成された光ディスク装置について、以下その動作を説明する。
当該光ディスク装置は、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号を生成する。その電気信号は光ディスクの種類や光ピックアップの特性ばらつきに起因する振幅ばらつきを持っており、そのばらつきを吸収するために、当該光ディスク装置は再生信号をAGC回路3に入力してその振幅を正規化する。
【0021】
しかし、AGC回路3は、ディフェクト等による信号振幅の減少には追従しない周波数でゲインコントロールをかけるために、符号間の振幅差は吸収されない。そこで、イコライザ回路4により、符号間干渉が最低となるように所定の周波数帯域をブーストして再生信号の波形を等化する。図2にイコライザ回路4のゲイン特性を示す。例えば、図3に示す信号がイコライザ回路4を通過すると、所定の周波数帯域がブーストされて、図4に示すような信号となる。このとき、ノイズ成分もブーストされる。
【0022】
さらに、図4で示した信号をスルーレート制限回路5に入力する。スルーレート制限回路5は、イコライザ回路4からの信号の各周波数成分のスルーレート(変化の割り合い)を一定値(制限値)以下に制限して、ノイズ成分を減衰させる。具体的には、スルーレート制限回路5は、入力信号のスルーレートが制限値以上であれば該制限値に制限し、制限値未満であればそのまま出力する。
【0023】
以下、スルーレート制限回路5の動作について説明する。
ここでは、簡単ために、
y = A×sinωt
の信号を用いて説明する。なお、Aは振幅(定数)、ωは角周波数、tは時刻である。
【0024】
上記信号yのスルーレートSR(傾き)は、
SR = A×ω×cosωt ・・・ (4)
と表すことができ、スルーレートの最大値SRmaxは、
SRmax = Aω = A×2πf
と表すことができる。なお、fは周波数である。
【0025】
スルーレートに制限をかけない場合の信号yの振幅は「A」であり、スルーレートに制限をかけた場合の振幅の最大値A´maxは、αをスルーレートの制限値とすると、図5に示すように、
A´max = α×(T/4) = α×(1/4f) ・・・ (5)
となる。なお、Tは周期である。但し、実際には、位相が90°や270°付近では信号yのスルーレートはゼロに近づくため、スルーレートに制限をかけた場合の信号yは、図5で示すような三角波にはならず、振幅の最大値は上記A´maxよりも小さくなる。
【0026】
図6にスルーレート制限値αと信号振幅Aと周波数fの関係を示す。図6に示すように、
A = α/ω = α/2πf
のグラフの上側が振幅Aの減衰領域となり、周波数fの高い信号になるほど振幅に制限がかかる。
【0027】
図7にスルーレート制限回路5の一実施例を示す。定電流源6に流す電流値をI1、定電流源7に流す電流値をI2、出力負荷容量8の容量値をC3とすると、スルーレート制限値αは電流値(I1−I2)と容量値C3で決まり、その関係式は、
α = (I1−I2)/C3
で表すことができる。
【0028】
このように、当該光ディスク装置では、光ピックアップ2からの再生信号の振幅をAGC回路3が正規化し、その正規化後の再生信号の所定の周波数帯域をイコライザ回路4がブーストして再生信号の波形を等化し、その等化後の再生信号のノイズ成分をスルーレート制限回路5が減衰して、A/D変換回路へ送る。
【0029】
続いて、Blu−rayディスクを10倍速で再生した場合を想定して動作を説明する。
Blu−rayディスクの場合、1チャネルビット幅をTとすると最短のマーク長は2Tであり、最短マークの繰り返しを再生したときの2T信号は、ピットの長さが短いため、14T信号の振幅に対して約13%の振幅となる。一方、DVDの場合、最短のマーク長は3Tであり、その3T信号は14T信号の振幅に対して約40%の振幅となる。
【0030】
従来のDVDドライブによりDVDを16倍速で再生して光ピックアップから出力された信号波形を観察しノイズ成分の振幅を読み取ったところ、3T信号の25%程度であった。ノイズ成分の振幅は変わらないとすると、Blu−rayディスクの場合には、2T信号の振幅に対してノイズ成分の振幅は77%になる。つまり、2T信号の振幅を50mVppとした場合、ノイズ成分の振幅は40mVppとなることが想定される。
【0031】
まず、従来の7次等リップルフィルタで構成されたイコライザ回路を使用してノイズ成分を減衰させた場合について説明する。ここでの計算は2T信号の振幅を50mVppとし、ノイズ周波数を1GHzとしている。従来のイコライザ回路のゲイン特性を図15に示す。
【0032】
図15に示すように、従来のイコライザ回路を用いた場合、2T信号の周波数(Blu−rayディスクを10倍速で再生した場合の周波数165MHz)では信号は3dB程度増幅され、ノイズ成分の周波数1GHzでは信号は−10dB程度減衰する。よって、従来のイコライザ回路を通った後の2T信号の振幅は50mVppが3dB分増幅されて70mVppとなり、ノイズ成分の振幅は−10dB減衰し13mVppとなる。
【0033】
次に、本実施の形態1におけるイコライザ回路4とスルーレート制限回路5を使用した場合について説明する。イコライザ回路4は、図2に示すように、周波数165MHz以上の信号を6dBブーストする。
【0034】
図8にイコライザ回路4の一実施例を示す。図8に示すように、イコライザ回路4は、2次ローパスフィルタ回路9、2次ハイパスフィルタ回路10、および増幅回路11を備える。このイコライザ回路4も、従来のイコライザ回路と同様にフィルタを使用しているが、2次と次数が低いので、従来の構成における問題は発生しない。このイコライザ回路4によりイコライジングされた後の2T信号の振幅は50mVppが100mVppとなり、ノイズ成分の振幅は40mVppが80mVppとなる。
【0035】
次にノイズ成分の振幅の最大値が従来のイコライザ回路の出力と同じ13mVppとなるようなスルーレート制限値αを算出する。
上記式(5)より、
α = A´max×4f
= 0.0065V×4×1GHz = 26×106[V/s]
となる。よって、スルーレート制限値αを26×106[V/s]とすれば、1GHzのノイズ成分の振幅の最大値は13mVppとなる。
【0036】
一方、スルーレートを26×106[V/s]で制限した場合の2T信号の振幅を算出すると、2T信号をsin波として考えた場合、スルーレートは上記式(4)の通り
SR = A×ω×cosωt
となる。
【0037】
ここで、イコライジング後の2T信号の振幅A=0.05V、10倍速再生時の2T信号の周波数f=165MHzとした場合にスルーレートが26×106[V/s]となる角度は、
26×106[V/s] = 0.05V×2×π×165MHz×cosωt
を計算すればよい。その結果、
ωt= 60°
となる。
【0038】
したがって、イコライジング後の2T信号は、0°から60°までのスルーレートが26×106[V/s]以上であるので、0°から60°はスルーレートが26×106[V/s]に制限される。つまり0°から60°までは、イコライジング後の2T信号は26×106[V/s]で増加する。60°から90°の間はスルーレートが26×106[V/s]よりも小さくなるので、イコライジング後の2T信号の本来の波形が出力される。
【0039】
まず、0°から60°までの増加分をy1とすると
y1 = (60°/360°)×(1/165MHz)×26×106[V/s]
= 0.026V
となる。
【0040】
次に60°から90°までの増加分をy2とすると
y2 = 0.05×sin90°−0.05×sin60°
= 0.007V
となる。
【0041】
したがって、スルーレートを26×106[V/s]で制限したイコライジング後の2T信号の振幅は、
振幅 = (y1+y2)×2 = 0.066Vpp
となる。
【0042】
まとめると、2T信号の振幅が50mVpp(165MHz)、ノイズ成分の振幅が40mVpp(1GHz)の信号を従来のイコライザ回路に通過させると、2T信号の振幅は70mVppとなり、ノイズ成分の振幅は13mVppとなる。一方、本実施の形態1では、2T信号の振幅は66mVpp、ノイズ成分の振幅は13mVppとなりほぼ同じ特性が得られる。
【0043】
続いて、AGC回路3からの信号の振幅を図9に示す振幅であると想定して、イコライザ回路4とスルーレート制限回路5全体のゲイン特性について、図10を用いて説明する。図10において、太実線はイコライザ回路4とスルーレート制限回路5全体のゲイン特性を示すグラフ、細実線は従来のイコライザ回路のゲイン特性を示すグラフである。図10に示すように、本実施の形態1によれば、従来のイコライザ回路とほぼ同じ特性が得られる。なお、図10に示すように、AGC回路3によって再生信号を正規化することで、再生信号のスルーレートに制限がかかることを防いでいる。
【0044】
以上のように、本実施の形態1によれば、ノイズ除去の目的でスルーレート制限回路を設けることにより、設計が容易で低消費電力化や小規模化が進んだ回路により、Blu−rayディスク等の青色レーザ系光ディスクを高倍速で再生することができる。
【0045】
具体的に消費電力を比較すると、従来のイコライザ回路では、1次ローパスフィルタ回路1つあたりの消費電力を1mW、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11による消費電力を2mWとすると、全体の消費電力は9mWとなる。一方、本実施の形態1におけるイコライザ回路4の消費電力は4mWとなり、スルーレート制限回路5の消費電力を2mWとすると、全体の消費電力は6mWとなり、約33%の削減効果がある。
【0046】
回路面積に関しては、スルーレート制限回路はgm−C型1次ローパスフィルタ回路1つ分と同等であり、従来のイコライザ回路を構成する7次ローパスフィルタ回路の2次分は本実施の形態1ではイコライザ回路4として使用するので、約60%の削減効果がある。
【0047】
(実施の形態2)
図11は、本発明の実施の形態2における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。但し、前述の実施の形態1で説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0048】
本実施の形態2における光ディスク装置は、スルーレート制限回路5の後段に、スルーレート制限回路5からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路12と、A/D変換回路12からのデジタル信号を復号化するDRC(デジタルリードチャネル)回路13とを備えた点が実施の形態1と異なる。
【0049】
前述の実施の形態1では、図10に示すように、従来のイコライザ回路と比較すると、高域側において微弱信号が通過する。そのため、A/D変換をせずにデータスライサで再生信号を2値化すると、ジッター悪化等の信号品質の劣化につながる。一方、本実施の形態2のように、A/D変換をした信号をDRC技術で処理する場合、アンチエイリアスフィルタとしての機能を果たすことが目的となるので、データスライサを使用した場合と比較すると信号品質に与える影響が小さくなる。
【0050】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。但し、前述の実施の形態1、2で説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0051】
本実施の形態3における光ディスク装置は、再生信号の振幅を正規化する手段としてAGC回路に代えてVGA回路(可変ゲインアンプ回路)14を備えるとともに、VGA回路14のゲインをフィードバック制御するために、振幅検出手段15、差分検出手段16、およびゲインコントロール手段17を備えた点が実施の形態2と異なる。
【0052】
すなわち、光ピックアップ2の後段に接続されたVGA回路14は、ゲインコントロール信号に応じたゲインで再生信号の振幅を増幅しその振幅を正規化してイコライザ回路4へ送る。また、振幅検出手段15は、DRC回路13により復号化された信号を基に、VGA回路14から出力された信号の振幅値を検出する。また、差分検出手段16は、振幅検出手段15により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する。また、ゲインコントロール手段17は、差分検出手段16により検出された差分を基にVGA回路14のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成する。なお、振幅検出手段15、差分検出手段16、ゲインコントロール手段17は、回路で構成してもよいし、マイクロコンピュータを用いて実現してもよい。
【0053】
以上のように構成された光ディスク装置について、以下その動作を説明する。
当該光ディスク装置は、実施の形態1と同様に、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号を生成する。そして、その再生信号をVGA回路14に入力して、一定の振幅に正規化する。その後、実施の形態1、2と同様に、再生信号の波形を等化し、ノイズ成分を減衰させた後、デジタル信号に変換し、そのデジタル信号を復号化して、後段のインターフェース回路へ送る。
【0054】
一方、振幅検手段15がVGA回路14から出力された信号の振幅値を検出し、差分検出手段16がその振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出し、ゲインコントロール手段17がその差分を補うようにVGA回路14のゲインを設定する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる光ディスク装置は、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供でき、青色レーザ系光ディスク等を高倍速で再生可能なディスクドライブ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図2】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路のゲイン特性を示す図
【図3】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路への入力信号波形の一例を示す図
【図4】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路からの出力信号波形の一例を示す図
【図5】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路によりスルーレートを制限した信号の振幅を説明するための図
【図6】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路の特性を説明するための図
【図7】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路の一例を示す回路図
【図8】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路の一例を示す回路図
【図9】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路とスルーレート制限回路全体のゲイン特性を説明するために想定した入力信号の振幅を示す図
【図10】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路とスルーレート制限回路全体のゲイン特性を示す図
【図11】本発明の実施の形態2における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図12】本発明の実施の形態3における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図13】従来の光ディスク装置における再生信号処理系の概略ブロック図
【図14】従来のイコライザ回路のブロック図
【図15】従来のイコライザ回路のゲイン特性を示す図
【図16】従来のイコライザ回路の群遅延特性を示す図
【図17】従来のイコライザ回路で使用されるgm−C型1次ローパスフィルタ回路の回路図
【図18】従来のイコライザ回路で使用されるgmアンプ回路の詳細回路図
【符号の説明】
【0057】
1 光ディスク
2 光ピックアップ
3 AGC(オートゲインコントロール)回路
4、18 イコライザ回路
5 スルーレート制限回路
6、7 定電流源
8 容量
9、19、20 2次ローパスフィルタ回路
10 2次ハイパスフィルタ回路
11 増幅回路
12 A/D変換回路
13 DRC(デジタルリードチャネル)回路
14 VGA(可変ゲインアンプ)回路
15 振幅検出手段
16 差分検出手段
17 ゲインコントロール手段
21 1次ローパスフィルタ回路
22 gmアンプ回路
23 容量
【技術分野】
【0001】
本発明は、Blu−rayディスク等の光ディスクを高倍速で再生可能な光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光ディスク装置は、光ピックアップから出力される再生信号(RF信号)に含まれるスルーレートが大きな異常成分(ノイズ成分)をイコライザ技術によって除去していた(例えば、特許文献1参照。)。以下、従来の光ディスク装置におけるイコライザ技術について説明する。図13は従来の光ディスク装置における再生信号処理系の概略ブロック図である。
【0003】
従来の光ディスク装置は、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号(光ディスク1上に記録されている情報を示す信号)を生成するが、その電気信号は光ディスクの種類や光ピックアップの特性ばらつきに起因する振幅ばらつきを持っており、そのばらつきを吸収するために、従来の光ディスク装置は、AGC回路(オートゲインコントロール回路)3により再生信号の振幅を正規化する。
【0004】
イコライザ回路18は、符号間干渉が最低となるように、AGC回路3からの信号の所定の周波数帯域をブーストして該信号の波形を等化するとともに、ノイズ成分を除去してA/D変換回路12に送る。DRC(デジタルリードチャネル)回路13は、A/D変換回路12によってデジタル信号に変換された信号を復号化してインターフェース回路へ送る。
【0005】
図14に従来のイコライザ回路18のブロック図を示す。図14に示すように、従来のイコライザ回路18は7次等リップルフィルタで構成されており、2次ローパスフィルタ回路9、19、20、及び1次ローパスフィルタ回路21からなる7次のローパスフィルタ回路を備える。また、イコライザ回路18は、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11によって入力信号の所定の周波数帯域をブーストする。
【0006】
図15に従来のイコライザ回路18のゲイン特性を示す。従来のイコライザ回路18によれば、例えばBlu−rayディスクを10倍速で再生した場合、再生信号のうち一番高い周波数となる2T信号(10倍速で再生した場合の周波数は165MHz)は約3dB増幅される。図16に従来のイコライザ回路18の群遅延特性を示す。従来のイコライザ回路18によれば、群遅延は、カットオフ周波数fcを超える周波数領域まで周波数依存性がなくフラットである。
【0007】
上記従来の光ディスク装置の構成でBlu−rayディスクを10倍速で再生するためには、従来のイコライザ回路18において165MHzのカットオフ周波数を実現する必要がある。そのため、7次ローパスフィルタ回路を構成するフィルタのうちで帯域が一番高くなるフィルタには、等リップルフィルタの伝達関数より、約400MHz程度の通過帯域が要求される。
【0008】
上記特性を実現するためには、半導体のアナログデバイスの特性として、ft(電流利得遮断周波数)が40GHz以上(一般的な目安として、必要帯域の100倍程度のftを持つデバイスで設計することが望ましい)のトランジスタが必要になるが、そういったデバイスは製造工程が複雑であるためコストが高くなる。
【0009】
次に、従来のイコライザ回路18の消費電力について説明する。
図17にgm−C型1次ローパスフィルタ回路の回路図を示す。図17に示すようにgmアンプ回路(コンダクタンスアンプ回路)22と容量23で構成された1次ローパスフィルタ回路のカットオフ周波数fcは、
fc = gm/C1 ・・・ (1)
で設定される。但し、gmはgmアンプ回路22のgm値(相互コンダクタンス)であり、C1は容量23の容量値である。例えばカットオフ周波数fcを、Blu−rayディスクを10倍速で再生するのに必要な400MHzに設定する場合、容量23の容量値C1を仮に1pFとすると、式(1)より、gmアンプ回路22のgm値として400μgmnsが必要となる。
【0010】
図18にgmアンプ回路の詳細回路図を示す。このgmアンプ回路のgm値は、
gm = Icnt/(Ia×R1) ・・・ (2)
により計算される。但し、Iaはgmアンプ回路の入力部へ流れる電流値、R1はgmアンプ回路の入力抵抗値、Icntはgm値を制御する制御電流値である。IaとR1は、このgmアンプ回路が確保しなくてはならない入力Dレンジによって決定される。すなわち、
入力Dレンジ = 2×Ia×R1
により計算される。
【0011】
よって、例えば振幅が0.2Vの信号を入力する場合、IaおよびR1は、
0.2V = Ia×R1 ・・・ (3)
により計算される。R1の値を仮に5kΩとすると、Iaの値は40μAである。また、入力Dレンジとして0.4V(入力信号の振幅はその半分の0.2V)を確保し、且つgm値として400μgmnsを確保する場合には、式(2)、(3)より、Icntは80μAとなる。したがって、この場合、1次ローパスフィルタ回路に流す電流値を計算すると、図18より、
Itotal = Icnt+2Ia+α = 160μA+α
となる。但し、αはミラー電流源に必要な電流値等である。ここでは40μAとして考える。つまり、
Itotal = 200μA
と考えると、仮に電源電圧5Vで設計した場合の消費電力は1次ローパスフィルタ回路1つあたり1mW必要となる。したがって、7次ローパスフィルタ回路全体の消費電力を算出すると7mWとなる。この場合、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11による消費電力を2mWとすると、従来のイコライザ回路18の消費電力は9mWとなり、大規模ICの中の一回路としては非常に大きい消費電力となる。
【0012】
以上のように、Blu−rayディスク等の青色レーザ系光ディスクを再生する光ディスク装置では、DVDには存在しない2T信号を再生しなくてはならず、7次ローパスフィルタ回路を備えた従来のイコライザ回路で高倍速再生に対応するためには、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスが必要となり、且つ消費電力も大きくなるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−345460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑み、従来は7次のローパスフィルタ回路で行なっていたノイズ除去をスルーレート制限回路で実施することにより、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1記載の光ディスク装置は、光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、前記再生信号の振幅を正規化するオートゲインコントロール回路と、前記オートゲインコントロール回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項2記載の光ディスク装置は、請求項1記載の光ディスク装置であって、前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3記載の光ディスク装置は、光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、ゲインコントロール信号に応じたゲインで前記再生信号の振幅を増幅して、前記再生信号の振幅を正規化する可変ゲインアンプ回路と、前記可変ゲインアンプ回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、前記デジタルリードチャネル回路により復号化された信号を基に、前記可変ゲインアンプ回路から出力された信号の振幅値を検出する振幅検出手段と、前記振幅検出手段により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する差分検出手段と、前記差分検出手段により検出された差分を基に前記可変ゲインアンプ回路のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成するゲインコントロール手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供できる。また、製造工程が複雑な半導体デバイスを使用しないので、設計が容易になる。さらには、gm−C型1次ローパスフィルタ回路を用いた7次ローパスフィルタ回路と比較すると、回路規模を小さくすることができる。よって、製造コストが安く、消費電力が少なく、なおかつ回路規模が小さい回路で、青色レーザ系光ディスクを高倍速で再生可能な光ディスク装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態1における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。
【0019】
図1に示すように、当該光ディスク装置は、光ディスク1にレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスク1に記録されている情報を示す再生信号(RF信号)を生成する光ピックアップ2と、光ピックアップ2からの再生信号の振幅を正規化するAGC回路(オートゲインコントロール回路)3と、AGC回路3からの信号の波形を等化するイコライザ回路4と、イコライザ回路4からの信号に含まれるスルーレートが大きな異常成分(ノイズ成分)を減衰するスルーレート制限回路5と、を備える。
【0020】
以上のように構成された光ディスク装置について、以下その動作を説明する。
当該光ディスク装置は、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号を生成する。その電気信号は光ディスクの種類や光ピックアップの特性ばらつきに起因する振幅ばらつきを持っており、そのばらつきを吸収するために、当該光ディスク装置は再生信号をAGC回路3に入力してその振幅を正規化する。
【0021】
しかし、AGC回路3は、ディフェクト等による信号振幅の減少には追従しない周波数でゲインコントロールをかけるために、符号間の振幅差は吸収されない。そこで、イコライザ回路4により、符号間干渉が最低となるように所定の周波数帯域をブーストして再生信号の波形を等化する。図2にイコライザ回路4のゲイン特性を示す。例えば、図3に示す信号がイコライザ回路4を通過すると、所定の周波数帯域がブーストされて、図4に示すような信号となる。このとき、ノイズ成分もブーストされる。
【0022】
さらに、図4で示した信号をスルーレート制限回路5に入力する。スルーレート制限回路5は、イコライザ回路4からの信号の各周波数成分のスルーレート(変化の割り合い)を一定値(制限値)以下に制限して、ノイズ成分を減衰させる。具体的には、スルーレート制限回路5は、入力信号のスルーレートが制限値以上であれば該制限値に制限し、制限値未満であればそのまま出力する。
【0023】
以下、スルーレート制限回路5の動作について説明する。
ここでは、簡単ために、
y = A×sinωt
の信号を用いて説明する。なお、Aは振幅(定数)、ωは角周波数、tは時刻である。
【0024】
上記信号yのスルーレートSR(傾き)は、
SR = A×ω×cosωt ・・・ (4)
と表すことができ、スルーレートの最大値SRmaxは、
SRmax = Aω = A×2πf
と表すことができる。なお、fは周波数である。
【0025】
スルーレートに制限をかけない場合の信号yの振幅は「A」であり、スルーレートに制限をかけた場合の振幅の最大値A´maxは、αをスルーレートの制限値とすると、図5に示すように、
A´max = α×(T/4) = α×(1/4f) ・・・ (5)
となる。なお、Tは周期である。但し、実際には、位相が90°や270°付近では信号yのスルーレートはゼロに近づくため、スルーレートに制限をかけた場合の信号yは、図5で示すような三角波にはならず、振幅の最大値は上記A´maxよりも小さくなる。
【0026】
図6にスルーレート制限値αと信号振幅Aと周波数fの関係を示す。図6に示すように、
A = α/ω = α/2πf
のグラフの上側が振幅Aの減衰領域となり、周波数fの高い信号になるほど振幅に制限がかかる。
【0027】
図7にスルーレート制限回路5の一実施例を示す。定電流源6に流す電流値をI1、定電流源7に流す電流値をI2、出力負荷容量8の容量値をC3とすると、スルーレート制限値αは電流値(I1−I2)と容量値C3で決まり、その関係式は、
α = (I1−I2)/C3
で表すことができる。
【0028】
このように、当該光ディスク装置では、光ピックアップ2からの再生信号の振幅をAGC回路3が正規化し、その正規化後の再生信号の所定の周波数帯域をイコライザ回路4がブーストして再生信号の波形を等化し、その等化後の再生信号のノイズ成分をスルーレート制限回路5が減衰して、A/D変換回路へ送る。
【0029】
続いて、Blu−rayディスクを10倍速で再生した場合を想定して動作を説明する。
Blu−rayディスクの場合、1チャネルビット幅をTとすると最短のマーク長は2Tであり、最短マークの繰り返しを再生したときの2T信号は、ピットの長さが短いため、14T信号の振幅に対して約13%の振幅となる。一方、DVDの場合、最短のマーク長は3Tであり、その3T信号は14T信号の振幅に対して約40%の振幅となる。
【0030】
従来のDVDドライブによりDVDを16倍速で再生して光ピックアップから出力された信号波形を観察しノイズ成分の振幅を読み取ったところ、3T信号の25%程度であった。ノイズ成分の振幅は変わらないとすると、Blu−rayディスクの場合には、2T信号の振幅に対してノイズ成分の振幅は77%になる。つまり、2T信号の振幅を50mVppとした場合、ノイズ成分の振幅は40mVppとなることが想定される。
【0031】
まず、従来の7次等リップルフィルタで構成されたイコライザ回路を使用してノイズ成分を減衰させた場合について説明する。ここでの計算は2T信号の振幅を50mVppとし、ノイズ周波数を1GHzとしている。従来のイコライザ回路のゲイン特性を図15に示す。
【0032】
図15に示すように、従来のイコライザ回路を用いた場合、2T信号の周波数(Blu−rayディスクを10倍速で再生した場合の周波数165MHz)では信号は3dB程度増幅され、ノイズ成分の周波数1GHzでは信号は−10dB程度減衰する。よって、従来のイコライザ回路を通った後の2T信号の振幅は50mVppが3dB分増幅されて70mVppとなり、ノイズ成分の振幅は−10dB減衰し13mVppとなる。
【0033】
次に、本実施の形態1におけるイコライザ回路4とスルーレート制限回路5を使用した場合について説明する。イコライザ回路4は、図2に示すように、周波数165MHz以上の信号を6dBブーストする。
【0034】
図8にイコライザ回路4の一実施例を示す。図8に示すように、イコライザ回路4は、2次ローパスフィルタ回路9、2次ハイパスフィルタ回路10、および増幅回路11を備える。このイコライザ回路4も、従来のイコライザ回路と同様にフィルタを使用しているが、2次と次数が低いので、従来の構成における問題は発生しない。このイコライザ回路4によりイコライジングされた後の2T信号の振幅は50mVppが100mVppとなり、ノイズ成分の振幅は40mVppが80mVppとなる。
【0035】
次にノイズ成分の振幅の最大値が従来のイコライザ回路の出力と同じ13mVppとなるようなスルーレート制限値αを算出する。
上記式(5)より、
α = A´max×4f
= 0.0065V×4×1GHz = 26×106[V/s]
となる。よって、スルーレート制限値αを26×106[V/s]とすれば、1GHzのノイズ成分の振幅の最大値は13mVppとなる。
【0036】
一方、スルーレートを26×106[V/s]で制限した場合の2T信号の振幅を算出すると、2T信号をsin波として考えた場合、スルーレートは上記式(4)の通り
SR = A×ω×cosωt
となる。
【0037】
ここで、イコライジング後の2T信号の振幅A=0.05V、10倍速再生時の2T信号の周波数f=165MHzとした場合にスルーレートが26×106[V/s]となる角度は、
26×106[V/s] = 0.05V×2×π×165MHz×cosωt
を計算すればよい。その結果、
ωt= 60°
となる。
【0038】
したがって、イコライジング後の2T信号は、0°から60°までのスルーレートが26×106[V/s]以上であるので、0°から60°はスルーレートが26×106[V/s]に制限される。つまり0°から60°までは、イコライジング後の2T信号は26×106[V/s]で増加する。60°から90°の間はスルーレートが26×106[V/s]よりも小さくなるので、イコライジング後の2T信号の本来の波形が出力される。
【0039】
まず、0°から60°までの増加分をy1とすると
y1 = (60°/360°)×(1/165MHz)×26×106[V/s]
= 0.026V
となる。
【0040】
次に60°から90°までの増加分をy2とすると
y2 = 0.05×sin90°−0.05×sin60°
= 0.007V
となる。
【0041】
したがって、スルーレートを26×106[V/s]で制限したイコライジング後の2T信号の振幅は、
振幅 = (y1+y2)×2 = 0.066Vpp
となる。
【0042】
まとめると、2T信号の振幅が50mVpp(165MHz)、ノイズ成分の振幅が40mVpp(1GHz)の信号を従来のイコライザ回路に通過させると、2T信号の振幅は70mVppとなり、ノイズ成分の振幅は13mVppとなる。一方、本実施の形態1では、2T信号の振幅は66mVpp、ノイズ成分の振幅は13mVppとなりほぼ同じ特性が得られる。
【0043】
続いて、AGC回路3からの信号の振幅を図9に示す振幅であると想定して、イコライザ回路4とスルーレート制限回路5全体のゲイン特性について、図10を用いて説明する。図10において、太実線はイコライザ回路4とスルーレート制限回路5全体のゲイン特性を示すグラフ、細実線は従来のイコライザ回路のゲイン特性を示すグラフである。図10に示すように、本実施の形態1によれば、従来のイコライザ回路とほぼ同じ特性が得られる。なお、図10に示すように、AGC回路3によって再生信号を正規化することで、再生信号のスルーレートに制限がかかることを防いでいる。
【0044】
以上のように、本実施の形態1によれば、ノイズ除去の目的でスルーレート制限回路を設けることにより、設計が容易で低消費電力化や小規模化が進んだ回路により、Blu−rayディスク等の青色レーザ系光ディスクを高倍速で再生することができる。
【0045】
具体的に消費電力を比較すると、従来のイコライザ回路では、1次ローパスフィルタ回路1つあたりの消費電力を1mW、2次ハイパスフィルタ回路10と増幅回路11による消費電力を2mWとすると、全体の消費電力は9mWとなる。一方、本実施の形態1におけるイコライザ回路4の消費電力は4mWとなり、スルーレート制限回路5の消費電力を2mWとすると、全体の消費電力は6mWとなり、約33%の削減効果がある。
【0046】
回路面積に関しては、スルーレート制限回路はgm−C型1次ローパスフィルタ回路1つ分と同等であり、従来のイコライザ回路を構成する7次ローパスフィルタ回路の2次分は本実施の形態1ではイコライザ回路4として使用するので、約60%の削減効果がある。
【0047】
(実施の形態2)
図11は、本発明の実施の形態2における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。但し、前述の実施の形態1で説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0048】
本実施の形態2における光ディスク装置は、スルーレート制限回路5の後段に、スルーレート制限回路5からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路12と、A/D変換回路12からのデジタル信号を復号化するDRC(デジタルリードチャネル)回路13とを備えた点が実施の形態1と異なる。
【0049】
前述の実施の形態1では、図10に示すように、従来のイコライザ回路と比較すると、高域側において微弱信号が通過する。そのため、A/D変換をせずにデータスライサで再生信号を2値化すると、ジッター悪化等の信号品質の劣化につながる。一方、本実施の形態2のように、A/D変換をした信号をDRC技術で処理する場合、アンチエイリアスフィルタとしての機能を果たすことが目的となるので、データスライサを使用した場合と比較すると信号品質に与える影響が小さくなる。
【0050】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図である。但し、前述の実施の形態1、2で説明した部材と同一の部材には同一符号を付して、説明を省略する。
【0051】
本実施の形態3における光ディスク装置は、再生信号の振幅を正規化する手段としてAGC回路に代えてVGA回路(可変ゲインアンプ回路)14を備えるとともに、VGA回路14のゲインをフィードバック制御するために、振幅検出手段15、差分検出手段16、およびゲインコントロール手段17を備えた点が実施の形態2と異なる。
【0052】
すなわち、光ピックアップ2の後段に接続されたVGA回路14は、ゲインコントロール信号に応じたゲインで再生信号の振幅を増幅しその振幅を正規化してイコライザ回路4へ送る。また、振幅検出手段15は、DRC回路13により復号化された信号を基に、VGA回路14から出力された信号の振幅値を検出する。また、差分検出手段16は、振幅検出手段15により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する。また、ゲインコントロール手段17は、差分検出手段16により検出された差分を基にVGA回路14のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成する。なお、振幅検出手段15、差分検出手段16、ゲインコントロール手段17は、回路で構成してもよいし、マイクロコンピュータを用いて実現してもよい。
【0053】
以上のように構成された光ディスク装置について、以下その動作を説明する。
当該光ディスク装置は、実施の形態1と同様に、光ピックアップ2から光ディスク1へレーザ光を照射し、反射して戻ってきた戻り光を光ピックアップ2内のフォトダイオード(図示せず)によって電気信号に変換して再生信号を生成する。そして、その再生信号をVGA回路14に入力して、一定の振幅に正規化する。その後、実施の形態1、2と同様に、再生信号の波形を等化し、ノイズ成分を減衰させた後、デジタル信号に変換し、そのデジタル信号を復号化して、後段のインターフェース回路へ送る。
【0054】
一方、振幅検手段15がVGA回路14から出力された信号の振幅値を検出し、差分検出手段16がその振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出し、ゲインコントロール手段17がその差分を補うようにVGA回路14のゲインを設定する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる光ディスク装置は、製造工程が複雑で高コストな半導体デバイスを使用しなくとも高倍速再生に適い、且つ消費電力を抑制可能な光ディスク装置を提供でき、青色レーザ系光ディスク等を高倍速で再生可能なディスクドライブ等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図2】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路のゲイン特性を示す図
【図3】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路への入力信号波形の一例を示す図
【図4】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路からの出力信号波形の一例を示す図
【図5】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路によりスルーレートを制限した信号の振幅を説明するための図
【図6】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路の特性を説明するための図
【図7】本発明の実施の形態1におけるスルーレート制限回路の一例を示す回路図
【図8】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路の一例を示す回路図
【図9】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路とスルーレート制限回路全体のゲイン特性を説明するために想定した入力信号の振幅を示す図
【図10】本発明の実施の形態1におけるイコライザ回路とスルーレート制限回路全体のゲイン特性を示す図
【図11】本発明の実施の形態2における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図12】本発明の実施の形態3における光ディスク装置の再生信号処理系の概略ブロック図
【図13】従来の光ディスク装置における再生信号処理系の概略ブロック図
【図14】従来のイコライザ回路のブロック図
【図15】従来のイコライザ回路のゲイン特性を示す図
【図16】従来のイコライザ回路の群遅延特性を示す図
【図17】従来のイコライザ回路で使用されるgm−C型1次ローパスフィルタ回路の回路図
【図18】従来のイコライザ回路で使用されるgmアンプ回路の詳細回路図
【符号の説明】
【0057】
1 光ディスク
2 光ピックアップ
3 AGC(オートゲインコントロール)回路
4、18 イコライザ回路
5 スルーレート制限回路
6、7 定電流源
8 容量
9、19、20 2次ローパスフィルタ回路
10 2次ハイパスフィルタ回路
11 増幅回路
12 A/D変換回路
13 DRC(デジタルリードチャネル)回路
14 VGA(可変ゲインアンプ)回路
15 振幅検出手段
16 差分検出手段
17 ゲインコントロール手段
21 1次ローパスフィルタ回路
22 gmアンプ回路
23 容量
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、
前記再生信号の振幅を正規化するオートゲインコントロール回路と、
前記オートゲインコントロール回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、
前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、
を備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1記載の光ディスク装置であって、
前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、
前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、
をさらに備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、
ゲインコントロール信号に応じたゲインで前記再生信号の振幅を増幅して、前記再生信号の振幅を正規化する可変ゲインアンプ回路と、
前記可変ゲインアンプ回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、
前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、
前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、
前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、
前記デジタルリードチャネル回路により復号化された信号を基に、前記可変ゲインアンプ回路から出力された信号の振幅値を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する差分検出手段と、
前記差分検出手段により検出された差分を基に前記可変ゲインアンプ回路のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成するゲインコントロール手段と、
を備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項1】
光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、
前記再生信号の振幅を正規化するオートゲインコントロール回路と、
前記オートゲインコントロール回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、
前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、
を備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1記載の光ディスク装置であって、
前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、
前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、
をさらに備えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
光ディスクにレーザ光を照射してその戻り光を受光し該光ディスクに記録されている情報を示す再生信号を生成する光ピックアップを備えた光ディスク装置であって、
ゲインコントロール信号に応じたゲインで前記再生信号の振幅を増幅して、前記再生信号の振幅を正規化する可変ゲインアンプ回路と、
前記可変ゲインアンプ回路からの信号の波形を等化するイコライザ回路と、
前記イコライザ回路からの信号に含まれるノイズ成分を減衰するスルーレート制限回路と、
前記スルーレート制限回路からの信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路と、
前記A/D変換回路からのデジタル信号を復号化するデジタルリードチャネル回路と、
前記デジタルリードチャネル回路により復号化された信号を基に、前記可変ゲインアンプ回路から出力された信号の振幅値を検出する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段により検出された振幅値の所定の基準振幅値からの差分を検出する差分検出手段と、
前記差分検出手段により検出された差分を基に前記可変ゲインアンプ回路のゲインを制御するゲインコントロール信号を生成するゲインコントロール手段と、
を備えることを特徴とする光ディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−4177(P2008−4177A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173222(P2006−173222)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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