説明

光ディスク記録再生装置

【課題】 回路規模や消費電力の増加を抑えつつ、充分な検波性能を有する光ディスク記録再生装置を提供する。
【解決手段】 キャリアを生成するウォブルPLL回路と、ウォブル信号をデルタシグマ変調するデルタシグマ変調器と、デルタシグマ変調器の出力を、ウォブル信号に相当する周波数又はウォブル信号の変調成分に相当する周波数を通過域に含むフィルタに通過させるバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタの出力とキャリア信号との演算を行なう演算器と、演算器の出力から低域成分だけを通過させるローパスフィルタと、ローパスフィルタの出力からアドレス情報を再生するアドレス情報再生回路とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに情報を記録又は再生する光ディスク記録再生装置、特に、光ディスクのウォブリング情報等を再生する際の信号処理回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光ディスクからデータを記録再生する際に、ディスク上の位置を知るために、あらかじめディスクに埋め込まれたアドレス情報を検出し、ディスク上の希望するトラック位置にアクセスした上で、その位置にユーザーデータの記録再生を行なう。光ディスクの多くでは、ディスク上のグルーブ溝を、溝の幅方向に微小に偏移させ、いわゆるウォブリングさせることでアドレス情報やクロック情報を埋め込んでいる。
【0003】
上記のような光ディスクの場合、通常ウォブリング構造は正弦波状であり、再生されるウォブル信号は略正弦波となっている。そして、その一部をFSK/PSK/MSK/STW等の変調を行なうか、グルーブのウォブリングに並行して、グルーブ間のランドにプリピットを設けてアドレス情報を埋め込んでいる。
【0004】
このような光ディスクのアドレスを再生する際には、信号発生器により再生したウォブル信号に同期した何らかのキャリア信号を生成する。そして、ウォブルの一部にしか配置されていないPSK変調成分やプリピットといったアドレス情報の検出タイミングを捉え、そのタイミングに基づいてアドレス情報であるビット値を検出している。
【0005】
また、線速度一定になる速度制御を行なうためには、ウォブル信号の正弦波周波数が一定になるように、上記キャリア信号を基にスピンドル制御を行っている。
【0006】
このため、従来より上記ウォブル信号に同期したキャリア信号を生成するには、特許文献1に示されるように、PLLが利用されている。PLLは、位相比較器(位相誤差検出器)、ループフィルタ、電圧制御発振器(VCO)で構成される。今後このウォブル信号と同期したキャリア信号を生成するPLLをウォブルPLLと呼ぶ。
【0007】
このウォブルPLLでの位相検出方法としては、近しい周波数を有する2つの信号から、両者の周波数差であるビート成分を検出するいわゆるヘテロダイン検出法が用いられている。
【0008】
例えば、図10はPLL装置の一例である。図10で、101は10ビット幅のAD変換器、102は乗算器、103はキャリアの2倍周波数成分を除去するLPF、104はループフィルタ、105はデジタルVCOである。
【0009】
図10で、図示しない光ピックアップからで光電変換された後マトリックス演算により再生されたウォブル信号はAD変換器101で10ビットのデジタルデータに変換され、乗算器102で8ビットのキャリア信号と乗算する。乗算することで、ウォブル信号とキャリア信号の両者の周波数差成分と和成分が生成される。LPF103では、その周波数の和成分を除去し、周波数の差成分だけを通過させる。通過した周波数の差成分から、適宜ループ特性を有するループフィルタ104にて制御信号を生成し、デジタルVCO105の制御入力に与えてループを構成することで、デジタルVCO105の出力であるキャリア信号の周波数を制御している。
【0010】
このような構成をとることで、ウォブル信号と位相ロックしたキャリア信号を生成することができる。また、位相ロックしたキャリア信号から位相が90度ずれた第2のキャリア信号を、ウォブル信号と乗算することで、PSKなどの変調成分が生成される。この変調成分によりアドレス情報を検出することができる。
【特許文献1】特開2004−362630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のウォブル信号処理においては、多ビットの高速AD変換器を用いるため、AD変換器まわりの回路規模が増大し、それに伴い消費電力も増大するという問題点がある。具体的には、まず、レーザ光量やディスク反射率で振幅等が変動するウォブル信号を精度よく処理するため、多ビットのAD変換器が用いられる。更に、その後段にあたる乗算器では多ビットで表現されるキャリア信号との乗算を行なう。
【0012】
ここで、再生するウォブル信号の周波数を約820kHzとすると、正確に信号を再現するにはその20倍以上のサンプリング周波数が必要とされるので、AD変換器の動作周波数は約20MHzを必要とする。さらには、ADのビット数は10ビットで、キャリア信号のビット数を8ビットとすると、出力として18ビットの乗算器が20MHzで動作することが要求される。
【0013】
通常、AD変換器の動作周波数やビット数が大きくなると、AD変換器そのものの回路が複雑になり、また消費電力が増加する。乗算される2つの入力それぞれのビット数が大きくなると、後段の乗算器においても回路規模が増大する。また回路規模が増大することに伴い、実際のIC回路での動作速度は制限される。
【0014】
一方、ウォブル信号やキャリア信号のビット数を減らしたり、サンプリング周波数を下げることは、デジタル後のウォブル信号のS/Nや位相誤差検出時のS/Nを低下させ、その結果、位相検出精度を悪化させPLLの性能を劣化させる恐れがあった。
【0015】
同様に、デジタル後の検波回路における検波後の信号のS/Nを低下させ、その結果、被変調成分の検出精度を悪化させることになってアドレス検出性能を劣化させかねない。
【0016】
更に、乗算器等の全て又は一部の回路をアナログ回路で構成する場合、温度特性や素子ばらつきに敏感になり、充分な回路性能を維持することが難しい。このような点から、回路規模や消費電力の増加を抑えつつ、充分な性能を有するウォブル変調に対応することが望まれていた。また、高倍速化に伴い、より高速のAD変換器が必要になる。
【0017】
本発明の目的は、回路規模の増大や消費電力の増大を抑制しつつ十分な性能を得ることが可能な光ディスク記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、以下を提供する。ウォブリングされたトラックを有する光ディスクの反射光に基づいてウォブル信号を検出するウォブル信号検出器と、入力に応じて出力の発振周波数が変化するVCOとを有し、前記ウォブル信号と前記VCOの出力との位相誤差により、前記VCOを制御する光ディスク記録再生装置において、前記ウォブル信号をデルタシグマ変調する変調器と、前記変調器で変調された前記ウォブル信号に相当する周波数を帯域に含むバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタの出力と前記VCOの出力とから前記位相誤差を検出する位相誤差検出器と、前記位相誤差検出器の出力に基づいて、前記VCOを制御することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ウォブル用のAD変換器に回路構成が簡単なデルタシグマAD変換器を用いて1ビットのデジタルビットストリームを出力し、キャリア信号との演算処理を行なうことにより、回路規模を簡単化することが可能となる。さらに、キャリア信号との演算処理を行なう前に、バンドパスフィルタに通過させて、ウォブル信号の変調成分に相当する周波数だけを取り出すことにより、回路規模を簡単化するだけでなく、検出精度を保つことが可能となる。
【0020】
即ち、従来において回路規模が増大していたAD変換を簡単化でき、更に1ビットで処理することからその後段の処理回路をも簡単化することが可能となる。さらに、ウォブル信号の変調成分に相当する周波数だけを取り出すバンドパスフィルタを設けることで、ヘテロダイン方式による乗算後のS/Nを向上することができ、しいてはアドレス情報のエラーレートを向上することができる。
【0021】
また、回路規模が簡単になることで、コストダウンだけでなく、従来よりも高速に動作することができ、光ディスクの高倍速にも対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施例)
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明における光ディスク記録再生装置のウォブルPLLについてのブロック図を図1に示し、動作を説明する。
【0024】
図1の1は情報が記録再生される光ディスクである。なお、光ディスクは脱着可能である。次に図1の光ディスク記録再生装置は以下を備える。2はディスクを回転させるスピンドルモーター、3はスピンドルモーターを駆動するモータードライバを含むモーターの回転を制御する制御回路である。また、5は光ディスクに対して記録再生を行なうピックアップ、6はピックアップ内に含まれる複数のセンサの出力を増幅し、プッシュプル出力であるウォブル成分の信号を生成するアナログ信号処理回路である。さらに、7はウォブル信号をデルタシグマ変調するための変調器であるデルタシグマAD変換器、8はバンドパスフィルタ、9は位相誤差検出器、10はループフィルタ、11はデジタルVCOである。
【0025】
次に動作を説明する。モーターの制御回路3によりスピンドルモータ−2は、光ディスク1を適切な回転数で回転させる。次に、光ピックアップ5内に含まれる半導体レーザが光をディスク1に照射し、ディスクからの反射光を光ピックアップ5内のセンサで受光する。光ピックアップ5内のセンサからの信号を基に図示しないサーボ回路によって、ディスクへの照射光は、ディスク1上に存在する溝に焦点を合わせつつ、その溝に沿うように操作、制御される。
【0026】
また、ウォブリングされたトラックを有するディスクからの反射光は光ピックアップ5内のセンサからの出力信号を元に、アナログ信号処理回路6にてマトリックス演算を行なうことで、ウォブル信号を検出している。なお、アナログ信号処理回路6は、請求項に記載されているウォブル信号を検出するウォブル信号検出器である。
【0027】
アナログ信号処理回路6で生成されたウォブル信号は、デルタシグマAD変換器7で、入力されるクロックの周波数で高速サンプリングされた1ビットのデジタルビットストリームに変換される。
【0028】
さらに、バンドパスフィルタ8は、1ビットのデジタルビットストリーム信号からウォブル信号の周波数に相当する820kHzを通過させる。ここで、バンドパスフィルタ8は、固定の出力周波数をもつクロックにより動作させてもよい。この固定の出力周波数をもつクロックで動作させることで、バンドパスフィルタの通過域を一定にすることができ、安定してウォブル信号の周波数に相当する820kHzを通過させることができる。一方、固定の出力周波数でないクロックを用いた場合は、クロックの乱れが大きいとバンドパスフィルタの通過域が変動してしまい、安定してウォブル信号の周波数に相当する820kHzを通過できないことがある。
【0029】
ここで、バンドパスフィルタの構成の一例を説明する。例えば、バンドパスフィルタはIIRの2次で構成され、その伝達関数HBPFは以下の式(1)で示される。
【0030】
【数1】

【0031】
これをブロック図で示すと、図3のようになる。但し、300から303は遅延器、304から306は加算器、307から308は固定係数を乗算する乗算器である。ここで、図3における遅延器は、固定の出力周波数をもつクロックのタイミングで動作することで、バンドパスフィルタの周波数特性を安定させることができる。
【0032】
次に、バンドパスフィルタ8の出力と、位相誤差検出器9において、もうひとつの入力であるキャリア信号との演算により位相誤差を検出する。その演算内容については、後ほど詳細に説明する。
【0033】
位相誤差検出器9で検出された位相誤差信号は、ループフィルタ10で適宜ループ特性に見合うようにフィルタ処理され、周波数制御信号としてデジタルVCO11に出力される。デジタルVCO11では、入力された周波数制御信号にしたがって発振周波数が決定され、その発振周波数に応じた余弦波キャリアと正弦波キャリアが出力される。出力された余弦波キャリアは前述のとおり、位相誤差検出器9のもう一方の入力となっていて、入力との位相差を検出するように接続されている。
【0034】
このデジタルVCO11は、数値制御発振器(NCO)とも呼ばれている。数値制御発振器は、入力値に応じて内部カウンタの増分値を変えており、その内部カウンタに基づいて正弦波テーブルを参照して正弦波を出力することで、入力に応じて周期が変わる正弦波を生成するものである。
【0035】
もちろん、このデジタルVCO11はウォブル信号より高い周波数のクロックを生成し、そのクロックを別途分周することで正弦波を生成するような構成をとってもよい。
【0036】
以上のようにウォブルPLLが構成されることで、略正弦波のウォブル信号に対して、デジタルVCO11の出力であるキャリア信号の位相がロックする。このデジタルVCO11の出力は、ウォブル信号に重畳されているアドレス情報を読み出すための基準となって図示しないアドレス検出部に与えられる。また、図示しないが、線速度一定制御のために、スピンドル制御情報としてスピンドル制御部に接続される。
【0037】
次に、図1のデルタシグマAD変換器7について説明する。デルタシグマAD変換器の基本構成を図2に示す。図2(a)における入力は図1におけるデルタシグマAD変換器7の入力にあたるウォブル信号となる。デルタシグマAD変換器は、積分器22の出力を所定の閾値で2値化し1ビットの出力信号を生成するコンパレータ23と、コンパレータ23の出力を動作クロックである20MHzの1クロック分遅延させる遅延器24で構成される。さらに、遅延器24の出力から前記閾値を中心レベルとするアナログの2値に変換するDA変換器25、DA変換器25の出力と入力信号の減算を行なう減算回路21から構成される。
【0038】
詳細な説明は省略するが、上記のような構成を採用することで、デルタシグマADは1ビット出力でありながら、20MHzという高速のサンプリング周波数を有することができる。そして、ノイズスペクトルを高域にシェーピングすることで、低域の周波数成分については高S/Nを有するように、AD変換を実現している。
【0039】
本発明の要点である上記位相誤差検出器8の詳細について、図3を示しつつ説明する。
【0040】
図3で、31は信号の値を−1倍する符号反転回路、32はスイッチ、33はLPF、34は2値化回路である。
【0041】
バンドパスフィルタ8の出力信号は、符号反転回路31により、正負が反転した信号に変換される。スイッチ32ではキャリア信号を2値化回路34にて2値化した信号を切り替え制御信号として、バンドパスフィルタ8の出力信号とその符号反転した符号反転回路31の出力とを切り替える。つまり、キャリア信号が1であるときに、符号を反転していない信号を選択し、0であるときに、符号を反転している信号を選択する。LPF33はスイッチ32の出力から不要な成分を除去し、位相誤差検出信号を出力する。なお、バンドパスフィルタ8の出力信号を2の補数表現することで、−1倍は乗算回路ではなく、ビット数分のNOT論理と加算器で実現できる。つまり、各ビットを反転するNOT論理と1を加算するための加算器で実現できる。以上の動作は、デルタシグマAD変換器の出力レートであるデルタシグマAD変換器の動作クロックと同じクロックで動作する。
【0042】
本実施例では、バンドパスフィルタ8の出力信号に対して、キャリアを2値化した信号で正負を切り替えることで、乗算処理を実現している。乗算することで、ウォブル信号成分とキャリア信号成分の周波数差すなわち周波数の変化や位相変化を検出できる。すなわち、ウォブル信号の位相誤差成分をDC領域に周波数変換している。
【0043】
ここで、ウォブルをSIN(ωot)、キャリア信号をCOS(ωct)とすると、
SIN(ωot)*COS(ωct)
=SIN{(ωo−ωc)・t}+SIN{(ωo+ωc)・t}
と計算できるが、第1項は両者の周波数差の成分を、後者は両者の周波数和の成分を示している。すなわち、ウォブル信号の周波数変動をDC領域にヘテロダイン方式で変換している。
【0044】
この様子を示しているのが図5である。図5のグラフは、両者の位相ズレ量に対する位相検出量を示している。前述のとおり、位相誤差の検出曲線はSIN状となる。図5で、点線で示した3ヶ所での信号の様子を、矢印に対応させて示す。それぞれで、(a)はウォブル信号、(b)はキャリア信号、(c)は乗算処理結果、(d)はLPF後の信号である。(2)で示されるように、ウォブル信号とキャリア信号との位相差が90度のとき、位相誤差検出量はゼロとなる。また、両者の位相がほぼ同相になる(3)の場合には、正の値が、逆相になる(1)の場合には負の値が、検出値として出力する。
【0045】
さらにこの動作を説明するために、周波数ドメインでの様子を図6に示す。図6の(a)は、デルタシグマAD変換後の信号にバンドパスフィルタ8を通した信号スペクトルである。次に、図6(b)は、バンドパスフィルタ8の出力信号を、VCO11の出力であるキャリア信号を2値化した信号で切り替えることで、乗算処理がなされた信号スペクトルである。図6(b)からわかるように、乗算後のスペクトルは、ウォブル信号とキャリア信号の周波数差であるDC近傍に存在する位相誤差検出成分と、ウォブル信号とキャリア信号の周波数和の成分とに周波数変換される。この場合、両者の周波数はほぼ同じなので、前記後者の周波数和の成分は、ほぼウォブル信号の周波数の2倍である約1.6MHzとなっている。その後、図6(e)は、1点鎖線で示されるような周波数特性を有するLPFにて、後者の周波数和の成分が除去され、DC近傍に存在する位相誤差検出成分のみが出力された信号のスペクトラムである。
【0046】
一方、図6(c)はバンドパスフィルタ8を通過させなかったデルタシグマAD変換後の信号スペクトルである。ウォブル信号は略正弦波なので、その周波数である約820kHzにピークを持つスペクトルを有すると共に、サンプリング周波数である20MHzの半分の帯域まで、高域にいくほど増加するノイズスペクトルを有している。
【0047】
バンドパスフィルタ8を通した図6(a)の信号スペクトルと比べてデルタシグマによるノイズスペクトルが支配的であることがわかる。このように乗算前にノイズが残っている状態でヘテロダイン乗算を行なうと、図6(d)の信号スペクトルのように、DC近傍に存在する位相誤差検出成分に、ノイズに起因する成分が含まれてしまい、位相誤差検出成分においてのS/Nは悪化する。
【0048】
そこで、バンドパスフィルタ8により、変調成分の周波数近傍のみを通過させることで、位相誤差検出成分においてはS/Nが改善される。従って、デルタシグマAD変換器の動作周波数は従来のAD変換器と同等の周波数で実現できる。
【0049】
このようにして、従来例で回路規模が増大していたADとその後の乗算処理を、従来と変わらない動作クロックで動作するデルタシグマADとスイッチで構成したことにより、回路規模が削減され、消費電力が低減できる。また、ウォブル信号に相当する周波数だけを通過させるバンドパスフィルタを設ける構成にしたことにより、従来と同等の位相誤差信号のS/Nを確保することができ、PLLを安定に動作させることができる。さらに、バンドパスフィルタを固定の出力周波数をもつクロックで動作させることで、バンドパスフィルタの通過域を一定にすることができ、安定してウォブル信号に相当する周波数を通過させることができる。また、光ディスクが高倍速化した場合にも、PLLの安定を保つことができる。
【0050】
(第2の実施例)
図7は本発明に係る光ディスク記録再生装置の一実施形態を示すブロック図である。図7では主にPSK検波回路を詳細に示す。なお、図7では光ディスクに情報を記録するための回路や再生するための回路、フォーカス制御やトラッキング制御を行なうサーボ制御回路、或いは装置全体を制御するコントローラや機構等に関しては省略している。また、図7中で、図1と同じ符号を付した番号は説明を繰り返さない。
【0051】
図7で、12は正弦波キャリア信号を生成する信号発生器であるウォブルPLL回路、13は演算器、14はローパスフィルタ、15はウォブルのアドレス情報を生成するアドレス再生回路である。
【0052】
スピンドルモータ2はモータ制御回路3により制御され、光ディスク1を適切な回転数で回転駆動する。次に、光ピックアップ5内の図示しない半導体レーザのレーザ光束が光ディスク1に照射され、光ディスク1からの反射光を光ピックアップ5内のセンサで受光する。光ピックアップ5内のセンサからの信号を基に図示しないサーボ制御回路は光ディスク1への照射光が光ディスク1上の溝に焦点を合わせつつ、その溝に沿って走査するようにサーボ制御を行なう。
【0053】
光ピックアップ5内のセンサからの出力信号はアナログ信号処理回路6に供給され、アナログ信号処理回路6はその信号をもとにマトリックス演算を行なうことでウォブル信号を検出している。
【0054】
アナログ信号処理回路6で生成されたウォブル信号はデルタシグマAD変換器7で、入力されるクロックの周波数で高速サンプリングされた1ビットのデジタルビットストリームに変換される。
【0055】
さらに、バンドパスフィルタ8は、1ビットのデジタルビットストリーム信号からウォブル信号の変調成分に相当する820kHzを通過させる。ここで、バンドパスフィルタ8は、図示してない固定の出力周波数をもつクロックにより動作させてもよい。この固定の出力周波数をもつクロックで動作させることで、バンドパスフィルタの通過域を一定にすることができ、安定してウォブル信号の周波数に相当する820kHzを通過させることができる。一方、固定の出力周波数でないクロックを用いた場合は、クロックの乱れが大きいとバンドパスフィルタの通過域が変動してしまい、安定してウォブル信号の周波数に相当する820kHzを通過させることができないことがある。本実施例においても、第1の実施例と同様のバンドパスフィルタを用いる。また、今回はPSK変調の成分を検出する場合を例に説明したが、MSK変調の成分を検出する場合は、バンドパスフィルタの通過域をウォブル信号の周波数に相当する約960kHzする。同様に、STW変調の成分を検出する場合は、バンドパスフィルタの通過域をSTW変調成分に相当する約1.9MHzする。
【0056】
一方、ウォブルPLL回路12によりウォブル信号と同期した正弦波キャリアを再生する。正弦波キャリアは演算器13に入力される。
【0057】
演算器13は、バンドパスフィルタ8の出力とPLL回路8の出力である正弦波キャリアとの演算を行ないPSKの変調情報を検出する。その演算処理は詳しく後述する。演算器13で検出されたPSKの変調情報は、後段のローパスフィルタ14において不要な高域成分を除去し、PSK検波信号を出力する。その後、アドレス再生回路15においてPSK検波信号から同期信号を検出し、アドレスビットを判定してアドレス情報を再生する。
【0058】
本発明の要点である上記演算器13の詳細について、図8に示しつつ説明する。
【0059】
図8で、31は信号の値を−1倍するの符号反転回路、32はスイッチ、33はLPF、34は2値化回路である。
【0060】
バンドパスフィルタ8の出力信号は、符号反転回路31により、正負が反転した信号に変換される。スイッチ32ではキャリア信号を2値化回路34にて2値化した信号を切り替え制御信号として、バンドパスフィルタ8の出力信号とその符号反転した符号反転回路31の出力とを切り替える。つまり、キャリア信号が1であるときに、符号を反転していない信号を選択し、0であるときに、符号を反転している信号を選択する。LPF33はスイッチ32の出力から不要な成分を除去し、PSKの変調情報を出力する。なお、バンドパスフィルタ8の出力信号を2の補数表現することで、−1倍は乗算回路ではなく、ビット数分のNOT論理と加算器で実現できる。つまり、各ビットを反転するNOT論理と1を加算するための加算器で実現できる。以上の動作は、デルタシグマAD変換器の出力レートであるデルタシグマAD変換器の動作クロックと同じクロックで動作する。
【0061】
本実施例では、バンドパスフィルタ8の出力を、キャリア信号を2値化した信号で正負切り替えることで、乗算処理を実現している。乗算することで、ウォブル信号成分とキャリア信号成分の位相差を検出できる。即ち、ウォブル信号のPSK成分をDC領域に周波数変換することで元の変調情報を再生する。
【0062】
ここで、ウォブル信号をSIN(θ+α)と表現する。但し、無変調時α=0、PSK変調時α=πである。更に、キャリア信号をSINθとする。乗算結果は以下のように計算できる。
SIN(θ+α)×SIN(θ)
=(1/2)・{COS(α)−COS(2θ+α)}
この演算式で、第1項は位相の変化、即ちPSKによる被変調成分を、第2項は位相の和の成分を示す。即ち、第1項は無変調時COS(0)=1、PSK変調時COS(π)=−1となり、ビット判別できる信号に変換される。第2項はほぼウォブルの2倍周波数の成分となるので、後段のLPFで除去される。
【0063】
なお、本実施例で説明したPSKだけではなく、MSKやSTWを検出する場合にも同様の構成で行なうことができる。
【0064】
ここで、図9に示すように、ウォブルPLL回路12にバンドパスフィルタ8の出力を与えて、キャリア信号を生成する構成を用いてもよい。但し、図9の各ブロックの動作は、本実施例と同じなので説明を繰り返さない。
【0065】
以上のように、本実施形態では、従来例で回路規模が増大していたADとその後の乗算処理を、従来と変わらない動作クロックで動作するデルタシグマADとスイッチで構成したことにより、回路規模が削減され、消費電力が低減できる。また、ウォブル信号の変調成分に相当する周波数だけを通過させるバンドパスフィルタを設ける構成にしたことにより、従来と同等の検出した変調情報のS/Nを確保することができ、アドレス情報のエラーレートを向上することができる。さらに、光ディスクが高倍速化した場合にも、アドレス情報のエラーレートを保つことができる。また、バンドパスフィルタを固定の出力周波数をもつクロックで動作させることで、バンドパスフィルタの通過域を一定にすることができ、安定してウォブル信号に相当する周波数を通過させることができる。また、光ディスクが高倍速化した場合にも、PLLの安定を保つことができる。
【0066】
また、バンドパスフィルタ8の出力をもとにキャリア信号を生成する構成を用いた場合は、上記効果に加えて、位相誤差信号のS/Nを確保することができ、PLL回路も安定に動作させることができる。従って、アドレス情報のエラーレートをさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の全体構成を説明するためのブロック図
【図2】デルタシグマ変調を用いたAD変換器の基本ブロック図と、デルタシグマ変調における信号とノイズのスペクトルを示した図
【図3】本発明におけるバンドパスフィルタのブロック構成図の一例
【図4】第1の実施例における位相誤差検出器のブロック図
【図5】位相差に対応して検出される位相誤差検出器の様子について示した図
【図6】ヘテロダイン方式による乗算における各部のスペクトルを説明する図
【図7】第2の実施例における全体構成を説明するためのブロック図
【図8】第2の実施例における演算器のブロック図
【図9】第3の実施例における演算器のブロック図
【図10】従来例における位相誤差検出器のブロック図
【符号の説明】
【0068】
1 光ディスク
2 スピンドルモータ
3 モータ制御回路
5 光ピックアップ
6 アナログ信号処理回路
7 デルタシグマAD変換器
8 バンドパスフィルタ
9 位相誤差検出回路
10 デシメーションフィルタ
11 デジタルVCO
12 ウォブルPLL回路
13 演算器
14 ローパスフィルタ
15 アドレス情報再生回路
21 加算器
22 コンパレータ
23 DA変換器
24 遅延器
31 符号反転回路
32 スイッチ
33 ローパスフィルタ
34 2値化回路
101 10ビットAD
102 乗算器
103 キャリアカットフィルタ
104 ループフィルタ
105 デジタルVCO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォブリングされたトラックを有する光ディスクの反射光に基づいてウォブル信号を検出するウォブル信号検出器と、
入力に応じて出力の発振周波数が変化するVCOとを有し、
前記ウォブル信号と前記VCOの出力との位相誤差により、前記VCOを制御する光ディスク記録再生装置において、
前記ウォブル信号をデルタシグマ変調する変調器と、
前記変調器で変調された前記ウォブル信号に相当する周波数を帯域に含むバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力と前記VCOの出力とから前記位相誤差を検出する位相誤差検出器と、
前記位相誤差検出器の出力に基づいて、前記VCOを制御することを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項2】
トラックにウォブリングが施され、該ウォブリングを変調することによってアドレス情報が記録された光ディスクに対して情報を記録又は再生する光ディスク記録再生装置において、
前記光ディスクからの反射光に基づいてウォブル信号を検出するウォブル信号検出器と、
前記ウォブル信号をデルタシグマ変調する変調器と、
前記変調器で変調された前記ウォブル信号に相当する周波数又は前記ウォブル信号の変調成分に相当する周波数を通過域に含むバンドパスフィルタと、
該ウォブル信号に位相が同期したキャリア信号を生成する信号発生器と、
前記バンドパスフィルタの出力と前記キャリア信号との演算を行なう演算器と、
前記演算器の出力に基づいて、前記アドレス情報を再生する再生回路とを備えたことを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項3】
トラックにウォブルが施され、そのウォブルを変調することによってアドレス情報が記録された光ディスクに対して情報を記録又は再生する光ディスク記録再生装置において、
前記光ディスクからの反射光に基づいて前記ウォブルによるウォブル信号を検出するウォブル信号検出器と、
前記ウォブル信号をデルタシグマ変調する変調器と、
前記変調器で変調された前記ウォブル信号に相当する周波数又は前記ウォブル信号の変調成分に相当する周波数を通過域に含むバンドパスフィルタと、
入力に応じて出力の発振周波数が変化するVCOと、
前記バンドパスフィルタの出力と前記VCOの出力とから位相誤差を検出する位相誤差検出器と、
前記位相誤差検出器の出力に基づいて、前記VCOの出力を制御する手段と、
該ウォブル信号に位相が同期したキャリア信号を生成する信号発生器と、
前記バンドパスフィルタの出力と前記キャリア信号との演算を行なう演算器と、
前記演算器の出力に基づいて、前記アドレス情報を再生する再生回路と、を備えたことを特徴とする光ディスク記録再生装置。
【請求項4】
前記位相誤差検出器は、前記バンドパスフィルタの出力と前記VCOの出力とをもとに、ヘテロダイン方式により演算することで、前記位相誤差を検出することを特徴とする請求項1又は3に記載の光ディスク記録再生装置。
【請求項5】
前記演算器は、前記バンドパスフィルタの出力と前記VCOの出力である前記キャリア信号とをもとに、ヘテロダイン方式により演算することで、前記変調成分を検出することを特徴とする請求項2又は3に記載の光ディスク記録再生装置。
【請求項6】
前記バンドパスフィルタは固定の出力周波数をもつクロックにより動作することを特徴とする請求項1から3に記載の光ディスク記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−158035(P2009−158035A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336844(P2007−336844)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】