説明

光パラメトリック発振波長変換装置

【課題】近赤外、赤外波長領域で利用可能な光パラメトリック発振による波長変換装置を提供すること。
【解決手段】非線形光学結晶に式(1)で表される周期dで正負の極性が交番する周期的分極反転構造を形成し、擬似位相整合を用いて周波数ω3の光1を入射させることで周波数ω3=ω1+ω2の関係を満たす周波数ω1と周波数ω2の各光2、3を出力させる波長変換素子4と、この素子が配置される光共振器5とで構成される光パラメトリック発振波長変換装置であって、非線形光学結晶が窒化物単結晶で構成されていることを特徴とする。
d=m/[(n3/λ3)−(n2/λ2)−(n1/λ1)] (1) [式(1)において、mは位相整合の次数、λ1、λ2、λ3は周波数ω1、ω2、ω3の光の波長、n1、n2、n3は周波数ω1、ω2、ω3の光に対する窒化物単結晶の屈折率]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長1μm〜14μmの近赤外、赤外波長領域で利用可能な光パラメトリック発振による波長変換装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信や高密度光記録用に半導体レーザーの高出力化、コンパクト化、発振波長の短波長化が著しく発展してきている。また、これ等の用途以外にも医療や環境計測の分野でレーザー光を応用する技術開発が活発に行われており、レーザー光源の更なる高出力化、コンパクト化、発振波長の多様化は重要な課題となっている。しかし、レーザー光源の開発には巨額の投資や技術課題を克服する必要があり、医療や環境計測、分光分析等への応用では必ずしも最適な波長のレーザー光源が使用出来ていないのが実情である。そこで、既存のレーザー光源を基本光として波長を変換する技術が重要となっている。レーザー光の波長変換は、既存の半導体レーザーや固体レーザーと、非線形光学結晶を用いた波長変換素子の組み合わせにより実現される。この組み合わせによれば原理上は連続発振も可能であり、また、パルス発振の場合に繰り返し周波数を大きくすることが可能である。更に、波長の狭帯域化も可能であり、空間モードの品質が良いという特徴も有している。
【0003】
ここで、非線形光学結晶とは非線形光学効果を示す結晶のことである。また、非線形光学効果とは、物質の分極応答の非線形性による効果のことであり、物質中にレーザー光のような強い光を入射したときに、入射光の電界に対する分極の応答が比例しなくなることで入射光の一部が波長変換される現象である。特に、2次の非線形光学効果を利用して入射光の半分の波長の光を取り出す第2高調波発生は、レーザー光の短波長への波長変換方法として最も良く知られている。この方法により、例えばNd:YAGレーザー光(波長1064nm)を波長532nmに変換し、更にもう一段の波長変換により266nmにすることが出来る。
【0004】
但し、この方法では、波長変換を行う非線形光学結晶に屈折率分散があるため、結晶中の第2高調波の波長は結晶中の入射光の波長に対して正確に1/2にはならず、結晶中の各所で発生した第2高調波同士に位相ずれが生じて、充分な強度の第2高調波を取り出すことが困難な問題を有する。このため、通常は結晶の複屈折を利用して入射光と第2高調波との波長比が正確に1/2になる結晶方位を用いることにより位相を整合させている。
【0005】
しかし、複屈折を利用した位相整合では、結晶の複屈折量を超える位相整合が不可能である。そこで、非線形光学結晶の限界を超えて位相整合を行う技術として、擬似位相整合という方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
擬似位相整合は、非線形光学結晶に周期的分極反転構造を形成することによって実現される。擬似位相整合によれば、非線形光学結晶が所望の波長において適当な複屈折を有していなくても、基本波と第2高調波の位相を整合させることで変換効率を向上させることができる。また、擬似位相整合による波長変換は、結晶の複屈折性を利用しないため、基本波と第2高調波の進行方向によって生じる変換効率の低下やビーム品質の悪化も回避できるという利点を有している。
【0007】
こうした擬似位相整合を用いた波長変換素子により第2高調波や和周波といった入射光よりも短い波長の光を取り出すことが出来るため、波長の短い深紫外光源への応用等が活発に研究されている。
【0008】
一方、このような波長変換素子で入射光よりも波長の長い2つの光に入射光を分解することも可能であり、そのうち波長の短い光をシグナル光、波長の長い光をアイドラ光と呼び、入射光の周波数をω3、シグナル光の周波数をω1、アイドラ光の周波数をω2としたときにω3=ω1+ω2の関係を満たす。このような長波長化の場合は短波長化と比較して利得が低いため光共振器を併用する必要があり、この長波長変換技術は光パラメトリック発振(Optical Parametric Oscillator)と呼ばれる。このような光パラメトリック発振によれば、例えば入射光にNd:YAGレーザー光(波長1064nm)を用いることにより、効率の高い2μm近傍の近赤外あるいは赤外光を取り出すことができる。更に、これ等の光の波長が波長変換素子の温度に依存することを利用し、波長変換素子の温度制御によって広い波長可変性を持たせることが可能であり、連続光源として利用することが可能となる。このような近赤外〜赤外領域での波長可変レーザー光源は、多様な原子・分子の分光操作や基礎物理定数の決定、また周波数標準、長さ標準や光パワー標準等の標準への応用等理化学基礎分野での応用に加え、実用的には大気中の極微量のガスや汚染物質の計測等環境分野での利用も可能となり、現在は多種多様なレーザー光源を用いて実現されている精密計測用光源を単一の原理に基づく光源システムに置き換えることが出来る等の期待が大きい。
【0009】
このような光パラメトリック発振波長変換装置に適用される波長変換素子としては、LiNbO3やLiTaO3等の強誘電体酸化物結晶が主に知られており、更にこれ等にMg等の元素をドープして耐光損傷性を改善する等の検討が加えられている(特許文献2)。
【0010】
しかし、これ等の波長変換素子として用いられるLiNbO3やLiTaO3等の結晶においては、赤外領域での吸収端が5μm付近のため、波長5μm以上の光を取り出すことが困難な問題があり、かつ、LiNbO3やLiTaO3等の結晶において、近赤外あるいは赤外領域に例えばOH−イオンのような波長2800nm近傍の材料固有の吸収がある場合、その波長領域で発生した光が吸収されてしまうためその波長領域の光源としては著しく効率が悪く、最悪の場合には材料それ自身の光吸収のため結晶が破壊される等の問題を生じている(特許文献3)。
【0011】
また、LiNbO3やLiTaO3等の熱伝導率は5〜10W/K・mと低いため放熱性が悪く、結晶の熱歪みにより高出力特性が劣化するという問題もあった。
【特許文献1】特開2002−122898号公報(特許請求の範囲、段落0056)
【特許文献2】特開2002−372731号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2000−356793号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、特許文献3に記載された材料それ自身の光吸収の影響が小さく、高出力特性に優れ、しかも、波長5μm以上の光を取り出すことが可能な光パラメトリック発振波長変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明者等は、上述した波長領域において光パラメトリック発振波長変換素子として機能しうる結晶材料の検討を行った。目的とする波長変換素子用の結晶には、熱伝導率が高く放熱性に優れ、近赤外、赤外領域で材料固有の吸収がなく、かつ、赤外領域での吸収端が5μm以上であると共に、擬似位相整合技術を適用するための強誘電性を持つことが求められる。更に、波長変換素子を実際に製造するためには、これ等の物性が満たされた上で一定の大きさ以上の単結晶を製造できなければならない。尚、本発明者等は、短波長領域で用いられる擬似位相整合を用いた波長変換素子として窒化物単結晶が好適であることを既に見出している(特願2007−320441明細書参照)が、この窒化物単結晶が、光パラメトリック発振波長変換装置に用いられる波長変換素子としても有効であることを発見し本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、請求項1に係る発明は、
非線形光学結晶に下記式(1)で表される周期dで正負の極性が交番する周期的分極反転構造を形成し、擬似位相整合を用いて、周波数ω3の光を入射させることにより周波数ω3=ω1+ω2の関係を満たす周波数ω1と周波数ω2の光を出力させる波長変換素子と、入力側ミラーと出力側ミラーから成りこれ等ミラー間に上記波長変換素子が配置される光共振器とで構成される光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記非線形光学結晶が窒化物単結晶で構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
d=m/[(n3/λ3)−(n2/λ2)−(n1/λ1)] (1)
[上記式(1)において、mは位相整合の次数、λ1、λ2、λ3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光の波長、n1、n2、n3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光に対する窒化物単結晶の屈折率である]
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶がAl1-xGaxN(但し、0≦x≦1)で表される窒化物であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶がAlNであることを特徴とする。
【0016】
次に、請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶がバルク状結晶で構成されていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶が基板上に形成された薄膜で構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に係る発明は、
請求項5に記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
薄膜が形成される上記基板が、Si、GaAs、AlN、InP、AlGaN、Al、β−Gaのいずれかであることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項1〜6のいずれかに記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶が気相成長法により製造されていることを特徴とする。
【0018】
次に、請求項8に係る発明は、
請求項1〜6のいずれかに記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記窒化物単結晶が液相成長法若しくは溶液成長法により製造されていることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る光パラメトリック発振波長変換素子において、
波長変換して出力される光の少なくとも1つの光が波長1μm〜14μmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置によれば、
擬似位相整合によって波長5μm以上の長波長光への波長変換、および、波長変換素子の温度制御によって広い波長可変性を持った連続光源が実現され、レーザー装置の固体化や小型化が図れるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置は、窒化物単結晶から成る非線形光学結晶に周期的分極反転構造を形成して擬似位相整合を実現させた波長変換素子を、高い反射率を有しかつ互いに向かい合わせて設置した一対の鏡(入力側ミラーと出力側ミラー)により構成された光共振器の中に配置し、光共振器の入力側ミラーから励起レーザー光を入射させ、反対側の出力側ミラーから波長変換された2つの光(シグナル光とアイドラ光)を取り出すものである。
【0022】
図1は、本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置の概略構成図である。
【0023】
この光パラメトリック発振波長変換装置に適用される波長変換素子は、略直方体形状の窒化物単結晶(非線形光学結晶)により構成され、かつ、この窒化物単結晶には下記式(1)で表される周期d(図1において符号6で示す)で正負の極性が図2に示すように交番する周期的分極反転構造が形成されている。
【0024】
d=m/[(n3/λ3)−(n2/λ2)−(n1/λ1)] (1)
[上記式(1)において、mは位相整合の次数、λ1、λ2、λ3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光の波長、n1、n2、n3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光に対する窒化物単結晶の屈折率である]
そして、図1に示すように互いに向かい合わせて設置された高反射率の入力側ミラー51と出力側ミラー52から成る光共振器5の中に、周期的分極反転構造が形成された窒化物単結晶(非線形光学結晶)から成る波長変換素子4を配置し、図1と図2に示すように上記入力側ミラー51を介し波長変換素子4の一方の端面から周期的分極反転構造の境界面に垂直に所定の周波数ω3の入射光1を入力すると、波長変換素子4の他方の端面から周波数ω1であるシグナル波2と周波数ω2であるアイドラ波3が出力され、更に波長変換素子4の両側に設置されている入力側ミラー51と出力側ミラー52により発振し、光パラメトリック発振による波長変換装置として機能する。このとき、波長変換素子4の光の入射面または出射面となる窒化物単結晶端面には光学研磨を施し、更に透過する光の波長に対応した反射防止膜を形成すれば波長変換素子としての効率を高めることが出来る。このような周期的分極反転構造を形成する方法としては特に制限はなく、通常行われる高電圧印加による方法を用いれば、窒化物単結晶に対しても容易に周期的分極反転構造を形成することが出来る
ここで、本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置の波長変換素子を構成する窒化物単結晶(非線形光学結晶)としては、Al1-xGaxN(但し、0≦x≦1)で表されるAlNとGaNの混晶が好適であり、特に、波長5μm以上の長波長光を取り出すためにはAlNを用いることが有効である。窒化物単結晶のAlNにおいては、赤外領域での吸収端が14.8μmであるため、波長5μm以上の長波長光(14μm)を取り出せるからである。
【0025】
更に、AlNの熱伝導率は250W/K・mでLiNbO3やLiTaO3と比較して25倍以上高く、結晶の放熱性に優れているため高出力時における特性の劣化が少ない。
【0026】
また、窒化物単結晶の形態としては、バルク状結晶あるいは基板上に形成された薄膜を用いることが出来、また、薄膜が形成される上記基板としては、Si、GaAs、AlN、InP、AlGaN、Al、β−Gaのいずれかで構成される基板を用いることが出来る。更に、本発明で用いられる窒化物単結晶の製造方法としては、気相成長法(昇華法、有機金属気相成長法、ハイドライド気相成長法、分子線エピタキシー法)、液相成長法、溶液成長法を用いることが出来るが、その製造方法や成長の条件等により限定されるものではない。
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的内容が実施例によって何ら限定されるものでは無い。
【実施例1】
【0028】
この実施例では、昇華法によって成長させたAlN単結晶を用いて波長変換素子を作製した。尚、以下の説明は本発明の例示に過ぎず、これに限定されるものではない。
【0029】
ここで、上記昇華法とは、図3に示すように、加熱装置8によって成長用ルツボ7内に高温部12と低温部13を持つような温度分布を設け、かつ、高温部12側に配置された原料11を昇華させて低温部13側に配置された種結晶9上に析出させることにより、成長結晶10を製造する方法である。
【0030】
本実施例における昇華法では、加熱方法として高周波誘導加熱を用い、真空排気および高純度窒素ガスの供給が可能な石英容器中に内径50mmφ、高さ80mmの空間を持つ厚さ10mmのグラファイトルツボをセットした。グラファイトルツボの上部低温側に、主面方位がc面であり、表面を化学研磨によって鏡面状に加工した厚さ1mm、直径25mmのAlN単結晶基板(種結晶)をセットした。
【0031】
原料にはAlN多結晶粉末を用い、グラファイトルツボ下部の高温側に配置した。雰囲気は高純度窒素101kPaとし、高周波誘導加熱によってグラファイトルツボ上部の種結晶が配置された部分を低温側として2200℃、グラファイトルツボ底部の原料が配置された部分を高温側として2250℃とし、80時間AlN結晶の成長を行った。そして、成長終了後に室温まで冷却を行ってAlN結晶を得た。
【0032】
得られたAlN結晶は、直径約30mm、厚さ約10mmの円柱状であり、結晶の外周部に一部多結晶化している部分があるが、それ以外の部分は単結晶であり、上記種結晶の方位であるc面を引き継いで成長していた。
【0033】
このようにして得られたAlN単結晶から必要な寸法を有したAlN単結晶板を切り出し、波長変換素子を作製した。
【0034】
本実施例における光パラメトリック発振波長変換装置は、波長変換素子であるAlN単結晶板に、下記式(1)で表される周期dで正負の極性が図2に示すように交番する周期的分極反転構造を形成し、擬似位相整合を利用して、波長1064nmの光を入射光(基本波)とし、波長1μm〜14μmの光を出力するものである。
【0035】
d=m/[(n3/λ3)−(n2/λ2)−(n1/λ1)] (1)
[上記式(1)において、mは位相整合の次数、λ1、λ2、λ3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光の波長、n1、n2、n3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光に対する窒化物単結晶の屈折率である]
本実施例ではAlNの有する強誘電性を利用して周期的分極反転構造を形成した。具体的にはAlNが有する自発分極軸であるc軸方向に、自発分極の向きとは逆方向に外部から高電界を印加することによって自発分極の極性を反転させ、分極反転構造を形成した。
【0036】
まず始めに、得られたAlN単結晶をc軸に垂直にスライスして、厚さ方向がc軸である、10mm×10mm×0.5mmの薄板状AlN単結晶板に加工した。このAlN単結晶板に関しては、薄い方が分極反転構造加工の際に結晶内部に印加される電界強度を大きくとることが出来るが、基本波として入射させる光のビーム径よりは厚くすることが望ましい。これ等の条件を考慮すると、AlN単結晶板の厚さとしては、0.5mm〜1.0mm程度が適当である。
【0037】
次に、薄板状に加工したAlN単結晶板のc軸に垂直な面(〔0001〕面)に、形成しようとする周期的分極反転構造に対応した周期的構造を有する電極を形成した。周期的構造を有する電極は、対向する〔0001〕面(上面および下面)の内、少なくとも一方の面に形成すればよく、他方の面に形成する電極は全面一様なものでもよい。当然のことながら両面に同一の周期的構造を有する電極を形成しても良い。本実施例では、図4に示すように、AlN単結晶板15の下面に一様な下面電極膜16を、また、上面には周期的構造を有する上面電極膜17をそれぞれスパッタリング法によって形成した。
【0038】
電極材の材質には白金を用いたが、白金以外にもアルミニウムやニッケルクロム合金等の他の金属材料を電極膜として使用することは可能である。電極膜の形成方法としてはスパッタリング法の他、真空蒸着法やイオンプレーティング法等、従来の薄膜形成方法を用いることができ、素子のサイズや電極膜の材質等によって適当な方法を選択すれば良い。
【0039】
電極膜に周期的パターンを形成する方法として、半導体デバイスの製造に一般的に用いられているフォトリソグラフィ技術を適用した。
【0040】
以上の工程より、AlN単結晶板上に所定の周期的構造を有する電極を形成した後、電極に高電圧を印加して該当部分の自発分極を反転させた。印加電圧は数kV〜10kVの範囲内でAlN単結晶板の抗電界および素子厚に応じて調整し、パルス状で印加した。1パルスの時間は数10μs〜200μs程度とした。印加電圧および1パルスあたりの印加時間は、電界印加の際に流れる総電荷量のモニター、分極反転のその場観察および素子作成後のエッチング等により、形成された分極反転構造を観察することにより最適化した。
【0041】
尚、分極反転時に印加する電界は結晶中である程度の広がりを持つため、加工後の分極反転部の長さは電極の長さとは完全に一致せず、通常は電極の長さを所望の分極反転部の長さよりも短めに設定することになる。本実施例では最適な電極の長さを実験的に求めたが、結晶内の電界強度分布をシミュレーションすることにより、予め最適な電極の長さを求めても良い。
【0042】
最終的にAlN単結晶板に形成された分極反転構造は図2に示す通りである。結晶端面の矢印が分極方向を示す。尚、実際の分極反転工程では、上下電極間の絶縁を確保するため、AlN単結晶板の周辺部には電極を形成しないマージン部分が設けられる。従って、AlN単結晶板の周辺部には分極反転構造の形成が不完全な部分も存在するが、光軸に沿った部分に所定の周期で分極反転構造が形成されていれば、波長変換素子として十分に機能することは当然でのことである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置によれば、擬似位相整合によって近赤外あるは赤外光への波長変換、および、波長変換素子の温度制御によって広い波長可変性を持った連続光源が実現され、レーザー装置の固体化や小型化が図れるという産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置の概略構成図。
【図2】本発明に係る光パラメトリック発振波長変換装置における波長変換素子の分極反転構造を示す説明図。
【図3】実施例1の昇華法を示す概略説明図。
【図4】実施例1で形成した電極パターンの概略図。
【符号の説明】
【0045】
1 入射光ω3
2 シグナル光ω1
3 アイドラ光ω2
4 擬似位相整合波長変換素子
5 光共振器
6 周期d
7 成長用ルツボ
8 加熱装置
9 種結晶
10 成長結晶
11 原料
12 高温部
13 低温部
14 成長方位
15 単結晶板
16 下面電極膜
17 上面電極膜
51 入力側ミラー
52 出力側ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学結晶に下記式(1)で表される周期dで正負の極性が交番する周期的分極反転構造を形成し、擬似位相整合を用いて、周波数ω3の光を入射させることにより周波数ω3=ω1+ω2の関係を満たす周波数ω1と周波数ω2の光を出力させる波長変換素子と、入力側ミラーと出力側ミラーから成りこれ等ミラー間に上記波長変換素子が配置される光共振器とで構成される光パラメトリック発振波長変換装置において、
上記非線形光学結晶が窒化物単結晶で構成されていることを特徴とする光パラメトリック発振波長変換装置。
d=m/[(n3/λ3)−(n2/λ2)−(n1/λ1)] (1)
[上記式(1)において、mは位相整合の次数、λ1、λ2、λ3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光の波長、n1、n2、n3はそれぞれ周波数ω1、ω2、ω3の光に対する窒化物単結晶の屈折率である]
【請求項2】
上記窒化物単結晶がAl1-xGaxN(但し、0≦x≦1)で表される窒化物であることを特徴とする請求項1に記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項3】
上記窒化物単結晶がAlNであることを特徴とする請求項1に記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項4】
上記窒化物単結晶がバルク状結晶で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項5】
上記窒化物単結晶が基板上に形成された薄膜で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項6】
薄膜が形成される上記基板が、Si、GaAs、AlN、InP、AlGaN、Al、β−Gaのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項7】
上記窒化物単結晶が気相成長法により製造されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項8】
上記窒化物単結晶が液相成長法若しくは溶液成長法により製造されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光パラメトリック発振波長変換装置。
【請求項9】
波長変換して出力される光の少なくとも1つの光が波長1μm〜14μmであることを特徴とする請求項1に記載の光パラメトリック発振波長変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−8574(P2010−8574A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166020(P2008−166020)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】