説明

光パルスの光搬送波絶対位相計測方法および装置

【課題】従来よりも簡便、かつ、1μJ/pulse以下の光パルスを使用して光搬送波絶対位相の絶対量を計測できるようにする。
【解決手段】極短光パルスを固体ターゲットに斜入射で照射し、これにより発生した偶数次高調波と奇数次高調波との干渉強度を測定する。この測定を光パルスの光搬送波絶対位相を変化させて、繰り返し行なう(ステップS1〜S5)。干渉強度は光パルスの光搬送波絶対位相に対応して周期的に変化するので、干渉強度の測定結果から光パルスの光搬送波絶対位相に対応する光搬送波絶対位相の値を算出することができる(ステップS6,S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パルスの光搬送波絶対位相を計測する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の可視・近赤外波長領域の極短パルスレーザ技術により、パルスの半値全幅(パルス幅)が例えば10fs以下という、光の振動時間に極めて近い極短光パルスを容易に発生できるようになってきた。このような極短光パルスは、そのパルス幅の中に光の電界振動を2〜3周期しか含んでおらず、「数サイクルパルス」と呼ばれる。
【0003】
極短光パルス中における電界振動の位相は、光搬送波絶対位相と呼ばれ、光パルスの電界(光搬送波電界)を式(1)で表した場合、位相角ΔφCEで定義される。
E(t)=A(t)cos(ωt−ΔφCE) …(1)
ここで、ωは電界振動の角周波数、tは時間、A(t)は時間0に尖頭値をとる電界振動の包絡線関数を表す。図5に示すように、光パルスの強度波形の尖頭値に対応する時刻と、電界振動の最初の極大値に対応する時刻との間の時間差が、ΔφCE/ωとなる。
【0004】
光パルスの尖頭値強度を考えると、パルス幅中に多数の電界振動を含む「マルチサイクルパルス」の場合には、光搬送波絶対位相の変化に対する尖頭値強度の違いは無視できる程に小さいのに対して、数サイクルパルスの場合には、その違いは最大数パーセントにも達し、スイッチング、波長変換等で利用される光非線形性の発現に大きく影響する。また、光非線形現象が起こるタイミングも変化する。数サイクルパルスにおける数fs(フェムト秒)という時間スケールにおいては、このタイミング変化は決して小さなものではない。このため、極短光パルスを光非線形現象へ利用するときには、光搬送波絶対位相の制御が重要となる。
【0005】
近年、モード同期レーザから出力されるパルス列における光搬送波絶対位相のパルスごとの揺らぎを自己スペクトル干渉法と呼ばれる手法を利用したフィードバック制御で安定化させ、そのパルスを数100μJ/pulseまで増幅したレーザシステムが開発され、ある特定の光搬送波絶対位相に固定された高強度(1013W/cm2以上)極短光パルスが得られるようになった(例えば非特許文献1を参照)。
【0006】
しかし、極短光パルスの光搬送波絶対位相を計測する方法の開発は、発展途上の段階にある。現在までに、極短光パルスの光搬送波絶対位相に依存した物理現象や、それに基づいた光搬送波絶対位相の計測方法の提案がいくつか報告されている(例えば、非特許文献2,3,4,5を参照)。これらの報告は、光搬送波絶対位相の違いにより生ずる極短光パルスにおける光電界の空間非対称性に着目しており、数10〜100μJ/pulseの増幅光パルスをガスに集光強度1014W/cm2以上で集光した際に起こる光電界イオン化によって放出される光電子の電子数やエネルギーの空間分布を測定するものである。この測定を行うためには、空間位置分解能を持った検出器を用意するか、複数の検出器を空間的に配置する必要がある。また、測定は真空中で行うため、真空容器が必要である。このため、上記の測定の実現は一般に容易ではない。実際、実証実験が行われているのは、ガスに対して2台の光電子検出器を対象に配置して光電子エネルギーの空間分布測定を行ったPaulus等の提案のみである。
【0007】
【非特許文献1】A. Baltuska, Th. Udem, M. Uiberacker, M. Hentschel, E. Goulielmakis, Ch. Gohle, R. Holzwarth, V. S. Yakovlev, A. Scrinzi, T. W. Hansch, and F. Krausz, Nature 421, 611 (2003)
【非特許文献2】E. Cormier and P. Lambropoulos, Eur. Phys. J. D2, 15 (1998)
【非特許文献3】P. Dietrich, F. Krausz, and P. B. Corkum, Opt. Lett. 25, 16 (2000)
【非特許文献4】G. G. Paulus, F. Grasbon, H. Walther, P. Villoresi, M. Nisoli, S. Stagira, E. Priori, and S. De Silvestri, Nature 414, 182 (2001)
【非特許文献5】G. G. Paulus, F. Lindner, H. Walther, A. Baltuska, E. Goulielmakis, M. Lezius, and F. Krausz, Phys. Rev. Lett. 91, 253004 (2003)
【非特許文献6】M. Mehendale, S. A. Mitchell, J. -P. Likforman, D. M. Villeneuve, and P. B. Corkum, Optics Lett. 25, 1672 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、極短光パルスにおける従来の光搬送波絶対位相の計測方法は、数10〜100μJ/pulse以上の高強度極短光パルス、複数の光電子検出器、真空容器を必要とし、簡便な計測方法ではない。特に、極短光パルスの光非線形現象への利用を考えた場合には、光搬送波絶対位相の直接計測方法を確立することが重要であり、その方法はいまだ確立されていない。
【0009】
なお、レーザ光を固体表面に照射することによって3次高調波を、基本波を2次高調波発生用結晶に入射することによって2次高調波を発生させ、両者の干渉信号から相対的な光搬送波絶対位相の変化量を計測する方法が提案されている(例えば、非特許文献6を参照)。しかし、この計測方法では、光搬送波絶対位相の絶対量を計測することはできない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来よりも簡便、かつ、1μJ/pulse以下の光パルスを使用して光搬送波絶対位相の絶対量を計測できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明に係る光パルスの光搬送波絶対位相の計測方法は、光パルスの光搬送波絶対位相を変化させて固体ターゲットに斜入射で照射し、固体ターゲットに反射した光パルスの基本波と反射方向に発生した偶数次高調波との干渉強度、または、反射方向に発生した奇数次高調波と偶数次高調波との干渉強度を繰り返し計測するステップと、光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する干渉強度の周期的変化から光搬送波絶対位相の値を算出するステップとを備えることを特徴とする。
【0012】
ここで、光搬送波絶対位相の値を算出するステップは、光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する干渉強度の周期的変化における1周期分の区間を検出するステップと、区間における光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対応する光搬送波絶対位相の値を算出するステップとを備えるものであってもよい。
【0013】
また、本発明に係る光パルスの光搬送波絶対位相計測装置は、光パルスを出力する光パルス出力手段と、通過する光パルスの光搬送波絶対位相を変化させる光搬送波絶対位相調整手段と、光パルス出力手段から出力され光搬送波絶対位相調整手段を通過した光パルスが斜入射で照射される固体ターゲットと、固体ターゲットに反射した光パルスの基本波または反射方向に発生した奇数次高調波と偶数次高調波との干渉強度を測定する光検出手段と、光搬送波絶対位相調整手段による光搬送波絶対位相の変化量を変えて干渉強度を繰り返し測定したときの光検出手段の測定結果に基づき、光搬送波絶対位相の変化量に対する干渉強度の周期的変化から光搬送波絶対位相の値を算出する光搬送波絶対位相算出手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
ここで、光搬送波絶対位相算出手段は、光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する干渉強度の周期的変化における1周期の区間を検出する手段と、区間における光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対応する光搬送波絶対位相の値を算出する手段とを備えるものであってもよい。
【0015】
上述した光パルスの光搬送波絶対位相計測装置は、固体ターゲットと光検出手段との間の光路に配置され、固体ターゲットに反射した光パルスに含まれる所定の基本波または高調波の波長成分を選択的に通過させる波長選択手段をさらに備えていてもよい。
また、光検出手段の測定結果に基づき、基本波または奇数次高調波と偶数次高調波との干渉光の明視度を最大にするパラメータを算出するパラメータ算出手段と、算出されたパラメータに基づき固体ターゲットおよび波長選択手段の少なくとも1つを制御する制御手段とをさらに備えていてもよい。
【0016】
また、光パルスの強度を計測する計測手段をさらに備え、光搬送波絶対位相算出手段は、光パルスの光強度の値が所定の範囲内のときの光検出手段からの測定結果に基づき、光搬送波絶対位相の値を算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、光パルスを固体ターゲットに斜入射で照射することにより発生する高調波と基本波との干渉強度、または、異なる次数の高調波同士の干渉強度を、光パルスの光搬送波絶対位相を変化させて繰り返し計測する。上記の干渉強度は光パルスの光搬送波絶対位相に対応して周期的に変化するので、干渉強度の計測結果から光パルスの光搬送波絶対位相の絶対量を算出することができる。
【0018】
この際、1μJ/pulse以下の極短光パルスを使用して光搬送波絶対位相を計測することが可能である。
また、空間分解能を持った光電子検出器または複数の光電子検出器は不要である。さらに、干渉させる光成分の波長が200nm程度以上の場合には、特別な真空容器を用いずに空気中で光搬送波絶対位相を計測することができる。したがって、従来よりも簡便に光搬送波絶対位相を計測することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照し、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置の構成を示す図である。この極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置は、極短パルスレーザ装置1と、光搬送波絶対位相調整機構3と、偏光回転素子4と、集光用光学素子5と、ターゲット・レーザ光相互作用部6と、波長選択装置7と、光検出器8と、コンピュータ10とから構成される。
【0020】
ここで、極短パルスレーザ装置1は、極短光パルス2を出力する光パルス出力手段である。この極短パルスレーザ装置1は、極短光パルスの尖頭値強度および光搬送波絶対位相が一定に固定された直線偏光の極短光パルス2を出力できるものであるとする。例えばチタン・サファイアレーザを用いた場合には、極短光パルス2のスペクトル幅は数100nmとなる。極短光パルス2のエネルギーは、1μJ/pulse以下であってもよい。
【0021】
光搬送波絶対位相調整機構3は、極短パルスレーザ装置1の出力側に配置され、通過する極短光パルス2の光搬送波絶対位相を変化させるものである。この光搬送波絶対位相調整機構3は、群速度と位相速度の違いを可変できる機能を有する装置、例えば、屈折率の異なる媒質の光路への挿入量を可変とした一組のガラスウェッジで構成される。光搬送波絶対位相の変化量は、コンピュータ10により制御される。
【0022】
偏光回転素子4は、光搬送波絶対位相調整機構3を通過した極短光パルス2の偏光方向を調整するものであり、偏光方向はコンピュータ10により制御される。
集光用光学素子5は、偏光回転素子4を通過した極短光パルス2を、ターゲット・レーザ光相互作用部6に所定の光電界強度で供給するものである。集光用光学素子5の軸に対する傾斜角(煽り)により、極短光パルス2の光電界強度を調整することができる。集光用光学素子5の煽りは、コンピュータ10により制御される。
【0023】
ターゲット・レーザ光相互作用部6は、光路に対し急峻な密度境界を形成する高密度のターゲットを有する。ターゲットの反射面(急峻な高密度境界面)に直線偏光の極短光パルス2を照射すると、極短光パルス2の高調波が発生する。より詳しく言うと、反射面に極短光パルス2が直入射(反射面の法線方向からの入射)すると、ターゲットの空間反転対称性によって奇数次の高調波のみが発生し、偶数次の高調波は発生しない。これに対し、反射面に極短光パルス2が斜入射(反射面の法線方向に対し傾斜する方向からの入射)すると、空間反転対称性が破れ、偶奇数次両方の高調波が同時に発生する。本実施の形態では、この性質を利用し、極短光パルス2をターゲットに斜入射で照射することにより、反射方向に偶奇数次両方の高調波を発生させる。
ターゲットとしては、例えば、ガラス、アルミ蒸着ミラー、金蒸着ミラー、シリコン(001)等の固体ターゲットを用いることができる。また、非線形感受率の大きい材料を使用することにより、高調波発生効率を向上させることや、計測に必要となる極短パルスレーザ装置1からの供給エネルギーの最低閾値をさらに低く抑制することが可能である。以下、ターゲットとして、上述した固体ターゲットを用いるものとして説明する。
ターゲット・レーザ光相互作用部6はさらに、固体ターゲットの反射面を回転させて極短光パルス2の入射角度を調整するターゲット駆動装置を有する。極短光パルス2の入射角度は、コンピュータ10により制御される。
【0024】
波長選択装置7は、ターゲット・レーザ光相互作用部6の固体ターゲットに反射された極短光パルスに含まれる所定の偶数次高調波と奇数次高調波の波長成分を選択的に通過させるものである。選択波長はコンピュータ10により制御される。波長選択装置7は、例えばコンピュータ制御可能な分光器で構成される。
光検出器8は、波長選択装置7を通過してきた偶数次高調波と奇数次高調波との干渉強度を測定するものであり、例えば光電子増倍管または半導体光検出器で構成される。
【0025】
コンピュータ10は、次の2つの機能を有する。第1は、光検出器8の測定結果に基づき、干渉光の明視度(干渉光の明暗のコントラストを意味する。以下「干渉明視度」という。)が大きくなる高調波の波長および強度を算出し、偏光回転素子4、集光用光学素子5、ターゲット・レーザ光相互作用部6および波長選択装置7を制御する機能である。第2は、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を変えて干渉強度を繰り返し測定したときの光検出器8の測定結果に基づき、極短光パルス2の光搬送波絶対位相の変化量に対応する光搬送波絶対位相の値を算出する機能である。
【0026】
コンピュータ10の機能についてさらに詳しく説明する。図2は、コンピュータ10の機能ブロック図である。コンピュータ10は、光搬送波絶対位相調整機構制御部11と、干渉明視度測定部12と、最適値算出部13と、光学素子制御部14と、干渉強度記憶部15と、光搬送波絶対位相算出部16とから構成される。
【0027】
光搬送波絶対位相調整機構制御部11は、光搬送波絶対位相調整機構3に対して制御信号を出力し、光搬送波絶対位相の変化量を制御する。同じ制御信号を干渉強度記憶部15にも出力し、干渉強度記憶部15に光搬送波絶対位相調整機構3による現在の光搬送波絶対位相の変化量を通知する。
干渉明視度測定部12は、光検出器8の測定結果に基づき干渉明視度を測定する。具体的には、光搬送波絶対位相調整機構3によって与えられる位相の変化量を変えて繰り返し測定した干渉強度を複数取得し、これらの測定結果から干渉強度の最大値と最小値を推定し、最大値と最小値との差を干渉明視度とする。
【0028】
最適値算出部13は、干渉明視度測定部12の測定結果に基づき、干渉明視度を最大にするパラメータの値を算出し、この値を光学素子制御部14に出力する。干渉明視度は、干渉をとる高調波の波長の組合わせと、高調波の強度によって決まる。さらに、高調波の強度は、高調波の発生効率によって決まり、高調波の発生効率は、極短光パルス2の偏光方向、極短光パルス2の光電界強度、固体ターゲットの非線形感受率、固体ターゲットへの入射角度等に依存する。このため、極短光パルス2の偏光方向、極短光パルス2の光電界強度、固体ターゲットの非線形感受率、固体ターゲットへの入射角度、干渉をとる高調波の波長等を、干渉明視度のパラメータとして用いることができる。
【0029】
光学素子制御部14は、最適値算出部13から入力されたパラメータの値にしたがって、偏光回転素子4、集光用光学素子5、ターゲット・レーザ光相互作用部6、波長選択装置7を制御する。これにより、干渉明視度を最大にすることができる。干渉明視度を大きくすることにより、干渉強度の分解能を向上させることができる。
【0030】
干渉強度記憶部15は、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量に対応づけて、そのときに光検出器8で測定された干渉強度を記憶する。干渉強度の測定は光搬送波絶対位相の変化量を変えて繰り返し行われ、干渉強度記憶部15には光搬送波絶対位相の変化量と高調波干渉強度とが複数対記憶される。
光搬送波絶対位相算出部16は、干渉強度記憶部15に記憶されているデータから、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量に対して周期的に変化する高調波干渉強度の1周期分の区間を検出し、この区間の長さを2πとおき、この区間における「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」とその変化が与えられた光パルスの「光搬送波絶対位相の値」との対応関係を求める。
【0031】
次に、図3を参照し、図1および図2に示した計測装置を用いた極短光パルスの光搬送波絶対位相計測方法について説明する。図3は、極短光パルスの光搬送波絶対位相を計測する方法の流れを示すフローチャートである。なお、干渉明視度を最大にする各パラメータの最適化は、すでに完了しているものとする。
まず、光搬送波絶対位相調整機構制御部11を用いて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を設定する(ステップSl)。
【0032】
極短パルスレーザ装置1から、スペクトル幅が数100nmの極短光パルス2を出力する。極短光パルス2は光搬送波絶対位相調整機構3を通過するときに、ステップS1で設定された量だけ光搬送波絶対位相が変化する。そして、偏光回転素子4、集光用光学素子5を経由して、ターゲット・レーザ光相互作用部6において固体ターゲットの反射面に斜入射で照射される(ステップS2)。これにより、極短光パルス2の反射方向に、偶奇数次両方の高調波が同時に発生する。このとき、全次数の高調波の直線偏光は揃っている。
【0033】
このようにして発生した高調波のうち、干渉明度が最大となる偶数次高調波と奇数次高調波を波長選択装置7で分光し、これらの高調波の干渉強度を光検出器8で測定する(ステップS3)。この高調波干渉強度の測定は、1パルスの極短光パルス2、すなわちシングルショットで行うことができる。なお、極短光パルス2のスペクトル幅は数100nmと広いので、低次数で互いに異なる次数の高調波の間でも干渉を起こす。
そして、測定された高調波干渉強度を光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量とともに、干渉強度記憶部15に記憶する(ステップS4)。
【0034】
次に、光搬送波絶対位相調整機構制御部11を用いて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を所定量変化させる(ステップS5、NO→ステップS1)。そして、再び極短光パルス2を光搬送波絶対位相調整機構3を経由してターゲット・レーザ光相互作用部6の固体ターゲットに照射し、これにより発生した異なる次数間の高調波干渉強度を測定し、その値を記憶する(ステップS2,S3,S4)。
【0035】
このようなシングルショットの測定を、光搬送波絶対位相の変化量を変えながらn回(nは2以上の整数)繰り返したら(ステップS5、YES)、干渉強度記憶部15に記憶されているデータを光搬送波絶対位相算出部16に出力する。
極短光パルス2の光搬送波絶対位相とこの極短光パルス2に与えられる位相の変化量との相関により、干渉強度は図4に示すように、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量に対して周期的に変化する。
【0036】
そこで、光搬送波絶対位相算出部16では、干渉強度記憶部15から入力されるデータを基に、干渉強度の周期的変化における1周期の区間を検出する(ステップS6)。ここで、干渉強度の1周期の長さは光パルスの電界の式(1)から明らかなように2πであるから、検出された区間で干渉強度が極大となる位相を「2mπ」(mは「0」または自然数)、続いて現れる干渉強度が極小となる位相を「(2m+1)π」とおく。また、干渉強度の1周期は光搬送波絶対位相の1周期に対応するから、検出された区間における「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」の値に応じた位相を、その変化が与えられた「極短光パルス2の光搬送波絶対位相の値」とみなす。このようにして「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」に対応する「極短光パルス2の光搬送波絶対位相の値」を算出する(ステップS7)。
【0037】
このようにして算出された「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」と「光搬送波絶対位相の値」との対応関係に基づいて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を制御することにより、所望の光搬送波絶対位相を容易に得ることができる。
【0038】
図4は、極短パルスレーザ光を固体ターゲットに斜入射した場合に発生する2次高調波と3次高調波との干渉強度を計算した結果を示す図である。光パルスの電界強度をI(t)=(A(t)cos(ωt−Δφ))2と仮定し、強度波形A(t)を半値全幅5fs双曲正割関数、角周波数をω=2.5×1015rad/s(中心波長を750nmに対応)、そして光搬送波絶対位相をΔφと仮定した。計算は、Δφが0から4πまでの範囲について行った。この図は、偶奇数次両方の高調波の干渉強度を表しているので、光搬送波絶対位相の値として2π周期で強度変化している。したがって、光搬送波絶対位相調整機構3による位相変化量の関数として偶数次高調波と奇数次高調波との干渉強度を測定し、図4のような周期変化を見出すことにより、その変化量に対応する光搬送波絶対位相を決定することが可能である。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、極短光パルス2を固体ターゲットに斜入射で照射し、これにより発生する高調波の干渉信号を利用して、光搬送波絶対位相の絶対量を計測することができる。
この際、1μJ/pulse以下の極短光パルスを使用して光搬送波絶対位相を計測することも可能である。
また、従来の計測方法とは異なり、空間分解能を持った光電子検出器または複数の光電子検出器は不要である。さらに、可視・近赤外波長領域の極短光パルス2を用いる場合には、2次高調波および3次高調波の波長が200nm程度以上となるから、これらの高調波の干渉信号を利用することにより、特別な真空容器を用いずに空気中で光搬送波絶対位相を計測することができる。したがって、従来よりも簡便に光搬送波絶対位相を計測することが可能である。
【0040】
以上では、固体ターゲットに反射された極短光パルス2に含まれる偶数次高調波と奇数次高調波との干渉信号を利用する場合について説明したが、同様に、反射された極短光パルス2の基本波と偶数次高調波(反射方向に発生した偶奇数次両方の高調波のうちの偶数次高調波)との干渉信号を利用して、光搬送波絶対位相を計測することもできる。
なお、固体表面を使用した高調波発生の方式は、結晶を使用した高調波発生の方式と異なり、位相整合がどの波長に対しても取られる。つまり、N次高調波(Nは2以上の整数)は、基本波のスペクトル帯域を高調波の次数Nで割ったスペクトル帯域で発生する。このため、異なる次数の高調波同士の干渉強度を測定する本実施の形態には、固体表面から発生する高調波を利用することが適している。
【0041】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図6は、本実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置の構成を示す図である。なお、本実施形態において、第1の実施の形態と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0042】
本実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置は、極短パルスレーザ装置1と、光搬送波絶対位相調整機構3と、偏光回転素子4と、集光用光学素子5と、ターゲット・レーザ光相互作用部6と、波長選択装置7と、光検出器8と、コンピュータ10と、ビームスプリッタ20と、光検出器21とから構成される。
【0043】
ここで、ビームスプリッタ20は、極短パルスレーザ装置1と光搬送波絶対位相調整機構3との間に配設され、極短パルスレーザ装置1から出力される極短光パルス2を分割するものである。このビームスプリッタ20により分割された極短光パルス2の一方は、光搬送波絶対位相調整機構3に、他方は光検出器21に入力される。
【0044】
光検出器21は、ビームスプリッタ20により分割された極短光パルス2の強度を測定する。このような光検出器21は、例えば、光電子増倍管や半導体光検出器から構成される。
【0045】
コンピュータ10は、次の3つの機能を有する。第1は、光検出器8の測定結果に基づき、干渉明視度が大きくなる高調波の波長および強度を算出し、偏光回転素子4、集光用光学素子5、ターゲット・レーザ光相互作用部6および波長選択装置7を制御する機能である。第2は、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を変えて干渉強度を繰り返し測定したときの光検出器8の測定結果に基づき、極短光パルス2の光搬送波絶対位相の変化量に対応する光搬送波絶対位相の値を算出する機能である。第3は、光検出器21の測定結果に基づいて、極短光パルス強度が所定の範囲内のときに光検出器8で測定する値を記憶する機能である。
【0046】
コンピュータ10は、図7に示すように、光搬送波絶対位相調整機構制御部11と、干渉明視度測定部12と、最適値算出部13と、光学素子制御部14と、干渉強度記憶部15と、光搬送波絶対位相算出部16と、光パルス強度測定部17とから構成される。
【0047】
ここで、干渉強度記憶部15は、光パルス強度測定部17による判定結果に基づき、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量に対応づけて、そのときに光検出器8で測定された干渉強度を記憶する。干渉強度の測定は光搬送波絶対位相の変化量を変えて繰り返し行われ、干渉強度記憶部15には光搬送波絶対位相の変化量と高調波干渉強度とが複数対記憶される。
【0048】
光パルス強度測定部17は、光検出器21の測定結果に基づいて、極短光パルス2の光強度を測定し、この光強度が所定の範囲内にあるか否か判定する。この判定結果は干渉強度記憶部15に入力される。上記所定の範囲は、予め適宜自由に設定される。
【0049】
次に、図8を参照し、図6および図7に示した計測装置を用いた極短光パルスの光搬送波絶対位相計測方法について説明する。なお、干渉明視度を最大にする各パラメータの最適化、および、光パルス強度測定部17で判定される光強度の所定の範囲の設定は、すでに完了しているものとする。また、図8において、図3を参照して説明した第1の実施の形態と同等の動作については、同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0050】
まず、光搬送波絶対位相調整機構制御部11を用いて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を設定する(ステップSl)。
【0051】
次に、極短パルスレーザ装置1から、スペクトル幅が数100nmの極短光パルス2を出力する。極短光パルス2は光搬送波絶対位相調整機構3を通過するときに、ステップS1で設定された量だけ光搬送波絶対位相が変化する。そして、偏光回転素子4、集光用光学素子5を経由して、ターゲット・レーザ光相互作用部6において固体ターゲットの反射面に斜入射で照射される(ステップS2)。これにより、極短光パルス2の反射方向に、偶奇数次両方の高調波が同時に発生する。
【0052】
このようにして発生した高調波のうち、干渉明度が最大となる偶数次高調波と奇数次高調波を波長選択装置7で分光し、これらの高調波の干渉強度を光検出器8で測定する(ステップS3)。
【0053】
このとき、光パルス強度測定部17において、極短光パルス2の強度を測定し、この強度が所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップS10)。極短パルスレーザ装置1から出力される極短光パルス2は、装置や光パルスの特性等により、強度が揺らぐ場合がある。強度が異なる極短光パルス2に基づいて算出される光搬送波絶対位相の値は、正確性が低下する恐れがある。そこで、本実施の形態では、極短光パルス2の光強度を測定し、この値が所定の範囲内にある場合にのみ、光検出器8で測定された高調波干渉強度を光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量とともに、干渉強度記憶部15に記憶する。これにより、同一の光強度を有する極短光パルス2のみに基づいて測定された高調波干渉強度から光搬送波絶対位相が算出されるので、算出される光搬送波絶対位相の値をより正確なものとすることができる。
【0054】
極短光パルス2が所定の範囲内にない場合(ステップS10:NO)、ステップS2の処理に戻る。一方、極短光パルス2の強度が所定の範囲内にある場合(ステップS10:YES)、光検出器8で測定された高調波干渉強度を光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量とともに、干渉強度記憶部15に記憶する(ステップS4)。
【0055】
このようなシングルショットの測定をn回繰り返していない場合(ステップS5:NO)、ステップS1の処理に戻り、光搬送波絶対位相調整機構制御部11を用いて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を所定量変化させる。そして、再び極短光パルス2を光搬送波絶対位相調整機構3を経由してターゲット・レーザ光相互作用部6の固体ターゲットに照射し、これにより発生した異なる次数間の高調波干渉強度を測定し、光パルスの強度が所定の範囲内の場合にその値を記憶する(ステップS2,S3,S10,S4)。
【0056】
このようなシングルショットの測定を、光搬送波絶対位相の変化量を変えながらn回(nは2以上の整数)繰り返したら(ステップS5:YES)、干渉強度記憶部15に記憶されているデータを光搬送波絶対位相算出部16に出力する。
【0057】
光搬送波絶対位相算出部16では、干渉強度記憶部15から入力されるデータを基に、干渉強度の周期的変化における1周期の区間を検出する(ステップS6)。また、「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」に対応する「極短光パルス2の光搬送波絶対位相の値」を算出する(ステップS7)。
【0058】
このようにして算出された「光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量」と「光搬送波絶対位相の値」との対応関係に基づいて、光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量を制御することにより、所望の光搬送波絶対位相を容易に得ることができる。
【0059】
このように本実施の形態では、ビームスプリッタ20により分割した極短光パルス2を光検出器21で検出し、光パルス強度測定部17により極短光パルス2の光強度を測定し、この光強度が所定の範囲内にある場合にのみ、光検出器8で測定された高調波干渉強度を光搬送波絶対位相調整機構3による光搬送波絶対位相の変化量とともに干渉強度記憶部15に記憶する。これにより、光搬送波絶対位相算出部16は、同一の光強度を有する極短光パルス2に基づいて測定された高調波干渉強度から光搬送波絶対位相の値を算出する。このため、算出される光搬送波絶対位相の値を、より正確なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相測定装置を用いた光搬送波絶対位相を計測する方法の流れを示すフローチャートである。
【図4】異なる次数の高調波間の干渉強度の光搬送波絶対位相依存性について計算した結果を示す図である。
【図5】本発明の計測対象である、極短光パルスにおける光搬送波絶対位相についての説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相計測装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るコンピュータの機能ブロック図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る極短光パルスの光搬送波絶対位相測定装置を用いた光搬送波絶対位相を計測する方法の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
1…極短パルスレーザ装置、2…極短光パルス、3…光搬送波絶対位相調整機構、4…偏光回転素子、5…集光用光学素子、6…ターゲット・レーザ光相互作用部、7…波長選択装置、8…光検出器、10…コンピュータ、11…光搬送波絶対位相調整機構制御部、12…干渉明視度測定部、13…最適値算出部、14…光学素子制御部、15…干渉強度記憶部、16…光搬送波絶対位相算出部、17…光パルス強度測定部、20…ビームスプリッタ、21…光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスの光搬送波絶対位相を変化させて固体ターゲットに斜入射で照射し、前記固体ターゲットに反射した前記光パルスの基本波と反射方向に発生した偶数次高調波との干渉強度、または、前記反射方向に発生した奇数次高調波と偶数次高調波との干渉強度を繰り返し計測するステップと、
前記光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する前記干渉強度の周期的変化から前記光搬送波絶対位相の値を算出するステップと
を備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光搬送波絶対位相計測方法において、
前記光搬送波絶対位相の値を算出するステップは、
前記光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する前記干渉強度の周期的変化における1周期分の区間を検出するステップと、
前記区間における前記光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対応する前記光搬送波絶対位相の値を算出するステップと
を備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測方法。
【請求項3】
光パルスを出力する光パルス出力手段と、
通過する光パルスの光搬送波絶対位相を変化させる光搬送波絶対位相調整手段と、
前記光パルス出力手段から出力され前記光搬送波絶対位相調整手段を通過した光パルスが斜入射で照射される固体ターゲットと、
前記固体ターゲットに反射した前記光パルスの基本波または反射方向に発生した奇数次高調波と偶数次高調波との干渉強度を測定する光検出手段と、
前記光搬送波絶対位相調整手段による前記光搬送波絶対位相の変化量を変えて前記干渉強度を繰り返し測定したときの前記光検出手段の測定結果に基づき、光搬送波絶対位相の変化量に対する前記干渉強度の周期的変化から前記光搬送波絶対位相の値を算出する光搬送波絶対位相算出手段と
を備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光パルスの光搬送波絶対位相計測装置において、
前記光搬送波絶対位相算出手段は、
前記光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対する前記干渉強度の周期的変化における1周期の区間を検出する手段と、
前記区間における前記光パルスの光搬送波絶対位相の変化量に対応する前記光搬送波絶対位相の値を算出する手段と
を備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の光パルスの光搬送波絶対位相計測装置において、
前記固体ターゲットと前記光検出手段との間の光路に配置され、前記固体ターゲットに反射した前記光パルスに含まれる所定の基本波または高調波の波長成分を選択的に通過させる波長選択手段をさらに備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光パルスの光搬送波絶対位相計測装置において、
前記光検出手段の測定結果に基づき、前記基本波または前記奇数次高調波と前記偶数次高調波との干渉光の明視度を最適にするパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
算出された前記パラメータに基づき前記固体ターゲットおよび前記波長選択手段の少なくとも1つを制御する制御手段と
をさらに備えることを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測装置。
【請求項7】
請求項3に記載の光パルスの光搬送波絶対移送計測装置において、
前記光パルスの強度を計測する計測手段
をさらに備え、
前記光搬送波絶対位相算出手段は、前記光パルスの光強度の値が所定の範囲内のときの前記光検出手段からの測定結果に基づき、前記光搬送波絶対位相の値を算出する
ことを特徴とする光パルスの光搬送波絶対位相計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−3511(P2007−3511A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72931(P2006−72931)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】