説明

光パルス時間拡散器

【目的】強度が揃ったチップパルス列を生成することが可能である。
【解決手段】第1、第2及び第k(kは、3≦k≦Jを満たす整数である。)単位FBGのそれぞれの反射率、R1、R2及びRkが、次式で与えられる。
R1=Pc(定数) (a)
R2=Pc/(1-R1)2 (b)
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
ただし、Pcは任意定数、Pkは、第k番目に出力される3回反射のチップパルスの強度である。また、式(c-1)及び式(c-2)は、第k番目に出力される1回反射のチップパルスと、第k番目に出力される3回反射のチップパルスとの位相差が、それぞれ、0及びπである場合の、第k単位回折格子の反射率である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光符号分割多重(OCDM:Optical Code Division Multiplexing)通信システムにおいて、符号器あるいは復号器として利用される光パルス時間拡散器に関し、特に、単位回折格子を光導波路の導波方向に沿って直列に配置した構成の光パルス時間拡散器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大している。それに対応して光ファイバを用いた高速で大容量のネットワークが整備されつつある。そして、通信の大容量化のために、一本の光ファイバ伝送路に複数チャンネル分の光パルス信号をまとめて伝送する光多重技術が検討されている。
【0003】
光多重技術の一つとして、OCDMが研究されている。OCDMは、運用面における柔軟性、すなわち、光パルス信号の、1ビット当たりに割り当てられる時間軸上の制限がないという特長を有している。また、時間軸上で同一の時間スロットに複数のチャンネルを設定でき、あるいは波長軸上においても同一の波長に複数の通信チャンネルを設定できるという特長を有している。
【0004】
OCDMは、チャンネルごとに異なる符号(パターン)を割り当て、パターンマッチングにより信号を抽出する通信方法である。すなわち、OCDMは、送信側では通信チャンネルごとに異なる光符号で光パルス信号を符号化し、受信側では送信側と同じ光符号を用いて復号化して元の光パルス信号に戻す光多重技術である。
【0005】
復号時には符号が合う光パルス信号のみが有効な信号として抽出されて処理されるため、同じ波長あるいは複数の波長が組み合わせられた光からなる光パルス信号を、複数の通信チャンネルに割り当てることが可能となる。また符号器は、ファイバブラッググレーティング(FBG: Fiber-Bragg-Grating)等の受動光素子を、符号処理に必要な位相制御のために用いることが可能であるので、符号処理における電気的制限を受けることなく通信レートの高速化への対応が可能になる。また、同一の波長で同一時刻に複数のチャンネルを多重することが可能であり、大容量のデータ通信を可能にする。
【0006】
OCDMにおける符号化の手段として、光の位相を符号として用いる光位相符号方式が知られている。具体的には符号器及び復号器にスーパーストラクチャファイバブラッググレーティング(SSFBG: Superstructure Fiber Bragg Grating)が用いられている(例えば、非特許文献1から3を参照)。
【0007】
図1(A)から(E)を参照して、SSFBGを位相制御手段として用いる光パルス時間拡散器を、符号器及び復号器として利用する場合について、その動作原理を説明する。以後、SSFBGを位相制御手段として用いる光パルス時間拡散器を、単に、SSFBG光パルス時間拡散器ということもある。図1(A)は、入力光パルスの時間波形を示した図である。図1(E)は、符号器で符号化された符号化光パルス列が復号器で復号化される様子の説明に供する図である。
【0008】
図1(A)に示す入力光パルスが、図1(E)に示すように、光ファイバ12から光サーキュレータ14を介して符号器10に入力されて符号化され、再び光サーキュレータ14を介して光ファイバ18を伝播して、光サーキュレータ22を介して復号器20に入力される。そして、復号器20で復号化されることによって自己相関波形が生成され、この自己相関波形が光サーキュレータ22を介して光ファイバ26を伝播する。
【0009】
図1(E)に示す符号器10及び復号器20は、光ファイバの導波方向に沿って4つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。ここでは、一例として、4ビットの光符号(0,0,1,0)を用いて、符号器10及び復号器20の機能を説明する。ここで、光符号を与える「0」及び「1」からなる数列の項数を符号長ということもある。この例では、符号長が4である。また、光符号を与える数列を符号列といい、符号列の各項「0」及び「1」をチップということもある。そして、0及び1の値そのものを符号値ということもある。
【0010】
符号器10を構成する単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dは、それぞれ、上記光符号の第1番目のチップ「0」、第2番目のチップ「0」、第3番目のチップ「1」及び第4番目のチップ「0」と対応する。符号値が0であるか1であるかを決定するのは、隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係である。すなわち、第1番目のチップと第2番目のチップとは等しい符号値0をとっているので、第1番目のチップに対応する単位FBG 10aから反射されるブラッグ反射光の位相と、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相とは等しい。また、第2番目のチップの符号値は0であり第3番目のチップの符号値は1であるから、両者は互いに異なる値をとっている。したがって、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相と、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。同様に第3番目のチップの符号値は1であり第4番目のチップの符号値は0であるから、両者は互いに異なる値をとっている。したがって、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相と、第4番目のチップに対応する単位FBG 10dから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。
【0011】
このように、単位FBGからのブラッグ反射光の位相を変えることによって規定される光符号を、光位相符号と呼ぶこともある。
【0012】
次に、光パルスが符号器で符号化されて符号化光パルス列に変換され、その符号化光パルス列が復号器で復号化されて自己相関波形が形成される過程を説明する。図1(A)に示す単一の光パルスが光ファイバ12から光サーキュレータ14及び光ファイバ16を介して符号器10に入力されると、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dからのブラッグ反射光をそれぞれa, b, c及びdとする。すなわち、図1(A)に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a, b, c及びdに時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
【0013】
ブラッグ反射光a, b, c及びdは、時間軸に対して表すと、図1(B)に示すように、4つの光パルスに分離されて時間軸上で、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dの配列の仕方に依存する特定の間隔で配列された光パルス列を構成する。したがって、符号化光パルス列とは、符号器に入力された光パルスが時間軸上に複数の光パルスとして時間拡散された光パルス列である。
【0014】
図1(B)に光ファイバ18を伝播する符号化光パルス列を時間軸に対して示す。図1(B)では、符号化光パルス列を見やすく表すために、縦軸の方向に沿って光パルスをずらせて示してある。
【0015】
単位FBG 10aによるブラッグ反射光が、図1(B)中においてaで示す光パルスである。同様にFBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dによるブラッグ反射光が、図1(B)中において、それぞれ、b、c及びdで示す光パルスである。aで示す光パルスが符号器10の入射端に一番近い単位FBG 10aから反射される光パルスであるので、時間的に一番進んだ位置にある。b、c及びdで示す光パルスはそれぞれ、FBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dからのブラッグ反射光であり、FBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dは、符号器10の入射端からこの順序で並べられているので、b、c及びdで示す光パルスは図1(B)に示すように、aで示す光パルスに続いてb、c、dの順に並ぶ。以後の説明において、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b、ブラッグ反射光c及びブラッグ反射光dのそれぞれに対応する光パルスを、それぞれ光パルスa、光パルスb、光パルスc及び光パルスdと表現することもある。また、光パルスa、光パルスb、光パルスc及び光パルスdそれぞれをチップパルスということもある。
【0016】
符号化光パルス列を構成するこれらのブラッグ反射光a, b, c及びdの位相の関係は、上述したように、次のようになっている。ブラッグ反射光aの位相とブラッグ反射光bの位相とは等しい。ブラッグ反射光bの位相とブラッグ反射光cの位相との差がπとなっている。ブラッグ反射光cの位相とブラッグ反射光dの位相との差がπとなっている。すなわち、ブラッグ反射光aの位相を基準にすると、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b及びブラッグ反射光dの位相は等しく、これらに対してブラッグ反射光cの位相はπ異なっている。
【0017】
そこで図1(B)では、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b及びブラッグ反射光dのそれぞれに対応する光パルスを実線で示し、ブラッグ反射光cに対応する光パルスを破線で示してある。すなわち、ブラッグ反射光同士の位相関係を区別するために、対応する光パルスを表すのに、実線及び破線を用いるものとする。実線で示された光パルス同士の位相は互いに等しく、また破線で示された光パルス同士の位相は互いに等しい関係にある。そして実線で示された光パルスの位相と破線で示された光パルスとは相互にπ異なっている。
【0018】
符号化光パルス列は、光ファイバ18を伝播して光サーキュレータ22を介して復号器20に入力される。復号器20は符号器10と同一の構造であるが、入力端と出力端が逆になっている。すなわち、復号器20の入力端から順に単位FBG 20a, 20b, 20c及び20dと並んでいるが、単位FBG 20aと単位FBG 10dとが対応する。また、同様に単位FBG 20b、単位FBG 20c及び単位FBG 20dは、単位FBG 10c、単位FBG 10b及び単位FBG 10aとそれぞれ対応する。
【0019】
復号器20に入力される符号化光パルス列は、まずこの符号化光パルス列を構成する光パルスaが単位FBG 20a, 20b, 20c及び20dからそれぞれブラッグ反射される。その様子を、図1(C)を参照して説明する。図1(C)は、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から7を付して時刻の前後関係を表示してある。
【0020】
図1(C)は図1(B)と同様に時間軸に対して符号化光パルス列を示した図である。符号化光パルス列は復号器20に入力されると、まず単位FBG 20aでブラッグ反射される。単位FBG 20aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 20b、単位FBG 20c及び単位FBG 20dでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’及びd'と表すこととする。
【0021】
単位FBG 20aからは、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてa'と示した列の時間軸上に並ぶ。単位FBG 20aからブラッグ反射された光パルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 20aからブラッグ反射された光パルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、光パルスc及び光パルスdは、それぞれ時間軸上で3及び4と示してある位置にピークをもつ光パルスである。
【0022】
単位FBG 20bからも、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてb'と示した列の時間軸上に並ぶ。単位FBG 20bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'、c’及びd'と比較するとその位相がπだけずれる。したがって、a'と示した列の時間軸上に並ぶ光パルスの列とは、b'と示した列の時間軸上に並ぶ光パルスの列とは、その位相が全てπだけずれている。
【0023】
そのため、a'と示した時間軸上で1から4の順序に並ぶ光パルスの列が実線、実線、破線、実線の順に並んでいるのに対して、b'と示した時間軸上で2から5の順序に並ぶ光パルスの列が破線、破線、実線、破線の順に並んでいる。a'と示した光パルス列とb'と示した光パルス列が、時間軸上でずれているのは、符号化光パルス列を構成する光パルスのうち、光パルスaの方が光パルスbより前に復号器20に入力されるためである。
【0024】
同様に、単位FBG 20c及び単位FBG 20dからも、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてそれぞれc'及びd'と示した列の時間軸上に光パルスが並ぶ。単位FBG 20c及び単位FBG 20dから反射されるブラッグ反射光c'及びd'は、ブラッグ反射光a'と比較するとその位相は等しい。したがって、図1(C)において、c'と示した光パルス列とd'と示した光パルス列として時間軸上に並ぶ。ブラッグ反射光a'、c'及びd'に関連した光パルスは、時間軸上で平行にずれているが、それぞれのブラッグ反射光に関連する光パルスの相互の位相関係は同一である。
【0025】
図1(D)は復号器20で復号化された入力光パルスの自己相関波形を示している。横軸は時間軸であり、図1(C)に示した図と合わせてある。自己相関波形は、符号器の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'の和で与えられるので、図1(C)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'を全て足し合わせたものとなっている。図1(C)の時間軸上で4と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'に関連する光パルスが全て同位相で足しあわされるので、最大のピークを構成する。また、図1(C)の時間軸上で3及び5と表示してある時刻では、破線で示された光パルスが2つ、実線で示された光パルス1つが足しあわされるので、4と表示してある時刻の最大ピークとは位相がπ異なる光パルス1つ分のピークが形成される。また、図1(C)の時間軸上で1及び7と表示してある時刻では、実線で示されたた光パルスが1つであるので、4と表示してある時刻の最大ピークとは位相が等しい光パルス1つ分のピークが形成される。
【0026】
以上説明したように、光パルスが符号器10で符号化されて符号化光パルス列となり、この符号化光パルス列が復号器20で復号化されて自己相関波形が生成される。ここで取り上げた例では4ビット(符号長4)の光符号(0,0,1,0)を用いたが、光符号がこれ以外の場合であっても上記の説明は同様に成り立つ。
【0027】
図2(A)から(C)を参照して従来の光パルス時間拡散器の位相制御手段であるSSFBGの概略的構造を説明する。図2(A)は、SSFBGの模式的な切断面図である。このSSFBGは、コア34とクラッド32を具える光ファイバ36のコア34にSSFBG 30が作り付けられた構造である。15個の単位FBGが、光ファイバ36の光導波路であるコア34の導波方向に沿って直列に配置されてSSFBG 30が構成されている。
【0028】
図2(A)に示す従来のSSFBGに設定されている光位相符号は、15ビットの符号列として表記すると、(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)である。そして、コア34に直列に配置された15個の単位FBGと上記の光符号との対応関係は、次のようになっている。すなわち、図2(A)に示されたSSFBG 30の左端から右端の方向に配列された単位FBGと、上記の15ビットの符号列として表記された単位FBGの光符号を表す(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)の左端から右端の方向に配列されたチップとが、一対一に対応する。
【0029】
15個の単位FBGの屈折率変調周期Λとブラッグ反射波長λとは、λ=2neff・Λの関係がある。ここで、neffは、コア34を導波される光に対する実効屈折率である。以後の説明においては、実効屈折率を単に屈折率ということもある。すなわち、後述する図2(B)に示すSSFBG 30の屈折率変調構造とは、SSFBG 30の屈折率の変調構造を意味する。
【0030】
図2(A)において、隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係が、両者の位相差が0である場合とπである場合とがある。図2(A)において、左から右に向かって配列されている単位FBGを順に1から15の番号を割り当て、単位FBG 1、単位FBG 2、... 単位FBG 15とすると、15ビットの符号列(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)を設定するには、隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係は表1のように設定する。
【0031】
位相差がπである隣接するチップパルスを生成する単位FBGは、隣接して配置される単位FBGであり、この隣接する単位FBG同士の幾何的な配置間隔(表1に示す位相シフト量)は、光がこの間を往復することから、位相値に換算してπ/2となっている。すなわち、単位FBG(先の単位FBG)でブラッグ反射されて生成されるチップパルス(先のチップパルス)と、このチップパルスに隣接してして出力されるチップパルス(後のチップパルス)は、この単位FBG(先の単位FBG)の次に配置されている単位FBG(後の単位FBG)でブラッグ反射されて生成されるチップパルスである。従って、後のチップパルスは、先の単位FBGと後の単位FBGとの間(π/2)を一往復する分((π/2)×2=π)遅れて出力される。
【0032】
【表1】

【0033】
隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係について、両者の位相差が0及びπである場合とは、それぞれ、M及びNを整数として一般的に表現すれば、2πM及び(2N+1)π(=2πN+π)である場合である。この場合、隣接する単位FBG同士の間隔は、位相値に換算すると、πM及びπN+(π/2)で与えられる。すなわち、隣接する単位FBGから反射される単位FBGからのブラッグ反射光の位相差は、光がこれら隣接する単位FBGの間を往復することから、これら隣接する単位FBGの間隔の2倍となる。しかしながら、以後の説明では、位相値は、πM及びπN+(π/2)等の一般的な表記を省略して、それぞれ単に0及びπ/2等、すなわち、M=N=0として表記することもある。
【0034】
図2(A)において、隣接する単位FBG同士のブラッグ反射光の位相がπ異なる場合、その両者の単位FBGの間隔を黒く塗りつぶして示してある。また、隣接する単位FBG同士のブラッグ反射光の位相が等しい場合はその両者の単位FBGの間隔は連続した光変調構造として示してある。一方、図2(B)において、隣接する単位FBG同士のブラッグ反射光の位相がπ異なる場合、その両者の単位FBGの間隔に下向きの黒色の下向きの三角形を付して示してある。
【0035】
隣接する単位FBG同士のブラッグ反射光の位相が等しい場合は、両者の単位FBGの屈折率変調構造は連続した周期構造となっている。一方、隣接する単位FBG同士のブラッグ反射光の位相がπ異なる場合は、両者の単位FBGの屈折率変調構造は両者の単位FBGの境界において、πだけのずれ(π位相の跳び)が挿入されている。
【0036】
以後、単位FBGに割り当てられた1から15の番号を、単位FBG番号ということもある。また、単位FBG 1、単位FBG 2、... 単位FBG 15をそれぞれ、第1単位FBG、第2単位FBG、... 第15単位FBGということもある。
【0037】
表1の上段は、15ビットの符号列(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)を示しており、この15の符号値と一対一に、単位FBG 1、単位FBG 2、... 単位FBG 15が対応する。表1の下段は、隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係を与えている。例えば、単位FBG 1と単位FBG 2とから反射されるブラッグ反射光の位相差は0、同様に単位FBG 2と単位FBG 3とから反射されるブラッグ反射光の位相差は0であることを示している。また、単位FBG 3と単位FBG 4とから反射されるブラッグ反射光の位相差はπであることを示している。単位FBG 1から単位FBG 4以外の単位FBGについても同様である。
【0038】
このSSFBG 30の特徴は、光ファイバの導波方向に沿って直列に配置された単位FBGを形成している周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、この光ファイバの導波方向に沿って単調に増大させて構成されている点である。
【0039】
図2(B)は、図2(A)に示されたSSFBG 30の屈折率変調構造を概略的に示す図である。また、図2(C)は、図2(B)に示す、単位FBGの屈折率変調構造を一部拡大した図である。単位FBGの屈折率変調構造の屈折率変調の大きさΔnは、光ファイバ36の光導波方向(x方向)に沿って単調に増大させてある。図2(B)において、屈折率変調の大きさが極大である位置での単位FBGの屈折率は、na+(Δn/2)であり、極小である位置での単位FBGの屈折率は、na-(Δn/2)である。ここで、naは、光ファイバ36の屈折率の平均値である。
【0040】
すなわち、図2(B)において、光ファイバの平均屈折率naを示す中心軸は、光ファイバの長さ方向の位置座標を示す横軸と平行に直線で示してある。すなわち、この直線より上側の曲線は、平均屈折率がnaよりΔn/2だけ大きなことを示し、下側の曲線は、平均屈折率がnaよりΔn/2だけ小さなことを示している。従って、SSFBG 30の屈折率の大きさは、平均屈折率naを用いて、na±(Δn/2)で与えられる。
【0041】
図3(A)及び(B)を参照して、各単位FBGの反射率と、各単位FBGからの出力チップパルスの強度の関係を説明する。図3(A)及び(B)において、横軸は単位FBG番号を示す。図3(A)の縦軸は各単位FBGからの反射率を示し、図3(B)の縦軸は各単位FBGから出力されるチップパルスの強度を任意スケールで示してある。
【0042】
屈折率変調の大きさΔnが光ファイバ36の光導波方向(x方向)に沿って単調に増大させてあるため、図3(A)に示すように、単位FBG番号が増大するにつれてその反射率が大きくなっている。すなわち、光ファイバ36の右端に近い位置に配置されている単位FBGほどその反射率が大きくなっている。このように、単位FBGを配列してあるために、図3(B)に示すように、各単位FBGから出力されるチップパルスの強度を均一にすることができる。この理由は次のとおりである。
【0043】
すなわち、SSFBGに入射する光パルスは、第1単位FBG(単位FBG 1)でブラッグ反射され、第2単位FBG(単位FBG 2)に入射する段階では、第1単位FBGでのブラッグ反射光の強度分だけその強度が減少している。そのために、15個の単位FBGの反射率を全て等しく設定しておくと、第1単位FBGでのブラッグ反射光の強度よりも第2単位FBGでのブラッグ反射光の強度が小さくなる。このように第1から第15単位FBGの順に、順次それぞれの単位FBGからのブラッグ反射光の強度は弱まる。
【0044】
そこで、光ファイバの導波方向に沿って直列に配置された15個の単位FBGの屈折率変調強度を導波方向に沿って単調に増大させて構成することによって、第1から第15単位FBGの順に、順次それぞれの単位FBGのブラッグ反射率が単調に増大するように設定する。このようにすると各単位FBGへの入射強度の減少分を補うようにブラッグ反射率を増大させることができ、第1から第15単位FBGからのブラッグ反射光の強度(出力されるチップパルスの強度)を全て等しくすることができる。
【0045】
第1から第15単位FBGから出力されるチップパルスの強度を全て等しくすることができれば、符号化光パルス列の時間波形が時間軸に対して平坦である形状に近づけることができる。言い換えると、符号化される光パルスが符号器によって拡散時間内に均等の強度で時間拡散されることを意味している。光パルスが拡散時間内に均等な強度のチップパルス列として時間拡散されると、不均等に時間拡散された場合と比較して、光パルスのエネルギーから符号化光パルス列により効率よく変換される。また、後述するように、SSFBG光パルス時間拡散器を復号器として利用する場合、自己相関波形のピークとサブピークの比を大きくすることが可能となり、信号の識別の信頼度を高めることができる(例えば、非特許文献4参照)。自己相関波形のピークを信号とすればサブピークは雑音であるから、ピークとサブピークの比は、S/N比(S/N: Signal to Noise Ratio)ということもできる。
【非特許文献1】水波 徹「光ファイバー回折格子」応用物理 第67巻 第9号 pp.1029-1034、(1998).
【非特許文献2】西木玲彦、岩村英志、小林秀幸、沓澤聡子、大柴小枝子「SSFBGを用いたOCDM用位相符号器の開発」信学技法 Technical Report of IEICE. OFT2002-66, (2002-11).
【非特許文献3】外林秀之「光符号分割多重ネットワーク」応用物理 第71巻 第7号、pp. 853-859(2002).
【非特許文献4】Koji Matsushima, Xu Wang, Satoko Kutsuzawa, Akihiko Nishiki, Saeko Oshiba, Naoya Wada, and Ken-ichi Kitayama, "Experimental Demonstration of Performance Improvement of 127-Chip SSFBG En/Decoder Using Apodization Technique", IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 16, No. 9, pp. 2192-2194, September 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
しかしながら、上述した従来のSSFBGでは、出力されるチップパルスは、単位FBGから1回だけのブラッグ反射(以後、1回反射ということもある。)によって生成されたものとは限らず、奇数回のブラッグ反射によって生成されるものも含まれる。このため、光ファイバの導波方向に沿って直列に配置された単位FBGを形成している周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、この光ファイバの導波方向に沿って単調に増大させて構成されていても、入力される光パルスは、均等の強度で時間拡散されたチップパルス列として出力されるとは限らない。
【0047】
このことを図4(A)から(C)を参照して説明する。図4(A)から(C)は、単位FBGで生成される出力チップパルス強度に与える多重反射の効果の説明に供する図である。図4(A)から(C)の横軸は時間軸を任意スケールで示してあり、縦軸は省略してあるが、縦軸方向は光強度を任意スケールで示してある。
【0048】
図4(A)から(C)は、光パルス一つが、SSFBGに入力された場合、SSFBGから出力される、すなわち、SSFBGからブラッグ反射光として出力されるチップパルス列の時間波形を示す。図4(A)は、各単位FBGから1回反射によって生成される場合のチップパルス列の時間波形を示す。図4(B)は、各単位FBGから3回のブラッグ反射(以後、3回反射ということもある。)によって生成されるチップパルス列の時間波形を示す。図4(C)は、各単位FBGから1回反射によって生成される場合のチップパルス列と、3回反射によって出力されるチップパルス列とが重なって干渉した結果、SSFBGから出力されるチップパルス列の時間波形を示す。
【0049】
各単位FBGから3回反射によって出力されるチップパルス列とはどのように生成されるチップパルス列であるかを説明する。
【0050】
SSFBGに入力される光パルスは、まず、第1単位FBG(単位FBG 1)でブラッグ反射されて出力される。それが、図4(A)で「1」を付して示すチップパルスである。次に、第2単位FBG(単位FBG 2)でブラッグ反射されて出力される。それが、図4(A)で「2」を付して示すチップパルスである。単位FBGが2つだけから構成されるSSFBGでは、3回反射によって出力されるチップパルスは存在しない。図4(A)で「3」から「15」を付して示すチップパルスは、それぞれ単位FBG 3から単位FBG 15でブラッグ反射されて出力される1回反射のチップパルスである。図4(A)で各チップパルスに「1」から「15」として付されている1から15の番号を、以後、チップ番号ということもある。
【0051】
図4(A)でチップ番号3のチップパルスは、第3単位FBG(単位FBG 3)でブラッグ反射されて出力されるチップパルスである。また、図4(B)でチップ番号3のチップパルスは、単位FBG 2で反射され、単位FBG 1で反射され、再び単位FBG 2で反射されて出力される3回反射のチップパルスである。同様に、図4(B)でチップ番号4のチップパルスは、単位FBG 2で反射され、単位FBG 1で反射され、再び単位FBG 3で反射されて出力される3回反射のチップパルスと、単位FBG 3で反射され、単位FBG 1で反射され、再び単位FBG 2で反射されて出力される3回反射のチップパルスと、単位FBG 3で反射され、単位FBG 2で反射され、再び単位FBG 3で反射されて出力される3回反射のチップパルスの、合計3個のチップパルスの干渉結果のチップパルスである。図4(B)でチップ番号5から15のチップパルスについても同様である。
【0052】
すなわち、図4(B)でチップ番号kのチップパルスは、単位FBG(k-1)で反射され、単位FBG(k-2)で反射され、再び単位FBG(k-1)で反射されて出力される3回反射のチップパルスを含み、単位FBG 1から単位FBG(k-1)までの(k-1)個の単位FBGの中から選ばれる2個の単位FBGの組の間において3回のブラッグ反射によって生成されてk番目に出力される全ての3回反射のチップパルスである。ここで、kは、3から15までの整数である。
【0053】
従って、図4(C)は、図4(A)に示すチップパルスの振幅と図4(B)に示すチップパルスの振幅との和を二乗して得られる、チップパルス列の強度時間波形を示す。図4(C)に示すように、奇数回のブラッグ反射によって出力されるチップパルスが存在すると、たとえ、光ファイバの導波方向に沿って反射率が徐々に大きな単位FBGを配置しても、入力される光パルスは、均等の強度で時間拡散されたチップパルス列として出力されるとは限らない。すなわち、均等の強度で時間拡散されたチップパルス列として出力されるためには、光ファイバの導波方向に沿って反射率が徐々に大きな単位FBGを配置するだけでは十分でない。
【0054】
図5(A)及び(B)を参照して、上述の説明の内容を定量的に計算して確かめた結果を示す。図5(A)及び(B)は、SSFBGから出力されるチップパルス列の強度についてのシミュレーション結果を示す。図5(A)及び(B)の横軸は、チップ番号を示す。図5(A)の縦軸はチップパルスの強度を示し、図5(B)の縦軸はチップパルスの位相を示す。図5(B)の縦軸において、位相が「-1」であるチップパルスと位相が「1」であるチップパルスとは、反対位相の関係である。すなわち、位相が「-1」であるチップパルスと位相が「1」であるチップパルスとは、その位相差がπであることを示している。
【0055】
図5(A)において、1回反射によって生成される場合のチップパルスを白丸印で示し、3回反射によって出力される場合のチップパルスを×印で示してある。1回反射と3回反射とによって生成されるチップパルスの和として求められるチップパルスを黒丸印で示してある。また、図5(B)において、1回反射によって生成される場合のチップパルス位相を白丸印で示し、3回反射によって生成される場合のチップパルス位相を×印で示してある。
【0056】
図5(A)に白丸印で示すように、1回反射によって生成される場合のチップパルス強度は均一であるのに対して、黒丸印で示すように、1回反射と3回反射とによって生成されるチップパルスの和として求められるチップパルス、すなわちSSFBGから出力されるチップパルスの強度はばらついている。これは、1回反射によって生成されるチップパルスの位相と、3回反射によって出力されるチップパルスの位相とが反対位相の関係である場合には、その和として求められるSSFBGから出力されるチップパルスの強度は弱められるためである。
【0057】
図1(A)から(E)を参照して説明したように、SSFBGによる復号器は、符号化されて生成されたチップパルス列を再び符号化することによって、符号器で符号化されて生成されたチップパルス列から光パルスを再生する。光パルスがSSFBGによって時間拡散されて生成されるチップパルス列の強度に不均一が存在すると、SSFBGによる復号器によって、この強度に不均一が存在するチップパルス列を再び符号化することになる。復号器によるこの再度の符号化においても、生成されるチップパルス列の強度に不均一が存在するから、復号器によって再生される光パルスは、理想的な単一ピークを有する時間波形とはならない。以上のように、符号長が15である場合を例にして説明したが、上述の説明は、符号長が15である場合以外でも、事情は同様であることは明らかである。
【0058】
そこで、この発明の目的は、奇数回反射によって生成されるチップパルスが存在しても、チップパルスの強度が全て等しいチップパルス列を生成することが可能であるSSFBG光パルス時間拡散器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0059】
上述の目的を達成するため、この発明の要旨によれば、以下の構成の光パルス時間拡散器が提供される。この発明の光パルス時間拡散器は、光パルスを、光位相符号を用いた符号化により、時間軸上に順次配列したチップパルスの列として時間拡散して、このチップパルスの列を生成して出力するための位相制御手段を具える光パルス時間拡散器であって、次の特徴を持っている。
【0060】
すなわち、この位相制御手段は、光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の導波方向に沿って入射端から順に一列に第1から第J単位回折格子(Jは2以上の整数である。)の順に配列されている。そして、この位相制御手段から順次に出力される第1から第Jチップパルスの強度が全て等しくなるように、単位回折格子のそれぞれの反射率が設定されている。
【0061】
ここで、第1チップパルスは、第1単位回折格子でブラッグ反射によって生成され出力されるチップパルスである。第2チップパルスは、第2単位回折格子でブラッグ反射によって生成され出力されるチップパルスである。また、kを3≦k≦Jを満たす整数とするとき、第kチップパルスは、第k単位回折格子から1回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される1回反射のチップパルスと、単位回折格子から奇数回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される奇数回反射のチップパルスとの干渉の結果生成されるチップパルスである。
【0062】
第1、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R1、R2及びRkが、次式で与えられるように設定することが好適である。
R1=Pc(定数) (a)
R2=Pc/(1-R1)2 (b)
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
ただし、Pcは、第1単位回折格子から反射されて位相制御手段から出力されるチップパルスの強度として設定する任意の定数である。位相制御手段から出力されるJ個の全てのチップパルスの強度は、この第1単位回折格子から反射されて位相制御手段から出力されるチップパルスの強度Pcに等しく揃えられる。
【0063】
Pkは、位相制御手段から第k番目に出力される3回反射のチップパルスの強度である。また、式(c-1)は、1回反射によって生成され第k番目に出力される1回反射のチップパルスと、3回反射によって生成され第k番目に出力される3回反射のチップパルスとの位相差が2Pπである場合(Pは整数である。)の第k単位回折格子の反射率を与える。また、式(c-2)は、1回反射によって生成され第k番目に出力される1回反射のチップパルスと、3回反射によって生成され第k番目に出力される3回反射のチップパルスとの位相差が(2Q+1)πである場合(Qは整数である。)の第k単位回折格子の反射率を与える。
【0064】
また、前後に隣接しかつ等しい符号値を与える2つの単位回折格子に基づくブラッグ反射光の位相差が、
2Mπ (1)
で与えられ、及び
前後に隣接しかつ異なる符号値を与える2つの単位回折格子に基づくブラッグ反射光の位相差が、
(2N+1)π (2)
(ただし、M及びNは整数である。)で与えられるように、第1から第J単位回折格子を配列して位相制御手段を構成する。
【0065】
単位回折格子の周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、窓関数によってアポダイズすることが好適である。具体的には、この窓関数をガウス誤差関数とすることができる。
【0066】
位相制御手段を実現するため、単位回折格子を配列する光導波路を、光ファイバでとすることが好適である。
【発明の効果】
【0067】
この発明である光パルス時間拡散器によれば、第1チップパルスの強度、第2チップパルスの強度及び第kチップパルスの強度の、合計J個のチップパルスの強度が全て等しくなるように、位相制御手段を構成する各単位回折格子のそれぞれの反射率が設定されているから、この発明の光パルス時間拡散器に光パルスを入力すれば、出力される全てのチップパルスは、その強度が全て揃っている。
【0068】
光パルス時間拡散器を符号器として利用した場合には、上述のチップパルスの列は、光パルス時間拡散器に設定された光位相符号によって入力光パルスが符号化されて出力されたパルス列であるから、符号化光パルス列ということもある。詳細は後述するが、光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスがその強度が全て等しい場合、光パルス時間拡散器を符号器及び復号器として利用する場合、自己相関波形のピークとサブピークの比を大きくすることが可能となり、信号の識別の信頼度を高めることができる。
【0069】
位相制御手段が、J個の単位回折格子が光導波路の導波方向に沿って一列に、光導波路の入射端から他端に向かって順次第1番から第J番までの番号が付されて配列されており、第1、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R1、R2及びRkが、上述の式(a)、(b)、(c-1)及び(c-2)で与えられるように設定することで、後述するように、3回反射によって生成される3回反射のチップパルスが存在しても、位相制御手段から出力されるチップパルスの強度が全て等しいチップパルス列を生成することが可能である。
【0070】
また、前後に隣接しかつ等しい符号値を与える2つの単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差、及び後に隣接しかつ異なる符号値を与える2つの単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が、それぞれ、上述の式(1)及び式(2)で与えられるように、第1から第J単位回折格子を順次に配列して構成すれば、入力光パルスを、2値位相符号に基づいて時間拡散することによって、チップパルス列を符号化光パルス列として生成し出力させることが可能である。
【0071】
単位回折格子の周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、窓関数によってアポダイズされることによって、ブラッグ反射が単位FBGの中央で集中的に起こり、その結果、生成されるブラッグ反射光の時間波形の半値幅が狭くなる。すなわち、符号化光パルス列を構成するチップパルスの半値幅が狭くなることが期待されるので、時間軸上で符号化光パルス列を構成するチップパルス同士の裾野の重なり合いを少なくすることができると期待される。チップパルス同士の裾野の重なり合いを少なくすることができれば、時間軸上でチップパルス同士の裾野の重なり合いによる干渉の効果を低減できる。この結果、自己相関波形のピークとサブピークの比をより一層大きくすることが可能となり、信号の識別の信頼度を高めることができる。
【0072】
ガウス誤差関数でアポダイズすれば、ガウス誤差関数の性質から、単位FBGの中央で屈折率変調を極大にすることができる。すなわち、ブラッグ反射が単位FBGの中央で集中的に起こり、その結果、生成されるブラッグ反射光の時間波形の半値幅を狭くすることが可能となる。
【0073】
光通信の伝送路は、光ファイバで構築されているので、単位回折格子が配列された光導波路を光ファイバとすることによって、符号器及び復号器として光通信システムに設置するのに好都合である場合が多い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下、図を参照して、この発明の実施例につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を示し、この発明が理解できる程度に各構成要素の断面形状や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料および条件等を用いることがあるが、これら材料および条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。
【0075】
なお、以下の説明において位相制御手段として、光ファイバを用いて形成する場合について採り上げるが、光ファイバに限らず平面型光導波路等を用いて形成することも可能である。
【0076】
<単位FBGの反射率>
この発明の光パルス時間拡散器は、光パルスを、光位相符号を用いた符号化により、時間軸上に順次配列したチップパルスの列として時間拡散して、このチップパルスの列を生成して出力するための位相制御手段を具える光パルス時間拡散器である。この発明の光パルス時間拡散器は、位相制御手段として、光ファイバの導波方向に沿って単位FBGが配列されて構成されるSSFBGを位相制御手段として用いる光パルス時間拡散器である。
【0077】
この発明のSSFBGの特徴は、光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位FBGが、光導波路の導波方向に沿って一列に配列されており、前後に隣接する2つの単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が次のように設定されていることである。
【0078】
前後に隣接しかつ等しい符号値を与える2つの単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差は、
2Mπ (1)
となるように設定される。
【0079】
また、前後に隣接しかつ異なる符号値を与える2つの単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差は、
(2N+1)π (2)
となるように設定される。ここで、M及びNは整数である。
【0080】
更に、この発明のSSFBGは、生成されて出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス強度が全て等しくなるように、単位回折格子のそれぞれの反射率が設定されている。
【0081】
図6を参照して、チップパルス強度が全て等しくなるように単位回折格子のそれぞれの反射率を計算する方法について説明する。図6は、単位回折格子である単位FBGの反射率の計算方法の説明に供する図であり、位相制御手段であるSSFBG 60の導波方向に沿った模式的な切断面図である。SSFBG 60は、入射端(図6では左端)から順に、第1から第J番まで順序付けて単位FBGが配列されている。第1単位FBGをFBG 1として、順次、単位FBG Jまで、光の位相に換算してτの間隔で配置されている。
【0082】
一般に、位相τを実際の幾何学的間隔Lに換算すると、τ=(2π/λ)neffLであるから、L=τλ/(2πneff)である。ここで、neffは光導波路(光ファイバではコア)を光が伝播する際の実効屈折率である。以下の説明では、位相τ及び実際の幾何学的間隔に換算したτλ/(2πneff)の値そのものを厳密に表記する必要がないので、位相値あるいは位相値を幾何学的間隔に換算した値であると断らず、単に、間隔τ等と表記するものとする。
【0083】
隣接する単位FBG iと単位FBG (i+1)との間隔τは、位相制御手段であるSSFBG 60に設定される光符号によって決定される。また、一般に、隣接する単位FBG iと単位FBG (i+1)との間隔τiと、隣接する単位FBG jと単位FBG (j+1)との間隔τjとは異なり、τi≠τjである。ここで、i及びjは、それぞれ、1≦i≦(J-1)及び1≦j≦(J-1)を満たす整数であり、i≠jである。しかしながら、以下の説明においては、τiとτjとを識別する必要がないので、隣接する単位FBG iと単位FBG (i-1)との間隔を、識別パラメータiを添え書きしてτjと表記することをせず、パラメータiに関係なく隣接する単位FBGの間隔は全てτと表記するものとする。
【0084】
SSFBG 60から出力される第1チップパルスと第2チップパルスとは、時間軸上で位相2τを時間に換算した時間間隔で並ぶことになる。これは、次の理由による。SSFBG 60に光パルスが入力されると、第1チップパルスは、FBG 1でブラッグ反射されて出力され、第2チップパルスは、FBG 2でブラッグ反射されて出力される。従って、第2チップパルスは、FBG 1とFBG 2とを往復する位相2τを時間に換算した時間だけ遅延するためである。すなわち、隣接する第iチップパルスと第(i+1)チップパルスとは、時間軸上で位相2τを時間に換算した時間間隔で並ぶことになる。
【0085】
一般に、位相τを時間tに換算すると、2π(neffc/λ)t=τであるから、t=τλ/(2πneffc)である。ここで、neffは光導波路(光ファイバではコア)を光が伝播する最の実効屈折率、cは真空中の光の速度である。以下の説明では、位相τ及び位相を時間に換算したτλ/(2πneffc)の値そのものを厳密に表記する必要がないので、位相値あるいは位相値を時間に換算した値であると断わることなく、この場合も、時間間隔τ、あるいは遅延時間τ等と表記するものとする。
【0086】
SSFBG 60は、図6に示すように、J個の単位回折格子が光導波路の導波方向に沿って一列に、光導波路の入射端である一端から他端に向かって順次第1番から第J番までの番号が付されて配列されている。第1、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R1、R2及びRkが、次式で与えられるように設定することによって、出力されるチップパルス強度を全て等しくすることが可能となる。
R1=Pc/Pin (a')
R2=Pc/(1-R1)2 (b)
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
ただし、Pinは、位相制御手段に入力される光パルスの強度であり、Pin=1と規格化すると、上述の式(a)は、
R1=Pc(定数) (a)
で与えられる。R1が反射率であることが分かり易いように、式(a')は、パラメータPinを残して表現してあるが、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R2及びRkは、後述するように、Pin=1と規格化して表現してある。
【0087】
定数Pcは、第1単位回折格子から反射されて位相制御手段から出力されるチップパルスの強度として設定された値であり、この発明では、位相制御手段から出力されるチップパルスの強度が全てこの値に等しくなるように、各単位回折格子の反射率が設定される。
【0088】
Pkは、位相制御手段から出力される3回反射のチップパルスの強度である。また、式(c-1)及び式(c-2)は、1回反射によって生成され第k番目に出力される1回反射のチップパルスと、3回反射によって生成され第k番目に出力される3回反射のチップパルスとの位相差が0(同位相)及びπ(反対位相)である場合における、それぞれの第k単位回折格子の反射率を与える。
【0089】
1回反射で生成されるチップパルスと3回反射で生成されるチップパルスとの位相差が0(同位相)及びπ(反対位相)である場合とは、一般的に表記すると、それぞれPを整数として2Pπである場合、及びQを整数として、(2Q+1)πである場合である。しかしながら、以下の議論では、P=Q=0としても議論の内容においてその一般性を失わないので、1回反射で生成されるチップパルスと3回反射で生成されるチップパルスとが、同位相である、及び、反対位相(位相差がπ)である場合とは、それぞれ両者の位相差が0である場合及びπである場合とする。
【0090】
上述のように、単位回折格子のそれぞれの反射率を設定することによって、生成されて出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス強度が全て等しくなる理由を、以下において説明する。
【0091】
強度がPinである光パルスがSSFBG 60に入力されると、FBG 1によってブラッグ反射が起こり、強度がPcである第1チップパルスが生成されて出力される。このとき、FBG 1の反射率をR1は、R1=Pc/Pinで与えられる。第2チップパルスは、FBG 2におけるブラッグ反射によって生成されるチップパルスである。この第2チップパルスの生成の過程は次のようになる。
【0092】
すなわち、強度がPinである光パルスがSSFBG 60に入力され、FBG 1を通過してFBG 2でブラッグ反射されて、再び、FBG 1を通過して出力される。強度がPinである光パルスは、最初にFBG 1を通過することによってその強度は、(1-R1)Pinとなり、FBG 2でブラッグ反射されるとその強度は、(1-R1)・R2・Pinとなる。これが再びFBG 1を通過することによってその強度は、(1-R1)・R2・(1-R1)・Pin=(1-R1)2・R2・Pinとなる。この強度(1-R1)2・R2・PinがPcと等しくなることが条件であるから、(1-R1)2・R2・Pin=Pc、すなわち、FBG 2の反射率R2は、R2=Pc/{(1-R1)2・Pin}で与えられることとなる。
【0093】
ここで、以後の計算を簡単にするために、入力光パルスの強度Pinを1に規格化して説明する。Pin=1とすることによって、R2=Pc/{(1-R1)2・Pin}=Pc/(1-R1)2となる。第1、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R1、R2及びRkは、最終的に入力光パルスの強度Pinには依存することなく確定する値であり、入力光パルスの強度Pinを1に規格化することによって、計算結果に影響を与えることはない。
【0094】
次に、FBG 3の反射率R3を求める。ブラッグ反射がFBG 3において1回起こることで出力される、いわゆる1回反射によって生成され第3番目に出力される1回反射のチップパルスの強度P3'は、次式(3)で与えられる。
P3'=(1-R1)2・(1-R2)2・R3 (3)
この1回反射のチップパルスと重なる3回反射のチップパルスの強度P3は、次式(4)で与えられる。
P3=(R22・R1)・(1-R1)2 (4)
この3回反射のチップパルスは、FBG 1を透過(透過率1-R1)して、FBG 2でブラッグ反射(反射率R2、1回目の反射)され、FBG 1でブラッグ反射(反射率R1、2回目の反射)され、再びFBG 2でブラッグ反射(反射率R2、3回目の反射)され、FBG 1を透過(透過率1-R1)して出力されるチップパルスである。
【0095】
すなわち、入力光パルスの強度を1とすると、FBG 1を透過するとその強度は(1-R1)となる。強度が(1-R1)である光パルスがFBG 2でブラッグ反射されるとその反射光の強度は、(1-R1)×R2となる。強度が(1-R1)×R2である光パルスがFBG 1で2回目のブラッグ反射をされるとその強度は、(1-R1)×R2×R1となる。強度が(1-R1)×R2×R1である光パルスがFBG 2で3回目のブラッグ反射をされるとその強度は、(1-R1)×R2×R1×R2となる。強度が(1-R1)×R2×R1×R2である光パルスがFBG 1を透過するとその強度は、(1-R1)×R2×R1×R2×(1-R1)となる。
【0096】
従って、第3番目に出力される1回反射のチップパルスと重なる3回反射のチップパルスの強度P3は、(1-R1)×R2×R1×R2×(1-R1)=(R22・R1)・(1-R1)2となり、式(4)が得られる。
【0097】
1回反射のチップパルスと3回反射のチップパルスとが重なった結果生成されるチップパルスの強度は、1回反射のチップパルスと3回反射のチップパルスとが同位相(位相差が0)である場合には、両チップパルスの振幅の和の二乗で与えられる。すなわち、1回反射によって生成され第3番目に出力されるチップパルスの強度P3'は、その振幅は、P3'1/2であり、3回反射で生成されるチップパルスの強度P3は、その振幅がP31/2であるから、1回反射で生成されるチップパルスと3回反射で生成されるチップパルスとが重なった結果生成されるチップパルスの強度は、次式(5)
(P3'1/2 + P31/2)2 (5)
で与えられる。
【0098】
また、1回反射のチップパルスと3回反射のチップパルスとが反対位相(位相差がπ)である場合には、両チップパルスの振幅の差の二乗で与えられる。従って、この場合に1回反射で生成されるチップパルスと3回反射で生成されるチップパルスとが重なった結果生成されるチップパルスの強度は、次式(6)
(P3'1/2 - P31/2)2 (6)
で与えられる。
【0099】
1回反射のチップパルスと3回反射のチップパルスとが同位相で重なった結果生成されるチップパルスの強度は、式(5)、すなわち、(P31/2+ P3'1/2)2で与えられるから、この値が、第1単位回折格子から反射されて出力されるチップパルスの強度Pcに等しくなることが、出力されるチップパルス列の強度が揃う条件である。
【0100】
すなわち、Pc=(P31/2+ P3'1/2)2であることが、出力されるチップパルス列の強度が揃う条件である。これを変形すると、P3'=(Pc1/2- P31/2)2となる。第3番目に出力される1回反射のチップパルスの強度P3'は、式(3)で与えられるから、この式に式(3)を代入すると、次式(7)が得られる。
(1-R1)2・(1-R2)2・R3=(Pc1/2- P31/2)2 (7)
従って、
R3={(Pc1/2- P31/2)2}/{(1-R1)2・(1-R2)2} (8)
となる。
【0101】
同様に、1回反射のチップパルスと3回反射のチップパルスとが反対位相(位相差がπ)である場合には、
R3={(Pc1/2+ P31/2)2}/{(1-R1)2・(1-R2)2} (8’)
となる。
【0102】
次に、SSFBG 60から出力される第4チップパルス以降のチップパルスの強度について検討する。表2に、SSFBG 60から出力される第4チップパルス以降のチップパルスのうち、3回反射で生成されるチップパルスの生成に関与する単位FBGを一覧にして示す。
【0103】
【表2】

【0104】
第4チップパルスは、第1チップパルスと6τの遅延時間を持って出力される。また、第5チップパルスは、第1チップパルスと8τの遅延時間を持って出力される。以下、第6チップパルス以降のチップパルスについても同様に整理することができる。
【0105】
1回反射によって生成され第4番目に出力される第4チップパルスは、FBG 4でブラッグ反射されて生成されたチップパルスである。また、3回反射によって生成され出力される第4番目に出力されるチップパルスは、表2に示すように、3通りの反射経路を経て出力される。例えば、表2の第4番目に出力されるチップパルスについてまとめた欄の一番上段には、1番目、2番目及び3番目として、それぞれR2、R1、R3と示されている。これは、FBG 2、FBG 1、FBG 3の順に反射されて出力されたチップパルスであることを意味している。他の2通りについても同様である。
【0106】
隣接する単位FBG間の間隔τは、0またはπであるから、1回反射で生成されて出力されるチップパルスと3回反射で生成されて出力されるチップパルスとの位相差も、0またはπとなる。これは次の理由による。
【0107】
第3、第4及び第5番目に出力されるチップパルスと、第1番目に出力されるチップパルスとの遅延時間差は、表2に示すように、それぞれ4τ、6τ、8τである。例えば遅延時間差4τである第3チップパルスの場合、4τ=τ+τ+τ+τ=0+0+0+0=0という組み合わせから、4τ=τ+τ+τ+τ=π+0+0+0=π、4τ=τ+τ+τ+τ=π+π+π+0=3πという組み合わせ等を含めて、4τ=τ+τ+τ+τ=π+π+π+π=4πまで24(=16)通りの組み合わせがあり、これらいずれの場合も、遅延時間差を位相差としてみると0(同位相)か又は、π(反対位相)の何れかとなる。すなわち、2π及び4πは位相差としてみると0と同等であり、3πは、位相差としてみるとπと同等であるからである。遅延時間差が6τ、8τ等の場合でも同様である。
【0108】
一方、1回反射で生成されるチップパルスの場合を検討すると、第1番目に出力されるチップパルスとの遅延時間差は、第3、第4及び第5番目に出力されるチップパルスの場合、上述の3回反射のチップパルスと同様に、それぞれ4τ、6τ、8τである。ただし、1回反射で生成されて出力されるチップパルスと3回反射で生成されて出力されるチップパルスとでは、経路が異なる。例えば、1回反射で生成されて出力されるチップパルスであって、第4番目に出力されるチップパルスの経路は、FBG 1からFBG 3を透過して、FBG 4で反射され、FBG 3からFBG 1を透過して出力される。これに対して3回反射で生成されて出力されるチップパルスであって、第4番目に出力されるチップパルスの経路は、表2に示すように、1回反射のチップパルスとは異なる3通りの経路を伝播して出力される。
【0109】
従って、この経路の相違によって、1回反射で生成されて出力されるチップパルスと3回反射で生成されて出力されるチップパルスとの位相差が0である場合とπである場合とが発生する。
【0110】
一般的に、第kチップパルスについて、同様に検討すると、FBG kの反射率Rkは、上述の式(c-1)及び(c-2)で与えられることが導ける。すなわち、1回反射で生成されて出力される1回反射のチップパルス強度Pk'は、
Pk'=(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2・Rk (9)
で与えられる。また、この1回反射で生成されて出力される第k番目に出力されるチップパルスと重なる、3回反射で生成されて出力される3回反射のチップパルスの個数Nk個は、
Nk=Nk-1+(k-2) (10)
となる。Nk個のチップパルスの強度の干渉結果が3回反射チップパルス強度Pkとなる。
【0111】
1回反射で生成されて出力されるチップパルスと3回反射で生成されて出力されるチップパルスとが重なった結果生成されるチップパルスの強度は、1回反射で生成されて出力されるチップパルスと、3回反射で生成されて出力されるチップパルスとが、同位相及び反対位相である場合には、それぞれ、
(Pk'1/2+ Pk1/2)2 (11)、及び
(Pk'1/2- Pk1/2)2 (11')
で与えられる。
【0112】
これらの値が、FBG 1から反射されて出力されるチップパルスの強度Pcに等しくなることが、出力されるチップパルス列の強度が揃う条件である。
この強度が揃う条件は、Pc=(Pk'1/2 + Pk1/2)2、及びPc=(Pk'1/2 - Pk1/2)2となるから、式(9)によって、
Pk'=(P1/2- Pk1/2)2=(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2・Rk、及び
Pk'=(P1/2+ Pk1/2)2=(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2・Rk
となる。従って、
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)、及び
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
が得られる。
【0113】
上述の第1、第2及び第k単位回折格子のそれぞれの反射率、R1、R2及びRkを求めた検討結果を踏まえて、符号長が15の光位相符号を設定した場合を例にとって、具体的に説明する。すなわち、J=15とした場合の例について説明する。
【0114】
図7(A)及び(B)を参照して、従来のSSFBGとこの発明のSSFBGとにおいて、それぞれのSSFBGを構成する単位FBGの反射率が、入射端に配置される単位FBGから導波方向に沿って順次どのように設定されるかを説明する。
【0115】
図7(A)は、符号(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)を設定する場合、図7(B)は、符号(1, 0, 0, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 0, 0)を設定する場合を示している。上記の両符号は、その配列が左右逆の関係になっている。すなわち、上記の両符号がそれぞれ設定されたSSFBGは、一方を符号器とした場合もう一方が復号器として機能することになる。
【0116】
図7(A)及び(B)は、従来及びこの発明の位相制御手段であるSSFBGを構成する単位FBGの反射率を示す図である。図7(A)及び(B)の横軸は、単位FBG番号を示す。横軸でもっとも左側である1の位置に配置される単位FBGがFBG 1であり、順次FBG 2、FBG 3と配置され、もっとも右側である15の位置に配置される単位FBGがFBG 15である。縦軸は、各単位FBGの反射率を示している。図7(A)及び(B)において、白丸は従来のSSFBGの場合を示し、黒丸はこの発明のSSFBGの場合を示している。
【0117】
図7(A)及び(B)において、従来のSSFBGの場合には、設置される単位FBGの反射率は、光パルスの入射端である左端から順次単調に増大するように設定されている。これは、SSFBGに入力される光パルスが、単位FBGを通過するごとにその強度が減少することを考慮して、各単位FBGからのブラッグ反射光の強度を等しくするためには、入射端である左端から順次その反射率を増大させるという方針に基づくものである。しかしながら、既に説明したように、SSFBGから出力されるチップパルスは、各単位FBGから1回反射によって生成されて出力されたものとは限らず、奇数回(3回)反射によって生成されて出力されるものも含まれる。このため、SSFBGから、均等の強度で時間拡散されたチップパルス列として出力されるためには、光ファイバの導波方向に沿って反射率が徐々に大きな単位FBGを配置するだけでは十分でない。
【0118】
そこで、SSFBGから出力されるチップパルスが、各単位FBGから1回反射によって生成されて出力される以外に、3回反射によって生成されて出力されるものも含まれることを考慮して各単位FBGの反射率を決定するという、この発明に従って、各単位FBGの反射率を求めた結果を、図7(A)及び(B)において、黒丸で示してある。黒丸で示す反射率は、3回反射で生成されるチップパルスを考慮した、式(a)、式(b)、式(c-1)及び式(c-2)を用いて、計算されている。
【0119】
図7(A)及び(B)において黒丸で示してある反射率は、従来のSSFBGの場合と比べて単純に各単位FBGの反射率が増大するようにはなっていない。また、設定されている符号が異なることによって、各単位FBGに設定される反射率も図7(A)及び(B)に示すように、同一とはならない。すなわち、この発明のSSFBGを符号器及び復号器として利用する場合、従来のSSFBGを利用する場合のように、単純に入力端を左右逆にしただけでは、符号器及び復号器として機能させることはできないことを意味する。すなわち、この発明のSSFBGを符号器及び復号器として利用する場合には、符号器及び復号器を、それぞれ式(a)、式(b)、式(c-1)及び式(c-2)を用いて、各単位FBGの反射率を計算する必要がある。
【0120】
この発明の光パルス時間拡散装置の位相制御手段として、光導波路の導波方向に沿って一列に配列された単位回折格子の反射率を、上述のように、3回反射によって生成されて出力されるチップパルスの存在までを考慮して決定した。もちろん、5回以上の奇数回の多重反射によって生成されて出力されるチップパルスも存在するが、後述するように、3回反射によって生成されて出力されるチップパルスの存在までを考慮すれば、十分であることが確かめられた。
【0121】
上述の式(a)、(b)、(c-1)及び(c-2)を用いて求めた反射率を基に、各単位回折格子の屈折率変調の大きさΔnを設定して、出力されるチップパルス列の特性を調べた結果を以下に説明する。
【0122】
<第1実施例>
図8(A)、(B)及び(C)を参照して第1実施例である光パルス時間拡散器の位相制御手段としてのSSFBG 40の構造を説明する。図8(A)は、SSFBG 40の模式的な切断面図であり、コア44とクラッド42を具える光ファイバ46のコア44に、15個の単位FBGが、光ファイバ46の光導波路であるコア44の導波方向に沿って直列に配置されて構成されている。
【0123】
図8(B)は、図8(A)に示されたSSFBG 40の屈折率変調構造を概略的に示す図である。図8(B)の横軸は、光ファイバの長さ方向の位置座標を示し、縦軸は、屈折率変調の大きさΔnを、光ファイバの実効屈折率neffを中心にとって示してある。この他の点については、図8(A)、(B)及び(C)は、図2(A)、(B)及び(C)と同様の手法で示してある。
【0124】
また、図8(B)に示す単位FBGの屈折率変調構造を一部拡大して、図8(C)に示してある。SSFBG 40に設定されている符号は、(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)である。図7(A)に黒丸印で示したように、SSFBG 40に設置される各単位FBGの反射率は、入射端から奥に進むに従って単調に増大するような単純な関係ではないので、図8(B)に示す単位FBGに示す、屈折率変調の大きさΔnも、光ファイバの長さ方向の位置座標に沿って複雑に変化していることが読み取れる。
【0125】
図9を参照して、第1実施例のSSFBGに配置される単位FBGの反射率と、屈折率変調の大きさΔnとの関係を説明する。図9は、第1実施例の単位FBGの反射率と単位FBGの屈折率変調の大きさΔnとの関係を示す図であり、横軸が反射率、縦軸が屈折率変調の大きさΔnを示している。ここでは、単位FBGの長さを2.4mmとし、光ファイバの実効屈折率の平均が1.4473、単位FBGの屈折率変調周期Λを535.5nmであるとした。従って、2neff×Λで与えられるブラッグ反射光の波長λは、1550nmである。
【0126】
図9に示す単位FBGの反射率と単位FBGの屈折率変調の大きさΔnとの関係を用いて、この発明の式(a)、式(b)、式(c-1)及び式(c-2)を用いて求められた各単位FBGの反射率Rk(kは、1から15までの整数)に対応するΔnを知ることができる。従って、単位FBGごとにΔnが確定するので、これに従って、FBG 1からFBG 15まで順次対応させてSSFBGを形成すればよい。
【0127】
図10(A)及び(B)を参照して、第1実施例のSSFBGの符号化特性について説明する。図10(A)は、従来型のSSFBGによって単一光パルスが符号化されて出力されるチップパルスの時間波形を示す。図10(B)は、第1実施例のSSFBGによって単一光パルスが符号化されて出力されるチップパルスの時間波形を示す。図10(A)及び(B)の横軸は、時間軸でありps(ピコ秒)単位で目盛って示してある。また、縦軸は、光信号強度を任意スケールで目盛って示してある。
【0128】
図10(A)に示す従来型のSSFBGから出力されるチップパルスの強度の最大と最小の差Aは、図10(B)に示す第1実施例のSSFBGから出力されるチップパルスの強度の最大と最小の差Bに比べ5倍程度(A/B≒5)大きいことがわかる。すなわち、第1実施例のSSFBGによれば、出力されるチップパルスの強度が揃えられることを意味している。
【0129】
図11(A)から(C)を参照して、第1実施例のSSFBGによって一旦符号化された光パルスを、復号化することによって得られる自己相関波形について説明する。ここで符号器に設定されている符号は、(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)であり、符号器の各単位FBGに設定される反射率は図7(A)に示されている。また、復号器に設定されている符号は、符号(1, 0, 0, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 0, 0)であり、符号器に設定された符号と左右が逆である。復号器の各単位FBGに設定される反射率は図7(B)に示されている。
【0130】
図11(A)から(C)において、横軸は時間軸であり、縦軸は信号強度を任意スケールで示してある。図11(A)の横軸は任意スケールで示してあり、図11(B)及び(C)の横軸は、ps(ピコ秒)単位で目盛って示してある。図11(A)は、理想的に復号化された場合の自己相関波形を、符号理論に基づき計算して求めた結果を示す。図11(B)は、従来のSSFBGによって、符号化及び復号化を行った場合の自己相関波形を、また、図11(C)は、第1実施例のSSFBGによって、符号化及び復号化を行った場合の自己相関波形を示す。
【0131】
自己相関波形は、できるだけサイドピークが小さくなるように生成されるのが望ましい。すなわち、復号器は符号化される前の光パルスを再生するものであるから、単一光パルスとして再生するのが理想である。すなわち、自己相関波形のピークとサブピークとの比は、雑音対信号比(S/N比)であるから、大きいほど好ましい特性である。
【0132】
図11(A)に示すように理想的に復号化された場合には、自己相関波形のピークとサブピークとの比は25であり、この値が理論的な限界値である。これに対して従来のSSFBGによって、符号化及び復号化を行った場合の自己相関波形は、図11(B)に示すように、自己相関波形のピークとサブピークとの比は18.2である。また、第1実施例のSSFBGによって、符号化及び復号化を行った場合の自己相関波形は、図11(B)に示すように、自己相関波形のピークとサブピークとの比は21.5である。すなわち、第1実施例のSSFBGによれば、S/N比の大きな、自己相関波形を生成できることを意味している。これによって、第1実施例のSSFBG光パルス時間拡散器を、OCDMの符号器及び復号器として採用することによって、従来のSSFBG光パルス時間拡散器を採用した場合に比べて、高い信頼性を保障できるシステムを構築することが可能となる。
【0133】
<第2実施例>
図12(A)、(B)及び(C)を参照して第2実施例である光パルス時間拡散器の位相制御手段としてのSSFBG 50の構造を説明する。図12(A)は、SSFBG 50の模式的な切断面図であり、コア54とクラッド52を具える光ファイバ56のコア54に、15個の単位FBGが、光ファイバ56の光導波路であるコア54の導波方向に沿って直列に配置されて構成されている。SSFBG 50の屈折率変調構造が異なるのみで、その他の部分は第1実施例のSSFBG 40と同一であるので、その重複する説明を省略する。第2実施例のSSFBG 50に設定されている光位相符号も第1実施例のSSFBG 40に設定されている光位相符号と同一である。この他の点については、図12(A)、(B)及び(C)は、図2(A)、(B)及び(C)と同様の手法で示してある。
【0134】
SSFBG 50の屈折率変調構造が第1実施例のSSFBG 40の屈折率変調構造と異なる点は、SSFBG 50を構成している単位FBGの周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、窓関数によってアポダイズされている点である。第2実施例では、この窓関数としてガウス誤差関数を採用した。
【0135】
図12(C)を参照して、単位FBGの周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度を窓関数によってアポダイズする方法について説明する。
【0136】
アポダイズする前の単位FBGの周期的屈折率変調構造は、図12(C)の一番右側に示されているように、振幅がΔn/2で与えられ光ファイバの光導波方向(x方向)に沿って一定である。すなわちアポダイズする前の単位FBGの周期的屈折率変調構造は次式(3)で与えられる。
(Δn/2)・sin(2πx/Λ) (3)
ここで、xは光ファイバの長さ方向の位置座標である。
【0137】
式(3)に対して次式(4)で与えられる窓関数を掛け合わせた新たな関数で与えられる周期的屈折率変調構造を有する単位FBGを、式(4)で与えられる関数でアポダイズされた単位FBGという。
【0138】
exp[-ln2[2(x-(L/2))/LB]2] (4)
ここで、ln2は2の自然対数を意味する。また、expは自然対数の底を指数とする指数関数を意味する。ここでは、第1実施例と同様に、単位FBGの長さLを2.4mmとし、光ファイバの実効屈折率の平均が1.4473、単位FBGの屈折率変調周期Λを535.5nmであるとした。従って、λ=2neff×Λで与えられるブラッグ反射光の波長λは、1550nmである。また、Bは、帯域調整のための係数で、ここでは、B=0.5と設定した。
【0139】
アポダイズすることによって、ブラッグ反射が単位FBGの中央で集中的に起こり、その結果、生成されるブラッグ反射光の時間波形の半値幅が狭くなる。すなわち、符号化光パルス列を構成するチップパルスの半値幅が狭くなるので、時間軸上で符号化光パルス列を構成するチップパルス同士の裾野の重なり合いを少なくすることができる。チップパルス同士の裾野の重なり合いを少なくすることができれば、時間軸上でチップパルス同士の裾野の重なり合いによる干渉の効果を低減できる。この結果第1実施例の光パルス時間拡散器を用いて符号化及び復号化した場合と比べて、チップパルスの強度差が小さくなると期待される。
【0140】
なお、式(4)に相当するアポダイズするための関数は、ガウス誤差関数に限定されない。式(3)で与えられる単位FBGの周期的屈折率変調構造の振幅の大きさを、単位FBGの中央部分で最大となるようにアポダイズできる関数であれば適用できる。例えば、Raised cosine、Tanh、Blackman、Hamming、Hanning等の、信号処理技術分野において利用されている関数を利用することも可能である。
【0141】
ここで、各単位FBGの屈折率変調の大きさΔnを求める手法について説明する。そのためには、各単位FBGに設定すべき反射率を確定させる必要がある。この反射率の求め方は、第1実施例において説明したのでここでは省略する。第2実施例においても、SSFBG 50に設定される符号は、第1実施例のSSFBG 40に設定された符号と同一の符号である。従って、各単位FBGに設定すべき反射率は、第1実施例の場合と同一である。
【0142】
そこで、第2実施例の場合の各単位FBGに設定される反射率と、屈折率変調の大きさΔnとの関係を求める必要がある。図9と同様の図13にこの関係を示す。図13は、上述の式(4)で与えられるガウス誤差関数でアポダイズされた長さLが2.4mmの単位FBGについて、その反射率と屈折率変調の大きさΔnとの関係を示す。図13の横軸は単位FBGの反射率を、縦軸は屈折率変調の大きさΔnを示す。図13に示す関係を用い、各単位FBGに設定される屈折率変調の大きさΔnが確定され、第2実施例のSSFBG 50を作成することが可能となる。
【0143】
図14(A)及び(B)を参照して、第2実施例のSSFBGの符号化特性について説明する。第2実施例のSSFBGに設定されている符号は、第1実施例と同一で、(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)である。図14(A)は、従来型のSSFBGによって単一光パルスが符号化されて出力されるチップパルスの時間波形を示す。図14(B)は、第2実施例のSSFBGによって単一光パルスが符号化されて出力されるチップパルスの時間波形を示す。図14(A)及び(B)の横軸は、時間軸でありps(ピコ秒)単位で目盛って示してある。また、縦軸は、光信号強度を任意スケールで目盛って示してある。
【0144】
図14(A)に示す従来型のSSFBGから出力されるチップパルスの強度の最大と最小の差Aは、図14(B)に示す第2実施例のSSFBGから出力されるチップパルスの強度の最大と最小の差Cに比べ5倍程度大きいことがわかる。すなわち、第2実施例の光パルス時間拡散器によれば、出力されるチップパルスの強度が揃えられることを意味している。
【0145】
また、上述したように、第2実施例のSSFBGによれば、時間軸上で符号化光パルス列を構成するチップパルス同士の裾野の重なり合いが少なくなっていることがわかる。すなわち、隣接するチップパルス間の干渉が小さくなっており、各チップパルスが鮮明に分離されている。このことは、入力光パルスが時間軸上の拡散時間内に均一に拡散されていることを意味する。このように、入力光パルスが時間軸上の拡散時間内に均一に拡散されることによって、次に述べる利点が生じる。
【0146】
図15(A)から(C)を参照して、第2実施例のSSFBGによって一旦符号化された光パルスを、復号化することによって得られる自己相関波形について説明する。ここで符号器に設定されている符号は、(0, 0, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 0, 0, 1)であり、符号器の各単位FBGに設定される反射率は図7(A)に示されている。また、復号器に設定されている符号は、符号(1, 0, 0, 1, 1, 0, 1, 0, 1, 1, 1, 1, 0, 0, 0)であり、符号器に設定された符号と左右が逆である。復号器の各単位FBGに設定される反射率は図7(B)に示されている。
【0147】
自己相関波形は、できるだけサイドピークが小さくなるように生成されるのが望ましい。すなわち、復号器は符号化される前の光パルスを再生するものであるから、単一光パルスとして再生するのが理想である。
【0148】
図15(A)は、従来型のSSFBGによって生成され出力される自己相関波形を示し、上述した図11(B)と同一の図である。図15(B)は、第2実施例のSSFBGよって生成され出力される自己相関波形を示す。図15(A)及び(B)の横軸は、時間軸でありps(ピコ秒)単位で目盛って示してある。また、縦軸は、光信号強度を任意スケールで目盛って示してある。
【0149】
図15(A)に示す従来型のSSFBGによって生成され出力される自己相関波形のピークとサブピークとの比は18.2であるのに対して、図15(B)に示す第2実施例のSSFBGによって生成され出力される自己相関波形のピークとサブピークとの比は25.9と大きい。この値は、第1実施例のSSFBGによって生成され出力される自己相関波形のピークとサブピークとの比21.5よりも大きい。
【0150】
また、図11(A)に示すように理想的に復号化された場合の自己相関波形のピークとサブピークとの比は25であり、アポダイズを行わない場合の理想的数値と比べても大きい。これは、図11(A)に示す自己相関波形のピークとサブピークとの比は、各単位FBGアポダイズされていないことを前提にして計算されており、図15(B)に示す第2実施例のSSFBGによって生成され出力される自己相関波形のピークとサブピークとの比は25.9と大きいことは、アポダイズすることの効果の大きさを示している。
【0151】
自己相関波形のピークとサブピークとの比は、雑音対信号比(S/N比)であるから、大きいほど好ましい特性である。すなわち、第2実施例のSSFBGによれば、従来のSSFBGと比べてはもちろん、第1実施例のSSFBGの理想的数値と比べても、S/N比の大きな、自己相関波形を生成できることを意味している。これによって、第2実施例の光パルス時間拡散器を、OCDMの符号器及び復号器として採用することによって、更に、高い信頼性を保障できる光通信システムを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】符号器及び復号器の動作原理の説明に供する図である。
【図2】従来の光パルス時間拡散器の位相制御手段の概略的構造を示す図である。
【図3】各単位FBGの反射率と、各単位FBGからの出力チップパルスの強度を示す図である。
【図4】光パルス時間拡散器から出力されるチップパルス列の時間波形の説明に供する図である。
【図5】光パルス時間拡散器から出力されるチップパルス列の時間波形についてのシミュレーション結果を示す図である。
【図6】単位FBGの反射率の計算方法の説明に供する図である。
【図7】従来及びこの発明の位相制御手段の単位FBGの反射率を示す図である。
【図8】第1実施例の光パルス時間拡散器の位相制御手段の概略的構造を示す図である。
【図9】第1実施例の単位FBGの反射率と屈折率変調の大きさΔnとの関係を示す図である。
【図10】従来及び第1実施例の光パルス時間拡散器から出力されるチップパルス列の時間波形を示す図である。
【図11】第1実施例の光パルス時間拡散器で生成され出力される自己相関波形を示す図である。
【図12】第2実施例の光パルス時間拡散器の位相制御手段の概略的構造を示す図である。
【図13】第2実施例の単位FBGの反射率と屈折率変調の大きさΔnとの関係を示す図である。
【図14】従来及び第2実施例の光パルス時間拡散器から出力されるチップパルス列の時間波形を示す図である。
【図15】第2実施例の光パルス時間拡散器で生成され出力される自己相関波形を示す図である。
【符号の説明】
【0153】
10:符号器
12、16、18、36、46、56:光ファイバ
14、22:光サーキュレータ
20:復号器
30、40、50、60:SSFBG
32、42、52:クラッド
34、44、54:コア
36、46、56:光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスを、光位相符号を用いた符号化により、時間軸上に順次配列したチップパルスの列として時間拡散して、該チップパルスの列を生成して出力するための位相制御手段を具える光パルス時間拡散器であって、
該位相制御手段は、
前記光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の導波方向に沿って該光導波路の入射端から順に一列に第1から第J単位回折格子(Jは2以上の整数である。)の順に配列されており、
前記位相制御手段から順次に出力されるチップパルスを、第1から第Jチップパルスとし、
前記第1チップパルスは、前記第1単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力されるチップパルスであり、
前記第2チップパルスは、前記第2単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力されるチップパルスであり、
及び、kを3≦k≦Jを満たす整数とするとき、第kチップパルスは、第k単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力される1回反射のチップパルスと、複数の前記単位回折格子に基づいて3回以上の奇数回のブラッグ反射によって生成されて出力される奇数回反射のチップパルスとの干渉の結果生成されるチップパルスであり、
前記第1から第Jチップパルスの強度が全て等しくなるように、前記単位回折格子のそれぞれの反射率が設定されている
ことを特徴とする光パルス時間拡散器。
【請求項2】
前記第1単位回折格子の反射率R1が、
R1=Pc(定数) (a)
で与えられ、
前記第2単位回折格子の反射率R2が、
R2=Pc/(1-R1)2 (b)
で与えられ、
前記第k単位回折格子の反射率Rkが、
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
で与えられることを特徴とする、請求項1に記載の光パルス時間拡散器。
ただし、Pcは、前記第1単位回折格子から反射されて前記位相制御手段から出力される前記第1チップパルスの強度として設定される任意の定数であり、Pkは、前記位相制御手段から第k番目に出力される3回反射のチップパルスの強度である。また、前記式(c-1)は、前記第k単位回折格子から1回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記1回反射のチップパルスと、前記単位回折格子から3回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記3回反射のチップパルスとの位相差が2Pπである場合(Pは整数である。)の前記第k単位回折格子の反射率を与え、前記式(c-2)は、前記第k単位回折格子から1回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記1回反射のチップパルスと、前記単位回折格子から3回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記3回反射のチップパルスとの位相差が(2Q+1)πである場合(Qは整数である。)の前記第k単位回折格子の反射率を与える。
【請求項3】
光パルスを、光位相符号を用いた符号化により、時間軸上に順次配列したチップパルスの列として時間拡散して、該チップパルスの列を生成して出力するための位相制御手段を具える光パルス時間拡散器であって、
該位相制御手段は、
前記光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の導波方向に沿って該光導波路の入射端から順に一列に第1から第J単位回折格子(Jは2以上の整数である。)の順に配列されており、
前後に隣接しかつ等しい符号値を与える2つの前記単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が、
2Mπ (1)
(Mは整数である。)で与えられ、及び
前後に隣接しかつ異なる符号値を与える2つの前記単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が、
(2N+1)π (2)
で与えられ(Nは整数である。)、
かつ、前記位相制御手段から順次に出力されるチップパルスを、第1から第Jチップパルスとし、
前記第1チップパルスは、前記第1単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力されるチップパルスであり、
前記第2チップパルスは、前記第2単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力されるチップパルスであり、
及び、kを3≦k≦Jを満たす整数とするとき、第kチップパルスは、第k単位回折格子で1回のブラッグ反射によって生成されて出力される1回反射のチップパルスと、複数の前記単位回折格子に基づいて3回以上の奇数回のブラッグ反射によって生成されて出力される奇数回反射のチップパルスとの干渉の結果生成されるチップパルスであり、
前記第1から第Jチップパルスの強度が全て等しくなるように、前記単位回折格子のそれぞれの反射率が設定されている
ことを特徴とする光パルス時間拡散器。
【請求項4】
光パルスを、光位相符号を用いた符号化により、時間軸上に順次配列したチップパルスの列として時間拡散して、該チップパルスの列を生成して出力するための位相制御手段を具える光パルス時間拡散器であって、
該位相制御手段は、
前記光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の導波方向に沿って該光導波路の入射端から順に一列に第1から第J単位回折格子(Jは2以上の整数である。)の順に配列されており、
前後に隣接しかつ等しい符号値を与える2つの前記単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が、
2Mπ (1)
で与えられ(Mは整数である。)、及び
前後に隣接しかつ異なる符号値を与える2つの前記単位回折格子からのブラッグ反射光の位相差が、
(2N+1)π (2)
で与えられ(Nは整数である。)、
かつ、前記第1単位回折格子の反射率R1が、
R1=Pc(定数) (a)
で与えられ、
前記第2単位回折格子の反射率R2が、
R2=Pc/(1-R1)2 (b)
で与えられ、
前記第k単位回折格子の反射率Rkが、
Rk=(Pc1/2- Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-1)
Rk=(Pc1/2+ Pk1/2)/{(1-R1)2・(1-R2)2・・・(1-Rk-1)2} (c-2)
で与えられることを特徴とする、請求項1に記載の光パルス時間拡散器。
ただし、Pcは、前記第1単位回折格子から反射されて前記位相制御手段から出力される前記第1チップパルスの強度として設定される任意の定数であり、Pkは、前記位相制御手段から第k番目に出力される前記3回反射のチップパルスの強度である。また、前記式(c-1)は、前記第k単位回折格子から1回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記1回反射のチップパルスと、前記単位回折格子から3回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記3回反射のチップパルスとの位相差が2Pπである場合(Pは整数である。)の前記第k単位回折格子の反射率を与え、前記式(c-2)は、前記第k単位回折格子から1回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記1回反射のチップパルスと、前記単位回折格子から3回のブラッグ反射によって生成され第k番目に出力される前記3回反射のチップパルスとの位相差が(2Q+1)πである場合(Qは整数である。)の前記第k単位回折格子の反射率を与える。
【請求項5】
前記単位回折格子の周期的屈折率変調構造の屈折率変調強度が、窓関数によってアポダイズされていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の光パルス時間拡散器。
【請求項6】
前記窓関数がガウス誤差関数であることを特徴とする、請求項5に記載の光パルス時間拡散器。
【請求項7】
前記光導波路が光ファイバであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の光パルス時間拡散器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−288091(P2007−288091A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116538(P2006−116538)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】