説明

光パルス時間拡散装置

【目的】同一符号でも複数のチャンネルを、チャンネル識別性をもって割り当てることが可能である。
【解決手段】それぞれに入力される光パルスを、光位相符号に応じて、時間軸上に時間拡散して順次配列されたチップパルスの列として、それぞれ出力する複数の光パルス時間拡散器具えている。これらの光パルス時間拡散器のそれぞれは、隣接するチップパルス同士間に位相差を与える位相制御手段を具えている。識別パラメータを導入して、位相制御手段ごとに、隣接するチップパルス同士間に与える位相差条件を違える事によって、チャンネル識別性を発揮させる。位相制御手段は、例えば、光ファイバ66のコア64にSSFBG 60が作り付けられた構造である。SSFBGには単位FBGが、コアの導波方向に沿って直列に配置されている。この位相制御手段に設定されている光位相符号の符号値の一つ一つと、単位FBGの一つ一つとは一対一に対応している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光パルスをチップパルスとして時間拡散する符号器に関する。また、この発明は、この符号器を利用して実施される光符号分割多重伝送方法及びこの方法を実現するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及等により通信需要が急速に増大している。それに対応して光ファイバを用いた高速で大容量のネットワークが整備されつつある。そして、通信の大容量化のために、一本の光ファイバ伝送路に複数チャンネル分の光パルス信号をまとめて伝送する光多重技術が検討されている。
【0003】
光多重技術としては、光時分割多重(OTDM: Optical Time Division Multiplexing)、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)及び光符号分割多重(OCDM:OpricaL Code Division Multiplexing)が盛んに研究されている。この中にあって、OCDMは、運用面における柔軟性、すなわち、OTDMやWDMにおいて送受信される光パルス信号の、1ビット当たりに割り当てられる時間軸上の制限がないという特長を有している。また、時間軸上で同一の時間スロットに複数のチャンネルを設定でき、あるいは波長軸上においても同一の波長に複数の通信チャンネルを設定できるという特長を有している。また、同一の波長で同一時刻に複数のチャンネルを多重することが可能であり、大容量のデータ通信を可能にする。OTDMやWDMに比べて、通信容量が飛躍的に向上できる点で注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
以後の説明において、光パルス信号との表現は、2値デジタル信号を反映した光パルス列を意味するものとする。すなわち、規則正しい一定の間隔(ビットレートに相当する周波数の逆数に相当する時間間隔)で光パルスが並ぶ光パルス列に対して、時間軸上において、この光パルス列を構成する光パルスの存在及び非存在に対応させて2値デジタル信号を反映させた光パルス列を光パルス信号というものとする。
【0005】
OCDMとは、チャンネルごとに異なる符号(パターン)を割り当て、パターンマッチングにより信号を抽出する通信方法である。すなわち、OCDMは、送信側では通信チャンネルごとに異なる光符号で光パルス信号を符号化し、受信側では送信側と同じ光符号を用いて復号化して元の光パルス信号に戻す光多重技術である。光パルス信号を符号化して符号化光パルス信号に変換するには符号器が、符号化光パルス信号を復号化して光パルス信号に戻すには復号器がそれぞれ使われる。
【0006】
光パルス信号を符号化して符号化光パルス信号に変換する方法として、時間領域と波長領域との両方を用いて符号化する時間拡散波長ホッピング方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。また、光パルス信号を時間領域に拡散して符号化する位相シフトキーイング(PSK: Phase Shift Keying)方法が知られている(例えば、非特許文献3及び5を参照)。
【0007】
PSK方法による符号化において、石英系平面導波路(PLC: Planar Lightwave Circuit)を構成要素とする符号器が使われた例が報告されている(非特許文献3参照)。このPSK方法では、符号として符号長8の2値位相符号(バイポーラコード)が使われており、利用された符号化装置はトランスバーサル型光フィルタが応用されている。符号長については、その詳細を後述する。
【0008】
トランスバーサル型光フィルタは、遅延線、結合率可変光カプラ、位相変調部、及び合波部をその主要構成要素として具えている(例えば、非特許文献4参照)。結合率可変光カプラの数がt個であるトランスバーサル型光フィルタに入力された光パルスは、(t+1)個の光パルスに分波されて、符号値に対応して位相変調部においてこれら光パルスの位相が変調される。詳細は後述するが、符号器に入力された光パルスが時間軸上に分散されて生成された複数の光パルスを、チップパルスということもある。
【0009】
各結合率可変光カプラ間は遅延線によって結合されており、この遅延線によって各チップパルスは遅延時間が付加されて合波部で合波されてチップパルスの列、すなわち符号化光パルス列が生成される。
【0010】
また、スーパーストラクチャファイバブラッググレーティング(SSFBG:Super Stractre Fiber Bragg Grating)が符号器の構成要素として使われた例が報告されている(非特許文献5参照)。SSFBGは、一列に配置されて光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)が、光導波路の方向に沿って直列に配置されて構成される。SSFBGは、符号長に等しい数の単位FGBが一列に配置され、単位FBG間が符号値に応じた位相シフトが与えられる間隔に設定されて形成される。
【0011】
以上説明したように、符号器の位相制御手段には、FBG等の受動光素子を利用することが可能であるので、符号化処理における電気的制限を受けることなく通信レートの高速化への対応が可能になる。
【0012】
以後の説明において、1チャンネル分を符号化するために使われる位相制御手段を符号器といい、複数の符号器を集合させた複数チャンネル分を符号化するための装置を符号化装置ということとする。また、1チャンネル分を復号化するために使われる位相制御手段を復号器といい、複数の復号器を集合させた複数チャンネル分を復号化するための装置を復号化装置ということとする。
【0013】
また、以後の説明において、光パルス信号を時間領域に拡散して符号化する、いわゆるPSK方法に利用される符号器あるいは復号器を、光パルス時間拡散器と呼ぶこともある。そして、光パルス時間拡散器を複数集合させて構成された装置を光パルス時間拡散装置と呼ぶこともある。
【0014】
図1(A)から(E)を参照して、SSFBGを利用した光パルス時間拡散器を、符号器及び復号器として利用する場合について、その動作原理を説明する。図1(A)は、入力光パルスの時間波形を示した図である。図1(E)は、符号器で符号化された符号化光パルス列が復号器で復号化される様子の説明に供する図である。
【0015】
図1(A)に示す入力光パルスが、図1(E)に示すように、光ファイバ12から光サーキュレータ14及び光ファイバ16を介して符号器10に入力されて符号化され、再び光ファイバ16及び光サーキュレータ14を介して光ファイバ18を伝播して、光サーキュレータ22及び光ファイバ24を介して復号器20に入力される。そして、復号器20で復号化されて自己相関波形が生成され、この自己相関波形が光ファイバ24及び光サーキュレータ22を介して光ファイバ26を伝播する。
【0016】
図1(E)に示す符号器10及び復号器20は、光ファイバの導波方向に沿って4つの単位FBGが配列されて構成されたSSFBGである。ここでは、一例として、4ビットの光符号(0,0,1,0)を用いて、符号器10及び復号器20の機能を説明する。ここで、光符号を与える「0」及び「1」からなる数列の項数を符号長ということもある。この例では、符号長が4である。また、光符号を与える数列を符号列といい、符号列の各項「0」及び「1」をチップということもある。そして、0及び1の値そのものを符号値ということもある。
【0017】
符号器10を構成する単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dは、それぞれ、上述の光符号の第1番目のチップ「0」、第2番目のチップ「0」、第3番目のチップ「1」及び第4番目のチップ「0」と対応する。符号値が0であるか1であるかを決定するのは、隣接する単位FBGから反射されるブラッグ反射光の位相関係である。
【0018】
すなわち、第1番目のチップと第2番目のチップとは等しい符号値0をとっているので、第1番目のチップに対応する単位FBG 10aから反射されるブラッグ反射光の位相と、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相とは等しい。また、第2番目のチップの符号値は0であり第3番目のチップの符号値は1であるから、両者は互いに異なる値をとっている。したがって、第2番目のチップに対応する単位FBG 10bから反射されるブラッグ反射光の位相と、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。
【0019】
同様に第3番目のチップの符号値は1であり第4番目のチップの符号値は0であるから、両者は互いに異なる値をとっている。したがって、第3番目のチップに対応する単位FBG 10cから反射されるブラッグ反射光の位相と、第4番目のチップに対応する単位FBG 10dから反射されるブラッグ反射光の位相との差がπとなっている。
【0020】
このように、単位FBGからのブラッグ反射光の位相を変えることによって、規定される光符号を光位相符号と呼ぶこともある。
【0021】
次に、光パルスが符号器で符号化されて符号化光パルス列に変換され、その符号化光パルス列が復号器で復号化されて自己相関波形が形成される過程を説明する。図1(A)に示す単一の光パルスが光ファイバ12から光サーキュレータ14及び光ファイバ16を介して符号器10に入力されると、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dからのブラッグ反射光が生成される。そこで、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dからのブラッグ反射光をそれぞれa, b, c及びdとする。すなわち、図1(A)に示す単一の光パルスが、ブラッグ反射光a, b, c及びdに時間拡散されて符号化光パルス列に変換される。
【0022】
ブラッグ反射光a, b, c及びdは、時間軸に対して表すと、図1(B)に示すように、4つの光パルスに分離されて時間軸上で、単位FBG 10a, 10b, 10c及び10dの配列の仕方に依存する特定の間隔で配列された光パルス列を構成する。したがって、符号化光パルス列とは、符号器に入力された光パルスが時間軸上に複数の光パルスとして時間拡散された光パルス列である。この時間軸上に時間拡散されて配列された個々の光パルスがそれぞれチップパルスに対応するが、以後の説明で特に混乱しない場合は、チップパルスと記載せずに光パルスと記載することもある。
【0023】
図1(B)に光ファイバ18を伝播する符号化光パルス列を時間軸に対して示す。図1(B)では、符号化光パルス列を見やすく表すために、縦軸の方向に沿って光パルスをずらして示してある。
【0024】
単位FBG 10aによるブラッグ反射光が、図1(B)中においてaで示す光パルスである。同様にFBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dによるブラッグ反射光が、図1(B)中において、それぞれ、b、c及びdで示す光パルスである。aで示す光パルスが符号器10の入射端に一番近い単位FBG 10aから反射される光パルスであるので、時間的に一番進んだ位置にある。b、c及びdで示す光パルスはそれぞれ、FBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dからのブラッグ反射光である。また、FBG 10b、FBG 10c及びFBG 10dは、符号器10の入射端からこの順序で並べられているので、b、c及びdで示す光パルスは図1(B)に示すように、aで示す光パルスに続いてb、c、dの順に並ぶ。
【0025】
以後の説明において、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b、ブラッグ反射光c及びブラッグ反射光dのそれぞれに対応する光パルスを、それぞれ光パルスa、光パルスb、光パルスc及び光パルスdと表現することもある。また、光パルスa、光パルスb、光パルスc及び光パルスdそれぞれをチップパルスということもある。
【0026】
符号化光パルス列を構成するこれらのブラッグ反射光a, b, c及びdの位相の関係は、上述したように、次のようになっている。ブラッグ反射光aの位相とブラッグ反射光bの位相とは等しい。ブラッグ反射光bの位相とブラッグ反射光cの位相との差がπとなっている。ブラッグ反射光cの位相とブラッグ反射光dの位相との差がπとなっている。すなわち、ブラッグ反射光aの位相を基準にすると、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b及びブラッグ反射光dの位相は等しく、これらに対してブラッグ反射光cの位相はπ異なっている。
【0027】
そこで図1(B)では、ブラッグ反射光a、ブラッグ反射光b及びブラッグ反射光dのそれぞれに対応する光パルスを実線で示し、ブラッグ反射光cに対応する光パルスを破線で示してある。すなわち、ブラッグ反射光同士の位相関係を区別するために、対応する光パルスを表すのに、実線及び破線を用いるものとする。実線で示された光パルス同士の位相は互いに等しく、また破線で示された光パルス同士の位相は互いに等しい関係にある。そして実線で示された光パルスの位相と破線で示された光パルスの位相とは相互にπ異なっている。
【0028】
符号化光パルス列は、光ファイバ18を伝播して光サーキュレータ22を介して復号器20に入力される。復号器20は符号器10と同一の構造であるが、入力端と出力端が逆になっている。すなわち、復号器20の入力端から順に単位FBG 20a, 20b, 20c及び20dと並んでいるが、単位FBG 20aと単位FBG 10dとが対応する。また、同様に単位FBG 20b、単位FBG 20c及び単位FBG 20dは、単位FBG 10c、単位FBG 10b及び単位FBG 10aとそれぞれ対応する。
【0029】
復号器20に入力される符号化光パルス列は、まずこの符号化光パルス列を構成する光パルスaが単位FBG 20a, 20b, 20c及び20dからそれぞれブラッグ反射される。その様子を、図1(C)を参照して説明する。図1(C)は、横軸に時間軸をとってある。そして便宜的に1から7を付して時刻の前後関係を表示してあり、この数値が小さいほど、先の時刻であることを示している。
【0030】
図1(C)は図1(B)と同様に時間軸に対して符号化光パルス列を示した図である。符号化光パルス列は復号器20に入力されると、まず単位FBG 20aでブラッグ反射される。単位FBG 20aでブラッグ反射される反射光をブラッグ反射光a'と表すこととする。同様に単位FBG 20b、単位FBG 20c及び単位FBG 20dでブラッグ反射される反射光を、それぞれブラッグ反射光b'、c’及びd'と表すこととする。
【0031】
単位FBG 20aからは、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてa'と示した列の時間軸上に並ぶ。単位FBG 20aからブラッグ反射された光パルスaは、時間軸上で1と示してある位置にピークをもつ光パルスである。単位FBG 20aからブラッグ反射された光パルスbは、時間軸上で2と示してある位置にピークをもつ光パルスである。同様に、光パルスc及び光パルスdは、それぞれ時間軸上で3及び4と示してある位置にピークをもつ光パルスである。
【0032】
単位FBG 20bからも、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてb'と示した列の時間軸上に並ぶ。単位FBG 20bから反射されるブラッグ反射光b'は、ブラッグ反射光a'、c’及びd'と比較するとその位相がπだけずれる。したがって、a'と示した列の時間軸上に並ぶ光パルスの列と、b'と示した列の時間軸上に並ぶ光パルスの列とは、その位相が全てπだけずれている。
【0033】
そのため、a'と示した時間軸上で1から4の順序に並ぶ光パルスの列が実線、実線、破線、実線の順に並んでいるのに対して、b'と示した時間軸上で2から5の順序に並ぶ光パルスの列が破線、破線、実線、破線の順に並んでいる。a'と示した光パルス列とb'と示した光パルス列が、時間軸上でずれているのは、符号化光パルス列を構成する光パルスのうち、光パルスaの方が光パルスbより先に復号器20に入力されるためである。
【0034】
同様に、単位FBG 20c及び単位FBG 20dからも、符号化光パルス列を構成する光パルスa、b、c及びdがブラッグ反射されて、図1(C)においてそれぞれc'及びd'と示した列の時間軸上に光パルスが並ぶ。単位FBG 20c及び単位FBG 20dから反射されるブラッグ反射光c'及びd'は、ブラッグ反射光a'と比較するとその位相は等しい。したがって、図1(C)において、c'と示した光パルス列とd'と示した光パルス列として時間軸上に並ぶ。ブラッグ反射光a'、c'及びd'に関連した光パルスは、時間軸上で平行にずれているが、それぞれのブラッグ反射光に関連する光パルスの相互の位相関係は同一である。
【0035】
図1(D)は復号器20で復号化された入力光パルスの自己相関波形を示している。横軸は時間軸であり、図1(C)に示した図と合わせてある。自己相関波形は、復号器の各単位FBGからのブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'の和で与えられるので、図1(C)に示した、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'を全て足し合わせたものとなっている。図1(C)の時間軸上で4と表示してある時刻では、ブラッグ反射光a'、b'、c'及びd'に関連する光パルスが全て同位相で足しあわされるので、最大のピークを構成する。また、図1(C)の時間軸上で3及び5と表示してある時刻では、破線で示された光パルスが2つ、実線で示された光パルス1つが足しあわされるので、4と表示してある時刻の最大ピークとは位相がπ異なる光パルス1つ分のピークがそれぞれ形成される。また、図1(C)の時間軸上で1及び7と表示してある時刻では、実線で示されたた光パルスが2つ、破線で示された光パルス1つが足しあわされるので、4と表示してある時刻の最大ピークとは位相が等しい光パルス1つ分のピークがそれぞれ形成される。
【0036】
以上説明したように、光パルスが符号器10で符号化されて符号化光パルス列となり、この符号化光パルス列が復号器20で復号化されて自己相関波形が生成される。ここで取り上げた例では4ビット(符号長4)の光符号(0,0,1,0)を用いたが、光符号がこれ以外の場合であっても上述した説明は同様に成り立つ。
【0037】
以上、SSFBGを利用した光パルス時間拡散器を、符号器及び復号器として利用する場合について、その動作原理を説明した。ここでは、説明の便宜のために符号長が4である場合を取り上げたが、実際の光符号分割多重通信では、もっと長い符号長を持つ符号が使われる。
【0038】
光符号分割多重通信では、各チャンネルに異なる符号を割り当てて多重化が行われる。多重化するチャンネルを増やすには、少なくともチャンネル数に等しい数の相異なる符号が必要となるが、相異なる符号の数を増やすには、符号長を長くしなければならない。すなわち、1符号に対して1チャンネルが割り当てられるので、チャンネル数と少なくとも同数の相異なる符号が必要となる。
【0039】
例えば、符号長が15であるM系列符号を用いる場合、相異なる符号として使えるのは2符号である。すなわち、この場合は2チャンネルの光符号分割多重通信を実現できる。しかし、より多くのチャンネルの光符号分割多重通信を実現させたい場合にはより長い符号長の符号を利用する必要がある。例えば、符号長を31に増やせば、M系列とGold系列の符号を合わせて33種類の符号を準備することができる。すなわち、この場合は33チャンネルの光符号分割多重通信を実現できる。
【0040】
符号長を長くするには、光信号のビットレートを高くするか、拡散時間長を長くしなければならない。このことを符号長が15である符号を採用した場合と符号長が31である符号を採用した場合とを比較した例を用いて説明する。光信号のビットレートは、後述するデータレート及びチップレートに関連する。
【0041】
符号長が15である場合、1チャンネル分の伝送レート(以後「データレート」ということもある。)が1.25 Gbit/s であればチップパルス1つ当たりのビットレート(以後「チップレート」ということもある。)が18.75 Gbit/s(=1.25 Gbit/s×15)となる。すなわち拡散時間長は、データレートの逆数、すなわち5.33×10-7s(≒(1/18.75)×10-9s)となる。
【0042】
一方、符号長が31の符号を採用すると、データレートを等しく1.25 Gbit/s とするためには、チップレートを38.75 Gbit/s(=1.25 Gbit/s×31)とする必要がある。また、チップレートを符号長が15である符号を利用した場合と同じく18.75 Gbit/sとするには、データレートを0.605 Gbit/s(≒1.25 Gbit/s×(15/31))としなければならない。すなわち拡散時間長は、データレートの逆数、すなわち1.65×10-9s(≒(1/0.605)×10-9s)としなければならない。
【0043】
符号長を長くする場合の対処法は、データレートを等しいままにしてチップレートを高めるか、チップレートを等しいままにしてデータレートを低める、つまり拡散時間長を長くするかのいずれかである。チップレートを高めるためには、送信器と受信器の高速動作化が必要となる。そのために、装置を改良し、必要な部品等の交換をする必要がある。このような装置改造は容易には実現できない。また、チップレートをそのままにして長い符号長の符号に対応するとデータレートを低く、つまり拡散時間長を長くしなければならなくなる。これによって、伝送容量が低下することとなる。
【非特許文献1】外林秀之「光符号分割多重ネットワーク」応用物理,第71巻,第7号, (2002)pp. 853-859.
【非特許文献2】Koichi Takiguchi, et al., "Encoder/decoder on planar lightwave circuit for time-spreading/wavelengthhopping optical CDMA" OFC 2002, TuK8, March 2002.
【非特許文献3】Naoya Wada, et al., "A 10 Gb/s Optical Code Division Multiplexing Using 8-Chip Optical Bipolar Code and Coherent Detection", Journal of Lightwave Technology, Vol. 17, No. 10, October 1999.
【非特許文献4】瀧口浩一、「平面光波回路の光機能デバイスへの展開」応用物理学会誌 第72巻 第11号 pp. 1387-1392 (2003).
【非特許文献5】西木玲彦、岩村英志、小林秀幸、沓澤聡子、大柴小枝子「SSFBGを用いたOCDM用位相符号器の開発」信学技法:TechnicaL Report of IEICE. OFT2002-66, (2002-11).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
そこで、この発明の目的は、同一符号でも複数のチャンネルを、チャンネル識別性をもって割り当てることが可能である、符号化が行える光パルス時間拡散装置を提供することにある。また、この光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器にとして用いる光符号分割多重伝送方法及びこの方法を実現するための装置を提供することにある。このことによって、チャンネル数が増えても、符号長を長くして対応する必要のない、光符号分割多重伝送方法及びこの方法を実現するための装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0045】
この発明の光パルス時間拡散装置は、隣接するチップパルス間の位相差として相異なる複数の値を選択することによって、同一符号でも識別性を有する符号化光パルス信号を生成することを可能とした光パルス時間拡散装置である。その構成は次のとおりである。
【0046】
すなわち、この発明の光パルス時間拡散装置は、S個(Sは2以上の自然数)の光パルス時間拡散器を具えている。そしてこれらS個の光パルス時間拡散器、第1、第2、....、第S光パルス時間拡散器は、それぞれに入力される光パルスを、光位相符号に応じて、時間軸上に時間拡散して順次配列されたチップパルスの列として、それぞれ出力する。
【0047】
このS個の光パルス時間拡散器(第1、第2、....、第S光パルス時間拡散器)のそれぞれは、隣接するチップパルス同士間に位相差を与える位相制御手段を具えている。第i光パルス時間拡散器(i=1, 2, ....,S)に具えられた位相制御手段は、隣接する符号値が等しい場合には、この符号値に対応する隣接するチップパルス同士間の位相差を、
2πM+aiπ (1)
で与え、及び
隣接する符号値が異なる場合には、この符号値に対応する隣接するチップパルス同士間のの位相差を、
2πM+(2N+1)π+aiπ (2)
で与える。ただし、M及びNは整数である。そして、aiは識別パラメータであり、0≦ai<2を満たす任意の相異なるS個の実数である。
【0048】
また、位相制御手段を、一列に配置されて光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の方向に沿って直列に配置された構成とすることも可能である。この場合、隣接しかつ等しい符号値を与える2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を上述の(1)式で与え、及び隣接しかつ異なる符号値を与える2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を上述の(2)式で与えられるように設定する。
【0049】
また、上述の光導波路を、光ファイバとすることが好適である。
【0050】
また、この発明の光符号分割多重伝送方法は、符号化ステップと復号化ステップとを具え、これらのステップを上述の光パルス時間拡散装置を利用して実行することに特徴がある。ここで、符号化ステップは、光パルス信号を、光位相符号を用いて符号化して符号化光パルス信号として生成するステップである。また、復号化ステップは、光位相符号と同一の符号を用いて、符号化光パルス信号を復号化して、光パルス信号の自己相関波形を生成するステップである。
【0051】
上述の光符号分割多重伝送方法を実現するための、光符号分割多重伝送装置は、符号化装置と復号化装置とを具えて構成される。そして、これら符号化装置と復号化装置として、上述の光パルス時間拡散装置を用いる点に特徴がある。すなわち、符号化ステップ及び復号化ステップは、光パルス時間拡散装置によって実現される。
【発明の効果】
【0052】
この発明の光パルス時間拡散装置を構成する第i光パルス時間拡散器によれば、符号値に対応するチップパルス同士間の位相差は上式(1)及び(2)で与えられる。従って、整数M及びNを選択して、識別パラメータaiの値を確定させれば、上式(1)及び(2)は確定する。例えばM=N=0としてai=0とすれば、式(1)は0を与え、式(2)はπを与える。そこで、与えられた符号に従って、隣接する符号値が等しい場合の位相差を0、隣接する符号値が異なる場合の位相差をπとなるように設定すれば、この光パルス時間拡散器に入力された光パルスは、この与えられた符号に対応するチップパルスの列を出力する。
【0053】
また、第j光パルス時間拡散器(j=1, 2, ....,S、ただし、j≠i)においては、同様にM=N=0としてaj=0.2とすれば、式(1)は0.2πを与え、式(2)は1.2π(=π+0.2π)を与える。そこで、上述した符号と同一の符号に従って、隣接する符号値が等しい場合の位相差を0.2π、隣接する符号値が異なる場合の位相差を1.2πとなるように設定すれば、この第j光パルス時間拡散器に入力された光パルスも上述の第i光パルス時間拡散器同様に、上述した符号と同一の符号に対応するチップパルスの列を出力する。
【0054】
しかしながら、M=N=0及びai=0と設定された第i光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列と、M=N=0及びaj=0.2と設定された第j光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列とは、反映された符号は同一であるが、aiとajの値が異なるので、チップパルス間の位相差が異なり、両者は識別可能である。すなわち、M=N=0及びai=0と設定された第i光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列では、チップパルス間の位相差は0又はπであるのに対して、M=N=0及びaj=0.2と設定された第j光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列では、チップパルス間の位相差は、0.2π又は1.2πである。
【0055】
従って、異なる値ai及びajの値を設定したそれぞれの光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列は、符号は同一であっても、チップパルス間の位相差が異なるので、両者を識別することが可能となる。すなわち、M=N=0及びai=0と設定された第i光パルス時間拡散器で符号化された光パルス信号は、M=N=0及びai=0と設定された第i光パルス時間拡散器で復号化されるが、M=N=0及びaj=0.2と設定された第j光パルス時間拡散器によっては復号化されない。
【0056】
このように、この発明の光パルス時間拡散装置によれば、同一符号を用いても複数のチャンネルを、チャンネル識別性をもたせて割り当てることが可能な符号化が行える。すなわち、0≦ai<2(i=1, 2, ....,S)を満たす任意の相異なるS個の実数を割り当てることによって、同一符号であってもS通りの識別可能な符号化を行うことができ、Sチャンネル分を割り当てることが可能となる。
【0057】
相異なるS個の実数をaiの値として割り当てられて、それぞれ形成されたS個の光パルス時間拡散器を集合させて構成された、この発明の光パルス時間拡散装置によれば、1符号に対してSチャンネル分を割り当てた光符号分割多重伝送装置を実現させることが可能となる。従来は1符号に対して1チャンネルだけしか割り当てられなかったのに対して、この発明の光パルス時間拡散装置を利用することで、同一の数の符号数に対してS倍のチャンネル数を割り当てられることになる。
【0058】
このことによって、チャンネル数の増加に対して符号長を長くして対応する必要がない。すなわち、符号長を長くする必要がないので、データレートを変更する必要もチップレートを変更する必要もない。
【0059】
また、位相制御手段として、上述のように単位回折格子を光導波路の方向に沿って直列に配置した構成とすれば、トランスバーサル型光フィルタを利用するよりも簡便に形成することができるという利点がある。
【0060】
また、この光導波路を、光ファイバとすれば、単位回折格子として単位FBGを利用することができ、光パルス時間拡散器を更に容易に形成できる。その上、光通信システムが光ファイバを光伝送路として使われていることから、位相制御手段として光ファイバを用いて構成された光パルス時間拡散器を利用することが好適である場合が多い。
【0061】
この発明の光符号分割多重伝送方法、及びこの発明の光符号分割多重伝送装置によれば、符号化ステップに使われる符号化装置及び復号化ステップに使われる復号化装置が、この発明の光パルス時間拡散装置によって形成されているので、1符号に対してSチャンネル分を割り当てた光符号分割多重伝送装置を実現させることが可能となる。これによって、チャンネル数が増加しても、データレートを変更する必要もチップレートを変更する必要もない光符号分割多重伝送方法及びこの方法を実現するための装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、図を参照して、この発明の実施例につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を示し、この発明が理解できる程度に各構成要素や配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の条件等を用いることがあるが、これらは好適例の一つに過ぎず、この発明は何らこれらの条件等に限定されるものではない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
【0063】
<光パルス時間拡散装置>
まず、光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器のそれぞれに設定される光位相符号と、この光位相符号の符号値を確定するために設定される、隣接するチップパルス同士間の位相差との関係を、表1及び表2を参照して説明する。ここで、説明の便宜上S=5、すなわち第1から第5光パルス時間拡散器の5つの光パルス時間拡散器を具えて構成される、光パルス時間拡散装置を一例として採り上げる。しかし、Sが2以上であるいずれの場合についても以下の説明は同様に成立することは明らかである。
【0064】
表1及び表2において、採り上げた光位相符号は、15ビットの符号列として表記すると、(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)である。すなわち、符号長が15である光位相符号を取り上げて説明する。また、M=N=0、識別パラメータをa1=0、a2=0.2、a3=0.4、a4=0.6及びa5=0.8と設定するものとする。従って、識別パラメータa1、a2、a3、a4及びa5は、0≦ai<2(i=1, 2, 3, 4, 5)を満たしている。
【0065】
もちろん以下の説明は、これ以外の光位相符号、これ以外のMとNの値、及びこれ以外の識別パラメータを設定する場合にについても同様に成立する。
【0066】
ここでは、上述のように、識別パラメータa1、a2、a3、a4及びa5を0.2の間隔を空けて等間隔に設定してある。この発明の光パルス時間拡散装置をOCDMの符号化装置および復号化装置として利用する場合、通常は、識別パラメータは、このように等間隔に空けて設定する。
【0067】
これは後述するように、識別パラメータの間隔が狭くなるほど、復号化されて得られる自己相関波形のピーク強度と、相互相関波形のピーク強度との差が小さくなることで、ピークの識別が誤り易くなり、信号の受信誤り率が高くなるためである。
【0068】
識別パラメータを等間隔に空けて設定した場合の、識別パラメータ間の差の最小値を識別パラメータの間隔といい、Δaで示すこともある。上述の例では、識別パラメータ間の差の最小値は、a2-a1=a3-a2=a4-a3=a5-a4=0.2であるから、識別パラメータの間隔Δaは0.2であることになる。
【0069】
第1光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列は、同一符号値に対応する隣接するチップパルス同士間の位相差(すなわち、式(1)で与えられる位相差)が0であり、異なる符号値に対応する隣接するチップパルス同士間の位相差(すなわち、式(2)で与えられる位相差)がπである。以後、式(1)で与えられる位相差を「位相差φA」ということもある。また、式(2)で与えられる位相差を「位相差φB」ということもある。すなわち、第1光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=2πM+a1π=0+0=0かつ位相差φB=2πM+(2N+1)π+a1π=0+π+0=πとなっている。
【0070】
同様に、第2光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=2πM+a2π=0+0.2π=0.2πかつ位相差φB=2πM+(2N+1)π+a2π=0+π+0.2π=1.2πとなっている。第3光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=2πM+a3π=0+0.4π=0.4πかつ位相差φB=2πM+(2N+1)π+a3π=0+π+0.4π=1.4πとなっている。第4光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=2πM+a4π=0+0.6π=0.6πかつ位相差φB=2πM+(2N+1)π+a4π=0+π+0.6π=1.6πとなっている。第5光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=2πM+a5π=0+0.8π=0.8πかつ位相差φB=2πM+(2N+1)π+a5π=0+π+0.8π=1.8πとなっている。
【0071】
隣接するチップパルス同士間の位相差を与える式(1)及び式(2)に現れる整数Mは、位相差として物理的に等価な関係にある値を一般化して表現する役割を果たしている。すなわち、aiπ(M=0)、2π+aiπ(M=1)、4π+aiπ(M=2)、...、(2N+1)π+aiπ(M=0)、2π+(2N+1)π+aiπ(M=1)、4π+(2N+1)π+aiπ(M=2)、...等はすべて、位相差として物理的に等価である。ここでいう物理的に等価という関係は、位相差2πを波長に換算するとちょうど波長に等しい値であり、チップパルスを構成する光波は1波長(1周期)進むごとに同一位相戻ることに対応する。
【0072】
また、隣接するチップパルス同士間の位相差を与える式(2)に現れる整数Nは、位相差φAと位相差φBとの関係が、φAB=(2N+1)πと設定すべきことを要請する役割を果たしている。すなわちφABがπの奇数倍に設定されれば、位相差φAと位相差φBとの関係は物理的に等価であることを意味している。ここでいう物理的に等価という関係は、位相差πを波長に換算するとちょうど1/2波長に等しい値であり、チップパルスを構成する光波は1/2波長(1/2周期)の奇数倍の長さに相当する光路長差に等しくなるたびにφABが逆位相の関係になることに対応する。
【0073】
【表1】

【0074】
以上説明した内容を表1及び表2にまとめてある。まず、表1について説明する。表1は、光パルス時間拡散装置から出力されるチップパルス列を構成するチップパルス間の位相差の関係を一覧にしたものである。[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]と示すそれぞれの行には、第1、第2、第3、第4及び第5光パルス時間拡散器からそれぞれ出力されるチップパルス間の位相差の関係を示している。
【0075】
表1の第1行目には、チップ番号として、1〜15の番号が付されている。これは、第1番目から第15番目までのチップ位置を表示している。表1の第2番目の行には、第1から第5光パルス時間拡散器の全てに設定されている、15ビットの符号列として(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)と表記される符号を構成する各符号値が、対応するチップの欄に表示されている。すなわち、先頭のチップであるチップ番号1の欄には、このチップに対応する符号値0が記入されている。同様に、チップ番号2、3、4、5、等の欄にもこれらのチップに対応する符号値0、0、1、1、等が記入されている。
【0076】
第1光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=0かつ位相差φB=πと設定されている。また、チップ番号1の符号値は0であり、チップ番号2の符号値は0と等しいので、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差はφAである。そして、この値は0であるから、表1の[1]で示す行のチップ番号1の欄とチップ番号2の欄との間の欄に記された値は0となっている。同様に、チップ番号2の符号値は0、チップ番号3の符号値も0と等しいので、[1]で示す行のチップ番号2の欄とチップ番号3の欄との間の欄に記された値も0となっている。
【0077】
しかしながら、チップ番号3の符号値は0であり、チップ番号4の符号値は1と異なっているので、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差はφBである。そして、この値はπであるから、表1の[1]で示す行のチップ番号3の欄とチップ番号4の欄との間の欄に記された値はπとなっている。この外の欄についても、同様に隣接する符号値が等しい場合にはその符号値に対応するチップ番号間の欄には0が、隣接する符号値が異なる場合にはその符号値に対応するチップ番号間の欄にはπがそれぞれ記入されている。
【0078】
次に、第2光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係を示す表1の[2]で示す行について説明する。第2光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係は、位相差φA=0.2πかつ位相差φB=1.2πと設定されている。
【0079】
従って、チップ番号1の符号値と、チップ番号2の符号値はそれぞれ0と等しいので、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差はφAである。そして、この値は0.2πであるから、表1の[2]で示す行のチップ番号1の欄とチップ番号2の欄との間の欄に記された値は0.2πとなっている。同様に、チップ番号2の符号値と、チップ番号3の符号値もそれぞれ0と等しいので、[2]で示す行のチップ番号2の欄とチップ番号3の欄との間の欄に記された値も0.2πとなっている。
【0080】
一方、チップ番号3の符号値は0であり、チップ番号4の符号値は1と異なっているので、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差はφBである。そして、この値は1.2πであるから、表1の[2]で示す行のチップ番号3の欄とチップ番号4の欄との間の欄に記された値は1.2πとなっている。この外の欄についても、同様に隣接する符号値が等しい場合にはその符号値に対応するチップ番号間の欄には0.2πが、隣接する符号値が異なる場合にはその符号値に対応するチップ番号間の欄には1.2πがそれぞれ記入されている。
【0081】
同様に、第3、第4及び第5光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルス間の位相関係も、上述同様に表1の[3]、[4]及び[5]で示す行にそれぞれ示されている。
【0082】
【表2】

【0083】
表2は、光パルス時間拡散装置から出力されるチップパルス列を構成するチップパルスの位相を、チップ番号1に対応するチップパルスの位相を基準にして、一覧にして示す表である。[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]と示すそれぞれの行には、表1と同様に、第1、第2、第3、第4及び第5光パルス時間拡散器からそれぞれ出力されるチップパルスの、チップ番号1に対応するチップパルスの位相を基準にした、チップ番号2以降に対応するチップパルスの位相値を示している。従って、チップ番号1に対応するチップパルスの位相は全て0となっている。
【0084】
表1と同様に、第1行目にチップ番号として、1〜15の番号が付され、第1番目から第15番目までのチップ位置を表示している。第2番目の行も表1と同様に、第1から第5光パルス時間拡散器の全てに設定されている、符号が表示されている。
【0085】
第1光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルスの、チップ番号1に対応するチップパルスの位相を基準にして示した、表1の[1]で示す行について説明する。
【0086】
チップ番号1に対応するチップパルスの位相は、上述したように0である。チップ番号2に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差はφA=0であるので、0(=0+0)となる。チップ番号3に対応するチップパルスの位相も、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差は0であり、かつチップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0であるので、0(=0+0+0)となる。
【0087】
また、チップ番号4に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差が0、チップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0であり、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差はπであるので、π(=0+0+0+π)となる。
【0088】
同様に、チップ番号5、6及び7に対応するチップパルスの位相は、チップ番号4の位相と等しいのでπとなる。しかし、チップ番号8に対応するチップパルスの位相は、上述と同様に考えると、チップ番号1に対応するチップパルスの位相からチップ番号8に対応するチップパルスの位相まででを積算すると、0+0+0+π+0+0+0+π=2πとなる。すなわち、チップ番号8対応するチップパルスの位相は2πである。しかし位相が0と位相が2πとは、物理的に同位相を意味するので、チップ番号8の欄には0が記載されている。チップ番号9以降の欄に記載された位相値も同様の規則に従って記載されている。
【0089】
次に、第2光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルスの、チップ番号1に対応するチップパルスの位相を基準にして示す表2の[2]で示す行について説明する。
【0090】
チップ番号1に対応するチップパルスの位相は、上述したように0である。チップ番号2に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差はφA=0.2πであるので、0.2π(=0+0.2π)となる。チップ番号3に対応するチップパルスの位相も、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差は0.2πであり、かつチップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0.2πであるので、0.4π(=0+0.2π+0.2π)となる。
【0091】
また、チップ番号4に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差が0.2π、チップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0.2πであり、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差は1.2πであるので、1.6π(=0+0.2π+0.2π+1.2π)となる。
【0092】
また、チップ番号5に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差が0.2π、チップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0.2π、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差は1.2π、チップ番号4に対応するチップパルスとチップ番号5に対応するチップパルスとの位相差は0.2πであるので、1.8π(=0+0.2π+0.2π+1.2π+0.2π)となる。
【0093】
また、チップ番号6に対応するチップパルスの位相は、チップ番号1に対応するチップパルスとチップ番号2に対応するチップパルスとの位相差が0.2π、チップ番号2に対応するチップパルスとチップ番号3に対応するチップパルスとの位相差も0.2π、チップ番号3に対応するチップパルスとチップ番号4に対応するチップパルスとの位相差は1.2π、チップ番号4に対応するチップパルスとチップ番号5に対応するチップパルスとの位相差は0.2π、チップ番号5に対応するチップパルスとチップ番号6に対応するチップパルスとの位相差は0.2π、であるので、2π(=0+0.2π+0.2π+1.2π+0.2π+0.2π)となる。しかし上述したように、位相が0と位相が2πとは、物理的に同位相を意味するので、チップ番号6の欄には0が記載されている。
【0094】
一般に、チップ番号1に対応するチップパルスとの位相差が2πを超えてAという値となったら、0≦A-2kπ<2πとなる整数kを選択して、A-2kπの値をそのチップ番号に対応するチップパルスの位相とする。ここでは、A=2πであるから、k=1を選択してA-2π=2π-2π=0となるので、チップ番号6の欄には0が記載されている。
【0095】
チップ番号7以降の欄に記載された位相値も同様の規則に従って記載されている。また、第3、第4及び第5光パルス時間拡散器から出力されるチップパルスの列を構成するチップパルスの、チップ番号1に対応するチップパルスの位相を基準にして示す表2の[3]、[4]、[5]で示す行についても、同様の規則に従って記載されている。
【0096】
《トランスバーサル型光フィルタ》
次に、光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器に符号を設定するための位相制御手段の具体例について説明する。
【0097】
まずトランスバーサル型光フィルタを利用して位相制御手段を実現する例を説明する。トランスバーサル型光フィルタは、例えば非特許文献3あるいは4に開示されているように、PLCとして構成される。
【0098】
トランスバーサル型光フィルタは、既に説明したように、遅延線、結合率可変光カプラ、位相変調部、及び合波部をその主要構成要素として具えている。結合率可変光カプラをt個具えたトランスバーサル型光フィルタに入力された光パルスは、このt個の結合率可変光カプラによって(t+1)個の光パルスに分波される。分波された(t+1)個の光パルスのそれぞれは、対応する符号値に応じて位相変調部においてその位相が変調され、また遅延線によって遅延が付加されて出力される。
【0099】
まず、図2(A)及び(B)を参照して、トランスバーサル型光フィルタの構成の概略及びその機能を説明する。図2(A)は、結合率可変光カプラの概略的構成を示す図であり、図2(B)は、トランスバーサル型光フィルタの全体構成図である。
【0100】
図2(B)に示すようにトランスバーサル型光フィルタは、シリコン基板30上のクラッド層31に、光が導波される部分であるコア33が埋め込まれて形成される光導波路をその基本構成要素として形成されている。クラッド層31は、SiO2を用いて形成され、コア33の構成素材として、クラッド層31の屈折率よりも高い屈折率とするために、GeがドープされたSiO2が使われる。
【0101】
図2(B)に示すように、入力光パルスPinが光導波路37を経由して結合率可変光カプラ部32に入力される。結合率可変光カプラ部32は、符号長が15である符号が設定できるようにするために、結合率可変光カプラ32-1、32-2、....、及び32-14の合計14個の結合率可変光カプラを具えている。
【0102】
結合率可変光カプラの数を14個具えるトランスバーサル型光フィルタに入力された光パルスは、15(=14+1)個の光パルスに分波される。この15個に分波されたそれぞれの光パルスは、符号値に対応して位相変調部34においてその位相が変調される。位相変調部34は、結合率可変光カプラ部32から出力される15個の光パルスのそれぞれが入力される位相変調器34-1、34-2、....、及び34-15の合計15個の位相変調器を具えている。
【0103】
位相変調部34において行なわれる15個の光パルスに対する位相変調は、これら15個の光パルスの位相関係が表1及び表2に示された関係となるように行われる。すなわち、例えば、第i光パルス時間拡散器(i=1, 2, ....,5)を構成するトランスバーサル型光フィルタの場合を仮定して説明すると次のようになる。
【0104】
すなわち、位相変調部34を構成する15個の位相変調器のそれぞれは、結合率可変光カプラ部32で分波された15の光パルスに対して、チップ番号1(例えば、位相変調器34-1から出力されるチップパルス)に対応するチップパルスの位相を基準にして、残りの14個各々の光パルスの位相が表2の[i]で示す行(i=1,2, ....,5)に記された値だけずれるように、位相を付加する。
【0105】
また、結合率可変光カプラ32-1と結合率可変光カプラ32-2との間の光導波路38-1は、結合率可変光カプラ32-1で分波された光パルスの一方を伝播させて次に設置されている結合率可変光カプラ32-2に入力させる働きをすると同時に、結合率可変光カプラ32-2に入力させる光パルスに時間遅延を付加する遅延線としての役割を果たす。結合率可変光カプラ32-2と結合率可変光カプラ32-3との間の光導波路38-2等の、隣接する結合率可変光カプラを繋ぐ光導波路は、全て遅延線として同様の働きをする。
【0106】
結合率可変光カプラ32-1で分波され光導波路38-1に入力される光パルスに対して、もう一方の光パルスは、位相変調部34を構成する位相変調器34-1に入力されて、位相が変調されて合波部36に入力される。同様に、位相変調器34-2〜位相変調器34-15からも、結合率可変光カプラ部32で分波された光パルスがその位相を変調されて合波部36に入力される。従って、位相変調部34を介して合波部36に入力される光パルスは全部で15個あり、それぞれが入力光パルスPinに対するチップパルスを構成する。
【0107】
ここで、合波部36に入力されたチップパルスは合波されて、入力光パルスPinが符号化された結果としてのチップパルス列Poutが出力される。上述したように、位相変調部34において15個の光パルスの位相関係が表1及び表2に示された関係を満たすように位相変調が行われている。従って、図2(B)に示すトランスバーサル型光フィルタから出力されるチップパルス列Poutを構成する各チップパルスの一つ一つは、15ビットの符号列として(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)と表記される符号を構成する各符号値と一対一に対応する。
【0108】
結合率可変光カプラ部32を構成する14個の結合率可変光カプラは、上述したように、入力光パルスPinを、15個(=14+1)個の光パルスに分波する役割を果たす。すなわち、結合率可変光カプラ部32を構成する14個の結合率可変光カプラによって、強度が等しく揃った15個の光パルスを生成する必要がある。そのために、14個の結合率可変光カプラには、それぞれ分岐比を少しずつ違えて設定されていなければならない。例えば、結合率可変光カプラ32-1の分岐比は1対14でなければならず、結合率可変光カプラ32-2の分岐比は1対13でなければならない。同様に結合率可変光カプラ32-3、....、32-14のそれぞれの分岐比は、1対12、1対11、....、1対1でなければならない。
【0109】
そこで、結合率可変光カプラ部32を構成する結合率可変光カプラ32-1〜32-14の構成及びその動作原理について図2(A)を参照して説明する。説明の便宜のために図2(B)に示すトランスバーサル型光フィルタの結合率可変光カプラ部32を構成している結合率可変光カプラ32-1を例にしてその機能及び構成について説明するが、これ以外の結合率可変光カプラ32-2〜32-14等も同様の構成及び機能を有する。
【0110】
図2(A)に示すように、結合率可変光カプラ32-1は、2つの入力ポート48及び50と、二つの出力ポート52及び54とを有し、第1方向性光結合器40、第2方向性光結合器42、第1位相シフター44、及び第2位相シフター46を具えて構成される。
【0111】
結合率可変光カプラ32-1に入力される光パルスを光パルスP1とし、結合率可変光カプラ32-1から出力されて次段に設置された結合率可変光カプラ32-2に入力される光パルスを光パルスP2とし、位相変調器34-1に入力される光パルスを光パルスP3とする。光パルスP1は、結合率可変光カプラ32-1が有する入力ポート48に入力される。そして、第1方向性光結合器40によって第1光パルスP1-1と第2光パルスP1-2とに2分岐されて、それぞれ第1位相シフター44及び第2位相シフター46に入力される。
【0112】
第1位相シフター44及び第2位相シフター46に入力された光パルスは、それぞれその位相が変調されて、それぞれ変調第1光パルスP1-1'と変調第2光パルスP1-2'として生成されて第2方向性光結合器42に入力されて合波され、再び2分岐されて、それぞれ光パルスP2及び光パルスP3として出力される。
【0113】
第2方向性光結合器42に入力される2つの光パルス、変調第1光パルスP1-1'と変調第2光パルスP1-2'、はそれぞれ第1位相シフター44及び第2位相シフター46によってその位相が変調されている。その結果両者が第2方向性光結合器42に入力されて合波され再び2分岐された時の分岐比(P2とP3の強度比、P2対P3)は1対1とはならず、1対14となる。この分岐比を決定するのは、変調第1光パルスP1-1'と変調第2光パルスP1-2'との両者の位相差である。この位相差を適宜調整して必要とされる分岐比に分岐されるように、結合率可変光カプラ部32を構成する14個の結合率可変光カプラの、それぞれの第1位相シフター及び第2位相シフターによる位相変調量を調整する。
【0114】
第1位相シフター及び第2位相シフターは、この部分の光導波路の温度を調整できる構成として形成される。すなわち、コア33の直上のクラッド層31を挟んでヒータが形成されている。図2(A)に示す影を付して示した長方形の部分にヒータが形成されている。このヒータでコア33を加熱すると、コア33の屈折率が大きくなる。例えば、コア33をGeドープのSiO2で形成した場合、波長1.55μmの光パルスに対して1℃当たりその屈折率が8×10-6変化する。位相シフターとして、1 mmの長さの光導波路部分の温度が制御できる構造として構成した場合、33.5℃温度を上げることによってこの部分の光路長が0.388μm長くなる。すなわち、波長1.55μmの光パルスの波長の1/4波長に相当する長さとなり、位相に換算するとπ/2に相当する位相変調を行うことができる。
【0115】
第2方向性光結合器42における分岐比を1対0から1対1まで変化させるには、第1位相シフター及び第2位相シフターにおいて第1光パルスP1-1と第2光パルスP1-2との位相差を0からπ/2まで変調させることで実現できる。すなわち、位相シフターとして形成されている光導波路部分の温度を30℃程度調整できれば実現できるわけであり、これは容易に実施できる温度調整値である。
【0116】
《回折格子》
位相制御手段は、上述のトランスバーサル型光フィルタを用いる他、回折格子を光導波路の導波方向に沿って直列に複数個(符号長に等しい個数)配置することによっても実現できる。この光導波路に入力された光パルスは、回折格子が配置されている箇所に到達するごとに反射(ブラッグ反射)されて、この反射された光がチップパルスとなる。すなわち、この光導波路に配置された回折格子の個数に等しいチップパルスが生成される。このことによって、配置する回折格子の個数と、設定すべき符号の符号長とを等しくすれば、個々の回折格子と符号を構成するチップとを一対一に対応させることができる。
【0117】
光導波路に配置される複数個の回折格子の各々を単位回折格子ということもある。これは、光導波路に配置される複数の回折格子を総体として回折格子と見ることが可能であるので、複数の回折格子の集合としての回折格子と区別するために、個々の回折格子を単位回折格子と呼ぶこともある。
【0118】
光導波路に配置された個々の回折格子と、符号を構成するチップとを一対一に対応させるためには、次のようにすればよい。すなわち、隣接しかつ等しい符号値を与える2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を上述の(1)式で与え、及び隣接しかつ異なる符号値を与える2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を上述の(2)式で与えられるように設定する。すなわち、チップパルス列を構成するブラッグ反射光(チップパルス)のそれぞれの位相の関係は、表1及び表2に示す関係となるように設定する。
【0119】
光導波路としては、PLCを利用しても良いが、光ファイバを利用することが好適である。光導波路として光ファイバを採用することによって、既に製造技術が確立されているSSFBGを利用できるからである。また、光通信システムでは光ファイバが光伝送路として使われているからである。すなわち、この発明の光パルス時間拡散装置を、OCDMの符号化装置及び復号化装置として利用すれば、これらと光伝送路との接続は、光ファイバ同士の接続となる。そして、光ファイバ同士の接続は、PLC等の光ファイバ以外の光導波路と光ファイバとを接続する場合に比べて、格段に容易である。
【0120】
《SSFBG》
そこで、次に、光パルス時間拡散装置を構成する光パルス時間拡散器に符号を設定するための位相制御手段としてSSFBGを利用する例を説明する。
【0121】
図3(A)及び(B)を参照してSSFBGを利用した位相制御手段の概略的構造を説明する。図3(A)は、位相制御手段の模式的な断面図である。この位相制御手段は、コア64とクラッド62を具える光ファイバ66のコア64にSSFBG 60が作り付けられた構造である。15個の単位FBGが、光ファイバ66の光導波路であるコア64の導波方向に沿って直列に配置されてSSFBG 60が構成されている。
【0122】
図3(A)に示す位相制御手段に設定されている光位相符号は、上述と同一の15ビットの光位相符号である。そして、光ファイバ66のコア64に直列に配置された15個の単位FBGと上述の光符号との対応関係は、次のようになっている。すなわち、図3(A)に示されたSSFBG 60の左端から右端の方向に配列された単位FBGと、上述の15ビットの符号列として表記された単位FBGの光符号を表す(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)の左端から右端の方向に配列されたチップとが、一対一に対応する。
【0123】
図3(B)は、図3(A)に示されたSSFBG 60の屈折率変調構造を概略的に示す図である。横軸はSSFBG 60が形成された光ファイバ66の長手方向に沿った位置座標である。縦軸は光ファイバ66の屈折率変調構造を表しており、光ファイバ66のコアの屈折率の最大と最小の差をΔnとして表してあり、Δn=6.2×10-5である。また、図3(B)には、光ファイバ66のコア64の屈折率変調構造を一部拡大して描いてある。
【0124】
屈折率変調周期はΛである。したがってブラッグ反射波長λは、λ=2NeffΛで与えられる。ここで、Neffは光ファイバ66の実効屈折率である。ここに示した、SSFBG 60の屈折率変調周期Λは535.2 nmである。また、符号化あるいは復号化する光パルスの波長λは1550 nm、光ファイバ66の実効屈折率は1.448である。したがってブラッグ反射波長は、光パルスの波長λと等しく1550 nmに設定される。すなわち、λ=1550 nm、Neff=1.448、Λ=535.2 nmであるから、λ=2NeffΛ=2×1.448×535.2 nm=1549.94 nm≒1550 nmを満たしている。また、単位FBGの長さは2.4 mmに設定してある。
【0125】
単位FBGを15個具えるSSFBGに入力された光パルスは、15個の光パルスに分波される。この15個に分波されたそれぞれの光パルスは、SSFBGを構成する単位FBGのうちのどの単位FBGによってブラッグ反射されて生成された光パルスかによってそれぞれその位相が異なっている。そして上述したように、図3(A)に示されたSSFBG 60の左端から右端の方向に配列された単位FBGと、符号(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)の左端から右端の方向に配列されたチップとが、一対一に対応する。
【0126】
図3(A)において、隣接する単位FBG同士の間隔を黒く塗りつぶして示してある。一方、図3(B)において、隣接する単位FBG同士の間隔に下向きの矢印を付して示してある。下向きの矢印を付して示された隣接する単位FBG同士の間隔について、例えば、第i光パルス時間拡散器(i=1, 2, ....,5)を構成するSSFBGの場合を仮定して説明すると次のようになる。
【0127】
すなわち、SSFBGを構成する15個の単位FBGからのブラッグ反射光が、チップパルス列を構成するので、15個の単位FBGそれぞれからのブラッグ反射光の位相関係が表1及び表2の[i]で示す行(i=1, 2, ....,5)に記された値となるように、隣接する単位FBG同士の間隔を設定する。具体的には、隣接する単位FBGからのブラッグ反射光の位相差は、下向きの矢印を付して示された単位FBG同士の間の光路差の2倍に相当する値となる。すなわち、隣接する単位FBGからのブラッグ反射光の位相差は、隣接する単位FBG間の光路を往復する距離を光が伝播することによって加わる位相量に等しい。従って、下向きの矢印を付して示された単位FBG同士の間の光路差が、表1の[i]で示す行(i=1, 2, ....,5)に記された位相値の半分の位相量に相当するように設定すればよい。
【0128】
《位相制御手段の特性評価実験》
図4から図7を参照して、光パルス時間拡散置の動作特性を評価した実験の内容とその結果について説明する。
【0129】
光パルス時間拡散装置の動作特性の評価に用いた装置の概略図を図4に示す。この装置は、光パルス発生装置56、分波器58、合波器68、光遅延部72、第1オシロスコープ78及び第2オシロスコープ80を具えている。光パルス発生装置56から出力される光パルスは、その波長が1.55μmで、その半値幅が20 psである。光パルス発生装置56から出力された光パルスは、分波器58で分波されて、評価対象である光パルス時間拡散装置70に入力される。
【0130】
評価対象である光パルス時間拡散装置70は、図4に示すように、第1光パルス時間拡散器70-1、第2光パルス時間拡散器70-2、第3光パルス時間拡散器70-3、第4光パルス時間拡散器70-4及び第5光パルス時間拡散器70-5、を具えて構成されたものを用いた。第1から第5光パルス時間拡散器は、上述のSSFBGによって実現させた光パルス時間拡散器である。光パルス時間拡散装置70を構成する第1から第5光パルス時間拡散器70-1〜70-5のそれぞれには、15ビットの符号列として表記すると、(0,0,0,1,1,1,1,0,1,0,1,1,0,0,1)で与えられる符号が設定されている。また、生成するチップパルス同士間の位相差φA及び位相差φBを与えるパラメータM及びNは、M=N=0と設定した。
【0131】
まず、識別パラメータを、a1=0、a2=0.4、a3=0.8、a4=1.2及びa5=1.6と設定して、第1から第5光パルス時間拡散器によって生成されるチップパルス列を観測した。また、第1から第5光パルス時間拡散器を復号器として機能させることによって、これらのチップパルス列から自己相関波形及び相互相関波形を観測した。
【0132】
光遅延部72は、第1光遅延器72-1、第2光遅延器72-2、第3光遅延器72-3、第4光遅延器72-4及び第5光遅延器72-5、を具えて構成した。光遅延部72を光パルス時間拡散装置70の後段に設定した理由は、光パルス時間拡散装置70に設置された、どの光パルス時間拡散器によって光パルスが時間拡散されたものであるかを時間軸上で区別して観測できるようにするためである。
【0133】
すなわち、光遅延器72-1は、第1光パルス時間拡散器70-1で時間拡散されたチップパルス列に評価実験するために好都合な時間遅延を与える。この値は0でも良く、例えば、第1及び第2オシロスコープの使用上の都合に応じて任意に設定する。光遅延器72-2は、第2光パルス時間拡散器70-2で時間拡散されたチップパルス列に対して、どの光パルス時間拡散器によって光パルスが時間拡散されたものであるかを時間軸上で区別して観測に必要な時間遅延を与える。この実験では800 ps程度の時間差を与えた。これによって、第1光パルス時間拡散器70-1で時間拡散されたチップパルス列と、第2光パルス時間拡散器70-2で時間拡散されたチップパルス列とを、時間軸上に重なり合わないように分離して隣接して出力させることができる。
【0134】
光遅延器72-3、72-4及び72-5も同様に、それぞれ第3光パルス時間拡散器70-3、第4光パルス時間拡散器70-4及び第5光パルス時間拡散器70-5で時間拡散されたチップパルス列に対して、互いに識別するのに必要な時間遅延を与える。すなわち、第2光パルス時間拡散器70-2から第5光パルス時間拡散器70-5で時間拡散されたチップパルス列が、時間軸上に重なり合わないようにこの順序に分離して出力されるように、光遅延器72-3、72-4及び72-5それぞれの時間遅延量を設定した。
【0135】
光遅延器72-1、72-2、72-3、72-4及び72-5から出力されるそれぞれのチップパルス列は、合波器68で合波されて、伝送路である光ファイバケーブル69を伝播して光カプラ74に入力され第1光信号75-1と第2光信号75-2とに分波される。第1光信号75-1は、第1オシロスコープ78でその時間波形が観測される。一方、第2光信号75-2は、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)に入力されて第3光信号77として出力され、第2オシロスコープ80でその時間波形が観測される。
【0136】
第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)は、光パルス時間拡散装置70を構成する第1光パルス時間拡散器70-1、第2光パルス時間拡散器70-2、第3光パルス時間拡散器70-3、第4光パルス時間拡散器70-4及び第5光パルス時間拡散器70-5のうちのいずれかと等しいSSFBGによる光パルス時間拡散器である。ただし、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)を構成するSSFBGの入力端と出力端は、光パルス時間拡散装置70を構成する光パルス時間拡散器のSSFBGの入力端と出力端とは逆に設定されている。すなわち、図1を参照してして説明したように、光パルス時間拡散装置70を構成するSSFBGを符号器と見立て、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)を構成するSSFBGを復号器と見立てて、光パルス時間拡散置の動作特性の評価実験を行った。
【0137】
図5に第1オシロスコープ78で観測された第1光信号75-1の時間波形を示す。図5の横軸はps単位で目盛って示してあり、縦軸は光パワーをmW単位で目盛って示してある。第1光信号75-1は、合波器68から出力された、光遅延器72-1、72-2、72-3、72-4及び72-5から出力されるそれぞれのチップパルス列が合波された光信号である。すなわち、第1光信号75−1の時間波形は、第1から第5光パルス時間拡散器によって生成されるチップパルス列の時間波形が、時間軸上で等間隔(800 ps間隔)に並べられたものである。
【0138】
すなわち、図5に示す時間領域1(0 psから800 psの範囲)に現れている時間波形は、光パルス発生器56から出力された光パルスが分波器58で強度分割されて第1光パルス時間拡散器70-1によって符号化された光パルスのチップパルス列の時間波形を示している。また、時間領域2(800 psから1600 psの範囲)に現れている時間波形は、光パルス発生器56から出力された光パルスが分波器58で強度分割されて第2光パルス時間拡散器70-2によって符号化された光パルスのチップパルス列の時間波形を示している。同様に、時間領域3(1600 psから2400 psの範囲)、時間領域4(2400 psから3200 psの範囲)及び時間領域5(3200 psから4000 psの範囲)に現れている時間波形は、それぞれ光パルス発生器56から出力された光パルスが分波器58で強度分割されて第3光パルス時間拡散器70-3、第4光パルス時間拡散器70-4、及び第5光パルス時間拡散器70-5によって符号化された光パルスのチップパルス列の時間波形を示している。
【0139】
図5に示すように、光パルスが第1から第5光パルス時間拡散器のそれぞれによって、チップパルスの列に時間拡散されていることがわかる。光パルスが第1から第5光パルス時間拡散器のそれぞれに設定されている符号は同一であるが、識別パラメータai(i=1, 2, 3, 4, 5)がそれぞれ異なるため、時間領域1から時間領域5のそれぞれに現れているチップパルスの列の時間波形が互いに異なっている。
【0140】
次に図6(A)から(E)を参照して第2オシロスコープ80によって観測された第3光信号77の時間波形を示す。第3光信号77は、第1から第5光パルス時間拡散器によって生成されたそれぞれのチップパルスの列が合波された第2光信号75-2が、自己相関波形成分と相互相関波形成分として生成されて、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)から出力される光信号である。
【0141】
図6(A)は、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)として、光パルス時間拡散装置70を構成する第1光パルス時間拡散器70-1と等しいSSFBGを具える光パルス時間拡散器を設定して観測した、第3光信号77の時間波形を示す。同様に、図6(B)から(E)は、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)として、光パルス時間拡散装置70を構成する第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)と等しいSSFBGを具える光パルス時間拡散器を、それぞれ設定して観測した第3光信号77の時間波形を示す。
【0142】
図6(A)に示す時間波形から次のことが分かる。すなわち、時間領域1に自己相関波形が再生されており、時間領域1以外の時間領域では相互相関波形が生成されている。図6(A)に示す時間波形は、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)として、光パルス時間拡散装置70を構成する第1光パルス時間拡散器70-1と等しいSSFBGを具える光パルス時間拡散器を設定して観測された時間波形である。従って、第2光信号75-2に含まれるチップパルス列のうち、第1光パルス時間拡散器70-1で時間拡散された成分のみが、第i光パルス時間拡散器76によって自己相関波形として再生されることを意味している。
【0143】
時間領域1において再生されている自己相関波形のピーク強度は、時間領域1以外の時間領域において生成されている相互相関波形のピーク強度に比べて十分に大きい。従って、第2光信号75−2に対して閾値処理を施せば、自己相関波形成分のみを抽出することが十分に可能である。
【0144】
図6(B)から(E)に示す時間波形についても、上述の図6(A)に示す時間波形と同様のことが結論できる。図6(B)から(E)に示す時間波形は、第i光パルス時間拡散器76として、光パルス時間拡散装置70を構成する第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)とそれぞれ等しいSSFBGを具える光パルス時間拡散器を設定して観測された時間波形である。
【0145】
図6(B)、(C)、(D)及び(E)に示す時間波形から次のことが分かる。すなわち、時間領域2、3、4及び5に自己相関波形が再生されており、時間領域2、3、4及び5以外の時間領域では相互相関波形が生成されている。図6(B)、(C)、(D)及び(E)に示す時間波形は、第i光パルス時間拡散器76(i=1, 2, 3, 4, 5)として、それぞれ光パルス時間拡散装置70を構成する第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)と等しいSSFBGを具える光パルス時間拡散器を設定して観測された時間波形である。従って、それぞれ第2光信号75-2に含まれるチップパルス列のうち、第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)で時間拡散された成分のみが、第i光パルス時間拡散器76によって自己相関波形として再生されることを意味している。
【0146】
時間領域2、3、4及び5において再生されている自己相関波形のピーク強度は、時間領域2、3、4及び5以外の時間領域において生成されている相互相関波形のピーク強度に比べて十分に大きい。従って、図6(B)から(E)に示す時間波形のそれぞれにおいて、第2光信号75-2に含まれるチップパルス列のうち、第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)で時間拡散された成分のみが、第i光パルス時間拡散器76によって自己相関波形としてそれぞれ再生されている。
【0147】
図6(B)から(E)に示す時間波形についても、上述の図6(A)に示す時間波形と同様のことが結論できる。すなわち、図6(B)から(E)に示す時間波形のそれぞれにおいて、第2光信号75-2に含まれるチップパルス列のうち、第2から第5光パルス時間拡散器(70-2から70-5)で時間拡散された成分のみが、第i光パルス時間拡散器76によって自己相関波形としてそれぞれ再生される。従って、図6(A)に示す時間波形と同様に、閾値処理を施せば、自己相関波形成分のみを抽出することが十分に可能である。
【0148】
これらの実験結果から、この発明の光パルス時間拡散装置が、光パルス信号を符号化するための符号器として利用でき、かつ符号化されて生成された符号化光パルス信号を復号化するための復号器として利用できることを確かめた。
【0149】
以上説明した評価実験では、識別パラメータは、a1=0、a2=0.4、a3=0.8、a4=1.2及びa5=1.6と設定した。すなわち、a2-a1=a3-a2=a4-a3=a5-a4=0.4であるから、識別パラメータの間隔Δaは0.4であることになる。識別パラメータΔaが小さくなるほど、チップパルス列を形成するチップパルス同士の時間軸上での間隔が短くなるので、自己相関波形を生成することが徐々に困難となる。すなわち、識別パラメータの間隔Δaが小さくなるほど、チップパルス列から再生もしくは生成される自己相関波形と相互相関波形のピーク強度の差が小さくなる。
【0150】
そこで、図7に、識別パラメータの間隔Δaに対して、自己相関波形のピーク強度で相互相関波形のピーク強度を規格化した、相関波形強度比を調べた結果を示す。相関波形強度比とは、言い換えると相互相関波形のピーク値を自己相関波形のピーク値で割った値である。従って、相互相関波形成分が0であれば相関波形強度比は0となり、自己相関波形成分と相互相関波形成分とが均等であれば、相関波形強度比は1となる。すなわち、相関波形強度比が1に近づくほど、自己相関波形成分を相互相関波形成分から分離することが難しくなることを意味している。
【0151】
図7の横軸は識別パラメータの間隔Δaの値を、縦軸は相関波形ピーク比をそれぞれ示している。図7には識別パラメータの間隔Δaの値が0.02から0.20の値の範囲にわたって相関波形ピーク比を示してある。識別パラメータの間隔Δaの値が0.06よりも大きければ、相関波形ピーク比は0.2程度であることが分かる。すなわち、相互相関波形のピーク値が自己相関波形のピーク値の1/5程度であることを意味している。このことから識別パラメータの間隔Δaの値を0.06よりも大きく設定すれば、閾値処理等の方法で、自己相関波形成分を相互相関波形成分から分離することは十分可能であることが分かる。
【0152】
もちろん、識別パラメータの間隔Δaの値の下限値は、閾値処理等の装置の性能に依存する。また、光パルスの波長やその半値幅等にも依存する。従って、識別パラメータの間隔Δaの値をどの程度の値として設定するかは、光パルス時間拡散装置を利用するOCDM装置を設計する際の設計的事項に属する。
【0153】
また、上述の評価実験では、光パルスの波長を1.55μm、その半値幅を20 psとして行ったが、第1の発明の光パルス時間拡散装置としては、これ以外の条件でも同様の動作をさせることができることは明らかである。すなわち、光パルス時間拡散器の位相制御手段であるSSFBGに設定する単位FBGのブラッグ波長を、光パルスの波長に一致するように設計することで、原理的にいかなる波長の光パルスに対しても、同様の光パルス時間拡散という動作を実現できる。また、半値幅を20 psとして実験を行ったが、半値幅が狭いほど良好な特性が得られるという点では、従来の同種の光パルス時間拡散器と同様である。従って、光パルスの半値幅が、20 psとは異なっている場合でも、原理的に同様の光パルス時間拡散という動作を実現できる。
【0154】
以上説明したように、1種類の符号を用いて複数の識別可能な光位相符号化が行なえる光パルス時間拡散装置が実現できた。すなわち、1種類の符号に対して複数の相異なるS個の識別パラメータai(i=1, 2,....,S)を導入することによって、Sとおりの相異なる光位相符号化を実現できることが示された。従って、この発明の光パルス時間拡散装置をOCDMの符号器及び復号器として採用することによって、複数のチャンネルを光符号分割多重伝送できることが確かめられた。
【0155】
<OCDM伝送方法及びその装置>
この発明の光パルス時間拡散装置は、光符号分割多重伝送方法(以後、「OCDM伝送方法」という。)に適用して好適である。すなわち、この発明の光パルス時間拡散装置を符号器及び復号器として採用することで、以下のステップを含むこの発明のOCDM伝送方法が実現できる。この発明のOCDM伝送方法は、上述したように同一の符号に対して複数のチャンネルを光多重伝送することが可能な方法である。
【0156】
この発明のOCDM伝送方法は、符号化ステップと復号化ステップとを含んでいる。そして、符号化ステップと復号化ステップとをこの発明の光パルス時間拡散装置を利用して実行する。符号化ステップは、光パルス信号を、光位相符号を用いて符号化して符号化光パルス信号として生成する符号化ステップである。復号化ステップは、符号化ステップで用いた光位相符号と同一符号、かつ同一識別パラメータを用いて、符号化光パルス信号を復号化して、光パルス信号の自己相関波形を生成する復号化ステップである。
【0157】
上述のOCDM伝送方法は、符号器と復号器とを具える、この発明の光符号分割多重伝送装置(以後、「OCDM伝送装置」という。)で実現することが可能である。すなわち、この発明のOCDM伝送装置は、これら符号器及び復号器としてこの発明の光パルス時間拡散装置を用いる。
【0158】
符号器は、光パルス信号を、光位相符号を用いて符号化して符号化光パルス信号として生成する符号化ステップを実現する。復号器は、光位相符号と同一符号、かつ同一識別パラメータを用いて符号化光パルス信号を復号化して、光パルス信号の自己相関波形を生成する復号化ステップを実現する。
【0159】
図8を参照して、この発明のOCDM伝送装置の構成及びその機能について説明する。図8は、この発明のOCDM伝送装置の概略的ブロック構成図である。図8において、光ファイバ等の光信号の経路を太線で示し、電気信号の経路を細線で示してある。またこれら太線および細線に付された番号は、経路そのものを指示するほか、それぞれの経路を伝播する光信号あるいは電気信号を意味することもある。
【0160】
この発明のOCDM伝送装置で、符号器及び復号器として利用される、光パルス時間拡散装置は次のように形成する。すなわち、この発明の光パルス時間拡散装置を構成する、それぞれの光パルス時間拡散器に設定される符号は同一である。そして、それぞれの光パルス時間拡散器が生成するチップパルス同士間の位相差φA及び位相差φBを与える識別パラメータは、相異なる4種類のa1、a2、a3、及びa4が選定される。この識別パラメータの選定においては、上述したように、閾値処理等の装置の性能、光パルス信号に使われる光パルスの波長やその半値幅等を考慮して決定される。
【0161】
また、図8では4チャンネル構成の例が示してあるが、この発明のOCDM伝送装置は、4チャンネルに限られるものではなく、チャンネル数がいくつの構成であっても、以下の説明は同様に成立する。多重化が可能であるチャンネル数は、この発明のOCDM伝送装置を構成する閾値処理等の装置の性能、光パルス信号に使われる光パルスの波長やその半値幅等に依存するが、上述のこの発明の特性評価実験の結果等、現状の技術を持ってすれば、同一符号を使って少なくとも5チャンネル以上は可能である。
【0162】
この発明のOCDM伝送装置は、送信部140でチャンネルごとに符号化光パルス信号を生成して、合波器170で全てのチャンネルの符号化光パルス信号を多重して送信信号172sとして、光伝送路172を伝播させて受信部180に伝送する構成である。
【0163】
受信部180に伝送された全てのチャンネルの符号化光パルス信号が多重された送信信号172sは、分岐器182によって、符号化光パルス信号としてチャンネル数と等しい数に強度分割される。そして強度分割された符号化光パルス信号181a、181b、181c及び181dはそれぞれ、受信部180の受信部第1チャンネル200、受信部第2チャンネル202、受信部第3チャンネル204及び受信部第4チャンネル206に入力される。
【0164】
まず、各チャンネルの送信信号である光パルス信号を生成するための基となる光パルス列を発生させてその光パルス列を各チャンネルに供給する機能部分について説明する。この部分はパルス光源142と分岐器144を具えて構成される。
【0165】
パルス光源142は、例えば、分布帰還形半導体レーザ(DFB-LD)を用いて構成することができる。このDFB-LDから出力される連続波光を光変調器(図示せず。)で光パルス列に変換してこの光パルス列を一本の光ファイバ端から出力するように構成された光源が、パルス光源142である。パルス光源142の出力光143は分岐器144によって、チャンネル数分(ここでは4つ)に強度分割されて、各チャンネルに分配される。すなわち第1から第4チャンネルに対してそれぞれ、光パルス列145a、光パルス列145b、光パルス列145c及び光パルス列145dとして強度分割されて供給される。
【0166】
以下で行なう符号化部の説明は、各チャンネル共通の事項であるので、ここでは第1チャンネルを例にとって説明する。第1チャンネルの符号化部である送信部第1チャンネル160は、変調電気信号発生部146と、変調器148と、符号器150とを具えて構成される。第2チャンネル162、第3チャンネル164及び第4チャンネル166は、第1チャンネル160と同様の構造である。異なるのは、それぞれのチャンネルが具える符号器(光パルス時間拡散器)に設定されている識別パラメータai(i=1, 2, 3, 4)である。識別パラメータaiは、チャンネルごとに相異なるものが設定される。これによって、チャンネルごとに独立して光パルス信号を送受信できる。符号器以外は、第1から第4チャンネルのいずれも同一の構造である。
【0167】
図8では、説明の便宜上、チャンネルごとに独立して符号器が設けられていると読み取れるように描いてあるが、実装上は、それぞれのチャンネルに具えられる符号器は集合させて構成される。すなわち、チャンネルごとに具えられる符号器は、チャンネル数に等しい数だけ集合させられて符号化装置として構成される。
【0168】
送信部第1チャンネル160は、第1チャンネルの光パルス信号を、第1チャンネル用に設置された光パルス時間拡散器(符号器)を用いて符号化して、符号化光パルス信号を生成する符号化ステップを実行する部分である。
【0169】
上述したように、送信部第1チャンネル160を構成するための必須構成要素は、変調電気信号発生部146、変調器148及び符号器150である。この符号器150には、識別パラメータa1が設定されたSSFBGを具えた光パルス時間拡散器が使われている。同様に第2、第3及び第4チャンネルに設置されている符号器には、それぞれ、識別パラメータa2、a3及びa4が設定されたSSFBGを具えた光パルス時間拡散器が使われている。
【0170】
変調電気信号発生部146は、送信信号を担う電気パルス信号147を発生させる。電気パルス信号147は、第1チャンネルに割り当てられた送信情報が反映された2値デジタル電気信号として生成された電気信号である。変調器148は、光パルス列145aを、電気パルス信号147によって、光パルス信号149に変換する。光パルス列145aは、変調器148によって電気パルス信号147を反映したRZフォーマットに強度変調されて、光パルス信号149として生成される。
【0171】
符号器150は、光パルス信号149を、符号化して符号化光パルス信号161を生成する。また、受信部180の受信部第1チャンネル200に具えられる復号器184には、符号器150と同一の光位相構造が設定された(識別パラメータa1が設定された)光パルス時間拡散器が使われる。すなわち、復号器184は、強度分割されて第1チャンネルに割り当てられた符号化光パルス信号181aを、第1チャンネルの符号器と同一の識別パラメータa1が設定された光パルス時間拡散器(復号器)を用いて、符号化光パルス信号を復号化する。その結果、復号器184では、第1チャンネルの光パルス信号の自己相関波形成分及び第2から第4チャンネルの光パルス信号の相互相関波形成分を含む再生光パルス信号が生成される。
【0172】
図8では、上述した符号器と同様に、チャンネルごとに独立して復号器が設けられていると読み取れるように描いてあるが、実装上は、それぞれのチャンネルに具えられる復号器は集合させて構成される。すなわち、チャンネルごとに具えられる復号器は、チャンネル数に等しい数だけ集合させられて復号化装置として構成される。
【0173】
復号器184において、再生された自己相関波形成分185は、受光器190によって電気信号に変換されて、第1チャンネルの受信信号191が生成される。この受信信号191の波形は、送信部140の送信部第1チャンネル160が具えている変調電気信号発生部146から出力される電気パルス信号147を反映した信号である。こうして、第1チャンネルを通じて送信されるべき電気パルス信号147は、受信部180によって第1チャンネルの受信信号191として受信される。
【0174】
受信部180の受信部第2チャンネル202、第3チャンネル204及び第4チャンネル206においても、受信部第1チャンネル200と同様に、それぞれの符号化光パルス信号が復号化されて、それぞれの自己相関波形が再生される。この自己相関波形から、それぞれのチャンネルを通じて送信された電気パルス信号が生成される過程は同一であるので、その説明を省略する。
【0175】
以上説明したように、この発明のOCDM伝送方法及びこの発明のOCDM伝送装置は、この発明の光パルス時間拡散装置を利用して実現される。したがって、この発明のOCDM伝送方法及びこの発明のOCDM伝送装置によれば、同一の符号に対して複数のチャンネル(図8に示すOCDM伝送装置では4チャンネル)を、チャンネル識別性をもって割り当てることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】SSFBGを利用した符号器及び復号器の動作原理の説明に供する図である。
【図2】トランスバーサル型光フィルタの概略的構成を示す図である。
【図3】SSFBGを利用した位相制御手段の概略的構造図である。
【図4】光パルス時間拡散装置の特性評価を行う装置の概略的ブロック構成図である。
【図5】第1光信号の時間波形を示す図である。
【図6】第2光信号の時間波形を示す図である。
【図7】識別パラメータの間隔Δaに対する相関波形強度比の関係を示すグラフである。
【図8】OCDM伝送装置の概略的ブロック構成図である。
【符号の説明】
【0177】
10、150:符号器
12、16、18、24、26、66:光ファイバ
14、22:光サーキュレータ
20、184:復号器
30:シリコン基板
31:クラッド層
32:結合率可変光カプラ部
32-1〜32-14:結合率可変光カプラ
33、64:コア
34:位相変調部
34-1〜34-15:位相変調器
36:合波部
37、38-1、38-2:光導波路
40:第1方向性光結合器
42:第2方向性光結合器
44:第1位相シフター
46:第2位相シフター
48、50:入力ポート
52、54:出力ポート
56:光パルス発生装置
58:分波器
60:SSFBG
62:クラッド
68:合波器
69:光ファイバケーブル
70:光パルス時間拡散装置
72:光遅延部
74:光カプラ
76:第i光パルス時間拡散器
78:第1オシロスコープ
80:第2オシロスコープ
140:送信部
142:パルス光源
144、182:分岐器
146:変調電気信号発生部
148:変調器
160:送信部第1チャンネル
162:送信部第2チャンネル
164:送信部第3チャンネル
166:送信部第4チャンネル
170:合波器
172:光伝送路
180:受信部
190:受光器
200:受信部第1チャンネル
202:受信部第2チャンネル
204:受信部第3チャンネル
206:受信部第4チャンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれに入力される光パルスを、光位相符号に応じて時間軸上に時間拡散して順次配列したチップパルスの列として、それぞれ出力する第1、第2、....、及び第S光パルス時間拡散器(Sは2以上の自然数)を具えた光パルス時間拡散装置において、
第i光パルス時間拡散器(i=1, 2,...., S)は、隣接する前記チップパルス同士間に位相差を与える位相制御手段を具え、
該位相制御手段は、隣接する符号値が等しい場合には、該符号値に対応する隣接する前記チップパルス同士間の前記位相差を、
2πM+aiπ (1)
で与え、及び
隣接する符号値が異なる場合には、該符号値に対応する隣接する前記チップパルス同士間の前記位相差を、
2πM+(2N+1)π+aiπ (2)
で与えることを特徴とする光パルス時間拡散装置。
ただし、M及びNは整数であり、識別パラメータaiは0≦ai<2を満たす任意の相異なるS個の実数である。
【請求項2】
それぞれに入力される光パルスを、光位相符号に応じて時間軸上に時間拡散して順次配列したチップパルスの列として、それぞれ出力する第1、第2、....、及び第S光パルス時間拡散器(Sは2以上の自然数)を具えた光パルス時間拡散装置において、
第i光パルス時間拡散器(i=1, 2,...., S)は、隣接する前記チップパルス同士間に位相差を与える位相制御手段であって、
一列に配置されて光位相符号を構成する符号値と一対一に対応する単位回折格子が、光導波路の方向に沿って直列に配置され、
隣接しかつ等しい符号値に対応する2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を、
2πM+aiπ (1)
で与え、及び
隣接しかつ異なる符号値に対応する2つの単位回折格子からブラッグ反射光の位相差を、
2πM+(2N+1)π+aiπ (2)
で与える当該位相制御手段を具えることを特徴とする光パルス時間拡散装置。
ただし、M及びNは整数であり、識別パラメータaiは0≦ai<2を満たす任意の相異なるS個の実数である。
【請求項3】
前記光導波路が、光ファイバであることを特徴とする請求項2に記載の光パルス時間拡散装置。
【請求項4】
光パルス信号を、光位相符号を用いて符号化して符号化光パルス信号として生成する符号化ステップと、
前記光位相符号と同一の符号を用いて、前記符号化光パルス信号を復号化して、前記光パルス信号の自己相関波形を生成する復号化ステップとを具え、
前記符号化ステップと前記復号化ステップとを、請求項1から3のいずれか1項に記載の光パルス時間拡散装置を利用して実行することを特徴とする光符号分割多重伝送方法。
【請求項5】
光パルス信号を、光位相符号を用いて符号化して符号化光パルス信号として生成する符号化装置と、
前記光位相符号と同一の符号を用いて、前記符号化光パルス信号を復号化して、前記光パルス信号の自己相関波形を生成する復号化装置とを具え、
前記符号化装置及び前記復号化装置が、請求項1から3のいずれか1項に記載の光パルス時間拡散装置であることを特徴とする光符号分割多重伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−319843(P2006−319843A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142368(P2005−142368)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】