説明

光ピックアップ装置

【課題】 合成樹脂製の対物レンズが組み込まれた光ピックアップ装置において発生する干渉縞による問題を解決する。
【解決手段】 レーザー光が入射されるとともに0次光であるメインビームと+1次光及び−1次光であるサブビームを生成させる回折格子2と、前記メインビーム及びサブビームが入射されるとともに該メインビーム及びサブビームを光ディスクに設けられている信号トラックに集光させる合成樹脂製の対物レンズ9を備え、前記回折格子2を異なる位相のサブビームを生成するべくディスクの径方向へ分割することによって対物レンズの入射面に生成される干渉縞による転写を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに記録されている信号の読み出し動作や光ディスクに信号の記録動作をレーザー光によって行う光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ装置から照射されるレーザー光を光ディスクの信号記録層に照射することによって信号の読み出し動作や信号の記録動作を行うことが出来る光ディスク装置が普及している。
【0003】
信号記録層に記録されている信号の光ピックアップ装置による読み出し動作は、レーザーダイオードから放射されるレーザー光を信号記録層に照射させ、該信号記録層から反射されるレーザー光の変化を光検出器によって検出することによって行われている。
【0004】
レーザー光によって信号記録層に記録されている信号を読み出すためには、レーザー光を信号記録層に集光させるフォーカシング制御動作及び信号記録層に渦巻き状に設けられている信号トラックにレーザー光を追従させるトラッキング制御動作を正確に行う必要がある。
【0005】
斯かるフォーカシング制御動作を行う方法としては、種々あるが非点収差の発生を利用した非点収差法が一般的に行われている。また、トラッキング制御方法としても種々あるが、メインビームと2つのサブビームを使用する3ビーム法が一般的に行われている。
【0006】
光ディスク装置としては、CDやDVDと呼ばれる光ディスクを使用するものが一般に普及しているが、最近では記録密度を向上させた光ディスク、即ちBlu−ray規格の光ディスクを使用するものが開発されている。
【0007】
CD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が780nmである赤外光が使用され、DVD規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が650nmの赤色光が使用されている。
【0008】
斯かるCD規格及びDVD規格の光ディスクに対して、Blu−ray規格の光ディスクに記録されている信号の読み出し動作を行うレーザー光としては、波長が短いレーザー光、例えば波長が405nmの青紫色光が使用されている。
【0009】
Blu−ray規格の光ディスクに設けられている信号記録層に記録されている信号の再生動作や該信号記録層に信号を記録するためにレーザー光を集光させることによって生成されるレーザースポットの径を小さくする必要がある。所望のレーザースポット形状を得るために使用される対物レンズは、開口数が高くなるだけでなく焦点距離が短くなるので、対物レンズの曲率半径が小さくなる。
【0010】
光ピックアップ装置には、前述した各規格に対応した波長のレーザー光を放射するレーザーダイオードや該レーザーダイオードから放射されるレーザー光を各光ディスクに設けられている信号記録層に集光させる対物レンズが組み込まれている。斯かる対物レンズの材料としては、硝子が使用されるが、安価にて製造するために最近では合成樹脂が使用されることが多い(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−338684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
対物レンズを合成樹脂にて製造することによって光ピックアップ装置の価格を下げることは出来るものの合成樹脂には使用するレーザー光の波長によって特性が変化するという特性がある。例えば、DVD規格に対応したレーザー光、即ち波長が650nmの赤色であるレーザー光を集光させるための対物レンズに使用される合成樹脂材料を使用してBlu−ray規格に対応したレーザー光、即ち波長が405nmの青紫色のレーザー光を集光させるための対物レンズを製造した場合には、青紫色のレーザー光によって対物レンズの透過率が低下するという特性がある。
【0013】
時間経過に伴って対物レンズの透過率が低下すると光ディスクの盤面上の強度が小さくなり、光ディスクに記録されている信号の再生動作や信号の記録動作を正常に行うことが出来ないことになる。斯かる問題を解決するために対物レンズの材料として青紫色のレーザー光による影響を受けることがない合成樹脂材料を使用しているが、斯かる合成樹脂材料はDVD用の対物レンズに使用される材料と比較して高価であり、光ピックアップ装置の価格を下げることが出来ないという問題がある。
【0014】
図5は回折格子によってメインビームと2つのサブビームに分離されたレーザー光と対物レンズの開口部との関係を示すものであり、同図において、Aは対物レンズの開口部、実線で示すMはメインビーム、一点鎖線で示すS1は先行サブビーム、そして破線で示すS2は後行サブビームである。
【0015】
同図より明らかなようにメインビームM、先行サブビームS1及び後行サブビームS2とは、対物レンズの入射面において互いに重なっているので干渉することになり、その干渉によって干渉縞が発生することになる。
【0016】
図6はメインビームM、先行サブビームS1及び後行サブビームS2の干渉によって生成される干渉縞と対物レンズの開口部Aとの関係を示すものである。斯かる干渉縞Kは図示したようにディスクの径方向に平行になるように発生する。そして、対物レンズはトラッキング制御動作に伴ってディスクの径方向に変位せしめられるので、前記干渉縞Kの方向と同一の方向に変位することになる。
【0017】
その結果、対物レンズがトラッキング制御動作に伴って径方向へ変位しても対物レンズの入射面側に発生する干渉縞Kに対する位置は変化することはない。即ち、対物レンズの入射面に対する干渉縞の位置は同一になるため、該入射面に照射されるレーザー光の強度が干渉縞Kに対応して相違することになる。
【0018】
対物レンズのコストを下げるために安価な合成樹脂材料にて対物レンズを製造すると入射面に対するレーザー光の強度が干渉縞Kの影響によって相違することになり、光ピックアップ装置の特性が経年変化により悪化するという問題がある。
【0019】
本発明は、斯かる問題を解決することが出来る光ピックアップ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、レーザーダイオードから放射されるレーザー光が入射されるとともに0次光であるメインビームと+1次光及び−1次光であるサブビームを生成させる回折格子と、前記メインビーム及びサブビームが入射されるとともに該メインビーム及びサブビームを光ディスクに設けられている信号トラックに集光させる合成樹脂製の対物レンズを備え、前記回折格子を異なる位相のサブビームを生成するべくディスクの径方向へ分割することによって対物レンズの入射面に生成される干渉縞による転写を防止するようにしたことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明は、サブビーム間の位相差が180度になるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光ピックアップ装置は、回折格子によって生成される2つのサブビーム間に位相差を設け、対物レンズの入射面に発生する干渉縞を径方向において分割するようにしたので、対物レンズの径方向への変位に伴って干渉縞の対物レンズに対する位置が変化するので、干渉縞による対物レンズの透過率に対する影響を極力避けることが出来る。従って、本発明によれば対物レンズの材料として安価な合成樹脂材料を使用することが出来るので、光ピックアップ装置の価格を下げることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る光ピックアップ装置の概略図である。
【図2】本発明に係る光ピックアップ装置を説明するための図である。
【図3】本発明に係る回折格子の一実施例を示す平面図である。
【図4】本発明に係る干渉縞と対物レンズとの関係を説明するための図である。
【図5】対物レンズとレーザー光との関係を説明するための図である。
【図6】従来の干渉縞と対物レンズとの関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
光ディスクに設けられている信号記録層にレーザー光を集光させるべく設けられている合成樹脂製対物レンズの透過率の変化、即ち干渉縞による透過率に対する影響を抑えることが出来る光ピックアップ装置を提供する。
【実施例1】
【0025】
図1はBlu−ray規格にて規定されている光ディスクDに設けられている信号記録層に記録されている信号を読み出すように構成された光ピックアップ装置の光学構成図であり、同図を参照にして光ピックアップ装置について説明する。
【0026】
図1において、1は例えば波長が405nmの青紫色光であるレーザー光を放射するレーザーダイオード、2は前記レーザーダイオード1から放射されるレーザー光が入射される回折格子であり、レーザー光を0次光であるメインビーム、+1次光及び−1次光である2つのサブビームに分離する回折格子部2aと入射されるレーザー光をS方向の直線偏光光に変換する1/2波長板2bとより構成されている。
【0027】
3は前記回折格子2を透過したレーザー光が入射される偏光ビームスプリッタであり、S偏光光に変換されたレーザー光の多くを反射し、P方向に偏光されたレーザー光を透過させる制御膜3aが設けられている。4は前記レーザーダイオード1から放射されたレーザー光の中の前記偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aを透過したレーザー光が照射される位置に設けられているモニター用光検出器であり、その検出出力は前記レーザーダイオード1から放射されるレーザー光の出力を制御するために使用される。
【0028】
5は前記偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aにて反射されたレーザー光が入射される位置に設けられている1/4波長板であり、入射されるレーザー光を直線偏光光から円偏光光に、また反対に円偏光光から直線偏光光に変換する作用を成すものである。6は前記1/4波長板5を透過したレーザー光が入射されるとともに入射されるレーザー光を平行光に変換するコリメートレンズであり、収差補正用モーター7によって光軸方向へ変位せしめられるように構成されている。前記コリメートレンズ6の光軸方向への変位動作によって光ディスクDの信号記録層とディスク面との間に設けられている保護層の厚さに基づいて生じる球面収差を補正することが出来るように構成されている。
【0029】
8は前記コリメートレンズ6を透過したレーザー光が入射される位置に設けられている立ち上げミラーであり、入射されるレーザー光の出射方向を90度変更し、該レーザー光を光ディスクDの信号記録層に集光させるべく設けられている対物レンズ9方向に反射させる作用を成すものである。
【0030】
斯かる構成において、前記レーザーダイオード1から放射されたレーザー光は、回折格子2、偏光ビームスプリッタ3、1/4波長板5、コリメートレンズ6及び立ち上げミラー8を介して対物レンズ9に入射された後、該対物レンズ9の集光動作によって光ディスクDの信号記録層にレーザースポットとして照射されるが、該信号記録層に照射されたレーザー光は戻り光として対物レンズ9側へ反射されることになる。
【0031】
光ディスクDの信号記録層から反射された戻り光は、対物レンズ9、立ち上げミラー8、コリメートレンズ6及び1/4波長板5を通して偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aに入射される。このようにして偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aに入射される戻り光は、前記1/4波長板5による位相変更動作によってP方向の直線偏光光に変更されている。従って、斯かる戻り光は前記制御膜3aにて反射されることはなく、制御用レーザー光として該制御膜3aを透過することになる。
【0032】
10は前記偏光ビームスプリッタ3の制御膜3aを透過した制御用レーザー光が入射されるセンサーレンズであり、PDICと呼ばれる光検出器11に設けられている受光部に制御用レーザー光に非点収差を付加させて照射する作用を成すものである。前記光検出器11には、後述する4分割センサー等が設けられており、メインビームの照射動作によって光ディスクDの信号記録層に記録されている信号の読み出し動作に伴う信号生成動作及び非点収差法によるフォーカス制御動作を行うためのフォーカスエラー信号の生成動作、そして2つのサブビームの照射動作によってトラッキング制御動作を行うためのトラッキングエラー信号の生成動作を行うように構成されている。
【0033】
前述したように構成された本発明の光ピックアップ装置において、トラッキング制御動作はインライン型DPP方式にて行われるように構成されている。斯かる方式によるトラッキング制御動作は回折格子2にて分離生成されるメインビームM、先行サブビームS1及び後行サブビームS2が対物レンズ9の集光動作によって光ディスクDに設けられている信号記録層にスポットMM、SS1及びSS2として生成されるが、斯かるスポットは図2に示すように同一の信号トラック上に配置される。
【0034】
図3は本発明に係る回折格子部2aを示すものであり、ディスクの径方向へ2分割されており、分割された領域の位相差が180度になるように形成されている。斯かる構成の回折格子部2aにて分離生成されるメインビームM、先行サブビームS1及び後行サブビームS2は、対物レンズ9の集光動作によって図2に示すように各スポットMM、SS1及びSS2が同一トラック上に配置されるように生成される。
【0035】
同一の信号トラック上に生成されるスポットSS1及びスポットSS2は、各々ディスクの径方向に分割された2つのスポットS1a及びS1b、そしてS2a及びS2bにて構成されている。斯かるスポットSS1を構成するスポットS1aの位相とS1bの位相との間の位相差は180度であり、スポットSS2を構成するスポットS2aの位相とS2bの位相との間の位相差は180度である。斯かる位相差を利用することによってインライン型DPP方式によるトラッキングエラー信号の生成動作は行われるが、斯かる動作は周知であり、その説明は省略する。
【0036】
以上に説明したように本発明に係る光ピックアップ装置に組み込まれる回折格子2は構成されているが、次に対物レンズ9の開口部Aと該対物レンズ9の入射面に発生する干渉縞との関係について図4を参照にして説明する。
【0037】
図4に示すように本発明の回折格子2にて分離生成されるメインビームM、先行サブビームS1及び後行サブビームS2の干渉によって発生する干渉縞は、図示したように径方向に分離した2つの干渉縞K1及びK2のように現れる。これらの干渉縞K1及びK2の位相は180度相違しているので、図示したようにディスクの接線方向に互いにずれて生成されることになる。
【0038】
斯かる干渉縞K1及びK2が対物レンズ9の入射面に発生するが、対物レンズ9はトラッキング制御動作に伴ってディスクの径方向に変位するので、その開口部Aは図4の破線で示すようにディスクの径方向へ変位することになる。
【0039】
対物レンズ9の径方向への変位動作に伴ってその開口部Aが図4に示すように径方向へ変位すると、干渉縞K1及びK2の位置が接線方向に対して互いにずれているので、開口部Aに対する干渉縞の位置が変化することになる。従って、対物レンズ9の入射面に照射されるレーザー光の強度が入射面上で変化するので干渉縞の位置に対応して対物レンズ9の透過率が変化するという転写を抑えることが出来る。
【0040】
従って、本発明によれば、対物レンズ9を安価な合成樹脂材料にて製造してもレーザー光による透過率の部分劣化を抑えることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本実施例ではサブビームを分離生成する回折格子の径方向に分割された領域の位相差を180度にしたが、干渉縞による影響を抑えることが出来る位相差であれば良いので、その値は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 レーザーダイオード
2 回折格子
3 偏光ビームスプリッタ
6 コリメートレンズ
9 対物レンズ
11 光検出器
D 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーダイオードから放射されるレーザー光が入射されるとともに0次光であるメインビームと+1次光及び−1次光であるサブビームを生成させる回折格子と、前記メインビーム及びサブビームが入射されるとともに該メインビーム及びサブビームを光ディスクに設けられている信号トラックに集光させる合成樹脂製の対物レンズを備えた光ピックアップ装置であり、前記回折格子を異なる位相のサブビームを生成するべくディスクの径方向へ分割することによって対物レンズの入射面に生成される干渉縞による転写を防止するようにしたことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
サブビーム間の位相差が180度になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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