説明

光ピックアップ

【課題】球面収差及びコマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供する。
【解決手段】光ピックアップ1は、光源11と、光源11から出射された光を光記録媒体の情報記録層に集光する対物レンズ17と、光源11と対物レンズ17との間の光路に配置され、球面収差の補正を行えるように位置を移動可能に設けられる可動レンズ15と、可動レンズ15を所定方向に平行移動するレンズ移動手段4と、を備える。前記所定方向は、可動レンズ15に入射する入射光の光軸に対して傾いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体に記録される情報を読み取ったり、光記録媒体に情報を書き込んだりするために使用される光ピックアップに関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク(光記録媒体の一例)の中には、記録容量を増大させる目的で、光ディスクの厚み方向に複数の情報記録層を設けたもの(多層光ディスク)がある。例えば、ブルーレイディスク(以下、BDと記載する)では、その規格によって情報記録層を2つ設けるのが標準となっている。
【0003】
多層光ディスクにおいては、情報記録層ごとに、情報記録層を保護するために設けられる透明カバー層(ここでは、2つの情報記録層の間に設けられる中間層についても透明カバー層として表現している)の厚みが異なったものとなる。このため、光ピックアップを用いて多層光ディスクに記録される情報の読み取りや書き込み(以下では、読み取り等と表現する場合がある)を行う場合に、読み取り等を行う対象の情報記録層が或る情報記録層から他の情報記録層へと移る(以下では、層間ジャンプと表現する)と、球面収差の影響が問題となることがある。特に、BD対応の光ピックアップでは高NA(開口数)の対物レンズが用いられるために、層間ジャンプによる球面収差の影響を受け易い。
【0004】
このため、従来、球面収差の補正を行えるように構成された光ピックアップが開発されている。球面収差補正を行うための構成例として、例えば、光ピックアップの光学系中に備えられるコリメートレンズを光軸に沿って移動可能とし、これにより、対物レンズに入射する光の収束発散状態を調整して球面収差の補正を行うものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−103087号公報
【特許文献2】特開2008−186537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光ピックアップに備えられる対物レンズは、製造誤差によりレンズそのものがコマ収差を有する場合がある。このため、光ピックアップにおいては、対物レンズがコマ収差を有する場合、コマ収差が補正されるように対物レンズの光軸を、対物レンズに入射する入射光の光軸に対して傾けた状態で配置することがある。しかし、このように対物レンズが傾けられた状態で設置された光ピックアップにおいて、球面収差の補正を行うべくコリメートレンズを動かすと、コマ収差の影響を受けて情報の読み取り等を適切に行えない場合がある。
【0007】
この点、光ピックアップに対物レンズを傾けるチルト機構を設けて、コリメートレンズの位置の移動によって生じるコマ収差の影響を抑制することが考えられる。しかしながら、この構成の場合、チルト機構を設ける必要があるために部品点数の増加等の問題がある。また、チルト機構を用いてコマ収差の補正を行う構成では、光ピックアップの製造後に、コリメートレンズ位置に対応して、どれだけ対物レンズを傾ける必要があるかを学習させる必要があり、手間である。
【0008】
以上の点を鑑みて、本発明の目的は、球面収差及びコマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の光ピックアップは、光源と、前記光源から出射された光を光記録媒体の情報記録層に集光する対物レンズと、前記光源と前記対物レンズとの間の光路に配置され、球面収差の補正を行えるように位置を移動可能に設けられる可動レンズと、前記可動レンズを所定方向に平行移動するレンズ移動手段と、を備える光ピックアップであって、前記所定方向は、前記可動レンズに入射する入射光の光軸に対して傾いていることを特徴している。
【0010】
本構成によれば、可動レンズを平行移動する方向(所定方向)が、可動レンズに入射する光軸に対して傾いているために、可動レンズの移動によって対物レンズに入射する入射光の光軸が変化する。このため、可動レンズの位置の移動によって球面収差を補正しつつ、コマ収差についても同時に補正することが可能である。
【0011】
上記構成の光ピックアップの具体的な構成として、前記対物レンズに略平行光が入射するように前記可動レンズが所定位置に配置された場合における、前記光源から前記対物レンズへと至る光の光軸を基準光軸とした場合に、前記対物レンズの光軸及び前記所定方向が前記基準光軸に対して傾いていることとしても良い。また、この構成の更に具体的な構成として、前記対物レンズは、前記所定位置に前記可動レンズが配置された場合に、前記対物レンズが有するコマ収差を打ち消すように傾斜され、前記所定方向は、前記可動レンズを前記所定位置から前記基準光軸に沿って平行移動した場合に発生するコマ収差を打ち消す方向であることとしてよい。
【0012】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記可動レンズがコリメートレンズであることとしてもよい。本構成によれば、単純な光学構成で球面収差の補正を行えるとともに、コマ収差の発生も抑制できる。
【0013】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記対物レンズは、前記対物レンズが有するコマ収差がラジアル方向に発生するように配置されていることとしてもよい。
【0014】
上記構成の光ピックアップにおいて、前記光記録媒体にはブルーレイディスクが含まれることしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、球面収差及びコマ収差を適切に抑制できる光ピックアップを提供できる。このため、本発明の光ピックアップを使用すれば、例えば層間ジャンプ時等に情報の記録再生品質が収差によって劣化するのを抑制でき、安定した記録再生品質を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略図
【図2】本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す図
【図3】図2に示す光ピックアップの光学構成の一部を側面から見た場合の図
【図4】本実施形態の光ピックアップにおけるコリメートレンズの移動方向が基準光軸に対して傾いている理由を説明するための図
【図5】本実施形態の光ピックアップにおけるコリメートレンズの移動方向が基準光軸に対して傾いている理由を説明するための図
【図6】本実施形態の光ピックアップにおける、コリメートレンズの移動に伴う光軸の変化を示す図
【図7】球面収差補正を行うためにコリメートレンズを平行移動した場合に発生するコマ収差についてのシミュレーション結果を示すグラフ
【図8】本実施形態の光ピックアップが備えるレンズ駆動ユニットの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光ピックアップの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、ここでは、本発明がBDに対して情報の読み取りや書き込みを行える光ピックアップに適用された場合を一例として採り上げている。
【0018】
図1は、本実施形態の光ピックアップの構成を示す概略図で、図1(a)は概略平面図、図1(b)は概略側面図である。図1に示すように、本実施形態の光ピックアップ1は、ピックアップベース2と、ピックアップベース2上に搭載される対物レンズアクチュエータ3と、を備える。
【0019】
ピックアップベース2の左右には軸受け部2a、2bが設けられる。この軸受け部2a、2bは、図示しないベース上に固定配置されてラジアル方向(光ディスク100の径方向)に延びる2本のガイドシャフト101と係合する。そして、これにより光ピックアップ1はラジアル方向に摺動可能となっている。なお、光ピックアップ1のラジアル方向への移動は、図示しない公知の移動機構によって行われる。公知の移動機構の一例として、ピックアップベース2に取り付けられたラックと、ピックアップベースとは別のベース(図示せず)に取り付けられたモータによって回転されるピニオンと、を用いる構成等が挙げられる。
【0020】
図2は、本実施形態の光ピックアップの光学構成を示す図である。なお、図2は、光ディスク100側からフォーカス方向(情報記録層L0、L1に対して垂直な方向;図1(b)参照)に沿って見た場合の概略平面図である。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の光ピックアップ1には、光源11と、回折素子12と、偏光ビームスプリッタ13と、1/4波長板14と、コリメートレンズ15と、立上げミラー16と、対物レンズ17と、センサレンズ18と、受光素子19と、が備えられる。これらの部材のうち、対物レンズ17以外の部材はピックアップベース2上に搭載される。対物レンズ17は、対物レンズアクチュエータ3(図1参照)に搭載される。
【0022】
光源11はBD用のレーザ光(例えば波長405nm帯のレーザ光)を出射する半導体レーザである。なお、光源11からは直線偏光が出射されるようになっている。光源11から出射されたレーザ光は回折素子12に送られる。
【0023】
回折素子12は、光源11から送られてきたレーザ光を主光と2つの副光とに分ける。このように主光と副光とに分けるのは、トラック制御を行うために必要なトラックエラー信号を得られるようにするためである。本実施形態の光ピックアップ1においては、公知の手法であるDPP(Differential Push-Pull)法を用いてトラックエラー信号が得られるように形成されている。回折素子12から出射したレーザ光は偏光ビームスプリッタ13に送られる。
【0024】
偏光ビームスプリッタ13は、光源11から出射される直線偏光と同じ偏光方向の直線偏光を反射し、光源11から出射される直線偏光に対して偏光方向が90度回転された直線偏光を透過するように形成されている。このため、回折素子12から偏光ビームスプリッタ13に送られたレーザ光は、偏光ビームスプリッタ13で反射されることになる。偏光ビームスプリッタ13で反射されたレーザ光は、1/4波長板14に送られる。
【0025】
1/4波長板14は、入射する直線偏光を円偏光に変換するとともに、入射する円偏光を直線偏光に変換する機能を有する。偏光ビームスプリッタ13から送られて1/4波長板14を通過するレーザ光は、直線偏光から円偏光へと変換されてコリメートレンズ15に送られる。
【0026】
コリメートレンズ15は、レンズ駆動ユニット4に搭載されて平面視、立上げミラー16に接離する方向(図2に示す矢印方向MD)に移動可能となっている。なお、詳細は後述するが、図2に示す光ピックアップ1をタンジェンシャル方向(ラジアル方向に対して垂直な方向)に沿って見た場合には、コリメートレンズ15の移動方向は、コリメートレンズ15に入射する入射光の光軸に対して傾いた状態となるように調整されている。
【0027】
コリメートレンズ15を上述のように移動可能とするのは、コリメートレンズ15から出射されるレーザ光の状態を平行光としたり、収束光としたりできるようにするためである。そして、このように光の状態を変更可能とするのは、光ピックアップ1によって情報の読み取り等を行う対象の情報記録層を、L0からL1、或いは、L1からL0へと移動(層間ジャンプ)する場合に発生する球面収差の補正を行えるようにするためである。コリメートレンズ15から出射されたレーザ光は立上げミラー16へと送られる。
【0028】
なお、上述のL0は、情報記録層を2つ有する光ディスク100の表面100a側から見て奥側にある情報記録層を指し、L1は、光ディスク100の表面100a側から見て手前側にある情報記録層を指している(図1(b)参照)。また、光ピックアップ1においては、情報の読み取り等の対象となる情報記録層がL0の場合には、対物レンズ17に入射するレーザ光が略平行となる位置(所定位置)にコリメートレンズ15は配置される。そして、情報の読み取り等の対象となる情報記録層がL1の場合には、コリメートレンズ15は上述の所定位置から立上げミラー16に接近する方向に移動されて、対物レンズ17には収束光が入射するようになっている。
【0029】
立上げミラー16は、略直方体状の部材で形成され、金属薄膜等で覆われて入射するレーザ光を全て反射する反射面16aを有する。この立上げミラー16によってコリメートレンズ15から立上げミラー16へと送られたレーザ光は、その進行方向を変換されて対物レンズ17へと送られる。
【0030】
対物レンズ17は、BD用に設計された対物レンズであり、立上げミラー16から送られて来たレーザ光を光ディスク100の情報記録層(L0或いはL1)に集光する。対物レンズ17によって情報記録層(L0或いはL1)に集光されたレーザ光は、情報記録層(L0或いはL1)で反射される。
【0031】
なお、対物レンズ17は上述のように対物レンズアクチュエータ3に搭載され、フォーカス方向やトラック方向(ラジアル方向と平行な方向)に移動可能となっている。対物レンズ17をフォーカス方向に移動可能とするのは、対物レンズ17の焦点位置が常に読み取り等の対象となる情報記録層に合うように制御する(フォーカス制御する)ためである。また、対物レンズ17をトラック方向に移動可能とするのは、対物レンズ17によって集光された光スポットが、光ディスク100のトラックに常に追随するように制御する(トラック制御する)ためである。
【0032】
対物レンズアクチュエータ3の構成は特に限定されるものではないが、本実施形態の光ピックアップ1では、対物レンズ17を保持するレンズホルダをワイヤ(棒状弾性部材)によって揺動可能に懸架し、電磁力を利用してレンズホルダと共に対物レンズ17をフォーカス方向及びトラック方向へと移動できる構成となっている。このようなタイプの対物レンズアクチュエータの構成は公知であるので、ここでは、その詳細な構成については説明を省略する。
【0033】
情報記録層(L0或いはL1)で反射された戻り光は、対物レンズ17を透過し、立上げミラー16で反射される。そして、コリメートレンズ15を通過後、1/4波長板14で円偏光から直線偏光に変換される。この直線偏光の偏光方向は、光源11から出射された直線偏光の偏光方向を90度回転した方向である。このため、1/4波長板14を通過した戻り光は、偏光ビームスプリッタ13を透過する。すなわち、偏光ビームスプリッタ13と1/4波長板14とは、協働して光アイソレータとして機能する。
【0034】
偏光ビームスプリッタ13を透過した戻り光は、センサレンズ18で所定の非点収差を与えられて受光素子19の受光面に集光する。受光素子19は、受光した光信号を電気信号へと変換して出力し、出力された電気信号は処理されて、再生信号やサーボ信号(フォーカスエラー信号やトラックエラー信号等)等となる。
【0035】
なお、センサレンズ18は、非点収差を付与する手段であればよく、例えばシリンドリカルレンズやホログラム素子等が用いられる。また、センサレンズ18で所定の非点収差を与えるのは、非点収差方式のフォーカスエラー信号が得られるようにするためである。
【0036】
本実施形態の光ピックアップ1の概略構成は以上のようであるが、次に、光ピックアップ1の特徴的な構成について詳細に説明する。
【0037】
図3は、図2に示す光ピックアップの光学構成の一部を側面から見た場合の図である。なお、図3は、図2に示す光ピックアップをラジアル方向に対して垂直なタンジャンシャル方向(図2参照)に沿って見た場合の図である。また、図3における基準光軸は、光源11から出射されて対物レンズ17に入射する入射光が略平行光となるようにコリメートレンズ15が配置されている場合の光軸を指している。本実施形態では、この基準光軸は情報記録層L0の読み取り等を行う場合の光軸に一致する。また、この基準光軸は、コリメートレンズ14の位置ではラジアル方向と平行となり、立上げミラー16の反射面16aで反射された後はフォーカス方向と平行となっている。
【0038】
対物レンズ17は通常、製造誤差によってレンズそのものがコマ収差(以下では、このコマ収差のことを内在コマ収差と表現する)を有する。このため、この内在コマ収差の影響を受けないようにする必要がある。そこで、本実施形態の光ピックアップ1では、対物レンズ17に略平行光が入射される状態(情報記録層L0の情報の読み取り等を行う状態)において、対物レンズ17から出射される光のコマ収差(内在コマ収差に基づく)が極力小さくなるように、基準光軸に対する対物レンズ17の光軸OLAの傾きが決定されている。
【0039】
なお、本実施形態においては、対物レンズ17は、その設計が容易等の理由から、内在コマ収差がラジアル方向の一方側(図3における左右の一方側のこと)に発生するように対物レンズアクチュエータ3のレンズホルダに搭載されるようになっている。そして、対物レンズ17は、内在コマ収差が打ち消されるように、ラジアル方向及びフォーカス方向とに直交する軸周り方向(本実施形態では反時計回り方向)に所定量回転され、対物レンズ17の光軸OLAが基準光軸に対して傾斜した状態(傾斜角α)となっている(図3参照)。
【0040】
ところで、対物レンズ17が有する内在コマ収差は勿論ゼロの場合もある。そして、このような場合には、内在コマ収差を補正する目的で対物レンズ17を傾斜させる必要がないが、本実施形態では対物レンズ17の内在コマ収差がゼロの場合は除外している。
【0041】
本実施形態の光ピックアップ1においては、情報記録層L0の情報の読み取り等を行う際に、球面収差が最小となるように光学設計されている。情報記録層L0からL1へと層間ジャンプが行われる場合、球面収差を補正すべくコリメートレンズ15が移動される。しかしながら、対物レンズ17が上述のように傾いた状態で、層間ジャンプに伴って発生する球面収差を補正するためにコリメートレンズ15を基準光軸に沿って図4(a)に示す状態から図4(b)に示す状態へと移動すると、コマ収差が発生する。そして、このコマ収差が情報の読み取りや書き込み品質に悪影響を及ぼす場合がある。このため、図3に示すように、コリメートレンズ15の移動方向は、基準光軸に対して傾いた状態となっている(フォーカス方向に傾斜角β傾いている)。移動にあたってコリメートレンズ15は、所定の移動方向に沿って平行移動する構成となっており、コリメートレンズ15の光軸CLAは基準光軸に対して平行なまま移動する。
【0042】
なお、図4は、本実施形態の光ピックアップにおけるコリメートレンズの移動方向が基準光軸に対して傾いている理由を説明するための図である。図4(a)は情報記録層L0に対して情報の読み取り等を行う場合の状態を示しており、この状態は本実施形態の光ピックアップ1でも同じ状態である。図4(b)は情報記録層L1に対して情報の読み取り等を行う場合の状態を示しているが、この状態は、本実施形態の構成と異なり、コリメートレンズ15が基準光軸に沿って反射面16a側に向かって所定量だけ平行移動された状態を示している。図4(b)の状態では対物レンズ17には収束光が入射するようになるため、対物レンズ17が本実施形態の光ピックアップ1のように傾斜していると大きなコマ収差が発生しやすい。
【0043】
ところで、図5に示すように、対物レンズ17を傾ける代わりに、対物レンズ17の光軸OLAに対して対物レンズ17に入射する収束光の光軸を傾けた場合(図5(b))にも、図4(b)の場合と同様にコマ収差が発生する。なお、図5(a)は対物レンズ17の光軸と入射光の光軸とが一致した状態で、対物レンズ17に平行光が入射する状態を示している。また、図5(b)は対物レンズ17の光軸に対して入射光の光軸が傾斜した状態で、対物レンズ17に収束光が入射する状態を示している。
【0044】
図6は、本実施形態の光ピックアップにおける、コリメートレンズの移動に伴う光軸の変化を示す図である。上述のように光ピックアップ1においては、コリメートレンズ15の平行移動方向は基準光軸に対して傾いている。このため、情報記録層L0からL1への層間ジャンプに伴ってコリメートレンズ15を移動した場合、光軸の方向が変化する。このように光軸の方向が変化すると、上述のようにコマ収差が発生する。
【0045】
ここで、以上に説明した、コリメートレンズ移動に伴って発生するコマ収差について、シミュレーション結果を示しておく。図7は、球面収差補正を行うためにコリメートレンズを平行移動した場合に発生するコマ収差についてのシミュレーション結果を示すグラフである。図7において、横軸は球面収差量で、縦軸はコマ収差量である。図7に結果が示されるシミュレーションを行うにあたって、情報記録層L0の情報の読み取りを行う際に対物レンズ17に略平行光が入射し、この際に球面収差の発生量がゼロとなるようにしている。
【0046】
まず、図7に示されるシミュレーション結果Aについて説明する。このシミュレーションでは、情報記録層L0の情報の読み取りを行う際にコマ収差(対物レンズ17の内在コマ収差によるもの)がゼロとなるように、対物レンズ17の光軸OLAが情報記録層L0を読み取る際の光学系の光軸(すなわち、基準光軸)に対して傾斜されている。なお、この際の傾斜はラジアル方向に15分(図3における角度αが15分)としている。また、球面収差の補正を行うためにコリメートレンズ15を動かす方向は、基準光軸に沿った方向としている。このようなコリメートレンズ15の移動は、上述の図4(a)の状態から図4(b)の状態へと変化させた状況と同様である。シミュレーション結果Aより、情報記録層L0からL1へと層間ジャンプに伴って球面収差を補正すべくコリメートレンズを移動させることによって、上述のようにコマ収差が発生することがわかる。
【0047】
次に、図7に示されるシミュレーション結果Bについて説明する。このシミュレーションでは、対物レンズ17の光軸OLAは基準光軸と一致している。また、球面収差の補正を行うためにコリメートレンズ15を平行移動する方向は、基準光軸に対して傾いている。なお、基準光軸に対する傾斜はフォーカス方向に10分(図3における角度βが10分)としている。シミュレーション結果Bより、コリメートレンズ15を平行移動する方向を基準光軸に対して傾けることにより、コリメートレンズ15位置の移動に伴いコマ収差が発生することがわかる。
【0048】
図7において、シミュレーション結果Cは、シミュレーション結果AとBを合算した結果であり、この場合、球面収差量が変化してもコマ収差がほとんど発生しない結果となっている。このことから、球面収差を補正すべくコリメートレンズ15を移動するにあたって、基準光軸に沿ってコリメートレンズ15を移動した場合に発生するコマ収差を打ち消す方向に、コリメートレンズ15を基準光軸に対して傾けて平行移動すれば、層間ジャンプを行った場合においても、球面収差及びコマ収差を適切に抑制できることがわかる。
【0049】
この点を考慮して、本実施形態の光ピックアップ1では対物レンズ17はラジアル方向に角度α(図3参照)だけ傾斜させると同時に、コリメートレンズ15を平行移動させる方向を、基準光軸に対してフォーカス方向に角度β(図3参照)だけ傾斜させている。
【0050】
なお、コリメートレンズ15の平行移動方向を基準光軸に対して傾ける量(角度β)については、対物レンズ17から出射されるレーザ光に含まれるコマ収差が最小となるように、光ピックアップ1の組み立て時に、傾斜配置される対物レンズ17から出射される光のコマ収差量を測定しながら決定するのが好ましい。このようにすれば、対物レンズ17から出射される光のコマ収差を適切に抑制できる。
【0051】
また、コリメートレンズ15の平行移動方向を基準光軸に対して傾ける量を大きくしすぎると、これに伴って影響を無視できないレベルで非点収差が発生する。このため、コリメートレンズ15の平行移動方向を基準光軸に対して傾ける量は、非点収差の影響を受けないレベルに留めるのが好ましい。
【0052】
ここで、本実施形態の光ピックアップ1が備えるレンズ駆動ユニット(レンズ移動手段)4の構成について説明しておく。なお、ここで示すレンズ駆動ユニット4の構成は一例であり、コリメートレンズ15を基準光軸に対して所定方向に傾けて平行移動できる構成であれば他の構成でも勿論構わない。
【0053】
図8は、本実施形態の光ピックアップが備えるレンズ駆動ユニットの構成を示す図で、図8(a)はフォーカス方向に沿って見た概略平面図、図8(b)はタンジェンシャル方向に沿って見た概略平面図である。図8に示すように、レンズ駆動ユニット4は、ユニットベース41と、可動ホルダ42と、ガイドシャフト43と、与圧バネ44と、ステッピングモータ45と、リードスクリュ46と、リードナット47と、を備える。
【0054】
可動ホルダ42にはコリメートレンズ15を保持する保持部(図示せず)が設けられる。また、可動ホルダ42は、互いに平行配置される2本のガイドシャフト43に沿って摺動可能となっている。2本のガイドシャフト43は、支持部48に支持された状態でユニットベース41に固定配置され、ユニットベース41のベース面41aに対して略平行となっている。2本のガイドシャフト43の一方にはコイル状の与圧バネ44が遊嵌している。与圧バネ44は、図8(a)においてレンズホルダ42を右側に付勢している。
【0055】
ステッピングモータ45はユニットベース41に固定配置され、出力軸にリードスクリュ46が取り付けられている。これにより、リードスクリュ46はステッピングモータ45の駆動によって回転する。なお、リードスクリュ46はガイドシャフト43と略平行になるように配置されている。リードナット47はリードスクリュ46と螺合しており、リードスクリュ46の回転によってラジアル方向と平行な方向に移動する。
【0056】
このように構成されるレンズ駆動ユニット4の動作について説明する。リードスクリュ46がステッピングモータ45の駆動によって回転されて、リードナット47がステッピングモータ45から離れる方向に移動すると、可動ホルダ42はリードナット47によって押される形でガイドシャフト43に沿ってステッピングモータ45から離れる方向に移動する。一方、リードナット47がステッピングモータ45に近づく方向に移動すると、可動ホルダ42は、与圧バネ44の付勢力によってガイドシャフト43に沿ってステッピングモータ45に近づく方向に移動する。
【0057】
なお、レンズ駆動ユニット4には図示しないフォトインタラプタが設けられており、このフォトインタラプタによって基準位置を検出できるようになっている。そして、この基準位置からのステッピングモータ45のステップ数に基づいてコリメートレンズ15の位置を所望の位置に調整できるようになっている。
【0058】
ところで、上述のように、本実施形態の光ピックアップ1においては、コリメートレンズ15の移動方向は、基準光軸に対して傾いた状態となるように構成している。このため、レンズ駆動ユニット4のユニットベース41は、図8(b)に示すように、ピックアップベース2のベース面2aに対して傾けられている。傾きの調整については、例えば調整ネジ49によって調整すればよく、傾き量は、例えば対物レンズ17から出射される出射光のコマ収差量を測定しながら最適値が選択される。
【0059】
なお、可動ホルダ42に保持されるコリメートレンズ15は、いずれの位置にある場合にも、その光軸CLAが基準光軸に対して平行となるように調整された状態で可動ホルダ42に保持されている。上述のように、光ピックアップ1においては情報記録層L0の読み取り等を行う場合の光軸が基準光軸であり、コリメートレンズ15が情報記録層L0の読み取り等を行う位置にある場合には、コリメートレンズ15の光軸CLAは基準光軸と一致する。
【0060】
本実施形態の光ピックアップ1は以上のように構成されるために、情報記録層L0からL1へ、或いはL1からL0へと層間ジャンプを行う場合でも、球面収差及びコマ収差の発生を適切に抑制できる。このため、本実施形態の光ピックアップ1では、BDに記録される情報の読み取り、及び、BDへの情報の書き込みの品質を安定した品質とできる。また、本実施形態の光ピックアップ1では、コマ収差を抑制するためのチルト機構を設けない構成とできるために、コスト面等でも有利である。
【0061】
なお、本発明が適用される範囲は、以上に示した実施形態の構成に限定されるものではない。すなわち、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、以上に示した実施形態では、コリメートレンズ15の位置が情報記録層L0の読み取り等を行う位置に配置された場合に、対物レンズ17に略平行光が入射するように構成した。そして、コリメートレンズ15が情報記録層L0の読み取り等を行う位置に配置された場合における光学系の光軸を基準光軸とした。しかし、この構成に限定される趣旨ではない。すなわち、例えばコリメートレンズ15が、情報記録層L0の読み取り等を行う位置と、情報記録層L1の読み取り等を行う位置との間に配置された場合に、対物レンズ17に略平行光が入射する構成としてもよい。そして、この対物レンズ17に略平行光が入射する位置にコリメートレンズ15が配置された場合における光学系の光軸を基準光軸としてもよい。
【0063】
また、以上に示した実施形態においては、対物レンズ17は、内在コマ収差がラジアル方向の一方側に発生するように対物レンズアクチュエータ3のレンズホルダに搭載される構成とした。しかし、この構成に限定されず、内在コマ収差の発生方向が別方向となるように対物レンズを配置しても構わない。ただし、この場合には、対物レンズを傾斜させる方向、及び、コリメートレンズを平行移動させる方向についても、本実施形態の構成から変更する必要がある。
【0064】
また、以上に示した実施形態においては、コリメートレンズ15を可動レンズとして、球面収差を行う構成とした。しかし、球面収差を行うにあたって、コリメートレンズを可動レンズとする代わりに、可動レンズを有するビームエキスパンダを光ピックアップの光学系中に配置する構成もある。本発明はこのような構成の場合にも適用できる。すなわち、ビームエキスパンダが有する可動レンズを平行移動する方向を、本実施形態の場合と同様に基準光軸に対して傾ける構成としても構わない。ここでの基準光軸は、対物レンズに略平行光が入射する位置に可動レンズが配置された場合における光学系の光軸のことを指している。
【0065】
また、以上に示した実施形態では、光ピックアップはBDに対して情報の読み取りや書き込みを行える構成とした。しかし、本発明が適用される範囲はこれに限らない。すなわち、本発明は、対物レンズに入射する入射光の収束発散状態を変化させて球面収差の補正を行えるように、可動レンズを有する光ピックアップに広く適用できるのであり、光記録媒体の種類は何ら限定されるものではない。また、複数種類の光ディスクに対応する光ピックアップにも当然、本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば、2つの情報記録層を有するBDの情報の読み取りや書き込みを行う光ピックアップに好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 光ピックアップ
4 レンズ駆動ユニット(レンズ移動手段)
11 光源
15 コリメートレンズ(可動レンズ)
17 対物レンズ
100 光ディスク
L0、L1 情報記録層
OLA 対物レンズの光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射された光を光記録媒体の情報記録層に集光する対物レンズと、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路に配置され、球面収差の補正を行えるように位置を移動可能に設けられる可動レンズと、
前記可動レンズを所定方向に平行移動するレンズ移動手段と、
を備える光ピックアップであって、
前記所定方向は、前記可動レンズに入射する入射光の光軸に対して傾いていることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記対物レンズに略平行光が入射するように前記可動レンズが所定位置に配置された場合における、前記光源から前記対物レンズへと至る光の光軸を基準光軸とした場合に、
前記対物レンズの光軸及び前記所定方向が前記基準光軸に対して傾いていることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記対物レンズは、前記所定位置に前記可動レンズが配置された場合に、前記対物レンズが有するコマ収差を打ち消すように傾斜され、
前記所定方向は、前記可動レンズを前記所定位置から前記基準光軸に沿って平行移動した場合に発生するコマ収差を打ち消す方向であることを特徴とする請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記可動レンズがコリメートレンズであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記対物レンズは、前記対物レンズが有するコマ収差がラジアル方向に発生するように配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記光記録媒体にはブルーレイディスクが含まれることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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