説明

光ピックアップ

【課題】
磁石と磁性体の接着面の縁に残った未硬化の接着剤が指サックやピンセット等を介して光ピックアップに転写し汚染することにより、光学性能の不具合や外観不良を生じて歩留まりを低下させてしまう場合がある。
【解決手段】
磁石を固定する磁性体の面に溝を形成し、固定面の中心側の溝を浅く、固定面の外周側の溝を深くする。この溝により、接着剤を毛細管現象によって固定面の中心側に引き込むと同時に、固定面の外縁に沿って接着剤が拡がらないようにする。また、溝内の隅部を面取りすることで、隅に残留する接着剤を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2011−18428号公報(特許文献1)がある。
【0003】
この公報には、磁性部材もしくは磁気連結部材の何れか一方または両方に、接着強度を確保させる接着力確保部が設けられることにより、磁性部材を確実に磁気連結部材に接着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−18428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、磁性部材(磁石)と磁気連結部材(磁性体)の接着強度を確保するための構造が記載されている。しかし、上記特許文献1の構造は、磁石と磁性体の接着面の縁に未硬化の接着剤が残り易い。このため、接着工程以降のハンドリングにおいて、指サックやピンセット等に未硬化の接着剤が転写してしまう。さらに、未硬化の接着剤が付着した指サックやピンセット等を使って他の部品をハンドリングすることにより、未硬化の接着剤が再転写し部品等を汚染してしまう。
【0006】
このように、指サックやピンセット等を介して未硬化の接着剤がさまざまな部位を汚染してしまうため、最終的に光ピックアップにも汚染が至って光学性能の不具合や外観不良となって歩留まりを低下させてしまう場合がある。
【0007】
本発明の目的は、未硬化の接着剤の発生を低減できる光ピックアップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、光ピックアップにおいて、磁界を形成する磁石と、この磁石を保持する磁性体とを有し、前記磁性体は、前記磁石を固定する面に溝を形成し、固定面の中心側の溝を浅く、固定面の外周側の溝を深くした形状であることにより達成される。
【0009】
また上記目的を達成するために好ましくは、前記磁性体の溝が深さの異なる2段の溝であると良い。
【0010】
また上記目的を達成するために好ましくは、前記磁性体の溝がテーパー状の溝であると良い。
【0011】
また上記目的を達成するために好ましくは、前記磁性体の溝が隅部を面取りした溝であると良い。
【0012】
また上記目的を達成するために好ましくは、前記磁性体の固定面外周側の溝が三角形の断面形状であると良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歩留まりの高い光ピックアップを提供することができる。
【0014】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る光ピックアップの斜視図である。
【図2】本発明に係る対物レンズアクチュエータの斜視図である。
【図3】本発明に係る磁石と磁性体の接着工程の説明図である。
【図4】本発明に係る磁石と磁性体の接着工程を説明するフローチャート図である。
【図5】従来の磁性体と磁石の接着状況の説明図である。
【図6】本発明の実施例に係る磁性体と磁石の接着状況を説明する斜視図である。
【図7】他の実施例に係る磁性体の形状を示す斜視図である。
【図8】他の実施例に係る磁性体の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
本実施例では、接着剤の転写を防止することができる光ピックアップの例を説明する。
【0018】
図1は本実施例の光ピックアップの構成図の例である。
【0019】
1は光ピックアップ、2は筐体、3はレーザ光源、4はビームスプリッタ、5はコリメートレンズ、6は立上げミラー、7は対物レンズアクチュエータ、7aは対物レンズ、8は光検出器である。
【0020】
光ピックアップ1は、レーザ光源3と、ビームスプリッタ4と、コリメートレンズ5と、立上げミラー6と、対物レンズ7aと、光検出器8とを、筐体2に搭載した構成である。図1の光ピックアップ1の構成は最小限の構成を示している。CD、DVD、BD(Blu−ray Disc)などの複数の光ディスク規格に対応するために、レーザ光源3、ビームスプリッタ4、コリメートレンズ5、立上げミラー6、対物レンズ7a、光検出器8を複数搭載する構成としてもよい。筐体2は、光学部品を搭載するベース部材である。複雑な形状が必要となることから、金属や樹脂の成型によって主に作られる。レーザ光源3は、特定波長のレーザ光を出射する半導体レーザ素子である。ビームスプリッタ4は、レーザ光を透過光と反射光に分割する光学部品である。例えば、直角プリズムを2つ貼り合わせたプリズムや、ガラス板に光学膜を形成したミラーである。コリメートレンズ5は、レーザ光の発散光を平行光に変換する光学レンズである。立上げミラー6は、レーザ光を全反射するミラーである。光ピックアップ1の筐体2内部から図示しない光ディスクの方向へ折り曲げるため、傾いて取り付けられている。対物レンズアクチュエータ7は、対物レンズ7aを駆動する電磁アクチュエータである。対物レンズ7aは、レーザ光の平行光を光ディスクの記録面上に集束させるレンズである。光検出器8は、検出面に照射するレーザ光の光量に応じて電気信号を発生する光電変換素子である。
【0021】
本実施例の光ピックアップの動作を説明する。
【0022】
レーザ光源3を発したレーザ光は、ビームスプリッタ4で反射してコリメートレンズ5に到達し平行光に変換される。さらにレーザ光は、立上げミラー6で光ディスクの方向に全反射し、対物レンズ7aによって光ディスクの記録面上に集束されてビームスポットを形成する。光ピックアップ1では、このビームスポットによって光ディスクへの情報の記録・再生を行なう。記録では、記録情報に基づいてレーザ光源3のオンオフを行なってビームスポットを点滅させ、光ディスク上に記録ピットを形成することで情報の書き込みを行なう。再生では、ビームスポットを光ディスクの記録ピットに当て、記録ピットで反射したレーザ光を対物レンズ7aで受ける。往路とは逆に立上げミラー6、コリメータレンズ5、ビームスプリッタ4の順で通過し、光検出器8の検出面上にレーザ光を誘導する。光検出器8は、検出面に当たるレーザ光のオンオフにより情報の読込みを行なう。
【0023】
本実施例の対物レンズアクチュエータ7について以下に説明する。
【0024】
図2は本実施例の対物レンズアクチュエータの構成図の例である。
【0025】
7は対物レンズアクチュエータ、7aは対物レンズ、7bはレンズホルダ、7cはフォーカシングコイル、7dはトラッキングコイル、7eはチルトコイル、7fは接続基板、7gはサスペンションワイヤ、7hはベースホルダ,7iは磁性体、7jは磁石である。図中のz方向が、対物レンズ7aを図示していない光ディスクに接近または離遠させるフォーカシング方向であり、y方向が、対物レンズ7aを光ディスクの半径方向に動作させるトラッキング方向であり、x方向の軸まわりに回転する方向がチルト方向である。
【0026】
対物レンズ7aは、レンズホルダ7bの上面に搭載される。フォーカシングコイル7cおよびチルトコイル7eは、z方向を巻回軸として形成され、レンズホルダ7bに取り付けられる。トラッキングコイル7dは、x方向を巻回軸として形成され、レンズホルダ7bのx軸に垂直な側面に取り付けられる。レンズホルダ7bのy軸に垂直な両側面には接続基板7fが取り付けられている。サスペンションワイヤ7gは、一端が接続基板7fに、他端がベースホルダ7hにはんだなどを用いて接続されており、レンズホルダ7bの両側に3本ずつ、合計6本のサスペンションワイヤ7gにより、レンズホルダ7bがベースホルダ7hに対して動作可能に支持されている。フォーカシングコイル7c、トラッキングコイル7d、チルトコイル7eの各巻線の端部は、接続基板7fにはんだなどを用いて接続され、対応するサスペンションワイヤ7gと、接続基板7f上で電気的に接続している。サスペンションワイヤ7gを通じ、各コイルに電流を流すことにより、磁性体7iと磁性体7iに取り付けられた磁石7jにより作られる磁界との間で電磁作用が働き、各方向への駆動力が発生してレンズホルダ7bを駆動することができる。
【0027】
本実施例の磁石と磁性体の接着工程について以下に説明する。
【0028】
図3は本実施例の磁石と磁性体の接着工程の説明図である。
【0029】
図4は本実施例の磁石と磁性体の接着工程のフローチャートの例である。
【0030】
磁性体固定工程91では、磁性体7iを治具101に固定する。治具101への固定は、磁性体7iの底面に形成された位置決め用の穴を治具101側の位置決めピンと嵌合させることによって行なう。磁性体7iが治具101から浮き上がらないように、抑え止めや磁石による吸着を行なうと、磁性体7iを確実に固定することができる。磁石装填工程92では、磁性体7iに磁石7jを装填する。磁石7jは、図示しない治具102によって位置決めされ、磁性体7iの所定の位置に装填される。磁石7jの装填後は治具102を外してもよく、磁石7jは自らの持つ磁力によって磁性体7iに自己吸着するため位置を保持することができる。接着剤塗布工程93では、磁石7jと磁性体7iの接触面に向けてディスペンサ103により接着剤7kを塗布する。接着剤7kの塗布は、ディスペンサ103を用いることで、塗布量、塗布位置を精度良く管理できる。接着剤7kは、磁石7jと磁性体7iに挟まれた隙間に浸透させるために低粘度であることが求められる。また、接着剤7kは、磁石7jと磁性体7iに挟まれた隙間で硬化させる必要があるため、嫌気性接着剤を用いると都合が良い。放置工程94では、接着剤7kが硬化する迄の間放置する工程である。接着剤は硬化時間が数時間と長いため、放置が必要である。
【0031】
本実施例の解決しようとする課題と、解決手段について以下に説明する。
【0032】
図5は従来の磁性体と磁石の接着状況の説明図である。
【0033】
従来の磁性体7iは、磁石7jを固定する面が平坦となっている。特許文献1では、この平坦面に網目状の溝を設けているが、以下で説明する作用と同じことが生じる。磁石7jは、この磁性体7iの平坦面に面接触する。前記接着剤塗布工程93において、接着剤7kは磁石7jと磁性体7iの接触面の外縁に塗布される。接着剤7kは、磁石7jと磁性体7iの接触面の隙間に浸み込んでいくとともに、接触面の外縁を伝っていくものがある。接着剤7kに用いている嫌気性接着剤は、空気に触れない部分では硬化が進むが、空気に触れる部分では硬化が進まない。このため、磁石7jと磁性体7iの接触面の外縁を伝わった接着剤7kは放置工程94を経ても未硬化の場合がある。放置工程94以降の組立工程において、磁石7jと磁性体7iの組立品をハンドリングする際に、指サックやピンセット等に前記の未硬化の接着剤7kが転写してしまうと、それ以降でハンドリングした治具や部品等に未硬化の接着剤7kが再転写し汚染が発生してしまう。このように、指サックやピンセット等を介して未硬化の接着剤7kがさまざまな部位を汚染してしまうため、最終的に光ピックアップ1にも汚染が至ってレンズ等の汚れによる光学性能の不具合や外観不良となり、歩留まりを低下させてしまう。
【0034】
図6は本実施例の磁性体と磁石の接着状況の説明図である。
【0035】
本実施例の磁性体7iは、磁石7jを固定する平坦面にV溝を形成している。前記V溝は、磁石7jを固定する接着面の中心側のV溝を浅く、外側のV溝を深くした2段のV溝である。磁性体7iのV溝はプレス型に突起を形成することで簡単に実現でき、従来の製法と大きく変わる点はない。磁石7jは、従来の構造と同様に磁性体7iの平坦面に面接触する。このとき、磁石7jと磁性体7iの前記V溝によって孔が形成される。前記接着剤塗布工程93において、この孔にディスペンサ103のニードルの先端を当てて位置決めを行ない、接着剤7kを塗布する。溝形状をV溝としたことにより、孔の形状は三角形となるので円形のディスペンサ103のニードルを2点で支持しやすく、ニードルの位置決めが容易となっている。また、ニードルの直径と概ね同じサイズとなるようにV溝を形成することにより、ニードル先端が磁石7jとV溝によって形成される孔の縁に嵌まりやすくなる。これらの効果により、塗布位置の再現性を向上できる。塗布された接着剤7kは毛細管現象によって浅いV溝を形成した接着面の中心側へ引き込まれ、接着剤7kを塗布した孔の入口にはほとんど残らないようになる。これにより、磁石7jと磁性体7iの接触面の外縁を伝っていく接着剤7kを防止できる。また、中心側へ引き込まれた接着剤7kは、磁石7jと磁性体7iの隙間に内部から拡がるように浸透するので、ハンドリング時に触れる場所には接着剤7kが露出しなくなる。指サックやピンセットを介する未硬化の接着剤7kの転写汚染が防止できるので、不良低減につながる。
【0036】
このように、本実施例の特徴によって、歩留まりの高い光ピックアップを提供することができる。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、接着剤の転写を防止することができる光ピックアップの変形例を説明する。
【0038】
図7は本実施例の磁性体の形状の変形例である。
【0039】
磁性体7iの形状以外の構成、動作は実施例1と同様である。
【0040】
磁石7jと磁性体7iの前記V溝によって形成される孔に接着剤7kが塗布されると、接着剤7kは毛細管現象によって中央側へ引き込まれるが、V溝の隅部に接着剤7kが残留する場合がある。このように残留した接着剤は、空気に触れるために硬化が進みづらいため未硬化の接着剤7kとして残ってしまう。そこで、本実施例の磁性体7iは、V溝の隅部に丸み面取りを施す。このようにすることで、接着剤7kは隅部を形成していた壁の間に挟まれなくなるため、残留しなくなる。
【0041】
本実施例のように、磁性体7iの溝内に残留する接着剤7kを防止することにより、不良低減に貢献できるので、歩留まりの高い光ピックアップを提供することができる。
【実施例3】
【0042】
本実施例では、接着剤の転写を防止することができる光ピックアップの変形例を説明する。
【0043】
図8は本実施例の磁性体の形状の変形例である。
【0044】
磁性体7iの形状以外の構成、動作は実施例1と同様である。
【0045】
磁性体7iに溝を2段で構成した形状は、2つの段のつなぎ目に段差ができるため、この段差部に接着剤が残留する場合がある。そこで、本実施例では、溝にテーパーを設ける。テーパー溝は、磁石7jを固定する接着面の中心側の溝を浅く、外側の溝を深くした段差のない形状である。このようにすることにより、段差部に残留する接着剤を防止できる。また、接着剤7kを毛細管現象で引き込みやすくなる効果もある。本実施例の磁性体7iの形状は、溝部に残留する未硬化の接着剤7kの量をさらに減らすことができる。
【0046】
本実施例のように、磁性体7iの溝内に残留する接着剤7kを防止することにより、不良低減に貢献できるので、歩留まりの高い光ピックアップを提供することができる。
【0047】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 光ピックアップ
7 対物レンズアクチュエータ
7a 対物レンズ
7i 磁性体
7j 磁石
7k 接着剤
91 磁性体固定工程
92 磁石装填工程
93 接着剤塗布工程
94 放置工程
103 ディスペンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ピックアップにおいて、
磁界を形成する磁石と、この磁石を保持する磁性体とを有し、
前記磁性体は、前記磁石を固定する面に溝を形成し、固定面の中心側の溝を浅く、固定面の外周側の溝を深くした形状であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記磁性体の溝が深さの異なる2段の溝であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記磁性体の溝がテーパー状の溝であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項4】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記磁性体の溝が隅部を面取りした溝であることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項5】
請求項1に記載の光ピックアップにおいて、
前記磁性体の固定面外周側の溝が三角形の断面形状であることを特徴とする光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77357(P2013−77357A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217588(P2011−217588)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】