説明

光ファイバケーブル

【課題】防護体や補強層等を用いることなく外被自体で蝉の突刺しを抑制すると共に、耐寒性および難燃性を備え、更に外被の引裂きも容易に行える光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】本体部2と支持線部3とが切断容易な首部4を介して連結され、本体部2は、光ファイバ心線5の両側にテンションメンバ6が配されて外被7で一括被覆され、両側面7aに外被切裂き用のノッチ8が設けられた光ファイバケーブル。外被7は、(a)高密度ポリエチレンを40〜70重量部と直鎖低密度ポリエチレン60〜30重量部を合わせたポリエチレン100重量部に対し、(b)アスペクト比が2以下である難燃性フィラーを30〜120重量部および(c)リン系難燃剤を1〜10重量部を配合してなるショアD硬度が57以上の樹脂組成物で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体部と支持線部とからなり、本体部は光ファイバ心線とテンションメンバが平行に配されて外被により一体に被覆されてなる光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等の情報通信等の普及により通信の高速化、情報量の増大に加え、双方向通信と大容量通信に対応するために光ネットワークの構築が進展している。この光ネットワークでは、通信事業者と各家庭を直接光ファイバで結び、高速通信サービスを提供するFTTH(Fiber To The Home)サービスが開始されている。これにより、光ケーブルの宅内への引き込みに用いられるドロップ光ケーブルや、これを複数本集合した集合光ケーブルの需要が増えている。
【0003】
これらの光ファイバケーブルは、一般的には、光ファイバ心線と平行にテンションメンバをケーブル外被内に埋設してケーブルの引張強度を高め、外被の両側面にV字状のノッチを設けて、外被を2つに切裂いて内部の光ファイバ心線を取出して端末形成等がしやすい構造とされている。
【0004】
近年、この種の光ファイバケーブルに対して、蝉がケーブルの外被に産卵管を突き刺し、内部の光ファイバ心線を損傷、あるいは外被内に卵を産み付けるという問題が多発している。これは、ドロップ光ケーブルを蝉が産卵しやすい対象物と認識したものと推定されているが、この蝉への対策としては、光ファイバ心線とノッチの間に産卵管が突刺せない硬さの防護体を配した光ケーブルや、ノッチの位置や方向を変えて蝉の産卵管が光ファイバ心線を突刺さない構造とした光ケーブルが種々提案された。
【0005】
しかし、蝉の産卵管はノッチ以外の部分からも刺し込まれるなどの事例もあって、構造的な対応のみでは不十分であることから、例えば、特許文献1では、外被に引張強度15〜40MPa、ショアD硬度50〜80の樹脂を用いて、クマ蝉の産卵管では外被を0.6mm以上は突刺させないようにしている。同様に、特許文献2においても、ショアD硬度が55以上の外被を得るために、エチレン・α‐オレフィン共重合体やポリエチレン樹脂を主成分とした樹脂組成物を用いて、光ファイバを被覆することが開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、外被内に配される光ファイバ素線の外方を、ショアD硬度が50以上で厚さが0.3mm以上の樹脂からなる補強層で被覆することにより、蝉の産卵管の侵入を遮ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−129062号公報
【特許文献2】国際公開第08/090880号パンフレット
【特許文献3】特開2009−25425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に開示されるように、光ファイバ心線を覆っている外被の全体を硬質にすることにより、蝉対策の効果を期待することができる。しかしながら、外被の引張強度が大きすぎると、ケーブル端末の形成等で外被の引裂き除去が難しくなるという問題がある。通常、外被の両側面にあるノッチに、ニッパ等の工具でケーブル端から10mm程度の切り込みを入れて切裂き始端を作り、この後、外被を手で100mmほど引裂いているが、外被が硬質であるため引裂きに労力を要する。また、引裂きに大きな力を要するため、この結果、所定の引裂量、例えば、100mmを超えて大きく引裂いてしまう(NGとなる)こともあり、スキルを要する作業となっている。
【0009】
また、特許文献3においては、全体を覆う外被の引裂き除去と補強層の除去という2つの除去作業が必要となる。外被と補強層を同時に除去することも可能とされているが、外被と補強層の樹脂材質が異なることから一体化が難しい。また、外被と補強層を接着一体化するとしても、光ファイバ素線の被覆とは非接着とする必要から、光ファイバ素線被覆や補強層の材料選択の範囲が狭められ、コスト的に高価なものとなるという問題がある。
【0010】
さらに、ドロップ光ケーブルは加入者宅等に引き込まれるため、高い難燃特性が要求される。そこで外被に難燃性をもたせるために難燃剤が添加されるが、この添加物を多く含むと強度的に脆くなり、硬度も低下するという問題がある。
また、光ケーブルは寒冷地域で使用されることもあり、低温下でケーブルを屈曲させると外被に亀裂が生じる場合がある。このため、外被には基本特性として耐寒性も必要とされる。
【0011】
加えて、光ケーブルを製造するに当たって求められる重要な課題として、安価で製造可能であること、製造工程が煩雑でないことが挙げられる。そこで、安価で加工性の高い樹脂を使用しながら所望の特性を発現させることができる、新規な外被組成が求められている。
【0012】
本発明は、従来の光ファイバケーブルにおける上記課題に鑑みてなされたものであって、防護体や補強層等を用いることなく外被自体で蝉の産卵管の突刺しによる光ファイバの損傷を抑制すると共に、難燃性および耐寒性を備え、外被の引裂きも容易に行える光ファイバケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光ファイバケーブルは、本体部と支持線部とが切断容易な首部を介して連結され、前記本体部は、光ファイバ心線の両側にテンションメンバが配されて外被で長方形状に一括被覆され、両側面に外被切裂き用のノッチが設けられてなり、前記支持線部は、前記テンションメンバと前記光ファイバ心線の中心を結ぶ延長線上に配されてなる。
また、前記外被は、(a)高密度ポリエチレンを40〜70重量部と直鎖低密度ポリエチレン60〜30重量部を合わせたポリエチレン100重量部に対し、(b)アスペクト比が2以下である難燃性フィラーを30〜120重量部および(c)リン系難燃剤を1〜10重量部を配合してなるショアD硬度が57以上の樹脂組成物で形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0014】
また、本発明の光ファイバケーブルの好適形態は、前記難燃性フィラーが、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムであることを特徴とする(請求項2)。
【0015】
更に、本発明の光ファイバケーブルの別の好適形態は、前記光ファイバ心線とノッチ先端との離間距離が0.4mm以上であることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、防護体や補強層等を用いることなく外被自体で蝉の産卵管の突刺しによる光ファイバの損傷を抑制すると共に、難燃性および耐寒性を備え、手で外被の引裂きも容易に行える光ファイバケーブルを提供することができる。かかる光ファイバケーブルは、安価で加工性の高い樹脂材料によって作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による光ファイバケーブルの実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の光ファイバケーブルついて詳細に説明する。
図1(A)は、本発明の光ファイバケーブルのうち、1心の単心光ファイバ心線を用いた一実施形態を示し、図1(B)は、4心の光ファイバテープ心線を2枚用いた別の実施形態を示す。なお、光ファイバ心線の心数は、これらに限らず、2心、4心など任意の心数とすることができる。
【0019】
図中、1、1’は光ファイバケーブル、2は本体部、3は支持線部、4は首部、5は光ファイバ心線、5’は光ファイバテープ心線、6はテンションメンバ、7は外被、7aは本体部の側面、8はノッチ、9は鋼線を示す。
【0020】
図1(A)に示す光ファイバケーブル1は、断面が長方形状の体部2と、断面が円形状の支持線部3を切断容易な細幅の首部4で連結した自己支持型の構造で形成される。本体部2は、中心に単心の光ファイバ心線5を1本配し、その両側にテンションメンバ(抗張力体ともいう)6を配し、外被7(シースともいう)で一体に被覆してなる。また、本体部2の両側面7aには、光ファイバ心線5にV字状の底部が接近するようにノッチ8が設けられる。
【0021】
支持線部3は、単心線又は撚り線からなる鋼線9(外径1.2mm程度)が用いられ、光ファイバ心線5とテンションメンバ6の中心を結ぶラインYの延長線上又はその付近に設けられる。支持線部3の鋼線9は、切断容易な首部4を介して本体部2と連結され、本体部2の外被7の成形時に同じ樹脂材で押出し成形により一括して被覆される。
【0022】
本発明における光ファイバ心線2とは、例えば、標準外径が125μmのガラスファイバで、被覆外径が250μm前後で1層又は2層で被覆されたもので、光ファイバ素線と称されるものや被覆表面に着色が施されたものを含むものとする。この光ファイバ心線5は、1本〜数本程度を外被7で直接被覆して収納される。
光ファイバ心線5に平行に配されるテンションメンバ6は、外径0.4mm程度の鋼線あるいはガラス繊維強化プラスチック(FRP)、アラミド繊維強化プラスチック(KFRP)などを用いることができる。光ファイバケーブルの本体部2および支持線部3の被覆を構成する外被7は、後述するように、耐蝉用の硬質の樹脂で形成される。
【0023】
上述した構成の光ファイバケーブル1は、例えば、光ファイバ心線5が1心である場合、本体部2の長辺側の縦幅Lは3.1mm、短辺側の横幅Wは2.0mm、支持線部3の直径Dは2.0mm、首部4の長さKを0.2mmの標準的な外形寸法で形成することができる。また、ノッチ8は、深さが0.2mm程度、幅が0.3mm程度で形成される。なお、ノッチ8の底部先端と光ファイバ心線5との離間距離Sは、後述する外被材料および引裂性を考慮し、0.4mm程度とする。0.3mmだと蝉の産卵管によって光ファイバが損傷するおそれがある。
【0024】
図1(B)に示す光ファイバケーブル1’は、図1(A)の光ファイバ心線5に代えて、4心の光ファイバテープ心線5’を2枚重ねて配したもので、形状としては図1(A)のものと同じである。ただ、光ファイバの心数が8心となることから、長辺側の縦幅Lが3.7mmとなる。その他の短辺側の横幅Wの2.0mm、支持線部3の直径Dの2.0mm、首部4の長さKの0.2mm、および、ノッチ8と光ファイバ心線5との離間距離Sを0.4mmとすることは、図1(A)のものと同じとすることができる。
【0025】
なお、本発明における「光ファイバ心線」とは、前記の光ファイバテープ心線5’を含めたものとする。光ファイバテープ心線を含む光ファイバケーブル又は光ファイバ心線を複数列含む光ファイバケーブルでは、各光ファイバ心線とテンションメンバの中心を結ぶラインが複数ある。したがって、支持線部はいずれかの光ファイバ心線とテンションメンバを結ぶ線の延長線付近にあることになる。
【0026】
上述した光ファイバケーブル1,1’に光コネクタ等を取付けて端末を形成する場合、外被7内の光ファイバ心線5,5’を取出すために、ケーブル端部のノッチ8をニッパ等で10mm程の切り込みを入れる。次いで、この切り込みを始端として、手でノッチ8の部分を100mm程引裂いて外被7を2分する。この外被7を手で引裂くには、ノッチ8の先端と光ファイバ心線5、5’との離間距離Sが大きく関係するが、この離間距離Sが小さいと、蝉の産卵管による突刺し量が光ファイバ心線に達し、これを避けるために離間距離Sを大きくすると引裂きが困難になる。
【0027】
また、上記の離間距離Sを所定の値に設定したとして、外被の引張強度が小さい場合は外被の引裂きは容易であるが、蝉の産卵管による突刺し量が大きくなり、離間距離Sを大きくする必要がある。一方、外被の硬度が大きくかつ引張強度が大きいと、蝉の産卵管による突刺し量は抑えられるが、引張強度が大き過ぎると引裂きが難しくなる。上記の実施形態では、ノッチ8と光ファイバ心線5,5’との離間距離Sを0.4mm程度としたが、耐蝉性(蝉の産卵管により光ファイバ心線が損傷を受けない性質)と引裂性の両方を備えた光ファイバを低コストで得るために、離間距離Sを0.4mm以上とすることがより好ましい。引裂き容易とするためにはSは0.6mm以下とするのが好ましい。
【0028】
本発明の光ファイバケーブルは、上記の構造的特徴に加え、耐蝉性と引裂性(低引裂強度)の両方を兼ね備え、さらに難燃性と耐寒性とに優れた外被材料を用いることを特徴とする。耐寒性は、寒冷地でのケーブル屈曲時の損傷を防ぐために重要な特性である。
【0029】
本発明の光ファイバケーブルの外被を形成する外被材料の組成について説明する。
本発明の光ファイバケーブルの外被は、(a)高密度ポリエチレンを40〜70重量部と直鎖低密度ポリエチレン60〜30重量部を合わせたポリエチレン100重量部に対して(b)アスペクト比が2以下である難燃性フィラーを30〜120重量部および(c)リン系難燃剤を1〜10重量部を配合してなる樹脂組成物で形成され、樹脂組成物全体のショアD硬度が57以上である。アスペクト比は1以上が好ましい。
このような樹脂組成物とするによって、耐蝉性に優れるとともに難燃性および耐寒性を備え、更に、手で外被引裂用のノッチを引裂くことが容易になり、敷設時の心線取出しの作業性を向上させることができる。特に、本発明の光ファイバケーブルは外被を構成する樹脂組成物全体のショアD硬度が57以上であるため、蝉の産卵管による突刺しによる光ファイバの損傷が顕著に抑制される。
【0030】
本発明において(a)ポリエチレン樹脂は高密度ポリエチレンを40〜70重量部と直鎖低密度ポリエチレン60〜30重量部を合わせてなる。
また、低温脆性の改善のためにスチレン−エチレン−ブテン−スチレンブロック共重合ポリマー、エチレン−プロピレン共重合ポリマー、エチレン−ブテン共重合ポリマー等のエラストマーを加えても良い。これらの樹脂を加える場合は、当該樹脂と(a)ポリエチレン樹脂と合わせた樹脂中で1−30重量%となるようにする。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤として(b)アスペクト比が2以下である難燃性フィラーを含有する。
アスペクト比とはフィラーの長径/フィラーの厚さで表され、アスペクト比が大きい程平板状となる。本発明では難燃剤としてアスペクト比が2以下、好ましくは1以上2以下、更に好ましくは1以上1.5以下である低アスペクト比のフィラーを使用する。通常使用される難燃性フィラーのアスペクト比は3以上である。
アスペクト比を2以下とすることで難燃性と共に良好な引裂性が得られる。これにより、手で外被引裂用のノッチを引裂くことが容易になり、敷設時の心線取出しの作業性を向上させることができる。市販の難燃性フィラーからアスペクト比が2以下のものを特に選別して使用することができる。
本発明で使用できる難燃性フィラーはアスペクト比が2以下であれば特に限定されないが、難燃性の観点から、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムであることが好ましい。
水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムは天然品、合成品のいずれであってもよいが、合成品の方が機械特性や耐寒性に優れるため好ましい。
アスペクト比が2以下である難燃性フィラーの添加量は、樹脂100質量部に対して30〜120質量部であり、好ましくは50〜90質量部である。添加量が30質量部未満であると引裂性に劣り(作業時に高い引裂力が必要となる)、一方、120質量部を超えると耐寒性が悪化し、低温で外被に亀裂が生じることがある。
【0032】
更に、本発明では上記平板状の難燃性フィラーと共に(c)リン系難燃剤を併用する。
リン系難燃剤としては特に限定されないが、例えば赤燐、芳香族リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン等が挙げられ、樹脂100重量部に対して、1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部で配合する。リン系難燃剤の配合量が1質量部未満であると難燃性を所望の程度で付与することが困難であり、一方、10質量部を超えると機械特性が低下する。
また、難燃助剤として酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、三酸化アンチモン、炭酸カルシウム等の無機物、あるいはメラミンシアヌレート等の有機物を樹脂100質量部に対して1〜30質量部加えてもよい。
【0033】
本発明の外被は、上記のようにポリエチレンに難燃性フィラーとリン系難燃剤を添加してショアD硬度を57以上とする。蝉の産卵管の突刺しによる光ファイバの損傷を防止するには外被のショアD硬度を57以上とすることが必要である。この構成の外被を手で引裂いて中の光ファイバ心線を容易に取り出すことができるために、難燃性フィラーのアスペクト比を2以下とする必要がある。そして光ファイバケーブルの難燃性を確保するために外被に添加する難燃剤はリン系難燃剤とする必要がある。
【0034】
また、本発明の光ファイバケーブルの外被には、難燃剤の他に、シリコーン、脂肪酸アミド、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、パラフィン等を加工助剤として添加してもよい。特に、上記脂肪酸アミド(滑剤)は、外被除去性を向上させるために配合されるものであり、敷設時などに外被を除去する必要のある光ファイバケーブルにおいて有用である。同様に、酸化防止剤、防カビ剤等の一般的に樹脂配合剤として用いられる成分も添加してもよい。
【0035】
本発明の光ファイバケーブルで使用する樹脂組成物は、上記の各成分を二軸混錬押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、通常用いられる混錬機装置で溶融混錬して得ることができる。本発明の光ファイバケーブルは、押出法によって、光ファイバ心線5または光ファイバテープ心線5’と例えばアラミド繊維強化プラスチック(KFRP)等から形成されるテンションメンバ6と支持線である鋼線9の周囲に予め溶融混錬された上記の樹脂組成物を被覆することによって製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
表1に示す組成の外被材料(実施例1〜3、比較例1〜7)を用いて、各種特性の評価を下記の要領で行った。なお、外被の長期安定性を向上させるために、実施例、比較例の全てに共通して、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系)を1重量部添加した。
【0038】
評価試験に供するサンプルは、まず、200℃に加熱したオイル加熱式のオープンロールで表1に示す各配合成分を加熱混合し、これを成型することにより得た。硬度、引張強度、引張伸び、低温脆化試験については、前記ロール混合で得られたものをプレス機でシート状にして成型した。一方、JIS60度傾斜燃焼試験、ケーブル引裂性評価試験に用いるサンプルについては、前記ロール混合で得られたものをペレタイザでペレット状に切断し、このペレットを、65mmφ押出機を使用して光ファイバ心線の周囲に被覆させ、図1(A)又は(B)に示すドロップケーブル形状(1心及び8心)として得た。得られたケーブルサンプルは、横幅Wを2.0mm、縦幅Lを3.1mm、支持線部の径を2.8mm、光ファイバ心線とノッチ間の離間距離Sを0.4mmとした。
各例の評価結果を表1に併せて示す。
尚、表中の材料配合における各数値の単位は「重量部」である。
【0039】
<評価試験方法>
[硬度]
外被の硬度は、日本工業規格のJIS K7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)で規定されるデュロメータ(タイプD)を用いて計測した(以下、ショアD硬度という)。外被の硬度の判定基準は、ショアD硬度で57以上であることが耐蝉性を有する必要条件であるとした。
【0040】
[引張強度]
外被の引張強度は、日本工業規格のJIS K7113に準拠し、2号試験片を用いて行なった。引張強度の判定基準は、外被に蝉の産卵管が突刺された際に、外被に変形を生じず、卵を産み付ける空間の確保を阻止できる15MPa以上であることが耐蝉性を有する必要条件とした。
【0041】
[引張伸び]
外被の引張伸びは、日本工業規格のJIS K7113に準拠し、2号試験片を用いて行なった。外被の引張伸びの判定基準は、ケーブルを屈曲させても破断することのない300%以上であることが必須条件とした。
【0042】
[難燃性(60度傾斜燃焼試験)]
試験には、1心及び8心ケーブルを用いた。日本工業規格のJIS C3005に準拠して行った。完成品から採取した長さ約300mmの試料を、水平に対して約60度傾斜させて支持し、還元炎の先端を、試料の下端から約20mmの位置に、30秒以内で燃焼するまで当て、炎を静かに取り去る。そして、自然消炎した場合を合格とした。
【0043】
[耐寒性(低温脆化試験)]
低温脆化試験(亀裂発生温度)は、低温での耐衝撃性を検証するもので、日本工業規格のJIS C3005に準拠して行なった。判定基準は、−30℃以下の低温で、厚さ2mmのシート状の試験片を打撃試験機で打撃し、シート表面に亀裂が生じていないことを必須条件とした。
【0044】
[引裂性(引裂力)]
試験には、1心ケーブルを用いた。予めドロップケーブルの外被のノッチ間を数cm引裂いた状態とし、裂いた双方を引張試験機のチャックで固定し、180度方向に引張速度200mm/分で引張り、50mm引裂いた。そのときの最大値を引裂力とした。引裂力の判定基準は作業性の観点から12N未満の場合を必須条件とした。
【0045】
【表1】

【0046】
上記結果に示すように、所定の配合量の組成成分からなる実施例1〜3の外被材料においては、必須の特性について求められる性能を満足していることが確認された。
【0047】
一方、難燃性フィラーの配合量が規定量に満たない比較例1は、難燃性および引裂性(心線取出し性)が基準値を満たさなかった。比較例5は、難燃材が少なく燃焼試験不合格であった。難燃材がリン系難燃材以外のものである比較例7は燃焼試験不合格であった。
【0048】
難燃性フィラーの配合量が規定量より多い比較例2は、耐寒性について所望の性能が得られなかった。
【0049】
比較例3、4は、難燃性フィラーのアスペクト比が2よりも大きいため、引裂性について所望の性能が得られなかった。
【0050】
比較例6は、リン系難燃材の配合量が規定量よりも多いため、引張強度について耐蝉性を満足する所望の性能が得られなかった。
【0051】
本発明による光ファイバケーブルは、上述した外被材料を用いることにより耐蝉用に適した硬度と引張強度を確保することができるとともに、耐寒性、難燃性についても確保することができる。また、上述の外被材料で形成された外被は、高硬質性でありながら手で引裂くことが可能で、外被内の光ファイバ心線をスキルを要することなく取り出すことができる。また、上記光ファイバケーブルの外被材料は、基本特性として光ファイバケーブルに求められる引張伸びにも優れる。
【符号の説明】
【0052】
1,1’ 光ファイバケーブル
2 本体部
3 支持線部
4 首部
5 光ファイバ心線
5’ 光ファイバテープ心線
6 テンションメンバ
7 外被
7a 外被の側面
8 ノッチ
9 鋼線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と支持線部とが切断容易な首部を介して連結され、前記本体部は、光ファイバ心線の両側にテンションメンバが配されて外被で長方形状に一括被覆され、両側面に外被切裂き用のノッチが設けられてなり、前記支持線部は、前記テンションメンバと前記光ファイバ心線の中心を結ぶ延長線上に配されてなる光ファイバケーブルであって、
前記外被は、(a)高密度ポリエチレンを40〜70重量部と直鎖低密度ポリエチレン60〜30重量部を合わせたポリエチレン100重量部に対し、(b)アスペクト比が2以下である難燃性フィラーを30〜120重量部および(c)リン系難燃剤を1〜10重量部を配合してなるショアD硬度が57以上の樹脂組成物で形成されていることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記難燃性フィラーが、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記光ファイバ心線とノッチ先端との離間距離が0.4mm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバケーブル。

【図1】
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