説明

光ファイバコード牽引治具

【課題】先端に光コネクタが取り付けられた光ファイバコードを牽引する従来の牽引治具は、光コネクタを連結した状態において牽引方向に沿って直線状をなす可撓性を持たない部分が長尺であり、しかも牽引方向に対して直交する面内での輪郭形状が大きいため、屈曲した管路内で引っ掛かる可能性が高かった。
【解決手段】先端に光コネクタ12が取り付けられた光ファイバコード11を牽引するための本発明による牽引治具10は、光コネクタ12を抜き差しするための開口部17を一端に有し、光コネクタ12を収容するための筒状をなす治具本体18と、光コネクタ12に突設された突起部13が係止して光コネクタ12を一体的に連結するための係止部19と、この係止部19に対して光コネクタ12の突起部13を着脱するための着脱手段20と、治具本体18に取り付けられて牽引索を接続するための接続金具21とを具えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に光コネクタが取り付けられた光ファイバコードを牽引索を用いて管路内に配設するための光ファイバコード牽引治具に関する。
【背景技術】
【0002】
建屋内に埋設された管路内に光ファイバコードを挿通させるような場合、この管路の一端から牽引索を差し込んで管路の他端まで通し、牽引索の先端に牽引治具を介して光ファイバコードを連結した後、管路の一端側から牽引索を引っ張って光ファイバコードを管路の他端から管路内に引き込み、最終的に管路の他端から光ファイバコードを引き出すようにしている。このような光ファイバコードの牽引技術に関しては、非特許文献1に記載されている。この非特許文献1に開示された技術は、先端に光コネクタが取り付けられた光ファイバコードの牽引を対象とするものであり、牽引治具が光コネクタに連結されるようになっている。
【0003】
【非特許文献1】2006年電子情報通信学会総合大会 B-13-10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示された牽引治具は、JIS C 5973にて規定されたF04形単心光ファイバコネクタ(IEC 60874-14,ICE 60874-19に相当)と呼称される、いわゆるSC(Single fiber Coupling)コネクタを把持するために係止片を用いているため、構成部品点数が多い。このため、管路に対して牽引治具が相対的に大きくなってしまい、牽引中に管路の凹凸部分や屈曲部分に牽引治具が引っ掛かってしまい、牽引ができなくなったり、最悪の場合には、光コネクタが損傷を受ける可能性があった。
【0005】
本発明の目的は、このような不具合が発生しないコンパクトで機構が単純な牽引治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による光ファイバコード牽引治具は、先端に光コネクタが取り付けられた光ファイバコードを牽引するための牽引治具であって、光コネクタを抜き差しするための開口部を一端に有し、光コネクタを収容するための筒状をなす本体と、光コネクタに突設された突起部が係止して光コネクタを一体的に連結するための係止部と、この係止部に対して光コネクタの突起部を着脱するための着脱手段と、前記本体に取り付けられて牽引索を接続するための接続手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明においては、予め管路の両端に跨がって通された牽引索の先端を牽引治具の接続手段に取り付け、牽引治具を牽引索に連結する。さらに、この牽引治具の本体の開口部から光ファイバコードの先端に取り付けられた光コネクタを本体内に差し込み、着脱手段により光コネクタの突起部を係止部に係止させ、牽引治具に対して光コネクタを一体的に連結する。しかる後、光ファイバコードが引き出される管路の一端側から牽引索を引っ張り、管路の他端から牽引治具と共に光ファイバコードの先端を管路内に引き込む。このようにして管路の一端から牽引治具に連結された光ファイバコードの先端側を引き出した後、着脱手段により牽引治具の係止部に対する光コネクタの突起部の係合を解除して光コネクタから牽引治具を抜き外す。これにより、管路内に光ファイバコードが配設された状態となる。
【0008】
本発明による光ファイバコード牽引治具において、係止部は、本体に形成されて光コネクタの突起部が係止する係止穴部を有し、着脱手段は、係止穴部と開口部とに連通するように本体に対する光コネクタの抜き差し方向に沿って本体に形成された案内スリット部と、この案内スリット部の延在方向と交差するように本体に形成されて一端が係止穴部に連通する切欠き部とを有するものであってよく、これにより案内スリット部の幅が拡がるように開口部と切欠き部との間に位置する本体を弾性変形させ、案内スリット部に対する光コネクタの突起部の通過を可能とすることができる。さらに、本体の一端側に位置する案内スリット部の幅を開口部に向けてテーパ状に拡げることが好ましい。
【0009】
接続手段が本体の他端側に取り付けられ、この本体の他端側が先細り形状となっていることが好ましい。この場合、接続手段が牽引索を取り外し可能に接続するための接続金具を有し、この接続金具は、本体の他端部に取り付けられたピンに対して揺動自在に連結された第1のリンクと、この第1のリンクに対してピンの軸線と直交する軸線回りに回動自在に連結された第2のリンクとを有することができる。
【0010】
本体の少なくとも光コネクタを囲む部分を板金にて形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ファイバコード牽引治具によると、光コネクタを抜き差しするための開口部を一端に有し、光コネクタを収容するための筒状をなす本体と、光コネクタに突設された突起部が係止して光コネクタを一体的に連結するための係止部と、この係止部に対して光コネクタの突起部を着脱するための着脱手段と、本体に取り付けられて牽引索を接続するための接続手段とを具えているので、牽引治具と光ファイバコードとを連結した場合、牽引治具の本体内に光コネクタが収容された状態となり、牽引方向に沿って直線状をなす可撓性のない部分の長さを最少に抑えることができる。このため、曲率半径の小さな管路内で光ファイバコードを牽引する場合、従来のものよりもその引っ掛かりを少なくすることができる。しかも、本体の内壁とこの本体に差し込まれる光コネクタとの間に大きな隙間を形成する必要がないので、牽引方向に対して直交する面内での本体の輪郭形状を最少に抑えることができ、従来のものよりも少ない抵抗で容易に光ファイバコードを牽引することが可能である。
【0012】
本体に形成されて光コネクタの突起部が係止する係止穴部を係止部が有し、係止穴部と開口部とに連通するように本体に対する光コネクタの抜き差し方向に沿って本体に形成された案内スリット部と、この案内スリット部の延在方向と交差するように本体に形成されて一端が係止穴部に連通する切欠き部とを着脱手段が有する場合、案内スリット部の幅が拡がるように開口部と切欠き部との間に位置する本体を弾性変形させて案内スリット部に対し光コネクタの突起部を通過させることができる。
【0013】
本体の一端側に位置する案内スリット部の幅が開口部に向けてテーパ状に拡がっている場合、開口部から光コネクタを本体内に差し込む際に、光コネクタの突起部によって本体を弾性変形させ、案内スリット部を容易に押し拡げることができる。
【0014】
接続手段が本体の他端側に取り付けられ、この本体の他端側が先細り形状となっている場合、光ファイバコードの牽引中に管路の内壁に対する本体の他端部の引っ掛かりを少なくすることができる。
【0015】
接続手段が牽引索を取り外し可能に接続するための接続金具を有し、接続金具が本体の他端部に取り付けられたピンに対して揺動自在に連結された第1のリンクと、この第1のリンクに対してピンの軸線と直交する軸線回りに回動自在に連結された第2のリンクとを有する場合、牽引索による牽引治具の牽引方向を管路に沿って自由に変えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による光ファイバコード牽引治具の一実施形態について、図1〜図5を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施形態のみに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、従って本発明の精神に帰属する他の任意の技術にも当然応用することができる。
【0017】
本実施形態における光ファイバコード牽引治具(以下、単に牽引治具と略称する)の平面形状を対応する光ファイバコードと共に図1に示し、そのII−II線に沿った牽引治具10の断面構造を光ファイバコード11と共に図2に示し、牽引治具10の外観を図3に示す。
【0018】
光ファイバコード11の先端に一体的に取り付けられた本実施形態における光コネクタ12は、JIS C 5973にて規定されたF04形単心光ファイバコネクタ(IEC 60874-14,ICE 60874-19に相当)と呼称されるものであり、いわゆるSCコネクタに相当する。この光コネクタ12は、上面に突起部13が形成されたほぼ矩形のコネクタ本体14と、先端部がコネクタ本体14の先端面から突出するようにコネクタ本体14に組み込まれたフェルール15とを具えている。コネクタ本体14から突出するフェルール15は、コネクタ本体14内に組み込まれたばねによるばね力に抗してコネクタ本体14内に押し戻すことができるようになっている。光ファイバ16(図5参照)は、このフェルール15の中央部に挿通され、光ファイバコード11へと導かれている。図1に示す状態において、光コネクタ12の抜き差し方向(図1中、左右方向)に沿って細長く形成された突起部13の先端側は、半円弧状となっている。
【0019】
なお、光コネクタ12自体の構造は、上述したような突起部13がコネクタ本体14に形成されたものでありさえすれば、如何なる内部構造を有するものであっても基本的に構わない。
【0020】
本発明においては、このような光コネクタ12に形成された突起部13を利用し、牽引治具10との連結を行うようにしている。すなわち、本実施形態における牽引治具10は光コネクタ12を抜き差しするための開口部17を一端に有し、光コネクタ12を収容するための矩形の筒状をなす治具本体18と、光コネクタ12に突設された突起部13が係止して光コネクタ12を一体的に連結するための係止部19と、この係止部19に対して光コネクタ12の突起部13を着脱するための着脱手段20と、治具本体18に取り付けられて図示しない牽引索を接続する本発明の接続手段としての接続金具21とを具えている。
【0021】
本実施形態における治具本体18は、ステンレス鋼の薄板を矩形のカップ形に深絞りしたものであり、この牽引治具10と光コネクタ12とを連結した図4およびそのV−V矢視断面形状を表す図5に示す状態において、牽引治具10の外寸、つまり抜き差し方向に沿った直線部の長さおよびこれと直交する方向の幅が可能な限り小さくなるように、その内寸は光コネクタ12の治具本体18の外寸に対して僅かな遊びのみが形成されるように作られている。治具本体18の他端側には、中央部を二股状に切り欠いたブラケット22が一体的に接合されている。このブラケット22の先端側(図1中、左側)は、図1に示す状態において半円弧状に形成され、本発明において言う先細り形状となっている。このような先細り形状を採用することにより、牽引時に牽引治具10が管路の内壁に引っ掛かるような不具合を少なくすることが可能である。
【0022】
本実施形態における係止部19は、治具本体18に形成されて光コネクタ12の突起部13が係止する係止穴部23を有し、この係止穴部23は突起部13の輪郭形状に対応した形状を持つ。また、本実施形態における着脱手段20は、係止穴部23と開口部17とに連通するように治具本体18に対する光コネクタ12の抜き差し方向に沿って治具本体18に形成された案内スリット部24と、この案内スリット部24の延在方向と交差するように治具本体18に形成されて一端が係止穴部23に連通する切欠き部25とを有する。
【0023】
従って、案内スリット部24の幅が拡がるように開口部17と切欠き部25との間に位置する治具本体18を弾性変形させることにより、案内スリット部24に対する光コネクタ12の突起部13の通過を可能としている。本実施形態では、治具本体18の一端側に位置する案内スリット部24の幅が開口部17に向けてテーパ状に拡がっており、開口部17から光コネクタ12を治具本体18内に差し込む際に、光コネクタ12の突起部13によって治具本体18を強制的に弾性変形させ、案内スリット部24の幅を容易に押し拡げることができるようになっている。係止穴部23に対して嵌合係止状態にある突起部13の係合を解除して牽引治具10から光コネクタ12を抜き外す場合、開口部17と切欠き部25との間に位置する治具本体18を指で挟んで案内スリット部24の幅が突起部13の幅以上に拡がるように弾性変形させることにより、治具本体18から光コネクタ12を抜き外すことが可能となる。
【0024】
このように、光コネクタ12の突起部13を利用して牽引治具10と光コネクタ12とを連結しているため、牽引治具10の外寸を従来のものよりも小さくすることが可能であり、従来のものよりも狭くかつ曲率半径の小さな管路に対して牽引治具10を挿通させることができる。
【0025】
なお、案内スリット部24の幅寸法(図1中、上下方向に沿った空隙の間隔)を突起部13の幅寸法よりも小さく設定する必要があるけれども、上述した治具本体18の弾性変形が無理なく行われるように、その幅を適切に設定することが望ましい。
【0026】
治具本体18の他端側にあるブラケット22に連結された接続金具21には、牽引索が取り外し可能に接続される。本実施形態における接続金具21は、いわゆるスイベルジョイントと呼称されるものであり、ブラケット22に取り付けられたピン26に対して揺動自在に連結された第1のリンク27と、この第1のリンク27に対してピン26の軸線と直交する軸線回りに回動自在に連結された第2のリンク28とを有する。各リンク27,28は共に環状をなし、第1のリンク27の基端側はブラケット22に形成された切欠き29内に収容された状態でピン26と直交する方向に変位可能である。第2のリンク28が連結軸30を介して第1のリンク27に対し回動自在になっているため、牽引中の牽引索と光ファイバコード11とが相対回転して牽引索に縒りが発生したとしても、この縒りがなくなるように牽引索を回転する(ねじる)ことにより、光ファイバコード11側に望ましくないねじり応力が作用するのを未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による光ファイバコード牽引治具の一実施形態の外観を光ファイバコードと共に表す平面図である。
【図2】図1中のII−II矢視に沿った光ファイバコード牽引治具の内部構造を表す断面図である。
【図3】図1および図2に示した光ファイバコード牽引治具の外観を表す立体投影図である。
【図4】光ファイバコード牽引治具と光ファイバコードとを連結した状態における図1に対応した平面図である。
【図5】図4中のV−V矢視に沿った光ファイバコード牽引治具の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 牽引治具
11 光ファイバコード
12 光コネクタ
13 突起部
14 コネクタ本体
15 フェルール
16 光ファイバ
17 開口部
18 治具本体
19 係止部
20 着脱手段
21 接続金具
22 ブラケット
23 係止穴部
24 案内スリット部
25 切欠き部
26 ピン
27 第1のリンク
28 第2のリンク
29 切欠き
30 連結軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に光コネクタが取り付けられた光ファイバコードを牽引するための牽引治具であって、
光コネクタを抜き差しするための開口部を一端に有し、光コネクタを収容するための筒状をなす本体と、
光コネクタに突設された突起部が係止して光コネクタを一体的に連結するための係止部と、
この係止部に対して光コネクタの突起部を着脱するための着脱手段と、
前記本体に取り付けられて牽引索を接続するための接続手段と
を具えたことを特徴とする光ファイバコード牽引治具。
【請求項2】
前記係止部は、前記本体に形成されて光コネクタの突起部が係止する係止穴部を有し、前記着脱手段は、前記係止穴部と前記開口部とに連通するように前記本体に対する光コネクタの抜き差し方向に沿って前記本体に形成された案内スリット部と、この案内スリット部の延在方向と交差するように前記本体に形成されて一端が前記係止穴部に連通する切欠き部とを有し、前記案内スリット部の幅が拡がるように前記開口部と前記切欠き部との間に位置する前記本体が弾性変形して前記案内スリット部に対する光コネクタの突起部の通過を可能としたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバコード牽引治具。
【請求項3】
前記本体の一端側に位置する前記案内スリット部の幅が前記開口部に向けてテーパ状に拡がっていることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバコード牽引治具。
【請求項4】
前記接続手段が前記本体の他端側に取り付けられ、前記本体の他端側が先細り形状となっていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の光ファイバコード牽引治具。
【請求項5】
前記接続手段は、牽引索を取り外し可能に接続するための接続金具を有し、この接続金具は、前記本体の他端部に取り付けられたピンに対して揺動自在に連結された第1のリンクと、この第1のリンクに対して前記ピンの軸線と直交する軸線回りに回動自在に連結された第2のリンクとを有することを特徴とする請求項4に記載の光ファイバコード牽引治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−328290(P2007−328290A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161376(P2006−161376)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】