説明

光ファイバジャイロ

【課題】ロックイン現象を抑制できる光ファイバジャイロを提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバジャイロは、1本の閉じた光路20を構成する半導体光増幅器11と光ファイバ12とを備える。半導体光増幅器11によって光路20を互いに逆方向に進行する2つのレーザ光L1およびL2が励起される。レーザ光の波長における、光路内のすべての反射源の反射率の合計γは、以下の式(A)を満たす。


[式中、n0は前記光路の平均屈折率である。Lは前記光路の長さである。cは光の速度である。γ12は損失局在を特徴づける量である。gは半導体光増幅器と光ファイバとを含むリングレーザの実効利得を表す。ψは任意の角度を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
回転する物体の回転角速度を検出するためのジャイロの中でも、リングレーザジャイロは精度が高いという特徴を有する。従来のリングレーザジャイロの一例では、多角環状の光路を互いに逆方向に進む2つのレーザ光の周波数差を用いて角速度の検出が行われる。このようなジャイロとして、希ガスレーザを用いたジャイロが提案されている(たとえば特許文献1参照)。このジャイロでは、同じ経路を互いに逆方向に周回するレーザ光を取り出して干渉縞を形成させる。しかし、希ガスレーザを用いたジャイロは、駆動に高電圧が必要で消費電力が大きいという課題、および、装置が大きく熱に弱いという課題を有していた。
【0003】
このような課題を解決するジャイロとして、光ファイバと光増幅素子とを用いた光ファイバジャイロが提案されている(たとえば特許文献2参照)。光ファイバジャイロでは、リング状の光ファイバを互いに逆方向に進行する2つのレーザ光のビート周波数から回転角速度を求める。
【特許文献1】特開平11−351881号公報
【特許文献2】特開平7−146150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リングレーザジャイロでは、通常、リングレーザ内を逆方向に進行する2つのレーザ光の周波数が同期するロックイン現象が生じる。このロックイン現象は、2つのレーザ光の発振周波数の差が小さいときに特に問題となる。そのため、従来のリングレーザジャイロでは、回転角速度が小さいときにはサニャック効果によるビート信号の出力が実質的にゼロになり、回転角速度を検出できなくなるという問題があった。
【0005】
このような状況において、本発明は、ロックイン現象を抑制できる光ファイバジャイロを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために検討した結果、本件発明者らは、光路内の反射条件を所定の範囲とすることによってロックイン現象を抑制できることを新たに見出した。このようなアプローチは従来全く考慮されておらず、本発明は、全く新たな視点からロックイン現象を抑制することを可能にするものである。
【0007】
すなわち、本発明の光ファイバジャイロは、1本の閉じた光路を構成する半導体光増幅器と光ファイバとを備え、前記半導体光増幅器によって前記光路を互いに逆方向に進行する2つのレーザ光が励起される光ファイバジャイロであって、前記レーザ光の波長における前記光路内のすべての反射源の反射率の合計γが、以下の式(A)を満たす。
【0008】
【数2】

【0009】
[式中、n0は前記光路の平均屈折率である。Lは前記光路の長さである。cは光の速度である。γ12は損失局在を特徴づける量である。gは前記半導体光増幅器と前記光ファイバとを含むリングレーザの実効利得を表す。ψは任意の角度を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロックイン現象の影響を受けない光ファイバジャイロが得られる。本発明のジャイロによれば、回転角速度が小さい領域においても、回転角速度を求めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について例を挙げて説明する。ただし、本発明は以下で述べる例には限定されない。以下の説明において特定の材料や特定の数値を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の材料や他の数値を適用してもよい。
【0012】
[光ファイバジャイロ(光ファイバジャイロ素子)]
本発明の光ファイバジャイロは、1本の閉じた光路を構成する半導体光増幅器(SOA)と光ファイバとを備える。すなわち、本発明のジャイロは、半導体光増幅器と光ファイバとを含むファイバリングレーザを備える。ここで、閉じた光路(以下、「閉光路」という場合がある)とは、その光路を進行する光がその光路を周回することが可能な1本の光路を意味する。閉光路には、半導体光増幅器および光ファイバ以外の光学素子が含まれてもよい。
【0013】
本発明のジャイロでは、半導体光増幅器によって閉光路を互いに逆方向に進行する2つのレーザ光が励起される。そして、それらのレーザ光の波長における、閉光路内のすべての反射源の反射率の合計γが、以下の式(A)を満たす。
【0014】
【数3】

【0015】
[式中、n0は閉光路の平均屈折率である。Lは閉光路の長さ(単位:m)である。cは光の速度(単位:m/s)である。γ12は損失局在を特徴づける量(単位:s-1)である。gは半導体光増幅器と光ファイバとを含むリングレーザの実効利得(単位:s-1)を表す。ψは任意の角度を表す。]
【0016】
なお、ジャイロの回転角速度が変化すると2つのレーザ光の波長はそれぞれ変動するが、その変動はわずかである。そのため、式(A)の反射率γは、ジャイロが回転していないときの発振波長λにおける反射率とみなしても問題ない。
【0017】
maxは、ψが任意の角度をとったときにmax以下に示される式が取り得る最大値を返す。γ12およびgの詳細については後述する。
【0018】
本発明の効果が得られる限り、半導体光増幅器および光ファイバに限定はなく、公知のものを用いてもよい。たとえば、半導体光増幅器として、主にIII−V族化合物半導体で形成され、発振波長が0.4μm〜6.6μmの範囲にある半導体光増幅器を用いてもよい。また、光ファイバとして、発振波長における損失が小さい石英ガラス系の光ファイバを用いてもよい。
【0019】
本発明のジャイロは、閉光路を周回する2つのレーザ光の周波数差を検出するための検出手段を含む。たとえば、本発明のジャイロは、閉光路を周回するレーザ光の一部を閉光路から取り出すための取り出し手段と、取り出した光を検出する受光素子とを含むことができる。取り出し手段は、閉光路を周回する2つのレーザ光のうちの一方の一部、または、2つのレーザ光の両方の一部を、閉光路から取り出す。また、本発明のジャイロは、検出手段から出力される信号を解析するための解析手段や、半導体光増幅器を駆動・制御するための電源および制御手段を含むことができる。
【0020】
取り出し手段には、たとえば結合器(カプラ)を用いることができる。結合器は、たとえば、閉光路を形成する光ファイバに他の光路(たとえば光ファイバ)を隣接させることによって実現できる。受光素子には、フォトダイオードなどの素子を用いることができる。解析手段および制御手段には、スペクトルアナライザおよび演算処理装置(および必要に応じて補助メモリ)を用いることができる。演算処理装置には、たとえばパーソナルコンピュータを用いてもよい。
【0021】
閉光路内のすべての反射源の反射率の合計γが大きすぎると、低回転角速度領域において、回転角速度の検出が難しくなる場合がある。そのため、式(A)を満たす限り、反射率の合計γは小さいことが好ましい。具体的には、角速度Ωを検出する場合、反射率の合計γが、以下の式を満たすことが好ましい。
【0022】
【数4】

【0023】
上記式において、Ωは回転角速度(単位:rad/s)を示し、cは光の速度(単位:m/s)を示し、λはレーザの発振波長(単位:m)を示す。また、Aは、閉光路内の面積(単位:m2)を示す。光ファイバが面積Sの形状の外周をn回周回している場合も、A=Sで計算される。
【0024】
本発明のジャイロでは、光ファイバが第1の光ファイバと第2の光ファイバとを含んでもよい。そして、第1の光ファイバと第2の光ファイバとの結合部に、第1および第2の光ファイバの屈折率(光路の実効屈折率)とは異なる屈折率を有する媒体が存在してもよい。第1の光ファイバと第2の光ファイバとは、通常、同じ構造・屈折率を有する。第1の光ファイバと第2の光ファイバとの間に存在する媒体は、空気(ギャップ)であってもよいし、無機物質や有機物質であってもよい。そのような媒体を光路に配置することによって、第1の光ファイバと媒体との界面、および第2の光ファイバと媒体との界面で反射が生じる。そのため、媒体の屈折率を調整することによって、上記式(A)を満たすように閉光路内の反射率の合計γを変化させることができる。
【0025】
以下、上記式(A)を満たすことによってロックイン現象が抑制される理由について説明する。
【0026】
[基礎方程式:Maxwell-Bloch方程式]
回転角速度ωで回転するリングレーザにおけるレーザ光は、回転座標系において導出されたマクスウェル(Maxwell)方程式とレーザ媒質の時間発展を記述するブロッホ(Bloch)方程式とを結合させたMaxwell-Bloch方程式によって、以下のように記述することができる。
【0027】
【数5】

【0028】
【数6】

【0029】
【数7】

【0030】
ここで、式(1)がリング共振器内部の光を記述するMaxwell方程式であり、式(2)および(3)がレーザ媒質を記述するBloch方程式である。
【0031】
式(1)において、sは回転角速度Ωで回転するリング共振器の座標系を記述する変数である。c、n(s)、β(s)およびR(=L/(2π))はそれぞれ、光速度、リング共振器内部の屈折率、損失、およびリング共振器の半径である。そして、式(1)の最後の項は、レーザ媒質の分極ρ(s,t)からの寄与を表している。N(s)とκはそれぞれ、キャリア密度と結合係数である。一方、Bloch方程式(2)および(3)におけるγとγとは、それぞれ、横の緩和定数および縦の緩和定数である。そして、Wはレーザ媒質の分布反転を表す。ωtは、レーザ媒質の遷移周波数を表す。
【0032】
[反射源を持つリング共振器におけるサニャック効果の導出]
Maxwell-Bloch方程式(1)〜(3)を解析するために重要な点は、リング共振器の固有モードを求めることである。その固有モードは、式(1)の吸収項β、分極項ρを無視したMaxwell方程式(1)から導出することができる。
【0033】
【数8】

【0034】
ここで、電場E(s,t)が以下の式(a)のように、ある振動数ω(Ω)で安定振動していることを仮定した。
【0035】
【数9】

【0036】
固有モードは、周期的境界条件U(s)=U(s+L)の下、式(4)を解くことにより導出される。以下、固有モードは以下の規格化直交条件(b)を満足するものと考える。
【0037】
【数10】

【0038】
式(b)において、Lはリング共振器長である。また、n02は、空間平均された屈折率であり、以下の式(c)で表される。
【0039】
【数11】

【0040】
回転角速度Ωが0の時、式(4)は通常のヘルムホルツ(Helmholtz)方程式(d)になる。
【0041】
【数12】

【0042】
ここで、ωj(0)とUj0(s)は、それぞれ、番号jで表される回転していないリング共振器の固有周波数と固有モードの波動関数である。特に、屈折率変化がない場合(n(s)=n0=一定)、その固有モードの波動関数はリング上の光路に沿った時計回りと反時計回りの回転波として表現され、量子数mで特徴づけられた固有周波数ω0(=cκ0)=2πmc/(n0L)を持って縮退する。しかし、そのような縮退した時計回りと反時計回りの回転波状態は屈折率変化がある場合(Δn2(s)=n2(s)−n02≠0)に対しても固有モードになるわけではない。この場合、屈折率変化の凹凸が後方散乱する要因となるため、時計回りと反時計回りの回転波を結合させて固有モードの波動関数を定在波に変化させる。そして、縮退した固有周波数は2つの異なる周波数にスプリットする。特に屈折率変化Δn2(s)が充分小さい場合、その周波数スプリットΔω0[=ω1(0)−ω2(0)]は後方散乱強度γと以下の式(5)のように関係づけることができる。
【0043】
【数13】

【0044】
そして、その異なる周波数を持つ2つの定在波モードは、以下の式(6)のように表現される。
【0045】
【数14】

【0046】
次に、共振器を回転させた場合を考える。回転は上記の定在波モードに影響を与えて、その固有周波数をシフトさせる効果を持っている。その効果は、近縮退状態に対する摂動論を用いて示すことができる。その摂動論によれば、回転するリング共振器における固有モードは、以下に示す2つの定在波モードの重ね合わせによって表現することができる。
【0047】
【数15】

【0048】
ここで、係数c1とc2は以下のように与えられる。
【0049】
【数16】

【0050】
それから、固有モードj(j=1,2)の周波数ωj(Ω)は、以下のようになる。
【0051】
【数17】

【0052】
【数18】

【0053】
ここで、Δω0は回転していない場合のリング共振器の固有モードの周波数差である。そして、S(式中、ハットつき)はいわゆるスケールファクタであり、以下の式(e)で表される
【0054】
【数19】

【0055】
式(9)と(10)から、最後に周波数差ΔfΩ=|Δω2(Ω)−Δω1(Ω)|/(2π)を以下のように得ることができる。
【0056】
【数20】

【0057】
ここで、SおよびΔf0は以下のように表される。
【0058】
【数21】

【0059】
[ロックイン現象の解析]
次に、前節で求めた固有モードUj(s)に基づいて、Maxwell-Bloch方程式(1)〜(3)を解析することで、ロックイン現象の発生とその回避条件を導出する。その解析にあたり、電場E(s,t)が、以下の式(12)のように表現できることを仮定する。
【0060】
【数22】

【0061】
ここで、Ejとφj∈Reは、それぞれ、モードjの強度と位相を表す。それから、周波数ω0が、利得媒質の遷移周波数ωtに非常に近いことを仮定する(|ω0−ωt|/ωt≪1)。この仮定のもと、式(2)と(3)を、摂動論を用いて解くことで、以下を得る。
【0062】
【数23】

【0063】
ここで、α0およびβ0は、以下で表される。
【0064】
【数24】

【0065】
aは、レーザ媒質を構成する原子(分子)の密度である。Θ(s)はレーザ媒質中で1、その他の領域で0となるステップ関数である。そして、それらの分極ρと分布反転WをMaxwell方程式(1)に代入して、以下の規格化直交条件を用いて解くことで、強度Ejに対する方程式(13)を得ることができる。
【0066】
【数25】

【0067】
【数26】

【0068】
ここで、ネットゲイン(実効利得)gj、自己飽和係数sj、交差飽和係数c12などを含めたパラメータの定義を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
jc、Mjs、およびMjバーは、位相差Ψ=(φ2−φ1)で強度を変調させる役割をもつ項であり、以下のように表される。
【0071】
【数27】

【0072】
ここで、θγ、θj、およびθχはそれぞれ、γ12、ξjおよびχの位相部分である。一方、位相差Ψ(=φ2−φ1)のダイナミクスは以下のように表現される。
【0073】
【数28】

【0074】
ここで、ΔωΩ(=ω2(Ω)−ω1(Ω))は、式(11)で示される2つのモード間の周波数差である。Hは位相差Ψに対して周期2πの関数であり、電場強度が充分小さい場合に、以下のように表される。
【0075】
【数29】

【0076】
式(13)と式(17)で表現される解は、主に2つに分類することができる。1つは、定常的な強度と位相差を持つ状態を表す解であり、もう1つは、位相差が時間的に変化して、変調項を通じて強度が変調される状態を表す解である。その2つのどちらの状態が得られるかは、位相差の時間変化を記述する式(17)を調べることで、知ることができる。
【0077】
式(17)は、よく知られた同期方程式と同じ形である。これは式(17)の解が、ΔωΩとmax|H(Ψ)|の相対的な大きさに依存することを意味している。ここで、max|H(Ψ)|は関数|H(Ψ)|の最大値であり、dEi/dt=0の下、式(13)を解くことで得られる。たとえば、ΔωΩ<max|H(Ψ)|の場合、式(17)はdΨ/dt=0で与えられる定常解を持つ。そのΨの定義から、条件dΨ/dt=0は2つの固有モード間の周波数差がゼロになること、つまり、ロックイン現象が生じることを意味している。一方で、条件ΔωΩ≫max|H(Ψ)|が満足された場合には、同期現象は発生しない。従って、位相差Ψは近似的に以下のように記述できる。
【0078】
【数30】

【0079】
そして強度Ej(j=1,2)は、周波数ΔωΩで変調される。最も重要な点は、周波数差ΔωΩが回転角速度Ωだけでなく、後方散乱の強度γに依存していることである。これはリング共振器中に後方散乱源がある場合に、周波数差ΔωΩが決してゼロにならないこと、そして、後方散乱により生じた周波数スプリットΔω0がmax|H(Ψ)|Ω=0よりも大きい場合にロックイン現象は生じないことを意味する。よって、ロックイン現象回避条件は以下のように求めることができる。
【0080】
【数31】

【0081】
Δωcは、式(6)によって記述される固有モードを用いて定常条件dEi/dt=0を課した式(13)を解くことで以下のように表現することができる。
【0082】
【数32】

【0083】
ここで、K=s/χ+2≒5である。最後に式(5)を使えば、後方散乱強度γで表現されるロックイン現象回避条件は、上述した式(A)と同じ結果を示す以下の式(21)で表される。
【0084】
【数33】

【0085】
[実施形態1]
以下、図面を参照しながら本発明のジャイロの一例について説明する。実施形態1のジャイロの構成を、図1に模式的に示す。
【0086】
図1のジャイロ10は、半導体光増幅器(SOA)11、光ファイバ12、光ファイバ13、カプラ(結合器)14、フォトダイオード15、スペクトルアナライザ(Single-pass Amplifier)16、および制御・分析装置17を備える。半導体光増幅器11には、電源18が接続されている。半導体光増幅器11と光ファイバ12とは、閉光路20を形成している。
【0087】
電源18は制御・分析装置17によって制御される。電源18によって半導体光増幅器11に電流が注入されると、閉光路20を時計回りに周回する第1のレーザ光L1と、閉光路20を反時計回りに周回する第2のレーザ光L2とが生じる。ジャイロ10が回転すると、サニャック効果によって、レーザ光L1の周波数とレーザ光L2の周波数との間に差が生じる。この周波数差に基づくビート信号の成分は、閉光路20から取り出されたレーザ光L1に含まれる。そのため、閉光路20からカプラ14によって取り出されたレーザ光L1をフォトダイオード15で検出することによって、ビート信号を検出できる。カプラ14は、たとえば、光ファイバ12と光ファイバ13とをほぼ平行に近接して配置するものであってもよい(以下のカプラでも同様である。)。フォトダイオード15からの出力は、スペクトルアナライザ16で分析されて制御・分析装置17に入力される。制御・分析装置では、入力された信号に基づいて回転角速度が算出される。
【0088】
ジャイロ10を実際に作製し、回転テーブルの上にジャイロ10を載せて評価した。作製したジャイロ10について、物性を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2の「半導体光増幅器と光ファイバとの間の反射率γ」は、半導体光増幅器11と光ファイバ12との間の反射率の合計を示している。半導体光増幅器11と光ファイバ12とは、マイクロレンズを介して結合させた。また、両者の間の反射率を調整するために、半導体光増幅器11の端面に、反射防止コート(Anti-Reflectionコート)を施した。
【0091】
表2に示すγ12は、リング共振器の損失の合計以下となるため、リング共振器のトータルの損失を測定してそれ以下であるとした。表2に示す実効利得g(リングレーザの実効利得)は、半導体光増幅器11の微分利得係数を測定し、それを用いて算出した。
【0092】
また、上記表2の物性値を用いてビート信号の周波数を算出した。このとき、損失散乱係数γ12を104-1と仮定した。これらの物性値を用いて式(A)の右辺の計算をすると、ロックイン現象が生じうる最大の反射率γc(反射率γcは、閉光路内の反射率の合計)は、1×10-5であった。したがって、閉光路20における反射率の合計γは反射率γcよりも大きかった。
【0093】
実際の測定結果およびシミュレーションの結果を図2に示す。図2の横軸はジャイロの回転角速度であり、縦軸はビート信号の周波数である。図2に示すように、回転角速度が小さい領域でも、ビート信号の周波数の実測値はゼロにならなかった。このことは、作製したジャイロでロックイン現象が生じなかったことを示している。また、図2に示すように、実測値と計算値とはよい一致を示した。以上のことから、式(A)を満たすことによって、ロックイン現象を抑制できることが確認された。
【0094】
[実施形態2]
実施形態2では、光ファイバ12が2つ以上の光ファイバによって構成されており、それらの光ファイバ間に、光ファイバとは屈折率が異なる媒質が配置されているジャイロについて説明する。
【0095】
実施形態2のジャイロの構成を図3に示す。図3のジャイロ30は、光ファイバ12が、光ファイバ12aおよび12bに分かれている点で、図1のジャイロ10と異なる。光ファイバ12aおよび光ファイバ12bは、同じ構造を有し同じ材料からなる。光ファイバ12aと光ファイバ12bとの間には、それらの光ファイバとは屈折率が異なる媒質31が配置されている。本発明の効果が得られる限り、媒質31は、無機物であってもよいし、有機物であってもよいし、空気などの気体であってもよい。
【0096】
光ファイバ12と媒質31とは異なる屈折率を有するため、両者の界面では反射が生じる。媒質31の屈折率を調整することによって、閉光路における反射率が式(A)を満たすようにすることができる。
【0097】
媒質31が空気である場合の一例について図4に示す。図4のジャイロ40は、光ファイバ12の代わりに3つの光ファイバ41、42および43が用いられている点で、図1のジャイロ10と異なる。閉光路20は、半導体光増幅器11と、光ファイバ41〜43とによって構成されている。光ファイバ41と光ファイバ42、および光ファイバ42と光ファイバ43とは、それぞれ、カプラ44および45で結合されている。結合される2つの光ファイバの端面は、加工方法が異なる。たとえば、カプラ44において、光ファイバ41の端面はSPC(Super Physical Contact)研磨されており、光ファイバ42の端面はAPC(Angled Physical Contact)研磨されている。また、カプラ45において、光ファイバ42の端面はAPC研磨されており、光ファイバ43の端面はSPC研磨されている。
【0098】
光ファイバ41と光ファイバ42との結合部を、図5に模式的に示す。SPC研磨された光ファイバ41の端面は半球状の端面を有する。また、APC研磨された光ファイバ42の端面は、光軸に対して斜めに傾いた端面を有する。このように、端面形状が異なる2つの光ファイバを結合させた場合、図5に示すように両者の間にギャップ(空気層)が生じる。そのため、このギャップと光ファイバとの間において反射が生じる。平均屈折率が1.45の光ファイバを用いた場合、ギャップにおける反射率は、約0.033となる。このようなギャップを閉光路20上に形成することによって、式(A)を満足させることができる。なお、図4のジャイロ40では、閉光路20を構成する光ファイバが3本であるが、2本であってもよいし、4本以上であってもよい。
【0099】
上記実施形態のジャイロでは、2つのレーザ光のうちの一方のみを閉光路20から取り出して回転角速度を求めている。このような構成で回転角速度を求めることができることは、すでに特開2008−102057号公報において明らかにされている。
【0100】
一方、本発明のジャイロでは、閉光路20を互いに逆方向に進む2つのレーザ光をそれぞれ取り出し、それらを重ね合わせたのちにビート信号を検出してもよい。そのような構成のジャイロの一例を、図6に示す。
【0101】
図6のジャイロ60は、カプラ61および62を備える。カプラ61は、レーザ光L1およびレーザ光L2の一部を閉光路20から光ファイバ13に取り出す。カプラ62は、取り出されたレーザ光L1とレーザ光L2とを重ね合わせる。重ね合わされた2つのレーザ光によって生じるビート信号は、フォトダイオード15で検出される。図6のジャイロ60は、図1のジャイロ10と比較して、ビート信号の検出方法のみが異なる。図6に示すビート信号の検出方法は、実施形態2の構成にも適用できる。
【0102】
なお、本発明は、光ファイバ以外で構成された閉光路を備える他のジャイロに適用することも可能である。そのようなジャイロの一例は、1本の閉じた光路を互いに逆方向に進行する2つのレーザ光が励起されるリングレーザを備え、レーザ光の波長における光路内のすべての反射源の反射率の合計γが、上記式(A)を満たす。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、光ファイバジャイロに利用できる。本発明の光ファイバジャイロは、物体の回転角速度の検出が必要な様々な電子機器に適用できる。代表的な例としては、姿勢制御装置やナビゲーション装置、手ぶれ補正装置に利用できる。具体的には、本発明の光ジャイロ素子は、ロケットや飛行機などの航空機、自動車やバイクといった移動手段に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明のジャイロの一例について構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明のジャイロおよび他のジャイロについてシミュレーションを行った結果を示すグラフである。
【図3】本発明のジャイロの他の一例について構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明のジャイロのその他の一例について構成を模式的に示す図である。
【図5】図4に示したジャイロの一部を模式的に示す図である。
【図6】発明のジャイロのその他の一例について構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0105】
10、30、40、60 ジャイロ
11 半導体光増幅器(SOA)
12、12a、12b、13、41、42、43 光ファイバ
14、44、45、61、62 カプラ(結合器)
15 フォトダイオード
16 スペクトルアナライザ
17 制御・分析装置
18 電源
31 媒質
L1、L2 レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の閉じた光路を構成する半導体光増幅器と光ファイバとを備え、前記半導体光増幅器によって前記光路を互いに逆方向に進行する2つのレーザ光が励起される光ファイバジャイロであって、
前記レーザ光の波長における前記光路内のすべての反射源の反射率の合計γが、以下の式(A)を満たす、光ファイバジャイロ。
【数1】

[式中、n0は前記光路の平均屈折率である。Lは前記光路の長さである。cは光の速度である。γ12は損失局在を特徴づける量である。gは前記半導体光増幅器と前記光ファイバとを含むリングレーザの実効利得を表す。ψは任意の角度を表す。]
【請求項2】
前記光ファイバが第1の光ファイバと第2の光ファイバとを含み、
前記第1の光ファイバと前記第2の光ファイバとの結合部に、前記第1および第2の光ファイバの屈折率とは異なる屈折率を有する媒体が存在する請求項1に記載の光ファイバジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−300208(P2009−300208A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153976(P2008−153976)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】