説明

光ファイバドロップケーブル

【課題】支持線部とケーブル部と首部の寸法を最適化することで、敷設後にギャロッピング現象が起こらないようにした光ファイバドロップケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバドロップケーブル1は、断面長方形のケーブル部10と支持線部20と首部30とを有する。ケーブル部の短辺10Yの寸法aは2.0±0.2mm、長辺10Xの寸法bは3.1±0.2mmであり、ケーブル部10から支持線部20までのケーブルの全高をx、首部の高さをyとした場合、 y≦0.7524x−3.98292の条件式を満たしている。しかも、支持線部の外径が3.0mm以下、首部の高さが1.0mm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空配線された光ファイバケーブルから各ユーザー宅などへ光ファイバを引き落とす際に使用される光ファイバドロップケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、FTTH(Fiber To The Home)の発展により、各ユーザー宅などへの光ファイバの配線が頻繁に行われるようになってきた。その際、電信柱の近傍に配設された架空クロージャから各ユーザー宅への配線には、主に、特許文献1に記載されているような光ファイバドロップケーブルが使用されている。
【0003】
図8は光ファイバドロップケーブルの構造の一例を示す断面図である。この光ファイバドロップケーブル101は、第1の方向Xに平行な長辺(通称「長径」とも言う)を有すると共に第1の方向Xと直交する第2の方向Yに平行な短辺(通称「短径」とも言う)を有する断面略長方形のケーブル部110と、該ケーブル部110と平行に配設されてケーブル部110を支持する断面円形の支持線部120と、ケーブル部110及び支持線部120より薄く形成されてケーブル部110と支持線部120を一体に連結するくびれ状の首部130とを有している。
【0004】
ケーブル部110は、光ファイバ心線111と、この光ファイバ心線111の第1の方向Xにおける両側に光ファイバ心線111の長手方向に沿って配置された抗張力体112と、光ファイバ心線111及び抗張力体112を被覆する樹脂製のシース113とを備えている。支持線部120は、抗張力体としての断面円形の支持線(一般には鋼線)122と、支持線122を被覆する樹脂製のシース113とを備えている。
【0005】
ケーブル部110のシース113と支持線部120のシース113と首部130は、一体成形された樹脂によって構成されている。また、ケーブル部110のシース113の両外側面には、シース113を破って中の光ファイバ心線111の引き出しを容易にするためのノッチ118が形成されている。また、光ファイバ心線111と、2本の抗張力体112と、首部130と、支持線122は、ケーブル長手方向に垂直な面内の断面において一直線上に配列されている。
【0006】
ところで、この種の光ファイバドロップケーブル101は、図8に示す姿勢のように、支持線部120が上側に位置し、その下側にケーブル部110が垂れ下がった姿勢で架空配線されることにより、強い風が横から吹くときに、電線に着氷雪が付いたときのように、ギャロッピング現象を起こすことがある。
【0007】
ギャロッピングとは、送電線に雪や氷が付着した状態で強風が吹き寄せたときに、送電線が上下に激しく自励振動する現象のことである。光ファイバドロップケーブルにギャロッピング現象が起こると、通常の強風では起こりえない振動が継続するため、過張力によるケーブルの破断や伝送特性の低下、周囲の物に当たることでの破損などが懸念される。ギャロッピング発生の可能性の有無は、Den-Hartogの判定式のD値(後述)により判断でき、D値が負になると、ギャロッピングは起きないとされている。
【0008】
風圧に対する対策を講じた光ファイバドロップケーブルの例として、特許文献2や特許文献3には、風圧荷重の低減を図るためのケーブル構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−69900公報
【特許文献2】特開2003−227984号公報
【特許文献3】特許3854164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2や特許文献3に示すものは、風圧荷重の低減を図ることはできるかもしれないが、ギャロッピングについての考察はしていないので、ギャロッピング現象の発生を防ぐことまではできない可能性が大きい。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、支持線部とケーブル部と首部の寸法を最適化することで、敷設後にギャロッピング現象が起こらないようにした光ファイバドロップケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、長辺と短辺を有する断面長方形のケーブル部と、該ケーブル部と平行に配設されて前記ケーブル部を支持する支持線部と、前記ケーブル部及び前記支持線部より薄く形成されて前記ケーブル部と支持線部を一体に連結するくびれ状の首部とを有し、前記ケーブル部が、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に該光ファイバ心線の長手方向に沿って配置された抗張力体と、前記光ファイバ心線及び抗張力体を被覆する樹脂製のシースとを備え、前記支持線部が、抗張力体としての支持線と、この支持線を被覆する樹脂製のシースとを備えた光ファイバドロップケーブルにおいて、前記ケーブル部の短辺の寸法が2.0±0.2mm、長辺の寸法が3.1±0.2mmであり、前記ケーブル部から前記支持線部までのケーブルの全高をx、前記首部の高さをyとした場合、
y≦0.7524x−3.98292
の条件式を満たしており、しかも、前記支持線部の外径が3.0mm以下、前記首部の高さが1.0mm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ファイバケーブルによれば、断面長方形のケーブル部の短辺の寸法を2.0±0.2mm、長辺の寸法を3.1±0.2mmとし、ケーブル部から支持線部までのケーブルの全高をx、首部の第1の方向における高さをyとした場合に、
y≦0.7524x−3.98292
の条件式を満たすようにxとyの値を設定し、しかも、支持線部の外径を3.0mm以下、首部の高さを1.0mm以下に規制したので、ギャロッピング判定式のD値を負にすることができ、ギャロッピング現象が起きるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図2】強風時に氷雪が付着した送電線に起こるギャロッピング現象の説明図である。
【図3】送電線にギャロッピング現象が起きる可能性があるときの力の関係を示す拡大図である。
【図4】ギャロッピング判定式のD値が負になる光ファイバドロップケーブルのケーブル部から支持線部までの全高xと首部の高さyの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図6】本発明の実施例2の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図7】本発明の実施例3の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【図8】従来の光ファイバドロップケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は実施形態の光ファイバドロップケーブルの断面図、図2は送電線に起こるギャロッピング現象の説明図、図3は送電線にギャロッピング現象が起きる可能性があるときの力の関係を示す拡大図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の光ファイバドロップケーブル1は、第1の方向(通常の敷設状態のときの姿勢における高さ方向)Xに平行な長辺(通称「長径」とも言う)10Xを有すると共に第1の方向Xと直交する第2の方向Yに平行な短辺(通称「短径」とも言う)10Yを有する断面長方形のケーブル部10と、該ケーブル部10の第1の方向Xに隣接する位置にケーブル部10と平行に配設されてケーブル部10を支持する断面円形の支持線部20と、ケーブル部10及び支持線部20より薄く形成されてケーブル部10と支持線部20を一体に連結するくびれ状の首部30とを有している。
【0018】
ケーブル部10は、光ファイバ心線11と、この光ファイバ心線11の第1の方向Xにおける両側に光ファイバ心線11の長手方向に沿って配置された抗張力体12と、光ファイバ心線11及び抗張力体12を被覆する樹脂製のシース13とを備えている。支持線部20は、抗張力体としての断面円形の支持線(一般には鋼線)22と、支持線22を被覆する樹脂製のシース13とを備えている。
【0019】
ケーブル部10のシース13と支持線部20のシース13と首部30は、一体成形された樹脂によって構成されている。また、ケーブル部10のシース13の両外側面には、シース13を破って中の光ファイバ心線11を引き出すのを容易にするためのノッチ18が形成されている。また、光ファイバ心線11と、2本の抗張力体12と、首部30と、支持線22は、ケーブル長手方向に垂直な面内の断面において一直線上に配列されている。
【0020】
そして、ケーブル部10の短辺10Yの寸法aが2.0±0.2mm、長辺10Xの寸法bが3.1±0.2mmに設定されている。また、ケーブル部10から支持線部20までの第1の方向Xにおけるケーブルの全高をx、首部30の第1の方向Xにおける高さをyとした場合、
y≦0.7524x−3.98292
の条件式を満たすように、ケーブルの全高x、特に全高xを左右する支持線部20の径cや、首部30の高さyが設定されている。しかも、支持線部20の径cは3.0mm以下、首部30の高さyは1.0mm以下に設定されている。
【0021】
このような条件を満たすとき、風速40m/sの風を受けた場合にも、ギャロッピング判定式のD値(後述)が負になるから、ギャロッピング現象が起こらなくなる。
【0022】
ここで、一般に知られている送電線のギャロッピング現象の発生原理について、図2及び図3を参照しながら説明する。ギャロッピング現象は、図2に示すように、電線50に着氷雪52が付いて、そこに強い風の力(風圧)Fが作用した時、大振幅且つ低周波数で上下振動を繰り返す現象である。
【0023】
図3に示すように、電線50に着氷雪52が付いた状態で、側方から風の力(風圧)Fを受ける時、電線50には抗力FDと揚力FLが発生する。電線50が着氷雪52の付いていない断面円形の状態のときには、風に対して水平方向の抗力FDのみが発生し、揚力FLは発生しないため、上下振動を生じない。しかし、電線50に着氷雪52が付いた時は、電線が見かけ上非円形断面になるため、風を受けた場合に電線に抗力FD以外に揚力FLが発生する。その揚力FLにより発生した振動が自励振動になり、ギャロッピング現象へと発展する。これを式で表したのが、Den-Hartogの判定式であり、本発明はこの式を応用している。
【0024】
一般に、この種の光ファイバドロップケーブル1は、敷設後の状態で風を受けると、支持線22が軸(揺動中心)となって揺れ、支持線部20が風上側に位置し、ケーブル部10が風下側に流された姿勢となる。但し、重力の影響により、ケーブル部10の最高点は、支持線部20の最高点を超えることはない。ここでは、垂直真下にケーブル部10が垂れた状態(図1の実線で示すケーブル状態)を90°、水平に持ち上がった状態(図1の二点鎖線で示すケーブル状態)を0°とし、水平線に対するケーブル部10のなす角度をβ[deg]とする。
【0025】
風速V[m/s]を水平方向から受けた場合の光ファイバドロップケーブル1に発生する抗力FD[N]と揚力FL[N]を有限要素法により計算しD値を求めた計算方法を以下に示す。
【0026】
まず、抗力係数CDと揚力係数CLは次式より求められる。但し、ρは空気密度[kg/m3]、Anは風の吹く方向から見たケーブルの投影面積[m2]である。
【数1】

【数2】

【0027】
Tを空気の温度[℃]とすると、空気密度ρは次式で求められる。但し一般に空気温度Tは25℃で計算する。
【数3】

【0028】
また、角度αを、
【数4】

【0029】
と定義し、角度βを風の攻撃角として、Den-Hartogのギャロッピング判定式を求めると、次式のようになる。
【数5】

【0030】
この式のD値が正のとき、ギャロッピングの可能性があり、D値が負のとき、ギャロッピングの可能性が無いと判断する。
【0031】
例えば、ケーブル部のサイズa×bを2.0×3.1mmとし、首部30の高さyと支持線部22の径cを変化させたときのD値の計算結果を表1に示す。この表1には、光ファイバドロップケーブル1が風を受けて、0°から90°の範囲で揺れたときのD値の最大値が示されている。網掛け部のマスが正のD値、網掛け無しのマスが負のD値の範囲である。
【表1】

【0032】
表1でD値が負になるぎりぎりの条件を表2にまとめた。
【表2】

【0033】
この表2の首部の高さyとケーブルの全高xの関係を図4のグラフに示す。
【0034】
この関係から、
y≦0.7524x−3.98292
の条件式が導き出されている。図4の斜線で示す領域は、D値が負になる領域を表している。
【0035】
上の条件を満たすものとして、次のような実施例の光ファイバドロップケーブルが提供されている。
【実施例1】
【0036】
図5は実施例1の光ファイバドロップケーブルの断面図である。実施例1の光ファイバドロップケーブル1Aは、光ファイバ心線11として1心の光ファイバ心線を使用したもので、ケーブル部10の短径a×長径bのサイズが2.0×3.1mmとなっている。また、首部30の高さy=0.2mm、支持線部20の外径c=2.8mm、支持線22の径が1.2mm、ケーブルの全高x=6.1mmとされ、シース13の材質がPO(ポリオレフィン)、抗張力体12の材質がK−FRP(ケブラ繊維)とされたものである。
【実施例2】
【0037】
図6は実施例2の光ファイバドロップケーブルの断面図である。実施例2の光ファイバドロップケーブル1Bは、光ファイバ心線11として1心の光ファイバ心線を使用したもので、ケーブル部10の短径a×長径bのサイズが1.9×3.0mmとなっている。また、首部30の高さy=0.7mm、支持線部20の外径c=2.6mm、支持線22の径が1.2mm、ケーブルの全高x=6.3mmとされ、ケーブル部10と支持線部20のシース13が、PO製の外層13AとHDPE(高密度ポリエチレン)製の内層13Bとの2層構造とされ、抗張力体12の材質がK−FRP(ケブラ繊維)とされたものである。
【実施例3】
【0038】
図7は実施例3の光ファイバドロップケーブルの断面図である。実施例3の光ファイバドロップケーブル1Cは、光ファイバ心線11として2心の光ファイバ心線を使用したもので、ケーブル部10の短径a×長径bのサイズが2.1×3.2mmとなっている。また、首部30の高さy=0.1mm、支持線部20の外径c=2.2mm、支持線22の径が0.95mm、ケーブルの全高x=5.5mmとされ、シース13の材質がHDPE、抗張力体12の材質がK−FRP(ケブラ繊維)とされたものである。
【0039】
なお、上記実施例では、光ファイバ心線11と抗張力体12と支持線22を被覆するシース13が1層の場合と2層の場合を示したが、このシース13は、1層以上5層以下であるのが望ましい。
【0040】
また、上記実施例では、光ファイバ心線11が1心か2心の場合を示したが、2心以上8心以下の光ファイバ心線を有する光ファイバドロップケーブルとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、架空配線された光ファイバケーブルから各ユーザー宅などへ光ファイバを引き落とすのに適した光ファイバケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1A,1B,1C…光ファイバドロップケーブル
10…ケーブル部
10X…長辺(長径)
10Y…短辺(短径)
11…光ファイバ心線
12…抗張力体
13…シース
22…支持線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長辺と短辺を有する断面長方形のケーブル部と、該ケーブル部と平行に配設されて前記ケーブル部を支持する支持線部と、前記ケーブル部及び前記支持線部より薄く形成されて前記ケーブル部と支持線部を一体に連結するくびれ状の首部とを有し、
前記ケーブル部が、光ファイバ心線と、この光ファイバ心線の両側に該光ファイバ心線の長手方向に沿って配置された抗張力体と、前記光ファイバ心線及び抗張力体を被覆する樹脂製のシースとを備え、
前記支持線部が、抗張力体としての支持線と、この支持線を被覆する樹脂製のシースとを備えた光ファイバドロップケーブルにおいて、
前記ケーブル部の短辺の寸法が2.0±0.2mm、長辺の寸法が3.1±0.2mmであり、前記ケーブル部から前記支持線部までのケーブルの全高をx、前記首部の高さをyとした場合、
y≦0.7524x−3.98292
の条件式を満たしており、しかも、前記支持線部の外径が3.0mm以下、前記首部の高さが1.0mm以下であることを特徴とする光ファイバドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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