説明

光ファイバーコード

【課題】 ガラス心線の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる3層以上の被覆層を設けた光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードにおいて、上記単心線に用いる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物として、製造直後の初期引抜性に優れ、且つ長期間使用後、特に高温環境下で長期間使用された後における引抜安定性に優れる光ファイバーコードを提供する。
【解決手段】 ガラス心線の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる3層以上の被覆層を設けた光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードであって、
前記3層以上の被覆層の中で最も外側の層の加熱寸法変化率が+0.4%以上であることを特徴とする光ファイバーコード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3層以上の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜により被覆された光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーケーブルは大容量情報の伝送媒体として実用化され、現在光ファイバーケーブルによる広帯域情報通信網が建設されている。特に最近では家庭やオフィスビル等に直接光ファイバーを配線する必要から、多数の光ファイバーをできるだけコンパクトに実装したり、光ファイバーのケーブルからの取り出しや端末処理の取扱を容易にするための技術が必要となっている。光ファイバー心線とは、導波ガラスに光硬化型樹脂組成物等による単層被覆あるいは、1次被覆層及び2次被覆層を施したものであり、更にこの上に着色インキで着色した着色心線という形態がある。また、導波部がフッ素系プラスチック等のプラスチック光ファイバーや、光ファイバーユニットという複数の光ファイバー心線を同心円状あるいは平面状等に並べて、硬化型樹脂で一体化して束ねた形態もある。
【0003】
近年、光ファイバー心線を各家庭に配線する必要から、光ファイバーケーブルから容易に単線の光ファイバー素線が取り出せ、かつ活線分岐等により他の光ファイバーに悪影響を与えず、更に、取り出し後の素線としては、その取扱及び接続作業が容易である必要から、外径が250ミクロンを越える3層以上の活性エネルギー線硬化型被覆層を有する光ファイバー単心線が使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
このような3層以上の被覆層を有する光ファイバー単心線及びこれに用いられる被覆層には次のような性能が必要である。
(1)取扱時に破損しない十分な機械特性:機械特性
(2)取扱し易い十分な曲げ剛性:曲げ剛性
(3)取扱により伝送特性が劣化しないこと:伝送特性
(4)単心線同志が接触しても簡単に分離できるように表面タックがなく且つ相互に滑ること:表面滑り性
(5)製造中あるいは製造後の揮散分が少なく、雰囲気を汚染しないこと:非汚染性
(6)接続作業時に光ファイバー単心線の最も外側の被覆層(オーバーコート層)がその下の内層からストリッパー等の器具で破壊せず長く筒状に容易に除けること:引抜性
等が求められている。
【0005】
上記課題の中で(6)を改善することを目的として、ウレタン結合とアクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンと、ウレタン結合と非反応性の有機基を有するポリジメチルシロキサンと、ウレタン結合を含まないポリジメチルシロキサンを含有する液状硬化性樹脂組成物が開示されている(特許文献1参照)。更に、同様な目的で、ウレタン(メタ)アクリレ−トオリゴマーとフタル酸エステル又は脂肪酸エステルを含有する光ファイバー用被覆材料に関する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−010380号公報
【特許文献2】特開平10−287717号公報
【特許文献3】特開昭64−61336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、光ファイバー心線に対し耐熱性、耐屈曲性、耐薬品性などの物理的或いは化学的な耐久性を向上させるため、ポリエチレンやポリ塩化ビニル等の種々の熱可塑性樹脂で光ファイバー心線を被覆した光ファイバーコードが知られている(例えば、特許文献3参照)。このような光ファイバーコードの中には、上記のような3層以上の活性エネルギー線硬化型被覆層を有する光ファイバー単心線上にポリエチレン等の熱可塑性樹脂を被覆した光ファイバーコードがある。光ファイバーコードは、種々の環境下で使用されるが、敷設される場所によっては高温環境下に曝されることがある。光ファイバーコードを接続するには、熱可塑性樹脂の被覆層を剥がし、光ファイバー単心線のオーバーコート層を剥がす必要があるが、その際においても、上記の如く、オーバーコート層が長く筒状に除去できることが必要である。また、高温環境下で使用された場合のみではなく、種々の環境下で長期間使用された場合であっても、製造直後の引抜性(初期引抜性)が劣化することがあってはいけない(引抜安定性)。
【0008】
しかしながら、上記の各従来技術に記載された発明においては、初期引抜性は満足できるものであっても、長期間使用後、特に高温環境下で長期間使用された後における引抜安定性に欠けるものであった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ガラス心線の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる3層以上の被覆層を設けた光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードにおいて、上記単心線に用いる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物として、製造直後の初期引抜性に優れ、且つ長期間使用後、特に高温環境下で長期間使用された後における引抜安定性に優れる光ファイバーコードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、初期引き抜き性に優れた光ファイバーコードを高温環境下に長時間曝した場合の変化について、試験条件として85℃の環境下に7日間放置するテストを選択し、初期引き抜き性に優れた光ファイバーコードの変化について種々検討した。その結果、オーバーコート層として使用する活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化膜を85℃の環境下に7日間放置し、その前後の加熱寸法変化率がマイナス(−0.2%以下)になっている組成物、つまり0.2%よりも大きな収縮(マイナスの寸法変化)が認められる組成物は、引抜安定性が劣ることが判った。この収縮は、オーバーコート層中の離型剤、あるいは光重合性化合物の分解物等がオーバーコート層と接触する熱可塑性樹脂中に移行することにより引き起こされているものと推察している。
【0011】
本発明者等は、この収縮を防止するための添加物、及びその構造、或いはオーバーコート層を形成するためのモノマー及びオリゴマー等を検討した。その結果、
(I)オーバーコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中のウレタン結合濃度が1.0mol/kg以下であること、並びに
(II)オーバーコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物がバルキーな基である多環構造を有するモノマー又はオリゴマーを使用していること
のいずれか一つの手段、或いは双方の手段を用いることにより防止できることが判った。
【0012】
更に、詳細に検討すると、上記の手段を用いて、85℃の雰囲気中に60min曝露した際の加熱寸法変化率が+0.4%以上となる活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いると、85℃の環境下に7日間放置した後の加熱寸法変化が初期の寸法に対し−0.2%以下になることはないことを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、ガラス心線の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる3層以上の被覆層を設けた光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードであって、
前記3層以上の被覆層の中で最も外側の層の加熱寸法変化率が+0.4%以上であることを特徴とする光ファイバーコードを提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光ファイバーコードは優れた初期引抜性を示し、光ファイバーの接続作業時にオーバーコート層が破壊せず長く筒状に、且つ容易にその下の内層から除去することができる。また、熱可塑性樹脂を被覆する際に加熱され、その後長期間使用した後でも、特に高温環境下で長期間使用された後であっても初期引抜性が変化することが無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳しく説明する。なお、本明細書では、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸のことであり、アクリル酸又はメタクリル酸の誘導体についても同様である。
【0016】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物とは、放射線、電子線、紫外線等のエネルギー線の照射により硬化するものであり、通常ビニル基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基等の活性エネルギー線で反応する官能基を有する有機化合物を含有する組成物である。上記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が硬化し光ファイバーの被覆層を形成する。
【0017】
通常、光ファイバーは、導波ガラスに活性エネルギー線硬化型樹脂組成物等による単層被覆あるいは、1次被覆層及び2次被覆層を施したものであり、これを光ファイバー素線と呼ぶ。更に、この上に着色インキで着色した着色心線という形態がある。本発明における3層以上の被覆層を有する光ファイバー単心線とは、例えば、
(1)単層被覆の光ファイバー素線上に紫外線硬化型着色インキ層を設け、更にこの上層に最外層としてオーバーコート層を設けた光ファイバー単心線、
(2)1次被覆層及び2次被覆層を施した光ファイバー素線上に、直接最外層のオーバーコート層を設けた光ファイバー単心線、
(3)1次被覆層及び2次被覆層を施した光ファイバー素線に、紫外線硬化型着色インキ層を設け、更にこの上層に最外層としてオーバーコート層を設けた光ファイバー単心線、(4)(3)の光ファイバー素線に、二層構造のオーバーコート層を設けた光ファイバー単心線、
等が挙げられる。
本発明の光ファイバーコードとは、上記光ファイバー単心線の外側にポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂によるオーバーコート層を被覆した形態、あるいは複数の光ファイバー単心線に熱可塑性樹脂によるオーバーコート層を被覆して集合一体化した形態のものを言う。この光ファイバーコードは光ファイバー単心線以外に鋼線等のテンションメンバを含んでもよい。
【0018】
なお、3層以上の被覆層を有する光ファイバー単心線とは、好ましくは基本的にすべての被覆層が紫外線硬化型等の活性エネルギー線で硬化する樹脂組成物の硬化皮膜で構成されるものであり、例えば、厚さ70〜500μmの層(オーバーコート層)が、その下の層との界面で容易な引抜性(易引抜性)を有するものである。この良好な引抜性を有するオーバーコート層の厚さは、上記の厚さが好ましく、70μm以下では適切な曲げ剛性が得られない。特に外径が350〜800μmの場合には70μm以上が好ましい。また、光ファイバー用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物のヤング率は50〜1500MPa、好ましくは150〜1000、さらに好ましくは80〜600MPaである。この範囲であると引抜性が良好であり、また、適切な曲げ剛性が得られる。更に、上記オーバーコート層のTgは20〜180℃、好ましくは50〜160℃、更に好ましくは80〜150℃の範囲であることが適切な曲げ剛性と良好な引抜性が得られるので好ましい。オーバーコート層のTgが低いと、下層との密着が強くなり、またTgが高すぎたり低すぎたりすると被覆層の強靭性が失われ、引抜性が低下する。また、本発明の樹脂組成物は識別のための顔料、染料を含むものであってもよい。
【0019】
本発明で使用する光ファイバー用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にはラジカル重合性化合物として、以下のラジカル重合性オリゴマー、及びラジカル重合性モノマーを使用することができる。
【0020】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、末端にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性不飽和基を有する重量平均分子量300から30000の化合物で、通常ウレタンアクリレート又はエポキシアクリレートが用いられる。
【0021】
ウレタンアクリレートは、従来から一般的に用いられる方法により製造することができる。つまり、ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)と末端に重合性不飽和基と水酸基とを有する化合物(a3)から合成する方法、あるいはポリイソシアネート(a2)と末端に重合性不飽和基と水酸基とを含有する化合物(a3)から合成する方法等である。
【0022】
上記ポリオール(a1)としては、例えば多塩基酸と多価アルコールを重縮合して得られるポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシド、テトラヒドロフラン、アルキル置換テトラヒドロフラン等の環状エーテルの重合体又はこれらの2種以上の共重合体であるポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0023】
またポリイソシアネート化合物(a2)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4 −ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロペンタジエンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。
【0024】
末端に重合性不飽和基と水酸基とを有する化合物(a3)としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、各種エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用することができるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンサクシネート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、モルホリン(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム等の単官能重合性モノマー等が挙げられる。
【0026】
また、例えば、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネートのジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、2,2′−ジ(ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、2,2′−ジ(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンのジアクリレート、5−エチル−2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−5−(ヒドロキシメチル)−1,3ジオキサンのジアクリレート等の2官能重合性モノマーが挙げられる。
【0027】
更に、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシプロピル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、トリメリット酸のトリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシアヌレート等の多官能重合性モノマーがある。
【0028】
中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のテトラ(メタ)アクリレート等の2官能を越える多官能重合性モノマーは、強靱性を高めるので好ましい。また、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピリジン、モルホリン(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール等の窒素を含有する単官能重合性モノマー強靭性を高めるので好ましい。更に、窒素を含有する単官能重合性モノマーと2官能を越える多官能重合性モノマーとを併用することにより、強靭性がより高くなるので特に好ましい。
【0029】
本明細書における加熱寸法変化率とは、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜を高温に暴露したときの寸法変化率をいい、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜を85℃にて60分間加熱した後、常温まで徐冷した時の寸法(加熱後の寸法)に対する加熱前の寸法の割合である。加熱寸法変化率は次式により定義されるものである。
【0030】
【数1】

加熱後の寸法;85℃到達後60分加熱し、常温に冷却した時の寸法
【0031】
上記加熱寸法変化率は樹脂組成物により大幅に異なり、+0.4%以上であると引抜安定性に優れる。また、加熱寸法変化率は+0.5%以上であることが好ましく、+0.4%〜+2.0%であることがより好ましく、+0.5%〜1.5%であることが特に好ましい。
【0032】
一般的に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物を加熱すると加熱初期は膨張し、次いで収縮を開始するが、樹脂の構造又は樹脂の組成の相異により収縮の程度が大幅に異なる。加熱膨張よりも収縮が著しい場合には加熱寸法変化率が0%を下回り負の値となる。すなわち、加熱前の初期寸法よりも加熱後の寸法値が小さな値となる。本発明は活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の中で、この加熱寸法変化率が特定の値以上である樹脂組成物が引抜安定性を特異的に改善することを見出したものである。
【0033】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜の加熱寸法変化率を上記の範囲にするための手段としては種々の方法があるが、以下の方法を用いることが好ましい。
(I)オーバーコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中のウレタン結合濃度が1.0mol/kg以下であること、並びに
(II)オーバーコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物がバルキーな基である多環構造を有するモノマー又はオリゴマーを使用していること
【0034】
以下、順に説明する。
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物のウレタン結合濃度とは、下記の方法により各組成のウレタン結合の含有濃度(mol/kg)を算出し、それぞれの配合比率を基に求めた値である。以下に具体的な計算方法を示す。
【0035】
求めるべき活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中のウレタン結合の含有濃度をZ(mol/kg)とする。また、ラジカル重合性オリゴマー(α)又はラジカル重合性モノマー(β)として使用される化合物R中のウレタン結合の含有濃度をZ(mol/kg)とする。
(1)Zの算出。
(mol/kg)=(Rmol/M)×1000
mol;化合物Rの1mol中のウレタン結合のmol数
;化合物Rの分子量
なお、Rmol及びMは、化合物Rを製造するための原料の分子量及びモル比から化学量論的に求められる値である。
(2)Zの算出
化合物Rとして、R1、R2、…Ri成分を使用しているとすると、
Z=(ZR1×WR1+ZR2×WR2+ … +ZRi×WRi)/(WR1+WR2+ … +WRi+その他の添加物の配合量)
R1、WR2、…、WRi ;R1、R2、…Ri成分の配合量
【0036】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が硬化した際に、加熱寸法変化が大きく優れた引抜安定性を示すためには、上記ウレタン結合濃度が1.0mol/kg以下が好ましく、0.7mol/kg以下がより好ましく、0.5mol/kg以下が特に好ましい。
【0037】
本発明で使用する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にはラジカル重合性オリゴマー、ラジカル重合性モノマーとして、多環構造を有するラジカル重合性化合物を使用すると加熱寸法変化率が大きくなるので好ましい。多環構造を形成する骨格としては、トリシクロデカン、アダマンタン、ジシクロペンタン、2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ナフタレン等がある。これらの中ではトリシクロデカン、アダマンタン、ジシクロペンタン等の3個以上の環状構造を有する骨格が加熱寸法変化率を増大させる効果が大きく好ましい。これらの骨格の導入方法としては、例えばトリシクロデカンジメチロールのジアクリレートのようにラジカル重合性モノマーとして使用しても良いし、トリシクロデカンジメチロールにイソホロンジイソシアネートを反応させたのちヒドロキシエチルアクリレートを反応させたウレタンアクリレートを用いても良い。
【0038】
更に、オーバーコート層を形成する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中には、下記(1)〜(4)の化合物のいずれかを含有することが好ましい。
(1)炭素数8〜30の脂肪酸
(2)炭素数8〜30の脂肪酸エステル
(3)炭素数8〜30の脂肪酸アミド、並びに
(4)ポリオキシアルキレン構造を有し、且つラジカル重合性基及びポリオルガノシロキサン構造を有しない化合物
【0039】
炭素数8〜30の脂肪酸、炭素数8〜30の脂肪酸のエステル化物、炭素数8〜30の脂肪酸のアミド化合物(以上、化合物A)、並びにポリオキシアルキレン構造を有し、且つラジカル重合性の基及びポリオルガノシロキサン構造を有しない化合物(化合物B)を以下に例示する。
【0040】
化合物Aは、RCOOHで表される脂肪酸、該脂肪酸のエステル化物、又は前記脂肪酸とアンモニア若しくはアミン類とを反応させて得られるアミド化合物等がある。前記Rは、2−エチルヘキシル、ラウリル、ミリスチル、イソデシル、パルミチル、ステアリル、オレイル等の炭素数8〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、等の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基である。そのような脂肪酸の具体例としては、酪酸、ピバル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等がある。
【0041】
上記脂肪酸エステルとしては、上記脂肪酸と各種アルコール、例えばメタノール、エタノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン等のアルコールとのエステル、あるいはポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、及びポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のモノアルキルエーテルとのエステルがある。また、グリセリンやソルビトール等の多価アルコールの一部の水酸基に上記脂肪酸を反応させてエステルとし、更に残りの水酸基にアルキレンオキシドを付加させたポリオキアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル等もある。
【0042】
上記脂肪酸アミドとしては、上記脂肪酸とアンモニア、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレンジアミン等のアミンとを反応させたものである。エチレンビスステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、等がある。
【0043】
上記化合物Aは活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全体に対して0.1〜15質量%の範囲、好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましく1〜7質量%で用いると、引抜性が良好で、十分な機械特性及び曲げ剛性が得られる。また、化合物Bは活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全体に対して0.1〜15質量%の範囲、好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましく1〜7質量%で用いると、引抜性が良好で、十分な機械特性及び曲げ剛性が得られる。更に、化合物Aと化合物Bの合計は活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全体に対して0.1〜20質量%の範囲、好ましくは0.5〜15質量%、更に好ましく1〜10質量%で用いると、引抜性が良好で、十分な機械特性及び曲げ剛性が得られる。上記範囲であると、引抜性がより良好で、より十分な機械特性及び曲げ剛性が得られる。
【0044】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物には上記化合物A及び化合物Bに加えて、更に、炭素数8以上の炭化水素、金属石けん、アルコール類、及び上記化合物A以外の窒素化合物を用いてもよい。これらの化合物としてはウンデカン、ドデカン、ヘキサデカン、上記脂肪酸の金属石けん、及びラウリルアルコール、ステアリルアルコール等がある。
【0045】
上記ポリオキシアルキレン構造を有し、且つラジカル重合性の基及びポリオルガノシロキサン構造を有しない化合物Bは、数平均分子量は800〜30000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲であること、並びにラジカル重合性の基及びポリオルガノシロキサン構造を有しないことで引抜性が良好となる。なお、化合物Bの数平均分子量は1500〜20000であることがより好ましく、2000〜10000の範囲が更に好ましく、3000を越えて10000以下であることが特に好ましい。
【0046】
化合物Bにおけるポリオキシアルキレン構造とは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシド、若しくはテトラヒドロフラン、アルキル置換テトラヒドロフラン等の環状エーテル類の単独重合体、又はこれらの中から選択される2種以上のモノマーがランダムに重合した共重合体或いはブロック状に重合した重合体のことである。
【0047】
化合物Bとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等の1価のアルコール化合物を出発物質としたポリオキシアルキレン構造を有するモノオール、2価のアルコール化合物を出発物質としたポリオキシアルキレン構造を有するジオール、更に、トリメチロールプロパンやグリセリンを出発物質としたポリオキシアルキレン構造を有するトリオール、ペンタエリスリトールを出発物質としたポリオキシアルキレン構造を有するテトラオール等がある。また、これらのポリオキシアルキレン構造を有するポリオール又はポリオキシアルキレン構造を有するモノオールの水酸基に各種カルボン酸を反応させてエステルとしたもの、或いは水酸基同士を、例えばポリイソシアネート等により結び高分子量化したもの等がある。これらの中ではポリオキシアルキレン構造を有するモノオール、ポリオキシアルキレン構造を有するジオール、ポリオキシアルキレン構造を有するトリオールが、引抜性が良好で好ましい。中でもポリプロピレンオキシド構造、ポリ(1,2−ブチレンオキシド)構造、ポリ(アルキル置換テトラヒドロフラン)構造等の分岐を有するポリオキシアルキレン構造を有し、常温で液体のものが、引抜性が良好で長期や低温での結晶生成がなく、好ましい。中でもポリプロピレングリコールが特に好ましい。
【0048】
より具体的には、下記式I、式III〜式VIで表される構造の化合物Bが好ましい。
【0049】
【化1】

(式中、mは2以上の整数を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜10のアルキレン基を表すが、複数のRは同一であっても異なっていても良く、Xは水素原子又は式II
【0050】
【化2】

(式中、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基を表す。)の基を表す。)
【0051】
【化3】

(式中、nは2以上の整数を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜10のアルキレン基を表すが、複数のRは同一であっても異なっていても良く、Xは水素原子又は前記式IIの基を表す。)
【0052】
【化4】

(式中、pは2以上の整数を表し、Rは分岐鎖を有していても良い炭素数2〜10のアルキレン基を表すが、複数のRは同一であっても異なっていても良く、Xは水素原子又は前記式IIの基を表す。)
【0053】
【化5】

(式中、q、r及びsは2以上の整数を表し、R、R及びRは各々独立的に、分岐鎖を有していても良い炭素数2〜10のアルキレン基を表すが、複数のR、R及びRは同一であっても異なっていても良く、Xは水素原子又は前記式IIの基を表す。)
【0054】
【化6】

(式中、t、u、v及びwは2以上の整数を表し、R、R10、R11及びR12は各々独立的に、分岐鎖を有していても良い炭素数2〜10のアルキレン基を表すが、複数のR、R10、R11及びR12は同一であっても異なっていても良く、Xは水素原子又は前記式IIの基を表す。)
【0055】
また、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物にはシリコーン化合物Cを併用しても構わない。シリコーン化合物Cはおもに表面滑り性を付与するものであり、変性シリコーンC1と非変性シリコーンC2がある。シリコーン化合物Cの数平均分子量は500〜300000であることが好ましい。
【0056】
変性シリコーンC1とは、ポリジメチルシロキサン(シリコーン)の末端又は側鎖、あるいはその双方にメチル基以外の有機基を導入したもので、導入する有機基としては、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基、メルカプト基、フェニル基、アルコキシ基、アルキル基、フッ素置換アルキル基、フッ素置換アルコキシ基、M-OR-(式中、Mは(メタ)アクリロイル基を表し、Rはアルキレン基を表す。)で表される基、R13-(OR14)n-(式中、R13はアルキル基、R14はアルキレン基を表し、nは2以上の整数を表す。)で表される基、R15COOR16-(式中、R15はアルキル基、R16はアルキレン基を表す。)で表される基、或いはアミノ基、水酸基、カルボキシル基、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基又はメルカプト基で置換されたアルキル基、等がある。一般的に、長鎖の上記R17-(OR18)n-で表される基、R19COOR20-で表される基、アルキル基、アルコキシ基、フッ素置換アルキル基、フッ素置換アルコキシ基が、ラジカル重合性化合物及びその硬化物等との相溶性がよく、優れた表面滑り性、引抜性が得られるので好ましい。
【0057】
これらの変性シリコーンC1は、たとえば珪素−水素結合を所定量含有するポリジメチルシロキサンと末端にアリル基を有する化合物とを公知の方法で反応させる、あるいは末端に水酸基を有するポリジメチルシロキサンとポリイソシアネート及び水酸基含有化合物を公知の方法で反応させる等の方法によって製造する。
【0058】
非変性シリコーンC2は、ポリジメチルシロキサンであり、より表面滑り性を付与するときに変性シリコーンC1と併用して用いることができる。
【0059】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物には必要に応じて紫外線あるいは可視光線で硬化させる目的で光重合開始剤を添加してもよい。光重合開始剤としては、例えば4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2、6ージメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−n−オクチルカルバゾール等が挙げられる。
【0060】
これらのなかでは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2、6ージメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−n−オクチルカルバゾール、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−n−オクチルカルバゾールの群から選ばれる2種類以上の光重合開始剤を混合して用いると高速硬化性が得られ、より好ましい。
【0061】
特に下記群より選ばれる開始剤を用いると、引抜安定性に優れる。
(群1)
(1)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、(2)2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1
(3)ビス(2、6ージメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド
(4)ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド
(5)3,6−ビス(2−メチル−2−モルホリノプロピオニル)−9−n−オクチルカルバゾール
(6)2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン
【0062】
更に、上記の成分以外に、ヒドロキノン、メトキノン等の重合禁止剤、ヒンダードフェノール系、イオウ系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系の黄変防止剤、顔料等を添加しても構わない。
【0063】
上記の光重合開始剤は、本発明の光ファイバー用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を紫外線で硬化させるために添加するもので、ラジカル重合性オリゴマー、ラジカル重合性シリコーン化合物、光開重合始剤の合計100質量%に対し、通常0.01〜10質量%含有させる。なかでも高速硬化性が大きくなる点で、0.05〜5質量%が特に好ましい。
【0064】
更に、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は次の物性を有することが好ましい。
【0065】
粘度:25℃のB型粘度計での粘度は0.8〜10Pa・Sの範囲が好ましい。粘度が0.8Pa・S未満あるいは10Pa.Sを越えると高速でのユニット成形時に外径変動や樹脂切れが生じ高速加工性が悪い。
【0066】
また、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いる場合、あるいは光ファイバー単心線を製造する場合、最外層の直下層の表面に滑剤を塗布する前処理を行っても良い。これらの滑剤としては、変性シリコーン、非変性シリコーン等のシリコーン類、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等のエステル類、ポリアルキレンポリオール及びこの誘導体であるポリアルキレンポリオール類、パラフィンオイル、合成油等のオイル類等がある。これらの塗布方法としては、これらの滑剤を直接あるいは溶剤に溶解あるいは水に分散させたエマルジョンの形態で、ダイス塗布、ディップ塗布あるいは含浸塗布する。こうすることにより、より引抜性を向上させることができる。
【実施例】
【0067】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、もとより本発明はこれにより何等限定されるものではない。なお、例中の部はすべて質量部を意味する。
【0068】
(合成例1)
ラジカル重合性オリゴマー(U1)の合成
攪拌翼のついたフラスコに、TDI(2,4−トリレンジイソシアネート)348部(2モル)を仕込み、攪拌を行いながらポリプロピレングリコール(数平均分子量2000)2000部(1モル)を仕込んで発熱に注意しながら70℃まで昇温した。この温度で反応を7時間行い、NCO%を測定したところ3.58%であった。ついでHEA(2−ヒドロキシエチルアクリレート)232部(2モル)を仕込んで、この温度で更に7時間反応を行った。赤外吸収スペクトルでNCOの吸収が消失したことを確認して取り出し、ラジカル重合性オリゴマーとしてラジカル重合性オリゴマー(U1);数平均分子量:2580を得た。
【0069】
(合成例2)
ラジカル重合性オリゴマー(U2)の合成
攪拌機、温度計、還流冷却管を備えたフラスコに、ポリプロピレングリコール(数平均分子量8000)800g(0.10モル)、2,4−トリレンジイソシアネート34.8g(0.20モル)、ジブチル錫ジアセテート0.15gを仕込み、攪拌しながら昇温し85℃に保った。85℃になって3時間後、メトキノン0.2g、2,6−ジターシャリブチル−4−メチルフェノール2.0g、2−ヒドロキシエチルアクリレート23.4g(0.20モル)を加え、さらに85℃で4時間反応させ、赤外吸収スペクトルでNCOの吸収が消失したことを確認して取り出し、ラジカル重合性オリゴマー(U2);数平均分子量:8580を得た。
【0070】
(合成例3)
ラジカル重合性オリゴマー(UH−1)の合成)
攪拌翼のついたフラスコに、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(分子量130)260部(2モル)を仕込み、攪拌を行いながらTDI(2,4−トリレンジイソシアネート)174部(1モル)を発熱に注意しながら滴下し70℃まで昇温し、この温度で反応を7時間行い、赤外吸収スペクトルでNCOの吸収が消失したことを確認して取り出し、ラジカル重合性オリゴマー(C)としてラジカル重合性オリゴマー(UH−1);数平均分子量:434を得た。
【0071】
(活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の調製)
上記合成例で合成した化合物と下記の化合物を用いて、表1に従い樹脂組成物を調製した。
【0072】
<化合物A>
A1:ステアリン酸メチル(分子量:298)
A2:ステアリン酸2−エチルヘキシル(分子量:354)
A3:ノナン酸トリグリセリド(分子量:596)
A4:ミリスチン酸2−オクチルドデシル(分子量:508)
【0073】
<ラジカル重合性化合物>
M−1:トリシクロデカンジメチロールのジアクリレート
M−2:N−ビニル−カプロラクタム
M−3:トリメチロールプロパンエチレンオキシド3モル付加物のトリアクリレート
【0074】
<化合物B>
B−1:ポリプロピレングリコール/数平均分子量3000
B−2:ポリプロピレングリコール/数平均分子量8000
【0075】
<シリコーン化合物C>
C−1:数平均分子量10033のエチレンオキシド、プロピレンオキシド共重合体(50/50モル比)変性のペンダント型変性ポリジメチルシロキサン(変性率:70.1%)
【0076】
<酸化防止剤>
R−1:3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン
【0077】
<光安定剤>
L−1:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート
【0078】
<光重合開始剤>
I−1:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
I−2:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキシド
I−3:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
I−4:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン
【0079】
<顔料ベース>
Q−1:フタロシアニン青を最大粒径2μmで20質量%含み、ビスフェノールAのエチレンオキシド4モル付加物のジアクリレート中に分散させたもの。
【0080】
<その他>
【0081】
(硬化塗膜の作製)
表1に従って調製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をアクリル板に塗布し、メタルハライドランプを用い、窒素雰囲気下で0.5J/cmの紫外線を照射して膜厚100−150μmの硬化塗膜を得た。
【0082】
(加熱寸法変化)
島津製作所製TMA(型式:TMA−50)に上記硬化塗膜を幅3.3mm、長さ20mmに切り出し、一定荷重モード0.2gで装着し、5℃/分で85℃に昇温して85℃に保持し、寸法変化を測定した。昇温後の最大寸法と60分後の寸法を測定し、上式に従い加熱寸法変化率を算出した。
【0083】
(硬化塗膜の評価)
各硬化塗膜を以下の試験法で評価した。
【0084】
(硬化塗膜のヤング率の測定法)
(1)硬化塗膜の作成方法;調製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をガラス板に塗布し、メタルハライドランプを用い、窒素雰囲気下で0.5J/cmの紫外線を照射して膜厚150μmの硬化塗膜を得る。
(2)試験片形状;JIS K 7113の2号試験片の形状のダンベルカッターを用い硬化塗膜を打ち抜いた。標線の外側の表裏に2cm角厚さ1.2mmの金属片をシアノアクリレート接着剤で固定し試験片とした。
(3)測定機種;島津製作所製引張試験器、オートグラフAGS−100G型
(4)引張速度;1mm/min
(5)測定条件雰囲気;23℃、50%RH
【0085】
(硬化塗膜の引張破断伸び及び破断強度の測定法)
(1)硬化塗膜の作成方法;調製した活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をガラス板に塗布し、メタルハライドランプを用い、窒素雰囲気下で0.5J/cmの紫外線を照射して膜厚150μmの硬化塗膜を得る。
(2)試験片形状と方法;JIS K 7113の2号試験片の形状のダンベルカッターを用い硬化塗膜を打ち抜き、JIS K 7113の方法に準拠した。
(3)測定機種;島津製作所製引張試験器、オートグラフAGS−100G型
(4)引張速度;50mm/min
(5)測定条件雰囲気;23℃、50%RH
【0086】
(光ファイバー単心線および光ファイバーコードの製造)
大日本インキ化学工業社製GRANDIC FC 7224をプライマリに、大日本インキ化学工業社製GRANDIC FC 5241をセカンダリにもちいて外径245μmのシングルモード光ファイバーを製造し、更に大日本インキ化学工業社製UVインキGRANDIC BLUE FC8018で着色した外径255μmの着色心線に、表1の樹脂組成物を外径500ミクロンで被覆した(0.5φ単心線)。さらに押出機でカーボンブラック含有の低密度ポリエチレン(日本ユニカー性NUC−9104)を0.5φ単心線に被覆して外径2.5mmのポリエチレン被覆型光ファイバーコードを作製した。
【0087】
(初期引抜性)
上記ポリエチレン被覆光ファイバーコードからポリエチレン被覆を除いた後、マイクロストリッパーで表1の組成物の硬化物層を室温で筒状に5cm取り除き、このときの荷重(引抜力)を引張計で測定した。引抜力が2〜4Nを◎(極めて良好)、4〜6Nを○(良好)、6N以上を×(不良)とした。
【0088】
(引抜安定性)
上記ポリエチレン被覆型光ファイバーコードを加熱オーブンで85℃で7日間加熱後常温にしてポリエチレン被覆を除いた後、上記引抜性と同様に引抜力を測定した。引抜力が0〜6Nを◎(極めて良好)、6〜10Nを○(良好)、10N以上を×(不良)とした。
【0089】
(評価結果)
評価結果を表1に示す。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス心線の外側に活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる3層以上の被覆層を設けた光ファイバー単心線を、更に熱可塑性樹脂により被覆した光ファイバーコードであって、
前記3層以上の被覆層の中で最も外側の層の加熱寸法変化率が+0.4%以上であることを特徴とする光ファイバーコード。
【請求項2】
前記加熱寸法変化率が+0.5%以上である請求項1記載の光ファイバーコード。
【請求項3】
前記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中のウレタン結合濃度が1.0mol/kg以下である請求項1又は2のいずれかに記載の光ファイバーコード。
【請求項4】
前記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、多環構造を有するラジカル重合性化合物を含有する請求項1、2又は3のいずれかに記載の光ファイバーコード。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、
(1)炭素数8〜30の脂肪酸
(2)炭素数8〜30の脂肪酸エステル
(3)炭素数8〜30の脂肪酸アミド、並びに
(4)ポリオキシアルキレン構造を有し、且つラジカル重合性基及びポリオルガノシロキサン構造を有しない化合物
の中から選ばれる1種または2種以上の化合物を含有する請求項1、2、3又は4のいずれかに記載の光ファイバーコード。